説明

マルチワイヤ配線板用接着剤およびこの接着剤を用いたマルチワイヤ配線板およびその製造方法

【目的】高密度のマルチワイヤ配線板に用いる接着剤であって、ワイヤを正確に布線・固定できることに優れた接着剤と、その使用方法を提供すること。
【構成】少なくとも1種以上の分子量10000以下の室温で固形のエポキシ樹脂と、少なくとも室温で液状のエポキシ樹脂とが、重量比95:5から60:40の範囲にある樹脂100重量部に対し、10から50重量部の分子内エポキシ変性ポリブタジエンと、0.5から8重量部のカチオン性光重合開始剤と、スズ化合物とを含む樹脂組成物を接着層とすること。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、絶縁被覆された金属ワイヤを回路導体に用いたマルチワイヤ配線板に用いる接着剤及びこの接着剤を用いたマルチワイヤ配線板並びにその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】基板上に接着層を設け、導体回路形成のための絶縁被覆ワイヤを布線、固定し、スルーホールによって層間を接続するマルチワイヤ配線板は、特性インピーダンスの整合やクロストークの低減に有利なプリント配線板として知られている。
【0003】近年、マルチワイヤ配線板を含むプリント配線板は、高密度実装に対応するため、高多層、微細化が進んでいる。この高多層、微細化をマルチワイヤ配線板で行う場合、ワイヤの位置精度が極めて重要である。すなわち、ワイヤが布線、あるいは布線後の工程で動かないようにすることが必要であり、特公平1−33958号に開示されているように、ワイヤを布線するために従来の熱硬化型に対し、光硬化型の接着層を設け、該接着層にワイヤを押し込んで布線した後、ワイヤ布線部分の付近に局部的に光照射を行って布線済みの部分を硬化させる方法が提案されている。
【0004】また、特公平1−48671号公報には、光硬化型の接着層の特性として、動的弾性率(G’)、ロスモジュラス(G”)、損失角比(G”/G’=R)と規定される特性が、室温におけるRが0.3〜0.7であり、室温におけるG’が2〜4MPaであり、かつ150℃より低い布線時の加熱温度におけるG’が0.1MPa以下であるものを開示している。
【0005】また、特開昭62−20579号には、光硬化型のマルチワイヤ配線板用接着剤組成物が記載されている。これは、分子量10000以上の皮膜形成可能な重合樹脂と、分子量7000以下の多官能化合物の重量比が1.5:1から9:1の範囲にある樹脂と、光または熱により反応を開始できる硬化剤からなる組成物で、光硬化可能なものとしては、アルキル基を有するポリウレタンと、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と、ラジカル型光重合開始剤からなる接着剤組成物が例示されている。
【0006】一方、マルチワイヤ配線板の製造工程においては、基板に設けた接着層のカバーフィルムを剥がし、数時間に渡る布線作業を行う場合がある。この時、上記接着剤のようにラジカル型光重合開始剤を用いた場合、空気中の酸素により接着層表面部分のラジカル型光重合開始剤が分解されるため、表面部分の接着層は硬化しなくなり、その結果耐熱性が低下してしまう。
【0007】また、上記特開昭62−20579号公報には、本発明に用いるカチオン性光重合開始剤を用いることが可能であると開示している。しかし、この開始剤によるカチオン重合は、アニオン性重合開始剤やアミン系の硬化剤のみならず、窒素原子を含むポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂などの求核性の強い物質により阻害される。このため、単に、ポリウレタンと、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と、カチオン性光重合開始剤とを用いた組成物は、架橋密度が低く、耐熱性および耐溶剤性が低いものであると思われる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】絶縁被覆ワイヤを正確に布線固定する方法として、上述した公知例があるが、光硬化型の接着層を硬化させてしまうと、接着層内にボイドが残ってしまうという課題が生じる場合がある。
