説明

マスタ基板、磁気ディスク媒体及び磁気ディスク装置

【課題】磁気ディスクにサーボマークを磁気転写するのに必要なマスタ基板の製造に要する時間やコストを低減する。
【解決手段】移動軌跡が円弧状の磁気ヘッド19により記録再生が行われる磁気ディスク12A〜12Cの製造に際して、磁気ディスク12A〜12Cと密着するマスタ基板の面(磁気転写面)に、磁気ディスク12A〜12Cの表面用のサーボマークを形成するためのAchサーボパターンと、裏面用のサーボマークを形成するためのBchサーボパターンとを、交差しないように設けることにより、マスタ基板を1枚用意するのみで、磁気ディスク12A〜12Cの表裏面のいずれにも対応可能なサーボマークを磁気転写することができるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスタ基板、磁気ディスク媒体及び磁気ディスク装置に関し、特に磁気ディスク媒体の製造に用いられるマスタ基板、該マスタ基板を用いてサーボマークが磁気転写された磁気ディスク媒体及び該磁気ディスク媒体を備える磁気ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、磁気ディスク媒体にサーボマークを形成する場合、マスタ基板を用いた磁気転写方法が用いられている。この方法は、磁性体に微細凹凸パターン(サーボパターン)を形成した磁気転写用のマスタ基板と磁気ディスク媒体とを密着させ、マスタ基板に転写用磁界を印加することにより磁気ディスク媒体にサーボマークを磁気転写するものである。磁気ディスク媒体上には、サーボマークが、磁気ディスク媒体の周方向に沿って100〜200程度設けられる。
【0003】
また、磁気ディスク装置では、磁気ディスク媒体の表面と裏面のそれぞれをデータの記録再生に使用するため、両面にサーボマークを磁気転写しておく必要がある(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−280919号公報
【特許文献2】特開2004−318946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の磁気ディスク装置において、磁気ディスク媒体に対してデータの記録再生を行う磁気ヘッドは、回転式のアーム(ヘッド・スタック・アッセンブリ(HSA))の一端部に設けられている。このため、磁気ヘッドは、磁気ディスク媒体上を円弧状の軌道に沿って移動するので、サーボマークを磁気ヘッドの動きと同期させるためには、サーボマークを磁気ディスク媒体に円弧状に書き込む必要がある。このように、サーボマークが円弧状に書き込まれることに起因して、磁気ディスク媒体の表面側のサーボマークと、裏面側のサーボマークとは、鏡面対称な関係になる(例えば、特許文献1の図1参照)。
【0006】
このため、一のマスタ基板に形成された微細凹凸パターン(サーボパターン)のみでは、磁気ディスク媒体の両面にそれぞれの面に適合したサーボマークを磁気転写することはできない。すなわち、従来において、一の磁気ディスク媒体の両面に別々のサーボマークを磁気転写するためには、各面に対応した磁気転写用マスタ担体(マスタ基板)を用意する必要があった。
【0007】
また、表面用と裏面用の磁気転写用マスタ担体(マスタ基板)を用意するためには、磁気転写用マスタ担体を製造するための原盤(元マスタ基板)も2種類用意する必要があり、その製造に手間やコストがかかってしまう。
【0008】
更に、各面のサーボマークが異なることは、磁気ディスク装置を組み立てる際に、磁気ディスク媒体の表面と裏面とを取り違えないように、組立てを慎重に行う必要があることも意味する。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、磁気ディスク媒体の表裏面それぞれに対するサーボマークの磁気転写が可能なマスタ基板を提供することにある。また、表裏面の区別をすることなく製造、使用をすることが可能な磁気ディスク媒体を提供することにある。また、磁気ディスク媒体の表裏面を取り違えることなく組み立てることが可能な磁気ディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本明細書開示のマスタ基板は、移動軌跡が円弧状の磁気ヘッドにより記録再生が行われる磁気ディスク媒体の製造に際して、前記磁気ディスク媒体と密着する磁気転写面と、前記磁気転写面に設けられた、前記磁気ディスク媒体の表面用の円弧状のサーボマークを磁気転写するための第1のサーボパターンと、前記磁気転写面に、前記第1のサーボパターンと交差しないように設けられた、前記磁気ディスク媒体の裏面用の円弧状のサーボマークを磁気転写するための第2のサーボパターンと、を備えることを特徴とする。
