説明

メカニカルシール

【課題】機外からシール部にダストやオイルが侵入しないようにする手段を、構造の複雑化やコストアップが極力なく、かつ、高速回転型でも対応できるように改善されたものとして装備されるメカニカルシールを提供する。
【解決手段】回転軸1に対して回転不能に支持される回転密封環4と、ハウジング2に対して回転不能に支持される静止密封環5と、回転密封環4と静止密封環5とを互いに回転軸1の軸心P方向に押付けてシール部Sを形成するための弾性機構6とを有して成るメカニカルシールであって、シール部Sに対する機外側空間部w1にシール用流体を供給するための取込口17をハウジング2に形成し、回転軸1と一体回転する回転体7の周面7Sとハウジング2の周面2Sとが軸心P方向又は軸心Pに対する径方向で近接配備されて成る環状狭小経路w2が、取込口17よりも機外側となる箇所に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ、コンプレッサ、攪拌器等に用いられることの多いメカニカルシールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のメカニカルシール、即ち、回転軸に対して回転不能に支持される回転密封環と、シールハウジングに対して回転不能に支持される静止密封環と、回転密封環と静止密封環とを互いに回転軸の軸心方向に押付けてシール部を形成するための弾性機構とを有して成るメカニカルシールとしては、特許文献1において開示されたものが知られている。
【0003】
メカニカルシールでは構造上漏れを皆無にすることはできず、従って通常は極微量の漏れ(単位時間当たりの微量の漏れ量)を考慮した設計が為されるものであり、特許文献1にて開示されるアウトサイド型メカニカルシールのように、漏れ流体が飛散することによる不都合を防止するカバーが装備されている場合もある。
【0004】
メカニカルシールは大気等の機外側と機内側とをシールするものであるから、機外側からシール部に塵埃等のダストが及んでシール部に悪影響を及ぼすおそれがある。例えば、シール対象流体が油等の高圧流体であって機内側が機外側よりも高圧となる場合には、漏れ油にゴミや埃が付着して硬化し、密封環の摺動の妨げとなって結果的シール機能が損なわれるおそれがある。また、シール対象流体が1気圧未満の蒸気等の負圧流体であって機内側が機外側よりも低圧となる場合には、機外から機内に空気が漏れ入ることからダストがシール部により一層及び易くなる不利がある、といった具合である。
【0005】
そこで、従来では、ダスト対策として、シール部に対する機外側空間部を、オイルシール、ブッシュ、セグメントシール等の接触型シールを用いて塞ぐ手段や、前記機外側空間部を形成するハウジングと回転軸側の部材とを互いに近接配置してのラビリンスシール等による非接触型シールを用いて経路へのダスト侵入を規制する手段が企図されていた。
【0006】
しかしながら、接触型シールを用いる手段では、ダスト侵入がまず生じないようにできる点は好ましいが高速回転する機器には対応できない場合がある。そして、非接触型シールを用いる手段では、高速回転する機器でも適合するが、非接触であるが故にダスト侵入のおそれが残るという根本的な問題がある。また、非接触型シールを用いる手段では、シール性を向上させるために外部からパージガス等のシール用流体を別途に供給しなければならない場合もあり、その場合には構造の複雑化やコストアップする問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−336912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記実情に鑑みて、機外からシール部にダストが侵入しないようにする手段を、構造の複雑化やコストアップが極力なく、かつ、高速回転型でも対応できるように改善されたものとして装備されるメカニカルシールを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、回転軸1に対して回転不能に支持される回転密封環4と、シールハウジング2に対して回転不能に支持される静止密封環5と、前記回転密封環4と前記静止密封環5とを互いに回転軸1の軸心P方向に押付けてシール部Sを形成するための弾性機構6とを有して成るメカニカルシールであって、
