説明

メタンの酸化的除去用触媒及びメタンの酸化的除去方法

【課題】メタンに対して高い酸化活性を示し、かつ高価なパラジウム金属を一切含まず、600℃以下の温度領域で排気ガス中等に多く含まれるメタンを有効に酸化除去し、しかも熱安定性の高いペロブスカイト型酸化物触媒及びそれを用いたメタンの酸化的除去方法を提供する。
【解決手段】ランタンと鉄を含有し、ランタンと鉄の原子比が実質的に1/1であり、かつ該ランタンと鉄はペロブスカイト構造を形成している複合金属酸化物をからなり、パラジウムを一切含まず熱安定性の高いメタンの酸化的分解用触媒、及び該触媒を用いたメタンの酸化的分解方法。
【効果】CHの転化率が高いペロブスカイト型酸化物触媒を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタンの酸化的分解用触媒及びそれを用いたメタンの酸化的分解方法に関するものであり、更に詳しくは、ランタンと鉄を含有し、ランタンと鉄の原子比が実質的に1/1であり、かつ該ランタンと鉄は、ペロブスカイト構造を形成している複合金属酸化物からなるメタンの酸化的分解用触媒、その製造方法及び該触媒を用いたメタンの酸化的分解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然ガスの主成分であるメタンは、酸化的に燃焼することで、熱エネルギーとして回収することができる。メタンを効率的に熱エネルギーとして利用するためには、600℃以下の温度域で効率的に燃焼する必要がある。従来、かかるメタンの酸化的分解用の触媒としては、担体に活性金属としてパラジウムや貴金属を担持するものが知られていた。
【0003】
しかし、これらの触媒は、高価であることや、担体との相互作用の影響を大きく受けるため、調製が困難である。また、高温の反応中にシンタリングなどが起こり、触媒寿命も短いことなどから、パラジウムや貴金属を用いない安価で耐熱性の高い触媒が望まれている。一方、非金属系複合酸化物では、組成の均一性と共に高表面積な材料が望まれることから、触媒調製時に短時間でしかも低温で焼結する触媒が望まれている。
【0004】
先行技術として、例えば、R.Spinicciらは、非金属系複合酸化物であるLaFeOに注目して、Pd等の金属を含まない安価なメタンの燃料触媒を報告しているが、480℃で約20%程度のメタン転換を可能とするものでしかなかった(非特許文献1)。効率的な熱エネルギーの利用には、更なる性能の向上が望まれている。
【0005】
一方、ペロブスカイト型酸化物は、高温での酸化雰囲気における熱安定性や酸素の移動性が高いことから、環境・エネルギー関連材料等として研究されているものが多い。このようなペロブスカイト型酸化物の調製法は、従来より、固相反応や共沈法が主流である。
【0006】
【非特許文献1】R.Spinicci et al.,Materials Chemistry and Pysics76(2002)20−25
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、パラジウムや貴金属を用いない安価で耐熱性の高い触媒を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、ヘキサシアノ鉄錯体を用いて架橋した六角多面型ヘテロ金属配位高分子をペロブスカイト構造の前駆体として調製したペロブスカイト型複合酸化物触媒を用いることで所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、このような観点の下になされたものであって、活性金属としてパラジウムや他の貴金属を一切含まない600℃以下の温度領域で安定にメタンを酸化的に分解するペロブスカイト型酸化物触媒及びそれを用いたメタンの酸化的分解方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)ランタンと鉄を含有し、ランタンと鉄の原子比が実質的に1/1であり、かつ該ランタンと鉄は、ペロブスカイト構造を形成している複合金属酸化物からなることを特徴とするメタンの酸化的分解用触媒。
(2)複合金属酸化物中の金属が、LaFeOの組成式を有し、ランタンと鉄とはペロブスカイト型酸化物を形成していることを特徴とする、前記(1)記載のメタンの酸化的分解用触媒。
