説明

マラリアの検出のためのプローブ及びプライマー

本開示は、オリゴヌクレオチドプローブを利用することによって血液サンプルから単離された核酸を用いる、熱帯熱マラリア原虫又は三日熱マラリア原虫によって引き起こされるマラリア感染の検出及び定量化に使用される方法について説明する。本明細書中で検出に利用される方法はリアルタイムPCRによるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)又は三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)によって引き起こされるマラリア感染を検出及び定量化する方法に関する。該方法は「オリゴヌクレオチド」プローブを利用することによって血液サンプルから単離された核酸を使用する。
【背景技術】
【0002】
マラリアは依然として世界規模の公衆衛生において緊急課題となっており、年間死亡者数は70万人〜270万人であり、犠牲者の75%超がアフリカの子供たちである。過去35年間で、マラリアの発生率は2倍〜3倍に増大している。現在、3億人〜5億人の人々が罹患しており、主にアフリカにおいて約100万人の死者が出ている。1955年に、世界保健機関(WHO)はクロロキンを用いた臨床治療によって、またDDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)を用いて蚊の個体数を抑えることによってマラリアを根絶する大規模な計画を開始した。1960年代後半に廃止されたが、この計画は世界中の多くの国々でこの疾患の負担の重要かつ持続的な軽減をもたらしている。しかしながら、多くの国々でマラリアの再流行が起こっている。これは基本的に薬物耐性寄生虫の出現及び蔓延に起因するものである。殺虫剤耐性の蚊の進化、人口密度の増加(世界人口は1963年から倍増している)、地球温暖化(これにより以前は範囲外であった地域へと媒介生物が広がっている)、継続する貧困、政情不安定、及び感染性疾患による生産性の低下というこれらの要因全てによって、マラリアの治療及び制御に対する安定な公衆衛生インフラの維持が損なわれている。
【0003】
ヒトマラリアは、世界中のほとんどの熱帯及び亜熱帯の生態系に特有の寄生虫性疾患である。マラリア寄生虫はプラズモディウム属に属し、非ヒト霊長類の幾つかの種を含む多くの脊椎動物宿主に感染する。熱帯熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫(P. malariae)、卵形マラリア原虫(P. ovale)及び三日熱マラリア原虫(P. vivax)という4つのプラズモディウム種がヒトに寄生性である。これらの中でも、熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)及び三日熱マラリア原虫が、それぞれ最高のマラリア罹患率及び死亡率と関連している。
【0004】
マラリア患者の適切な治療には、マラリアの正確かつ迅速な診断が不可欠である。血液塗抹標本の顕微鏡検査は、マラリア診断にとって「究極の判断基準(gold standard)」である。この方法は高感度で特異的であるが、面倒であり時間がかかる。一次医療レベルでマラリアを診断するための光学顕微鏡検査の幾つかの制限のために、PCR及び迅速抗原捕捉検査(rapid antigen capture assays)等の代替方法が開発されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、マラリアの検出のためのプローブ及びプライマーを提供することである。
【0006】
本開示の別の目的は、マラリアの検出のためのPCR反応混合物を提供することである。
【0007】
本開示のまた別の目的は、マラリア感染を検出及び定量化する方法を提供することである。
【0008】
本開示のさらに別の目的は、マラリア感染の検出のためのキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本開示は配列番号1、配列番号2及び配列番号3を有するプローブ;配列番号4又は配列番号10、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9のプライマー;マラリアの検出のためのPCR反応混合物であって、検出対象のサンプル、核酸増幅試薬、配列番号1、配列番号2及び配列番号3を含む群から選択されるプローブ、並びに配列番号4又は配列番号10、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9を含む群から選択される対応するプライマーを含む、反応混合物;マラリア感染を検出し、任意で定量化する方法であって、a)検出対象のサンプル、核酸増幅試薬、配列番号1、配列番号2及び配列番号3を含む群から選択されるプローブ、並びに配列番号4又は配列番号10、