マッサージ方法の評価方法
【課題】本発明は、人にマッサージを施すことなく、マッサージ方法の有効性を評価することが可能なマッサージ方法の評価方法を提供することを目的とする。
【解決手段】マッサージ方法の評価方法は、皮膚に圧力を印加する工程と、圧力が印加された皮膚の細胞増殖能を評価する工程、及び/又は、圧力が印加された皮膚のNOの産生量を測定する工程を有する。
【解決手段】マッサージ方法の評価方法は、皮膚に圧力を印加する工程と、圧力が印加された皮膚の細胞増殖能を評価する工程、及び/又は、圧力が印加された皮膚のNOの産生量を測定する工程を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マッサージ方法の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マッサージの評価方法として、マッサージ前後の唾液を採取して、唾液中の免疫グロブリンや副腎皮質ホルモンの濃度を測定する方法が知られている(特許文献1、2参照)。
【0003】
また、マッサージの施術の効果を評価する際に、施術前後における目の周囲の体液循環の状態の変化を指標とすることが知られている(特許文献3参照)。また、顔面のシワを予防及び/又は改善させるために体幹部に施術されるマッサージ方法を評価する際に、体幹及び/又は顔面の筋緊張度を施術の前後に計測し、筋緊張度の緩和の度合いを指標とすることが知られている(特許文献4参照)。
【0004】
しかしながら、これらの評価方法は、人にマッサージを施した前後に測定を行う必要があるという問題がある。
【特許文献1】特開平8−15257号公報
【特許文献2】特開平11−23579号公報
【特許文献3】特開2004−129705号公報
【特許文献4】特開2006−334186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来技術が有する問題に鑑み、人にマッサージを施すことなく、マッサージ方法の有効性を評価することが可能なマッサージ方法の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、マッサージ方法の評価方法において、皮膚に圧力を印加する工程と、該圧力が印加された皮膚の細胞増殖能を評価する工程、及び/又は、該圧力が印加された皮膚のNOの産生量を測定する工程を有することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のマッサージ方法の評価方法において、前記NOは、前記皮膚に含まれるnNOSにより合成されたものであることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のマッサージ方法の評価方法において、前記皮膚に押圧刺激する際に、マッサージ料を用いることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマッサージ方法の評価方法において、前記皮膚は、人工皮膚であることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマッサージ方法の評価方法において、前記皮膚は、動物由来の皮膚であることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のマッサージ方法の評価方法において、前記皮膚内のリンパ管の拡張を評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、人にマッサージを施すことなく、マッサージ方法の有効性を評価することが可能なマッサージ方法の評価方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に説明する。
【0014】
本発明のマッサージ方法の評価方法は、皮膚に圧力を印加する工程と、圧力が印加された皮膚の細胞増殖能を評価する工程、及び/又は、圧力が印加された皮膚の一酸化窒素(NO)の産生量を測定する工程を有する。これにより、人にマッサージを施すことなく、マッサージ方法の有効性を評価することができる。
【0015】
なお、皮膚としては、人工皮膚、動物由来の皮膚を用いることができる。
【0016】
皮膚に圧力を印加する方法としては、特に限定されないが、一定の圧力を継続的に印加する方法、一定の圧力を断続的に印加する方法、変動する圧力を継続的に印加する方法、変動する圧力を断続的に印加する方法等が挙げられる。また、圧力を印加する際には、圧力の大きさ、圧力を印加する頻度、圧力を印加する部材の形状及び硬さ、環境の温度、湿度等を、必要に応じて、適宜調整することができる。
【0017】
なお、マッサージ料を評価する際には、圧力を印加する前に、皮膚にマッサージ料を塗布してもよい。これにより、マッサージ料をスクリーニングすることができる。マッサージ料としては、特に限定されないが、化粧水、乳液、クリーム、ジェル等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0018】
圧力が印加された皮膚の細胞増殖能を評価する際には、例えば、[3H]−チミジン、5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)等の標識試薬を添加した培地を用いて、圧力が印加された皮膚を培養した後に標識試薬が取り込まれた細胞数を計測する。これにより、皮膚に圧力を印加する方法、即ち、マッサージ方法が、皮膚の細胞増殖能に及ぼす影響を評価することができる。
【0019】
