説明

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌用抗菌剤

【課題】メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を有し、安全性の高い抗菌剤を提供すること。
【解決手段】モノエステル体含量が60質量%以上であるグリセリン脂肪酸エステルおよび/またはモノエステル体含量が50質量%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とするメチシリン耐性黄色ブドウ球菌用抗菌剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を有する抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)はメチシリンを含むペニシリン系抗生物質に耐性を有する黄色ブドウ球菌である。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の病原性は一般の黄色ブドウ球菌とほぼ同等と考えられ、ヒトへの定着性が強く、コアグラーゼ、エンテロトキシン、ロイコシジン、TSST−1、溶血毒等の種々の毒素や菌体外酵素を産生することが知られている。このメチシリン耐性黄色ブドウ球菌はペニシリン系抗生物質のみならず、セフェム系抗生物質、モノバクタム系抗生物質、カルバペナム系抗生物質等のβ―ラクタム系抗生物質に対しても耐性を示す。さらには、β―ラクタム系抗生物質に耐性を示すばかりでなく、アミノグリコシド系抗生物質、マクロライド系抗生物質等に対しても耐性を示す。そのため、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌は極めて難治性の疾患を引き起こす。特に院内感染は大きな問題となっており、カテーテル等の医療器具等がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌等で汚染されてしまうと、抵抗力が弱まっている患者や老人・未熟児等に容易に感染、拡大してしまう。そのため、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対して、抗菌性を有する有効成分を見出すことが強く望まれている。
【0003】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌用抗菌剤に関する従来技術としては、2,7−ジヒドロ−3,5,8−トリメチルアズレノ[6,5−b]フラン−2,7−ジオンを有効成分として含有することを特徴とする抗MRSA薬剤(特許文献1)、少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤(特許文献2)などが開示されている。しかし、これらは天然物からの抽出物であるため変色しやすく、安定的な供給に欠けるなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3979843号公報
【特許文献2】特開2009−215210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を有し、安全性の高い抗菌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、グリセリン脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルがメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対して抗菌性を有することを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、モノエステル体含量が60質量%以上であるグリセリン脂肪酸エステルおよび/またはモノエステル体含量が50質量%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とするメチシリン耐性黄色ブドウ球菌用抗菌剤、からなっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明のグリセリン脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の育成を阻害し高い抗菌性を有している。また、グリセリン脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルは、食品添加物として認可された安全性の高い化合物である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いられるグリセリン脂肪酸エステルは、モノエステル体含量が60質量%以上のものであり、好ましくは約70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上のものである。
【0009】
上記グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンと脂肪酸とのエステル化生成物、またはグリセリンと油脂(トリグリセライド)とのエステル交換反応生成物から、未反応のグリセリンを可及的に除去し、精製したものであり、エステル化反応、エステル交換反応など自体公知の方法で製造され得る。
【0010】
