説明

メカノケミストリー処理の方法

【課題】短時間で且つスケールアップも容易なボールミル粉砕機等による粉砕方法を提供すること。
【解決手段】1種又は2種以上の粒状原料52を、粉砕媒体54を装入した粉砕筒を備える粉砕機に供して粉砕して、メカノケミストリー処理することにより化学的変性品(製品)を製造する方法。粉砕機として、公転(旋回)により振動を発生させる旋回方式粉砕装置を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状原料のボールミルを用いてメカノケミストリー処理をする方法に関し、さらに詳しくは、1種又は2種以上の粒状原料を、粉砕媒体(ボール)を装入した粉砕筒を備えるボールミル粉砕機に供して粉砕し、メカノケミストリー処理することにより化学的変性品(製品)を製造する方法に関する。
【0002】
ここでは、メカノケミストリー処理として、メカニカルアロイングを例に採り説明する。
【背景技術】
【0003】
非特許文献1に、各種ボールミルを用いて、メカニカルアロイング(MA:Mechanical Alloying)による合金合成の技術が紹介されている。
【0004】
そして、同文献1第103〜104頁の「(2)メカニカルアロイングの長所と短所」には、下記記載がある。
【0005】
「メカニカルアロイングの特徴の一つは、原料を溶解せずに固体状態のままで合金化できる点にある。そのため、従来の溶解鋳造による合金合成法であった制限が少ないという利点がある。例えば、ニオブ・錫合金やニオブ・アルミニウム合金のように成分の融点差が極めて大きい合金の作成が容易である。また、コバルト・マグネシウム合金のように成分の比重差が極めて大きい合金は、溶解中に比重差により重い成分が下に沈み、軽い成分が上に浮くため、組成が均一な合金を作成することが困難であるが、メカニカルアロイングでは比重差に無関係な均一な組成の合金を作成することができる。タングステンやニオブなどの高融点金属の合金も溶解しないので容易に合成することができる。また、チタンやマグネシウムのように溶解すると極めて活性になりほとんどルツボ材と反応してしまうような活性金属の合金も容易に合成することができる。
【0006】
さらに、Schwartzらにより、メカニカルアロイングによるアモルファス合金形成の報告がされて以来、アモルファス合金だけでなく、ナノ結晶粒合金、過飽和固溶体合金などの熱に弱い不安定な合金も容易に合成できることが多数見出され、メカニカルアロイングは新しい金属材料の開発手段として期待されるようになった。特に、アモルファス合金合成の研究は盛んに行われている。Schultzによると、メカニカルアロイングにより合成したアモルファス合金の原子構造は、メルトスピン法(溶解した合金を超急冷する方法の一つ)によって作成したアモルファス合金構造とほとんど同じである。それまでアモルファス合金の研究に必要であったメルトスピン型超急冷凝固装置などの高価な設備がなくても、手軽に合成できるようになり、メカニカルアロイングによるアモルファス合金の研究が盛んになった。
【0007】
メカニカルアロイングの短所は、合成に時間を要する点と、粉砕操作に比較してボールミルで1回に処理できる量が少ない点である。そのため、溶解鋳造法と比較して合金合成のコストが高くなる傾向がある。」
そして、同文献第104頁の「(3)メカニカルアロイングに用いられるボールミル」の項には、下記記載とともに模式図(本願添付の図1として引用)が記載されている。
「メカニカルアロイングには、主として高エネルギーボールミルと呼ばれる攪拌ボールミル、遊星ボールミル、振動ボールミルが用いられる。」と記載されるとともに、「これらの高エネルギーボールミルは、入力エネルギーが大きく、数時間〜数十時間の比較的短い時間で合金を合成することができる場合が多いが、スケールアップが容易でないため、大量生産には不向きである。・・・回転ボールミルなどの低エネルギーボールミルでも数十〜数百時間と時間がかかるが合金を合成することができる。また、回転ボールミルは構造が単純で、比較的安価であり、スケールアップも容易という利点がある。」
