説明

マルチモード無線機及び接続先システムを発見する方法

【課題】同一の周波数帯域を共用する複数の通信システムが共存している地域において、マルチモード無線機が、接続に適した通信システムを速やかに発見できるようにすること。
【解決手段】マルチモード無線機は、アンテナに入力された信号に基づいて、接続先の通信システムを決定する接続先システム決定部と、通信信号の伝送フォーマット及び中心周波数を少なくとも含む通信パラメータの値を、接続先の通信システムにおいて使用されている値に設定する動作モード制御部と、動作モード制御部により設定された通信パラメータを使用して、接続先の通信システムに接続し、無線通信を行う通信部とを有し、接続先システム決定部は、アンテナに入力された信号の周期自己相関値を所定の範囲内のパラメータについて計算し、相対的に強い周期自己相関値をもたらすパラメータを判別し、そのパラメータに対応する通信システムを、接続先の通信システムとして決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチモード無線機及び接続先システムを発見する方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
通信サービスの多様化に伴って、ユーザは、様々な通信システムを使用することができるようになった。このような通信システムの種類及び数は、今後さらに増えることが予想される。通常、通信システム毎に通信方式が異なるので、通信システム毎に専用の無線機が必要であるとすると、極めて不便である。このような観点からは、複数の通信システムにおいて動作することが可能なマルチモード無線機を使用することが好ましい。
【0003】
概して、マルチモード無線機には、ハードウェアに基づくものと、ソフトウェアに基づくものとがある。ハードウェアに基づくマルチモード無線機は、複数の通信システム各々に対する信号処理用のハードウェアを別々に備えることで、複数の通信システムにおける通信を可能にする。この場合、ハードウェアが冗長的に存在するので、何れかの通信システム用のハードウェアが故障した場合でも、別の通信システムにおける通信に影響は及ばないという利点がある。しかしながら、通信システムの数は少なくないので、マルチモード無線機の嵩が大きくなってしまうという問題が懸念される。
【0004】
これに対して、ソフトウェアに基づくマルチモード無線機は、複数の通信システムにおける信号処理のハードウェアをできるだけ共用し、信号処理のプログラムを書き換えることで、特定の通信システムにおける通信を可能にする。ソフトウェアに基づくマルチモード無線機は、「ソフトウェア無線機」又はSDR(Software Defined Radio)等と言及される。ソフトウェアに基づくマルチモード無線機は、ハードウェアの冗長性が少ない反面、小型化の要請に応じることができ、しかも様々な通信システムに柔軟に対応できるという利点がある。近年、通信リソースの利用効率を高めるため、複数の通信システムが同一の周波数帯域を利用できるようにすることが実現化しつつあり、複数の通信システムに共通のハードウェアを実装しやすくなっている。従来のソフトウェア無線機については、非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Mitola,"The Software Radio Architecture",IEEE Communications Magazine, vol. 33, issue. 5, pp. 26-38, May 1995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ソフトウェアに基づく従来のマルチモード無線機が、何らかの通信システムに接続する場合、複数の通信システム各々について、動作を制御するソフトウェアを順番に切り替えながら、接続先を決定しなければならない。例えば、マルチモード無線機は、第1の通信システム用にソフトウェアを書き換え(切り替え)、制御信号の受信を試みる。適切に受信できた場合、第1の通信システムが接続先になるが、適切に受信できなかった場合、第2の通信システム用にソフトウェアが書き換え(切り替え)られ、以下同様な処理が続く。したがって、適切な接続先を発見できるまでに、多くの時間と電力を費やしてしまう場合がある。また、第1及び第2の通信システムが共に接続可能であるが、第2の通信システムの方が高品質に通信できる場合がある。この場合でも、先に第1の通信システムについて接続を試みると、第1の通信システムが接続先として決定される。この場合、最良でない通信システムが接続先として決定されてしまうという問題がある。
