マスターディスク、マスターディスククリーニング工程、およびマスターディスク検査工程
【課題】マスターディスクのクリーニングおよび検査を効率良くおこなう。
【解決手段】本発明のマスターディスク1は、磁性薄膜が配置されている内側のランド部2Aと外側のランド部2Bとの間にリング状の凹部13と、凹部13の中に4つの凸部14を備えている。凸部14の表面はランド部2Aおよび2Bと同じ高さであるが、表面の面積は非常に小さい。ランド部2Aの存在する領域の直径は約20mm、ランド部2Bの存在する領域は直径約35mmから90mmの間の領域である。凸部14の直径は20μm程度である。
【解決手段】本発明のマスターディスク1は、磁性薄膜が配置されている内側のランド部2Aと外側のランド部2Bとの間にリング状の凹部13と、凹部13の中に4つの凸部14を備えている。凸部14の表面はランド部2Aおよび2Bと同じ高さであるが、表面の面積は非常に小さい。ランド部2Aの存在する領域の直径は約20mm、ランド部2Bの存在する領域は直径約35mmから90mmの間の領域である。凸部14の直径は20μm程度である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスクなどの記録媒体に磁気情報を磁気転写するマスターディスク、マスターディスクの表面を清浄化するマスターディスククリーニング工程、マスターディスクの清浄度を判定するマスターディスク検査工程に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、代表的な磁気ディスク装置であるハードディスクドライブは、すでに面記録密度が1Gbit/sqinを越える装置が商品化され、数年後には10Gbit/sqinの実用化が議論されるほどの急激な技術進歩が認められる。
【0003】
このような高記録密度を可能とした技術的背景には、線記録密度の向上もさることながら、わずか数μmのトラック幅の信号をSN良く再生できる磁気抵抗素子型ヘッドに依るところが大である。
【0004】
また、高記録密度に伴い磁気記録媒体に対する浮動磁気スライダの浮上量の低減化も要求されてきており、浮上中も何らかの要因でディスク/スライダの接触が発生する可能性が増大している。このような状況下において、記録媒体にはより平滑性が要求されてきている。
【0005】
ここで、ヘッドが狭トラックを正確に走査するためにはヘッドのトラッキングサーボ技術が重要な役割を果たしている。このようなトラッキングサーボ技術を用いた現在のハードディスクドライブでは、ディスクの一周中、一定の角度間隔でトラッキング用のサーボ信号やアドレス情報信号、再生クロック信号等が記録されている。ドライブ装置は、ヘッドから一定時間間隔で再生されるこれらの信号によりヘッドの位置を検出し修正して、ヘッドが正確にトラック上を走査することを可能にしている。
【0006】
上述した、サーボ信号やアドレス情報信号、再生クロック信号等はヘッドが正確にトラック上を走査するための基準信号となるものであるから、その書き込み(以下、フォーマティングと記す)には高い位置決め精度が必要である。現在のハードディスクドライブでは、光干渉を利用した高精度位置検出装置を組み込んだ専用のサーボ装置(以下サーボライタ)を用いて記録ヘッドを位置決めしてフォーマティングが行われている。
【0007】
しかしながら、上記サーボライタによるフォーマティングには以下の課題が存在する。第1に、ヘッドを高精度に位置決めしながら多数のトラックにわたって信号を書き込むには多くの時間がかかる。生産性を上げるには多くのサーボライタを同時に稼働させなければならない。
【0008】
第2に、多くのサーボライタの導入、維持管理には多額のコストがかかる。これらの課題はトラック密度が向上し、トラック数が多くなるほど深刻である。そこで、フォーマティングをサーボライタではなく、予め全てのサーボ情報が書き込まれたマスタと呼ばれるディスクとフォーマティングすべき磁気ディスクを重ね合わせ外部から転写用のエネルギーを与えることによりマスタの情報を磁気ディスクに一括転写する方式が提案されている。その一例として、特許文献1に示された磁気転写装置が挙げられる。
【0009】
同公報には、基体の表面に、情報信号に対するパターン形状で強磁性材料からなる磁性部を形成して磁気転写用マスタとし、この磁気転写用マスタの表面を、強磁性薄膜あるいは強磁性粉塗布層が形成されたシート状もしくはディスク状磁気記録媒体の表面に接触させ、所定の磁界をかけることにより、磁気転写用マスタに形成した情報信号に対応するパターン形状の磁化パターンを磁気記録媒体に記録する方法が開示されている。
【0010】
しかし、ディスクが回転している時のヘッドとディスク表面のクリアランスは通常30nm程度であり、従ってディスク表面の凹凸は最大でも20nm程度に押さえる必要がある。磁気記録媒体上にそれ以上の突起が存在すれば、データ記録再生時に、磁気ヘッドと磁気記録媒体とが接触することになり、かかる場合、接触した瞬間に磁気ヘッドと磁気ディスクのクリアランスが大となり信号の記録再生性能が低下し、また磁気ヘッドが磁気ディスクと物理的に接触することにより、磁気ヘッドの寿命低下の原因となっていた。
【0011】
つまり、上記特許文献1に開示された磁気転写装置では、フォーマティングが一瞬にして可能な反面、磁気転写用マスタと磁気ディスクが全面にわたり接触するため、このようなヘッド、ディスク間クリアランスでも実使用に耐え得るためには厳重な表面管理が必要となる。
【0012】
これに対し、上記従来の磁気転写装置においては、いくら厳重な管理をしても微少な異物の混入を回避することは不可能であり、マスタとフォーマティングすべき磁気ディスクとを重ね合わせた瞬間に、かかる異物によってマスタあるいは磁気ディスクの表面に微少な異常突起が生じていた。通常、マスタの材質はシリコンであり、磁気ディスクがそれよりも硬度の低い材質、例えばアルミニウムのような場合は、マスタ上の異物による凸部が磁気ディスク側の窪みとして形状転写され、逆に磁気ディスクが硬度の高い材質、例えばガラスのような場合は、磁気ディスク上に存在する異物によってマスタ側に欠陥が生じていた。かかる場合はその後に磁気転写される磁気ディスクには全てその欠陥が反映され、高品質な磁気ディスクを効率良く安定に製造するのが困難であった。
【0013】
