説明

マンニトールを含む高タンパク質濃度の処方物

本発明は、タンパク質濃度を50mg/mlより多い量にまで増大させることによって、液体処方物中のタンパク質のマンニトール誘導性の凝集を阻害するための方法を提供する。本発明はまた、マンニトールおよび50mg/mlより多いタンパク質濃度を含む液体処方物を貯蔵および調製するための方法を提供する。具体的には、本発明の方法は、最初にマンニトールを除去せずに、マンニトールを含むタンパク質処方物の凍結貯蔵を可能にする。従って、本発明は、費用および処理工程、ならびにマンニトールを含むタンパク質処方物を貯蔵および調製するための時間を減らす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
この出願は、2006年12月6日に出願された、米国仮特許出願第60/873,526号(その全体が参考として本明細書に援用される)の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、マンニトールを含むタンパク質処方物を貯蔵および調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
マンニトールは、一般に、タンパク質処方物の安定性および等張性を維持するために、タンパク質処方物において使用されてきた。過去、液体窒素を使用して、貯蔵のためにタンパク質処方物を急速凍結してきた。しかし、液体処方物の大規模な制御されていない凍結へのほぼすべてのアプローチは、制御されない凝固および融解のネガティブ効果を欠点として持っている。相変化の不適切な制御は、凝集、沈降、酸化および変性に起因して、生成物の喪失を生じることが示された。近年の技術は、タンパク質処方物の凍結および融解プロセスを制御するために導入された。これら技術は、代表的には、非常にゆっくりとした速度で凍結および融解する。結果として、マンニトール含有タンパク質処方物においては、上記のゆっくりとした凍結融解プロセスは、マンニトールを結晶化させてしまい、このことは、続いて、タンパク質凝集を誘導する。ゆっくりとした凍結融解プロセスの間のマンニトール誘導性のタンパク質凝集を避けるために、既存の方法は、マンニトールをタンパク質処方物から除去し、融解後の操作の間にマンニトールを添加し戻すことを要した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、マンニトールを含むタンパク質処方物を貯蔵および調製するための改善された方法を提供する。具体的には、本発明の方法は、最初にマンニトールを除去せずに、マンニトールを含むタンパク質処方物の凍結貯蔵を可能にする。従って、本発明は、費用および処理工程、ならびにマンニトールを含むタンパク質処方物を貯蔵および調製するための時間を減らす。
【0005】
一局面において、本発明は、液体処方物を貯蔵するための方法を提供し、上記方法は、上記液体処方物を、約−10℃より低い温度へと徐々に冷却する工程を包含する。上記液体処方物は、マンニトールおよびタンパク質を含み、上記タンパク質は、50mg/mlより高い濃度で存在し、その結果、上記高い濃度が、冷却の間にタンパク質凝集を抑制する。
【0006】
一実施形態において、本発明の方法は、上記液体処方物を、約−20℃より低い温度へと徐々に冷却する工程を包含する。別の実施形態において、本発明の方法は、上記液体処方物を、約−40℃以下の温度へと徐々に冷却する工程を包含する。なお別の実施形態において、本発明の方法は、上記液体処方物を、約−50℃以下の温度へと徐々に冷却する工程を包含する。
【0007】
いくつかの実施形態において、本発明は、マンニトールを約0〜15%の範囲の量で含む上記液体処方物を貯蔵するために使用され得る。特に、上記液体処方物は、約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%または15%の量でマンニトールを含み得る。パーセンテージは、固体に言及する場合には、重量/重量であり、液体に言及する場合には、重量/容積である。
【0008】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、上記液体処方物を、約0.6℃/分、0.5℃/分、0.4℃/分、0.3℃/分、0.2℃/分、または0.1℃/分の速度で徐々に冷却する工程を包含する。
【0009】
