説明

ムービングボルスタ装置

【課題】外段取りにおいてムービングボルスタに下金型を固定力により固定する際、短時間で効率良く固定力を発生させることができ、且つムービングボルスタに備え付けられたエアタンクのエア源を必要としないムービングボルスタ装置を提供すること。
【解決手段】本発明はプレス機に用いられるムービングボルスタ装置Aであって、下金型Dを載置するためのムービングボルスタ1と、該ムービングボルスタ1に向かって下金型Dを押圧し固定するためのクランプ装置3と、該クランプ装置3に作動油を送り込むための電動ポンプ32B及びエア駆動ポンプ32A、を備えていることを特徴とするムービングボルスタ装置A。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレス機の下金型をクランプ装置により固定するためのムービングボルスタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金型を備えた工作機械では、金型を取り付け部に固定するためにクランプ装置が使用されている。
例えば、プレス機で用いられる金型を固定するクランプ装置としては、特許文献1に記載されているようなものがある。
特許文献1に記載されている移動式クランプ装置は、プレス機のスライドの側面に取り付けられるもので、金型を油圧により固定するクランプ装置と、クランプ装置をスライドの中央に向かって水平移動させるための可撓体と、可撓体を引き上げたり、下方へ押し込んだりするための押し引き駆動部と、を備えている。
【0003】
また、ピストンとシリンダとを備えるクランプ装置は、該クランプ装置に接続された油圧発生装置からシリンダ内に作動油が送り込まれると、シリンダが金型を押圧する方向へ移動して金型を固定する。
油圧発生装置が備えるポンプとしては、クランプ力を高めるために使用油圧が高いエア駆動ポンプを用いている。
なお参考として、クランプ力により固定するための油圧発生装置の操作回路の一例を図7及び図8に示す。
【0004】
ところで、プレス機の下金型の交換作業は、稼働率を高める観点から外段取り、すなわちプレス機が稼働している間に予め次ぎの新しい上下金型を取り付けたボルスタを用意しておく、という手順で行なわれることが一般的である。
そして、この上下金型の交換作業を円滑に行なうためにレール上を移動するムービングボルスタが用いられる。
【0005】
ムービングボルスタに下金型を固定する場合にも、エア駆動ポンプがクランプ装置に作動油を送り込む方式のクランプ装置が使用されている。
【特許文献1】特開平9−85362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、油圧発生装置が備えるエア駆動ポンプは、その特性からみて、作動油を高圧で吐出できるものの、その単位時間当たりの吐出量は非常に小さい。
そのため、クランプ装置にクランプ力(固定力)を発生させて下金型を確実に固定するまでに要する時間が長くなり、このことが生産性の低下を招く一因となっている。
下金型を取り付けたムービングボルスタは、プレス機内に移動されるが、この際の固定力は、移動中に下金型がずれない程度の圧力で仮固定できれば足りそれ以上の圧力は必要としない。
しかし、エア駆動ポンプを使った場合は、その特性上、固定力は必要以上に強い圧力となり、余分な圧力が使われることになる。
一方、現在エア駆動ポンプを作動させるためのエア源には、ムービングボルスタ上の油圧発生装置に備えられたエアタンクが用いられている。
【0007】
しかし、このエアタンクは、高い油圧を得るためにエア駆動ポンプを稼働させた場合、一度に多量のエアが消費され、その結果、必要によってはエアの再充填を行なわなければならないという問題が発生する場合がある。
このことは、作業の煩雑さを招くと同時に、プレス機の稼働率を低下させる一因となっている。
一方では、エアタンクを大型化するという解決策も考えられるが、空間上の制限があり採用は難しい状況となっている。
【0008】