上記の課題を解決する手段として特許文献2が提案されている。同発明によれば、マスターディスクをダミーディスクと繰り返し圧着させることでマスターディスク表面の異物をダミーディスクに付着させて取り除くとともに、マスターディスク表面の異常突起を平坦化する方法が開示されている。また、特許文献3には、マスターディスクに圧着したダミーディスクの表面を検査することによりマスターディスクの欠陥や清浄度を検査、判定する方法が開示されている。
【0014】
ところで近年、全世界的なデジタル情報通信網の発展により携帯電話に代表される携帯型情報機器の普及が目覚ましい。それにともない大容量メモリを携帯型情報機器に搭載する傾向にあり、小型のハードディスクが性能と価格の点から注目されている。このような状況において、これまで普及している3.5インチサイズや2.5インチサイズに加えて1.8インチサイズや1インチサイズ、さらには1インチ以下の小径の磁気ディスクに情報を記録する小型ハードディスクドライブが開発されて、普及しつつある。
【0015】
そして、このような小型のハードディスクドライブにおいても特許文献1で開示されているような磁気転写によって小径磁気ディスクにサーボ信号を記録するのが生産効率が非常に良い。
【特許文献1】特開平10−40544号公報
【特許文献2】特開2001−167434号公報
【特許文献3】特開2002−324314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記小径磁気ディスクに対して磁気転写するためのマスターディスクにおいて、磁気転写するための磁性薄膜パターンが存在する領域(磁気転写領域)は当然ながらハードディスクのサイズより小さい。ところがマスターディスクをクリーニングするためのダミーディスクは上記小径磁気ディスクと同様なサイズのものが現在市販されておらず、またそのような特殊なサイズのダミーディスクを新規に開発製造するにはコストがかかり、磁気転写によって磁気ディスクの製造コストを下げた意味がなくなる。現在入手が簡単でコストも安い3.5インチサイズのダミーディスクを使用するのが妥当である。また、ダミーディスクの検査装置も3.5インチサイズのディスクを検査する装置と共用できなければ、新たな装置を整備しなければならずやはり製造コストが高くなってしまう。
【0017】
しかしながら、3.5インチサイズのダミーディスクと3.5インチサイズに対応したディスク検査装置を用いてマスターディスクの清浄度を検査する場合、ダミーディスク上でマスターディスクの磁性薄膜が接触した領域を特定することが困難であり、正確な検査ができないという課題があった。以下にこの課題について説明する。
【0018】
図6は従来のマスターディスクの構成を模式的に示す斜視図である。図6において1は1インチサイズ以下の小径磁気ディスクに情報信号を磁気転写するための従来のマスターディスクであり、4インチサイズのシリコンウエハ等を基板としている。マスターディスク1の表面には磁気転写の際に小径磁気ディスク(図示せず)と接触する内側のランド部2Aと小径磁気ディスクとは接触しない外側のランド部2B、および溝部3がある。溝部3は小径磁気ディスクやダミーディスクなどの被転写ディスクとマスターディスク1が密着した際に両者の間の空気が排出されるのを助け、ランド部2Aや2Bの表面と被転写ディスクの空隙を減少させる。
【0019】
図7に小径用のマスターディスクの部分断面図を示す。図7(a)はランド部2Aのある内側の領域の断面図であり、ランド部2Aに小径磁気ディスクに情報信号を磁気転写するための磁性体薄膜4が規則的に配置され、一方、図7(b)に示すようにランド部2Bには、磁性薄膜は配置されない。ランド部2Aおよび2Bと溝部3との段差は数μmから数十μmである。
【0020】
図8は、上記小径用マスターディスクとダミーディスクを重ね合わせて小径用マスターディスクの表面をクリーニングする方法を示したものである。図8において5は、3.5インチサイズのハードディスク用アルミ基板からなるダミーディスクであり、マスターディスク1との位置関係がわかるように輪郭のみ表示されている。磁気転写の際に小径磁気ディスクと密着する磁性薄膜4が形成されているランド部2Aをクリーニングするには、ダミーディスク5に対してマスターディスク1を図8に示すように偏心させて重ね合わせ
る。
【0021】
図9は図8で示した位置関係でマスターディスク1とダミーディスク5を密着、離間させて、マスターディスクをクリーニングする方法を示している。
【0022】
図9において、6はマスターディスク1を保持するためのマスター保持パッドであり、図示されない機構によりマスターディスクを吸着保持するとともに、上下移動可能に支持する。7はダミーディスクを保持するディスクスタンド、9はダミーディスクの中心孔8を通じてマスターディスク1とダミーディスク5の間の空気を排出するための通気孔、10は通気孔9に接続された3方弁、11は吸引ポンプ、12は給気ポンプである。また、矢印は空気の流れを示している。図9(a)は給気ポンプ12から3方弁10、通気孔9、中心孔8を通って空気が流れ、マスターディスク1とダミーディスク5の間に空気が満たされて両者が離間している状態を示している。一方図9(b)は3方弁10の流路が切り替えられ、中心孔8から通気孔9、3方弁10、吸引ポンプ11へと空気が流れ、マスターディスク1とダミーディスク5の間の空気が排出されるのでマスターディスク1とダミーディスク5が大気圧により圧着されている状態を示している。図9において3方弁11の流路の切り替えを繰り返すことによってマスターディスク1とダミーディスク5の離間と密着を繰り返すことができ、マスターディスク1の表面の異物をダミーディスクに付着させて取り除いたり、マスターディスク表面の異常突起を平坦化させることができる。
【0023】
図10はマスターディスク1に密着したダミーディスク5を市販の光学検査装置で検査した結果を示す。図10において16は検査領域を表し、ダミーディスクの全表面にほぼ等しい。マップに表示されている点はダミーディスク5の表面の凹凸欠陥である。図11に検出された凹欠陥の例を写真で示す。マスターディスク1と密着させたダミーディスク5の検査結果において表示される凹凸欠陥がないということはマスターディスク1の表面に異物が無い可能性が高いことを示している。逆に、表示される凹凸欠陥があるということは、対応するマスターディスク1の表面に異物や以上突起が存在する可能性が高いということである。小径ディスク用のマスターディスクを検査する場合、図6に示したランド2aに異物や突起があるかを判断しなくてはならない。ところが図8に示したように、ダミーディスク5のサイズが大きいので、ダミーディスク5にはランド部2aだけでなくランド部2bも接触する。したがって図10に示したような欠陥マップのどれがランド部2aに相当するものかが明確にできない。したがって、マスターディスクのランド部2aに異物や異常突起があるのか無いのかの判定が困難であった。