【0007】
本発明の課題は、同一の周波数帯域を共用する複数の通信システムが共存している地域において、マルチモード無線機が、接続に適した通信システムを速やかに発見できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施例によるマルチモード無線機は、
アンテナに入力された信号に基づいて、接続先の通信システムを決定する接続先システム決定部と、
通信信号の伝送フォーマット及び中心周波数を少なくとも含む通信パラメータの値を、前記接続先の通信システムにおいて使用されている値に設定する動作モード制御部と、
前記動作モード制御部により設定された通信パラメータを使用して、前記接続先の通信システムに接続し、無線通信を行う通信部と
を有し、前記接続先システム決定部は、前記アンテナに入力された前記信号の周期自己相関値を所定の範囲内のパラメータについて計算し、相対的に強い周期自己相関値をもたらすパラメータを判別し、該パラメータに対応する通信システムを、前記接続先の通信システムとして決定する、マルチモード無線機である。
【発明の効果】
【0009】
一実施例によれば、同一の周波数帯域を共用する複数の通信システムが共存している地域において、マルチモード無線機が、接続に適した通信システムを速やかに発見できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例において使用される無線通信システムを示す図。
【図2】波形特徴量の一例を説明するための図。
【図3】実施例において使用されるマルチモード無線機を示す図。
【図4】通信システム毎に異なるサイクリック周波数においてピークが生じる様子を示す図。
【図5】OFDM信号に対する周期自己相関値CAFの計算例を示す図。
【図6】CDMA信号に対する周期自己相関値CAFの計算例を示す図。
【図7】実施例におけるマルチモード無線機の動作例を示す図。
【図8】動作概要を説明するための図。
【図9】同様な周波数範囲に3つの信号が含まれている様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一実施例によるマルチモード無線機は、アンテナに入力された信号の周期自己相関値CAFを所定の範囲内のパラメータについて計算し、相対的に強い周期自己相関値CAFをもたらすパラメータを判別し、そのパラメータに対応する通信システムを、接続先の通信システムとして決定する。周期自己相関値CAFに基づいて通信システムを判別するので、マルチモード無線機は、可能性のある通信システム毎に信号処理用のソフトウェアを書き換える必要はない。マルチモード無線機は、単に、各通信システムの信号が、如何なるパラメータにおいて周期自己相関値CAFのピークを生じるかの情報を記憶していればよい。また、ある通信システムからの信号の受信レベル(例えば、SNR)が低かったとしても、その通信システムの周期自己相関値CAFを適切に計算できれば、通信システムの存在を検出できる。周期自己相関値CAFを適切に計算するには、単に観測長を長くすればよい。さらに、同じ周波数の範囲内に複数の通信システムからの信号が含まれていた場合でも、通信システム各々の信号の周期自己相関値CAFは、異なるパラメータにおいてピークを生じるので、通信システムを適切に区別することができる。このため、本実施例によれば、マルチモード無線機が接続すべき通信システムを、簡易かつ効率的に発見することができる。
【0012】
以下の観点から実施例を説明する。
【0013】
1.無線通信システム
2.マルチモード無線機
3.動作例
【実施例1】
【0014】
<1.無線通信システム>
図1は、実施例において使用される無線通信システムを示す。図1には、地域無線ネットワーク(Wireless Regional Area Network:WRAN)による第1の通信システム、無線ローカルエリアネットワーク(Wireless Local Area Network:WLAN)による第2の通信システム、無線パーソナルエリアネットワーク(Wireless Personal Area Network:WPAN)による第3の通信システム、及びマルチモード無線機が示されている。図中、「WS利用」とあるのは、周波数帯域におけるホワイトスペース(White Space:WS)を用いて通信を行うことを示す。本願における「ホワイトスペース」は、未使用の周波数を意味し、例えば、ある者にライセンスされている周波数の内、その者が実際には使用していない部分が該当する。