説明

マンホールの浮上防止構造及びマンホールの浮上防止方法

【課題】地震などによる液状化現象や地下水位の上昇によっても浮き上がらないマンホールの浮上防止方法及びその浮上防止構造を提供する。
【解決手段】有底筒状構成のマンホール(1)の外周部に張出し部(2)を形成し、この張出し部(2)を覆う浮上抑制体(3)をマンホール(1)の周囲の所定の深さに設置する。この浮上抑制体(3)は所定の単位体積重量を有すると共に、所定の上方投影面積を備えた受圧面(32)を有しており、この浮上抑制体(3)の重量及び受圧面(32)にかかる力によりマンホール(1)の浮き上がりを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状化現象などによるマンホールの浮き上がりを防止するためのマンホールの浮上防止構造及びマンホールの浮上防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地震などにより発生した液状化現象によって、マンホールやこれに接続された管渠などの地下構造物が浮き上がって破壊されることが相次ぎ、問題となっている。特に、マンホールが浮き上がると、道路などの路面から突き出て道路通行の妨げとなり、その結果、避難経路の確保や緊急車両の通行ができなくなるなど、復興支援活動に重大な支障が生じる。
【0003】
そのため、地震により液状化現象が発生してもマンホールが浮き上がらないようにすることが地震対策として必要となる。特に、マンホールは人口の多い都市部ほど普及率が高く、既に設置されているマンホールに対して早急に対応することが重要である。
【0004】
例えば、既設のマンホールの浮き上がりを防止する方法として特許文献1がある。特許文献1に記載の方法は、マンホールの底を貫通する孔を形成すると共に非液状化層にまで孔を掘り進め、この孔から非液状化層にアンカーを打ち込んでマンホールを固定するものであり、マンホールの周囲を掘り起すことなく施工して浮き上がりを防止することができる。
【0005】
しかし、このような方法では、マンホールを貫通して非液状化層まで孔を掘る必要があり、深くまで孔を掘るとするとそのための装置や時間、及びコストがかかることになる。すべての既設のマンホールにこのような施工をするには、施工期間中の道路の占有や施工費用などの問題があった。
【0006】
また、マンホール底部に貫通孔を空けるため、マンホール自体が破損しやすくなるおそれがあると共に、マンホール内部に不明水などの異物が混入するおそれがあった。特に下水道においては、不明水の混入は処理費用の負担増加につながるため、マンホールに孔を空けるような方法は現実的でなかった。
【0007】
このようなことから、マンホールに孔を空けるなどの加工を施すことなく、簡易で安価な施工方法により短期間に既設のマンホールに対して浮き上がりを抑制できる対策が必要とされている。
【特許文献1】特開2005−248496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、マンホールに孔を空けるなどの加工を施すことなく、また、簡易な施工により適用可能なマンホールの浮上防止構造及びマンホールの浮上防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明では、有底筒状構成のマンホールの外周部に設けた張出し部と、このマンホールの周囲に設置されると共に張出し部の上方を覆う浮上抑制体とからなり、この浮上抑制体は、所定の単位体積重量を有すると共に、所定の上面投影面積を備えた受圧面を有し、この受圧面を所定の深さに配置して、浮上抑制体の重量及び受圧面にかかる力によりマンホールの浮き上がりを防止することを特徴とするマンホールの浮上防止構造を提供する。
請求項2記載の発明は、前記浮上抑制体を、地盤側に設けた支持部の上に設置して支持し、この浮上抑制体と前記張出し部との間に空隙部を形成したことを特徴とする。
