説明

マツタケの人工栽培用培地及びマツタケの人工栽培方法

【課題】マツタケの子実体を良好に形成させる、マツタケの人工栽培用培地及びマツタケの人工栽培方法を提供する。
【解決手段】本発明のマツタケの人工栽培用培地は、大麦、小麦、ライ麦及び米糠を含む有効成分と、水とを含有することを特徴とする。また、本発明のマツタケの人工栽培方法は、上記のマツタケの人工栽培用培地を用いるマツタケの人工栽培方法であって、人工栽培用培地にマツタケの菌糸を接種した菌糸含有培地を30℃以下の温度で培養する栽培培養工程を備え、上記栽培培養工程において、上記菌糸含有培地の表面を、人工栽培用培地より高いpHの、湿った被覆用材料(ピートモス)で覆うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マツタケの人工栽培用培地及びマツタケの人工栽培方法に関する。更に詳しくは、マツタケの子実体を良好に形成させることができるマツタケの人工栽培用培地及びマツタケの人工栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キノコ類の人工栽培は、古くから研究されており、シイタケ、ナメコ、ヒラタケ及びエノキタケ等の木材腐朽性キノコ類の人工栽培については、既に実用化されている。
また、菌根性キノコ類のマツタケは、生木の根の養分を吸収して成長するため、人工栽培が困難であり、実用化には至っていないが、様々な取り組みが試みられている。
【0003】
例えば、マツタケの人工栽培方法としては、下記特許文献1に、培地に松茸菌を接種し室内温度を15℃〜25℃に保持して培地が白色の菌糸で覆われるまで培養し、培地の色が黄色から薄褐色となり皮膜が形成された時点で、該皮膜と培地全体の表面の所要厚さの部分とを取り除いて中心部を取り出して松茸の元菌となすことを特徴とする松茸の種菌培養方法が開示されている。
また、マツタケの人工栽培に用いる人工栽培用培地としては、下記特許文献2に、皮を剥いた馬鈴薯を水と共に煮沸、冷却したものをガーゼで包み、強制的な濾し方によってより多くの澱粉粒子を混入するようにして濃度を高め、乾物重量比2ないし5%となるようにした煮汁に対し,グルコースなどマツタケ菌糸の成長を促す有効成分の夫々を適量加えた上、pH5ないし6に調製したもの(以下、「調製煮汁」という。)とし、それらが、ビスコースやマツタケ山の土壌を成形加工した多孔質素材等吸着材に吸収、付着させられたものに、松の生葉と同生実、天然石灰石を夫々適量混入してなるものとし、それらの適量を透明栽培袋に装填、殺菌してなる基本培地と、前記調製煮汁に、フルクトースその他マツタケ菌糸から同子実体への成長を促す有効成分の夫々を適量加えた上、pH5ないし6に調製、殺菌してなる追加液体培地とからなるものとしたことを特徴とするマツタケ子実体の人工栽培用培地が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−252648号公報
【特許文献2】2007−129904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1及び2に記載されているマツタケの人工栽培用培地及びマツタケの人工栽培方法は、マツタケの子実体を形成させる方法として、いまだ十分満足できるものではない。
本発明の目的は、マツタケの子実体を良好に形成させるマツタケの人工栽培用培地及びマツタケの人工栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示す通りである。
1.大麦、小麦、ライ麦及び米糠を含む有効成分と、水と、を含有することを特徴とするマツタケの人工栽培用培地。
2.上記大麦、上記ライ麦及び上記米糠の含有量が、上記小麦1質量部に対して、それぞれ1〜100質量部、1〜100質量部及び0.1〜10質量部である上記1.に記載のマツタケの人工栽培用培地。
3.上記有効成分の含有量が、上記人工栽培用培地の全体積1Lに対して、50〜1000gである上記1.又は2.に記載のマツタケの人工栽培用培地。
4.クエン酸化合物及び糖類を更に含有する上記1.乃至3.のいずれか1項に記載のマツタケの人工栽培用培地。
5.上記人工栽培用培地のpHが、3〜8である上記1.乃至4.のいずれか1項に記載のマツタケの人工栽培用培地。
6.上記1.乃至5.のいずれか1項に記載のマツタケの人工栽培用培地を用いるマツタケの人工栽培方法であって、
上記人工栽培用培地にマツタケの菌糸を接種した菌糸含有培地を30℃以下の温度で培養する栽培培養工程を備え、
上記栽培培養工程において、上記菌糸含有培地の表面を、被覆用材料で覆うことを特徴とするマツタケの人工栽培方法。
7.上記被覆用材料のpHが、上記人工栽培用培地のpHより高いpHである上記6.に記載のマツタケの人工栽培方法。
8.上記被覆用材料が、ピートモスである上記6.又は7.に記載のマツタケの人工栽培方法。
9.上記栽培培養工程において、18℃〜25℃の温度(a)で行う培養と、
15℃〜22℃の温度(b)で行う培養と、を備え、
上記温度(a)が、上記温度(b)より高い温度であり、
上記温度(a)及び上記温度(b)の差が1℃以上である上記6.乃至8.のいずれか1項に記載のマツタケの人工栽培方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のマツタケの人工栽培用培地によれば、有効成分として、大麦、小麦、ライ麦及び米糠を含有するので、マツタケの菌糸を良好に生育させることができ、マツタケの子実体形成に有用なマツタケの人工栽培用培地とすることができる。
また、本発明のマツタケの人工栽培方法によれば、大麦、小麦、ライ麦及び米糠を含有するマツタケの人工栽培用培地を用いて、マツタケの菌糸を接種した人工栽培用培地(菌糸含有培地)を30℃以下の温度で培養する栽培培養工程を備え、その栽培培養工程において、人工栽培用培地を被覆用材料で覆うことにより、マツタケの菌糸を良好に生育させ、且つ、マツタケの子実体を良好に形成させる実用的なマツタケの人工栽培方法とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔1〕マツタケの人工栽培用培地
本発明のマツタケ(松茸)の人工栽培用培地(以下、単に「培地」ともいう)は、大麦、小麦、ライ麦及び米糠を含む有効成分と、水と、を含有することを特徴とする。
【0009】
上記培地は、マツタケの人工栽培の有効成分として、少なくとも、大麦、小麦、ライ麦及び米糠を含有するものである。
上記の大麦、小麦及びライ麦は、好ましくは精麦したものであり、より好ましくは粉砕した粉砕物であり、更に好ましくは粉末状の粉体である。
また、米糠としては、玄米を精米する工程で得られる赤糠、中糠及び白糠等が挙げられ、無洗米の製造時に出る肌糠等も使用できる。これらは、1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0010】
上記大麦の含有量は、上記小麦1質量部に対して、好ましくは1〜100質量部、より好ましくは5〜50質量部、更に好ましくは8〜30質量部である。
上記ライ麦の含有量は、上記小麦1質量部に対して、好ましくは1〜100質量部、より好ましくは2〜50質量部、更に好ましくは5〜30質量部である。
上記米糠の含有量は、上記小麦1質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部であり、より好ましくは0.5〜5質量部であり、更に好ましくは0.5〜2質量部である。
大麦、小麦、ライ麦及び米糠の含有量が上記範囲であると、マツタケの菌糸を良好に生育させることができ、マツタケの子実体形成に有用なマツタケの人工栽培用培地とすることができる。
【0011】
上記大麦の有効成分全体における含有量としては、有効成分の全量を100質量%としたときに、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは25〜70質量%、更に好ましくは30〜60質量%である。
また、上記大麦の培地全体における含有量としては、培地の体積の全量を1Lとしたときに、好ましくは10〜1000gであり、より好ましくは30〜900gであり、更に好ましくは80〜700gである。
【0012】
上記ライ麦の有効成分全体における含有量としては、有効成分の全量を100質量%としたときに、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜80質量%、更に好ましくは30〜65質量%である。