(3)出発原料にヘキサシアノ鉄錯体を用いて架橋した六角多面型ヘテロ金属配位高分子を前駆体として複合金属酸化物を調製することを特徴とするメタンの酸化的分解用触媒の製造方法。
(4)前駆体が、ヘキサシアノ鉄(III)酸ラクタン錯体であることを特徴とする、前記(3)記載のメタンの酸化的分解用触媒の製造方法。
(5)前記ヘテロ金属配位高分子を、空気中、650℃〜1000℃で処理してランタン鉄ペロブスカイト金属酸化物とすることを特徴とする、前記(3)に記載のメタンの酸化的分解用触媒の製造方法。
(6)メタンの触媒を用いた酸化的分解方法において、ランタンと鉄を含有し、ランタンと鉄の原子比が実質的に1/1であり、かつ該ランタンと鉄は、ペロブスカイト構造を形成している複合金属酸化物からなる触媒を用いることを特徴とするメタンの酸化的分解方法。
(7)ランタン鉄ペロブスカイト金属酸化物を触媒として、600℃以下でメタンを酸化することを特徴とする、前記(6)に記載のメタンの酸化的分解方法。
(8)メタンと酸素の混合ガスを触媒と接触させる、前記(6)記載のメタンの酸化的分解方法。
【0010】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、メタンの酸化的分解用触媒であって、ランタンと鉄を含有し、ランタンと鉄の原子比が実質的に1/1であり、かつ該ランタンと鉄は、ペロブスカイト構造を形成している複合金属酸化物からなることを特徴とするものである。本発明では、出発原料にヘキサシアノ鉄錯体を用いて架橋した六角多面型ヘテロ金属配位高分子La[Fe(CN)]・HOをペロブスカイト構造体の前駆体として使用することにより、組成の均一性とともに低温焼結を可能にした触媒の調製方法及びペロブスカイト型酸化物触媒が提供される。
【0011】
また、本発明では、3次元の編み目状の特異な表面構造を有したペロブスカイト型酸化物触媒が提供される。また、本発明は、メタンを触媒を用いて酸化的分解する方法であって、ランタンと鉄を含有し、ランタンと鉄の原子比が実質的に1/1であり、かつ該ランタンと鉄はペロブスカイト構造を形成している複合金属酸化物からなる触媒を用いることを特徴とするものである。
【0012】
本発明は、ランタンと鉄を含有する複合酸化物触媒の調製において、出発原料にヘキサシアノ鉄錯体を用いて架橋した六角多面型ヘテロ金属配位高分子をペロブスカイト構造体の前駆体とすること、及びランタンと鉄との原子比が実質的に1/1であること、を特徴とするものであり、かつ得られた触媒が、ペロブスカイト構造を形成していること、が必要であり、これによって、600℃以下の低温でメタンを酸化的に分解できる触媒を調製することができる。
【0013】
本発明の触媒を調製するには、先ず、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムを蒸留水に溶解させ、これと硝酸ランタンを同じ濃度になるように混合し、直後に沈殿するヘキサシアノ鉄(III)酸ランタン錯体を吸引濾過し、蒸留水、メタノールで洗浄した後に、減圧下で乾燥する。得られたものは、ペロブスカイト構造体の中間体であるヘキサシアノ鉄錯体を用いて架橋した六角多面型ヘテロ金属配位高分子であるヘキサシアノ鉄(III)酸ランタン錯体であり、これを空気中、例えば、550℃で2時間熱処理をする。その後、室温まで自然冷却し、LaFeOの組成式で示されるペロブスカイト型の複合酸化物とする。
【0014】
得られた複合酸化物のX線回折図は、ランタンと鉄からなるペロブスカイト型酸化物に帰属される回折パターンを示すものである。この複合酸化物の調製方法として、固相反応法や共沈法などがあるが、組成の均一性とともに低温焼結が可能である、ヘキサシアノ鉄(III)カリウムを出発原料とする錯体法が望ましい。
【0015】
上記三種類の調製法により得られた酸化物をIRスペクトルとXRDによって分析した結果、錯体法では550℃以上で、ほぼ完全にペロブスカイト型酸化物LaFeOの単相となることが分かった。これに対し、共沈法により調製した酸化物は、1000℃でもLaとFeが若干混合していた。また、固相反応法では、混合・熱処理(1000℃)を繰り返し行っても、LaFeOがほとんど生成していないことが分かった。