【0011】
本明細書において、「サーボマーク」とは、磁気ディスク媒体に書き込まれたサーボデータの始点を示すマークを意味し、「サーボパターン」とは、マスタ基板に設けられ、サーボマークを磁気ディスク媒体に磁気転写するための凹凸パターンを意味する。
【0012】
これによれば、磁気転写面に、磁気ディスク媒体の表面用の円弧状のサーボマークを形成するための第1のサーボパターンと、裏面用の円弧状のサーボマークを形成するための第2のサーボパターンとが設けられているので、当該マスタ基板を1枚用意するのみで、磁気ディスク媒体の表裏面のいずれにも対応可能なサーボマークの磁気転写を行うことが可能となる。これにより磁気ディスク媒体の表面用や裏面用のマスタ基板を別々に製造する必要がなくなるので、マスタ基板の製造に要する手間やコストを低減することが可能となる。この場合、表面用のサーボマークと裏面用のサーボマークとは交差していないので、サーボマークの読み取りができなくなることもない。また、マスタ基板を製造するのに用いる元マスタ基板(EB(電子ビーム)露光装置等を用いて製造される原盤)の製造に要する時間やコストも低減することが可能となる。
【0013】
本明細書開示のディスク媒体は、上記マスタ基板を用いて、表面と裏面の各面に、前記表面用のサーボマークと前記裏面用のサーボマークがともに磁気転写されたことを特徴とする。
【0014】
これによれば、表裏面の区別をすることなく、ディスク媒体の製造や使用をすることが可能である。
【0015】
本明細書開示の磁気ディスク装置は、上記磁気ディスク媒体と、前記磁気ディスク媒体に対する記録再生を行う、移動軌跡が円弧状の磁気ヘッドと、を備えることを特徴とする。
【0016】
これによれば、表裏面の区別をすることなく製造、使用をすることが可能な磁気ディスク媒体を備えているので、磁気ディスク媒体の表裏面を取り違えることなく組み立てることが可能となる。
【0017】
また、本明細書開示の磁気ディスク装置は、第1のサーボパターンと第2のサーボパターンが部分的に切断され、両パターンが交差しないように、切断された少なくとも一部分が円周方向に前記磁気ディスク媒体のセクタ周期の1/2だけずれた位置に配置されたマスタ基板を用いて、表面と裏面の各面に、前記表面用のサーボマークと前記裏面用のサーボマークがともに磁気転写された磁気ディスク媒体と、前記磁気ディスク媒体に対する記録再生を行う、移動軌跡が円弧状の磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドが磁気ディスク上にロードされて最初にサーボマークを検出した時点から、前記セクタ周期の1/2に相当する時間が経過する毎に、前記磁気ヘッドを用いて、サーボマークの読み取り動作を実行する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0018】
これによれば、制御手段が、磁気ヘッドが磁気ディスク上にロードされて最初にサーボマークが検出された時点から、セクタ周期の1/2に相当する時間が経過する毎に、磁気ヘッドを用いて、サーボマークの読み取り動作を実行するので、表面側のサーボマークと裏面側のサーボマークの少なくとも一部分が、円周方向にセクタ周期の1/2だけずれた配置となっていても、問題なく、磁気ヘッドによるサーボマークの読み取りを行うことが可能となる。また、この場合も、上記と同様、磁気ディスク媒体の表裏面を取り違えることなく組み立てることが可能である。
【発明の効果】
【0019】
本明細書開示のマスタ基板は、磁気ディスク媒体の表裏面それぞれに対応したサーボマークの磁気転写ができるという効果を奏する。また、本明細書開示の磁気ディスク媒体は、表裏面の区別をすることなく製造や使用をすることができるという効果を奏する。また、本明細書開示の磁気ディスク装置は、磁気ディスク媒体の表裏面を取り違えることなく組み立てることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について図1〜図13に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1は、一実施形態に係る磁気ディスク装置としてのハードディスクドライブ(HDD)100の内部構成を示している。この図1に示すように、HDD100は、ベース10と、ベース10上に設けられた3枚の磁気ディスク12A、12B、12C、スピンドルモータ14、ヘッド・スタック・アッセンブリ(HSA)20等と、を備える。なお、ベース10は、実際には、ベース10の上面を覆う状態で設けられる上蓋(トップ・カバー)とともに箱型の筺体を構成するが、図1では、図示の便宜上、トップ・カバーの図示を省略している。