また、上記ライ麦の培地全体における含有量としては、培地の体積の全量を1Lとしたとき、好ましくは10〜1200gであり、より好ましくは30〜1000gであり、更に好ましくは500〜900gである。
【0013】
上記小麦の有効成分全体における含有量としては、有効成分の全量を100質量%としたときに、好ましくは0.5〜50質量%、より好ましくは1〜10質量%、更に好ましくは2〜5質量%である。
また、上記小麦の培地全体における含有量としては、培地の体積の全量を1Lとしたときに、好ましくは1〜100gであり、より好ましくは5〜50gであり、更に好ましくは8〜30gである。
【0014】
上記米糠の有効成分全体における含有量としては、有効成分の全量を100質量%としたときに、好ましくは0.5〜50質量%、より好ましくは1〜10質量%、更に好ましくは2〜5質量%である。
また、上記米糠の培地全体における含有量としては、培地の体積の全量を1Lとしたときに、好ましくは1〜100gであり、より好ましくは5〜50gであり、更に好ましくは8〜30gである。
【0015】
上記各種の有効成分の含有量が、それぞれ上記範囲内であるとマツタケの菌糸が良好に生育することができ、子実体を良好に形成することができる。
【0016】
上記有効成分全量の培地全体における含有量は、培地の体積の全量を1Lとしたときに、好ましくは50〜1000gであり、より好ましくは100〜800gであり、更に好ましくは250〜700gである。
【0017】
上記培地は、上記有効成分以外に、水を含有する。上記水としては、精製水、蒸留水及び水道水を特に限定されることなく使用することができる。
上記水の含有量としては、特に限定されないが、培地全量を100質量%としたときに、通常30質量%以上であり、含水量を30〜95質量%に調整するのが好ましく、40〜85質量%に調整するのがより好ましい。
具体的には、水の含有量としては、培地が上記有効成分を50g以上含む場合に、培地全量が1Lとなる量にすることができる。
また、培地が、上記有効成分を50g以上含み、更に、後述のその他添加剤を含む場合であっても、水の含有量としては、培地全量が1Lとなる量にすることができる。
【0018】
また、上記培地には、上記有効成分及び水以外に、クエン酸化合物及び糖類を含有することが好ましい。
本発明においては、クエン酸化合物及び糖類が培地に含有されている場合、マツタケの菌糸が良好に生育することができ、子実体を良好に形成することができる。
【0019】
上記クエン酸化合物としては、具体的には、クエン酸及びクエン酸塩が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。クエン酸塩としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸銅(II)及びクエン酸鉄アンモニウム等が挙げられる。これらのうち、菌糸の成長に優れるクエン酸が好ましい。
【0020】
また、上記クエン酸化合物の含有量は、上記小麦1質量部に対して、好ましくは0.005〜0.5質量部であり、より好ましくは0.01〜0.1質量部であり、更に好ましくは0.03〜0.08質量部である。
上記クエン酸化合物の培地全体における含有量としては、培地の体積の全量を1Lとしたときに、好ましくは0.01〜50gであり、より好ましくは0.1〜30gであり、更に好ましくは0.5〜5gである。
【0021】
上記糖類としては、フラクトース及びスクロース等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
上記糖類の含有量は、上記小麦1質量部に対して、好ましくは0.1〜50質量部であり、より好ましくは0.5〜10質量部であり、更に好ましくは1〜5質量部である。
また、上記糖類の培地全体における含有量としては、培地の体積の全量を1Lとしたときに、好ましくは1〜300gであり、より好ましくは5〜100gであり、更に好ましくは10〜50gである。
上記クエン酸化合物及び糖類の含有量が、それぞれ上記範囲内であるとマツタケの菌糸が良好に生育することができ、子実体を良好に形成することができる。
【0022】
また、上記培地には、上記有効成分、水、クエン酸化合物及び糖類以外に、その他の添加剤を含有することができる。その他の添加剤としては、ビタミン類、無機成分、アミノ酸類、活性炭、ゲル化剤、その他の植物成分及びアミン化合物等が挙げられる。
本発明においては、上記その他添加剤のうち、ビタミン類、無機成分、アミノ酸類及び活性炭等が含有されていることが好ましい。これらのその他添加剤が培地に含有されている場合、マツタケの菌糸が良好に生育することができ、子実体を良好に形成することができる。
【0023】
上記ビタミン類としては、ビタミンB1、ビタミンB6、ビタミンB12、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、イノシトール、ミオイノシトール及びビタミンK等が挙げられる。これらのビタミン類は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのうち、本発明の培地では、ビタミンB1、ビタミンB6、ニコチン酸アミド、及びミオイノシトールを含有することが好ましい。
上記ビタミン類の全量の含有量としては、具体的には、培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは10〜1000mgであり、より好ましくは50〜500mgである。
【0024】
また、本発明の培地が、ビタミンB1、ビタミンB6、ニコチン酸アミド及びミオイノシトールを含有する場合、ビタミンB1の含有量としては、培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは0.01〜1mgであり、より好ましくは0.05〜0.5mgである。
また、ビタミンB6の含有量としては、培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは0.05〜5mgであり、より好ましくは0.1〜1mgである。
また、ニコチン酸アミドの含有量としては、培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは0.05〜5mgであり、より好ましくは0.1〜1mgである。
また、ミオイノシトールの含有量としては、培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは10〜1000mgであり、より好ましくは50〜500mgである。
【0025】
上記無機成分としては、硫酸マグネシウム(硫酸マグネシウム7水和物)、リン酸二水素カリウム、塩化カルシウム(塩化カルシウム2水和物)、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、硫酸鉄(硫酸鉄7水和物)、硫酸マンガン(硫酸マンガン4水和物)、硫酸亜鉛(硫酸亜鉛7水和物、硫酸亜鉛4水和物)、硫酸銅(硫酸銅5水和物)、塩化コバルト(塩化コバルト6水和物)、ヨウ化カリウム、モリブデン酸ナトリウム(モリブデン酸ナトリウム2水和物)等が挙げられる。これらの無機成分は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのうち、本発明の培地では、硫酸マグネシウム7水和物及びリン酸二水素カリウムを含有することが好ましい。
上記無機成分の全量の含有量としては、キノコ類等の培養培地に使用される量を使用することができる。具体的には、培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは0.05〜5gであり、より好ましくは0.2〜1.5gである。
【0026】
また、本発明の培地が、硫酸マグネシウム7水和物及びリン酸二水素カリウムを含有する場合、硫酸マグネシウム7水和物の含有量としては、培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは0.03〜3gであり、より好ましくは0.1〜1gである。
また、リン酸二水素カリウムの含有量としては、培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは0.01〜1.5gであり、より好ましくは0.05〜0.5gである。