また、特定の者にライセンスされていない周波数の内、実際の通信に使用されていない周波数も、ホワイトスペースに該当する。図示の簡明化のため、3つの通信システム及び1つのマルチモード無線機しか示されていないが、これらの数は任意である。ホワイトスペースは時間や場所により変化するため。ホワイトスペースを利用する通信システムが通信に用いる周波数帯域も時間や場所により変化する。本発明はホワイトスペースを利用する通信システムに接続するマルチモード無線機に適用可能であるが、ホワイトスペースに限らず利用する周波数帯域を動的に変更する通信システムに接続するマルチモード無線機に対しても適用可能である。
【0015】
マルチモード無線機は、ハードウェアにより又はソフトウェアにより複数の通信システムにおいて無線通信できるように構成された任意の無線機である。このような無線機は、典型的には移動可能な無線機(移動機)であるが、固定の無線機でもよい。マルチモード無線機は、例えば、ユーザ装置、携帯電話、情報端末、高機能携帯電話、スマートフォン、パーソナルディジタルアシスタント、携帯用パーソナルコンピュータ等のようなユーザが使用する無線機でもよいし、基地局やアクセスポイントのようなユーザの通信を可能にする無線機でもよい。
【0016】
第1ないし第3の通信システムは、それぞれ異なる通信方式により通信を行うので、データ変調方式及びチャネル符号化率による伝送フォーマット、中心周波数、帯域幅、送信電力、シンボル長等の通信パラメータは、通信システム毎に異なる。このため、通信システム各々が使用している信号は、通信システムに固有の特徴を有する。このような特徴は、信号を統計的に分析することで判明する量であり、本願において「波形特徴量」と言及される。
【0017】
以下、波形特徴量について説明する。
【0018】
波形特徴量の一例は、信号の周期自己相関値(Cyclic Autocorrelation Function:CAF)である。この場合、信号に用いられている変調方式等に起因して、ある固有のパラメータが周期自己相関値の計算に使用された場合にのみ、信号の周期自己相関値の値が大きくなる。パラメータは、サイクリック周波数及びラグパラメータ等を含む。また、同一の変調方式を用いる信号に対して異なる周期定常性の特徴量を付与することも提案されている。周期自己相関値CAFは波形特徴量の一例であり、他の様々な観点から波形特徴量を表現することができる。波形特徴量は、通信システムに固有の量であるので、通信システムと波形特徴量との対応関係は、マルチモード無線機にとって既知であり、マルチモード無線機の記憶部に保存されている。このため、マルチモード無線機は、アンテナに入力された信号の波形特徴量を調べることで、マルチモード無線機の周囲にどのような通信システムが存在しているか等を知ることができる。
【0019】
図2は、信号の特徴量の一例として、フィルタの影響によって生じる周期定常性の特徴量を説明するための図である。図2の(1)は、理想フィルタを用いて帯域制限を行った帯域幅B[Hz]の信号の周波数スペクトルを表す。理想フィルタを用いた場合、周波数スペクトルを矩形とすることができるが、実際にはそのような急峻なスペクトルを実現することは難しい。このため、通常はある程度緩やかな傾斜の周波数スペクトルを有するフィルタが帯域制限用に用いられる。図2の(2)は通常の現実的なフィルタを用いて帯域制限を行った場合の周波数スペクトルを表している。図2の(2)に示すように、理想フィルタを用いた場合に比較して、通常に用いられている帯域制限フィルタでは、周波数帯域が若干広がる。この広がった周波数帯域において、右側に広がったPで示される領域は、左側のP'で示される領域と同一の信号成分を有し、左側に広がったQ'で示される領域は、右側のQと同一の信号成分を有するという性質がある。したがって、図2の(2)の信号をB[Hz]だけ周波数シフトした信号(3)におけるP'の部分は(2)のPと同一信号成分となり、(3)のQ'の部分は(2)のQと同一信号成分となるために高い相関値をもたらす。
【0020】
このように、フィルタにより帯域制限された信号は、元の信号と元の信号を周波数シフトした信号との間で高い相関(周期自己相関)が生じる。この相関値を、波形の特徴量として使用できる。図示の例では、ある信号とその信号を周波数方向にシフトした信号との相関が考察されたが、同様に時間方向にシフトすることも考えられる。
【0021】