【0009】通常のマルチワイヤ配線板は、接着層に絶縁被覆ワイヤを固定した後、ガラス布エポキシ樹脂やガラス布ポリイミド樹脂等のプリプレグ等をラミネートして基板中に絶縁被覆ワイヤを固定することにより、ドリル等による穴あけ時に絶縁被覆ワイヤが剥がれてしまうのを防止したり、その後の穴内に金属層を設けるためのめっき工程において、絶縁被覆ワイヤの被覆層が損傷を受けて信頼性が低下することを防止している。
【0010】一方、高密度に布線された基板表面は、絶縁被覆ワイヤによる凹凸が大きく、また、絶縁被覆ワイヤの交差部においては、接着層のない空間が多く存在する。このため、布線後、光照射により接着層を硬化した後、上記で述べたようにプリプレグ等をラミネートし、加熱硬化した場合、プリプレグ等の樹脂成分が上記空間に十分に流れ込まずにボイドとして残ってしまう。
【0011】このようなボイドがあると、スルーホールでショートを引き起こしたり、耐電食性を低下させる原因となる。特に、微細回路を形成する場合には大きな問題になる。このように、従来技術ではワイヤを正確に固定することと、ボイドをなくすことの両立を図ることが難しいという課題があった。また、光硬化型のマルチワイヤ配線板用接着剤として、上述した公知例があるが、ガラス転移温度が100℃以下と低いこと、溶剤に対し膨潤しやすい。このため、基板としての信頼性が低いこと、また、製造にあたり、溶剤を用いた工程を避ける必要があるなどの課題がある。
【0012】本発明は、高密度のマルチワイヤ配線板に用いる接着剤であって、ワイヤを正確に布線・固定できることに優れた接着剤と、その使用方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明は、少なくとも1種以上の分子量10000以下の室温で固形のエポキシ樹脂と、少なくとも室温で液状のエポキシ樹脂とが、重量比95:5から60:40の範囲にある樹脂100重量部に対し、10から50重量部の分子内エポキシ変性ポリブタジエンと、0.5から8重量部のカチオン性光重合開始剤と、スズ化合物とを含む樹脂組成物を接着層とすることに特徴がある。
【0014】本発明による接着層に用いる樹脂組成物のうち、分子量10000以下の室温で固形のエポキシ樹脂としては、エピコート1010、エピコート1007、エピコート1004、エピコート1001(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)、UVR-6510、UVR-6540(ユニオンカーバイド社製、商品名)などのビスフェノールA型エポキシ樹脂や、エピコート180、エピコート157(油化シェルエポキシ株式会社、商品名)、UVR-6610,UVR-6620,UVR-6650(ユニオンカーバイド社製、商品名)などのノボラック型エポキシ樹脂等がある。その他に、エピコート5050、エピコート5051(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)等の臭気化エポキシ樹脂等を難燃性の付与のために用いることもできる。これらのうち、1種類以上を組み合わせて、使用することができる。
【0015】また、室温で液状のエポキシ樹脂としては、エピコート828、エピコート827、エピコート825(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)、UVR-6405,UVR-6410(ユニオンカーバイド社製、商品名)などのビスフェノールA型エポキシ樹脂や、これに、さらに反応性希釈剤を加えたエピコート801、エピコート802、エピコート815(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)などが使用できる。