前記シール部Sに対する機外側空間部w1にシール用流体を供給するための取込口17を前記ハウジング2に形成し、前記回転軸1と一体回転する回転体7を設け、前記回転体7の周面7Sと前記ハウジング2の周面2Sとが前記軸心P方向又は前記軸心Pに対する径方向で近接配備されて成る環状狭小経路w2が、前記取込口17よりも機外側となる箇所に形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のメカニカルシールにおいて、前記機外側空間部w1が前記シール部Sに対する径外側に配置されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のメカニカルシールにおいて、前記シール部Sに対する高圧側が前記機外側空間部w1になる状態に設定されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載のメカニカルシールにおいて、前記ハウジング2の内周面2cとで前記環状狭小経路w2を形成する外周面7cを有する前記回転体7の前記外周面7cに、前記回転体7の回転に伴って前記シール部Sから離れる方向に螺進する排出用螺旋溝16が形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載のメカニカルシールにおいて、前記ハウジング2の内周面2cとで前記環状狭小経路w2を形成する外周面7cを有する前記回転体7の前記外周面7cに、径内側方向に凹入する窪み25が一又は複数設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載のメカニカルシールにおいて、前記窪み25が、前記シール部Sから軸心P方向で遠い側の端面21に開口するように軸心P方向で偏らせて形成されていることを特徴とするものである。
【0015】
請求項7に係る発明は、請求項1〜6の何れか一項に記載のメカニカルシールにおいて、前記回転体7がフッ素樹脂製のものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、回転体とハウジングとで成る環状狭小経路がシール部に対する機外側空間部に存在することにより、オイルミスト、ゴミ、塵等のダストが機外からシール部に及ぶことを抑制又は規制する非接触シールのような機能を生むようになる。加えて、機外側が機内側よりも低圧となる場合には、シール部に侵入しようとするダストを機外側へ押出す作用が生じ、機外側が機内側よりも高圧となる場合には、シール部から機内側に漏れる流体をシール用流体とすることができてダスト侵入を阻む作用が生じるといった具合に、取込口から機外側空間部に供給されるシール用流体によっても機外からダストがシール部に及ぼうとすることを抑制又は規制できるようになる。その結果、機外からシール部にダストが侵入しないようにする手段を、構造の複雑化やコストアップが極力なく、かつ、高速回転型でも対応できるように改善されたものとして装備されるメカニカルシールを提供することができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、機外側空間部がシール部に対する径外側に配置されているので、ハウジングから機外側空間部にシール用流体を供給するための取込口や経路を、構造簡単で容易に配置レイアウトすることが可能となる利点がある。
【0018】
請求項3の発明によれば、シール部に対する高圧側が機外側空間部であって、シール部の漏れ状況としては機外側から機内側に流体が流れるようになるが、ダストの機外からの侵入経路よりも取込口がシール部に近いことから、機内側に流れ込む流体は完全なまでにシール用流体とすることが可能になとともに、供給されるシール用流体の存在により、機外から侵入してこようとするダストを物理的に阻止する作用も期待できる。従って、機内側が低圧となる不利な条件でも、機外側からのダスト侵入防止がよく機能する好ましいメカニカルシールを提供することができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、回転に伴ってシール部から離れる方向に螺進する排出用螺旋溝が回転体の外周面に形成されているから、回転軸と一体回転する回転体が排出用螺旋溝によって狭小経路にシール部から遠ざかる方向の流れを生起させるようになり、機外からシール部へのダスト侵入を阻む作用が推進補強されるので、請求項1〜3の発明による効果がより強化される利点がある。
【0020】
