説明

メタノールの製造方法及びその製造装置

【課題】メタン又はメタンを含む天然ガスを原料として、膜リアクタを配置した簡便な反応器により、低環境負荷プロセスによる温和な反応条件で、メタノールを製造する方法及びその装置を提供する。
【解決手段】プロトン導電体10の両面に電極11を備えた膜リアクタを配置した反応器1と、交流電源9と、ガス混合装置とを有するメタノール製造装置、及び該メタノール製造装置を使用し、前記膜リアクタに、メタンを含む天然ガスと、酸素と、プロトン源としての水蒸気又は/及び水素とを含む混合ガスを供給して、交流電圧を印加して、常圧、400℃以下の温和な反応条件で、メタンをメタノールに変換するメタノールの製造方法、及びその装置。
【効果】天然ガスを原料として、低環境負荷型プロセスにより、高生成量及び高選択性でメタノールを製造する方法及びその装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタンを含む天然ガス等からメタノールを製造する方法及びそのメタノール製造装置に関するものであり、更に詳しくは、膜型リアクタを、メタン、酸素、プロトン源を含む混合ガス中に配置して、交流電圧を印加することで、常圧、400℃以下という穏やかな条件で、メタンをメタノールに変換させて、高い生成量及び高い選択率でメタノールを合成することを可能とするメタノール製造方法及びそのメタノール製造装置に関するものである。本発明は、従来法の200−300気圧、700℃以上の高温高圧の改質反応プロセスや、400℃以上の高温の酸化反応プロセスに比べて、天然ガスを原料として、常圧、400℃以下の低環境負荷プロセスによる温和な反応条件により多くの化学合成プロセスで重要な中間物質であるメタノールを高生成量及び高選択率で合成することを可能とするメタノール製造技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
メタンは、埋蔵量が豊富な燃料である。しかし、メタンは、反応活性が低いため、その利用法は、一次エネルギー資源に制限されている。一方、メタノールは、多くの化学製造過程の有益、かつ重要な中間物質である。それゆえに、メタンからメタノールを製造する方法は、産業上極めて重要な反応である。
【0003】
従来、メタンからのメタノールの合成反応は、メタンの水蒸気改質反応と、それに続く触媒反応による二段階工程で進行し、それぞれの工程で、200−300気圧の高圧や、700℃以上の高温条件が必要であった。そこで、メタンからメタノールへの直接酸化反応が、次なる方法として注目を集めてきた。
【0004】
しかし、この酸化反応では、低圧のガス状態では、400℃以上の高温が必要となるため、生成したメタノールが直ちに酸化され、ホルムアルデヒドやCOxに変化し、メタノールの選択率を減少させるという問題があった。そこで、常圧、400℃以下という穏やかな条件で、メタンをメタノールに酸化させることができれば、低エネルギー付加条件でのメタノールの合成が可能となり、メタノールの選択性が向上することが想定される。
【0005】
従来技術として、先行文献には、例えば、メタン又はメタンを含む天然ガスを、酸素又は含酸素ガスで部分酸化して一段反応によりメタノールを製造する方法として、反応器の800℃以上の高温領域でメタン活性化物を生成させ、それを、400℃以下の低温領で酸素と反応させることにより、メタノールを選択的に合成する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、他の先行文献には、例えば、ランタノイド化合物と、還元剤としての亜鉛の存在下に、メタンと酸素とを反応させて、温和な条件下で、メタノールを合成する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
これまでに、400℃以下で、メタンからメタノールを合成する方法が種々報告されているが、これらは、特別の構造の反応器や、特殊な化合物を用いて合成する方法、あるいは、オートクレーブ等を使用して、高圧で合成する方法等であった。
【0008】
また、他の先行文献には、常圧で合成を行う1つの手段として、反応装置に燃料電池システムを用いることが提案されている。例えば、プロトン伝導体を用いた燃料電池システムにおいて、カソード側電極に銅及び/又は銅化合物を含む物質を用いて、アノード側に負電圧を印加する燃料電池システムにより、芳香族化合物の部分酸化物であるフェノール類を製造する方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0009】
