説明

ミミズ乾燥粉末の製造方法

【課題】簡便に、かつ、ミミズに含まれる酵素の活性の失活を抑えながら無害化されたミミズ乾燥粉末を製造する方法を提供する。
【解決手段】生ミミズを摩砕してなる摩砕物を凍結乾燥し、得られた乾燥物を110℃以上130℃未満の温度で加熱処理することを特徴とするミミズ乾燥粉末の製造方法である。前記生ミミズが、10〜50時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取り、次いで有機酸と接触させ、可及的速やかに水で希釈してpH2〜5に調整し、この条件下に3〜180分間保持した後、水洗したものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はミミズ乾燥粉末の製造方法に関し、詳しくは、ミミズに含まれる酵素の活性の失活を抑えながら、無害化されたミミズ乾燥粉末を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミミズは、古来より主として東洋諸国において、各種疾病の予防剤、治療剤として用いられており、これまでに膀胱内結石縮小剤及び排出促進剤、黄疸治療剤、分娩促進剤、強壮剤、育毛剤、強精剤、解熱剤、ひきつけ治療剤、血行促進剤、半身不随治療剤、間接鎮痛剤、排尿剤、気管支喘息剤、高血圧症治療剤としての用途が知られている。
【0003】
ミミズ生体を原料として経口投与のための薬剤を調製するには、ミミズの消化管内に残留する消化物、体皮に付着する汚物等を除去する必要があり、これまでに、そのための多くの方法が提案されている。
【0004】
例えば、ミミズ生体をナトリウム塩又はカリウム塩のようなアルカリ塩の水溶液中に浸せきして、消化管内の黄土を排泄させたのち、湿式粉砕し、得られた懸濁液を真空凍結乾燥して糖尿病治療剤、抗高脂血症剤又は血圧調節剤として有用なミミズ乾燥粉末を製造する方法(特許文献1〜4参照)、ミミズ生体を 6〜26℃に維持した酸水溶液中に0.1〜5時間放置して消化管内の糞土を除去したのち摩砕し、この摩砕物を脱ガス後、段階的に昇温させながら真空乾燥して血栓症患者治療薬を製造する方法(特許文献5参照)などがこれまでに提案されている。
【0005】
また、本発明者らによっても、ミミズを有機酸により形成させた不快生息条件の環境下におくことによって、ミミズに消化管内の内容物を排出させる方法が提案されている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−47718号公報
【特許文献2】特開平1−47719号公報
【特許文献3】特開平1−47720号公報
【特許文献4】特開平1−268639号公報
【特許文献5】特開平3−72427号公報
【特許文献6】特開2008−081476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、既存の製造方法で製造されていたミミズ粉末は、真空凍結などによる乾燥工程によってはミミズに含まれる菌の殺菌が不十分なことがあるという問題があった。これに対してアルコール殺菌などを行うことにより対処が図られているが、手間と時間、コスト面での問題があり、解決が望まれていた。
【0008】
そこで本発明の目的は、簡便に、かつ、ミミズに含まれる酵素の活性の失活を抑えながら無害化されたミミズ乾燥粉末を製造する方法を提供することにある。
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、凍結乾燥後のミミズ粉末を特定の温度で加熱することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
一部の耐熱性菌のものを除き、一般に酵素は熱に弱いというのが常識であり、80度くらいまでの加熱は行われていたものの、それ以上の温度での加熱は検討されてこなかった。しかし本発明者らは、ミミズ粉末の殺菌方法の検討の中で、熱処理が安全かつ簡便な方法であることに着目し、最適な加熱温度を模索した。その結果、ミミズ粉末をそれまでの方法よりも大幅に高い温度に加熱してもミミズ粉末に含まれる酵素の活性が保たれることを見出した。
【0011】
すなわち本発明のミミズ乾燥粉末の製造方法は、生ミミズを摩砕してなる摩砕物を凍結乾燥し、得られた乾燥物を110℃以上130℃未満の温度で加熱処理することを特徴とするものである。