本発明は、以上のような技術的背景をもとに開発されたものである。
すなわち、外段取りにおいてムービングボルスタに下金型を固定力により固定する際、短時間で効率良く固定力を発生させることができ、且つムービングボルスタに備え付けられたエアタンクのエア源を必要としないムービングボルスタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、以上のような課題背景をもとに鋭意研究を重ねた結果、クランプ装置に作動油を送り込む油圧発生装置において、電動ポンプを新たに搭載させることで上記の課題を解決できることを見出し、その知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0010】
すなわち、本発明は(1)、プレス機に用いられるムービングボルスタ装置であって、下金型を載置するためのムービングボルスタと、該ムービングボルスタに向かって下金型を押圧し固定するためのクランプ装置と、該クランプ装置に作動油を送り込むための電動ポンプ及びエア駆動ポンプ、を備えているムービングボルスタ装置に存する。
【0011】
また本発明は、(2)、前記エア駆動ポンプにエアを供給するためのエア導入口が、前記ムービングボルスタに設けられている上記(1)記載のムービングボルスタ装置に存する。
【0012】
また本発明は、(3)、前記エア導入口が前記ムービングボルスタの下面に設けられており、該エア導入口がプレス機の備えるエア供給口と接続されることによってエア駆動ポンプにエアが供給される上記(2)記載のムービングボルスタ装置に存する。
【0013】
また本発明は、(4)、クランプ装置が複数設けられている上記(1)記載のムービングボルスタ装置に存する。
【0014】
また本発明は、(5)、プレス機外おいて、前記電動ポンプがクランプ装置を作動させてクランプし、プレス機内に移動した後は前記エア導入口からエアが供給されて、該エア駆動ポンプがクランプ装置を作動させてクランプする上記(2)記載のムービングボルスタ装置に存する。
【0015】
また本発明は、(6)、前記クランプ装置の油圧が前記電動ポンプの吐出圧と同じ大きさになると、電動ポンプが自動的に駆動停止する上記(1)記載のムービングボルスタ装置に存する。
【0016】
また本発明は、(7)、前記電動ポンプと作動油の逆流を防ぐための逆止弁との間に、作動油を貯留するための油タンクへ作動油を戻すためのリリーフバルブが設けられている上記(1)記載のムービングボルスタ装置に存する。
【0017】
また本発明は、(8)、前記油圧発生装置が油圧回路を複数系統備え、各油圧回路にはクランプ装置が取り付けられている上記(4)記載のムービングボルスタ装置に存する。
【0018】
また本発明は、(9)、クランプ装置を使って下金型をムービングボルスタに固定する方法であって、
1)プレス機外において、ムービングボルスタに備わったクランプ装置の油圧を電動ポンプで作動させて高め下金型をムービングボルスタにクランプ力により仮固定させる工程
2)下金型をムービングボルスタに仮固定させた状態で該ムービングボルスタをプレス機内に移動させる工程
3)プレス機内においてムービングボルスタに備わったクランプ装置の油圧をエア駆動ポンプで作動させて更に高め下金型をムービングボルスタにクランプ力により本固定させる工程よりなる固定方法に存する。
【0019】
なお、本発明の目的に添ったものであれば上記の発明を適宜組み合わせた構成も採用可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のムービングボルスタ装置の油圧発生装置には、エア駆動ポンプに加えて敢えて電動ポンプが搭載されており、外段取りにおける下金型へのクランプ力、すなわちムービングボルスタ装置がプレス機の外から中へ移動する間に必要となる下型の固定力は、エア駆動ポンプ使わずに電動ポンプによって発生させる。
そして、ムービングボルスタ装置がプレス機内に移動すると、ムービングボルスタ装置とプレス機自らが備えるエア源とが接続され、電動ポンプに替わってエア駆動ポンプが固定力を発生させる。
