メッキ膜の形成方法及び無電解メッキ液
【課題】 様々な種類のポリマー部材の表面に、安価で、高密着強度を有する無電解メッキ膜を形成する方法を提供する。
【解決手段】 ポリマー部材にメッキ膜を形成する方法であって、表面内部にメッキ触媒核となる金属物質が含浸したポリマー部材を用意することと、加圧二酸化炭素及びアルコールを含む無電解メッキ液をポリマー部材に接触させて、ポリマー部材にメッキ膜を形成することとを含むメッキ膜の形成方法を提供することにより上記課題を解決する。
【解決手段】 ポリマー部材にメッキ膜を形成する方法であって、表面内部にメッキ触媒核となる金属物質が含浸したポリマー部材を用意することと、加圧二酸化炭素及びアルコールを含む無電解メッキ液をポリマー部材に接触させて、ポリマー部材にメッキ膜を形成することとを含むメッキ膜の形成方法を提供することにより上記課題を解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー部材にメッキ膜を形成する方法及びその方法により用いられる無電解メッキ液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリマー部材(ポリマー成形品)の表面に安価に金属膜を形成する方法としては、無電解メッキ法が知られている。しかしながら、無電解メッキ法では、メッキ膜の密着性を確保するために、無電解メッキの前処理としてポリマー部材表面を六価クロム酸や過マンガン酸等の環境負荷の大きい酸化剤を用いてエッチングを行い、ポリマー部材の表面を粗化する必要がある。また、このようなエッチング液で浸漬されるポリマー、すなわち、無電解メッキが適用可能なポリマーとしては、ABS等のポリマーに限定されていた。これは、ABSにはブタジエンゴム成分が含まれており、この成分がエッチング液に選択的に浸食され表面に凹凸が形成されるのに対して、他のポリマーではこのようなエッチング液に選択的に酸化される成分が少なく、表面に凹凸が形成され難いためである。それゆえ、ABS以外のポリマーであるポリカーボネート等では、無電解メッキを可能にするためにABSやエラストマーを混合したメッキグレードが市販されている。しかしながら、そのようなメッキグレードのポリマーでは、主材料の耐熱性が低下する等の物性の劣化は避けられず、耐熱性を要求する成形品に適用することは困難であった。
【0003】
また、従来、超臨界二酸化炭素等の加圧二酸化炭素を用いた表面改質方法をメッキ前処理に適用する技術が提案されている。加圧二酸化炭素を用いた表面改質方法では、加圧二酸化炭素に機能性材料を溶解させ、該機能材材料の溶解した加圧二酸化炭素をポリマー部材に接触させることにより、機能性材料をポリマー部材の表面内部に浸透させてポリマー部材表面を高機能化(改質)する。例えば、本発明者らは、加圧二酸化炭素を用いた表面改質処理を射出成形と同時に行い、ポリマー成形品の表面を高機能化させる方法を開示している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1では、次のような表面改質方法を開示している。まず、射出成形機の加熱(可塑化)シリンダー内で樹脂を可塑化計量した後、加熱シリンダー内のスクリューをサックバックさせて後退させる。次いで、スクリューのサックバックにより負圧になった(圧力が低下した)溶融樹脂のスクリュー前方部(フローフロント部)に超臨界状態の加圧二酸化炭素およびそれに溶解した金属錯体等の機能性有機材料を導入する。この動作によりスクリュー前方部における溶融樹脂に加圧二酸化炭素と機能性材料を浸透させることができる。次いで、溶融樹脂を金型に射出充填する。この際、機能性材料が浸透したスクリュー前方部の溶融樹脂がまず金型に射出され、次いで、機能性材料がほとんど浸透していない溶融樹脂が射出充填される。機能性材料が浸透したスクリュー前方部の溶融樹脂が射出された際には、金型内における流動樹脂のファウンテンフロー現象(噴水効果)により、スクリュー前方部の溶融樹脂は金型表面に引っ張られながら金型に接して表面層(スキン層)を形成する。それゆえ、特許文献1に記載の表面改質方法では、ポリマー成形品の表面内部に機能性材料が含浸した(機能性材料により表面改質された)ポリマー成形品が作製される。機能性材料として、メッキ触媒となる金属錯体等を用いると、表面にメッキ触媒が含浸したポリマー成形品が得られるので、従来のメッキ前処理方法のようにエッチング液で表面を粗化する必要なく、無電解メッキ可能な射出成形品を得ることができる。
【0005】
さらに、従来、超臨界二酸化炭素を含む無電解メッキ液を用いて無電解メッキを行う方法が開示されている(例えば、特許文献2、非特許文献1)。これらの文献では、無電解メッキ液と超臨界二酸化炭素とを、界面活性剤を用いて相溶させ、攪拌によりエマルジョン(乳濁状態)を形成し、該エマルジョン中でメッキ反応を起こす無電解メッキ方法が開示されている。通常、電解メッキや無電解メッキにおいては、メッキ反応中に発生する水素ガスがメッキ対象物の表面に滞留しメッキ膜にピンホールが発生する要因となる。しかしながら、上記文献に開示されている無電解メッキ法のように超臨界二酸化炭素を含む無電解メッキ液を用いた場合には、超臨界二酸化炭素は水素を溶解するので、上記メッキ反応中に発生する水素が取り除かれ、それによりピンホールが発生しにくく、硬度の高い無電解メッキ膜が得られるとされる。なお、特許文献2では、金属基材に対するメッキ処理は開示されているものの、ポリマー部材を対するメッキ処理については開示されていない。
【0006】
【特許文献1】特許第3696878号公報
【特許文献2】特許第3571627号公報
【非特許文献1】表面技術 Vol.56、No.2、P83(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、従来の樹脂のメッキ方法においては、環境負荷の大きい前処理を行う必要があり、ポリマー材料の選択性も狭いものであった。
【0008】
また、特許文献1に記載の超臨界流体等の加圧二酸化炭素を用いたポリマー部材の表面改質方法を用いてポリマー部材の表面内部にメッキ触媒となる金属微粒子を浸透させた場合には、上述のように、表面および内部にメッキ触媒となる金属微粒子が存在するポリマー部材が得られる。しかしながら、このようなポリマー部材に無電解メッキを施した場合、無電解メッキの触媒核として寄与するのはポリマー部材の最表面に存在する金属微粒子のみであり、ポリマー部材の内部に存在する金属微粒子は余剰な触媒核となり不経済である。また、特許文献1に記載の技術を用いて得られたポリマー部材にメッキ膜を形成した場合、ポリマー部材の表面を粗化していないので、メッキ膜の物理的アンカー効果が得にくく、メッキ膜と成形品の強固な密着性を得ることが困難であるという課題があった。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、ポリマー部材の表面に、安価で、高密着強度を有する無電解メッキ膜を形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様に従えば、ポリマー部材にメッキ膜を形成する方法であって、表面内部にメッキ触媒核となる金属物質が含浸したポリマー部材を用意することと、加圧二酸化炭素及びアルコールを含む無電解メッキ液を上記ポリマー部材に接触させて、上記ポリマー部材にメッキ膜を形成することとを含むメッキ膜の形成方法が提供される。
【0011】
本明細書でいう「加圧二酸化炭素」とは、加圧された二酸化炭素のことをいう。なお、ここでいう「加圧二酸化炭素」には、超臨界状態の二酸化炭素のみならず、加圧された液状二酸化炭素及び加圧された二酸化炭素ガスも含む意味である。また、加圧二酸化炭素の圧力は、臨界点(超臨界状態)以上に加圧された二酸化炭素のみならず、臨界点より低圧力で加圧された二酸化炭素も含まれる。より具体的には、本発明では、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素とが相溶し易くなるように、二酸化炭素の密度が下記範囲となるような温度及び圧力を有する加圧二酸化炭素であることが望ましい。加圧二酸化炭素の密度の好ましい範囲は、0.10g/cm3〜0.99g/cm3、より好ましくは0.40g/cm3〜0.99g/cm3である。この範囲よりも加圧二酸化炭素の密度が低いと、無電解メッキ液との相溶性が低くなり、さらにポリマー部材への浸透性も低下する。また、加圧二酸化炭素の密度が上記範囲よりも高いと、加圧二酸化炭素の圧力が非常に高くなり(例えば温度10℃で圧力30MPa以上、温度20℃で圧力40MPa以上となる)、量産装置が高価になる。
【0012】
なお、上記加圧二酸化炭素の密度を得るために、二酸化炭素の温度は10℃〜110℃、圧力は5MPa〜25MPaの範囲であることが望ましい。特に、加圧二酸化炭素が、温度31℃以上、圧力7.38MPa以上の超臨界二酸化炭素であることが望ましい。超臨界状態になると加圧二酸化炭素の密度が高くなるだけでなく、表面張力もゼロとなるので、ポリマー部材へのメッキ液の浸透性が向上する。なお、温度が10℃以下であるとメッキ反応が起こり難くなり、温度が110℃以上であるとメッキ液が分解する等の弊害が発生する。圧力については、5MPa以下であると加圧二酸化炭素の密度が大きく低下し、圧力が25MPa以上となると工業化用の装置に負担がかかる。
【0013】
また、本明細書でいう「無電解メッキ法」とは、外部電源を用いることなく触媒活性を有する基材表面で、還元剤を用いて金属皮膜を析出する方法のことをいう。また、ここいうポリマー部材の「表面内部」は、ポリマー部材の内部のみならず、最表面も含む意味である。
【0014】
本発明者らが、特許文献2及び非特許文献1等に開示されている超臨界二酸化炭素を含む無電解メッキ液を用いた無電解メッキ方法について、鋭意検討したところ、表面内部に金属物質(例えば、金属微粒子)が含浸したポリマー部材を、単に、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液に接触させただけでは、ポリマー部材の表面に無電解メッキ膜は形成されるものの、十分な密着性を有するメッキ膜を形成することが困難であることが分かった。本発明者らの検証実験によると、この場合、メッキ膜は、主にポリマー部材の最表面に存在する金属物質を触媒核としてメッキ膜が成長しており、メッキ膜の物理的アンカー効果が得にくくなっていることが分かった。それゆえ、単に無電解メッキ液を加圧二酸化炭素とともにポリマー部材に接触させただけでは、メッキ膜と成形品の強固な密着性を得られなかったものと思われる。
【0015】
さらに、本発明者の検討によると、特許文献2及び非特許文献1等に開示されている超臨界二酸化炭素を含む無電解メッキ液を用いた無電解メッキ方法では、高圧状態の二酸化炭素と水溶液である無電解メッキ液とは、界面活性剤を用いたとしても、相溶し難く、攪拌効果を高くする必要のあることが判明した。具体的には、攪拌トルクの高い攪拌子を用いたり、底の浅い高圧容器を用いたりすることが必要であることが分かった。すなわち、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素とを均一に混合して安定したエマルジョンを得るためには、高圧容器や攪拌子等の形状や攪拌子の回転数における制限が大きいことが分かった。
【0016】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明のメッキ膜の形成方法では、加圧二酸化炭素だけでなく、さらにアルコールを含む無電解メッキ液を用いてポリマー部材のメッキ処理を行う。本発明者らの検証実験によると、無電解メッキ液は水が主成分であるが、さらに、アルコールを無電解メッキ液に混合させることにより、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素とを攪拌しなくても、高圧状態の二酸化炭素とメッキ液とが安定して混ざり易くなることがわかった。これは、アルコールが高圧状態の二酸化炭素と相溶しやすいためであると考えられる。それゆえ、通常、無電解メッキ液を調合する際には、金属イオンや還元剤等の入った原液を、例えばメーカー推奨の成分比に従って、水で薄めてメッキ液を健浴するが、本発明のメッキ膜の形成方法では、さらにアルコールを任意の割合で水に混合するだけで、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素とが均一に相溶した安定した混合溶液を調合することができる。
【0017】
そして、本発明のメッキ膜の形成方法では、アルコールを介して無電解メッキ液と加圧二酸化炭素とが均一に相溶しているので、そのような混合溶媒を表面内部にメッキ触媒核となるPd、Ni、Pt、Cu等を含む金属物質が含浸したポリマー部材に接触させた際には、無電解メッキ液が加圧二酸化炭素とともにポリマー部材内部に浸透しやすくなり、ポリマー部材内部の金属物質を触媒核としてメッキ膜を成長させることができる。
【0018】
上述のように、本発明のメッキ膜の形成方法では、ポリマー部材の内部に存在する金属物質を触媒核としてメッキ膜が成長するので、メッキ膜はポリマー部材の内部に食い込んだ状態でポリマー部材上に形成される。それゆえ、本発明のメッキ膜の形成方法では、従来の無電解メッキ法のようにポリマー部材の表面をエッチングで粗化する必要がないので、環境に優しいメッキ膜の形成方法であり、且つ、多様な種類のポリマー部材に対しても容易に密着性の優れたメッキ膜を形成することができる。また、本発明のメッキ膜の形成方法では、従来の無電解メッキ法のようにポリマー部材の表面を粗化しないので、表面粗度の非常に小さい(ナノオーダー)メッキ膜を形成することができる。
【0019】
なお、水に対するアルコールの体積比率は、任意であるが、10〜80%の範囲であることが望ましい。より望ましくは、30〜60%の範囲である。アルコールの体積比率が10%より少ないと、安定な混合液が得られ難くなり、無電解メッキ液のポリマー部材への浸透性も低下する。また、アルコールの体積比率が80%より大きくなると(アルコール成分が多すぎると)、例えばニッケル−リンメッキに用いられる硫酸ニッケルにエタノール等の有機溶媒は不溶であるため、浴が安定しない場合がある。
【0020】
なお、本発明に用い得るアルコールの種類は任意であり、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘプタノール、エチレングリコール等を用いることができる。メッキ反応がおよそ60℃以上となるニッケルリンメッキにおいては、その反応処理温度の沸点以上のアルコールを用いることが望ましい。処理温度よりも沸点の低いアルコールを用いると、加圧二酸化炭素雰囲気においては、アルコールの沸点が低下して沸騰しないが、二酸化炭素を排気した直後の大気圧下においては、アルコールが揮発してメッキ浴が不安定になる。
【0021】
本発明のメッキ膜の形成方法では、成形機を用いて上記ポリマー部材を作製し、上記ポリマー部材を用意することが、上記成形機内の上記ポリマー部材の溶融樹脂に上記金属物質が溶解した加圧二酸化炭素を導入することと、上記金属物質が導入された溶融樹脂を成形することとを含むことが好ましい。
【0022】
本発明のメッキ膜の形成方法では、上記ポリマー部材が大気圧下で無電解メッキ液に不活性であるメッキ膜形成面を有することが好ましい。
【0023】
本発明者らの検討によると、ポリマー部材のメッキ膜形成面に金属物質が大気圧下でメッキ反応が起きる程度の濃度で存在すると、メッキ処理条件によっては、無電解メッキ液がポリマー部材の内部に浸透する前に表面層でメッキ反応が起こり、ポリマー内部にてメッキ膜が成長し難くなる恐れがあることが分かった。なお、本明細書でいうポリマー部材の「メッキ膜形成面」とは、メッキ膜が形成されるポリマー部材の面のことを意味する。
【0024】
そこで、内部にメッキ触媒核となるPd、Ni、Pt、Cu等を含む金属物質が存在し、且つ、大気圧下で無電解メッキ反応が起こらない表面状態のメッキ膜形成面を有するポリマー部材を用意し、そのようなメッキ膜形成面を有するポリマー部材に加圧二酸化炭素及びアルコールを含む無電解メッキ液を接触させると、メッキ膜形成面における金属物質の濃度は十分低いので(大気圧下で無電解メッキ液に不活性であるので)、メッキ膜形成面でメッキ膜が成長せず、無電解メッキ液はポリマー内部に浸透する。そして、ポリマー部材内部の金属物質の濃度が高い領域に無電解メッキ液が浸透すると、その領域からメッキ反応が開始する。その後、ニッケルリンメッキ等の金属物質の自己触媒作用により、メッキ膜がポリマー内部から表面に向かって成長する。
【0025】
上述のように、内部にメッキ触媒核となる金属物質が存在し、且つ、大気圧下で無電解メッキ反応が起こらない表面状態のメッキ膜形成面を有するポリマー部材を用意した場合には、確実にメッキ膜をポリマー部材の内部から成長させることができる。なお、本明細書でいう「大気圧下で無電解メッキ反応が起きない表面状態」とは、大気中(大気圧下)で且つメッキ反応が起こり得る温度において、加圧二酸化炭素を含まない無電解メッキ液中にポリマー部材を浸漬しても、ポリマー部材の表面にメッキ膜が成長しない状態のことをいう。より具体的には、大気中で且つメッキ反応可能な温度の範囲において、ポリマー部材を加圧二酸化炭素を含まない無電解メッキ液中に5分以上滞留させたときに、ポリマー部材の表面全体にメッキ膜が成長しない表面状態のことをいう。なお、触媒核となる金属物質がポリマー部材の表面に存在してもその濃度が低ければ、メッキ反応は容易に起きない。
【0026】
内部にメッキ触媒核となる金属物質が存在し、且つ、大気圧下で無電解メッキ反応が起こらない表面状態のメッキ膜形成面を有するポリマー部材の作製方法としては、次のような方法が用い得る。
【0027】
内部に金属物質が存在し且つ大気圧下で無電解メッキ反応が起こらないメッキ膜形成面を有するポリマー部材を作製する方法としては、例えば、射出成形機や押し出し成形機の可塑化スクリューにおける溶融状態の樹脂に、金属錯体等の金属物質を加圧二酸化炭素とともに浸透させて混錬し、金属物質が浸透した溶融樹脂を、金型やダイに射出成形もしくは押し出し成形することで得ることができる。この際、例えば、低速で溶融樹脂を金型やダイに射出または押し出すことにより、金属物質が樹脂内部にもぐり込み、成形品の最表面に金属物質を浮き出し難くすることができる。
【0028】
また、本発明者らが上述した特許文献1に開示された超臨界二酸化炭素を用いた表面改質方法についてさらに検討を重ねたところ、特許文献1に開示された超臨界二酸化炭素を用いた表面改質方法では、可塑化シリンダー内にて金属錯体の滞留時間が長くなると、金属錯体が熱分解して金属微粒子となり凝集する。この場合、該金属微粒子の比重は重くなるため、金属微粒子が含まれた溶融樹脂を射出しても、ファウンテンフロー現象により成形品の最表面における金属微粒子が分散し難くなるという現象を見出した。すなわち、特許文献1に開示された表面改質方法では、その成形条件等によっては、得られた成形品の最表面に金属物質の濃度が低下することが分かった。それゆえ、特許文献1に開示された超臨界二酸化炭素を用いた表面改質方法において、可塑化シリンダー内にて金属錯体の滞留時間を長くすることにより、ポリマー部材の最表面における金属微粒子(金属物質)の濃度を低下させて大気圧下で無電解メッキ反応が起こらない表面状態にすることができる。
【0029】
また、内部に金属物質が存在し且つ大気圧下で無電解メッキ反応が起こらないメッキ膜形成面を有するポリマー部材を作製するために、後述するように(実施例1参照)、金属錯体(金属物質)を溶融樹脂に十分に浸透させ後、樹脂内圧を減圧しても良い。この処理工程により、金属錯体を高温度高圧力下にて熱分解してクラースターを形成して有機物である金属錯体をより比重の重い金属微粒子と変化させるとともに、二酸化炭素を低圧のガスにする。このような状態の溶融樹脂を射出充填した場合においても、金属微粒子や二酸化炭素ガスはポリマー部材の表面に分散し難くなる(浮き出てきにくくなる)。
【0030】
上述のように、成形機内のポリマー部材の溶融樹脂に金属物質を浸透させてポリマー部材を成形する場合には、その成形条件を適宜調整することにより、内部に金属物質が存在し且つ大気圧下で無電解メッキ反応が起こらないメッキ膜形成面を有するポリマー部材を作製することができる。また、金属物質を予め含浸させたポリマーのペレットを用いても、成形条件を最適化することにより、同様なポリマー部材を得ることができる。
【0031】
なお、内部に金属物質が存在し且つ大気圧下で無電解メッキ反応が起こらないメッキ膜形成面を有するポリマー部材の作製方法として、上述のような成形機内のポリマー部材の溶融樹脂に金属物質を浸透させてポリマー部材を成形する方法を用いた場合には、ポリマー部材の成形と同時にメッキ膜の触媒核となる金属物質をポリマー部材の表面内部に含浸させることができ、表面内部に金属物質が含浸したポリマー部材を容易で安価なプロセスで作製することができる。なお、この成形方法としては、射出成形法(またはサンドイッチ成形法)や押し出し成形法が用い得る。