【0012】
本発明のミミズ乾燥粉末の製造方法において、前記生ミミズとして、10〜50時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取り、次いで有機酸と接触させ、可及的速やかに水で希釈してpH2〜5に調整し、この条件下に3〜180分間保持した後、水洗した生ミミズを好適に使用することができる。
【0013】
また、本発明のミミズ乾燥粉末の製造方法において、前記生ミミズとして、10〜50時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取り、次いでpH2〜5に調整した有機酸中に浸漬し、この条件下に3〜180分間保持した後、水洗した生ミミズも好適に使用することができる。
【0014】
さらに、本発明のミミズ乾燥粉末の製造方法において、前記生ミミズとして、10〜50時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取り、次いで結晶状ヒドロキシカルボン酸粉末を振りかけたのち、ただちに水を加えてヒドロキシカルボン酸を希釈してpH2〜5に調整し、この条件下に3〜180分間保持したのち、水洗した生ミミズを好適に使用することができる。
【0015】
また、本発明のミミズ乾燥粉末の製造方法は、前記水洗が、マイクロナノバブルを含有した水で行われることが好ましい。
【0016】
さらにまた、本発明のミミズ乾燥粉末の製造方法は、前記凍結乾燥が、−18℃〜−35℃で20〜240時間凍結させた後、真空下で行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡便に、かつ、ミミズに含まれる酵素の活性の失活を抑えながら無害化されたミミズ乾燥粉末を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は実施例1、2および比較例1の結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のミミズ乾燥粉末の製造方法について詳細に説明する。
【0020】
本発明方法においては、原料として生ミミズが用いられるが、この生ミミズとしては、例えばアカミミズ(Lumbricus rubellus)、LTミミズ(Lumbricus terrestris)、シマミミズ(Eisenia foetida)、カッショクツリミミズ(Allolobophora caliginosa)、ムラサキツリミミズ(Dendrobaena octaedra)、サクラミミズ(Allolobophora japonica Michaelsen)、ハッタミミズ(Drawida hattamimizu Hatai)、セグロミミズ(Pheretima divergens Michaelsen)、フツウミミズ(Pheretima communissima)、ハタケミミズ(Pheretima agrestis)、シーボルトミミズ(Pheretima sieboldi Horst)、ヒトツモンミミズ(Pheretima hilgendorfi)、イソミミズ(Pontodrilus matsushimensis Iizuka)、イトミミズ(Tubifex hattai Nomura)、ゴトウイトミミズ(ユリミミズ)[Limnodrilus gotoi Hatai=L.SocialisStephenson]などを用いることができる。
【0021】
本発明方法において使用する生ミミズは、摩砕前の下準備として、特に制限はないが、好ましい下準備の例として下記を挙げることができる。まず、養殖床より取り出した生ミミズを、パン箱のような平箱に移し、10〜50時間、好ましくは一昼夜放置する。この際の収容量としては、30〜60mm、好ましくは40〜50mmの厚さになる程度の量とする。この平箱内には、砂、泥のような異物が存在しないようにし、またミミズは夜行性で暗所では生活活動が活発となり、体力を消耗するおそれがあるため、夜間は電照培養方式などにより明るく保つことが必要である。この処置により生ミミズは、自己防御本能を発揮し、消化管内に残留する消化物を排泄し、この排泄物で全身を覆い、水分が蒸発するのを防いで、生活環境を維持しようとするので、この覆っている汚物すなわち排泄物を適当な手段で剥ぎ取ることを繰り返せば、最終的に消化管内の消化物及び体皮に付着した汚物をほぼ完全に除去することができる。この体皮に付着した汚物の剥ぎ取りは、例えば不織布で生ミミズを被覆し、汚物をそれに吸着させて行うことができる。