【0024】
このように、従来の方法では、小径磁気ディスク用マスターディスクの磁性薄膜4が配置されている領域(磁気転写領域)における清浄度を正確に判定するのが困難であった。
【0025】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、小径磁気ディスク用マスターディスクの磁性薄膜が配置されている領域(磁気転写領域)における清浄度を正確に判定することが可能なマスターディスク、マスターディスククリーニング工程、マスターディスク検査工程を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明によるマスターディスクは、基体表面に配置された磁性薄膜と、被転写部材を圧着することによって被転写部材の表面の一部に凹みを生じさせる応力集中部を形成するための凸部を有している。
【0027】
好ましい実施形態において前記応力集中部を形成するための凸部が磁性薄膜の配置されている領域よりも外周側に配置されている。
【0028】
好ましい実施形態において基体表面に配置された磁性薄膜と、被転写部材と磁気転写マスターディスクを圧着することによって被転写部材の表面の一部に凹みを生じさせる応力集中部を形成するための凹部と凸部を有している。
【0029】
好ましい実施形態において前記応力集中部を形成するための凹部と凸部が磁性薄膜の配置されている領域よりも外周側に配置されている。
【0030】
本発明のマスターディスククリーニング工程は、被転写部材と磁気転写マスターディスクを圧着する工程、被転写部材の表面に生じた複数の凹みを検出し位置分布を測定する工程、凹みの位置分布から磁気転写マスターディスクと被転写部材の圧着力が適正かどうかを判定する工程を含む。
【0031】
本発明のマスターディスク検査工程はマスターディスクが圧着された被転写部材の表面に生じた凹みを検出し位置分布を測定する工程、凹みの位置分布からマスターディスクに配置されている磁性薄膜が密着した領域を算出する工程を含む。
【発明の効果】
【0032】
本発明のマスターディスク、マスターディスククリーニング工程、マスターディスク検査工程によれば、1インチサイズやより小径の磁気ディスクに磁気転写するためのマスターディスクを低コストで確実にクリーニングすることができ、小径磁気ディスクを用いる小型ハードディスクドライブの生産性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0034】
まず、図1を参照する。図1は、本実施形態におけるマスターディスクの構成を模式的に示す斜視図である。
【0035】
図1に示されるマスターディスク1は、磁性薄膜が配置されている内側のランド部2Aと外側のランド部2Bとの間にリング状の凹部13と、凹部13の中に4つの凸部14を備えている。凸部14の表面はランド部2Aおよび2Bと同じ高さであるが、表面の面積は非常に小さい。ランド部2Aの存在する領域の直径は約20mm、ランド部2Bの存在する領域は直径約35mmから90mmの間の領域である。凸部14の直径は20μm程度である。
【0036】
図2は、上記本発明のマスターディスクとダミーディスクを重ね合わせてマスターディスクの表面をクリーニングする工程においてマスターディスクとダミーディスクの位置関係を示すものである。図2において、5は、3.5インチサイズのハードディスク用アルミ基板からなるダミーディスクであり、マスターディスク1との位置関係がわかるように輪郭のみ表示されている。本発明のマスターディスククリーニング工程では、ランド部2Aの周囲に配置された凸部14がダミーディスク5に重なるようマスターディスク1を偏心させて両者を重ね合わせる。
【0037】
図2で示したように両者を重ね合わせ、図9で示したように従来と同じくマスターディスク1とダミーディスク5の圧着、離間を繰り返すことによりマスターディスク1のクリーニングを行なう。このとき本発明のマスターディスククリーニング工程では、マスターディスク1に凹部13と凸部14を配置したことによりダミーディスク5に凹みを形成する。
【0038】
図3は前記凹みの形成過程を説明する図であり、マスターディスク1の凸部の領域を拡大した断面図である。まず図3マスターディスク1とダミーディスク5は図9(a)に示したように対向してセットされる。次には図9(b)で示すようにマスターディスク1とダミーディスク5は大気圧によって密着される。このとき図3(c)に示すように凹部13の領域ではマスターディスク1の基体が凹部13に落ち込むように変形しようとする。そして凹部13の領域にかかる大気圧のほとんどが凹部13の中心にある凸部14の先端部にかかる。凸部14の先端の面積は非常に小さいので凸部14の先端とダミーディスク5との接触応力は非常に大きくなる。前記接触応力がダミーディスク5の基体の弾性変形限界を超えると永久ひずみが残り、図3(d)に示すようにダミーディスク5の表面に凹み15が形成される。前記凹み15は凸部14が一定の応力以上で接触したことを示すマーカーとなる。以下この凹みをマーカー凹みと記する。
【0039】
本発明のマスターディスククリーニング工程、およびマスターディスク検査工程は、ダミーディスクに凹みを形成することができる本発明になるマスターディスクを用いることにより、1インチサイズやより小径の磁気ディスクに磁気転写するためのマスターディスクを低コストで確実にクリーニングすることができる。以下に、その実施の形態を図を用いて説明する。
【0040】
図4は、本実施形態におけるマスターディスククリーニング工程とマスターディスク検査工程のフローチャートである。
【0041】
まずマスターディスククリーニング工程を説明する。ST1は本発明のマスターディスクと1枚のダミーディスクを重ね合わせて圧着する工程である。ST2は前記ダミーディスクを市販の光学検査装置等で検査する工程であり、ST3は検査結果としてのダミーディスク表面の凹凸欠陥の位置座標データ出力である。ST4はST3の位置座標データからパターンマッチング等の手法を用いてマーカー凹みを検出する工程である。もし、工程ST4でマーカー凹みが検出されれば、マスターディスクとダミーディスクは一定の応力以上で圧着されたということになる。しかし、もしマーカー凹みの全てあるいは一部が検出されなければ、マスターディスクとダミーディスクの圧着力が不足しているところがあるということになる。その場合はST5に示す調整工程でマスターディスクとダミーディスクの保持姿勢や吸引ポンプの吸引力を調整し、再びST1の工程に戻る。マーカー凹みがすべて検出されたならばST6の工程でマスターディスクとダミーディスクを繰り返し圧着させてマスターディスクをクリーニングする。