【0032】
上述した成形時の条件を調整する方法以外では、次のような方法を用いてポリマー部材のメッキ膜形成面を、大気圧下で無電解メッキ反応が起こらない状態にしても良い。
【0033】
まず、成形機等を用いて大気圧下で無電解メッキ反応が起こる程度の濃度で金属物質が最表面に存在するポリマー部材を作製し、次いで、硝酸や塩酸、王水等の酸でポリマー部材を洗浄し、最表面の金属物質を除去することにより、ポリマー部材の最表面でメッキ反応が起きない状態(無電解メッキ液に対して不活性である状態)にしても良い。
【0034】
さらに、別の方法としては、成形機等を用いて大気圧下で無電解メッキ反応が起こる程度の濃度で金属物質が最表面に存在するポリマー部材を作製し、次いで、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を通過させるような材料(例えば、ポリマー部材と同じ材料)からなる膜を、キャスティング、スクリーン印刷、スピンコート、ディッピング等の方法により、ポリマー部材のメッキ膜形成面上に形成しても良い。この方法では、ポリマー部材の表面に金属物質が存在しない膜が形成されるので、大気圧下ではメッキ反応が起きない。なお、このような膜の形成材料としては、例えば、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィン、ポリマー等の熱可塑性樹脂、シリコーン、エポキシ、ポリイミド等の熱硬化性樹脂、アクリル、エポキシ樹脂等の光硬化性樹脂、及び、それらの多孔質材料等が用い得る。
【0035】
また、本発明のメッキ膜の形成方法において、確実にメッキ膜をポリマー部材の内部から成長させる別の方法として、次のような方法が用い得る。
【0036】
本発明のメッキ膜の形成方法では、上記ポリマー部材にメッキ膜を形成することが、加圧二酸化炭素をポリマー基材に接触させてポリマー部材の表面近傍を膨潤させることと、上記ポリマー部材の表面近傍を膨潤させた状態で、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を上記ポリマー部材に接触させることとを含むことが好ましい。
【0037】
この方法では、まず、表面内部にメッキ触媒核となるPd、Ni、Pt、Cu等の金属微粒子が含浸したポリマー部材に加圧二酸化炭素を接触させる。この際、ポリマー部材が非晶性材料で形成されている場合にはガラス転移温度が低下して表面近傍が軟化して膨潤する。また、ポリマー部材が結晶性材料で形成されている場合には、軟化しないまでも、表面近傍で分子間距離が拡大して膨潤する。
【0038】
次いで、このような表面状態にあるポリマー部材に、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液(メッキ反応が起こる状態(例えば、高温状態)にある無電解メッキ液)を接触させる。この際、ポリマー部材の表面近傍が膨潤した状態で無電解メッキ液を接触させるので、無電解メッキ液を加圧二酸化炭素とともにポリマー部材の内部に速やかに浸透させることができる。また、この際、超臨界状態等の加圧二酸化炭素を混合した無電解メッキ液は表面張力が低くなるので、ポリマー部材の内部に無電解メッキ液がより浸透し易くなる。この結果、ポリマー部材の内部に存在する金属物質まで無電解メッキ液が到達し、ポリマー部材の内部に存在する金属物質を触媒核としてメッキ膜が成長する。この方法においても、無電解メッキ液をポリマー部材の内部に速やかに浸透させることができるので、ポリマー部材の表面だけでなく、内部に存在する金属物質を触媒核としてメッキ膜が成長する。それゆえ、この方法によっても確実にメッキ膜をポリマー部材の内部から成長させることができる。
【0039】
本発明のメッキ膜の形成方法では、金属物質が、金属微粒子、金属錯体及び金属錯体の変性物のいずれかを含むことが好ましい。具体的には、ポリマー部材内部に含浸している金属物質はPd、Pt、Cu、Niのいずれかの金属元素からなる微粒子(金属微粒子)もしくは、それらの有機金属錯体および金属錯体の変性物であることが望ましい。特に、金属錯体は加圧二酸化炭素に溶解することから望ましい。また、金属物質が、金属錯体を溶解した加圧二酸化炭素をポリマー部材に浸透させた後の熱等により還元され酸化物や金属微粒子に変質したものでもよい。さらに、金属物質としてパラジウム微粒子を用いた場合には、この金属微粒子は多様な無電解メッキの触媒核として機能するので好適である。また、ニッケル及び銅を金属微粒子として用いた場合には、それぞれニッケルメッキや銅メッキの触媒核と作用する。また、この場合、ニッケル及び銅はパラジウムよりも安価なので状況(コスト等)に応じては好適である。
【0040】
本発明のメッキ膜の形成方法では、無電解メッキ液が、界面活性剤を含んでよい。これにより、超臨界二酸化炭素等の加圧二酸化炭素と水溶液である無電解メッキ液との相溶性(親和性)をより向上させ、エマルジョンの形成を助長することができる。また、ポリマー部材に対するメッキ液の親和性も向上させることができる。
【0041】
界面活性剤としては、公知の、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性、両性イオン性界面活性剤のうち、少なくも1種類以上を選択して用いることが望ましい。特に、超臨界二酸化炭素と水とのエマルジョンを形成するのに有効であると確認されている各種界面活性剤を用いることが望ましい。例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)−ポリプロピレンオキシド(PPO)のブロックコポリマー、アンモニウムカルボキシレートパーフルオロポリエーテル(PFPE)、PEO−ポリブチレンオキシド(PBO)のブロックコポリマー、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル等を用いることができる。
【0042】
本発明のメッキ膜の形成方法では、メッキ膜がニッケルリン膜であることが好ましい。本発明における加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液は、二酸化炭素を含むことによりpH(水素イオン指数)が低下する。すなわち、本発明のメッキ膜の形成方法では、無電解メッキ液のpHは二酸化炭素の含有量により変化するので、酸性で安定に反応する無電解メッキ液を用いることが望ましい。ニッケルリンメッキはpHが3〜6程度の広範囲にてメッキ反応可能なので、より好適である。
【0043】
本発明のメッキ膜の形成方法では、短時間で最小限の薄い金属膜をポリマー部材の表面に形成して金属膜とポリマー部材の密着性を確保することが好ましい。それにより無電解メッキ液が過剰にポリマー部材の内部に浸透することを抑制することができ、無電解メッキ液によるポリマー部材の変形や変質を抑制することができる。また、メッキ膜の膜厚を厚くする必要がある場合には、本発明の上記方法によりポリマー部材上に無電解メッキ膜を形成した後に、常圧で従来のメッキ法(無電解メッキ法及び/又は電解メッキ法)を施すことにより、所望の膜厚を有する金属膜をポリマー部材上に積層することができる。この方法では、金属膜の信頼性(密着性)と、導電性等の物性の確保とを両立したメッキ膜を得ることができる。
【0044】
本発明のメッキ膜の形成方法では、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液に溶解可能な溶出物質が表面内部に存在するポリマー部材を用意することが好ましい。特に、上記溶出物質がミネラルであることが好ましい。
【0045】
本発明者の検討によれば、加圧二酸化炭素と水やアルコールの混合溶媒は、酸化力が強く、酸性溶媒に溶解する物質を溶解させることが判明した。特に酸性浴である無電解メッキ液と加圧二酸化炭素との混合溶媒ではその現象は顕著になる。それゆえ、ポリマー部材の表面内部に加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液に溶解する物質が存在するポリマー部材を用意した場合には、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液をポリマー部材に接触させることにより、ポリマー部材の表面内部の溶出物質が無電解メッキ液に溶け出し、溶出物資が存在していた領域に空隙ができる。その結果、ポリマー部材表面に凹凸が形成され、ポリマー部材表面におけるメッキ膜の物理的アンカー効果が増大し、メッキ膜の密着力をさらに向上させることができる。また、この場合、従来のメッキ法で用いられていた有害な有機溶媒を用いることなくポリマー部材の表面をエッチングすることができる。さらに、ポリマー部材の表面内部に溶出物質が存在するポリマー部材を用いた場合には、ポリマー部材に加圧二酸化炭素と無電解メッキ液との混合溶媒を接触させた際に、混合溶媒が溶出物質を介してポリマー部材内部に浸透しやすくなるという効果も得られる。
【0046】
本発明のメッキ膜の形成方法において用い得る溶出物質としては、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液に溶解及び抽出される材料であれば、任意の材料が用い得る。例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシム等のミネラルを用いることができる。これらミネラルは、ポリマー部材の補強剤として従来用いられているので、ポリマー物性を変化させることなく用いることができる。また、これらの溶出物質は、メッキ反応中にポリマー部材から抽出されてもよいし、メッキ反応前に水やアルコール、または、それらと加圧二酸化炭素との混合溶媒に接触させて、ポリマー部材から予め抽出されていてもよい。
【0047】
ミネラル以外で、溶出物質として用い得るものとしては、熱可塑性樹脂やその低分子物質あるいは、熱可塑性エラストマー等の各種エラストマー(ゴム弾性体)等が挙げられる。これら樹脂物質をベースポリマーに配合することで、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液をポリマー部材に接触させた際に、選択的に溶融物質の部分を膨潤させることができ、これにより無電解メッキ液が浸透しやすくなる。
【0048】
本発明のメッキ膜の形成方法では、ポリマー部材にメッキ膜を形成する際に、金属製の容器本体と、該容器本体の内部に配置され且つ上記加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液に対して不活性な材料で形成された内部容器とを備える処理容器を用い、該内部容器内で上記ポリマー部材を、上記加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液に接触させることが好ましい。内部容器の形成材料はポリテトラフルオロエチレンやポリエチルエーテルケトンや液晶ポリマー等を用いることが好ましい。このような内部容器内でメッキ処理を行うことにより、高圧容器及び内部容器の内壁がメッキされない、腐食しない等の効果が得られる。
【0049】
本発明のメッキ膜の形成方法に用い得るポリマー部材の形成材料は任意であり、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂及び紫外線硬化樹脂を用いることができる。特に、熱可塑性樹脂で形成したポリマー部材を用いることが望ましい。熱可塑性樹脂の種類は任意であり、非晶性、結晶性いずれでも適用できる。例えば、ポリエステル系等の合成繊維、ポリプロピレン、ポリアミド系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ABS系樹脂、ポリアミドイミド、ポリフタルアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリ乳酸等の生分解性プラスチック、ナイロン樹脂等及びそれら複合材料を用いることできる。また、ガラス繊維、カーボン繊維、ナノカーボン、ミネラル等、各種無機フィラー等を混練させた樹脂材料を用いることもできる。
【0050】
また、本発明のメッキ膜の形成方法では、ポリマー部材の形態および作製方法は任意であり、例えば、押し出し成形により作製されたシートやパイプ、紫外線硬化や射出成形により作製されたポリマー成形品を用いることができる。工業性を考慮すると、連続生産性の高い射出成形により得られたポリマー成形品を用いることが好ましい。
【0051】
本発明の第2の態様に従えば、本発明の第1の態様に従うポリマー部材にメッキ膜を形成する方法で用いるための無電解メッキ液であって、上記無電解メッキ液の原液と、アルコールとを備える無電解メッキ液が提供される。
【0052】
本発明の無電解メッキ液では、上記無電解メッキ液中の上記アルコールの体積比率が10〜80%であることが好ましい。
【0053】
また、本発明の無電解メッキ液では、さらに、加圧二酸化炭素を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0054】
本発明のメッキ膜の形成方法によれば、ポリマー部材の内部から成長したメッキ膜をポリマー部材上に形成することができるので、より密着性の優れたメッキ膜を形成することができる。
【0055】
また、本発明のメッキ膜の形成方法によれば、無電解メッキ液をポリマー部材の内部に浸透させてメッキ反応を起こさせるので、従来のようにポリマー部材の表面を粗化する必要がなくなり、あらゆる種類のポリマー部材に対して密着性の優れたメッキ膜を形成することができる。
【0056】
本発明のメッキ膜の形成方法によれば、アルコールを無電解メッキ液に含ませ、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素との相溶性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下、本発明のポリマー部材へのメッキ膜の形成方法の実施例について図面を参照しながら具体的に説明するが、以下に述べる実施例は本発明の好適な具体例であり、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0058】
実施例1では、射出成形機を用いてポリマー成形品(ポリマー部材)を射出成形した後に、同じ射出成形機内で無電解メッキ処理を行う方法について説明する。本実施例では、ポリマー部材として自動車ヘッドライトのリフレクターを作製した。
【0059】
[ポリマー成形品の製造装置]
本実施例で用いたポリマー成形品の製造装置の概略構成を図1に示した。本実施例の製造装置100は、図1に示すように、主に、金型を含む縦型の射出成形装置部103と、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液の金型への供給及び排出を制御する無電解メッキ装置部101と、射出成形装置部103の可塑化シリンダー内の溶融樹脂に金属錯体を溶解した加圧二酸化炭素を浸透させるための表面改質装置部102とからなる。
【0060】
縦型の射出成形装置部103は、主に、図1に示すように、ポリマー成形品の形成樹脂を可塑化溶融する可塑化溶融装置110と、金型を開閉する型締め装置111とからなる。
【0061】
可塑化溶融装置110は、主に、スクリュー51を内蔵した可塑化シリンダー52と、ホッパー50と、可塑化シリンダー52内の先端部(フローフロント部)付近に設けられた加圧二酸化炭素の導入バルブ65とからなる。また、可塑化シリンダー52の導入バルブ65と対向する位置には、樹脂内圧を計測するための圧力センサー40を設けた。なお、ホッパー50内から可塑化シリンダー52内に供給される図示しない樹脂ペレットの材料としては、ポニフェニレンサルファイド(大日本インキ化学工業社製FZ−8600 Black)を用いた。
【0062】
また、型締め装置111は、主に、固定金型53と、可動金型54とからなり、可動金型54が可動プラテン56およびそれに連結した図示しない油圧型締め機構の駆動に連動して4本のタイバー55間を開閉する構造になっている。また、可動金型54には、可動金型54及び固定金型53との間に画成されるキャビティ104に、加圧二酸化炭素及び無電解メッキ液を供給及び排出するためのメッキ液導入路61,62が形成されている。なお、メッキ液導入路61,62は、図1に示すように後述する無電解メッキ装置部101の配管15に接続されており、配管15を介して加圧二酸化炭素及び無電解メッキ液がキャビティ104に導入される構造になっている。また、キャビティ104のシールは、固定金型53の外径部に設けられたバネ内蔵シール17と可動金型54との勘合により行われる。
【0063】
表面改質装置部102は、図1に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ21と、シリンジポンプ20,34と、フィルター57と、背圧弁48と、金属錯体を加圧二酸化炭素に溶解する溶解槽35と、これらの構成要素を繋ぐ配管80とから構成される。また、表面改質装置部102の配管80は、図1に示すように、可塑化シリンダー52の導入バルブ65に接続されており、導入バルブ65付近の配管80には圧力センサー47が設けられている。なお、この例では、溶解槽35に仕込んだ金属微粒子(金属物質)の原料としては、金属錯体(ヘキサフルオロアセチルアセトナパラジウム(II))を用いた。
【0064】
無電解メッキ装置部101は、図1に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ21と、ポンプ19と、バッファータンク36と、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素を混合させる高圧容器10と、循環ポンプ90と、無電解メッキ液を補給するためのメッキタンク11と、シリンジポンプ33と、無電解メッキ液を回収する回収容器63と、回収槽12と、これらの構成要素を繋ぐ配管15とから構成される。また、加圧二酸化炭素及び無電解メッキ液の流動を制御するための自動バルブ43〜46,38が配管15の所定箇所に設けられている。また、配管15は、図1に示すように、可動金型54のメッキ液導入路61,62と接続されている。なお、この例では、無電解メッキ液としては、原液15%、アルコール(エタノール)50vol%を含むニッケルリン無電解メッキ液を用いた。
【0065】
[ポリマー成形品の成形方法]
次に、表面内部に金属微粒子を浸透させたポリマー成形品の成形方法について説明する。なお、本発明において金属錯体の樹脂への浸透方法は任意であるが、本実施例では、可塑化シリンダー52内で可塑化計量した溶融樹脂の先端部(フローフロント部)に金属錯体を溶解した加圧二酸化炭素を導入した。
【0066】
まず、溶解槽35において金属錯体をエタノールに溶解させ、金属錯体が溶解したエタノールをシリンジポンプ34内で15MPaに昇圧した。一方、液体二酸化炭素ボンベ21よりフィルター57を介してシリンジポンプ20に供給し、シリンジポンプ20内で液体二酸化炭素を15MPaと昇圧した。そして、昇圧された二酸化炭素と金属錯体が溶解したエタノールと配管80内で混合した(加圧混合流体を生成した)。なお、この加圧混合流体を可塑化溶融装置110に供給する際、加圧混合流体の供給圧力は、圧力計49の表示が15MPaになるように、背圧弁48により制御した。また、両シリンンジポンプ20,34からのエタノール溶液と加圧二酸化炭素との加圧混合流体の送液は、各シリンジポンプ20,34の制御を圧力制御から流量制御に切り替えて行った。さらに、加圧混合流体を可塑化溶融装置110に供給する際には、加圧混合流体を、配管80内で図示しないヒーターにより50℃に温度制御しつつ、可塑化溶融装置110に供給した。
【0067】
次に、加圧混合流体を可塑化溶融装置110内に導入する手順を図1及び2を参照しながら説明する。図2(a)及び2(b)は、可塑化溶融装置110の導入バルブ65付近の拡大断面図である。まず、ホッパー50から樹脂ペレットを供給しながら、可塑化シリンダー52内のスクリュー51を回転させて、樹脂の可塑化計量を行った。可塑化計量完了時における導入バルブ65付近の状態を示したのが図2(a)である。なお、この際、図2(a)に示すように、導入バルブ65の導入ピン70が後退(図2(a)中の左側に移動)することで、溶融樹脂66へ加圧混合流体67が導入されること遮断している。
【0068】
次いで、スクリュー51をサックバック(後退)して、溶融樹脂66の内圧力を低下させると同時に、両シリンジポンプ20,34を圧力制御から流量制御に切り替え、金属錯体の溶解したエタノールと二酸化炭素の流量をそれぞれ上述の方法にて1:10としながら、加圧混合流体67を導入バルブ65を介して可塑化シリンダー52内のフローフロント部の溶融樹脂66に導入した(図2(b)の状態)。図2(b)中の領域68が加圧混合流体67が浸透した溶融樹脂の部分である。
【0069】