なお、本発明の特許性に影響を与えるものではないが、関連先行技術文献として、特許文献1・2等を挙げることができる。
【0008】
なお、特許文献1・2には、「ボールミル粉砕を用いて、メカニカルアロイング法で、異質複合粉末粒子(SiC粉末)を製造する方法」が記載されている。なお、特許文献1には、さらに異質複合粉末粒子は、ラメラ構造を有することが記載されている。
【0009】
また、本発明で使用するのと類似する旋回式粉砕装置(遠心ミル:偏心ミルとも称されることがある。)が、特許文献3において提案されている。
【0010】
しかし、特許文献3においては、メカニカルアロイング(メカノケミストリー処理)を予定していない。
【非特許文献1】明誠企画株式会社「先端粉砕技術と応用」(有)エヌジーティー、2005年9月25日、p103〜104
【特許文献1】特開2006−152442号公報
【特許文献2】特開2004−35327号公報
【特許文献3】特開平10−34000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
昨今、さらに、短時間で且つスケールアップも容易なボールミル粉砕機等による粉砕方法の出現が希求されている。
【0012】
本発明は、上記要請に応えることができるボールミル粉砕機等によるメカノケミストリー処理の方法を提供することを目的(課題)とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意開発に努力をする過程で下記知見を得た。
【0014】
特許文献3に記載されている構成の旋回方式粉砕装置により、粒状原料を粉砕してメカニカルアロイングをした場合、前述の如く、メカニカルアロイングに一番適しているとされていた効率の良好な遊星ボールミルに比して、予測を超えた短時間で、メカニカルアロイングによる粉体複合材を得ることができる。
【0015】
そして、上記知見に基づいて、下記構成のメカノケミストリー処理の方法に想到した。
【0016】
1種又は2種以上の粒状原料を、粉砕媒体を装入した粉砕筒を備える粉砕機に供して粉砕して、メカノケミストリー処理することにより化学的変性品(製品)を製造する方法であって、
粉砕機として、公転(旋回)により振動を発生させる旋回方式粉砕装置を使用することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の望ましい形態について、説明する。
【0018】
本発明に使用する旋回式粉砕装置(偏心ミル)の一例及びその原理を図2〜4に示す。ここでは、粉砕筒一筒式の場合を例に採ったが、特許文献3の図1・2に示すような粉砕筒二筒式でも同様である。
【0019】
基本的構成は、粉体媒体及び被粉砕物が充填された(円)筒形の粉砕容器(粉砕筒)12を、複数(図例では一対:2本)のクランク(偏心シャフト)14により旋回(公転)させる如く、絶対座標系に対して自らは回転させることなく、その絶対座標系の原点Oの周りを旋回(旋回軌跡L)させる如くして、容器(粉砕筒)内部に充填された粉砕媒体及び被粉砕物に対し、遠心力を発生させて粉砕可能としたものである(図符号以外は、特許文献3の請求項1から引用)。なお、図3において、英小文字a、b、c、dは、それぞれ、粉砕筒12a、12b、12c、12dの中心位置を示す。
【0020】
より具体的には、下記のとおりである。
【0021】
各偏心シャフト14は、大径部(クランク腕)14aと、大径部の両側偏心位置に形成される小径部(クランク軸)14bとで構成される。
【0022】
該一対の小径部(クランク軸)14bは、固定支持台16に配された一対の主軸受け(固定軸受け)18、18に支持される。小径部(クランク軸)14bには、それぞれ、カウンタウェイト(バランスウェイト)20が取り付けられ、振動モーメントが打ち消され、実質的に振動が発生しないようになっている。
【0023】
各偏心シャフト14の一方側の小径部(クランク軸)14aには、自在軸継手(ユニバーサルジョイント)22を介して、駆動モータ24に連結される。
【0024】