また、他の先行文献では、例えば、リン酸型燃料電池のカソード電極上で生成した電気化学的活性酸素種により、80℃以下の低い温度で、ベンゼン、エタン及びプロパンの様な種々の炭化水素から、酸化物を合成する選択的酸化反応が報告されている(非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【0010】
しかし、これまで、このような燃料電池システムによるメタンからメタノールへの選択的酸化反応については、報告された例はなかったが、それは、この様な80℃以下の低い温度では、メタンの酸化反応には低温過ぎるためであった。それゆえに、メタンの酸化反応には、80℃以上で作動できる燃料電池の開発が必要であった。
【0011】
最近、本発明者らは、SnPに、10mol%のIn3+をドープしたSn0.9In0.1が、無加湿条件下で、作動温度100−350℃で、10−1Scm−1以上の高いプロトン導電率を示すことを見出し、これを使用した燃料電池システムで、メタンからメタノールへの選択酸化の反応について報告をした(非特許文献3参照)。
【0012】
しかし、該方法においても、メタノールの生成量が低く、また、反応の過程で二酸化炭素が生成するために、メタノールの選択率は低い状態であった。また、この方法では、外部電源により、短絡電流以上の電流を通電した場合、逆電圧約1V以上で、メタノール生成量の増加が見られなくなるという問題が見られた。
【0013】
【特許文献1】特開平7−112946号公報
【特許文献2】特開平8−245446号公報
【特許文献3】特開平6−293681号公報
【非特許文献1】Catalysis Today 41(1998)p.311−325
【非特許文献2】Applied Catalysis A 266(2002)p.305−315
【非特許文献3】Angewandte Chemie International Edition 47(2008)p.1462−1464
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、常圧、400℃以下の穏やかな低環境負荷プロセスで、メタンからメタノールへ選択的に酸化させることが可能な新しいメタノール製造方法及びそのメタノール製造装置を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、プロトン導電体に電極を配設した膜型リアクタを、メタンを含むガスと、酸素と、プロトン源とを含む混合ガス中に配置して、交流電圧を印加することにより、メタノール生成量及び選択性を向上させることができることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は、常圧、400℃以下という穏やかな低環境負荷プロセスで、メタンを含む天然ガス等をメタノールへ選択的に酸化させることが可能なメタノール製造方法及びそのメタノール製造装置を提供することを目的とするものである。また、本発明は、従来法の200−300気圧、700℃以上の高温高圧の改質反応プロセスや、400℃以上の高温の酸化反応プロセスと比べて、低環境負荷プロセスで、メタノールの生成量及び選択性が向上し、ガスシールが不要で、システムを簡単にすることができるメタノール製造方法及びそのメタノール製造装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)プロトン導電体に電極を備えた膜リアクタを配置した反応器に、メタンを含むガスと、酸素と、プロトン源としての水素及び/又は水蒸気とを含む混合ガスを供給して、交流電圧を印加することにより、メタンをメタノールに酸化させることを特徴とするメタノールの製造方法。
(2)メタンを含むガスとして、メタン、又はメタンを含む天然ガスを使用する、前記(1)に記載のメタノールの製造方法。
(3)混合ガス中のメタン対酸素の濃度比が、1%以上で98%以下であり、プロトン源としての水素及び/又は水蒸気の濃度が、少なくとも1%である、前記(1)に記載のメタノールの製造方法。
(4)周波数が50から50000Hzの交流電圧を印加する、前記(1)に記載のメタノールの製造方法。
(5)振幅電圧が0.1〜7Vの交流電圧を印加する、前記(1)に記載のメタノールの製造方法。
(6)常圧下、150℃以上で400℃以下の反応条件で、メタンをメタノールに酸化する、前記(1)に記載のメタノールの製造方法。
(7)プロトン導電体の両面に電極を備えた膜リアクタを配置した反応器と、該反応器にメタンを含むガスと、酸素と、プロトン源としての水素及び/又は水蒸気とを含む混合ガスを混合及び供給するガス混合装置と、前記反応器に供給されたガスに交流電圧を印加する交流電源及び導線を有することを特徴とするメタノール製造装置。