なお、本実施例の可塑化シリンダー52の導入バルブ65では、溶融樹脂66と加圧混合流体67との圧力差が5MPa以上となったときに、加圧混合流体67が可塑化シリンダー52内の溶融樹脂66の導入される構造になっており、導入バルブ65による加圧混合流体67の導入原理は次の通りである。可塑化計量完了後、スクリュー51をサックバックさせると、溶融樹脂66が減圧され密度が低下する。そして、溶融樹脂66と加圧混合流体67との圧力差が5MPa以上となったとき、加圧混合流体67の圧力が導入バルブ65内のバネ71の戻し力(弾性力)に打ち勝ち、導入ピン70が溶融樹脂66側に前進し、加圧混合流体67が溶融樹脂66内部に導入される。なお、加圧混合流体67の導入は、樹脂圧および加圧混合流体67の圧力を、それぞれ圧力センサー40,47で監視しながら行った。
【0070】
次いで、両シリンジポンプ20,34を停止して加圧混合流体67の送液を停止した。また、それと同時に、スクリュー51を前進させて、樹脂圧力を20MPaまで再度上昇させ、導入ピン70を後退(図2(b)中の左方向に移動)させた。それにより、加圧混合流体67の導入を停止するとともに、加圧混合流体67と溶融樹脂66とを相溶させた。
【0071】
次いで、可塑化シリンダー52内のフローフロント部の樹脂圧力を20MPaに保持して金属錯体を樹脂に十分に浸透させた後、樹脂内圧を1MPaまで減圧した。この動作により、浸透した多くの金属錯体は高温度高圧力下にて熱分解してクラースターを形成し、有機物である金属錯体はより比重の重い金属微粒子と変化する。また、この際、二酸化炭素は低圧のガスとなる。溶融樹脂のフローフロント部をこのような状態にすることにより、後述する射出充填でスキン層を形成した際に、金属微粒子や二酸化炭素ガスがスキン層の表面(成形品の最表面)に浮き出難くなる。
【0072】
次いで、両シリンジポンプ20,34を、配管80中の図示しない自動バルブを閉鎖した後、可塑化溶融装置110に供給した加圧二酸化炭素及び金属錯体が溶解したエタノール溶液の流量分をシリンジポンプ20,34内に補液した。その後、圧力制御に切り替え、15MPaの高圧に保持し、次ショットの送液まで待機させた。
【0073】
次に、可塑化シリンダー52内のフローフロント部の溶融樹脂66に加圧混合流体67を導入した後、型締め装置111の油圧型締め機構(不図示)により型締めされ、温調回路(不図示)により温度制御された金型内に画成されたキャビティ104に溶融樹脂を射出充填した。この際、射出充填するまでの射出速度を100m/sと低速にして、ポリマー成形品の最表面に金属微粒子(Pd)が十分な濃度で分散しない、すなわち、大気圧下でメッキ反応を起こさない濃度で分散するように射出成形した。次いで、成形品を冷却固化した(図3の状態)。
【0074】
なお、溶融樹脂を金型内に射出成形する際、最初に射出されるフローフロント部の溶融樹脂68は噴水効果(ファウンテンフロー)により、射出成形品の表皮を形成する。すなわち、この例では、フローフロント部近傍に金属錯体由来の金属微粒子が分散しているので、図3に示すように、ポリマー成形品507の表皮505(表面内部)には金属微粒子が含浸したポリマー成形品507が得られる(図5中のステップS11)。この例では、このようにして、表皮であるスキン層505に金属微粒子が分散し、内皮であるコア層506に、ほとんど金属微粒子が存在しないポリマー成形品507を得た。
【0075】
上述のようにして作製したこの例のポリマー成形品507の概略断面図を図6に示した。この例のポリマー成形品507のスキン層505には、図6に示すように、金属微粒子550(金属物質)がスキン層505の表面近傍から内部に分散(存在)しているものの、スキン層505の最表面近傍における金属微粒子550の濃度は、スキン層505内部の金属微粒子550の濃度より低くなっていた。また、この例の成形直後のポリマー成形品507(図6の成形品)を、実際に、大気圧にて70℃の無電解メッキ液(メッキ反応温度60〜85℃のメッキ液)中に10分間浸漬したところ、ポリマー成形品507の表面にはメッキ膜は形成されなかった。このことから、この例の成形直後のポリマー成形品507では、その最表面(メッキ膜形成面)が大気圧下でメッキ反応を起こさない状態、すなわち、無電解メッキ液に対して不活性であることが確認された。
【0076】
[メッキ膜の形成方法]
上述のようにして作製された表面内部に金属微粒子が分散したポリマー成形品507に対して、次のようにして、金型内で無電解メッキ処理を行った。なお、無電解メッキ処理を行っている間、金型内部は80℃に温調した。
【0077】
まず、図4に示すように、型締め装置111の油圧型締め機構(不図示)を後退(図4中の下方向)させることにより、可動プラテン56および可動金型54を後退させ、固定金型53とポリマー成形品507との間に隙間508(キャビティ508)を設けた。
【0078】
次いで、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液をキャビティ508に導入して、ポリマー成形品507に接触させた。具体的には、次のようにして加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液をポリマー成形品507に接触させた。まず、予め、無電解メッキ装置部101のメッキタンク11から供給されたアルコールを含む無電解メッキ液と、バッファータンク36から供給された15MPaの加圧二酸化炭素とを、高圧容器10内にて7:3の比で混合させた(図5中のステップS12)。本発明においては、加圧二酸化炭素とメッキ液の混合比は1:9から5:5の範囲が好ましく、特に、メッキ液の量が多いほうが望ましい。また、この際、スタラー16の駆動および、マグネチックスタラー6の高速回転により加圧二酸化炭素と無電解メッキ液とを高圧容器10内で相溶させた。次いで、自動バルブ43を閉鎖し、自動バルブ44,45を開放した。
【0079】
次いで、循環ポンプ9を運転し、高圧容器10、配管15およびキャビティ508からなる循環流路に、加圧二酸化炭素及びアルコールを含む無電解メッキ液を循環させて、一時的にポリマー成形品507の表面に無電解メッキ液を滞留および接触させ、メッキ膜(ニッケルリン膜)を形成した(図5中のステップS13)。なお、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液が循環している際には、キャビティ508および循環ライン15の圧力は圧力センサー58,59で同圧になっていた。また、無電解メッキ液の補給は、メッキタンク11より供給したメッキ液をシリンジポンプ33で昇圧して、自動バルブ46の開放と同時に送液することで随時行った。
【0080】
上述の工程で、加圧二酸化炭素及びアルコールを含む無電解メッキ液をポリマー成形品507に接触させた際には、ポリマー成形品507の最表面ではメッキ反応は起こらず、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液はポリマー成形品507の内部に浸透する。そして、ポリマー成形品507内部において、メッキ反応を起こすのに十分な濃度で金属微粒子が分散している領域まで、無電解メッキ液が浸透すると、その領域の金属微粒子を触媒核にして、メッキ膜が成長し始める。その後、金属微粒子の自己触媒作用により、メッキ膜がポリマー部材の内部から表面に向かって成長する。すなわち、ポリマー成形品507上に形成されたメッキ膜はポリマー成形品507の内部に食い込んだ状態で成長するので、密着性の優れたメッキ膜が形成される。
【0081】
次いで、上述のようにしてポリマー成形品507上にメッキ膜を形成した後、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液の循環経路から加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を回収容器63を介して回収槽12から排気した。具体的には、自動バルブ44,45を閉鎖し、次いで、自動バルブ38を開放することで、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を回収容器63に排出した。回収容器63では、回収した加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液が、遠心分離の原理で水溶液(メッキ液)と高圧ガス(二酸化炭素)に分離される。メッキ液は回収槽12で回収し再利用することができる。ガス化した二酸化炭素は回収容器63の上部から排出され、図示しない排気ダクトに回収される。
【0082】
次いで、自動バルブ43を一定時間開いて、固定金型53とポリマー成形品507との間の隙間508(キャビティ508)に加圧二酸化炭素を導入し、キャビティ508に残ったメッキ液の残留物を加圧二酸化炭素とともに金型の外へ排出した。次いで、キャビティ508の内圧が圧力センサー59のモニター値でゼロになったところで、金型を開きポリマー成形品507を取り出した。
【0083】
次に、取り出したポリマー成形品507に対して、通常の銀メッキを施して、ポリマー成形品507の表面に銀メッキ膜を積層した。この例では、上述のようにして、表面にメッキ膜が形成されたポリマー成形品507を得た。
【0084】
この例で作製されたポリマー成形品507の一部の模式断面図を図7に示した。この例で作製されたポリマー成形品507の片側には、金型内で成長させたニッケルーリンの金属膜509(メッキ膜)が形成されており、ニッケルーリンの金属膜509はポリマー成形品507の内部から成長していた(金属膜509の浸透層が形成されていた)。また、ニッケルーリンの金属膜509の上に銀の高反射膜510が形成されていた。
【0085】
[メッキ膜の評価]
次に、この例で作製されたポリマー成形品507に対して、金属膜の密着性評価を行った。具体的には、高温多湿環境試験(条件:温度85℃、湿度85%Rh、放置時間1000時間)、温度150℃,放置時間500時間の条件での高温試験、並びに、−30℃と150℃との温度間でヒートッショク試験を20サイクル行った。その結果、すべての試験において金属膜の密着性の低下は認められなかった。さらに、この例で作製されたポリマー成形品507の表面粗さRaを測定したところ、金型の表面粗さと同等のRa=100nmであった。すなわち、この例のメッキ膜の形成方法によれば、射出成形と同時にメッキ処理を行うことができ、プロセスが簡略化することができる(安価にポリマー部材を製造できる)だけでなく、密着性が高く且つ平滑な金属膜を耐熱性の高い樹脂材料に形成できることが分かった。
【実施例2】
【0086】
実施例2では、サンドイッチ成形機を用いて表面内部に金属微粒子が含浸したポリマー成形品(ポリマー部材)を作製し、その後、別の容器内で成形したポリマー成形品に無電解メッキ処理を施す方法について説明する。本実施例では、ポリマー成形品として自動車用のドアノブを作製した。
【0087】
本実施例では、後述する加圧二酸化炭素に溶解させる機能性材料の種類は任意であるが、本実施例においては、金属錯体を用いた。金属錯体の種類は任意であるが、二酸化炭素に対し高い溶解度を有するヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。また、後述する溶融樹脂に導入する加圧二酸化炭素の温度、圧力条件は任意であるが、本実施例においては超臨界状態となる温度40℃、圧力10MPaとした。また、本実施例では、ポリマー成形品の形成材料としては、ガラス繊維30%含むポリアミド6樹脂を用いた。
【0088】
[サンドイッチ成形装置]
まず、この例のポリマー成形品(ポリマー部材)の製造方法で用いたサンドイッチ成形装置について説明する。この例で用いた成形装置の概略構成を図8に示した。この例で用いた成形装置200は、図8に示すように、サンドイッチ成形機部201と、加圧流体供給部202と、加圧流体排出部203とから構成される。
【0089】
サンドイッチ成形機部201は、図8に示すように、主に、ポリマー成形品の外皮(表面層)を形成するための第1の可塑化溶融シリンダー220(以下、第1加熱シリンダーともいう)と、ポリマー成形品のコア部を形成するための第2の可塑化溶融シリンダー224(以下、第2加熱シリンダーともいう)と、第1加熱シリンダー220及び第2加熱シリンダー224の溶融樹脂の排出口220a及び224aに接続され且つ第1加熱シリンダー220及び第2加熱シリンダー224内部に流通したノズル部218と、可動金型211及び固定金型212を備える金型210とから構成される。
【0090】
ノズル部218内には、図8に示すように、金型210内に射出する溶融樹脂の射出経路を切り替えるためのロータリーバルブ219が設けられている。この例では、後述するように、ロータリーバルブ219を回転させることにより、第1加熱シリンダー220内部から金型210のキャビティ216に至る溶融樹脂の射出経路と、第2加熱シリンダー224内部から金型210のキャビティ216に至る溶融樹脂の射出経路とが切り替える。なお、金型210のキャビティ216は、固定金型212および可動金型211が突き当たることにより画成される空間である。また、この例では、図8に示すように、スプール217を中心にして、自動車用のドアノブを2個同時に成形できる金型210を用いた。固定金型212および可動金型211は、それぞれ固定プラテン214及び可動プラテン213にそれぞれ固定されており、型締め機構215により可動プラテン213を駆動することにより金型210が開閉される構造になっている。
【0091】
また、この例では、図8に示すように、第1加熱シリンダー220には、金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素を溶融樹脂に導入するためのエアー駆動式の導入シリンダー227と、超臨界二酸化炭素を溶融樹脂から排出するためのエアー駆動式の排出シリンダー229とが設けられている。導入シリンダー227及び排出シリンダー229の内部には、それぞれ導入ピストン228及び排出ピストン230が設けられている。また、この例では、第1加熱シリンダー220内のスクリュー221(以下、第1スクリューともいう)としては、図8に示すように、樹脂内圧を減圧させるベント部を2箇所設けた(図8中の第1ベント部223及び第2ベント部222)。そして、導入シリンダー227及び排出シリンダー229は、それぞれ第1ベント部223及び第2ベント部222の近傍に配置した。上述のように、この例の成形装置では、溶融樹脂に浸透させた超臨界二酸化炭素をガス化して射出充填前に排気させる機構を設けた。一方、第2加熱シリンダー224は、従来の加熱シリンダーと同じ構造とした。
【0092】
加圧流体供給部202は、図8に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ240と、公知のシリンジポンプ241と、金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解する溶解槽242とから構成され、各構成要素は配管243により繋がれている。また、加圧流体供給部202では、図8に示すように、超臨界二酸化炭素の流動を制御するためのバルブ244,245が適宜所定の箇所に設置されており、溶解槽242は配管243により、サンドイッチ成形機部201の導入シリンダー227に繋がれている。
【0093】
加圧流体排出部203は、図8に示すように、主に、フィルタ254と、バッファー容器253と、減圧弁252と、真空ポンプ250とから構成され、各構成要素は配管255により繋がれている。また、フィルタ254は配管255により、サンドイッチ成形機部201の排出シリンダー229に繋がれている。
【0094】
なお、本実施例で用い得る成形装置としては、図8に示した例に限定されない。成形装置としては、ポリマー成形品の外皮を形成する第一の可塑化シリンダーと内皮を形成する第二の可塑化シリンダーを有し、少なくとも第一の可塑化シリンダーに加圧二酸化炭素およびそれに溶解した機能性材料(金属錯体)を導入する機能を有すれば、任意の構造の装置が用い得る。
【0095】
[ポリマー成形品の製造方法及びメッキ膜の形成方法]
次に、この例のポリマー成形品の製造方法を、図8〜15を参照しながら説明する。なお、この例では、先のサンドイッチ成形が終了した時点(図9の状態)からポリマー成形品の製造方法を説明する。それゆえ、図9では、前回の成形時に第2加熱シリンダー224から射出された溶融樹脂がノズル部218内の樹脂の流路に残留している。
【0096】
最初に、金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させる方法について説明する。まず、バルブ244を開き、液体二酸化炭素ボンベ240よりシリンジポンプ241に二酸化炭素を供給した。シリンジポンプ241では、供給された二酸化炭素は所定の圧力(10MPa)に昇圧される。次いで、バルブ245を開き、加圧液体二酸化炭素を溶解槽242に導入して、金属錯体を加圧二酸化炭素に溶解させた(図15中のステップS21)。この際、溶解槽242の温度を40℃にしておき、導入された加圧液体二酸化炭素を超臨界状態にした。なお、この例では、溶解槽242内には、金属錯体を過飽和となるように予め仕込んだ。また、超臨界二酸化炭素を溶解槽242に導入することにより、導入シリンダー227までの配管領域も加圧した。なお、後述する可塑化計量工程における超臨界二酸化炭素及び有機金属錯体を第1加熱シリンダー220内に導入する時以外では、溶解槽242から導入シリンダー227までの領域がシリンジポンプ241により一定圧力で保持されるように制御した。
【0097】
次に、ホッパー226から第1加熱シリンダー220内に十分な量の樹脂ペレット(不図示)を供給し、第1スクリュー221の回転により、ペレット(第1熱可塑性樹脂:ポリアミド6樹脂)を可塑化溶融した。なお、可塑化計量時には、第1スクリュー221の回転によりスクリュー前方の内圧が上昇して第1スクリュー221が後退するので、導入シリンダー227の下部に設けられた第1スクリュー221の第1ベント部223では、溶融した第1熱可塑性樹脂(以下では、第1溶融樹脂ともいう)が減圧(7MPa程度)される。
【0098】
次いで、第1溶融樹脂が減圧された状態で、図9に示すように、導入シリンダー227内の導入ピストン228を上昇させて、加圧流体供給部202の溶解槽242と第1加熱シリンダー220の内部とを流通させ、金属錯体が溶解した超臨界二酸化炭素を第1加熱シリンダー220の内部に導入し、第1溶融樹脂に浸透させた(図15中のステップS22)。この浸透工程中は、シリンジポンプ241を流量制御に切り替え、一定流量の超臨界二酸化炭素を一定時間、第1加熱シリンダー220内に注入した。また、第1溶融樹脂に浸透した金属錯体の多くは、第1溶融樹脂の熱等によりメッキ用触媒(金属微粒子)に還元される。
【0099】
また、この例では、可塑化計量中に第1溶融樹脂に浸透した超臨界二酸化炭素をガス化しては排出シリンダー229を介して、第1加熱シリンダー220内部から加圧流体排出部203に排出した。具体的には、次のようにして超臨界二酸化炭素を排出した。
【0100】
まず、可塑化計量時に第1スクリュー221の第2ベント部222で第1溶融樹脂を減圧し、浸透している超臨界二酸化炭素を臨界圧力以下に減圧してガス化した。この際、図9に示すように、排出シリンダー229内に設けられた排気ピストン230を上昇させて、第1加熱シリンダー220の内部と加圧流体排出部203とを流通させ、第1加熱シリンダー220内の第2ベント部222でガス化した二酸化炭素を一部排出シリンダー229を介して加圧流体排出部203に排出した。また、この際、高温の樹脂内で混錬された昇華型の金属錯体は上述のように熱分解して金属微粒子化して、二酸化炭素に不溶解状態となっているので、二酸化炭素と同時に排気されることはない。そして、この例では、高温樹脂内における金属微粒子の滞留時間を延ばし(具体的には、50sec程度)、溶融樹脂内に比重の大きい金属微粒子を分散させた。このような状態にすることにより、後述する射出充填時において、金属微粒子がポリマー成形品(スキン層)の最表面に分散し難く(浮き出難く)なるようにした。
【0101】
次いで、高圧流体排出部203に排出された二酸化炭素をフィルタ254、バッファー容器253を通過させた後、減圧弁252で圧力計251が0MPaを示すように減圧し、真空ポンプ250により排気した。この例では、上述のようにして、第1加熱シリンダー220内で第1熱可塑性樹脂を可塑化軽量しながら、第1溶融樹脂に金属錯体を浸透させるとともに、超臨界二酸化炭素をガス化して第1溶融樹脂から排出した。
【0102】
なお、上述した第1加熱シリンダー220における第1熱可塑性樹脂の可塑化計量の工程の際には、ホッパー226から供給された樹脂ペレットは、導入された超臨界二酸化炭素及び金属錯体と混錬されながら可塑化溶融されるので、第1溶融樹脂内部には超臨界二酸化炭素及び金属錯体が均一に拡散した状態となる。また、第1加熱シリンダー220における可塑化計量の際には、第1加熱シリンダー220内で加圧された第1溶融樹脂がノズル部218の先端から金型210内へ漏れないようにするため、図9に示すように、第2加熱シリンダー224内部とノズル部218内の射出流路とがロータリーバルブ219内の流路を介して流通するように、ロータリーバルブ219の回転を調整して、第1加熱シリンダー220内部とノズル部218内とが流通しないようにした。
