説明

マンデル酸類の取り扱い方法及び安定化マンデル酸類組成物

【課題】マンデル酸類の結晶の析出などがなく、安定に安全に使用するための取り扱い方法を提供する。
【解決手段】
粉体のマンデル酸類を、炭素数1から4のアルコールに溶解させた溶液として取扱うことを特徴とするマンデル酸類の取り扱い方法。好ましくは、粉体のマンデル酸類と前記アルコールとの質量比を1.2/1〜4/1で溶解させる。この溶液は、通常得られる粉体状のマンデル酸類の容積を減少させることができ、コンパクトに保管・輸送が可能になる。また、この溶液は幅広い温度においても溶液のまま安定であり、安全な取り扱い方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンデル酸類の結晶の析出などがなく、安定で安全な取り扱い方法、および安定化マンデル酸類組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マンデル酸類は、医薬や農薬合成のための中間体として、広く利用されている。特に、光学活性なマンデル酸は、光学活性医薬品合成の原料として有用である。
【0003】
マンデル酸類の結晶は、マンデル酸類の水を含む溶液から晶析、ろ過、遠心分離などの操作により母液より分離され水洗後、乾燥して得られる。得られた結晶は微細なものが含まれているため飛散性が強い。梱包、計量や反応器への仕込みの際に粉体が飛散して取り扱いにくいという問題がある。
【0004】
マンデル酸類は酸型の場合、皮膚や眼を強く刺激するので、安全のため作業者が保護具を着用したり、防護壁を設け外界と遮断する等の防粉塵対策が必要となるが、完全ではない。
【0005】
マンデル酸類と鉱酸とを含む水溶液中にアルカリを加えて部分中和してから晶析することにより、マンデル酸類の粒子径を一定範囲とし、充填密度を規定した、マンデル酸類の製法についても報告されているが、粒子径を大きくできても、微細な粒子を含むため飛散を防止することはできないという問題がある。(特許文献1参照)
また、製品をスラリーや水溶液として取り扱う方法も考えうるが、スラリーの場合は容器中で製品が不均一に分布するため、使用時に加熱溶解や共洗いなどの手間のかかる処理をする必要があることや、水溶液の場合、外部の温度変化によって容易に結晶が析出してしまうため、大量の水を使用して水溶液とするといった問題がある。
【0006】
また、酸型ではなく、ナトリウムなどの塩とすることでマンデル酸類は水への溶解性が向上し、水溶液として取り扱うことが可能になるが、当該マンデル酸類を酸型で、あるいは有機溶媒中で使用する用途に対しては、脱塩、脱水という操作が必要となる問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開2003−226666
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
粉体のマンデル酸類を飛散させることなく、安定で安全に使用するために、溶液状であっても容積を小さくでき、かつ広範囲な温度に適用できる取り扱い方法を見出すことが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明では、広範囲な温度条件に適用が可能でかつ、製品純度に対して影響の少ないマンデル酸類の経済的でしかも安全な取り扱い方法を提供する。
【0010】
前記課題を解決する方法を各種検討した結果、マンデル酸類を高濃度で溶解させる能力を有する特定の溶媒(炭素数が1から4のアルコール)に当該マンデル酸類を溶解して得られる溶液は取り扱いが容易になることがわかった。ここで得られるマンデル酸類の前記アルコール溶液は、通常得られる粉体状のマンデル酸類の容積を減少させることができ、コンパクトに保管・輸送が可能になるばかりではなく、−20〜60℃の広範囲の温度条件においても溶液のまま安定であり、使用時の取り扱いが極めて容易になることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、粉体のままでは飛散しやすく、しかも皮膚刺激性の高いマンデル酸類をコンパクトにかつ広範囲の温度条件においても溶液のまま、安定で安全に取り扱うことのできる取り扱い方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の方法は、粉体のマンデル酸類を、炭素数1から4のアルコールで溶解させた溶液として取扱う。前記アルコール以外の各種溶媒を発明者らは検討したが、溶液のままで安定を保てる溶媒は、前記アルコールが最も優れていることを見出した。
【0013】