(8)前記交流電源で電圧印加する場合の周波数が、50から50000Hzである、前記(7)に記載のメタノール製造装置。
(9)前記交流電源で電圧印加する場合の振幅電圧が0.1〜7Vである、前記(7)又は(8)に記載のメタノール製造装置。
(10)前記ガス混合装置から前記膜リアクタを配置した反応器に供給するガスが、メタンを含むガスと、酸素と、プロトン源としての水蒸気又は/及び水素とを含む混合ガスであり、該混合ガス中のメタン対酸素の濃度比が1%以上98以下であり、プロトン源としての水素及び/又は水蒸気の濃度は0超%以上10%以下であり、プロトン源の濃度は合わせて少なくとも1%である、前記(7)から(9)のいずれかに記載のメタノール製造装置。
(11)前記膜リアクタを配置した反応器の作動が、常圧、作動温度150〜400℃の間である、前記(7)から(10)のいずれかに記載のメタノール製造装置。
【0017】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、プロトン導電体を配設した膜リアクタを利用して、メタンからメタノールを製造する方法であって、プロトン導電体に電極を備えた膜リアクタを配置した反応器に、メタンを含むガスと、酸素と、プロトン源としての水素及び/又は水蒸気とを含む混合ガスを供給して、交流電圧を印加することにより、メタンをメタノールに酸化させることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明は、前記メタノール製造方法に使用するメタノール製造装置であって、プロトン導電体の両面に電極を備えた膜リアクタを配置した反応器と、該反応器にメタンを含むガスと、酸素と、プロトン源としての水素及び/又は水蒸気とを含む混合ガスを混合及び供給するガス混合装置と、前記反応器に供給されたガスに交流電圧を印加する交流電源及び導線を有することを特徴とするものである。
【0019】
本発明では、膜リアクタにプロトン導電体を使用し、交流電圧を印加することによって、一方の電極で、水素又は水蒸気からプロトンが引き抜かれ、これが、プロトン導電体を通って対する他方の電極で酸素を還元的に活性化し、過酸化水素由来の活性酸素を生成し、この活性酸素が、メタンを酸化して、メタノールを生成する。
【0020】
ここで、活性酸素が過剰に存在すると、メタノールが更に酸化されて、二酸化炭素を生成する。本発明では、交流電源を使用して周波数を増加させると、活性酸素を分散して出現させることができること、また、生成した活性酸素は、効率よくメタンと反応し、これにより、生成したメタノールが更に活性酸素と反応することを抑制することが可能となること、が新規知見として見出された。
【0021】
このようなメタノールが更に活性酸素と反応することを抑制する効果は、周波数が10Hz以下では小さくなり、それによって、二酸化炭素の生成量が増加すること、そのため、周波数を50Hz以上にすることが、メタノールの選択性を向上させるために有効であること、が分かった。従来の燃料電池では、メタノールの生成量を増加させるために、短絡電流以上の電流を通電すると、逆電圧約1Vでメタノール生成量の増加が見られなくなる。しかし、交流電圧の場合には、7Vまで、メタノール生成量が増加することが確認された。
【0022】
膜リアクタで使用されるプロトン導電体としては、作動温度でスムーズなプロトン伝導を実現するプロトン導電体であれば適宜使用することが可能であり、例えば、金属リン酸塩であることが好適である。更に具体的には、例えば、CsHPO、ヘテロポリ酸、リン酸ドープポリベンズイミダゾールが挙げられ、好ましくはIn3+又はAl3+をドープしたSnP、SiP、TiP又はZrPであり、更に好ましくはIn3+又はAl3+をドープしたSnPである。
【0023】
本発明の方法では、メタンを含むガスとして、メタン、又はメタンを含む天然ガスを使用すること、また、混合ガス中のメタン対酸素の濃度比が、1%以上で98%以下であり、プロトン源としての水素及び/又は水蒸気の濃度が、少なくとも1%であること、また、周波数が50から50000Hzの交流電圧を印加すること、また、振幅電圧が0.1〜7Vの交流電圧を印加すること、また、常圧下、150℃以上で400℃以下の反応条件で、メタンをメタノールに酸化すること、を好ましい実施の態様としている。
【0024】
また、本発明の装置では、前記交流電源で電圧印加する場合の周波数が、50から50000Hzであること、また、前記交流電源で電圧印加する場合の振幅電源が0.1〜7Vであること、前記ガス混合装置から前記膜リアクタを配置した反応器に供給するガスが、メタンを含むガスと、酸素と、プロトン源としての水蒸気又は/及び水素とを含む混合ガスであり、該混合ガス中のメタン対酸素の濃度比が1%以上98以下であり、プロトン源としての水素及び/又は水蒸気の濃度は0超%以上10%以下であり、プロトン源の濃度は合わせて少なくとも1%であること、また、前記膜リアクタを配置した反応器の作動が、常圧、作動温度150〜400℃の間であること、を好ましい実施の態様としている。
