説明

マルチヒュージブルリンク

【課題】配置スペースが狭い場合に対しても、配置が可能なマルチヒュージブルリンクを提供する。
【解決手段】長尺状の主導体11の長手方向中間部に圧延加工により主導体の主素線部12の断面積より小さい断面積に形成されて所定値の電流で溶断可能な主溶断部12と、主溶断部に溶着され主導体より低融点の低融点金属体とからなる第1のヒュージブルリンク2と、長尺状の分岐導体21,31の長手方向中間部に圧延加工により分岐導体の分岐素線部22,32の断面積より小さい断面積に形成されて所定値の電流で溶断可能な分岐溶断部23,33と、分岐溶断部に溶着され分岐導体より低融点の低融点金属体とからなる第2、第3のヒュージブルリンク3,4と、第1のヒュージブルリンク2の長手方向の一端に第2、第3のヒュージブルリンク3,4の一端を接続し、主導体から分岐導体を分岐するジョイント部5とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等においてバッテリーの電流を車体の負荷に分配供給するために用いられるマルチヒュージブルリンクに関し、特に狭い配置スペースに対しても配置することが可能なマルチヒュージブルリンクに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、バッテリーの電流を車体の負荷に分配供給するためにヒュージブルリンクが用いられている。特許文献1にはヒュージブルリンクユニットが記載されている。
【0003】
特許文献1記載のヒュージブルリンクユニットは複数のヒュージブルリンクを係合させて組み付けることにより形成されるものであり、バッテリー端子に接続される一のヒュージブルリンクに対し、車体の負荷からの接続電線に接続される他のヒュージブルリンクを所定の交差角度で交差するように組み付けている。一のヒュージブルリンク及び他のヒュージブルリンクの交差状態を保持するため、これらを所定の交差角度で保持する保持用部材を用いている。特許文献1の複数のヒュージブルリンク及び保持用部材は、いずれも導電性金属板を立体的な3次元構造となるように加工し、この3次元構造を組み付けることによりバッテリーと接続電線との間に配置されるものであり、ヒュージブルリンクユニットの全体が立体的な3次元構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−251176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のヒュージブルリンクユニットは立体的な3次元構造となって、バッテリーの周囲に配置されるため、バッテリーの周囲の配置スペースが狭い場合には、ヒュージブルリンクユニットを配置することができない問題がある。
【0006】
そこで、本発明は配置スペースが狭い場合に対しても、配置が可能なマルチヒュージブルリンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明のマルチヒュージブルリンクは、長尺状の主導体の長手方向中間部に圧延加工により前記主導体の主素線部の断面積より小さい断面積に形成されて所定値の電流で溶断可能な主溶断部とからなる第1のヒュージブルリンクと、長尺状の分岐導体の長手方向中間部に圧延加工により前記分岐導体の分岐素線部の断面積より小さい断面積に形成されて所定値の電流で溶断可能な分岐溶断部とからなる第2、第3のヒュージブルリンクと、前記第1のヒュージブルリンクの長手方向の一端に前記第2、第3のヒュージブルリンクの一端を接続し、前記主導体から前記分岐導体を分岐するジョイント部とからなることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のマルチヒュージブルリンクであって、前記主導体が複数本の素線で形成され、前記分岐導体が複数本の素線で形成され、前記主溶断部と前記分岐溶断部は複数本の素線の圧延加工により形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のマルチヒュージブルリンクであって、前記分岐導体は、前記主導体の複数本の素線を分岐容量に応じて分岐した素線で形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のマルチヒュージブルリンクであって、前記主溶断部と前記分岐溶断部は、前記ジョイント部で前記主導体と前記分岐導体とを分岐させた後に圧延加工により形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、第2,第3のヒュージブルリンクがジョイント部によって第1のヒュージブルリンクに接続されることにより主導体が複数の分岐導体に分岐している。従って、電源等からの電流の分配が可能となる。