【0027】
上記アミノ酸類としては、グリシン、グルタミン及びグルタミン酸等が挙げられる。これらのアミノ酸類は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのうち、本発明の培地では、グリシンを含有することが好ましい。
上記アミノ酸類の全量の含有量としては、培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは0.02〜10mgであり、より好ましくは0.5〜5mgである。
【0028】
上記活性炭としては、通常の培養培地に用いられる活性炭を適宜用いることができる。
上記活性炭の含有量としては、培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは0.05〜50gであり、より好ましくは0.1〜5gである。
【0029】
上記ゲル化剤としては、通常の培養培地に用いられる、液体をゲル化して固化させる化合物を用いることができる。本発明においては、大麦等の有効成分を含有し、この有効成分により培地をゲル化することができるが、有効成分の含有量が培地をゲル化させる量としては、少ない場合、ゲル化剤を用いることができる。
ゲル化剤を用いる場合、例えば、和光純薬工業株式会社製の「ゲルライト(登録商標)」や寒天(アガロース)等を用いることができる。これらのゲル化剤は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
上記ゲル化剤の含有量としては、培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは0.5〜30gであり、より好ましくは1〜10gである。
【0030】
また、その他の植物成分としては、木粉(おがくず)、ふすま、稲藁及び麦藁等が挙げられる。
また、アミン化合物としては、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0031】
本発明の培地のpHは、マツタケの菌糸が生育できる範囲であれば特に限定されないが、好ましくは培地のpHは3〜8であり、より好ましくは4〜6であり、更に好ましくは4.5〜5.5である。培地のpHが上記範囲内であるとマツタケの菌糸が良好に生育することができる。尚、培地のpHの調整には、水酸化ナトリウム及び塩酸を適宜使用することができる。
また、本発明の培地は、通常のキノコ類の培養培地と同様に、オートクレーブ等により常圧又は高圧加熱して減菌して使用するのが好ましい。
【0032】
本発明の培地の製造方法は、特に限定されず、公知の培養培地の製造方法により製造することができる。具体的には、それぞれの有効成分、必要に応じて添加されるクエン酸化合物、糖類並びにその他の添加剤、及び水を混合し、更に、水を添加して所定量までメスアップする。そして、必要に応じて、水酸化ナトリウム及び塩酸等によりpHを調整した後、培養容器に分注し、オートクレーブ等に供し、滅菌及びゲル化することができる。
【0033】
〔2〕マツタケの人工栽培方法
本発明のマツタケの人工栽培方法は、上記のマツタケの人工栽培用培地を用いるマツタケの人工栽培方法であって、上記人工栽培用培地(以下、単に「培地」ともいう)にマツタケの菌糸を接種した菌糸含有培地を30℃以下の温度で培養する栽培培養工程を備え、上記栽培培養工程において、上記菌糸含有培地の表面を、被覆用材料で覆うことを特徴とする。
【0034】
上記栽培培養工程は、マツタケの菌糸を接種した上記のマツタケの人工栽培用培地(菌糸含有培地)を30℃以下の温度(培養温度)で培養する工程である。そして、この栽培培養工程により、マツタケの菌糸を生育させて、更に、マツタケの子実体を形成させる。
【0035】
本発明において、上記培地へのマツタケ菌糸の接種は、上記培養温度範囲に設定された無菌室で行うことが好ましい。
また、上記人工栽培用培地に接種されるマツタケ菌糸としては、公知の方法により、マツタケの胞子及び組織等から、キノコ類の菌糸培養に用いられる通常の寒天培地等の培養培地により増殖されたマツタケ菌糸を用いることができる。尚、マツタケ菌糸の調製方法における具体例については後述する。
【0036】
人工栽培用培地へのマツタケ菌糸の接種は、特に限定されないが、マツタケ菌糸を増殖させた培養培地を含んだ状態の菌糸を人工栽培用培地に載せることにより行ってもよいし、人工栽培用培地に傷をつけて穴を開けてその穴に植えてもよい。
【0037】
栽培培養工程での培養温度は、30℃以下であり、好ましくは5℃〜28℃であり、より好ましくは10℃〜25℃である。培養温度が上記範囲内であると、マツタケの菌糸が良好に生育し、効率良く子実体を形成することができる。
また、上記栽培培養工程では、全期間において一定の温度で行ってもよいが、18℃〜25℃の温度(a)で行う培養と、上記温度(a)より低い温度である15℃〜22℃の温度(b)で行う培養と、を備える複数の培養温度によることが好ましい。
また、上記温度(a)は、上記温度(b)より高い温度であり、この温度(a)及び温度(b)の差は、好ましくは1℃以上であり、より好ましくは2℃〜8℃であり、更に好ましくは2℃〜5℃である。
【0038】
上記栽培培養工程において、上記温度(a)で行う培養と、上記温度(b)で行う培養とを備える場合、栽培培養工程としては、以下の態様が挙げられる。
(1)栽培培養工程を2段階(2つの期間)に分けて、培養開始から一定期間行う培養を第一培養とし、その第一培養の終了から子実体形成までを第二培養とする。そして、第一培養を上記温度(a)により行い、次に、第二培養を上記温度(b)により行う。
(2)栽培培養工程において、上記温度(a)での培養と、上記温度(b)での培養と、を交互に備える培養とする。この場合、温度(a)での培養と温度(b)での培養の順序は限定されない。
(3)栽培培養工程において、上記(1)の態様における第二培養を、上記(2)の態様で培養を行う。
【0039】
上記(1)の態様としては、栽培培養工程において、上記温度(a)による第一段の培養を行った後に、上記第一段の培養温度より、1℃以上低い温度の上記温度(b)で第二段の培養を行うことによる栽培培養工程が挙げられる。この場合、相対的に高い温度である温度(a)による第一段の培養により、マツタケの菌糸の成長に優れ、次に、相対的に低い温度である温度(b)による第二段の培養により、菌糸から子実体の形成が促され、子実体形成に優れる人工栽培方法とすることができる。更に、上記温度(a)による第一段の培養と、上記温度(b)による第二段の培養を行う場合、上記温度(b)は、20℃以下(好ましくは19℃以下、より好ましくは18℃以下)が、子実体形成に優れることから好ましい。
また、上記の二段階の培養温度による栽培培養工程の場合、上記第一段及び上記第二段の培養期間は、特に限定されないが、後述の被覆用材料で菌糸含有培地を覆う前までを、上記第一段の培養とし、被覆用材料で菌糸含有培地を覆った後を、上記第二段の培養とするのが好ましい。
栽培培養工程が、上記(1)の態様による培養であると、マツタケの菌糸の成長及び子実体の形成がより優れるマツタケの人工栽培方法とすることができる。
【0040】
上記(2)の態様としては、上記温度(a)での培養と、上記温度(b)での培養と、を交互に備え、一定時間内に複数の温度を交互に設定して、培養を行う栽培培養工程が挙げられる。
具体的には、上記温度(a)による培養が、48時間あたり1時間以上継続して行われることが好ましい。また、24時間あたり、23時間未満1時間以上継続行うことがより好ましく、21時間未満3時間以上継続して行うことが更に好ましい。
上記(2)の態様としては、例えば、約22℃の温度(a)による培養を8時間継続した後、約18℃の温度(b)による培養を16時間継続し、再び、約22℃の温度(a)による培養を8時間継続した後、約18℃の温度(b)による培養を16時間継続することができる。これにより、温度(a)及び温度(b)による培養を交互に繰り返しながら行う栽培培養工程とすることができる。
栽培培養工程が、上記(2)の態様による培養であると、より効率的にマツタケの子実体を形成することができる。
【0041】
上記(3)の態様としては、上記(1)の態様における第二段について、温度(b)による培養に代えて、上記(2)の態様による栽培培養工程が挙げられる。
