説明

ミトコンドリアを保護するための組成物および方法

本発明は、哺乳類対象においてミトコンドリアを損傷から保護するための組成物であって、特定のプロスタグランジンン化合物を含む組成物に関する。 本発明はまた、哺乳類対象においてミトコンドリア機能障害およびミトコンドリア機能障害に関連する症状を処置するための医薬組成物であって、プロスタグランジンン化合物を含む医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類対象においてミトコンドリアを損傷から保護するための方法および組成物に関する。
【0002】
本発明はまた、哺乳類対象においてミトコンドリア機能障害を処置するための方法および組成物に関する。
【0003】
特に、本発明は、哺乳類対象においてミトコンドリア機能障害と関連する症状を処置するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0004】
ミトコンドリアは、あらゆる酸素利用生物に存在する細胞内小器官であり、そこでエネルギーがアデノシン三リン酸(ATP)の形態にて創出され、酸素は水に還元される。取り込まれた酸素のうち90パーセントがミトコンドリアにおいて消費される。このATP生成の実質的副産物が、潜在的に毒性の酸素ラジカルである。例えば、全還元酸素のうち1-2%がスーパーオキシドおよび過酸化水素を産生すると推定される。形成される他の活性酸素種(ROS)は一重項酸素およびヒドロキシルラジカルである。ストレス条件下の細胞において、酸素ラジカルの割合は、全消費酸素のうち10%まで上昇し得る。ミトコンドリア膜は、これらのROSによる脂質過酸化および脱分極に感受性である。ミトコンドリアの損傷はまた、上記のようにROSを生じる日光への曝露によっても起こる。ミトコンドリアは身体中の細胞に存在し、ミトコンドリアへの損傷は、いくつかの疾患、例えば、脳、神経、筋、心臓、眼、腎臓または呼吸器の疾患の原因または重要な因子であると考えられるので、かかる損傷からミトコンドリアを保護する、またはかかる損傷を修復する方法が求められる。火および他の高温源との接触またはそれらへの曝露による、皮膚および肺の熱傷による細胞損傷は、ラジカルによる損傷によって媒介される。さらに、産業的大気汚染物質ならびに石油およびタバコの燃焼生成物を含む、有害な環境因子への曝露は、肺および他の身体組織に対する酸化障害の原因となり得る。さらに、種々の治療法、例えば、異常増殖性疾患の処置のための化学療法薬および放射線治療は、オキシダントストレスに関連する顕著な副作用、例えば心毒性を誘導する。ミトコンドリア損傷の存続期間は老化過程の一部となり得る。かかる損傷からミトコンドリアを保護する薬剤は非常に有用であろうし、かかる薬剤は強く求められている。
【0005】
プロスタグランジンン類(以後PG(類)と示す)は、ヒトまたは他の哺乳類の組織または器官に含まれ広範な生理学的活性を示す、有機カルボン酸分類群のメンバーである。天然に存在するPG類(天然PG類)は、一般に、式(A)に示すプロスタン酸骨格を有する:
【化1】


