説明

メタルの溶解方法

【課題】メタルを効率よく短時間に溶解する方法を提供する。
【解決手段】メタルを線材に加工し、これを寄せ集めた高空隙性の集合体にした状態で溶解液に浸して溶解することを特徴とするメタルの溶解方法であって、例えば、インジウム、スズ、アンチモン等の低融点金属を溶融し、細流にして水中に導入し、急冷することによってメタルの線材が寄せ集まった空隙率80〜90%の高空隙性集合体にし、この集合体を溶解液に浸して溶解させるメタルの溶解方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメタルを効率よく溶解する方法に関する。より詳しくは、本発明は、例えば、インジウム等の低融点金属を空隙率の大きな塊にすることによって迅速に溶解させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタルを酸やアルカリなどの溶解液に浸漬して溶解する場合、メタルをインゴット状態のまま溶解すると、インゴットは空隙がない(空隙率ゼロ)ので溶解液が内部に浸透しないので溶解し難い。一方、メタルを板状(フレーク状)にして不規則に溶解槽内に積重ね、あるいは球状(ショット状)にして溶解槽に投入すれば、これらが寄せ集まった塊には内部空隙が形成され、この内部空隙に溶解液が浸透するのでインゴットよりも溶解しやすくなるが、これらは容器の底部に重なった状態になるので、フレーク状塊の空隙率は約10〜20%、ショット状塊の空隙率は約20〜30%であり、従って、これらの塊と溶解液との接触面積には限界がある。
【0003】
そこで、メタルをフレーク状やショット状にして溶解する場合、一般に溶解液を攪拌しあるいはメタルを回転して溶解を促進させている。例えば、金属マグネシウムをクエン酸に溶解する場合、容器内の回転軸に板状の金属マグネシウムを取付け、クエン酸液中で金属マグネシウム板を回転しながら溶解させる方法が知られている(特許文献1)。
【0004】
しかし、メタルをフレーク状やショット状にして溶解する場合、攪拌や回転が十分に激しくないと溶解速度が早くならず、一方、攪拌や回転が激しいと攪拌回転手段や容器の損傷し、あるいは寿命が短くなる。また、溶解液が攪拌機などによって汚染される虞を招き、さらに溶解槽に攪拌手段などを設ければ装置構成が煩雑になり、製造コスト高にもなる。
【特許文献1】特開2003−010865
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の溶解方法における上記問題を解決したものであり、攪拌手段などを必要とせずに、迅速にメタルを溶解する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の構成からなるメタル溶解方法が提供される。
(1)メタルを線材に加工し、これを寄せ集めた高空隙性の集合体にした状態で溶解液に浸して溶解することを特徴とするメタルの溶解方法。
(2)溶融状態のメタルを細流にして水中に導入し、急冷することによってメタルの線材が寄せ集まった高空隙性の集合体にし、この集合体を溶解液に浸して溶解させる上記(1)に記載するメタルの溶解方法。
(3)溶融メタルを複数のノズルから細流にして水中に導入し、多数のメタル線材が絡み合った高空隙性の集合体にし、この集合体を溶解液に浸して溶解させる上記(1)または上記(2)に記載するメタルの溶解方法。
(4)メタルを線材にして空隙率80〜90%の集合体にする上記(1)〜上記(3)の何れかに記載するメタルの溶解方法。
(5)メタルがインジウム、スズ、アンチモン等の低融点金属である上記(1)〜上記(4)の何れかに記載するメタルの溶解方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の溶解方法によれば、メタルが空隙率の高い塊り、具体的には、例えばメタルの線材が不規則に多数絡み合って形成された網状物の塊からなる空隙率80〜90%の立体的な集合体の状態で溶解液中に浸漬されるので、この集合体内部に溶解液が入り込みやすく、溶解液に接触するメタルの表面積が格段に大きいので、攪拌手段を必要とせず、メタルを迅速に溶解させることができる。また、本発明の溶解方法によれば、メタルの線材が不規則に多数絡み合って形成された網状物の塊からなる高空隙性の集合体にして溶解するので、溶解槽に投入したときに衝撃が殆どないので装置を損傷することが無く、装置の耐久性を高めることができる。
【0008】
本発明の溶解方法はメタルを線材にし、この線材を寄せ集めた状態の集合体にして溶解液に浸漬するので、線材に加工しやすいメタル、例えば、インジウム、スズ、アンチモン等の低融点メタルを溶解する方法として好適である。具体的には、溶融状態のメタルを細流にして連続的に水中に導入して急冷すれば、メタルの線材が不規則に多数絡み合って形成された網状物の塊からなる高空隙性の集合体を容易に形成することができるので、容易に本溶解方法を適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のメタル溶解方法を具体的に説明する。
本発明の溶解方法は、メタルを線材に加工し、これを寄せ集めた高空隙性の集合体にした状態で溶解液に浸して溶解することを特徴とするメタルの溶解方法である。具体的には、例えば、溶融状態のメタルを細流にして水中に導入し、急冷することによってメタルの線材が寄せ集まった高空隙性の集合体にし、この集合体を溶解液に浸して溶解させるメタルの溶解方法である。
【0010】