【0021】
このように、ムービングボルスタ装置の移動中に必要となる固定力の発生源として、エア駆動ポンプよりも長時間の連続運転が可能である。
すなわち、電動ポンプを用いることで、エア駆動ポンプを使わずに済む上、素早くクランプ力が立ち下金型を固定する時間が速い。
その結果、段取り替えの時間も短縮されプレス機の稼働率も向上する。
またムービングボルスタ装置にエアタンクを必要としないため、エアタンクへのエアの再充填も必要としなくなり、当然、エアタンク自体の大型化も不要である。
【0022】
油圧発生装置に複数系統の油圧回路を設け、且つ各油圧回路にクランプ装置を取り付けると、仮に油圧回路の一つが破損し、その油圧回路に取り付けられたクランプ装置が固定力を発生させることができなくなったとしても、他のクランプ装置には影響がないので金型をクランプし続けることができる。
【0023】
クランプ装置の油圧が電動ポンプの吐出圧と同じ大きさになると電動ポンプが自動で稼働を停止するようにすることで、エネルギーの節約に加え電動ポンプの破損を防止することができる。
さらにこのとき、電動ポンプと作動油の逆流を防ぐための逆止弁との間に、作動油を油タンクへと戻すためのリリーフバルブを設け、設定油圧を超過した場合にこのリリーフバルブが開放されるように設定すると、電動ポンプが破損する可能性をさらに低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。
また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。
更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0025】
図1は、本実施形態のムービングボルスタ装置及びプレス機を示す説明図である。
また図2は、ムービングボルスタ装置が移動した後のムービングボルスタ装置及びプレス機を示す説明図である。
図に示すように、ムービングボルスタ装置Aは上金型D2型及び下金型D1を載置するためのムービングボルスタ1と、該下金型D1をクランプしてムービングボルスタ1に固定するためのクランプ装置3とを備える。
このムービングボルスタ装置Aは、通常、一対で使用され、そのうちの一台がプレス機B内にある時は、別のもう一台はプレス機B外(X1の位置)で待機している。
待機中のムービングボルスタ装置Aのムービングボルスタ1には新しい金型が取り付けられ、次の金型交換のための準備がなされる。いわゆる外段取りである。
【0026】
また、ムービングボルスタ装置Aは、クランプ装置3に作動油を送り込むための油圧発生装置32、すなわち電動ポンプ32B及びエア駆動ポンプ32Aを備えている。
また、ムービングボルスタ1は台車11と、ボルスタプレート12とを備え、台車11はプレス機B外からプレス機BのプレスベッドB1へ向かって敷設されたレール(プレス機外にも延長されている)上を走行する。
また、ボルスタプレート12は台車11に載置され、上金型D2及び下金型D1を支持する。
ムービングボルスタ1が移動する際、上金型D2は下金型D1に対して、図示しないガイドピンにより保持固定される。
プレス機Bの外において待機状態にある新しい金型が固定されたムービングボルスタ1は、金型が交換される際、プレス機B内に移動した後、その新しい金型を使って次のプレス加工が行われる。
【0027】
クランプ装置3はピストン31Bと押圧シリンダ31Aとを有し、油圧により押圧シリンダ31Aは上下に移動する。
また、クランプ装置3は下金型D1の周囲に複数配置されており、的確に下金型D1をムービングボルスタ1に固定することができる。
本発明では、プレス機Bの外において待機状態のムービングボルスタ1に新しい下金型D1が取り付け固定される場合は、電動ポンプ32Bが駆動しクランプ装置3が働いてそのクランプ力により下金型D1が固定される。