【0103】
次いで、第1スクリュー221で金属微粒子(及び金属錯体)が浸透した第1溶融樹脂260の可塑化計量が完了した時点で、図10に示すように、導入シリンダー227内の導入ピストン228及び排出シリンダー229内の排出ピストン230を下降させ、同時にシリンジポンプ241を流量制御から圧力制御に切り替え、加圧二酸化炭素の導入および排気を停止した。
【0104】
次に、図11に示すように、第1加熱シリンダー220内部とノズル部218内の射出流路とが流通するように、すなわち、第1加熱シリンダー220内部と金型210内のキャビティ216とが流通するように、ロータリーバルブ219を回転させた。次いで、第1加熱シリンダー220の第1スクリュー221を前進させて、可塑化計量された第1溶融樹脂260を金型210内のスプール及びキャビティ216に射出した(図15中のステップS23:図11及び12の状態)。なお、図12の状態は、第1溶融樹脂260の射出充填が完了する直前の状態を表しており、図12に示すように、この例では、射出する第1溶融樹脂260の量は、キャビティ216内が全て充填されない程度の量に調整した。
【0105】
一方、第2加熱シリンダー224では、上記第1溶融樹脂の射出中に、図示しないホッパーより樹脂ペレット(第2熱可塑性樹脂:ポリアミド6樹脂)を第2加熱シリンダー224内に供給して、第2スクリュー225の回転により可塑化計量を行った。この際、第2加熱シリンダー224では、金属錯体を導入せずに樹脂ペレットを可塑化溶融した(以下では、第2加熱シリンダー224内で可塑化溶融された樹脂を第2溶融樹脂ともいう)。そして、第1溶融樹脂260の射出充填が完了する直前に、第2溶融樹脂261の可塑化計量を完了させた(図12の状態)。なお、この例では、第1熱可塑性樹脂及び第2熱可塑性樹脂に同じ材料を用いたが、本発明はこれに限定されず、第1熱可塑性樹脂及び第2熱可塑性樹脂に異なる材料で形成してもよい。
【0106】
次に、第1溶融樹脂の射出充填が完了した後、図13に示すように、第2加熱シリンダー224内部とノズル部218内の射出流路とが流通するように、すなわち、第2加熱シリンダー224内部と金型210内のキャビティ216とが流通するように、ロータリーバルブ219を回転させた。次いで、第2スクリュー225を前進させて、第2溶融樹脂261を金型210内のスプール及びキャビティ216に射出した(図15中のステップS24:図13の状態)。この際、先にキャビティ216に充填されていた第1溶融樹脂260は第2溶融樹脂261の充填圧力により、キャビティ216を画成する金型表面に押しやられる。その結果、図14に示すように、第2溶融樹脂261の射出完了後には、成形品の表面層(外皮)には、金属微粒子(及び金属錯体)が分散した第1溶融樹脂260の層が形成され、成形品の内部には金属微粒子を含有しない第2溶融樹脂261からなるコア部が形成される。
【0107】
次いで、射出充填された溶融樹脂を冷却固化した後、金型210を開き成形品(ポリマー基体)を取り出した。この例では、上述したサンドイッチ成形により、金属微粒子が表面内部に分散しポリマー成形品を得た。
【0108】
上述のようにして成形したこの例のポリマー成形品に対して、実施例1と同様にして、大気圧にて70℃の無電解メッキ液(メッキ反応温度60〜85℃のメッキ液)中に10分間浸漬したが、ポリマー成形品の表面にはメッキ膜は形成されなかった。すなわち、本実施例の上記成形方法で成形したポリマー成形品では、その最表面(表面層)における金属微粒子の濃度が低く、ポリマー成形品の最表面が大気圧下でメッキ反応を起こさない状態、すなわち、無電解メッキ液に対して不活性であることが確認された。
【0109】
次に、上述のようにして成形したこの例のポリマー成形品の表面に無電解メッキ法によりメッキ膜を形成した(図15中ステップS25)。具体的には、次のようにしてポリマー成形品表面にメッキ膜を形成した。まず、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の内部容器を備えた高圧容器を用意し、内部容器内に原液15%、アルコール(プロパノール)50%、水35%からなるニッケルリンメッキ液を内部容器内に注入し、次いで、ポリマー成形品を内部容器内に挿入して無電解メッキ液に浸漬した。なお、この際、無電解メッキ液および高圧容器及び内部容器は予め70℃に加温しておいた。次いで、20℃、15MPaの加圧二酸化炭素を高圧容器及び内部容器内に導入して加圧二酸化炭素を無電解メッキ液に相溶させて(加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液をポリマー成形品に接触させて)、その状態を5分間保持した後、減圧した。この例では、上述のようにして、ポリマー成形品の表面全体にニッケルリンの金属膜を形成した。
【0110】
なお、上記方法においても、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液をポリマー成形品に接触させた際には、ポリマー成形品の最表面ではメッキ反応は起こらずに、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液はポリマー成形品の内部に浸透する。そして、ポリマー成形品内部において、メッキ反応を起こすのに十分な濃度で金属微粒子が分散している領域まで、無電解メッキ液が浸透すると、その領域の金属微粒子を触媒核にして、メッキ膜が成長し始める。その後、金属微粒子の自己触媒作用により、メッキ膜がポリマー内部から表面に向かって成長する。すなわち、本実施例においても、ポリマー成形品上に形成されたメッキ膜はポリマー成形品の内部に食い込んだ状態で成長するので、密着性の優れたメッキ膜が形成される。
【0111】
次いで、上述した無電解メッキ処理された(ニッケルリンの金属膜が表面に形成された)ポリマー成形品の表面に、従来の電解メッキ方法により電解銅メッキ膜を20μmの厚さで形成し、さらのその上に光沢電解ニッケルメッキ膜を10μmの厚さで形成した。また、この例で作製した表面に金属膜が形成されたポリマー成形品に対しても、実施例1と同様にして金属膜の密着性の評価試験を行ったところ、実施例1と同様に、金属膜の剥離は見られず、密着性の低下は認められなかった。
【実施例3】
【0112】
実施例3では、実施例2の無電解メッキ処理において、無電解メッキ液(ニッケルリンメッキ液)中のアルコールの体積比率を5、10、30、60、80及び90%に変化させた種々の無電解メッキ液を用意した。それ以外は、実施例2と同様にして無電解メッキ膜をポリマー成形品(ポリマー部材)の表面に形成した。なお、この例では、各無電解メッキ液で複数回続けてメッキ処理を行った。
【0113】
上記処理の結果、アルコールの体積比率が80%である無電解メッキ液では、1回目の処理ではメッキ膜はポリマー成形品前面に形成されたが、2回目の処理ではメッキ膜は殆ど形成されなかった。これは、アルコールの添加量が多いと、ニッケルリンメッキ液から硫酸ニッケルが析出しやすくなり、その結果、メッキ液中の硫酸ニッケルイオンの量が不十分となりメッキ浴が壊れたためであると考えられる。実際のところ、アルコールの体積比率が80%である無電解メッキ液では、1回目及び2回目の処理において、メッキ液中において硫酸ニッケルの析出物が確認された。しかしながら、上述のように、アルコールの体積比率が80%である無電解メッキ液では、メッキ液中において硫酸ニッケルの析出物は存在するものの、少なくとも1回はメッキ処理を行うことができることが分かった。
【0114】
アルコールの体積比率が60%である無電解メッキ液では、2回目以降もメッキ膜を形成することができた。なお、アルコールの体積比率が60%である場合には、メッキ処理時間(ポリマー成形品の全面にメッキ膜が形成される時間)は3分であった。
【0115】
アルコールの体積比率が30%である無電解メッキ液では、メッキ処理時間が10分と長くなった。また、アルコールの体積比率が10%である無電解メッキ液では、メッキ処理時間がさらに長くなり、30分となった。これは、アルコールの量が少なくなると、無電解メッキ液の表面張力が大きくなり、無電解メッキ液のポリマー成形品への浸透時間が長くなったためであると考えられる。なお、アルコールの体積比率が10、30及び60%である場合には、いずれも2回目以降のメッキ処理においてもメッキ膜は形成された。
【0116】
また、アルコールの体積比率が5%の無電解メッキ液では、メッキ処理時間を1hrと長くしても、ポリマー成形品表面の一部にしかメッキ膜が形成されなかった。アルコールの体積比率が90%の無電解メッキ液では、硫酸ニッケルが全て沈殿し、メッキ膜は形成されなかった。
【実施例4】
【0117】
実施例4では、ポリマー成形品(ポリマー部材)の形成材料として、炭酸カルシウム(ミネラル)の微粒子を予め混合したポリフェニレンサルファイドの樹脂材料を用いた。なお、炭酸カルシウムは加圧二酸化炭素とメッキ液との混合溶媒により溶解、抽出される物質(溶出物質)である。ポリマー成形品の形成材料を変えたこと以外は、実施例1と同様にして、射出成形によりポリマー成形品を成形し、その後、成形に用いた金型内でメッキ処理を行いポリマー成形品上にメッキ膜を形成した。
【0118】
なお、本実施例では、無電解メッキ処理後に加圧二酸化炭素により残存メッキ液を金型から排出した後、減圧と同時に100トンの型締め圧力を成形品に印加した。これは、加圧二酸化炭素とメッキ液の混合溶液をポリマー内部からより多く除去するため、膨潤したポリマー成形品を押し固めて物理的強度を向上させるため、及び、ポリマーの変形を矯正するため等の目的で行っている。このメッキ後のプレス工程は、金型内で行ってもよいし、バッチ処理で行ってもよい。また、メッキ反応後の脱圧後に行ってもよい。このような方法を用いることにより、膨潤して変形が著しくなる非晶性熱可塑性樹脂等にも本発明のメッキ膜の形成方法が適用可能となる。
【0119】
本実施例のように、加圧二酸化炭素、メッキ液や水、及び、アルコールの混合溶液に溶解および抽出される物質を樹脂材料にブレンドしておくことにより、ポリマー成形品の内部に溶出物質が分散したポリマー成形品が得られ、そのようなポリマー成形品に混合溶液を接触させた際には、混合溶液が溶出物質を介してポリマー成形品内部に浸透しやすくなる。このような溶出物質としては、ポリエチレングリコールや界面活性剤等の水溶性材料、非晶性熱可塑性樹脂成分、各種エラストマー等を用いることができる。
【0120】
また、本実施例のように、内部に溶出物質が分散したポリマー成形品では、最表面に分散していた溶出物質が無電解メッキ液に溶け出すと、ポリマー成形品表面に凹凸が形成され、ポリマー成形品表面における金属膜の物理的アンカー効果が増大し、金属膜の密着力を向上させることができる。
【0121】
なお、本発明のポリマー成形品では、上記効果を得るために、溶出物質はポリマー成形品の最表面から少なくとも5μm以内、より望ましくは1μm以内の深さ領域に分散していることが望ましい。本実施例ではポリマー成形品の最表面から約0.5μmの深さまでの領域に炭酸カルシウム微粒子を高濃度に分散させた。なお、ポリマー成形品の溶出物質の含浸深さは、溶出物質の粒径や溶出物質への化学修飾の有無等により調整することができる。具体的には、溶出物質を微粒化したり、あるいは、化学修飾して樹脂との相溶性を向上させた場合には、射出成形時に、成形品の表面に溶出物質が分散し易くなる。
【0122】
また、本実施例では、メッキ処理中に溶出物質の溶出を行ったが、溶出物質の溶出プロセスをメッキ処理前にバッチ処理で行ってもよい。その場合も、水、アルコール、加圧二酸化炭素の少なくとも1種類を含む溶液中で、溶出物質の溶解、抽出反応を行うことが望ましい。
【0123】
本実施例のメッキ膜の形成方法では、無電解メッキ液が樹脂内部の炭酸カルシウムを溶解させながら速やかに内部に浸透し、触媒核と反応するので、成形品表面全体にメッキ薄膜のつきまわる反応時間(メッキ処理時間)が大幅に短縮された。具体的には、ポリマー成形品の内部に炭酸カルシウムを分散させない場合には、メッキ処理時間は2分であったが、本実施例の方法では1分であった。また、本実施例の処理方法のように、メッキ処理後にポリマー成形品をプレスすることにより、メッキ膜とポリマーの密着強度が向上した。具体的には、プレス成形を行わない場合にはメッキ膜とポリマーの密着強度が0.9kgf/cmであったが、本実施例の方法でメッキ膜を形成した場合には密着強度が1.3kgf/cmとなった。
【0124】
上記実施例1〜4では、射出成形の成形条件により、ポリマー成形品のメッキ膜形成面の金属微粒子(金属物質)の濃度を調整したが、本発明はこれに限定されない。例えば、後述する実施例5〜9のように、まず、大気圧下で無電解メッキ反応が起こる程度の濃度で金属微粒子が最表面に存在するポリマー成形品を成形し、次いで、硝酸や塩酸、王水等の酸でポリマー成形品を洗浄し、最表面の金属微粒子を除去して、メッキ膜形成面の金属微粒子の濃度を調整しても良い。また、別の方法としては、大気圧下で無電解メッキ反応が起こる程度の濃度で金属微粒子が最表面に存在するポリマー成形品を作製し、次いで、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を通過させるような材料(例えば、ポリマー成形品と同じ材料)からなる膜をポリマー成形品のメッキ膜形成面上に形成しても良い。
【実施例5】
【0125】
実施例5では、バッチ処理によりポリマー部材の表面に無電解メッキ膜を形成する方法を説明する。
【0126】
本実施例では、ポリマー部材として、携帯電話やデジタルカメラ等で用いられるカメラレンズモジュールのマウントを用いた。本実施例のポリマー部材の概略断面図を、図17に示した。図17に示すように、カメラレンズモジュール701は、内穴708を有するマウント702と、レンズ704と、レンズ704を固定するレンズホルダー703とから構成される。なお、図17(a)はマウント702とレンズホルダー703を分解した際の図であり、図17(b)はマウント702とレンズホルダー703を合体させた際の図である。図17(a)に示すように、レンズホルダー703は内穴707が設けられており、その内穴707に、レンズ704が固定されている。また、カメラモジュール701下部には、図示しないC−MOSセンサー等の撮像素子が固定される。
【0127】
レンズホルダー703の外壁には、図17(a)に示すように、ネジ溝705が形成されており、マウント702の内穴708内壁の上端部には、レンズホルダー703のネジ溝705と勘合するネジ溝706が形成されている。レンズホルダー703のネジ溝705と、マウント702のネジ溝706とを勘合させることにより、図17(b)に示すように、マウント702とレンズホルダー703とが合体される。
【0128】
なお、携帯電話やデジタルカメラ等で用いられるカメラレンズモジュール701では、レンズ704により被写体像をCCDやC−MOS等の撮像素子等のセンサーに結像させるが、携帯電話本体からの電気信号ノイズによる該モジュールへの悪影響を抑制する方法として、撮像素子に隣接したマウント702を電磁波シールドすることが望ましい。しかしながら、マウント702全体にメッキ膜を形成した場合、マウント702の内壁表面が金属の光沢膜であると、マウント702内部で光が反射するのでゴーストフレアの要因となる。それゆえ、本実施例のメッキ膜の最終工程では、マウント702の表面に黒色無電解メッキを施した。
【0129】
また、本実施例では、ポリマー部材702(マウント)の形成材料として、ガラス繊維およびミネラル65%入りの強化ポリフタルアミド(ソルベイアドバンストポリマー製アモデルAS−1566HS)を用いた。
【0130】
[メッキ装置]
実施例5で用いたメッキ装置の概略構成図を図16に示した。メッキ装置300は、図16に示すように、主に、二酸化炭素ボンベ321、フィルター326、高圧シリンジポンプ320及び高圧容器301から構成されており、これらの構成要素は配管327により接続されている。また、図16に示すように、各構成要素間を繋ぐ配管327には、加圧二酸化炭素の流動を制御するための手動バルブ322〜324が所定の位置に設けられている。
【0131】
高圧容器301は、図16に示すように、無電解メッキ液308及びポリマー部材702が収容される容器本体302と、蓋303とからなる。蓋部303には、公知のバネが内蔵されたポリイミド製シール304が設けられており、ポリイミド製シール304により、高圧容器301内部に高圧ガスを密閉する。また、蓋303のメッキ液308側の表面(下面)には、複数のポリマー部材702を無電解メッキ液308内に吊るして保持することのできる保持部材305が設けられている。一方、容器本体302内の底部には、無電解メッキ液308を攪拌するためのマグネチックスターラー306が設けられている。また、容器本体302は、温調流路307を有しており、温調機(不図示)により温度制御された温調水をこの温調流路307内に流すことにより、高圧容器301の温度が調整される。なお、この例では、30℃から145℃の任意の温度により温調することができる。また、容器本体302の側壁部には、図16に示すように、加圧二酸化炭素の導入口325を設けた。
【0132】
本実施例では、高圧容器301の形成材料としてSUS316Lを用いた。なお、高圧容器301の形成材料としては、腐食されにくい材質を用いることが望ましく、SUS316、SUS316L、インコネル、ハステロイ、チタン等を用いることができる。また、本実施例では、高圧容器301の内壁面が無電解メッキ液に接触した際に容器内壁にメッキ膜が成長しないようにするため、高圧容器301の内壁面には、CVD(Chemical Vapor Deposition化学気相法)によりDLC(ダイヤモンドライクカーボン)からなる非メッキ成長膜を形成した。なお、非メッキ成長膜としてはPTFE(ポリテトラフロオロエチレン)、PEEK(ポリエチルエーテルケトン)等を用いることもできる。
【0133】
また、本実施例では、無電解メッキ液308としてニッケルーリンを用いた。なお、無電解メッキ液としては、ニッケルーホウ素、パラジウム、銅、銀、コバルト等を用いても良い。また、無電解メッキ液308としては、中性、弱アルカリ性から酸性の浴でメッキできる液が好適であり、ニッケルーリンの場合はpH4〜6の範囲で用いることができるので望ましい。なお、加圧二酸化炭素を導入する前の無電解メッキ液308の条件によっては、加圧二酸化炭素を無電解メッキ液に浸透させる(導入する)ことで、無電解メッキ液308のpHが低下し、リン濃度が上昇して、メッキ膜の析出速度が低下する等の弊害が生じる恐れもあるので、予め無電解メッキ液308のpHを上昇させておいてもよい。
【0134】
本実施例では、無電解メッキ液308の原液として、硫酸ニッケルの金属塩と還元剤や錯化剤が含まれる奥野製薬社製ニコロンDKを用いた。また、無電解メッキ液308にアルコールを混合させた。本実施例で用い得るアルコールの種類は任意であり、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘプタノール、エチレングリコール等を用いることができるが、本実施例ではエタノールを用いた。より具体的には、無電解メッキ液1l中の各成分の割合は、硫酸ニッケルの金属塩と還元剤や錯化剤の含まれる原液(奥野製薬社製ニコロンDK)を150ml、水を350ml、及び、アルコール(エタノール)を500mlとした。すなわち、無電解メッキ液308中のアルコールの割合(体積比率)は50%とした。なお、硫酸ニッケルはアルコールに不溶なので、アルコールの添加量が80%を超えると硫酸ニッケルが多く沈殿するので適用できないことがわかった。
【0135】
本発明者らの検討によれば、無電解メッキ液308は水が主成分であるが、アルコールを混合することで、高圧状態の二酸化炭素と無電解メッキ液が安定に混ざり易くなることが分かった。これは、アルコールと超臨界二酸化炭素とが相溶し易いことによるものと考えられる。それゆえ、本実施例のように無電解メッキ液にアルコールを混合した場合には、無電解メッキ液に界面活性剤を添加したり、無電解メッキ液を攪拌する必要がなくなる。さらに、ポリマー部材内に加圧二酸化炭素とともにメッキ液を浸透させてポリマー部材内部でメッキ反応を成長させるためには、メッキ液にアルコールを添加させたほうが、水のみよりも表面張力が低下するため、より好適である。ただし、本発明では、加圧二酸化炭素と無電解メッキ液との相溶性(親和性)をより高めるために、界面活性剤を添加したり、無電解メッキ液を攪拌したりしても良い。この例では、後述するように、界面活性剤を無電解メッキ液に添加し、無電解メッキ液の攪拌も行った。
【0136】
本実施例では、さらに、界面活性剤としてオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルを無電解メッキ液308に対し、3wt%添加した。