【0042】
このように本発明のマスタークリーニング工程によれば、ダミーディスクのマーカー凹みを検出することによってマスターディスクとダミーディスクの圧着力が必要な領域において一定以上であることを確認できるのでマスターディスクのクリーニングを確実に行なうことができる。
【0043】
次に、本実施形態おけるマスターディスク検査工程を説明する。図4において、ST7はマスターディスクに1枚のダミーディスクを圧着する工程である。ST8はダミーディスクの表面を市販の光学検査機等で検査する工程であり、ST9は検査結果としての凹凸欠陥の位置座標データ出力である。ST10は、ST9の位置座標データからパターンマッチング等の手法を用いてマーカー凹みを検出し、マーカー凹みの位置からマスターディスクのランド部2B(図1を参照)が接触した領域を特定し、前記領域の範囲内における凹凸欠陥の有無を出力する工程である。ST11は検査結果を判定する工程であり、前記領域の範囲内に凹凸欠陥があればマスターディスクのランド部2Bに異物や異常突起が存在する可能性があるのでマスターディスクをクリーニング工程に戻すよう判定し、もし、前記領域の範囲内に凹凸欠陥が無ければマスターディスクのランド部2Bに異物や異常突起が存在しないのでマスターディスクのクリーニングをこれ以上行なう必要は無いと判定する。図5はダミーディスクの凹凸欠陥マップからマスターディスクのランド部2Aが接触した範囲を特定した例を示す。16は検査装置の検査範囲でありダミーディスクの全表面にほぼ等しい。17a、17b、17c、17dはマスターディスクに配置された凸部14によって形成されたマーカー凹み点を表している。18は前記マーカー凹み点の位置座標から算出した判定領域であり、マスターディスクのランド部2Aの接触した領域である。この例では、特定された判定領域18に1個の凹凸欠陥があるので、マスターディスクのクリーニングをさらに行なうことが必要であると判定される。
【0044】
以上説明したように、本発明のマスターディスク検査工程では、小径磁気ディスクに磁気転写を行なう際にマスターディスクが小径磁気ディスクと接触する範囲を特定して検査するのでマスターディスクのクリーン度の判定が確実に行なえる。
【0045】
なお、図1に示すように本実施形態のマスターディスク1ではダミーディスクにマーカー凹みを形成するための凸部14を4個設けているがその数を変更しても問題は無い。ただし、凹凸欠陥検査の位置座標データからパターンマッチング等でマーカー凹みを検出するためには最低でも2個で必要であり、4個から8個が適当である。8個以上になると凸部の先端部とダミーディスクの接触応力が減少するので好ましくない。
【0046】
さらに本実施の形態のマスターディスク1ではダミーディスクにマーカー凹みを形成するための凸部14の周囲に凹部13を配置してマスターディスク1を変形させることにより凸部14の先端に応力を集中させたが、凸部14の高さを周囲のランド部より高くすることによっても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、小径磁気ディスク転写用マスターディスクのクリーニングが確実に行なえるので、小径磁気ディスクを用いる小型ハードディスクドライブを効率良く量産することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明によるマスターディスクの実施形態の構成を示す斜視図
【図2】本発明によるマスターディスクとダミーディスクの位置合わせを示す図
【図3】本発明よるマスターディスクとダミーディスクを圧着した時にダミーディスクに凹みが形成される過程を示す図
【図4】本発明のマスターディスククリーニング工程およびマスターディスク検査工程の実施の形態を示すフローチャート
【図5】本発明のマスターディスク検査工程を説明するためのダミーディスクの凹凸欠陥を表す図
【図6】従来のマスターディスクの構成を示す斜視図
【図7】マスターディスクの詳細な構成を示す部分断面図
【図8】従来のマスターディスクとダミーディスクの位置合わせを示す図
【図9】マスターディスクとダミーディスクを圧着離間させる方法を示す図
【図10】従来のマスターディスク検査工程を説明するためのダミーディスクの凹凸欠陥を示す図
【図11】ダミーディスク表面の凹みを示す図
【符号の説明】
【0049】
1 マスターディスク
2a ランド部
2b ランド部
3 溝部
4 磁性薄膜
5 ダミーディスク
6 マスター保持パッド
7 ディスクスタンド
8 中心孔
9 通気孔
10 三方弁
11 吸引ポンプ
12 給気ポンプ
13 凹部
14 凸部
15 凹み
16 検査領域
17a マーカー凹み点
17b マーカー凹み点
17c マーカー凹み点
17d マーカー凹み点
18 判定領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスクなどの記録媒体に磁気情報を磁気転写するマスターディスク、マスターディスクの表面を清浄化するマスターディスククリーニング工程、マスターディスクの清浄度を判定するマスターディスク検査工程に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、代表的な磁気ディスク装置であるハードディスクドライブは、すでに面記録密度が1Gbit/sqinを越える装置が商品化され、数年後には10Gbit/sqinの実用化が議論されるほどの急激な技術進歩が認められる。
【0003】
このような高記録密度を可能とした技術的背景には、線記録密度の向上もさることながら、わずか数μmのトラック幅の信号をSN良く再生できる磁気抵抗素子型ヘッドに依るところが大である。
【0004】
また、高記録密度に伴い磁気記録媒体に対する浮動磁気スライダの浮上量の低減化も要求されてきており、浮上中も何らかの要因でディスク/スライダの接触が発生する可能性が増大している。このような状況下において、記録媒体にはより平滑性が要求されてきている。
【0005】