【0022】
次に、このようにして汚物を除去した生ミミズに対して、一気に生ミミズの不快生活環境を形成させるのが好ましい。このような処置を施すと生ミミズは自己保存本能により体液を放出して生活環境を改善しようとする為、消化管内に残留する消化物のみならず、悪臭の原因となるアンモニアや人体に対して有毒なヒ素を含有する体液を排泄させることが可能になる。
【0023】
上記不快生活環境を形成させる方法としては、例えば、生ミミズを有機酸と接触させることが挙げられる。有機酸を接触させることにより、一気に生ミミズの不快生活環境を形成させることができる。この有機酸の接触は、生ミミズの上に有機酸粉末をそのまま振りかけてもよいし、濃厚有機酸水溶液として振りかけてもよい。この際用いる有機酸としては、例えば酢酸、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸などがある。これらは単独で用いてもよいし、また2種以上混合して用いてもよい。特に好ましい有機酸はクエン酸である。このように不快生活環境を形成させる場合、生ミミズを長時間有機酸粉末や濃厚有機酸水溶液と接触させておくと死滅し、生活機能を消失し、消化管内の消化物を排泄しなくなるので、可及的速やかに、通常は30秒以内、好ましくは20秒以内に有機酸を水で希釈し、pHを2〜5の範囲に調整する必要がある。この有機酸を希釈する水として、下記するようなマイクロナノバブルを含有する水を使用すると、ミミズによる体液の排出が増加するので好ましい。また、このような有機酸粉末や濃厚有機酸水溶液に接触したのち、可及的速やかに希釈する代りに、あらかじめpH2〜5に調整した有機酸水溶液を調整し、この中に浸漬して行ってもよく、有機酸水溶液にマイクロナノバブルを含有させたものを用いてもよい。生ミミズの組織の65%は水分であるので、この保身機能が働く時間としては、ある程度余裕はあるが、生ミミズが死滅してしまっては、元も子もなくなるので、不快生活環境下に置く時間の制御は慎重に行う必要がある。この時間は、条件により左右されるが、通常は3〜180分の範囲が好ましい。なお、pHの調整は水での希釈の他、アルカリでの中和、バッファーを用いて行うことも可能である。このように有機酸を用いることで、有機酸が有する殺菌性のため、上記のように消化器内に残留する消化物を排泄する役割を果すとともに、水洗により除去できなかった雑菌を殺菌することができるという効果を得ることもできる。
【0024】
また、上記不快生活環境を形成させる方法として、生ミミズをヒドロキシカルボン酸と接触させることも挙げられる。この方法の場合、ヒドロキシカルボン酸との接触はいずれの方法でも行うことができるが、好ましくは、結晶状ヒドロキシカルボン酸粉末を振りかけたのち、ただちに水を加えてヒドロキシカルボン酸を希釈してpH2〜5に調整し、この条件下に3〜180分間保持する。生ミミズを長時間ヒドロキシカルボン酸粉末と接触させておくと死滅し、生活機能を消失し、消化管内の消化物を排泄しなくなるので、可及的速やかに、通常は30秒以内、好ましくは20秒以内にヒドロキシカルボン酸を水で希釈し、pHを2〜5の範囲に調整する必要がある。なお、pHの調整は水での希釈の他、アルカリでの中和、バッファーを用いて行うことも可能である。また、この水として、下記するようなマイクロナノバブルを含有する水を使用すると、ミミズによる体液の排出が増加するので好ましい。このようにヒドロキシカルボン酸を用いると、このヒドロキシカルボン酸は強酸で表皮を破壊したり、殺菌作用を有するので、一気に生ミミズの不快生活環境を形成させることにより、生ミミズは、自己保存本能により体液を放出して生活環境を改善しようとする。また、この接触処理により、ミミズ生体内に含まれる病原性微生物を減少させることができる。ヒドロキシカルボン酸は重金属との間で錯化合物を形成する能力を有するため、ミミズ生体内の水銀、カドミウム、鉛などの有毒系金属と結合し、これらを体外に排出させることができるという利点もある。