【0025】
本発明で使用される膜リアクタは、前記プロトン導電体によって作製される膜と、該プロトン導電体膜に、電極を配設することで構成される。プロトン導電体によって作製する膜としては、例えば、ガス透過の無い緻密な膜でも、ガスが透過する多孔質膜でも好適に用いられるが、これは、二つの電極が同じ成分の混合ガスに曝される、という本発明の特徴のためである。膜リアクタで使用される電極としては、例えば、金属又は貴金属を担持したカーボン電極が用いられる。この場合、金属又は貴金属は、例えば、白金、ロジウム、銅、又はニッケルが例示され、好ましくはパラジウム又はパラジウム−金、最も好ましくはパラジウム−金が例示される。
【0026】
メタノール製造時の膜リアクタの作動条件は、好ましくは常圧下で、作動温度150から400℃の間である。これは、使用したプロトン導電体の導電率が250から300℃で最も高く、150から400℃の温度範囲で充分に高いためである。これらの条件は、使用するプロトン導電体の種類や反応効率等を考慮して、適宜好適な範囲に設定することができる。
【0027】
膜リアクタを配置した反応器に供給する混合ガスとしては、メタン、酸素及びプロトン源としての水蒸気又は/及び水素を含む混合ガスが使用される。メタンの濃度は、酸素濃度より高いことが好ましく、そのために、メタン対酸素の濃度比が1%以上98以下であることが好適である。プロトン源としての水素及び/又は水蒸気の濃度は0超%以上10%以下であること、プロトン源の濃度は、水素及び/又は水蒸気を合わせて1%以上であること、が好適である。
【0028】
本発明方法で用いられる酸素としては、必ずしも純粋なものである必要は無く、空気又は酸素含有気体を用いることも可能である。また、供給される混合ガスとしては、窒素、アルゴン等の不活性なガスとの混合物を用いることも可能である。メタノールの生成量は、印加する交流電圧に依存し、振幅電圧が7Vまでは、高電圧ほど生成量が増加する。そのため、電圧を増加させることで、メタノールの生成量を増加させることができる。
【0029】
従来法では、例えば、メタンの水蒸気改質反応によるメタノールの合成では、水蒸気改質反応と、それに続く触媒反応による二段階工程で反応が進行し、それぞれの工程で、200−300気圧、700℃以上の高温条件が必要である。また、メタンからメタノールへの直接酸化反応によるメタノールの合成では、低圧のガス状態では、400℃以上の高温が必要となり、生成したメタノールが直ちに酸化され、ホルムアルデヒドやCOxに変化し、メタノールの選択率が低下するという問題があり、いずれのメタノール合成法においても、高温高圧の高環境負荷プロセスによる反応工程が必要とされていた。
【0030】
これに対して、本発明は、プロトン導電体に電極を備えた膜リアクタを配置した反応器に、メタン又はメタンを含む天然ガスと、酸素と、プロトン源としての水素及び/又は水蒸気とを含む混合ガスを供給して、交流電圧を印加することにより、メタンをメタノールに酸化させることで、常圧、400℃以下という温和な低環境負荷プロセスで、メタンを含む天然ガスを原料とし用いて、しかも、ガスの分離手段やガスシール等を必要としない簡便な装置により、高い生成量及び高選択率でメタノールを合成することを可能とするものである。本発明は、天然ガス原料から低環境負荷型プロセス及び設備で、多くの化学製造過程の重要な中間物質であるメタノールを合成することを実現するものとして有用である。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明では、膜リアクタの二つの電極が同じ混合ガスに曝されるために、両電極のガスを分離する必要が無く、ガスシールが不要である。
(2)膜リアクタを混合ガス中に配置できるので、従来の燃料電池システムを使用した製造装置に比べて、装置を簡単にすることができる。
(3)膜リアクタに印加する電圧を増加することで、メタノール生成量を増加させることができる。
(4)膜リアクタに印加する電圧を増加することで、メタノールの生成を低温で実現することができる。
(5)この時、高周波数にすることで、二酸化炭素の生成量を低くすることができ、それにより、メタノールの選択性を増加させることができる。
