説明

マンホール用傾斜調整リング、調整リング組立体、及び、マンホール

【課題】施工効率を向上させ、道路舗装面に対するマンホールの蓋の位置あわせを容易に、且、的確におこなうことができる傾斜調整リング、調整リング組立体、及び、マンホールを提供する。
【解決手段】傾斜調整リング1の基体部10は、一面11と、他面12とを有し、厚み方向Tに交差する方向に沿って厚みが減少している。一面11は、厚みが減少する方向に傾斜している。中央孔15は、基体部10を貫通している。調整孔16は、開口縁150に沿って伸びている。凸部18は、他面12において開口縁150に沿って配置されている。本発明に係るマンホールを構成する嵩上げ調整リング3は、一面31に凹溝371を有し、開口部20に積み重ねられている。傾斜調整リング1は、一面31に積み重ねられた状態で凸部18が凹溝371に対して移動可能に嵌合されている。受枠5は一面11に積み重ねられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンホール用傾斜調整リング、調整リング組立体、及び、マンホールに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、下水道などの各種地下施設には、点検作業の作業員が、地上から施設内へ侵入するための人孔(マンホール)が設置されている。この種のマンホールが一般道路に設置される場合、道路舗装面と、道路舗装面上に露出するマンホールの蓋とは、互いの面位置が一致していなければならない。この要請に反し、道路舗装面と蓋面との面位置に高低差が生じている場合、自動車が蓋上を通過した時に騒音が生じたり、又は、通過時の衝撃によって蓋を支える周囲の道路舗装面が破損したり、さらには通過時の衝撃によって蓋が外れ、思わぬ交通事故が発生するなどの不具合が生じる。
【0003】
特に、道路舗装面は、道路の開通場所に応じて縦断勾配、片勾配、さらには雨水の排水性を考慮した水勾配など様々な道路勾配を有している。従って、道路舗装面と蓋面との面位置に高低差が生じないように配置するには、特許文献1で開示されているように、蓋を道路舗装面の勾配に沿って傾斜させる必要がある。
【0004】
ところで、道路舗装面と、蓋面との面位置に高低差を確実に解消するには、さらに施工現場において傾斜調整リングの配置方向を微調節し、道路舗装面の傾斜方向と、蓋面の傾斜方向とを正確に一致させる必要がある。
【0005】
ところが、特許文献1では、上述した傾斜調整リングの配置方向の調節を正確に、且、効率的に行うことができない。
【特許文献1】特開平8‐158390号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、施工効率を向上することができるマンホール用傾斜調整リング、調整リング組立体、及び、マンホールを提供することである。
【0007】
本発明のもう1つの課題は、道路舗装面に対するマンホールの蓋の配置を容易に、且、的確におこなうことができるマンホール用傾斜調整リング、調整リング組立体、及び、マンホールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明に係るマンホール用傾斜調整リング(傾斜調整リング)は、基体部と、中央孔と、調整孔と、複数の凸部とを含む。基体部は、一面と、一面に対して厚み方向に向かい合う他面とを有し、厚み方向に交差する方向に沿って厚みが減少している。基体部の一面は、厚みが減少する方向に傾斜している。中央孔は、基体部を厚み方向に貫通し、一面と、他面とに開口している。調整孔は、長穴であって、基体部を厚み方向に貫通し、且、長径が中央孔の開口縁に沿って伸びている。凸部は、他面において厚み方向に突出し、複数が、中央孔の開口縁に沿って、且、互いに間隔を隔てて配置されている。
【0009】