請求項3記載の発明は、前記浮上抑制体は、前記マンホールの外周部との間に隙間を空けて設置したことを特徴とする。
請求項4記載の発明は、前記張出し部を、突起部を有する着脱自在の環状バンドを前記外周部に締付け固定して形成することを特徴とする。
請求項5記載の発明は、前記浮上抑制体を、分周した重錘部材を環状に連結して形成することを特徴とする。
請求項6記載の発明は、前記浮上抑制体の上に土砂保持具を設けたことを特徴とする。
請求項7記載の発明では、設置されたマンホールの周囲を掘り起して所定深さの坑を形成する掘削工程と、掘り起した坑の底面を平らにならして締め固め、地盤に支持部を設ける締固め工程と、前記マンホールの外周部に張出し部を形成する張出し部形成工程と、所定の単位体積重量を有すると共に、所定の上面投影面積を備えた受圧面を有する浮上抑制体を前記支持部に設置して、前記張出し部の上方を覆う浮上抑制体設置工程と、前記坑を埋め戻す埋戻し工程と、からなるマンホールの浮上防止方法を提供する。
請求項8記載の発明は、前記浮上抑制体設置工程が、前記マンホールの外周部との間に隙間を空けて浮上抑制体を前記支持部に載置する浮上抑制体載置工程と、前記浮上抑制体と前記マンホールの外周部とに土砂保持具を被せて前記隙間を覆う隙間被覆工程と、からなる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、地下水位の上昇や地震による液状化によりマンホールなどに浮力が生じてマンホールが浮き上がりそうになった場合に、浮力を生じさせる流体よりも大きい所定の単位体積重量を有する浮上抑制体は浮き上がらず、マンホールの外周部に形成した張出し部がこの浮上抑制体に衝突する。したがって、この張出し部を介して、浮上抑制体の重量からこれに働く浮力を相殺した荷重に加えて、地面に露出しない所定の深さに配置されると共に所定の上面投影面積を有する受圧面に上載する土砂等の荷重がマンホールに掛かり、これらの荷重によりマンホールの浮き上がりを抑制することができる。
【0011】
また、マンホールが衝突した際の衝撃により浮上抑制体が浮き上がりそうになっても、所定の上面投影面積に比例した流体抵抗が浮上抑制体にかかるため、この流体抵抗によってもマンホールの浮き上がりを抑制することができる。
【0012】
また、浮上抑制体の荷重に加えて、その受圧面に上載する土砂等の荷重、及びその受圧面にかかる流体抵抗によってマンホールの浮き上がりを抑制することにより、浮上抑制体をコンパクトに構成することができてマンホールや地盤に与える負荷を軽減できると共に、浮上抑制体を埋設するためにマンホールの周囲に形成する坑の掘り起し範囲を狭く、浅くすることができ、施工期間の短縮化及び施工費用の削減を図ることができる。
【0013】
また、マンホール自体に貫通孔を空けるなどの加工を施す必要がないため、マンホールの内部に不明水などの異物が混入したり、加工によりマンホールの強度が弱くなるおそれがない。
【0014】
さらに請求項2記載の発明によれば、地盤側に支持部を設けてこれに浮上抑制体を設置し、張出し部の上部と浮上抑制体との間に空隙部を形成したことにより、通常時は浮上抑制体やこの浮上抑制体に上載する土砂の重量が張出し部を介してマンホールにかからないため、マンホールの沈下に影響を与えない。
【0015】
さらに請求項3記載の発明によれば、マンホールとその周囲に設置した浮上抑制体との間に隙間を設けたことにより、地震時の振動によるマンホールの慣性力が増大するのを防ぐことができる。
【0016】
さらに請求項4記載の発明によれば、突起部を有する着脱自在の環状バンドによりマンホールの外周部に張出し部を形成することにより、簡便にマンホールの浮上防止構造を形成することができ施工期間を短縮することができる。
【0017】
