説明

メタン酸化菌に対して用いられるメタン酸化活性向上剤、及びその利用

【課題】従来の方法とは異なるメタン削減手段を提供する。
【解決手段】(A1)ビタミンB12及び(A2)その類縁体からなる群より選択される少なくとも一種の化合物;又は
(B)それらを産生し得る細菌
を含む、メタン酸化菌に対して用いられるメタン酸化活性向上剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン酸化菌に対して用いられるメタン酸化活性向上剤、及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
メタンは、土壌、湿地、湖沼、海洋、及び森林等の様々な自然環境から発生することが知られている。これらの自然環境中のメタン発生源にはメタン酸化菌が棲息しており、メタンを酸化分解することにより大気中に大量に放出されるのを防いでいるとされる。このように、メタン酸化菌は、大気中メタン濃度の維持において重要な役割を果たしているといえる。
【0003】
ところが、近年、自然環境のみならず、水田及び牧畜等のいくつかの人工環境からもメタンが発生していることが指摘されている。メタンは、二酸化炭素に次ぐ温室効果ガスであり、大気中メタン濃度の上昇が地球の気候変動に大きな影響を与える可能性が指摘されており、メタンの削減が課題となっている。
【0004】
かかる課題の解決のために、メタン酸化菌をより積極的に活用しようとする試みがなされている。これまでに、メタン酸化菌そのものを発生源に散布するというアイディアが提案されている(特許文献1及び2)。これは、メタンを酸化分解することのできるメタン酸化菌を発生源に大量に存在させることによって、メタンをより積極的に分解しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−118009号公報
【特許文献2】特開2007−275022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の方法とは異なるメタン削減手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の末、ビタミンB12若しくはその類縁体、又はそれらを産生し得る細菌をメタン酸化菌と接触させることによって、そのメタン酸化活性を向上させることができることを見出した。
【0008】
本発明はかかる知見に基づき、さらに検討を重ねた結果完成されたものであり、下記に掲げるものである。
項1.
(A1)ビタミンB12及び(A2)その類縁体からなる群より選択される少なくとも一種の化合物;又は
(B)それらを産生し得る細菌
を含む、メタン酸化菌に対して用いられるメタン酸化活性向上剤。
項2.
前記ビタミンB12(A1)が、シアノコバラミンである、請求項1に記載のメタン酸化活性向上剤。
項3.
前記類縁体(A2)が、コバミド、コビンアミド、及びコビル酸;並びに
コバム酸、コビン酸、及びコビリン酸
からなる群より選択される少なくとも一種のビタミンB12類縁体である、請求項1又は2に記載のメタン酸化活性向上剤。
項4.
前記コバミドが、メチルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、及びアデノシルコバラミンからなる群より選択される少なくとも一種のコバミドであり;
前記コビンアミド、前記コビル酸、及びコバム酸が、該一種のコバミドに対応するコビンアミド、コビル酸、及びコバム酸であり;かつ
前記コビン酸、及びコビリン酸が、該コビンアミド及び該コビル酸にそれぞれ対応するコビン酸、及びコビリン酸である、
請求項3に記載のメタン酸化活性向上剤。
項5.
前記類縁体(A2)が、ビタミンB12補酵素、ビタミンB12a、ビタミンB12r、及びビタミンB12sからなる群より選択される少なくとも一種のビタミンB12類縁体である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のメタン酸化活性向上剤。
項6.
前記細菌(B)が、Rhizobiaceae科細菌である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のメタン酸化活性向上剤。
項7.
Type Iメタン酸化菌に対して用いられる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のメタン酸化活性向上剤。
項8.
(A1)ビタミンB12若しくは(A2)その類縁体からなる群より選択される少なくとも一種の化合物;又は
(B)それらを産生し得る細菌
をメタン酸化菌に接触させる工程を含む、メタン酸化菌のメタン酸化活性を向上させる方法。
項9.