【0006】
一方、天然PG類の幾つかの合成類似体は修飾された骨格を持っている。天然PG類は5員環部分の構造によって、PGA類、PGB類、PGC類、PGD類、PGE類、PGF類、PGG類、PGH類、PGI類およびPGJ類に分類され、さらに炭素鎖部分の不飽和結合の数と位置によって、以下の3つのタイプに分類される。
下付1:13,14-不飽和-15-OH
下付2:5,6-および13,14-ジ不飽和-15-OH
下付3:5,6-、13,14-および17,18-トリ不飽和-15-OH。
【0007】
さらに、PGF類は9位のヒドロキシ基の配置によってαタイプ(ヒドロキシ基がα配置である)およびβタイプ(ヒドロキシ基がβ配置である)に分類される。
【0008】
PG類は、様々な薬理学的および生理学的活性、例えば、血管拡張、炎症の誘導、血小板凝集、子宮筋の刺激、腸筋肉の刺激、抗潰瘍効果などを有することが知られている。
【0009】
また、幾つかの15-ケト-PG類(すなわちヒドロキシ基の代わりに15位にオキソ基を持つPG類)および13,14-ジヒドロ-15-ケト-PG類(すなわち13、14位間は単結合である)は、天然PG類の代謝中に酵素の作用によって自然に生成する物質として知られている。
【0010】
プロスタグランジンン化合物がいかにミトコンドリアに作用するかについては知られていない。
【発明の概要】
【0011】
発明の開示
本発明の目的は、哺乳類対象においてミトコンドリアを損傷から保護するための方法および組成物を提供することである。本発明のさらなる目的は、ミトコンドリア機能障害およびミトコンドリア機能障害に関連する症状または疾患を処置するための方法および組成物を提供することである。
【0012】
すなわち、本発明は、哺乳類対象においてミトコンドリアを損傷から保護する方法であって、有効量のプロスタグランジンン化合物を必要とする対象に投与することを含む方法に関する。
【0013】
本発明はさらに、哺乳類対象においてミトコンドリアを損傷から保護するための医薬組成物であって、有効量のプロスタグランジンン化合物を含む医薬組成物を提供する。
【0014】
本発明はさらに、哺乳類対象においてミトコンドリアを損傷から保護するための医薬組成物の製造のためのプロスタグランジンン化合物の使用を提供する。
【0015】
本発明はまた、哺乳類対象においてミトコンドリア機能障害を処置する方法であって、有効量のプロスタグランジンン化合物を含む方法に関する。
【0016】
本発明はさらに、哺乳類対象においてミトコンドリア機能障害を処置するための医薬組成物であって、有効量のプロスタグランジンン化合物を含む医薬組成物を提供する。
【0017】
本発明はさらに、哺乳類対象においてミトコンドリア機能障害を処置するための医薬組成物の製造のためのプロスタグランジンン化合物の使用を提供する。
【0018】
特に、本発明は、哺乳類対象においてミトコンドリア機能障害に関連する症状を処置する方法であって、有効量のプロスタグランジンン化合物を必要とする対象に投与することを含む方法に関する。
【0019】
本発明はさらに、哺乳類対象においてミトコンドリア機能障害に関連する症状を処置するための医薬組成物であって、有効量のプロスタグランジンン化合物を含む医薬組成物を提供する。
【0020】
本発明はさらに、哺乳類対象においてミトコンドリア機能障害に関連する症状を処置するための医薬組成物の製造のためのプロスタグランジンン化合物の使用を提供する。
【0021】
発明の詳細な説明
本明細書において用いるプロスタグランジンン化合物の命名は、上記式(A)に示したプロスタン酸の番号付け系に基づく。
【0022】
式(A)は、C-20炭素原子の基本骨格を示すが、本発明は同じ炭素原子数を持つものに限定されない。式(A)において、PG化合物の基本骨格を構成する炭素原子の番号は、カルボン酸から始まり(1と番号付け)、5員環に向かって2〜7をα鎖上の炭素原子に、8〜12を5員環の炭素原子に、13〜20をω鎖上の炭素原子に付している。炭素原子数がα鎖上で減少する場合、2位から順次番号を抹消し;α鎖上で炭素原子数が増加する場合、2位にカルボキシ基(C-1)に代わる各置換基を有する置換化合物として化合物を命名する。同様に、ω鎖上で炭素原子数が減少する場合、20位から番号を順次抹消し;ω鎖上で炭素原子数が増加する場合、20位を超える炭素原子は置換基として命名する。化合物の立体配置は、特に断りのない限り、上記式(A)と同じである。
【0023】
一般に、PGD、PGEおよびPGFなる用語はそれぞれ、9位および/または11位にヒドロキシ基を有するPG化合物を表すが、本明細書および特許請求の範囲では、9位および/または11位にヒドロキシ基以外の置換基を有するものも含む。かかる化合物は9-デヒドロキシ-9-置換-PG化合物または11-デヒドロキシ-11-置換-PG化合物と称する。ヒドロキシ基の代わりに水素を有するPG化合物は、単に9-または11-デオキシ-PG化合物と命名する。
【0024】
上述のように、PG化合物の命名はプロスタン酸骨格に基づいている。しかし、化合物がプロスタグランジンと類似の部分的構造を有する場合には、「PG」の略語を利用することがある。従って、α鎖の炭素原子が2個延長されたPG化合物、すなわち、α鎖の炭素原子数が9であるPG化合物は、2-デカルボキシ-2-(2-カルボキシエチル)-PG化合物と命名する。同様に、α鎖の炭素原子数が11であるPG化合物は、2-デカルボキシ-2-(4-カルボキシブチル)-PG化合物と命名する。また、ω鎖の炭素原子が2個延長されたPG化合物、すなわち、ω鎖の炭素原子数が10であるPG化合物は、20-エチル-PG化合物と命名する。なお、これらの化合物はIUPAC命名法に基づいて命名することも可能である。
【0025】
類似体(置換誘導体を含む)または誘導体の例は、α鎖末端のカルボキシ基がエステル化されたPG化合物;α鎖が延長された化合物;それらの生理学的に許容される塩;2-3位に二重結合を、または5-6位に三重結合を有する化合物、3、5、6、16、17、18、19および/または20位に置換基を有する化合物; 9位および/または11位にヒドロキシ基の代わりに低級アルキルまたはヒドロキシ(低級)アルキル基を有する化合物などである。
【0026】
本発明によると、3、17、18および/または19位の好ましい置換基には、1-4炭素原子を有するアルキル、特にメチルおよびエチルなどがある。16位の好ましい置換基には、低級アルキル、例えばメチルおよびエチル、ヒドロキシ、ハロゲン原子、例えば塩素およびフッ素、およびアリールオキシ、例えばトリフルオロメチルフェノキシなどがある。17位の好ましい置換基には、低級アルキル、例えばメチルおよびエチル、ヒドロキシ、ハロゲン原子、例えば塩素およびフッ素、アリールオキシ、例えばトリフルオロメチルフェノキシなどがある。20位の好ましい置換基には、飽和または不飽和の低級アルキル、例えばC1-4アルキル、低級アルコキシ、例えばC1-4アルコキシ、および低級アルコキシアルキル、例えばC1-4アルコキシ-C1-4アルキルなどがある。5位の好ましい置換基には、ハロゲン原子、例えば塩素およびフッ素などがある。6位の好ましい置換基には、カルボニル基を形成するオキソ基などがある。9位および/または11位にヒドロキシ、低級アルキルまたはヒドロキシ(低級)アルキル置換基を有するPG類の立体配置は、α、βまたはそれらの混合であり得る。
【0027】
さらに、上記の類似体または誘導体は、天然のPG類よりもω鎖が短く、そのω鎖末端にアルコキシ、シクロアルキル、シクロアルキルオキシ、フェノキシまたはフェニル基を有する化合物であってもよい。
【0028】
本発明において用いられるプロスタグランジンン化合物は式(I)によって表される:
【化2】

[式中、L、MおよびNは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ(低級)アルキル、低級アルカノイルオキシまたはオキソであり、ここでLおよびMの少なくとも1つは水素以外の基であり、5員環は少なくとも1つの二重結合を有してもよく;
Aは、-CH3、または-CH2OH、-COCH2OH、-COOHまたはそれらの官能性誘導体であり;
Bは、単結合、-CH2-CH2-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH2-CH2-CH2-、-CH=CH-CH2-、-CH2-CH=CH-、-C≡C-CH2-または-CH2-C≡C-であり;
Zは、
【化3】

または単結合であり、
ここでR4およびR5は、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはヒドロキシ(低級)アルキルであり、R4およびR5が同時にヒドロキシおよび低級アルコキシであることはなく;
R1は、非置換、またはハロゲン、アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基により置換された、二価の飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基であり、脂肪族炭化水素中の少なくとも1つの炭素原子は所望により酸素、窒素または硫黄により置換されており;そして
Raは、非置換、またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基によって置換された、飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基;低級アルコキシ;低級アルカノイルオキシ;シクロ(低級)アルキル;シクロ(低級)アルキルオキシ;アリール;アリールオキシ;複素環基;複素環オキシ基である]。
【0029】
本発明において用いられる好ましい化合物は式(II)によって表される:
【化4】