【0137】
なお、本実施例で用いたメッキ装置300のシリンジポンプ320では、手動バルブ322、323を開いた状態で圧力一定制御することにより、高圧容器301内部の温度および加圧二酸化炭素の密度が変化した際にも、圧力変動を吸収することができ、それにより、高圧容器301内部の圧力を安定に保持することができる構造になっている。
【0138】
[メッキ膜の形成方法]
まず、次のようにして、金属微粒子が表面内部に浸透したポリマー部材702(マウント)を作製(用意)した。射出成形により、図17に示した所定形状のポリマー部材702を成形した。次いで、成形後のポリマー部材702と金属錯体とを表面改質装置(不図示)の高圧容器(不図示)内に装着した。なお、この際、ポリマー部材702の全表面が、後に高圧容器に導入される超臨界状態の二酸化炭素(以下、超臨界二酸化炭素という)と接するようにポリマー部材702を高圧容器内で保持した。また、この例では、金属錯体としてヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。
【0139】
次いで、高圧容器内に15MPaの超臨界二酸化炭素を導入した。この際、高圧容器内に仕込まれた金属錯体は超臨界二酸化炭素に溶解し、超臨界二酸化炭素とともにポリマー部材702全体の表面内部に浸透する。次いで、高圧容器を120℃で30分間圧力を保持することにより、ポリマー部材702の表面全体に浸透した金属錯体の一部が還元される。この例では、このようにして金属微粒子が表面内部に浸透したポリマー部材702を作製した(図21中のステップS51)。この様子を示したのが、図18であり、図18中の黒丸印709がポリマー部材702の表面内部に浸透している金属微粒子である。なお、上述のようにして作製した金属微粒子が表面内部に浸透したポリマー部材702では、大気圧下でメッキ反応が起こる程度の濃度で金属微粒子がポリマー部材702の最表面に分散していた。
【0140】
次に、上述のようにして作製されたポリマー部材702を、図16に示した高圧容器301の蓋305の保持部材305に装着した後、ポリマー部材702を容器本体302内に挿入して蓋303を閉め、高圧容器301を密閉した。なお、容器本体302には予め無電解メッキ液308を容器本体302の内容積の70%満たしており、蓋303で容器本体302を密閉することにより、界面活性剤およびアルコールを含む無電解メッキ液308中に複数個のポリマー部材702が吊るされた状態となる(図16の状態、図21中のステップS52)。ただし、この時点では、高圧容器301および無電解メッキ液308の温度を、高圧容器301の温調流路307を流れる温調水により、メッキの反応温度(70℃〜85℃)以下である50℃に調整した。それゆえ、この時点では、ポリマー部材702はメッキの反応温度以下の低温(メッキ反応の起こらない温度)の無電解メッキ液と接触しており、ポリマー部材702の表面にメッキ膜は成長しない。
【0141】
次に、加圧二酸化炭素を、次のようにして、メッキ反応が起こらない低温度に温調されている高圧容器301内に導入した。なお、この例では、加圧二酸化炭素として超臨界二酸化炭素を用いた。まず、液体二酸化炭素ボンベ321より取り出した液体二酸化炭素を、フィルター326を介して高圧シリンジポンプ320で吸い上げ、次いで、ポンプ内で15MPaに昇圧にした(超臨界二酸化炭素を生成した)。次いで、手動バルブ322,323を開いて15MPaの超臨界二酸化炭素を導入口325を介して高圧容器301内部に導入し、ポリマー部材702と接触させた(図21中のステップS53)。この際、導入された超臨界二酸化炭素により、ポリマー部材702の表面は膨潤し、また、超臨界二酸化炭素の混合したメッキ液は表面張力が低くなっているので、無電解メッキ液308が超臨界二酸化炭素とともにポリマー部材内部に浸透する。その結果、ポリマー部材702の内部に存在する金属微粒子まで無電解メッキ液308が到達することになる。なお、この例では無電解メッキ液308にアルコールを含ませているので、無電解メッキ液308の表面張力が一層低下するため、無電解メッキ液308がポリマー部材702の内部により浸透し易くなる。
【0142】
なお、この例では、超臨界二酸化炭素導入後に、マグレチックスタラー306を高速で回転させて無電解メッキ液308を攪拌した。上述のように、この例では、無電解メッキ液にアルコールが含まれているので、マグレチックスタラー306を用いて無電解メッキ液308を拡散しなくとも、超臨界二酸化炭素とメッキ液との相溶性を十分に確保できるが、この例では、超臨界二酸化炭素とメッキ液との相溶性をより高くするために、マグレチックスタラー306で無電解メッキ液308を攪拌した。
【0143】
次に、高圧容器301の温度を85℃に昇温し、高圧容器301内でメッキ反応を起こして(無電解メッキを施して)ポリマー部材702の表面にメッキ膜を形成した(図21中のステップS54)。この際、この例のメッキ膜の形成方法では、上述のようにポリマー部材702の内部に存在する金属微粒子のところまで無電解メッキ液が浸透しているので、ポリマー部材702の表面だけでなく、その内部に存在する金属微粒子を触媒核としてメッキ膜が成長する。すなわち、この例のメッキ膜の形成方法では、ポリマー部材702内部の自由体積内にもメッキ膜が成長することとなり、メッキ膜はポリマー部材702の内部に食い込んだ状態でポリマー部材702上に形成される。
【0144】
メッキ終了後、マグネチックスターラー306を停止させ、しばらく静置して、高圧容器301内で二酸化炭素とメッキ液とを2相分離させた。その後、手動バルブ322を閉じて、手動バルブ324を開き、高圧容器301内の二酸化炭素を排気した。次いで、高圧容器301を開けて、ポリマー部材702を高圧容器301から取り出した。取り出されたポリマー部材702を目視で確認したところ、ポリマー部材702の表面全体に金属光沢がみられた。
【0145】
次に、高圧容器301から取り出したポリマー部材702の内部から二酸化炭素および無電解メッキ液を脱気させるために、ポリマー部材702を150℃で1時間アニールした。次いで、酸化されたメッキ膜表面を塩酸で活性化した。その後、大気中で従来の無電解ニッケル−リン液を用いて、常圧で無電解メッキを施し、膜厚500nmのメッキ膜を積層し、さらに、その上に無電解銅メッキを1μmの厚さで積層し、電磁波シールド膜を施した。次いで、黒色の無電解メッキを行ない、無電解銅メッキ膜の上に黒色の無電解ニッケル−リンメッキ膜を積層した。黒色化は、専用の無電解ニッケルーリンメッキ液を用いてメッキを施した後、エッチングにより表面を粗化して行った。これは、ポリマー部材702(マウント)の内壁を黒色化して、光の反射によるゴーストフレアを抑制するためである。この例では、上述のようにして、図19に示すようなポリマー部材702の全表面を金属膜(図19中の符号番号710)で覆ったポリマー部材を得た。
【0146】
[メッキ膜の評価]
上述のようにして作製されたポリマー部材702に対して、高温多湿試験(条件:温度80℃、湿度90%Rh、放置時間500時間)やヒートサイクル試験(80℃と150℃との温度間を15サイクル)を行った後、ピール試験したところ、膜剥れは発生しなかった。また、本実施例の上記プロセスを繰り返し行ったところ、高圧容器301内部にはメッキ膜の成長や容器内壁の腐食は認められなかった。
【0147】
また、この例で作製したポリマー部材702の表面近傍の断面をSEM(走査電子顕微鏡)で観察した。その結果を図20に示した。図20中の領域702aは、メッキ膜が形成されていないポリマー部材702の領域であり、領域702bはポリマー部材702の内部に金属膜が成長している層である。また、図20中の領域702cは、大気中で従来の無電解ニッケル−リン液を用いて、常圧で無電解メッキを施した際に形成された金属膜の領域であり、図20中の領域702dは、無電解銅メッキ膜の領域である。それゆえ、領域702bと領域702cの境界付近が、ポリマー部材702の最表面となる。図20の観察像から明らかなように、ポリマー部材702の内部に金属膜が成長している層が形成されたことが確認された(図20中の領域702b)。
【0148】
この例では、さらに、ポリマー部材702の内部に存在する金属をXRD(X線回折装置)により成分分析したところ、Ni、PとPdが検出された。この結果から、ポリマー部材702の内部に浸透した金属錯体由来のPdが触媒として働き、ポリマー内部でNi−Pメッキ膜が成長していることが確認された。
【実施例6】
【0149】
実施例6では、実施例5と同様に、バッチ処理によりポリマー部材の表面に無電解メッキ膜を形成する方法を説明する。なお、この例では、メッキ装置内の高圧容器に実施例5と異なる構造の高圧容器を用いた。なお、この例で用いた無電解メッキ液は実施例5と同じとした。また、この例では、実施例5と同様に、カメラレンズモジュールのマウント(図17に示す構造のマウント702)の表面に金属膜を形成した。また、無電解メッキ液に導入する加圧二酸化炭素としては、超臨界二酸化炭素を用いた。
【0150】
[メッキ装置]
実施例6で用いたメッキ装置の概略構成図を図22に示した。メッキ装置400は、図22に示すように、主に、二酸化炭素ボンベ421、フィルター426、高圧シリンジポンプ420、及び、高圧容器401から構成されており、これらの構成要素は配管427により接続されている。また、図22に示すように、各構成要素間を繋ぐ配管427には、超臨界二酸化炭素の流動を制御するための手動バルブ422〜424が所定の位置に設けられている。
【0151】
高圧容器401は、図22に示すように、容器本体402と、蓋403と、容器本体402の内部に収容される内部容器409とからなる。蓋403は、実施例5のようにポリマー部材702を保持する保持部材を備えないこと以外は、実施例5と同様の構造である。この例の容器本体402では、その内壁表面に、非メッキ成長膜を設けなかったこと以外は、実施例5と同様の構造とした。そして、この例のメッキ装置400では、金属製の容器本体402の内部に収容可能なPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の内部容器409を用い、この内部容器409内でポリマー部材702に無電解メッキを施した。
【0152】
内部容器409は、図22に示すように、無電解メッキ液408及びポリマー部材702が収容される容器本体部409aと、蓋部409bとからなる。蓋部409bの無電解メッキ液408側の表面(下面)には、複数のポリマー部材702を無電解メッキ液408内に吊るして保持することのできる保持部材405が設けられている。この保持部材405は、実施例5の保持部材と同様の構造を有する。一方、容器本体部409a内の底部には、無電解メッキ液408を攪拌するためのマグネチックスターラー406が設けられている。また、容器本体部409aの上端付近の外壁にはネジ溝が形成されており、蓋部409b内壁には容器本体部409aの上端の外壁に設けられたネジ溝と勘合するネジ溝が形成されている。そして、容器本体部409aのネジ溝と蓋部409bのネジ溝とを勘合させることにより、内部容器409を閉める構造になっている。
【0153】
[メッキ膜の形成方法]
まず、この例では、実施例5と同様にして、金属微粒子が表面内部に浸透したポリマー部材702(図18に示した形状のマウント702)を作製(用意)した。なお、この例では、金属錯体としてヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。
【0154】
次いで、成形後のポリマー部材702を、図22に示した内部容器409の蓋部409bの保持部材405に装着した後、ポリマー部材702を容器本体部409a内に挿入して蓋部409bを閉めた。なお、この際、図22に示したように、界面活性剤およびアルコールを含む無電解メッキ液408中に複数個のポリマー部材702が吊るされた状態となる。そして、常温でこの状態を保持した。それゆえ、この時点では、無電解メッキ液408の温度はメッキ反応温度(70℃〜85℃)以下であるのでポリマー部材702の表面にメッキ膜は成長しない。
【0155】
次いで、予め90℃に温調しておいた高圧容器401内に、内部容器409を挿入して、蓋403を閉め、直ちに、超臨界二酸化炭素を実施例5と同様にして導入口425を介して高圧容器401内に導入した。その後、マグネチックスターラー406で無電解メッキ液408を攪拌した。この際、内部容器409の容器本体部409aと蓋部409bは、上述のように、ネジで勘合されているが、その状態においても、超臨界二酸化炭素は、粘度が低く拡散性が高いので、内部容器409のネジで勘合されている部分のわずかの隙間から内部容器409の内部に充分に導入される。また、この時点では、内部容器409には熱伝導性の低い樹脂を使用しているので、内部容器409内の温度は急激には上昇しないので、メッキ反応が起こる温度以下の低温度になっており、ポリマー部材702の表面にメッキ膜は成長しない。それゆえ、内部容器409を高圧容器401内に挿入して、直ちに超臨界二酸化炭素を導入すると、実施例5と同様に、ポリマー部材702の表面は膨潤し、また、超臨界二酸化炭素の混合したメッキ液は表面張力が低くなっているので、無電解メッキ液が超臨界二酸化炭素とともにポリマー部材702の内部に浸透し、ポリマー部材702の内部に存在する金属微粒子まで無電解メッキ液が到達する。
【0156】
その後、時間の経過とともに、内部容器409内の温度が上昇し、最終的には無電解メッキ液408等の温度がメッキ反応温度まで上昇する。その時点で内部容器409でメッキ反応が起こり、ポリマー部材702の表面にメッキ膜が成長する。この際、この例のメッキ膜の形成方法では、上述のようにポリマー部材702の内部に存在する金属微粒子のところまで無電解メッキ液が浸透しているので、ポリマー部材702の表面だけでなく、その内部に存在する金属微粒子を触媒核としてメッキ膜が成長する。すなわち、この例のメッキ膜の形成方法では、メッキ膜はポリマー部材702の内部に食い込んだ状態でポリマー部材上に形成される。
【0157】
次に、上述したメッキ処理後(内部容器409の挿入後、約30分経過後)、超臨界二酸化炭素を高圧容器401から排気し、そのまま90℃に内部容器409を温調保持した。このプロセスにより、ポリマー部材702の内部から成長したメッキ膜の上に、さらに常圧でメッキ膜を成長させた。その後、内部容器409を高圧容器401から取り出し、次いで、内部容器409からポリマー部材702を取り出した。次いで、内部容器409から取り出したポリマー部材702に対して、実施例5と同様にして、無電解銅メッキおよび黒色無電解ニッケルーリンメッキを施した。この例では、上述のようにして、図19に示すような全表面が金属膜(図19中の符号番号710)で覆われたポリマー部材702を得た。
【0158】
[メッキ膜の評価]
上述のようにして作製されたポリマー部材702に対して、実施例5と同様にして環境試験(高温多湿試験、ヒートサイクル試験)及び密着性評価(ピール試験)を行ったところ、実施例5と同様に、密着性の高いメッキ膜がポリマー部材702上に形成されていることが分かった。
【0159】
また、本実施例の高圧容器401の内部にはメッキ膜は確認されなかった。それゆえ、本実施例のように、樹脂製の内部容器を用いた場合には、高圧容器401内部をコーティングしなくても高圧容器401内壁にメッキが成長することはないので、安定したメッキを行うことができる。また、高圧容器401の表面の腐食を抑制することができるので、超臨界二酸化炭素を用いたメッキ膜の形成方法として好適なメッキ装置である。
【実施例7】
【0160】
実施例7では、無電解メッキ液に界面活性剤を添加しなかったこと、及び、マグネチックスターラーによる無電解メッキ液の攪拌を行わなかったこと以外は、実施例6と同様のメッキ装置を用いて、同様の方法によりポリマー部材に無電解メッキ処理を行った。
【0161】
また、この例で作製されたポリマー部材に対しても、実施例6と同様にして環境試験(高温多湿試験、ヒートサイクル試験)及び密着性評価(ピール試験)を行ったところ、実施例6と同様に、密着性の高いメッキ膜がポリマー部材上に形成されていることが分かった。すなわち、本発明のメッキ膜の形成方法によれば、界面活性剤やマグネチックスタラーを用いて超臨界二酸化炭素と無電解メッキ液との親和性(相溶性)の向上は図らなくても、無電解メッキ液にアルコールのみを添加することにより良好な密着性を有するメッキ膜をポリマー上に形成できることが分かった。
【実施例8】
【0162】
実施例8では、メッキ装置の高圧容器の内壁に非メッキ成長膜をコーティングしなかったこと以外は、実施例5と同様のメッキ装置を用いて、実施例5と同様の方法によりポリマー部材に無電解メッキ処理を行った。
【0163】
また、この例で作製されたポリマー部材に対しても、実施例5と同様にして環境試験(高温多湿試験、ヒートサイクル試験)及び密着性評価(ピール試験)を行ったところ、実施例5と同様に、密着性の良好なメッキ膜がポリマー部材上に形成されていることが分かった。ただし、この例では、メッキ装置の高圧容器の内壁に非メッキ成長膜を形成しなかったので、高圧容器内壁にはメッキ膜の成長および腐食が確認された。
【0164】
[比較例1]
比較例1では、無電解メッキ液にアルコールを混合しなかったこと、無電解メッキ液に超臨界二酸化炭素の圧力を20MPaと高くしたこと、及び、メッキ装置の内部容器で攪拌を行わなかったこと以外は、実施例6と同様のメッキ装置を用いて、実施例6と同様にしてポリマー部材の無電解メッキ処理を行った。
【0165】
また、この例で作製されたポリマー部材に対しても、実施例5と同様にして環境試験(高温多湿試験、ヒートサイクル試験)及び密着性評価(ピール試験)を行ったところ、作製した殆どのポリマー部材で無電解メッキ膜に剥離が生じた。
【0166】
上記実施例5〜8及び比較例1における高圧容器の形態、無電解メッキ液の条件、及び、評価結果をまとめた表を表1に示す。なお、表1中のメッキ膜の密着性及び高圧内壁の腐食性の評価基準は、次の通りである。
メッキ膜の密着性:
◎ 環境試験(高温多湿、ヒートサイクル試験)後のピール試験で問題がない場合(メッキ膜の剥離、膜膨れ等がない場合)
○ 環境試験前のピール試験で問題がない場合
× 環境試験前のピール試験で剥離した場合
容器内壁の腐食性及びメッキ膜の成長:
○ 容器内壁に錆やメッキ膜の成長がない場合
× 容器内壁に錆やメッキ膜の成長が発生した場合
【0167】
【表1】
【実施例9】
【0168】
実施例9では、実施例1と同様の射出成形機を用いてポリマー成形品を射出成形した後に、同じ射出成形機内で無電解メッキ処理を行う方法について説明する。ただし、本実施例では、実施例1と異なる方法で成形処理及び無電解メッキ処理を行った。なお、本実施例では、実施例1と同様に、ポリマー成形品として自動車ヘッドライトのリフレクターを作製した。
【0169】
[ポリマー成形品の成形方法]
本実施例における表面内部に金属微粒子を浸透させたポリマー成形品の成形方法を図1〜3を参照しながら説明する。なお、本実施例では、実施例1と同様に、可塑化シリンダー52内で可塑化計量した溶融樹脂の先端部(フローフロント部)に金属微粒子を溶解した加圧二酸化炭素を導入した。
【0170】
まず、溶解槽35において金属錯体をエタノールに溶解させ、金属錯体が溶解したエタノールをシリンジポンプ34内で15MPaに昇圧した。一方、液体二酸化炭素ボンベ21よりフィルター57を介してシリンジポンプ20に供給し、シリンジポンプ20内で液体二酸化炭素を15MPaと昇圧した。そして、昇圧された二酸化炭素と金属錯体が溶解したエタノールと配管80内で混合した(加圧混合流体を生成した)。なお、この加圧混合流体を可塑化溶融装置110に供給する際、加圧混合流体の供給圧力は、圧力計49の表示が15MPaになるように、背圧弁48により制御した。また、両シリンンジポンプ20,34からのエタノール溶液と加圧二酸化炭素との加圧混合流体の送液は、各シリンジポンプ20,34の制御を圧力制御から流量制御に切り替えて行った。さらに、加圧混合流体を可塑化溶融装置110に供給する際には、加圧混合流体を、配管80内で図示しないヒーターにより50℃に温度制御しつつ、可塑化溶融装置110に供給した。
【0171】
次に、加圧混合流体を可塑化溶融装置110内に導入する手順を図1及び2を参照しながら説明する。まず、ホッパー50から樹脂ペレットを供給しながら、可塑化シリンダー52内のスクリュー51を回転させて、樹脂の可塑化計量を行った。可塑化計量完了時における導入バルブ65付近の状態を示したのが図2(a)である。なお、この際、図2(a)に示すように、導入バルブ65の導入ピン70が後退(図2(a)中の左側に移動)することで、溶融樹脂66へ加圧混合流体67が導入されること遮断している。
【0172】