いくつかの実施形態において、上記液体処方物は、約75mg/ml、100mg/ml、125mg/ml、150mg/ml、または200mg/mlより高い濃度でタンパク質を含む。好ましくは、上記液体処方物は、50mg/ml〜200mg/mlの間の濃度でタンパク質を含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、上記液体処方物は、抗体であるタンパク質を含む。特に、上記抗体は、モノクローナル抗体である。他の実施形態において、上記液体処方物は、薬学的薬物物質であるタンパク質を含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、本発明の液体処方物を貯蔵するための方法は、処理手段(process intermediate)である。
【0012】
別の局面において、本発明は、液体処方物を調製するための方法を提供し、上記方法は、上記液体処方物を、凍結状態から約0℃より高い温度へ徐々に加温する工程を包含する。上記液体処方物は、マンニトールおよび50mg/mlより高い濃度のタンパク質を含み、その結果、上記高い濃度は、加温の間にタンパク質凝集を抑制する。
【0013】
いくつかの実施形態において、液体処方物を調製するための方法は、上記液体処方物を、凍結状態から約10℃、20℃、25℃、30℃またはそれ以上の温度へと徐々に加温する工程を包含する。
【0014】
いくつかの実施形態において、本発明は、約0〜15%の範囲の量でマンニトールを含む液体処方物を調製するために使用され得る。特に、上記液体処方物は、約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%または15%の量でマンニトールを含む。パーセンテージは、固体に言及する場合には、重量/重量であり、液体に言及する場合には、重量/容積である。
【0015】
いくつかの実施形態において、液体処方物を調製するための方法は、上記液体処方物を、約0.6℃/分、0.5℃/分、0.4℃/分、0.3℃/分、0.2℃/分、または0.1℃/分の速度で徐々に加温する工程を包含する。
【0016】
いくつかの実施形態において、上記液体処方物は、約75mg/ml、100mg/ml、125mg/ml、150mg/ml、または200mg/mlより高い濃度でタンパク質を含む。好ましくは、上記液体処方物は、50mg/ml〜200mg/mlの間の濃度でタンパク質を含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、上記液体処方物は、抗体であるタンパク質を含む。特に、上記抗体は、モノクローナル抗体である。他の実施形態において、上記液体処方物は、薬学的薬物物質であるタンパク質を含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、本発明の液体処方物を調製するための方法は、処理手段である。
【0019】
本発明の液体処方物は、通常は、水溶性処方物である。
【0020】
本発明は、上記の種々の実施形態に記載されるように、本発明の方法によって調製される液体処方物において生物学的に有効な量のタンパク質を含む組成物をさらに提供する。
【0021】
なお別の局面において、本発明は、タンパク質濃度を、50mg/mlより多い量にまで増大させることによって、液体処方物においてタンパク質のマンニトール誘導性の凝集を阻害するための方法を提供する。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、タンパク質濃度を、約75mg/ml、100mg/ml、125mg/ml、150mg/ml、または200mg/mlより多い量にまで増大させることによって、液体処方物においてタンパク質のマンニトール誘導性の凝集を阻害する。代表的なタンパク質濃度は、50mg/ml〜200mg/mlの間である。
【0022】
本願において、「または」の使用は、別段示されなければ、「および/または」を意味する。本願において使用される場合、用語「含む(comprise)」およびこの用語のバリエーション(例えば、「含む(comprising)」および「含む(comprises)」)は、他の付加物、構成成分(component)、成分(integer)もしくは工程を排除することを意味しない。本願において使用される場合、用語「約(about)」および「約(approximately)」は、等価物として使用される。約(about)/約(approximately)ありまたはなしに関わらず、本願において使用される任意の数値は、関連分野の当業者によって認識される任意の正常の変動を網羅することを意味する。
【0023】
本発明の他の特徴、目的および利点は、以下の詳細な説明において明らかになる。しかし、詳細な説明は、本発明の実施形態を示すと同時に、単なる例示によって提供されるに過ぎず、限定によって提供されるのではないことが理解されるべきである。本発明の範囲内の種々の変更および改変は、詳細な説明から当業者に明らかになる。
