説明

メタン生成法及びメタン生成装置

【課題】 従来のメタン発酵法よりも、多量のガスが発生させることができるメタン生成法及び装置を提供すること。
【解決手段】 油脂とタンパク質を含む有機性廃棄物を嫌気的条件下で酸発酵処理した後、メタン発酵処理することを含む、メタン生成法。酸発酵処理槽と、メタン発酵処理槽とを備える、メタン生成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン生成法及びメタン生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性廃棄物を嫌気状態でメタン菌により処理を行うと、消化ガス(メタンと二酸化炭素の混合ガス)が得られる。
【0003】
牛乳等のトリグリセリド(TG)や脂肪酸(FA)を含むものを用いてメタン発酵を行うと次第にガス発生量が減少していく。
【0004】
この原因の一つとしては、油脂が加水分解される過程で生じる高級脂肪酸がメタン発酵菌の作用を阻害すると考えられ、有機性廃水から油脂を分離除去し、上澄液をメタン発酵処理に供する方法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
しかし、この方法では、多くの有機分がメタン発酵前に除去されてしまうため、発生ガス量が低下してしまう。
【0006】
【特許文献1】特開平8−66693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ガスの発生を安定に継続させることができる、有機性廃棄物のメタン発酵法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、上記の方法を実施するための装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意努力した結果、以下のことを見出した。
【0010】
1.牛乳を基質としたメタン発酵を行うと、脱乳化されて生じた油脂で阻害が起こる。
【0011】
2.牛乳を酸発酵(乳酸発酵に限定されない)させてからメタン発酵の基質とすると、脱乳化が起こらないで阻害が回避できる。
【0012】
3.しかし、長期的に、高濃度の酸発酵(乳酸発酵に限定されない)牛乳を基質とするとアンモニアによる阻害が起きる。
【0013】
4.酸発酵(乳酸発酵に限定されない)牛乳を他の原料(例えば、アオサ)と混合することで、アンモニア濃度を低く保ち、アンモニアによる阻害を回避できる。
【0014】
5.さらに牛乳を酸発酵(乳酸発酵に限定されない)させてから、遠心分離などの方法で固形物(主に、酸によって変性したタンパク質)を取り除いた上清(乳清)はアンモニア濃度が低いため、これをメタン発酵の基質とするとアンモニアによる阻害がさらに回避できる。
【0015】
本発明は、上記の知見により完成されたものである。
【0016】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0017】
(1) 油脂とタンパク質を含む有機性廃棄物を嫌気的条件下で酸発酵処理した後、メタン発酵処理することを含む、メタン生成法。
【0018】
(2) 酸発酵処理に用いる微生物が乳酸菌である(1)記載のメタン生成法。
【0019】
(3) 酸発酵処理に用いる微生物が、Bacillus属又はLactobacillus属に属する(1)記載のメタン生成法。
【0020】
(4) 酸発酵処理に用いる微生物が、Bacillus cereus OZ-6株(受託番号:FERM P-20381)、Lactobacillus sp. OZ-7株(受託番号:FERM P-20382)及びそれらの類縁菌種からなる群より選択される(3)記載のメタン生成法。
【0021】
(5) 油脂とタンパク質を含む有機性廃棄物が、哺乳動物の乳、鳥類の卵及びそれらを原料とする製品からなる群より選択される(1)〜(4)のいずれかに記載のメタン生成法。
【0022】
(6) 油脂とタンパク質を含む有機性廃棄物を嫌気的条件下で酸発酵処理する前、酸発酵処理した後又は酸発酵処理と同時に、前記有機性廃棄物よりも窒素含量が少ない有機性廃棄物を添加してから、メタン発酵処理する(1)〜(5)のいずれかに記載のメタン生成法。
【0023】
(7) 油脂とタンパク質を含む有機性廃棄物よりも窒素含量が少ない有機性廃棄物が海藻である(6)記載のメタン生成法。
【0024】