【0022】
磁気ディスク12A〜12Cは、表面と裏面のそれぞれが記録面となっており、各磁気ディスクは、スピンドルモータ14によって、その回転軸回りに一体となって、例えば10000rpm〜15000rpmなどの高速度で回転駆動される。磁気ディスク12A〜12Cそれぞれの両面には、図4に示すような配置で、サーボマークが書き込まれている。なお、このサーボマークの詳細については、後述する。
【0023】
HSA20は、支軸18に対して回転自在に連結され、ボイスコイルモータ24により支軸18を中心とした揺動が実現される。このHSA20は、6本のヘッド・アーム26と、各ヘッド・アーム26の先端部に取り付けられた6つのヘッドジンバルアッセンブリ(HGA)30と、を有している。
【0024】
ヘッド・アーム26は、平面視(上方から見て)略二等辺三角形状の形状を有し、例えばステンレス板を打ち抜き加工したり、アルミニウム材料を押し出し加工することにより成型される。
【0025】
HGA30は、弾性サスペンション28と、各弾性サスペンション28の一端部(支軸18とは反対側の端部)に設けられたヘッドスライダ16と、を有している。ヘッドスライダ16には、磁気ディスクに対するデータの記録、磁気ディスクに書き込まれたデータの再生を実行する磁気ヘッド19(図1では不図示、図3参照)が設けられている。
【0026】
上記のように、本実施形態では、3枚の磁気ディスク12A〜12Cに対し、6つのヘッドスライダ16が設けられている。具体的には、図2(a)に示すように、磁気ディスクの表側の面の記録再生に用いられるヘッドスライダは、磁気ディスクの表側の面に対向し、裏側の面の記録再生に用いられるヘッドスライダは、磁気ディスクの裏側の面に対向している。
【0027】
この場合、表面側のヘッドスライダ16は、図2(a)に示す円弧状の軌道R1(一点鎖線にて示す軌道)に沿って移動し、裏面側のヘッドスライダ16は、円弧状の軌道R2(破線にて示す軌道)に沿って移動する。このため、表面側のヘッドスライダ16の磁気ディスク12A〜12C上での移動軌跡は、図2(b)(磁気ディスクを図2(a)の矢印A方向から見た状態を示す図)に示すような円弧状の移動軌跡MR1となる。また、裏面側のヘッドスライダ16の磁気ディスク12A〜12C上での移動軌跡は、図2(c)(磁気ディスクを図2(a)の矢印B方向から見た状態を示す図)に示すような円弧状の移動軌跡MR2となる。これら図2(b)、図2(c)からも分かるように、移動軌跡MR1とMR2とは、鏡面対称となっている。
【0028】
図3には、図1のHDD100のサーボ系の制御を行う制御回路のブロック図が示されている。
【0029】
この図3に示すように、サーボ系の制御回路は、ヘッド・アンプ42と、位置情報サンプラ44と、マイコン52と、パワー・アンプ48とを有している。
【0030】
ヘッド・アンプ42は、磁気ヘッド19において読み取ったデータを増幅して、位置情報サンプラ44に送信する。
【0031】
位置情報サンプラ44は、サーボマークの確認タイミングを決定するためのタイマを有している。また、位置情報サンプラ44は、磁気ディスク12A〜12Cに書き込まれているサーボデータから、トラックデータ(シリンダデータ)とセクタデータをデコードするためのタイミング信号を生成する。更に、位置情報サンプラ44は、ユーザ・データ信号と、サーボデータ信号の識別を行ったり、トラックデータ(シリンダデータ)とセクタデータに続く位置決めパターンを取得したりする。
【0032】
マイコン52は、位置情報サンプラ44から出力されるトラックデータ(シリンダデータ)とセクタデータ、及び位置決めパターンを取り込み、復調する。また、パワー・アンプ48を介したボイスコイルモータ24の起動、回転制御、シーク制御、位置決め制御、データフローの制御を行う。
【0033】
次に、磁気ディスク12A〜12Cについて説明する。磁気ディスク12A〜12Cには、同心円上に多数のトラックが形成されている(不図示)。これら磁気ディスク12A〜12Cのフォーマットには、いわゆるセクタサーボ方式(埋め込みサーボ方式)のフォーマットが適用されており、各トラックは複数のセクタに等分割されている。なお、各トラックのセクタ数は、通常100〜200程度であるが、本実施形態では図示及び説明の便宜上60セクタであるものとする。