【0016】
本発明の触媒を用いてメタンの酸化的分解を行う際には、メタンと酸素の混合ガスを触媒と接触させる。この場合、混合ガスを通気する前に、空気で予め触媒を酸化状態に保持するのが望ましい。反応圧力は、常圧であり、反応方式は、固定床流通方式が望ましい。
【0017】
錯体法により500℃、650℃、800℃及び1000℃の各温度で調製したLaFeOを用いてCHの酸化反応を行い、CHの転化率と反応温度の関係を調べた結果、いずれの反応温度でも、調製温度の低いLaFeOで転化率が高かった。また、550℃で調製した酸化物を用いてCHの転化率を(錯体法、共沈法、Fe及びLaを用いた場合、及び固相反応法について)比較した結果、どの反応温度でも、錯体法の場合が最もCHの転化率が高くなった。更に、1000℃で調製した酸化物のCH転化率は、錯体法以外は、CH転化率が著しく低いことが分かった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
(1)触媒の調製
ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム50gを、できるだけ少量の蒸留水に溶解させ、1.7Mの硝酸ランタンをヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムと同濃度になるように混合し、直後に沈殿するヘキサシアノ鉄(III)酸ランタンを吸引濾過し、蒸留水、メタノールで数回洗浄した後に、減圧下で乾燥した。
【0020】
得られたヘキサシアノ鉄(III)酸ランタンは100ml/minの空気気流中で室温から550℃まで5℃/minで昇温させた後に、2時間保持した。その後、室温まで自然冷却して、複合金属酸化物を得た。この複合金属酸化物中の金属は、LaFeOの組成式で表されるもので、ランタンと鉄とはペロブスカイト型酸化物を形成していることが確認された。
【0021】
(2)低温焼結
本実施例で得られたヘキサシアノ鉄(III)カリウムを出発原料とする錯体法で調製した触媒のX線回折図から、錯体法では550℃で均一なペロブスカイト構造体が生成できることが確認された(図1)。これにより、本発明の触媒は、焼成を600℃で実施していた既報(R.Spinicci et al.,Materials Chemistry and Pysics76(2002)20−25)の触媒に比べて、50℃の低温焼結が可能であることが確認された。
【0022】
(3)表面の特異構造
本実施例で得られた、ヘキサシアノ鉄(III)カリウムを出発原料とする錯体法で調製した触媒は、図2に示すような特異な3次元の編み目構造を取るという特徴を有した触媒であり、この特徴のために、反応ガスメタンとの接触がより円滑になると考えられる。
【0023】
比較例1
実施例1で、ヘキサシアノ鉄(III)カリウムを出発原料とする錯体法で調製した触媒を用いないで、共沈法及び固相法で調製した触媒は、特異な3次元の編み目状の表面構造を有しない触媒であることが確認された(図3)。
【実施例2】
【0024】
(メタンの酸化的分解)
実施例1の条件で、ヘキサシアノ鉄(III)カリウムを出発原料とする錯体法(錯体分解法)で調製した触媒0.1gを充填した石英反応管に、混合ガス(メタン:O=1:6)を流速30リットル/分を流して反応を行い、一定の時間の後の反応管出口ガスをガスクロマトグラフィーにかけた。その結果、メタンの転化率は温度とともに増大し、600℃ではメタンの92.9%が酸化的に分解され、二酸化炭素と水が連続的に生成した(図4)。
【0025】
また、500℃でも、53.9%と高いメタンの分解活性を示し、文献(R.Spinicci et al.,Materials Chemistry and Pysics76(2002)20−25)の触媒(480℃、メタン転化率25%程度)に比べて、2倍以上の高い触媒活性を有していることが確認された。
【0026】
比較例2
実施例2の反応条件で、ヘキサシアノ鉄(III)カリウムを出発原料とする錯体法で調製した触媒を用いないで、共沈法、固相法(固相反応法)のそれぞれで調製した触媒を用いてメタンの酸化的分解を行った。その結果、特異な3次元網目構造を有している本発明のペロブスカイト型酸化物触媒が最も高い触媒活性を示していることが確認された(図4)。