(8) 海藻が、アオサ、マコンブ、オゴノリ、スサビノリ、ワカメ、アナアオサ、アマノリ、ツノマタ、ノコギリモク、クロヒトエグサ、ヤブレグサ、リボンアオサ、ボタンアオサ、ナガアオサ、スジアオノリ、ウスバアオノリ、ボウアオノリおよびトロロコンブからなる群より選択される少なくとも1種類の海藻である(7)記載のメタン生成法。
【0025】
(9) 海藻が破砕処理されたものである(7)又は(8)記載のメタン生成法。
【0026】
(10) 海藻がさらに熱処理されたものである(9)記載のメタン生成法。
【0027】
(11) 油脂とタンパク質を含む有機性廃棄物を嫌気的条件下で酸発酵処理した後、生成した固形物を取り除いてから、メタン発酵処理する(1)〜(10)のいずれかに記載のメタン生成法。
【0028】
(12) 遠心分離又はフィルター除去により固形物を取り除く(11)記載のメタン生成法。
【0029】
(13) 酸発酵処理槽と、メタン発酵処理槽とを備える、メタン生成装置。
【0030】
(14) さらに、海藻を破砕するための手段を備える(13)記載のメタン生成装置。
【0031】
(15) さらに、海藻を加熱するための手段と、海藻を熱処理するための槽とを備える(14)記載のメタン生成装置。
【0032】
(16) さらに、固液分離手段を備える(13)〜(15)のいずれかに記載のメタン生成装置。
【0033】
(17) (13)〜(15)のいずれかに記載のメタン生成装置で得られた消化ガスをコージェネレーション設備の燃料として用い、電気および熱エネルギーに変換するとともに、得られた熱を(1)〜(12)のいずれかに記載のメタン生成法に利用することを含む、メタン生成法。
【0034】
(18) (13)〜(15)のいずれかに記載のメタン生成装置で得られた消化ガスをコージェネレーション設備の燃料として用い、電気および熱エネルギーに変換するとともに、得られた熱を(1)〜(12)のいずれかに記載のメタン生成法に利用するメタン生成装置。
【0035】
油脂とタンパク質を含む有機性廃棄物としては、哺乳動物の乳、鳥類の卵及びそれらを原料とする製品などを例示することができる。哺乳動物の乳としては、牛乳、山羊乳などを例示することができ、哺乳動物の乳を原料とする製品としては、バター、チーズ、ヨーグルト、脱脂粉乳などを例示することができる。鳥類の卵としては、家禽の卵などを例示することができ、鳥類の卵を原料とする製品としては、マヨネーズなどを例示することができる。
【0036】
油脂とタンパク質を含む有機性廃棄物よりも窒素含量が少ない有機性廃棄物としては、海藻などを例示することができる。
【0037】
本明細書において、「酸発酵処理」とは、有機酸の生成を伴う発酵をいう。酸発酵は基本的に嫌気培養による。ただしメタン発酵のような厳密な(高度な)嫌気状態にする必要はない。酸化還元電位(ORP、または還元ポテンシャル)で100mV以下であれば問題ない。発酵とは、基質レベルのリン酸化によって、糖などの有機物を分解してエネルギーを獲得する反応をいう。
【0038】
「メタン発酵処理」とは、二酸化炭素あるいは酢酸を最終電子受容体としてエネルギーを得る反応であり、還元状態で行われ最終産物がメタンであるためにメタン発酵と呼ばれる。酢酸を最終電子受容体とする場合には二酸化炭素も生成する。反応を行う微生物はメタン生成菌あるいはメタン生成アーキアと呼ばれる。また、メタン発酵で生じるガス(メタンとCO2の混合ガス)はバイオガスあるいは消化ガスと呼ばれる。
【0039】
牛乳を始めとする油脂とタンパク質を含む有機性廃棄物を基質とするメタン発酵においては、油脂による阻害とアンモニアによる阻害の2つが問題となっている。特定の理論に拘泥するわけではないが、本発明の原理は以下のように考えられる。
【0040】
1.油脂による阻害の回避
牛乳に含まれる油脂(トリグリセライド。グリセロール1分子に3分子の直鎖脂肪酸がエステル結合したもの)が脱乳化されて析出し、バター様となって培養液中に浮遊する。(脱乳化は牛乳からバターを作る原理である。)
【0041】
このバター様物質が微生物(メタン生成菌)固定化担体の表面に付着して、閉塞を起こす。固定化担体の多くは細孔を有したものや細い繊維状物質を折り重ねた構造で表面積を大きくして微生物と培養液の接触が効率よくなるように工夫されている。バター様物質はこの細孔などを塞ぐ。また、微生物(メタン生成菌)そのものの表面にも付着し、微生物菌体内への物質移動を阻害する。さらに油脂が微生物の細胞膜を破壊するとの報告もある。
