説明

マンコンベア用移動手摺のガイド装置

【課題】簡単な構成によって移動手摺の走行抵抗を大幅に低減させることができ、且つ、種々のマンコンベアに対して容易に適用することができるマンコンベア用移動手摺のガイド装置を提供する。
【解決手段】マンコンベアの移動手摺3の走行を案内するガイド装置10において、移動手摺3の走行方向に沿って設けられた案内レール11と、フッ素樹脂繊維等、案内レール11の表面よりも低い摩擦特性を有する所定の繊維を用いて織られた布からなり、案内レール11の表面の一部を覆うように案内レール11に設けられた摺動布12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エスカレーターや動く歩道等のマンコンベアで使用される移動手摺のガイド装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エスカレーターや動く歩道といったマンコンベアでは、横断面略C字状を呈する無端状の移動手摺が使用されており、その走行の案内が、内側面を介して行われている。このため、移動手摺には、その内側面にポリエステル等の化学繊維で織られた帆布が設けられており、その走行時に、帆布が案内レールに接触し、摩擦特性の高い樹脂部分が案内レールに接触しないように構成している。
【0003】
また、移動手摺の走行を案内するガイド装置に対しては、例えば、潤滑剤を予め練り込んだ樹脂や金属によって案内レールを構成したり、下記特許文献1に記載されたもののように、ベアリングを内蔵したローラを使用したりすることにより、移動手摺が走行する際の摺動抵抗(走行抵抗)の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−62103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
移動手摺の内側面を形成する帆布は、発熱によって軟化すると摩擦特性が高くなる特性を有している。このため、案内レールの摩擦特性によっては、マンコンベアの長時間の運転によって上記帆布が軟化し、移動手摺の走行抵抗が増大する恐れがあった。
【0006】
なお、移動手摺の走行抵抗が増大すると、手摺駆動装置の駆動力が不足してすべりが発生し、移動手摺の安定した走行が困難になってしまう。また、駆動力の調整のために手摺駆動装置の頻繁な保守が必要になり、保守のための費用が増大するといった問題もあった。なお、手摺駆動装置として摩擦駆動方式が採用されている場合は、駆動力を安定させるために移動手摺に対する駆動ローラの押付力を高める必要があり、移動手摺の表面に圧痕が生じ、意匠性の低下を招く恐れがあった。また、駆動ローラの押付力を高めると、駆動ローラや移動手摺の寿命が低下する恐れもあった。
【0007】
一方、特許文献1に記載のガイド装置では、各ローラの配置及び支持のために比較的広いスペースが必要になるため、意匠上の制約等によって、適用できるマンコンベアが制限されるといった問題があった。また、マンコンベアの運転中の騒音、即ちローラが回転する際の騒音も問題となってしまう。
【0008】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、簡単な構成によって移動手摺の走行抵抗を大幅に低減させることができ、且つ、種々のマンコンベアに対して容易に適用することができるマンコンベア用移動手摺のガイド装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るマンコンベア用移動手摺のガイド装置は、マンコンベアの移動手摺の走行を案内するマンコンベア用移動手摺のガイド装置であって、移動手摺の走行方向に沿って設けられた案内レールと、案内レールの表面よりも低い摩擦特性を有する所定の繊維を用いて織られた布からなり、案内レールの表面の一部を覆うように案内レールに設けられた摺動布と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係るマンコンベア用移動手摺のガイド装置であれば、簡単な構成によって移動手摺の走行抵抗を大幅に低減させることができ、且つ、種々のマンコンベアに対して容易に適用することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】マンコンベアの全体構成を示す側面図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるマンコンベア用移動手摺のガイド装置を示す断面図である。
【図3】図2に示すガイド装置の要部断面図である。
【図4】この発明の実施の形態2におけるマンコンベア用移動手摺のガイド装置を示す要部断面図である。
【図5】この発明の実施の形態3におけるマンコンベア用移動手摺のガイド装置の構成を説明するための図である。
【図6】この発明の実施の形態3におけるマンコンベア用移動手摺のガイド装置の構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0013】
実施の形態1.