上述した傾斜調整リングは、マンホール基体や、嵩上げ調整リング、受枠、固定具などと組み合わされて、マンホールに用いられる。本発明に係るマンホールを構成する嵩上げ調整リングは、一面にリング状の凹溝を有し、マンホール基体の開口部に積み重ねられている。傾斜調整リングは、他面が、嵩上げ調整リングの一面に積み重ねられ、積み重ねられた状態で凸部が、凹溝に対して移動可能に嵌合されている。受枠は、傾斜調整リングの一面に積み重ねられている。固定具は、棒状であって、嵩上げ調整リング、傾斜調整リングの調整孔、及び、受枠を貫通している。
【0010】
本発明に係るマンホールを構成する傾斜調整リングにおいて、基体部は厚みを有しているから、傾斜調整リングの一面に受枠が積み重ねられた場合に、受枠が、基体部の厚み分だけ嵩上げされた位置に配置される。従って、受枠によって支持される蓋の取り付け位置を、効率的に嵩上げすることができる。
【0011】
基体部は、厚み方向の一面が、厚みが減少する方向に傾斜しているから、一面に受枠が積み重ねられた場合、受枠は、一面の傾斜に沿って傾いて配置される。従って、予め一面の傾きを調節することにより、受枠、及び、受枠によって支持される蓋を、道路舗装面の傾斜に沿って配置することができる。
【0012】
中央孔は、基体部を厚み方向に貫通し、一面と、他面とに開口している。この種の傾斜調整リングにおいて、中央孔が点検作業員の通り抜けが可能な内寸法を有している場合、点検作業員は、傾斜調整リングがマンホール基体の開口部に積み重ねられた状態で、中央孔を通じてマンホール内に侵入し、又は、脱出することができる。
【0013】
調整孔は、長穴であって、基体部を厚み方向に貫通し、且、中央孔の開口縁に沿って伸びている。この構成によると、傾斜調整リングは、調整孔に挿通された固定具によって、マンホール基体の開口部に固定(仮止め)された状態で、調整孔の長さの範囲内で軸回転することができるから、傾斜調整リングの配置方向を容易に微調節することができる。
【0014】
しかも、傾斜調整リングは、嵩上げ調整リングに積み重ねられた状態で他面側の凸部が、凹溝に対して移動可能に嵌合されているから、上述した傾斜調整リングの軸回転は、凸部を通じて凹溝による規制を受けながら、凹溝に沿ってなされる。従って、道路舗装面の傾斜方向と、蓋面の傾斜方向とを正確に一致させることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように、本発明によれば、次のような効果を得ることができる。
(1)本発明の課題は、施工効率を向上することができるマンホール用傾斜調整リング、調整リング組立体、及び、マンホールを提供することができる。
(2)本発明のもう1つの課題は、道路舗装面に対するマンホールの蓋の位置あわせを容易に、且、適正におこなうことができるマンホール用傾斜調整リング、調整リング組立体、及び、マンホールを提供することができる。
【0016】
本発明の他の目的、構成、及び、効果については、添付図面を参照し、更に詳しく説明する。添付図面は、単に、例示に過ぎない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本発明の一実施形態に係る傾斜調整リングの斜視図、図2は図1に示した傾斜調整リングの他面側の構造を示す斜視図、図3は図1に示した傾斜調整リングの正面図である。図1乃至図3の傾斜調整リングは、基体部10と、中央孔15と、調整孔16と、第1の凹溝171と、第2の凹溝172と、凸部18を有している。
【0018】
基体部10は、好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などの合成樹脂材料を主成分とし、より好ましくは再生材料を使用したプラスチックを主成分とし、さらに好ましくは清掃工場のごみ焼却過程等で生じる焼却灰を含んでいる。
【0019】
基体部10は、リング状の薄板構造であって、一面11と、一面11に対して厚み方向Tに向かい合う他面12とを有している。一面11は、厚み方向Tに交差する差し渡し方向Dに沿って、傾斜角度θ1をもって傾斜している。図3において、差し渡し方向Dが、基体部10の厚みが減少する方向となっている。基体部10は、差し渡し方向Dに沿って厚みが徐々に減少することにより、一面11が、最大差し渡し寸法D10(直径)で向かい合う一方端P1から他方端P2に向かって、一定の傾斜角度θ1で傾斜している。
