説明

マスタコピーの透かし特性を変化させることを含めてコンテンツの特性を変化させることによるコンテンツのシリアル化

コンテンツの一意のコピーを生成する方法を開示する。一実施形態では、この方法は、マスタコピー透かしがコンテンツアイテムの一意のコピーに埋め込まれる態様を変化させることによって、一意のコピーを生成する。マスタコピー透かしはコンテンツアイテム内で繰り返され、その位置は、一意コピー透かしを含む一意のパターンで変更される。一意のコピーは、マスタコピー透かしが一意のパターンで埋め込まれたコピーを作成することによって生成される。マスタコピー透かしのインスタンスの位置の変化は、空間領域、時間領域、時空間領域、変換領域、圧縮領域など、種々の領域におけるものとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、ステガノグラフィ、データ隠蔽、コンテンツフィンガプリンティング、及びコンテンツ識別に関するものである。
【背景及び概要】
【0002】
[0002]ディジタル透かしは、物理的又は電子的メディアを改変して機械可読コードをメディアに埋め込むためのプロセスである。メディアは、埋め込まれたコードがユーザには知覚不可能か又は略知覚不可能でありながらも、自動化検出プロセスを通せば検出され得るように、変更され得る。最も一般的には、ディジタル透かしは、画像、オーディオ信号、及びビデオ信号のようなメディア信号に対して適用される。しかし、ディジタル透かしは、文書(例えば行、単語、又は文字の移動を通して)、ソフトウェア、多次元グラフィックスモデル、及びオブジェクトの表面テクスチャを含めた、他のタイプのメディアオブジェクトにも適用されることがある。
【0003】
[0003]ディジタル透かしシステムは通常、2つの主要なコンポーネントを有する。すなわち、ホストメディア信号に透かしを埋め込むエンコーダと、透かしを含むと疑われる信号(疑わしい信号)から、埋め込まれた透かしを検出して読み取るデコーダとである。エンコーダは、ホストメディア信号を改変することによって透かしを埋め込む。読取り装置は、疑わしい信号を分析して、透かしが存在するか否かを検出する。透かしが情報を符号化している応用例では、読取り装置が、検出された透かしからこの情報を抽出する。
【0004】
[0004]幾つかの特定の透かし技法が開発されている。本明細書の読者はこの分野の文献に通じているものと想定される。メディア信号内に知覚不可能な透かしを埋め込み当該メディア信号内の透かしを検出する特定の技法は、本譲受人の米国特許第5,862,260号明細書、6,614,914号明細書、及び6,674,876号明細書に詳述されており、これらを参照することにより本明細書に援用する。
【0005】
[0005]ディジタル透かしの一応用例は、コンテンツアイテム(例えば歌、音楽トラック、ビデオプログラム、映画など)の複数のコピーを一意的にシリアル化することである。コンテンツアイテムの複数のコピーをシリアル化する方法の1つは、各コピー中に一意の透かしを埋め込むことである。場合によっては、これはトランザクション透かし(又はトランザクショナル透かし)と呼ばれる。その理由は、この透かしはコピーのトランザクション(例えば送信側又は受信側でシリアル化されるコピーの配信)に関連するからである。透かし自体は、一意のトランザクション情報を含むことができ、或いはこれに代えて、トランザクションに固有のコードであってデータベース中のトランザクション情報に関連付けられたコードとすることもできる。これは「法的(forensic)追跡」と呼ばれることもある。その理由は、一意のコピーは、配信における特定の地点(再配信するユーザ、又はコピーの元々の配信側)まで追跡するか、遡ることができるからである。明確にするために、一意のコピーを生成するためのこの形の透かし処理を、コンテンツシリアル化と呼ぶことにする。また、一意のコピーに関連付けられた情報をトランザクション情報と呼ぶ。トランザクション情報は、コピーのトランザクションに関連する任意の情報を含む。プライバシーの配慮に応じて、トランザクション情報は、ユーザID、アカウントID、デバイスID、ドメインIDなど、一意のコピーの特定の受信側又は再配信側に一意的に関連付けられた情報を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0006】