他方、一対の偏心シャフト14の大径部(クランク腕)14aは固定支持されていない副軸受け(浮動軸受け)26が装着されている。そして、各副軸受け26、26の副軸受け箱27、27間には、軸前後方向に一対の粉砕筒取付け板28、28が架渡され、該粉砕筒取り付け板28、28に粉砕筒12を着脱可能とされている。当然、粉砕筒固定方式であってもよい。
【0025】
また、前記駆動モータ24、24の間は、プーリ30、30を介してタイミングベルト32により、駆動モータ24、24相互が同期回転可能となっている。
【0026】
上記において、旋回直径(G)と粉砕筒内径(D)の比率は、0.01<G/D<0.3の範囲から適宜選定する。これらの数値は、回転数500〜1200 min-1の場合を想定したもので、回転数がこれらの範囲外である場合は、上記G/Dの範囲も若干変動する(図3参照)。
【0027】
具体的には、粉砕筒12の内径を、例えば、180mmとした場合、旋回直径(振幅):約1.8〜54mmとなる。
【0028】
旋回直径Gが粉砕筒内径Dに比して、大きすぎると、旋回時の遠心力(加速度数)が大きくなり、偏心シャフト14を相対的に太くする(特にクランク軸14b)必要があるとともにカウンタウェイト20も重くする必要がある。当然、実用強度を有する偏心シャフトの製造も困難となる。シャフトの引張強度、靭性をあげるために調質を施した材料を使用した場合、材料の芯まで一様な調質ができないため、旋盤加工中に偏心部分で大きく歪みがでる。このため、材料を荒引き後に、調質して仕上げ加工をする必要がある。また、旋回直径Gが粉砕筒内径Dに比して、小さすぎると、旋回時に十分な遠心力が発生せず、被処理物にメカノケミストリー処理の処理時間の短縮化が困難となる。
【0029】
そして、本発明のボールミル粉砕機は、メカニカルアロイングに使用するため、粉砕筒内に気体を供給する給気手段、及び/又は、前記粉砕筒内を減圧(真空)状態とする減圧手段、並びに、粉砕筒温調手段を備えている。
【0030】
すなわち、メカニカルアロイングにおいて、酸化物生成を嫌う場合が多く、粉砕筒にN2やAr不活性気体を封入したり、脱気して粉砕筒内を真空状態にしたりする必要があるためである。図例では、それぞれ可撓性配管と接続された気体送入口12a、及び、脱気口(吸引口)12bを備えている。なお、12cは、開閉蓋である。
【0031】
また、メカニカルアロイングに際して粉砕筒温調手段が必要な理由は、下記の如くである。
【0032】
温度を設定温度に制御しないと、反応(アロイ化)制御が困難となり、要求される合金・結晶形態(固溶体、相移転等)を得難い。また、酸化や容器材質の変質により、製品(合金粉体)が汚染されるおそれがある。そして、図例では、ジャケット13に熱媒(冷却水)を通過させる構成とされている。温調手段は、上記不活性気体を冷却気体として使用することも可能である。
【0033】
なお、粉砕筒の温度検出は、粉砕筒の蓋体の温度を放射温度計を用いた測温する非接触式や、測温抵抗体を用いてその測温部を蓋体表面に断熱材で覆って直付けして測温する接触式で行うことができる。
【0034】
次に、上記旋回式粉砕装置を使用しての、本発明のメカニカルアロイングによる合金の製造方法について説明する。
【0035】
まず、2種以上の金属をベースとする粒状原料を用意する。原料の材質としては、金属とともに、非金属、セラミック(金属酸化物・窒化物、炭化物等)を適宜組み合わせることができる。
【0036】
被処理物の粒状原料としては、粒状(球状、板状、鱗片、薄片、不定形等を含む.)であれば、特に限定されないが、平均粒径100〜5000μm、望ましくは、粒径100〜1500μmのものを使用する。
【0037】
次に、上記粒状原料を、開閉蓋12cを介して粉砕筒12に、粉砕媒体を装入するとともに、粉砕筒12に投入する。粉砕媒体としては、ボール、ロッド、さらには、角柱、四面体、六面体、八面体等限定されないが、通常、ボールとする。ここで、粉砕媒体の投入量(充填率)は、メカニカルアロイングの場合、粉砕筒12の容量の50〜95%、望ましくは65〜85%とする。このときの、粉砕媒体であるボールの径は、粉砕筒の大きさ、到達製品粒径、粒状原料の粒径等により異なるが、通常、3〜30mm(より普通には、3〜13mm)の範囲から適宜選定する。また、ボールの材質は、メカニカルアロイングの場合、通常、鉄(鋼)製とするが、他の合金やセラミックスであってもよい。