次いで、スクリュー51をサックバック(後退)して、溶融樹脂66の内圧力を低下させると同時に、両シリンジポンプ20,34を圧力制御から流量制御に切り替え、該金属錯体の溶解したエタノールと二酸化炭素の流量をそれぞれ上述の方法にて1:10としながら、加圧混合流体67を導入バルブ65を介して可塑化シリンダー52内のフローフロント部の溶融樹脂66に導入した(図2(b)の状態)。図2(b)中の領域68が加圧混合流体67が浸透した溶融樹脂の部分である。なお、加圧混合流体67の導入は、樹脂圧および加圧混合流体67の圧力を、それぞれ圧力センサー40,47で監視しながら行った。
【0173】
次いで、両シリンジポンプ20,34を停止して加圧混合流体67の送液を停止した。また、それと同時に、スクリュー51を前進させて、樹脂圧力を再度上昇させ、導入ピン70を後退(図2(b)中の左方向に移動)させた。それにより、加圧混合流体67の導入を停止するとともに、加圧混合流体67と溶融樹脂66とを相溶させた。
【0174】
次いで、両シリンジポンプ20,34を、配管80中の図示しない自動バルブを閉鎖した後、可塑化溶融装置110に供給した加圧二酸化炭素及び金属錯体が溶解したエタノール溶液の流量分をシリンジポンプ20,34内に補液した。その後、圧力制御に切り替え、15MPaの高圧に保持し、次ショットの送液まで待機させた。
【0175】
次に、可塑化シリンダー52内のフローフロント部の溶融樹脂66に加圧混合流体67を導入した後、型締め装置111の油圧型締め機構(不図示)により型締めされ、温調回路(不図示)により温度制御された金型内に画成されたキャビティ104に溶融樹脂を射出充填した。なお、この際、射出充填するまでの射出速度を200m/sとした。
【0176】
次いで、成形品を冷却固化した(図3の状態)。なお、溶融樹脂を金型内に射出成形する際、最初に射出されるフローフロント部の溶融樹脂68は噴水効果(ファウンテンフロー)により、射出成形品の表皮を形成する。すなわち、この例では、フローフロント部近傍に金属錯体由来の金属微粒子が分散しているので、図3に示すように、ポリマー成形品507の表皮505(表面内部)には金属微粒子が含浸したポリマー成形品507が得られる(図23中のステップS91)。この例では、このようにして、表皮であるスキン層505に金属微粒子が分散し、内皮であるコア層506に、ほとんど金属微粒子が存在しないポリマー成形品507’を得た。
【0177】
なお、本実施例の成形処理では、上述したように、実施例1のように、可塑化シリンダー52内のフローフロント部の樹脂に金属錯体を樹脂に十分に浸透させた後に減圧処理を行わず、且つ、実施例1より高速でフローフロント部の樹脂を射出した。この動作により、後述する射出充填でスキン層を形成した際に、金属微粒子や二酸化炭素ガスがスキン層の表面(成形品の最表面)に浮き出易くなり、大気圧下でメッキ反応が起こる程度の濃度で金属微粒子がスキン層の表面(成形品の最表面)に分散する(図24参照)。
【0178】
[メッキ膜の形成方法]
上述のようにして作製された表面内部に金属微粒子が分散したポリマー成形品507に対して、次のようにして、金型内で無電解メッキ処理を行った。なお、無電解メッキ処理を行っている間、金型内部は80℃に温調した。
【0179】
まず、図4に示すように、型締め装置111の油圧型締め機構(不図示)を後退(図4中の下方向)させることにより、可動プラテン56および可動金型54を後退させ、固定金型53とポリマー成形品507との間に隙間508(キャビティ508)を設けた。
【0180】
次いで、無電解メッキ装置部101の二酸化炭素ボンベ21より供給した二酸化炭素をポンプ19で昇圧し、バッファータンク36に貯蔵した。次いで、自動バルブ43を開放して、バッファータンク36に貯蔵されていた加圧二酸化炭素をメッキ液導入路61を介してキャビティ508に導入してポリマー成形品507の表面に加圧二酸化炭素を接触させた(図23中のステップS92)。なお、この際、固定金型53の外径部に設けられたバネ内蔵シール17と可動金型54の勘合により、キャビティ508はシールされているので、導入された加圧二酸化炭素が金型外部に漏れ出すことはない。また、この際、キャビティ508における加圧二酸化炭素の圧力は15MPaとした。このように、ポリマー成形品507の表面に加圧二酸化炭素を接触させることにより、ポリマー成形品507の表面が膨潤するので、次いで導入される加圧二酸化炭素と無電解メッキ液との混合流体のポリマー成形品507の内部への浸透がよりスムーズに行われるという効果が得られる。
【0181】
次いで、次のようにして、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液をキャビティ508に導入して、ポリマー成形品507に接触させた。まず、予め、無電解メッキ装置部101のメッキタンク11から供給されたアルコールおよび界面活性剤混合の無電解メッキ液と、バッファータンク36から供給された15MPaの加圧二酸化炭素とを、高圧容器10内にて混合させた。なお、この例の無電解メッキ液は、それに含まれる各成分の割合が、実施例5と同様となるように調合した。また、この際、スタラー16の駆動および、マグネチックスタラー6の高速回転により加圧二酸化炭素と無電解メッキ液とを高圧容器10内で相溶させた。次いで、自動バルブ43を閉鎖し、自動バルブ44,45を開放した。
【0182】
次いで、循環ポンプ90を運転し、高圧容器10、配管15およびキャビティ508からなる循環流路に、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を循環させて、ポリマー成形品507の表面に無電解メッキ液を接触させ、メッキ膜(ニッケルリン膜)を形成した(図23中のステップS93)。この際、ポリマー成形品507の表面は膨潤しているので、ポリマー成形品507の表面から無電解メッキ液がポリマー成形品507の内部に浸透するとともに、ポリマー成形品507内部に分散する金属微粒子を触媒核にして、メッキ膜が成長する。すなわち、ポリマー成形品507上に形成されたメッキ膜はポリマー成形品507の内部に食い込んだ状態で成長するので、密着性の優れたメッキ膜が形成される。なお、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液が循環している際には、キャビティ508および循環ライン15の圧力は圧力センサー58,59で同圧になっていた。また、無電解メッキ液の補給は、メッキタンク11より供給したメッキ液をシリンジポンプ33で昇圧して、自動バルブ46の開放と同時に送液することで随時行った。
【0183】
次いで、上述のようにしてポリマー成形品507上にメッキ膜を形成した後、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液の循環経路から加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を回収容器63を介して回収槽12から排気した。具体的には、自動バルブ44,45を閉鎖し、次いで、自動バルブ38を開放することで、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を回収容器63に排出した。回収容器63では、回収した加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液が、遠心分離の原理で水溶液(メッキ液)と高圧ガス(二酸化炭素)に分離される。メッキ液は回収槽12で回収し再利用することができる。ガス化した二酸化炭素は回収容器63の上部から排出され、図示しない排気ダクトに回収される。
【0184】
次いで、自動バルブ43を一定時間開いて、固定金型53とポリマー成形品507との間の隙間508(キャビティ508)に加圧二酸化炭素を導入し、キャビティ508に残ったメッキ液の残留物を加圧二酸化炭素とともに金型の外へ排出した。次いで、キャビティ508の内圧が圧力センサー59のモニター値でゼロになったところで、金型を開きポリマー成形品507を取り出した。
【0185】
次に、取り出したポリマー成形品507に対して、通常の置換型金メッキを施して、ポリマー成形品507の表面に金メッキ膜を積層した。この例では、上述のようにして、表面にメッキ膜が形成されたポリマー成形品507を得た。
【0186】
この例で作製されたポリマー成形品507の一部の模式断面図を図24に示した。この例で作製されたポリマー成形品507のスキン層505内部には金属微粒子600(図24中の黒丸印)が分散していることが確認された。また、ポリマー成形品507の片側には、金型内で成長させたニッケルーリンの金属膜509が形成されており、ニッケルーリンの金属膜509はポリマー成形品507の内部から成長していた(金属膜509の浸透層が形成されていた)。また、ニッケルーリンの金属膜509の上に金の高反射膜510が形成されていた。
【0187】
また、この例で作製されたポリマー成形品507に対しても、金属膜の密着性評価を、実施例5と同様な高温多湿環境試験にて行った。また、温度150℃、報知時間500時間の条件で高温試験も行った。その結果、実施例5と同様の結果が得られ、金属膜の密着性の低下は認められなかった。さらに、この例で作製されたポリマー成形品507の表面粗さRaを測定したところ、金型の表面粗さと同等のRa=100nmであった。すなわち、この例のメッキ膜の形成方法によれば、射出成形と同時にメッキ処理を行うことができ、プロセスが簡略化することができるだけでなく、密着性が高く且つ平滑な金属膜を耐熱性の高い樹脂材料に形成できることが分かった。
【0188】
なお、上記実施例9の無電解メッキ処理では、まず、加圧二酸化炭素のみをポリマー成形品に接触させてポリマー成形品の表面を膨潤した後に、無電解メッキ液をポリマー成形品に接触させたが、本発明はこれに限定されない。例えば、ポリマー成形品に加圧二酸化炭素を含み且つメッキ反応の起こらないメッキ液濃度を有する第1の無電解メッキ液をポリマー成形品に接触させ、次いで、加圧二酸化炭素を含み且つメッキ反応の起こるメッキ液濃度を有する第2の無電解メッキ液をポリマー成形品に接触させてメッキ膜を形成してもよい。なお、ここでいう、メッキ液濃度とは、メッキ液中の、メッキ反応を決定する因子である次亜燐酸ナトリウム等の還元剤の濃度のことである。すなわち、上記方法をより具体的に説明すると、メッキ反応が起きない程度に十分に還元剤量が少ない無電解メッキ液(第1の無電解メッキ液)と加圧二酸化炭素をポリマー成形品に接触させることでポリマー内にメッキ液を浸透させ、次いで、第1の無電解メッキ液を、十分にメッキ反応が起きる程度に還元剤が含まれた無電解メッキ液(第2の無電解メッキ液)に置換してもよい。または、還元剤を主成分とする水やアルコ−ルの含まれる溶媒と加圧二酸化炭素を、還元剤の少ない第1の無電解メッキ液に添加することで、第2の無電解メッキ液を形成してもよい。
【0189】
上記実施例1〜9では、ポリマー部材(ポリマー成形品)の形成材料として結晶材料を用いた例を説明したが、本発明はこれに限定されず、ポリマー部材(ポリマー成形品)の形成材料として非結晶材料を用いた場合でも同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0190】
本発明のメッキ膜の形成方法では、ポリマーの表面を粗化することなく、ポリマーの内部から成長したメッキ膜を形成することができるので、様々な種類のポリマーに対して密着性の優れたメッキ膜を形成する方法として最適である。
【0191】
また、本発明のメッキ膜の形成方法において、射出成形機内で無電解メッキ処理を行った場合には、密着性が高く平滑な金属膜を耐熱性の高い樹脂材料に形成できるので、LED等高い耐熱性の要求される自動車用ヘッドライトのリフレクター等の作製方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1】図1は、実施例1で用いた製造装置の概略構成図である。
【図2】図2は、可塑化シリンダー内の溶融樹脂に金属錯体を溶解した加圧二酸化炭素を導入する際の様子を示した図であり、図2(a)は溶融樹脂の可塑化軽量完了時の様子を示した図であり、図2(b)は加圧二酸化炭素導入時の様子を示した図である。
【図3】図3は、実施例1のポリマー成形品の製造方法において、ポリマー成形品の射出成形完了時の様子を示した図である。
【図4】図4は、実施例1のポリマー成形品の製造方法において、ポリマー成形品に対して無電解メッキ処理を施している際の様子を示した図である。
【図5】図5は、実施例1のメッキ膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図6】図6は、実施例1の成形後のポリマー成形品の断面構造を模式的に表した図である。
【図7】図7は、実施例1で作製したポリマー成形品の断面構造を模式的に表した図である。
【図8】図8は、実施例2で用いた成形装置の概略構成図である。
【図9】図9は、実施例2におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するための図である。
【図10】図10は、実施例2におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するための図である。
【図11】図11は、実施例2におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するための図である。
【図12】図12は、実施例2におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するための図である。
【図13】図13は、実施例2におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するための図である。
【図14】図14は、実施例2におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するための図である。
【図15】図15は、実施例2におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図16】図16は、実施例5で用いたメッキ装置の概略構成図である。
【図17】図17は、実施例5で作製したポリマー部材の概略断面図であり、図17(a)はマウントとレンズホルダーを分解した際の図であり、図17(b)はマウントとレンズホルダーを合体させた際の図である。
【図18】図18は、実施例5のメッキ膜の形成方法において、ポリマー部材の表面改質後のポリマー部材の概略断面図である。
【図19】図19は、実施例5のメッキ膜の形成方法において、ポリマー部材の表面にメッキ膜を形成した後のポリマー部材の概略断面図である。
【図20】図20は、実施例5で作製したポリマー部材の表面近傍のSEM画像である。
【図21】図21は、実施例5のメッキ膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図22】図22は、実施例6で用いたメッキ装置の概略構成図である。
【図23】図23は、実施例9のメッキ膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図24】図24は、実施例9で作製したポリマー成形品の断面構造を模式的に表した図である。
【符号の説明】
【0193】
500 製造装置
501 無電解メッキ装置部
502 表面改質装置部
503 射出成形装置部
504 キャビティ
505 スキン層(表皮)
506 コア層
507 ポリマー成形品
509 無電解ニッケル−リン膜
550 金属微粒子
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー部材にメッキ膜を形成する方法及びその方法により用いられる無電解メッキ液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリマー部材(ポリマー成形品)の表面に安価に金属膜を形成する方法としては、無電解メッキ法が知られている。しかしながら、無電解メッキ法では、メッキ膜の密着性を確保するために、無電解メッキの前処理としてポリマー部材表面を六価クロム酸や過マンガン酸等の環境負荷の大きい酸化剤を用いてエッチングを行い、ポリマー部材の表面を粗化する必要がある。また、このようなエッチング液で浸漬されるポリマー、すなわち、無電解メッキが適用可能なポリマーとしては、ABS等のポリマーに限定されていた。これは、ABSにはブタジエンゴム成分が含まれており、この成分がエッチング液に選択的に浸食され表面に凹凸が形成されるのに対して、他のポリマーではこのようなエッチング液に選択的に酸化される成分が少なく、表面に凹凸が形成され難いためである。それゆえ、ABS以外のポリマーであるポリカーボネート等では、無電解メッキを可能にするためにABSやエラストマーを混合したメッキグレードが市販されている。しかしながら、そのようなメッキグレードのポリマーでは、主材料の耐熱性が低下する等の物性の劣化は避けられず、耐熱性を要求する成形品に適用することは困難であった。
【0003】
また、従来、超臨界二酸化炭素等の加圧二酸化炭素を用いた表面改質方法をメッキ前処理に適用する技術が提案されている。加圧二酸化炭素を用いた表面改質方法では、加圧二酸化炭素に機能性材料を溶解させ、該機能材材料の溶解した加圧二酸化炭素をポリマー部材に接触させることにより、機能性材料をポリマー部材の表面内部に浸透させてポリマー部材表面を高機能化(改質)する。例えば、本発明者らは、加圧二酸化炭素を用いた表面改質処理を射出成形と同時に行い、ポリマー成形品の表面を高機能化させる方法を開示している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1では、次のような表面改質方法を開示している。まず、射出成形機の加熱(可塑化)シリンダー内で樹脂を可塑化計量した後、加熱シリンダー内のスクリューをサックバックさせて後退させる。次いで、スクリューのサックバックにより負圧になった(圧力が低下した)溶融樹脂のスクリュー前方部(フローフロント部)に超臨界状態の加圧二酸化炭素およびそれに溶解した金属錯体等の機能性有機材料を導入する。この動作によりスクリュー前方部における溶融樹脂に加圧二酸化炭素と機能性材料を浸透させることができる。次いで、溶融樹脂を金型に射出充填する。この際、機能性材料が浸透したスクリュー前方部の溶融樹脂がまず金型に射出され、次いで、機能性材料がほとんど浸透していない溶融樹脂が射出充填される。機能性材料が浸透したスクリュー前方部の溶融樹脂が射出された際には、金型内における流動樹脂のファウンテンフロー現象(噴水効果)により、スクリュー前方部の溶融樹脂は金型表面に引っ張られながら金型に接して表面層(スキン層)を形成する。それゆえ、特許文献1に記載の表面改質方法では、ポリマー成形品の表面内部に機能性材料が含浸した(機能性材料により表面改質された)ポリマー成形品が作製される。機能性材料として、メッキ触媒となる金属錯体等を用いると、表面にメッキ触媒が含浸したポリマー成形品が得られるので、従来のメッキ前処理方法のようにエッチング液で表面を粗化する必要なく、無電解メッキ可能な射出成形品を得ることができる。
【0005】
さらに、従来、超臨界二酸化炭素を含む無電解メッキ液を用いて無電解メッキを行う方法が開示されている(例えば、特許文献2、非特許文献1)。これらの文献では、無電解メッキ液と超臨界二酸化炭素とを、界面活性剤を用いて相溶させ、攪拌によりエマルジョン(乳濁状態)を形成し、該エマルジョン中でメッキ反応を起こす無電解メッキ方法が開示されている。通常、電解メッキや無電解メッキにおいては、メッキ反応中に発生する水素ガスがメッキ対象物の表面に滞留しメッキ膜にピンホールが発生する要因となる。しかしながら、上記文献に開示されている無電解メッキ法のように超臨界二酸化炭素を含む無電解メッキ液を用いた場合には、超臨界二酸化炭素は水素を溶解するので、上記メッキ反応中に発生する水素が取り除かれ、それによりピンホールが発生しにくく、硬度の高い無電解メッキ膜が得られるとされる。なお、特許文献2では、金属基材に対するメッキ処理は開示されているものの、ポリマー部材を対するメッキ処理については開示されていない。
【0006】
【特許文献1】特許第3696878号公報
【特許文献2】特許第3571627号公報
【非特許文献1】表面技術 Vol.56、No.2、P83(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、従来の樹脂のメッキ方法においては、環境負荷の大きい前処理を行う必要があり、ポリマー材料の選択性も狭いものであった。
【0008】