本発明における、「取り扱い方法」との用語は、マンデル酸類のタンクなどでの貯蔵、輸送、パイプ、バルブ、ノズルなどを含めた配管での移送および小口のポリ容器やガラス瓶での貯蔵、輸送、計量を意味する。本発明の炭素数1から4のアルコール溶液とすることで、マンデル酸類を梱包、計量や反応器への仕込みの際に粉体が飛散することを防ぐことができ、かつ通常得られる粉体の容積よりも製品容積を減少させることができ、コンパクトに保管・輸送が可能になる。
【0014】
本発明におけるマンデル酸類は、常温で結晶状の粉体であり、かつ塩を形成していないものである。
【0015】
このようなマンデル酸類として、マンデル酸の他にその誘導体、例えばマンデル酸のベンゼン環に置換基を有するものが挙げられる。
【0016】
前記置換基の具体例としては、例えばメチル基、エチル基等の炭素数1~5の直鎖状または分岐状アルキル基、メトキシ基、メチルチオ基、ニトロ基、シアノ基、または塩素、臭素、フッ素等のハロゲン等が挙げられる。
【0017】
なお、本発明で用いられるマンデル酸類はR体、S体またはラセミ体のいずれでも良いが、光学活性な医・農薬を合成するための原料とするためにR体またはS体のいずれかの光学純度が98%以上であることが好ましい。
【0018】
本発明に用いるアルコールの炭素数は1から4であり、好ましくは1から2、より好ましくは1である。炭素数1から4のアルコールは広範囲の温度で析出を起こさず、取り扱いに優れている。
【0019】
前記アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノールが挙げられる。
【0020】
マンデル酸類と前記アルコールとの好適な質量比は、1.2/1〜4/1であり、より好ましくは、1.5〜3/1である。1.2/1〜4/1の範囲では、結晶の析出のない溶液状となるからである。1.5〜3/1では、混合により容易に溶液状に調製できるからである。なお、好適な質量比で得られる前記アルコール溶液の容積は、元の粉体の容積よりも小さくなるが、これは25℃で得られる容積で比較している。
【0021】
本発明で使用する粉体の容積は、JIS K5101に規定されている、タップ方法によって求めている。
【0022】
マンデル酸類の前記アルコール溶液の調製方法は、粉体のマンデル酸類を溶解させればよく、例えば、撹拌したアルコール中に粉体のマンデル酸類を徐々に投入する方法、アルコールと粉体のマンデル酸類を加熱・撹拌して混合する方法等が実施できる。
【0023】
マンデル酸類の前記アルコール溶液は、−20〜60℃の温度で取扱うことができる。該温度内では、安定に扱うことができる。さらに好ましい温度は−20〜50℃である。−20〜50℃では、体積膨張を抑えることができ保存容器への負苛を軽減できるからである。
【0024】
さらに、マンデル酸類とメタノールの質量比が1.2/1〜4/1である該溶液は、−20℃の冷凍庫へ入れ、1週間保管しても、結晶などの析出は見られなく安定であった。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0026】
(試料容積の測定)
JIS K5101に規定されている、タップ方法によって求めた。具体的には、粉体約100mLを目開き0.5mmのふるいに取り、篩い分けした。ふるいを通過した試料100mLを100mLメスシリンダーへ徐々に入れ、質量を測定した。次いで、メスシリンダーにゴム栓をつけ、5cmの高さからゴム板上で50回落下タップさせた。タップ後のメスシリンダー内の試料容積を測定した。
【0027】
(安定性試験)
マンデル酸類のメタノールに溶解しマンデル酸類組成物を調製する。組成物の外観を目視で結晶粉体の有無、透明性および流動性を観察する。その後、マンデル酸類組成物を−20℃の冷凍庫へ入れ、1週間保管し、組成物の外観を観察し、透明性、結晶の析出及び流動性を評価する。
【0028】
(実施例1)
R−2−クロロマンデル酸結晶の粉体の容積を上述の方法により求めた。その結果、本試料の容積は78.5mL、質量48.4gであった。本試料に2−プロパノールを32.3g(R−2−クロロマンデル酸濃度60質量%) 添加して、加温・混合することにより粉体を溶解させ、目視で白濁のない透明な液体であることを確認した。このときの容積は、25℃で77.5mLであった。
【0029】
(実施例2)
R−2−クロロマンデル酸結晶の粉体の容積を上述の方法により求めた。その結果、本試料の容積は78.5mL、質量48.4gであった。本試料にメタノールを16.1g(R−2−クロロマンデル酸濃度75質量%) 添加して混合することにより粉体を溶解させ、目視で白濁のない透明な液体であることを確認した。このときの容積は、25℃で53.6mLであった。本溶液を−20℃の冷凍庫へ入れ、1週間放置した。放置後の様子を観察したところ、元の透明な液体で結晶の析出は無く、流動性を有していた。