さたに請求項5記載の発明によれば、分周した重錘部材により環状の浮上抑制体を形成することにより、簡便にマンホールの浮上防止構造を形成することができ施工期間を短縮することができる。
【0018】
さらに請求項6記載の発明によれば、前記浮上抑制体の上に土砂保持具を設けたことにより、浮上抑制体に上載すべき土砂が浮上抑制体の下層に流失してしまうことがない。また、浮上抑制体とマンホールとの間の隙間や空隙部に土砂が流入して埋まってしまうことがない。そのため、簡易な構造により土砂の流失を防止して受圧面に土砂の荷重を確実にかけることができると共に、隙間及び空隙部を容易に確保してこれらによる作用効果を確実に得ることができる。
【0019】
さらに請求項7記載の方法によれば、特別な機械や特殊な技術を用いることなく、簡易な施工方法によりマンホールの浮き上がりを抑制できる。また、設置する浮上抑制体の受圧面に所定の圧力が生じる深さまで掘削すればよいため広い範囲を深くまで掘削する必要がなく、短期間にそして安価に浮上防止構造を形成することができる。また、マンホール自体に貫通孔を空けることがないため、マンホール自体が破損したり、マンホール内に不明水などの異物が混入したりするおそれがない。
【0020】
さらに請求項8記載の方法によれば、簡易な方法により土砂の流失を防止して受圧面に土砂の荷重を確実にかけることができる。また、マンホールや張出し部と浮上抑制体との間の隙間や空隙部を容易に確保して、確実に作用効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図1乃至図7を参照して本発明に係るマンホールの浮上防止構造及びその浮上防止方法について説明する。図1は、本発明に掛かる浮上防止構造を有するマンホールの部分断面側面図であり、マンホールの周囲の地面Gを深さだけ掘り起して、マンホールの直壁部を露出させた状態を示している。
【0022】
マンホール1は有底の筒状体で、下水管などの管渠13を接続して管渠13の会合や方向転換をすると共に作業員がこの管渠13などの保守管理作業をするための広さを有する円筒形状の直壁部10と、頂部に形成した出入口からマンホール1の内径を拡張する斜壁を備えた截頭斜円錐台形状の斜壁部11とからなる。この出入口は、斜壁部11の截頭頂部を開口して形成されており、この開口を塞ぎ地面に露出する蓋12を備えている。また、マンホール1の内壁には作業員が昇降するためのはしご体14が設けられている。
【0023】
このマンホール1の外周部に張出し部2を設ける。この張出し部2は、環状バンド20を直壁部10に取り付けることにより形成する。この環状バンド20は、図2に示すように、円弧状に湾曲した帯板21を連結して環状に形成される。
【0024】
帯板21は突起部として、円弧外側に突出する中央の凸状部22と両端の連結部23、23とを有している。凸状部22は、溶接などにより形成する。連結部23は帯板21の端部を折曲げて形成し、ボルト24を通す通孔(図示せず)を設ける。
【0025】
隣り合う帯板21、21の対向する連結部23、23同士をそれぞれボルト24とナット25により締め付け、帯板21を直列に連結して環状バンド20を形成すると共に、ボルト24とナット25の緊締力により環状バンド20をマンホール1の直壁部10に締付け固定する。張出し部2は、帯板21の突起部である凸状部22と、連結された一対の連結部23、23とにより構成される。
【0026】
この帯板21は、ステンレスや、亜鉛メッキを施した鉄板などにより形成するとよい。図例では、三枚の帯板を連結して環状バンド20を形成しているが、一枚又は二枚の帯板により環状バンドを形成するように構成してもよく、四枚以上の帯板を連結して環状バンドを形成するようにしてもよい。また、図例では、各帯板21には一つの凸状部22を形成しているが、二つ以上の凸状部を形成してもよい。
【0027】