圧力が印加された皮膚のNOの産生量を測定する際には、例えば、圧力が印加された皮膚に、ジアミノフルオレセイン−2(DAF−2)等のNO蛍光指示薬を添加し、NO蛍光指示薬とNOの反応生成物が発光する蛍光を測定する。なお、DAF−2のアミノ基がNOと反応した生成物を、波長が495nmの光で励起すると、波長が515nmの蛍光を発光する。これにより、皮膚に圧力を印加する方法、即ち、マッサージ方法が、皮膚のNOの産生に及ぼす影響を評価することができる。
【0020】
NOは、血管拡張物質として知られているが、L−アルギニンを基質として、NO合成酵素(NOS)により合成される。NOSは、構成型NOS(cNOS)と誘導型NOS(iNOS)に分類され、cNOSには、神経型NOS(nNOS)、内皮型NOS(eNOS)があるが、本発明においては、皮膚中のnNOSによりNOが合成される。このため、本発明によれば、皮膚に圧力を印加する方法、即ち、マッサージ方法が、皮膚中のnNOSの活性化に及ぼす影響を評価することができる。
【0021】
さらに、皮膚として、動物由来の皮膚を用いる場合は、皮膚に圧力を印加する方法、即ち、マッサージ方法が、NOの産生による皮膚内の血管又はリンパ管の拡張に及ぼす影響を評価することができる。
【0022】
なお、皮膚をマッサージすることにより、皮膚内の末梢血管が拡張されると、末梢血流が促進されるため、末梢血管障害を伴う疾患の予防・改善に役立つ。具体的には、糖尿病患者は、末梢血流が悪化し、細胞が壊死することがあるが、この場合に、皮膚をマッサージすることにより、このような疾患の予防・改善ができる。また、褥瘡(床ずれ)は、同じ部位に長期間圧力が印加されることによる末梢血流の悪化に起因する皮膚の壊死であるが、皮膚をマッサージすることにより、このような疾患を予防できる。
【実施例】
【0023】
[皮膚の細胞増殖能の評価]
10〜13週齢のへアレスマウスの腹腔内に25%Carbomic acid ethyl ester溶液を4ml/kg投与して麻酔した状態で、背部の皮膚を採取し、安楽死させた後、筋層、血管をメスで整形して、1.5cm×15cmの皮膚組織片を得た。
【0024】
皮膚組織片をテフロン(登録商標)メッシュ上に載せた後、培地MCDB153(シグマ社製)が2mL入った培養皿に浮かせて、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、湿度95%)で3時間培養した。次に、皮膚組織片の角層の上に、ウレタンゴムシートを敷き、その上から、円柱形状のおもり(直径2cm、高さ2cm、53g)を用いて押圧刺激した。なお、押圧刺激としては、おもりを載せるP刺激又は転がすR刺激(1分間に23.5往復)を、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、湿度95%)内で10分間実施した。このとき、比較のため、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、湿度95%)内で10分間押圧刺激しない場合(無刺激)も実施した。
【0025】
次に、BrdUを50μM含有するMCDB153に培地を置換し、37℃で2時間培養した後、4℃の4%パラホルムアルデヒド液中に一晩浸漬した。さらに、70%エタノールに置換した後、パラフィンブロックを作製し、5μmの厚さに薄切し、パラフィン標本を作製した。
【0026】
次に、パラフィン標本を脱パラフィンした後、一次抗体に抗BrdU抗体(Abcam社製)、二次抗体にウサギ抗ラットIgGビオチン化抗体(DAKO社製)を用いて、BrdUを染色した。さらに、DAB(DAKO社製)を用いて、核を染色した後、封入した。光学顕微鏡を用いて、幅1cmの間に存在するBrdUが取り込まれた細胞数をカウントし、細胞増殖能を評価した。
【0027】
図1に、BrdU及び核が染色された皮膚組織片を示す。なお、図1(a)、(b)及び(c)は、それぞれ無刺激、P刺激及びR刺激の場合を示す。また、図2及び図3に、BrdUが取り込まれた表皮・基底細胞及び真皮・繊維芽細胞の数を示す。図1及び図2より、押圧刺激により、BrdUが取り込まれた表皮・基底細胞の数が増加していることがわかり、表皮・基底細胞の細胞増殖能、即ち、皮膚のターンオーバーが増大していることがわかる。さらに、P刺激に比べて、R刺激の方が表皮・基底細胞の細胞増殖能を増大させる効果が大きいことがわかる。一方、図3より、押圧刺激が、真皮・繊維芽細胞の細胞増殖能に及ぼす影響は見られなかった。
【0028】
[皮膚のNO産生量の測定1]
10〜13週齢のへアレスマウスの腹腔内に25%Carbomic acid ethyl ester溶液を4ml/kg投与して麻酔した状態で、背部の皮膚を採取し、安楽死させた後、筋層、血管をメスで整形して、1.5cm×15cmの皮膚組織片を得た。
【0029】
皮膚組織片をテフロンメッシュ上に載せた後、培地MCDB153(シグマ社製)が2mL入った培養皿に浮かせて、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、湿度95%)で2時間培養した。次に、10μMのDAF−2(第一化学薬品社製)を添加したBalanced Salt Solution(BSS)に培地を交換し、さらに1時間培養した。なお、BSSは、NaCl(150mM)、KCl(5mM)、CaCl2(1.8mM)、MgCl2(1.2mM)、HEPES(25mM)、NaH2PO4(1.2mM)及びD−グルコース(10mM)からなり、pHは7.4である。
【0030】
このとき、得られた培養液400μLを回収して遠心分離した後、上清を回収し、刺激前の試料とした。
【0031】