【0034】
各セクタは、サーボデータが記録されたサーボエリアとデータが記録されるデータエリア(データ部)を有する。これらのエリアのうち、サーボエリアには、サーボマークが書き込まれている。
【0035】
次に、磁気ディスク12A〜12Cの両面に書き込まれたサーボマークの具体例について、図4に基づいて説明する。
【0036】
図4に示すように、磁気ディスク12A〜12Cに書き込まれたサーボマークは、表面用(Ach)サーボマークSMA1〜SMA6と、裏面用(Bch)サーボマークSMB1、SMB2とを含むサーボマーク群SMを60個(組)有している。なお、各サーボマークは、実際には、図4に示す実線及び破線上をマーク領域として、当該マーク領域内に円周方向に沿って各トラックごとに書き込まれた多数のインデックス信号の集合を含む。
【0037】
図4のサーボマーク(マーク領域)は、以下のようにして設計される。
【0038】
まず、図5(a)に示すように、円弧状の、仮の表面用(Ach)サーボマーク(実線にて示している)SA1を1セクター間隔で60本配置する。また、仮のAchサーボマークSA1を複製し、AchサーボマークSA1から1/2セクター分だけ回転方向にずらして配置したものを、仮の表面用(Ach)サーボマークSA2(破線にて示している)とする。
【0039】
次いで、図5(b)に示すように、円弧状の、仮の裏面用(Bch)サーボマークSB1(太い実線にて示している)を1セクター間隔で60本配置する。また、仮のBchサーボマークSB1を複製し、BchサーボマークSB1から1/2セクター分だけ回転方向にずらして配置したものを、仮の表面用(Bch)サーボマークSB2(太い破線にて示している)とする。
【0040】
次いで、上記4種類の仮のサーボマークSA1、SA2,SB1,SB2が交差する箇所(半径方向の位置)を特定する。図6(a)では、サーボマークが交差する半径方向の位置(5箇所)に一点鎖線を描画している。
【0041】
次いで、各仮のサーボマークSA1、SA2,SB1,SB2と一点鎖線とが交差する位置を切断位置に設定する。
【0042】
次いで、仮のAchサーボマークSA1,SA2、又は仮のBchサーボマークSB1,SB2を1/4セクター分だけ回転方向にずらす。なお、図6(b)では、仮のBchサーボマークSB1,SB2を右回り(時計回り)に1/4セクター分だけ回転させたものとする。
【0043】
次いで、図6(b)において、一点鎖線により区切られた領域AR1〜AR6内で、仮のAchサーボマークSA1,SA2のいずれか一方と、仮のBchサーボマークSB1,SB2のいずれか一方と、を選択する。この場合、仮のサーボマークSA1,SA2,SB1,SB2のそれぞれが、他の仮のサーボマークと交差しないように選択する。この選択の結果、選択された側のサーボマークはそのまま残し、選択されなかった側のサーボマークを消去する。
【0044】
このようにして磁気ディスク上に残ったサーボマークは、図7に示すように、AchサーボマークSMA1〜SMA6、BchサーボマークSMB1、SMB2であるので、これらをサーボマーク群SMとする。これにより、AchサーボマークとBchサーボマークとが、交差することなく、かつ重ならずに、磁気ディスクの内周から外周までの全てのトラックに過不足なく配置されることになる。また、図7から分かるように、各サーボマークは、円周方向に関しては1セクター間隔で均等に配列されている。また、BchサーボマークSMB1とSMB2とは1/2セクタ間隔だけずれた配置であり、AchサーボマークSMA1〜SMA6の半径方向に隣接するサーボマークは、1/2セクタ間隔だけずれた配置となっている。
【0045】
なお、上記においては、AchサーボマークよりもBchサーボマークを優先し、Bchサーボマークの切断回数がなるべく少なくなるように、すなわち、Bchサーボマークの方が、なるべく長くなるように、領域AR1〜AR6内での仮のサーボマークの選択を行うこととした(図7参照)。これにより、磁気ディスクの製造プロセスにおいて磁気ディスク表面の洗浄等に液体を用いたとしても、スピンコータで液体を吹き飛ばす際に、その液体をBchサーボマークに沿って磁気ディスクの内周側から外周側に誘導することができる。これにより、磁気ディスクの内側から外側への液体の移動がスムーズになるため、磁気ディスク表面からの液体の除去を効率よく行うことできる。なお、本実施形態では、Bchサーボマークを優先する場合に限らず、Achサーボマークの方を優先して、図6(b)で説明した選択作業を行うこととしても良い。
【0046】