図1はマンコンベアの全体構成を示す側面図、図2はこの発明の実施の形態1におけるマンコンベア用移動手摺のガイド装置を示す断面図、図3は図2に示すガイド装置の要部断面図である。なお、図2は図1のA−A矢視に相当する。
また、以下においては、マンコンベアの一例として、上下階床間の移動の際に利用されるエスカレーターの構成について具体的に説明し、動く歩道等の他の例については、その説明を省略する。
【0014】
図1乃至図3において、1は上下階床間に架け渡されたエスカレーターのトラス、2は乗客が上下乗降口間を移動する際に乗る踏段、3は踏段2上の乗客が安全のために掴む移動手摺、4は踏段2や移動手摺3を駆動するための駆動電動機、5は駆動電動機4の制御等、エスカレーター全体の運行制御を司る制御盤である。
【0015】
上記移動手摺3は、横(短手方向)断面が略C字状を呈しており、その要部が、手摺本体部6、抗張体7、帆布8によって構成される。
手摺本体部6は、ゴムやポリウレタン等の樹脂からなり、移動手摺3の要部を構成する。この手摺本体部6は、移動手摺3と同様に無端状に形成され、横断面が略C字状を呈している。
【0016】
抗張体7は、移動手摺3に所定の引張強度を付与し、その伸びを防止するためのものである。この抗張体7は、例えば、ワイヤロープやスチールテープ等からなり、手摺本体部6に、その長手に沿って内蔵されている。
帆布8は、移動手摺3の走行抵抗を低減させるために備えられたものである。この帆布8は、ポリエステルやナイロン等の化学繊維からなる織編物によって構成され、本体樹脂部6の内側面に設けられている。即ち、この帆布8が、移動手摺3の内側面を形成する。
【0017】
また、9は上記構成を有する移動手摺3を駆動するための手摺駆動装置である。この手摺駆動装置9は、駆動ローラ及び加圧ローラ等を備えた摩擦駆動方式等によって移動手摺3を駆動し、上記踏段2と同期するように移動手摺3を走行させる。
【0018】
10は移動手摺3の走行を案内するガイド装置である。このガイド装置10は、上下乗降口間を循環移動する移動手摺3の走行を適切に案内し、且つ、移動手摺3が走行する際の摺動抵抗(走行抵抗)を低減させるための特有の機能を有している。具体的に、上記機能を実現するため、ガイド装置10には、移動手摺3の走行方向に沿って設けられた案内レール11と、この案内レール11の全体或いは要部を被覆する摺動布12とが備えられている。
【0019】
案内レール11は、移動手摺3の移動を所定の方向に規制する機能を有している。この案内レール11は、潤滑剤を予め練り込んだ樹脂や金属等から形成されており、例えば、移動手摺3のC字状部内に配置される板状のガイド部13と、ガイド部13を欄干14の縁部等に取り付けるための取付部15とにより構成される。
【0020】
摺動布12は、移動手摺3が案内レール11に沿って移動する際の摺動抵抗を低減させる機能を有している。具体的に、摺動布12は、案内レール11の表面よりも低い摩擦特性を有する所定の繊維を用いて織られた布からなり、案内レール11のガイド部13の表面を覆うようにこのガイド部13に設けられている。即ち、摺動布12は、上記所定の繊維によってその表面全体(或いは、表面の要部)が形成されており、案内レール11の表面よりも低い摩擦特性を有する。このため、移動手摺3の走行時に帆布8がガイド装置10に接触することによって発生する摺動抵抗は、上記摺動布12の適用によって大幅に低減させることができる。
【0021】
具体的に、摺動布12に用いる繊維としては、その摩擦特性が極めて低いもの、例えば、フッ素樹脂を繊維化したもの(以下、「フッ素樹脂繊維」という)が好適である。このようなものの例としては、東レ株式会社製の「トヨフロン(登録商標)」や、株式会社巴川製紙所製の「トミーファイレック(登録商標)」等が既に市販されている。フッ素樹脂繊維は、その摩擦係数の値が、一般のポリエステル繊維と比較すると1/3程度であるため、かかる繊維の利用によって上記摺動抵抗の大幅な低減が期待できる。
【0022】