【0012】
また、第1のヒュージブルリンクに設けられた主溶断部及び第2,第3のヒュージブルリンクに設けられた分岐溶断部がそれぞれの素線部よりも断面積が小さくなっているため、電気抵抗が大きく電流によって効率良く温度上昇する。
【0013】
従って、それぞれのヒュージブルリンクは所定値以上の電流が流れると、主溶断部及び分岐溶断部が短時間で溶断するため、マルチヒュージブルリンクに接続される接続電線を保護することができる。
【0014】
以上のマルチヒュージブルリンクは、第1,第2,第3のヒュージブルリンクがいずれも長尺状の導体によって形成されているため、電線タイプのマルチヒュージブルリンクとなっており、立体的な3次元構造となっていない。このため狭い配置スペースに対しても簡単に配置することができる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、主導体及び分岐導体が複数本の素線によって形成され、主溶断部及び分岐溶断部が複数本の素線の圧延加工によって形成されているため、主溶断部及び分岐溶断部を簡単に形成することができる。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、分岐導体が主導体の複数本の素線を分岐容量に応じて分岐することにより形成されるため、分岐導体を簡単に分岐させることができる。
【0017】
請求項4記載の発明によれば、主溶断部及び分岐溶断部が主導体と分岐導体との分岐の後の圧延加工によって形成されるため、主溶断部及び分岐溶断部を同時に形成することができ、製造工程を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態のマルチヒュージブルリンクを示す斜視図である。
【図2】(a)〜(c)は第1実施形態のマルチヒュージブルリンクを製造する工程を示す斜視図である。
【図3】マルチヒュージブルリンクをバッテリーに接続した状態を示す斜視図である。
【図4】本発明の第2実施形態のマルチヒュージブルリンクを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図示する実施形態により具体的に説明する。なお、各実施形態において同一の部材には同一の符号を付して説明する。
【0020】
〔第1実施形態〕
図1は本発明の第1実施形態のマルチヒュージブルリンク1を示し、第1のヒュージブルリンク2と、第1のヒュージブルリンク2から分岐した第2のヒュージブルリンク3及び第3のヒュージブルリンク4とを有している。
【0021】
第1のヒュージブルリンク1は長尺状の主導体11を有し、第2及び第3のヒュージブルリンク3、4は長尺状の分岐導体21、31を有している。これらの主導体11、分岐導体21、31は導電性金属からなる複数本の素線を撚った撚り線によって形成されている。導電性金属としては、銅、銀、アルミニウムあるいはこれらの合金等を用いることができる。このように第1、第2、第3の導体11、21、31によって形成されたマルチヒュージブルリンク1は電線タイプとなっており、立体的な3次元構造となることがない。
【0022】
図2(a)に示すように、第1のヒュージブルリンク2は長尺状の主導体11の長手方向の中間部に主溶断部13が設けられている。主溶断部13は主導体11の長手方向中間部を圧延加工することにより形成されるものであり、主導体11の他の部分よりも断面積が小さくなっている。すなわち、主溶断部13は図1(a)のD領域で示す主素線部12より小さい断面積に形成されるものである。断面積が小さくなっていることにより主溶断部13の熱容量は主素線部12の熱容量よりも小さくなる。又、主溶断部13の電気抵抗が主素線部12の電気抵抗よりも大きくなっており、主素線部12に比べて発熱量が多く主素線部12よりも大きく温度上昇する。
【0023】
主溶断部13には低融点金属体14が溶着される。低融点金属体14は主導体11よりも低融点の金属が用いられる。低融点の金属としては、例えば錫、カドミウム、鉛、ビスマス、インジウムあるいはこれらの合金等を用いることができる。低融点金属体14が主溶断部13に溶着されることにより、低融点金属体14が主溶断部13と合金化すると共に主溶断部13に拡散する。この低融点金属体14の合金化及び拡散によって主溶断部13の融点が主導体11の主素線部12の融点よりも低下するため、主溶断部13は主素線部12よりも低い温度で溶断することができる。この主溶断部13の溶断により電流の供給が停止する。これにより過電流が第1のヒュージブルリンク2の下流側に流れることがなく、下流側に接続される第2及び第3のヒュージブルリンク3、4及びこれらのヒュージブルリンク3、4に接続される負荷からの接続電線を保護することができる。