この場合用いられる結晶状ヒドロキシカルボン酸は、使用条件下で結晶状体を示すものであれば、そのヒドロキシ基数又はカルボキシル基数には関係ない。すなわち、モノヒドロキシモノカルボン酸、モノヒドロキシポリカルボン酸、ポリヒドロキシモノカルボン酸、ポリヒドロキシポリカルボン酸のいずれでもよい。このようなヒドロキシカルボン酸としては、例えばグリコール酸、乳酸、β‐ヒドロキシプロピオン酸、α‐ヒドロキシ‐n‐酪酸、β‐ヒドロキシ‐n‐酪酸、α‐ヒドロキシ‐n‐吉草酸、β‐ヒドロキシ‐n‐吉草酸、リンゴ酸、α‐メチルリンゴ酸、α‐ヒドロキシグルタル酸、β‐ヒドロキシグルタル酸、クエン酸などがあるが、入手が容易である点で乳酸、リンゴ酸、クエン酸が好ましい。これらのヒドロキシカルボン酸は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
上記のようにして汚物を実質上完全に除去したミミズ生体は、純水で洗浄したのち、摩砕して液状ないしペースト状の摩砕物にする。この摩砕は、例えばホモジナイザー、ブレンダー、ホモミキサー、擂潰機、加圧型細胞破壊装置を用い、通常1〜25℃、好ましくは2〜15℃の温度で行われる。次いで、この摩砕物は、凍結乾燥に供せられる。この際、ミミズ生体に含まれる酵素は、生細胞には作用しないが死細胞に対しては瞬時に作用して発熱し、腐敗して強力な腐敗性ガスを発生するので、これを防止するために瞬間的に−18℃ないし−35℃に急冷して酵素の作用を抑制したのち、凍結させる凍結真空乾燥を用いることが好ましい。
【0026】
上記のように、ミミズ本来の薬理作用をそこなわずに粉末化するには、迅速に凍結する必要があるが、一方においてあまり短時間で凍結させるとミミズペーストの主成分であるタンパク質とともに存在する不純物がスポット状の不凍結部分を形成し、分離されないことになるので、過度に急速な凍結は好ましくない。したがって、凍結は好ましくは、−18℃から−35℃の低温で20〜240時間、さらに好ましくは50〜170時間を要して行う。
【0027】
次に凍結真空乾燥に際しては、水分とともに不純分が残留することなく除去し得る条件を選ぶことが好ましい。そのためには、圧力50Pa以下、−60℃ないし+90℃の温度において、温度を段階的に上げながら10〜60時間の範囲で制御して行うのが好ましい。
【0028】
例えば、前記したように摩砕物を−18℃ないし−35℃の温度で20〜240時間を要して凍結したのち、−60℃〜+90℃の温度において、数段階に分け昇温し、圧力25〜40Paにおいて、数段階に分け減圧しながら、10〜60時間凍結真空乾燥させることで無菌状態の淡黄色ミミズ乾燥粉末を得ることができる。
【0029】
本発明において使用する生ミミズは、例えば上記のような処理を施した後、摩砕する前に、水洗するのが好ましいが、この場合の水として、マイクロナノバブルを含有した水を好適に使用することができる。このような水を使用することにより、洗浄効率が上がるという利点がある。ここでマイクロナノバブルとは、直径が0.01〜100μmの気泡のことをいい、気泡は空気であっても酸素であってもよい。マイクロナノバブルを含有した水は、例えば、マイクロバブルを圧壊させて生成する方法や、SPG(シラスポーラスガラス)膜を用いて生成する方法により製造することができる。マイクロバブルを含有した水を製造することのできる装置として例えばSPGテクノ株式会社製のスリット式バブリング装置を組み込んだ微細気泡発生ガス溶解システムが挙げられる。
【0030】
本発明のミミズ乾燥粉末の製造方法は、生ミミズを洗浄処理し摩砕後、乾燥して得られたミミズ乾燥物を110℃以上130℃未満の温度、好ましくは115〜125℃で加熱処理することを特徴とするものである。加熱温度が110℃未満であると、乾燥物の殺菌が不十分なことがあり、130℃以上であるとミミズ乾燥物に含まれる酵素が失活してしまい活性が下がるので好ましくない。加熱方法は特に限定されず、熱風をかける方法、加熱ジャケットを用いる方法、トレイ等に載せてヒーターで加熱する方法、定温恒温器を使用する方法などが挙げられる。
加熱時間は好ましくは、30秒〜130分、より好ましくは、30分〜90分さらに好ましくは60分〜90分である。加熱時間があまり短いと殺菌が不十分な場合があり、あまり長いと酵素の活性が失われるため好ましくない。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