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9を含む群から選択される対応するプライマーを含む反応混合物を調製する工程、b)上記反応混合物に対してPCRを行い、標的配列のコピーを得た後、マラリア感染を検出するために蛍光シグナルの任意の増大を測定する、PCRを行い、測定する工程、並びにc)任意で検出されたシグナルから標準曲線を作成し、マラリア感染を定量化するためにコピー数を得る、作成する工程を含む、方法;並びにマラリア感染の検出のためのキットであって、単独の又は組み合わせた配列番号1、配列番号2及び配列番号3の二重標識プローブ、単独の又は組み合わせた配列番号4又は配列番号10、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9の対応するプライマー対、並びに増幅試薬を含む、キットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】熱帯熱マラリア原虫の標準曲線を示す図である。
【図2】三日熱マラリア原虫の標準曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は配列番号1、配列番号2及び配列番号3を有するプローブに関する。
【0012】
本開示の一実施形態では、上記プローブはマラリアの検出のためのものである。
【0013】
本開示の別の実施形態では、プローブは5’末端で蛍光物質、内部領域又は3’末端でクエンチャーという検出可能な標識と結合している。
【0014】
本開示のまた別の実施形態では、蛍光物質はフルオレセイン、及びフルオレセイン誘導体のFAM、VIC、JOE、5−(2’−アミノエチル)アミノナフタレン−1−スルホン酸、クマリン及びクマリン誘導体、ルシファーイエロー、テキサスレッド、テトラメチルローダミン、6−カルボキシフルオレセイン、テトラクロロ−6−カルボキシフルオレセイン、5−カルボキシローダミン、並びにシアニン色素を含む群から選択される。
【0015】
本開示のさらに別の実施形態では、クエンチャーはテトラメチルローダミン[TAMRA]、4’−(4−ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸、4−ジメチルアミノフェニルアゾフェニル−4’−マレイミド、テトラメチルローダミン、カルボキシテトラメチルローダミン及びBHQ色素を含む群から選択される。
【0016】
本開示のさらに別の実施形態では、好ましい蛍光物質は5’末端の6−カルボキシフルオレセイン[FAM]であり、好ましいクエンチャーは3’末端のテトラメチルローダミン[TAMRA]、又は内部領域若しくは3’末端のブラックホールクエンチャー1(BHQ1)である。
【0017】
本開示は配列番号4又は配列番号10、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9のプライマーに関する。
【0018】
本開示の一実施形態では、配列番号4又は配列番号10、配列番号5及び配列番号6を有するプライマーはセンスプライマーであり、配列番号7、配列番号8及び配列番号9を有するプライマーはアンチセンスプライマーである。
【0019】
本開示の別の実施形態では、配列番号4又は配列番号10及び配列番号7を有するプライマーは配列番号1のプローブに対応し、配列番号5及び配列番号8を有するプライマーは配列番号2のプローブに対応し、配列番号6及び配列番号9を有するプライマーは配列番号3のプローブに対応する。
【0020】
本開示は、マラリアの検出のためのPCR反応混合物であって、検出対象のサンプル、核酸増幅試薬、配列番号1、配列番号2及び配列番号3を含む群から選択されるプローブ、並びに配列番号4又は配列番号10、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9を含む群から選択される対応するプライマーを含む、反応混合物に関する。
【0021】
本開示の一実施形態では、配列番号4又は配列番号10及び配列番号7を有するプライマーは配列番号1のプローブに対応し、配列番号5及び配列番号8を有するプライマーは配列番号2のプローブに対応し、配列番号6及び配列番号9を有するプライマーは配列番号3のプローブに対応する。
【0022】
本開示の別の実施形態では、マラリア感染は血液サンプル、唾液サンプル及び尿サンプルを含む群から選択されるサンプルから検出される。
【0023】
本開示は、マラリア感染を検出し、任意で定量化する方法であって、
(a)検出対象のサンプル、核酸増幅試薬、配列番号1、配列番号2及び配列番号3を含む群から選択されるプローブ、並びに配列番号4又は配列番号10、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9を含む群から選択される対応するプライマーを含む反応混合物を調製する工程、