なお、上記においては、Achサーボマーク又はBchサーボマークのいずれかを優先することとしたが、これに限られるものではない。例えば、図8に示すように、AchサーボマークとBchサーボマークが略同一回数だけ切断され、ずらされるように設計しても良い(図8では、AchサーボマークとBchサーボマークがともに4回ずつ切断されている)。このような切断方法を採用することにより、サーボマークの半径方向に関する長さが極端に短くなる部分が生じるのを抑制することができる。
【0047】
次に、上述のように設計されたサーボマークを、磁気ディスク12A〜12Cの表面と裏面の両面に磁気転写するためのマスタ基板の製造方法について説明する。
【0048】
マスタ基板の製造に際しては、まず、元マスタ基板を製造する。具体的には、図9(a)に示すように、表面が平滑なシリコン円盤60の上にレジスト密着用液を塗布し、その後、ポジ型レジスト液をスピンコート等で塗布した後、ベーキング処理してレジスト62を形成する。そして、EB露光装置64を用いて電子ビームをレジスト62上に照射することにより、図4のサーボマークと同一配置のパターンを描画し、再度ベーキング処理を施す。
【0049】
次いで、図9(b)に示すように、レジスト62を現像処理して、露光部分を除去し、レジスト62による凹凸形状を形成する。さらに、ベーキング処理を施すことによりレジスト62を硬化させ、レジスト62による凹凸パターンを表面に有する元マスタ基板70を製造する。この元マスタ基板70は、図9(b)の右図に示すように、製造しようとしている磁気ディスク12A〜12C(図4参照)のサーボマークと同一の配置で凹凸パターンが設けられている。
【0050】
上記のようにして元マスタ基板70を製造した後、図9(c)のようにして、元マスタ基板70の凹凸表面に軟磁性層66を形成することにより、磁気転写用のマスタ基板50を製造する。このマスタ基板50には、図9(d)の右図に示すように、図4のサーボマークとは鏡面対称の凹凸パターン(サーボパターン)が形成されている。
【0051】
なお、上記のようにして製造されたマスタ基板50を磁気ディスク12A〜12Cの表面及び裏面に順次密着させて磁場を印加することにより、磁気ディスク12A〜12Cの表面及び裏面のそれぞれの面に、サーボマークを磁気転写することができる。
【0052】
次に、図10、図11に基づいて、本実施形態のHDD100におけるサーボ動作について説明する。
【0053】
図10は、図3のサーボ系の制御回路による、サーボマークの読み取りのためのタイミング生成等の動作を示すフローチャートである。
【0054】
この図10のフローチャートは、ヘッドスライダ16が磁気ディスク上にロードされた段階で開始される。まず、ステップS10では、ヘッドスライダ16が磁気ディスク上にロードされてから図3の位置情報サンプラ44により、サーボマークが確認されるまで待機する。ここでは、表面用の磁気ヘッドがAchサーボマークを確認し、裏面用の磁気ヘッドがBchサーボマークを確認するまで待機する。なお、上述したように、AchサーボマークもBchサーボマークもビット列からなるインデックス信号を有している。したがって、表面用の磁気ヘッドでは、Achサーボマークをサーボマークとして認識することができるものの、Bchサーボマークは読み取り方向が逆向きのため、サーボマークとして認識することができない。また、同様に、裏面用の磁気ヘッドでは、Bchサーボマークのみをサーボマークとして認識することができるものの、Achサーボマークはサーボマークとして認識することができない。すなわち、本実施形態では、各面に書き込まれた不要なサーボマーク(表側におけるBchサーボマーク、裏側におけるAchサーボマーク)によって、サーボマークの誤認識が誘発されることはない。
【0055】
そして、位置情報サンプラ44によるサーボマークの確認が行われた段階で、次のステップS12に移行する。このステップS12では、位置情報サンプラ44が、タイマをリセットする。
【0056】
次いで、ステップS14では、位置情報サンプラ44がタイマのカウントアップを開始し、そのカウント値が、1/2セクタ間隔のタイミングとなるまで待機する(ステップS16)。そして、1/2セクタ間隔のタイミングとなった段階で、次のステップS18に移行する。
【0057】
次のステップS18では、位置情報サンプラ44が、サーボマークが確認されたか否かを判断する。そして、このステップS18の判断が肯定された場合(すなわち、サーボマークが確認された場合)には、ステップS20に移行する。ステップS20では、マイコン52が、セクタアドレスを復調するとともに、シリンダアドレスを復調する。また、次のステップS22において位置決めパターンも復調する。