栽培培養工程が、上記(3)の態様による培養であると、マツタケの菌糸の成長及び子実体の形成がより優れるマツタケの人工栽培方法とすることができる。
【0042】
本発明における栽培培養工程では、上記のマツタケの人工栽培用培地が用いられるが、上記培地において、栽培培養の開始から子実体を形成させるまで、同じ培地により継続して、栽培培養をおこなってもよいが、別途調製した新たな培地に適宜移植を行って、菌糸の成長及び子実体の形成をさせてもよい。
新たな培地の移植としては、具体的には、15日〜6ヶ月経過毎に行うのが好ましく、1〜3ヶ月経過毎に行うのがより好ましい。菌糸の成長及び子実体の形成において、新たな培地に移植(植え替える)することにより、マツタケの菌糸に有効成分(栄養成分)を効果的に提供することができる。
また、上記移植の方法は、特に限定されず、公知のキノコ類の通常の培養における移植の方法と同様に行うことができる。例えば、移植前の培地を含んだ状態の培養された菌糸を、新たな培地に載せることにより行ってもよいし、新たな培地に傷をつけて穴を開けてその穴に菌糸(培地を含んだ菌糸)植えてもよい。
【0043】
また、上記栽培培養工程で使用される上記培地の有効成分の含有量は、上述のとおりであるが、マツタケの菌糸を培養し、生育させていく過程で、培地の有効成分の含有量を順次増加させることができる。
培地の有効成分の含有量を順次増加させて培養を行う場合には、上記の移植において、これまで培養された菌糸(菌糸体)を、有効成分の含有量を増加させた培地に移植することにより行うことができる。
また、培地の有効成分の含有量を順次増加させる場合、その有効成分の増加量は、移植する前の培地の有効成分の全量を100質量%としたときに、1〜30質量%が好ましく、3〜25質量%がより好ましい。
【0044】
また、栽培培養工程においては、培地が乾いた場合や、培地及び菌糸に水分や栄養分を補給する場合等のため、菌糸含有培地の上部に適宜、水又は水溶液(以下、「補充液」という)を添加することができる。この補充液としては、水又は糖類含有水溶液が挙げられる。上記糖類含有水溶液の糖類としては、フラクトース及びスクロース等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
上記糖類含有水溶液に含まれる糖類の含有量としては、全量を100質量%としたときに、好ましくは1〜50質量%であり、より好ましくは10〜30質量%である。
補充液の添加量は、特に限定されないが、1回当たり培地100mLに対して、5〜30mL程度である。
補充液を添加する場合の添加回数は、栽培培養工程を通して、1〜5回程度であり、培地の乾燥状況に応じて適宜選択できる。
【0045】
本発明の栽培培養工程では、菌子含有培地の表面を、被覆用材料で覆う(被せる)工程を備える。
この被覆用材料で覆う工程では、菌糸含有培地の表面を被覆用材料で覆うことにより、マツタケの菌糸(菌糸体)からの子実体形成を誘導し、被覆用材料で覆われた菌子含有培地を培養することにより、マツタケの子実体を形成させることができる。また、栽培中の培地表面の乾燥防止にも優れ、子実体の形成の促進に優れる人工栽培方法とすることができる。
上記被覆用材料としては、ピートモス、バーミキュライト、木粉(オガクズ)並びに、園芸用の培養土及び腐葉土等の土壌等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、これらの被覆用材料のうち、本発明では、通気性(排水性)及び保水性に優れ、且つマツタケ菌糸の栄養源として優れることから、ピートモスが好ましい。
【0046】
また、上記被覆用材料は、水で湿った状態(湿潤状態)が好ましい。上記被覆用材料を水で湿らせた状態とするには、特に限定されないが、被覆用材料と水とを混合し、被覆用材料を湿潤状態にし、被覆用材料から水が垂れ落ちない程度に絞った状態で使用することができる。
また、被覆用材料に予め水を振りかけて、被覆用材料を湿らせた後、使用してもよく、菌子含有培地の表面を被覆用材料で覆った後、水を振りかけて、被覆用材料を湿らせてもよい。
上記被覆用材料の好ましい態様としては、まず、被覆用材料と水とを混合し、被覆用材料を湿潤状態となる混合物する。次いで、被覆用材料と水との混合物について、pHを必要に応じて調整した上で、被覆用材料から水が垂れ落ちない程度に絞って、湿った状態の被覆用材料を用いることができる。
【0047】
上記被覆用材料のpHは、マツタケの菌糸が生育できる範囲であれば特に限定されないが、被覆用材料のpHとしては、好ましくは4〜8であり、より好ましくは4.5〜7であり、更に好ましくは5〜5.8である。
また、上記被覆用材料のpHは、上記培地のpHより高いことが好ましい。具体的には、上記被覆用材料のpHは、好ましくは上記培地のpHより0.1以上高く、より好ましくは0.2以上高いpHであり、通常、上記被覆用材料のpHと上記培地のpHとの差は2以下であり、好ましくは1以下である。上記被覆用材料のpHが、上記培地のpHより高いと、菌糸(菌糸体)からの子実体の形成が促され、効率的に子実体を得ることができる。
また、上記被覆用材料が、ピートモス、バーミキュライト、木粉(オガクズ)並びに、園芸用の培養土及び腐葉土等の土壌等である場合、被覆用材料のpHは、水との混合物の状態(分散液の状態、或いは、湿潤状態)で、調整されたpHを意味する。そして、水との分散液の状態でpH調整されたものを、水が垂れ落ちない程度に絞って、湿った状態で、被覆用材料として用いられる。
尚、上記被覆用材料を使用する場合、予めオートクレーブ等により常圧又は高圧加熱して減菌して使用するのが好ましい。
【0048】
上記被覆用材料により、菌糸含有培地の表面を覆う時期(被覆時期)は、特に限定されないが、栽培培養工程において、菌糸が十分生育し、菌糸が水分を吸収した状態になった段階で行うことが好ましい。この菌糸が十分生育した状態とは、例えば、500mLの容器に培地300mL使用したときに、菌糸が培地に蔓延する状態、及び菌子体が培地の上部を1〜2cm程度覆う状態等が挙げられ、子実体を形成させる上で菌糸が十分生育した状態が好ましい。この被覆用材料による被覆は、通常、栽培培養工程の開始から、6〜18ヶ月程度経過した時点で行うことができ、その前でも構わない。
【0049】
本発明においては、菌糸含有培地の表面を被覆用材料により覆うことにより、マツタケの菌糸(菌糸体)から子実体形成が誘発され、マツタケの子実体が形成される。
また、子実体を形成させる培養期間としては、特に限定されないが、形成被覆用材料の被覆から、好ましくは1週間〜6ヶ月であり、より好ましくは1月以上であり、マツタケ菌糸の成長状態及び子実体の形成状態から、適宜選択できる。
【0050】
本発明において用いるマツタケの菌糸は、公知の方法により、キノコ類の菌糸培養に用いられる通常の寒天培地等により増殖されたマツタケ菌糸を用いることができる。マツタケ菌糸の調製方法は、特に限定されないが、例えば、以下の予備培養により調製することができる。
【0051】
上記予備培養では、マツタケの胞子(菌糸)及びマツタケの組織体から選ばれる少なくとも1種と予備培養培地(以下、「予備培地」ともいう)とを用いて、マツタケの菌糸(菌糸体)を得ることができる。
予備培養に用いる予備培地は、特に限定されない。MS培地等の、キノコ類の菌糸の培養に使用される公知の培地を使用することができる。具体的には、糖類、無機成分、ビタミン類、アミノ酸類、ゲル化剤及びその他の栄養成分を含有することができる。
【0052】
上記糖類としては、フラクトース及びスクロース等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。上記糖類の含有量としては、予備培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは1〜300gであり、より好ましくは5〜100gであり、更に好ましくは10〜50gである。
【0053】
上記無機成分としては、硫酸マグネシウム(硫酸マグネシウム7水和物)、リン酸二水素カリウム、塩化カルシウム(塩化カルシウム2水和物)、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、硫酸鉄(硫酸鉄7水和物)、硫酸マンガン(硫酸マンガン4水和物)、硫酸亜鉛(硫酸亜鉛7水和物、硫酸亜鉛4水和物)、硫酸銅(硫酸銅5水和物)、塩化コバルト(塩化コバルト6水和物)、ヨウ化カリウム、モリブデン酸ナトリウム(モリブデン酸ナトリウム2水和物)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのうち、硫酸マグネシウム7水和物、リン酸二水素カリウム、硫酸アンモニウム及び塩化カルシウムが好ましい。