ここで、ヘッドが狭トラックを正確に走査するためにはヘッドのトラッキングサーボ技術が重要な役割を果たしている。このようなトラッキングサーボ技術を用いた現在のハードディスクドライブでは、ディスクの一周中、一定の角度間隔でトラッキング用のサーボ信号やアドレス情報信号、再生クロック信号等が記録されている。ドライブ装置は、ヘッドから一定時間間隔で再生されるこれらの信号によりヘッドの位置を検出し修正して、ヘッドが正確にトラック上を走査することを可能にしている。
【0006】
上述した、サーボ信号やアドレス情報信号、再生クロック信号等はヘッドが正確にトラック上を走査するための基準信号となるものであるから、その書き込み(以下、フォーマティングと記す)には高い位置決め精度が必要である。現在のハードディスクドライブでは、光干渉を利用した高精度位置検出装置を組み込んだ専用のサーボ装置(以下サーボライタ)を用いて記録ヘッドを位置決めしてフォーマティングが行われている。
【0007】
しかしながら、上記サーボライタによるフォーマティングには以下の課題が存在する。第1に、ヘッドを高精度に位置決めしながら多数のトラックにわたって信号を書き込むには多くの時間がかかる。生産性を上げるには多くのサーボライタを同時に稼働させなければならない。
【0008】
第2に、多くのサーボライタの導入、維持管理には多額のコストがかかる。これらの課題はトラック密度が向上し、トラック数が多くなるほど深刻である。そこで、フォーマティングをサーボライタではなく、予め全てのサーボ情報が書き込まれたマスタと呼ばれるディスクとフォーマティングすべき磁気ディスクを重ね合わせ外部から転写用のエネルギーを与えることによりマスタの情報を磁気ディスクに一括転写する方式が提案されている。その一例として、特許文献1に示された磁気転写装置が挙げられる。
【0009】
同公報には、基体の表面に、情報信号に対するパターン形状で強磁性材料からなる磁性部を形成して磁気転写用マスタとし、この磁気転写用マスタの表面を、強磁性薄膜あるいは強磁性粉塗布層が形成されたシート状もしくはディスク状磁気記録媒体の表面に接触させ、所定の磁界をかけることにより、磁気転写用マスタに形成した情報信号に対応するパターン形状の磁化パターンを磁気記録媒体に記録する方法が開示されている。
【0010】
しかし、ディスクが回転している時のヘッドとディスク表面のクリアランスは通常30nm程度であり、従ってディスク表面の凹凸は最大でも20nm程度に押さえる必要がある。磁気記録媒体上にそれ以上の突起が存在すれば、データ記録再生時に、磁気ヘッドと磁気記録媒体とが接触することになり、かかる場合、接触した瞬間に磁気ヘッドと磁気ディスクのクリアランスが大となり信号の記録再生性能が低下し、また磁気ヘッドが磁気ディスクと物理的に接触することにより、磁気ヘッドの寿命低下の原因となっていた。
【0011】
つまり、上記特許文献1に開示された磁気転写装置では、フォーマティングが一瞬にして可能な反面、磁気転写用マスタと磁気ディスクが全面にわたり接触するため、このようなヘッド、ディスク間クリアランスでも実使用に耐え得るためには厳重な表面管理が必要となる。
【0012】
これに対し、上記従来の磁気転写装置においては、いくら厳重な管理をしても微少な異物の混入を回避することは不可能であり、マスタとフォーマティングすべき磁気ディスクとを重ね合わせた瞬間に、かかる異物によってマスタあるいは磁気ディスクの表面に微少な異常突起が生じていた。通常、マスタの材質はシリコンであり、磁気ディスクがそれよりも硬度の低い材質、例えばアルミニウムのような場合は、マスタ上の異物による凸部が磁気ディスク側の窪みとして形状転写され、逆に磁気ディスクが硬度の高い材質、例えばガラスのような場合は、磁気ディスク上に存在する異物によってマスタ側に欠陥が生じていた。かかる場合はその後に磁気転写される磁気ディスクには全てその欠陥が反映され、高品質な磁気ディスクを効率良く安定に製造するのが困難であった。
【0013】
上記の課題を解決する手段として特許文献2が提案されている。同発明によれば、マスターディスクをダミーディスクと繰り返し圧着させることでマスターディスク表面の異物をダミーディスクに付着させて取り除くとともに、マスターディスク表面の異常突起を平坦化する方法が開示されている。また、特許文献3には、マスターディスクに圧着したダミーディスクの表面を検査することによりマスターディスクの欠陥や清浄度を検査、判定する方法が開示されている。
【0014】
ところで近年、全世界的なデジタル情報通信網の発展により携帯電話に代表される携帯型情報機器の普及が目覚ましい。それにともない大容量メモリを携帯型情報機器に搭載する傾向にあり、小型のハードディスクが性能と価格の点から注目されている。このような状況において、これまで普及している3.5インチサイズや2.5インチサイズに加えて1.8インチサイズや1インチサイズ、さらには1インチ以下の小径の磁気ディスクに情報を記録する小型ハードディスクドライブが開発されて、普及しつつある。
【0015】
そして、このような小型のハードディスクドライブにおいても特許文献1で開示されているような磁気転写によって小径磁気ディスクにサーボ信号を記録するのが生産効率が非常に良い。
【特許文献1】特開平10−40544号公報
【特許文献2】特開2001−167434号公報
【特許文献3】特開2002−324314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記小径磁気ディスクに対して磁気転写するためのマスターディスクにおいて、磁気転写するための磁性薄膜パターンが存在する領域(磁気転写領域)は当然ながらハードディスクのサイズより小さい。ところがマスターディスクをクリーニングするためのダミーディスクは上記小径磁気ディスクと同様なサイズのものが現在市販されておらず、またそのような特殊なサイズのダミーディスクを新規に開発製造するにはコストがかかり、磁気転写によって磁気ディスクの製造コストを下げた意味がなくなる。現在入手が簡単でコストも安い3.5インチサイズのダミーディスクを使用するのが妥当である。また、ダミーディスクの検査装置も3.5インチサイズのディスクを検査する装置と共用できなければ、新たな装置を整備しなければならずやはり製造コストが高くなってしまう。
【0017】
しかしながら、3.5インチサイズのダミーディスクと3.5インチサイズに対応したディスク検査装置を用いてマスターディスクの清浄度を検査する場合、ダミーディスク上でマスターディスクの磁性薄膜が接触した領域を特定することが困難であり、正確な検査ができないという課題があった。以下にこの課題について説明する。