【0042】
牛乳を嫌気的な条件で酸発酵(多くは乳酸発酵。さらに酢酸発酵や酪酸発酵も起こる。)させると脱乳化が起こらない。そのためバター様物質による阻害は認められなくなる。
【0043】
2.アンモニアによる阻害の回避
牛乳にはタンパク質が含まれるため、牛乳を基質として長期のメタン発酵を行うとタンパク質が嫌気的に分解され、アンモニアが遊離する。アンモニアはメタン発酵を阻害する(アンモニウムイオンは阻害しない)。
【0044】
牛乳を嫌気的な条件で酸発酵させるとpHが下がるため、タンパク質の多くが変性して水に不溶となる。この変性タンパク質は遠心分離やフィルター除去などにより除くことができる。変性タンパク質を除いた液は乳清(ホエー)と一般的には呼ばれる。乳清には有機酸、アミノ酸、水溶性の高いタンパク質、糖類が含まれていると考えられる。アミノ酸はタンパク質が低pHによって変性する以前に分解したもの、水溶性の高いタンパク質は変性しても水溶性を保っているもの、糖類は発酵によって有機酸に変換されなかった残りと考えられる。また、アミノ酸、水溶性の高いタンパク質および糖類はもとの牛乳よりは低濃度である。
【発明の効果】
【0045】
本発明により、従来のメタン発酵法よりも、多量のガスを有機性廃棄物から発生させることができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、図面を参照しつつ、本発明のいくつかの実施態様を説明する。ここでは、油脂とタンパク質を含む有機性廃棄物として牛乳を用いる。
【0047】
1.図1は、本発明のメタン生成法を含む有機性廃棄物リサイクルのフロー図である。
【0048】
本発明のメタン生成法において、油脂とタンパク質を含む有機性廃棄物(ここでは、牛乳)を嫌気的条件下で酸発酵処理した後、メタン発酵処理する。
【0049】
牛乳を前処理槽にて酸発酵処理する。酸発酵処理は微生物により有機酸が生成されることができる処理であればよく、例えば、牛乳を微生物の生育に適した温度にまで加熱した後に、その溶液で有機酸生成のための微生物を培養するとよい。なお、微生物の培養を牛乳などの溶液中で行う場合には、溶液はアルカリ性溶液、酸性溶液、中性溶液のいずれであってもよい。微生物をアルカリ性溶液中で培養する場合には、微生物の培養開始時における溶液のpHは7.5以上とし、微生物を酸性溶液中で培養する場合には、微生物の培養開始時における溶液のpHは6.5以下とし、微生物を中性溶液中で培養する場合には、微生物の培養開始時における溶液のpHは6.5〜7.5の範囲内とするとよい。培養開始時のpHは、用いる微生物の最適生育pHに合わせるとさらに効果的である。溶液を所望のpHにするために、酸やアルカリの溶液(例えば、NaOH溶液、KOH溶液、Ca(OH)溶液、Mg(OH)溶液、NH溶液、HCl溶液、HNO溶液、HCO溶液)を添加するとよい。培養は静置、振とう、攪拌培養のいずれであってもよく、嫌気的条件下で行うとよいが、静置培養にて嫌気的条件下で行うことが好ましい。培養条件は用いる微生物に応じて最適化することが望ましい。培養は、10〜40℃の温度で、12時間以上行うとよい。培養は、回分法、連続法、半回分培養法、流加培養法のいずれであってもよい。
【0050】
酸発酵処理により、酢酸、乳酸、蟻酸、酪酸、プロピオン酸、ピルビン酸、グリオキシル酸、シュウ酸などの内少なくとも1種類以上の有機酸が生成する。なお、酸発酵処理により、生化学的に酢酸に変換しうる有機酸が少なくとも1種類生成することが必要である。
【0051】
微生物は、基質となる原料(ここでは、牛乳、海藻など)から有機酸を生成するものであれば、いかなるものであってもよい。微生物の種類としては、乳酸発酵系微生物、土壌系微生物、食品系微生物など、または、海に生息している微生物、例えば、海藻を採取した海域に生息している微生物、採取した海藻に付着している微生物などが挙げられる。具体的には、乳酸菌、Bacillus属、Lactobacillus属に属する微生物などが挙げられ、これらの中でも、Bacillus cereus OZ-6株、Lactobacillus sp. OZ-7株、それらの類縁菌種(16S-rDNAの塩基配列が98%以上一致する微生物)が好ましい。微生物はこれら単一な菌種を単独で用いても良いが、これらの微生物種が混在して有効に機能する混合微生物系でも良い。微生物の種母の量は、溶液1ml当り10細胞以上が望ましい。
