説明

マーキングペン用油性インキ組成物

【課題】顔料の分散性に優れ、経時後も顔料の凝集や沈降を生じ難く、良好な筆跡を永続して形成可能なマーキングペン用油性インキ組成物の提供。
【解決手段】顔料と、有機溶剤と、樹脂と、コハク酸イミドとから少なくともなるマーキングペンに用いられる油性インキ組成物。さらには、前記コハク酸イミドをインキ組成物全量中0.3〜10質量%含有し、前記有機溶剤として、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素から選ばれる有機溶剤を主溶剤として用いてなるマーキングペン用油性インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーキングペン用油性インキ組成物に関する。更に詳細には着色剤として用いられる顔料の分散性に優れたマーキングペン用油性インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、着色剤として顔料を用いた油性インキ組成物は、筆跡の耐水性や隠蔽性が必要な種々用途に使用されている。しかし、この種の油性インキはインキ中で顔料の安定性に乏しく、経時によりインキ組成物中で凝集、沈降し易いため、筆記先端部を下向き(倒立状態)で放置すると目づまりを生じて筆跡がかすれたり、筆記不能になり、筆記先端部を上向き(正立状態)で放置すると色濃度の薄い筆跡が形成されるといった不具合を生じる(例えば、特許文献1参照)。
前記問題を解消するため、インキと共に撹拌部材を収容し、使用時に攪拌して顔料を分散する筆記具が汎用されているが、経時により顔料は沈降層を形成し、撹拌部材はハードケーキ化した沈降層内に埋没することがあり、十分な撹拌を行うことができないためインキ中の顔料を均一に分散することができず、良好な筆跡を形成できなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−323199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記油性インキ組成物の問題を解消するものであって、即ち、顔料の分散性に優れ、経時後も顔料の凝集や沈降を生じ難く、良好な筆跡を永続して形成可能なマーキングペン用油性インキ組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、顔料と、有機溶剤と、樹脂と、コハク酸イミドとから少なくともなるマーキングペン用油性インキ組成物を要件とする。
更には、前記コハク酸イミドをインキ組成物全量中0.3〜10質量%含有してなること、前記有機溶剤として、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素から選ばれる有機溶剤を主溶剤として用いてなること、前記有機溶剤が炭素数6〜10の脂肪族炭化水素であること等を要件とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、顔料の分散剤としてコハク酸イミドを用いることにより、長期間保存後もインキ中で顔料が凝集、沈降し難く、常に良好な色濃度を示す筆跡を形成可能なマーキングペン用油性インキ組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
前記顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、群青等の無機顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、スレン顔料、キナクリドン系顔料、アントラキノン系顔料、スロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ジオキサジン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリノン系顔料等の有機顔料、金属光沢顔料、可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料等が挙げられる。

