説明

ムタンスクラーゼを発現し修飾デンプンを合成する形質転換植物

本発明は、遺伝的に修飾された植物細胞および植物に関し、その遺伝的修飾はそのような植物細胞および植物のプラスチド中で、ムタンスクラーゼ活性を有する酵素の発現をもたらす。さらに、本発明はそのような植物細胞および植物の作製のための手段および方法に関する。この型の植物細胞および植物は修飾デンプンを合成する。したがって、本発明はまた、本発明による植物細胞および植物によって合成されるデンプンならびにデンプンの製造のための方法、およびこの修飾デンプンのデンプン誘導体の製造に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝的に修飾された植物細胞および植物に関し、その遺伝的修飾は、そのような植物細胞および植物のプラスチド中で、ムタンスクラーゼ活性を有する酵素の発現をもたらす。さらに、本発明は、そのような植物細胞および植物の作製のための手段および方法に関する。この型の植物細胞および植物は修飾デンプンを合成する。したがって本発明はまた、本発明による植物細胞および植物によって合成されるデンプン、ならびにデンプンの製造およびこの修飾デンプンのデンプン誘導体の製造のための方法に関する。
【0002】
最近、原料の再生資源として植物性物質をみなしている増大する重要性に関連して、生物工学的研究の目的の1つは、植物性原料を加工産業の要求に適合させることである。できるだけ多くの領域において再生原料の使用を可能にするために、非常に多様な物質を得ることが更に重要である。油、脂肪、およびタンパク質は別にして、多糖類が植物由来の不可欠な再生原料を構成する。セルロースは別にして、デンプンが、多糖類の中で重要な位置を占め、高等植物における最も重要な貯蔵物質の1つである。
【0003】
デンプンは、緑葉の葉緑体(一時デンプン)、および塊茎、根、および種子のアミロプラスト(貯蔵デンプン)に、顆粒として堆積する(Kossmann and Lloyd, 2000)。
【0004】
多糖類デンプンは、化学的に均一な基本成分(即ちグルコース分子)からなるポリマーである。しかし、それは、グルコース鎖の重合度および分枝度において互いに異なる様々な型の分子からなる非常に複雑な混合物を構成する。したがって、デンプンは均質な原料ではない。詳細には、α−1,4−グリコシド結合したグルコース分子からなる基本的に非分枝のポリマーであるアミロース・デンプン、およびそれに換わって、様々な分枝したグルコース鎖の複雑な混合物であるアミロペクチン・デンプンに分けられる。分枝は、追加のα−1,6−グリコシド相互結合によって生ずる。
【0005】
植物の貯蔵器官では、デンプン生合成がアミロプラスト内で生じ、これは合成(グルコシル残基の重合)、転位、および分解などの種々の反応の結果であり、その中で、様々なデンプン合成酵素(E.C.2.4.1.21)、トランスフェラーゼ(分枝酵素(E.C.2.4.1.18)および不均化酵素(E.C.2.4.1.25))および加水分解酵素(脱分枝酵素(E.C.3.2.1.41))が、それぞれ鍵となる役割を果たす。
【0006】
デンプンをできるだけ広く使用できるようにするために、特に様々な使用に適する修飾デンプンを合成することができる植物を提供することが望ましいようだ。育種法は別にして、そのような植物を提供する1つの可能性は、組換えDNA技術によるデンプン生産植物のデンプン代謝の特異的な遺伝的修飾である。
【0007】
長年にわたって、アミロプラストをより用途が広い多糖類工場に変換することを目指して、いくつかの研究が行なわれてきた。この目的のために、いくつかの微生物酵素にプラスチドを標的とする輸送体を結合させて、デンプンの構造および機能に対するそれらの影響が研究されてきた。
【0008】
あるバクテリアは、マルトデキストリンへ、1,6−結合または1,3−結合したグルコシル残基を(隣接して)結合させることができる一連の酵素(いわゆるグルカンスクラーゼ)を有する。わずかの例外を除いて、グルカンスクラーゼは細胞外酵素であり、Leuconostoc mesenteroides菌株などの乳酸菌、口内Streptococcus属、ならびにLactobacillusおよびLactococcusのある菌種によって生成される(Robyt 1995; van Geel-Schutten et al. 1999)。さらに、それらを、Neisseria菌株のいくつかなどの他のバクテリアが産生する(Hehre et al. 1949)。これらの菌株は、自然の種々のプロセスに関係している。菌株のいくつかは、ヒトおよび動物の口腔で繁殖し、虫歯の形成を誘起することができる。共生的なNeisseria菌種などの他の菌株は、咽喉に侵入することができる。あるLactobacillus菌種は、発酵乳の粘性を増加させる(de Vuyst and Degeest 1999)。
【0009】
グルカンスクラーゼは、スクロースからのグルコース残基の重合を触媒し、それが種々の大きさおよび構造を有し、また種々の結合型から構成されるα−グルカンの極めて多様な産生をもたらす。
【0010】
グルカンスクラーゼによるグルカン鎖の伸長は、デンプン合成酵素による伸長と比較して、全く異なる。第1に、好ましい基質はADPグルコースではなくスクロースである。第2に、グルコース残基が、いわゆる2部位挿入メカニズムにより、成長しているグルカン鎖の還元性終端へ付加される(Robyt 1995)。
【0011】
さらにグルカンの分枝は、デンプン生合成におけるような分枝酵素によってではなく、グルカンスクラーゼ自体によって触媒されるいわゆるアクセプター反応によって起こる(Robyt, 1995)。グルカンスクラーゼは、新生グルカン鎖またはマルトデキストリンなどのアクセプター分子を結合することができるアクセプター結合部位を含むと考えられる(Su and Robyt, 1994)。それにもかかわらず、アクセプター反応の基礎となる構造−機能関係は理解されておらず、また報告が少ないので、特にデンプンポリマーまたはマルトデキストリンとのアクセプター反応を触媒する効率は、予測不能である。しかし、相対的なアクセプター効率はアクセプター分子の大きさに依存するようであり(Fu et al. 1990)、またアミロペクチンおよびアミロースがグルカンスクラーゼのアクセプター分子であるか否かは確かでない。
【0012】
グルカンスクラーゼを、形成されたグルカンの構造、特に合成されたグルコシド結合の性質および頻度によって分類することができる。
【0013】
GTFI(EC 2.4.1.5)ムタンスクラーゼ酵素(Ferretti et al., 1987)(それは口内の齲蝕原性Streptococcus downei MFe28バクテリアによって生成される)の発現が、スクロース存在下でムタンと呼ばれるグルカンポリマーの蓄積をもたらす。ムタンポリマーは、主としてα−(1→3)グルコシド結合から構成され、α−(1→6)分枝点がほとんど無い。主鎖中のα−(1→3)−結合したグルコース残基の高い割合(88%)により、ムタンポリマーは非水溶性であり、一方側鎖中のα−(1→6)−結合したグルコース残基(12%)は、ムタンポリマーの接着性に寄与する。
【0014】
ムタンポリマーは、歯垢中に存在する炭水化物の約70%にあたり(Loesche, 1986)、様々なバクテリア病原体の活動をもたらす。簡単に述べれば、初期繁殖種と呼ばれる種々の口腔細菌が、唾液でコートされたエナメル質表面に繁殖し、接着因子タンパク質によって、歯の表面に存在するレセプターに接着する。次に、これらのバクテリアは、ムタン、デキストランおよびレバンなどの、種々の程度の水溶性を示す様々な多糖類を分泌する(Sutherland, 2001)。これらのポリマーは、初期繁殖種と共に、バイオフィルムを形成する後期繁殖種の凝集を促進し、それは通常歯垢と呼ばれる(Marsh, 2003)。形成されるポリマーのうちで、ムタンが最高の粘着性および非水溶性ポリマーである。
【0015】
ヒトの虫歯における重要性により、GTFIの構造−機能関係を解明するために、遺伝子工学に基づく種々の研究が行なわれてきた。興味深いことには、GTFIの触媒ドメインのみの発現により、約70%の活性を有するGTFI酵素がもたらされた(Monchois et al., 1999b)。
【0016】
Streptococcus downei Mfe28バクテリアからの遺伝子gtfIの核酸配列が、Ferreti et al, 1987, J. of Bacteriology, p 4271-4278に報告された。
【0017】
Escherichia coliのグリコーゲン合成酵素(GLGA)およびグリコ−ゲン分枝酵素(GLGB)の標的を、ジャガイモアミロプラストと定めることにより、デンプンポリマーの修飾が達成された(Shewmaker et al. 1994; Kortstee et al. 1996)。両方の場合で、糖鎖の伸長と分枝の自然のバランスが乱され、改変された物理的性質およびより多く分枝したポリマーを有するデンプン粒が得られた。
【0018】
新しいグリコシル残基をデンプンポリマーに結合させることもまた、目的であった。この目的のために、Bacillus subtilisレバンスクラーゼ(E.C 2.4.1.10)がジャガイモ塊茎アミロプラストに導入された(Gerrits et al. 2001)。レバンスクラーゼは、ドナー基質であるスクロースのフルクトース部分を、高分子量フラクタンへ重合させることができる。しかし、デンプンの収率が極端に損なわれ、デンプンの形態が劇的に改変された。
【0019】
植物中のデンプンを、高価値の環状オリゴ糖に変換することもまた試みられた。それらは無極性の空洞中に疎水性物質を収容することができ、様々な食用および製薬用の用途に用いることができる。シクロデキストリンの生産のために、Klebsiella pneumoniaeから得られたシクロデキストリングリコシルトランスフェラーゼ(CGTase;E.C.2.4.1.19)がジャガイモアミロプラストへ導入された(Oakes et al. 1991)。内在性デンプンのただ0.01%だけが、希望の生成物に変換され、またこの生成物を植物材料から回収するのは困難であった。
【0020】
これらの例は、細菌酵素はデンプン修飾用の潜在的に強力な手段になり得るが、植物中でのそれらのパフォーマンスは前もって予測できないことを示す(Kok-Jacob A. et al, 2003)。
【0021】
したがって本発明の目的は、修飾デンプン、そのような修飾デンプンを合成する新しい植物細胞および/または植物、ならびに前記植物を生成する方法を提供することに基づく。
【0022】
したがって本発明は、プラスチド中でムタンスクラーゼタンパク質の酵素活性を示すことを特徴とする、遺伝的に修飾された植物細胞または遺伝的に修飾された植物に関し、前記遺伝的修飾植物細胞または遺伝的修飾植物は、対応する非遺伝的修飾野生型植物細胞または野性型植物によって合成されるデンプンとそれぞれ比較して、修飾デンプンを合成する。
【0023】
用語「遺伝的修飾」または「形質転換された」とは、そのゲノム中に安定して組み入れられた少なくとも1つの導入遺伝子を有する植物細胞または植物を指す。好ましくは、導入遺伝子は、形質転換された植物細胞または形質転換された植物とは別の生物体起源の少なくとも1つの要素(異種導入遺伝子)を含むキメラの核酸配列を含む。詳細には、導入遺伝子は、少なくとも1つのプロモーター、コード配列、および任意で終止シグナルを含む、組換え導入遺伝子である。より好ましくは組換え導入遺伝子のコード配列は、ムタンスクラーゼタンパク質を、最も好ましくはムタンスクラーゼGTFIタンパク質を、コードする。
【0024】
本発明に関連して、用語「野性型植物細胞」または「野性型植物」とは、当該植物細胞または植物が本発明による植物細胞作製用の出発原料として用いられること、即ちそれらの遺伝情報が、導入された遺伝的修飾とは別に、本発明による植物細胞の遺伝情報に対応すること、を意味する。
【0025】
本発明に関連して、用語「対応する」とは、いくつかの対象の比較において、互いに比較される当該対象が同じ条件に保たれて来たことを意味する。本発明に関連して、「野性型植物細胞」または「野性型植物」に関連した用語「対応する」とは、互いに比較される植物細胞または植物が同じ培養条件の下で生育されたこと、およびそれらが同じ生育年齢を有することを意味する。
【0026】
ここで、本発明の枠組み中では、用語「活性」とは、遺伝的修飾植物細胞または遺伝的修飾植物それぞれの中における、導入遺伝子のコード配列の発現および/または導入遺伝子のコード配列によってコードされたタンパク質の存在および/または導入遺伝子によってコードされたタンパク質によって生産された生成物の存在を意味する。
【0027】
導入遺伝子のコード配列の発現を、例えば導入遺伝子の転写産物の量を、例えばノーザンブロット解析またはRT−PCRを用いて測定することにより、決定することができる。
【0028】
当該遺伝的修飾植物細胞または遺伝的修飾植物のそれぞれのタンパク質の活性をもたらす、導入遺伝子によってコードされたタンパク質の存在を、例えばウエスタンブロット解析、ELISA(酵素結合免疫溶媒測定法)またはRIA(ラジオイムノアッセイ)などの免疫学的方法により決定することができる。導入遺伝子がムタンスクラーゼタンパク質をコードする場合は、遺伝的修飾植物細胞または遺伝的修飾植物中のタンパク質の存在を、例えば非変性アクリルアミドゲル電気泳動の助けを借りて、実証することができる。そうする場合は、植物細胞またはタンパク質を含む植物抽出物を先ず電気泳動的に分離する。スクロースを含むそれぞれの緩衝液中でアクリルアミドゲルをインキュベーションした後に、アクリルアミドゲルはムタンスクラーゼタンパク質の位置で白い沈殿を示す。さらに、ゲル中のムタンスクラーゼタンパク質によって生成されたムタンをエリスロシン赤着色剤で染色することができる(一般的方法中の方法6による)。
【0029】
ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸配列で形質転換された本発明による植物細胞または本発明による植物中で生産された生成物ムタンの存在を、例えば免疫学的分析によって実証することができる。植物細胞中に存在するムタンを検出するためのさらなる方法は、エリスロシン赤着色剤で染色することである(一般的方法中の方法5による)。
【0030】
本発明に関連して、用語「ムタンスクラーゼタンパク質」は、スクロースからのムタン合成を触媒することができる酵素として理解するべきである。ここでムタンはα−1,3−結合したグルコース単位を主に含む。
【0031】
好ましくは、ムタンスクラーゼタンパク質によって生成されたムタン中のα−1,3−結合の量は、少なくとも75%であり、より好ましくは少なくとも80%、特に好ましくは少なくとも85%、そして最も好ましくは少なくとも88%である。用語「ムタンスクラーゼタンパク質」をさらに、配列番号2で規定されるアミノ酸配列と、またはスクロースからのムタン合成を触媒する能力を有するそれの部分と、少なくとも70%の、好ましくは少なくとも80%の、より好ましくは少なくとも90%の、およびさらに好ましくは少なくとも95%の同一性を有する酵素として定義する。
【0032】
ムタンスクラーゼタンパク質を含むほとんどのグルカンスクラーゼは、4つの異なる領域:シグナルペプチド、可変領域、触媒ドメイン、およびC末端(グルカン結合)ドメイン(GBD)からなる共通構造を共有する(Monchois et al., 1999, FEMS Microbiology Letters 177, 243-248; Monchois et al., 1999, FEMS Microbiology Reviews 23, 131-151)。
【0033】
シグナルペプチドは、35〜38個のアミノ酸から成り、それらの天然のバクテリアホストによって発現された時、スクラーゼの分泌に関与する。140〜261個のアミノ酸の可変領域がシグナルペプチドに続く。
【0034】
触媒ドメイン又は活性コア領域は約900個のアミノ酸から成り、LeuconostocおよびStreptococcus菌種内に高度に保存されている(MacGregor et al. 1996)。触媒ドメインはまた、スクロース結合ドメインとも呼ばれるが、それはスクロース分子の結合および切断に重要な役割を果たすアスパラギン酸残基およびグルタミン酸残基の触媒三ツ組残基を含むからである。触媒ドメインの一部である単一アミノ酸の様々な突然変異を有するムタンスクラーゼタンパク質が、それぞれの突然変異の、生産されたグルカンの構造およびそれぞれのムタンスクラーゼタンパク質の触媒活性に対する影響について分析された(Shimamura et al., 1994, J. Bacteriology 176(16), 4845-4849)。