(b)上記反応混合物に対してPCRを行い、標的配列のコピーを得た後、マラリア感染を検出するために蛍光シグナルの増大を測定する、PCRを行い、測定する工程、並びに
(c)任意で検出されたシグナルから標準曲線を作成し、マラリア感染を定量化するためにコピー数を得る、作成する工程を含む、方法に関する。
【0024】
本開示の一実施形態では、配列番号4又は配列番号10、配列番号5及び配列番号6を有するプライマーはセンスプライマーであり、配列番号7、配列番号8及び配列番号9を有するプライマーはアンチセンスプライマーである。
【0025】
本開示の別の実施形態では、配列番号4又は配列番号10及び配列番号7を有するプライマーは配列番号1のプローブに対応し、配列番号5及び配列番号8を有するプライマーは配列番号2のプローブに対応し、配列番号6及び配列番号9を有するプライマーは配列番号3のプローブに対応する。
【0026】
本開示のまた別の実施形態では、蛍光シグナルは5’末端に蛍光物質、内部領域又は3’末端にクエンチャーを有するプローブによって発生する。
【0027】
本開示のさらに別の実施形態では、蛍光物質はフルオレセイン、及びフルオレセイン誘導体のFAM、VIC、JOE、5−(2’−アミノエチル)アミノナフタレン−1−スルホン酸、クマリン及びクマリン誘導体、ルシファーイエロー、テキサスレッド、テトラメチルローダミン、6−カルボキシフルオレセイン、テトラクロロ−6−カルボキシフルオレセイン、5−カルボキシローダミン並びにシアニン色素を含む群から選択される。
【0028】
本開示のさらに別の実施形態では、クエンチャーはテトラメチルローダミン[TAMRA]、4’−(4−ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸、4−ジメチルアミノフェニルアゾフェニル−4’−マレイミド、テトラメチルローダミン、カルボキシテトラメチルローダミン及びBHQ色素を含む群から選択される。
【0029】
本開示のさらに別の実施形態では、マラリア感染は血液サンプル、唾液サンプル及び尿サンプルを含む群から選択されるサンプルから検出される。
【0030】
本開示は、マラリア感染の検出のためのキットであって、単独の又は組み合わせた配列番号1、配列番号2及び配列番号3の二重標識プローブ、単独の又は組み合わせた配列番号4又は配列番号10、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9の対応するプライマー対、並びに増幅試薬を含む、キットに関する。
【0031】
本開示の一実施形態では、増幅試薬は塩化マグネシウム、Taqポリメラーゼ及び増幅バッファーを含む。
【0032】
プローブ及びプライマーの設計に選択された領域
配列番号1を有するプローブは配列番号4又は配列番号10及び配列番号7を有するプライマーと共に、熱帯熱マラリア原虫の赤血球結合タンパク質領域に対して設計された。同様に、配列番号2のプローブは配列番号5及び配列番号8のプライマーと共に、熱帯熱マラリア原虫のVar遺伝子領域に対して設計された。配列番号3のプローブは配列番号6及び配列番号9のプライマーと共に、三日熱マラリア原虫の赤血球結合タンパク質遺伝子に対して設計された。
【0033】
本開示の目的は、感染した血液サンプル、唾液サンプル又は尿サンプルから単離されたDNAからの、熱帯熱マラリア原虫又は三日熱マラリア原虫によって引き起こされるマラリア感染の検出である。検出方法は、蛍光物質及びクエンチャーで標識された「オリゴヌクレオチド」プローブを用いたリアルタイムPCRによって蛍光の増大をモニタリングすることである。
【0034】
本開示は、リアルタイムPCR法を利用する、オリゴヌクレオチドプローブ及びそれらのそれぞれのプライマーを用いたマラリア感染の検出に関する。
【0035】
上述の「オリゴヌクレオチド」プローブは、5’末端で蛍光物質、内部領域又は3’末端でクエンチャーと結合している。
【0036】
本開示のさらに別の実施形態では、上記蛍光物質はフルオレセイン、及びフルオレセイン誘導体のFAM、VIC、JOE、5−(2’−アミノエチル)アミノナフタレン−1−スルホン酸、クマリン及びクマリン誘導体、ルシファーイエロー、テキサスレッド、テトラメチルローダミン、6−カルボキシフルオレセイン、テトラクロロ−6−カルボキシフルオレセイン、5−カルボキシローダミン、並びにシアニン色素を含む群から選択される。
【0037】
本開示のさらに別の実施形態では、上記クエンチャーはテトラメチルローダミン[TAMRA]、4’−(4−ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸、4−ジメチルアミノフェニルアゾフェニル−4’−マレイミド、テトラメチルローダミン、カルボキシテトラメチルローダミン及びBHQ色素を含む群から選択される。
【0038】