また、エピコート807(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)、YDF170(東都化成株式会社製、商品名)、UVR-6490(ユニオンカーバイド社製、商品名)などのビスフェノールF型エポキシ樹脂や、エピコート152(油化シェルエポキシ株式会社、商品名)、DEN431DEN438(ダウンケミカル社、商品名)等ノボラック型エポキシ樹脂やデナコールEX-821EX-512EX-313(ナガセ化成株式会社、商品名)、UVR-6110,UVR-6100,UVR-6199(ユニオンカーバイド社製、商品名)等の脂肪族エポキシ樹脂などが使用できる。
【0016】分子内エポキシ変性ポリブタジエンとしては、上記エポキシ樹脂と相溶性が良く、3次元架橋ができるように1分子中に3以上のエポキシ基を持つものが好ましく、poly pd R45EPI,poly pd R15EPI(出光石油化学株式会社製、商品名)などが使用できる。この樹脂は、カチオン重合反応においては、上記エポキシ樹脂より反応性が高い。
【0017】エポキシ樹脂を硬化させるカチオン性光重合開始剤としては、ブロックされたルイス酸触媒があり、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ジアリルヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩などが使用できるが、UVI-6970UVI-6974(ユニオンカーバイト社製、商品名)、SP-170SP-150(旭電化工業株式会社、商品名)等の芳香族スルホニウム塩が好ましい。なお、これらの開始剤は、加熱によってもエポキシ基をカチオン重合させる。
【0018】スズ化合物としては、無機化合物として、塩化第1スズ、塩化第2スズ、酸化第1スズ、酸化第2スズなどがあり、有機化合物として、ジブチルスズジウリレート、ジブチルスズジメトキシド、ジブチルスズジオキシドなどが使用できる。さらに、これらの物質を無機充填剤に吸着させたものも使用できる。これらは、カチオン重合触媒であるスルホニウム塩に作用し、熱に対して不安定にし、結果的には加熱によりカチオン重合を引き起こす触媒となる。
【0019】本発明ではこれらの組成物を、少なくとも1種以上の分子量10000以下の室温で固形のエポキシ樹脂と、少なくとも室温で液状のエポキシ樹脂とが、重量比95:5から60:40の範囲にある樹脂100重量部に対し、10から50重量部の分子内エポキシ変性ポリブタジエンと、0.5から8重量部のカチオン性光重合開始剤と、スズ化合物とを加え、有機溶剤中で混合して接着剤とする。
【0020】この他に、必要に応じて接着剤のフロー特性の調整に有効であるマイカ、微粉末シリカ、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸マグネシウム、チタン白等の充填剤を適宜加える。また、スルーホール内壁等のめっき密着性を上げること、および、アディティブ法で配線板を製造するために無電解めっき用触媒を加えることができる。
【0021】有機溶剤としては、メチルエチルケトン、アセトン、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、メチルセロソルブ、酢酸セロソルブ等の内から選ばれたものおよびそれらの組み合せたものを用いる。
【0022】また、本発明は、マルチワイヤ配線板およびその製造法において、上記の樹脂組成物を接着層として絶縁基板に設け、且つ、必要に応じて布線に先立ち、接着層を完全に硬化するには不十分な量の光を照射して若干硬化を進め、次いで、該基板を加熱プレスした後、必要に応じて光を照射するかまたは加熱により、接着層をほぼ完全に硬化させて該絶縁ワイヤを接着層に固定させるところに特徴がある。
【0023】本発明によるマルチワイヤ配線板の製造法を、図1を用いて説明する。まず、図1(a)は、電源、グランドなどの導体回路層を、予め設けた状態を示す。この回路は、ガラス布エポキシ樹脂銅張積層板やガラス布ポリイミド樹脂銅張積層板等を公知のエッチング法等により形成できる。また、必要に応じて、この内層回路は、多層回路とすることもでき、また全くなくすこともできる。
