説明

マニピュレータ

【課題】 従来のロボットアームとエンドエフェクタの電気接続接点には、加圧用のスプリングやテコのような機構が必要であったためエンドエフェクタが大きくなり、小型の部品を組み付けるための小型マニピュレータには不向きであった。
【解決手段】 上述の課題を解決するための本発明は、第一の電気接点部(222)を備えた付き当て面(121)を有するロボットアーム(201)と、第二の電気接点部(122)を備えた付き当て面(221)を有する前記ロボットアームに接続されるエンドエフェクタ(1)と、接点配線を配したクサビ状空隙を備え前記付き当て面を係合する着脱可能な係合部材(300)と、を有し、前記ロボットアームと前記エンドエフェクタとを前記係合部材により係合させることで前記ロボットアームと前記エンドエフェクタとが電気的に導通することを特徴とするマニピュレータである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットアームにエンドエフェクタを係合部材を介して着脱可能に取り付けて、様々な部品を把持し組立を行うマニピュレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ等の小型で複雑な構造をした製品の組み立てに対する自動化の要求が高まっている。これらの小型の製品に対して組立を行うためには、小型の産業用ロボットを用いて高速かつ精密な組み付けを行う必要がある。
【0003】
産業用ロボットとしては、複数のフィンガーを供えたエンドエフェクタを多関節のロボットアームに着脱可能に取り付けたマニピュレータが用いられ、エンドエフェクタは作業用途に応じて交換可能である。エンドエフェクタには電気アクチュエータ、センサ等が備え付けられて、ロボットアームと電気的に接続されて電気信号のやり取りや電源供給が行われる。
ロボットアームとエンドエフェクタの電気接続としては、特許文献1で開示されるように、ロボットアームとエンドエフェクタ間の電気配線を外側に這いまわして、コネクタにより接続する外側配線方式が一般的に用いられる。
さらに改良した構成として、特許文献2で開示されるように電気配線をロボットアーム内部に配置して、エンドエフェクタの着脱機構のロックレバーにより電気コネクタを加圧することによりコネクタ着脱力を低減して着脱を容易にした構成がある。また、特許文献3で開示されるようにエンドエフェクタの中心部に電気接点を配置することによりエンドエフェクタの直径を大型化することなく多くの接点を配置することができる構成がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−084688号公報
【特許文献2】特開昭63−251183号公報
【特許文献3】特開平4−360783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マニピュレータの基本構成を図8に示す。201がロボットアーム、1がエンドエフェクタ、304はワークでありエンドエフェクタ1で把持して組み付ける部品である。
【0006】
カメラ等の小型で複雑な構造をした製品に小型の部品を組み付けるためには、ロボットアーム201を様々な姿勢に可動させながら、狭いスペースにエンドエフェクタ1を配置して作業を行う。そのため、製品とエンドエフェクタ1およびロボットアーム201が干渉しないように外径Rを小さくし、かつ、エンドエフェクタ1先端とのロボットアーム201の回転軸との距離Lを小さくすることが求められる。
【0007】
また、小さな部品や柔軟性がある部品を組み付けるためにはエンドエフェクタ1に力覚センサなどの制御用センサを多数配置する必要があり、その分電気配線の本数も増えることになり、エンドエフェクタ1へ接続する電気接点数も多くなる。そのため、小型化しつつ接点を増やす必要がある。
【0008】
しかしながら、特許文献1で見られるロボットアームとエンドエフェクタと配線を外側に配置した外側配線方式は、外側に飛び出た配線とワークの干渉を回避するためにロボットアームの可動範囲を大きく制限する必要がある。そのため、この方式は小型の部品を組み付けるマニピュレータとしては不向きであった。
【0009】
一方、ロボットアームとエンドエフェクタの配線を内部に配置した内部配線方式についても、特許文献2で見られる上記従来例ではシーソ型のロックレバーや加圧用のスプリング、接点コンタクトを使用しているためエンドエフェクタの小型化には不向きであった。特許文献3で見られる上記従来例では、前記外径Rを大きくすることなく、多くの接点を配置できるが、距離Lが長くなるという課題があった。
