説明

マレオニトリル類の製造方法

【課題】マレオニトリル化合物類を収率良く得られる製造方法を提供する。
【解決手段】1,2−ジブロモエテン類とシアン化合物とを反応させ、マレオニトリル類を製造する際に、1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンを反応溶媒として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマレオニトリル化合物類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マレオニトリル化合物類は、液晶表示装置およびプラズマディスプレーパネルなどの光学フィルター用色素、電子写真感光体の感光層に用いられるテトラアザポルフィリン化合物類の製造原料として有用である(特許文献1および特許文献2を参照)。
【0003】
従来のマレオニトリル化合物類の製造方法としては、例えば、1,2−ジエチル−3,4−ジブロモエテンとシアン化銅をN,N´−ジメチルホルムアミドおよびアセトニトリル溶媒中で反応させて1,2−ジエチル−3,4−ジニトリルエテンを得る方法(非特許文献1を参照。)、1,2−ジヨードエテンとシアンイオンを反応させて1,2−ジシアノエテンを得る方法(非特許文献2を参照)、更に1,2−ジクロロ−N,N,N´,N´−テトラメチル−エテン−1,2−ジアミンとシアン化カリウムを18−クラウン−6の存在下で反応させて1,2−ジシアノ−N,N,N´,N´−テトラメチル−エテン−1,2−ジアミンを得る方法(非特許文献3を参照)などが知られている。
【特許文献1】特開2005−120303号公報
【特許文献2】特開2000−194150号公報
【非特許文献1】Synthesis,(9),686−8;1991
【非特許文献2】Recueil des Travaux Chimiques des Pays−Bas et de la Belgique,65,823−4;1946
【非特許文献3】Tetrahedron Letters,22(18),1671−4;1981
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のマレオニトリル化合物類の製造方法で得られるマレオニトリル化合物類の収率は、非特許文献1に記載の製造方法では50%、非特許文献2に記載の製造方法でも45%にすぎない。
したがって、本発明はマレオニトリル化合物を収率良く得られる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、cis−1,2−ジブロモ−3,3−ジメチル−1−ブテンとシアン化銅とを1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンを反応溶媒として用いて反応させることにより、高い選択率でcis−tert−ブチルマレオニトリルが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、一般式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、RおよびR´はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基またはアリールチオ基を示し、Xはハロゲン原子を示し、X´はハロゲン原子またはニトリル基を示す)で表される化合物と、一般式(2)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、HgまたはTlを示す)で表される化合物を反応させて、一般式(3)
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、RおよびR´は前記一般式(1)中のRおよびR´と同義である)で表される化合物を製造するに際し、1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンを反応溶媒として用いることを特徴とする一般式(3)で表される化合物の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マレオニトリル化合物類を収率良く製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の製造方法は、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との反応を、1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンを反応溶媒として用いることを特徴とする。
一般式(1)中のRおよびR´はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基またはアリールチオ基を表し、Xはハロゲン原子を表し、X´はハロゲン原子またはニトリル基を表す。
一般式(1)中のアルキル基は特に限定されないが、アルキル基として炭素数1〜20のアルキル基が好ましいものとして挙げられる。
一般式(1)中のアラルキル基は特に限定されないが、アラルキル基として炭素数1〜20のアラルキル基が好ましいものとして挙げられる。
なお、アラルキル基はアルキル基、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、ハロゲノ基、ハロゲン化炭化水素基で置換されていてもよい。
一般式(1)中のアルコキシ基は特に限定されないが、アルコキシ基として炭素数1〜20のアルコキシ基が好ましいものとして挙げられる。
一般式(1)中のアルキルチオ基は特に限定されないが、アルキルチオ基として炭素数1〜20のアルキルチオ基が好ましいものとして挙げられる。
一般式(1)中のアリール基は特に限定されないが、アリール基として炭素数6〜20のアリール基が好ましいものとして挙げられる。
なお、アリール基はアルコキシ基、アミノ基、アルコキ基、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、ハロゲノ基、ハロゲン化炭化水素基で置換されていてもよい。
一般式(1)中のヘテロアリール基は特に限定されないが、ヘテロアリール基として炭素数4〜20のヘテロアリール基が好ましいものとして挙げられる。
一般式(1)中のアリールオキシ基としては、炭素数6〜20のアリールオキシ基が好ましいものとして挙げられる。
なお、アリールオキシ基はアルキル基および/またはアルコキシ基で置換されていてもよい。
一般式(1)中のアリールチオ基は特に限定されないが、アリールチオ基として炭素数6〜20のアリールチオ基が好ましいものとして挙げられる。
なお、アリールチオ基はアルキル基および/またはアルコキシ基で置換されていてもよい。
【0015】
一般式(2)中のMは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、HgまたはTlを表す。
一般式(2)中のアルカリ金属は特に限定されないが、アルカリ金属としてNa、K、Csが好ましいものとして挙げられる。
一般式(2)中のアルカリ土類金属は特に限定されないが、Baが好ましいものとして挙げられる。
一般式(2)中のMとして、Cuは特に好ましい。
【0016】
一般式(3)中のRおよびR´はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基またはアリールチオ基を表す。
一般式(3)中のアルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基およびアリールチオ基は、前記の一般式(1)中の各基の定義と同義である。
【0017】