グリセリン脂肪酸エステルの原料として用いられる脂肪酸としては、特に制限はないが、好ましくは炭素数が8〜22の脂肪酸であり、さらに好ましくは炭素数が8〜18の脂肪酸である。脂肪酸の具体例としては、例えば、飽和脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸などが挙げられ、不飽和脂肪酸としては、パルミトイル酸、オレイン酸、リノール酸、α―リノレン酸、γ―リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、エルカ酸、縮合リシノール酸、ウンデシレン酸などが挙げられる。分岐脂肪酸として、2−エチルヘキサン酸、イソステアリン酸などが挙げられる。この中でもとりわけ、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸が好ましい。また、脂肪酸は1種でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0011】
グリセリン脂肪酸エステルの製法の概略は以下の通りである。
例えば、攪拌機、加熱用のジャケット、邪魔板などを備えた通常の反応容器に、グリセリンと脂肪酸(例えば、ラウリン酸)を約1:1〜3のモル比で仕込み、通常触媒として酸またはアルカリを加えて攪拌混合し、窒素ガス雰囲気下で、エステル化反応により生成する水を系外に除去しながら、所定温度で加熱する。反応温度は通常、約180〜260℃の範囲、好ましくは約200〜250℃の範囲である。また、反応圧力条件は減圧下または常圧下で、反応時間は約0.5〜15時間、好ましくは約1〜3時間である。反応の終点は、通常反応混合物の酸価を測定し、10以下程度を目安に決められる。得られた反応液は、未反応の脂肪酸、未反応のグリセリン、グリセリンモノ脂肪酸エステル、グリセリンジ脂肪酸エステルおよびグリセリントリ脂肪酸エステルなどを含む混合物である。
【0012】
エステル化反応終了後、反応混合物中に残存する触媒を中和する。その際、エステル化反応の温度が約200℃以上の場合は液温を約180〜200℃に冷却してから中和処理を行うのが好ましい。また反応温度が約200℃以下の場合は、そのままの温度で中和処理を行ってよい。中和後、上記反応混合物を、必要なら冷却して、約100℃〜180℃、好ましくは約130℃〜150℃に保ち、好ましくは約0.5時間以上、更に好ましくは約1〜10時間放置する。未反応のグリセリンが下層に分離した場合はそれを除去するのが好ましい。
【0013】
上記処理により得られたグリセリン脂肪酸エステルを、更に減圧下で蒸留して残存する未反応のグリセリンを留去し、続いて、例えば流下薄膜式分子蒸留装置または遠心式分子蒸留装置などを用いて分子蒸留するか、またはカラムクロマトグラフィーもしくは液液抽出など自体公知の方法を用いて精製することにより、モノエステル体含量が60質量%以上であるグリセリン脂肪酸エステルを得ることができる。
【0014】
本発明で用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルは、モノエステル体含量が50質量%以上のものであり、好ましくは約70質量%以上のものである。上記ポリグリセリン脂肪酸エステルのなかでも、特にジグリセリン脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。
【0015】
上記ジグリセリン脂肪酸エステルは、ジグリセリンと脂肪酸とのエステル化生成物であり、エステル化反応など自体公知の方法で製造され得る。
【0016】
ジグリセリン脂肪酸エステルの原料として用いられるジグリセリンとしては、通常グリセリンに少量の酸またはアルカリを触媒として添加し、窒素または二酸化炭素などの任意の不活性ガス雰囲気下で、例えば約180℃以上の温度で加熱し、重縮合反応させた組成物を中和後、分子蒸留器などで精製することで得られるグリセリンの平均重合度が約1.5〜2.4、好ましくは平均重合度が約2.0のジグリセリン混合物が挙げられる。また、ジグリセリンはグリシドールまたはエピクロルヒドリンなどを原料として得られるものであっても良い。反応終了後、必要であれば中和、脱塩、脱色などの処理を行ってよい。
尚、上記平均重合度とは、水酸基価から計算される理論値からの平均重合度を意味する。
【0017】
上記ジグリセリン混合物を、例えば蒸留またはカラムクロマトグラフィーなど自体公知の方法を用いて精製し、グリセリン2分子からなるジグリセリンを約50質量%以上、好ましくは約85質量%以上に高濃度化した高純度ジグリセリンが好ましく用いられる。
【0018】
ジグリセリン脂肪酸エステルの原料として用いられる脂肪酸としては、特に制限はないが、好ましくは炭素数が8〜22の脂肪酸であり、さらに好ましくは炭素数が8〜18の脂肪酸である。脂肪酸の具体例としては、例えば、飽和脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸などが挙げられ、不飽和脂肪酸としては、パルミトイル酸、オレイン酸、リノール酸、α―リノレン酸、γ―リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、エルカ酸、縮合リシノール酸、ウンデシレン酸などが挙げられる。分岐脂肪酸として、2−エチルヘキサン酸、イソステアリン酸などが挙げられる。この中でもとりわけ、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸が好ましい。また、脂肪酸は1種でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
ジグリセリン脂肪酸エステルの製法の概略は以下の通りである。