【0030】
(実施例3)
S-マンデル酸結晶粉体約50gを目開き0.5mmのふるいに取り、篩い分けした。以下実施例1と同様の操作を行い、容積を測定した。
測定の結果、本試料の容積は77.8mL、質量49gであった。本粉体にメタノールを26.4g(S-マンデル酸濃度65質量%) 添加して混合することにより粉体を溶解させ、目視で白濁のない透明な液体であることを確認した。このときの容積は、25℃で73.5mLであった。本溶液を−20℃の冷凍庫へ入れ、1週間放置した。放置後の様子を観察したところ、元の透明な液体で結晶の析出は無く、流動性を有していた。
【0031】
(実施例4)
S−2−クロロマンデル酸結晶粉体約50gを目開き0.5mmのふるいに取り、篩い分けした。以下実施例1と同様の操作を行い、容積を測定した。
測定の結果、本試料の容積は74.9mL、質量48.7gであった。本粉体にメタノールを20.9g(S−2−クロロマンデル酸濃度70質量%) 添加して混合することにより粉体を溶解させ、目視で白濁のない透明な液体であることを確認した。このときの容積は、25℃で60.9mLであった。さらに、本溶液を−20℃の冷凍庫へ入れ、1週間放置した。放置後の様子を観察したところ、元の透明な液体で結晶の析出は無く、流動性を有していた。
【0032】
(実施例5)
実施例2のメタノールの量を32.3g(R−2−クロロマンデル酸濃度60質量%)に変えて添加して混合することにより粉体を溶解させ、目視で白濁のない透明な液体であることを確認した。このときの容積は、25℃で77.0mLであった。さらに、本溶液を−20℃の冷凍庫へ入れ、1週間放置した。放置後の様子を観察したところ、元の透明な液体で結晶の析出は無く、流動性を有していた。
【0033】
(比較例1)
実施例1のメタノールの変わりにイオン交換水を32.3g(R−2−クロロマンデル酸濃度60質量%)添加して混合することにより粉体を溶解させた。白濁していたため50℃に加温したところ、透明な液体となった。40℃以下では結晶が析出し白濁した。25℃では結晶が大量に析出し、流動性は無くなった。
【0034】
(比較例2)
S−2−クロロマンデル酸結晶粉体約100gを目開き0.5mmのふるいに取り、篩い分けした。以下実施例1と同様の操作を行い、容積を測定した。
測定の結果、本試料の容積は74.9mL、質量48.7gであった。本粉体にt−ブチルメチルエーテルを39.8g(S−2−クロロマンデル酸濃度55質量%) 添加して混合することにより粉体を溶解させた。粉体が溶けず白濁していたため50℃に加温したところ、溶解し流動性を示した。25℃では結晶が大量に析出し、流動性は無くなった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のマンデル酸類の取り扱い方法によれば、飛散しやすくしかも刺激性のある常温で粉体のマンデル酸類を安全かつ効率よく使用することができる。さらに、粉体の状態よりも容積が小さくすることができ、省スペースでの保管、輸送が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体のマンデル酸類を、炭素数1から4のアルコールに溶解させた溶液として取扱うことを特徴とするマンデル酸類の取り扱い方法。
【請求項2】
マンデル酸類と前記アルコールの質量比が1.2/1〜4/1であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記マンデル酸類の前記アルコール溶液の25℃で得られる容積が、粉体のマンデル酸類の容積よりも小さいことを特徴とする請求項1から2いずれか記載の方法。
【請求項4】
前記マンデル酸類の前記アルコール溶液を−20〜60℃の温度で取扱う請求項1から3いずれか記載の方法。
【請求項5】
前記アルコールがメタノールであることを特徴とする請求項1から4いずれか記載の方法。
【請求項6】
マンデル酸類とメタノールの質量比が1.2/1〜4/1であり、下記の安定試験で結晶が析出しないことを特徴とする安定化マンデル酸類組成物。
安定試験:マンデル酸類組成物を−20℃の冷凍庫へ入れ、1週間保管

【公開番号】特開2007−238576(P2007−238576A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66915(P2006−66915)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】