【0035】
グルカン結合ドメインは、約500のアミノ酸をカバーしていて、コンセンサス配列によって定義される、A、B、C、Dと名付けられた繰り返しから成る(Monchois et al 1998, 1999)。しかし、これらの繰り返しの数および構成が、グルカンスクラーゼ内で可変であり、グルカン結合特性を保証するために必要なこれらの繰り返し単位の最小数は酵素によって異なり、より詳細には、不溶性グルカンを生成する酵素よりも可溶性グルカンを生成する酵素について、最小数が異なることが示された(Monchois et al., 1999)。
【0036】
しかし、ムタンを合成することができるムタンスクラーゼタンパク質は、対応する自然に存在するタンパク質(全長のムタンスクラーゼタンパク質)の、またはそれの変異体の、全アミノ酸配列を含むタンパク質であり得ることは当業者に周知である。ムタンスクラーゼタンパク質の変異体は、成熟した自然に存在するムタンスクラーゼタンパク質のアミノ酸のみを含み、例えばバクテリアのムタンスクラーゼタンパク質の培地への分泌をもたらすシグナル配列などの自然に存在するシグナル配列をコードするアミノ酸を欠いたタンパク質であり得る。ムタンスクラーゼタンパク質のさらなる変異体は、触媒活性なムタンスクラーゼタンパク質をコードする、自然に存在するムタンスクラーゼタンパク質の断片、誘導体および対立遺伝子変異体(触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質)を含む。
【0037】
触媒活性な短縮酵素の例が、Monchois et al, 1999に報告されている。特に、シグナルペプチドおよびN末端の高度可変領域が、完全に触媒活性なムタンスクラーゼタンパク質を有する必要はない。保存された触媒ドメイン(活性コア領域)のみをコードする、あるいは全長C末端または短縮C末端ドメインのいずれかを有する活性コア領域をコードする、遺伝子工学操作を受けたgtfi遺伝子によってコードされる、触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質は、スクロースからのムタン合成を触媒することができる活性酵素である(Monchois et al, 1999)。
【0038】
驚くべきことに、触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質の酵素活性をプラスチド中で示す遺伝的修飾植物細胞または遺伝的修飾植物は、プラスチド中で成熟ムタンスクラーゼタンパク質の酵素活性を示す遺伝的修飾植物細胞または遺伝的修飾植物によって合成された修飾デンプンと比較して、さらに修飾されたデンプンをそれぞれ合成することが、見出された。
【0039】
したがって本発明のさらなる目的は、触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質の酵素活性をプラスチド中で示すことを特徴とする遺伝的修飾植物細胞または遺伝的修飾植物であって、前記遺伝的修飾植物細胞または遺伝的修飾植物は、対応する非遺伝的修飾野生型植物細胞または対応する非遺伝的修飾野性型植物よって合成されたデンプンとそれぞれ比較して、修飾されたデンプンを合成する。
【0040】
本発明に関連して、用語「触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質」を、少なくとも自然に存在するムタンスクラーゼタンパク質の活性コア領域のアミノ酸を含む酵素として定義する。
【0041】
触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質は、したがって活性コア領域をコードするアミノ酸配列のみを含むか、あるいは活性コア領域をコードするアミノ酸配列およびそれに加えて、
a)全長のまたは短縮された可変領域を構成するアミノ酸配列、
b)全長のまたは短縮されたC末端ドメインを構成するアミノ酸配列、
c)短縮されたC末端ドメインを構成するアミノ酸配列、および全長の可変領域を構成するアミノ酸配列、
d)全長のC末端ドメインを構成するアミノ酸配列、および短縮された可変領域を構成するアミノ酸配列、
e)短縮されたC末端ドメインを構成するアミノ酸配列、および短縮された可変領域を構成するアミノ酸配列
からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含むことができる。
【0042】
好ましい、触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質は、C末端ドメインをコードする全アミノ酸配列が欠失してしまったムタンスクラーゼタンパク質である。したがって、これらの触媒活性なムタンスクラーゼタンパク質は、活性コア領域をコードするアミノ酸配列、およびさらに可変領域をコードするアミノ酸配列を含む。
【0043】
別の好ましい触媒活性なムタンスクラーゼタンパク質は、活性コア領域、および可変領域の一部、のアミノ酸配列を含む。
【0044】
本発明に関連して、用語「活性コア領域」を、配列番号4の位置109〜1012で規定されるコア領域のアミノ酸配列と、少なくとも70%の、好ましくは少なくとも80%の、より好ましくは少なくとも90%の、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性を有する、少なくとも1つのアミノ酸配列を含むタンパク質として、さらに定義する。
【0045】
好ましい触媒活性なムタンスクラーゼタンパク質は、配列番号4で規定されるアミノ酸配列と、少なくとも70%の、好ましくは少なくとも80%の、より好ましくは少なくとも90%の、特に好ましくは少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0046】
本発明に関連して、用語「導入遺伝子」とは、対応する非遺伝的修飾野性型植物細胞または非遺伝的修飾野性型植物のいずれかに自然に存在しない分子を、あるいは、非遺伝的修飾野性型植物細胞または非遺伝的修飾野性型植物中の実際の空間的配置においては自然に存在しない分子を、あるいは、非遺伝的修飾野性型植物細胞または非遺伝的修飾野性型植物のゲノム中の、ある場所に局在化された分子(そこには自然には存在しない)を、意味するものと理解する。
【0047】
本発明に関連して、用語「組換え」とは、植物細胞または植物中に自然には存在しない、種々の要素、組合せ、または特異的な空間的配置から成る核酸分子を意味する。
【0048】
多くの技術を植物ホスト細胞へのDNAの導入に利用することができる。これらの技術には、形質転換の媒体としてAgrobacterium tumefaciensまたはAgrobacterium rhizogenesを利用するT−DNAによる植物細胞の形質転換、プロトプラストの融合、注入、DNAのエレクトロポレーション、パーティクルガンの手法によるDNAの導入、ならびに他の可能性が含まれる。
【0049】
Agrobacteriumを介する植物細胞の形質転換の使用が集中的に研究され、EP120516;Hoekema, IN: The Binary Plant Vector System Offsetdrukkerij, Kanters B.V., Alblasserdam (1985), Chapter V; Fraley et al., Crit. Rev. Plant Sci. 4, 1-46およびAn et al. EMBO J. 4, (1985), 277-287に十分に記述されている。ジャガイモの形質転換については、例えばRocha-Sosa et al., EMBO J. 8, (1989), 29-33を参照のこと。
【0050】
Agrobacterium形質転換に基づくベクターによる単子葉植物の形質転換についても報告されている(Chan et al., Plant Mol. Biol. 22, (1993), 491-506; Hiei et al., Plant J. 6, (1994) 271-282; Deng et al, Science in China 33, (1990), 28-34; Wilmink et al., Plant Cell Reports 11, (1992), 76-80; May et al., Bio/Technology 13, (1995), 486-492; Conner and Domisse, Int. J. Plant Sci. 153 (1992), 550-555; Ritchie et al, Transgenic Res. 2, (1993), 252-265)。単子葉植物の形質転換のこれに代わるシステムは、パーティクルガンの手法による形質転換(Wan and Lemaux, Plant Physiol. 104, (1994), 37-48; Vasil et al., Bio/Technology 11 (1993), 1553-1558; Ritala et al., Plant Mol. Biol. 24, (1994), 317-325; Spencer et al., Theor. Appl. Genet. 79, (1990), 625-631)、プロトプラスト形質転換、部分的に透過性にした細胞のエレクトロポレーション、およびガラス繊維によるDNAの導入である。特にトウモロコシの形質転換については文献に何度も記述されている(例えば、WO95/06128、EP0513849、EP0465875、EP0292435; Fromm et al., Biotechnology 8, (1990), 833-844; Gordon-Kamm et al., Plant Cell 2, (1990), 603-618; Koziel et al., Biotechnology 11 (1993), 194-200; Moroc et al., Theor. Appl. Genet. 80, (1990), 721-726を参照のこと)。
【0051】
他の型の穀類の成功した形質転換は、例えばオオムギ(Wan and Lemaux,上記; Ritala et al.,上記; Krens et al., Nature 296, (1982), 72-74)、およびコムギ(Nehra et al., Plant J. 5, (1994), 285-297)について既に報告されている。上記の方法はすべて、本発明の枠組み内で適切である。
【0052】
本発明に関連して、導入された核酸は、核ゲノムへまたは植物細胞のプラスチドのゲノムへ組込まれればよい。
【0053】
プラスチドをトランスフェクションする古典的方法には、DNA分子を担持するマイクロプロジェクタイルで葉を射撃することが含まれる(Svab et al., 1993)。今日、安定したプラスチドのトランスフェクションがタバコ種N. tabaccumで通常に行なわれている(Svab and Maliga, 1990; Svab et al., 1993)。イネ(Khan and Maliga, 1999)、Arabidopsis thaliana(Sikdar et al., 1998)、ジャガイモ(Sidorov et al, 1999)、ナタネ(WO 00/39313)、トマト(Ruf ef al., 2001)およびダイズ(WO 04/053133)で、最近進歩があった。特許出願WO 04/055191に、導入プラストーム植物を得る方法の例が記述されている。
【0054】
特に、本発明による植物細胞および本発明による植物を、それらがゲノム内に安定して組み入れられた外来性核酸分子(導入遺伝子)の少なくとも1つのコピーを含み、外来性核酸分子はムタンスクラーゼタンパク質または触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードするという点で、それぞれ野性型植物細胞および野性型植物と区別することができる。
【0055】
さらに、本発明による植物細胞および本発明による植物は、好ましくは、それぞれ野性型植物細胞または野性型植物と、本発明による植物細胞または植物は導入された核酸分子の転写物を有するという特徴により区別することができる。これらを、例えばノーザンブロット解析、またはRT−PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)によって確認することができる。好ましくは、本発明による植物細胞および本発明による植物は、導入された核酸分子によってコードされるタンパク質を含む。これを免疫学的方法、例えば特にウエスタンブロット分析によって実証することができる。
【0056】
さらにより好ましくは、本発明による植物細胞および本発明による植物を、それらがムタンを合成するという特徴によって、野性型植物細胞または野性型植物とそれぞれ区別することができる。好ましくは本発明の植物細胞または本発明の植物は、それらのプラスチド中でムタンを産生する。
【0057】
用語「野生型植物細胞によって合成されたデンプンと比較して修飾されたデンプン」、または「修飾デンプン」、または「改変デンプン」とは、野生型植物中で合成されたデンプンと比較したとき、例えばその物理化学的性質、糊状化行動、デンプン粒の大きさおよび/または形状において異なるデンプンを意味する。野生型のデンプンと比較して、そのようなデンプンを、特にその粘性および/またはこのデンプンの糊のゲル形成特性について、および/またはゲル安定性の増大について、および/またはその消化される能力について、および/または顆粒形態について、修飾することができる。
【0058】
粘度に関する修飾を、いくつかの手段によって、特にThermo Haakeレオスコープ(Thermo Electron Cooperation)を用いメーカーの指示書に従って、または、例えばRapid Visco Analyser Super3(Newport Scientific Pty Ltd, Investment Support Group, Warriewod NSW 2102, Australia)のようなRapid Visco Analyser(RVA)によって、測定することができる。粘度値を、メーカーの操作マニュアル(それは参照により本明細書に組み入れられる)に従ってセンチポアズ(cP)で示す。
【0059】
Rapid Visco Analyser(RVA)によって粘度特性を決定する好ましい方法、および種々の試料の比較のために用いるパラメーターについては、本発明の一般的方法(方法1)に記述する。
【0060】
粘度測定プロフィールをThermo Haakeレオスコープによって決定する別の好ましい方法については、本発明の一般的方法(方法2)に記述する。
【0061】
デンプンの糊のゲル形成特性(あるいはゲル強度)および/またはゲル安定性を、例えばTexture Analyser TA−XT2(Stable Micro Systems - Surrey, UK)のようなTexture Analyserによって、メーカーの操作マニュアル(それは参照により本明細書に組み入れられる)に従って決定することができる。
【0062】
Texture Analyser TA−XT2によるデンプンの糊のゲル形成特性を決定する好ましい方法について、本発明の一般的方法(方法3)に記述する。
【0063】
消化される能力を、抵抗性デンプンRSIII型(これは例えば熱および/または酵素処理し、そして次に後退させる(retrograded)ことによって得られる消化されない後退デンプンである)の測定に基づいたEnglyst H.N. et al., European Journal of Clinical Nutrition 4, Suppl.2, S33-S50(これは参照により本明細書に組み入れられる)の方法を用いて、消化されたデンプンの百分率の測定により、決定することができる。
【0064】
Englystの方法を、WO 00/02926(参照により本明細書に組み入れられる)のRS含量の決定についての情報に対応して改変することができる。その結果得られた方法を、本発明の一般的方法(方法4)に記述する。
【0065】