例えば、攪拌機、加熱用のジャケット、邪魔板などを備えた通常の反応容器に、ジグリセリンと脂肪酸(例えば、ラウリン酸)を約1:1〜4のモル比で仕込み、通常触媒として酸またはアルカリを加えて攪拌混合し、窒素ガス雰囲気下で、エステル化反応により生成する水を系外に除去しながら、所定温度で加熱する。反応温度は通常、約180〜260℃の範囲、好ましくは約200〜250℃の範囲である。また、反応圧力条件は減圧下または常圧下で、反応時間は約0.5〜15時間、好ましくは約1〜3時間である。反応の終点は、通常反応混合物の酸価を測定し、約10以下を目安に決められる。得られた反応液は、未反応の脂肪酸、未反応のジグリセリン、ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、ジグリセリンジ脂肪酸エステル、ジグリセリントリ脂肪酸エステルおよびジグリセリンテトラ脂肪酸エステルなどを含む混合物である。
【0020】
エステル化反応終了後、反応混合物中に残存する触媒を中和する。その際、エステル化反応の温度が約200℃以上の場合は液温を約180〜200℃に冷却してから中和処理を行うのが好ましい。また反応温度が約200℃以下の場合は、そのままの温度で中和処理を行ってよい。中和後、上記反応混合物を、必要なら冷却して、約100℃〜180℃、好ましくは約130℃〜150℃に保ち、好ましくは約0.5時間以上、更に好ましくは約1〜10時間放置する。未反応のジグリセリンが下層に分離した場合はそれを除去するのが好ましい。
【0021】
上記処理により得られたジグリセリン脂肪酸エステルを、更に減圧下で蒸留して残存する未反応のジグリセリンを留去し、続いて、例えば流下薄膜式分子蒸留装置または遠心式分子蒸留装置などを用いて分子蒸留するか、またはカラムクロマトグラフィーもしくは液液抽出など自体公知の方法を用いて精製することにより、モノエステル体含量が50質量%以上であるジグリセリン脂肪酸エステルを得ることができる。
【0022】
本発明で用いられるトリグリセリン脂肪酸エステルは、トリグリセリンと脂肪酸とのエステル化生成物であり、エステル化反応など自体公知の方法で製造され得る。
【0023】
トリグリセリン脂肪酸エステルの原料として用いられるトリグリセリンとしては、通常グリセリンに少量の酸またはアルカリを触媒として添加し、窒素または二酸化炭素などの任意の不活性ガス雰囲気下で、例えば約180℃以上の温度で加熱し、重縮合反応させた組成物を中和後、分子蒸留器などで精製することで得られるグリセリンの平均重合度が約2.5〜3.4、好ましくは平均重合度が約3.0のトリグリセリン混合物が挙げられる。また、トリグリセリンはグリシドールまたはエピクロルヒドリンなどを原料として得られるものであっても良い。反応終了後、必要であれば中和、脱塩、脱色などの処理を行ってよい。
尚、上記平均重合度とは、水酸基価から計算される理論値からの平均重合度を意味する。
【0024】
上記トリグリセリン混合物を、例えば蒸留またはカラムクロマトグラフィーなど自体公知の方法を用いて精製し、グリセリン3分子からなるトリグリセリンを約50質量%以上、好ましくは約85質量%以上に高濃度化した高純度トリグリセリンが用いられる。
【0025】
トリグリセリン脂肪酸エステルの原料として用いられる脂肪酸としては、いずれの脂肪酸でも特に制限はないが、好ましくは炭素数が8〜22の脂肪酸であり、さらに好ましくは炭素数が8〜18の脂肪酸である。脂肪酸の具体例としては、例えば、飽和脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸などが挙げられ、不飽和脂肪酸としては、パルミトイル酸、オレイン酸、リノール酸、α―リノレン酸、γ―リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、エルカ酸、縮合リシノール酸、ウンデシレン酸などが挙げられる。分岐脂肪酸として、2−エチルヘキサン酸、イソステアリン酸などが挙げられる。この中でもとりわけ、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸が好ましい。また、脂肪酸は1種でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
トリグリセリン脂肪酸エステルの製法の概略は以下の通りである。
例えば、攪拌機、加熱用のジャケット、邪魔板などを備えた通常の反応容器に、トリグリセリンと脂肪酸(例えば、ラウリン酸)を約1:1〜5のモル比で仕込み、通常触媒として酸またはアルカリを加えて攪拌混合し、窒素ガス雰囲気下で、エステル化反応により生成する水を系外に除去しながら、所定温度で加熱する。反応温度は通常、約180〜260℃の範囲、好ましくは約200〜250℃の範囲である。また、反応圧力条件は減圧下または常圧下で、反応時間は約0.5〜15時間、好ましくは約1〜3時間である。反応の終点は、通常反応混合物の酸価を測定し、約10以下程度を目安に決められる。得られた反応液は、未反応の脂肪酸、未反応のトリグリセリン、トリグリセリンモノ脂肪酸エステル、トリグリセリンジ脂肪酸エステル、トリグリセリントリ脂肪酸エステル、トリグリセリンテトラ脂肪酸エステルおよびトリグリセリンペンタ脂肪酸などを含む混合物である。
【0027】
エステル化反応終了後、反応混合物中に残存する触媒を中和する。その際、エステル化反応の温度が約200℃以上の場合は液温を約180〜200℃に冷却してから中和処理を行うのが好ましい。また反応温度が約200℃以下の場合は、そのままの温度で中和処理を行ってよい。中和後、上記反応混合物を、必要なら冷却して、約100℃〜180℃、好ましくは約130℃〜150℃に保ち、好ましくは約0.5時間以上、更に好ましくは約1〜10時間放置する。未反応のトリグリセリンが下層に分離した場合はそれを除去するのが好ましい。