なお、前記金属光沢顔料としては、アルミニウムや真鍮等の金属粉、芯物質として天然雲母、合成雲母、ガラス片、アルミナ、透明性フィルム片の表面を酸化チタン等の金属酸化物で被覆したパール顔料、金属蒸着膜の片面又は両面に透明又は着色透明フィルムを設けた金属光沢フィルム片を細かく裁断したもの、透明性樹脂層を複数積層した虹彩性フィルムを細かく裁断したものを例示できる。
前記可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料は、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、及び(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体の三成分を少なくとも含む可逆熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包させてなる。
前記マイクロカプセル顔料としては、特開2006−57031号公報、特開2006−137886号公報、特開2006−188660号公報、特開2008−280523号公報に記載された温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と、逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度以下の低温域での発色状態、完全消色温度以上の高温域での消色状態が択一的に保持される、大きなヒステリシス幅を有する色彩記憶性を備えたマイクロカプセル顔料が好適に用いられる。
【0008】
また、前記顔料と共に、カラーインデックスにおいてソルベント染料として分類される有機溶剤可溶性染料を併用して用いることもできる。
前記ソルベント染料の具体例としては、
バリファーストブラック3806(C.I.ソルベントブラック29)、
バリファーストブラック3807(C.I.ソルベントブラック29のトリメチルベンジルアンモニウム塩)、
スピリットブラックSB(C.I.ソルベントブラック5)、
スピロンブラックGMH(C.I.ソルベントブラック43)、
ニグロシンベースEX(C.I.ソルベントブラック7)、
スピロンピンクBH(C.I.ソルベントレッド82)、
ネオザポンブルー808(C.I.ソルベントブルー70)、
バリファーストレッド1308(C.I.ベーシックレッド1とC.I.アシッドイエロー23の造塩体)、
スピロンバイオレットCRH(C.I.ソルベントバイオレット8−1)、
バリファーストレッド1308(C.I.ベーシックレッド1とC.I.アシッドイエロー23の造塩体)、
スピリットレッド102(C.I.ベーシックレッド1とC.I.アシッドイエロー42の造塩体)、
バリファーストバイオレット1701(C.I.ベーシックバイオレット1とC.I.アシッドイエロー42の造塩体)、
バリファーストバイオレット1702(C.I.ベーシックバイオレット3とC.I.アシッドイエロー36の造塩体)、
スピロンレッドCGH(C.I.ベーシックレッド1とドデシル(スルホフェノキシ)−ベンゼンスルホン酸の造塩体)、
オイルブルー613(C.I.ソルベントブルー5と樹脂の混合物)等が挙げられる。
【0009】
前記コハク酸イミドはインキ組成物中に0.3〜10質量%、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは3〜10質量%添加される。
0.3質量%未満では顔料の分散安定性に乏しく、また、10質量%を越えると良好なインキ吐出を得ることが困難となり、筆跡にかすれや途切れ等が発生し易くなる。
【0010】
前記インキに用いられる有機溶剤は特に限定されるものではないが、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素から選ばれる非極性有機溶剤を主溶剤(有機溶剤全量中50質量%以上)として用いることが好ましく、インキ組成中40乃至90質量%の範囲で用いられる。
前記脂肪族炭化水素としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、n−デカン、n−ヘプタン、イソヘキサン、イソヘプタン、イソオクタン、イソデカン等が挙げられ、脂環族炭化水素としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等が挙げられ、芳香族炭化水素としては、トルエン、キシレン等が挙げられる。
なお、有機溶剤として好ましくは炭素数6〜10の脂肪族炭化水素が用いられ、イソヘキサン、イソヘプタン、イソオクタン、イソノナン、イソデカンが挙げられる。
更に、前記脂肪族炭化水素のうち、イソヘプタン、イソオクタン、イソノナンがより好適である。
前記炭素数6〜10の脂肪族炭化水素は、有機溶剤全量中70〜100質量%、好ましくは80〜100質量%、より好ましくは90〜100質量%含有することにより、プラスチック、金属、クラフトテープ等の種々材質の筆記面及び水に濡れた筆記面に良好な筆跡を形成する機能を付与できる。
【0011】
樹脂としては、ケトン樹脂、ケトン−ホルムアルデヒド樹脂、アミド樹脂、アルキッド樹脂、ロジン変性樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンマレイン酸共重合体、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン等を例示することができ、被筆記体への固着性や粘性付与、筆跡の滲み抑制のために用いられる。
前記樹脂のうち好ましくは、アルキルフェノール樹脂、テルペン樹脂、ロジンエステル樹脂が好適に用いられる。
前記樹脂は、インキ組成物全量中5〜30質量%、好ましくは、10〜30質量%添加される。
5質量%未満では筆跡の固着性が十分に得られ難く、また、30質量%を超えるとインキ粘度が上昇して筆跡のかすれを生じ易くなる。
【0012】
前記インキ組成物は、ペン体を筆記先端部に装着したマーキングペンに収容して実用に供される。
マーキングペン体としては、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ等のペン体が挙げられる。
前記マーキングペンの構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップを筆記先端部に装着し、軸筒内部に収容した繊維束からなるインキ吸蔵体にインキを含浸させ、筆記先端部にインキを供給する構造、軸筒内部に直接インキを収容し、櫛溝状のインキ流量調節部材や繊維束からなるインキ流量調節部材を介在させる構造のマーキングペン、軸筒内部に直接インキを収容し、且つ、軸筒内に弁機構を配して開弁によりインキをペン体に導出する構造のマーキングペンが挙げられる。
【実施例】
【0013】
以下の表に実施例及び比較例の配合を記す。
【表1】

【0014】
表中の原料の内容を注番号に従って説明する。
(1)C.I.Pigment BLACK 7
(2)C.I.Pigment RED 254
(3)ヤスハラケミカル(株)製、商品名:YSポリスターT115
(4)荒川化学工業(株)製、商品名:スーパーエステルA−100
(5)荒川化学工業(株)製、商品名:タマノル510
(6)信越化学工業(株)製、商品名:KBN−903
(7)出光興産(株)製、商品名:IPソルベント1620
【0015】
マーキングペンの作製
実施例及び比較例のインキ組成物を、軸筒内にインキ吸蔵体し、先端部にインキ吸蔵体と連通するアクリル繊維束を樹脂で結着したチップを設けたマーキングペンの前記インキ吸蔵体に含浸させてマーキングペンを得た。
【0016】
各マーキングペンを用いて以下のテストを行った。
安定性試験(経時試験)
キャップを嵌めた状態の各マーキングペンを、20℃で筆記先端部を上向きにして30日間放置した後、JIS P3201筆記用紙Aに手書きで丸を一行に12個連続で筆記し、筆跡の状態を目視により観察した。
筆記試験
アルミニウム板の表面に筆記し、筆跡のはじき具合を目視により観察した。
【0017】
以下の表に筆記試験の結果を示す。
【表2】

【0018】
なお、表中の評価の記号は以下の通りである。
安定性試験
○:初期と比較して同等の色濃度の筆跡を形成できる
△:初期と比較してやや色濃度が低い。
×:初期と比較して色濃度が低い。
筆記試験
○:筆跡のはじきは見られず、良好な色濃度の筆跡を形成できる。
△:筆跡にはじきがみられないが、やや筆跡の色濃度が低い。
×:筆跡にはじきがみられないが、筆跡の色濃度が低く、筆跡に光沢がみられない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、有機溶剤と、樹脂と、コハク酸イミドとから少なくともなるマーキングペン用油性インキ組成物。
【請求項2】
前記コハク酸イミドをインキ組成物全量中0.3〜10質量%含有してなる請求項1記載のマーキングペン用油性インキ組成物。
【請求項3】
前記有機溶剤として、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素から選ばれる有機溶剤を主溶剤として用いてなる請求項1又は2記載のマーキングペン用油性インキ組成物。
【請求項4】
前記有機溶剤が炭素数6〜10の脂肪族炭化水素である請求項3記載のマーキングペン用油性インキ組成物。

【公開番号】特開2010−280833(P2010−280833A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135781(P2009−135781)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】