説明

マトリックスコンバータ

本発明は、多相交流(6)を所望の出力交流(7)に変換するためのマトリックスコンバータ(3)に関し、多数の制御可能な双方向スイッチ(4)を用いて、m個の相の多相交流(6)を負荷のn(n<m)個の相(L1,…,L3)を有する出力交流に変換するものである。構造の大幅な削減及び簡素化が、少なくとも二つの段(8,9)を配備することによって実現可能であり、コンバータの少なくとも一つの段(8)において、多相交流(6)の各相が制御可能な双方向スイッチ(4)によって制御される。更に、mがnの整数倍であり、制御可能な双方向スイッチ(4)のm/n個のグループ(12)がコンバータ(3)の少なくとも一つの段(9)に配備され、各グループ(12)が出力交流(7)の各相と個別に接続されたn個の並列の双方向スイッチ(4)を有する場合、一層の簡素化が実現可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーエレクトロニクスを用いた多相発電機用設備分野に関する。特に、本発明は、典型的には発電機と接続されて、発電機で発電された多相交流を電力網に適合した多相交流に変換するための、電気エネルギーを変換するためのマトリックスコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
発電の場合、所定の出力電力に対してタービンの回転速度を上げることは、規模とコストの両方を低下させることに繋がる。更に、効率をも改善することができる。これまで、出力70MWまでの発電用タービンが、伝動装置を介して発電機と接続されて、より高いタービン回転速度での動作が可能となっている。しかし、出力電力が大きくなると、伝動装置の使用は、信頼性の理由から益々困難となる。そのような場合、タービンは同期速度で動作する。
【0003】
静止形周波数変換器(パワーエレクトロニクス)を使用することは、容積と回転速度の積を一定とした場合、発電機コストの削減、50Hzと60Hzの両方のために標準化された発電機、タービンの部分負荷効率を回復させることを可能とする調整可能な回転速度、大幅な騒音の低減、汚れの無い(油を使用しない)冷却などの多くの利点を有する一つの代替策を提供する。
【0004】
エネルギーを発生する場合と駆動する場合の両方において、静止形周波数変換器の損失を減少させることは、著しいコスト削減をもたらす。周波数変換器の総コストの大部分が冷却に使われているので、損失の減少は、何よりも設備投資コストに影響する。
【0005】
静止形周波数変換器は、交流/直流/交流の間接的な変換と交流/交流の直接的な変換の両方の形態で存在する。
【0006】
間接的な変換(交流/直流/交流)は、3相交流電源(電動機の場合には電力網、発電の場合には発電機)から直流電流又は整流された直流電圧を生成することによって行われる。次に、直流電流又は直流電圧は、インバータを使用して交流に再変換される。それらの間の回路には、電流の脈動成分又は鋭いピークを軽減するために、インダクタンス(電流中間回路変換器:current source converter)又はコンデンサーバンク(電圧中間回路変換器:voltage source converter)が接続されている。
【0007】
今日用いられている直接的及び間接的な電流変換器は、サイリスタを使用している。サイリスタの自然転流が利用可能であれば、変換器での損失を軽減することができる。電圧中間回路変換器は、大きなスイッチング損失を伴うGTOとIGBT又はIGCTを使用している。これらの個々の構成素子の消費電力性能は、サイリスタの性能よりも低く、それに対応して特定の電圧及び特定の電流に対して多数の構成素子が必要となる。電圧中間回路変換器は、電圧曲線の形状を改善するとともに、高調波を低減するパルス幅変調技術を用いて性能を向上することができる。損失と誘電体疲労は別として、スイッチング周波数が高くなるほど性能は向上する。電流は、ほぼ正弦波状に生成することができ、その結果電気機械の設計上の発電能力を抑制することが回避される。
【0008】
直接的な変換(交流/交流)は、例えば、所謂サイクロコンバータを用いて実現可能である。直接的な変換は、電流がチョッピングされた直流というより正弦波となるので、電気機械の視点からは大きな利点を有する。それは、電気機械内で追加して生じる損失を減少させるとともに、脈動する応力をも防止する。
【0009】
しかし、3相サイクロコンバータの使用は、実現可能な周波数範囲を入力周波数の0〜1/3に制限してしまう。3相サイクロコンバータは、三つの単相サイクロコンバータから構成され、その場合バランスのとれた動作方式では、各々が電力の3分の1を処理する。周波数比率において1/3の限度を超えると、甚だしくバランスのとれていない動作方式となってしまう。この場合、各単相サイクロコンバータは、全電力の1/3を超える電力に対して設計すべきである。オーバーサイズは、電力設計において3倍までとすることができる。