さらに、培養した皮膚組織片の角層の上に、ウレタンゴムシートを敷き、その上から、円柱形状のおもり(直径2cm、高さ2cm、53g)を用いて、押圧刺激した。なお、押圧刺激としては、おもりを載せるP刺激又は転がすR刺激(1分間に23.5往復)を、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、湿度95%)内で10分間実施した。このとき、比較のため、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、湿度95%)内で10分間押圧刺激しない場合(無刺激)も実施した。得られた培養液400μLを回収して遠心分離した後、上清を回収し、刺激後の試料とした。
【0032】
得られた刺激前後の試料を室温(23℃)で1時間インキュベートした後、蛍光測定専用96穴プレートに移し、マイクロプレートリーダーを用いて蛍光測定した。
【0033】
次に、刺激前後の試料の蛍光強度を元に、式
(刺激後の試料の蛍光強度−刺激前の試料の蛍光強度)/刺激前の試料の蛍光強度
で表されるNO産生量の増加率を算出した。
【0034】
図4に、へアレスマウスのNO産生量の増加率を示す。図4より、押圧刺激により、へアレスマウスのNO産生量の増加率が増大していることがわかる。さらに、P刺激に比べて、R刺激の方がNO産生量の増加率を増大させる効果が大きいことがわかる。
【0035】
[皮膚のNO産生量の測定2]
へアレスマウスの代わりに、10〜13週齢のwild typeのマウス、nNOS KOマウス、eNOS KOマウス及びiNOS KOマウスを用いた以外は、皮膚のNOの産生量の測定1と同様にして、NO産生量の増加率を算出した。なお、これらのマウスは、背部の皮膚を剃毛して24時間以上経過したものである。
【0036】
図5に、各種のマウスのNO産生量の増加率を示す。なお、図5(a)及び(b)は、それぞれP刺激及びR刺激の場合を示す。図5より、P刺激及びR刺激のいずれにおいても、nNOS KOマウスのNO産生量の増加率が低下していることから、NOは、nNOS由来であることがわかる。
【0037】
[皮膚のNO産生量の測定3]
皮膚組織片の代わりに、1.5cm×15cmに切り出した三次元培養皮膚モデルのテストスキン(東洋紡社製)を用いた以外は、皮膚のNOの産生量の測定1と同様にして、NO産生量の増加率を算出した。
【0038】
図6に、テストスキンのNO産生量の増加率を示す。図6より、押圧刺激により、テストスキンのNO産生量の増加率が増大していることがわかる。さらに、P刺激に比べて、R刺激の方がNO産生量の増加率を増大させる効果が大きいことがわかる。以上のように、血管や神経が存在しないテストスキンにおいても、へアレスマウスと同様の傾向が見られる。
【0039】
[皮膚のNO産生量の測定4]
P刺激及びR刺激時のおもりの重さを53gから17gに変更した以外は、皮膚のNOの産生量の測定1と同様にして、NO産生量の増加率を算出した。
【0040】
図7に、へアレスマウスのNO産生量の増加率を示す。なお、図7(a)及び(b)は、それぞれP刺激及びR刺激の場合を示し、図7には、無刺激の場合と、おもりの重さが17g及び53gである場合を示す。図7より、P刺激及びR刺激のいずれにおいても、おもりの重さが17gである場合に比べて、53gである場合の方がNO産生量の増加率が増大していることがわかる。
【0041】
[皮膚のNO産生量の測定5]
P刺激及びR刺激時の温度を37℃から室温(23℃)又は33℃に変更した以外は、皮膚のNOの産生量の測定1と同様にして、NO産生量の増加率を算出した。
【0042】
図8に、へアレスマウスのNO産生量の増加率を示す。なお、図8(a)及び(b)は、それぞれP刺激及びR刺激の場合を示し、図8には、温度が23℃、33℃及び37℃である場合を示す。図8より、P刺激及びR刺激のいずれにおいても、室温である場合に比べて、33℃又は37℃である場合の方がNO産生量の増加率が増大していることがわかる。
【0043】
[皮膚のNO産生量の測定6]
R刺激時のおもりを転がす速度を1分間に23.5往復から8.5往復又は38.5往復に変更した以外は、皮膚のNOの産生量の測定1と同様にして、NO産生量の増加率を算出した。
【0044】
図9に、へアレスマウスのNO産生量の増加率を示す。なお、図9には、おもりを転がす速度が1分間に8.5往復、23.5往復及び38.5往復である場合を示す。図9より、おもりを転がす速度が8.5往復又は23.5往復である場合に比べて、38.5往復である場合の方がNO産生量の増加率が増大していることがわかる。
【0045】
[皮膚のNO産生量の測定7]
R刺激時に圧点を有するおもりを用いた以外は、皮膚のNOの産生量の測定1と同様にして、NO産生量の増加率を算出した。なお、圧点数が4.5、12.5、30又は81cm−2であるおもりを用いた。
【0046】
図10に、へアレスマウスのNO産生量の増加率を示す。なお、図10には、無刺激と、P刺激と、圧点数が0、4.5、12.5、30及び81cm−2であるおもりを用いたR刺激を示す。図10より、圧点数が多い程、NO産生量の増加率が増大していることがわかる。
【0047】
[リンパ管の拡張の評価]
10〜13週齢のwild typeのマウス又はnNOS KOマウスの腹腔内に25%Carbomic acid ethyl ester溶液を4ml/kg投与して麻酔した状態で、背部の皮膚を採取し、安楽死させた後、筋層、血管をメスで整形して、1.5cm×15cmの皮膚組織片を得た。なお、これらのマウスは、背部の皮膚を剃毛して24時間以上経過したものである。
【0048】