詳しくは、電動ポンプ32Bによりクランプ装置3の押圧シリンダ31Aが下がって(図1の矢印参照)下金型D1を押圧し、そのクランプ力によりムービングボルスタ1に下金型D1が固定される。
この場合の固定力は、ムービングボルスタ1の移動中に下金型D1がずれない程度の圧力であり、金型はいわゆる仮固定されることとなる。
【0028】
ムービングボルスタ1の下面には、エア駆動ポンプ32Aにエアを供給するためのエア導入口S1が設けられており、ムービングボルスタ装置Aがプレス機B内のプレスベッドB1に移動すると、プレスベッドB1に設けられたエア供給口S2(プレス機自らが備えるエア源に通じている)とムービングボルスタ1のエア導入口S1とが自動空気継ぎ手Sを介して自動的に接続されて、エア駆動ポンプ32Aにエアが供給される。
【0029】
具体的には、先ずムービングボルスタ装置Aがプレス機B内に移動されプレスベッドB1の所定の位置に到達すると、台車11に設けられた走行輪が接地している部分が沈み、ムービングボルスタ1とプレスベッドB1とが密着する。
このとき、エア導入口S1がプレスベッドB1に形成されたエア供給口S2と接続される。
なお、エア供給口S2に通じるエア源は、プレス機の種々の動作の駆動源となるもので、標準的なプレス機には必ず搭載されている。
エアがエア駆動ポンプ32Aに供給されると、油圧が加わりクランプ装置3の押圧シリンダ31Aが下金型D1をムービングボルスタ1に向かって更に強く押圧して、下金型D1をムービングボルスタ1に固定する。
この場合、既に下金型D1はムービングボルスタ1に対して、小さい固定力により仮固定されているが、エア駆動ポンプ32Aを使うことによって仮固定より更に強いクランプ力が下金型D1に加えられ固定される。いわゆる本固定されるのである。
【0030】
(油圧発生装置の操作回路)
次に本実施形態の油圧発生装置の操作回路を述べる。
図3は本実施形態の油圧発生装置の操作回路における要部を示す概略図であり、図4は本実施形態の油圧発生装置の操作回路を示す系統図である。
図3及び図4に示すように、本実施形態の油圧発生装置32は、作動油を貯留するための油タンクTと、エア駆動ポンプ32Aと、パイプ内の圧力が任意に決定された設定圧に達すると稼動して、リリーフバルブV2を開放する圧力スイッチU1と、クランプ装置3の締め付け圧がエア駆動ポンプ32Aの吐出圧と同じ大きさになると作動する圧力スイッチU2と、電動ポンプ32Bから送り込まれた作動油が逆流することを防ぐための逆止弁V1と、を備える。
【0031】
電動ポンプ32Bと逆止弁V1とを繋ぐ配管Pの途中には、配管P内の圧力が予め設定された大きさになると開放されるリリーフバルブV2が設けられている。
このリリーフバルブV2は油タンクTと繋がっており、これが開放されると配管P内の作動油が油タンクTへと戻るようになる。従って、一旦リリーフバルブV2が開放されると、それ以後電動ポンプ32Bから吐出される全ての作動油は全て油タンクTへと戻る、いわゆるループ回路が形成されるため、電動ポンプ32Bは機能停止状態になる。
【0032】
図3及び図4に示すように、本実施形態の油圧発生装置32が従来の油圧発生装置と異なる点は、クランプ装置3に作動油を送り込むためのポンプとして、エア駆動ポンプ32Aに加え、稼動するために外部から動力(エア)の供給を必要としない電動ポンプ32Bを備えている点である。
【0033】
油圧発生装置32が電動ポンプ32Bを備えることで、ムービングボルスタ装置Aがプレス機外にあるか、或いはプレス機内にあるかによって、エア駆動ポンプ32Aと電動ポンプ32Bとを使い分けてクランプ装置31に作動油を送り込むことができる。
後述するように、ムービングボルスタ装置Aがプレス機外にある場合は、電動ポンプ32Bを使って比較的小さいクランプ力で下金型D1を仮固定し、ムービングボルスタ装置Aがプレス機内にある場合は、エア駆動ポンプ32Aを使ってより大きいクランプ力で下金型D1を本固定する。
【0034】
(下金型をムービングボルスタに固定する方法)