【0010】
直接的な変換の別の手法は、所謂マトリックスコンバータによって提供され、マトリックスコンバータでは、多相電源(発電機又は電力網)の各相が、多相負荷(電力網、受動負荷、電動機など)の各相と双方向スイッチを介して接続されているか、或いは接続することが可能である。これらのスイッチは、相間の電圧差及び相電流に耐えるとともに、電流の逆転を可能にするために、相応の数のサイリスタから構成される。これらのスイッチは、配線部品(スナッバー)などの追加ケーブル配線又は逆向きで並列の構成素子の駆動パルス用電流供給部を同時に使用する選択肢によって、真の双方向性構成素子と見做すことができる。
【0011】
これらのスイッチは、電源がm相で負荷がn相である場合、(m×n)マトリックスで配置される。それは、入力相と出力相の間にそれぞれ所望の接続を確立する選択肢を提供する。しかしながら、それと同時にマトリックスの或る接続状態は、それが許容されると、例えば、短絡という結果を発生させる可能性が有るので、許容されないという欠点を有する。更に、一方の相から他方の相への転流は、スイッチング損失が出来る限り最小となるように実行することが望ましい。
【0012】
特許文献1は、マトリックスコンバータ及びその動作方法を記載しており、その場合相間の転流は部分的に自然転流として実行され、自然転流が不可能な所では強制転流として実行されている。この方式を選択した場合、自然転流によってスイッチング損失は軽減されるにも関わらず、強制転流によって起こるスイッチング損失は残る。更に、強制転流を可能とするためには、マトリックスの全ての場所において、遮断可能な構成素子を使用する必要がある。そのことは、スイッチングの負担を著しく上昇させることとなる。
【0013】
それにも関わらず、自然転流だけが発生するように、マトリックスコンバータを動作させることが可能である。それは、所定の条件が満たされた場合にのみ、発電機の選択的に接続される相から発電機の選択的に接続されない相への切り換えを許容することによって実現することができる。そのようなマトリックスコンバータ及びそのようなマトリックスコンバータの動作方法は、特許文献2及びそれに対応する特許文献3に開示されている。そのようなマトリックスコンバータの構成及びその動作方法は、効率が高く用途が広いにも関わらず、所定の用途において高調波歪み及び利用可能な周波数比率に関して弱点を有する。
【特許文献1】米国特許第5,594,636号明細書
【特許文献2】ドイツ特許公開第10051222号明細書
【特許文献3】欧州特許公開第1199794号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的とする課題は、例えば、発電機によって供給される、多相交流/交流電圧を所望の出力交流/交流電圧に変換するための改善されたマトリックスコンバータを提供することである。これは、多相交流を所望の出力交流に変換するマトリックスコンバータの分野であり、m個の相の多相交流が、多数の制御可能な双方向スイッチを用いて負荷のn(n<m)個の相を有する出力交流に変換されるものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、少なくとも二つの段を有し、有利には、コンバータの少なくとも一つの段において、多相交流の各相が制御可能な双方向スイッチによって制御されるマトリックスコンバータを提供することによって、上記の課題を解決している。
【0016】
典型的には、その段はコンバータの第1段であり、発電機に直接接続される。コンバータのこの第1段により、必要な双方向スイッチの数を大幅に削減することができる。
【0017】
例えば、特許文献3に記載されているような従来技術によるマトリックスコンバータでは、双方向スイッチの数はm×nである。そのようなマトリックスコンバータは、通常高い電力に耐える(典型的には、5〜15kVの範囲の電力網である)ことが可能でなければならないという事実のために、双方向スイッチの各々は、更に複数の直列のスイッチング素子を有する。特に、多相発電機と組み合わせた場合、それにより、必要なスイッチング素子の数が過大となり、それはマトリックスコンバータに関連する費用を増大させることとなる。
【0018】
ここで提案する多段式マトリックスコンバータは、スイッチング素子のスタック(例えば、サイリスタ、そして相応に配置されたIGBT、IGCT又はGTOも使用可能である)を分割して、その一部をコンバータの第1段に組み入れることによって、設計を容易にするとともに、必要なスイッチング素子の数を削減している。その場合、この第1段には、入力と出力間のm×n個の各経路にスイッチング素子の全セットを直列に配備する必要はなく、この第1段用の入力としての役割を果たすスイッチング素子の一部を多相交流の各経路に配備することで十分である。