メタン酸化菌に接触させる工程が、土壌表層又は植物表層のメタン酸化菌に接触させる工程である、項8に記載の方法。
項10.
(A1)ビタミンB12若しくは(A2)その類縁体からなる群より選択される少なくとも一種の化合物;又は
(B)それらを産生し得る細菌
を土、又は植物若しくは植物の種子に接触させる工程を含む、メタン酸化活性を向上させた土、又は植物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、従来とは全く異なるやり方で、大気中のメタンを削減することができる。
【0010】
特に、ビタミンB12又はその類縁体を利用する場合は、従来の方法とは異なり、菌を操作する必要がないため、本発明ではより簡便な操作でメタンを削減することができるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】メタンを単一炭素源とした場合のメタン酸化菌(Methylovulum miyakonense HT12株)の生育が、根粒菌(Sinorhizobium sp. Rb株)との共培養の有無によってどのように影響を受けるかを示したグラフである。共培養有りを「HT12+Rb」、共培養無しを「HT12」で表す。
【図2】HT12株のメタン消費が、Rb株との共培養の有無によってどのように影響を受けるかを示したグラフである。共培養有りを「HT12+Rb」、共培養無しを「HT12」で表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.メタン酸化活性向上剤
本発明のメタン酸化活性向上剤は、(A1)ビタミンB12及び(A2)その類縁体からなる群より選択される少なくとも一種の化合物;又は(B)それらを産生し得る細菌
を含む、メタン酸化菌に対して用いられるメタン酸化活性向上剤である。
(1)ビタミンB12
本発明においてビタミンB12とは、シアノコバラミン(α-(5,6-ジメチルベンジミダゾリル)コバミドシアニド;C63H88O14N14PCo)を意味する。
(2)ビタミンB12類縁体
本発明においてビタミンB12類縁体とは、ビタミンB12との間で構造が類縁関係にあり、かつメタン酸化菌に対してメタン酸化活性向上作用を有していればよく、特に限定されない。
【0013】
メタン酸化菌に対するメタン酸化活性向上作用は、次のようにして測定することができる。バイアル瓶に、NMS培地(= ATCC medium 1306)、試験サンプル、メタン酸化菌HT12株を加える。ブチル栓とアルミシールで密栓した後に、気相メタン濃度が20%となるようにメタンを加え、28℃で振とう培養する。培養24時間から120時間の間において、気相のメタン濃度をガスクロマトグラフィーによって測定する。また同時に、培養液の濁度(OD610)を分光光度計で測定する。上記試験の結果、試験サンプルの添加前にはメタン消費がほとんどされず、試験サンプルの添加によりメタン消費がされるようになる場合に、メタン酸化菌に対するメタン酸化活性向上作用を試験サンプルが有していると判定する。
【0014】
ビタミンB12類縁体としては、例えば、コバミド、コビンアミド、若しくはコビル酸、又はコバム酸、コビン酸、若しくはコビリン酸に該当するものが挙げられる。
【0015】
コバミドとしては、例えば、メチルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、及びアデノシルコバラミンが挙げられる。
【0016】
コビンアミドとしては、例えば、メチルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、及びアデノシルコバラミンにそれぞれ対応するコビンアミドが挙げられる。なお、「メチルコバラミンに対応するコビンアミド」とは、メチルコバラミンのコバミド構造をコビンアミド構造に変換したコビンアミドを意味する。ヒドロキソコバラミン、及びアデノシルコバラミンにそれぞれ対応するコビンアミドについても同様である。また、以下のコビル酸、コバム酸、コビン酸、及びコビリン酸についての説明における「対応する」なる表現は同様の意味を有する。
【0017】
コビル酸としては、例えば、メチルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、及びアデノシルコバラミンにそれぞれ対応するコビル酸が挙げられる。
