説明

メタンを酢酸に直接転化する触媒及び方法

本発明は、窒素と酸素(N,O)原子或いは酸素と酸素(O,O)原子により配位結合された、即ちアミノアルコール類、(ヒドロキシイミノ)ジカルボン酸類、ヒドロキシピラノン類、トリフルオロ酢酸、トリフリック酸又は無機酸からの誘導体である、二座又は多座配位子を有する、バナジウム錯体(酸化状態が+4又は+5である)を、温和条件の下、一酸化炭素の存在下或いは非存在下、及びトリフルオロ酢酸(CF3COOH)中のペルオキソ二硫化塩(K2S2O8)の存在下に、メタンの酢酸への直接ワンポット転化の際の触媒として、一般式(I)に基づいて使用する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(a)背景、目的、利点
メタンの機能的に価値のある生成物への転化は現代化学における大いなる挑戦の一つであり、とりわけ、メタンガスと一酸化炭素からの酢酸への触媒合成は昨今の大いなる関心事である。この方法において、酸化バナジウム又はヘテロポリ酸主体のいくつかの触媒が最近発見されており[1]、一方Pd(OAc)2/Cu(OAc)2[2]、CaCl2[3]、NaVO3[4]、RhCl3 [5,6](O2の存在下で[6]ギ酸及びメタノールの生成を伴う)、ランタノイド塩[7]、K2S2O8[8]又は超酸[9]のその他の系においては触媒活性又は選択性が低いことが確認されている。
【0002】
また、有害な一酸化炭素を用いる必要のないカルボニル化生成物の合成もまた大きな関心事であり、最近、バナジウムヘテロポリ酸[10]又はCu(OAc)2[11]触媒による、メタンのトリフルオロ酢酸メチル又は酢酸メチルへの転化が成し遂げられた。メタンの二酸化炭素によるカルボニル化による、メタンの酢酸への転化の別の製法としては、100℃から500℃の温度範囲において、Pd[12]、 Rh[13]、 Ir[13]、Ru [13]又はCu/Co[14,15]触媒を用いた不均一系触媒において知られており、これらはメタノールを中間生成物[16]とする二つの異なる段階を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は触媒を選択し、好ましくはカルボニル化剤として一酸化炭素を使用することなく、温和又は適度な温度及び圧力条件の下においてメタンを酢酸に直接転化するワンポット製法を確立することを目的とする。
【0004】
このような触媒系は簡素化及び省エネルギーの観点から、現在実施されている、三つの異なる複雑かつエネルギー消費の多い工程段階:即ち、(i)「合成ガス」を生成するためのメタンの水蒸気改質(金属触媒により、触媒処理される、高度な吸熱反応を伴う処理)と、(ii)メタノール中での高温におけるこのガスの触媒転化と、(iii)通常、高価な触媒(BPアモコ修正ルートにおけるロジウム又はイリジウムベースの)を必要とするモンサントプロセスにより酢酸を与えるための、一酸化炭素によるこのメタノールのカルボニル化とを含む、現在実施されている工業製法:に比べ、大いに有益であろう。本発明は、上記の触媒よりずっと安価なバナジウムを触媒として使用する。
【0005】
(b)革新的な特徴
本発明は、上述のメタンカルボニル化系と異なり、とりわけ、一酸化炭素を使用することなく、温和又は適度な操作条件において活性な、メタンを酢酸に高い収率で直接ワンポット転化する新しい触媒系を確立することに関する。
【0006】
複数の触媒の内のいくつかの組成に対する生物系の発想、特に、アマバディン(Amavadine)、即ち、テングダケ菌中に存在するが、その生物学的機能はまだ特定されていない天然バナジウム錯体、のモデルを用いることによる着想もまた革新的である。本発明はメタンのカルボニル化に及び、アルカンと芳香族の過酸化ハロゲン化反応、水酸化反応又は酸化反応においてハロゲンペルオキシターゼ型又はペルオキシターゼ型活性を示すことが出来ると確認されているアマバディンの触媒活性に及び[17]、またチオール類の触媒による酸化において電子移動媒介として振る舞うことも可能である[18,19]。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(c)技術の記述
本発明は、アミノアルコール類、(ヒドロキシイミノ)ジカルボン酸類、ヒドロキシピラノン類、トリフルオロ酢酸、トリフリック酸又は、無機酸から誘導される、窒素と酸素(N,O)原子又は酸素と酸素(O,O)原子により配位結合された二座又は多座配位子を有するバナジウム(酸化状態+4又は+5)の錯体を、メタンを酢酸にワンポット転化するための触媒として、一酸化炭素の存在下或いは非存在下、及びトリフルオロ酢酸(CF3COOH)中のペルオキソ二硫化塩(K2S2O8)の存在下に、一般式(I)に基づいて使用することに関する。
【0008】
【化1】