【0019】
削減可能な素子の数は、例えば、次の通り与えられ。従来技術の構造と比較して、直列のスイッチング素子の数を二つに分割した場合、かつ電圧に耐えることができるように各双方向スイッチにk個の直列のスイッチング素子を配置した場合、k/2×m×n個のスイッチング素子だけが第2段に残る一方、第1段はk/2×m個のスイッチング素子を有することとなる。これにより、総数がk/2×m×(n+1)個となる一方、従来技術ではk×m×n個のスイッチング素子が必要である。コストに関して、そしてスナッバーやそれの同等物などの必要な制御装備、並びに冗長性に関しても、それに対応する削減分は大きく、更に、この簡素化によって、マトリックスコンバータのスイッチングのための制御方式が簡略化されることとなる。
【0020】
スイッチング素子の設計に関して、相間の最大電圧を第2段における双方向スイッチで耐えなければならないことに注意しなければならない。
【0021】
しかし、簡素化がマトリックスコンバータの入力側で可能なだけでなく、第2段内でも素子の大幅な削減が可能であり、そのことは、前述したのと同様の利点をもたらす。有利な実施形態では、例えば、第2段内のスイッチング素子のグループは、それらのグループが出力相の数に適合するように組み合わせることが可能である。例えば、mがnの整数倍である場合、コンバータの少なくとも一つの段、典型的には第2段に、制御可能な双方向スイッチのm/n個のグループを配備することが可能であり、その場合各グループは、出力交流の各相と個別に接続されたn個の並列の双方向スイッチを有する。この第2段は、有利には、コンバータの最終段であり、変圧器又は負荷と直接接続されている。
【0022】
この第2段の設計は、前述した通り、必ずしも第1段の設計に依存しないことを指摘しなければならない。即ち、実際にもそうであり、この第2段は、それ自体だけで発明性の有る技術思想であり、上記の第1段に依存しない。
【0023】
本発明の実施形態では、それに対応して、マトリックスコンバータは、mがnの整数倍であることと、コンバータが二つの段を有することとを特徴とする。多相交流の各相が制御可能な双方向スイッチによって制御されるコンバータの段が第1段であり、発電機と直接接続される。コンバータの第2段は、制御可能な双方向スイッチのm/n個のグループを有し、各グループは、出力交流の各相と個別に接続されたn個の並列の双方向スイッチを有する。この第2段は、変圧器又は負荷に直接接続される。有利には、発電機側から見て、m個の相が、第1段の入力を構成し、m/n個の相が、この第1段の出力を構成する。これら二つの段は、有利には、第1段のn個の出力相(発電機の固定子スリットの比較的丸い構造を考えた場合、有利には、隣接した相)のグループを繋ぐ又は集める形で接続されている。他方では、そのように構成されたm/n本の各導線は、コンバータの第2段の対応するグループの各双方向スイッチと接続されている。そのような構造では、第2段は、上記の場合のように、k/2×m×n個ではなく、k/2×m/n×n=k/2×m個の双方向スイッチしか備えていない。従って、この構造では、スイッチング素子の数がより一層大きく削減される。
【0024】
そして、双方向スイッチの総数は、k×m×n個(当初)又はk×m×(n+1)/2個(第1段のみを変更した場合)に代わって、k×m個となる。
【0025】
ごく一般的に言って、次のことが成り立つ。k個のスイッチング素子のスタックは、k1 及びk2 個の素子(k1 +k2 =k)の二つのスタックに分割することができる。コンバータの第1段は、q個の相のp個のグループ(p×q=m)から構成される。p個のグループの各々は、k1 個のスイッチング素子の一つのスタックから構成され、そのスタックは、q個の相を第2段のスイッチンググループの中の一つと接続する。第1段におけるスイッチング素子の数は、(k1 ×p×q×n個に代わって)k1 ×p×q個となる。
【0026】
そして、コンバータの第2段は、スイッチのn個のスタックを有するq個のグループから構成され、各スタックは、k2 個の直列のスイッチング素子を有する。各スタックは、第1段のp個のグループの中の一つを負荷のn個の相の中の一つと接続する。
【0027】
第2段のスイッチング素子の数は、(k2 ×p×q×n個に代わって)k2 ×p×n個となる。
【0028】
従って、スイッチング素子の総数は、p×q×(k1 +k2 )×n個に代わって、p×(q×k1 +n×k2 )個となる。削減率は、第1段ではn(負荷の相の数)であり、第2段ではqである。