皮膚組織片をテフロンメッシュ上に載せた後、培地MCDB153(シグマ社製)が2mL入った培養皿に浮かせて、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、湿度95%)で3時間培養した。次に、培養した皮膚組織片の角層の上に、ウレタンゴムシートを敷き、その上から、円柱形状のおもり(直径2cm、高さ2cm、53g)を用いて、押圧刺激した。なお、押圧刺激としては、おもりを転がすR刺激(1分間に23.5往復)を、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、湿度95%)内で10分間実施した。
【0049】
次に、押圧刺激された皮膚組織片を、4℃のアセトン中に24時間浸漬した。さらに、70%エタノールに置換した後、パラフィンブロックを作製し、5μmの厚さに薄切し、パラフィン標本を作製した。
【0050】
次に、パラフィン標本を脱パラフィンした後、一次抗体に抗LYVE−1抗体(upstate社製)、二次抗体にHRP Anti−Rabbit(DAKO社製)を用いて、リンパ管を染色した。リンパ管を染色したパラフィン標本の画像を取り込み、画像解析ソフトWinRoof(三谷商事社製)を用いて、リンパ管の断面積を計測し、式
リンパ管の断面積/皮膚の断面積×100
で表されるリンパ管の面積率を算出した。なお、皮膚の断面積は、表皮から深さが300μmまでの間で計測した。
【0051】
図11に、リンパ管が染色されたR刺激後の皮膚組織片を示す。なお、図11(a)及び(b)は、それぞれwild typeのマウス及びnNOS KOマウスの皮膚組織片を示す。また、図12に、皮膚組織片のリンパ管の面積率を示す。なお、図12(a)及び(b)は、それぞれR刺激後及びR刺激前の皮膚組織片のリンパ管の面積率である。
【0052】
図11及び図12より、R刺激によりリンパ管が拡張されるが、nNOS KOマウスは、wild typeのマウスに比べて、リンパ管の拡張が抑制されていることがわかる。このことから、R刺激によるリンパ管の拡張は、nNOS由来のNOに起因しているものと考えられる。
【0053】
[皮膚の血流速度の測定]
10〜13週齢のwild typeのマウス又はnNOS KOマウスの腹腔内に25%Carbomic acid ethyl ester溶液を4ml/kg投与して麻酔した後、血流速度と皮膚温を安定させるために、ヒートパッド上で30分間左測臥位の状態で安静にさせた。なお、これらのマウスは、背部の皮膚を剃毛して24時間以上経過したものである。この状態で、レーザードップラーフローメトリー(ニューロサイエンス社製)を用いて、背部の血流速度を測定した。
【0054】
次に、左測臥位の状態で、円柱形状のおもり(直径2cm、高さ2cm、53g)を用いて、左側の背部の中央部分(2.5cm)を押圧刺激した。なお、押圧刺激としては、おもりを転がすR刺激(1分間に20往復)を30分間実施した。この直後に、背部の血流速度を測定した。
【0055】
さらに、式
(刺激後の血流速度−刺激前の血流速度)/刺激前の血流速度×100
で表される血流量増加率[%]を算出した。図13に、wild typeのマウス及びnNOS KOマウスのR刺激による血流量の増加率を示す。図13より、R刺激により血流量が増加するが、nNOS KOマウスは、wild typeのマウスに比べて、血流量の増加が抑制されていることがわかる。このことから、R刺激による血流量の増加は、nNOS由来のNOによる血管の拡張に起因しているものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】BrdU及び核が染色された皮膚組織片を示す光学顕微鏡写真である。
【図2】BrdUが取り込まれた表皮・基底細胞の数を示す図である。
【図3】BrdUが取り込まれた真皮・繊維芽細胞の数を示す図である。
【図4】へアレスマウスのNO産生量の増加率を示す図である。
【図5】各種のマウスのNO産生量の増加率を示す図である。
【図6】テストスキンのNO産生量の増加率を示す図である。
【図7】へアレスマウスのNO産生量の増加率に対するおもりの重さの影響を示す図である。
【図8】へアレスマウスのNO産生量の増加率に対する温度の影響を示す図である。
【図9】R刺激時のへアレスマウスのNO産生量の増加率に対するおもりを転がす速度の影響を示す図である。
【図10】R刺激時のへアレスマウスのNO産生量の増加率に対するおもりの圧点数の影響を示す図である。
【図11】リンパ管が染色されたR刺激後の皮膚組織片を示す光学顕微鏡写真である。
【図12】皮膚組織片のリンパ管の面積率を示す図である。
【図13】R刺激による血流量の増加率を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マッサージ方法の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マッサージの評価方法として、マッサージ前後の唾液を採取して、唾液中の免疫グロブリンや副腎皮質ホルモンの濃度を測定する方法が知られている(特許文献1、2参照)。
【0003】
また、マッサージの施術の効果を評価する際に、施術前後における目の周囲の体液循環の状態の変化を指標とすることが知られている(特許文献3参照)。また、顔面のシワを予防及び/又は改善させるために体幹部に施術されるマッサージ方法を評価する際に、体幹及び/又は顔面の筋緊張度を施術の前後に計測し、筋緊張度の緩和の度合いを指標とすることが知られている(特許文献4参照)。
【0004】
しかしながら、これらの評価方法は、人にマッサージを施した前後に測定を行う必要があるという問題がある。
【特許文献1】特開平8−15257号公報
【特許文献2】特開平11−23579号公報
【特許文献3】特開2004−129705号公報