【0010】
また、特許文献2と特許文献3ともに、ロボットアームとエンドエフェクタのそれぞれの接触点は圧接により互いに接触する。そのため、接点部材の汚れや酸化皮膜による導通不良を防止して安定的に導通させるためには、加圧ばねで電気接点に加圧力を加える必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題解決のための本発明は、
第一の電気接点部を備えた第一の付き当て面を有するロボットアームと、
第二の電気接点部を備えた第二の付き当て面を有する前記ロボットアームに接続されるエンドエフェクタと、
接点配線を配し、前記第一及び第二の付き当て面と係合する内面を備える空隙を有する係合部材と、
を有し、
前記ロボットアームと前記エンドエフェクタとを前記係合部材により係合させると共に、前記第一の電気接点部と前記第二の電気接点部と前記接点配線とを接触させることで、前記ロボットアームと前記エンドエフェクタとが電気的に導通されることを特徴とするマニピュレータである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ロボットアームとエンドエフェクタとを係合させる係合部材が配線の役割を兼ねるため、配線の省スペース化され小型マニピュレータを提供することが可能になる。
【0013】
本発明によれば、係合部材の着脱とともに接点が摺動接触するため、接点不良に対して信頼性の高い接点を備えるマニピュレータを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例に係る係合部を説明する図である。
【図2】本発明の実施例に係るマニピュレータを説明する図である。
【図3】本発明の実施例に係るエンドエフェクタを説明する図である。
【図4】本発明の実施例に係るエンドエフェクタの取り付けを説明する図である。
【図5】本発明の実施例に係るエンドエフェクタの取り付けを説明する図である。
【図6】本発明の実施例に係る係合部材を説明する図である。
【図7】本発明の実施例に係る係合部を説明する断面図である。
【図8】本発明の従来例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施例1)
以下に本発明の実施例を図を用いて順次説明する。
図2は、ロボットアーム201と、ロボットアーム201に装着したエンドエフェクタ1と、その制御部及び電源部を模式的に示した図である。
【0016】
ロボットアームは複数のリンクとそれぞれのリンクとを結ぶ関節部からなり、不図示のモータによりロボットアーム制御部210からの信号により自由に駆動できる。
【0017】
また、エンドエフェクタは基材に設けられた指モジュール100、モータ105、及びエンドエフェクタに加わった外力を検知する力覚センサ110からなる。
【0018】
エンドエフェクタ1には、エンドエフェクタ1の動作を制御するエンドエフェクタ制御部180がロボットアーム201を介して信号線181で接続されている。エンドエフェクタ制御部180は指モジュール100の各関節を駆動するモータ105a、105bへの制御信号のやり取りや、力覚センサ部110より検出した変位信号から力を演算することなどを行う。ここでは2つの関節を有する指モジュールとそれぞれの関節を駆動するモータが描かれている。
【0019】
エンドエフェクタ1に備えられたモータ105a、105bの駆動電力はロボットアーム201の電源線183によりエンドエフェクタ電源部182から供給されている。
【0020】
ロボットアーム201には、ロボットアーム201の動作を制御するロボットアーム制御部210が接続されている。エンドエフェクタ制御部180より、エンドエフェクタ1の力覚センサ部110に印加された力の情報を、ロボットアーム制御部210が受信し、ロボットアーム201の動作に反映させるように構成されている。
【0021】
図3に示すように、エンドエフェクタ1には部品を把持する指モジュール100、部品を把持し組み付けるときの組み付け反力を検出するための力覚センサ部110で構成されている。指モジュール100はそれぞれ、指先部材101と中節部材102と、第1関節103と第2関節104と、第1関節を駆動するモータ105aと、第2関節を駆動する105bとで構成されている。これらの指モジュール100を複数個エンドエフェクタ筺体109に配置して(本実施例では4個)、各関節をエンドエフェクタ制御部180で独立駆動させることにより、様々な形状のワークへの把持が可能になっている。