直壁部10の周囲には浮上抑制体3を配置する。浮上抑制体3はマンホール1とは別体で、図3に示すような分周した重錘部材30を並べて連結し、直壁部10を囲む環状に形成する。重錘部材30は、地下水や液状化した地盤により生じる浮力に対抗しうる単位体積重量を有する材質を用いて、この浮力によって浮き上がらない形状に形成する。材質としては、例えば、コンクリートを使用するとよい。
【0028】
また、重錘部材30は、充分な重量を有する厚さに形成すると共に、その上面を受圧面32とし、この受圧面32が地面に露出しない深さに配置する。この受圧面32は、土砂が上載して充分な荷重を受けると共に、マンホールの浮き上がりを抑制可能な流体抵抗を受けることができる上面投影面積を持つように形成する。
【0029】
また、重錘部材30の内周下部には溝状の収容部31を設ける。この収容部31は、直壁部10の周囲に設けた張出し部2を収容可能な大きさに形成する。重錘部材30の内径は、マンホール1の外径よりも大きく形成して重錘部材30がマンホール1に接触しないようにする。
【0030】
図例では、半円環状に分周した二個の重錘部材30を並べて環状の浮上抑制体3を形成しているが、一個の円環状の重錘部材により浮上抑制体を構成してもよく、三個以上に分周した半扇形の重錘部材を並べて環状の浮上抑制体を形成する構成としてもよい。
【0031】
また、重錘部材30の受圧面32は平らに形成しているが、凹凸を形成したり、円環の中心側に向かって低く傾斜して形成したりしてもよい。
【0032】
また、各重錘部材には張出し部2に対応する位置に溝状の収容部31を形成しているが、図4に示すように、重錘部材30の内周側下部に段状の収容部33を形成するように構成してもよい。
【0033】
図5は、本発明に掛かる浮上防止構造の要部拡大断面図であり、マンホール1の直壁部10と、直壁部10に設けられた張出し部2と、直壁部10の周囲に配置した浮上抑制体3とを示している。
【0034】
浮上抑制体3は、直壁部10に設けた張出し部2を収容部31に収容するように配置する。収容部31は、張出し部2の高さよりも深く溝を形成して、張出し部2と浮上抑制体3の収容部31との間に空隙部4を形成する。
【0035】
また、浮上抑制体3と直壁部10との間に環状の隙間5を形成する。この隙間5の周縁にはパッキン材50を取り付け、このパッキン材50により隙間5の周縁から埋め戻し土が進入して空隙部4や隙間5が埋まらないように構成する。この隙間5により、地震時の振動によるマンホールの慣性力が増加するのを防ぐことができる。
【0036】
パッキン材50は、ゴムやウレタンなどの弾性材により形成するとよい。隙間5の周縁に弾性材からなるパッキン材50を設けることで、地震時の揺れにより浮上抑制体3と直壁部10とが衝突して破損するのを防ぐことができる。
【0037】
次に、土砂の流失防止及び土砂による空隙部や隙間の埋没防止構造を有する実施形態について、図6を参照して説明する。図6は、シート状の土砂保持具を有する別の実施形態のマンホールの浮上防止構造の部分断面側面図であり、図7は、シート状の土砂保持具の平面展開図である。
【0038】
図6に示す実施形態のマンホールの浮上防止構造においては、浮上抑制体3の上面を覆うようにシート状の土砂保持具51を設けている。この土砂保持具51により、浮上抑制体3とマンホールの外周との境界部分を覆う。この土砂保持具51は、例えば不織布などの布体や繊維網、金網などの網体などによりシート状に構成する。布体を用いる場合、好ましくは、水分を透過する材質により形成するとよい。
【0039】
土砂保持具51の平面展開図を図7に示す。土砂保持具51の中央には米字状の切込み56を形成してマンホール1の周壁に沿う起立片52、52、・・・を形成する。また、周縁部53には四箇所の切込み55、55、・・・を設けて、掘り起した坑の周壁に沿う立上がり部54を形成する。
【0040】