[式中、LおよびMは水素原子、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ(低級)アルキル、低級アルカノイルオキシまたはオキソであり、ここでLおよびMの少なくとも1つは水素以外の基であり、5員環は1以上の二重結合を有してもよく;
Aは、-CH3、または-CH2OH、-COCH2OH、-COOHまたはそれらの官能性誘導体であり;
Bは、単結合、-CH2-CH2-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH2-CH2-CH2-、-CH=CH-CH2-、-CH2-CH=CH-、-C≡C-CH2-または-CH2-C≡C-であり;
Zは、
【化5】

または単結合であり;
ここでR4およびR5は、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはヒドロキシ(低級)アルキルであり、R4およびR5が同時にヒドロキシおよび低級アルコキシであることはなく;
X1およびX2は、水素、低級アルキル、またはハロゲンであり;
R1は、非置換、またはハロゲン、アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基により置換された、二価の飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基であり、脂肪族炭化水素中の少なくとも1つの炭素原子は所望により酸素、窒素または硫黄により置換されており;
R2は、単結合または低級アルキレンであり;そして
R3は、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基である]。
【0030】
上式において、R1およびRaについての定義における「不飽和」なる用語は、主鎖および/または側鎖の炭素原子間に孤立して、分離してまたは連続して存在する、少なくとも1つまたはそれ以上の二重結合および/または三重結合を含むことを意図している。通常の命名法に従って、2つの連続した位置の間の不飽和結合は、2つの位置の低い数を表示することによって表され、2つの遠位の間の不飽和結合は、その両方の位置を表示することによって表される。
【0031】
「低〜中級の脂肪族炭化水素」なる用語は、1〜14の炭素原子(側鎖においては、1〜3炭素原子が好ましい)、好ましくは1〜10、特に1〜8の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖の炭化水素基を意味する。
【0032】
「ハロゲン原子」なる用語は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素を包含する。
【0033】
「低級」なる用語は、本明細書を通して、特に断りのない限り、1〜6の炭素原子を有する基を含むことを意図する。
【0034】
「低級アルキル」なる用語は、1〜6の炭素原子を含有する、直鎖または分岐鎖の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチルおよびヘキシルを含む。
【0035】
「低級アルキレン」なる用語は、1〜6の炭素原子を含有する、直鎖または分枝鎖の、二価の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、t-ブチレン、ペンチレンおよびヘキシレンを含む。
【0036】
「低級アルコキシ」なる用語は、低級アルキル-O-の基を意味し、ここで低級アルキルは上記に定義されるとおりである。
【0037】
「ヒドロキシ(低級)アルキル」なる用語は、少なくとも1つのヒドロキシ基、例えばヒドロキシメチル、1-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシエチルおよび1-メチル-1-ヒドロキシエチルにより置換されている、上記に定義される低級アルキルを意味する。
【0038】
「低級アルカノイルオキシ」なる用語は、式RCO-O-により表される基を意味し、ここでRCO-は、上記に定義される低級アルキル基の酸化により形成されるアシル基、例えばアセチルである。
【0039】
「シクロ(低級)アルキル」なる用語は、上記に定義されるが、3以上の炭素原子を含有する、低級アルキル基の環化により形成される環状基を意味し、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルを含む。
【0040】
「シクロ(低級)アルキルオキシ」なる用語は、シクロ(低級)アルキル-O-の基を意味し、ここでシクロ(低級)アルキルは上記に定義されるとおりである。
【0041】
「アリール」なる用語は、非置換または置換芳香族炭化水素環(好ましくは単環式の基)、例えば、フェニル、トリル、キシリルを含み得る。置換基の例は、ハロゲン原子およびハロ(低級)アルキルであり、ここでハロゲン原子および低級アルキルは上記に定義される通りである。
【0042】
「アリールオキシ」なる用語は、式ArO-により表される基を意味し、ここでArは上記に定義されるアリールである。
【0043】
「複素環基」なる用語は、所望により置換された炭素原子、および、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択される1種または2種のヘテロ原子を1〜4、好ましくは1〜3個有する、5〜14、好ましくは5〜10員環の、単環式から三環式の、好ましくは単環式の複素環基を含み得る。複素環基の例は、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、フラザニル、ピラニル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジル、ピラジニル、2−ピロリニル、ピロリジニル、2−イミダゾリニル、イミダゾリジニル、2−ピラゾリニル、ピラゾリジニル、ピペリジノ、ピペラジニル、モルホリノ、インドリル、ベンゾチエニル、キノリル、イソキノリル、プリニル、キナゾリニル、カルバゾリル、アクリジニル、フェナントリジニル、ベンズイミダゾリル、ベンズイミダゾリニル、ベンゾチアゾリル、フェノチアジニルを含む。この場合、置換基の例は、ハロゲン、およびハロゲン置換低級アルキル基を含み、ここでハロゲン原子および低級アルキル基は上記の通りである。
【0044】
「複素環オキシ基」なる用語は、式HcO-により表される基を意味し、ここでHcは上記に記載の複素環基である。
【0045】
Aの「官能性誘導体」なる用語は、塩(好ましくは医薬上許容される塩)、エーテル、エステルおよびアミドを含む。
【0046】
好適な「医薬上許容される塩」は、慣用される非毒性塩、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アンモニウム塩等、の無機塩基との塩;または、例えばアミン塩(例えばメチルアミン塩、ジメチルアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、ベンジルアミン塩、ピペリジン塩、エチレンジアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、トリス(ヒドロキシメチルアミノ)エタン塩、モノメチル−モノエタノールアミン塩、プロカイン塩、カフェイン塩等)、塩基性アミノ酸塩(例えばアルギニン塩、リジン塩等)、テトラアルキルアンモニウム塩等、の有機塩基との塩を含む。これらの塩類は、例えば対応する酸および塩基から常套の反応によって、または塩交換によって調製し得る。