次に、本実施形態のムービングボルスタ装置の作動をもとに下金型D1のムービングボルスタに対する固定方法を説明する。
今、ムービングボルスタ装置Aがプレス機Bの外にあり(図1のX1位置参照)、且つ押圧シリンダ31Aがムービングボルスタ1(厳密にはボルスタプレート12)に載置された下金型D1をアンクランプ状態、すなわち押圧シリンダ31Aに作動油が注入されておらず上方に引き上げられた状態、にあると仮定する。
【0035】
ムービングボルスタ1上の下金型D1を仮固定するために、油圧発生装置32である電動ポンプ32Bが作動を開始し、油タンクTからクランプ装置3へと作動油が送り込まれる。
【0036】
クランプ装置3に作動油が送り込まれ、油圧が上昇し押圧シリンダ31Aが下方に引き下げられて、下金型D1を押圧しクランプ力により固定する。
この固定は、ムービングボルスタ装置Aが移動する際にも下金型D1が横ズレしない程度のクランプ力(締付け圧P1)により行われる固定、すなわち仮固定である。
クランプ装置3に作動油が送り込まれ続けると、押圧シリンダ31Aのクランプ力が電動ポンプ32Bの吐出圧と同じ大きさになり、このとき同時に逆止弁V1と電動ポンプ32Bとを結ぶ配管P内の圧力も電動ポンプ32Bの吐出圧と同じ大きさになる。
そのため、圧力スイッチU1が作動して、リリーフバルブV2が開放され、配管P内の作動油が油タンクTへと戻される。
【0037】
下金型D1が押圧シリンダ31Aのクランプ力によって仮固定されプレス加工に備えての待機状態となる。
そしてプレス機内の金型の交換が必要となった場合には、この新しい下金型D1が仮固定されたムービングボルスタ装置Aがプレス機B内のプレスベッドB1へと移動する。
なお、同時にプレス機B内にあったムービングボルスタ装置Aは、プレス機Bの外に移動する(図2のX2位置参照)。
【0038】
ムービングボルスタ装置Aがプレス機B内の位置まで移動すると、台車11の走行輪が接地しているプレスベッドB1の一部が沈み込み、ムービングボルスタ1の下面がプレスベッドB1に当接する。
このとき、プレスベッドB1に設けられているエア供給口S2と、ムービングボルスタ1に設けられたエア導入口S1とが自動空気継ぎ手Sを介して接続されて、エア駆動ポンプ32Aへプレス機Bのエア源からのエアを供給する準備が整う。
【0039】
エア供給口S2とエア導入口S1とが接続されると、エア供給口S2からエア駆動ポンプ32Aにプレス機Bのエアが供給され、エア駆動ポンプ32Aが稼働し始める。
エア駆動ポンプ32Aによって押圧シリンダ31Aに作動油が送り込まれ、押圧シリンダ31Aが先述した仮固定のクランプ力(締付け圧P1)より高いクランプ力(締付け圧P2、P2>P1)にまで達すると、圧力スイッチU2が起動してランプが点灯する。
この締付け圧では、プレス機の稼働によっても下金型D1は横ズレするようなことはなく確実にムービングボルスタ1に本固定された状態となる。作業者はそのランプの点灯を確認した後、プレス機Bを稼働させることとなる。
【0040】
プレス機Bによる加工が終了し、金型交換のためムービングボルスタ装置Aをプレス機外へ移動させる場合は、押圧シリンダ31Aはクランプ状態のまま、ムービングボルスタ1が上昇し、ムービングボルスタ1をプレス機外の元の位置に移動させる(図1のX1位置参照)。
なお、同時にプレス機外(図2のX2位置)で待機していた新しい金型を積んだムービングボルスタ装置Aが、プレス機B内へ移動する。
【0041】
ムービングボルスタ装置Aをプレス機B外に金型を移動させた後は、油圧を解除して押圧シリンダ31Aを上昇させ、アンクランプ状態にしてムービングボルスタ1(厳密にはボルスタプレート12)から金型を開放させる。
詳しくは、アンクランプ状態にするために切り替えバルブV3が操作されて電磁弁が切り替わり、クランプ装置3と油タンクTとが繋がり、クランプ装置3内の作動油が油タンクTへと戻され、押圧シリンダ31Aがアンクランプ状態になる。
その後、使用した金型はプレス機B外で取り外され、次に備えて新しい金型が取り付けられる。