この立上がり部54は、切込み55、55、・・・にしたがって図7中の破線部で周縁部53を折り曲げてなる。この立上がり部54によって土砂保持具51は、埋め戻し土砂を保持可能な器状に形成される。立上がり部54は、図示しない留め具などにより立ち上げた状態で固定してもよい。
【0041】
以下に、本発明に係るマンホールの浮上防止構造の施工手順を、直壁部10の外径が約105cmのマンホール(例えば1号マンホール)に適用した場合について、図1を参照して説明する。
【0042】
まず、設置されているマンホール1の周囲の地面Gを掘り起して、マンホール1の直壁部10を露出させる(掘削工程)。マンホールの周囲などを掘り起す場合、一般的には方形の坑を掘削する。掘り起す範囲は、マンホール1の周囲200cm×200cm程度でよく、80cm乃至120cm程度の深さまで坑を掘るとマンホール1の直壁部10が露出する。
【0043】
直壁部10が露出したら、掘り起した坑の底面である地盤Fを平らにならし、充分に締め固めて支持部Sを形成する(締固め工程)。この支持部Sは、マンホール1を設置した際の埋め戻し土砂を締め固めて形成してもよいし、掘り起した底面に砕石などを敷き詰めてから、これを締め固めて形成してもよい。
【0044】
次に、帯板21を連結して環状バンド20を形成し、これを直壁部10に取り付けてマンホール1に張出し部2を形成する(張出部形成工程)。環状バンド20は、平らにならした地盤Fにその下辺が接するように配置し、ボルト24及びナット25により直壁部10に締付固定する。張出し部2の厚さと高さは、例えば厚さは0.5cm乃至2cm、高さは5cm乃至10cm程度に形成する。また、張出し部2は5cm乃至15cmほど突出させる。
【0045】
また、環状バンド20を直壁部10に取り付ける際に、環状バンド20と直壁部10との間にゴム板などの弾性部材(図示せず)を挟むようにして環状バンド20を取り付けてもよい。弾性部材を介して環状バンド20を直壁部10に取り付けることで、簡便な方法により環状バンド20を確実に締付固定し、ずれを防止することができる。
【0046】
次に、地盤Fに形成した支持部Sに重錘部材30を設置して連結し、環状の浮上抑制体3を形成する(浮上抑制体設置工程)。
地盤Fを平らにならして充分に締め固めた支持部Sにより、浮上抑制体3が沈下するのを防止すると共に浮上抑制体3の高さ位置を規定し、浮上抑制体3に設けた収容部31とこれに収容した張出し部2との間に空隙部4を形成する(浮上抑制体載置工程)。
【0047】
このとき、重錘部材30の底面に凹凸を形成しておくと、締め固めた土砂又は砕石からなる支持部Sと底面の凹凸とがかみ合って設置安定性を向上させることができると共に、簡便に設置できることにより施工期間を短縮できる。
【0048】
収容部31は、張出し部2を収容可能な大きさに形成される。例えば、溝の高さを6cm乃至15cm程度、幅を6cm乃至15cm、奥行きを6cm乃至16cm程度に形成する。環状バンド20の下辺を地盤Fと接して取り付けると共に浮上抑制体3を支持部Sに設置することにより、環状バンド20と浮上抑制体3との間に高さが1cm乃至5cm程度の空隙部4が形成される。
【0049】
そして最後に、埋め戻し土や下層路盤、上層路盤などの埋め戻し土砂をそれぞれ充分に締め固めながら順に埋め戻す(埋戻し工程)。埋め戻し作業の際には、浮上抑制体3と直壁部10との間の環状の隙間5にウレタンフォームなどのパッキン材50を設けて、埋め戻し土などが隙間5に進入して、隙間5及び空隙部4が埋まらないようにする。
【0050】
図5においては、隙間5の上縁にのみパッキン材50を設けて埋め戻し土の流入を防止しているが、隙間5の全体にパッキン材50を挿入して、浮上抑制体3とマンホール1との間に緩衝材としてパッキン材50を介在させる構成としてもよい。
【0051】