【0038】
なお、粉砕筒としては、特に限定されないが、磨耗防止の見地から、通常、ライナー張りとする。さらには、粉砕筒は、円筒に限られず、多角筒(断面4〜8角形)であってもよい。
【0039】
さらに、金属の粒状原料の投入量は、原料の種類及び/又は粒径並びに粉砕媒体の種類及び/又は材質により異なるが、例えば、粉砕媒体がボールの場合、粉砕筒内容積の3〜10%の範囲から適宜設定する。
【0040】
そして、回転数は、公転(旋回)直径を、10〜30mmとしたとき、500〜1800min-1、より普通には、500〜1200min-1とる。
【0041】
すなわち、下記計算式で求められる加速度数(G)が、4〜72G、望ましくは、10超32G、さらに望ましくは、12〜20Gの範囲で適宜設定する。加速度数が小さすぎると、所要の製品粒径のものを得難く、加速度数が大きすぎると、運転時負荷が大きすぎて実際的でない。
【0042】
加速度数(G)=
1/9.8(ms-2)×片振幅(旋回半径)(m)×(2π×振動数(min-1)×60(s-1))2
運転時間は要求される合金の種類により異なるが、本発明の場合、後述の実施例の如く、10分前後で、粒径100μm以下のものを得ることができる。
【0043】
そして、上記のようにして得た製品(合金)は、通常、バッチ式とするが、たとえば、図4に示す如く、粉砕筒12から気体輸送(通常、不活性気体を用いる。)により排出して製品タンク38に回収することもできる。
【0044】
すなわち、不活性気体を、給気装置(気体輸送機)34を用いて粉砕筒12内に送入し、該不活性気体圧で製品を粉砕筒12から排出し、サイクロン36を介して製品タンク38に回収する。なお、40はバッグフィルターであり、41は吸引装置(気体輸送機)である。製品は、吸引装置41により粉砕筒12から吸引排出してもよい。
【0045】
こうして、製造した合金粉体は、後述の如く、焼結等により焼結体製品とする。例えば、図5に示すような、ダイ42と上・下パンチ44、46からなる焼成型48を用いて、真空中若しくは不活性雰囲気中で、パルス通電加熱により焼結体を製造することができる。
【0046】
本発明のメカニカル処理の方法は、上記メカニカルアロイングばかりでなく、下記のような他のメカニカルケミストリーの分野に適用した場合、処理時間の大幅な短縮化が期待できる。
【0047】
・金属粉体乃至金属酸化物を酸素雰囲気内で粉砕して焼結用酸化物材料を調整する。
【0048】
・銅フタロンシア人系顔料をβ型からα型に結晶転移させるためのドライミリング処理をする(「粉体と工業 Vol.31.No.12(1999)」p58参照)。
【0049】
・ポリ塩化ビニルのメカノケミカル脱塩処理をする。(「粉体工学会誌Vol.31.No.44(2007)」p49参照)
・硫化物系固体電解質の原料とLixFeSyの原料との混合物をメカニカルミリング処理する。(特開2006−164695号公報請求項6参照)
【実施例】
【0050】
以下、本発明の効果を確認するために、Fe2VAl系焼結体を調製する場合に適用した実施例・比較例1・2について説明する。Fe2VAl系焼結体は、ゼーベック効果が優れており、該ゼーベック効果を利用して廃熱利用の温度差発電の熱電変換材料として期待されるものである。
【0051】
なお、遊星ボールミルの加速度数は、下記式に基づいて、求めたものである。
【0052】
加速度数(G)=1/(9.8ms-2)×ω2[D+d(1+R)2]/2
ω:公転角速度(s-1)、D:公転直径(m)、d:ポット内径(m)、R:公転自転のギア比(−)で、自公転方向が順方向か逆方向によってRの値が正又は負である。
【0053】
実施例・比較例に使用した原料粒径及び組成は、下記のとおりである。
【0054】
FeAl(10〜100μm):0.5165
FeV(100〜200μm):0.3214
Fe(20〜50μm):0.1490
Si(30〜40μm):0.0131
<実施例1>
本実施例で使用した旋回式粉砕装置は、仕様及び運転条件は下記のとおりである。