ある信号とその信号を何らかの方向にシフトした信号との相関値を計算することで導出される周期定常性以外に、波形特徴量として利用可能な統計量として、信号振幅の分散値、すなわち二次キュムラント(Second order Cumulant)がある。概して二次キュムラントは振幅のとり得る値の分散に相当する。例えば、直交周波数分割多重接続(OFDM)方式による信号(OFDM信号)のようなピーク電力対平均電力比(PAPR)が非常に高い信号と、符号分割多重接続(CDMA)方式による信号(CDMA信号)のようなシングルキャリアの定包絡線信号や雑音等とでは二次キュムラントの値が大きく異なる。前者は様々な振幅値をとるので分散が大きく、後者の分散は比較的小さい。このような性質を利用することで、受信信号中にOFDM信号が含まれているか否かを検出することができる。OFDM信号の場合、1つのシンボルは、ガードインターバルと有効シンボルとを含み、ガードインターバルは有効シンボルの一部をコピーしたものである。したがって、OFDM信号と、そのOFDM信号を時間軸方向に有効シンボル長だけシフトした信号との相関値は、高いピークを示す。このような性質が波形特徴量として使用されてもよい。さらに、OFDM信号の周波数軸方向において、N個のサブキャリアと、一定の帯域幅だけ離れた別のN個のサブキャリアとが同じ内容であった場合、OFDM信号と、そのOFDM信号を周波数軸方向に一定の帯域幅だけ離した信号との相関値も、高いピークを示す。このような性質が波形特徴量として使用されてもよい。さらに、パイロットチャネルが一定の帯域幅だけ離れてマッピングされていた場合も、OFDM信号と、そのOFDM信号を周波数軸方向に一定の帯域幅だけ離した信号との相関値は、高いピークを示すので、この性質が波形特徴量として使用されてもよい。
【0022】
周期定常性、二次キュムラント以外に波形特徴量として利用可能な統計量として、信号の周波数相関特性等も同様に利用可能である。周波数相関特性の場合には、OFDM等のマルチキャリア信号の持つサブキャリア周波数成分に信号電力の偏りを付与して送信し、受信側において信号の周波数相関値を計算し、そのピークの値やピーク数、複数ピーク間の周波数間隔等を波形特徴量として検出することが可能である。本実施例では、周期自己相関値及び周波数相関値の双方を周期自己相関値として言及する。
【0023】
このように信号波形の特徴を表す波形特徴量は、信号の相関値に基づいてもよいし、分散等の統計値に基づいてもよい。しかしながら、説明の便宜上、以下の例においては、二次の周期自己相関値CAFにより表現された波形特徴量が使用される。
【0024】
信号x(t)に対する二次の周期自己相関関数の値CAFは、以下の数式により算出される。
【0025】
【数1】

ここで、*は複素共役を表す。Iは観測時間長を表す。αはサイクリック周波数(cyclic frequency)を表す。τはラグパラメータ(lag parameter)を表す。
【0026】
CAFに関し、一般に、α≠0のときにRxα(τ)≠0ならば、x(t)は周期定常性を有する。
【0027】
また、式(1)の離散時間表現は次のようになる。
【0028】
【数2】

ここで、I0は観測サンプル数を表す。νはラグパラメータの離散時間表現を表す。なお、x[i]≡x(iTs)であり、Tsはサンプリング周期を表す。
【0029】
<2.マルチモード無線機>
図3は、実施例において使用されるマルチモード無線機を示す。図3に示す構成は、図1におけるマルチモード無線機に使用されてもよい。図3には、マルチモード無線機に備わる様々な機能の内、本実施例に特に関連する機能が示されている。具体的には、アンテナ31、送受分離部32、接続先システム決定部33、動作モード制御部34、受信信号取得部35、送信信号生成部36及び記憶部37が示されている。
【0030】
送受分離部32は、アンテナ31を介して受信した信号と、アンテナ31を介して送信する信号とを適切に分離する。具体的には、送受分離部32は、アンテナ32から受信した信号を接続先システム決定部33又は受信信号取得部35へ与える一方、送信信号生成部36からの信号をアンテナ31へ与える。
【0031】
接続先システム決定部33は、アンテナ31及び送受分離部32を介して受信した信号から、波形特徴量を抽出し、マルチモード無線機が接続するのに相応しい通信システムを決定する。波形特徴量は、信号波形の持つ統計的な特性を示す量である。以下の説明においては、波形特徴量として二次の周期自己相関値CAFが使用されているが、上述したように、他の量が波形特徴量として使用されてもよい。
【0032】