【0009】
三種類の主な触媒が考慮された。
(i) [VO(N, O-L)]型[N, O-L =塩基形はトリエタノールアミンN (CH2CH2O-) 3、又はN, N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(ビシン)N(CH2CH2O-)2(CH2COO)-)]の塩基形]のオキソバナジウム(V)錯体、(ii)合成アマバディン及びそのモデル、即ち、N,O配位子を有するバナジウム(IV)錯体[V (HIDPA) 2] 2- [HIDPA=2, 2'-(ヒドロキシイミノ)二プロピオン酸、-ON {CH (CH3) COO-}2の塩基形]及び [V(HIDA) 2]2-[HIDA =2, 2'-(ヒドロキシイミノ)二酢酸,-ON (CH2COO-) 2]のCa2+塩、及び(iii)バナジル及び [VO (O, O-L) 2]型[O, O-L =マルトル (3-ヒドロキシ-2-メチル-4-ピロン)の塩基形(マルトレート);2-ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、N(CH2CH2OH)(CH2COO-)2の二塩基形 (heida); トリフルオロアセテート (CF3COO-);トリフレート(CF3SO2 O-)]のO,O配位子を有するバナジウム(IV)錯体とVOSO4
【0010】
典型的な実験条件、即ち80℃のCF3COOHにおいてCH4:V触媒及びK2S2O8:V触媒のモル比をそれぞれ、46:1(5気圧のCH4圧に相当)及び200:1とした際の転化数(TON:金属触媒1モルあたりの酢酸のモル数)及び(メタンに基づく)収量の具体的数値を表に示す。ここに示された値は、全て20時間の反応後に得られたものであるが、もっと短い時間でも20時間後に得られる値に近い収量を得るのに十分である(例えば、1番目の表記において2時間後の収量は20時間後に得られる収量のすでに92%となっている)こともよくある。
【0011】
【表1−1】


【表1−2】


a 特に断らないかぎり上記実験において言及した典型条件で、温度は80℃
b 25℃で測定の圧力
c 転化数:金属触媒1モルあたりの酢酸のモル数
d メタンに対するモル収量(%)、即ちメタン100モルあたりの酢酸のモル数
e N,O配位子=トリエタノールアミンの塩基形
f aに比べ、より多くのCF3COOH(28cm3) を用い、より少ないメタンを使用した(1.84 mmol)。
g aに比べ、5倍の量の金属触媒を使用した(0.312 mmol)
h N,O配位子= N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(ビシン)の塩基形
i aに比べ、より小さい容量の反応容器(23.5 cm3)において、より少量のメタン(1.02 mmol)を使用した;金属触媒(0.046mmol), K2S2O8(9.2 mmol, 即ち200:1触媒)、CF3COOH(17 cm3)
j Maltolate= マルトール(3-ヒドロキシ-2メチル-4-ピロン)の塩基形
k N,O配位子(heida)= 2-ヒドロキシエチルイミノアセト酢酸の2塩基形(1分子結晶水を含む錯体分子)
l 錯体1分子あたり2分子の結晶水を含む
m 錯体1分子あたり5分子の結晶水を含む
【0012】
最も活性のある触媒(メタンベースでの収量が50%以上かつTONが30程度)としては以下のものがある。タイプ(i)ではトリエタノールアミン(塩基形)錯体[VO {N (CH2CH2O) 3}] 、アマバディンモデル(タイプii)、及びタイプ(iii)では [VO (O, O-L)2](O, O-L = マルトレート,CF3COO-又はCF3SO2O-)。反対に[VO (N, O-L)] (N, O-L = ビシン又は heida) と単体のVOSO4 塩はかなり低い活性を示す。
【0013】
メタンのカルボニル化の際には一酸化炭素が存在する必要はないが、一酸化炭素もカルボニル化剤として機能し得る(以下を参照)。
【0014】
13Cを豊富に含むメタンを用いて13CH3COOHの生成する際に13C- {1H}及び13CNMR 分光測定により特定されるように、メタンが酢酸のメチル基の炭素源を構成する。この酸のカルボニル基は、ラジカルプロセスにおいて、K2S2O8の誘導体と反応することが知られている[20] CF3COOH溶媒から、一酸化炭素の非存在下で生成される。ここでの実験条件において、メタノールは酢酸に転化されないので、酢酸の生成はメタンのフリーメタノールへの転化を含むべきではない。
【0015】
一酸化炭素(CO)は、十分に低い圧力において酢酸の生成を促進し、つまり、カルボニル化剤として働き得るが、その効果は [VO {N (CH2CH2O)3}]の場合に見られるように小さいことがある。より高いCO圧力(例えば、この触媒についておよそ8気圧以上でメタンが5気圧の場合)の使用では抑制効果を示すことになる。
【0016】
メタン圧の変化はTONに対し著しく影響を及ぼし得るのであり、[VO {N (CH2CH2O) 3}] 触媒の場合、例えば、メタン圧が3から12気圧に変化すると、TONは5から28に増加する。最大値に達するとその後はメタン圧が上昇した時に収量は減少傾向を示す。
【0017】
(i)同じ圧力でメタンを少なくすることにより、より高い収量を得ることが出来る。例えば、Ca [V(HIDPA)2] の場合にメタン量を1/2.8にした場合に収量が17%から54%に増加する。或いは、(ii) 触媒の量を増やすと収量が増加する。例えば、CO及びメタン圧が5気圧で[VO {N(CH2CH2O)3}]濃度が5倍になると、収量が24%から43%に増加する。
【0018】
上述に検討された全ての事例において、バナジウム触媒が存在しない場合には上記の反応は進行しない。
【実施例】
【0019】
実例として、他の条件に容易に適用可能な典型的な実験を以下に記述する。
【0020】
バナジウム触媒 (0.0625 mmol) とK2S2O8(3.38 g, 12.5 mmol)を39cm3のステンレス製のオートクレーブ内のCF3COOH (23cm3)に加え、これを閉じる。空気を窒素ガス流及び真空により除去し、その後メタンを必要圧 (例えば5 気圧, 2.86 mmol)まで導入し、オートクレーブをオイルバスで必要温度で必要時間、反応混合物を撹拌しながら加熱する。オートクレーブを冷却し、残留ガスを排出した後、オートクレーブを開け、最終混合物の溶液をろ過する。ジエチルエーテルを溶液に加え、過剰のK2S2O8を沈殿させ、ろ過により除去する。得られた溶液をガスクロマトグラフィ (GC) 又はガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)で分析する。
【0021】
一酸化炭素の存在下においても同様な処理を試験的に行う。一酸化炭素はメタンの導入後にオートクレーブに入れる。種々の試薬モル比率、溶媒量、或いは異なる容量のオートクレーブにて種々の実験を同様に実行する。
【0022】
以下の錯体は文献方法に従って調製された。[VO{N(CH2CH2O)3}][21], Ca[V(HIDPA)2] [22], Ca [V(HIDA)2] [22], [VO(maltolate)2] [23] 及び[VO (CF3SO2O)2] [24]。新たな錯体[VO{N(CH2CH2O)2(CH2COO)}], [VO{N(CH2CH2OH) (CH2COO)2} (H2O) ] 及び [VO(CF3COO)2] はそれぞれ、参照[25]の[VO{N(CH2CH2O)3}]の処理及び[VO(CF3SO2O)2]の処理と同様な処理により、目的に応じた配位子を用いることにより得られた。化合物VOSO4、K2S2O8及びCF3COOHは Merck 及び Aldrichから購入した。
【0023】
参照