【0052】
酸発酵処理した牛乳をメタン発酵槽にてメタン発酵させる。メタン発酵槽で生成した消化ガス(メタンガス、メタンガスと二酸化炭素との混合ガスなど)は、必要によりガス精製設備(図示せず)で硫化水素の除去(脱硫)を行った後、消化ガスは消化ガス利用設備(例えば、ガスエンジン、ガスタービン、燃料電池等これらの設備を含むコージェネレーション設備、ボイラなど)に送られて電気、熱エネルギーとして利用される。なお、図示はしないが、ガス精製設備の後に、ガス貯蔵設備(ガスタンク)を設置することが望ましい。必要に応じて、ガス圧縮機やドレン処理装置を用いる。コージェネレーション設備、ボイラを用いた場合には、得られる熱の全部または一部をメタン発酵槽の加熱、加温もしくは加熱、加温のための予熱の熱源として用いる。予熱の熱源としては、酸発酵処理槽からメタン発酵槽へ牛乳を移す際の冷却時に発生(回収)する熱も利用することができる。コージェネレーション設備、ボイラから得られる熱の一部を酸発酵処理槽、メタン発酵槽の加熱、加温に利用してもよい。これらの、熱利用を行うことで更にエネルギーの有効利用が図れる。また、消化ガスの利用法として、自動車、船の燃料に用いることもできる。
【0053】
メタン発酵が行われた後にメタン発酵槽に残った残さ(メタン発酵が行われた後の牛乳)は肥料、土壌改良資材などとして利用することができる。
【0054】
メタン発酵は、酸発酵処理をした牛乳とともに嫌気状態でメタン生成菌を培養することにより行う。なお、メタン発酵法については、一般に行われているメタン発酵法と同様のものでよい。(参照文献:廃棄物のメタン発酵 サイエンティスト社 2000年)
【0055】
2.図2は、本発明のメタン生成法を含む別の有機性廃棄物リサイクルのフロー図である。
【0056】
本発明のメタン生成法において、油脂とタンパク質を含む有機性廃棄物(ここでは、牛乳)を嫌気的条件下で酸発酵処理する前、酸発酵処理した後又は酸発酵処理と同時に、前記有機性廃棄物よりも窒素含量が少ない有機性廃棄物(ここでは、海藻)を添加してから、メタン発酵処理してもよい。
【0057】
まず、前処理手段により、アオサ、マコンブ、オゴノリ、スサビノリ、ワカメ、アナアオサ、アマノリ、ツノマタ、ノコギリモク、クロヒトエグサ、ヤブレグサ、リボンアオサ、ボタンアオサ、ナガアオサ、スジアオノリ、ウスバアオノリ、ボウアオノリ、トロロコンブなどの海藻を前処理する。海藻は、海、磯、浜辺などに自然に生息しているものであっても、養殖されているものであってもよい。養殖されている海藻については、食用、だし用に養殖されているものであっても、海域の富栄養化対策として養殖されいるものであってもよい。また、海藻は乾燥させたものでも良い。さらに、旨味成分やアルギン酸等の有効成分を抽出した海藻残さでもよい。本発明においては、これらの海藻を採取して、利用することができる。
【0058】
例えば、前処理として、海藻をミル、カッターなどの破砕手段を用いて破砕もしくは粉砕し、次いで適当な液(例えば、中性水(pH6.5〜7.5)、アルカリ溶液(pH7.5以上)、酸溶液(pH6.5以下)など)で適当な濃度(例えば、海藻を乾燥重量で0.1〜15重量%含む濃度)に希釈する。中性水としては、純水、水道水、工業用水等を挙げることができる。アルカリ溶液としては、NaOH溶液、KOH溶液、Ca(OH)溶液、Mg(OH)溶液、NH溶液またはこれらの内少なくとも2種以上を混合した溶液などを挙げることができる。酸溶液としては、HCl溶液、HNO溶液、HSO溶液、HCO溶液またはこれらの内、少なくとも2種以上を混合した溶液などを挙げることができる。
【0059】
海藻が骨格多糖類および粘性多糖類(例えば、セルロース、ヘミセルロース、グルクロノキシロラムナン硫酸、グルクロノキシロラムノガラクタン硫酸、アルギン酸、フコイダン、アガロース、ガラクタン、フノランなど)を多く含む場合には、前処理により得られた海藻溶液を熱処理するとよい。この熱処理により、海藻の骨格多糖類および粘性多糖類を低分子化する。熱処理は、海藻を加熱することにより海藻の骨格多糖類および粘性多糖類を低分子化させることができる処理であればよく、望ましくは50℃以上の温度にて加熱し、所定時間その温度を維持することで行う。なお、本反応は加水分解反応であるから、処理温度を高くすれば、処理時間を短くすることができる。熱処理は、いかなる装置を用いていかなる方法で行ってもよく、例えば、オートクレーブ、恒温槽、水浴、油浴、蒸気添加などを用いて行うことができる。