また、上記摺動布12は、接着固定やボルト等を用いた締結固定によって、案内レール11のガイド部13に取り付けられる。具体的に、本実施の形態においては、皿ネジ16による締結固定と所定の接着剤17(又は、樹脂)による接着固定の双方によって、横断面において帆布8の全体と対向するように、摺動布12を案内レール11に固定した場合を示している。摺動布12にフッ素樹脂繊維を用いた場合は、その摩擦特性が極めて低いため、摺動布12を案内レール11に確実に固定するためにはこのような方法が望ましい。
【0023】
なお、摺動布12を固定する上記皿ネジ16が、走行中の移動手摺3の帆布8に接触することを防止するため、皿ネジ16は、摺動布12の表面から突出しないように、その頭部が摺動布12の表面よりも一段低くなるように配置される。
また、上記接着剤17としては、案内レール11のガイド部13との接着性に優れたものが使用される。そして、摺動布12は、案内レール11のガイド部13表面に塗布された接着剤17がその繊維間に浸透することにより、アンカー効果によって、裏面側がガイド部13に対して強固に固定される。この時、摺動布12の裏面をウレタン系樹脂によってコーティングすれば、摺動布12と接着剤17との接着効果を更に高めることが可能となる。
【0024】
なお、上記摺動布12は案内レール11の全長に渡って設けても良いが、帆布8がガイド装置10に接触し易い、案内レール11の湾曲部(図2における区間a乃至f)のみに限定して設置しても良い。
ここで、図1に示す区間a及び区間bは、上下乗降口において移動手摺3が上下反転するニュアル部を示している。また、区間c及びdは、上側ニュアル部と中間傾斜部との間に配置された案内レール11の湾曲部を、区間e及びfは、下側ニュアル部と中間傾斜部との間に配置された案内レール11の湾曲部を示している。
【0025】
この発明の実施の形態1によれば、摺動布12を案内レール11に被覆するといった簡単な構成によって移動手摺3の走行抵抗を大幅に低減させることが可能となり、上述したような、手摺駆動装置9におけるすべりの発生等の問題を確実に解消することが可能となる。また、上記摺動布12であれば、案内レール11を備えた種々のマンコンベアに対して容易に適用することが可能であり、また、皿ネジ16等による締結によって摺動布12の固定を行えば、その交換も容易に行うことができるようになる。
【0026】
実施の形態2.
図4はこの発明の実施の形態2におけるマンコンベア用移動手摺のガイド装置を示す要部断面図である。
本実施の形態における摺動布12は、案内レール11の表面に対向する裏面側の基布18と、移動手摺3の帆布8に対向する表面側の滑り布19との二層構造を有している。
【0027】
基布18は、少なくともその一部に、ポリエステル繊維等、接着剤17との接着性に優れた所定の繊維が用いられており、その所定の繊維により、裏面全体(或いは、裏面の要部)が形成されている。
【0028】
また、滑り布19は、フッ素樹脂繊維等、案内レール11の表面及び上記基布18よりも低い摩擦特性を有する所定の繊維が用いられており、その所定の繊維により、表面全体(或いは、表面の要部)が形成されている。なお、摺動布12は、基布18と滑り布19との二層織りからなり、滑り布19は、繊維によって基布18に固定されている。そして、摺動布12は、案内レール11のガイド部13表面に塗布された接着剤17の接着力とその接着剤17が基布18の繊維間に浸透することによるアンカー効果とにより、裏面側がガイド部13に対して強固に固定されている。
【0029】
この発明の実施の形態2によれば、移動手摺3の走行抵抗を低減させるために摺動布12の表面をフッ素樹脂繊維等によって形成した場合であっても、摺動布12の裏面にウレタン系樹脂等のコーティングを施す必要はなく、摺動布12を案内レール11に強固に接着固定することが可能となる。また、ナイロン等の樹脂や金属といった案内レール11の材質に関わらず、高い接着力が期待できる。
その他は、実施の形態1と同様の構成を有している。
【0030】
実施の形態3.