(6)常圧、400℃以下の温和な低環境負荷プロセスで、メタンを含む天然ガスを化学合成過程の重要な中間物質であるメタノールに変換することが実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、本発明を、製造例及び実施例を示して具体的に説明するが、本発明は、これらの製造例及び実施例に限定されるものではない。
【0033】
製造例
本製造例では、プロトン導電体、及び電極の調製について、具体的に説明する。本製造例では、プロトン導電体として、Sn0.9In0.1を、また、電極として、Pd/C及びPd−Au/Cを調製した。
【0034】
(1)プロトン導電体Sn0.9In0.1の調製
目的組成となるように、SnO、In、及びHPOを混合し、蒸留水を加えて、300℃で撹拌して得られたスラリー状混合物を、アルミナの坩堝に移し、650℃で、2.5時間焼成した。
【0035】
得られた仮焼体を粉砕し、一軸成型によって、ペレットを作製した。その後、該ペレットを真空包装し、静水圧プレス器を用いて、1000kgfcm−2で加圧した。ペレットとしては、直径10mm、厚さ1.0mmのものを使用し、該ペレットを生成物の測定に使用した。
【0036】
(2)電極の調製
蒸留水に、カーボン粉末とエタノールを混合し、カーボン粉末を分散させ、60℃にて加熱撹拌しながら、これに、塩化パラジウム(II)(PdCl)又は塩化パラジウム(II)(PdCl)と、テトラクロロ金(III)酸四水和物(HAuCl・4HO)の両方を添加し、Pd/C及びPd−Au/Cを合成した。
【0037】
次いで、これを、蒸発乾固し、得られた粉体を、300℃空気中で1時間焼成し、その後、450℃、H/Ar(10vol.%H)ガス中で、4時間還元処理を行い、目的の触媒とした。得られた触媒に、PTFE、グリセリンを混合したスラリーを作製し、該スラリーを、カーボンペーパー上に塗布した。
【0038】
これを、アルゴンガス中、150℃で3時間乾燥させた。その後、これをエタノールに1時間浸し、乾燥させ、50kgfcm−2でプレスした。プレス後、アルゴンガス中、350℃で1時間熱処理をした。これを、直径10mmΦとなるように、ポンチで繰り抜き使用した。
【実施例1】
【0039】
以下、図面に基づいて、本発明に係るメタノール製造装置の一実施の形態について、具体的に説明する。図1は、本実施の形態に係るメタノール製造装置を示す概略構成図であり、図2は、本実施の形態に係る膜リアクタを配置した反応器の断面図である。
【0040】
図1、図2に示したように、本実施の形態に係るメタノール製造装置の反応器1には、プロトン導電体10と、電極11とからなる膜リアクタが配置され、この膜リアクタは、導線によって、交流電源9に接続されている。
【0041】
図1において、反応器1は、電気炉2の中に設置され、任意の反応温度に設定される。ガス混合装置3には、メタン又はメタンを含む天然ガス4、酸素又は空気5、水素6の各ガス供給源からガスが供給され、これらは、該ガス混合装置3において混合され、ガス切り替えコック8を通って、反応器1に供給される。水蒸気を混合させる場合には、ガス切り替えコック8を切り替えることによって、混合ガスを、一旦、水蒸気供給装置7に通してから、反応器1へ供給する。
【0042】
(1)膜リアクタの作製
前記製造例で調製したプロトン導電体のSn0.9In0.1ペレットの両面に、前記製造例で調製したPd/C及びPd−Au/C電極を配設し、集電体兼リード線として、金線を接続した金メッシュを取り付けた。これを、内径13mmΦのアルミナ管中に配置し、膜リアクタを作製した。
【0043】
(2)生成物の測定
反応温度150から400℃で、メタン(20ml/min)、酸素(10ml/min)及び水蒸気(0.9ml/min)の混合ガスを反応器に供給し、交流電圧を印加しながら、出口ガスを、ガスクロマトグラフィーで分析した。
【0044】
測定温度250℃で、1000Hzにおいて、印加する電圧を、1から3Vまで変化させた。生成物は、メタノール及び二酸化炭素であり、電圧の増加に伴って、メタノール及び二酸化炭素の生成量が増加した。それらの生成量を、図3に示した。
【0045】
次に、測定温度250℃で、印加する電圧1Vにおいて、周波数を50000Hzから5Hzまで変化させた。メタノール生成量は、周波数10000から5Hzまで、ほぼ一定であったが、二酸化炭素の生成量は、10Hz以下の低周波数で増加した。これらの生成量を図4に示した。
【0046】
従来の燃料電池システムを使用した250℃、短絡時のメタノールの生成量が、0.38μmolh−1cm−2(0.19μmolh−1)、選択率6.03%であったのに対して、図3に示されるように、本発明の方法によるメタノールの生成量は、約3〜11倍の量であった。図4において、100〜10000Hzの時のメタノール選択率は、従来の燃料電池システムと、同程度であった。