熱処理は、好気的条件または嫌気的条件のいずれの条件下で行ってもよい。海藻をアルカリ溶液中で熱処理する場合には、熱処理開始時の溶液のpHは7.5以上とするとよい。海藻を酸溶液中で熱処理する場合には、熱処理開始時の溶液のpHは6.5以下とするとよい。溶液を所望のpHにするために、酸やアルカリの溶液(例えば、NaOH溶液、KOH溶液、Ca(OH)溶液、Mg(OH)溶液、NH溶液、HCl溶液、HNO溶液、HSO溶液、HCO溶液)を添加するとよい。海藻を中性溶液中で熱処理する場合には、純水、水道水、工業用水などをそのまま用い、熱処理開始時の溶液のpHが6.5〜7.5の範囲内のものを使用するとよい。
【0060】
熱処理後の海藻における骨格多糖類および粘性多糖類の量は特に限定されない。なお、本明細書においては、骨格多糖類および粘性多糖類の低分子化の度合いを推定するのに、溶液中に溶け出した水溶性画分の量を指標としている。水溶性画分の量については、処理前の固形分の重量と処理後の溶液中の固形分の重量の差をとっている。
【0061】
前処理、場合により、さらに熱処理された海藻溶液を前処理槽に添加する。海藻溶液が熱処理されている場合には、前処理槽で用いる微生物の生育に適した温度まで冷却した後、前処理槽に添加するとよい。以後の処理は図1の場合と同様である。
【0062】
3.図3は、本発明のメタン生成法を含むさらにもう一つの有機性廃棄物リサイクルのフロー図である。
【0063】
本発明のメタン生成法において、油脂とタンパク質を含む有機性廃棄物(ここでは、牛乳)を嫌気的条件下で酸発酵処理した後、生成した固形物を取り除いてから、メタン発酵処理してもよい。
【0064】
牛乳は図1と同様に酸発酵処理される。その後、酸発酵処理された牛乳からは、固液分離手段により固形物が取り除かれる。
【0065】
固液分離の方法としては、遠心分離、フィルター除去などを例示することができる。
【0066】
固液分離手段としては、遠心分離機、デカンター、フィルタープレス、ろ過装置などを例示することができる。
【0067】
固液分離後の固体は、肥料、土壌改良資材などとして利用することができる。
【0068】
固液分離後の液体は、メタン発酵槽にてメタン発酵処理される。以後の処理は図1の場合と同様である。
【0069】
以上、図面を参照しながら本発明を説明したが、当業者にとって自明な変更や改良がなされたものも、本発明の範囲内である。
【0070】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0071】
実施例1のメタン発酵法に用いた装置を図4に示す。牛乳は酸発酵槽に流入され、微生物とともに恒温槽(1)内で培養され、その結果、有機酸が生成した。有機酸を含有する酸発酵処理された牛乳はメタン発酵槽に流入され、担体に固定されているメタン生成菌とともに恒温槽(2)内で培養され、その結果、消化ガス(メタンガス、メタンガスと二酸化炭素との混合ガスなど)が生成した。生成した消化ガスをガス捕集器(生成したメタンガスを捕集するための手段)に捕集した。メタン生成菌として通常のメタン発酵で用いられている菌種を使用した。メタン生成菌の培養は、スターラーで培養液を攪拌しながら行った。培養液のpHはpHメーターで測定した。
【0072】
実施例2のメタン発酵法に用いた装置を図5に示す。牛乳を前処理及び熱処理された海藻とともに、酸発酵槽に流入した。その他の処理は実施例1と同様である。
【0073】
実施例3のメタン発酵法に用いた装置を図6に示す。牛乳の酸発酵処理は実施例1と同様である。有機酸を含有する酸発酵処理された牛乳を遠心分離機により固液分離した後、メタン発酵槽に流入した。その後の処理は実施例1と同様である。
【0074】
また、比較例及び実施例1〜3で用いたメタン発酵用の合成培地の組成は以下の通りである。
【0075】
【表1】

【比較例】
【0076】
1.試験条件
容量600mlのガラス製リアクタ中に、牛乳600mlおよび少量の種菌(汚泥系)を加えた。微生物の固定担体として液中に多孔質の担体を設置した。マグネティックスターラで攪拌を行った。リアクタを恒温槽内に設置し、55℃に制御した。pHは約7.0〜8.3に制御した。発生ガスは水上置換で捕集した。試験開始から21日目に、牛乳400mlの入れ替えを行った。
【0077】
2.実験結果