本開示の別の実施形態では、上記蛍光物質は6−カルボキシフルオレセイン[FAM]であり、クエンチャーは内部に存在する場合、ブラックホールクエンチャー1[BHQ1]であり、3’末端に存在する場合、テトラメチルローダミン[TAMRA]又はブラックホールクエンチャー1[BHQ1]である。
【0039】
本開示によると、配列番号1及び配列番号2で指定されるプローブは、熱帯熱マラリア原虫の検出用に設計されている。配列番号4又は配列番号10及び配列番号7は配列番号1のプローブに対して、配列番号5及び配列番号8は配列番号2のプローブに対してそれぞれ設計されている。
【0040】
同様に、配列番号3のプローブは、配列番号6及び配列番号9のプライマーそれぞれと組み合わせて三日熱マラリア原虫の検出用に設計されている。
【0041】
本開示によると、配列番号4又は配列番号10、配列番号5及び配列番号6はセンスプライマーであり、配列番号7、配列番号8及び配列番号9はアンチセンスプライマーである。
【0042】
本開示は、マラリア感染を検出する方法であって、核酸増幅試薬、配列番号1、配列番号2及び配列番号3に指定されるオリゴヌクレオチドプローブ、それらの対応するプライマー、並びにマラリアDNAサンプルを含む上記PCR混合物に対してリアルタイムPCRを用いた増幅を行い、標的配列のコピーを得る、方法に関する。増幅は蛍光シグナルの増大によって測定し、生じたシグナルの量を非感染DNAサンプルと比較する。
【0043】
本開示によると、オリゴヌクレオチドプローブのサイズは27ヌクレオチド〜29ヌクレオチドの範囲である。設計したプローブは5’末端に蛍光物質、内部領域又は3’末端にクエンチャーを有する。
【0044】
5’末端の蛍光物質はFAM(6−カルボキシフルオレセイン)であり、クエンチャーは内部に存在する場合、ブラックホールクエンチャー1[BHQ1]であり、3’末端に存在する場合、テトラメチルローダミン[TAMRA]又はブラックホールクエンチャー1[BHQ1]である。
【0045】
本開示は、血液サンプル、尿サンプル又は唾液サンプルから単離されたDNAを用いる、熱帯熱マラリア原虫又は三日熱マラリア原虫によって引き起こされるマラリア感染の検出に使用される。検出に利用される方法はリアルタイムPCRを用いるものである。
【0046】
本開示によると、「オリゴヌクレオチドプローブ」とは、デオキシリボ核酸(DNA)の短配列を指す。このオリゴヌクレオチドプローブは、非感染DNAへの非特異的なハイブリダイゼーションを示すことなく、標的DNAに特異的にハイブリダイズすることができる。
【0047】
ここで利用されるプローブは、Taqman chemistryの原理に従う。Double−Dyeオリゴヌクレオチド又は二重標識プローブとも呼ばれるTaqManプローブは、最も広く使用されているタイプのプローブである。
【0048】
本開示によるオリゴヌクレオチドプローブは、熱帯熱マラリア原虫又は三日熱マラリア原虫によって引き起こされるマラリア感染をリアルタイムPCRによって特異的に増幅し、検出するために使用することのできるそれぞれのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーと共にさらに提供される。上記でクレームされるプライマーのサイズは、20ヌクレオチド〜28ヌクレオチドの範囲である。熱帯熱マラリア原虫及び三日熱マラリア原虫に対する対応するプローブ及びプライマーの配列を表1、表2及び表3に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
本開示によるオリゴヌクレオチドプローブは、熱帯熱マラリア原虫又は三日熱マラリア原虫によって引き起こされるマラリア感染の検出に適用することができる。
【0053】
マラリア感染の検出におけるこれらのプローブ及びプライマーの効率を、以下の実施例で説明する。
【0054】
本開示を以下の実施例及び図面によってさらに詳しく説明する。しかしながら、これらの実施例は本開示の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0055】
実施例1
熱帯熱マラリア原虫に対して陽性の10個の血液サンプル、及び10個の非感染血液サンプルからなるサンプルパネルからDNAを単離した。同様に、市販のDNA単離キットを用いて、三日熱マラリア原虫に対して陽性の10個の血液サンプル、及び10個の非感染血液サンプルからDNAを単離した。精製したDNAに対し、熱帯熱マラリア原虫の検出のために、配列番号1のプローブを配列番号4若しくは配列番号10及び配列番号7と共に、又は配列番号2のプローブを配列番号5及び配列番号8と共に用いたリアルタイムPCRを行った。同様に、配列番号3を配列番号6及び配列番号9と共に、三日熱マラリア原虫の検出に使用した。いずれの場合にも同じ濃度のリアルタイムPCR試薬、鋳型及びプライマーを使用し、サイクル条件も全ての反応について一定に保った。PCRミックスの組成及びPCR条件を表4及び表5に挙げる。