【0047】
エーテルの例には、アルキルエーテル、例えば、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、イソブチルエーテル、t−ブチルエーテル、ペンチルエーテル、1−シクロプロピルエチルエーテル等の低級アルキルエーテル;およびオクチルエーテル、ジエチルヘキシルエーテル、ラウリルエーテル、セチルエーテル等の中〜高級アルキルエーテル;オレイルエーテル、リノレニルエーテル等の不飽和エーテル;ビニルエーテル、アリルエーテル等の低級アルケニルエーテル;エチニルエーテル、プロピニルエーテル等の低級アルキニルエーテル;ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシイソプロピルエーテル等のヒドロキシ(低級)アルキルエーテル;メトキシメチルエーテル、1−メトキシエチルエーテル等の低級アルコキシ(低級)アルキルエーテル;フェニルエーテル、トシルエーテル、t−ブチルフェニルエーテル、サリチルエーテル、3,4−ジメトキシフェニルエーテル、ベンズアミドフェニルエーテル等の所望により置換されたアリールエーテル;およびベンジルエーテル、トリチルエーテル、ベンズヒドリルエーテル等のアリール(低級)アルキルエーテルなどがある。
【0048】
エステルの例には、脂肪族エステル、例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、t−ブチルエステル、ペンチルエステル、1−シクロプロピルエチルエステル等の低級アルキルエステル;ビニルエステル、アリルエステル等の低級アルケニルエステル;エチニルエステル、プロピニルエステル等の低級アルキニルエステル;ヒドロキシエチルエステル等のヒドロキシ(低級)アルキルエステル;メトキシメチルエステル、1−メトキシエチルエステル等の低級アルコキシ(低級)アルキルエステル;および、例えばフェニルエステル、トリルエステル、t−ブチルフェニルエステル、サリチルエステル、3,4−ジメトキシフェニルエステル、ベンズアミドフェニルエステル等の所望により置換されたアリールエステル;およびベンジルエステル、トリチルエステル、ベンズヒドリルエステル等のアリール(低級)アルキルエステルなどがある。
【0049】
Aのアミドは、式-CONR'R''で表される基を意味する。ここで、R'およびR''はそれぞれ水素、低級アルキル、アリール、アルキルもしくはアリールスルホニル、低級アルケニルおよび低級アルキニルであり、例えば、メチルアミド、エチルアミド、ジメチルアミド、ジエチルアミド等の低級アルキルアミド;アニリドおよびトルイジド等のアリールアミド;メチルスルホニルアミド、エチルスルホニルアミドおよびトリルスルホニルアミド等のアルキルもしくはアリールスルホニルアミド等を含む。
【0050】
好ましいLおよびMの例には、水素、ヒドロキシおよびオキソが含まれ、特に、Mがヒドロキシであり、Lがオキソであり、PGEタイプと称される5員環構造を有するものである。
【0051】
好ましいAの例は、-COOH、その医薬上許容される塩、エステルまたはアミドである。
【0052】
好ましいX1およびX2の例は、両方がハロゲン原子、より好ましくはフッ素原子であり、16,16-ジフルオロ型と称される。
【0053】
好ましいR1は、1-10の炭素原子、好ましくは6-10の炭素原子を含有する炭化水素残基である。さらに、脂肪族炭化水素中の少なくとも1つの炭素原子は、所望により酸素、窒素または硫黄により置換される。
【0054】
R1の例には、例えば、以下の基が含まれる:
-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-、
-CH2-CH=CH-CH2-CH2-CH2-、
-CH2-CH2-CH2-CH2-CH=CH-、
-CH2-C≡C-CH2-CH2-CH2-、
-CH2-CH2-CH2-CH2-O-CH2-、
-CH2-CH=CH-CH2-O-CH2-、
-CH2-C≡C-CH2-O-CH2-、
-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-、
-CH2-CH=CH-CH2-CH2-CH2-CH2-、
-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH=CH-、
-CH2-C≡C-CH2-CH2-CH2-CH2-、
-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH(CH3)-CH2-、
-CH2-CH2-CH2-CH2-CH(CH3)-CH2-、
-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-、
-CH2-CH=CH-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-、
-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH=CH-、
-CH2-C≡C-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-、および
-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH(CH3)-CH2-。
【0055】
好ましいRaは、1-10の炭素原子、より好ましくは1-8の炭素原子を含有する炭化水素である。Raは炭素原子を有する1または2の側鎖を有し得る。
【0056】
好ましい化合物には、式(I)においてRaがハロゲンにより置換され、および/またはZがC=Oであるもの、または式(II)においてX1およびX2の1つがハロゲンにより置換され、および/またはZがC=Oであるものなどがある。
【0057】
最も好ましい実施態様において、プロスタグランジンン化合物は、11-デオキシ-13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-プロスタグランジンE1化合物、または13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-18-メチル-プロスタグランジンE1化合物である。
【0058】
上記の式(I)および(II)において環およびαおよび/またはω鎖の立体配置は、天然のPG類の立体配置と同じかまたは異なっていてもよい。しかしながら、本発明は、天然タイプの立体配置を有する化合物および非天然タイプの立体配置の化合物の混合物も含む。
【0059】
本発明において、13および14位の間にジヒドロを有し、15位にケト(=O)を有するPG化合物は、11位のヒドロキシと15位のケトの間にヘミアセタールが形成されることにより、ケト-ヘミアセタール平衡の状態にある場合がある。
【0060】
例えば、X1およびX2の両方がハロゲン原子、特にフッ素原子である場合は、その化合物は互変異性体として二環式化合物を含むことが確認されている。
【0061】
かかる上記の互変異性体が存在する場合、両互変異性体の比率は分子の残りの構造または存在する置換基の種類により変動する。場合により、一方の異性体が他方と比較して圧倒的に存在することもある。しかし、本発明は両方の異性体を含むと解されたい。
【0062】
さらに、本発明において用いられる15-ケト-PG化合物は、二環式化合物およびその類似体または誘導体を含む。
【0063】
二環式化合物は、式(III)によって表される:
【化6】