【0058】
一方、ステップS18における判断が否定された場合には、ステップS24に移行し、1セクタ間隔のタイミングになるまで待機する。そして、1セクタ間隔のタイミングになった段階で、ステップS26に移行し、サーボマークが確認されたか否かを判断する。ここでの判断が肯定された場合には、前述と同様に、セクタアドレス、シリンダアドレスの復調を行うとともに(ステップS20)、位置決めパターンの復調を行う(ステップS22)。一方、ステップS26において、サーボマークが確認されなかった場合は、判断が否定された後、ステップS12に戻る。
【0059】
このように、本実施形態では、図10に沿って処理・判断を行うことにより、図11のタイミングチャートに示すように、1/2セクタ間隔のタイミング、及び1セクタ間隔のタイミングでサーボマークの確認を行うことができる。この場合、図4に示すように半径方向に隣接するAchサーボマーク又はBchサーボマークが、1/2セクタずれた配置となっていても、問題なく、サーボマークを検出することが可能である。なお、上記ではサーボ動作についてのみ説明したが、図11のタイミングチャートに示すように、上記サーボ動作の合間に、データ部の処理を行うことができるようになっている。
【0060】
また、上記のような動作を繰り返して、磁気ディスクにユーザ・データを書き込むことにより、表面側に書き込まれていたBchサーボマークは、ユーザ・データで上書きされる。これにより、時間の経過とともに、表面側のサーボマークの大半がAchサーボマークになる。同様に、裏面側に書き込まれていたAchサーボマークは、ユーザ・データにより上書きされるので、時間の経過とともに、裏面側のサーボパターンの大半がBchサーボマークになる。
【0061】
図12、図13には、図10のフローチャート、図11のタイミングチャートに対応した、従来の方法が示されている。
【0062】
これら図12、図13に示すように、従来は、1セクタ間隔のタイミングでサーボマークを確認し、その都度、セクタアドレス、シリンダアドレス及び位置決めパターンの復調を行っていた(ステップS116、S120,S122及び図13参照)。これに対し、本実施形態では、サーボマークの確認を1/2セクタ、1セクタ間隔で行うため、図4に示すようなサーボマークを採用しても、サーボマークの検出を適切に行うことが可能である。
【0063】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によると、移動軌跡が円弧状の磁気ヘッド19により記録再生が行われる磁気ディスク12A〜12Cの製造に際して、マスタ基板50の磁気ディスク12A〜12Cと密着する面に、磁気ディスク12A〜12Cの表面用のサーボマークを形成するためのAchサーボパターンと、裏面用のサーボマークを形成するためのBchサーボパターンとが交差しないように設けられているので、マスタ基板を1枚用意するのみで、磁気ディスク12A〜12Cの表裏面のいずれにも対応可能なサーボマークを磁気転写することができる。これにより、磁気ディスク12A〜12Cの表面用や裏面用のマスタ基板を別々に製造する必要が無いことから、マスタ基板の製造に要する手間やコストを低減することができる。この場合、表面用のサーボマークと裏面用のサーボマークとは交差していないので、磁気ヘッド19によるサーボマークの読み取りができなくなることもない。また、マスタ基板50を製造するのに用いる元マスタ基板(EB(電子ビーム)露光装置等を用いて製造される原盤)の製造に要する手間やコストも低減することもできる。更に、マスタ基板は1種類で足りるので、マスタ基板の管理も容易である。
【0064】
また、本実施形態の磁気ディスク12A〜12Cによると、上記マスタ基板50を用いて表面と裏面の各面に表面用及び裏面用のサーボマークを磁気転写するので、表裏面の区別なく磁気ディスクの製造や使用をすることができる。
【0065】
また、本実施形態のHDD100によると、上記のように製造される磁気ディスク12A〜12Cを備えているので、磁気ディスクの表裏面を取り違えることなく組み立てることができる。
【0066】
また、本実施形態では、図3のサーボ系の制御回路が、磁気ヘッド19が磁気ディスク12A〜12C上にロードされて最初にサーボマークを検出した時点から、1/2セクタ間隔で、サーボマークの読み取り動作(確認動作)を実行する。したがって、表面側のサーボマークと裏面側のサーボマークの少なくとも一部分が、円周方向にセクタ周期の1/2だけずれた配置となっていても、問題なく、磁気ヘッド19によるサーボマークの読み取りを行うことができる。