【特許文献4】特開2006−334186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来技術が有する問題に鑑み、人にマッサージを施すことなく、マッサージ方法の有効性を評価することが可能なマッサージ方法の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、マッサージ方法の評価方法において、皮膚に圧力を印加する工程と、該圧力が印加された皮膚の細胞増殖能を評価する工程、及び/又は、該圧力が印加された皮膚のNOの産生量を測定する工程を有することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のマッサージ方法の評価方法において、前記NOは、前記皮膚に含まれるnNOSにより合成されたものであることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のマッサージ方法の評価方法において、前記皮膚に押圧刺激する際に、マッサージ料を用いることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマッサージ方法の評価方法において、前記皮膚は、人工皮膚であることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマッサージ方法の評価方法において、前記皮膚は、動物由来の皮膚であることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のマッサージ方法の評価方法において、前記皮膚内のリンパ管の拡張を評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、人にマッサージを施すことなく、マッサージ方法の有効性を評価することが可能なマッサージ方法の評価方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に説明する。
【0014】
本発明のマッサージ方法の評価方法は、皮膚に圧力を印加する工程と、圧力が印加された皮膚の細胞増殖能を評価する工程、及び/又は、圧力が印加された皮膚の一酸化窒素(NO)の産生量を測定する工程を有する。これにより、人にマッサージを施すことなく、マッサージ方法の有効性を評価することができる。
【0015】
なお、皮膚としては、人工皮膚、動物由来の皮膚を用いることができる。
【0016】
皮膚に圧力を印加する方法としては、特に限定されないが、一定の圧力を継続的に印加する方法、一定の圧力を断続的に印加する方法、変動する圧力を継続的に印加する方法、変動する圧力を断続的に印加する方法等が挙げられる。また、圧力を印加する際には、圧力の大きさ、圧力を印加する頻度、圧力を印加する部材の形状及び硬さ、環境の温度、湿度等を、必要に応じて、適宜調整することができる。
【0017】
なお、マッサージ料を評価する際には、圧力を印加する前に、皮膚にマッサージ料を塗布してもよい。これにより、マッサージ料をスクリーニングすることができる。マッサージ料としては、特に限定されないが、化粧水、乳液、クリーム、ジェル等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0018】
圧力が印加された皮膚の細胞増殖能を評価する際には、例えば、[3H]−チミジン、5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)等の標識試薬を添加した培地を用いて、圧力が印加された皮膚を培養した後に標識試薬が取り込まれた細胞数を計測する。これにより、皮膚に圧力を印加する方法、即ち、マッサージ方法が、皮膚の細胞増殖能に及ぼす影響を評価することができる。
【0019】
圧力が印加された皮膚のNOの産生量を測定する際には、例えば、圧力が印加された皮膚に、ジアミノフルオレセイン−2(DAF−2)等のNO蛍光指示薬を添加し、NO蛍光指示薬とNOの反応生成物が発光する蛍光を測定する。なお、DAF−2のアミノ基がNOと反応した生成物を、波長が495nmの光で励起すると、波長が515nmの蛍光を発光する。これにより、皮膚に圧力を印加する方法、即ち、マッサージ方法が、皮膚のNOの産生に及ぼす影響を評価することができる。
【0020】
NOは、血管拡張物質として知られているが、L−アルギニンを基質として、NO合成酵素(NOS)により合成される。NOSは、構成型NOS(cNOS)と誘導型NOS(iNOS)に分類され、cNOSには、神経型NOS(nNOS)、内皮型NOS(eNOS)があるが、本発明においては、皮膚中のnNOSによりNOが合成される。このため、本発明によれば、皮膚に圧力を印加する方法、即ち、マッサージ方法が、皮膚中のnNOSの活性化に及ぼす影響を評価することができる。
【0021】
さらに、皮膚として、動物由来の皮膚を用いる場合は、皮膚に圧力を印加する方法、即ち、マッサージ方法が、NOの産生による皮膚内の血管又はリンパ管の拡張に及ぼす影響を評価することができる。
【0022】
なお、皮膚をマッサージすることにより、皮膚内の末梢血管が拡張されると、末梢血流が促進されるため、末梢血管障害を伴う疾患の予防・改善に役立つ。具体的には、糖尿病患者は、末梢血流が悪化し、細胞が壊死することがあるが、この場合に、皮膚をマッサージすることにより、このような疾患の予防・改善ができる。また、褥瘡(床ずれ)は、同じ部位に長期間圧力が印加されることによる末梢血流の悪化に起因する皮膚の壊死であるが、皮膚をマッサージすることにより、このような疾患を予防できる。
【実施例】
【0023】
[皮膚の細胞増殖能の評価]
10〜13週齢のへアレスマウスの腹腔内に25%Carbomic acid ethyl ester溶液を4ml/kg投与して麻酔した状態で、背部の皮膚を採取し、安楽死させた後、筋層、血管をメスで整形して、1.5cm×15cmの皮膚組織片を得た。