[0006]トランザクション情報はトランザクションに特有の情報を含むので、トランザクションの前には利用可能ではない情報を含む。このことは技術的な課題を提起する。その理由は、この情報は、トランザクション情報が利用可能になるまで、一意のコピーに関連付けることができないからである。コンテンツアイテムに対して要求が出された後で一意のコピーが生成される場合には、一意のコピーを生成してトランザクション情報に関連付けるプロセスは、トランザクションの遅延を大幅に増大させることはできない。この遅延は、コンテンツアイテムを求める要求と、要求元へのコンテンツアイテムの送達との間の時間を指す。例えば、インターネットからコンテンツをディジタルダウンロードする場合には、コピーをシリアル化するプロセスは、ユーザがコンテンツアイテムを要求してからユーザのコピーがユーザのデバイス上で再生に利用可能になるまでに、大幅な処理時間又はリソース消費を追加してはならない。
【0007】
[0007]トランザクション要求の後に必要とされる処理を軽減するために、シリアル化プロセスの幾つかの側面を事前に実施することができる。一つの手法は、コンテンツアイテムの異なる複数のコピーを事前に作成し、各コピーを同じコンテンツブロックに分割し、次いで、異なる複数のコピーからの同じコンテンツブロックに、異なるデータ値を用いて透かし処理をすることである(例えば、あるコピー中の各ブロックにおいては2進の1のデータ値で透かし処理を行い、第2のコピー中の各ブロックにおいては2進の0のデータ値で透かし処理を行う)。次いで、トランザクション時に、コンテンツマルチプレクサが、事前に埋め込み済みのコピーからブロックを選択して、新しいコピーを作成する。この新しいコピーは、マスタコピー及び事前に埋め込み済みのコピーと知覚的には同じだが、一意の一連のデータ値がその中に埋め込まれている。
【0008】
[0008]別の手法は、一意のコピーを作成する際に使用される情報をトランザクションの前に事前に計算し、次いで、この事前に計算された情報を使用してトランザクション時に一意のコピーの生成プロセスを完了して、処理時間を短縮することである。例としては、透かし埋め込み位置を特定し、埋め込み位置で加えられる変更の量を制御するのに使用される知覚マスクを計算すること、及び/又は、埋め込み位置でコンテンツに適用されたときに透かし入りコンテンツアイテムを生成する、変更若しくは置換値を計算するよう、コンテンツアイテム(例えば音楽トラック、歌、TV番組、映画)を処理することが含まれる。
【0009】
[0009]上記の前処理と組み合わせて使用することのできる別の手法は、要求の前に一意のコピーを作成すること(例えばコンテンツアイテムの別個の複数のコピーに事前に一意の透かしを埋め込むことによって)である。トランザクション時には、コンテンツ配信側は、一意のコピーを要求元に直ちに提供し、次いで、このコピー中の一意の透かしをトランザクション記録データベースにおけるトランザクションと関連付ける。述べたように、応用例によっては、このトランザクション記録は、コピーに埋め込まれた一意の透かしを通してコピーをユーザに関連付けるための要求元のユーザ情報を含み得る。一意の透かしは、一意のメッセージペイロード(シリアル番号など)又は一意のパターン(コピーごとに一意的に生成された擬似ランダムパターンなど)を含む透かしとすることができる。この手法は、有効であり得るが、コンテンツアイテムの一意的にシリアル化されたコピーを記憶するための余分の記憶域が必要とされるという欠点がある。更に後述するように、予測分析及び負荷平衡を使用して、コンテンツアイテムの予想人気及び実際の人気に基づいてシリアル化済みコピーを生成し、次いで、これらのコピーを送信用にコンテンツ配信ネットワークのエッジサーバにキューイングすることができる。このような予測及び負荷平衡は、一意的にシリアル化されたコピーの大きな「在庫」を維持する必要性を低減させることができるが、依然として、在庫にない(例えば配信用にバッファリング、キャッシュ、又はキューイングされていない)コピーを求める要求を要求元が発行したときには、シリアル化済みコピーを生成するプロセスが要求後に発生することになり、要求に対する応答の遅延を増大させる可能性があるという問題を提起する。
【0010】
[0010]コンテンツアイテムを改変することによって一意のコピーを生成することに関連する追加の課題は、前にそのコンテンツアイテムに埋め込まれた他の情報との衝突が発生し得ることである。ディジタル透かしは、各コピー中に一意の透かしを必要としない様々なアプリケーションにおいて、コンテンツに埋め込まれる。むしろ、透かし又は1組の透かしは、マスタコピーから作成された各々の一意のコピー中で同じである可能性がある。これらの透かしは、配信用のコピーを生成する前にマスタコピーに埋め込むことができ、通常はそのようにされる。明確にするために、少なくともコンテンツアイテムの1組の一意のコピーについて同じである透かしを、マスタコピー透かしと呼ぶことにする。