図5及び図6はこの発明の実施の形態3におけるマンコンベア用移動手摺のガイド装置の構成を説明するための図である。なお、図5及び図6は案内レール11の長手方向に沿った縦断面を示している。
【0031】
図5及び図6において、12aは案内レール11の表面を被覆する摺動布12の長手方向の一端部である。摺動布12は、この一端部12aに近接する所定部分が他の部分よりも突出するように配置されている。このため、摺動布12は、一端部12aの表面が、上記突出部分の表面よりも移動手摺3(の帆布8)から離れた位置に配置されている。
【0032】
このような構成を有するガイド装置10であれば、摺動布12の一端部12aの表面が上記突出部分の表面よりも一段低い位置に配置されるため、移動手摺3の走行中においても、移動手摺3の帆布8が摺動布12の一端部12aに接触することはない。このため、摺動布12が一端部12a側から剥がれてしまうことを防止でき、長期に渡って摺動布12の効果を持続させることが可能となる。
【0033】
なお、摺動布12の上記配置を実現するためには、例えば、摺動布12を突出させたい部分にスペーサ等を配置して、摺動布12と案内レール11、或いは、摺動布12のみを外側に突出させるようにすれば良い。図5は案内レール11の取付部15にスペーサ20aを挿入した状態(図2参照)で案内レール11を欄干14の縁部に固定することにより、案内レール11自体を湾曲させた場合を、図6は案内レール11と摺動布12との間にスペーサ20bを挿入して摺動布12の所定部分のみ突出させた場合を示している。
その他の構成は、実施の形態1又は2と同様である。
【符号の説明】
【0034】
1 トラス
2 踏段
3 移動手摺
4 駆動電動機
5 制御盤
6 手摺本体部
7 抗張体
8 帆布
9 手摺駆動装置
10 ガイド装置
11 案内レール
12 摺動布
12a 一端部
13 ガイド部
14 欄干
15 取付部
16 皿ネジ
17 接着剤
18 基布
19 滑り布
20a、20b スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンコンベアの移動手摺の走行を案内するマンコンベア用移動手摺のガイド装置であって、
前記移動手摺の走行方向に沿って設けられた案内レールと、
前記案内レールの表面よりも低い摩擦特性を有する所定の繊維を用いて織られた布からなり、前記案内レールの表面の一部を覆うように前記案内レールに設けられた摺動布と、
を備えたことを特徴とするマンコンベア用移動手摺のガイド装置。
【請求項2】
前記摺動布は、フッ素樹脂繊維を用いて織られた布からなり、前記フッ素樹脂繊維によって、その表面の少なくとも一部が形成されたことを特徴とする請求項1に記載のマンコンベア用移動手摺のガイド装置。
【請求項3】
前記摺動布は、ボルトを用いて前記案内レールに締結固定され、
前記ボルトは、前記摺動布の表面から突出しないように配置された
ことを特徴とする請求項2に記載のマンコンベア用移動手摺のガイド装置。
【請求項4】
前記摺動布は、その裏面がウレタン系樹脂によってコーティングされるとともに、前記案内レールの表面に塗布された接着剤又は樹脂がその繊維間に浸透することにより、裏面側が前記案内レールに固定されたことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のマンコンベア用移動手摺のガイド装置。
【請求項5】
前記摺動布は、
前記案内レールの表面に対向する基布と、
前記移動手摺に対向するように前記基布に設けられ、少なくともその一部に、前記基布よりも低い摩擦特性を有する繊維を用いて織られた滑り布と
を備え、
前記案内レールの表面に塗布された接着剤又は樹脂が前記基布の繊維間に浸透することにより、裏面側が前記案内レールに固定されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のマンコンベア用移動手摺のガイド装置。
【請求項6】
前記基布は、ポリエステル繊維を用いて織られた布からなり、前記ポリエステル繊維によって、その裏面の少なくとも一部が形成され、
前記滑り布は、フッ素樹脂繊維を用いて織られた布からなり、前記フッ素樹脂繊維によって、その表面の少なくとも一部が形成された
ことを特徴とする請求項5に記載のマンコンベア用移動手摺のガイド装置。
【請求項7】
前記摺動布は、前記移動手摺が上下反転するニュアル部に設けられたことを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載のマンコンベア用移動手摺のガイド装置。
【請求項8】
前記摺動布は、前記案内レールの湾曲部にのみ設けられたことを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載のマンコンベア用移動手摺のガイド装置。
【請求項9】
前記摺動布は、端部に近接する所定部分が突出して配置されることにより、前記端部の表面が、前記突出部分の表面よりも前記移動手摺から離れた位置に配置されたことを特徴とする請求項1から請求項8の何れかに記載のマンコンベア用移動手摺のガイド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−51668(P2011−51668A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199578(P2009−199578)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】