【0024】
皮膚組織片をテフロン(登録商標)メッシュ上に載せた後、培地MCDB153(シグマ社製)が2mL入った培養皿に浮かせて、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、湿度95%)で3時間培養した。次に、皮膚組織片の角層の上に、ウレタンゴムシートを敷き、その上から、円柱形状のおもり(直径2cm、高さ2cm、53g)を用いて押圧刺激した。なお、押圧刺激としては、おもりを載せるP刺激又は転がすR刺激(1分間に23.5往復)を、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、湿度95%)内で10分間実施した。このとき、比較のため、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、湿度95%)内で10分間押圧刺激しない場合(無刺激)も実施した。
【0025】
次に、BrdUを50μM含有するMCDB153に培地を置換し、37℃で2時間培養した後、4℃の4%パラホルムアルデヒド液中に一晩浸漬した。さらに、70%エタノールに置換した後、パラフィンブロックを作製し、5μmの厚さに薄切し、パラフィン標本を作製した。
【0026】
次に、パラフィン標本を脱パラフィンした後、一次抗体に抗BrdU抗体(Abcam社製)、二次抗体にウサギ抗ラットIgGビオチン化抗体(DAKO社製)を用いて、BrdUを染色した。さらに、DAB(DAKO社製)を用いて、核を染色した後、封入した。光学顕微鏡を用いて、幅1cmの間に存在するBrdUが取り込まれた細胞数をカウントし、細胞増殖能を評価した。
【0027】
図1に、BrdU及び核が染色された皮膚組織片を示す。なお、図1(a)、(b)及び(c)は、それぞれ無刺激、P刺激及びR刺激の場合を示す。また、図2及び図3に、BrdUが取り込まれた表皮・基底細胞及び真皮・繊維芽細胞の数を示す。図1及び図2より、押圧刺激により、BrdUが取り込まれた表皮・基底細胞の数が増加していることがわかり、表皮・基底細胞の細胞増殖能、即ち、皮膚のターンオーバーが増大していることがわかる。さらに、P刺激に比べて、R刺激の方が表皮・基底細胞の細胞増殖能を増大させる効果が大きいことがわかる。一方、図3より、押圧刺激が、真皮・繊維芽細胞の細胞増殖能に及ぼす影響は見られなかった。
【0028】
[皮膚のNO産生量の測定1]
10〜13週齢のへアレスマウスの腹腔内に25%Carbomic acid ethyl ester溶液を4ml/kg投与して麻酔した状態で、背部の皮膚を採取し、安楽死させた後、筋層、血管をメスで整形して、1.5cm×15cmの皮膚組織片を得た。
【0029】
皮膚組織片をテフロンメッシュ上に載せた後、培地MCDB153(シグマ社製)が2mL入った培養皿に浮かせて、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、湿度95%)で2時間培養した。次に、10μMのDAF−2(第一化学薬品社製)を添加したBalanced Salt Solution(BSS)に培地を交換し、さらに1時間培養した。なお、BSSは、NaCl(150mM)、KCl(5mM)、CaCl2(1.8mM)、MgCl2(1.2mM)、HEPES(25mM)、NaH2PO4(1.2mM)及びD−グルコース(10mM)からなり、pHは7.4である。
【0030】
このとき、得られた培養液400μLを回収して遠心分離した後、上清を回収し、刺激前の試料とした。
【0031】
さらに、培養した皮膚組織片の角層の上に、ウレタンゴムシートを敷き、その上から、円柱形状のおもり(直径2cm、高さ2cm、53g)を用いて、押圧刺激した。なお、押圧刺激としては、おもりを載せるP刺激又は転がすR刺激(1分間に23.5往復)を、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、湿度95%)内で10分間実施した。このとき、比較のため、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、湿度95%)内で10分間押圧刺激しない場合(無刺激)も実施した。得られた培養液400μLを回収して遠心分離した後、上清を回収し、刺激後の試料とした。
【0032】
得られた刺激前後の試料を室温(23℃)で1時間インキュベートした後、蛍光測定専用96穴プレートに移し、マイクロプレートリーダーを用いて蛍光測定した。
【0033】
次に、刺激前後の試料の蛍光強度を元に、式
(刺激後の試料の蛍光強度−刺激前の試料の蛍光強度)/刺激前の試料の蛍光強度
で表されるNO産生量の増加率を算出した。
【0034】
図4に、へアレスマウスのNO産生量の増加率を示す。図4より、押圧刺激により、へアレスマウスのNO産生量の増加率が増大していることがわかる。さらに、P刺激に比べて、R刺激の方がNO産生量の増加率を増大させる効果が大きいことがわかる。
【0035】
[皮膚のNO産生量の測定2]
へアレスマウスの代わりに、10〜13週齢のwild typeのマウス、nNOS KOマウス、eNOS KOマウス及びiNOS KOマウスを用いた以外は、皮膚のNOの産生量の測定1と同様にして、NO産生量の増加率を算出した。なお、これらのマウスは、背部の皮膚を剃毛して24時間以上経過したものである。
【0036】
図5に、各種のマウスのNO産生量の増加率を示す。なお、図5(a)及び(b)は、それぞれP刺激及びR刺激の場合を示す。図5より、P刺激及びR刺激のいずれにおいても、nNOS KOマウスのNO産生量の増加率が低下していることから、NOは、nNOS由来であることがわかる。
【0037】