【0029】
この大幅な削減は、デューティサイクル(duty cycle)を考慮することによって制限されることとなる。
【0030】
一般的に、如何なる場合でも、m>2かつn>1、有利には、m>3かつn>2であると言うことができる。後者の場合、マトリックスコンバータを効果的に動作させることが可能であるためには、第2段におけるグループの数を少なくともn+1(90°と等しい)とすべきである。有利には、第2段におけるグループの数を少なくとも6(60°の相対的な位相差と等しい)とすべきである。
【0031】
本発明の別の実施形態では、この構造が多相発電機の分野に利用される。従って、多相交流は、有利には、7以上の相を有する。
【0032】
所謂多相発電機とそれに対応する多数の位相の多相交流を使用することは、高調波歪みを低減することこととなる。多相交流の相の数を最適化するために考慮すべき主な論拠は、次の通りである。
【0033】
・相の数は、有利には、3の倍数とすべきであり、それ以外では電流及び電圧が絶えず不均衡となる。
【0034】
・多相交流の相の数を多くすると、転流周波数が高くなる。
【0035】
・転流周波数を高くすると、高調波歪みが低下する。
【0036】
・転流周波数は、転流の継続時間にもとづき制限される。
【0037】
・スイッチの総数は、相の数に比例する。コンバータのコストは、それに直接依存する。
【0038】
・相の数を多くすることは、m相の電源におけるデューティサイクルを非常に小さくすることを意味する。その場合、発電機の利用率が悪化し、そのコストが高くなる。
【0039】
更に、多相交流の相を提供するその固定子巻線がデルタ結線されている発電機を使用することが有利であることが分かっている。例えば、外側の巻線接続部を接続することによって、並びにマトリックスコンバータの入力をインボリュート巻線部の頂点と接続することによって得られる多角形の固定子を使用することが可能である。この多角形の固定子巻線では、個々の巻線は好適な手法で直列に接続されており、その場合接続点がm個の頂点を構成し、各頂点が一つの相を規定して、その相が次にマトリックスコンバータの第1段の入力と接続される。そのため、標準的な発電機を改造して相応に動作させることが可能である。そのことは、巻線ピッチを適合させることができることを前提として、例えば、多角形の固定子が得られるように外側の巻線接続部を接続することによって、並びにマトリックスコンバータの第1段の入力をインボリュート巻線部の頂点と接続することによって実現することができる。コイルを端子と接続している環状リングを相応に取り除いて、この環状リングと接続されていたバーの終端と溶着する。それに対応して、固定子巻線は完全に対称形となり、単一の短絡されたコイルを構成することとなる。
【0040】
特に、コンバータの第1段を発電機の固定子に組み込むと、非常にコンパクトで効率的な構造を実現することが可能である。更に、発電機内の熱条件を改善するために、マトリックスコンバータの固定子内に配置された部分を発電機の冷却に使用される冷却液の流れの中に配置することが可能である。
【0041】
本発明は、特定の数の所望の出力交流に限定されるものではない。しかし、典型的には、所望の出力交流は3相又は6相を有する。更に、本発明は、特に多相発電機に限定されるものではない。しかし、典型的には、多相交流は、8個より多い相を有し、有利には、多相交流の相の数は3の倍数である。多相交流は、有利には、9、12、15、18、21、24又はそれより多い相を有する。実際的な理由から、多相交流の相の数は、有利には、固定子スリットの数と等しい。
【0042】
マトリックスコンバータを正しく制御するために、双方向スイッチは、通常選択的な手法でm個の入力をn個の出力と接続するコントロールユニットによって制御され、その場合入力における電流の符号を計測するための第一の手段と入力間の電圧の符号を計測するための第二の手段とが配備されており、第一及び第二の手段は、制御システムと能動的に接続されている。この場合、双方向スイッチは、スイッチの切換状態に関する情報を制御システムに伝達するための制御線を介して、コントロールシステムと接続される。
【0043】
マトリックスコンバータの如何なる動作方法も、選択された入力相を選択された出力相と接続するという固有の要件を持っている。
【0044】
ここで提案したコンバータの第2段は、単一の段を有するマトリックスコンバータに関して規定された公知の転流シーケンスで動作させることができる。唯一の要点は、第1段のグループ内での転流が必要であるのか、或いは一方のグループから他方のグループへの転流が必要であるのかを調べることである。第1の場合には第2段において転流を実施する必要はない一方、第2の場合には転流の要求を行わなければならない。