【0067】
なお、上記実施形態では、磁気ディスク上にサーボマーク群SMが60個存在する場合について説明したが、これに限られるものではなく、サーボマーク群は、任意の数設けることが可能である。例えば、図14に示すように、サーボマーク群が190存在する磁気ディスクなどを採用することも可能である。このようにサーボマーク群が増加しても、上記実施形態と同様の設計方法を採用することにより、サーボマークを交差や重複なしに配置することが可能である。
【0068】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】一実施形態に係るHDD構成を示す斜視図である。
【図2】磁気ヘッドのディスク上における移動軌跡を説明するための図である。
【図3】サーボ系の制御回路を示すブロック図である。
【図4】磁気ディスク12A〜12Cに書き込まれたサーボマークを示す図である。
【図5】サーボマークの設計方法について示す図(その1)である。
【図6】サーボマークの設計方法について示す図(その2)である。
【図7】サーボマークの設計方法について示す図(その3)である。
【図8】サーボマークの別例を示す図である。
【図9】元マスタ基板及びマスタ基板の製造方法を示す図である。
【図10】サーボ系の制御回路によるサーボパターン検出のフローチャートである。
【図11】図10の処理を行った際のタイミングチャートである。
【図12】従来の例を示すフローチャートである。
【図13】従来の例を示すタイミングチャートである。
【図14】サーボマークの変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
12A〜12C 磁気ディスク(磁気ディスク媒体)
19 磁気ヘッド
SMA1〜SMA6 サーボマーク
SMB1,SMB2 サーボマーク
70 マスタ基板
100 HDD(磁気ディスク装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動軌跡が円弧状の磁気ヘッドにより記録再生が行われる磁気ディスク媒体の製造に際して、前記磁気ディスク媒体と密着する磁気転写面と、
前記磁気転写面に設けられた、前記磁気ディスク媒体の表面用の円弧状のサーボマークを磁気転写するための第1のサーボパターンと、
前記磁気転写面に、前記第1のサーボパターンと交差しないように設けられた、前記磁気ディスク媒体の裏面用の円弧状のサーボマークを磁気転写するための第2のサーボパターンと、を備えるマスタ基板。
【請求項2】
前記第1のサーボパターンと前記第2のサーボパターンは部分的に切断され、両パターンが交差しないように、切断された少なくとも一部分が円周方向に前記磁気ディスク媒体のセクタ周期の1/2だけずれた位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のマスタ基板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマスタ基板を用いて、表面と裏面の各面に、前記表面用のサーボマークと前記裏面用のサーボマークがともに磁気転写されたことを特徴とする磁気ディスク媒体。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気ディスク媒体と、
前記磁気ディスク媒体に対する記録再生を行う、移動軌跡が円弧状の磁気ヘッドと、を備える磁気ディスク装置。
【請求項5】
請求項2に記載のマスタ基板を用いて、表面と裏面の各面に、前記表面用のサーボマークと前記裏面用のサーボマークがともに磁気転写された磁気ディスク媒体と、
前記磁気ディスク媒体に対する記録再生を行う、移動軌跡が円弧状の磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドが磁気ディスク上にロードされて最初にサーボマークを検出した時点から、前記セクタ周期の1/2に相当する時間が経過する毎に、前記磁気ヘッドを用いて、サーボマークの読み取り動作を実行する制御手段と、を備える磁気ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−238300(P2009−238300A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82264(P2008−82264)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】