【0018】
コバム酸としては、例えば、メチルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、及びアデノシルコバラミンにそれぞれ対応するコバム酸が挙げられる。
【0019】
コビン酸としては、例えば、メチルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、及びアデノシルコバラミンにそれぞれ対応するコビンアミドにそれぞれ対応するコビン酸が挙げられる。
【0020】
コビリン酸としては、例えば、メチルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、及びアデノシルコバラミンにそれぞれ対応するコビンアミドにそれぞれ対応するコビリン酸が挙げられる。
【0021】
ビタミンB12類縁体としては、例えば、ビタミンB12補酵素、ビタミンB12a、ビタミンB12r、及びビタミンB12sとして知られるものも挙げられる。ビタミンB12補酵素は、アデノシルコバラミン及びメチルコバラミンである。ビタミンB12aは、ヒドロキソコバラミンである。ビタミンB12rは、コバルト(II)を含むコリノイドであり、cob(II)alamin(cobII)と表記される。シアノコバラミン又はヒドロキソコバラミンを1電子還元することにより得られる。ビタミンB12sは、コバルト(I)を含むコリノイドであり、cob(I)alamin(cobI)と表記される。シアノコバラミン又はヒドロキソコバラミンを還元することにより得られる。
【0022】
本発明のメタン酸化活性向上剤は、これらのビタミンB12及びその類縁体のうち一種を単独で含んでいてもよいし、または複数種を含んでいてもよい。
【0023】
ビタミンB12及びその類縁体は、それを産生しうる細菌に産生させたものを使用することができる。例えば、Aerobacter, Agrobacterium、Alcaligenes、Azotobacter、Bacillus, Clostridium、Corynebacterium、Flavobacterium、Micromonospora、Mycobacterium、Norcardia、Propionibacterium、Protaminobacter、Proteus、Pseudomonas、Rhizobium、Salmonella、Serratia、Streptomyces、Streptococcus、及びXanthomonas (Appl Microbiol Biotechnol. 2002 58: 275-285)等の属が産生しうることが知られている。
【0024】
これらのビタミンB12類縁体は、細菌によって産生させた後、次の方法によって回収することができる。沸騰水、沸騰80%エタノール、プロパノール、或いはベンジルアルコールを用いることで菌体から抽出する。培養上清中に放出されるビタミンB12については、そのままバイオアッセイに供することもできるが、ビタミンB12がタンパク質などの生体物質に結合しやすいため、培養上清を濃縮乾固した後にビタミンB12が可溶の溶媒に溶解することで、遊離したビタミンB12を回収することができる。溶媒としてはメタノールなどの低級アルコールが好ましい。
【0025】
精製を必要とする場合は、アンバーライトXAD-2等のスチレン系重合体樹脂を用いることができる。ビタミンB12含有物をスチレン系重合体樹脂に吸着させ、水で洗浄した後、50%メタノールで溶出することで、粗精製されたビタミンB12を回収できる。
(3)ビタミンB12又はビタミンB12類縁体を産生し得る細菌
ビタミンB12又はビタミンB12類縁体を産生し得る細菌としては、ビタミンB12又はビタミンB12類縁体を産生し得るものであればよく、特に限定されない。ビタミンB12又はビタミンB12類縁体を産生し得るか否かについては、細菌の培養上清中に放出されるビタミンB12又はビタミンB12類縁体の存在を検出することによって確認することができる。ビタミンB12又はビタミンB12類縁体の存在を検出する方法としては、ビタミンB12検定菌であるLactobacillus leichmanniiを用いたバイオアッセイが挙げられる。
【0026】