【0045】
第1段は、発電機の接続すべき相と伝導方向に関する情報のみを有する。
【0046】
本発明の別の実施形態は、従属請求項に記載されている。
[図面の簡単な説明]
【0047】
添付図面には、本発明の有利な実施構成が図示されている。
【0048】
本発明の実施例を図解する役割を果たし、それを制限するものではない図面に関して、図1は、発電機の6個の相G1〜G6が星形結線(符号2)されている発電機1がマトリックスコンバータ3と接続されている発電機構成を図示している。従って、6相の(m=6)多相交流6が、マトリックスコンバータ3の入力を構成する。これらの相の各々は、双方向スイッチ4を介して三つの出力交流相7の中の各々と個別に接続される。このような双方向スイッチ4の構成は、スイッチの6×3マトリックスとなるか、或いは一般的に言うと、m個の相の多相交流6とn個の相の出力交流7に対して、マトリックスコンバータは、m×nマトリックスの双方向スイッチ4を有する。そのため、相応の制御手段を用いた場合、出力交流7に関する所望の出力パターンに応じて、如何なる時点でも各入力相を各出力相と接続することが可能である。出力交流7は、通常通り変圧器5を介して電力網(相L1,..., L3)と接続される。
【0049】
図1のマトリックスコンバータ及びそのようなマトリックスコンバータの有利な動作方式は、特許文献2及びそれに対応する特許文献3に記載されている。
【0050】
例えば、高調波歪み及び周波数比率などの多くの観点において、図1に図示されているような6相よりずっと多い数の相を使用するのが有利である。しかし、相の数を多くすると、固定子巻線と電力遮断器の両方の効率を悪化させる可能性がある。更に、図2による構成は、多数のスイッチング素子を使用することを意味し、そのことは、その面ではスイッチング素子と関連するが、これらのスイッチング素子を制御するのに必要な多数の手段とも関連する投資コストを増大させることとなる。
【0051】
発電機固定子の使用形態に関する打開策が有り、それは多角形の固定子を考慮することである。多角形の巻線は、外側の巻線接続部を接続することによって簡単に得ることができる。次に、スイッチを簡単にインボリュート巻線部の頂点と接続することができる。基本的に、相の数は、固定子スリットの数と同じ数(即ち、数十)にすることができる。
【0052】
出力は、3相又は6相とすることができる。3相の接続を使用する場合、巻線ピッチは、通常通りに減らすことはできず、そのことは、無負荷条件下での電圧に歪を与える可能性が有るとともに、実効電圧を減少させることとなる(巻線比の減少)。出力電力比が僅かに低下し、発電機は、それを少し上回る容量で(約15%)設計すべきある。6相の出力を使用する場合、出力電力は本来の巻線による場合とちょうど等しくなる。ここで、母線及び昇圧変圧器において欠点が生じる。母線の特別な設計によって、追加的なコストを大幅に削減することができる。昇圧変圧器の場合の二重巻線に対する追加的なコストは無視できるほど小さい。相電流が大きく、サイリスタの定格を超える場合には、6相の出力は非常に魅力的である。
【0053】
従って、図2aは、15相での多相発電機1の実現可能な構成を図示している。ここに述べる構造は、相の数が大きい、例えば、24、36又はそれ以上の場合の魅力的な解決策を提供することを目指している。実際には、この解決策は、如何なる数の相でも使用することができる。この構造は、m相の発電機がマトリックスコンバータを介して3相の電力網と接続されている場合に関して記述されている。実際には、その他の構成、例えば、m相のモーターに給電する3相電力網やm相のモーターに給電する二重巻線の変圧器(6相)も考慮の対象となる。
【0054】
ここで述べる15相の多相交流6と所望の3相の出力交流7のための発電機構成は、従来技術による標準的な同期交流発電機と非常に似ている。相違点は、固定子バーの終端巻線の結線構成であり、それを改造しなければならない。
【0055】
先ずは、コイルを接続端子と接続している環状リングを取り除く。ここで、環状リングと接続されていたバーの終端を溶着させて、各バーが、一つのコイルを構成するようにする。そうすることによって、固定子巻線は完全に対称形となり、単一の短絡されたコイルを構成することとなる。次に、数個の、出来れば全ての溶着した接続部を双方向スイッチ4と接続する。その結果得られる見掛け上の多相交流の相の数は、3、4、5、6... バーの数まで、即ち、駆動される終端と駆動されない終端の両方がスイッチを備えている場合には、スリットの数の2倍までとすることができる。交流発電機は、通常星形結線されているが、この場合発電機はデルタ結線されている。この固定子構成は、直流電動機の回転子巻線と幾つかの類似点を有する。そのような構成における基本的な動作原理は変わらず、相の数が多い場合にも適用される。