【0018】
図6は従来のマスターディスクの構成を模式的に示す斜視図である。図6において1は1インチサイズ以下の小径磁気ディスクに情報信号を磁気転写するための従来のマスターディスクであり、4インチサイズのシリコンウエハ等を基板としている。マスターディスク1の表面には磁気転写の際に小径磁気ディスク(図示せず)と接触する内側のランド部2Aと小径磁気ディスクとは接触しない外側のランド部2B、および溝部3がある。溝部3は小径磁気ディスクやダミーディスクなどの被転写ディスクとマスターディスク1が密着した際に両者の間の空気が排出されるのを助け、ランド部2Aや2Bの表面と被転写ディスクの空隙を減少させる。
【0019】
図7に小径用のマスターディスクの部分断面図を示す。図7(a)はランド部2Aのある内側の領域の断面図であり、ランド部2Aに小径磁気ディスクに情報信号を磁気転写するための磁性体薄膜4が規則的に配置され、一方、図7(b)に示すようにランド部2Bには、磁性薄膜は配置されない。ランド部2Aおよび2Bと溝部3との段差は数μmから数十μmである。
【0020】
図8は、上記小径用マスターディスクとダミーディスクを重ね合わせて小径用マスターディスクの表面をクリーニングする方法を示したものである。図8において5は、3.5インチサイズのハードディスク用アルミ基板からなるダミーディスクであり、マスターディスク1との位置関係がわかるように輪郭のみ表示されている。磁気転写の際に小径磁気ディスクと密着する磁性薄膜4が形成されているランド部2Aをクリーニングするには、ダミーディスク5に対してマスターディスク1を図8に示すように偏心させて重ね合わせ
る。
【0021】
図9は図8で示した位置関係でマスターディスク1とダミーディスク5を密着、離間させて、マスターディスクをクリーニングする方法を示している。
【0022】
図9において、6はマスターディスク1を保持するためのマスター保持パッドであり、図示されない機構によりマスターディスクを吸着保持するとともに、上下移動可能に支持する。7はダミーディスクを保持するディスクスタンド、9はダミーディスクの中心孔8を通じてマスターディスク1とダミーディスク5の間の空気を排出するための通気孔、10は通気孔9に接続された3方弁、11は吸引ポンプ、12は給気ポンプである。また、矢印は空気の流れを示している。図9(a)は給気ポンプ12から3方弁10、通気孔9、中心孔8を通って空気が流れ、マスターディスク1とダミーディスク5の間に空気が満たされて両者が離間している状態を示している。一方図9(b)は3方弁10の流路が切り替えられ、中心孔8から通気孔9、3方弁10、吸引ポンプ11へと空気が流れ、マスターディスク1とダミーディスク5の間の空気が排出されるのでマスターディスク1とダミーディスク5が大気圧により圧着されている状態を示している。図9において3方弁11の流路の切り替えを繰り返すことによってマスターディスク1とダミーディスク5の離間と密着を繰り返すことができ、マスターディスク1の表面の異物をダミーディスクに付着させて取り除いたり、マスターディスク表面の異常突起を平坦化させることができる。
【0023】
図10はマスターディスク1に密着したダミーディスク5を市販の光学検査装置で検査した結果を示す。図10において16は検査領域を表し、ダミーディスクの全表面にほぼ等しい。マップに表示されている点はダミーディスク5の表面の凹凸欠陥である。図11に検出された凹欠陥の例を写真で示す。マスターディスク1と密着させたダミーディスク5の検査結果において表示される凹凸欠陥がないということはマスターディスク1の表面に異物が無い可能性が高いことを示している。逆に、表示される凹凸欠陥があるということは、対応するマスターディスク1の表面に異物や以上突起が存在する可能性が高いということである。小径ディスク用のマスターディスクを検査する場合、図6に示したランド2aに異物や突起があるかを判断しなくてはならない。ところが図8に示したように、ダミーディスク5のサイズが大きいので、ダミーディスク5にはランド部2aだけでなくランド部2bも接触する。したがって図10に示したような欠陥マップのどれがランド部2aに相当するものかが明確にできない。したがって、マスターディスクのランド部2aに異物や異常突起があるのか無いのかの判定が困難であった。
【0024】
このように、従来の方法では、小径磁気ディスク用マスターディスクの磁性薄膜4が配置されている領域(磁気転写領域)における清浄度を正確に判定するのが困難であった。
【0025】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、小径磁気ディスク用マスターディスクの磁性薄膜が配置されている領域(磁気転写領域)における清浄度を正確に判定することが可能なマスターディスク、マスターディスククリーニング工程、マスターディスク検査工程を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明によるマスターディスクは、基体表面に配置された磁性薄膜と、被転写部材を圧着することによって被転写部材の表面の一部に凹みを生じさせる応力集中部を形成するための凸部を有している。
【0027】
好ましい実施形態において前記応力集中部を形成するための凸部が磁性薄膜の配置されている領域よりも外周側に配置されている。
【0028】
好ましい実施形態において基体表面に配置された磁性薄膜と、被転写部材と磁気転写マスターディスクを圧着することによって被転写部材の表面の一部に凹みを生じさせる応力集中部を形成するための凹部と凸部を有している。
【0029】
好ましい実施形態において前記応力集中部を形成するための凹部と凸部が磁性薄膜の配置されている領域よりも外周側に配置されている。
【0030】
本発明のマスターディスククリーニング工程は、被転写部材と磁気転写マスターディスクを圧着する工程、被転写部材の表面に生じた複数の凹みを検出し位置分布を測定する工程、凹みの位置分布から磁気転写マスターディスクと被転写部材の圧着力が適正かどうかを判定する工程を含む。
【0031】
本発明のマスターディスク検査工程はマスターディスクが圧着された被転写部材の表面に生じた凹みを検出し位置分布を測定する工程、凹みの位置分布からマスターディスクに配置されている磁性薄膜が密着した領域を算出する工程を含む。
【発明の効果】