[皮膚のNO産生量の測定3]
皮膚組織片の代わりに、1.5cm×15cmに切り出した三次元培養皮膚モデルのテストスキン(東洋紡社製)を用いた以外は、皮膚のNOの産生量の測定1と同様にして、NO産生量の増加率を算出した。
【0038】
図6に、テストスキンのNO産生量の増加率を示す。図6より、押圧刺激により、テストスキンのNO産生量の増加率が増大していることがわかる。さらに、P刺激に比べて、R刺激の方がNO産生量の増加率を増大させる効果が大きいことがわかる。以上のように、血管や神経が存在しないテストスキンにおいても、へアレスマウスと同様の傾向が見られる。
【0039】
[皮膚のNO産生量の測定4]
P刺激及びR刺激時のおもりの重さを53gから17gに変更した以外は、皮膚のNOの産生量の測定1と同様にして、NO産生量の増加率を算出した。
【0040】
図7に、へアレスマウスのNO産生量の増加率を示す。なお、図7(a)及び(b)は、それぞれP刺激及びR刺激の場合を示し、図7には、無刺激の場合と、おもりの重さが17g及び53gである場合を示す。図7より、P刺激及びR刺激のいずれにおいても、おもりの重さが17gである場合に比べて、53gである場合の方がNO産生量の増加率が増大していることがわかる。
【0041】
[皮膚のNO産生量の測定5]
P刺激及びR刺激時の温度を37℃から室温(23℃)又は33℃に変更した以外は、皮膚のNOの産生量の測定1と同様にして、NO産生量の増加率を算出した。
【0042】
図8に、へアレスマウスのNO産生量の増加率を示す。なお、図8(a)及び(b)は、それぞれP刺激及びR刺激の場合を示し、図8には、温度が23℃、33℃及び37℃である場合を示す。図8より、P刺激及びR刺激のいずれにおいても、室温である場合に比べて、33℃又は37℃である場合の方がNO産生量の増加率が増大していることがわかる。
【0043】
[皮膚のNO産生量の測定6]
R刺激時のおもりを転がす速度を1分間に23.5往復から8.5往復又は38.5往復に変更した以外は、皮膚のNOの産生量の測定1と同様にして、NO産生量の増加率を算出した。
【0044】
図9に、へアレスマウスのNO産生量の増加率を示す。なお、図9には、おもりを転がす速度が1分間に8.5往復、23.5往復及び38.5往復である場合を示す。図9より、おもりを転がす速度が8.5往復又は23.5往復である場合に比べて、38.5往復である場合の方がNO産生量の増加率が増大していることがわかる。
【0045】
[皮膚のNO産生量の測定7]
R刺激時に圧点を有するおもりを用いた以外は、皮膚のNOの産生量の測定1と同様にして、NO産生量の増加率を算出した。なお、圧点数が4.5、12.5、30又は81cm−2であるおもりを用いた。
【0046】
図10に、へアレスマウスのNO産生量の増加率を示す。なお、図10には、無刺激と、P刺激と、圧点数が0、4.5、12.5、30及び81cm−2であるおもりを用いたR刺激を示す。図10より、圧点数が多い程、NO産生量の増加率が増大していることがわかる。
【0047】
[リンパ管の拡張の評価]
10〜13週齢のwild typeのマウス又はnNOS KOマウスの腹腔内に25%Carbomic acid ethyl ester溶液を4ml/kg投与して麻酔した状態で、背部の皮膚を採取し、安楽死させた後、筋層、血管をメスで整形して、1.5cm×15cmの皮膚組織片を得た。なお、これらのマウスは、背部の皮膚を剃毛して24時間以上経過したものである。
【0048】
皮膚組織片をテフロンメッシュ上に載せた後、培地MCDB153(シグマ社製)が2mL入った培養皿に浮かせて、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、湿度95%)で3時間培養した。次に、培養した皮膚組織片の角層の上に、ウレタンゴムシートを敷き、その上から、円柱形状のおもり(直径2cm、高さ2cm、53g)を用いて、押圧刺激した。なお、押圧刺激としては、おもりを転がすR刺激(1分間に23.5往復)を、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、湿度95%)内で10分間実施した。
【0049】
次に、押圧刺激された皮膚組織片を、4℃のアセトン中に24時間浸漬した。さらに、70%エタノールに置換した後、パラフィンブロックを作製し、5μmの厚さに薄切し、パラフィン標本を作製した。
【0050】
次に、パラフィン標本を脱パラフィンした後、一次抗体に抗LYVE−1抗体(upstate社製)、二次抗体にHRP Anti−Rabbit(DAKO社製)を用いて、リンパ管を染色した。リンパ管を染色したパラフィン標本の画像を取り込み、画像解析ソフトWinRoof(三谷商事社製)を用いて、リンパ管の断面積を計測し、式
リンパ管の断面積/皮膚の断面積×100
で表されるリンパ管の面積率を算出した。なお、皮膚の断面積は、表皮から深さが300μmまでの間で計測した。
【0051】
図11に、リンパ管が染色されたR刺激後の皮膚組織片を示す。なお、図11(a)及び(b)は、それぞれwild typeのマウス及びnNOS KOマウスの皮膚組織片を示す。また、図12に、皮膚組織片のリンパ管の面積率を示す。なお、図12(a)及び(b)は、それぞれR刺激後及びR刺激前の皮膚組織片のリンパ管の面積率である。
【0052】
図11及び図12より、R刺激によりリンパ管が拡張されるが、nNOS KOマウスは、wild typeのマウスに比べて、リンパ管の拡張が抑制されていることがわかる。このことから、R刺激によるリンパ管の拡張は、nNOS由来のNOに起因しているものと考えられる。
【0053】
[皮膚の血流速度の測定]