【0056】
相の数が多いために、見掛け上の転流周波数は高くなる。電圧に生じる高調波は、より高い周波数で発生し、振幅が低下して行く。それに対応する高調波電流は、発電機の相間インダクタンスのために更に減少する。
【0057】
しかし、このような多相発電機を負荷と接続する場合、マトリックスコンバータの使用は、極端に多い数のスイッチング素子を必要とすることとなる。その費用と規模も、相の数と共に劇的に増大する。実際に、各双方向スイッチは、典型的には、図2bに図示されている通り個々のサイリスタのスタックから構成される。例えば、11kVの電力網では、各双方向スイッチ4の各分岐系統11において、8個の直列のサイリスタ10が必要である。15相の入力と3相の出力の場合、このようなマトリックスコンバータを実現するのに、720(8×2×m×n)個のサイリスタ(又はそれと同等の制御可能なスイッチング素子)が必要となる。
【0058】
そこで、本発明では、図3に図示されている通り、このサイリスタのスタックを二つの部分に分割することが可能である。従って、各入力相6が一つの個別の双方向スイッチ4を備えた、コンバータ3の第1段8が作り出される。この構造の利点は、サイリスタの数が、通常6相から15相への変換の場合に得られる数よりも、例えば、30%少なくなること、即ち、増加率が、150%に代わって僅か70%になるということである。このことは、サイリスタのスタックが二つに分割され、m×nマトリックスの符号3を付けられている一方の半分が残り、他方の半分(即ち、各双方向スイッチの各分岐系統の直列の4個のサイリスタ)がコンバータの第2段9に置かれる場合に該当する。しかも、この削減は、6相の出力に関して明らかにより大きくなる。
【0059】
しかし、それは、このような構造で実現可能な唯一の削減策ではない。更に、出力スイッチも分割することができ、それは、図4に図示されている通りの構造となる。マトリックスコンバータの第2段9に属する出力スイッチは、m/n個のグループ12(図4に図示された特別な例では、5個のグループ12)にグループ化され、これらのグループ12の各々が、出力相7の数と等しい数の双方向スイッチを有し(図4に図示された特別な例では、それはグループ12毎に3個の双方向スイッチが有ることを意味する)、これらの双方向スイッチ4は、対応する出力相7と個別に接続される。
【0060】
発電機の固定子の周囲に隣接するm個の入力相が、その非発電機側で個々の導線13を構成するように纏められることによって、第1段8は第2段9と接続されている。この構造では、それに対応して入力相6の数を出力相7の数の整数倍としなければならない。15個の入力相と3個の出力相が有る、この場合、それは5本の導線13となり、これらの導線は、次に、前に説明した通り、マトリックスコンバータの第2段におけるグループ12の入力と接続することができる。
【0061】
驚くべきことに、ここで提案した図4による構造は、15相で、それに対応して図1に図示されたような当初の6相構造の場合よりも高い次数での高調波が低く、サイリスタの数が16%少ないマトリックスコンバータが得られる。
【0062】
ここで提案した進んだ技術構想の興味深い結果は、相の数が非常に多いために、例えば、GTOなどのターンオフ素子の使用数を削減する、例えば、10%削減する手段が得られるということである。その利点は、第一にターンオフ時間の問題を免れることと、第二に残留する高調波歪みに効果が有ることであると言うことができる。
【0063】
「バルブ」、即ち、双方向スイッチ(サイリスタ、IGBT、IGCT、GTO等)は益々多くなって来ている。この新しい技術思想は、「バルブ」の個々の設計とそのコストを最適化するような大きな柔軟性を提供する。重要なことは、これらの「バルブ」がパルス的な動作方式で恒常的に動作されるということである。
【0064】
パルス的な動作方式によって、低いデューティサイクルでの比較的大きな電流が可能となり、それは、正に計画されている用途に対応するものである。
【0065】
既に前に言及した通り、マトリックスコンバータの如何なる動作方法も、選択された入力相を選択された出力相と接続するという固有の要件を持っている。ここで提案したコンバータの第2段は、単一の段を有するマトリックスコンバータに関して規定された公知の転流シーケンスで動作させることができる。例えば、特許文献2に記載されているような動作方式が可能である。
【0066】
唯一の要点は、
・第1段のグループ内での転流が必要であるのか(必要な場合、第2段において転流を実施する必要はない)、
・一方のグループから他方のグループへの転流が必要であるのか(必要な場合、転流の要求を行わなければならない)、