【0024】
図面は、例示目的に過ぎず、限定のためではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、CryoPilot(CP)システムによる各例示的プロセススケールでのサンプル生成物温度追跡を示す。
【図2】図2は、−40℃まで冷却し、次いで、20℃まで加温した場合(ともに0.5℃/分において)の、凍結抗体溶液のX線回折(XRD)パターンを示す。
【図3】図3は、30mg/mlの濃度のモノクローナル抗体を−42℃より低く冷却した場合の、変調型示差走査熱量測定法(mDSC)のサンプルサーモグラフを示す。
【図4】図4は、ゆっくりとした凍結融解プロセスの間のタンパク質濃度に対してプロットした総エンタルピーを示す。
【図5】図5は、代表的抗体のサイズ排除クロマトグラフィーHPLC(SEC−HPLC)のクロマトグラムを示す。
【図6】図6は、タンパク質濃度に対してプロットした高分子量(HMW)種のパーセンテージにおける変化を示す。
【図7】図7は、同じ混合速度での同じ凍結/融解プロフィールが、生成物負荷量に基づいて、2セットの記録を生じたことを示す。
【図8】図8は、実験系のより速い凍結および融解の速度が、最小の生成物負荷量での速度より速かったことを示す。
【図9】図9は、実験系のゆっくりとした凍結および融解の速度が、最大の生成物スケールでの速度よりゆっくりとしていたことを示す。
【図10】図10は、ゆっくりとした凍結および融解の実験スケールサイクル開発の間に観察された代表的な過冷却現象を示す。
【図11】図11は、マンニトールありまたはなしで(合計15個)、修正プロフィールを5種の緩衝液試験で行い、続いて、5種のMabM試験を行い、過冷却が10個の熱電対追跡のいずれにおいても認められなかった(0% 発生)を示す。
【図12】図12は、MabおよびMabMの生成物温度追跡を重ね合わせたこと、マンニトールありまたはなしで、最大5種のMab試行まで10個の熱電対追跡のいずれについてもおよび過冷却が認められなかったことを示す。
【図13】図13は、速い速度と比較して、HMW種のパーセンテージが、ゆっくりとした速度での複数回の凍結融解プロセス後に、より顕著に増大したことを示す。
【図14】図14は、HMW種における増加が、マンニトールを含む100mg/mLの濃度のMab処方物において観察されなかったことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(発明の詳細な説明)
本発明は、マンニトールを含むタンパク質処方物を貯蔵および調製するための改善された方法を提供する。具体的には、本発明は、タンパク質濃度を増大させることによって、ゆっくりとした凍結および/または融解プロセスの間に、液体処方物におけるマンニトール誘導性のタンパク質凝集を抑制または排除するための方法を提供する。
【0027】
本発明の種々の局面は、以下の小節においてさらに詳細に記載される。小節の使用は、本発明の限定を意味しない。各小節は、本発明のいずれに局面にも当てはまり得る。
【0028】
(マンニトールを含むタンパク質処方物)
タンパク質は、水性状態においては比較的不安定であり、化学的および物理的分解を受け、処理および貯蔵の間に生物学的活性の喪失を生じる。凍結融解および凍結乾燥は、貯蔵のためのタンパク質を保存する十分に確立された方法である、タンパク質のコンホメーション、活性および安定性を保存するために、タンパク質処方物は、通常、このことを促進するための薬剤、いわゆる溶解保護剤(lyoprotectant)および凍結保護剤(cryoprotectant)を含む。凍結保護剤は、凍結誘導性のストレスからタンパク質に対して安定性を提供する薬剤である;しかし、上記用語はまた、例えば、非凍結誘導性プロセスから貯蔵の間にバルク薬物処方物に、安定性を提供する薬剤を含む。溶解保護剤は、おそらく、水素結合を介するタンパク質の適切なコンホメーションを維持することによって、乾燥プロセスの間に上記系から水を除去する間にタンパク質に対する安定性を提供する薬剤である。凍結保護剤はまた、溶解保護効果も有し得る。頻繁に使用される充填剤(bulking agent)の例としては、マンニトール、グリシン、スクロース、ラクトースなどが挙げられる。上記薬剤はまた、上記処方物の等張性に寄与する。
【0029】