上記無機成分の含有量としては、キノコ類等の培養培地に使用される量を使用することができる。具体的には、予備培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは0.05〜5gであり、より好ましくは0.2〜1.5gである。
【0054】
また、予備培地が、硫酸マグネシウム7水和物、リン酸二水素カリウム、硫酸アンモニウム及び塩化カルシウムを含有する場合、硫酸マグネシウム7水和物の含有量としては、予備培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは30mg〜3gであり、より好ましくは100〜500mgである。
リン酸二水素カリウムの含有量としては、予備培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは15mg〜1.5gであり、より好ましくは70〜300mgである。
硫酸アンモニウムの含有量としては、予備培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは10mg〜1gであり、より好ましくは50〜200mgである。
塩化カルシウムの含有量としては、予備培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは10mg〜1gであり、より好ましくは50〜200mgである。
【0055】
上記ビタミン類としては、ビタミンB1、ビタミンB6、ビタミンB12、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、イノシトール、ミオイノシトール及びビタミンK等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのうち、ビタミンB1、ビタミンB6、ニコチン酸及びミオイノシトールが好ましい。
上記ビタミン類の含有量としては、キノコ類等の培養培地に使用される量を使用することができる。具体的には、予備培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは10mg〜1gであり、より好ましくは50〜300mgである。
また、予備培地が、ビタミンB1、ビタミンB6、ニコチン酸及びミオイノシトールを含有する場合、ビタミンB1の含有量としては、予備培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは0.01〜1mgであり、より好ましくは0.05〜0.3mgである。
ビタミンB6の含有量としては、予備培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは0.05〜5mgであり、より好ましくは0.2〜1mgである。
ニコチン酸の含有量としては、予備培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは0.05〜5mgであり、より好ましくは0.2〜1mgである。
ミオイノシトールの含有量としては、予備培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは10mg〜1gであり、より好ましくは50〜300mgである。
【0056】
上記アミノ酸類としては、グリシン、グルタミン及びグルタミン酸等が挙げられる。これらのアミノ酸類は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのうち、グリシンが好ましい。
上記アミノ酸類の含有量としては、予備培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは0.02〜10mgであり、より好ましくは0.5〜5mgである。
【0057】
上記ゲル化剤としては、ゲルライト及び寒天等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
ゲル化剤の含有量は、予備培地がゲル化できる量であれば特に限定されず、キノコ類等の培養培地に通常使用される量とすることができる。例えば、予備培地全体の体積を1Lとしたときに、好ましくは0.5〜30gであり、より好ましくは1〜10gである。
【0058】
上記その他の栄養成分としては、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等のアミン化合物が挙げられる。
【0059】
上記予備培養における培養温度としては、マツタケの菌糸が生育できる温度であれば特に限定されないが、好ましくは10℃〜30℃であり、より好ましくは28℃以下であり、更に好ましくは25℃以下である。予備培養における培養温度が、上記範囲内であると、マツタケの菌糸が良好に生育することができる。
【0060】
予備培養の培養期間は、特に限定されない。例えば、50mLの容器に予備培地15mL使用したときに、菌糸が生育し、予備培地の半分程度まで菌糸が伸張している状態であればよい。予備培養の培養期間としては、具体的には、1〜6ヶ月又は2〜4ヶ月とすることができ、その前でも構わない。
【実施例】
【0061】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。尚、本発明は、これらの実施例に何ら制約されない。
【0062】
[1]マツタケ菌糸の調製
(1)実験例1:マツタケ菌糸の培養(予備培養)
(a)マツタケの調製
マツタケの人工栽培に用いる菌糸として、愛知県豊田市足助町産のマツタケ5本(m1〜m5)及び愛知県岡崎市額田産のマツタケ3本(m6〜m8)から菌糸を培養した。
上記のマツタケm1及びm6の子実体のかさの状態は、かさが半分開いた半開状態のものであった。また、マツタケm2は、子実体のかさが開いていない、所謂、つぼみ状態のものであった。また、マツタケm3〜m5及びm7〜m8は、子実体のかさが開いた全開状態のものであった。
【0063】
上記マツタケ(m1〜m8)のかさの部分を約2mm角の立方体に切断し、サイコロ状の角切りのかさを用いて、菌糸を培養した。また、上記「角切りかさ」は、胞子(菌糸)を含むように、かさの裏面にある「ひだ」が含まれるように切断した。マツタケm1〜m8の産地、かさの状態、並びに、それぞれ得られた「角切りのかさ」の個数を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
(b)予備培養培地の調製
硫酸マグネシウム七水和物300mg、リン酸二水素カリウム150mg、硫酸アンモニウム100mg、塩化カルシウム100mg、ビタミンB1を0.1mg、ビタミンB6を0.5mg、ニコチン酸0.5mg、ミオイノシトール100mg、フラクトース30g、グリシン2mg及びゲル化剤としてゲルライト3gを蒸留水に溶解し、更に蒸留水を加えて全量を1000mLとした。次いで、水酸化ナトリウム及び塩酸によりpH5.2に調整した(予備培養培地用組成物)。
そして、直径(口径)2cm×長さ10.5cmの試験管に、上記予備培養培地用組成物を15mL量投入し、オートクレーブにより、121℃で15分間滅菌することにより、予備培養培地を調製した。この予備培養培地の組成を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
(c)予備培養及びその結果
上記により得られた「角切りのかさ」について、少なくともひだの一部が、上記予備培養培地の中に収まるように、角切りかさの上部1/2程度が露出するように埋め込んで、菌糸を培養させた。培養温度は21〜25℃として、3ヶ月間培養した。尚、この予備培養は、上記のm1〜m8により得られた全ての「角切りかさ」について行なった。
【0068】
上記のとおり、3ヶ月間培養した結果、m1〜m8の全ての「角切りかさ」について、菌糸体が、予備培養培地の上に厚さ1〜2cm程度形成され、菌糸は予備培養培地に蔓延し、予備培養培地全体が白色の菌糸で覆われた状態となり、マツタケの菌糸(菌糸体)が得られた。
【0069】
[2]マツタケ子実体の人工栽培培養
〔1〕人工栽培用培地の検討
(1)実験例2