ビタミンB12又はビタミンB12類縁体を産生し得る細菌としては、例えば、Aerobacter, Agrobacterium、Alcaligenes、Azotobacter、Bacillus, Clostridium、Corynebacterium、Flavobacterium、Micromonospora、Mycobacterium、Norcardia、Propionibacterium、Protaminobacter、Proteus、Pseudomonas、Rhizobium、Salmonella、Serratia、Streptomyces、Streptococcus、及びXanthomonas (Appl Microbiol Biotechnol. 2002 58: 275-285)等の属に属する細菌が挙げられる。
【0027】
ビタミンB12又はビタミンB12類縁体を産生し得る細菌としては、具体的には(2)で説明したものが挙げられる。
【0028】
ビタミンB12又はビタミンB12類縁体を産生し得る細菌としては、安全かつ無害であり、また土壌や植物圏等の自然環境に定着しやすいという利点を有することから、多種の根粒菌によって構成されるRhizobiaceae科細菌を用いるのが好ましい。
【0029】
Rhizobiaceae科細菌としては、特に限定されないが、例えば、Sinorhizobium属等の根粒菌を挙げることができる。
【0030】
Sinorhizobium属等の根粒菌としては、特に限定されないが、例えば、Sinorhizobium sp. Rb株を挙げることができる。
【0031】
ビタミンB12又はビタミンB12類縁体を産生し得る細菌の培養は、公知の方法又はそれに準じた方法によって行うことができる。例えば、Sinorhizobium属等の根粒菌を培養する場合には、次の方法によって培養することができる。
【0032】
TY培地(Tryptone, 0.5%; Yeast extract, 0.3%; CaCl2・2H2O, 0.083%)に菌体を接種し、振とう培養する(ただし、本培地成分にはビタミンB12が含まれる)。
【0033】
ビタミンB12を含まない培地として、Rhizobium minimal medium(J Gen Microbiol 1977 98: 477-484)を用いることもできる。組成は、以下の通りである。(g/L): glucose, 10.0; KN03, 0.6; CaCl2・2H2O, 0.1 ; MgS04・7H20, 0.25; KH2P04, 1.0; K2HP04, 1.0; FeC13・6H20, 0.01; and (mg/L): MnS04・H20, 20; ZnS04・7H20, 20; CuSO4・5H20, 20; H3BO3, 20; CoCl2, 2 ; Na2MoO4, 20 ; biotin, 10; calcium pantothenate, 10; thiamin, 10。
(4)メタン酸化菌
本発明のメタン酸化活性向上剤が適用されるメタン酸化菌は、特に限定されない。メタン酸化菌は、土壌、湿地、湖沼、海洋、及び森林等の様々な自然環境に生息している。
本発明者らは、これまでに、環境サンプルを由来としたメタン集積培養液中に含まれている微生物コンソーシアムについて解析し、多くのメタン酸化菌(メタン資化性細菌)が含まれていることを明らかにしている。これらのメタン酸化菌に対して本発明のメタン酸化活性向上剤を広く適用することができる。
【0034】
そのようなメタン酸化菌としては、Type Iに属するもののほか、Type IIに属するものも含まれる。Type Iに属するメタン酸化菌としては、例えば、Methylomonas属、Methylobacter属、Methylocaldum属、及びMethylovulum属等が挙げられる。Type IIに属するメタン酸化菌としては、例えば、Methylocystis属及びMethylosinus属等が挙げられる。
【0035】
Type Iに属するメタン酸化菌のほうが、Type IIに属するメタン酸化菌よりも、本発明のメタン酸化活性向上剤を適用した際のメタン酸化活性がより著しく向上する。このため、本発明のメタン酸化活性向上剤は、Type Iに属するメタン酸化菌に適用するのが好ましい。
(5)メタン酸化活性向上剤
本発明のメタン酸化活性向上剤は、メタン酸化菌に対して適用される。メタン酸化菌は、土壌表層や植物表層等にも生息している。このため、本発明のメタン酸化活性向上剤の適用対象として、土壌表層や植物表層等が挙げられる。
【0036】