を調べることである。
【0067】
第1段は、発電機の接続すべき相と伝導方向に関する情報のみを有する。
【0068】
この技術思想の大規模な設備に対する評価:
ここでは、大規模な構造の場合に、発電機/コンバータ構成とその性能をどのようにすることが可能であるのかを示す。
【0069】
規模及び主な係数を決定するとの課題に関しては、発電機の次の「規格」を考慮に入れれば十分である。

P=45MW、S=55MVA
Un=11kV、In=3kA

次に、1段式コンバータの基準値を与える。それらの数値の中の幾つかは、1段式と2段式のコンバータの両方に対して与えられる。
【0070】
スイッチの逆方向電圧
一つのスイッチが短絡され、その他の全てのスイッチが遮断されている場合に、最も不利な逆方向電圧が生じる。この場合、一つのスイッチに対する最大電圧Vthは、次の通りとなる。

Vth=sqrt(2)(Un+2*Vg)≒3.5Un

この式では、Vgは相当りの発電機の起電力であり、Unは電力網の電圧である。
【0071】
11kVに対しては、スイッチ当りNS =8個の直列のサイリスタが必要である。2段式コンバータでは、発電機側(第1段8)に4個のサイリスタが、電力網側(第2段9)に4個のサイリスタが必要である。
【0072】
電力損失の算出
コンバータにおける電力損失は、次の三つの寄与分に基づく。
【0073】
・伝導損失
・転流損失
・スナッバー損失
伝導損失は、電力損失全体の主要な部分であり、閾値電圧1Vと補償抵抗(スロープ抵抗)0.16mΩに対して大まかに評価することができる。
【0074】
一般的に、本発明は発電機側での相の数が多いという利点を活用しており、そのことが、通常望ましくない高調波の振幅を低減するとともに、その周波数を高くしていると言うことができる。それは、多数のスイッチング素子が必要になるという通常生じる欠点を回避することができるという事実に基づいている。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】従来技術による能動的な発電機用マトリックスコンバータの模式図
【図2a】多位相の能動的な発電機用マトリックスコンバータの模式図
【図2b】三つの双方向スイッチから成るグループの模式図
【図3】多位相の能動的な発電機用二段式マトリックスコンバータの模式図
【図4】別の多位相の能動的な発電機用二段式マトリックスコンバータの模式図
【符号の説明】
【0076】
1 発電機
2 星形結線の中性点
3 マトリックスコンバータ(コンバータ)
4 双方向スイッチ
5 変圧器
6 多相交流
7 出力交流
8 分割された入力スイッチのグループ(コンバータの第1段)
9 分割された出力スイッチのグループ(コンバータの第2段)
10 スイッチング素子(サイリスタ)
11 双方向スイッチの分岐系統
12 双方向スイッチのグループ
13 導線
G1〜G6 発電機の相
L1〜L3 負荷(電力網)の相
m 多相交流の相の数
n 出力交流の相の数
k 双方向スイッチング素子の各分岐系統における直列のスイッチング素子数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相交流(6)を所望の出力交流(7)に変換するためのマトリックスコンバータ(3)であって、m個の相の多相交流(6)が、多数の制御可能な双方向スイッチ(4)を用いて、負荷のn(n<m)個の相(L1,…,L3)を有する出力交流に変換され、コンバータ(3)が、少なくとも二つの段 (8,9)を有し、コンバータ(3)の少なくとも一つの段(8)において、多相交流(6)の各相が、制御可能な双方向スイッチ(4)によって制御されるマトリックスコンバータ(3)。
【請求項2】
多相交流(6)の各相(6)が制御可能な双方向スイッチ(4)によって制御されるコンバータの段(8)が、第1段であり、発電機(1)に直接接続されている請求項1に記載のマトリックスコンバータ(3,8,9)。
【請求項3】
mがnの整数倍であり、コンバータ(3)の少なくとも一つの段(9)において、制御可能な双方向スイッチ(4)のm/n個のグループ(12)が配置されており、各グループ(12)が、出力交流(7)の各相と個別に接続されているn個の並列の双方向スイッチ(4)を有する請求項1又は2に記載のマトリックスコンバータ(3)。
【請求項4】
制御可能な双方向スイッチ(4)のm/n個のグループ(12)が配置されているコンバータの段(9)が、コンバータ(3)の最終段であり、変圧器(5)又は負荷と直接接続されている請求項3に記載のマトリックスコンバータ(3)。
【請求項5】