上記実験例1により得られた菌糸体のうち、上記m2により得られた菌糸体を用いて、表3に示されるN1培地を使用してマツタケの人工栽培を行った。このN1培地は、有効成分として、大麦、ライ麦、小麦及び米糠を使用し、大麦、ライ麦、小麦及び米糠の各有効成分の配合割合(質量比)は、(大麦:ライ麦:小麦:米糠)=(10:20:1:0.75)となるようにした。また、上記の大麦、ライ麦、小麦及び米糠は粉末状のものを使用した。
【0070】
培地の調製方法は、粉末からなる各種の有効成分及びその他の成分を混合し、次いで、その混合物に水を添加、混合して、更に、全量が規定量(2.35L)となるように水を加えて調製した。また、水酸化ナトリウム及び塩酸によりpHが5.2となるようにpHを調整した。
【0071】
栽培培養に用いる容器としては、キノコ用培養瓶(ガラス製広口瓶:口径4.5cm、直径10.5cm、高さ15.5cm、容量500mL)を使用した。上記容器に、上記の調製方法により得られた、表3に示されるN1培地を約150mL投入し、通常の培養に用いられる、通気性を有するシリコン製の栓をして、オートクレーブにより、121℃で45分間高圧滅菌を行い、その後、インキュベーター(株式会社日立製作所製「CR41」)により、培地温度が18℃となるまで冷却した。
【0072】
栽培培養は、上記のとおり滅菌されたN1培地に、上記実験例1により得られた菌糸のうちm2から予備培養により得られた菌糸体を接種して、培養を行なった。接種は、予備培養の培地を含む菌糸体をそのままN1培地に載せることにより行った。また、この際に、補充液として蒸留水50mLを培地の上部に添加した。
上記培養は、上記インキュベーターにより行った。培養温度は、1日(24時間)のうち、18時間が18℃、6時間が21℃として、培養温度が18℃と21℃とが交互になるように設定した。
【0073】
また、この栽培培養では、マツタケの菌糸体を約3ヶ月毎に、同一組成の新たなN1培地に移植(植え替え)して、マツタケの人工栽培を行った。また、培養に用いる容器は、上記のキノコ用培養瓶を用いた。また、それぞれの培地は、上記と同様にオートクレーブにより、121℃で45分間高圧滅菌を行った。
移植における、各培地の使用量としては、培養から3ヶ月後の最初の移植に用いたN1培地は200mL、培養から6ヶ月後及び9ヶ月後の移植に用いたN1培地は300mLとした。
上記移植の方法としては、培地を含む菌糸体を培養瓶から取り上げて、移植する新たなN1培地の上に載せるようにして、移植を行った。また、最終の9ヶ月後に行った移植の際には、補充液として20質量%のフラクトース水溶液50mLを培地の上部に添加した。
【0074】
また、栽培培養を開始してから、約10ヶ月の培養を行った時点で、培地表面に補充液等の水分が確認できない状態となった。その状態で、培地及び菌糸体を上から覆うようにして、厚さが2〜3cmとなるようにピートモスを被せた。
上記被覆に用いたピートモスは、ピートモス100部に対して、水50部を加えて混合し、pHを5.5に調整した上で、水が垂れない程度に絞った状態(湿潤状態)の、湿ったピートモスを、オートクレーブ(121℃、15分間)により滅菌して使用した。
【0075】
上記ピートモスで培地及び菌糸を被覆した状態で培養を始めてから、約2週間程度経過した後、培養瓶の栓を取り除いた。
そして、ピートモスで培地及び菌糸を被覆した状態で、ピートモスで被覆してから約2ヶ月間培養を行った結果、ピートモスが押し上げられた状態となり、マツタケの子実体が1本形成されていた。得られたマツタケの子実体は、長さが約8cmであり、芳香に優れるマツタケであった。
【0076】
【表3】

【0077】
実験例3
上記実験例2に用いたN1培地に代えて、有効成分として、大麦、ライ麦、小麦及び米糠を使用し、それぞれ有効成分の配合割合が、(大麦:ライ麦:小麦:米糠)=(20:2:1:0.75)となるN2培地を用いた。また、上記N2培地を用いた栽培培養でも、マツタケの菌糸体を約3ヶ月毎に、新たなN2培地に移植して培養を行った。それら以外は、実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0078】
実験例4
上記実験例2に用いたN1培地に代えて、有効成分として、大麦、ライ麦、小麦及び米糠を使用し、それぞれ有効成分の配合割合が、(大麦:ライ麦:小麦:米糠)=(20:10:1:0.75)となるN3培地を用いた。また、上記N3培地を用いた栽培培養でも、マツタケの菌糸体を約3ヶ月毎に、新たなN3培地に移植して培養を行った。それら以外は、実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0079】
実験例5
上記実験例2に用いたN1培地に代えて、有効成分として、大麦、ライ麦、小麦及び米糠を使用し、それぞれ有効成分の配合割合が、(大麦:ライ麦:小麦:米糠)=(12.5:17.5:1:0.75)となるN4培地を用いた。また、上記N4培地を用いた栽培培養でも、マツタケの菌糸体を約3ヶ月毎に、新たなN4培地に移植して培養を行った。それら以外は、実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0080】
実験例6
上記実験例2に用いたN1培地に代えて、有効成分として、大麦及び小麦を使用し、それぞれ有効成分の配合割合が、(大麦:小麦)=(20:1)となるN5培地を用いた。また、上記N5培地を用いた栽培培養でも、マツタケの菌糸体を約3ヶ月毎に、新たなN5培地に移植して培養を行った。それら以外は、実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0081】
実験例7
上記実験例2に用いたN1培地に代えて、有効成分として、大麦、小麦及び米糠を使用し、それぞれ有効成分の配合割合が、(大麦:小麦:米糠)=(20:1:0.75)となるN6培地を用いた。また、上記N6培地を用いた栽培培養でも、マツタケの菌糸体を約3ヶ月毎に、新たなN6培地に移植して培養を行った。それら以外は、実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0082】
実験例8
上記実験例2に用いたN1培地に代えて、有効成分として、大麦、ライ麦及び小麦を使用し、それぞれ有効成分の配合割合が、(大麦:ライ麦:小麦)=(10:20:1)となるN7培地を用いた。また、上記N7培地を用いた栽培培養でも、マツタケの菌糸体を約3ヶ月毎に、新たなN7培地に移植して培養を行った。それら以外は、実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0083】
実験例9
上記実験例2に用いたN1培地のフラクトースに代えて、スクロースを糖類として用いたN8培地を用いた。また、上記N8培地を用いた栽培培養でも、マツタケの菌糸体を約3ヶ月毎に、新たなN8培地に移植して培養を行った。それら以外は、実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0084】
上記実験例2〜9で使用したN1〜N8培地の組成及び栽培培養の結果等について、表3に併記する。
また、栽培培養の結果は、下記のように評価した。
◎;良好な子実体(長さが6〜10cm)が形成できた。
○;子実体は形成できたが、足がやや短い形状であった。
△;子実体は形成できたが、足が短く椎茸形状となり、形がやや悪かった。
×;子実体は形成できなかった。
【0085】
有効成分として、大麦、ライ麦、小麦及び米糠を含有する培地を使用した実験例2〜5及び実験例9では、マツタケの子実体が形成できた。また、ライ麦の含有量が少ない培地を使用した実験例3及び4では、足の長さが短い子実体が得られた。実験例2、5及び9で得られたマツタケの子実体は、長さ約8cm、太さ(直径)約2cmの子実体であった。また、実験例3で得られたマツタケは、椎茸形状の子実体であった。実験例4で得られたマツタケの子実体は、長さが約5cm、太さ(直径)約2cmの子実体であった。
一方、ライ麦や米糠を含有しない培地を使用した実験例6〜8では、マツタケの菌糸は生育し、培地全体に菌糸は蔓延したが、マツタケの子実体は形成できなかった。
【0086】
(1)実験例10