【0020】
傾斜の始点となる一方端P1は、一面11において、基体部10の最大厚み部分T1に相当する部分である。傾斜の終点となる他方端P2は、一面11において、基体部10の最小厚み部分T2に相当する部分である。一方端P1、又は、他方端P2の近傍には、位置あわせ作業を効率的に行うため、凹凸などによって傾斜角度θ1の方向を示す目印19を付しておくことが好ましい。
【0021】
基体部10の他面12は、傾斜調整リングが他のマンホール構成部材に設置される場合の基準面となる部分であり、好ましくは軸aに対して水平な平坦面となっている。従って、傾斜角度θ1は、一面11と他面12との交差角度と言い換えることができる。
【0022】
中央孔15は、人間(点検作業員)の通り抜けが可能な内寸法を有し、基体部10の板面の中央を厚み方向Tに貫通し、一面11と、他面12とに開口する部分が開口縁150となっている。図1、図2に示す中央孔15は、円形であって、基体部10の内側面13によって画定される内寸法が600mm程度となっている。
【0023】
調整孔16は、平面から見て長径と短径とを有する長穴であって、基体部10の面内を厚み方向Tに貫通し、一面11と、他面12とに開口している。図1、図2に示す調整孔16は、長径が短径に対して5〜10倍程度、より好ましくは8倍程度の長さとなっており、長径が一点鎖線で示す仮想円C1に沿って伸びていることにより、平面から見て円弧状に湾曲している。
【0024】
仮想円C1は、好ましくは開口縁150よりも間隔G1の分だけ大径となっており、且、開口縁150と同軸(軸a)の円となる。図1及び図2の傾斜調整リングにも受けられている6つの調整孔16は、仮想円C1上に沿って互いに間隔G3を隔てて配置され、より好ましくは等間隔で配置されている。
【0025】
第1の凹溝171は、一面11において、好ましくは開口縁150よりも間隔G2の分だけ大径となっており、且、開口縁150と同軸(軸a)の円状に開口している。間隔G2は、間隔G1よりも小さくなっており、第1の凹溝171は、開口縁150と、調整孔16との間において、開口縁150に平行して伸びている。
【0026】
第2の凹溝172は、一面11において、第1の凹溝171と、開口縁150との間の一面11に開口し、開口縁150から間隔を隔てて、開口縁150と同軸に配置され、開口縁150に平行して伸びている。
【0027】
凸部18は、他面12において厚み方向Tに突出している。図1及び図2の傾斜調整リングにおいて、凸部18は6つであり、6つの凸部18が、仮想円C2上に沿って、互いに間隔G4を隔てて配置されている。仮想円C2は、開口縁150から間隔G2を隔てており、好ましくは開口縁150と同軸(軸a)となる。即ち、凸部18と、第1の凹溝171とは、厚み方向Tで重なり合う位置に配置されている。
【0028】
図4は、本発明の一実施形態に係るマンホールの一部を拡大して示す部分断面図である。また、図5は図4に示した実施形態からマンホールを取り出して示す斜視図、図6は図5に示したマンホールの分解構造を示す斜視図である。図4乃至図6において、図1乃至図4に示した構成部分と同一の構成部分には、同一の参照符号を付す。
【0029】
図4のマンホールは、地中に埋設された状態であらわされており、図1乃至図3を参照して説明した傾斜調整リング1に加えて、マンホール基体2と、嵩上げ調整リング3と、受枠5と、蓋6と、ボルト7とを有している。以下、図4乃至図6を参照してマンホールを構成する各部材の構造を説明をする。
【0030】
マンホール基体2は、斜壁部分を有し、斜壁部分に外部に開口する開口部20を有している。開口部20の上端面21には、予め複数のネジ穴22が周方向にそって、互いに間隔を隔てて設けられている。ネジ穴22は、好ましくは、図6に示すようにボルト7の設置数、及び、設置場所に応じて配置される。
【0031】
嵩上げ調整リング3と、傾斜調整リング1と、受枠5と、蓋6とは、この順序で開口部20の上端面21に積み重ねられている。