【0032】
本発明のマスターディスク、マスターディスククリーニング工程、マスターディスク検査工程によれば、1インチサイズやより小径の磁気ディスクに磁気転写するためのマスターディスクを低コストで確実にクリーニングすることができ、小径磁気ディスクを用いる小型ハードディスクドライブの生産性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0034】
まず、図1を参照する。図1は、本実施形態におけるマスターディスクの構成を模式的に示す斜視図である。
【0035】
図1に示されるマスターディスク1は、磁性薄膜が配置されている内側のランド部2Aと外側のランド部2Bとの間にリング状の凹部13と、凹部13の中に4つの凸部14を備えている。凸部14の表面はランド部2Aおよび2Bと同じ高さであるが、表面の面積は非常に小さい。ランド部2Aの存在する領域の直径は約20mm、ランド部2Bの存在する領域は直径約35mmから90mmの間の領域である。凸部14の直径は20μm程度である。
【0036】
図2は、上記本発明のマスターディスクとダミーディスクを重ね合わせてマスターディスクの表面をクリーニングする工程においてマスターディスクとダミーディスクの位置関係を示すものである。図2において、5は、3.5インチサイズのハードディスク用アルミ基板からなるダミーディスクであり、マスターディスク1との位置関係がわかるように輪郭のみ表示されている。本発明のマスターディスククリーニング工程では、ランド部2Aの周囲に配置された凸部14がダミーディスク5に重なるようマスターディスク1を偏心させて両者を重ね合わせる。
【0037】
図2で示したように両者を重ね合わせ、図9で示したように従来と同じくマスターディスク1とダミーディスク5の圧着、離間を繰り返すことによりマスターディスク1のクリーニングを行なう。このとき本発明のマスターディスククリーニング工程では、マスターディスク1に凹部13と凸部14を配置したことによりダミーディスク5に凹みを形成する。
【0038】
図3は前記凹みの形成過程を説明する図であり、マスターディスク1の凸部の領域を拡大した断面図である。まず図3マスターディスク1とダミーディスク5は図9(a)に示したように対向してセットされる。次には図9(b)で示すようにマスターディスク1とダミーディスク5は大気圧によって密着される。このとき図3(c)に示すように凹部13の領域ではマスターディスク1の基体が凹部13に落ち込むように変形しようとする。そして凹部13の領域にかかる大気圧のほとんどが凹部13の中心にある凸部14の先端部にかかる。凸部14の先端の面積は非常に小さいので凸部14の先端とダミーディスク5との接触応力は非常に大きくなる。前記接触応力がダミーディスク5の基体の弾性変形限界を超えると永久ひずみが残り、図3(d)に示すようにダミーディスク5の表面に凹み15が形成される。前記凹み15は凸部14が一定の応力以上で接触したことを示すマーカーとなる。以下この凹みをマーカー凹みと記する。
【0039】
本発明のマスターディスククリーニング工程、およびマスターディスク検査工程は、ダミーディスクに凹みを形成することができる本発明になるマスターディスクを用いることにより、1インチサイズやより小径の磁気ディスクに磁気転写するためのマスターディスクを低コストで確実にクリーニングすることができる。以下に、その実施の形態を図を用いて説明する。
【0040】
図4は、本実施形態におけるマスターディスククリーニング工程とマスターディスク検査工程のフローチャートである。
【0041】
まずマスターディスククリーニング工程を説明する。ST1は本発明のマスターディスクと1枚のダミーディスクを重ね合わせて圧着する工程である。ST2は前記ダミーディスクを市販の光学検査装置等で検査する工程であり、ST3は検査結果としてのダミーディスク表面の凹凸欠陥の位置座標データ出力である。ST4はST3の位置座標データからパターンマッチング等の手法を用いてマーカー凹みを検出する工程である。もし、工程ST4でマーカー凹みが検出されれば、マスターディスクとダミーディスクは一定の応力以上で圧着されたということになる。しかし、もしマーカー凹みの全てあるいは一部が検出されなければ、マスターディスクとダミーディスクの圧着力が不足しているところがあるということになる。その場合はST5に示す調整工程でマスターディスクとダミーディスクの保持姿勢や吸引ポンプの吸引力を調整し、再びST1の工程に戻る。マーカー凹みがすべて検出されたならばST6の工程でマスターディスクとダミーディスクを繰り返し圧着させてマスターディスクをクリーニングする。
【0042】
このように本発明のマスタークリーニング工程によれば、ダミーディスクのマーカー凹みを検出することによってマスターディスクとダミーディスクの圧着力が必要な領域において一定以上であることを確認できるのでマスターディスクのクリーニングを確実に行なうことができる。
【0043】
次に、本実施形態おけるマスターディスク検査工程を説明する。図4において、ST7はマスターディスクに1枚のダミーディスクを圧着する工程である。ST8はダミーディスクの表面を市販の光学検査機等で検査する工程であり、ST9は検査結果としての凹凸欠陥の位置座標データ出力である。ST10は、ST9の位置座標データからパターンマッチング等の手法を用いてマーカー凹みを検出し、マーカー凹みの位置からマスターディスクのランド部2B(図1を参照)が接触した領域を特定し、前記領域の範囲内における凹凸欠陥の有無を出力する工程である。ST11は検査結果を判定する工程であり、前記領域の範囲内に凹凸欠陥があればマスターディスクのランド部2Bに異物や異常突起が存在する可能性があるのでマスターディスクをクリーニング工程に戻すよう判定し、もし、前記領域の範囲内に凹凸欠陥が無ければマスターディスクのランド部2Bに異物や異常突起が存在しないのでマスターディスクのクリーニングをこれ以上行なう必要は無いと判定する。図5はダミーディスクの凹凸欠陥マップからマスターディスクのランド部2Aが接触した範囲を特定した例を示す。16は検査装置の検査範囲でありダミーディスクの全表面にほぼ等しい。17a、17b、17c、17dはマスターディスクに配置された凸部14によって形成されたマーカー凹み点を表している。18は前記マーカー凹み点の位置座標から算出した判定領域であり、マスターディスクのランド部2Aの接触した領域である。この例では、特定された判定領域18に1個の凹凸欠陥があるので、マスターディスクのクリーニングをさらに行なうことが必要であると判定される。