上記実験例2と同様にマツタケの菌糸体を約3ヶ月毎に、新たな培地に移植する際に、上記実験例2に用いたN1培地について、有効成分の配合割合は、(大麦:ライ麦:小麦:米糠)=(10:20:1:0.75)となるように同一としながら、移植する際に、培地の有効成分の含有量を少しずつ増加させた培地を用いて培養を行った。実験例10で使用した培地の組成等を表4に示す。この場合、最初の培地をN1−1、次に移植した培地をN1−2、更にその次の培地をN1−3と表し、以下同様にして、培地の種類を表す表記の後に、ハイフン(−)と共に表される数字が、培養に用いた培地の順序を示す数字とした。そして、移植の際に、表4に示される成分の培地に順次移植して、培養を行った。それら以外は、実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0087】
【表4】

【0088】
実験例11
上記実験例10に用いたN1培地に代えて、有効成分として、大麦、ライ麦、小麦及び米糠を使用し、それぞれ有効成分の配合割合が、(大麦:ライ麦:小麦:米糠)=(20:2:1:0.75)となるN2培地を用いた。また、上記N2培地を用いた栽培培養でも、マツタケの菌糸体を約3ヶ月毎に、新たな培地に移植した。その場合のN2培地としては、上記有効成分の配合割合は同一としながら、マツタケの菌糸体を移植する際に、培地の有効成分の含有量を少しずつ増加させて、表5に示される成分の培地に順次移植して培養を行った。それら以外は、実験例10と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0089】
【表5】

【0090】
実験例12
上記実験例10に用いたN1培地に代えて、有効成分として、大麦、ライ麦、小麦及び米糠を使用し、それぞれ有効成分の配合割合が、(大麦:ライ麦:小麦:米糠)=(20:10:1:0.75)となるN3培地を用いた。また、上記N3培地を用いた栽培培養でも、マツタケの菌糸体を約3ヶ月毎に、新たな培地に移植した。その場合のN3培地としては、上記有効成分の配合割合は同一としながら、マツタケの菌糸体を移植する際に、培地の有効成分の含有量を少しずつ増加させて、表6に示される成分の培地に順次移植して培養を行った。それら以外は、実験例10と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0091】
【表6】

【0092】
実験例13
上記実験例10に用いたN1培地に代えて、有効成分として、大麦、ライ麦、小麦及び米糠を使用し、それぞれ有効成分の配合割合が、(大麦:ライ麦:小麦:米糠)=(12.5:17.5:1:0.75)となるN4培地を用いた。また、上記N4培地を用いた栽培培養でも、マツタケの菌糸体を約3ヶ月毎に、新たな培地に移植した。その場合のN4培地としては、上記有効成分の配合割合は同一としながら、マツタケの菌糸体を移植する際に、培地の有効成分の含有量を少しずつ増加させて、表7に示される成分の培地に順次移植して培養を行った。それら以外は、実験例10と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0093】
【表7】

【0094】
実験例14
上記実験例10に用いたN1培地に代えて、有効成分として、大麦及び小麦を使用し、それぞれ有効成分の配合割合が、(大麦:小麦)=(20:1)となるN5培地を用いた。また、上記N5培地を用いた栽培培養でも、マツタケの菌糸体を約3ヶ月毎に、新たな培地に移植した。その場合のN5培地としては、上記有効成分の配合割合は同一としながら、マツタケの菌糸体を移植する際に、培地の有効成分の含有量を少しずつ増加させて、表8に示される成分の培地に順次移植して培養を行った。それら以外は、実験例10と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0095】
【表8】

【0096】
実験例15
上記実験例10に用いたN1培地に代えて、有効成分として、大麦、小麦及び米糠を使用し、それぞれ有効成分の配合割合が、(大麦:小麦:米糠)=(20:1:0.75)となるN6培地を用いた。また、上記N6培地を用いた栽培培養でも、マツタケの菌糸体を約3ヶ月毎に、新たな培地に移植した。その場合のN6培地としては、上記有効成分の配合割合は同一としながら、マツタケの菌糸体を移植する際に、培地の有効成分の含有量を少しずつ増加させて、表9に示される成分の培地に順次移植して培養を行った。それら以外は、実験例10と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0097】
【表9】

【0098】
実験例16
上記実験例10に用いたN1培地に代えて、有効成分として、大麦、ライ麦及び小麦を使用し、それぞれ有効成分の配合割合が、(大麦:ライ麦:小麦)=(10:20:1)となるN7培地を用いた。また、上記N7培地を用いた栽培培養でも、マツタケの菌糸体を約3ヶ月毎に、新たな培地に移植した。その場合のN7培地としては、上記有効成分の配合割合は同一としながら、マツタケの菌糸体を移植する際に、培地の有効成分の含有量を少しずつ増加させて、表10に示される成分の培地に順次移植して培養を行った。それら以外は、実験例10と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0099】
【表10】

【0100】
上記実験例10〜16において、それぞれ使用した最終培地の組成と、培養の結果を、表11に示す。
上記実験例10〜16の結果は、上記実験例2〜8の結果と同様の結果であった。即ち、有効成分として、大麦、ライ麦、小麦及び米糠を含有する培地を使用した実験例10〜13では、マツタケの子実体が形成できた。また、ライ麦の含有量が少ない培地を使用した実験例11及び12では、やや足の長さが短い子実体が得られた。
また、実験例10〜13では、上記実験例2〜5における培地の有機の使用量を少なくすることができることから、経済的に優れるマツタケの人工栽培方法とすることができる。
一方、ライ麦や米糠を含有しない培地を使用した実験例14〜16では、実験例6〜8と同様にマツタケの菌糸は生育し、培地全体に菌糸は蔓延したが、マツタケの子実体は形成できなかった。
【0101】
【表11】

【0102】
〔2〕培養温度の検討
実験例17
上記実験例2の培養温度である、18℃で18時間及び21℃で6時間で交互に培養することに代えて、培養温度を約18℃の一定温度として、培養を行った。
この場合、マツタケの菌糸の生育が、実験例2と比べて遅かったため、約3ヶ月毎の移植回数を1回増やして、栽培培養期間を実験例2より3ヶ月間長く培養を行った。尚、培養開始から12ヶ月後に行った最終の移植における培地の使用量は300mLとし、その最終の移植の際に、補充液として20質量%フラクトース水溶液50mLを培地上部に添加した。そして、最終の移植から1ヶ月経過後、培地表面に水分が確認できない状態となり、この状態で、培地及び菌糸全体を上から覆うようにして、厚さが2〜3cmとなるようにピートモスを被せて、人工栽培を継続した。それら以外は、実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
ピートモスで被覆してから、約3ヶ月培養を継続した結果、ピートモスが押し上げられた状態となり、マツタケの子実体が形成されていた。得られた子実体は、実験例2で得られた子実体より細く小さいものであった。
【0103】
実験例18
上記実験例2の培養温度である、18℃で18時間及び21℃で6時間で交互に培養することに代えて、栽培培養の開始からピートモスで被覆するまでの9ヶ月間は、培養温度を23℃の一定温度とし、その後は18℃で18時間及び21℃で6時間で交互に培養することにより栽培培養を行った。また、実験例18においても、約3ヶ月毎にマツタケの菌糸体の移植を行ったが、菌糸の生育速度が、実験例2よりも速かったため、培養開始から8ヶ月経過時に3回目の移植(最終の移植)を行った。そして、培養開始から8ヶ月経過後に行った移植の際に、補充液として20質量%フラクトース水溶液50mLを培地上部に添加した。そして、最終の移植から1ヶ月経過後、培地表面に水分が確認できない状態となり、この状態で、培地及び菌糸全体を上から覆うようにして、厚さが2〜3cmとなるようにピートモスを被せて、人工栽培を継続した。それら以外は、実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
ピートモスで被覆してから、約3ヶ月培養を継続した結果、ピートモスが押し上げられた状態となり、実施例2と同様に、良好なマツタケの子実体が形成されていた。