一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物の使用量は、化学量論的な1.0:2.0のモル比であればよいが、好ましくは1.0:1.6〜1.0:2.4のモル比から選択することができる。
一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との反応には、反応溶媒として1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンを用いる。
1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンとしては、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジプロピル−2−イミダゾリジノンおよび1,3−ジブチル−2−イミダゾリジノンなどが挙げられ、これらは単独または2種以上組み合わせて用いても良い。
【0018】
1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンの使用量は特に制限されないが、一般式(1)で表される化合物100重量部に対し、20〜2000重量部が好ましい。
一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との反応の温度は、60〜180℃が好ましい。60℃未満だと反応速度が小さく、180℃を超えると目的物である一般式(3)で表される化合物が分解するため好ましくない。
一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との反応の圧力は特に制限されないが、通常、大気圧下である。
一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との反応の雰囲気は、空気および/または窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンおよびラドンなどの不活性気体である。
【0019】
一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との反応は、回分式または連続式のどちらの方法でも実施できる。
例えば、回分式で反応を行なう場合は、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物および1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンを一括で仕込み、所望の温度で反応する方法や、一般式(1)で表される化合物または一般式(2)で表される化合物のどちらか一方の原料と1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンを仕込み、所望の反応温度に加温し、もう一方の原料を添加しながら反応する方法が挙げられる。
連続式で反応を行なう場合は、反応溶媒である1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンを所望の反応温度に保持しながら、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物を連続的に添加し、反応生成物を連続的に抜出す方法が挙げられる。
前記の反応で得られる一般式(3)で表される化合物は、公知の方法で反応混合物から分離することができる。例えば反応混合物中に一般式(3)で表される化合物が析出した状態であれば、これを濾過して分離することができる。反応混合物中に一般式(3)で表される化合物の結晶が析出していない場合は、使用した1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンを蒸留により留去するか、または一般式(3)で表される化合物を溶解しないが、1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンとは混和する溶剤、例えば水やメタノールを添加して一般式(3)で表される化合物の結晶を析出させるなどして一般式(3)で表される化合物を分離することができる。
【0020】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
なお一般式(1)で表される化合物および一般式(3)で表される化合物の分析は液クロマトグラフィー(以下、「HPLC」と略記する)に依った。
HPLC分析条件を以下に記す。
カラム:YMC−Pack ODS−A φ6mm×150mm
溶離液:アセトニトリル/水=7/3
【実施例1】
【0021】
シアン化銅17.9g(0.2モル)と1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン110gおよびcis−1,2−ジブロモ−3,3−ジメチル−1−ブテン21.6g(0.089モル)を仕込み、140℃に加温して同温度で10時間保持した。室温まで冷却して得られた反応マスを濾過して無機塩を除き、濾過マスを167.7g得た。この濾過マスを分析した結果、原料であるcis−1,2−ジブロモ−3,3−ジメチル−1−ブテンは不検出、目的物のcis−tert−ブチルマレオニトリルは濃度6.5重量%で10.9g含まれており、収率は仕込んだcis−1,2−ジブロモ−3,3−ジメチル−1−ブテンに対し91モル%であった。
【0022】
引き続き濾過マスにトルエン150g添加し、更にアンモニア水を250g加えて抽出処理を行なった後に有機相と水相に分離し、cis−tert−ブチルマレオニトリルを含む有機相を得、エバポレーターでトルエンを留去して純度96.8重量%のcis−tert−ブチルマレオニトリルを9.51g得た。
【0023】
[比較例1]
溶媒をN,N´−ジメチルフォルムアミドに変えた以外は実施例1と同様に仕込み、反応を行い、実施例1と同様に濾過して濾過マスを208.5g得た。この濾過マスを分析した結果、原料であるcis−1,2−ジブロモ−3,3−ジメチル−1−ブテンは不検出、目的物のcis−tert−ブチルマレオニトリルは濃度3.98重量%で8.3g含まれており、収率は仕込んだcis−1,2−ジブロモ−3,3−ジメチル−1−ブテンに対し69.5モル%であった。
【0024】
[比較例2]
溶媒をジメチルスルフォキシドに変えた以外は実施例1と同様に仕込み、反応を行い、実施例1と同様に濾過して濾過マスを147.9g得た。この濾過マスを分析した結果、原料であるcis−1,2−ジブロモ−3,3−ジメチル−1−ブテンは不検出、目的物のcis−tert−ブチルマレオニトリルは濃度5.7重量%で8.4g含まれており、収率は仕込んだcis−1,2−ジブロモ−3,3−ジメチル−1−ブテンに対し70.6モル%であった。
【0025】
[比較例3]
溶媒を1−メチル−2−ピロリドンに変えた以外は実施例1と同様に仕込み、反応を行い、実施例1と同様に濾過して濾過マスを146.5g得た。この濾過マスを分析した結果、原料であるcis−1,2−ジブロモ−3,3−ジメチル−1−ブテンは不検出、目的物のcis−tert−ブチルマレオニトリルは濃度2.6重量%で3.8g含まれており、収率は仕込んだcis−1,2−ジブロモ−3,3−ジメチル−1−ブテンに対し31.9モル%であった。
【0026】
[参考例1]
下記の一般式(4)で表される化合物の合成
なお一般式(4)で表される化合物の分析は液クロマトグラフィー(以下、「HPLC」と略記する)に依った。
HPLC分析条件を以下に記す。
カラム:YMC−Pack ODS−A φ6mm×150mm
溶離液:メタノール/テトラヒドロフラン=6/1
【0027】
【化4】