【0024】
第1のヒュージブルリンク2は車載のバッテリー等の電源に接続されるものであり、一端には図2(b)で示すように端子金具40が取り付けられる。端子金具40はバッテリーのバッテリー端子(バッテリーポスト)に接続される端子部41と、端子部41に連続状に形成された加締め部42とを備えている。加締め部42は主導体11に加締められ、この加締めによって端子金具40が第1のヒュージブルリンク2に取り付けられる。
【0025】
図2(c)は第2及び第3のヒュージブルリンク3、4を示す。第2及び第3のヒュージブルリンク3、4はジョイント部5によって第1のヒュージブルリンク2から分岐するように第1のヒュージブルリンク2の一端に接続され、第1のヒュージブルリンク2からの電流を分配する。この第2及び第3のヒュージブルリンク3、4の下流側には負荷からの接続電線が接続される。
【0026】
第2及び第3のヒュージブルリンク3、4においては、長尺状の分岐導体21、31の長手方向の中間部に分岐溶断部23、33が設けられている。これらの分岐溶断部23、33は分岐導体21、31の長手方向中間部を圧延加工することにより形成されるものであり、分岐導体21、31の他の部位である分岐素線部22、32よりも断面積が小さくなっている。断面積が小さくなっていることにより分岐溶断部23、33は分岐素線部22、32よりも熱容量が小さくなると共に、分岐素線部22、32の電気抵抗よりも大きな電気抵抗となっている。これにより分岐溶断部23、33は分岐素線部22、32に比べて発熱量が多く、分岐素線部22、32よりも大きく温度上昇する。
【0027】
分岐溶断部23、33には低融点金属体24、34が溶着される。低融点金属体24、34は分岐導体21、31よりも低融点の金属、例えば錫、カドミウム、鉛、ビスマス、インジウムあるいはこれらの合金等が用いられる。低融点金属体24、34が分岐溶断部23、33に溶着されることにより、低融点金属体24、34が分岐溶断部23、33と合金化すると共に分岐溶断部23、33に拡散する。この低融点金属体24、34の合金化及び拡散によって分岐溶断部23、33の融点が分岐導体21、31の分岐素線部22、32の融点よりも低下するため、分岐溶断部23、33は分岐素線部22、32よりも低い温度で溶断することができる。この分岐溶断部23、33の溶断により電流の供給が停止する。これにより過電流が第2及び第3のヒュージブルリンク3、4の下流側に流れることがなく、下流側に接続される負荷からの接続電線を保護することができる。
【0028】
図1に示すようにジョイント部5は第2、第3のヒュージブルリンク3、4を第1のヒュージブルリンク2の長手方向の一端で接続するものである。第2及び第3のヒュージブルリンク3、4の接続に際しては、複数本の素線からなるこれらのヒュージブルリンク3、4の分岐導体21、31を複数本の素線からなる第1のヒュージブルリンク2の主導体11に半田付け等の溶接により行うことができる。この場合、第2及び第3のヒュージブルリンク3、4の分岐導体21、31における素線は第1のヒュージブルリンク2の主導体11からの分岐容量に応じた本数が接続される。ジョイント部5は以上のヒュージブルリンク2、3、4の接続部分を覆うことにより接続部分における素線を保護している。
【0029】
図3はこの実施形態のマルチヒュージブルリンク1を車載のバッテリー45に取り付けた状態を示す。バッテリー45への取り付けにおいては、第1のヒュージブルリンク2に取り付けた端子金具40にバッテリー45のバッテリー端子47を貫通させ、接続ボルト49を締め付けることにより行うことができる。これに対し第1のヒュージブルリンク2から分岐している第2及び第3のヒュージブルリンク3、4の下流側には車体の負荷からの接続電線が接続される。これによりバッテリー45の電流を第2及び第3のヒュージブルリンク3、4から接続電線に分配供給することができる。
【0030】
この実施形態のマルチヒュージブルリンク1は電線タイプとなっており、立体的な3次元構造となっていない。このため、狭い配置スペースに対しても簡単に配置することができる。
【0031】
又、第1のヒュージブルリンク2の主溶断部13、第2及び第3のヒュージブルリンク3、4の分岐溶断部23、33は断面積が小さく、効率良く温度上昇すると共に低融点金属体14、24、34が溶着して低い温度での溶断が可能となっているため、所定値以上の過電流が流れるとこれらが短時間で溶断する。これによりマルチヒュージブルリンク1に接続される接続電線を保護することができる。
【0032】
〔第2実施形態〕