これらの透かしは、コンテンツ識別情報(例えば、マスタコンテンツアイテムを特定するが、マスタコンテンツアイテムの個々のコピーを特定することはない識別情報)、著作権情報及びステータス、使用権、デバイス制御フラグ又は命令などを搬送する透かしを含む。マスタコピーに関連するこのメタデータは全て、コピーが配信用に作成される元であるマスタコピーに事前に埋め込むことができる。マスタコピーの一意のコピーに埋め込まれた一意の透かしを、一意コピー透かしと呼ぶことにする。マスタコピー透かしと一意コピー透かしとのいずれかに埋め込む必要のあるメタデータの量は、マスタコピー又は一意のコピーに関する情報を記憶するメタデータデータベースへのインデックスを埋め込むことによって削減することができる。これにより、時間の経過に伴ってメタデータを更新することができる。
【0011】
[0011]個々のコピーが要求前に作成されるとしても、トランザクション情報を一意のコピーに関連付けることは、個々のコピーが作成された後にしかできない。別の言い方をすれば、コピーは、そのコピーの生成中又は生成後にのみ、一意にする(例えばシリアル化する)ことができるが、生成前にはできない。したがって、個別のコピーをシリアル化するためのマスタコピーの如何なる変更も、前に埋め込まれていたいずれかの透かしを正しく読み取れなくするように、マスタコピーを改変する可能性がある。さらに、コピーを改変すると、コンテンツフィンガプリンティング(マスタコピーをそのロバストなハッシュによって特定する)の使用を通して、マスタコピーを正確に識別することができなくなることがある。特に、知覚的に類似する一意のコピーを作成するように加えられた改変であってもなお、マスタコピー又はその派生コピーを識別する際に使用されるコンテンツフィンガプリントデータベースに登録されたマスタコピーのロバストなハッシュを改変することがある。
【0012】
[0012]この衝突に対処するための一方法は、マスタコピーに適用された前の処理と適合し実質的に衝突しない一意のコピーを生成するプロセスを使用することである。例えば、一意のシリアル化済みコピーの作成時、一意のコピーの生成器(例えば透かし埋め込み器、コンテンツマルチプレクサなど)は、前の透かしを検出し、前に埋め込まれた透かしの位置と重ならない埋め込み位置に新しい透かしを配置することによって、前の透かしと衝突しないように、コピーをシリアル化することができる。これらの位置は、透かしが共存すると共にそれぞれの検出プロセスによって検出可能なままであることができる限り、時間、空間、周波数、又は他の何らかの領域におけるものとすることができる。
【0013】
[0013]この手法は、前の透かしを検出するための追加の処理を必要とし、この処理は可能なら回避すべきである。この検出処理を回避するために、マスタコピーは、マスタコピーを用いて(例えばヘッダ中に)記憶されたメタデータを含むことができ、このメタデータは、前の透かしの位置や知覚マスクなど、前の透かしのパラメータを特定する。次いで、一意のコピーの生成プロセスは、このメタデータを使用して改変を加え、前の透かし埋め込み又はフィンガプリント登録と衝突しないようにして一意性を生み出す。
【0014】
[0014]本開示では、コンテンツの一意のコピーを生成するための新規な方法について述べる。一方法は、マスタコピー透かしと一意コピー透かしの機能を組み合わせる。詳細には、この方法は、マスタコピー透かしがコンテンツアイテムの一意のコピーに埋め込まれる態様を変化させることによって、一意コピーを生成する。一実施形態では、マスタコピー透かしはコンテンツアイテム内で繰り返され、その位置は、一意コピー透かしを構成する一意のパターンで変更される。一意のコピーは、一意のパターンでマスタコピー透かしが埋め込まれたコピーを作成することによって生成される。例えば一実施形態では、コンテンツアイテム中のマスタコピー透かしの位置は、デルタ値のベクトルとして表され、各デルタ値は、マスタコピー透かしの対応するインスタンスと、マスタコピー透かしの近傍インスタンスとの間の距離に対応する。このベクトルは、マスタコピーを特定する情報及び一意のコピーに関連する情報などの、トランザクション情報と関連付けて、トランザクションレコードに記憶される。マスタコピー透かしの特性の一意のパターンを表す他の方式もまた可能である。
【0015】
[0015]他の実施形態では、マスタコピー透かしのその位置以外の特性が、コンテンツを通して変更される。一意のコピー透かしは、マスタコピー透かしのこれらの特性におけるデルタ(又は差分)のベクトルで搬送される。マスタコピー透かし信号のこれらの特性の幾つかの例は、位相特性(例えば透かし搬送波信号の位相シフト)、周波数振幅特性などを含む。これらの特性は、マスタコピー透かしで搬送される情報を改変しないように変更される。しかし、この方法は、一意のコピーを生み出す、コンテンツの知覚不可能な変化をもたらし、一意のコピー透かしはこの変化で搬送される。マスタコピー透かしのインスタンスの位置の変化は、空間領域、時間領域、時空間領域、変換領域(周波数変換領域を含む)、圧縮領域など、種々の領域におけるものとすることができる。