さらに本発明は、野生型植物細胞によって合成されたデンプンと比較して、増大したT−開始温度、および/または増大した最小粘度、および/または増加した終端粘度、および/または改変された顆粒形態を有する修飾デンプンをそれぞれ合成することを特徴とする、本発明の遺伝的修飾植物細胞または遺伝的修飾植物に関する。
【0066】
本発明に関連して、T−開始温度、最小粘度および終端粘度を、レオスコープによって、詳細にはThermo HaakeレオスコープまたはRapid Visco Analyserによって測定することができる。好ましい方法について、本発明の一般的方法(方法1および2)に記述する。
【0067】
触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質の酵素活性をプラスチド中で示すことを特徴とする遺伝的修飾植物細胞または遺伝的修飾植物であって、対応する非遺伝的修飾野生型植物細胞または対応する非遺伝的修飾野生型植物によって合成されたデンプンと比較して、それぞれ増大したT−開始温度、および/または変化した顆粒形態、および/または増大した最小粘度、および/または増大した終端粘度を有するデンプンを合成する遺伝的修飾植物細胞または遺伝的修飾植物が、本発明のさらなる目的である。
【0068】
好ましくは、T−開始温度の増大は、遺伝的修飾植物細胞または遺伝的植物が成熟ムタンスクラーゼの酵素活性を示す場合は少なくとも0.5%であり、また遺伝的修飾植物細胞または遺伝的植物が、触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質の酵素活性を示す場合は、少なくとも0.5%、好ましくは少なくとも1%、より好ましくは少なくとも1.5%、最も好ましくは少なくとも2%である。
【0069】
好ましくは、最小粘度の増大は、遺伝的修飾植物細胞または遺伝的植物が成熟ムタンスクラーゼ酵素活性を示す場合は、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%であり、また遺伝的修飾植物細胞または遺伝的植物が、触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質の酵素活性を示す場合は、少なくとも10%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも100%である。
【0070】
好ましくは、終端粘度の増大は、遺伝的修飾植物細胞または遺伝的植物が、成熟ムタンスクラーゼタンパク質の酵素活性を示す場合は、少なくとも1.5%、好ましくは少なくとも3%であり、また遺伝的修飾植物細胞または遺伝的植物が、触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質の酵素活性を示す場合は、少なくとも3%、好ましくは少なくとも25%、より好ましく少なくとも45%、最も好ましくは少なくとも65%である。
【0071】
本発明に関連して、澱粉粒の形態を、一般的方法(方法5)に記述する、光学顕微鏡法(LM)および走査型電子顕微鏡法(SEM)によって測定することができる。
【0072】
本発明に関連して、改変された顆粒形態を有するデンプンを、5%以上の改変されたデンプン粒を有するデンプンとして定義することができる。
【0073】
本発明に関連して、改変されたデンプン粒を、野生型植物細胞によって合成されるデンプン粒の大多数と比較した場合に、通常でない形態を示すデンプン粒として定義する。例としては、改変されたデンプン粒は、突出した形を有するデンプン粒、侵食された形を有するデンプン粒、より大きなデンプン粒に付着した小さなデンプン粒、表面に孔のあるデンプン粒、および/または荒いまたは凹凸のある表面を有するデンプン粒である。
【0074】
成熟ムタンスクラーゼタンパク質の酵素活性または触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質の酵素活性を示す本発明の遺伝的修飾植物細胞または本発明の遺伝的植物から単離されたデンプン粒の、好ましくは10%を超える、より好ましくは15%を超える、さらにより好ましくは20%を超える割合が、対応する非遺伝的修飾野生型植物細胞または非遺伝的修飾野生型植物からそれぞれ単離されたデンプン粒と比較して、改変された形態を示す。
【0075】
さらに、本発明は、野生型植物細胞または野生型植物によって合成されるデンプンと比較して、ゲル強度の増大した修飾デンプンをそれぞれ合成することを特徴とする本発明の遺伝的修飾植物細胞または遺伝的修飾植物に関する。
【0076】
本発明に関連して、デンプンのゲル強度(あるいは糊のゲル形成特性)を、本発明の一般的方法(方法3)に記述する方法によって、測定することができる。
【0077】
好ましくは、ゲル強度の増大は、遺伝的修飾植物細胞または遺伝的植物が、成熟ムタンスクラーゼタンパク質または触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質の酵素活性を示す場合は、10%〜600%、好ましくは20%〜500%、より好ましくは25%〜400%、および最も好ましくは30%〜300%である。
【0078】
触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質の酵素活性をプラスチド中で示す本発明の遺伝的修飾植物細胞または本発明の遺伝的修飾植物は、ムタンが付着している新しい型のデンプン粒を合成することが見出された。
【0079】
一般的方法(方法5)で開示するように、エリスロシン赤着色剤によってデンプン粒を染色することにより、デンプンへのムタンの付着を観察することができる。そのような着色反応を、歯垢の存在を示すために、口腔専門医は日常的に用いる。
【0080】
したがって、本発明のさらなる目的は、触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質の酵素活性をプラスチド中で示す、本発明の遺伝的修飾植物細胞または本発明の遺伝的修飾植物であり、前記遺伝的修飾植物細胞または遺伝的修飾植物は、それぞれムタンが付着したデンプン粒を合成することを特徴とする。本発明の好ましい目的は、触媒活性なムタンスクラーゼタンパク質の酵素活性を示す本発明の遺伝的修飾植物細胞または本発明の遺伝的修飾植物であり、前記植物細胞または植物は、それぞれムタンが付着したデンプン粒を合成し、前記デンプン粒は、エリスロシン赤着色料により染色することができる。
【0081】
さらに、本発明は、転写方向に機能するように互いに連結された:
− 植物細胞において転写を開始するプロモーター配列、
− ムタンスクラーゼタンパク質をコードする、または触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードする、異種性核酸配列、および
− 任意で、植物細胞中で活性のある終止配列、
を含む導入遺伝子がそのゲノムへ組み込まれた、本発明による遺伝的修飾植物細胞または本発明による遺伝的修飾植物に関する。
【0082】
本発明に関連して、用語「ムタンスクラーゼ遺伝子」とは、ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸配列であると理解するべきである。
【0083】
本発明に関連して、用語「短縮ムタンスクラーゼ遺伝子」とは、触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸配列であると理解するべきである。
【0084】
触媒活性な短縮ムタンスクラーゼ遺伝子をコードする異種性核酸配列は、活性コア領域のみをコードする核酸配列を含むこともできるし、あるいは活性コア領域をコードする核酸配列およびそれに加えて、
a)全長のまたは短縮された可変領域を構成するアミノ酸配列、
b)全長のまたは短縮されたC末端ドメインを構成するアミノ酸配列、
c)短縮されたC末端ドメインを構成するアミノ酸配列および全長の可変領域を構成するアミノ酸配列、
d)全長のC末端ドメインを構成するアミノ酸配、および短縮された可変領域を構成するアミノ酸配列、
e)短縮されたC末端ドメインを構成するアミノ酸配列および短縮された可変領域を構成するアミノ酸配列、
から成る群より選ばれるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含むこともできる。
【0085】
ある好ましい触媒活性なムタンスクラーゼ遺伝子は、配列番号3で規定される核酸配列と、少なくとも70%の、好ましくは少なくとも80%の、より好ましくは少なくとも90%の、特に好ましくは少なくとも95%の同一性を有する核酸配列を含む。
【0086】
さらに本発明は、転写方向に機能するように互いに連結された:
− 植物細胞において転写を開始するプロモーター配列、
− 触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードする、異種性核酸配列、および
− 任意で、植物細胞中で活性のある終止配列、
を含む導入遺伝子をそのゲノムへ組み込まれた本発明による遺伝的修飾植物細胞または本発明による遺伝的修飾植物に関し、前記遺伝的修飾植物細胞または遺伝的修飾植物は、それぞれムタンが付着したデンプンを合成する。
【0087】
本発明に関連して、用語「ゲノム」とは、植物細胞中に存在する遺伝物質の全体を意味すると理解するべきである。当業者には、細胞核だけでなく他の区画(例えばプラスチド、ミトコンドリア)もまた遺伝物質を含むことが知られている。
【0088】
好ましい実施態様では、導入遺伝子を、植物細胞の核ゲノムへ組み込む。したがって、特定の細胞区画(プラスチドなどの)へのムタンスクラーゼタンパク質または触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質の輸送を、関心対象の細胞区画を標的とする輸送ペプチドの使用によって遂行することができる。輸送ペプチドをコードする核酸配列を、コード配列の前部に挿入する。輸送ペプチドをコードする配列は、細胞質で発現され関心対象の細胞区画へ移送される植物タンパク質をコードする任意の核酸配列に由来するものでよい。特定のポリペプチドをコードするメッセンジャーRNAを成熟タンパク質のアミノ酸配列と比較することにより、輸送ペプチドを同定することができる。成熟したタンパク質に存在せず、対応するメッセンジャーRNAによってコードされ、通常はメチオニンである開始コドンで始まるアミノ酸配列が、通常輸送ペプチドになるか、または通常輸送ペプチドを含むであろう。当業者は、例えば、Chloro 1.1 Server(Emanuelsson O. et al, 1999, Protein Science:8:978-984)のような輸送ペプチドの予測用プログラムを用いて、輸送ペプチドをコードする配列を決定することができるであろう。
【0089】
輸送ペプチドは、輸送ペプチドに連結されたタンパク質を関心対象の細胞区画へ指向させることができるアミノ酸配列であって、自然に存在する(野生型)輸送ペプチド全体、それの機能的な断片、それの機能的な突然変異体、または、少なくとも2つの輸送ペプチドが互いに集まったキメラの、または機能するように互いに集まった異なる輸送ペプチドの部分のキメラの輸送ペプチドであり得る。そのようなキメラの輸送ペプチドは最適化された輸送ペプチドとして、EP0508909およびEP0924299中に報告されている。
【0090】
輸送ペプチドをコードする核酸配列は、それに融合された酵素をコードする核酸配列とは異種性でもよく、これは、輸送ペプチドをコードする核酸配列とプラスチドに向けられる酵素をコードする核酸配列とは異なる遺伝子から生じ、その遺伝子はさらに異なる種から生ずることができることを意味する。
【0091】
翻訳的に輸送ペプチドに連結された酵素の標的を、葉緑体またはアミロプラストなどのプラスチドに設定する専用の輸送ペプチドを、プラスチド輸送ペプチドと呼ぶ。
【0092】
本発明はさらに、転写方向に機能するように互いに連結された:
− 植物細胞において転写を開始するプロモーター配列、
− プラスチド輸送ペプチドをコードする異種性核酸配列、
− 翻訳的に前記異種性核酸配列に融合された、ムタンスクラーゼタンパク質または触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードする、異種性核酸配列、および
− 任意で、植物細胞中で活性のある終止配列、
を含む核酸コンストラクトをそのゲノムへ組み込んだ本発明の遺伝的修飾植物細胞および本発明の遺伝的修飾植物に関する。
【0093】
用語「機能するように互いに連結された」とは、コード領域の発現が可能になるような方法で、核酸コンストラクトの要素を互いに連結することを意味する。
【0094】
本発明に関連して、用語「翻訳的に融合された」とは、単一のオープンリーディングフレームに相当するような様式の核酸配列の融合を意味するものであり、それは転写の際に、翻訳されると単一のタンパク質をコードする単一のメッセンジャーRNAの生産をもたらす。
【0095】
プラスチド輸送ペプチドを、Waxyタンパク質(Klosgen et al, Mol Gen Genet. 217 (1989), 155-161)をコードする遺伝子の輸送ペプチド、リブロース二リン酸カルボキシラーゼの小サブユニット(Wolter et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85 (1988), 846-850; Nawrath et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 10 USA 91 (1994), 12760-12764)、NADP−リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(Gallardo et al., Planta 197 (1995), 324-332)、グルタチオン還元酵素(Creissen et al., Plant J. 8 (1995), 167-175)、EPSPS(US 5,188,642)、ならびにEP0508909およびEP0924299に記述されている最適化された輸送ペプチド、を含む群より選ぶことができる。これらの例は非限定的である。
【0096】
好ましい実施態様では、フェレドキシン還元酵素遺伝子のプラスチド輸送ペプチド(Pilon et al, 1995)をコードする核酸配列を、ムタンスクラーゼタンパク質または触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸配列と、翻訳的に融合させる。
【0097】
別の好ましい実施態様では、EP0508909およびEP0924299に記述された最適化されたプラスチド輸送ペプチドをコードする核酸配列を、ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸配列と翻訳的に融合させる。
【0098】
本発明の核酸配列の構築に用いられる技術は、当業者に周知である。限定されない例として、Sambrook et al. (Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd edition (2001) Cold Spring Harbour Laboratory Press, Cold Spring Harbour, NY. ISBN: 0879695773)およびAusubel et al. (Short Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons; 5th edition (2002),ISBN: 0471250929)に記述されている技術を挙げることができる。
【0099】
さらに、本発明による植物細胞を含む植物および/またはその子孫もまた、本発明の目的事項である。この型の植物を、本発明による植物細胞から、例えば"plant Cell Culture Protocols" 1999, R.D. Hall編集, Humana Press, ISBN 0-89603-549-2に記述されているような当業者に公知の方法を用いて再生により生成することができる。
【0100】
原則として、本発明による植物は任意の植物種、即ち単子葉および双子葉植物の両方の植物であり得る。好ましくは、それらは、有用植物、即ち食用または技術用の目的のために、特に産業用目的のために、人々によって栽培される植物である。
【0101】