【0032】
嵩上げ調整リング3は、一面31にリング状の凹溝371を有し、開口部20に積み重ねられている。傾斜調整リング1は、他面12が、嵩上げ調整リング3の一面31に積み重ねられ、積み重ねられた状態で凸部18が、凹溝371に対して移動可能に嵌合されている。
【0033】
受枠5は、傾斜調整リング1の一面11に着脱可能に積み重ねられており、蓋6は受枠5によって支持されている。ボルト7は、嵩上げ調整リング3、傾斜調整リング1の調整孔16、及び、受枠5を貫通し、一端がネジ穴22に螺着され、他端に座金72と、ナット73とが螺着されている。傾斜調整リング1と、嵩上げ調整リング3と、受枠5とは、開口部20に載置した状態でボルト7によって脱落不能に固定されている。
【0034】
傾斜調整リング1と、嵩上げ調整リング3は、上述した積み重ねにより、全体としてリング組立体100を構成する。リング組立体100の構造について、図7乃至図8を参照して説明する。
【0035】
図7は図4に示した実施形態からリング組立体100を取り出して示す斜視図、図8は図7の8−8線に沿った断面図である。図7及び図8において、図1乃至図6に示した構成部分と同一の構成部分には、同一の参照符号を付す。
【0036】
図7及び図8のリング組立体100を構成する傾斜調整リング1は、図1乃至図3を参照して説明したものであるから、詳細は省略する。
【0037】
他方、嵩上げ調整リング3は、傾斜調整リング1、及び、受枠5の取り付け位置を調節するために用いられるスペーサであって、傾斜角度θ1を有していない以外は、図1乃至図3を参照して説明した傾斜調整リング1と共通する基本的構成を有している。以下簡単に説明すると、嵩上げ調整リング3は、基体部30と、中央孔35と、貫通孔36と、第1の凹溝371と、第2の凹溝372とを有している。
【0038】
基体部30は、リング状であって、一面31と、一面31に対して厚み方向Tに向かい合う他面32とを有している。他面32は、嵩上げ調整リング3が他のマンホール構成部材に設置される場合の基準面となる部分であり、好ましくは軸aに対して水平な平坦面を構成している。
【0039】
中央孔35は、基体部30の板面の中央を厚み方向Tに貫通し、一面33と、他面32とに開口する部分が開口縁350となっている。中央孔35は、傾斜調整リング1の中央孔15に一致する。
【0040】
貫通孔36は、内側面33と、外側面34とによって画定される基体部30の面内を厚み方向Tに貫通し、一面31と、他面32とに開口している。
【0041】
図6に示す嵩上げ調整リング3は、ボルト7の設置数に追従して貫通孔36を3つ有している。貫通孔36は、平面視した形状が円形状となっており、好ましくはボルト7が挿通できる程度の内径を有している。貫通孔36は、調整孔16と連通可能な位置に配置される。
【0042】
第1の凹溝371は、一面31において、開口縁350と同軸(軸a)の円状に開口している。第2の凹溝372は、一面31において、第1の凹溝371と、開口縁350との間の一面31に開口し、開口縁350と同軸に配置され、開口縁350に平行して伸びている。
【0043】
嵩上げ調整リング3は、スペーサたる用途に適した構造として、他面32に開口部20の孔に嵌合する凸部38を有する。凸部38は、開口縁350に沿って円形状に配置されており、第1の嵩上げ調整リング3が、開口部20に載置された状態で、開口部20の孔の内縁に嵌合する。この構造によると、第1の嵩上げ調整リング3の配置姿勢が安定化する。
【0044】
傾斜調整リング1は、嵩上げ調整リング3の一面31に積み重ねられており、積み重ねられた状態で、互いの中央孔15、35が一致し、且、傾斜調整リング1の凸部18が、嵩上げ調整リング3の第1の凹溝371に凹凸嵌合している。傾斜調整リング1は、図1乃至図3を参照して説明したものであり、調整孔16に3つのボルト7が挿通されることにより、開口部20に着脱可能に積み重ねられている。
【0045】