【特許請求の範囲】
【請求項1】
比較的温和な条件下にて、バナジウム錯体、ペルオキソ二硫化塩及びトリフルオロ酢酸を含むことを特徴とする、メタンを酢酸に直接ワンポット転化する触媒系及び方法。
【請求項2】
窒素と酸素(N,O)原子或いは酸素と酸素(O,O)原子により配位結合された二座又は多座配位子を有するバナジウム錯体を使用することを特徴とする、請求項1に記載の触媒系及び方法。
【請求項3】
アミノアルコール類、(ヒドロキシイミノ)ジカルボン酸類、ヒドロキシピロン類、トリフルオロ酢酸、トリフリック酸又は無機酸から誘導される配位子を有し、酸化状態が+4又は+5であるバナジウムの錯体を使用することを特徴とする、請求項1又は2に記載の触媒系及び方法。
【請求項4】
一酸化炭素を使用することを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の触媒系及び方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
比較的温和な条件下にて、一酸化炭素の使用を必要とすることなく、バナジウム錯体、ペルオキソ二硫化塩及びトリフルオロ酢酸を含むことを特徴とする、メタンを酢酸に直接ワンポット転化する触媒系及び方法。
【請求項2】
アミノアルコール類、(ヒドロキシイミノ)ジカルボン酸類、ヒドロキシピロン類、トリフルオロ酢酸又はトリフリック酸から誘導される窒素及び/又は酸素原子により配位結合された二座又は多座配位子と、酸化状態が+4又は+5である金属とを有するバナジウム錯体を使用することを特徴とする、請求項1に記載の触媒系及び方法。
【請求項3】
一酸化炭素を使用することを特徴とする、請求項2に記載の触媒系及び方法。

【公表番号】特表2006−503693(P2006−503693A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−546574(P2004−546574)
【出願日】平成15年10月15日(2003.10.15)
【国際出願番号】PCT/PT2003/000015
【国際公開番号】WO2004/037416
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(505150903)インスティテュート スペリオール テクニコ (4)
【Fターム(参考)】