【0047】
本実施例の装置では、300℃、1000Hz、1Vでは、メタノールの生成量は1.67μmolh−1(選択率11.75%)、350℃においては、メタノールの生成量は3.60μmolh−1(選択率3.67%)にまで増加した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上詳述したように、本発明は、メタノールの製造方法及びその製造装置に係るものであり、本発明によれば、プロトン導電体に電極を備えた膜型リアクタを配置した反応器をメタンを含むガス等の混合ガス中に配置して、交流電圧を印加することで、常圧、400℃以下という穏やかな低環境負荷プロセスで、メタンを含む天然ガスをメタノールに変換させることができる。本発明は、従来法の高温高圧プロセスと比べて、低エネルギー付加プロセスであり、また、燃料電池型リアクタを使用して、直流通電した場合より、メタノール生成量及び選択性が向上し、しかも、ガスシールが不要で、システムを簡単にすることができる利点を有する。本発明は、プロトン導電体、交流電圧印加等を利用して、メタン又はメタンを含む天然ガスを、酸素又は含酸素ガスと反応させて、化学合成過程で重要な中間物質であるメタノールを高い生成量及び高い選択率で合成することを可能とする新しいメタノールの製造方法及びその装置を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】メタノール製造装置の概略構成図を示す。
【図2】膜リアクタを配置した反応器の断面図を示す。
【図3】メタノール及び二酸化炭素生成量の電圧依存性を示す。
【図4】メタノール及び二酸化炭素生成量の周波数依存性を示す。
【符号の説明】
【0050】
1:反応器
2:電気炉
3:ガス混合装置
4:メタン又は天然ガス
5:酸素又は空気
6:水素
7:水蒸気供給装置
8:ガス切り替えコック
9:交流電源
10:プロトン導電体
11:電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン導電体に電極を備えた膜リアクタを配置した反応器に、メタンを含むガスと、酸素と、プロトン源としての水素及び/又は水蒸気とを含む混合ガスを供給して、交流電圧を印加することにより、メタンをメタノールに酸化させることを特徴とするメタノールの製造方法。
【請求項2】
メタンを含むガスとして、メタン、又はメタンを含む天然ガスを使用する、請求項1に記載のメタノールの製造方法。
【請求項3】
混合ガス中のメタン対酸素の濃度比が、1%以上で98%以下であり、プロトン源としての水素及び/又は水蒸気の濃度が、少なくとも1%である、請求項1に記載のメタノールの製造方法。
【請求項4】
周波数が50から50000Hzの交流電圧を印加する、請求項1に記載のメタノールの製造方法。
【請求項5】
振幅電圧が0.1〜7Vの交流電圧を印加する、請求項1に記載のメタノールの製造方法。
【請求項6】
常圧下、150℃以上で400℃以下の反応条件で、メタンをメタノールに酸化する、請求項1に記載のメタノールの製造方法。
【請求項7】
プロトン導電体の両面に電極を備えた膜リアクタを配置した反応器と、該反応器にメタンを含むガスと、酸素と、プロトン源としての水素及び/又は水蒸気とを含む混合ガスを混合及び供給するガス混合装置と、前記反応器に供給されたガスに交流電圧を印加する交流電源及び導線を有することを特徴とするメタノール製造装置。
【請求項8】
前記交流電源で電圧印加する場合の周波数が、50から50000Hzである、請求項7に記載のメタノール製造装置。
【請求項9】
前記交流電源で電圧印加する場合の振幅電圧が0.1〜7Vである、請求項7又は8に記載のメタノール製造装置。
【請求項10】
前記ガス混合装置から前記膜リアクタを配置した反応器に供給するガスが、メタンを含むガスと、酸素と、プロトン源としての水蒸気又は/及び水素とを含む混合ガスであり、該混合ガス中のメタン対酸素の濃度比が1%以上98以下であり、プロトン源としての水素及び/又は水蒸気の濃度は0超%以上10%以下であり、プロトン源の濃度は合わせて少なくとも1%である、請求項7から9のいずれかに記載のメタノール製造装置。
【請求項11】
前記膜リアクタを配置した反応器の作動が、常圧、作動温度150〜400℃の間である、請求項7から10のいずれかに記載のメタノール製造装置。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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