本明細書において使用される場合、「タンパク質」は、任意の組換えポリペプチドまたは精製ポリペプチドを含み、これらとしては、抗体(例えば、モノクローナル抗体、一本鎖抗体、および他の抗体改変体);種々の成長ホルモン;および任意の薬学的薬物物質が挙げられるが、これらに限定されない。本願において言及されるタンパク質は、任意の天然に存在するポリペプチド、改変されたポリペプチド、または合成ポリペプチドを包含する。
【0030】
本明細書において使用される場合、「タンパク質処方物」、「液体処方物」、または文法的等価物は、任意の液体ポリペプチド含有組成物を包含する。代表的には、本発明の液体処方物は、水性処方物である。上記液体ポリペプチド含有組成物は、受容可能な範囲において上記溶液pHを維持する因子を含む「緩衝化剤」をさらに含み得、そして上記の充填剤を含み得、そしてまた、ヒスチジン、ホスフェート、シトレート、トリス、ジエタノールアミンなどを含み得る。上記液体ポリペプチド含有組成物が薬学的組成物である場合、上記液体処方物は、「賦形剤」をさらに含み得る。用語「賦形剤」とは、薬学的に受容可能なキャリア、ならびに生物学的活性の実質的な保持およびタンパク質安定性が維持されるように、貯蔵の間にタンパク質の適切なコンホメーションを提供する溶解保護剤および凍結保護剤を包含する。
【0031】
(マンニトールは、ゆっくりとした凍結および融解の間にタンパク質凝集を誘導する)
上記で議論されるように、凍結および融解は、長期貯蔵のために、または中間工程として十分に確立された方法である。しかし、液体処方物の大規模凍結に対するほぼすべてのアプローチは、制御されていない凝固および融解というネガティブな効果を欠点として持っている。バッグおよびボトル中での凍結のようなアプローチは、容器内における低温濃縮および不均一な温度プロフィールを生じることが繰り返し示されてきた。相変化の不適切な制御は、凝集、沈澱、酸化および変性に起因して、生成物の喪失を生じることが示されてきた。対照してみると、制御された凍結および融解(ゆっくりとした凍結および融解ともいわれる)は、制御されていない方法に代表的な生成物変性を回避し、費用および時間のかかる洗浄を排除する。さらに、全体的なプロセスは、十分に制御されかつ推定可能な作動から利益を得る。
【0032】
制御された凍結(またはゆっくりとした凍結)は、代表的には、液体処方物を、所定の速度で貯蔵に適した温度にまで徐々に冷却する工程を包含する。代表的には、貯蔵に適した温度としては、約−10℃以下、−20℃以下、−30℃以下、−40℃以下、−50℃以下が挙げられるが、これらに限定されない。徐々に冷却する工程は、約0.6℃/分、0.5℃/分、0.4℃/分、0.3℃/分、0.2℃/分、または0.1℃/分の速度であり得る。
【0033】
同様に、制御された融解(ゆっくりとした融解)は、代表的には、液体処方物を、所定の速度で、凍結状態から所望の温度にまで徐々に加温する工程を包含する。代表的には、融解目的の所望の温度としては、約0℃以上、10℃以上、20℃以上、または30℃以上が挙げられるが、これらに限定されない。徐々に加温する工程は、約0.6℃/分、0.5℃/分、0.4℃/分、0.3℃/分、0.2℃/分、または0.1℃/分の速度であり得る。
【0034】
制御された凍結および融解は、容器(例えば、チューブ、バッグ、ボトルまたは任意の他の適した容器)中で行われ得る。上記容器は、使い捨てであり得る。制御された凍結および融解はまた、大規模で行われてもよいし、小規模で行われてもよい。代表的な大規模生成については、液体処方物は、約1Lから300L、例えば、3Lのバッチで凍結され得る。代表的な小規模系については、液体処方物は、約1mlから500ml、例えば、30mlのバッチで凍結され得る。
【0035】
しかし、マンニトール含有液体処方物において、上記のゆっくりとした凍結および/または融解は、マンニトールを結晶化させてしまい、続いて、このことは、タンパク質凝集を誘導する。本明細書において使用される場合、「タンパク質凝集」は、高分子量(HMW)種の形成を意味する。上記高分子量種は、濁度測定によって検出可能な不溶性種およびサイズ排除クロマトグラフィーHPLC(SEC−HPLC)、陽イオン交換HPLC(CEX−HPLC)、X線回折(XRD)、変調型示差走査熱量測定法(mDSC)および当業者に公知の他の手段によって検出可能な可溶性種の両方を包含する。
【0036】
複数回の凍結融解サイクルの際のマンニトール含有液体処方物中のHMW種のパーセンテージは実質的に増加する(実施例の節を参照のこと)ことが認められた。上記処方物中においてマンニトール量の増加はまた、より高いパーセンテージのHMW種形成を生じる。低下させた処理容積は、大規模(例えば、125L)と比較して、形成されるHMW種のパーセンテージを維持するようである。
【0037】