請求項5の発明によれば、回転体の外周面に径内側方向に凹入する窪みを一又は複数設けられているから、回転軸が回転しているときには、窪みを持つ外周部の回転に伴って狭小経路は乱気流等による流動状態となり、それによって機外からのダスト侵入防止作用が期待でき、請求項4の発明による前記効果と同等の効果を得ることが可能になる。この場合、請求項6のように、シール部から軸心方向で遠い側の端面に開口するように軸心方向で偏らせて窪みを形成すれば、機外側からのダスト侵入がより効果的に規制可能となる利点がある。
【0021】
請求項7の発明によれば、耐薬品性や耐熱性、そして撥水性にも優れるフッ素樹脂で回転体、即ち流動促進部を構成すれば、ダストや水分や油分を弾いて請求項1〜6の発明による効果がより強化されて好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】メカニカルシールの全体構造を示す断面図(実施例1)
【図2】図1の要部を示す断面図
【図3】図2における移送促進部を示す要部の平面図
【図4】メカニカルシールの全体構造を示す断面図(実施例2)
【図5】図4の要部を示す断面図
【図6】図5における移送促進部を示す要部の平面図
【図7】別構造の移送促進部の要部を示す(a)平面図、(b)側面図(実施例3)
【図8】他の別構造による移送促進部を示す要部の平面図(実施例4)
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明によるメカニカルシールの実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0024】
〔実施例1〕
図1,図2に、負圧である機内側と大気である機外側とをシールするメカニカルシールAが示されている。1は軸心Pを持つ回転軸1、2は回転軸1を囲繞するハウジング、3は回転軸1に外嵌固定されるスリーブ、4はスリーブに支持される回転密封環、5は弾性機構6を介してハウジング2に支持される静止密封環、7はスリーブ3に外嵌固定される回転体である。
【0025】
略筒状のスリーブ3はOリング8を用いて回転軸1にシール外嵌され、かつ、軸ボルト9を用いて軸心方向移動及び相対回動移動不能に回転軸1に固定されている。Sic(他の材料でも良い)製でリング状の回転密封環4は、Oリング10を用いてのシール状態で、かつ、スリーブ3に植設されるピン13を用いて相対回動不能に、かつ、スリーブ3の内向きフランジ3aに密内嵌されることで軸心P方向に移動しての取出し及び組付けが可能にスリーブ3に嵌装されている。つまり、回転密封環4、スリーブ3を介して相対回転不能に(一体回転状態に)回転軸1に外嵌支持されている。
【0026】
ハウジング2には、軸心Pに関する径方向に明確な隙間を持ってスリーブ3に外嵌するフランジ部2aが形成されており、そのフランジ部2aには横向きで奥止り状の凹入リング溝11が形成されている。凹入リング溝11には、Oリング14を用いて溝外周面11aにシールされ、かつ、軸心P方向に移動可能なリング状のリテーナ12、及びリテーナ12を回転密封環側(図1の紙面左側)へ押圧付勢する複数のコイルスプリング6が配備されている。そして、溝外周面11aの先端部にはカーボン(他の材料でも良い)製の静止密封環5が軸心P方向に相対移動可能に密外嵌されており、Oリング14を介して又は直接にリテーナ12に軸心P方向で当接可能である。
【0027】
静止密封環5は、シールハウジング2に対して回転不能で、かつ、軸心P方向に移動可能(スライド移動可能)に支持されており、リテーナ12を介して複数のコイルスプリング6よる押圧付勢力を受ける。従って、静止密封環5における軸心Pに直交する端面(側周面)であるシール面5aと、回転密封環4のシール面4aとが軸心P方向で押圧接触されてシール部Sが形成される構成となっている。つまり、複数のコイルスプリング6は、回転密封環4と静止密封環5とを互いに回転軸1の軸心P方向に押付けてシール部Sを形成するための弾性機構として機能する。尚、15は、静止密封環5の溝外周面11aからの抜け出しを防止するためのスナップリングである。
【0028】
上記シール部Sの存在により、機外側からの大気が負圧の機内側に入り込まないようにシールするメカニカルシールAが構成されている。そして、メカニカルシールAにおいては、機外側からオイルミスト、ゴミ、塵等のダストがシール部Sに及び難くするための工夫が為されている。即ち、図1,図2に示すように、シール部Sに対する機外側空間部w1にクリーンエアである空気(シール用流体の一例)を供給するための取込口17をハウジング2に形成し、回転軸1と一体回転する回転体7を設け、回転体7の外周面7c(周面7Sの一例)とハウジング2の内周面2c(周面2Sの一例)とが軸心P方向に対する径方向で近接配備されて成る環状狭小経路w2を、取込口17よりも機外側となる箇所に形成してある。