【0016】
[0016]コンテンツ配信システムの性能を最適化するために、一意のコピーは、コンテンツアイテムのマスタコピーに事前の埋め込みを行うか又は事前の処理を行うことを含めた、前述の前処理技法の一つ以上の組合せを使用して生成することができる。
【0017】
[0017]更なる特徴は、以下の詳細な説明及び添付の図面を参照すれば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】マスタコピーの特性を変化させることによってコンテンツアイテムの一意のコピーを生成するためのプロセスを示す流れ図である。
【図2】マスタコピー透かしと、マスタコピー透かしの変化で搬送される一意のコピー透かしとを検出するためのプロセスを示す流れ図である。
【図3】データベースを検索して、一致するコンテンツ改変のベクトルを検出するプロセスを示す流れ図である。
【図4】歌又はビデオプログラムといったコンテンツアイテムのシリアル化済みコピーのネットワークコンテンツ配信の一実施形態を示す図である。
【図5】コンテンツアイテムのマスタコピーから一意のコピーを生成するための一実施形態を示す図である。
【詳細な説明】
【0019】
[0023]図1は、マスタコピーの特性を変化させることによってコンテンツアイテムの一意のコピーを生成するためのプロセスを示す流れ図である。プロセスは、歌又はビデオプログラムといったコンテンツアイテムのマスタコピーで開始する。ステップ102で、プロセスは、コンテンツのマスタコピーを分析して、マスタコピー透かしを埋め込むために使用されるコンテンツに関する情報を提供する。この情報は、コンテンツをブロックに分割するために使用される情報、埋め込み位置を特定するための情報、及び/又は知覚マスクを作成するための情報を含む。ステップ104で、プロセスは、透かしペイロードを含む所望のデータストリングを取り、この透かしペイロードを各コンテンツブロック中の埋め込み位置に埋め込むための透かしパラメータを計算する。これらのパラメータは、各ブロック用の透かしマスク、特定の埋め込み位置、ペイロードをブロック中の埋め込み位置に埋め込むのに必要な変更又は置換値を含み得る。圧縮コンテンツアイテムの場合には、一意のコピーの生成元であるコンテンツブロックのブロック選択、及び/又は、コンテンツブロックの僅かな改変に用いる置換を通して一意のコピーを素早く生成できるように、トランザクション前にコンテンツアイテムのブロックが事前の埋め込みを施され、圧縮されることが好ましい。
【0020】
[0024]ステップ102及び104は、コンテンツアイテムの一意のコピーをマスタコピーから生成するのに必要とされる処理時間を短縮するよう、トランザクション要求の前に実施され得る。
【0021】
[0025]ステップ106で、一意のコピーの生成器が、マスタコピー透かしを対応するブロックに選択的に適用して、一意のコピーを生成する。一意コピー透かしは、マスタコピー透かしのインスタンスの特性をもったパターンで搬送される。ステップ108で、一意コピー透かし(例えばトランザクション透かし)は、トランザクションに関するトランザクション情報と関連付けられる。
【0022】
[0026]ステップ106は、トランザクション要求の前又は後に実施され得る。例えば、要求が出される前に、マスタコピーの予測された数の一意のコピーがこのプロセスによって生成され、コンテンツ配信ネットワークのエッジサーバ中のキューに配信される。キューには、同様にして一意のコピーが補充される。キューが空の場合は、ステップ106が実行されて、別の一意のコピーがリアルタイムで生成される。
【0023】
[0027]図2は、マスタコピー透かしと、マスタコピー透かしの変化で搬送される一意コピー透かしとを検出するためのプロセスを示す流れ図である。プロセスはステップ200で、マスタコピー透かしを検出するプロセスで開始する。コンテンツブロック中の透かしのインスタンスをどのように検出するかに関する手順については、読者は米国特許第5,862,260号明細書、6,614,914号明細書、及び6,674,876号明細書、並びに当分野の他のディジタル透かし文献を参照されたい。通常、このプロセスは、まずコンテンツ中のマスタコピー透かしのインスタンスの位置を突きとめるために同期情報を検出し、次いでインスタンスからメッセージペイロードを抽出することを必要とする。ある場合には、コンテンツの複数のブロックを蓄積して透かしの信号対雑音比を増大させ、透かし検出及びメッセージペイロード抽出を支援することもできる。少なくとも1つのマスタコピー透かしが検出されると、検出器は更にデータを精緻化して、マスタコピー透かしの他のインスタンスを特定することができる。このステップの結果、検出器は、コンテンツアイテム中のマスタコピー透かしのインスタンスを特定し終えている。