さらに、傾斜調整リング1と、嵩上げ調整リング3との面対向領域内には、シール層8が形成されている。シール層8は、例えば、第2の凹溝372にシール材が充填され、傾斜調整リング1と嵩上げ調整リング3との両者間を接着することにより、構造的一体性、止水性を確保する。
【0046】
もっとも、シール層8は、傾斜調整リング1と受枠5との間、嵩上げ調整リング3と開口部20との間など、各マンホール構成部材の面対向部分にも配置されている。シール材は、マンホール基体2がコンクリート製の場合にはモルタルが用いられ、マンホール基体2がプラスチックの場合はシリコン系シール材が用いられる。さらに、ブチルゴム製のOリングを第2の凹溝172にはめることにより、シール層8としてもよい。
【0047】
図1乃至図3を参照して説明した傾斜調整リング1、及び、図4乃至図8を参照して説明したマンホールによると、傾斜調整リング1の基体部10は、厚みT1、T2を有しているから、一面11に受枠5が積み重ねられた場合に、受枠5が、厚みT1、T2分だけ嵩上げされた位置に配置される。従って、受枠5によって支持される蓋6の取り付け位置を、効率的に嵩上げすることができる。
【0048】
本発明の特徴の一つは、受枠5を支持する傾斜調整リング1の一面11が傾斜角度θ1を有する点にある。すなわち、マンホールが設置される道路は決して水平ではなく、道路の開通場所に応じて様々な道路勾配θ9を有しているから、蓋6を道路勾配θ9にあわせて配置する必要がある。
【0049】
基体部10の一面11は、上記要請に応えるため、厚みを減少させる方向(D)に傾斜角度θ1をもって傾斜しているから、この傾斜角度θ1を、道路勾配θ9に予め合わせておくことにより、一面11に受枠5が積み重ねられた場合に、受枠6が、一面11の傾斜角度θ1に沿って傾く。その結果、受枠5に支持される蓋6も傾斜角度θ1に沿って傾いた姿勢で配置されるから、蓋6と道路舗装面9との面位置を一致させることができる。
【0050】
傾斜調整リング1において、中央孔15は、基体部10の中央を厚み方向Tに貫通し、一面11と、他面12とに開口している。中央孔15が点検作業員の通り抜けが可能な内寸法を有している場合、点検作業員は、傾斜調整リング1が開口部20に積み重ねられた状態で、中央孔15を通じてマンホール内に侵入し、又は、脱出することができる。
【0051】
調整孔16は、長径と短径とを有する長穴であって、基体部10を厚み方向Tに貫通している。調整孔16は、長径が仮想円C1に沿って伸びており、平面から見て円弧状に湾曲している。傾斜調整リング1は、開口部20に立設されたボルト7が調整孔16に挿通されることにより、開口部20に積み重ねられる。この構成によると、傾斜調整リング1は、開口部20に固定(仮止め)された状態で、調整孔16の長さの範囲内で軸回転することができるから、傾斜角度θ1の傾斜の方向を容易に微調節することができる。
【0052】
本発明に係る傾斜調整リング1は、施工条件に応じて必要な態様を採ることができる。具体的には、開口部20から道路舗装面9までの高低差が大きい場合、傾斜調整リング1を所定の高さ位置まで嵩上げするために、嵩上げ調整リング3を用いて、調整用リング組立体100を構成することができる。
【0053】
リング組立体100を構成する傾斜調整リング1と、嵩上げ調整リング3とは、厚み方向Tに積み重ねられ、積み重ねられた状態で、互いの中央孔15、35が一致し、調整孔16と貫通孔36とが一致し、且、傾斜調整リング1の凸部18が、嵩上げ調整リング3の凹溝171に着脱可能に凹凸嵌合している。この構成によると、嵩上げ調整リング3の厚みT3の分だけによって傾斜調整リング1が所定の高さ位置まで嵩上げされるから、道路舗装面9に対する蓋6の位置あわせを容易に、且、適正におこなうことができる。
【0054】
組立体100の利点について、さらに図9を参照して説明する。図9は、図4又は図5に示したマンホールの一部を取り出して示す斜視図である。図9において、図1乃至図8に示した構成部分と同一の構成部分には、同一の参照符号を付す。
【0055】