マンニトール含有液体処方物における冷却の間に、発熱事象が認められる。認められたエンタルピー(これは、マンニトールの結晶化および凍結していない水に起因する)は、処理スケールが増大する(凍結および融解の速度が低下するにつれて)か、または上記処方物におけるマンニトールレベルが増大するにつれて増大する。上記マンニトール含有液体処方物において融解する際の結晶化事象もまた、認められる。理論に拘束されることは望まないが、凍結溶液中での上記結晶化事象は、結晶化に起因する相転移が、凍結および融解の際に、タンパク質の凝集を誘導し得ることを示唆する。マンニトールの結晶化は、マンニトールレベルとともに増大し、これは、より高い%HMW形成に対応する。より多くのマンニトール結晶化が、小規模のものよりも、大規模プロセスシミュレーションにおいて認められた。このことは、繰り返すと、HMW形成のより大きな割合に対応した。上記処方物中のマンニトールを減少させると、一般に、凍結および融解の間の上記液体処方物中のHMW種形成の減少に好都合である。
【0038】
(タンパク質濃度の増大は、タンパク質凝集を抑制する)
本発明は、上記液体処方物中のタンパク質濃度を増大させると、ゆっくりとした凍結および/または融解プロセスの間にタンパク質凝集を抑制または阻害することを発見した。実施例の節において記載されるように、20〜30mg/mlより上回ってタンパク質濃度を増大させると、HMW種形成の量の減少を生じることが分かった。理論に束縛されることは望まないが、低タンパク質濃度(例えば、<20mg/ml)でのタンパク質凝集の増大は、凍結および/または融解の間に2分子が一緒になる可能性が増大することによって引き起こされ得ることが企図される。代表的には、50mg/mlより高いタンパク質濃度は、タンパク質凝集を抑制するために使用される。好ましくは、約75mg/ml、100mg/ml、125mg/ml、または150mg/mlより高い濃度のタンパク質濃度は、タンパク質凝集を抑制するために使用される。より好ましくは、50mg/ml〜200mg/mlの間のタンパク質濃度が使用される。本明細書において使用される場合、用語「タンパク質凝集を抑制する」または文法的等価物は、類似だが、20mg/mlより低いタンパク質濃度を含む液体処方物中で形成されるHMW種のパーセンテージと比較して、液体処方物中のHMW種のパーセンテージの低下を示す。用語「タンパク質凝集を抑制する」はまた、HMW種の形成を阻害または排除することを包含する。
【0039】
従って、上記マンニトールを含む液体処方物中のタンパク質濃度を増大させることによって、本発明は、顕著なタンパク質凝集を誘導することなく、上記液体処方物のゆっくりとした凍結および/または融解を可能にする。本発明は、薬物物質を含む薬物生成物を貯蔵するのに特に有用である。例えば、本発明は、薬物生成物中のマンニトールを含むすべての賦形剤がゆっくりとした凍結および/または融解プロセスの間に存在することを可能にする一方で、薬物物質を安定かつ生物学的に活性に維持することを可能にする。従って、本発明は、貯蔵前に薬物処方物からマンニトールを除去し、そして上記薬物生成物の増量(filling)操作の間に添加し戻す必要性を排除する。
【0040】
従って、マンニトールおよび50mg/mlより高いタンパク質濃度を含む液体処方物は、後の使用のためのその形態で直接貯蔵され得るか、中間工程として凍結状態で貯蔵されて使用前に融解され得るか、または使用前に液体形態もしくは他の形態へと、後に再構成するために、乾燥形態(例えば、凍結乾燥形態、風乾形態、または噴霧乾燥形態)においてその後に調製され得る。さらに、生物学的に活性な量のタンパク質を含む組成物は、利便性、再構成なしの投与しやすさ、および予め充填されたすぐ使用できるシリンジ中で処方物を供給できること、または上記処方物が制菌性薬剤と適合性である場合に複数用量の調製物としての十分な利点をとるために、本願に従って、液体形態で直接、調製および貯蔵され得る。本願はまた、上記で議論されるように貯蔵および調製される、上記液体処方物中に生物学的に活性な量のタンパク質を含む組成物の他の形態を提供する。
【0041】
上記の実施形態および以下の実施例は、例示によって提供されるのであって、限定ではないことが理解されるべきである。本発明の液体処方物は、一般に、タンパク質に対して適用可能である。例えば、実施例の節に記載される液体処方物において使用される抗体は、任意の抗体であり得る。本発明の範囲内の種々の変化および改変は、本発明の説明から当業者に明らかになる。
【実施例】
【0042】
(実施例1:モノクローナル抗体処方物のゆっくりとした凍結および融解)