本発明のメタル溶解方法において、溶解液は金属を溶解する液であれば良く、金属の溶解に通常用いられる硝酸、硫酸、塩酸、これらの混酸など、あるいは水酸化ナトリウム液などのアルカリ液が用いられる。
【0011】
本発明の溶解方法は、線材に加工しやすいメタル、例えば、インジウム、スズ、アンチモン、亜鉛、鉛などの低融点メタルを溶解する方法として好適である。メタルを線材に加工する手段ないし方法は制限されない。
【0012】
インジウム等の低融点メタルはこれを溶融して容易に線材に加工することができる。メタルを溶融して線材に加工する装置構成の一例を図1に示す。図示する装置は、メタルを溶融する溶融槽10、溶融槽10の下部に設けた流出管11、流出管に設けた流量調整バルブ12、流出管11の先端に設けたノズル13、ノズル13の下方に設置した水槽14を備えている。
【0013】
溶融槽10にはヒータ(図示省略)が装着されており、溶融槽内に入れた固形のメタルを上記ヒータによって加熱し溶融状態にする。あるいは、溶融状態のメタルを溶融槽内に導入し、ヒータで加熱して溶融状態を維持する。このヒータは加熱バーナ、電熱ヒータなど何れでも良い。
【0014】
溶融メタルはノズル13を通じて細流の状態で水槽14に注ぎ込まれる。メタルの流速が遅いとショット状になるので、バルブ12によってメタルが細流になるように流速を調整する。また、必要に応じて、ノズル13の出口から水面までの範囲を不活性ガスまたは還元性ガスによってパージして非酸化性雰囲気にし、酸化防止することができる。
【0015】
メタルの細流が水中に流れ込むと急冷されて細長い線材になり、この凝固過程の歪みによって線材が不規則に湾曲して多数絡み合って形成された網状物の塊からなる空隙率の高い集合体15が形成される。この方法によれば、空隙率80〜90%の集合体を得ることができる。また、ノズル13を複数設けて並列にメタルの細流を水中に注入すれば、複数の線材が絡み合った空隙率の高い集合体を短時間に形成することができる。
【0016】
メタル線材が寄せ集まって形成された上記集合体を溶解槽に入れ、硝酸、塩酸、硫酸、またはこれらの混酸、あるいは水酸化ナトリウムなどのアルカリ液に浸して溶解することによって短時間に上記メタルを溶解することができる。溶解の際に溶解液を攪拌する必要はないが、攪拌しても良い。
【実施例】
【0017】
〔実施例1〕
図1に示す装置を用い、溶解槽10に金属インジウムスを入れて180〜200℃に加熱してインジウム溶融体を形成した。このインジウム溶融体をノズル13から細流にして水槽14に注ぎ込み、25〜40℃の水中で急冷させて太さ0.3〜0.8mmの線材にし、この線材が寄せ集まった空隙率50%以上の集合体を形成した。この金属インジウム線材集合体144kgを溶解槽に入れ,該集合体全体を硝酸(濃度75%)に浸漬して硝酸を攪拌せずに溶解させたところ、8時間で全量が溶解し、溶け残りは見られなかった。結果を表1に示した。
【0018】
〔実施例2〕
金属インジウムに代えて金属スズを用い、実施例1と同様にして溶融金属スズを細流にして水中に注ぎ込み、金属スズ線材が寄せ集まった空隙率50%以上の集合体を形成した。
この金属スズ線材集合体160kgを溶解槽に入れ,該集合体全体を硝酸(濃度75%)に浸漬して硝酸を攪拌せずに溶解させたところ、12時間で全量が溶解し、溶け残りは見られなかった。
【0019】
〔比較例1〜3〕
実施例1と同量の金属インジウムを用い、インゴット状態(120mm×35mm×33mm)の金属インジウム、フレーク状(縦20mm×横15mm×厚0.2mm)の金属インジウム、ショット状(粒径3mm)の金属インジウムをおのおの溶解槽に入れ、各全量を硝酸(濃度75%)に浸漬して溶解させた。溶解液を攪拌した場合と、攪拌しない場合のおのおのについて全量が溶解する時間を表1に示した。
【0020】
実施例1、2に示すように、本発明の溶解方法によれば短時間でメタルを溶解することができる。一方、比較例1〜3に示す方法では、溶解液(硝酸)を攪拌しない場合のメタル溶解時間は本発明方法の約4〜5倍であり、溶解液を攪拌した場合でもメタル溶解時間は本発明方法の約3〜4倍である。
【0021】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】メタル線材の製造方法の概念図
【符号の説明】
【0023】
10−溶解槽、11−流出管、12−バルブ、13−ノズル、14−水槽、15−線状メタル集合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタルを線材に加工し、これを寄せ集めた高空隙性の集合体にした状態で溶解液に浸して溶解することを特徴とするメタルの溶解方法。
【請求項2】
溶融状態のメタルを細流にして水中に導入し、急冷することによってメタルの線材が寄せ集まった高空隙性の集合体にし、この集合体を溶解液に浸して溶解させる請求項1に記載するメタルの溶解方法。
【請求項3】
溶融メタルを複数のノズルから細流にして水中に導入し、多数のメタル線材が絡み合った高空隙性の集合体にし、この集合体を溶解液に浸して溶解させる請求項1または2に記載するメタルの溶解方法。
【請求項4】
メタルを線材にして空隙率80〜90%の集合体にする請求項1〜3の何れかに記載するメタルの溶解方法。
【請求項5】
メタルがインジウム、スズ、アンチモン等の低融点金属である請求項1〜4の何れかに記載するメタルの溶解方法。

【図1】
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