さらに好ましい実施態様では、本発明による植物はデンプン貯蔵植物である。用語「デンプン貯蔵植物」には、例えばトウモロコシ、イネ、コムギ、ライムギ、オートムギ、オオムギ、キャッサバ、ジャガイモ、サゴ、リョクトウ、エンドウまたはモロコシなどのデンプン貯蔵植物部分を有する植物がすべて含まれる。好ましいデンプン貯蔵植物部分は、例えば塊茎、貯蔵根および胚乳を含む穀粒であり;塊茎が特に好まれ;特にジャガイモ植物の塊茎が好まれる。
【0102】
さらに好ましい実施態様では、本発明は、本発明によるデンプン貯蔵植物に関し、それはジャガイモ植物である。
【0103】
本発明に関連して、用語「ジャガイモ植物」または「ジャガイモ」とは、Solanum属の植物種、特にSolanum属の塊茎生産種、そして特にSolanum tuberosumを意味する。
【0104】
本発明はまた、本発明による植物細胞を含む本発明による植物の繁殖材料に関する。
【0105】
ここで、用語「繁殖材料」には、栄養的なまたは有性手段による子孫の産生に適する植物の構成要素が含まれる。例えば挿木、カルス培養、根茎または塊茎が栄養生殖に適する。他の繁殖材料には、例えば、果実、種子、実生苗、プロトプラスト、細胞培養、その他が含まれる。好ましくは、繁殖材料は種子であり、そして特に好ましくは塊茎である。
【0106】
さらなる実施態様では、本発明は、果物、貯蔵根、花、芽、枝または茎など、好ましくは種子または塊茎などの、本発明による植物の収穫可能な植物部分に関し、これらの収穫可能部分には本発明による植物細胞が含まれる。
【0107】
本発明はまた、本発明による遺伝的修飾植物の作製のための方法に関し、
a)植物細胞を、ムタンスクラーゼタンパク質または触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子を含む核酸分子で形質転換する工程、
b)植物を、工程a)で得られた植物細胞から再生する工程、および
c)必要な場合は、工程b)で得られた植物からさらに植物を生成する工程、
が含まれる。
【0108】
工程a)で得られた植物細胞を、当業者に知られた方法により、例えば"Plant Cell Culture Protocols" 1999, R.D. Hall編:Humana Press, ISBN 0-89603-549-2に記述された方法を用いて、全植物体に再生することができる。
【0109】
本発明の遺伝的修飾植物の作製のための好ましい方法において、工程a)におけるムタンスクラーゼタンパク質または触媒活性な短縮ムタンスクラータンパク質をコードする核酸分子を、プラスチドペプチド配列をコードする核酸分子と、翻訳的に融合させる。
【0110】
本発明による方法の工程(c)によるさらなる植物の生産を、例えば栄養繁殖(例えば挿木、塊茎を用いて、またはカルス培養および全植物体の再生による)または有性繁殖によって、行なうことができる。ここで、有性繁殖は、好ましくは制御された条件下で起こり、即ち特別な特性を有する選択された植物を互いに交叉させ繁殖させる。
【0111】
本発明はまた、上に開示した方法による遺伝的修飾植物の作製のための方法に関し、ムタンスクラーゼタンパク質または触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子を、植物のプラスチドゲノムへ組み込む。
【0112】
ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子は任意の望みの起源からのものでよく、好ましくはムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子はそのようなタンパク質を発現するバクテリア起源である。
【0113】
より好ましくは、本発明で用いる核酸分子は、Streptococcus属バクテリアから成る群より選ばれるバクテリアからのムタンスクラーゼタンパク質をコードする。
【0114】
最も好ましくは、本発明で用いる核酸分子は、Streptococcus downei MFe28のムタンスクラーゼタンパク質をコードする。
【0115】
触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子は、分子生物学分野の当業者に広く知られた方法により、ムタンスクラーゼタンパク質をコードする任意の核酸分子から生成することができる。触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸配列の作製に適する方法は、例えばSambrok et al. (Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd edition (2001) Cold Spring Harbour Laboratory Press, Cold Spring Harbour, NY. ISBN: 0879695773)およびAusubel et al. (Short Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons; 5th edition (2002),ISBN: 0471250929)に記述されている。これらの方法には、それぞれの配列をライゲーションして触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子を得ることと組み合わせた、制限酵素、および/または部位特異的突然変異誘発(例えば未成熟停止コドンの挿入)、および/またはPCR増幅(例えば、ムタンスクラーゼタンパク質をコードする配列の部分の)、および/またはムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸配列の部分の化学合成、の使用による、ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸配列の欠失変異株の作製が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0116】
本発明で用いるムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子を、例えば、任意の起源より、好ましくはバクテリアより生成されるゲノムDNAまたはDNAライブラリから単離してもよい。あるいはそれらを、組換えDNA技術(例えばPCR)または化学合成によって生成してもよい。そのような核酸分子の同定および単離は、本発明による分子またはこれらの分子の部分、あるいは場合に応じてこれらの分子と逆方向の相補鎖を用いることにより、例えば標準的方法に従うハイブリダイゼーションによって行ってもよい(例えば、Sambrok et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd edition (2001) Cold Spring Harbour Laboratory Press, Cold Spring Harbour, NY. ISBN: 0879695773およびAusubel et al., Short Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons;5th edition (2002),ISBN: 0471250929を参照のこと)。
【0117】
ハイブリダイゼーション用のプローブとして、例えば、配列番号1で示されたヌクレオチド配列またはそれの一部を、正確にまたは基本的に含む核酸分子を用いてもよい。ハイブリダイゼーションプローブとして用いる断片はまた、従来の合成法によって生成され、その配列が本発明による核酸分子の配列と基本的に同一な合成断片であってもよい。
【0118】
本発明で用いられる核酸分子にハイブリダイズする分子にはまた、ムタンスクラーゼタンパク質をコードする上記核酸分子の断片、誘導体、および対立遺伝子変異体も含まれる。これに関連して、断片は、タンパク質をコードするために十分に長い、核酸分子の一部分として定義される。これに関連して、用語、誘導体とは、これらの分子の配列が、前述の核酸分子の配列と1つ以上の位置で異なり、またこれらの配列と高度の相同性を示すことを意味する。相同性とは、少なくとも70%の配列同一性、およびさらに好ましくは90%以上の配列同一性、および最も好ましくは95%以上の配列同一性を意味する。上記の核酸分子を比較する場合に生じる差異は、欠失、置換、挿入、または組換えによって引き起こされた可能性がある。
【0119】
さらに、相同性とは機能的および/または構造的な同等性がそれぞれの核酸分子の間に、またはそれらがコードするタンパク質の間に存在することを意味する。上記の分子に相同であり、これらの分子の誘導体に相当する核酸分子は、一般にこれらの分子の同じ生物学的機能を発揮する修飾物を構成する変異体である。これらの変異体は、自然に存在する変異体、例えば他のバクテリアに由来する配列あるいは突然変異体であってもよく、これらの突然変異は自然に起きたものかまたは特異的な突然変異誘発によって導入されたものでよい。さらに、変異体は合成的に生成された配列でもよい。対立遺伝子変異体は、自然に存在する変異体、ならびに合成的に生成された変異体または組換えDNA技術によって生成された変異体でもよい。
【0120】
本発明の好ましい実施態様では、ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子は、
a)スクロースからのムタン合成を触媒する能力を持つ配列番号2で与えられるアミノ酸配列を有するタンパク質またはそれの一部分をコードする核酸分子;
b)そのアミノ酸配列が、スクロースからのムタンの合成を触媒する能力を持つ配列番号2で与えられるアミノ酸配列またはそれの一部分、と少なくとも70%の同一性を有するタンパク質をコードする核酸分子;
c)スクロースからのムタン合成を触媒する能力を持つタンパク質をコードする配列番号1で示されるヌクレオチド配列またはそれの相補的配列、あるいはそれらの一部分、を含む核酸分子;
d)その核酸配列がa)またはc)に記載された核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する核酸分子;
e)遺伝子コードの縮重により、ヌクレオチド配列が、a)、b)、c)、またはd)で規定された核酸分子の配列から逸脱している核酸分子;および
f)a)、b)、c)、d)、またはe)で規定された核酸分子の断片、対立遺伝子変異体、および/または誘導体に相当する核酸分子
かならる群より選ばれる。
【0121】
本発明のさらに好ましい実施態様では、ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子は、そのアミノ酸配列が配列番号2で規定されるアミノ酸配列またはそれの一部分と、少なくとも70%の、好ましくは少なくとも80%の、より好ましくは少なくとも90%の、そしてさらに好ましくは少なくとも95%の同一性を有し、スクロースからのムタンの合成を触媒する能力を有するタンパク質をコードする。
【0122】
他のさらに好ましい実施態様では、ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子は、配列番号1の配列またはその一部分と、少なくとも70%の、好ましくは少なくとも80%の、より好ましくは少なくとも90%の、そしてさらに好ましくは少なくとも95%の同一性を有する核酸配列を有し、スクロースからのムタン合成を触媒する能力を有するタンパク質をコードする。
【0123】
本発明のさらに好ましい実施態様では、触媒活性なムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子は、
a)スクロースからのムタン合成を触媒する能力を持つ配列番号4で与えられるアミノ酸配列を有するタンパク質またはその一部分、をコードする核酸分子;
b)そのアミノ酸配列が、スクロースからのムタン合成を触媒する能力を持つ配列番号4で与えられるアミノ酸配列またはそれの一部分と少なくとも70%の同一性を有するタンパク質、をコードする核酸分子;
c)スクロースからのムタン合成を触媒する能力を持つタンパク質をコードする配列番号3で示されるヌクレオチド配列またはそれの相補的配列、あるいはそれらの一部分を含む核酸分子;
d)その核酸配列がa)またはc)に記載された核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する核酸分子;
e)遺伝子コードの縮重により、ヌクレオチド配列が、a)、b)、c)またはd)で規定された核酸分子の配列から逸脱している核酸分子;および
f)a)、b)、c)、d)またはe)で規定された核酸分子の断片、対立遺伝子変異体、および/または誘導体に相当する核酸分子
からなる群より選ばれる。
【0124】
本発明のさらに好ましい実施態様では、触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子は、そのアミノ酸配列がスクロースからのムタン合成を触媒する能力を持つ配列番号4で規定されるアミノ酸配列またはそれの一部分と、少なくとも70%の、好ましくは少なくとも80%の、より好ましくは少なくとも90%の、そしてさらに好ましくは少なくとも95%の同一性を有するタンパク質を、コードする。
【0125】
ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子の好ましい部分は、配列番号4で規定されるアミノ酸配列の位置109〜1012と、少なくとも70%の、好ましくは少なくとも80%の、より好ましくは少なくとも90%の、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性を有するタンパク質をコードする核酸分子である。
【0126】
さらに好ましい別の実施態様では、触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子は、配列番号3の配列と、または配列番号3で規定される配列の位置325〜3036と、少なくとも70%の、好ましくは少なくとも80%の、より好ましくは少なくとも90%の、そしてさらに好ましくは少なくとも95%の同一性を有する核酸配列を有する。
【0127】
本発明に関連して、用語「同一性」とは、百分率として表した、他のタンパク質/核酸のアミノ酸/ヌクレオチドに対応するアミノ酸/ヌクレオチドの数を意味するものと理解するべきである。同一性を、好ましくは配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4またはそれらの部分を、他のタンパク質/核酸と、コンピュータプログラムの助けを借りて比較することにより、決定する。互いに比較する配列が異なる長さを有する場合は、長い方の配列と共通の短い方の配列が有するアミノ酸の数が同一性の百分率の割合を決定するという方法で、同一性を決定する。好ましくは、周知であり一般に入手できるコンピュータプログラムClustalW(Thompson et al., Nucleic Acids Research 22 (1994), 4673-4680)によって同一性を決定する。ClustalWは、European Molecular Biology Laboratory, Meyerhofstrasse 1, D 69117 Heidelberg, GermanyのJulie Thompson(Thompson@EMBL- Heidelberg.DE)およびToby Gibson(Gibson@EMBL- Heidelberg.DE)により一般に公開されている。ClustalWは、IGBMC(Institut de Genetique et de Biologie Moleculaire et Cellulaire, B.P.163, 67404 Illkirch Cedex, France; ftp://ftp-igbmc.u-strasbg.fr/pub/)およびEBI(ftp://ftp.ebi.ac.uk/pub/software/)、ならびにEBIのすべてのインターネットミラーサイト(European Bioinformatics Institute, Wellcome Trust Genome Campus, Hinxton, Cambridge CB 10 1SD, UK)を含む種々のインターネットサイトからもダウンロードすることができる。
【0128】
好ましくは、ClustalWコンピュータプログラムのバージョン1.8を用いて本発明によるタンパク質と他のタンパク質の間の同一性を決定する。その際、次のパラメーターを設定しなければならない:
【表1】