また、隙間5への土砂流入防止構造を有する実施形態について図6に示したように、埋め戻し土の流失防止として、浮上抑制体3の上にシート状の土砂保持具51を設けてもよい。土砂保持具51は、不織布等の布体や繊維網等の網体などのシート状体により形成する。
【0052】
この場合、浮上抑制体設置工程は、浮上抑制体3を所定の位置に載置し(浮上抑制体載置工程)た後、パッキン材として面木57を浮上抑制体3の上に配置すると共に土砂保持具51を浮上抑制体3とマンホールに被せて浮上抑制体3を覆う(浮上抑制体被覆工程)ことで行われる。
【0053】
この浮上抑制体被覆工程は、浮上抑制体載置工程を行った後、まず面木57をマンホール外周に沿って浮上抑制体3の上に配置して浮上抑制体3とマンホール外周との間の境界部分の隙間5を塞ぎ、次に浮上抑制体3の周囲を受圧面32の高さまで埋め戻し、そして、米字状の切込み56にマンホール1を挿通して土砂保持具51を浮上抑制体3に被せると共に土砂保持具51の周縁部53の立上がり部54を坑の周壁に沿って立ち上げることで行われる。
【0054】
このようにして埋設した浮上抑制体3の重量と、浮上抑制体3の受圧面32に上載する土砂の荷重などの力によりマンホール1の浮上を抑制する。浮上抑制体3が地面Gから浅い位置にあると、上載する土砂の荷重が小さくなるため、受圧面32が充分な荷重を受けることができる深さに浮上抑制体3を設置する。
【0055】
また、受圧面32に上載した土砂が液状化して上載土砂による荷重が減少し、浮上抑制体3が浮き上がろうとしても、所定の上面投影面積を有する受圧面32が流体抵抗を受けて浮上が抑制される。
【0056】
例えば、マンホール1の直壁部10の外径が約105cmの1号マンホールの場合、浮上抑制体3の受圧面32が地面より80cm乃至120cm程度の深さになるように配置する。また、この受圧面32に充分な量の土砂が上載すると共に掘り起し範囲が広くなりすぎないように、円環状の浮上抑制体3の内径はマンホールとの間に数cmの隙間5が空くように形成し、浮上抑制体3の外径は180cm乃至200cm程度に形成するとよい。このとき、浮上抑制体3の上面投影面積は約1.6m乃至2.2mとなる。
【0057】
さらに、浮上抑制体3が充分な重量と強度を有するように、重錘部材30はコンクリートで形成し、その厚さを少なくとも20cm乃至30cm程度に形成するとよい。また、この厚さであれば、収容部31を充分な大きさに形成できる。このとき、浮上抑制体3の重量は約700kg乃至1500kgとなる(コンクリートの単位体積重量を2.35t/mとした)。
【0058】
上記の構成によれば、マンホール1に環状バンド20を取り付けて張出し部2を設けると共に、所定の上方投影面積を備えた受圧面32と所定の単位体積重量とを有する環状の浮上抑制体3をマンホール1の周囲の所定の深さに設置し、浮上抑制体3に形成した収容部31に張出し部2を収容して、張出し部2の上方を浮上抑制体3で覆ったことにより、地下水位の上昇や地震の際の液状化現象によってマンホールなどが浮力を受けても、この浮力を生じさせる流体よりも大きい所定の単位体積重量を有する環状の浮上抑制体3は浮き上がらず、張出し部2が空隙部4だけ浮上して浮上抑制体3に衝突し、この張出し部2を介して、浮上抑制体3の重量からそれにかかる浮力を相殺した荷重に加えて、地面に露出しない所定の深さに配置された受圧面32に上載する土砂等の荷重がマンホール1に掛かり、これらの荷重によりマンホール1の浮き上がりを抑制することができる。
【0059】
また、張出し部2が浮上抑制体3に衝突した際の衝撃により浮上抑制体3が浮き上がりそうになっても、所定の上面投影面積に比例した流体抵抗が浮上抑制体3にかかるため、この流体抵抗によってもマンホール1の浮き上がりを抑制することができる。
【0060】