【0024】
[0028]ステップ202で、検出器は、マスタコピー透かしの各インスタンスの特性を計算する。一実施形態では、この特性は、マスタコピー透かしのインスタンスの相対的な位置である。位置情報は、複数の透かしの距離又は位置のベクトルとして表される。他の実施形態では、この特性は、マスタコピー透かしにおける同期成分に対するペイロードの相対的な位置、複数の透かしのインスタンス間の距離、コンテンツマーカ(信号中のエッジ若しくはピークなど)に対する相対的な透かしの距離、又は、所与の期間、空間、若しくは他の領域内における透かし信号の周波数である。マスタコピー透かしの位相又は周波数特性など、他の特性を使用することもできる。
【0025】
[0029]ステップ204で、検出器は、前のステップで計算された特性を表すベクトルを導出する。このベクトルは、一意コピー透かしに対応する一連のデータ値を含む。誤り訂正符号処理を使用して、ベクトルから一意のシリアル番号を導出してもよい。次いで、このベクトル又はシリアル番号をステップ206で使用して、メタデータデータベース中のトランザクション情報を調べて、コンテンツアイテムのこの特定の一意のコピーに関連するトランザクション情報を得る。メタデータは、それからマスタコピーに関する追加情報が得られる他のデータベースへのリンクを含んでいてもよい。同様に、マスタコピー透かしのペイロードで搬送されたコンテンツ識別情報を使用して、コンテンツ識別情報で指し示された別個のメタデータデータベース中の追加情報をフェッチしてもよい。
【0026】
[0030]幾つかの実施形態では、マスタコピー透かしの各インスタンスにおいて改変が加えられる。これらの改変は、改変のベクトルを形成する。しかし、コンテンツ信号の歪みに起因して、検出器によって検出される改変は、元々加えられた改変と正確に一致しないことがある。この場合、ファジィマッチングプロセスを使用して、この信号がどのコピーを表すかを突きとめる。図3に示すように、プロセスはステップ300で、受け取った信号から導出されたコンテンツ特性改変のベクトルの入力で開始する。ステップ302で、このベクトルは、各コピーに対する改変のベクトルがあらかじめ記憶されているベクトルデータベースに送出される。このデータベース及び関連する検索は、コンテンツ識別に現在使用されているロバストなフィンガプリント及びコンテンツハッシング方式を利用することができる。ステップ304で、検索が実行されて、最も近い一致ベクトルが発見される。最も近い一致ベクトルは、ステップ306で、コピーに関連する一意のシリアル番号と共に返される。このシリアル番号は、コピーに関するトランザクション情報を含むデータベースを指し示す。
【0027】
[0031]図4に、歌又はビデオプログラムといったコンテンツアイテムのシリアル化済みコピーのネットワークコンテンツ配信の一実施形態を示している。前述の方法の応用シナリオの1つは、ディジタル配信されるコンテンツのためのロバストなコンテンツシリアル化に関するものである。図4は、iTunesや他のファイルダウンロード及びストリーミングコンテンツ配信サービスなど、音楽及びビデオプログラムのディジタル配信に使用されるコンテンツ配信ネットワーク中でこの方法が実施されることになる場合を例示する助けとなる。この例は、前述の方法の応用を限定することを意図していない。実際、これらの方法は、例えば衛星及びケーブルのオンデマンド送達サービスを含めた、他のコンテンツ配信システムで利用することもできる。加えて、これらの方法は、配信側(例えばサーバ)又は受信側(クライアントコンピュータ、セットトップボックス、モバイルデバイスなど)で適用することができる。
【0028】