【0129】
好ましくはClustalWコンピュータプログラムのバージョン1.8を用いて、例えば本発明による核酸分子のヌクレオチド配列と他の核酸分子のヌクレオチド配列の間の同一性を決定する。その際には、次のパラメーターを設定しなければならない:
【表2】


加重せず。
【0130】
さらに、同一性とは、機能的および/または構造的等価性が、当該核酸分子間、またはそれらによってコードされるタンパク質間に存在することを意味する。上述の分子と相同でありこれらの分子の誘導体を構成する核酸分子は、一般にこれらの分子の変異体であって、同一の生物学的機能を遂行する修飾体を構成する。この目的のために、修飾は酵素活性に関係しないアミノ酸残基に起こる。また、変異体は、自然におこることもあり、例えばそれらは他のバクテリア種からの配列であることもあり、あるいはそれらが突然変異であってもよく、これらの突然変異は自然に生じた場合、または目的とする突然変異誘発によって導入された場合がある。変異体はまた合成的に作成された配列の場合もある。対立遺伝子変異体は、自然に存在する変異体、および合成的に作成される変異体、即ち組換えDNA技術によって生成される変異体の、いずれの場合もある。遺伝子コードの縮重により本発明による核酸分子と異なる核酸分子は、誘導体の特別な形を構成する。
【0131】
ムタンスクラーゼタンパク質または触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子、および遺伝子コードの縮重により前述の核酸分子のヌクレオチド配列とは異なる配列の使用もまた、本発明の主題である。
【0132】
本発明はまた、上述の核酸分子の一つの全体または一部に対して相補的な配列を示す核酸分子の使用にも関する。
【0133】
上述の核酸分子の発現のために、これらを、好ましくは植物細胞中で転写の開始を保証する調節DNA配列と連結させる。特に、これらにはプロモーターが含まれる。一般に、植物細胞中で活動する任意のプロモーターは、発現にとって適格である。
【0134】
その際、プロモーターを選択して、発現が、構成的にまたはある組織のみで、植物の発生のある時期にまたは外部の影響によって決定された時に、起こるようにすることができる。プロモーターは、植物および核酸分子の両方に対して、同種性(homologous)または異種性(heterologous)であり得る。
【0135】
適当なプロモーターは、例えばカリフラワーモザイクウイルスの35SRNAのプロモーター、構成的発現用のトウモロコシからのユビキチンプロモーター、ジャガイモの塊茎特異的発現用のパタチンプロモーターB33(Rocha-Sosa et al., EMBO J. 8 (1989), 23-29)または光合成活性を有する組織中の発現のみを保証するプロモーター、例えば、ST−LS1プロモーター(Stockhaus et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84 (1987), 7943-7947; Stockhaus et al., EMBO J. 8 (1989), 2445-2451)または、胚乳に特異的な発現のためのコムギからのHMGプロモーター、USPプロモーター、ファゼオリンプロモーター、トウモロコシからのゼイン遺伝子プロモーター(Pedersen et al., Cell 29 (1982), 1015-1026; Quatroccio et al., Plant Mol. Biol. 15 (1990), 81-93)、グルテリンプロモーター(Leisy et al., Plant Mol. Biol. 14 (1990), 41-50; Zheng et al., Plant J. 4 (1993), 357-366; Yoshihara et al., FEBS Lett. 383 (1996), 213-218)、またはシュルンケン−1プロモーター(Werr et al., EMBO J. 4 (1985), 1373-1380)である。しかし、外部の影響によって決められた時にのみ活性化されるプロモーターも用いることができる(例えばWO 9307279を参照のこと)。ここで特に興味があるのは、単純な誘導が可能な熱ショックタンパク質のプロモーターである。さらに、Vicia fabaその他の植物において種子特異的な発現を保証するVicia fabaからのUSPプロモーター(Fiedler et al., Plant Mol. Biol. 22 (1993), 669-679; Baumlein et al., Mol. Gen. Genet. 225 (1991), 459-467)などの、種子特異的なプロモーターを用いることができる。
【0136】
プラスチドのゲノムに本発明の核酸コンストラクトを組み込む場合は、植物細胞のプラスチドにおいて活性を有するプロモーターを用いるとよい。植物細胞のプラスチドにおいて活性を有するプロモーターの中ではとりわけ、例として、PSIIのD1ポリペプチドをコードするpsbA遺伝子(Staub et al. 1993 EMBO Journal 12(2):601-606)、およびリボソームRNAオペロンを調節する構成的Prrnプロモーター(Staub et al. 1992 Plant Cell 4:39-45)が特筆に値する。
【0137】
さらに、終止配列(ポリアデニル化シグナル)が存在してもよい。それは転写物にポリA末端を付加するために用いられる。ポリA末端は転写物の安定化機能を受け持っているとされている。この型の要素は、文献(cf. Gielen et al., EMBO J. 8 (1989), 23-29)に記述されており、随意に交換することができる。
【0138】
本発明による植物を作製するための本発明の方法によって得られる植物が、本発明のさらなる実施態様である。
【0139】
さらに本発明は、前述のムタンスクラーゼタンパク質または触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子を含むベクター、特にプラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージおよび遺伝子工学において一般的な他のベクターに関する。そのようなベクターは、好ましくは植物細胞の形質転換に用いることができるベクターである。より好ましくは、それらのベクターは、植物細胞の核ゲノムまたはプラスチドゲノム中へ、本発明の核酸分子を、必要な場合は隣接する調節領域と共に、組込むことを可能にする。例としては、例えばpBIN20バイナリーベクター(Hennegan and Danna, 1998)のような、Agrobacteriumを介する遺伝子移入で用いることのできるバイナリーベクターがある。直接のプラスチド形質転換に用いることができるベクターの例が、WO 04/055191に挙げられている。
【0140】
植物へ導入される異種性核酸分子を含むプラスミドは、形質転換された細胞の同定および選択を容易にするために、選択可能なマーカーまたはレポーター遺伝子のいずれかあるいはその両方を、さらに含むことができる。あるいは、選択可能なマーカーを別のベクターに所持させ、同時形質転換手順を用いてもよい。選択可能なマーカーおよびレポーター遺伝子の両方に、植物中の発現を可能にする適切な調節配列を隣接させてもよい。有用な選択可能なマーカーおよびレポーター遺伝子は、当技術分野において周知であり、例えば、抗生物質および除草剤耐性遺伝子、β−グルクロニダーゼ酵素をコードする遺伝子(Staub et al, 1993)、または緑色蛍光タンパク質(Sidorov et al, 1999)がある。そのような遺伝子の特異的な例が、Weising et al, 1988, Svab et al, 1993, White et al., Nucleic Acid Res.18(4) :1062に開示されている。
【0141】
ムタンスクラーゼタンパク質または触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子を用いることによって、これまで不可能であった様式で植物細胞または植物のデンプン代謝に干渉することが、組換えDNA技術によって、現在は可能である。それによって、対応する非遺伝的修飾野生型植物細胞または非遺伝的修飾野性型植物中でそれぞれ合成されるデンプンと比較して、例えばその物理化学的性質、糊状化行動、大きさ、および/またはデンプン粒の形状が修飾された修飾デンプンを合成するように、デンプン代謝を修飾することができる。野生型デンプンと比較して、そのようなデンプンは、特にその粘度、および/またはこのデンプンの糊のゲル形成特性、および/またはそのゲル安定性、および/または、その消化される能力、および/またはデンプン粒の形態、について修飾することができる。
【0142】
したがって、本発明はまた、本発明による植物細胞または本発明による植物から、本発明による繁殖材料から、または本発明による収穫可能な植物部分から得ることができる修飾デンプンに関する。
【0143】
本発明のさらなる目的は、ムタンが付着した本発明のデンプンである。好ましくは本発明は、エリスロシン赤着色剤で着色可能な、ムタンが付着した修飾デンプン粒に関する。このデンプンは、それらのプラスチド中で触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質の活性を示す遺伝的修飾植物細胞または遺伝的修飾植物から得ることができる。
【0144】
本発明の好ましいデンプンは、例えばトウモロコシ、イネ、コムギ、ライムギ、オートムギ、オオムギ、キャッサバ、ジャガイモ、サゴ、リョクトウ、エンドウ、またはモロコシなどの、本発明のデンプン貯蔵植物からのデンプンに関する。特に好ましいのは、ジャガイモ植物のデンプンである。
【0145】
本発明は、さらに、本発明による植物細胞から、本発明による植物から、本発明による植物の収穫可能部分から、または本発明による植物を作製するための本発明の方法によって得ることができる植物から、デンプンを抽出する工程を含む、修飾デンプンの製造のための方法に関する。
【0146】
好ましくは、そのような方法はまた、デンプンを抽出する前の、栽培した植物および/またはそのような植物のデンプン貯蔵部分を収穫する工程を含む。最も好ましくは、それはさらに、収穫前に本発明の植物を栽培する工程を含む。デンプンを植物または植物のデンプン貯蔵部分から抽出するための方法は、当業者に知られている。トウモロコシ種子からデンプンを抽出するための方法は、例えばEckhoff et al.(Cereal Chem. 73 (1996) 54-57)に記述されている。産業レベルのデンプン抽出は、通常いわゆる湿式製粉技術によって達成される。さらに、様々な他のデンプン貯蔵植物からのデンプン抽出のための方法は、例えば、"Starch: Chemistry and Technology"(Editor: Whistler, BeMiller and Paschall (1994)、2nd edition Academic Press Inc. London Ltd; ISBN 0-12-746270-8; 例えばchapter XII, page 412-468: maize and sorghum starches: production; by Watson; chapter XIII, page 469-479: tapioca, arrowroot and sago starches: production; by Corbishley and Miller; chapter XIV, page 479-490: potato starch: production and use; by Mitch; chapter XV, page 491 to 506: wheat starch: production, modification and use; by Knight and Oson; およびchapter XVI, page 507 to 528: rice starch: production and use; by Rohmer and Klem)に記述されている。植物材料からデンプンを抽出するために一般に用いられる器具は、選別器、デカンター、液体サイクロン、スプレードライヤー、およびサイクロンドライヤーである。好ましくは、本発明の修飾デンプンの製造方法は、実施例3に記述する工程を含む。
【0147】
ムタンスクラーゼタンパク質または触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子の発現により、本発明に記述される遺伝子組換え植物細胞および植物は、対応する非遺伝的修飾野性型植物細胞または非遺伝的修飾野性型植物中でそれぞれ合成されるデンプンに比較して、例えばその物理化学的性質、糊状化行動、デンプン粒の大きさおよび/または形状が修飾されているデンプンを合成する。野性型デンプンと比較して、そのようなデンプンを、特にその粘度、および/またはこのデンプンの糊のゲル形成特性、および/またはそのゲル安定性、および/または、その消化される能力、および/またはデンプン粒の形態に関して修飾することができる。
【0148】
本発明のさらなる実施態様では、本発明の修飾デンプンの製造のための方法を本発明の修飾デンプンの生産のために用いる。
【0149】
したがって、本発明による修飾デンプンの製造のための方法から入手できる修飾デンプンも、本発明の主題である。
【0150】
本発明の好ましい実施態様では、本発明のデンプンは自然のデンプンである。
【0151】
本発明に関連して、用語「自然のデンプン」とは、本発明による植物、本発明による収穫可能な植物部分、または本発明による植物の繁殖材料から、当業者に公知の方法によってデンプンが単離されることを意味する。
【0152】
当業者は、例えば、熱的、化学的、酵素的、または機械的な誘導によってデンプンの特性を変更することが可能であることを知っている。誘導デンプンは、食料および/または非食料セクターの種々の用途に特に適している。本発明によるデンプンは、従来のデンプンより誘導デンプン製造用の出発物質として一層よく適している。
【0153】
したがって、本発明はまた、誘導デンプンの生産のための方法に関し、本発明による修飾デンプンまたは本発明による方法により入手可能な修飾デンプンが遡及的に誘導される。
【0154】
本発明に関連して、用語「誘導デンプン」とは、植物細胞から単離後に化学的、酵素的、熱的、または機械的方法の助けを借りてその特性が変更された、本発明による修飾デンプンを意味すると理解するべきである。本発明の好ましい実施態様では、本発明による誘導デンプンは熱処理されたおよび/または酸処理されたデンプンである。
【0155】
さらに好ましい実施態様では、誘導デンプンは、デンプンエーテル、特にデンプンアルキルエーテル、O−アリルエーテル、ヒドロキシアルキルエーテル、O−カルボキシルメチルエーテル、窒素含有デンプンエーテル、リン含有デンプンエーテル、または硫黄含有デンプンエーテルである。
【0156】
さらに好ましい実施態様では、誘導デンプンは架橋を有するデンプンである。
【0157】
さらに好ましい実施態様では、誘導デンプンは、デンプングラフトポリマーである。
【0158】
さらに好ましい実施態様では、誘導デンプンは酸化デンプンである。
【0159】
さらに好ましい実施態様では、誘導デンプンは、デンプンエステル、特に有機酸を用いてデンプンへ導入されたデンプンエステルである。特に好ましくは、これらは、リン酸、硝酸、硫酸、キサントゲン酸、酢酸、またはクエン酸デンプンである。
【0160】