【0027】
比較例3
実施例1でヘキサシアノ鉄(III)カリウムを用いないで調製した酸化物を用いて、実施例2と同じ方法で実験を行った。その結果、ペロブスカイト構造を有している本発明の触媒が最も高い触媒活性を有していることが確認された(図4)。
【0028】
比較例4
実施例1で硝酸ランタンを用いないで調製した酸化物を用いて、実施例2と同じ方法で実験を行った。その結果、ペロブスカイト構造を有している本発明の触媒が最も高い触媒活性を有していることが確認された(図4)。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上詳述したように、本発明は、メタンの酸化的除去用触媒及びメタンの酸化的除去方法に係るものであり、本発明により、3次元の網目状の特異な表面構造を有したメタンの酸化的分解用のペロブスカイト型酸化物LaFeOを提供することができる。本発明のメタンの酸化的分解用触媒は、パラジウムや貴金属などの活性金属を全く含まない安価なものである。また、この触媒を用いることにより、メタンを容易に酸化分解することができ、効率的にメタンを熱エネルギーとして回収できる。本発明は、従来の固相法乃至共沈法により調製した酸化物触媒と比較してCH転化率が著しく高いペロブスカイト型酸化物触媒及び該触媒によるメタン酸化分解方法を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ヘキサシアノ鉄(III)カリウムを出発原料とする錯体法で調製したLaFeOのX線回折図を示す。
【図2】ヘキサシアノ鉄(III)カリウムを出発原料とする錯体法で調製したLaFeOの表面観察像を示す。
【図3】共沈法(a)及び固相法(b)で調製したLaFeOの表面観察像を示す。
【図4】LaFeOを用いたメタンの酸化的分解反応を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタンと鉄を含有し、ランタンと鉄の原子比が実質的に1/1であり、かつ該ランタンと鉄は、ペロブスカイト構造を形成している複合金属酸化物からなることを特徴とするメタンの酸化的分解用触媒。
【請求項2】
複合金属酸化物中の金属が、LaFeOの組成式を有し、ランタンと鉄とはペロブスカイト型酸化物を形成していることを特徴とする、請求項1記載のメタンの酸化的分解用触媒。
【請求項3】
出発原料にヘキサシアノ鉄錯体を用いて架橋した六角多面型ヘテロ金属配位高分子を前駆体として複合金属酸化物を調製することを特徴とするメタンの酸化的分解用触媒の製造方法。
【請求項4】
前駆体が、ヘキサシアノ鉄(III)酸ラクタン錯体であることを特徴とする、請求項3記載のメタンの酸化的分解用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記ヘテロ金属配位高分子を、空気中、650℃〜1000℃で処理してランタン鉄ペロブスカイト金属酸化物とすることを特徴とする、請求項3に記載のメタンの酸化的分解用触媒の製造方法。
【請求項6】
メタンの触媒を用いた酸化的分解方法において、ランタンと鉄を含有し、ランタンと鉄の原子比が実質的に1/1であり、かつ該ランタンと鉄は、ペロブスカイト構造を形成している複合金属酸化物からなる触媒を用いることを特徴とするメタンの酸化的分解方法。
【請求項7】
ランタン鉄ペロブスカイト金属酸化物を触媒として、600℃以下でメタンを酸化することを特徴とする、請求項6に記載のメタンの酸化的分解方法。
【請求項8】
メタンと酸素の混合ガスを触媒と接触させる、請求項6記載のメタンの酸化的分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−212898(P2008−212898A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57317(P2007−57317)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年9月8日 錯体化学会発行の「第56回錯体化学討論会講演要旨集」に発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】