【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
得られた結果から、熱帯熱マラリア原虫の検出用に設計された配列番号1及び配列番号2に指定されるプローブが、感染サンプルのみを40サイクル(陽性サンプルカットオフ値)の内に検知することで100%の特異性及び感度を示し、陰性サンプルに対する誤った増幅を全く示さなかったことが示された(表6)。
【0059】
三日熱マラリア原虫の検出用に設計された配列番号3も、感染サンプルのみを40サイクル(陽性サンプルカットオフ値)の内に検知することで100%の特異性及び感度を示し、陰性サンプルに対する誤った増幅を全く示さなかった(表7)。
【0060】
【表6】

【0061】
【表7】

【0062】
実施例2
別の研究では、25個の感染血液サンプルからなる二重盲検サンプルパネルからDNAを単離した。次いで、感染血液サンプルからのマラリアの検出における配列番号1、配列番号2及び配列番号3の効率をリアルタイムPCRによって試験した。得られた結果を次に、マラリア検出のための他の市販の技法、すなわち(viz)顕微鏡検査及び迅速診断検査(RDT)と比較した。
【0063】
得られた結果から、配列番号1、配列番号2及び配列番号3が、他の2つの技法によって単独感染であると示された混合感染の症例であっても検知することが示された。混合感染の場合のCt値を検討すると、三日熱マラリア原虫感染について得られたCtは遅く、そのCtでの寄生虫量はおよそ3寄生虫/μl〜5寄生虫/μlであり、これは非常に低い数値である。顕微鏡検査及びRDTによっては、そのように低いレベルの寄生虫血症を検出することができず、したがってこれら2つの試験によると感染は単独感染であると報告される。他の2つの試験によっては検出されず、結果が非検出と示されたサンプルが幾つかあった(表8)。この比較によって、設計された配列番号1、配列番号2及び配列番号3がそれらのそれぞれのプライマーと共に、マラリア感染の検出において100%の特異性及び感度を示すと結論づけることができる。
【0064】
【表8】

【0065】
実施例3
標準曲線から得られるCt値を比較することによっても、感染サンプルの寄生虫量を定量することができる(図1、図2)及び(表9、表10)。
【0066】
コピー数の算出プロトコル
およそ25μlのマラリアDNA(熱帯熱マラリア原虫又は三日熱マラリア原虫)に対し、熱帯熱マラリア原虫については配列番号4又は配列番号10及び配列番号7のプライマー、三日熱マラリア原虫については配列番号6及び配列番号9のプライマーと共に、従来のPCR装置を用いたPCRを行った。PCRの後、増幅したサンプルをアガロースゲル上で泳動し、エチジウムブロマイドで染色した。次いで、アンプリコンのバンドをゲルから切り出し、Qiaquickゲル抽出キットを用いて精製した。吸光度(2μlのDNA)を、260nmでnanodropを用いて推定した。DNAの吸光係数は、個々の塩基の吸光係数を合計することによって算出した。
【0067】
アンプリコンのナノモル濃度(Nanomoles)は以下の方程式を用いて算出した:
nmol/ml=1000×OD260(1cm)×1ml(体積)/アンプリコンの吸光係数
コピー数は以下の式を用いて算出した:
コピー数/ml=(mol/ml)×アボガドロ数
熱帯熱マラリア原虫についての算出値:
OD260=0.46
吸光係数=3282.12
nmol/ml=0.14
コピー数/ml=8.44×1013
三日熱マラリア原虫についての算出値:
OD260=0.182
吸光係数=2699.4
nmol/ml=0.0674
コピー数/ml=4.06×1013
リアルタイムPCRを用いて10倍希釈〜10倍希釈のアンプリコンをランすることによって、純粋なアンプリコンのコピー数から標準曲線を作成した。標準曲線から得られるCtから、未知のサンプルについてコピー数を算出することができる。
【0068】
注記:上述のプロトコルは、var遺伝子領域についてのコピー数の算出のための、配列番号5及び配列番号8のプライマーを用いた標準曲線の作成に適用可能である。
【0069】
【表9】

【0070】
【表10】

【0071】
実施例4:尿サンプルからのマラリア検出
市販のDNA単離キットを用いて、熱帯熱マラリア原虫及び三日熱マラリア原虫それぞれに対して陽性の10人のマラリア患者の尿サンプルからDNAを単離した。精製したDNAに対し、熱帯熱マラリア原虫の検出については配列番号1を配列番号4又は配列番号10及び配列番号7と共に用いたリアルタイムPCRを行い、又は三日熱マラリア原虫の検出については配列番号3を配列番号6及び配列番号9と共に用いた。いずれの場合にも同じ濃度のリアルタイムPCR試薬、鋳型及びプライマーを使用し、サイクル条件も全ての反応について一定に保った。
【0072】
得られた結果から、熱帯熱マラリア原虫及び三日熱マラリア原虫の検出用に設計された配列番号1及び配列番号3に指定されるプローブが、10個全ての陽性尿サンプルを40サイクル(陽性サンプルカットオフ値)の内に検知したことが示された(表11)。