結果を図7に示す。図には試験開始からのガス発生量の積算値を示す。21日目にガス発生がほぼなくなったの確認した後、原料となる牛乳を入れ替えた。2回目の試験において、ガス発生量が激減した。試験後のリアクタ内に設置した担体の様子を図8に示す。写真からわかるように、担体表面に油状物質が大量に着いていた。ガス発生量の低下は、油状物質による微生物の被毒が原因と考えられる。
【実施例1】
【0078】
牛乳を酸発酵処理した後、メタン発酵処理した。試験条件は以下の通りである。
【0079】
1.試験条件(前処理1)
酸発酵処理
ガラス製リアクタ(1000ml)中で、市販の牛乳1000mlに発酵食品(魚介類の粕漬け)10gを添加し、軽く攪拌した後、恒温槽内(30℃)で48時間静置培養した。
【0080】
2.試験条件(メタン発酵処理)
容量1Lのガラス製リアクタ中に、微生物の固定担体として液中に多孔質の担体(約30cc)を設置した。マグネティックスターラで攪拌(約50rpm)を行った。リアクタを恒温槽内に設置し、55℃に制御した。pHは約7.5に制御した。
【0081】
合成培地900ml(上記)に前処理液を100mlおよび少量の種菌(汚泥系)を加えた。その後、前処理液とメタン発酵液を100mlずつ入れ替える作業を適宜繰り返し、連続発酵試験を行った。発生ガスは水上置換で捕集した。リアクタ溶液中のアンモニア濃度は、島津製イオンクロマトグラフで測定した。リアクタ溶液中の有機酸濃度は、島津製液体クロマトグラフで測定した。
【0082】
3.実験結果
結果を図9及び10に示す。油状物質による阻害は観察されなかった。バイオガスの発生は継続的であった。しかし、メタンの直接の基質である酢酸が蓄積した。これはメタン生成過程が何らかの阻害を受けていることを示す結果と考えられた。また、時間の経過とともに、アンモニア濃度が増加した(3000ppmを超えた)。
【実施例2】
【0083】
海藻を前処理した後、牛乳と混合物し、酸発酵処理をした。その後、メタン発酵処理処理を行った。試験条件は以下の通りである。
【0084】
1.試験条件(前処理2)
(1)海藻前処理
乾燥アオサをSHIBATA製 PERSONAL MILL SCM-40で粉砕した。粉砕したアオサ50gを水に加え(1000ml)、オートクレーブで121℃、15分間処理した。
【0085】
(2)海藻+牛乳の酸発酵処理
ガラス製リアクタ(1000ml)中で、市販の牛乳500mlと上記海藻処理液500mlを混合し、発酵食品(魚介類の粕漬け)10gを添加した。軽く攪拌した後、恒温槽内(30℃)で48時間静置培養した。
【0086】
2.試験条件(メタン発酵処理)
容量1Lのガラス製リアクタ中に、微生物の固定担体として液中に多孔質の担体(約30cc)を設置した。マグネティックスターラで攪拌(約50rpm)を行った。リアクタを恒温槽内に設置し、55℃に制御した。pHは約7.5に制御した。
【0087】
合成培地900ml(上記)に前処理液を100mlおよび少量の種菌(汚泥系)を加えた。その後、前処理液は培養80日までは100mlずつ入れ替える作業を適宜繰り返し、培養81日目以降は負荷量を増加させ150mlずつを入れ替える作業を行った。発生ガスは水上置換で捕集した。リアクタ溶液中のアンモニア濃度は、島津製イオンクロマトグラフで測定した。リアクタ溶液中の有機酸濃度は、島津製液体クロマトグラフで測定した。
【0088】
3.実験結果
結果を図11及び12に示す。有機酸の蓄積が少なく、バイオガスの発生は旺盛であった。また、アンモニア濃度は2500ppm程度を保っていた。
【実施例3】
【0089】
牛乳を酸発酵処理した後、遠心分離機にかけ、その上清(乳清)をメタン発酵処理した。試験条件は以下の通りである。
【0090】
1.試験条件(前処理3)
酸発酵処理(乳清)
ガラス製リアクタ(1000ml)中で、市販の牛乳1000mlに発酵食品(魚介類の粕漬け)10gを添加した。軽く攪拌した後、恒温槽内(30℃)で48時間静置培養した。その後、静置培養した溶液を200mlの容器に入れ、3000rpm、30分間遠心処理し、上澄み(乳清)のみを回収した。
【0091】
2.試験条件(メタン発酵処理)
容量1Lのガラス製リアクタ中に、微生物の固定担体として液中に多孔質の担体(約30cc)を設置した。マグネティックスターラで攪拌(約50rpm)を行った。リアクタを恒温槽内に設置し、55℃に制御した。pHは約7.5に制御した。
【0092】