図9の実施形態では、ボルト7との対応関係をわかりやすく説明するため、図1乃至図8を参照して説明した調整孔16を、便宜上、調整孔161と、調整孔162とに分けて説明する。
【0056】
嵩上げ調整リング3は、貫通孔36に、それぞれボルト7が挿通されることにより、挿通された状態で周方向Rへの軸回転R1、R2が防止され、開口部20に確実に固定される。
【0057】
他方、傾斜調整リング1の調整孔161は、周方向Rに円弧状に伸びる長穴であり、ボルト7に対し所謂ばか穴となる。従って、傾斜調整リング1は、嵩上げ調整リング3に積み重ねられた状態であって、且、調整孔161にボルト7が挿通された状態で、調整孔161が伸びる領域S161の範囲内で、周方向Rに沿って軸回転R1、R2することができる。この構造によると、傾斜角度θ9の方向と、傾斜角度θ1の方向とを正確に一致させることができる。なお、上述した微調整は、3つのボルト7と、調整孔161との全てが連動して行うことができる。
【0058】
しかも、傾斜調整リング1は、嵩上げ調整リング3に積み重ねられた状態で、凸部18が、凹溝371に対して移動可能に嵌合されているから、傾斜調整リング1の軸回転は、凸部18を通じて凹溝371による規制を受けながら、凹溝371に沿ってなされる。従って、傾斜角度θ9の方向と、傾斜角度θ1の方向とを正確に一致させることができる。
【0059】
調整孔161、及び、調整孔162は、周方向Rに等間隔で配置されていることにより、軸(a)に対する中心角度が60度になっている。その結果、調整作業の第1工程として、3つのボルト7を、調整孔161と、調整孔162とのいずれに案内するかによって、60度刻みで大まかに傾斜調整リング1の向きを調整し、さらに続いて傾斜調整リング1の向きを軸回転R1、R2させて微調節することができる。従って、道路舗装面9との高低差や道路勾配θ9に的確に対応し、より精度の高い調整を行うことができる。
【0060】
組立体100は、ボルト7で一体的に固定された積層構造である。この構造によると、傾斜調整リング1、嵩上げ調整リング3など個々の構成部材は軽量であるから、運搬、移動、組み立てなどの各作業の効率を向上させることができる。また、ボルト7として、六角穴付ボルト(キャップボルト)を用いることにより、部品点数、及び、組み立て工数を削減することができる。
【0061】
図10は、本発明のもう一つの実施形態に係る調整リング組立体の正面断面図である。図10において、図1乃至図9に示した構成部分と同一の構成部分には、同一の参照符号を付す。
【0062】
図10のリング組立体100は、傾斜調整リング1の下部に設けられる嵩上げ部分が、第1の嵩上げ調整リング3と、第2の嵩上げ調整リング4との積み重ねによる複数層構造になっている点に特徴がある。
【0063】
第1の嵩上げ調整リング3は、図7及び図8を参照して説明したものでなり、開口部20に直接接触する関係で積み重ねられる基礎部分である。
【0064】
第2の嵩上げ調整リング4は、傾斜調整リング1の取り付け位置を調節するスペーサであり、スペーサとして用いられる用途に合った構造として、一面41及び他面42が水平面を構成している以外は、第1の嵩上げ調整リング3と同じ構成を有している。以下簡単に説明すると、第2の嵩上げ調整リング4は、基体部40と、中央孔45と、貫通孔46と、第1の凹溝471と、第2の凹溝472とを有している。
【0065】
基体部40は、全体として円板状、又は、リング状の薄板構造であって、一面41と、一面41に対して厚み方向Tに向かい合う他面42とを有している。中央孔45は、基体部40の板面の中央を厚み方向Tに貫通している。
【0066】
貫通孔46は、基体部40の面内を厚み方向Tに貫通している。図10からは必ずしも明らかではないが、第2の嵩上げ調整リング4は、ボルト7の設置数に追従して3つの貫通孔46を有している。
【0067】
第1の凹溝471は、一面41に開口し、開口縁450に平行して伸びている。また、第2の凹溝472は、一面41において、第1の凹溝471と、開口縁450との間の一面41に開口し、開口縁450に平行して伸びている。
【0068】