接続先システム決定部33は、アンテナ31に入力された信号の周期自己相関値CAFを所定の範囲内のパラメータについて計算し、相対的に強い周期自己相関値をもたらすパラメータを判別し、該パラメータに対応する通信システムを、接続先の通信システムとして決定する。パラメータは、一般的にはサイクリック周波数及びラグパラメータの双方であるが、場合によってはサイクリック周波数のみが使用されてもよい。
【0033】
図4は、アンテナに入力された信号の周期自己相関値CAFを、ある範囲内のサイクリック周波数αについて計算した様子を示す。図示の例の場合、サイクリック周波数αが、α1、α2、α3である場合に相対的に高いピークが生じている。周期自己相関値CAFがどのようなサイクリック周波数の場合にピークを生じるかは、通信システム毎に異なる。したがって、図示の例の場合、サイクリック周波数α1に対応する第1の通信システム、サイクリック周波数α2に対応する第2の通信システム、及びサイクリック周波数α3に対応する第3の通信システムが、マルチモード無線機の周辺に存在していることが分かる。
【0034】
接続先システム決定部33は、最も高いピークに対応するサイクリック周波数を判別する。図4に示す例の場合、そのようなサイクリック周波数はα1であるので、これに対応する第1の通信システムが、接続先の通信システムとして決定される。簡明化のため、第1−第3のシステムが、サイクリック周波数によってのみ区別される場合を説明したが、このことは本実施例において必須ではない。上述したように、周期自己相関値CAFの計算に必要なパラメータは、サイクリック周波数α及びラグパラメータνである。したがって、より一般的には、サイクリック周波数及びラグパラメータの組み合わせ(α,ν)が、通信システム毎に異なる。図5は、OFDM信号に対する周期自己相関値CAFを、サイクリック周波数α及びラグパラメータνの様々な組み合わせについて計算した例を示す。図6は、CDMA信号に対する周期自己相関値CAFを、サイクリック周波数α及びラグパラメータνの様々な組み合わせについて計算した例を示す。図示されているように、相対的に高いピークをもたらすパラメータ(α,ν)は、使用される信号によって異なり、この相違により、接続に相応しい通信システムを区別することができる。
【0035】
図3の動作モード制御部34は、通信信号の伝送フォーマット中心周波数及び帯域幅等を含む通信パラメータの値を、接続先として決定された通信システムが使用している値に設定する。これにより、マルチモード無線機のハードウェアを制御するソフトウェア又はプログラムは、接続先しようとしている通信システムの信号を送受信できるように書き換えられる(切り替えられる)。通信パラメータは、接続手順を開始するのに最低限必要な情報を含み、記憶部37に記憶されている。伝送フォーマットは、データ変調方式及びチャネル符号化率の組み合わせとして表現されてもよいし、データ変調方式とデータサイズとの組み合わせとして表現されてもよい。後者の場合、データ変調方式とデータサイズとの関係から、チャネル符号化率を導出することができる。
【0036】
受信信号取得部35は、動作モード制御部34により設定された通信パラメータにしたがって、接続先の通信システムから必要な情報を取得する。
【0037】
送信信号生成部36は、動作モード制御部34により設定された通信パラメータにしたがって、接続先の通信システムへ送信する信号を生成する。マルチモード無線機は、接続先の通信システムに接続した後、その通信システムにおいて無線信号を送受信する。
【0038】
記憶部37は、マルチモード無線機が何らかの通信システムに接続するのに必要な情報を記憶している。具体的には、記憶部37は、様々な通信システムに対する周期自己相関値CAFのピーク情報、及び各通信システムに対して接続手順を開始するために最低限必要な情報等を記憶している。ピーク情報は、通信システムの周期自己相関値CAFが、サイクリック周波数α及びラグパラメータνのどのような組み合わせにおいてピークを有するかを示す。接続手順を開始するために最低限必要な情報は、例えば、通信システムにおいて報知されている情報を取得するための情報(伝送フォーマット、中心周波数等)である。
【0039】
<3.動作例>
図7は、マルチモード無線機の動作例を示す。
【0040】
ステップS71において、マルチモード無線機は、周囲の無線信号を受信する。この場合における受信は、単にアンテナに信号が入力されたことを意味し、復調等の処理は含まれない。
【0041】