[式中、Aは、-CH3、または-CH2OH、-COCH2OH、-COOHまたはそれらの官能性誘導体であり;
X1'およびX2'は、水素、低級アルキル、またはハロゲンであり;
Yは、
【化7】

であり、
ここで、R4'およびR5'は、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはヒドロキシ(低級)アルキルであり、R4'およびR5'が同時にヒドロキシおよび低級アルコキシであることはなく、
R1は、非置換、またはハロゲン、アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基により置換された、二価の飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基であり、脂肪族炭化水素中の少なくとも1つの炭素原子は所望により酸素、窒素または硫黄により置換されており;
R2'は、非置換、またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基により置換された、飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基;低級アルコキシ;低級アルカノイルオキシ;シクロ(低級)アルキル;シクロ(低級)アルキルオキシ;アリール;アリールオキシ;複素環基;複素環オキシ基であり;
R3'は水素、低級アルキル、シクロ(低級)アルキル、アリールまたは複素環基である]。
【0064】
さらに、本発明において用いられる化合物は、異性体の存在の有無にかかわらずケト型に基づく式または名称により表し得るが、かかる構造または名称はヘミアセタール型の化合物を除外することを意図するものではないことに留意されたい。
【0065】
本発明においては、いずれかの異性体、例えば、個々の互変異性体、それらの混合物、または光学異性体、それらの混合物、ラセミ混合物、および他の立体異性体を、同じ目的に用いることが可能である。
【0066】
本発明において用いられるいくつかの化合物は、米国特許第5,073,569号、5,166,174号、5,221,763号、5,212,324号、5,739,161号および6,242,485号、7,253,295号明細書および米国特許出願公開第2006-0194880号明細書(これらの引用文献は参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている方法により調製し得る。
【0067】
本発明によると、哺乳類対象は、本発明によって、本発明において用いられる化合物を投与することにより処置され得る。対象はヒトを含むいずれかの哺乳類対象であり得る。本化合物は全身的にまたは局所的に適用し得る。通常、本化合物は、経口投与、鼻腔内投与、吸入による投与、静脈内注射(点滴を含む)、皮下注射、直腸内投与、膣内投与、経皮投与などにより投与し得る。
【0068】
投与量は、動物の系統、年齢、体重、処置すべき症状、望む治療効果、投与経路、処置期間等に応じて変化し得る。1日に0.00001-500mg/kg、より好ましくは0.0001-100mg/kg量を、1日に1-4回全身投与または連続投与することにより、十分な効果が得られうる。
【0069】
本化合物は、従来法により投与に適した医薬組成物として製剤化するのが好ましい。その組成物は、経口投与、鼻腔内投与、吸入による投与、注射または灌流に適したもの、ならびに外部薬、坐薬または腟坐薬であり得る。
【0070】
本発明の組成物は生理学的に許容し得る添加剤をさらに含んでもよい。そのような添加剤には本発明の化合物とともに用いる成分、例えば、賦形剤、希釈剤、増量剤、溶剤、潤滑剤、補助剤、結合剤、崩壊剤、被覆剤、カプセル化剤、軟膏基剤、坐薬用基剤、エアゾール剤、乳化剤、分散剤、懸濁剤、増粘剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、保存剤、抗酸化剤、矯味剤、芳香剤、着色剤、機能性物質(例えばシクロデキストリン、生体内分解高分子等)、安定剤等があり得る。これらの添加剤は当業者によく知られており、一般的な製剤学の参考書に記載されているものから選択すればよい。
【0071】
本発明の組成物における上記に規定の化合物の量は、組成物の処方に応じて変化させてよく、一般に0.000001-10.0%、より好ましくは0.00001-5.0%、最も好ましくは0.0001-1%であり得る。
【0072】
経口投与のための固体組成物の例には、錠剤、トローチ剤、舌下錠剤、カプセル剤、丸剤、粉末剤、顆粒剤等がある。固体組成物は1以上の活性成分と少なくとも1つの不活性希釈剤を混合して調製してもよい。その組成物に、不活性希釈剤以外の添加剤、例えば、潤滑剤、崩壊剤および安定剤をさらに含ませてもよい。錠剤および丸剤は、所望により、腸溶性または胃腸溶性フィルムによって被覆してもよい。それらは2以上の層によって被覆してもよい。それらは徐放性物質に吸収させても、またはマイクロカプセル化してもよい。さらに、本組成物は、ゼラチン等の易分解性物質を用いてカプセル化してもよい。それらは、脂肪酸またはそのモノ、ジもしくはトリグリセリド等の適切な溶媒にさらに溶解させて軟カプセルとしてもよい。即効性が必要な場合は舌下錠を用いてもよい。
【0073】
経口投与のための液体組成物の例には、乳剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤およびエリキシル剤等がある。そのような組成物は、慣用される不活性希釈剤、例えば精製水またはエチルアルコールをさらに含んでもよい。この組成物は、不活性希釈剤以外の添加剤、例えば湿潤剤や懸濁剤といった補助剤、甘味剤、香味剤、芳香剤および保存剤等を含んでもよい。
【0074】
本発明の組成物は、1以上の活性成分を含有する噴霧用組成物の形態であってもよく、これは既知の方法によって調製することができる。
【0075】
鼻腔内用製剤の例は、1以上の活性成分を含む水性もしくは油性溶液剤、懸濁剤または乳剤であり得る。活性成分の吸入による投与において、本発明の組成物は、エアロゾルとして提供可能な懸濁液、溶液または乳液の形態、または乾燥粉末の吸入に適する粉末形態であり得る。吸入による投与のための組成物は、慣用される噴射剤をさらに含み得る。
【0076】
非経口投与のための本発明の注射用組成物の例には、滅菌した水性もしくは非水性溶液剤、懸濁剤および乳剤等がある。水性溶液剤または懸濁剤のための希釈剤には、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水およびリンゲル液等があり得る。
【0077】
溶液剤および懸濁剤のための非水性希釈剤には、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(オリーブ油等)、アルコール(エタノール等)およびポリソルベート等があり得る。この組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤等の添加剤をさらに含んでもよい。それらは、例えば細菌保留フィルターを通して濾過することによって、滅菌剤を配合することによって、またはガスもしくは放射性同位体照射滅菌によって滅菌してもよい。注射用組成物は、滅菌粉末組成物として提供し、使用前に注射用の滅菌溶媒に溶解させることもできる。
【0078】
本発明の外部薬には、皮膚科学および耳鼻科学の分野において用いられるあらゆる外用製剤が含まれ、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤およびスプレー剤などがある。
【0079】
本発明の別の形態は坐剤または腟坐剤であり、これらは通常用いられる基剤、例えば体温で軟化するカカオバターに活性成分を混合することによって調製することができ、吸収性を向上させるために適切な軟化温度を有する非イオン性界面活性剤を用いてもよい。
【0080】
本明細書において用いる場合、「処置」または「処置する」なる用語は、いずれかの管理手段、例えば、症状の予防、治療、軽減、症状の減弱および進行の抑止を含む。
【0081】
本発明によると、プロスタグランジンン化合物は、ミトコンドリアを様々な損傷から保護し、それ故に、プロスタグランジンン化合物は、ミトコンドリアの機能障害/ミトコンドリア性疾患、およびミトコンドリア機能障害に関連する症状または疾患、特に老化の処置に有用である。
【0082】
本明細書および特許請求の範囲において、「ミトコンドリア機能障害に関連する症状または疾患」は、ミトコンドリア機能障害により直接または間接的に引き起こされるいずれかの症状または障害を含み、脳、神経、筋、心臓、眼、腎臓の疾患、呼吸器系疾患を含み得る。本発明の医薬組成物は、本発明の目的に反しないならば他の薬理成分をさらに含有してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】ヒト肺動脈平滑筋細胞(PASMC)のミトコンドリア膜電位のET-1誘導性の減少に対する化合物1の保護効果