[0032]図4に示す例では、ユーザデバイス400が、コンテンツ小売業者のウェブポータルにおいてコンテンツを購入する要求を送信することによって開始する。この要求は、コンテンツ小売業者のサーバ402で受信される。コンテンツ小売業者は、支払いを検証した後、ユーザデバイスにURLを返し、ユーザデバイスをコンテンツ配信ネットワーク(CDN)にリダイレクトする。ユーザデバイスは、CDNハンドラ404に要求を発行し、CDNハンドラ404は、選択されたコンテンツアイテムと、コンテンツアイテムの前処理済みの一意のコピーの利用可能性と、ユーザデバイスに対する相対的な位置とに基づいて、この要求を処理するためのエッジサーバ406を選択する。要求の前に、CDNは、予測された需要及び実際の需要に基づいて、マスタコピーの一意のコピーをエッジサーバに配信する。コンテンツアイテムのコピーを求める個々の要求は、負荷平衡方式に基づいて処理される。この方式では、コンテンツアイテムを求める要求は、コンテンツアイテムが配信用にキューイングされている複数のエッジサーバを介して配信される。エッジサーバは、要求されたコンテンツアイテムの、次の一意のコピーをユーザデバイスに提供する。この時点で、一意コピー透かしとトランザクション情報との間の関連付けが行われ、関連付けはトランザクション記録データベースに記憶される。前述のように、一意のコピーが前に生成されていない場合は、この時に前述の方法を使用して一意のコピーが生成されて、要求に応答する際の遅延が最小限に抑えられる。
【0029】
[0033]図5は、コンテンツアイテムのマスタコピーから一意のコピーを生成するための一実施形態を示す図である。図5には、一意のコピー透かしを搬送するマスタコピー透かしの特性が、一意のコピー中のマスタコピー透かしのインスタンスの位置である、より具体的な例を示す。図示のように、マスタコピーは、マスタコピー透かしの候補位置に対応する複数の重複ブロック500に分割される。
【0030】
[0034]ステップ502で、方法は、これらの埋め込み位置を特定し、ステップ504で、これらの埋め込み位置に対応するコンテンツブロックを規定する。ステップ506で、次いで、図1に関連して述べたように各ブロックについての透かしパラメータを計算することに進む。ステップ508で、各ブロックにマスタコピー透かしを埋め込む。ステップ502〜508は、一意のコピーを求める要求の前に実施されることが好ましい。これらのステップの出力をCDN内で配信して、CDN内でコンテンツアイテムの一意のコピーが生成されるようにすることができる。一実装形態では、ステップ508の出力は、コンテンツアイテム用のエッジサーバなど、CDN内で、コピーのキューに補充するプロセスに提供される。
【0031】
[0035]ステップ510及び512で、事前に透かし処理されたブロックのサブセットを選択して、選択したサブセットを、透かしが入っていない、コンテンツアイテムの元のコンテンツとマージすることによって、一意のコピーが生成される。これにより、マスタコピー透かしの埋め込み位置の擬似ランダム選択によってコピーが作成される。例えば、図5にアイテム500で示す位置のうちで、このプロセスによって形成される結果的なコピーに関連する一意のシリアル番号に対応するように、これらの位置の擬似ランダム選択が行われる。ステップ514で、この一意のコピーが配信され、一意のシリアル番号は、この要求に関するトランザクション情報と共にトランザクションレコードに記憶される。
【0032】
[0036]一実装形態では、マスタコピー透かしのインスタンスが、コンテンツ全体を通してタイル状に繰り返される(例えば時間、周波数、空間、又はこれらの領域の何らかの組合せにわたって)。この冗長埋め込みは、ロバスト性の増大のために、マスタコピー透かしのインスタンスを累積することによって透かし復号で活用される。マスタコピー透かしのある位置(例えば空間、時間、又は周波数位置など)における選択された成分を除去又は抑制することによって、一意のコピーが作成される。これらの成分及びその位置は、一意コピー透かしによって搬送されることになるメッセージによって決定される。成分の除去は、成分の追加(又は埋め込み)よりも計算的に安価なはずである。大まかな例えの1つは、同期信号を含む周波数成分である。例えば、このような周波数成分が128個あるとする。同期を回復するのに、これら128個のうちのサブセットのみが必要とされると仮定する。いずれかの所与の一意のコピーにおいて、これらのうちの64個を抑制して、トランザクション透かしを搬送することができる。別法として、一意のコピーの各ブロックは、64個の周波数成分の何らかの組合せが抑制されているものとすることができる。この場合、ブロックからブロックまでの相対的な符号化が、トランザクション透かしを搬送することになる。
【0033】
[0037]上記の手法の一例は、コンテンツ配信ネットワークからの圧縮コンテンツプログラム(例えば歌、ショー、映画、クリップ)の配信である。例えば、事前に透かし処理された(マスタコピー透かしの幾つかのインスタンスによって透かしが入った)圧縮コンテンツ信号が、コンテンツ配信ネットワークのエッジサーバ中でキューイングされている。トランザクション要求が出されると、最終符号化プロセス中に、マスタコピー透かしの選択されたインスタンスから、マスタコピー透かしの選択された成分が除去される。次いでエッジサーバは、変更されたコンテンツ信号を送信する。