【0024】図1(b)は、アンダーレイ層として絶縁層を形成した図である。これは、耐電食性を向上させたり、インピーダンスを調整したりするために設けられるが、必ずしも必要としない場合がある。このアンダーレイ層には、通常のガラス布エポキシ樹脂や、ガラス布ポリイミド樹脂のBステージのプリプレグあるいはガラスクロスを含まないBステージの樹脂シート等が使用できる。これら樹脂層は基板にラミネートした後、必要に応じて硬化あるいはプレスによる硬化などを行う。
【0025】次に、図1(c)に示すように、前記光硬化型接着剤を用いて絶縁被覆ワイヤを布線、固定するための接着層を形成する。接着層を設ける方法としては、前記接着剤をスプレーコーティング、ロールコーティング、スクリーン印刷法等で直接絶縁基板に塗布、乾燥する方法、あるいは、ポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレート等に一旦ロールコートして塗工乾燥した後、所望の大きさに切断し、絶縁基板にホットロールラミネートまたはプレスによりラミネートする方法がある。
【0026】次に、図1(d)に示すように、絶縁被覆ワイヤを布線する。この布線は、一般に布線機により超音波振動などを加えながら加熱して行う。これにより、接着層が軟化して、接着層中に埋め込まれる。しかし、接着層の溶融粘度が低すぎると、布線後にワイヤの残存応力のためにワイヤが動いてしまい、十分な精度が得られない場合がある。また、接着層の溶融粘度が高すぎると、布線時にワイヤが十分に埋め込まれないために、ワイヤと接着剤の間の接着力が小さいために、ワイヤ交差部において、上側のワイヤが下側のワイヤを乗り越えるときに、下側のワイヤの位置ずれが発生する。このため、布線時には接着剤の溶融粘度を適正な範囲に制御する必要がある。
【0027】布線に用いるワイヤは同一平面上に交差布線されてもショートしないように絶縁被覆されたものが用いられる。ワイヤ芯材は銅または銅合金でその上にポリイミドなどで被覆したものが用いられる。また、ワイヤ〜ワイヤ間の交差部の密着力を高めるために絶縁被覆層の外側にさらにワイヤ接着層を設けることができる。このワイヤ接着層には熱可塑、熱硬化、光硬化タイプの材料が適用できる。
【0028】布線を終了した後、ワイヤの移動、動きをなくすために接着層に光照射を行い、接着層の硬化を進める。このとき、硬化が進みすぎると、ボイドの残留が生じ、問題となる。また、硬化が不十分すぎると十分なワイヤの固定ができない。このため、接着層の硬化反応度合を適宜コントロールすることが必須である。
【0029】この硬化反応度合は、材料の種類によって異なるので、それぞれの材料で最適値を得る必要がある。
【0030】光により、部分的に硬化を行った後、加熱プレスを行う。ここで、布線した基板表面の凹凸を低減し、接着層内に残存しているボイドを除去する。接着層中のボイドは、布線した表面の凹凸が大きいことや、布線時にワイヤを超音波加熱しながら布線する時に生じたり、あるいはワイヤ〜ワイヤ交差部付近に生じる空間に起因するので、加熱プレスによる布線した基板面に平滑化および接着層中のボイド除去が不可欠となる。加熱プレス後、十分に光を照射し、必要に応じて、加熱により接着層をほぼ完全に硬化させる。
【0031】次に、図1の(e)に示すように、布線したワイヤを保護するためのオーバーレイ層が設けられる。このオーバーレイ層には通常の熱硬化、光硬化の樹脂あるいはガラスクロスを含む樹脂などが適用され、最終的に硬化する。工程短縮などのため、前述の加熱プレスをオーバーレイ層形成と同時に行うこともできる。この場合、オーバーレイ層形成後、必要に応じてオーバーレイ層を通して光を照射し、接着層の光硬化性材料を硬化させることができる。
【0032】次に、図1の(f)に示すように、穴あけを行った後、スルーホールめっきを行い、マルチワイヤ配線板を完成させる。ここで、穴あけ前に、オーバーレイ形成後、プリプレグを介して表面に銅箔などを貼り付け、表面回路付きのマルチワイヤ配線板を製造することもできる。また、本発明のバリエーションとして従来から知られているマルチワイヤ配線板、例えば、ブラインドホール付きのマルチワイヤ配線板等を製造することができる。