【0055】
粉砕筒容量:1.38L(98mmφ×183mm)
回転数:900min-1
全振幅(旋回直径):30mm
加速度数:13.6G
粉砕媒体(ボール):径1/2インチ(約12.7mm)、充填率80%、
原料投入量:150g(嵩比重0.3、充填率100%;粉砕媒体合計空隙容量比)
運転時間: 20h
<比較例1>
本比較例で使用した遊星ボールミルの仕様及び運転条件は下記のとおりである。
【0056】
粉砕筒容量:500mL(100mmφ×深さ75mm)×4
公転回転数:180min-1、公転直径:250mm
自転回転数:200min-1、自転直径:100mm
加速度数:6.8G
粉砕媒体(ボール):φ10mm:100個+φ1インチ(約24.5mm)2個、
充填率:14%、
原料投入量:30g×4
運転時間:200h
<比較例2>
本比較例で使用した振動ボールミルの仕様及び運転条件は下記のとおりである。
【0057】
粉砕筒容量:3.6L(145mmφ×220mm)
回転数:1200min-1
全振幅:9mm
加速度数:9.7G
粉砕媒体(ボール):径1/2インチ(約12.7mm)、充填率80%、
原料投入量:300g(嵩比重0.3、充填率100%;粉砕媒体合計空隙容量比)
運転時間:25h
そして、運転終了後、粉砕筒から取り出した各実施例・比較例の製品(合金粉体:Fe2VAl系合金)を観察した。
【0058】
実施例1では、比較例1と同様に薄片(鱗片)が重なりあった10μm程度の球形に近い凝集粒が得られた。また、比較例2で得られた凝集粒も粒径10μm程度であったが、実施例1や比較例1と異なり、角張ったものであった。この様に、本発明では、加速度数が約倍近くであるだけで、遊星ボールミルと同様の丸まった形状の凝集粒を極めて短時間で得られることが確認できた。なお、従来、同様粒径に粉砕するための粉砕時間は、略加速度数に略比例するというのが当業者常識であった(実施例1と比較例2参照)。
【0059】
後述の如く、薄片が重なりあった球形の凝集粒子が、角張った凝集粒子に比して、優れた特性を得ることができる。その理由は、メカニカルアロイングに際して、均質化(アロイング化:合金結晶化)がより高度に進行しているためと考えられる。
【0060】
そして、上記各実施例・比較例で調製した合金粉末を用いて、下記条件でパルス通電焼結(PCS:Pulse Current Sintering)を行って、焼結体試験片を調製した。
【0061】
焼成型(黒鉛製、焼成寸法:10mmφ×2mmh)を用いて、真空度:20Pa、加圧力:40MPa、焼結温度:1000℃、焼結時間:3min、昇温速度:100℃min-1で行った。
【0062】
こうして調製した各試験体について、ゼーベック係数を測定した。
【0063】
その結果、図8に示す如く、実施例では、遊星ボーミルで200hメカニカルアロイングした場合(比較例1)と、同程度のゼーべック(熱起電力)特性が得られることが確認できた。逆に、振動ボールミルで25hメカニカルアロイングした場合(比較例2)では、明らかにゼーベック特性において劣ることが分かる。
【0064】
ゼーベック係数は、ヘリウムで満たした100℃の炉内に棒状の試料(2×2×9mm)をその両端に温度差を与え、試料の両端で発生する熱起電力と温度差との関係から計測した。
【0065】
なお、ゼーベック係数は、同一組成の原料を用いて、遊星ボールミルによりメカニカルアロイングを行った場合、図6に示す如く、処理時間に比例することを実験的に確認している。
【0066】
すなわち、粉砕処理(メカニカルアロイング)時間を長くすることにより、粒子が細かくなるとともに合金混合系の均一化が進行し、結晶化が早くなり目的結晶構造が得やすくなることによりゼーベック係数が増大するものと推定される。
【0067】
すなわち、本発明におけるメカニカルアロイングの原理は、遊星ボールミルにおける図7を示すものと同様で、下記の如くであると考えられる。
【0068】
1)2種以上の金属粉末52が粉砕媒体(ボール)54によって伸ばされながら、混ざり合いフレーク状になる。
【0069】
2)フレーク状の粉末が重なり合いながら引き伸ばされ、微細なラメラ組織化する。