ステップS73において、マルチモード無線機の接続先システム決定部33は、アンテナに入力された信号の波形特徴量を算出し、相対的に強いピークをもたらすパラメータを判別する。上記の例の場合、接続先システム決定部33は、アンテナに入力された信号の周期自己相関値CAFを算出し、相対的に強いピークをもたらすサイクリック周波数を判別する。判別されたサイクリック周波数に対応する通信システムは、接続先の通信システムとして決定される。
【0042】
ステップS75において、マルチモード無線機の動作モード制御部34は、通信パラメータの値を、相対的に強いピークをもたらす通信システムにおける値に設定する。これにより、マルチモード無線機の動作モードは、接続先の通信システム用に切り替えられる。
【0043】
ステップS77において、マルチモード無線機の受信信号取得部35及び送信信号生成部36は、設定された通信パラメータにしたがって、通信リンクを確立し、以後、信号の送受信が行われる(ステップS79)。
【0044】
図8は、第1−第3の通信システムの近辺をマルチモード無線機が(A)、(B)、(C)の順に移行して行く様子を示す。第1−第3の通信システム各々の信号の周期自己相関値CAFは、概して、図4に示されるようなサイクリック周波数においてそれぞれピークを有する。周期自己相関値CAFのピークの値は、マルチモード無線機が(A)、(B)、(C)の順に移行するにつれて異なる値をとる。
【0045】
(A)の場合、マルチモード無線機は、第1の通信システムの近辺にいるので、第1の通信システムからの信号が最も強く受信される。その結果、第1の通信システムが、接続先のシステムとして決定されることになる。
【0046】
(B)の場合、マルチモード無線機は、第2の通信システムの近辺にいるので、第2の通信システムからの信号が最も強く受信される。その結果、第2の通信システムが、接続先のシステムとして決定されることになる。
【0047】
(C)の場合、マルチモード無線機は、第3の通信システムの近辺にいるので、第3の通信システムからの信号が最も強く受信される。その結果、第1の通信システムが、接続先のシステムとして決定されることになる。
【0048】
図8に示すような第1−第3の通信システム各々の周波数の割り当てが、固定的であった場合、通信システムの周波数帯域毎に、衝突回避を行うキャリアセンス多重接続法(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance:CSMA/CA)のような電力に基づく信号検出を行うことで、接続すべき通信システムを判別することができる。図8に示すような周波数の使用法が固定的でなく、動的に変動する場合や、周波数の情報なしに未使用の帯域を捜す場合、信号の電力を検出するだけでは、接続すべき通信システムを適切に判別できない場合がある。例えば、第1−第3の通信システムによる周波数の利用状況が、図9に示すようになっていた場合である。この場合、信号の電力を検出しただけでは、fLからfHまでの周波数範囲内に、何らかの信号が存在することしか分からない。複数の信号が含まれているか否か、複数のどのような信号が含まれているか等は、電力検出だけでは判別できず、波形特徴量を分析する必要がある。fminからfmaxまでの探索対象の周波数全域にわたって、周期自己相関値CAFのような波形特徴量を分析すると、図4に示すような結果が得られるので、図9に示すような場合であっても、第1の通信システムが接続先として相応しいことが分かる。
【0049】
接続先の通信システムを捜す際に、信号の電力検出と波形特徴量の分析とを併用することも考えられる。例えば、fminからfmaxまでの探索対象の周波数全域にわたって、先ず、信号の電力を検出すると、fLからfHまでの周波数範囲内に、何らかの信号(有意の信号)が存在することが分かる。次に、周波数全域ではなく、fLからfHまでの周波数範囲内に限って、周期自己相関値CAFを分析することで、第1−第3の通信システムの信号が、その周波数範囲内に含まれていることが分かる。そして、周期自己相関値CAFのピークの大きさから、接続に相応しい通信システムが判明する。この方法の場合、比較的演算負担が大きい周期自己相関値CAFの分析を要する範囲を、狭い範囲に限定できる点で好ましい。
【0050】