【0033】
【作用】絶縁被覆ワイヤを布線固定するための接着層に用いる接着剤樹脂組成として、分子量10000以下のエポキシ樹脂を主成分として用いることにより、硬化物の架橋密度が高くなりガラス転移温度(以下Tgと略す)を110℃以上にすることができ、溶剤に対しても膨潤しにくくなる。
【0034】室温で固形のエポキシ樹脂と、室温で液状のエポキシ樹脂の重量比を95:5から60:40の範囲に限定した理由は、接着剤の溶融粘度が、布線が正確にできる範囲をはずれるためである。
【0035】分子内エポキシ変性ポリブタジエンを用いる理由は、以下のとおりである。
i)分子内エポキシ変性ポリブタジエンは、1分子中に、架橋点となるエポキシ基を3以上有するので、3次元架橋が可能であり、また、前記室温で固形のエポキシ樹脂と、室温で液状のエポキシ樹脂とも、相溶性が良く、硬化物の架橋密度を低下させない。
ii)ワイヤを布線後、接着層に光照射を行い、部分的に硬化を進めるのであるが、このときの硬化の程度は、ワイヤを確実に固定した上で、次の工程のプレスのときにボイドの発生しない程度にしなければならない。このように、硬化を行うためには、光照射で同じ程度に硬化の進む室温で固形のエポキシ樹脂と、室温で液状のエポキシ樹脂では、制御が困難である。このため、前記エポキシ樹脂とは反応性の異なる組成を用いる必要がある。したがって、分子内エポキシ変性ポリブタジエンのエポキシ樹脂に対する比率も当然ながら、前記条件を満足する範囲でなければならない。これが、室温で固形のエポキシ樹脂と、室温で液状のエポキシ樹脂とを合わせた100重量部に対して、10〜50重量部の範囲である。
【0036】さらに、カチオン性光重合開始剤の比率を、を合わせた100重量部に対し、0.2重量部から5重量部の範囲で加えているが、0.2重量部より少ないと光照射による硬化反応が進みにくく、5重量部より多いと絶縁性が低下する。
【0037】さらに、スズ化合物を用いている理由は、前記室温で固形のエポキシ樹脂と、室温で液状のエポキシ樹脂と、分子内エポキシ変性ポリブタジエンと、カチオン性光重合開始剤のみであると、接着剤の布線時の溶融粘度が若干低く、布線されるワイヤの多い箇所やワイヤの交差数の多い箇所では、布線したワイヤが剥がれることがある。このため、若干硬化を進め布線時の粘度を高くして、このはがれを抑制するのであるが、この若干進める硬化の程度は、接着剤の全てを硬化させるほどではなく、かつ、はがれを抑制できる範囲にしなければならない。この理由は、接着剤全てを硬化させることは、前述のとおり、後のプレス時のボイドの発生を抑制できないからである。このように若干の硬化をすることは、光照射による硬化の場合、接着剤の表面近くのみが硬化される。そうすると、接着剤の下部は硬化していないので、接着力がなくはがれを抑制できない。そこで、スズ化合物を添加することによって、接着剤層を形成する時に、熱による硬化反応を若干進めることができる。この熱による硬化は、接着剤全体に及ぶので、上記の光硬化による表面の近くのみの硬化による接着力の低下を避けられる。熱によっても硬化反応を進められる物質として、この種類に限定した理由は、エポキシ硬化剤の内、アニオン性重合開始剤やアミン系のものはカチオン性光重合開始剤による光硬化作用を抑制してしまうためである。
【0038】また、本発明は、光硬化可能な上記接着剤組成を含む接着層を、マルチワイヤ配線板の製造に適用する。通常のマルチワイヤ配線板製造工程では、熱硬化型接着剤を用い絶縁被覆ワイヤを布線した後加熱により硬化させるが、このとき接着層の粘度は一時低下するため布線されたワイヤ自体に蓄積された内部応力によりワイヤが浮き上がったり移動したりする。これに対し、光硬化型の接着層は加熱しないためワイヤを固定したまま硬化できる。