本発明のメタン酸化活性向上剤は、溶液状であってもよいし、粉末状であってもよい。使用方法としては、特に限定されないが、自然環境中に散布して使用することが挙げられる。特に、土壌表層や植物表層等に対して散布することが挙げられる。このため、散布しやすいような剤型が好ましい。
【0037】
溶液状の場合は、溶媒として水、アルコール等を使用することができる。また、必要に応じて他の添加物を含ませることもできる。例えば、pH調整剤、防腐剤等が挙げられるがこれらに限定されない。水溶液の場合、pHは3〜8であれば好ましい。
【0038】
溶液状の場合、ビタミンB12及びビタミンB12類縁体の含有濃度は、特に限定されないが、例えば、合計で0.01〜100μg/L等が挙げられる。0.1〜10μg/Lであれば好ましい。
2.メタン酸化活性を向上させる方法
本発明のメタン酸化活性を向上させる方法は、
(A1)ビタミンB12若しくは(A2)その類縁体からなる群より選択される少なくとも一種の化合物;又は
(B)それらを産生し得る細菌
をメタン酸化菌に接触させる工程を含む方法である。
【0039】
ビタミンB12若しくはその類縁体、又はそれらを産生し得る細菌については、1.メタン酸化活性向上剤で説明したのと同様である。
【0040】
ビタミンB12若しくはその類縁体、又はそれらを産生し得る細菌(以下、「ビタミンB12等」ということがある。)をメタン酸化菌に接触させる工程は、ビタミンB12等を単にメタン酸化菌に接触させればよく特に限定されない。例えば、自然環境中に存在するメタン酸化菌に対してビタミンB12等を接触させようとする場合は、当該環境中においてビタミンB12等を散布してもよい。
【0041】
特に、メタン酸化菌は土壌表層や植物表層にも存在しているため、メタン酸化菌に接触させる工程は、具体的には土壌表層や植物表層に対してビタミンB12等を散布する等して接触させる工程であってもよい。
【0042】
散布量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、例えば、土壌又は植物圏に散布する場合は、合計1〜1000mg/mの量のビタミンB12及びビタミンB12類縁体が土壌又は植物圏の表面中に留置されるように散布してもよい。あるいは、0.1〜100g/mの量の、ビタミンB12等を産生し得る菌が土壌又は植物圏の表面中に留置されるように散布してもよい。
【0043】
接触させる工程は、一回に限らず、所望の効果が得られるまで繰り返し行うことができる。
【0044】
必要に応じて、散布した後に攪拌する等の操作をさらに加えてもよい。
3.メタン酸化活性を向上させた土、又は植物の製造方法
本発明のメタン酸化活性を向上させた土、又は植物の製造方法は、
(A1)ビタミンB12若しくは(A2)その類縁体からなる群より選択される少なくとも一種の化合物;又は
(B)それらを産生し得る細菌
を土、又は植物若しくは植物の種子に接触させる工程を含む方法である。
【0045】
ビタミンB12若しくはその類縁体、又はそれらを産生し得る細菌については、1.メタン酸化活性向上剤で説明したのと同様である。
【0046】
土、又は植物若しくは植物の種子は、特に限定されない。土、又は植物若しくは植物の種子にビタミンB12等を接触させることによって、これらの表面又は内部に予め存在しているメタン酸化菌のメタン酸化活性を向上させることができる。さらにその種子から植物体を得た場合は、かかる植物体の表面又は内部に存在するメタン酸化菌のメタン酸化活性も向上している。
【0047】
ビタミンB12等を土、又は植物若しくは植物の種子(以下、「土等」ということがある。)に接触させる工程は、ビタミンB12等を単に土等に接触させればよく特に限定されない。例えば、土等に対してビタミンB12等を散布してもよい。
【0048】
特に、メタン酸化菌は土壌表層や植物表層にも存在しているため、ビタミンB12等を土等に接触させる工程は、具体的には土壌表層や植物表層に対してビタミンB12等を散布する等して接触させる工程であってもよい。
【0049】
散布量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、例えば、土等の表面面積あたり合計1〜1000mg/mの量のビタミンB12及びビタミンB12類縁体が土等の表面中に留置されるように散布してもよい。あるいは、土等の表面面積あたり0.1〜100g/mの量の、ビタミンB12等を産生し得る菌が土等の表面中に留置されるように散布してもよい。