以上本発明は特定の実施例を参照しながら説明されてきたが、それらは単なる例示に過ぎず、当業者は様々な変形例、修正例、代替例、置換例等を理解するであろう。例えば、本発明は、同一の周波数帯域を共用する複数の通信システムが共存している任意の状況において使用可能である。複数の通信システムとしては、W−CDMA方式のシステム、HSDPA/HSUPA方式のW−CDMAシステム、LTE方式のシステム、LTE−Advanced方式のシステム、IMT−Advanced方式のシステム、WiMAX、Wi−Fi方式のシステム等があるが、これらに限定されない。発明の理解を促すため具体的な数値例を用いて説明がなされたが、特に断りのない限り、それらの数値は単なる一例に過ぎず適切な如何なる値が使用されてもよい。発明の理解を促すため具体的な数式を用いて説明がなされたが、特に断りのない限り、それらの数式は単なる一例に過ぎず適切な如何なる数式が使用されてもよい。実施例又は項目の区分けは本発明に本質的ではなく、2以上の項目に記載された事項が必要に応じて組み合わせて使用されてよいし、ある項目に記載された事項が、別の実施例又は項目に記載された事項に(矛盾しない限り)適用されてよい。説明の便宜上、本発明の実施例に係る装置は機能的なブロック図を用いて説明されたが、そのような装置はハードウェアで、ソフトウェアで又はそれらの組み合わせで実現されてもよい。ソフトウェアは、ランダムアクセスメモリ(RAM)、フラッシュメモリ、読み取り専用メモリ(ROM)、EPROM、EEPROM、レジスタ、ハードディスク(HDD)、リムーバブルディスク、CD−ROM、データベース、サーバその他の適切な如何なる記憶媒体に用意されてもよい。本発明は上記実施例に限定されず、本発明の精神から逸脱することなく、様々な変形例、修正例、代替例、置換例等が本発明に包含される。
【符号の説明】
【0051】
31 アンテナ
32 送受分離部
33 接続先システム決定部
34 動作モード制御部
35 受信信号取得部
36 送信信号生成部
37 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナに入力された信号に基づいて、接続先の通信システムを決定する接続先システム決定部と、
通信信号の伝送フォーマット及び中心周波数を少なくとも含む通信パラメータの値を、前記接続先の通信システムにおいて使用されている値に設定する動作モード制御部と、
前記動作モード制御部により設定された通信パラメータを使用して、前記接続先の通信システムに接続し、無線通信を行う通信部と
を有し、前記接続先システム決定部は、前記アンテナに入力された前記信号の周期自己相関値を所定の範囲内のパラメータについて計算し、相対的に強い周期自己相関値をもたらすパラメータを判別し、該パラメータに対応する通信システムを、前記接続先の通信システムとして決定する、マルチモード無線機。
【請求項2】
前記接続先システム決定部は、所定の周波数範囲にわたって信号の電力を検出し、有意の信号が存在する周波数範囲に限定して、前記アンテナに入力された前記信号の周期自己相関値を所定の範囲内のパラメータについて計算し、相対的に強い周期自己相関値をもたらすパラメータを判別し、該パラメータに対応する通信システムを、前記接続先の通信システムとして決定する、請求項1記載のマルチモード無線機。
【請求項3】
前記パラメータが、少なくともサイクリック周波数を含む、請求項1又は2に記載のマルチモード無線機。
【請求項4】
アンテナに入力された信号に基づいて、接続先の通信システムを決定するステップと、
通信信号の伝送フォーマット及び中心周波数を少なくとも含む通信パラメータの値を、前記接続先の通信システムにおいて使用されている値に設定するステップと、
前記設定するステップにおいて設定前記通信パラメータを使用して、前記接続先の通信システムに接続し、無線通信を行うステップと
を有し、接続先の通信システムを決定する前記ステップにおいて、前記アンテナに入力された前記信号の周期自己相関値を所定の範囲内のパラメータについて計算し、相対的に強い周期自己相関値をもたらすパラメータを判別し、該パラメータに対応する通信システムを、前記接続先の通信システムとして決定する、接続先システムを発見する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−175196(P2012−175196A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32650(P2011−32650)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度 総務省「同一周波数帯における複数無線システム間無線リソース制御技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】