前処理した牛乳で数ヶ月連続発酵試験を行ったものに、乳清を100ml加えて連続試験をした。発生ガスは水上置換で捕集した。リアクタ溶液中のアンモニア濃度は、島津製イオンクロマトグラフで測定した。リアクタ溶液中の有機酸濃度は、島津製液体クロマトグラフで測定した。
【0093】
3.実験結果
結果を図13及び14に示す。バイオガスの発生は旺盛で、有機酸の蓄積量が減少していた。これは、有機酸がメタン+CO2に変換されているからと思われる。また、アンモニア濃度が低下していた。
【実施例4】
【0094】
発酵食品(魚介類の粕漬け)よりトリプトソイ寒天培地(pH5.5)、トリプトソイ寒天培地(pH7.3)およびLBS寒天培地(pH5.5)を用いて有機酸生産菌の分離を試みた。培養はCO2/H2雰囲気下で嫌気的に、30℃で7日間の培養を行った。OZ-1からOZ-15までの15菌株を単一コロニーとして得た。
【0095】
次に分離した15菌株を各々アオサ熱処理液(乾燥アオサ5%を蒸留水に懸濁させ、121℃、15分間のオートクレーブ処理したもの)に接種し、7日間、30℃で静置培養を行った。培養終了後の培養液をHPLCに供し、生産された有機酸を定量した。結果の一部を表2に示した。
【0096】
【表2】

【0097】
有機酸(乳酸)の生産量が顕著であったOZ-6株とOZ-7株の同定を行った。表3には代表的な菌学的諸性質を示した。
【0098】
【表3】

【0099】
さらにOZ-6株とOZ-7株の16S-rDNAの塩基配列を解読し、結果をデーターベースに照合して分類学的な位置を決定した。その結果OZ-6株の16S-rDNAの塩基配列(533bp)はBacillus cereusの16S-rDNAの塩基配列と100%一致した。またOZ-7株の16S-rDNAの塩基配列(562bp)はLactobacillus fructivoransの16S-rDNAの塩基配列と98.9-99.1%一致した。
【0100】
以上のことから、OZ-6株をBacillus cereusと同定した。また、OZ-7株はLactobacillus 属の細菌と同定した。
【0101】
OZ-6株の16S-rDNAの塩基配列(533bp)を配列番号1に示す。OZ-7株の16S-rDNAの塩基配列(562bp)を配列番号2に示す。
【0102】
また、OZ-6株は、平成17年1月28日付けで独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センター(IPOD)(茨城県つくば市東1−1−1)に受託番号FERM P-20381として寄託されている。OZ-7株は、平成17年1月28日付けで独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センター(IPOD)(茨城県つくば市東1−1−1)に受託番号FERM P-20382として寄託されている。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明により、従来のメタン発酵法よりも、多量のガスを有機性廃棄物から発生させることができるようになった。本発明のメタン生成法および装置により、有機性廃棄物をエネルギー源として有効利用することが可能となった。さらに、副産物として肥料も得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明のメタン生成法を含む有機性廃棄物リサイクルのフロー図である。
【図2】本発明のメタン生成法を含む別の有機性廃棄物リサイクルのフロー図である。
【図3】本発明のメタン生成法を含むさらにもう一つの有機性廃棄物リサイクルのフロー図である。
【図4】本発明のメタン生成装置の一例を示す。
【図5】本発明のメタン生成装置の別の一例を示す。
【図6】本発明のメタン生成装置のさらにもう一つの例を示す。
【図7】比較例の実験結果を示すグラフである。横軸の日数は、メタン発酵処理における培養日数である。縦軸はバイオガス量の積算値を示す。
【図8】比較例のリアクタ内に設置した担体の様子を示す。
【図9】実施例1の実験結果を示すグラフである。上図はガス生成速度の時間変化を、下図は有機酸濃度の時間変化を示す。横軸の日数は、メタン発酵処理における培養日数である。
【図10】実施例1における反応槽内のアンモニア濃度を示すグラフである。
【図11】実施例2の実験結果を示すグラフである。上図はガス生成速度の時間変化を、下図は有機酸濃度の時間変化を示す。横軸の日数は、メタン発酵処理における培養日数である。