【図2】ヒト肺動脈平滑筋細胞(PASMC)のミトコンドリア膜電位のエンドセリン-1(ET-1)誘導性の減少に対する化合物1による保護
【図3】ミトコンドリア膜電位のET-1誘導性の減少に対する化合物1の救出効果。
【図4】CSEおよび/または100 nM化合物Aの存在下において24時間インキュベートしたA549ミトコンドリアからのチトクロムcの転位。
【発明を実施するための形態】
【0084】
本発明のさらなる詳細を試験例を参照して以下に示すが、本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0085】
方法
ヒト肺動脈平滑筋細胞(PASMC)を10×22 mmカバーガラス上において成長ホルモンおよびウシ胎仔血清を捕捉したCloneticsの平滑筋基本培地中にて、コンフルエンスまで培養した。次いで、カバーガラス上の細胞を12 mMのミトコンドリア色素JC-1を捕捉したハンクス液(Hank's Balanced Salt Solution)(HBSS)3 ml中に入れ、37℃にて30分間インキュベートした。次いで、カバーガラス上の細胞をHBSS 3 mlにより洗浄し、分光蛍光光度計中のHBSS 3 mlの入ったキュベットにマウントした。490 nmにおける励起による発光スペクトルを、520 nm〜620 nmの範囲にわたって取得した(150秒)。ミトコンドリア膜電位の完全な脱分極を導く250nM(0.1%アセトン)FCCPを、各実験の終わりに加えた。スペクトルを570 nmにおける蛍光によって除することにより標準化した。FCCP処理後に得られた値に0 mVの値を割り当て、それぞれのポイントの比率から個々のFCCPによる比率を差し引いた。次いで対照(JC-1)の蛍光の比率に+224 mVの値を割り当て、これに従って各実験ポイントにおける膜電位[DmH(mV)]を算出した。
【0086】
実施例1−1
ヒト肺動脈平滑筋細胞のミトコンドリア膜電位のエンドセリン-1(ET-1)誘導性の減少に対する化合物1(11-デオキシ-13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-PGE1)の効果を調べた(図1)。
【0087】
細胞を0.1%DMSO(化合物1の媒体)、1nMエンドセリン-1(ET-1)または1nM ET-1、および100nM 化合物1により処理し、10、30および60分のインキュベーション後にスキャンを行った。最後にFCCPを加え、60分間インキュベートした後、スキャンを行った。すべての条件においてN=5枚のカバーガラスであった。
【0088】
結果
対照ミトコンドリア膜電位(JC-1)は224mVであった。細胞を1nM ET-1により10、30および60分間処理した場合、ミトコンドリア膜電位は、それぞれ54.5±4.3 mV、28.0±2.8 mVおよび13.1±1.0 mVに減少した。その変化はすべて高度に有意であった(対照およびDMSOに関してp<0.001)。化合物1は、試験したすべての回において膜電位のET-1誘導性の減少から保護する。細胞を1nM ET-1および100nM 化合物1により10、30および60分間処理した場合、ミトコンドリア膜電位は、それぞれ114.2±2.6 mV、104.02±5.0 mVおよび73.1±2.4 mVであった。これらは、ET-1単独による処理からの各値と比較して有意に保護されていた(p<0.001)。
【0089】
実施例1−2
ヒト肺動脈平滑筋細胞(PASMC)のミトコンドリア膜電位のET-1誘導性の不可逆的な減少に対する化合物1の効果を調べた(図2)。
【0090】
細胞を0.1%DMSOまたは1nM エンドセリン-1(ET-1)により処理し、30分のインキュベーション後、スキャンを行った。次いで、細胞を新たなHBSSにより洗浄して培地を除去し、30分後にスキャンを行った。最後にFCCPをシャーレに加え、60分間インキュベートした後、スキャンを行った。N=5枚のカバーガラスであった。別の組の5つのカバーガラスにおいて、1nMエンドセリン-1(ET-1)および100 nM 化合物1を加え、30分間インキュベートした後、スキャンを行った。次いで、細胞を新たなHBSSにより洗浄して培地を除去し、100nM 化合物1をその上に加えた。30分後にスキャンを行った。最後にFCCPを加え、60分間インキュベートした後、スキャンを行った。N=3枚のカバーガラスであった。
【0091】
結果
0.1%DMSOによる30分間の処理による作用は217.8±1.0 mVと小さかったが、DMSOを除去した後はさらに減少した(176±2.8 mV)。1nM ET-1による30分間の処理によって、ミトコンドリア膜電位が50.3±5.6 mVへと減少し、その後ET-1を除去してもこの状態は続いた(49.3±2.2 mV)。よって、ET-1は不可逆的なミトコンドリア膜電位の減少を引き起こす。100nM 化合物1とともに1nM ET-1により処理するとミトコンドリア膜電位は137.1±4.7 mVに減少し、その後ET-1を除去し、化合物1によって続けて処理すると、115.3± 2.3 mVとなった。ET-1による膜電位の減少からの化合物1による有意な保護が得られた。(図2)
【0092】
実施例1−3
ミトコンドリア膜電位のET-1誘導性の減少に対する化合物1の救出効果を調べた(図3)。
【0093】
細胞を1nM エンドセリン-1(ET-1)により処理し、30分間インキュベートした後、スキャンを行った。次いで、細胞を新たなHBSSにより洗浄して培地を除去し、100nM 化合物1を捕捉したHBSSを細胞に加えた。30分後にスキャンを行った。最後にFCCPを加え、60分間インキュベートした後、スキャンを行った。すべての条件においてN=5枚のカバーガラスであった。
【0094】
結果
図3に示すように、1nM ET-1により30分間処理するとミトコンドリア膜電位が50.3±5.6 mVに減少し、その後ET-1を除去して100nM 化合物1を加えると電位が有意に戻り(p<0.001)、77.2±2.7 mVへと上昇した。よって、化合物1は、化合物1がET-1による処理の期間を通して存在する場合に観察されるように、ミトコンドリア膜電位の減少から保護するだけでなく(図1および2)、ET-1により観察された減少を逆戻りさせることもできる。
【0095】
結果は、化合物1がミトコンドリアを保護することを示している。
【実施例2】
【0096】
方法
8本のタバコからの煙を無血清培養培地100mlにゆっくり泡として通し、得られた懸濁液を0.20μmフィルターを通して濾過した。その溶液を100%タバコ煙抽出物(CSE)と見なした。ヒト肺胞II型細胞(A549)を96ウェルプレートに、1ウェルにつき1.5×105細胞分播種し、48時間インキュベートした。次いで細胞を100nM 化合物A(13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-18(S)-メチル-PGE1)または1%、2.5%および5%CSEにより別個に処理した。別の組においては、100nM 化合物Aを1%、2.5%または5%CSEとともに加えた。インキュベーションはすべて37℃にて24時間行った。24時間処理した後、細胞を0〜4℃のPBSにより3回洗浄した。細胞損傷のマーカーであるサイトゾルに転位したチトクロムcの測定を、チトクロムc ELISAアッセイキットによって、キットにより提供される指示に従って行った。
【0097】
結果
結果を図4にまとめる。チトクロムcの転位を測定した。CSEにより、チトクロムcの転位が用量依存的に有意に増加した。0.1%DMSO(B)(化合物Aの媒体)も化合物A(C)も、サイトゾルのチトクロムc量に有意に影響しなかった。CSEのすべての用量において、100 nM 化合物A(E、G、I)は、CSEによるチトクロムc転位から保護した。データは平均±SEM pg/ウェルとして表し、n(各項目におけるウェル数)は各棒グラフの上に示す。データはpg/ウェルのチトクロムcとして示す。
【0098】
結果は、肺胞細胞のミトコンドリアに対する化合物Aの保護効果を実証している。
【0099】
本発明を詳細に、また具体的な実施態様を参照して説明したが、本発明の精神および範囲を逸脱せずに様々な改変および修飾を行うことが可能であることは当業者には明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)により表されるプロスタグランジンン化合物を含む、哺乳類対象においてミトコンドリアを損傷から保護するための医薬組成物:
【化1】