種々の濃度のモノクローナル抗体(Mab)、ならびに10mM ヒスチジン、10mM メチオニン、0〜4% マンニトールおよび0〜0.02% ポリソルベート−80を含む処方物を、CryoPilot(CP)システム(Stedim Biosystems)を用いて、複数回凍結および融解した。各凍結および融解プロフィールには、−55℃への段階的冷却(step−down cooling)、および上記溶液を混合する間に32℃への加温を含めた。
【0043】
上記CPは、CryoVessel(Stedim Biosystems)、フルスケール生成ユニットの操作を模倣する。種々のプロセス容積のための上記CP設定点プロフィールは、CryoVesselの挙動を模倣するために、この研究より前に開発した。図1は、CPシステムを用いた各プロセススケールにおける生成物温度追跡のサンプルを例示する。凍結(または融解)速度は、熱電対が0℃から−42℃に達する(または0℃から−42℃)のを時間で割ったものとして定義される。
【0044】
融解サンプルを、最初にSEC−HPLCおよびCEX−HPLCによって分析して、高分子量種のレベル(%HMW)を評価し、酸性種および塩基性種のレベルを追跡した。変調型示差走査熱力測定法(mDSC)およびX線回折(XRD)も使用して、凍結溶液中のマンニトールの結晶度および同質異像を評価した。
【0045】
(実施例2:マンニトールは、ゆっくりとした凍結および融解の間にタンパク質凝集を誘導する)
ヒト化モノクローナル抗体(本実施例においてMAB−001といわれる)は、実施例1に記載されるものと同様に、ゆっくりとした凍結融解プロセスの間に、マンニトールの存在下で凝集することが分かった。図2は、ともに0.5℃/分で、−40℃にまで冷却し、次いで20℃にまで加温した場合の、凍結したMAB−001溶液のXRDパターンを示す。上記凍結した溶液を、−42℃、−30℃および−10℃で走査した。図2で示されるように、結晶化の量は、上記処方物中のマンニトールの量とともに増大し、より高いタンパク質濃度は、マンニトール結晶化を抑制した。
【0046】
XRDに加えて、変調型示差走査熱量測定法(mDSC)もまた使用して、MAB−001サンプルにおけるマンニトール結晶化を試験した。図3は、30mg/mlの濃度のMAB−001を−42℃より低く冷却した場合の、mDSCのサンプルサーモグラムのサンプルを示す。認められたエンタルピー(図3における褐色の線)は、図2において示されるように、マンニトールの結晶化に起因する。総エンタルピーが冷却エンタルピー+加温エンタルピーに等しいとすると、総エンタルピーは、図4に示されるように、タンパク質濃度に対してプロットされ得る。さらに図4に示されるように、タンパク質濃度の増大(例えば、>30mg/ml)は、マンニトール結晶化を抑制した。
【0047】
(実施例3:より高いタンパク質濃度は、マンニトール結晶化を抑制する)
MAB−001、MAB−002およびMAB−003といわれる3種の抗体を、10mM ヒスチジン、250mM マンニトール、pH6.0に透析し、次いで、5回の凍結融解サイクルに供し、HMW種形成についてモニターした。そのSEC−HPLCクロマトグラムを図5に示す。図5に示されるように、3種のタンパク質MAB−001、MAB−002およびMAB−003の各々に関して、処方物中のタンパク質濃度の増大は、HMW種の形成を抑制した。HMW種のパーセンテージの変化を、図6において、タンパク質濃度に対してプロットした。図6に示されるように、上記3種のタンパク質の各々に関して、20〜30mg/mlを上回るタンパク質濃度の増大は、SEC−HPLCによって検出されるHMW形成の量を減少させた。この結果は、mDSCデータと一致した。
【0048】
(実施例4:実験スケール 対 製造スケール)
速い凍結/融解サイクルおよびゆっくりとした凍結/融解サイクルを、製造スケールの生成物追跡にマッチさせ、最小生成物負荷量および最大生成物負荷量を考慮の対象外に置く(bracket)ために、実験系SCelsius(Stedim Biosystems)において開発した。FT−100 Celsius(Stedim Biosystems)を、種々の生成物負荷量で使用した。最小生成物負荷量については、4.2L(1バッグ)を使用した。最大生成物負荷量については、100L(各16.6Lで6バッグ)を使用した。FT−100から同じ混合速度を用いた同一の凍結/融解設定点プロフィールは、図7に示されるように、生成物負荷量に基づいて、2セットの生成物温度追跡を生じた。
【0049】