【0022】
(エンドエフェクタとロボットアームの係合)
エンドエフェクタ1のロボットアーム201へ係合する際の位置決め方法について詳細に説明する。
図4に示すようにロボットアーム201には円筒状の凸部212を有する取り付け面があり、エンドエフェクタ1側の対応する位置に丸穴部(不図示)がある。
【0023】
まず、エンドエフェクタ1をロボットアーム201の円筒状の凸部212に接触させると図5に示すように前記凸部212がエンドエフェクタ1の丸穴部(不図示)と嵌合してロボットアーム201とエンドエフェクタ1が同軸に位置決めされる。このことによりx、y軸方向が規制される。
【0024】
つづいて、本願の一つの特徴部分を示す着脱可能な係合部材についての説明を、図1を用いて行う。
【0025】
エンドエフェクタ1のロボットアーム201への取り付け面の外縁上(円周上)4箇所には係合部材と係合する係合面120aが形成されている。(本実施例では係合面120aはクサビ形状で構成しているため、以後クサビ面と称す)そして、クサビ面のそれぞれに第一の付き当て面121が形成されている。また、ロボットアーム201側にも同様に、係合部材と係合する係合面(以下クサビ面と称す)220a、がありそれぞれに第二の付き当て面221が形成されている。付き当て面にはそれぞれ電気接点部222、122が形成されている。
【0026】
電気接点部222はエンドエフェクタ制御部180と電気的に接続されており、電気接点部122はエンドエフェクタ1内部のモータ105、力覚センサ部110と電気的に接続されている。
クサビ面220a、クサビ面120aとで形成される「クサビ」が下記にて説明される係合部材に接合する。
【0027】
そして、エンドエフェクタ1のクサビ面120aとロボットアーム201のクサビ面220aとが互いに接した状態で、係合部材300aをボルト303で締付ける。
【0028】
図6(a)および(b)に示すように係合部材300aは前記第一の付き当て面121と第二の付き当て面221に対応するようにクサビ状空隙の内面に付き当て面321、322が形成され、更に、ボルト303が挿入できる貫通穴302が形成されている。また、クサビ面220aの上面には、この貫通孔302と連通するねじ穴部が形成されている。
【0029】
図7の(a)のように係合部材300aを図中の矢印方向に挿入しボルト303で締付けることにより、クサビ面120aとクサビ面220aとで形成される「クサビ」によるクサビ効果により、エンドエフェクタ1とロボットアーム201は図7の(b)のF方向に互いに押し付けられて、図5に示すZ方向の位置が決まる。
【0030】
また、図1に示すように係合部材300a、の幅h1とクサビ面120a、クサビ面220aの溝幅h2は嵌合寸法でつくられており、係合部材300aを締付けることにより図5に示すZ軸周りの回転が規制される。このとき他の係合部材300b、c、dの係合部は隙間が空けてあり係合部材300aの回転方向の規制を妨げないようになっている。
【0031】
以上説明したように、クサビ状空隙のある係合部材300aを締付けて取り付けることによりエンドエフェクタ1とロボットアーム201位置が高精度に決まる。
【0032】
なお、上述の「クサビ」として説明した部材の形状は矩形としてもよく、要するに係合部材は、第一及び第二の付き当て面と係合する内面を備える空隙を有するものであればよい。
【0033】
(エンドエフェクタの電気接続方法)
次にエンドエフェクタ1への電気接続方法について説明する。
図1に示すように、前述のロボットアーム201の付き当て面221には、第一の電気接点部222があり、前述の制御部180からロボットアーム201を通して伝達された電気信号が供給されている。また、エンドエフェクタの付き当て面121にも同様に第二の電気接点部122があり、エンドエフェクタのモータ105a、105bや力覚センサ部110に接続されている。
【0034】
電気接点部122および222は導電部材で構成され、クサビ面120a、220aとは電気的に絶縁された状態で前述の付き当て面121、221よりも一段深い面に配置される。そのため、電気接点部122および222には容易に触れることができないため接点汚れや短絡を防止できる。
【0035】
係合部材300aのクサビ状空隙には図6(b)に示すように、付き当て面321、322に接点配線301が配置され、導電部材により接点と導通経路が形成されている。
【0036】