【0104】
人工栽培工程を約18℃の一定温度で行った実験例17では、マツタケの子実体は良好に形成されたが、菌糸の成長速度は、実施例2より遅く、培養期間がやや長くなった。
また、23℃の培養温度による第一段の培養と、18℃で18時間及び21℃で6時間での交互の培養温度による第二段の培養との人工栽培培養による実験例18では、実施例2より菌糸の成長速度が速く、短い培養期間で、実施例2と同様に、良好なマツタケの子実体が得られた。
【0105】
〔3〕ピートモスの検討
実験例19
上記実験例2で使用したピートモスのpHを5.5に代えて、ピートモスのpHを5.0に調整して用いた以外は、上記実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
ピートモスのpHが5.0の実験例19では、マツタケの菌糸は生育したが、生育した菌糸がピートモスを突き抜けて蔓延していき、子実体の形成はされなかった。
【0106】
実験例20
上記実験例2で使用したピートモスのpHを5.5に代えて、ピートモスのpHを5.1とした以外は、上記実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
ピートモスのpHが5.1の実験例20では、マツタケの菌糸は生育したが、生育した菌糸がピートモスを突き抜けて蔓延していき、子実体の形成はされなかった。
【0107】
実験例21
上記実験例2で使用したピートモスのpHを5.5に代えて、ピートモスのpHを5.2とした以外は、上記実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
ピートモスのpHが5.2の実験例21では、マツタケの菌糸は生育したが、生育した菌糸がピートモスを突き抜けて蔓延していき、子実体の形成はされなかった。
【0108】
実験例22
上記実験例2で使用したピートモスのpHを5.5に代えて、ピートモスのpHを5.3とした以外は、上記実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
ピートモスのpHが5.3の実験例22では、マツタケの菌糸は生育し、一部の菌糸がピートモスを突き抜けたが、多くの菌糸は、ピートモスの下部で蔓延し、子実体の形成が確認できた。尚、実験例22得られたマツタケの子実体は、実験例2で得られた子実体の半分程度の大きさだった。
【0109】
実験例23
上記実験例2で使用したピートモスのpHを5.5に代えて、ピートモスのpHを5.5とした以外は、上記実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
ピートモスのpHが5.4の実験例23では、実験例2と同様に、マツタケの菌糸は生育し、菌糸はピートモスを突き抜けず、ピートモスの下部で蔓延し、良好に子実体が形成できた。
【0110】
実験例24
上記実験例2で使用したピートモスのpHを5.5に代えて、ピートモスのpHを5.6とした以外は、上記実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
ピートモスのpHが5.6の実験例24では、実験例2と同様に、マツタケの菌糸は生育し、菌糸はピートモスを突き抜けず、ピートモスの下部で蔓延し、良好に子実体が形成できた。
【0111】
〔4〕補充液の検討
実験例25
上記実験例2に用いた20質量%のフラクトース水溶液に代えて、20質量%のスクロース水溶液を補充液として使用した。それ以外は、実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
20質量%のスクロース水溶液を補充液として使用した実験例25についても実験例2と同様に、マツタケの菌糸は生育し、菌糸はピートモスを突き抜けず、ピートモスの下部で蔓延し、良好に子実体が形成できた。
【0112】
〔5〕菌糸体の検討
実験例26
上記実験例2に用いた、m2から得られた菌糸体に代えて、上記実験例1によりm1から得られた菌糸体を使用した。それ以外は、実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0113】
実験例27
上記実験例2に用いた、m2から得られた菌糸体に代えて、上記実験例1によりm3から得られた菌糸体を使用した。それ以外は、実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0114】
実験例28
上記実験例2に用いた、m2から得られた菌糸体に代えて、上記実験例1によりm4から得られた菌糸体を使用した。それ以外は、実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0115】
実験例29
上記実験例2に用いた、m2から得られた菌糸体に代えて、上記実験例1によりm5から得られた菌糸体を使用した。それ以外は、実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0116】
実験例30
上記実験例2に用いた、m2から得られた菌糸体に代えて、上記実験例1によりm6から得られた菌糸体を使用した。それ以外は、実験例2と同様にして、マツタケの人工栽培を行った。
【0117】
上記実験例26〜30において、いずれも実験例2と同様に、マツタケの菌糸は生育し、菌糸はピートモスを突き抜けず、ピートモスの下部で蔓延し、良好に子実体が形成できた。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明のマツタケの人工栽培用培地によれば、マツタケ菌糸の成長に優れる有効成分を含有していることから、マツタケの人工栽培として用いる培地に好適である。
また、本発明のマツタケの人工栽培方法は、マツタケ菌糸の生育とマツタケ子実体の形成とに優れることから、実用的なマツタケの人工栽培方法として、好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大麦、小麦、ライ麦及び米糠を含む有効成分と、水と、を含有することを特徴とするマツタケの人工栽培用培地。
【請求項2】
上記大麦、上記ライ麦及び上記米糠の含有量が、上記小麦1質量部に対して、それぞれ1〜100質量部、1〜100質量部及び0.1〜10質量部である請求項1に記載のマツタケの人工栽培用培地。
【請求項3】
上記有効成分の含有量が、上記人工栽培用培地の全体積1Lに対して、50〜1000gである請求項1又は2に記載のマツタケの人工栽培用培地。
【請求項4】
クエン酸化合物及び糖類を更に含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のマツタケの人工栽培用培地。
【請求項5】
上記人工栽培用培地のpHが、3〜8である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のマツタケの人工栽培用培地。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のマツタケの人工栽培用培地を用いるマツタケの人工栽培方法であって、
上記人工栽培用培地にマツタケの菌糸を接種した菌糸含有培地を30℃以下の温度で培養する栽培培養工程を備え、
上記栽培培養工程において、上記菌糸含有培地の表面を、被覆用材料で覆うことを特徴とするマツタケの人工栽培方法。
【請求項7】
上記被覆用材料のpHが、上記人工栽培用培地のpHより高いpHである請求項6に記載のマツタケの人工栽培方法。
【請求項8】
上記被覆用材料が、ピートモスである請求項6又は7に記載のマツタケの人工栽培方法。
【請求項9】
上記栽培培養工程において、18℃〜25℃の温度(a)で行う培養と、
15℃〜22℃の温度(b)で行う培養と、を備え、
上記温度(a)が、上記温度(b)より高い温度であり、
上記温度(a)及び上記温度(b)の差が1℃以上である請求項6乃至8のいずれか1項に記載のマツタケの人工栽培方法。

【公開番号】特開2012−110266(P2012−110266A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261721(P2010−261721)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(510310808)
【Fターム(参考)】