【0070】
3)破砕と結合を繰り返し、均質化する。
【0071】
4)非平衡状態の合金となり、凝集粒(扁平球状)を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】非特許文献1に記載されていた「メカニカルアロイングに用いられる代表的ボールミル」の模式図を引用したものである。
【図2】本発明に用いる旋回式粉砕機の一例を示す概略平面断面図である。
【図3】同じく旋回式粉砕機における粉砕容器の旋回運動の説明図である。
【図4】本発明の方法で得た製品(粉体合金)の回収の方法の一例を説明するための流れ図である。
【図5】パルス通電焼結法に用いる焼結型のモデル断面図である。
【図6】焼結原料メカニカルアロイング時間とゼーベック係数との関係を示すグラフ図である。
【図7】遊星ボールミルにおけるメカニカルアロイングの原理説明図である。
【図8】実施例及び比較例1・2のメカニカルアロイング処理粉体から製造した各焼結体についてゼーベック係数の測定結果を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0073】
12・・・粉砕筒(粉砕容器)、
14・・・偏心シャフト(クランク)
14a・・・大径部(クランク腕)
14b・・・小径部(クランク軸)
52・・・金属粉末
54・・・粉砕ボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種又は2種以上の粒状原料を、粉砕媒体を装入した粉砕筒を備える粉砕機に供して粉砕して、メカノケミストリー処理することにより化学的変性品(製品)を製造する方法であって、
前記粉砕機として、公転(旋回)により振動を発生させる旋回方式粉砕装置を使用することを特徴とするメカノケミストリー処理の方法。
【請求項2】
前記粒状原料が金属を主体とする2種以上の金属又は金属と非金属との混合物であり、メカニカルアロイングにより合金を製造することを特徴とする請求項1記載のメカノケミストリー処理の方法。
【請求項3】
前記粒状原料として、粒径100〜1000μmのものを使用し、前記旋回式粉砕装置を、回転数500〜1800 min-1の運転条件で、かつ、下記式で示される加速度数(G)が10超32Gで行い、製品として、粒径10〜100μmの無機質複合材を得ることを特徴とする請求項2記載のメカノケミストリー処理の方法。
加速度数(G)=
1/9.8(ms-2)×片振幅(旋回半径)(m)×(2π×振動数(min-1)×60(s-1))2
【請求項4】
前記粉砕に際して、前記粉砕筒内を非酸化雰囲気とすることを特徴とする請求項2又は3記載のメカノケミストリー処理の方法。
【請求項5】
請求項2〜4いずれか一記載のメカノケミストリー処理の方法で得られる粉状の合金が、粉砕ラメラ(りん片)の球状凝集体であることを特徴とする合金の製造方法。
【請求項6】
粉砕筒と、該粉砕筒に公転(旋回)により振動を発生させる振動発生機とを備えた旋回方式のボールミル粉砕機であって、
前記粉砕筒内に気体を供給する給気手段、及び/又は、前記粉砕筒内を減圧状態とする減圧手段、並びに、粉砕筒温調手段を備え、メカニカルアロイング可能としたことを特徴とする旋回方式のボールミル粉砕機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−28687(P2009−28687A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197833(P2007−197833)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究に係る特許出願(平成19年度地域新生コンソーシアム研究開発事業/「二輪車に搭載できる高強度ナノホイスラー熱電モジュールの開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(390008084)中央化工機株式会社 (16)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】