【0029】
回転体7は、図1〜図3に示すように、回転軸1と一体回転する状態にスリーブ3の機外側端部に外嵌されており、スリーブ3に外嵌する環状部7Aと、スリーブ3に軸心P方向で当接してボルト止めされる本体部7Bと、本体部7Bから大気側に突設される環状のテーパ翼部7Cとを有して断面形状が略T字状を呈するリング状のものに形成されている。回転体7には、ハウジング2の中間側周面2bと対を為して略ドーナツ状の機外側空間部w1を形成するための環状の内側周面7aと、ハウジング2の内周面2cと対を為して軸心P方向に沿い、かつ、径方向幅の至極小さい膜状空間部である環状狭小経路w2を形成する外周面7cとを有している。テーパ翼部7Cは、軸心P方向で機外側に行くほど径が大となるテーパ内周面7bを有して断面形状が先尖り形状に設定されており、その形状によって機外側から環状狭小経路w2にダストが入り難いようにされている。
【0030】
機外側空間部w1は、主にハウジング2の中間側周面2bと内周面2c、及び回転体7の内側周面7aとで囲まれてシール部Sの径外側に臨む状態に形成される環状の空間部分であり、その径外側部分に環状狭小経路w2が連通されている。そして、ハウジング2の内周面2cにおける最も中間側周面2b寄り(機内側寄り)の位置、即ち、環状狭小経路w2の最機内側端の位置にて機外側空間部w1に開口するように空気の取込口17が形成されている。また、ハウジング2の内周面2cにおけるテーパ翼部7Cの径外側に相当する箇所にシール用流体の出口としての排出口18が形成されている。
【0031】
つまり、実施例1によるメカニカルシールAにおいては、機外側空間部w1がシール部Sに対する径外側に配置され、かつ、シール部Sに対する高圧側が機外側空間部w1になる状態に設定されている。そして、回転体7の回転に伴って環状狭小経路w2を流動状態にする流動促進部Rが回転体7に形成されている。即ち、図2,図3に示すように、流動促進部Rは、回転体7の回転に伴ってシール部Sから軸心P方向で離れる方向に螺進する排出用螺旋溝16を外周面7cに形成することで構成されている。回転体7の材料としてはフッ素樹脂等の合成樹脂材、ステンレス等の金属、或はその他でも良い。排出用螺旋溝16が外周面7cに形成されることにより、環状狭小経路w2の径方向幅に広い狭いが生じるので、ラビリンスシールのような機能も発揮可能である。
【0032】
しかして、流動促進部Rにより、回転体7(回転軸1)の矢印イ方向(図1参照)への回転によって環状狭小経路w2にシール部Sから軸心P方向で遠ざかる方向(矢印ロ)の流れを生起させるように構成されている。従って、回転軸1が回転しているときには、環状狭小経路w2には機外側空間部w1から機外側に向かう排出方向の流れ(流動状態の一例)が発生していることになり、機外側(大気側)からオイルミスト、ゴミ、塵等のダストがシール部Sに及ぶべく環状狭小経路w2にまず侵入できないように機能し、シール部Sの機外側(径外側)をクリーンな環境に維持することができる。
【0033】
図1,図2において、ハウジング2の内周面2cには空気(パージ流体)の取込口17と排出口(ドレン)18とが設けられ、機外側空間部w1に供給される空気は、その極一部はシール部Sからの漏れ流体として、静止密封環5及びフランジ部2Aとスリーブ3との間に形成される機内側空間部(シール部Sに対する機内側空間部)w3を通って機内側に流れて行く。そして、供給されてくる空気の殆どは、流動促進部Rによる排出作用と相俟って、矢印ロ(図2参照)の向き、即ち環状狭小経路w2を機外側に向かう方向に流れて行き、一部は機外側に排出されるが大部分が排出口18に流れるようになる。排出用螺旋溝16は、軸心P方向において取込口17から排出口18までの間隔をカバーするように、回転体7の全幅(軸心P方向の全幅)に亘って形成されている。
【0034】
従って、機内側が負圧であってシール部Sの漏れにより機外側から機内側に空気が流れる状態となる実施例1のメカニカルシールAにおいては、たとえ機外側からシール部Sに向かってダストが侵入しようとすることがあっても、径方向幅の小さい感情狭小経路w2に入り込むこと自体が困難で取込口17から供給されるシール用流体(空気)の自然な機外側へ向かうながれ、及び流動促進部Rによるシール用流体の機外側への押出し方向流れにより、ダストが機外側に強制移送されてシール部Sに及ぶことが完全なまでに防止されるようになる。従って、機外側空間部w1、即ちシール部Sの機外側がクリーンな状況に維持され、良好なシール性能を長期に亘って発揮可能となる。