[式中、L、MおよびNは、水素原子、ヒドロキシ、ハロゲン原子、低級アルキル、ヒドロキシ(低級)アルキル、低級アルカノイルオキシまたはオキソであり、ここでLおよびMの少なくとも1つは水素以外の基であり、5員環は少なくとも1つの二重結合を有していてもよく;
Aは、-CH3、または-CH2OH、-COCH2OH、-COOHまたはそれらの官能性誘導体であり;
Bは、単結合、-CH2-CH2-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH2-CH2-CH2-、-CH=CH-CH2-、-CH2-CH=CH-、-C≡C-CH2-または-CH2-C≡C-であり;
Zは、
【化2】

または単結合であり、
ここでR4およびR5は、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはヒドロキシ(低級)アルキルであり、R4およびR5が同時にヒドロキシおよび低級アルコキシであることはなく;
R1は、非置換、またはハロゲン、アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基により置換された、二価の飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基であり、脂肪族炭化水素中の少なくとも1つの炭素原子は所望により酸素、窒素または硫黄により置換されており;そして
Raは、非置換、またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基により置換された、飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基;低級アルコキシ;低級アルカノイルオキシ;シクロ(低級)アルキル;シクロ(低級)アルキルオキシ;アリール;アリールオキシ;複素環基;複素環オキシ基である]。
【請求項2】
下記一般式(I)により表されるプロスタグランジンン化合物を含む、哺乳類対象においてミトコンドリア機能障害を処置するための医薬組成物:
【化3】