【0044】
以上説明したように、本発明のマスターディスク検査工程では、小径磁気ディスクに磁気転写を行なう際にマスターディスクが小径磁気ディスクと接触する範囲を特定して検査するのでマスターディスクのクリーン度の判定が確実に行なえる。
【0045】
なお、図1に示すように本実施形態のマスターディスク1ではダミーディスクにマーカー凹みを形成するための凸部14を4個設けているがその数を変更しても問題は無い。ただし、凹凸欠陥検査の位置座標データからパターンマッチング等でマーカー凹みを検出するためには最低でも2個で必要であり、4個から8個が適当である。8個以上になると凸部の先端部とダミーディスクの接触応力が減少するので好ましくない。
【0046】
さらに本実施の形態のマスターディスク1ではダミーディスクにマーカー凹みを形成するための凸部14の周囲に凹部13を配置してマスターディスク1を変形させることにより凸部14の先端に応力を集中させたが、凸部14の高さを周囲のランド部より高くすることによっても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、小径磁気ディスク転写用マスターディスクのクリーニングが確実に行なえるので、小径磁気ディスクを用いる小型ハードディスクドライブを効率良く量産することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明によるマスターディスクの実施形態の構成を示す斜視図
【図2】本発明によるマスターディスクとダミーディスクの位置合わせを示す図
【図3】本発明よるマスターディスクとダミーディスクを圧着した時にダミーディスクに凹みが形成される過程を示す図
【図4】本発明のマスターディスククリーニング工程およびマスターディスク検査工程の実施の形態を示すフローチャート
【図5】本発明のマスターディスク検査工程を説明するためのダミーディスクの凹凸欠陥を表す図
【図6】従来のマスターディスクの構成を示す斜視図
【図7】マスターディスクの詳細な構成を示す部分断面図
【図8】従来のマスターディスクとダミーディスクの位置合わせを示す図
【図9】マスターディスクとダミーディスクを圧着離間させる方法を示す図
【図10】従来のマスターディスク検査工程を説明するためのダミーディスクの凹凸欠陥を示す図
【図11】ダミーディスク表面の凹みを示す図
【符号の説明】
【0049】
1 マスターディスク
2a ランド部
2b ランド部
3 溝部
4 磁性薄膜
5 ダミーディスク
6 マスター保持パッド
7 ディスクスタンド
8 中心孔
9 通気孔
10 三方弁
11 吸引ポンプ
12 給気ポンプ
13 凹部
14 凸部
15 凹み
16 検査領域
17a マーカー凹み点
17b マーカー凹み点
17c マーカー凹み点
17d マーカー凹み点
18 判定領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体表面に配置された磁性薄膜と、
被転写部材を圧着することによって前記被転写部材の表面に凹みを生じさせる応力集中部を形成するための凸部と
を有したマスターディスク。
【請求項2】
基体表面に配置された磁性薄膜と、
被転写部材を圧着することによって被転写部材の表面に凹みを生じさせる応力集中部を形成するための凸部と
前記凸部の周囲に配置された凹部と
を有したマスターディスク。
【請求項3】
応力集中部を形成するための凸部が磁性薄膜の配置されている領域よりも外周側に配置されている請求項1に記載のマスターディスク。
【請求項4】
応力集中部を形成するための凹部と凸部が磁性薄膜の配置されている領域よりも外周側に配置されている請求項2に記載のマスターディスク。
【請求項5】
被転写部材と請求項1乃至請求項4に記載のマスターディスクを圧着する工程、
被転写部材の表面に生じた凹みを検出し位置分布を測定する工程、
凹みの位置分布から磁気転写マスターディスクと被転写部材の圧着力が適正かどうかを判定する工程
を含むマスターディスククリーニング工程。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4に記載のマスターディスクが圧着された被転写部材の表面に生じた凹みを検出し位置分布を測定する工程、
凹みの位置分布からマスターディスクに配置されている磁性薄膜が密着した領域を算出する工程
を含むマスターディスク検査工程。
【請求項1】
基体表面に配置された磁性薄膜と、
被転写部材を圧着することによって前記被転写部材の表面に凹みを生じさせる応力集中部を形成するための凸部と
を有したマスターディスク。
【請求項2】
基体表面に配置された磁性薄膜と、
被転写部材を圧着することによって被転写部材の表面に凹みを生じさせる応力集中部を形成するための凸部と
前記凸部の周囲に配置された凹部と
を有したマスターディスク。
【請求項3】
応力集中部を形成するための凸部が磁性薄膜の配置されている領域よりも外周側に配置されている請求項1に記載のマスターディスク。
【請求項4】
応力集中部を形成するための凹部と凸部が磁性薄膜の配置されている領域よりも外周側に配置されている請求項2に記載のマスターディスク。
【請求項5】
被転写部材と請求項1乃至請求項4に記載のマスターディスクを圧着する工程、
被転写部材の表面に生じた凹みを検出し位置分布を測定する工程、
凹みの位置分布から磁気転写マスターディスクと被転写部材の圧着力が適正かどうかを判定する工程
を含むマスターディスククリーニング工程。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4に記載のマスターディスクが圧着された被転写部材の表面に生じた凹みを検出し位置分布を測定する工程、
凹みの位置分布からマスターディスクに配置されている磁性薄膜が密着した領域を算出する工程
を含むマスターディスク検査工程。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−85750(P2006−85750A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266379(P2004−266379)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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