【0039】また、本発明では布線後の光照射量により接着層の硬化度合を抑制し、且つ、その後加熱プレスすることにより、ワイヤの動きを抑制し、且つ、布線工程までに生じた接着層内にある気泡や空間を除去し、基板表面の凹凸を低減できる。その結果、図1(e)に示すように、オーバーレイ層を設けた後でもボイドのない信頼性の高いマルチワイヤ配線板を製造することが可能となる。
【0040】
【実施例】次に、実施例により本発明を詳細に説明する。実施例1〜6及び比較例1〜6に用いた接着剤組成、基材、製造方法を表1にまとめる。以下、表1に用いた組成の説明と、工程の説明を行う。
(接着剤組成物)
■ 分子量10000以下の固形のエポキシ樹脂エピコート(Ep)1010(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)
エピコート(Ep)1004(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)
エピコート(Ep)180(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)
■ 液状のエポキシ樹脂YDF170(東都化成株式会社、商品名)
エピコート(Ep)815(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名)
■ 分子内エポキシ化ポリブタジエンpoly bd R-45EPI(出光石油化学株式会社製、商品名)■ カチオン性光重合開始剤UVI-6970(ユニオンカーバイト社製、商品名)
■ 充填剤クリスタライトVX−X(龍森株式会社製、商品名)
■ スズ化合物めっき触媒と兼ねるCAT#11(日立化成工業株式会社、商品名)
ジブチルスズジラウリレート■ 有機溶剤メチルエチルケトン(和光純薬株式会社、商品名)50重量部とキシレン(和光純薬株式会社、商品名)50重量部の中で混合する。
【0041】(製造工程)
(1)塗膜形成■ フィルム状塗膜上記組成のワニスを、乾燥後の膜厚が100μmとなるように転写用基材である離形処理PETフィルム(東セロ化学株式会社、商品名)に塗布し、120℃で10分間乾燥して接着剤のシートを作製した。
■ スクリーン印刷による塗膜上記組成のワニスを、基板の片面に膜厚100μmとなるようにスクリーン印刷した後、120℃−10分乾燥した、さらに、裏面にも同様にスクリーン印刷法にて、接着層を形成した。
【0042】(2)基材作成■ ガラス布基材ガラス布エポキシ樹脂両面銅張積層板MCL−E−168(日立化成工業株式会社会製、商品名)に通常のエッチング法により回路を形成した。次いで、ガラス布エポキシ樹脂プリプレグGEA−168(日立化成工業株式会社製、商品名)を該基板の両面にプレス、硬化してアンダーレイ層を形成した。
■ ポリイミド基材ガラス布ポリイミド樹脂両面銅張積層板(日立化成工業株式会社会製、MCL−I−67)に通常のエッチング法により、回路を形成した。次いで、ガラス布ポリイミド樹脂プリプレグ(日立化成工業株式会社製、GIA−67)を該基板の両面にプレス、硬化してアンダーレイ層を形成した。
【0043】(3)布線■ ラミネート次いで、(1)のうちフィルム状の接着剤シートを該基板の両面にロール温度100℃、送り速度0.4m/分の条件でホットロールラミネートして接着層を形成した。
■ 布線続いて、離形処理PETフィルム剥がした該基板に片面づつポリイミド被覆ワイヤ(日立電線株式会社製、ワイヤHAW、銅線径0.1mm)を布線機により、超音波加熱を加えながら布線した。
【0044】(4)接着層光硬化/プレス布線に続いて高圧水銀灯により、両面に光照射を行った。次いで、該基板をシリコンゴムをクッション材として130℃、30分、20kgf/cm2の条件で加熱プレスした。引き続き、高圧水銀灯により、両面に光照射を行って、接着層を硬化させた。
【0045】(5)絶縁化■ ガラス基材次にガラス布エポキシ樹脂プリプレグ(日立化成工業株式会社製、GEA−168)を両面に適用し、プレス、硬化させてオーバーレイ層を形成した。
■ ポリイミド基材次に、ガラス布ポリイミド樹脂プリプレグ(日立化成工業株式会社製、GIA−67)を両面に適用し、プレス、硬化させてオーバーレイ層を形成した。