本発明による誘導デンプンを製造するための方法は当業者に既知であり、一般的な文献に十分に記述されている。誘導デンプンの製造についての総説は、例えばOrthoefer (Corn, Chemistry and Technology, 1987, eds. Watson und Ramstad, Chapter 16, 479-499 )に見出すことができる。
【0161】
誘導デンプン製造用の、本発明による誘導デンプンの生産のための方法によって入手できる誘導デンプンもまた、本発明の主題である。
【0162】
本発明のさらなる実施態様は、本発明による修飾デンプンの、誘導デンプンの生産のための使用である。
【0163】
本発明はまた、修飾デンプンの生産のための、本発明による植物細胞、本発明による植物、本発明による植物の収穫可能部分、または本発明の方法によって入手可能な植物の使用に関する。
【0164】
本発明はまた、本発明による遺伝的修飾植物細胞、本発明による遺伝的修飾植物、本発明による繁殖材料、または本発明による植物の収穫可能部分の作製のための、ムタンスクラーゼタンパク質または触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子の使用に関する。
【0165】
さらに、ムタンスクラーゼタンパク質または触媒活性な短縮ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸配列の、本発明による修飾デンプンの生産のための使用は、本発明の実施態様の1つである。
【0166】
一般的方法:
【0167】
方法1:Rapid Visco Analyser(RVA)による粘度特性の決定。
2gのジャガイモデンプン(他の型のデンプンまたは穀粉を用いる場合は、メーカーのマニュアルによって値を調節するべきである)を25mlのH2O(VE型の水、少なくとも15Mオームの伝導度)中に入れ、Rapid Visco Analyser Super3(Newport Scientific Pty Ltd., Investment Support Group, Warriewod NSW 2102, Australia)での分析に用いる。装置をメーカーの指示に従って操作する。メーカーの操作マニュアル(参照により、本明細書に組み入れられる)に従ってセンチポアズ(cP)で粘度値を示す。デンプン水溶液の粘度を決定するために、最初に、デンプン懸濁液を、960rpmで10秒間攪拌し、続いて、初めは1分間160rpmの攪拌速度で50℃で加熱する(工程1)。次に、毎分12℃の加熱速度で50℃から95℃まで温度を上昇させた(工程2)。95℃で2.5分間温度を保持し(工程3)、次に毎分12℃で95℃から50℃まで冷却させる(工程4)。最後の工程(工程5)で、2分間50℃の温度を保持する。全期間の間で、粘度を測定する。
【0168】
プログラムが終了した後、攪拌機を除去し、ビーカーを覆う。ゼラチン化したデンプンを、室温で24時間インキュベーションした後に、この時点でテクスチャー分析に用いることができる。
【0169】
RVA分析のプロフィールは、種々の測定および物質の比較のために示されるパラメーターを含む。本発明に関しては、次の用語を以下のように理解するべきである:
1. 最大粘度(最大RVA)即ちピーク粘度
最大粘度を、温度プロフィールの工程2または3で得られた、cPで測定した最高粘度値を意味するものと理解する。
2. 最小粘度(最小RVA)即ち谷粘度
最小粘度を、最大粘度の後の温度プロフィールで観察された、cPで測定した最低粘度値を意味するものと理解する。通常は、これは温度プロフィールの工程3で起こる。
3. 最終粘度(最終RVA)即ち終端粘度
最終粘度(あるいは終端粘度)を、測定の終りに観察された、cPで測定した粘度値を意味するものと理解する。
4. セットバック(RVAセット)
「セットバック」として知られている値は、カーブ中で最大粘度の後に生じる最小粘度値から最終粘度値を引くことにより計算される。
5. ゼラチン化温度(RVA PT)即ちT−開始温度
ゼラチン化温度を、温度プロフィール中の、粘度が最初に極めて短期間の間に急激に増大する時点を意味するものと理解する。
【0170】
方法2:Thermo Haakeレオスコープによる粘度測定プロフィールの決定。
2%デンプン懸濁液の粘度測定プロフィールを、Thermo Haakeレオスコープを用いて、1Hzの周波数の小さな振動剪断変形を適用することにより、決定した。レオメーターは、平行平板配置を備え(C70/1 Ti型)、隙間寸法は0.1mmであった。2%デンプン−水(w/v)懸濁液の糊状化プロフィールを、懸濁液を2℃/分の速度で40℃から90℃へ熱し、そこで15分間それを維持し、続けて2℃/分の速度で20℃まで再び冷却させ、20℃に再び15分間保つことにより得た。Tg(ゼラチン化温度、即ちT−開始温度)、Tp(ピーク温度)、および粘度を測定した。続いて、老化した試料から、応力とひずみの振幅が互いに比例する線形の領域で測定したことをチェックするために、10Paずつで60秒以内に1,000Paまで増加させて振幅掃引を実行した。
【0171】
方法3:Texture Analyser TA−XT2によるデンプンの糊のゲル形成特性の測定。
試料を、上述の方法(方法1)により、Rapid Visco Analyzer(RVA)によって、RVA装置の中で水性懸濁液中でゼラチン化し、続いて室温で24時間密閉容器中に貯蔵した。Stable Micro Systems(Surrey, UK)製のTexture Analyser TA−XT2のプローブ(平らな表面を有する丸いピストン)の下に試料を固定し、次のパラメーターを用いて、ゲル強度を測定した:
− テスト速度 0.5mm/s
− 浸透深度 7mm
− 接触面 113mm2
− 圧力 2g
【0172】
方法4:抵抗性デンプンRSIII型の測定に基づくデンプンの消化率の測定。
抵抗性デンプン(RS)を、次の型に分類することができる:
RS1型 物理的に消化できないデンプン、例えば部分的に製粉した植物細胞(例えばミュズリー中の)、
RS2型 例えば生のジャガイモ、緑のバナナその他からの、消化できない粒状デンプン(デンプン粒)、
RS3型 例えば、熱および/または酵素処理および次に老化させて得られた、消化できない老化デンプン、
RS4型 例えば架橋結合またはエステル化(アセチル化など)によって形成される、消化できない化学的に修飾されたデンプン。
【0173】
抵抗性デンプンRSIII型の測定が、下記の工程を用いて得られた:
【0174】
a) パンクレアチン/アミログルコシダーゼ(AGS)処理
【0175】
用いたパンクレアチン/アミログルコシダーゼ消化緩衝液:
0.1M 酢酸ナトリウムpH5.2
4mM CaCl2
【0176】
酵素溶液の調製:
12gのパンクレアチン(Merck, Product no. 1.07130.1000)を、80mlの脱イオン水(伝導度:約18Mオーム)中で、37℃で10分間撹拌し、次に3000rpmで10分間遠心した。
【0177】
遠心分離の後に得られた54mlの上清を、9.86mlの脱イオン水および0.14mlのアミログルコシダーゼ(6000u/ml, Sigma, Product no. A-3042)で処理した。
【0178】
パンクレアチン/アミログルコシダーゼ(AGS)消化の手順
パンクレアチン/アミログルコシダーゼ(AGS)消化の5つの分析物を、測定する各バッチのデンプンについて時間毎に準備する。これらの5つの各分析物の2つには、後で酵素溶液を加えない。酵素溶液を加えない分析物を対照とし、回収率の決定に用いる。残りの3つの分析物を試料とし、後で酵素溶液で処理してRS含量の測定に用いる。
【0179】
デンプンを含まない多くの反応容器を平行して処理した(ブランク試料)。デンプンを含まないこれらのブランク試料を、共沈した物質(タンパク質、塩類)の量の測定に用いる。
【0180】
50ml反応容器(Falcon tubes)の風袋重量を測定し、次に各容器に約200mgのデンプンを量って入れた。
【0181】
15mlの酢酸Na緩衝液を各々の直鎖状の非水溶性ポリα−1,4−Dグルカン試料およびブランク試料に、20mlの酢酸Na緩衝液を対照(上記参照)の各々に加えた。これらの試料を37℃に予熱した。
【0182】
試料およびブランク試料の個々の反応容器に5mlの酵素溶液を加えて反応を開始し、次にそれらを2時間37℃で振盪(200rpm)した。
【0183】
試料、ブランク試料、および対照へ、5mlの氷酢酸(pH3.0に平衡化した)および80mlの工業用エタノールを加えて反応をクエンチした。
【0184】
クエンチした反応分析液を1時間室温でインキュベーションして、反応混合液からデンプンを沈澱させた。沈降(2500×gで10分間の遠心分離)後に、得られた個々の分析物の沈殿を、短鎖グルカンを除去するために80%エタノールで2回洗浄し、次に−70℃に冷却後凍結乾燥した。試料を再度計量し、重量差を「重量測定」RS含量の計算に用いた。
【0185】
b) RS含量の測定
下記の手順を、非水溶性デンプンの個々のバッチのRS含量の測定に用いた:
a)個々の試料バッチのデンプンの水分含量の測定(wt.H2O)。
b)それぞれの試料(wt.RGP)、対照(wt.RGR)およびブランク試料(wt.RGB)用の個々の反応容器の風袋重量の測定。
c)約200mgの非水溶性デンプンを、試料(wt.P)および対照(wt.R)用の個々の反応容器中へ重量を計って入れる。
d)試料の乾燥分画の重量(wt.Ptr=wt.P−wt.HO)および対照の乾燥分画の重量(wt.Rtr=wt.P−wt.HO)の計算。
e)それぞれの試料およびブランク試料の酵素による消化。対照を同じ方法で、しかし酵素溶液を添加しないで処理する。
f)e)に記述した処理後の、試料、対照、およびブランク試料の反応容器に残存する物質の沈澱、沈降、洗浄、および凍結乾燥。
g)f)に記述した処理後の、試料(wt.PRG)、対照(wt.RRG)、およびブランク試料(wt.BRG)の反応容器に残存する物質の、反応容器を含む重量計測。
h)f)で記述した処理後の反応容器中の残存物質の重量の計算:
試料 (wt.Pnv=wt.PRG−wt.RGP)、
対照 (wt.Rnv=wt.RRG−wt.RGR)、および
ブランク試料(wt.Bnv=wt.BRG−wt.RGB)。
i)f)で記述した処理後の反応容器中の残存物質の水分含量の測定:
試料 (wt.H2OPnv)、
対照 (wt.H2ORnv)、および
ブランク試料(wt.H2OBnv)。
j)f)で記述した処理後の反応容器中の残存物質の乾燥分画の計算:
試料(wt.Pnvtr=wt.Pnv−wt.H2OPnv)、
対照(wt.Rnvtr=wt.Rnv−wt.H2ORnv)、および
ブランク試料(wt.Bnvtr=wt.Bnv−H2OBnv)。
k)補正重量の決定:
試料(wt.Pnvkorr=wt.Pnvtr−wt.Bnvtr)および
対照(wt.Rnvkorr=wt.Rnvtr−wt.Bnvtr)。
l)試料のスタート量の乾燥重量に対する酵素消化後に残存する非水溶性デンプンの補正重量の百分率分画の計算:(RSaP=wt.Pnvkorr/wt.Ptr×100)、
および対照のスタート量の乾燥重量に対する対照の残存する非水溶性デンプンの補正重量の百分率分画の計算:(RSaR=wt.Rnvkorr/wt.Rtr×100)。
m)試料の酵素消化後に残存する非水溶性デンプンの百分率分画の平均値の決定:(RSaPMW=n×RSaP/n)、および
対照の残存する非水溶性デンプンの百分率分画の平均値の決定:(回収率;RSaRMW=n×RSaR/n)、
ここでnは、非水溶性のデンプンのそれぞれのバッチについて行なわれた試料および対照の分析数である。
n)酵素による消化後に残存する非水溶性デンプンの百分率分画の平均値の、回収率での補正による、非水溶性デンプンの個々のバッチの百分率RS含量の決定
(RS=RSaPMW/RSaRMW×100)。
【0186】
方法5:デンプン粒の形態学的および物理化学的性質の測定
デンプン粒形態の分析を、Sonyカラービデオカメラ(CCD-Iris/RGB)を装備した光学顕微鏡(LM)(Axiophot, Germany)、および走査型電子顕微鏡(SEM, JEOL 6300F, Japan)により行なった。LMでは、映像化の前に2倍希釈のルゴール液で顆粒を染色した。SEMでは、銀テープ上に広げて真鍮円板上に装着した乾燥デンプン試料を、20nmの白金層で覆った。次に試料を、1.5〜3.5keVの加速電圧で作動する走査型電子顕微鏡によって検査した。作動距離は9mmであった。デンプン粒を10倍希釈のエリスロシン赤着色剤(赤色歯垢検出剤)(American Dental Trading BV, The Netherlands)で染色することにより、ムタンポリマーをLMで映像化した。ムタンポリマーを、スクロース存在下で連鎖球菌グルコシルトランスフェラーゼ混合物(Streptococcus mutans 20381、S. mutans 6067、および S. sobrinus 6070)により生成し、これを正の対照とした(Wiater et al., 1999)。エキソ−ムタナーゼ(α−1,3−グルカナーゼ、EC 3.2.1.59)を、Trichoderma harzianum F-470により生成した(Wiater and Szczodrak, 2002)。ムタナーゼ分析を、0.2M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)中の0.025Uのエキソ−ムタナーゼ酵素により、10mgのデンプン(遺伝子組換え)存在下、48時間40℃で行なった。短い遠心分離(1分間;10,000g)の後、上清を捨て、デンプン粒をエリスロシン赤着色液で染色した。
【0187】
方法6:ムタンスクラーゼ活性のSDS PAGE分析および染色
タンパク質抽出物を植物組織から調製する。それぞれの植物タンパク質抽出物中のムタンスクラーゼ活性を、タンパク質(約80μgの全植物タンパク質)のSDS PAGE分離、それに続く50mM酢酸ナトリウム緩衝液pH5.3での洗浄によるSDSの除去、およびゲルの50mM酢酸ナトリウムpH5.3、5%(w/v)のスクロース中での37℃16時間のインキュベーションによって検出する(Miller and Robyt, Analytical Biochemistry 156, (1986), 357-363)。スクロースとのインキュベーションの後、ムタンは非水溶性のグルカンであるため、白いバンドがムタンスクラーゼタンパク質の位置に現われる。さらに、エリスロシン赤着色剤でSDSゲルを、上述のようにして(方法5)染色することができる。
【0188】
さらにSDS PAGE分析の感度を増大させるために、スクロースを含むインキュベーション緩衝液にデキストランT10(約5%〜10%)を加えることができる。
【0189】
次の実施例により具体的に本発明が説明されるが、それは決して限定的なものではない。
【0190】
実施例1:成熟または短縮ムタンスクラーゼ遺伝子を含むコンストラクトの調製。
パタチンプロモーター(Wenzler et al., 1989)、Silene pratensisからの葉緑体フェレドキシンシグナルペプチド(FD)(Pilon et al., 1995)およびNOSターミネーターを含む発現カセットを、pBluescript SK(pBS SK)プラスミドへクローンニングして、pPFを得た。S. downei Mfe28からの成熟ムタンスクラーゼ(GtfI)遺伝子(Ferretti et al., 1987)を、フレーム中のシグナルペプチドFDとNOSターミネーターの間にライゲーションした。成熟GtfI遺伝子を、SmaI制限部位を含む順方向プライマー
【表3】