【0034】
[0038]送信側と受信側(例えばサーバとクライアント)との間の帯域幅、及びコンテンツ信号のサイズに応じて、別の配信ストラテジーは、コンテンツの冒頭部分が一意コピー透かしを含まないようにコンテンツ信号を配信(又はストリーミング)することである。コンテンツはクライアントにおいてバッファに蓄えられるので、メディア出力とバッファリングされたデータとの間の遅延により、配信の遅延を増大させることなく一意コピー透かしをコンテンツの後の部分に挿入することができる。
【0035】
[0039]別の配信ストラテジーは、一意コピー透かしを導入する負担を受信側が共有する場合である。このストラテジーは、オプションとして、コンテンツ信号が受信側の安全な部分に到達する前に、他の機能(例えば暗号化)を通してコンテンツ信号を保護することを含む。次いで、この安全な部分で一意コピー透かしの挿入(例えばマスタコピー透かしを修正すること又は他の方法による)が行われ、その後、コンテンツはユーザによって消費される準備が整う。
【0036】
[0040]上記の方法は、ファイルダウンロード、ストリーミング配信(ショートフォームビデオなど)、一対一転送、又は一対多ブロードキャストを含めた、様々なコンテンツ配信方法で利用することができる。ある特定の応用例はバイラル(viral)配信モデルにおけるものであり、このビジネスモデルは、バイラル配信経路においてコンテンツの送信側を補うことを必要とする。このモデルでは、送信側IDを、送信側に関連する一意コピー透かしで特定することができる。
【0037】
[0041]ネットワーク上でのある種のタイプの配信は、受信側によって要求されたコンテンツ信号の複数の部分が幾つかの異なる送信側から得られるという手法を利用する。ビットトレント(BitTorrent)は、そのようなファイル転送用プロトコルの1つである。前述の技法を使用して、そのようなプロトコルを用いて転送されたコンテンツ及びコピーを識別することができる。マスタコピー透かしはこれらの部分で冗長的に繰り返され、したがって、それによりコンテンツを個々の部分からの透かし復号から識別することができる。同様に、一意コピー透かしは、一意コピー透かしの復号を可能にするのに十分な数のマスタコピー透かしを含む個々の部分から回復可能である。別の手法は、受信側でマスタコピー透かしの一意コピー透かし変更を作成して、受信側で組み立てられたコピーを受信側に関連付けることである。次いで、受信側がそのコピーを再配信するときは、受信側は送信側になり、送信側のコピーは、送信側に関連する一意コピー透かしを有する。コピーが再配信される度に、一意コピー透かしを検出することができ、コピーの再配信に関与するものとしてログすることができる。
【0038】
<結び>
[0042]本技術の原理を特定の実装形態に関して記述及び図示したが、本技術を多くの他の異なる形でも実施できることは認識されるであろう。本明細書を過度に長くすることなく包括的な開示を提供するために、出願人は、上に言及した特許及び特許出願を参照することにより援用する。
【0039】
[0043]前述の方法、プロセス、及びシステムは、ハードウェア、ソフトウェア、又はハードウェアとソフトウェアの組合せにおいて実施することができる。例えば、補助データ符号化プロセスは、プログラム可能コンピュータ又は専用ディジタル回路で実施することができる。同様に、補助データ復号は、ソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア、又はソフトウェアとファームウェアとハードウェアの組合せにおいて実施することができる。前述の方法及びプロセスは、システムのメモリ(電子、光学、又は磁気記憶デバイスなどのコンピュータ可読媒体)から実行されるプログラム中で実施することができる。
【0040】
[0044]前述の詳細な実施形態における要素及び特徴の特定の組合せは、例に過ぎない。これらの教示を、本特許/出願、及び参照することにより援用する特許/出願における他の教示と交換及び置換することもまた想定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンテンツアイテムをシリアル化する方法であって、
前記コンテンツアイテムのマスタコピーを評価して、該マスタコピーを改変するための位置を決定するステップと、
マスタコピーから前記コンテンツアイテムの一意のコピーを、該マスタコピーを前記位置で改変することによって、生成するステップと、
を含み、
前記改変が、一意コピー透かしを含むパターンを形成する、方法。