傾斜調整リング1は、第2の嵩上げ調整リング4に積み重ねられ、第2の嵩上げ調整リング4は、第1の嵩上げ調整リング3に積み重ねられており、積み重ねられた状態で、中央孔15、35、45が一致し、且、傾斜調整リング1の凸部18が、第2の嵩上げ調整リング4の凹溝471に凹凸嵌合し、第2の嵩上げ調整リング4の凸部48が第1の嵩上げ調整リング3の凹溝371に凹凸嵌合している。この構造によると、道路舗装面9との高低差や道路勾配θ9に追従して第2の嵩上げ調整リング4を用い、又は、用いないことにより、傾斜調整リング1の位置を容易に、且、的確に調節することができる。
【0069】
通常、第1の嵩上げ調整リング3は、基礎として用いられるものであるから所望の機械的強度を確保し、且、必要最低限の高さを補うため60〜160mm程度の厚みで構成される。一方、第2の嵩上げ調整リング4は、高さ位置を微調節するために用いられるから、第1の嵩上げ調整リング3とは異なり、薄い構造であることが好ましい。例えば、第2の嵩上げ調整リング4は、10〜100mm程度の厚み別に複数準備しておくことにより、細分化された分だけ、様々な施工条件に応じた調節が可能となる。
【0070】
図10のリング組立体100の構造によると、図1乃至図9を参照して説明した利点を全て有することができる。例えば、傾斜調整リング1の向きの微調節は、調整孔16と、これ挿通されるボルト7との関係で行われるから、傾斜調整リング1より下の部分に配置される第1、第2の嵩上げ調整リング3、4の使用枚数が増えたとしても、これに影響されることなく実行することができる。
【0071】
図10に示した、傾斜調整リング1と、第1、第2の嵩上げ調整リング3、4とを組み合わせた3層構造は、説明の都合上の最小単位に過ぎず、例えば、傾斜調整リング1と、第1の嵩上げ調整リング3との間に、厚みの異なる複数の第2の嵩上げ調整リング4を複数介在させることにより、傾斜調整リング1の取り付け位置を細かく調節することができる。
【0072】
本発明の一実施形態に係る傾斜調整リング1、組立体100、及び、これらを用いたマンホールによると図1乃至図10を参照して説明した特有の効果を奏するのに対し、従来技術において、例えば受枠と斜壁との間にモルタルを注入する工法(モルタル工法)では、施工の際、モルタル注入枠が必要となる。従って、施工性が悪く、工数の増加による工事の長期化と、工事資材の増加による施工コストの上昇を招く。
【0073】
本発明では、開口部20に立設されたボルト7に対して、傾斜調整リング1、第1、第2の嵩上げ調整リング3、4を落とし込みにより貫通させるだけでよいから施工性に優れ、工数が少なくなる分、早期復旧が可能となり、工事資材が少なくなることにより施工コストの低減が可能となる。しかも、マンホールの嵩上げは、調整リングの組み合わせにより10mm単位で行うことができるから、あらゆる高さと、道路勾配θ9に対応することができる。
【0074】
また、従来のモルタル工法では、施工後の高さ調整、及び、傾斜角度θ1の調整は不可能であり、仮に施工後の調整を行う場合にはモルタル解体(破砕)からやり直さざるを得ないから、施工性が悪く、適切な施工が不能であるとともに、作業の熟練性が求められる。
【0075】
本発明では、傾斜調整リング1は、ボルト7、座金72、及び。ナット73により着脱可能に固定されており、開口部20から容易に取り外すことができる。従って、施工性に優れ、適切な施工が可能であり、作業の熟練性も不要であるから、施工効率が向上する。
【0076】
さらに従来のモルタル工法では、衝撃や温度変化によってモルタルにひび割れが生じやすいから、耐久性に問題が生じる。
【0077】
これに対して、本発明に係る嵩上げ調整リング3は、好ましくは合成樹脂材料で構成されるから、耐衝撃性、耐熱性及び耐寒性など耐久性に優れており、ひび割れ、破損等の不具合を回避しうる。従って、耐久性に優れ、製品寿命が長く、コストの低減に資する。