[式中、L、MおよびNは、水素原子、ヒドロキシ、ハロゲン原子、低級アルキル、ヒドロキシ(低級)アルキル、低級アルカノイルオキシまたはオキソであり、ここでLおよびMの少なくとも1つは水素以外の基であり、5員環は少なくとも1つの二重結合を有していてもよく;
Aは、-CH3、または-CH2OH、-COCH2OH、-COOHまたはそれらの官能性誘導体であり;
Bは、単結合、-CH2-CH2-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH2-CH2-CH2-、-CH=CH-CH2-、-CH2-CH=CH-、-C≡C-CH2-または-CH2-C≡C-であり;
Zは、
【化4】

または単結合であり、
ここでR4およびR5は、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはヒドロキシ(低級)アルキルであり、R4およびR5が同時にヒドロキシおよび低級アルコキシであることはなく;
R1は、非置換、またはハロゲン、アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基により置換された、二価の飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基であり、脂肪族炭化水素中の少なくとも1つの炭素原子は所望により酸素、窒素または硫黄により置換されており;そして
Raは、非置換、またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基により置換された、飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基;低級アルコキシ;低級アルカノイルオキシ;シクロ(低級)アルキル;シクロ(低級)アルキルオキシ;アリール;アリールオキシ;複素環基;複素環オキシ基である]。
【請求項3】
下記一般式(I)により表されるプロスタグランジンン化合物を含む、哺乳類対象においてミトコンドリア機能障害に関連する症状を処置するための医薬組成物:
【化5】

[式中、L、MおよびNは、水素原子、ヒドロキシ、ハロゲン原子、低級アルキル、ヒドロキシ(低級)アルキル、低級アルカノイルオキシまたはオキソであり、ここでLおよびMの少なくとも1つは水素以外の基であり、5員環は少なくとも1つの二重結合を有していてもよく;
Aは、-CH3、または-CH2OH、-COCH2OH、-COOHまたはそれらの官能性誘導体であり;
Bは、単結合、-CH2-CH2-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH2-CH2-CH2-、-CH=CH-CH2-、-CH2-CH=CH-、-C≡C-CH2-または-CH2-C≡C-であり;
Zは、
【化6】

または単結合であり、
ここでR4およびR5は、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはヒドロキシ(低級)アルキルであり、R4およびR5が同時にヒドロキシおよび低級アルコキシであることはなく;
R1は、非置換、またはハロゲン、アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基により置換された、二価の飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基であり、脂肪族炭化水素中の少なくとも1つの炭素原子は所望により酸素、窒素または硫黄により置換されており;そして
Raは、非置換、またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基により置換された、飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基;低級アルコキシ;低級アルカノイルオキシ;シクロ(低級)アルキル;シクロ(低級)アルキルオキシ;アリール;アリールオキシ;複素環基;複素環オキシ基である]。
【請求項4】
前記プロスタグランジンン化合物が、16-モノまたはジハロゲン-プロスタグランジンン化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記プロスタグランジンン化合物が、15-ケト-プロスタグランジンン化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記プロスタグランジンン化合物が、13,14-ジヒドロ-16-モノまたはジハロゲン-プロスタグランジンン化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記プロスタグランジンン化合物が、13,14-ジヒドロ-15-ケト-プロスタグランジンン化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記プロスタグランジンン化合物が、13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノまたはジハロゲン-プロスタグランジンン化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記プロスタグランジンン化合物が、13,14-ジヒドロ-16-モノまたはジフルオロ-プロスタグランジンン化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記プロスタグランジンン化合物が、15-ケト-16-モノまたはジフルオロ-プロスタグランジンン化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
前記プロスタグランジンン化合物が、13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノまたはジフルオロ-プロスタグランジンン化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
前記プロスタグランジンン化合物が、13,14-ジヒドロ-16-モノまたはジハロゲン-プロスタグランジンE化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
前記プロスタグランジンン化合物が、15-ケト-16-モノまたはジハロゲン-プロスタグランジンE化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
前記プロスタグランジンン化合物が、13,14-ジヒドロ-15-ケト-16-モノまたはジハロゲン-プロスタグランジンE化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
前記プロスタグランジンン化合物が、13,14-ジヒドロ-16,16-ジフルオロ-プロスタグランジンE1化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
前記プロスタグランジンン化合物が、13,14-ジヒドロ-15-ケト-プロスタグランジンE1化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
前記プロスタグランジンン化合物が、11-デオキシ-13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-プロスタグランジンE1化合物、または13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-18-メチル-プロスタグランジンE1化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
哺乳類対象においてミトコンドリアを損傷から保護するための医薬組成物の製造のための、請求項1および4〜17のいずれかに記載されている化合物の使用。
【請求項19】
哺乳類対象においてミトコンドリア機能障害を処置するための医薬組成物の製造のための、請求項2および4〜17のいずれかに記載されている化合物の使用。
【請求項20】
哺乳類対象においてミトコンドリア機能障害に関連する症状を処置するための医薬組成物の製造のための、請求項3および4〜17のいずれかに記載されている化合物の使用。
【請求項21】
哺乳類対象において損傷からミトコンドリアを保護するための方法であって、請求項1および4〜17のいずれかに記載されている化合物の有効量を必要とする対象に投与することを含む方法。
【請求項22】
哺乳類対象においてミトコンドリア機能障害を処置するための方法であって、請求項2および4〜17のいずれかに記載されている化合物の有効量を必要とする対象に投与することを含む方法。
【請求項23】
哺乳類対象においてミトコンドリア機能障害に関連する症状を処置するための方法であって、請求項3および4〜17のいずれかに記載されている化合物の有効量を必要とする対象に投与することを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−519177(P2010−519177A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536950(P2009−536950)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【国際出願番号】PCT/JP2008/053731
【国際公開番号】WO2008/108322
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(501131276)スキャンポ・アーゲー (37)
【氏名又は名称原語表記】Sucampo AG
【Fターム(参考)】