図4は本発明の第2実施形態のマルチヒュージブルリンク1Aを示す。
【0033】
マルチヒュージブルリンク1Aにおいては、第1のヒュージブルリンク2の主導体11を分岐することにより第2及び第3のヒュージブルリンク3A、4Aの分岐導体21、31が形成されるものである。すなわち、第1のヒュージブルリンク2の主導体11が複数本の素線の撚り線からなり、第2及び第3のヒュージブルリンク3A、4Aの分岐導体21、31はこの主導体11の撚り線を分岐することにより形成されており、これにより1本の電線を用いてマルチヒュージブルリンク1Aが形成される。
【0034】
この実施形態のマルチヒュージブルリンク1Aの製造は、第1のヒュージブルリンク2の主導体11の長手方向中間部を圧延加工して断面積の小さな主溶断部13を形成した後、主溶断部13の下流側の主導体11の中間部分を圧延して素線を固めることによりジョイント部5Aを形成する。そして、このジョイント部5Aの下流側の素線を2つに分岐して分岐導体21、31を形成し、分岐導体21、31の長手方向中間部を圧延加工して断面積が小さな分岐溶断部23、33を形成する。その後、主導体11の主溶断部13及び分岐導体21、31の分岐溶断部23、33に対してそれぞれの低融点金属体14、24、34を溶着してマルチヒュージブルリンク1Aとする。
【0035】
このような実施形態のマルチヒュージブルリンク1Aは、第1実施形態のマルチヒュージブルリンク1と同様に電線タイプであり、立体的な3次元構造となっていないため、狭い配置スペースに対しても簡単に配置することができる。また、第1のヒュージブルリンク2、第2及び第3のヒュージブルリンク3A、4Aにおける断面積の小さな主溶断部13、分岐溶断部23、33が効率良く温度上昇すると共に低融点金属体14、24、34が溶着して低い温度での溶断が可能となっているため、所定値以上の過電流が流れるとこれらが短時間で溶断する。これによりマルチヒュージブルリンク1Aに接続される接続電線を保護することができる。
【0036】
さらにこの実施形態では、主溶断部13、分岐溶断部23、33に対して低融点金属体14、24、34を同時に溶着することができる。このため、低融点金属体14、24、34の溶着工程を少なくでき、製造工程を簡素化することができる。
【符号の説明】
【0037】
1、 1A マルチヒュージブルリンク
2 第1のヒュージブルリンク
3、3A 第2のヒュージブルリンク
4、4A 第3のヒュージブルリンク
5、5A ジョイント部
11 主導体
12 主素線部
13 主溶断部
21、31 分岐導体
22、32 分岐素線部
23、33 分岐溶断部
14、24、34 低融点金属体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の主導体の長手方向中間部に圧延加工により前記主導体の主素線部の断面積より小さい断面積に形成されて所定値の電流で溶断可能な主溶断部とからなる第1のヒュージブルリンクと、
長尺状の分岐導体の長手方向中間部に圧延加工により前記分岐導体の分岐素線部の断面積より小さい断面積に形成されて所定値の電流で溶断可能な分岐溶断部とからなる第2、第3のヒュージブルリンクと、
前記第1のヒュージブルリンクの長手方向の一端に前記第2、第3のヒュージブルリンクの一端を接続し、前記主導体から前記分岐導体を分岐するジョイント部とからなることを特徴とするマルチヒュージブルリンク。
【請求項2】
請求項1記載のマルチヒュージブルリンクであって、
前記主導体が複数本の素線で形成され、前記分岐導体が複数本の素線で形成され、前記主溶断部と前記分岐溶断部は複数本の素線の圧延加工により形成されていることを特徴とするマルチヒュージブルリンク。
【請求項3】
請求項2記載のマルチヒュージブルリンクであって、
前記分岐導体は、前記主導体の複数本の素線を分岐容量に応じて分岐した素線で形成されていることを特徴とするマルチヒュージブルリンク。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のマルチヒュージブルリンクであって、
前記主溶断部と前記分岐溶断部は、前記ジョイント部で前記主導体と前記分岐導体とを分岐させた後に圧延加工により形成されることを特徴とするマルチヒュージブルリンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−37930(P2013−37930A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173719(P2011−173719)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】