凍結および融解サイクル開発を、実験スケールS システムを用いて行った。図8に示されるように、上記実験システムのより速い凍結および融解の速度は、上記最小生成物負荷量での速度より速かった。図9に示されるように、上記実験システムのゆっくりとした凍結および融解の速度は、最大生成物スケールでの速度より遅かった。
【0050】
ゆっくりとした凍結および融解についての実験スケールサイクル開発の間に、過冷却が観察された。代表的な過冷却現象は、図10に示される。凍結温度は、過冷却が起こると低下する。過冷却現象は、ゆっくりとした凍結/融解サイクルの3回の試験のうちの2回で観察された(67% 発生)。過冷却は、タンパク質および緩衝剤の試行(run)で無作為に発生し得るか、またはバッグの位置によって引き起こされ得、これらは予測不能であった。過冷却は、通常の凍結時間(NFT)(5℃から−5℃)計算に影響を及ぼした。過冷却は、タンパク質濃度レベルに関連し得る。
【0051】
過冷却を回避するために、モノクローナル抗体をモデルタンパク質(MabM)として使用して、実験システムのゆっくりとした凍結および融解サイクルを開発した。MabMを濃縮し、Mab処方物緩衝溶液に透析し、次いで、50mg/ml、100mg/mlおよび150mg/mlの濃度に希釈した。マンニトールなしの処方物を調製し、続いて、上記実験システムを用いて、5回凍結および融解した。次いで、固体マンニトールを、上記マンニトール非含有処方物に添加した。これら溶液を、再び、上記実験システムで5回凍結および融解し、ゆっくりとした凍結/融解プロフィールを、初期の極低温凍結(deep frozen)時間を延ばしかつ初期凍結温度を低下させて、核形成を促進することによって修正した。図11に示されるように、上記修正プロフィールを、マンニトールありまたはなしで、5種の緩衝剤試験、続いて、5種のMabM試験を行った(合計15)ところ、10個の熱電対追跡のいずれにおいても、過冷却は認められなかった(0% 発生)。融解後の手動混合は、すべてのタンパク質濃度レベルに必要であった。
【0052】
速い凍結および融解、ならびにゆっくりとした凍結および融解のプロフィールを、上記のように開発し、モノクローナル抗体(Mab)薬物物質の凍結および融解の可能性を評価するために使用した。上記S 実験スケールCelsiusを、この実験において使用した。アッセイ評価は、低温濃縮、HMW種および低分子量(LMW)種のためのSEC HPLC、pH、A400による濁度、濃度ならびにCEX HPLCの肉眼観察を含んでいた。図12に示されるように、MabおよびMabMの上記生成物温度追跡を重ね合わせた。過冷却は、マンニトールありまたはなしで、最大5種までのMab試行の10個の熱電子対追跡のいずれについても認められなかった。融解後の手動の混合は、すべての濃度レベルに必要であった。
【0053】
(実施例5:HMWの形成は、凍結および融解速度に関する)
図13に示されるように、HMW種のパーセンテージは、速い速度と比較した場合に、ゆっくりとした速度の複数回の凍結および融解サイクルの後により顕著に増大した。LMW種の量、pH、濁度、濃度ならびに酸性種および塩基性種の変化は、認められなかった。図13にも示されるように、HMW種の増加は、50mg/mlのタンパク質濃度を有しかつマンニトールを含む処方物でのみ認められた。図14に示されるように、HMW種の増加は、マンニトールを含む、100mg/mLの濃度のMab処方物では認められなかった。さらに、マンニトールなしのMabは、50mg/mLおよび150mg/mLの濃度を有するStedimバッグにおいて、最大5回までの凍結および融解サイクルに対して安定なままであることが認められた。
【0054】
(援用の表示)
本願で引用されるすべての刊行物および特許文献は、各個々の刊行物または特許文献の内容が本明細書に参考として援用されるかのように同程度まで、すべての目的で、それら全体が本明細書に参考として援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体処方物を貯蔵するための方法であって、該方法は、該液体処方物を、−10℃より低い温度へと徐々に冷却する工程を包含し、ここで該液体処方物は、マンニトールおよびタンパク質を含み、該タンパク質は、50mg/mlより高い濃度で存在し、その結果、該高い濃度が、冷却の間にタンパク質凝集を抑制する、方法。
【請求項2】