また、浮上抑制体3の荷重と、その受圧面32に上載する土砂等の荷重、及びその受圧面32にかかる流体抵抗によってマンホール1の浮き上がりを抑制することにより、浮上抑制体3をコンパクトに構成することができる。これにより、マンホール1や地盤に与える負荷を軽減できると共に、浮上抑制体3を設置するためにマンホールの周囲に形成する坑の掘り起し範囲を狭く、浅くすることができ、施工期間の短縮及び施工費用の削減を図ることができる。
【0061】
また、マンホール1に孔を空けるなどの加工を施す必要がないため、マンホール内に不明水などの異物が混入するおそれがなく、また、加工によりマンホール1を損壊したり、マンホール1の強度に影響を与えるおそれがない。
【0062】
さらに、地盤Fを締め固めて形成した支持部Sに浮上抑制体3を設置し、浮上抑制体3の設置位置を規定すると共に、浮上抑制体3が沈下しないように構成して、張出し部2と収容部31との間に空隙部4を形成したことにより、通常時は、浮上抑制体3の荷重や、この浮上抑制体3に上載する土砂の荷重が張出し部2を介してマンホール1にかからないため、マンホール1が設置されている地盤に負荷を掛けることがなく、マンホール1の沈下に影響を与えるおそれがない。
【0063】
さらに、マンホール1の外径よりも環状の浮上抑制体3の内径を大きく形成して、マンホール1と浮上抑制体3との間に隙間5を設け、ウレタンフォームやゴムなどのパッキン材50を隙間5に取り付けて、この隙間5に土砂等が入り込まないように構成したことにより、浮上抑制体3によって地震時の振動によるマンホール1の慣性力が増大するのを防ぐことができると共に、マンホール1と浮上抑制体3が衝突して破損するのを防ぐことができる。
【0064】
さらに、突起部を有する環状バンド20によりマンホール1の外周部に張出し部2を形成し、分周した重錘部材30により環状の浮上抑制体3を形成することにより、本発明に係るマンホールの浮上防止構造を簡易な施工により迅速に形成することができ、安価に施工すると共に施工期間の短縮を図ることができる。
【0065】
さらに、図6に示した実施形態においては、浮上抑制体3の上に土砂保持具51を設けたことにより、簡易な構造で埋め戻し土砂が浮上抑制体3の下層に流失することを防止して受圧面32に土砂の荷重を確実にかけることができる。
【0066】
また、浮上抑制体3とマンホール1との境界部分から埋め戻し土砂が隙間5に流入して、この隙間5が埋まってしまうことがなく、隙間5から土砂が流入して浮上抑制体3と前記張出し部2との間の空隙部4が埋まってしまうことがない。そのため、簡易な構造により隙間5及び空隙部4を確保してこれらによる作用効果を確実に得ることができる。
【0067】
さらに、上記の方法によれば、特別な機械や特殊な技術を用いることなく、簡易な施工方法によりマンホールの浮き上がりを抑制できる。また、設置する浮上抑制体の受圧面に所定の圧力が生じる深さまで掘削すればよいため広い範囲を深くまで掘削する必要がなく、短期間にそして安価に浮上防止構造を形成することができる。また、マンホール自体に貫通孔を空けることがないため、マンホール自体が破損したり、マンホール内に不明水などの異物が混入したりするおそれがない。
【0068】
さらに、前記浮上抑制体の上に土砂保持具を設けたことにより、容易な方法でマンホールや張出し部と浮上抑制体との間の隙間や空隙部を確保して、これらによる作用効果を確実に得ることができる。
【0069】
特に下水道においては、水傾斜を確保するためにマンホールの設置深さを高精度に決めており、マンホールの沈下に影響を与えないことは重要である。沈下に影響を与えないことと、浮き上がりを抑制することは相反しており困難であったが、本発明によれば、マンホールの沈下に影響を与えることなく、その浮き上がりを抑制することができる。
【0070】