また、特許文献1に記載の超臨界流体等の加圧二酸化炭素を用いたポリマー部材の表面改質方法を用いてポリマー部材の表面内部にメッキ触媒となる金属微粒子を浸透させた場合には、上述のように、表面および内部にメッキ触媒となる金属微粒子が存在するポリマー部材が得られる。しかしながら、このようなポリマー部材に無電解メッキを施した場合、無電解メッキの触媒核として寄与するのはポリマー部材の最表面に存在する金属微粒子のみであり、ポリマー部材の内部に存在する金属微粒子は余剰な触媒核となり不経済である。また、特許文献1に記載の技術を用いて得られたポリマー部材にメッキ膜を形成した場合、ポリマー部材の表面を粗化していないので、メッキ膜の物理的アンカー効果が得にくく、メッキ膜と成形品の強固な密着性を得ることが困難であるという課題があった。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、ポリマー部材の表面に、安価で、高密着強度を有する無電解メッキ膜を形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様に従えば、ポリマー部材にメッキ膜を形成する方法であって、表面内部にメッキ触媒核となる金属物質が含浸したポリマー部材を用意することと、加圧二酸化炭素及びアルコールを含む無電解メッキ液を上記ポリマー部材に接触させて、上記ポリマー部材にメッキ膜を形成することとを含むメッキ膜の形成方法が提供される。
【0011】
本明細書でいう「加圧二酸化炭素」とは、加圧された二酸化炭素のことをいう。なお、ここでいう「加圧二酸化炭素」には、超臨界状態の二酸化炭素のみならず、加圧された液状二酸化炭素及び加圧された二酸化炭素ガスも含む意味である。また、加圧二酸化炭素の圧力は、臨界点(超臨界状態)以上に加圧された二酸化炭素のみならず、臨界点より低圧力で加圧された二酸化炭素も含まれる。より具体的には、本発明では、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素とが相溶し易くなるように、二酸化炭素の密度が下記範囲となるような温度及び圧力を有する加圧二酸化炭素であることが望ましい。加圧二酸化炭素の密度の好ましい範囲は、0.10g/cm3〜0.99g/cm3、より好ましくは0.40g/cm3〜0.99g/cm3である。この範囲よりも加圧二酸化炭素の密度が低いと、無電解メッキ液との相溶性が低くなり、さらにポリマー部材への浸透性も低下する。また、加圧二酸化炭素の密度が上記範囲よりも高いと、加圧二酸化炭素の圧力が非常に高くなり(例えば温度10℃で圧力30MPa以上、温度20℃で圧力40MPa以上となる)、量産装置が高価になる。
【0012】
なお、上記加圧二酸化炭素の密度を得るために、二酸化炭素の温度は10℃〜110℃、圧力は5MPa〜25MPaの範囲であることが望ましい。特に、加圧二酸化炭素が、温度31℃以上、圧力7.38MPa以上の超臨界二酸化炭素であることが望ましい。超臨界状態になると加圧二酸化炭素の密度が高くなるだけでなく、表面張力もゼロとなるので、ポリマー部材へのメッキ液の浸透性が向上する。なお、温度が10℃以下であるとメッキ反応が起こり難くなり、温度が110℃以上であるとメッキ液が分解する等の弊害が発生する。圧力については、5MPa以下であると加圧二酸化炭素の密度が大きく低下し、圧力が25MPa以上となると工業化用の装置に負担がかかる。
【0013】
また、本明細書でいう「無電解メッキ法」とは、外部電源を用いることなく触媒活性を有する基材表面で、還元剤を用いて金属皮膜を析出する方法のことをいう。また、ここいうポリマー部材の「表面内部」は、ポリマー部材の内部のみならず、最表面も含む意味である。
【0014】
本発明者らが、特許文献2及び非特許文献1等に開示されている超臨界二酸化炭素を含む無電解メッキ液を用いた無電解メッキ方法について、鋭意検討したところ、表面内部に金属物質(例えば、金属微粒子)が含浸したポリマー部材を、単に、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液に接触させただけでは、ポリマー部材の表面に無電解メッキ膜は形成されるものの、十分な密着性を有するメッキ膜を形成することが困難であることが分かった。本発明者らの検証実験によると、この場合、メッキ膜は、主にポリマー部材の最表面に存在する金属物質を触媒核としてメッキ膜が成長しており、メッキ膜の物理的アンカー効果が得にくくなっていることが分かった。それゆえ、単に無電解メッキ液を加圧二酸化炭素とともにポリマー部材に接触させただけでは、メッキ膜と成形品の強固な密着性を得られなかったものと思われる。
【0015】
さらに、本発明者の検討によると、特許文献2及び非特許文献1等に開示されている超臨界二酸化炭素を含む無電解メッキ液を用いた無電解メッキ方法では、高圧状態の二酸化炭素と水溶液である無電解メッキ液とは、界面活性剤を用いたとしても、相溶し難く、攪拌効果を高くする必要のあることが判明した。具体的には、攪拌トルクの高い攪拌子を用いたり、底の浅い高圧容器を用いたりすることが必要であることが分かった。すなわち、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素とを均一に混合して安定したエマルジョンを得るためには、高圧容器や攪拌子等の形状や攪拌子の回転数における制限が大きいことが分かった。
【0016】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明のメッキ膜の形成方法では、加圧二酸化炭素だけでなく、さらにアルコールを含む無電解メッキ液を用いてポリマー部材のメッキ処理を行う。本発明者らの検証実験によると、無電解メッキ液は水が主成分であるが、さらに、アルコールを無電解メッキ液に混合させることにより、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素とを攪拌しなくても、高圧状態の二酸化炭素とメッキ液とが安定して混ざり易くなることがわかった。これは、アルコールが高圧状態の二酸化炭素と相溶しやすいためであると考えられる。それゆえ、通常、無電解メッキ液を調合する際には、金属イオンや還元剤等の入った原液を、例えばメーカー推奨の成分比に従って、水で薄めてメッキ液を健浴するが、本発明のメッキ膜の形成方法では、さらにアルコールを任意の割合で水に混合するだけで、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素とが均一に相溶した安定した混合溶液を調合することができる。
【0017】
そして、本発明のメッキ膜の形成方法では、アルコールを介して無電解メッキ液と加圧二酸化炭素とが均一に相溶しているので、そのような混合溶媒を表面内部にメッキ触媒核となるPd、Ni、Pt、Cu等を含む金属物質が含浸したポリマー部材に接触させた際には、無電解メッキ液が加圧二酸化炭素とともにポリマー部材内部に浸透しやすくなり、ポリマー部材内部の金属物質を触媒核としてメッキ膜を成長させることができる。
【0018】
上述のように、本発明のメッキ膜の形成方法では、ポリマー部材の内部に存在する金属物質を触媒核としてメッキ膜が成長するので、メッキ膜はポリマー部材の内部に食い込んだ状態でポリマー部材上に形成される。それゆえ、本発明のメッキ膜の形成方法では、従来の無電解メッキ法のようにポリマー部材の表面をエッチングで粗化する必要がないので、環境に優しいメッキ膜の形成方法であり、且つ、多様な種類のポリマー部材に対しても容易に密着性の優れたメッキ膜を形成することができる。また、本発明のメッキ膜の形成方法では、従来の無電解メッキ法のようにポリマー部材の表面を粗化しないので、表面粗度の非常に小さい(ナノオーダー)メッキ膜を形成することができる。
【0019】
なお、水に対するアルコールの体積比率は、任意であるが、10〜80%の範囲であることが望ましい。より望ましくは、30〜60%の範囲である。アルコールの体積比率が10%より少ないと、安定な混合液が得られ難くなり、無電解メッキ液のポリマー部材への浸透性も低下する。また、アルコールの体積比率が80%より大きくなると(アルコール成分が多すぎると)、例えばニッケル−リンメッキに用いられる硫酸ニッケルにエタノール等の有機溶媒は不溶であるため、浴が安定しない場合がある。
【0020】
なお、本発明に用い得るアルコールの種類は任意であり、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘプタノール、エチレングリコール等を用いることができる。メッキ反応がおよそ60℃以上となるニッケルリンメッキにおいては、その反応処理温度の沸点以上のアルコールを用いることが望ましい。処理温度よりも沸点の低いアルコールを用いると、加圧二酸化炭素雰囲気においては、アルコールの沸点が低下して沸騰しないが、二酸化炭素を排気した直後の大気圧下においては、アルコールが揮発してメッキ浴が不安定になる。
【0021】
本発明のメッキ膜の形成方法では、成形機を用いて上記ポリマー部材を作製し、上記ポリマー部材を用意することが、上記成形機内の上記ポリマー部材の溶融樹脂に上記金属物質が溶解した加圧二酸化炭素を導入することと、上記金属物質が導入された溶融樹脂を成形することとを含むことが好ましい。
【0022】
本発明のメッキ膜の形成方法では、上記ポリマー部材が大気圧下で無電解メッキ液に不活性であるメッキ膜形成面を有することが好ましい。
【0023】
本発明者らの検討によると、ポリマー部材のメッキ膜形成面に金属物質が大気圧下でメッキ反応が起きる程度の濃度で存在すると、メッキ処理条件によっては、無電解メッキ液がポリマー部材の内部に浸透する前に表面層でメッキ反応が起こり、ポリマー内部にてメッキ膜が成長し難くなる恐れがあることが分かった。なお、本明細書でいうポリマー部材の「メッキ膜形成面」とは、メッキ膜が形成されるポリマー部材の面のことを意味する。
【0024】
そこで、内部にメッキ触媒核となるPd、Ni、Pt、Cu等を含む金属物質が存在し、且つ、大気圧下で無電解メッキ反応が起こらない表面状態のメッキ膜形成面を有するポリマー部材を用意し、そのようなメッキ膜形成面を有するポリマー部材に加圧二酸化炭素及びアルコールを含む無電解メッキ液を接触させると、メッキ膜形成面における金属物質の濃度は十分低いので(大気圧下で無電解メッキ液に不活性であるので)、メッキ膜形成面でメッキ膜が成長せず、無電解メッキ液はポリマー内部に浸透する。そして、ポリマー部材内部の金属物質の濃度が高い領域に無電解メッキ液が浸透すると、その領域からメッキ反応が開始する。その後、ニッケルリンメッキ等の金属物質の自己触媒作用により、メッキ膜がポリマー内部から表面に向かって成長する。
【0025】
上述のように、内部にメッキ触媒核となる金属物質が存在し、且つ、大気圧下で無電解メッキ反応が起こらない表面状態のメッキ膜形成面を有するポリマー部材を用意した場合には、確実にメッキ膜をポリマー部材の内部から成長させることができる。なお、本明細書でいう「大気圧下で無電解メッキ反応が起きない表面状態」とは、大気中(大気圧下)で且つメッキ反応が起こり得る温度において、加圧二酸化炭素を含まない無電解メッキ液中にポリマー部材を浸漬しても、ポリマー部材の表面にメッキ膜が成長しない状態のことをいう。より具体的には、大気中で且つメッキ反応可能な温度の範囲において、ポリマー部材を加圧二酸化炭素を含まない無電解メッキ液中に5分以上滞留させたときに、ポリマー部材の表面全体にメッキ膜が成長しない表面状態のことをいう。なお、触媒核となる金属物質がポリマー部材の表面に存在してもその濃度が低ければ、メッキ反応は容易に起きない。
【0026】
内部にメッキ触媒核となる金属物質が存在し、且つ、大気圧下で無電解メッキ反応が起こらない表面状態のメッキ膜形成面を有するポリマー部材の作製方法としては、次のような方法が用い得る。
【0027】
内部に金属物質が存在し且つ大気圧下で無電解メッキ反応が起こらないメッキ膜形成面を有するポリマー部材を作製する方法としては、例えば、射出成形機や押し出し成形機の可塑化スクリューにおける溶融状態の樹脂に、金属錯体等の金属物質を加圧二酸化炭素とともに浸透させて混錬し、金属物質が浸透した溶融樹脂を、金型やダイに射出成形もしくは押し出し成形することで得ることができる。この際、例えば、低速で溶融樹脂を金型やダイに射出または押し出すことにより、金属物質が樹脂内部にもぐり込み、成形品の最表面に金属物質を浮き出し難くすることができる。
【0028】
また、本発明者らが上述した特許文献1に開示された超臨界二酸化炭素を用いた表面改質方法についてさらに検討を重ねたところ、特許文献1に開示された超臨界二酸化炭素を用いた表面改質方法では、可塑化シリンダー内にて金属錯体の滞留時間が長くなると、金属錯体が熱分解して金属微粒子となり凝集する。この場合、該金属微粒子の比重は重くなるため、金属微粒子が含まれた溶融樹脂を射出しても、ファウンテンフロー現象により成形品の最表面における金属微粒子が分散し難くなるという現象を見出した。すなわち、特許文献1に開示された表面改質方法では、その成形条件等によっては、得られた成形品の最表面に金属物質の濃度が低下することが分かった。それゆえ、特許文献1に開示された超臨界二酸化炭素を用いた表面改質方法において、可塑化シリンダー内にて金属錯体の滞留時間を長くすることにより、ポリマー部材の最表面における金属微粒子(金属物質)の濃度を低下させて大気圧下で無電解メッキ反応が起こらない表面状態にすることができる。
【0029】
また、内部に金属物質が存在し且つ大気圧下で無電解メッキ反応が起こらないメッキ膜形成面を有するポリマー部材を作製するために、後述するように(実施例1参照)、金属錯体(金属物質)を溶融樹脂に十分に浸透させ後、樹脂内圧を減圧しても良い。この処理工程により、金属錯体を高温度高圧力下にて熱分解してクラースターを形成して有機物である金属錯体をより比重の重い金属微粒子と変化させるとともに、二酸化炭素を低圧のガスにする。このような状態の溶融樹脂を射出充填した場合においても、金属微粒子や二酸化炭素ガスはポリマー部材の表面に分散し難くなる(浮き出てきにくくなる)。
【0030】
上述のように、成形機内のポリマー部材の溶融樹脂に金属物質を浸透させてポリマー部材を成形する場合には、その成形条件を適宜調整することにより、内部に金属物質が存在し且つ大気圧下で無電解メッキ反応が起こらないメッキ膜形成面を有するポリマー部材を作製することができる。また、金属物質を予め含浸させたポリマーのペレットを用いても、成形条件を最適化することにより、同様なポリマー部材を得ることができる。
【0031】
なお、内部に金属物質が存在し且つ大気圧下で無電解メッキ反応が起こらないメッキ膜形成面を有するポリマー部材の作製方法として、上述のような成形機内のポリマー部材の溶融樹脂に金属物質を浸透させてポリマー部材を成形する方法を用いた場合には、ポリマー部材の成形と同時にメッキ膜の触媒核となる金属物質をポリマー部材の表面内部に含浸させることができ、表面内部に金属物質が含浸したポリマー部材を容易で安価なプロセスで作製することができる。なお、この成形方法としては、射出成形法(またはサンドイッチ成形法)や押し出し成形法が用い得る。
【0032】
上述した成形時の条件を調整する方法以外では、次のような方法を用いてポリマー部材のメッキ膜形成面を、大気圧下で無電解メッキ反応が起こらない状態にしても良い。
【0033】
まず、成形機等を用いて大気圧下で無電解メッキ反応が起こる程度の濃度で金属物質が最表面に存在するポリマー部材を作製し、次いで、硝酸や塩酸、王水等の酸でポリマー部材を洗浄し、最表面の金属物質を除去することにより、ポリマー部材の最表面でメッキ反応が起きない状態(無電解メッキ液に対して不活性である状態)にしても良い。
【0034】
さらに、別の方法としては、成形機等を用いて大気圧下で無電解メッキ反応が起こる程度の濃度で金属物質が最表面に存在するポリマー部材を作製し、次いで、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を通過させるような材料(例えば、ポリマー部材と同じ材料)からなる膜を、キャスティング、スクリーン印刷、スピンコート、ディッピング等の方法により、ポリマー部材のメッキ膜形成面上に形成しても良い。この方法では、ポリマー部材の表面に金属物質が存在しない膜が形成されるので、大気圧下ではメッキ反応が起きない。なお、このような膜の形成材料としては、例えば、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィン、ポリマー等の熱可塑性樹脂、シリコーン、エポキシ、ポリイミド等の熱硬化性樹脂、アクリル、エポキシ樹脂等の光硬化性樹脂、及び、それらの多孔質材料等が用い得る。
【0035】
また、本発明のメッキ膜の形成方法において、確実にメッキ膜をポリマー部材の内部から成長させる別の方法として、次のような方法が用い得る。
【0036】
本発明のメッキ膜の形成方法では、上記ポリマー部材にメッキ膜を形成することが、加圧二酸化炭素をポリマー基材に接触させてポリマー部材の表面近傍を膨潤させることと、上記ポリマー部材の表面近傍を膨潤させた状態で、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を上記ポリマー部材に接触させることとを含むことが好ましい。
【0037】
この方法では、まず、表面内部にメッキ触媒核となるPd、Ni、Pt、Cu等の金属微粒子が含浸したポリマー部材に加圧二酸化炭素を接触させる。この際、ポリマー部材が非晶性材料で形成されている場合にはガラス転移温度が低下して表面近傍が軟化して膨潤する。また、ポリマー部材が結晶性材料で形成されている場合には、軟化しないまでも、表面近傍で分子間距離が拡大して膨潤する。
【0038】
次いで、このような表面状態にあるポリマー部材に、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液(メッキ反応が起こる状態(例えば、高温状態)にある無電解メッキ液)を接触させる。この際、ポリマー部材の表面近傍が膨潤した状態で無電解メッキ液を接触させるので、無電解メッキ液を加圧二酸化炭素とともにポリマー部材の内部に速やかに浸透させることができる。また、この際、超臨界状態等の加圧二酸化炭素を混合した無電解メッキ液は表面張力が低くなるので、ポリマー部材の内部に無電解メッキ液がより浸透し易くなる。この結果、ポリマー部材の内部に存在する金属物質まで無電解メッキ液が到達し、ポリマー部材の内部に存在する金属物質を触媒核としてメッキ膜が成長する。この方法においても、無電解メッキ液をポリマー部材の内部に速やかに浸透させることができるので、ポリマー部材の表面だけでなく、内部に存在する金属物質を触媒核としてメッキ膜が成長する。それゆえ、この方法によっても確実にメッキ膜をポリマー部材の内部から成長させることができる。
【0039】
本発明のメッキ膜の形成方法では、金属物質が、金属微粒子、金属錯体及び金属錯体の変性物のいずれかを含むことが好ましい。具体的には、ポリマー部材内部に含浸している金属物質はPd、Pt、Cu、Niのいずれかの金属元素からなる微粒子(金属微粒子)もしくは、それらの有機金属錯体および金属錯体の変性物であることが望ましい。特に、金属錯体は加圧二酸化炭素に溶解することから望ましい。また、金属物質が、金属錯体を溶解した加圧二酸化炭素をポリマー部材に浸透させた後の熱等により還元され酸化物や金属微粒子に変質したものでもよい。さらに、金属物質としてパラジウム微粒子を用いた場合には、この金属微粒子は多様な無電解メッキの触媒核として機能するので好適である。また、ニッケル及び銅を金属微粒子として用いた場合には、それぞれニッケルメッキや銅メッキの触媒核と作用する。また、この場合、ニッケル及び銅はパラジウムよりも安価なので状況(コスト等)に応じては好適である。
【0040】
本発明のメッキ膜の形成方法では、無電解メッキ液が、界面活性剤を含んでよい。これにより、超臨界二酸化炭素等の加圧二酸化炭素と水溶液である無電解メッキ液との相溶性(親和性)をより向上させ、エマルジョンの形成を助長することができる。また、ポリマー部材に対するメッキ液の親和性も向上させることができる。
【0041】
界面活性剤としては、公知の、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性、両性イオン性界面活性剤のうち、少なくも1種類以上を選択して用いることが望ましい。特に、超臨界二酸化炭素と水とのエマルジョンを形成するのに有効であると確認されている各種界面活性剤を用いることが望ましい。例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)−ポリプロピレンオキシド(PPO)のブロックコポリマー、アンモニウムカルボキシレートパーフルオロポリエーテル(PFPE)、PEO−ポリブチレンオキシド(PBO)のブロックコポリマー、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル等を用いることができる。
【0042】
本発明のメッキ膜の形成方法では、メッキ膜がニッケルリン膜であることが好ましい。本発明における加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液は、二酸化炭素を含むことによりpH(水素イオン指数)が低下する。すなわち、本発明のメッキ膜の形成方法では、無電解メッキ液のpHは二酸化炭素の含有量により変化するので、酸性で安定に反応する無電解メッキ液を用いることが望ましい。ニッケルリンメッキはpHが3〜6程度の広範囲にてメッキ反応可能なので、より好適である。