【0078】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種種の変形態様を採り得ることは自明である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の一実施形態に係る傾斜調整リングの斜視図である。
【図2】図1に示した傾斜調整リングの他面側の構造を示す斜視図である。
【図3】図1に示した傾斜調整リングの正面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るマンホールの一部を拡大して示す部分断面図である。
【図5】図4に示した実施形態からマンホールを取り出して示す斜視図である。
【図6】図5に示したマンホールの分解構造を示す斜視図である。
【図7】図4に示した実施形態から調整リング組立体を取り出して示す斜視図である。
【図8】図7の8−8線に沿った断面図である。
【図9】図4又は図5に示したマンホールの一部を破断して示す平面図である。
【図10】本発明のもう一つの実施形態に係る調整リング組立体の正面断面図である。
【符号の説明】
【0080】
1 傾斜調整リング
10 基体部
100 調整リング組立体
11、12 一面、他面
15 中央孔
2 マンホール基体
20 開口部
3 第1の嵩上げ調整リング
4 第2の嵩上げ調整リング
5 受枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体部と、中央孔と、調整孔と、複数の凸部とを含むマンホール用傾斜調整リングであって、
前記基体部は、一面と、前記一面に対して厚み方向に向かい合う他面とを有し、前記厚み方向に交差する方向に沿って厚みが減少しており、
前記一面は、前記厚みが減少する方向に傾斜しており、
前記中央孔は、前記基体部を前記厚み方向に貫通し、前記一面と、前記他面とに開口しており、
前記調整孔は、長穴であって、前記基体部を前記厚み方向に貫通し、且、長径が前記中央孔の開口縁に沿って伸びており、
前記凸部は、前記他面において厚み方向に突出し、複数が、前記開口縁に沿って、且、互いに間隔を隔てて配置されている、
傾斜調整リング。
【請求項2】
マンホール基体と、マンホール用傾斜調整リングと、マンホール用傾斜調整リングと、受枠と、固定具とを含むマンホールであって、
前記嵩上げ調整リングは、一面にリング状の凹溝を有し、前記マンホール基体の開口部に積み重ねられており、
前記傾斜調整リングは、基体部と、中央孔と、調整孔と、複数の凸部とを含み、
前記基体部は、一面と、前記一面に対して厚み方向に向かい合う他面とを有し、前記厚み方向に交差する方向に沿って厚みが減少しており、
前記一面は、前記厚みが減少する方向に傾斜しており、
前記中央孔は、前記基体部を前記厚み方向に貫通し、前記一面と、前記他面とに開口しており、
前記調整孔は、長穴であって、前記基体部を前記厚み方向に貫通し、且、長径が前記中央孔の開口縁に沿って伸びており、
前記凸部は、前記他面において厚み方向に突出し、複数が、前記開口縁に沿って、且、互いに間隔を隔てて配置されており、
前記傾斜調整リングは、前記他面が、前記嵩上げ調整リングの前記一面に積み重ねられ、前記積み重ねられた状態で前記凸部が、前記凹溝に対して移動可能に嵌合されており、
前記受枠は、前記傾斜調整リングの前記一面に積み重ねられており、
前記固定具は、棒状であって、前記嵩上げ調整リング、前記傾斜調整リングの前記調整孔、及び、前記受枠を貫通している、
マンホール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−18947(P2010−18947A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177526(P2008−177526)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(591084654)エバタ株式会社 (35)
【出願人】(594074872)日本ステップ工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】