およびEcoR1制限部位を含む逆方向プライマー
【表4】


を用い、校正性Pfu turbo DNAポリメラーゼ(2.5単位/μl;Stratagene)を使用して、PCRによって増幅し、pPFのSmaI/EcoRI制限部位へクローニングして、pPFGtfIを得た。コンストラクトの正しさを確認するために、FDおよび融合GtfI遺伝子を、Baseclear(The Netherlands)によって、1方向に完全に配列決定した。XhoIでpPFGtfIを消化し、pBIN20バイナリーベクター(Hennegan and Danna, 1998)へライゲーションして、pPFIを得た。
【0191】
短縮GtfI遺伝子を含むFD−GtfICAT−NOS融合体の構築のために、GTFI遺伝子を、PCRにより、SmaI制限部位を含む順方向プライマー
【表5】


およびEcoRI制限部位を含む逆方向プライマー
【表6】


を用いて増幅し、pPFのSmaI/EcoRI制限部位へクローニングして、pPFGtfICATを得た。pPFIの場合と同様に、配列決定およびpBIN20バイナリーベクター中へのクローニングを行なってpPFICATを得た。
【0192】
実施例2:ジャガイモ植物の形質転換および再生
pPFIおよびpPFICATをそれぞれAgrobacterium tumefaciens 菌株LBA 4404中に、エレクトロポレーションを用いて形質転換した(Takken et al., 2000)。四倍体ジャガイモ遺伝子型の栽培変種Kardal(KD)の節間茎切片を、Agrobacteriumを介する形質転換に用いた。形質転換体を、カナマイシン(100mg/L)を含むMS30培地(Murashige and Skoog, 1962)を入れたプレート上で選択した。1つのコンストラクト当たり30の、遺伝子組換えの根を形成する若芽を増殖させ、塊茎を成長させるために温室へ移した。18週間後に成熟した塊茎を収穫した。
【0193】
形質転換されたジャガイモ植物系列をそれぞれKDIxxおよびKDICxxと呼ぶ。ここで、IおよびICはそれぞれ、GtfiおよびgtfiCATの遺伝子を指し、またxxはクローン番号を指す。
【0194】
実施例3:デンプンの単離
Sanamat Rotor(Spangenberg, The Netherlands)中でジャガイモ塊茎の皮をむき、ホモジナイズした。得られたホモジェネートを終夜4℃に置き、ジャガイモジュースをデカントして、可溶性ムタンポリマーの特性決定用に−20℃で貯蔵した。デンプンの沈殿を水で3回洗浄し、最後に室温で少なくとも3日間風乾した。乾燥デンプンを粉砕し、室温で貯蔵した。
【0195】
実施例4:半定量的およびリアルタイム定量的RT−PCR分析を用いるGtfIおよびGtfICAT遺伝子の発現分析
選択した遺伝子組換え系統のジャガイモ塊茎材料3g(生重量)から、RNAを、Kuipers et al.(1994)に従って単離した。半定量的RT−PCRのために、50μgの全RNAをDNaseIで処理し、Gene−elute mammalian total RNAキット(Sigma, The Netherlands)を用いて精製した。5μgの全RNAを、65℃で5分間、500ngのプライマーpolydT
【表7】


および12.5mMの各dNTPと共に、12μlの最終ボリューム中でインキュベーションして、逆転写を行った。短い遠心分離(30秒;10,000g)の後、混合物を、4μlの5×first−strand buffer(Invitrogen, The Netherlands)および2μlの0.1M DTTと42℃で2分間インキュベーションした。1μlのSuperScript II RNase H逆転写酵素(200U/μl;Invitrogen)を加えて、混合物を42℃で50分間インキュベーションした。これに続いて、試料を70℃で15分間熱して、反応を止めた。標準PCR反応中で、2.5μlのcDNAを、次のプライマー/Tm/サイクル数の組合せで、下記に述べるように用いた。各組合せに対して、サイクル数を対数期に留まるように最適化した。GtfIRTプライマー、
【表8】