【図12】実施例2における反応槽内のアンモニア濃度を示すグラフである。
【図13】実施例3の実験結果を示すグラフである。上図はガス生成速度の時間変化を、下図は有機酸濃度の時間変化を示す。横軸の日数は、メタン発酵処理における培養日数である。
【図14】実施例3における反応槽内のアンモニア濃度を示すグラフである。
【配列表フリーテキスト】
【0105】
<配列番号1>
配列番号1は、OZ-6株の16S-rDNAの部分塩基配列(533bp)を示す。
<配列番号2>
配列番号2は、OZ-7株の16S-rDNAの部分塩基配列(562bp)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂とタンパク質を含む有機性廃棄物を嫌気的条件下で酸発酵処理した後、メタン発酵処理することを含む、メタン生成法。
【請求項2】
酸発酵処理に用いる微生物が乳酸菌である請求項1記載のメタン生成法。
【請求項3】
酸発酵処理に用いる微生物が、Bacillus属又はLactobacillus属に属する請求項1記載のメタン生成法。
【請求項4】
酸発酵処理に用いる微生物が、Bacillus cereus OZ-6株(受託番号:FERM P-20381)、Lactobacillus sp. OZ-7株(受託番号:FERM P-20382)及びそれらの類縁菌種からなる群より選択される請求項3記載のメタン生成法。
【請求項5】
油脂とタンパク質を含む有機性廃棄物が、哺乳動物の乳、鳥類の卵及びそれらを原料とする製品からなる群より選択される請求項1〜4のいずれかに記載のメタン生成法。
【請求項6】
油脂とタンパク質を含む有機性廃棄物を嫌気的条件下で酸発酵処理する前、酸発酵処理した後又は酸発酵処理と同時に、前記有機性廃棄物よりも窒素含量が少ない有機性廃棄物を添加してから、メタン発酵処理する請求項1〜5のいずれかに記載のメタン生成法。
【請求項7】
油脂とタンパク質を含む有機性廃棄物よりも窒素含量が少ない有機性廃棄物が海藻である請求項6記載のメタン生成法。
【請求項8】
海藻が、アオサ、マコンブ、オゴノリ、スサビノリ、ワカメ、アナアオサ、アマノリ、ツノマタ、ノコギリモク、クロヒトエグサ、ヤブレグサ、リボンアオサ、ボタンアオサ、ナガアオサ、スジアオノリ、ウスバアオノリ、ボウアオノリおよびトロロコンブからなる群より選択される少なくとも1種類の海藻である請求項7記載のメタン生成法。
【請求項9】
海藻が破砕処理されたものである請求項7又は8記載のメタン生成法。
【請求項10】
海藻がさらに熱処理されたものである請求項9記載のメタン生成法。
【請求項11】
油脂とタンパク質を含む有機性廃棄物を嫌気的条件下で酸発酵処理した後、生成した固形物を取り除いてから、メタン発酵処理する請求項1〜10のいずれかに記載のメタン生成法。
【請求項12】
遠心分離又はフィルター除去により固形物を取り除く請求項11記載のメタン生成法。
【請求項13】
酸発酵処理槽と、メタン発酵処理槽とを備える、メタン生成装置。
【請求項14】
さらに、海藻を破砕するための手段を備える請求項13記載のメタン生成装置。
【請求項15】
さらに、海藻を加熱するための手段と、海藻を熱処理するための槽とを備える請求項14記載のメタン生成装置。
【請求項16】
さらに、固液分離手段を備える請求項13〜15のいずれかに記載のメタン生成装置。
【請求項17】
請求項13〜15のいずれかに記載のメタン生成装置で得られた消化ガスをコージェネレーション設備の燃料として用い、電気および熱エネルギーに変換するとともに、得られた熱を請求項1〜12のいずれかに記載のメタン生成法に利用することを含む、メタン生成法。
【請求項18】
請求項13〜15のいずれかに記載のメタン生成装置で得られた消化ガスをコージェネレーション設備の燃料として用い、電気および熱エネルギーに変換するとともに、得られた熱を請求項1〜12のいずれかに記載のメタン生成法に利用するメタン生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−247601(P2006−247601A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70796(P2005−70796)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】