【0042】
以上のように、本発明の下金型D1の固定方法では、ムービングボルスタ装置Aをプレス機B外からプレス機B内へ移動させる際は、電動ポンプ32Bのみを使って低い固定力で素早く仮固定する。
そのため従来のようにエア駆動ポンプ32Aは使わず、作動油を高圧にはできないが単位時間当たりの吐出量の多い電動ポンプ32Bを使うので仮固定が速く、当然エアタンクも不要である。
一方、ムービングボルスタ装置Aをプレス機B内に移動した後は、プレス機Bが自ら有するエア源により、作動油を高圧にできるが、単位時間当たりの吐出量が少ないエア駆動ポンプ32Aを使って仮固定より更に高いクランプ力で本固定する。
このようにして、本発明においては、下金型D1に必要なクランプ力を状態に応じて使い分けている。
そのため必要のないところに過分なクランプ力を使うことはなく、また金型交換の時間も短縮され極めて効率的である。
【0043】
(第2の実施形態)
本実施形態の油圧発生装置には、油圧発生装置内のパイプに不具合が生じた際に、一度に全てのクランプ装置が機能停止に陥ることを防ぐ工夫が施されている。
図5は第2の実施形態の油圧発生装置の操作回路の系統図である
図5に示すように、本実施形態の油圧発生装置32はエアで駆動するエア駆動ポンプ32Aと、電動ポンプ32Bと、作動油を貯留するための油タンクTと、クランプ装置3A、3Bの締め付け圧が電動ポンプ32Bの吐出圧と同じ大きさになると作動する圧力スイッチU1と、クランプ装置3A、3Bが所定の固定力を発生させると作動する圧力スイッチU2と、を備える。
【0044】
本実施形態の油圧発生装置32が第1の実施形態の油圧発生装置と異なる点は、本実施形態の油圧発生装置32が独立した2系統の油圧回路C1、C2を備えている点である。さらに、各油圧回路C1,C2に対してはクランプ装置3A、3Bが一つずつ接続されている。
【0045】
このように、油圧発生装置32が独立した系統の油圧回路を複数備えることで、万が一、一方の油圧回路C1に不具合が生じ、その油圧回路に接続されたクランプ装置3Aが固定力を発揮できなくなったとしても、もう一方の油圧回路C2に接続されたクランプ装置3Bは生きるので、移動中に金型がボルスタプレート12上でずれたり、ボルスタプレート12から落下したりすることを防止できる。
【0046】
また、図6(A)に示すように一方の油圧回路C1に接続されたクランプ装置3Aと、他方の油圧回路C2に接続されたクランプ装置3Bとをムービングボルスタ1の左側に交互に配設し、ムービングボルスタ1の右側にはムービングボルスタ1の左側とは異なる順序でクランプ装置3A及びクランプ装置3Bを交互に配設するような配設方法がある(図面中の「○」はクランプ装置3Aの配設位置を示し、「×」はクランプ装置3Bの配設位置を示す)。
また、図6(B)に示すようにムービングボルスタ1の右側と左側とで、クランプ装置3A及びクランプ装置3Bを同じ順序で交互に配設するような配設方法もある。
これらのようなパターンでクランプ装置3A及びクランプ装置3Bを配設することで、例えばクランプ装置3Aが固定力を失ったとしても、金型を比較的安定した状態でクランプし続けることができる。
なお当然ながら、油圧発生装置32が備える油圧回路の個数は二つに限定されるものではなく、三つ以上備えてもその効果は変わらない。
【0047】
以上、本発明をその一実施形態を例に説明したが、本発明は上述した実施形態のみに限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
例えば、2台のムービングボルスタ装置を使用した例で説明したが、2台に限定されず、段取り替えの都合上、必要な台数を使えばよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、本実施形態のムービングボルスタ装置及びプレス機を示す説明図である。
【図2】図2は、ムービングボルスタ装置が移動した後のムービングボルスタ装置及びプレス機を示す説明図である。