【0050】
接触させる工程は、一回に限らず、所望の効果が得られるまで繰り返し行うことができる。
【0051】
本発明により得られた土等は、メタン酸化活性が向上しているため、これを通常の土等に代えて用いることによって、周辺環境中のメタンを減少させることができる。例えば、本発明により得られた土は、植物の生育を支えるための土壌として利用することができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を試験例及び実施例に基づき具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
試験例:植物を中心とした環境試料からのメタン酸化菌(メタン資化性細菌)の探索
様々な植物を中心とする環境試料から、メタンを単一炭素源として生育するメタン資化性微生物コンソーシアムを取得した。
【0053】
環境試料をNMS培地に加え、バイアル瓶を密栓した後に、気相メタン濃度が20%となるようにメタンを(唯一の炭素源として)加えて28℃で振とう培養した。濁り(生育)が見られたサンプルは新しい培地に1%量植え継ぎ、同様に培養した。数回以上植え継いだ後も濁り(生育)が見られたサンプルを、メタン資化性微生物コンソーシアムとした。そこに含まれるメタン酸化菌を定法に従い、16S rRNA遺伝子配列とメタン酸化酵素遺伝子(pmoAとmmoX)配列によって解析した。
【0054】
結果を表1に示す。
【0055】
メタン酸化菌は、Methylomonas属やMethylobacter属等のType Iと、Methylocystis属やMethylosinus属等のType IIに分類されるが、Type I及びType IIメタン酸化菌がともに自然界に広く棲息していることが分かった。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例1:メタン酸化菌の生育に及ぼすビタミンB12とSinorhizobium属細菌の影響
Type Iに属するメタン酸化菌(Methylovulum miyakonense HT12株)に対して、ビタミンB12及びそれを産生し得る根粒菌(Sinorhizobium sp. Rb株)を個別に共存させた際の生育促進効果について検証した。
【0058】
メタン酸化菌をNMS培地に接種し、メタンを炭素源として加えて28℃で振とう培養した。しかる影響を調べるため、メタン酸化菌と共に、根粒菌Rb株の菌体、根粒菌Rb株をRhizobium minimal mediumにて培養して得た培養上清、或いはビタミンB12(濃度100 pg/ml)を加えて培養した。およそ72時間培養の後、バイアル瓶の気相中メタン濃度及び濁度OD600を測定した。無添加の対照サンプルと比べて、メタン濃度が減少し濁度が上昇したことから、生育促進効果が示された。
【0059】
結果を表2に示す。
【0060】
Type Iに属するメタン酸化菌に対して、ビタミンB12及びそれを産生し得る根粒菌(Rb株)がそれぞれ生育促進効果を有していることが分かった。
【0061】
【表2】

【0062】
実施例2:メタン酸化菌の生育、及びメタン酸化活性に及ぼすSinorhizobium属細菌の影響
[HT12株の生育]
メタン酸化菌HT12株とSinorhizobium属細菌Rb株とをNMS培地に接種し、メタンを炭素源として加えて28℃で振とう培養した。
[メタン消費]
培養48時間から120時間の各時点で、ガスクロマトグラフィーを用いてバイアル瓶中の気相メタン濃度を測定した。生育は、分光光度計を用いて濁度OD600によって評価した。
[バイオアッセイ]
ビタミンB12のバイオアッセイには、一般的なビタミンB12検定菌であるLactobacillus leichmannii(カルチャーコレクション:NBRC 3073)を使用した。同菌と試験サンプルをDifco B12 Assay Mediumに接種し、37℃でおよそ24時間静置培養した。濁度OD600の測定を行い、既知濃度のシアノコバラミン(和光純薬)を用いて作成した検量線より試験サンプルに含まれるビタミンB12量を算出した。
[力価試験]
メタン酸化菌HT12株を、試験サンプル或いは各種濃度のシアノコバラミンを含むNMS培地に接種し、メタンを炭素源として加えて28℃で振とう培養した。培養48時間から72時間の間に濁度を測定し、シアノコバラミンを用いて作成した検量線より試験サンプルに含まれるビタミンB12量を算出した。