(ミミズ乾燥物の調製)
10〜50時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取った生のアカミミズ30kgを平皿に約5cmの厚さに拡げ、この上にクエン酸250gを均一に振りかけたのち、15秒で純水30リットルを加えて希釈した。この際の水を加えた直後のpHは2.25であり、完全に希釈したときのpHは2.74であった。この水による希釈は迅速に行う必要があり、時間が長くかかるとミミズは死滅する。
クエン酸粉末を振りかけると、急激な環境変化により、一気に黄色い体液を放出し、悪臭の原因となるアンモニアや人体に対する有害な重金属、ヒ素や線溶活性抑制物質を除去する。
次いで、汚れたクエン酸水溶液から生ミミズを取り出し、水洗したのち、ホモジナイザーを用いて10℃において摩砕し、ミミズペーストを調製する。次に、この摩砕物を吸引脱気して、その中に含まれているガスを除いたのち、ステンレス鋼製トレーに移し、瞬間的に−35℃まで急冷し、この温度に50時間維持して徐々に凍結する。
このようにして凍結したミミズペーストを−35℃で圧力0Paで2時間保ったのち、温度25℃まで昇温し、40Paで10時間、次いで40℃、圧力35Paで14時間、次いで65℃、圧力35Paで12時間乾燥し、最後に温度を80℃とし、圧力25Paにおいて6時間保つことにより真空凍結乾燥を完了した。この処理により含水量8質量%の淡黄色ミミズ乾燥粉末を得た。
【0033】
(乾燥物の加熱処理)
上記で得られた乾燥粉末を、RM―50D型加熱装置(株式会社 大河原製作所製)を用いて加熱処理を行った。加熱条件は下記のように、110℃、120℃または130℃であり、所定の温度に達した後は、15分経過ごとに乾燥粉末の一部を取り出した。取り出した乾燥粉末について、フィブリン平板法による試験を行って、乾燥粉末の残存酵素活性を評価した。まず、乾燥粉末1gに生理食塩水20mlを加えて室温150rpmで1時間振盪し、10000rpm、4℃で15分遠心分離を行って、上清を試料とした。フィブリン平板法は、フィブリノーゲン(シグマ社製)を10mlBSB(ホウ素−生食緩衝液、pH7.8)に終濃度0.6%で溶解し、トロンビンを5.0U/mlの濃度で混ぜフィブリン平板を作製し、上記試料を30μlフィブリン平板に載せ、37℃、4時間インキュベーションした後に生じるフィブリン溶解窓の面積を測定して行った。得られた結果を下記表1に示す。なお、フィブリン平板法による試験は3回行い、平均面積を求めた。また、得られた結果を表したグラフを図1に示す。
【0034】
(加熱条件)
(実施例1)
ラン番号 温度 加熱累積時間 所定温度でのホールド累積時間
110-60-0 110℃ 60分 0分
110-75-15 110℃ 75分 15分
110-90-30 110℃ 90分 30分
110-105-45 110℃ 105分 45分
110-120-60 110℃ 120分 60分
110-135-75 110℃ 135分 75分
110-150-90 110℃ 150分 90分
(実施例2)
ラン番号 温度 加熱累積時間 所定温度でのホールド累積時間
120-40-0 120℃ 40分 0分
120-55-15 120℃ 55分 15分
120-70-30 120℃ 70分 30分
120-85-45 120℃ 85分 45分
120-100-60 120℃ 100分 60分
120-115-75 120℃ 115分 75分
120-130-90 120℃ 130分 90分
(比較例1)
ラン番号 温度 加熱累積時間 所定温度でのホールド累積時間
130-40-0 130℃ 40分 0分
130-55-15 130℃ 55分 15分
130-70-30 130℃ 70分 30分
130-85-45 130℃ 85分 45分
130-100-60 130℃ 100分 60分
130-115-75 130℃ 115分 75分
130-130-90 130℃ 130分 90分
【0035】
【表1】

【0036】