【0046】(6)穴あけ/スルーホール形成続いて、オーバーレイ層表面にポリエチレンフィルムをラミネートして、必要箇所に穴をあけた。穴をあけた後、ホールクリーニングなとの前処理を行い、さらに、無電解銅めっき液に浸漬し、30μmの厚さにスルーホールめっきを行った後、上記ポリエチレンフィルムを剥離し、マルチワイヤ配線板を製造した。
【0047】比較例11)ガラス布エポキシ樹脂両面銅張積層板(日立化成工業株式会社会製、MCL−E−168)に通常のエッチング法により、回路を形成した。次いで、ガラス布エポキシ樹脂プリプレグ(日立化成工業株式会社製、GEA−168)を該基板の両面にプレス、硬化してアンダーレイ層を形成した。
2)次いで、該基板の両面に熱硬化型接着層AS−102(日立化成工業株式会社会 商品名)を両面にロール温度100℃、送り速度0.4m/分の条件でホットロールラミネートして形成した。続いて、離形処理PETフィルムを剥がした該基板に片面づつポリイミド被覆ワイヤ(日立電線株式会社会、ワイヤHAW、銅線径0.1mm)を布線機により、超音波を加えながら布線した。
3)布線に続いて、熱風循環式恒温槽中で110℃、60分加熱、硬化した。次いで、該基板をシリコンゴムをクッション材として130℃、30分、20kgf/cm2の条件で加熱プレスした。引き続き、熱風循環式恒温槽中で160℃、60分接着層を硬化させた。
4)次に、ガラス布エポキシ樹脂プリプレグ(日立化成工業株式会社製、GEA−168)を両面に適用し、プレス、硬化させてオーバーレイ層を形成した。続いて、オーバーレイ層表面にポリエチレンフィルムをラミネートして、必要箇所に穴をあけた。穴をあけた後、ホールクリーニングなとの前処理を行い、さらに、無電解銅めっき液に浸漬した。30μmスルーホールにめっきを行った後、上記ポリエチレンフィルムを剥離し、マルチワイヤ配線板を製造した。
【0048】比較例2〜5は、組成は、表1に示すとおりであり、製造工程は、実施例1〜6と同様に行った。
【0049】以上、実施例1〜6および比較例1〜6で製造したマルチワイヤ配線板の特性を調べた。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】


(動的粘弾性)周波数10Hz、振幅5μmのときの弾性率を、動的弾性率G’(MPa)とし、粘性によって失われるエネルギーをロスモジュラスG”(MPa)とし、その比R=G’/G”を、DVE−V4(株式会社レオロジ製、商品名)で測定した。結果を、表1に示す。従来技術である特公平1−48671号においては、より好ましい動的粘弾性の範囲は、室温で、Rが0.3〜0.7であり、動的弾性率G’が2〜4、かつ150℃以下での動的弾性率G’が0.1MPa以下であると記載されているが、本発明の組成の場合には、室温でのRはほぼ同じ範囲にあるが、動的弾性率G’はいずれも400MPa以上の場合に、良好な布線性等の特性が得られている。
【0051】(布線性)布線したワイヤ下の接着剤のはがれのないものを〇とし、はがれのあるものを×として表1に示す。
(ワイヤスイミング)布線したワイヤの位置並びに切断した断面をそれぞれ調べた結果、実施例1〜6並びに比較例4、5は、布線したワイヤの位置ズレは50μm以下であった。これを表1では、〇で示す。これに対し、比較例1〜3及び6のワイヤの位置ズレは200μmを越えるものがあった。これを表1では×で示す。このうち、比較例2の位置ズレの原因は布線時のワイヤ位置ズレ(布線不良)によるもので、加熱プレスによるものではないことを確認した。
【0052】(ボイド)また、断面観察の結果、実施例1〜6並びに比較例2、3及び5、6には、接着層にボイドは認められなかった。これに対して、比較例1及び4には、50μm前後の大きさのボイドが接着層10cm長さに当たり、それぞれ5ケ、30ケ認められた。しかし、特に比較例6は、接着剤が硬化していない部分があり、前述のとおり、エポキシ硬化剤の内、ジシアンジアミドがアミン系のものであり、カチオン性光重合開始剤による光硬化作用を抑制してしまうことが顕著となった。