【0063】
メタンを単一炭素源とした場合のHT12株の生育が、Rb株との共培養により飛躍的に促進された(図1)。
【0064】
また、メタン消費についても、Rb株との共培養により大幅に向上した(図2)。
【0065】
乳酸菌を用いたビタミンB12のバイオアッセイの結果から、Rb株の培養上清にビタミンB12が含まれることが分かった。
【0066】
また、培地中のビタミンB12の量は2.6μg/Lであった。培地をHT12株に添加したときと、同じ量のビタミンB12をHT12株に添加したときのメタン酸化活性向上の力価を互いに比較すると、互いに一致していた。この結果から、培地中のメタン酸化活性を向上させる成分がビタミンB12であることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A1)ビタミンB12及び(A2)その類縁体からなる群より選択される少なくとも一種の化合物;又は
(B)それらを産生し得る細菌
を含む、メタン酸化菌に対して用いられるメタン酸化活性向上剤。
【請求項2】
前記ビタミンB12(A1)が、シアノコバラミンである、請求項1に記載のメタン酸化活性向上剤。
【請求項3】
前記類縁体(A2)が、コバミド、コビンアミド、及びコビル酸;並びに
コバム酸、コビン酸、及びコビリン酸
からなる群より選択される少なくとも一種のビタミンB12類縁体である、請求項1又は2に記載のメタン酸化活性向上剤。
【請求項4】
前記コバミドが、メチルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、及びアデノシルコバラミンからなる群より選択される少なくとも一種のコバミドであり;
前記コビンアミド、前記コビル酸、及びコバム酸が、該一種のコバミドに対応するコビンアミド、コビル酸、及びコバム酸であり;かつ
前記コビン酸、及びコビリン酸が、該コビンアミド及び該コビル酸にそれぞれ対応するコビン酸、及びコビリン酸である、
請求項3に記載のメタン酸化活性向上剤。
【請求項5】
前記類縁体(A2)が、ビタミンB12補酵素、ビタミンB12a、ビタミンB12r、及びビタミンB12sからなる群より選択される少なくとも一種のビタミンB12類縁体である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のメタン酸化活性向上剤。
【請求項6】
前記細菌(B)が、Rhizobiacae科細菌である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のメタン酸化活性向上剤。
【請求項7】
Type Iメタン酸化菌に対して用いられる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のメタン酸化活性向上剤。
【請求項8】
(A1)ビタミンB12若しくは(A2)その類縁体からなる群より選択される少なくとも一種の化合物;又は
(B)それらを産生し得る細菌
をメタン酸化菌に接触させる工程を含む、メタン酸化菌のメタン酸化活性を向上させる方法。
【請求項9】
(A1)ビタミンB12若しくは(A2)その類縁体からなる群より選択される少なくとも一種の化合物;又は
(B)それらを産生し得る細菌
を土、又は植物若しくは植物の種子に接触させる工程を含む、メタン酸化活性を向上させた土、又は植物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−39922(P2012−39922A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183287(P2010−183287)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼発行者名 社団法人日本農芸化学会 刊行物名 日本農芸化学会2010年度(平成22年度)大会講演要旨集 発行年月日 平成22年3月5日 ▲2▼発行者名 日本ビタミン学会 刊行物名 ビタミン 第84巻 第4号 日本ビタミン学会第62回大会 プログラム・講演要旨 発行年月日 平成22年4月25日
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】