前記温度は、約−20℃、−40℃、または−50℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マンニトールは、約0〜15%の量で存在する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記冷却する工程は、約0.5℃/分、0.3℃/分、または0.1℃/分の速度である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質は、50mg/ml〜200mg/mlの間の濃度で存在する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質は、75mg/ml、100mg/ml、125mg/ml、または150mg/mlより高い濃度で存在する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記タンパク質は抗体である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体はモノクローナル抗体である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記タンパク質は、薬学的薬物物質である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、処理手段(process intermediate)である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
液体処方物を調製するための方法であって、該方法は、該液体処方物を、凍結状態から0℃より高い温度へ徐々に加温する工程を包含し、ここで該液体処方物は、マンニトールおよびタンパク質を含み、該タンパク質は、50mg/mlより高い濃度で存在し、その結果、該高い濃度は、加温の間にタンパク質凝集を抑制する、方法。
【請求項12】
前記温度は、約20℃、または30℃である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記マンニトールは、約0〜15%の量で存在する、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記加温する工程は、約0.5℃/分、0.3℃/分、または0.1℃/分の速度である、請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記タンパク質は、50mg/ml〜200mg/mlの間の濃度で存在する、請求項11〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記タンパク質は、75mg/ml、100mg/ml、125mg/ml、または150mg/mlより高い濃度で存在する、請求項11〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記タンパク質は抗体である、請求項11〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記抗体はモノクローナル抗体である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記タンパク質は、薬学的薬物物質である、請求項11〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記方法は、処理手段である、請求項11〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
請求項11〜20のいずれか一項に記載の方法によって調製された液体処方物において、生物学的に有効な量のタンパク質を含む、組成物。
【請求項22】
液体処方物中のタンパク質のマンニトール誘導性の凝集を阻害するための方法であって、該方法は、該タンパク質の濃度を、50mg/mlより多い量にまで増大させる工程を包含する、方法。
【請求項23】
前記タンパク質は、75mg/ml、100mg/ml、125mg/ml、または150mg/mlより高い濃度で存在する、請求項22に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図5】
image rotate

【図11】
image rotate


【公表番号】特表2010−512336(P2010−512336A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540450(P2009−540450)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/086507
【国際公開番号】WO2008/070721
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(591011502)ワイス エルエルシー (573)
【Fターム(参考)】