【0053】(硬化物の特性)さらに、実施例1〜3において作製した接着層に3J/cm2の光照射を行った後、170℃、60分加熱硬化したものについて、示差走査熱量計(DSC)によりTgを測定したところ、いずれも110℃以上であった。また、上記硬化物を室温のMEKに60分以上浸漬しても、いずれも膨潤しなかった。これに対し、比較例1に用いた熱硬化型接着層の硬化物は、Tgが100℃であり、室温のMEKに浸漬すると10分で膨潤する。また、比較例5は、布線性、ワイヤスイミング、ボイドの特性は良好であるものの、硬化物が室温のMEKに浸漬すると10分で膨潤してしまう。これは、固体エポキシ樹脂に、分子量約40000のものを使用したので、架橋密度が低下しているものと考えられる。
【0054】
【発明の効果】本発明による接着層の硬化物はTgが110℃以上と高く、また、溶剤に対して膨潤しにくい。また、本発明により製造したマルチワイヤ配線板は、ワイヤを布線、固定するための接着層にボイドを含まず、かつワイヤの動きが少ないため、高密度で信頼性に優れたマルチワイヤ配線板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)〜(f)は本発明の一実施例を示すマルチワイヤ配線板製造工程の断面図である。
【図2】本発明の一実施例を示す製造工程であり、図1の断面図に対応する。
【符号の説明】
1.絶縁板 2.内層銅回路
3.アンダーレイ層 4.接着層
5.絶縁被覆ワイヤ 6.オーバーレイ層
7.スルーホールめっき

【特許請求の範囲】
【請求項1】少なくとも1種以上の分子量10000以下の室温で固形のエポキシ樹脂と、少なくとも室温で液状のエポキシ樹脂とが、重量比95:5から60:40の範囲にある樹脂100重量部に対し、10から50重量部の分子内エポキシ変性ポリブタジエンと、0.5から8重量部のカチオン性光重合開始剤と、スズ化合物とを含むことを特徴とするマルチワイヤ配線板用接着剤。
【請求項2】スズ化合物として、無機充填剤表面に吸着させたものを用いることを特徴とする請求項1に記載のマルチワイヤ配線板用接着剤。
【請求項3】予め導体回路を形成した基板もしくは絶縁基板と、その表面上に設けた接着層と、その接着層により固定された絶縁被覆ワイヤと、接続の必要な箇所に設けたスルーホールと、必要な場合にその表面に設けられた導体回路からなるマルチワイヤ配線板において、該接着層に、少なくとも1種以上の分子量10000以下の室温で固形のエポキシ樹脂と、少なくとも室温で液状のエポキシ樹脂とが、重量比95:5から60:40の範囲にある樹脂100重量部に対し、10から50重量部の分子内エポキシ変性ポリブタジエンと、0.5から8重量部のカチオン性光重合開始剤と、スズ化合物とを含むものを用いたことを特徴とするマルチワイヤ配線板。
【請求項4】予め導体回路を形成した基板、もしくは絶縁基板上に絶縁被覆ワイヤを布線、固定するための接着層を設け、次いで絶縁被覆ワイヤを該接着層上に布線、固定した後、さらに必要箇所に穴をあけてスルーホールおよび必要に応じて表面にめっきを行って導体回路を形成するマルチワイヤ配線板の製造方法において、該接着層に、少なくとも1種以上の分子量10000以下の室温で固形のエポキシ樹脂と、少なくとも室温で液状のエポキシ樹脂とが、重量比95:5から60:40の範囲にある樹脂100重量部に対し、10から50重量部の分子内エポキシ変性ポリブタジエンと、0.5から8重量部のカチオン性光重合開始剤と、スズ化合物とを含むものを用い、且つ絶縁被覆ワイヤを布線した後、接着層に完全に硬化するには不十分な量の光を照射して一部分硬化を進め、次いで該基板を加熱プレスした後、再度光を照射して完全に硬化させて、該絶縁被覆ワイヤを固定させることを特徴とするマルチワイヤ配線板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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