【0035】
図1,図2に示すメカニカルシールAは、回転密封環4のシール面4aに溝(グルーブ)26を設けて、回転に伴って静止密封環5から軸心P方向で離れようとする圧力を生じる非接触型のメカニカルシールに構成しても良い。非接触型メカニカルシールである場合には機外側から負圧である機内側へのシール部Sからの漏れ量(単位時間当りの侵入量)が多くなるが、その漏れる流体はクリーンエア等のシール用流体であるから、機内側へダストが侵入することはまず生じない。また、取込口17から排出口18へ向かうシール用流体の流れと流動促進部Rによる空気の強制排出作用とが有効に機能し、非接触型においてもダストがシール部Sに及ばない好ましいものとなる。
【0036】
〔実施例2〕
実施例2によるメカニカルシールAは、図4,図5に示すように、シール部Sの基本構成については実施例1のものと同等であり、同じ機能の部材には同じ符号を付けてその説明がなされたものとする。例えば、機内側のシール対象流体として真空又は真空に近い超低圧流体が挙げられる。
【0037】
ハウジング2は、凹入リング溝11を有する内周部2Aと、これに外嵌する本体部2Bとを有して構成されているが、仮想線で示すカバー部2Cを持つ構造を採っても良い。本体部2Bには、回転体7の外周面7c(周面7Sの一例)との間に環状狭小経路w2を形成する内周面19(周面2Sの一例)が形成されるとともに、機外側空間部w1に開口するシール用流体(クリーンエア)の取込口17が形成されている。
【0038】
カバー部2Cは、本体部2Bの内周面19よりも大径の大径内周面20を有しており、その大径内周面20と回転体7の外周面7cとの間に明確な径方向間隔を持つ飛散空間部w4が形成されている。大径内周面20に続く内向き突出フランジ27がカバー部2Cに形成されており、その内周面22と回転軸1の外周面1aとによって環状間隙経路23が形成されている。また、内向き突出フランジ27の内側周面24と回転体7とは軸心P方向で比較的接近するように構成されており、それによって回転体7やそのテーパ内周面7bや回転体1の外周面1a、及び内側周面24等によって滞留空間部w5が形成されているちお好都合である。
【0039】
図5,図6に示すように、フッ素樹脂製の回転体7の外周面7cはフラットな平面に仕上げられている。フッ素樹脂は水分、油分等の流体成分を弾く性質があるので、機外側から環状間隙経路23及び滞留空間部w5を経て飛散空間部w4に侵入して来るオイルミスト、ゴミ、埃等のダストは、外周面7cで弾かれて飛散空間部w4内で飛散して攪拌され、完全なまでに排出口18から排出(回収)されるようになる。フッ素樹脂製の外周面7cと飛散空間部w4とで流動促進部Rが構成されている。また、環状狭小経路w2には機内側から機外側に向かうシール用流体の流れが生じているので、そのいわば排出流によるダスト押出し作用と、もともと小なる径方向間隙によってダストの侵入が抑制される作用とにより、機外側からシール部Sにダストが及ぶことが防止され、シール部Sの環境がクリーンに維持されるようになる。
【0040】
また、隙間寸法を小さくするという物理的な手段によってダスト侵入を抑制又は規制する環状狭小経路w2の径方向寸法をさらに小さくすれば、ダスト侵入作用を強化できて好都合である。尚、実施例2のメカニカルシールAにおいても、回転密封環4のシール面4aに溝(グルーブ、動圧溝)26(図5参照)を形成することにより、前述した非接触型のメカニカルシールとして構成しても良い。
【0041】
〔実施例3〕
回転体7としては、図7(a),(b)に示すように、非テーパ形状の環状突設部7Cを有し、その環状突設部7Cに周方向に等間隔(不等間隔でも良い)で複数の凹球面状の窪み25が形成されて成るものでも良い。つまり、回転体7の外周面7cに径内側方向に凹入する窪み25を一又は複数設けることで流動促進部Rが構成され、それら窪み25が、シール部Sから軸心P方向で遠い側の端面21に開口するように軸心P方向で偏らせて配置される状態で形成されている。
【0042】
窪み25の存在により、環状狭小経路w2や飛散空間部w4を攪拌させることができ、それによってダストがシール部Sに向かおうとする動きの抑制や規制、並びに飛散されたり攪拌されたりするダストの排出口18からの回収促進作用を得ることが可能となる。尚、窪み25は、外周面7cにおける軸心P方向でシール部Sから近い側や、中間の位置に設けても良い。