【図3】図3は、本実施形態の油圧発生装置の操作回路における要部を示す概略図である。
【図4】図4は、本実施形態の油圧発生装置の操作回路を示す系統図である。
【図5】図5は、油圧発生装置の別形態の操作回路を示す系統図である。
【図6】図6は、クランプ装置の配設パターンの一例を示す説明図である。
【図7】図7は、従来の油圧発生装置の操作回路の一例を模式的に示す説明図である。
【図8】図8は、従来の油圧発生装置の操作回路の一例を示す系統図である。
【符号の説明】
【0049】
A・・・ムービングボルスタ装置
1・・・ムービングボルスタ
11・・・台車
12・・・ボルスタプレート
3・・・クランプ装置
31A・・・押圧シリンダ
31B・・・ピストン
32・・・油圧発生装置
32A・・・エア駆動ポンプ
32B・・・電動ポンプ
B・・・プレス機
B1・・・プレスベッド
C1・・・油圧回路
C2・・・油圧回路
D1・・・下金型
D2・・・上金型
P・・・配管
S・・・自動空気継ぎ手
S1・・・エア導入口
S2・・・エア供給口
T・・・油タンク
U1・・・圧力スイッチ
U2・・・圧力スイッチ
V1・・・逆止弁
V2・・・リリーフバルブ
V3・・・切り替えバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス機に用いられるムービングボルスタ装置であって、
下金型を載置するためのムービングボルスタと、
該ムービングボルスタに向かって下金型を押圧し固定するためのクランプ装置と、
該クランプ装置に作動油を送り込むための電動ポンプ及びエア駆動ポンプ、を備えていることを特徴とするムービングボルスタ装置。
【請求項2】
前記エア駆動ポンプにエアを供給するためのエア導入口が、前記ムービングボルスタに設けられていることを特徴とする請求項1記載のムービングボルスタ装置。
【請求項3】
前記エア導入口が前記ムービングボルスタの下面に設けられており、該エア導入口がプレス機の備えるエア供給口と接続されることによってエア駆動ポンプにエアが供給されることを特徴とする請求項2記載のムービングボルスタ装置。
【請求項4】
クランプ装置が複数設けられていることを特徴とする請求項1記載のムービングボルスタ装置。
【請求項5】
プレス機外おいて、前記電動ポンプがクランプ装置を作動させてクランプし、プレス機内に移動した後は前記エア導入口からエアが供給されて、該エア駆動ポンプがクランプ装置を作動させてクランプすることを特徴とする請求項2記載のムービングボルスタ装置。
【請求項6】
前記クランプ装置の油圧が前記電動ポンプの吐出圧と同じ大きさになると、電動ポンプが自動的に駆動停止することを特徴とする請求項1記載のムービングボルスタ装置。
【請求項7】
前記電動ポンプと作動油の逆流を防ぐための逆止弁との間に、作動油を貯留するための油タンクへ作動油を戻すためのリリーフバルブが設けられていることを特徴とする請求項1記載のムービングボルスタ装置。
【請求項8】
前記油圧発生装置が油圧回路を複数系統備え、各油圧回路にはクランプ装置が取り付けられていることを特徴とする請求項4記載のムービングボルスタ装置。
【請求項9】
クランプ装置を使って下金型をムービングボルスタに固定する方法であって、下記1)〜3)の工程からなる固定する方法。
1)プレス機外において、ムービングボルスタに備わったクランプ装置の油圧を電動ポンプで作動させて高め、下金型をムービングボルスタにクランプ力により仮固定させる工程
2)下金型をムービングボルスタに仮固定させた状態で該ムービングボルスタをプレス機内に移動させる工程
3)プレス機内においてムービングボルスタに備わったクランプ装置の油圧をエア駆動ポンプで作動させて更に高め下金型をムービングボルスタに仕様クランプ力により本固定させる工程

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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