10〜13週齢のwild typeのマウス又はnNOS KOマウスの腹腔内に25%Carbomic acid ethyl ester溶液を4ml/kg投与して麻酔した後、血流速度と皮膚温を安定させるために、ヒートパッド上で30分間左測臥位の状態で安静にさせた。なお、これらのマウスは、背部の皮膚を剃毛して24時間以上経過したものである。この状態で、レーザードップラーフローメトリー(ニューロサイエンス社製)を用いて、背部の血流速度を測定した。
【0054】
次に、左測臥位の状態で、円柱形状のおもり(直径2cm、高さ2cm、53g)を用いて、左側の背部の中央部分(2.5cm)を押圧刺激した。なお、押圧刺激としては、おもりを転がすR刺激(1分間に20往復)を30分間実施した。この直後に、背部の血流速度を測定した。
【0055】
さらに、式
(刺激後の血流速度−刺激前の血流速度)/刺激前の血流速度×100
で表される血流量増加率[%]を算出した。図13に、wild typeのマウス及びnNOS KOマウスのR刺激による血流量の増加率を示す。図13より、R刺激により血流量が増加するが、nNOS KOマウスは、wild typeのマウスに比べて、血流量の増加が抑制されていることがわかる。このことから、R刺激による血流量の増加は、nNOS由来のNOによる血管の拡張に起因しているものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】BrdU及び核が染色された皮膚組織片を示す光学顕微鏡写真である。
【図2】BrdUが取り込まれた表皮・基底細胞の数を示す図である。
【図3】BrdUが取り込まれた真皮・繊維芽細胞の数を示す図である。
【図4】へアレスマウスのNO産生量の増加率を示す図である。
【図5】各種のマウスのNO産生量の増加率を示す図である。
【図6】テストスキンのNO産生量の増加率を示す図である。
【図7】へアレスマウスのNO産生量の増加率に対するおもりの重さの影響を示す図である。
【図8】へアレスマウスのNO産生量の増加率に対する温度の影響を示す図である。
【図9】R刺激時のへアレスマウスのNO産生量の増加率に対するおもりを転がす速度の影響を示す図である。
【図10】R刺激時のへアレスマウスのNO産生量の増加率に対するおもりの圧点数の影響を示す図である。
【図11】リンパ管が染色されたR刺激後の皮膚組織片を示す光学顕微鏡写真である。
【図12】皮膚組織片のリンパ管の面積率を示す図である。
【図13】R刺激による血流量の増加率を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に圧力を印加する工程と、
該圧力が印加された皮膚の細胞増殖能を評価する工程、及び/又は、該圧力が印加された皮膚のNOの産生量を測定する工程を有することを特徴とするマッサージ方法の評価方法。
【請求項2】
前記NOは、前記皮膚に含まれるnNOSにより合成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のマッサージ方法の評価方法。
【請求項3】
前記皮膚に圧力を印加する際に、マッサージ料を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のマッサージ方法の評価方法。
【請求項4】
前記皮膚は、人工皮膚であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマッサージ方法の評価方法。
【請求項5】
前記皮膚は、動物由来の皮膚であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマッサージ方法の評価方法。
【請求項6】
前記皮膚内の血管又はリンパ管の拡張を評価することを特徴とする請求項5に記載のマッサージ方法の評価方法。
【請求項1】
皮膚に圧力を印加する工程と、
該圧力が印加された皮膚の細胞増殖能を評価する工程、及び/又は、該圧力が印加された皮膚のNOの産生量を測定する工程を有することを特徴とするマッサージ方法の評価方法。
【請求項2】
前記NOは、前記皮膚に含まれるnNOSにより合成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のマッサージ方法の評価方法。
【請求項3】
前記皮膚に圧力を印加する際に、マッサージ料を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のマッサージ方法の評価方法。
【請求項4】
前記皮膚は、人工皮膚であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマッサージ方法の評価方法。
【請求項5】
前記皮膚は、動物由来の皮膚であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマッサージ方法の評価方法。
【請求項6】
前記皮膚内の血管又はリンパ管の拡張を評価することを特徴とする請求項5に記載のマッサージ方法の評価方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図1】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図1】
【図11】
【公開番号】特開2009−204452(P2009−204452A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47092(P2008−47092)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】
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