係合部材300aの取り付け前の状態では電気接点部122および222は接続されず電気的に遮断されている(図7(a))。次に、係合部材300aを取り付けてボルト303で締付けると電気接点部122および222が接点配線301と導通する(図7(b))。この状態になってはじめてエンドエフェクタ1とエンドエフェクタ制御部180が電気的に接続されてエンドエフェクタ1が動作可能になる。
【0037】
取外しについては取り付けの逆の手順で行い、係合部材の取外しにより電気接続が遮断される構成になっている。
【0038】
接点配線301は付き当て面321、322及びクサビ状空隙の底面に配置され、取り付け動作により、接点配線301が電気接点部122、222に擦れながら接触するため係合部材300aの取り付けの度に接点表面の清掃効果が働く。そのため、接点表面に異物が付着した場合や、接点表面に酸化皮膜が形成されて導通不良が発生するのを防止できる。
【0039】
また係合部材による締結が不十分な場合はエンドエフェクタへの電力の供給がなされないため、不十分な締結によるロボットの動作中のエンドエフェクタの脱離が防止されるため安全面においても有利である。
【0040】
本実施例ではエンドエフェクタ1を着脱する複数の係合部材のうち、Z軸周りの回転を規制する係合部材300aに接点配置した構成を説明したが、この場合は、接点配線301が電気接点部122、222との位置が嵌合により決まるのでより高密度な接点配置ができるが、その他の係合部材に接点を配置してもかまわない。
【0041】
また、本実施例ではエンドエフェクタ制御部180の制御信号の接点を配置した例を示したが、電気的に接続する接点全てに適応できるため、たとえばエンドエフェクタ電源部182の電源線等にも適応可能である。
【0042】
以上説明したように、接点部122および222を導通させるためにエンドエフェクタ1とロボットアーム201の係合部材300aが配線の役割を兼ねるため、電気配線の省スペース化につながりロボットアームの小型化に資する。
【0043】
さらに、係合部材のクサビ形状部の締付け力を利用して接点圧を得るために、接点構成に特別な加圧機構やバネを必要としないためエンドエフェクタ1とロボットアーム201を小さくすることができ、マニピュレータAの小型化が可能である。
【0044】
また、エンドエフェクタ1の着脱の度に接点同士が擦れて清掃効果が働くために信頼性の高い接点構成を実現することができる。
【符号の説明】
【0045】
A マニピュレータ
1 エンドエフェクタ
201 ロボットアーム
100 指モジュール
105a、105b アクチュエータ
110 力覚センサ
120a、b、c、d クサビ面
181 信号線
183 電源線
212 凸部
220a、b、c、d クサビ面
300a、b、c、d 係合部材
301 接点配線
121 付き当て面(エンドエフェクタ)
221 付き当て面(ロボットアーム)
122、222 電気接点部
321、322 付き当て面(係合部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電気接点部を備えた第一の付き当て面を有するロボットアームと、
第二の電気接点部を備えた第二の付き当て面を有する前記ロボットアームに接続されるエンドエフェクタと、
接点配線を配し、前記第一及び第二の付き当て面と係合する内面を備える空隙を有する係合部材と、
を有し、
前記ロボットアームと前記エンドエフェクタとを前記係合部材により係合させると共に、前記第一の電気接点部と前記第二の電気接点部と前記接点配線とを接触させることで、前記ロボットアームと前記エンドエフェクタとが電気的に導通されることを特徴とするマニピュレータ。
【請求項2】
前記係合部材は、前記ロボットアームと前記エンドエフェクタの係合部の周囲に間欠的に複数配置されているとともに、前記係合部材のひとつは前記第一及び第二の付き当て面が形成された部位と嵌合するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のマニピュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−161880(P2012−161880A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24017(P2011−24017)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】