【0028】
上記処理により得られたトリグリセリン脂肪酸エステルを、更に減圧下で蒸留して残存する未反応のトリグリセリンを留去し、続いて、例えば流下薄膜式分子蒸留装置または遠心式分子蒸留装置などを用いて分子蒸留するか、またはカラムクロマトグラフィーもしくは液液抽出など自体公知の方法を用いて精製することにより、モノエステル体含量が50質量%以上であるトリグリセリン脂肪酸エステルを得ることができる。
【0029】
モノエステル体含量が60質量%未満のグリセリン脂肪酸エステルおよび/またはモノエステル体含量が50質量%未満のポリグリセリン脂肪酸エステルは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対して十分な抗菌性を有しない。
【0030】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対して抗菌性を有する有効成分であるグリセリン脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノカプレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンモノオレート、グリセリンモノリノレート、グリセリンモノエルケート、ジグリセリンモノカプリレート、ジグリセリンモノカプレート、ジグリセリンモノラウレート、ジグリセリンモノミリステート、ジグリセリンモノステアレート、ジグリセリンモノベヘネート、ジグリセリンモノオレート、ジグリセリンモノリノレート、ジグリセリンモノエルケート、トリグリセリンモノカプリレート、トリグリセリンモノカプレート、トリグリセリンモノラウレート、トリグリセリンモノミリステート、トリグリセリンモノステアレート、トリグリセリンモノベヘネート、トリグリセリンモノオレート、トリグリセリンモノリノレート、トリグリセリンモノエルケートなどが挙げられる。好ましくは、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノカプレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノオレート、グリセリンモノミリステート、ジグリセリンモノカプリレート、ジグリセリンモノカプレート、ジグリセリンモノラウレート、ジグリセリンモノオレート、ジグリセリンモノミリステート、トリグリセリンモノカプリレート、トリグリセリンモノカプレート、トリグリセリンモノラウレート、トリグリセリンモノオレート、トリグリセリンモノミリステートである。
【0031】
本発明におけるグリセリン脂肪酸エステルおよび/またはポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分とするメチシリン耐性黄色ブドウ球菌用抗菌剤の使用形態としては、例えば、水溶液や乳化液などが挙げられる。用途としては食品や食器、調理器具、病院の壁、カーテン、医療器具、便座および皮膚や口などの人体などの消毒などに用いることができる。また、不織布又は繊維から作製される紙おむつ、綿棒、マスク、シーツ、ドレープおよびウェットティッシュなどの衛生用品、医療用品および衣料用品などに水溶液や乳化液を含浸させて、所望により乾燥して、グリセリン脂肪酸エステルおよび/またはポリグリセリン脂肪酸エステルを付着させたメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対して抗菌性を有する不織布、繊維等を作製することもできる。
【0032】
使用形態の1つである上記水溶液は、グリセリン脂肪酸エステルおよび/またはポリグリセリン脂肪酸エステルのみを用いてもよいし、より多量に溶解させるために親水性の他の乳化剤を用いても良いし、水性溶剤などを用いてもよい。
【0033】
使用形態の1つである上記の水溶液または乳化液を作製する際に、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を疎外しない範囲内で他の添加剤を配合してもよい。例えば、防腐剤、保存料、酸化防止剤、光安定剤、香料、着色剤などが挙げられる。また、ポリフェノール類や四級アンモニウム塩類などの他の抗菌剤などと併用してもよい。
【0034】
上記水溶液または乳化液は、そのままの形態で使用してもよいし、スプレーにしてもよい。スプレーとする際は、そのままスプレー容器に入れてもよいし、LPガスなどの噴射剤などを配合してもよい。
【0035】
また、グリセリン脂肪酸エステルおよび/またはポリグリセリン脂肪酸エステルを樹脂に練り込み成型し、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対して抗菌性を有する樹脂製品を作製することもできる。
【0036】
以下に本発明を実施例で説明するが、これは本発明を単に説明するだけのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0037】
(1)試作品の製造
[試作品1:トリグリセリンラウリン酸エステルの合成]
グリセリン20kgに水酸化ナトリウム20g加え、窒素ガス気流下で、260℃で2時間グリセリンの縮合反応を行った後、HPO40gを添加して中和した。次に得られた組成物を、遠心式分子蒸留機(型式:CEH−300II特;アルバック社製)を用いて、2Paの真空下、200℃で、ジグリセリンを除去し、続いて2Paの真空下、230℃で、トリグリセリンを約90質量%含有するトリグリセリン組成物を得た。また、得られたトリグリセリン組成物の水酸基価は約1160、水酸基価から計算される理論値からの平均重合度は約3.0であった。なお、トリグリセリン含有量、水酸基価は後述の測定方法に従った。