【0073】
【表11】

【0074】
実施例5:唾液サンプルからのマラリア検出
市販のDNA単離キットを用いて、熱帯熱マラリア原虫及び三日熱マラリア原虫それぞれに対して陽性の5人のマラリア患者の唾液サンプルからDNAを単離した。精製したDNAに対し、熱帯熱マラリア原虫及び三日熱マラリア原虫それぞれの検出のために、配列番号1を配列番号4若しくは配列番号10及び配列番号7と共に、又は配列番号3を配列番号6及び配列番号9と共に用いたリアルタイムPCRを行った。いずれの場合にも同じ濃度のリアルタイムPCR試薬、鋳型及びプライマーを使用し、サイクル条件も全ての反応について一定に保った。
【0075】
得られた結果から、熱帯熱マラリア原虫及び三日熱マラリア原虫の検出用に設計された配列番号1及び配列番号3に指定されるプローブが、5個全ての陽性唾液サンプルを40サイクル(陽性サンプルカットオフ値)の内に検知したことが示された(表12)。
【0076】
【表12】

【0077】
結論
1)配列番号1、配列番号2及び配列番号3のオリゴヌクレオチドプローブは全ての陽性サンプルを検知し、非感染サンプルに対していかなる反応性も示さなかったため、それらが100%特異的であり、100%の感度を有することが示される。
【0078】
2)これらのプローブは、顕微鏡検査又はRDTによっては検出されなかった混合感染の症例を検知するうえで効率的である。
【0079】
3)これらのプローブは、感染サンプルにおける寄生虫量の定量に使用することもできる。
【0080】
4)最後に、配列番号1、配列番号2及び配列番号3のプローブは、それらのそれぞれのプライマーと共に、血液サンプル、尿サンプル及び唾液サンプルにおいてマラリア感染の症例を効果的に検出することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号2及び配列番号3を有するプローブ。
【請求項2】
マラリアの検出のためのものである、請求項1に記載のプローブ。
【請求項3】
5’末端で蛍光物質、内部領域又は3’末端でクエンチャーという検出可能な標識と結合している、請求項1に記載のプローブ。
【請求項4】
前記蛍光物質がフルオレセイン、及びフルオレセイン誘導体のFAM、VIC、JOE、5−(2’−アミノエチル)アミノナフタレン−1−スルホン酸、クマリン及びクマリン誘導体、ルシファーイエロー、テキサスレッド、テトラメチルローダミン、6−カルボキシフルオレセイン、テトラクロロ−6−カルボキシフルオレセイン、5−カルボキシローダミン、並びにシアニン色素を含む群から選択される、請求項3に記載のプローブ。
【請求項5】
前記クエンチャーが、テトラメチルローダミン[TAMRA]、4’−(4−ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸、4−ジメチルアミノフェニルアゾフェニル−4’−マレイミド、テトラメチルローダミン、カルボキシテトラメチルローダミン及びBHQ色素を含む群から選択される、請求項3に記載のプローブ。
【請求項6】
好ましい蛍光物質が5’末端の6−カルボキシフルオレセイン[FAM]であり、好ましいクエンチャーが3’末端のテトラメチルローダミン[TAMRA]、又は内部領域若しくは3’末端のブラックホールクエンチャー1(BHQ1)である、請求項4及び5に記載のプローブ。
【請求項7】
配列番号4又は配列番号10、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9のプライマー。
【請求項8】
配列番号4又は配列番号10、配列番号5及び配列番号6を有するプライマーがセンスプライマーであり、配列番号7、配列番号8及び配列番号9を有するプライマーがアンチセンスプライマーである、請求項7に記載のプライマー。
【請求項9】
配列番号4又は配列番号10及び配列番号7を有するプライマーが配列番号1のプローブに対応し、配列番号5及び配列番号8を有するプライマーが配列番号2のプローブに対応し、配列番号6及び配列番号9を有するプライマーが配列番号3のプローブに対応する、請求項8に記載のプライマー。
【請求項10】
マラリアの検出のためのPCR反応混合物であって、検出対象のサンプル、核酸増幅試薬、配列番号1、配列番号2及び配列番号3を含む群から選択されるプローブ、並びに配列番号4又は配列番号10、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9を含む群から選択される対応するプライマーを含む、反応混合物。
【請求項11】
配列番号4又は配列番号10及び配列番号7を有するプライマーが配列番号1のプローブに対応し、配列番号5及び配列番号8を有するプライマーが配列番号2のプローブに対応し、配列番号6及び配列番号9を有するプライマーが配列番号3のプローブに対応する、請求項10に記載の反応混合物。