上記表1および図1のグラフから明らかなように、110℃(実施例1)および120℃(実施例2)の加熱では、ミミズ乾燥粉末中に含まれる酵素の活性はある程度は失われるものの十分残存している。それに対して、130℃に達する前のもの(130-40-0)と、130℃に達し、130℃で保ったもの(130-55-15以降)との比較から明らかなように、ミミズ乾燥粉末中に含まれる酵素の活性は130℃での加熱により急激に失活することが分かる。
【0037】
(菌数の測定)
上記の通り、120℃で加熱処理をした乾燥粉末(実施例2−1〜2−5)、および、80℃(比較例1)、90℃(比較例2)、100℃(比較例3)で60分間加熱処理をした乾燥粉末について、それぞれの乾燥粉末1gを水20mlに溶かして試験液とし、標準寒天平板培養法で一般生菌数を、合成酵素基質培地法で大腸菌群数を、食品衛生検査指針に記載の方法(加熱条件:煮沸、10分間)で耐熱性菌数を測定した。得られた結果を下記表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
上記表2の比較例2−1〜2−3の結果から明らかなように、80℃、90℃、100℃の加熱処理では、大腸菌の殺菌はできたものの、一般生菌、耐熱性菌は多く残存していた。それに対して、実施例2−1〜2−5の結果から明らかなように、120℃での加熱処理を施すことで、一般生菌、大腸菌、耐熱性菌数についてすべて1000CFU/g以下になっており、十分な殺菌が行われたことが分かる。
【0040】
上記実施例の結果から明らかなように、本発明の製造方法により製造したミミズ乾燥粉末は、従来方法により製造したミミズ乾燥粉末と同様の酵素活性を有し、かつ、十分な殺菌が行われたことが分かる。従って、本発明の製造方法により製造したミミズ乾燥粉末は、従来方法により製造したミミズ乾燥粉末と同様、血圧調節剤、抗高脂血症剤、糖尿病治療剤、血栓溶解剤などとして有用である。また、この粉末を純水、アルコールなどにより抽出処理を行った溶液を遠心分離し、分子量別に分画する事により、医薬品、化粧品、サプリメントの有効成分として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生ミミズを摩砕してなる摩砕物を凍結乾燥し、得られた乾燥物を110℃以上130℃未満の温度で加熱処理することを特徴とするミミズ乾燥粉末の製造方法。
【請求項2】
前記生ミミズが、10〜50時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取り、次いで有機酸と接触させ、可及的速やかに水で希釈してpH2〜5に調整し、この条件下に3〜180分間保持した後、水洗したものである請求項1記載のミミズ乾燥粉末の製造方法。
【請求項3】
前記生ミミズが、10〜50時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取り、次いでpH2〜5に調整した有機酸中に浸漬し、この条件下に3〜180分間保持した後、水洗したものである請求項1記載のミミズ乾燥粉末の製造方法。
【請求項4】
前記生ミミズが、10〜50時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取り、次いで結晶状ヒドロキシカルボン酸粉末を振りかけたのち、ただちに水を加えてヒドロキシカルボン酸を希釈してpH2〜5に調整し、この条件下に3〜180分間保持したのち、水洗したものである請求項1記載のミミズ乾燥粉末の製造方法。
【請求項5】
前記水洗が、マイクロナノバブルを含有した水で行われる請求項2〜4のうちいずれか一項記載のミミズ乾燥粉末の製造方法。
【請求項6】
前記凍結乾燥が、−18℃〜−35℃で20〜240時間凍結させた後、真空下で行われる請求項1〜5のうちいずれか一項記載のミミズ乾燥粉末の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−84483(P2011−84483A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236514(P2009−236514)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(506329948)Well Stone 有限会社 (4)
【Fターム(参考)】