また、近年の下水道の普及率は全国で70パーセント程度に達し、特に人口の多い都市部ではほぼ100パーセントとなっていることから、都市部の交通量の多い道路などにおいて、設置されているマンホールに浮き上がり防止の施工をする際に、施工期間を短縮することは重要である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に掛かる浮上防止構造を備えたマンホールの部分断面側面図である。
【図2】環状バンドの斜視図である。
【図3】浮上抑制体を構成する重錘部材の斜視図である。
【図4】重錘部材の別の実施形態を示す斜視図である。
【図5】本発明に掛かる浮上防止構造の要部拡大断面図である。
【図6】別の実施形態の浮上防止構造を備えたマンホールの部分断面側面図である。
【図7】土砂保持具の平面展開図である。
【符号の説明】
【0072】
1 マンホール
10 直壁部
11 斜壁部
12 蓋
13 管渠
2 張出し部
20 環状バンド
21 帯板
22 凸状部
23 連結部
24 ボルト
25 ナット
3 浮上抑制体
30 重錘部材
31 収容部
32 受圧面
33 収容部
4 空隙部
5 隙間
50 パッキン材
51 土砂保持具
52 筒部
53 段部
54 立上がり部
55 切込み
56 切込み
57 面木
F 地盤
G 地面
S 支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状構成のマンホールの外周部に設けた張出し部と、このマンホールの周囲に設置されると共に張出し部の上方を覆う浮上抑制体とからなり、
この浮上抑制体は、所定の単位体積重量を有すると共に、所定の上面投影面積を備えた受圧面を有し、
この受圧面を所定の深さに配置して、浮上抑制体の重量及び受圧面にかかる力によりマンホールの浮き上がりを防止することを特徴とするマンホールの浮上防止構造。
【請求項2】
前記浮上抑制体を、地盤側に設けた支持部の上に設置して支持し、この浮上抑制体と前記張出し部との間に空隙部を形成したことを特徴とする請求項1記載のマンホールの浮上防止構造。
【請求項3】
前記浮上抑制体を前記マンホールの外周部との間に隙間を空けて設置することを特徴とする請求項1記載のマンホールの浮上防止構造。
【請求項4】
前記張出し部を、突起部を有する着脱自在の環状バンドを前記外周部に締付け固定して形成することを特徴とする請求項1記載のマンホールの浮上防止構造。
【請求項5】
前記浮上抑制体を、分周した重錘部材を環状に連結して形成することを特徴とする請求項1記載のマンホールの浮上防止構造。
【請求項6】
前記浮上抑制体の上に土砂保持具を設けたことを特徴とする請求項1記載のマンホールの浮上防止構造。
【請求項7】
設置されたマンホールの周囲を掘り起して所定深さの坑を形成する掘削工程と、
掘り起した坑の底面を平らにならして締め固め、地盤に支持部を設ける締固め工程と、
前記マンホールの外周部に張出し部を形成する張出し部形成工程と、
所定の単位体積重量を有すると共に、所定の上面投影面積を備えた受圧面を有する浮上抑制体を前記支持部に設置して、前記張出し部の上方を覆う浮上抑制体設置工程と、
前記坑を埋め戻す埋戻し工程と、からなるマンホールの浮上防止方法。
【請求項8】
前記浮上抑制体設置工程が、前記マンホールの外周部との間に隙間を空けて浮上抑制体を前記支持部に載置する浮上抑制体載置工程と、前記浮上抑制体と前記マンホールの外周部とに土砂保持具を被せて前記隙間を覆う隙間被覆工程と、からなる請求項6記載のマンホールの浮上防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−115681(P2008−115681A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−15482(P2007−15482)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(592221218)株式会社シーエスエンジニアズ (7)
【Fターム(参考)】