【0043】
〔実施例4〕
回転体7としては、図8に示すように、環状部7Aと対象で同等形状の環状突設部7Cを持つ断面T字形状のものにおいて、その環状突設部7Cに等間隔(不等間隔でも)で複数の円柱穴(窪みの一例)25が形成されて成るものでも良い。つまり、外周面7cに一又は複数設けられる円柱穴25によって流動促進部Rが構成されており、それによる作用効果は、実施例3による流動促進部Rのものと同等と考えられる。
【0044】
〔別実施例〕
実施例1,2は、静止密封環5を軸心P方向に押圧付勢してシール部Sを構成させる構造であるが、回転密封環4を軸心P方向に押圧付勢してシール部Sを構成する構造や、機内側が機外側よりも高圧となる構造のメカニカルシールでも本発明の適用は可能である。そして、例えば、図2において、回転体7の内側周面7aとハウジング2の中間側周面2bとを軸心P方向で極めて接近させることで環状狭小経路w2を構成する、という構造を採ることも可能であり、それら側周面2b,7a、内周面2c,19、外周面7c等を総称して周面2S,7Sと呼ぶものとする。また、流動促進部Rは、環状狭小経路w2を掻き混ぜ(攪拌)たり、シール部Sから遠ざかる方向の流れを生じさせたり、回転体7で流体を弾け飛ばしたり、といった現象を起こす構成の総称であるとする。
【0045】
また、テーパ翼部7Cを攪拌翼として、その攪拌翼の回転により、周辺流体に流れや圧力が発生し、メカニカルシールにとって有害なダストをシール部Sの近傍に寄せ付けない効果を発揮することができる、と見ることもできる。また回転力によりバリア(流れ)が作られるので特別な外部流体なしでも実施可能。
【符号の説明】
【0046】
1 回転軸
2 ハウジング
2c 内周面
2S 周面
4 回転密封環
5 静止密封環
6 弾性機構
7 回転体
7c 外周面
7S 周面
16 排出用螺旋溝
17 取込口
21 軸心方向で遠い側の端面
25 窪み
P 軸心
S シール部
w1 機外側空間部
w2 環状狭小経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に相対回転不能に支持される回転密封環と、ハウジングに相対回転不能に支持される静止密封環と、前記回転密封環と前記静止密封環とを互いに回転軸の軸心方向に押付けてシール部を形成するための弾性機構とを有して成るメカニカルシールであって、
前記シール部に対する機外側空間部にシール用流体を供給するための取込口を前記ハウジングに形成し、前記回転軸と一体回転する回転体を設け、前記回転体の周面と前記ハウジングの周面とが前記軸心方向又は前記軸心に対する径方向で近接配備されて成る環状狭小経路が、前記取込口よりも機外側となる箇所に形成されているメカニカルシール。
【請求項2】
前記機外側空間部が前記シール部に対する径外側に配置されている請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記シール部に対する高圧側が前記機外側空間部になる状態に設定されている請求項1又は2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記ハウジングの内周面とで前記環状狭小経路を形成する外周面を有する前記回転体の前記外周面に、前記回転体の回転に伴って前記シール部から離れる方向に螺進する排出用螺旋溝が形成されている請求項1〜3の何れか一項に記載のメカニカルシール。
【請求項5】
前記ハウジングの内周面とで前記環状狭小経路を形成する外周面を有する前記回転体の前記外周面に、径内側方向に凹入する窪みが一又は複数設けられている請求項1〜3の何れか一項に記載のメカニカルシール。
【請求項6】
前記窪みが、前記シール部から軸心方向で遠い側の端面に開口するように軸心方向で偏らせて形成されている請求項5に記載のメカニカルシール。
【請求項7】
前記回転体がフッ素樹脂製のものである請求項1〜6の何れか一項に記載のメカニカルシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−149489(P2011−149489A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11179(P2010−11179)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】