mがnの整数倍であり、コンバータが二つの段(8,9)を有し、多相交流(6)の各相が少なくとも一つの制御可能な双方向スイッチ(4)によって制御されるコンバータの段(8)が、第1段(8)であり、発電機(1)と直接接続されており、コンバータの第2段(9)が、制御可能な双方向スイッチ(4)のm/n個のグループ(12)を有し、各グループ(12)が、出力交流(7)の各相と個別に接続されているn個の並列の双方向スイッチ(4)を有し、上記の第2段(9)が、変圧器(5)又は負荷と直接接続されている請求項1から4までのいずれか1項に記載のマトリックスコンバータ(3)。
【請求項6】
発電機(1)のm個の相が、第1段(8)の入力を構成し、m/n個の相が、第1段(8)の出力を構成し、それらの出力には、第1段(8)のn個の、有利には、隣接した出力相のグループが接続され、そのように構成されたm/n本の導線(13)の各々が、コンバータ(3)の第2段(9)の対応するグループ(12)の双方向スイッチ(4)の各々と接続されている請求項5に記載のマトリックスコンバータ(3)。
【請求項7】
各双方向スイッチ(4)が、逆並列の単方向スイッチング素子(10)を備えた少なくとも二つの分岐系統(11)を有し、各分岐系統には、少なくとも二つのスイッチング素子(10)が直列に配備されている請求項1から6までのいずれか1項に記載のマトリックスコンバータ(3)。
【請求項8】
多相交流(6)が、機械エネルギーから電気エネルギーを生成するための発電機(1)によって供給され、多相交流(6)の相の数が3より多い請求項1から7までのいずれか1項に記載のマトリックスコンバータ(3)。
【請求項9】
発電機(1)が、回転子と固定子を備えており、多相交流(6)の相を発生する固定子巻線が、デルタ結線されている請求項8に記載のマトリックスコンバータ(3)。
【請求項10】
コンバータの第1段が、発電機(1)の固定子に組み込まれており、有利には、マトリックスコンバータ(3)の固定子内に配備された部分が、発電機を冷却する冷却液の流れの中に配置されている請求項8又は9に記載のマトリックスコンバータ(3)。
【請求項11】
所望の出力交流(7)の相の数(n)が3相又は6相であり、多相交流(6)の相の数(m)が8相より多く、有利には、多相交流(6)の相の数が3の整数倍である請求項1から10までのいずれか1項に記載のマトリックスコンバータ(3)。
【請求項12】
多相交流(6)の相の数が、9、12、15、18、21又は24相である請求項11に記載のマトリックスコンバータ(3)。
【請求項13】
双方向スイッチ(4)が、m個の入力をn個の出力と選択的に接続するコントロールユニットにより制御され、入力電流の信号を計測するための第1の手段と入力電圧を計測するための第2の手段とが配備され、第1及び第2の手段が、コントロールシステムと能動的に接続されている請求項1から12までのいずれか1項に記載のマトリックスコンバータ(3)。
【請求項14】
双方向スイッチ(4)が、スイッチの切換状態に関する情報をコントロールシステムに伝達するための信号線を介して、コントロールシステムと接続されている請求項13に記載のマトリックスコンバータ(3)。
【請求項15】
双方向スイッチ(4)が、逆並列に接続されたサイリスタ又は相応に配置されたIGBT、IGCT又はGTOを有する請求項1から14までのいずれか1項に記載のマトリックスコンバータ (3)。
【請求項16】
多相交流(6)の相の数(m)が、固定子スリットの数と等しい請求項1から15までのいずれか1項に記載のマトリックスコンバータ(3)。
【請求項17】
請求項1から16までのいずれか1項に記載のマトリックスコンバータの動作方法であって、第1段(8)のグループ内での転流が必要である場合には、第2段での転流を行わず、一方のグループから他方のグループへの転流が必要である場合には、第2段(9)での転流を行う方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−535451(P2008−535451A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503465(P2008−503465)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【国際出願番号】PCT/EP2006/060617
【国際公開番号】WO2006/103155
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(503416353)アルストム テクノロジー リミテッド (394)
【氏名又は名称原語表記】ALSTOM Technology Ltd
【住所又は居所原語表記】Brown Boveri Strasse 7, CH−5401 Baden, Switzerland
【Fターム(参考)】