該トリグリセリン組成物6.5kgとラウリン酸(商品名:NAA−122;日本油脂社製、純度99%)3.5kgと水酸化カルシウム3gを反応釜に仕込み、窒素雰囲気下、240℃で3時間エステル化反応を行った後、リン酸3.9gで中和した。得られた反応物を遠心式分子蒸留機(型式:CEH−300II特;アルバック社製)を用いて、1Paの真空下、230℃にて、未反応のトリグリセリンを除去し、続いて、1Paの真空下、250℃で処理してトリグリセリンラウリン酸エステル(試作品1)を得た。得られたトリグリセリンラウリン酸エステルのモノエステル体含量を測定したところ80質量%であった。尚、モノエステル体含量は後述の測定方法に従った。
【0038】
[試作品2:グリセリンラウリン酸エステルの合成]
グリセリン4.2kgとラウリン酸(商品名:NAA−122;日本油脂社製、純度99%)5.8kgを反応釜に仕込み、窒素雰囲気下、220℃で3時間エステル化反応を行い、グリセリンラウリン酸エステル(試作品2)を得た。得られた各エステル体含量およびグリセリン含量を測定したところ、モノエステル体含量41質量%、ジエステル体含量38%、トリエステル体含量10%、グリセリン含量11%であった。
【0039】
(2)分析方法
[ポリグリセリンの重合度の測定方法]
ポリグリセリンの重合度の測定方法としては、グリセリンの重合物を10mgとり、下記移動相1mlに溶解し、下記条件のGPCにて、重合度を分析した。
装置 :島津製作所製HPLC
検出器 :RI検出器
カラム温度 :40℃
カラム :Shodex―AsahipackGS220HQ×2
移動相 :メタノール/水=30%/70%
移動相流量 :0.4ml/min
【0040】
[水酸基価の測定方法]
理論値からの平均重合度計算に用いる水酸基価の測定は、「基準油脂分析試験法(I)」(社団法人 日本油化学会編)の[2.3.6-1996 ヒドロキシル価]に従って測定した。
【0041】
[モノエステル体含量の測定方法]
モノエステル体含量の測定方法としては、グリセリン脂肪酸エステルまたはポリグリセリン脂肪酸エステルを10mgとり、下記移動相1mlに溶解し、下記条件のGPCにてモノエステル体含量を分析した。
装置 :島津製作所製HPLC
検出器 :RI検出器
カラム温度 :40℃
カラム :Shim-packGPC-801×2
移動相 :テトラヒドロフラン
移動相流量 :1.0ml/min
【0042】
(3)試料
下記表1に示す市販および上記した試作品1、2のグリセリン脂肪酸エステルまたはポリグリセリン脂肪酸エステルを試料として、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を確認した。
なお、表1の実施例品9のグリセリンラウリン酸エステルとジグリセリンラウリン酸エステルの配合比率、および実施例品10のグリセリンラウリン酸エステルとトリグリセリンラウリン酸エステルの配合比率は、質量比で1:1である。
市販のグリセリン脂肪酸エステルまたはポリグリセリン脂肪酸エステルのモノエステル体含量は、上記の「モノエステル体含有量の測定方法」で測定した。
【0043】
【表1】

【0044】
(4)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対する抗菌性確認方法
表1の試料(実施例品1〜8、比較例品1〜4、対象品1)各々3200、1600、800、400、200、100、50、25、12.5ppm濃度になるように調整した下記培地に、下記試験菌の生菌数が約10個/mlとなるように調整した接種菌液をプラスチック製ループで2cm程度画線塗抹し、37℃±1℃、18〜20時間培養して、菌の発育が阻害された最小濃度(最小発育阻止濃度)を測定した。結果を表2に示す。
(試験菌)
Staphylococcus aureus IID 1677(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌:MRSA)
(使用培地)
Mueller Hinton Agar(Difco社製)
【0045】
【表2】

結果より、実施例品は、400ppm以下の添加によりメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の育成を阻害した。一方、比較例品は3200ppmの添加でもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の育成を阻害することはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノエステル体含量が60質量%以上であるグリセリン脂肪酸エステルおよび/またはモノエステル体含量が50質量%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とするメチシリン耐性黄色ブドウ球菌用抗菌剤。

【公開番号】特開2012−162480(P2012−162480A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23423(P2011−23423)
【出願日】平成23年2月5日(2011.2.5)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】