(Tm=59℃、35サイクル)はGtfI遺伝子配列(Ferretti et al., 1987)に基づいていた。Ubi3プライマー、
【表9】


(Tm=55℃、40サイクル)を内部対照として用いたが、それはジャガイモのユビキチンリボソームタンパク質遺伝子配列(Ubi3)(Garbarino and Belknap, 1994)に基づいていた。
【0196】
RT−PCRを、多数の形質転換体に対して行い、種々のPCR生成物のバンド強度に基づいて、KDIまたはKDICの各系列それぞれを3つのクラスに分割した。バンド強度を、内部対照として用いたUbi3(Garbarino and Belknap, 1994)のバンド強度と比較した。これらの形質転換体を、(−)、(+)または(++)と分類した。ここで(−)、(+)および(++)はmRNAの:検出不能レベル、中間レベルおよび高レベル、をそれぞれ表わす。予想通り、GtfI mRNAは、KD−UT植物中では検出されなかった。
【0197】
KDIおよびKDICの系列について、種々のクラスの形質転換体に対するさらなる特性決定を行なった。
【0198】
実施例5:デンプン粒の形態、デンプンへのムタンの付着、植物形態、塊茎数、および収率に対する、ムタン発現の影響
デンプン粒の形態を、一般的方法(方法5)に記述したようにSEMおよびLMによって測定した。両方の手段(SEMとLM)により、KDIおよびKDIC系列について改変されたデンプン粒の存在を観察した。図1は、成熟ムタンスクラーゼ遺伝子(KDI)、または短縮ムタンスクラーゼ遺伝子(KDIC)により形質転換された、選択したジャガイモ植物のデンプンについて行なわれた走査型電子顕微鏡分析によって観察された、野性型Kardal植物(Kardal)のデンプンと比較して修飾されたデンプン顆粒の形態を示す。
【0199】
KDI系統については、デンプンが、突出した形を有する、およびより大きな顆粒に付着した小さな顆粒を有する、異常な形状の顆粒を含んでいた。KDIC系統については、デンプンが、侵食された形および突出した形を有する異常な形状の顆粒を含んでいた。さらに、孔が顆粒表面にしばしば観察された。改変されたデンプン粒の数の定量化を、実施例4でRT−PCRによって定義した各クラス(−)(+)および(++)からの形質転換体について、100個のデンプン粒の集団を三組分析することにより、各系統に対して行なった。図2に、改変されたデンプン粒の%を、非形質転換植物(KD−UT)について、系統KDIの種々のクラスの形質転換体[それぞれKDI14(−)、KDI30(+)、KDI11(++)およびKDI20(++)]について、および系統KDICの種々のクラスの形質転換体[それぞれKDIC1(−)、KDIC22(+)、KDIC14(++)、およびKDIC15(++)]について、示す。改変されたデンプン粒の百分率は、RT−PCRによって決定された中間または高いレベルのムタンスクラーゼmRNAを示す形質転換体について、約20%〜約30%の範囲であった。検出不能なレベルのmRNAを有する形質転換植物については、改変されたデンプンの頻度は約13%である。非形質転換植物については、改変されたデンプンの頻度は約3%である。
【0200】
エリスロシン赤着色溶液を、デンプン粒に付着したムタンポリマーの可視化に用いた。正の対照として、ムタンポリマー(Wiater et al, 1999)がこの着色剤で着色された。興味深いことには、ムタンポリマーがKDIC系統の形質転換体デンプン粒表面に、付着した形でまたはフリーの形で存在した。図3は、KDIC15デンプン粒表面に存在する着色ムタンを示す。KDI系統の形質転換体については着色が観察されなかった。これは非形質転換植物と同程度であった(図3)。KDIC形質転換体デンプン粒をエキソ−ムタナーゼ溶液で処理すると、ほとんどのムタンポリマーがデンプン粒から離れた。それは、結合が単にデンプン粒表面に表面的に存在したことを実証しているのかもしれない。KDIデンプン粒へムタンポリマーが付着しないのは、より低い分子量のムタンポリマーが生成され、それによってそれらの顆粒表面への接着が制限されたためである可能性があろう。
【0201】
KDIおよびKDIC系統については、塊茎数、収率、および植物形態には変化が無く、非形質転換植物と同程度であった。
【0202】
実施例7:Thermo Haakeレオスコープによって測定された粘度計測プロフィールへの、ムタン発現の影響。
成熟ムタンスクラーゼのgtfi遺伝子(KDI)または短縮ムタンスクラーゼのgtficat遺伝子(KDIC)で形質転換されたジャガイモ植物および野生型のKardal植物(Kardal属)ジャガイモ植物から得られたデンプン懸濁液の粘度測定プロフィールを、一般的方法に記述した方法(方法2)を用いて、Thermo Haakeレオスコープにより測定した。
【0203】
次の表は、選択した形質転換体(KDIまたはKDIC)から抽出されたデンプン試料についてのT−開始温度、最小(谷)粘度および終端粘度の、野生型のKardal植物(Kardal)のデンプンと比較した上昇を示す。
【0204】
Kardal、KDIおよびKDIC:2%デンプン溶液からの2つの独立した分析の平均値
【0205】
【表10】

【0206】
実施例8:ムタン発現の、糊のゲル形成特性に対する影響
糊のゲル形成特性(即ちゲル強度)を、一般的方法で詳述した方法(方法3)を用いて、成熟ムタンスクラーゼgtfi遺伝子(ムタンスクラーゼ全長系統030)で、または短縮ムタンスクラーゼgtficat遺伝子(ムタンスクラーゼ短縮系統014、系統015、系統024)で形質転換されたジャガイモ植物から、および野生型Kardal植物(Kardal1およびKardal2)から得られたデンプン懸濁液について測定した。
【0207】
次の表は、成熟したまたは短縮ムタンスクラーゼ遺伝子によって形質転換されたジャガイモ植物から抽出されたデンプン試料についてのゲル強度の、野生型Kardal植物から抽出されたデンプンと比較した増大を示す。
【0208】
【表11】

【0209】
実施例9:ムタン発現の、デンプン消化率に対する影響。
デンプンの消化率を、一般的方法で詳述した方法(方法4)を用いて測定した。測定は、WO 00 02926中のRS含量の測定についての情報に対応して修飾された、抵抗性デンプンIII型の測定のためのEnglyst(European Journal of Clinical Nutrition (1992) 46 (suppl.2), p.33-50)の方法に基づいていた。
【0210】
次の表は、短縮ムタンスクラーゼ遺伝子(KDIC)で形質転換されたジャガイモ植物から抽出された試料についての消化されたデンプンの百分率の、野性型Kardal植物(Kardal)のデンプンと比較した減少を示す。
【0211】
消化されたデンプンの百分率(平均)(%):
【0212】
【表12】


Kardal:4つの独立した測定の平均値
KDIC:4つの独立した測定の平均値
【0213】
言及したすべての出版物、特許出願および特許は、あたかも各出版、特許出願または特許を、具体的にまた個々に、参照により組み入るよう指示したかのように同程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
【0214】
【表13】









【図面の簡単な説明】
【0215】
【図1】成熟ムタンスクラーゼ遺伝子(J−K)または短縮ムタンスクラーゼ遺伝子(L−M)で形質転換された、選択されたジャガイモ植物のデンプンについて行なった、走査型電子顕微鏡分析によって観察された修飾デンプン果粒を、野性型Kardal植物(I)のデンプンと比較している。
【図2】形質変換されていない植物(KD−UT)について、または成熟ムタンスクラーゼ遺伝子[KDI14(−)、KDI30(+)、KDI11(++)、KDI20(++)]で、または短縮ムタンスクラーゼ遺伝子[KDIC1(−)、KDIC22(+)、KDIC14(++)、KDIC15(++)]で形質転換された選択されたジャガイモ植物について観察された、改変されたデンプン粒の百分率。ここで(−)、(+)および(++)は、GtfiまたはGtfiCAT遺伝子の発現されたmRNAの相対的なレベル(それぞれ検出不能な、中間の、および高い)を示す。
【図3】エリスロシン赤着色溶液を用いる、デンプン粒に付着したムタンポリマーの可視化。ムタンポリマーはKDIC15デンプン粒上に存在する(図3C)。KDI系列については着色が観察されなかった。それはKD−UT(図3A)と同程度であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチド中にムタンスクラーゼタンパク質の酵素活性を有することを特徴とする遺伝的修飾植物細胞であって、対応する非遺伝的修飾野生型植物細胞によって合成されたデンプンと比較して修飾されたデンプンを合成する、遺伝的修飾植物細胞。
【請求項2】
植物細胞が、対応する非遺伝的修飾野生型植物細胞によって合成されたデンプンと比較して、増大したT−開始温度、および/または増大した最小粘度、および/または増大した終端粘度、および/または改変された顆粒形態を有する修飾デンプンを合成する、請求項1記載の遺伝的修飾植物細胞。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項記載の遺伝的修飾植物細胞を含む、植物および/またはその子孫。
【請求項4】
デンプン貯蔵植物である、請求項3記載の植物および/またはその子孫。
【請求項5】
ジャガイモ植物である、請求項4記載の植物および/またはその子孫。
【請求項6】
請求項1または2のいずれか1項記載の植物細胞を含む、請求項3〜5のいずれか1項記載の植物の繁殖材料。
【請求項7】
請求項1または2のいずれか1項記載の植物細胞を含む、請求項3〜5のいずれか1項記載の植物の収穫可能部分。
【請求項8】
請求項3〜5のいずれか1項記載の遺伝的修飾植物を作製するための方法であって、
a)植物細胞を、ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子を含む核酸分子で形質転換し、
b)工程a)で得られた植物細胞から植物を再生し、および
c)もし必要なら、工程b)で得られた植物からさらなる植物を生成する、
方法。
【請求項9】
工程a)のムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子が、プラスチドシグナル配列をコードする核酸分子と翻訳的に融合されている、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子を、植物のプラスチドゲノムへ組み入れる、請求項8記載の方法。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項記載の方法、または請求項1または2のいずれか1項記載の植物細胞、あるいは請求項3〜5のいずれか1項記載の植物であって:ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子が:
a)配列番号2に与えられるアミノ酸配列を有するタンパク質、またはスクロースからのムタン合成を触媒する能力を持つその部分、をコードする核酸分子;
b)スクロースからのムタン合成を触媒する能力を持つ、配列番号2に与えられるアミノ酸配列またはその部分と少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質、をコードする核酸分子;
c)配列番号1に示されたヌクレオチド配列またはその相補的配列を含む核酸分子、あるいはスクロースからのムタンの合成を触媒する能力を持つタンパク質をコードするそれらの部分;
d)その核酸配列がa)またはc)に記載された核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する核酸分子;
e)そのヌクレオチド配列が、遺伝子コードの縮重により、a)、b)、c)またはd)に規定された核酸分子の配列から逸脱している核酸分子;および
f)a)、b)、c)、d)またはe)に規定された核酸分子の、断片、対立遺伝子変異体、および/または誘導体に相当する核酸分子、
から成る群より選ばれる、方法、または植物細胞、あるいは植物。
【請求項12】
請求項1〜2のいずれか1項記載の植物細胞から、請求項3〜5のいずれか1項記載の植物から、請求項7記載の植物の収穫可能部分から、または請求項8〜11のいずれか1項記載の方法によって入手可能な植物から、デンプンを抽出する工程を含む、修飾デンプンの製造のための方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法によって入手可能な、修飾デンプン。
【請求項14】
請求項13記載の修飾デンプンが誘導される、誘導デンプンの生産のための方法。
【請求項15】
請求項14記載の方法により入手可能な、誘導デンプン。
【請求項16】
請求項1または2のいずれか1項記載の植物細胞、請求項3〜5のいずれか1項記載の植物、請求項7記載の植物の収穫可能部分、または請求項8〜11のいずれか1項記載の方法により入手可能な植物の、修飾デンプンの生産のための使用。
【請求項17】
請求項1または2のいずれか1項記載の遺伝的修飾植物細胞、請求項3〜5のいずれか1項記載の遺伝的修飾植物、請求項6記載の繁殖材料、または請求項7記載の植物の収穫可能部分を作製するための、ムタンスクラーゼタンパク質をコードする核酸分子の使用。

【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−526220(P2008−526220A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549874(P2007−549874)
【出願日】平成18年1月9日(2006.1.9)
【国際出願番号】PCT/EP2006/000232
【国際公開番号】WO2006/072603
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(507203353)バイエル・クロップサイエンス・アーゲー (172)
【氏名又は名称原語表記】BAYER CROPSCIENCE AG
【Fターム(参考)】