【請求項12】
マラリア感染が血液サンプル、唾液サンプル及び尿サンプルを含む群から選択されるサンプルから検出される、請求項10に記載の反応混合物。
【請求項13】
マラリア感染を検出し、任意で定量化する方法であって、
(a)検出対象のサンプル、核酸増幅試薬、配列番号1、配列番号2及び配列番号3を含む群から選択されるプローブ、並びに配列番号4又は配列番号10、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9を含む群から選択される対応するプライマーを含む反応混合物を調製する工程、
(b)前記反応混合物に対してPCRを行い、標的配列のコピーを得た後、マラリア感染を検出するために蛍光シグナルの任意の増大を測定する工程、並びに
(c)検出されたシグナルから、マラリア感染を定量化するためのコピー数を得るために、標準曲線を任意で作成する工程を含む、方法。
【請求項14】
配列番号4又は配列番号10、配列番号5及び配列番号6を有するプライマーがセンスプライマーであり、配列番号7、配列番号8及び配列番号9を有するプライマーがアンチセンスプライマーである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
配列番号4又は配列番号10及び配列番号7を有するプライマーが配列番号1のプローブに対応し、配列番号5及び配列番号8を有するプライマーが配列番号2のプローブに対応し、配列番号6及び配列番号9を有するプライマーが配列番号3のプローブに対応する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記蛍光シグナルが、5’末端に蛍光物質、内部領域又は3’末端にクエンチャーを有するプローブによって発生する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記蛍光物質がフルオレセイン、及びフルオレセイン誘導体のFAM、VIC、JOE、5−(2’−アミノエチル)アミノナフタレン−1−スルホン酸、クマリン及びクマリン誘導体、ルシファーイエロー、テキサスレッド、テトラメチルローダミン、6−カルボキシフルオレセイン、テトラクロロ−6−カルボキシフルオレセイン、5−カルボキシローダミン並びにシアニン色素を含む群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記クエンチャーがテトラメチルローダミン[TAMRA]、4’−(4−ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸、4−ジメチルアミノフェニルアゾフェニル−4’−マレイミド、テトラメチルローダミン、カルボキシテトラメチルローダミン及びBHQ色素を含む群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
マラリア感染が血液サンプル、唾液サンプル及び尿サンプルを含む群から選択されるサンプルから検出される、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
マラリア感染の検出のためのキットであって、単独の又は組み合わせた配列番号1、配列番号2及び配列番号3の二重標識プローブ、単独の又は組み合わせた配列番号4又は配列番号10、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9の対応するプライマー対、並びに増幅試薬を含む、キット。
【請求項21】
前記増幅試薬が塩化マグネシウム、Taqポリメラーゼ及び増幅バッファーを含む、請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−519472(P2012−519472A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550704(P2011−550704)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【国際出願番号】PCT/IN2010/000049
【国際公開番号】WO2010/097803
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(511198069)ビッグテック プライベート リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】BIGTEC PRIVATE LIMITED
【住所又は居所原語表記】II Floor, SID Entrepreneurship Building, Indian Institute of Science  IISc  Campus, Malleshwaram,Bangalore 560 012, Karnataka INDIA
【Fターム(参考)】