【0028】
1−ペンタノール50gに三塩化バナジウム1.57gを装入し、20℃でアンモニアガス1.02gを1時間かけて導入した。アンモニアガスは反応液中へ導入した。アンモニア導入中は発熱を伴った。20乃至30℃の反応温度で1時間攪拌を行った後、前述した実施例1で得られたcis−tert−ブチルマレオニトリル5.38gを装入し、125℃に昇温した。昇温終了後125℃で6時間攪拌を続けた。反応混合物から1−ペンタノール約40gを蒸留により除去し、メタノール水(メタノールと水の重量比は1:1)を装入して一般式(4)で表される化合物の結晶を析出させた。析出した一般式(4)で表される化合物を濾過により回収し、乾燥させて一般式(4)で表される化合物を得た。乾燥後の一般式(4)で表される化合物をHPLC分析した結果、その純度は94%、収率は85%であった。一般式(4)で表される化合物の元素分析結果およびFD−MS測定結果は次のとおりであった。
元素分析結果 C H N FD−MS
(m/z)
化合物(7) 63.70 6.71 18.55 603
理論値(%) 63.67 6.68 18.56 603
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の製造方法は、マレオニトリル化合物類を収率良く製造する方法として有用である。また、本発明で得られるマレオニトリル化合物類はテトラアザポルフィリン化合物類の製造原料として有用である

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、RおよびR´はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基またはアリールチオ基を示し、Xはハロゲン原子を示し、X´はハロゲン原子またはニトリル基を示す)で表される化合物と、一般式(2)
【化2】

(式中、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、HgおよびTlを示す)で表される化合物を反応させて、一般式(3)
【化3】

(式中、RおよびR´は前記一般式(1)中のRおよびR´と同義である)で表される化合物を製造するに際し、1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンを反応溶媒として用いることを特徴とする一般式(3)で表される化合物の製造方法。
【請求項2】
1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンが、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジプロピル−2−イミダゾリジノンおよび1,3−ジブチル−2−イミダゾリジノンから選択される少なくとも1種以上を溶媒として用いる請求項1記載の一般式(3)で表される化合物の製造方法。