【請求項2】
前記改変がマスタコピー透かしの埋め込みの変化を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記改変が、前記位置で埋め込まれるマスタコピー透かしの特性の変化を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記位置が周波数位置を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記位置が時間的位置を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記変化がマスタコピー透かしの成分の除去を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
コンピュータによって実行されたときに請求項1に記載の方法を実施する命令が記憶されたコンピュータ可読媒体。
【請求項8】
コンテンツアイテムをシリアル化する方法であって、
前記コンテンツアイテム用のマスタコピー透かしを提供するステップと、
前記マスタコピー透かしのインスタンスを前記コンテンツアイテムに埋め込むステップと、
を含み、
前記マスタコピー透かしのインスタンスを改変することによって前記コンテンツアイテムの一意コピーが生成され、前記マスタコピー透かしの前記改変が、一意コピー透かしを含むパターンを形成する、方法。
【請求項9】
前記改変が、前記マスタコピー透かしのインスタンスの選択された成分の省略又は除去を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記改変が前記マスタコピー透かしの位置の改変を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記位置が周波数位置を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記改変が、前記マスタコピー透かしの特性を前記マスタコピー透かしのインスタンスにわたって改変することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記改変が、前記マスタコピー透かし内で異なる値に置換することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
コンピュータによって実行されたときに請求項8に記載の方法を実施する命令が記憶されたコンピュータ可読媒体。
【請求項15】
同じコンテンツ信号の複数コピーの中からコンテンツ信号のコピーを一意に識別する方法であって、
前記コンテンツ信号の前記コピー内のマスタコピー透かしの複数のインスタンスを検出するステップと、
前記複数のインスタンス間で変化する、前記マスタコピー透かし信号の前記複数のインスタンスの特性を求めるステップと、
前記特性の変化に基づいて前記コンテンツ信号の前記コピーの一意の識別情報を計算するステップと、
を含む方法。
【請求項16】
前記特性が前記マスタコピー透かしのインスタンスの位置を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記特性が前記マスタコピー透かしのインスタンスの周波数成分を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記特性が、省略又は置換された周波数成分を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記特性が、前記マスタコピー透かしの異なるインスタンスのための基準に対して変化する、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
コンピュータによって実行されたときに請求項15に記載の方法を実施する命令が記憶されたコンピュータ可読媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−501907(P2011−501907A)
【公表日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528190(P2010−528190)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【国際出願番号】PCT/US2008/078847
【国際公開番号】WO2009/046373
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(500111792)ディジマーク コーポレイション (25)
【Fターム(参考)】