【0043】
本発明のメッキ膜の形成方法では、短時間で最小限の薄い金属膜をポリマー部材の表面に形成して金属膜とポリマー部材の密着性を確保することが好ましい。それにより無電解メッキ液が過剰にポリマー部材の内部に浸透することを抑制することができ、無電解メッキ液によるポリマー部材の変形や変質を抑制することができる。また、メッキ膜の膜厚を厚くする必要がある場合には、本発明の上記方法によりポリマー部材上に無電解メッキ膜を形成した後に、常圧で従来のメッキ法(無電解メッキ法及び/又は電解メッキ法)を施すことにより、所望の膜厚を有する金属膜をポリマー部材上に積層することができる。この方法では、金属膜の信頼性(密着性)と、導電性等の物性の確保とを両立したメッキ膜を得ることができる。
【0044】
本発明のメッキ膜の形成方法では、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液に溶解可能な溶出物質が表面内部に存在するポリマー部材を用意することが好ましい。特に、上記溶出物質がミネラルであることが好ましい。
【0045】
本発明者の検討によれば、加圧二酸化炭素と水やアルコールの混合溶媒は、酸化力が強く、酸性溶媒に溶解する物質を溶解させることが判明した。特に酸性浴である無電解メッキ液と加圧二酸化炭素との混合溶媒ではその現象は顕著になる。それゆえ、ポリマー部材の表面内部に加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液に溶解する物質が存在するポリマー部材を用意した場合には、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液をポリマー部材に接触させることにより、ポリマー部材の表面内部の溶出物質が無電解メッキ液に溶け出し、溶出物資が存在していた領域に空隙ができる。その結果、ポリマー部材表面に凹凸が形成され、ポリマー部材表面におけるメッキ膜の物理的アンカー効果が増大し、メッキ膜の密着力をさらに向上させることができる。また、この場合、従来のメッキ法で用いられていた有害な有機溶媒を用いることなくポリマー部材の表面をエッチングすることができる。さらに、ポリマー部材の表面内部に溶出物質が存在するポリマー部材を用いた場合には、ポリマー部材に加圧二酸化炭素と無電解メッキ液との混合溶媒を接触させた際に、混合溶媒が溶出物質を介してポリマー部材内部に浸透しやすくなるという効果も得られる。
【0046】
本発明のメッキ膜の形成方法において用い得る溶出物質としては、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液に溶解及び抽出される材料であれば、任意の材料が用い得る。例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシム等のミネラルを用いることができる。これらミネラルは、ポリマー部材の補強剤として従来用いられているので、ポリマー物性を変化させることなく用いることができる。また、これらの溶出物質は、メッキ反応中にポリマー部材から抽出されてもよいし、メッキ反応前に水やアルコール、または、それらと加圧二酸化炭素との混合溶媒に接触させて、ポリマー部材から予め抽出されていてもよい。
【0047】
ミネラル以外で、溶出物質として用い得るものとしては、熱可塑性樹脂やその低分子物質あるいは、熱可塑性エラストマー等の各種エラストマー(ゴム弾性体)等が挙げられる。これら樹脂物質をベースポリマーに配合することで、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液をポリマー部材に接触させた際に、選択的に溶融物質の部分を膨潤させることができ、これにより無電解メッキ液が浸透しやすくなる。
【0048】
本発明のメッキ膜の形成方法では、ポリマー部材にメッキ膜を形成する際に、金属製の容器本体と、該容器本体の内部に配置され且つ上記加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液に対して不活性な材料で形成された内部容器とを備える処理容器を用い、該内部容器内で上記ポリマー部材を、上記加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液に接触させることが好ましい。内部容器の形成材料はポリテトラフルオロエチレンやポリエチルエーテルケトンや液晶ポリマー等を用いることが好ましい。このような内部容器内でメッキ処理を行うことにより、高圧容器及び内部容器の内壁がメッキされない、腐食しない等の効果が得られる。
【0049】
本発明のメッキ膜の形成方法に用い得るポリマー部材の形成材料は任意であり、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂及び紫外線硬化樹脂を用いることができる。特に、熱可塑性樹脂で形成したポリマー部材を用いることが望ましい。熱可塑性樹脂の種類は任意であり、非晶性、結晶性いずれでも適用できる。例えば、ポリエステル系等の合成繊維、ポリプロピレン、ポリアミド系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ABS系樹脂、ポリアミドイミド、ポリフタルアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリ乳酸等の生分解性プラスチック、ナイロン樹脂等及びそれら複合材料を用いることできる。また、ガラス繊維、カーボン繊維、ナノカーボン、ミネラル等、各種無機フィラー等を混練させた樹脂材料を用いることもできる。
【0050】
また、本発明のメッキ膜の形成方法では、ポリマー部材の形態および作製方法は任意であり、例えば、押し出し成形により作製されたシートやパイプ、紫外線硬化や射出成形により作製されたポリマー成形品を用いることができる。工業性を考慮すると、連続生産性の高い射出成形により得られたポリマー成形品を用いることが好ましい。
【0051】
本発明の第2の態様に従えば、本発明の第1の態様に従うポリマー部材にメッキ膜を形成する方法で用いるための無電解メッキ液であって、上記無電解メッキ液の原液と、アルコールとを備える無電解メッキ液が提供される。
【0052】
本発明の無電解メッキ液では、上記無電解メッキ液中の上記アルコールの体積比率が10〜80%であることが好ましい。
【0053】
また、本発明の無電解メッキ液では、さらに、加圧二酸化炭素を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0054】
本発明のメッキ膜の形成方法によれば、ポリマー部材の内部から成長したメッキ膜をポリマー部材上に形成することができるので、より密着性の優れたメッキ膜を形成することができる。
【0055】
また、本発明のメッキ膜の形成方法によれば、無電解メッキ液をポリマー部材の内部に浸透させてメッキ反応を起こさせるので、従来のようにポリマー部材の表面を粗化する必要がなくなり、あらゆる種類のポリマー部材に対して密着性の優れたメッキ膜を形成することができる。
【0056】
本発明のメッキ膜の形成方法によれば、アルコールを無電解メッキ液に含ませ、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素との相溶性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下、本発明のポリマー部材へのメッキ膜の形成方法の実施例について図面を参照しながら具体的に説明するが、以下に述べる実施例は本発明の好適な具体例であり、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0058】
実施例1では、射出成形機を用いてポリマー成形品(ポリマー部材)を射出成形した後に、同じ射出成形機内で無電解メッキ処理を行う方法について説明する。本実施例では、ポリマー部材として自動車ヘッドライトのリフレクターを作製した。
【0059】
[ポリマー成形品の製造装置]
本実施例で用いたポリマー成形品の製造装置の概略構成を図1に示した。本実施例の製造装置100は、図1に示すように、主に、金型を含む縦型の射出成形装置部103と、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液の金型への供給及び排出を制御する無電解メッキ装置部101と、射出成形装置部103の可塑化シリンダー内の溶融樹脂に金属錯体を溶解した加圧二酸化炭素を浸透させるための表面改質装置部102とからなる。
【0060】
縦型の射出成形装置部103は、主に、図1に示すように、ポリマー成形品の形成樹脂を可塑化溶融する可塑化溶融装置110と、金型を開閉する型締め装置111とからなる。
【0061】
可塑化溶融装置110は、主に、スクリュー51を内蔵した可塑化シリンダー52と、ホッパー50と、可塑化シリンダー52内の先端部(フローフロント部)付近に設けられた加圧二酸化炭素の導入バルブ65とからなる。また、可塑化シリンダー52の導入バルブ65と対向する位置には、樹脂内圧を計測するための圧力センサー40を設けた。なお、ホッパー50内から可塑化シリンダー52内に供給される図示しない樹脂ペレットの材料としては、ポニフェニレンサルファイド(大日本インキ化学工業社製FZ−8600 Black)を用いた。
【0062】
また、型締め装置111は、主に、固定金型53と、可動金型54とからなり、可動金型54が可動プラテン56およびそれに連結した図示しない油圧型締め機構の駆動に連動して4本のタイバー55間を開閉する構造になっている。また、可動金型54には、可動金型54及び固定金型53との間に画成されるキャビティ104に、加圧二酸化炭素及び無電解メッキ液を供給及び排出するためのメッキ液導入路61,62が形成されている。なお、メッキ液導入路61,62は、図1に示すように後述する無電解メッキ装置部101の配管15に接続されており、配管15を介して加圧二酸化炭素及び無電解メッキ液がキャビティ104に導入される構造になっている。また、キャビティ104のシールは、固定金型53の外径部に設けられたバネ内蔵シール17と可動金型54との勘合により行われる。
【0063】
表面改質装置部102は、図1に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ21と、シリンジポンプ20,34と、フィルター57と、背圧弁48と、金属錯体を加圧二酸化炭素に溶解する溶解槽35と、これらの構成要素を繋ぐ配管80とから構成される。また、表面改質装置部102の配管80は、図1に示すように、可塑化シリンダー52の導入バルブ65に接続されており、導入バルブ65付近の配管80には圧力センサー47が設けられている。なお、この例では、溶解槽35に仕込んだ金属微粒子(金属物質)の原料としては、金属錯体(ヘキサフルオロアセチルアセトナパラジウム(II))を用いた。
【0064】
無電解メッキ装置部101は、図1に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ21と、ポンプ19と、バッファータンク36と、無電解メッキ液と加圧二酸化炭素を混合させる高圧容器10と、循環ポンプ90と、無電解メッキ液を補給するためのメッキタンク11と、シリンジポンプ33と、無電解メッキ液を回収する回収容器63と、回収槽12と、これらの構成要素を繋ぐ配管15とから構成される。また、加圧二酸化炭素及び無電解メッキ液の流動を制御するための自動バルブ43〜46,38が配管15の所定箇所に設けられている。また、配管15は、図1に示すように、可動金型54のメッキ液導入路61,62と接続されている。なお、この例では、無電解メッキ液としては、原液15%、アルコール(エタノール)50vol%を含むニッケルリン無電解メッキ液を用いた。
【0065】
[ポリマー成形品の成形方法]
次に、表面内部に金属微粒子を浸透させたポリマー成形品の成形方法について説明する。なお、本発明において金属錯体の樹脂への浸透方法は任意であるが、本実施例では、可塑化シリンダー52内で可塑化計量した溶融樹脂の先端部(フローフロント部)に金属錯体を溶解した加圧二酸化炭素を導入した。
【0066】
まず、溶解槽35において金属錯体をエタノールに溶解させ、金属錯体が溶解したエタノールをシリンジポンプ34内で15MPaに昇圧した。一方、液体二酸化炭素ボンベ21よりフィルター57を介してシリンジポンプ20に供給し、シリンジポンプ20内で液体二酸化炭素を15MPaと昇圧した。そして、昇圧された二酸化炭素と金属錯体が溶解したエタノールと配管80内で混合した(加圧混合流体を生成した)。なお、この加圧混合流体を可塑化溶融装置110に供給する際、加圧混合流体の供給圧力は、圧力計49の表示が15MPaになるように、背圧弁48により制御した。また、両シリンンジポンプ20,34からのエタノール溶液と加圧二酸化炭素との加圧混合流体の送液は、各シリンジポンプ20,34の制御を圧力制御から流量制御に切り替えて行った。さらに、加圧混合流体を可塑化溶融装置110に供給する際には、加圧混合流体を、配管80内で図示しないヒーターにより50℃に温度制御しつつ、可塑化溶融装置110に供給した。
【0067】
次に、加圧混合流体を可塑化溶融装置110内に導入する手順を図1及び2を参照しながら説明する。図2(a)及び2(b)は、可塑化溶融装置110の導入バルブ65付近の拡大断面図である。まず、ホッパー50から樹脂ペレットを供給しながら、可塑化シリンダー52内のスクリュー51を回転させて、樹脂の可塑化計量を行った。可塑化計量完了時における導入バルブ65付近の状態を示したのが図2(a)である。なお、この際、図2(a)に示すように、導入バルブ65の導入ピン70が後退(図2(a)中の左側に移動)することで、溶融樹脂66へ加圧混合流体67が導入されること遮断している。
【0068】
次いで、スクリュー51をサックバック(後退)して、溶融樹脂66の内圧力を低下させると同時に、両シリンジポンプ20,34を圧力制御から流量制御に切り替え、金属錯体の溶解したエタノールと二酸化炭素の流量をそれぞれ上述の方法にて1:10としながら、加圧混合流体67を導入バルブ65を介して可塑化シリンダー52内のフローフロント部の溶融樹脂66に導入した(図2(b)の状態)。図2(b)中の領域68が加圧混合流体67が浸透した溶融樹脂の部分である。
【0069】
なお、本実施例の可塑化シリンダー52の導入バルブ65では、溶融樹脂66と加圧混合流体67との圧力差が5MPa以上となったときに、加圧混合流体67が可塑化シリンダー52内の溶融樹脂66の導入される構造になっており、導入バルブ65による加圧混合流体67の導入原理は次の通りである。可塑化計量完了後、スクリュー51をサックバックさせると、溶融樹脂66が減圧され密度が低下する。そして、溶融樹脂66と加圧混合流体67との圧力差が5MPa以上となったとき、加圧混合流体67の圧力が導入バルブ65内のバネ71の戻し力(弾性力)に打ち勝ち、導入ピン70が溶融樹脂66側に前進し、加圧混合流体67が溶融樹脂66内部に導入される。なお、加圧混合流体67の導入は、樹脂圧および加圧混合流体67の圧力を、それぞれ圧力センサー40,47で監視しながら行った。
【0070】
次いで、両シリンジポンプ20,34を停止して加圧混合流体67の送液を停止した。また、それと同時に、スクリュー51を前進させて、樹脂圧力を20MPaまで再度上昇させ、導入ピン70を後退(図2(b)中の左方向に移動)させた。それにより、加圧混合流体67の導入を停止するとともに、加圧混合流体67と溶融樹脂66とを相溶させた。
【0071】
次いで、可塑化シリンダー52内のフローフロント部の樹脂圧力を20MPaに保持して金属錯体を樹脂に十分に浸透させた後、樹脂内圧を1MPaまで減圧した。この動作により、浸透した多くの金属錯体は高温度高圧力下にて熱分解してクラースターを形成し、有機物である金属錯体はより比重の重い金属微粒子と変化する。また、この際、二酸化炭素は低圧のガスとなる。溶融樹脂のフローフロント部をこのような状態にすることにより、後述する射出充填でスキン層を形成した際に、金属微粒子や二酸化炭素ガスがスキン層の表面(成形品の最表面)に浮き出難くなる。
【0072】
次いで、両シリンジポンプ20,34を、配管80中の図示しない自動バルブを閉鎖した後、可塑化溶融装置110に供給した加圧二酸化炭素及び金属錯体が溶解したエタノール溶液の流量分をシリンジポンプ20,34内に補液した。その後、圧力制御に切り替え、15MPaの高圧に保持し、次ショットの送液まで待機させた。
【0073】
次に、可塑化シリンダー52内のフローフロント部の溶融樹脂66に加圧混合流体67を導入した後、型締め装置111の油圧型締め機構(不図示)により型締めされ、温調回路(不図示)により温度制御された金型内に画成されたキャビティ104に溶融樹脂を射出充填した。この際、射出充填するまでの射出速度を100m/sと低速にして、ポリマー成形品の最表面に金属微粒子(Pd)が十分な濃度で分散しない、すなわち、大気圧下でメッキ反応を起こさない濃度で分散するように射出成形した。次いで、成形品を冷却固化した(図3の状態)。
【0074】
なお、溶融樹脂を金型内に射出成形する際、最初に射出されるフローフロント部の溶融樹脂68は噴水効果(ファウンテンフロー)により、射出成形品の表皮を形成する。すなわち、この例では、フローフロント部近傍に金属錯体由来の金属微粒子が分散しているので、図3に示すように、ポリマー成形品507の表皮505(表面内部)には金属微粒子が含浸したポリマー成形品507が得られる(図5中のステップS11)。この例では、このようにして、表皮であるスキン層505に金属微粒子が分散し、内皮であるコア層506に、ほとんど金属微粒子が存在しないポリマー成形品507を得た。
【0075】
上述のようにして作製したこの例のポリマー成形品507の概略断面図を図6に示した。この例のポリマー成形品507のスキン層505には、図6に示すように、金属微粒子550(金属物質)がスキン層505の表面近傍から内部に分散(存在)しているものの、スキン層505の最表面近傍における金属微粒子550の濃度は、スキン層505内部の金属微粒子550の濃度より低くなっていた。また、この例の成形直後のポリマー成形品507(図6の成形品)を、実際に、大気圧にて70℃の無電解メッキ液(メッキ反応温度60〜85℃のメッキ液)中に10分間浸漬したところ、ポリマー成形品507の表面にはメッキ膜は形成されなかった。このことから、この例の成形直後のポリマー成形品507では、その最表面(メッキ膜形成面)が大気圧下でメッキ反応を起こさない状態、すなわち、無電解メッキ液に対して不活性であることが確認された。
【0076】
[メッキ膜の形成方法]
上述のようにして作製された表面内部に金属微粒子が分散したポリマー成形品507に対して、次のようにして、金型内で無電解メッキ処理を行った。なお、無電解メッキ処理を行っている間、金型内部は80℃に温調した。
【0077】
まず、図4に示すように、型締め装置111の油圧型締め機構(不図示)を後退(図4中の下方向)させることにより、可動プラテン56および可動金型54を後退させ、固定金型53とポリマー成形品507との間に隙間508(キャビティ508)を設けた。
【0078】
次いで、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液をキャビティ508に導入して、ポリマー成形品507に接触させた。具体的には、次のようにして加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液をポリマー成形品507に接触させた。まず、予め、無電解メッキ装置部101のメッキタンク11から供給されたアルコールを含む無電解メッキ液と、バッファータンク36から供給された15MPaの加圧二酸化炭素とを、高圧容器10内にて7:3の比で混合させた(図5中のステップS12)。本発明においては、加圧二酸化炭素とメッキ液の混合比は1:9から5:5の範囲が好ましく、特に、メッキ液の量が多いほうが望ましい。また、この際、スタラー16の駆動および、マグネチックスタラー6の高速回転により加圧二酸化炭素と無電解メッキ液とを高圧容器10内で相溶させた。次いで、自動バルブ43を閉鎖し、自動バルブ44,45を開放した。
【0079】
次いで、循環ポンプ9を運転し、高圧容器10、配管15およびキャビティ508からなる循環流路に、加圧二酸化炭素及びアルコールを含む無電解メッキ液を循環させて、一時的にポリマー成形品507の表面に無電解メッキ液を滞留および接触させ、メッキ膜(ニッケルリン膜)を形成した(図5中のステップS13)。なお、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液が循環している際には、キャビティ508および循環ライン15の圧力は圧力センサー58,59で同圧になっていた。また、無電解メッキ液の補給は、メッキタンク11より供給したメッキ液をシリンジポンプ33で昇圧して、自動バルブ46の開放と同時に送液することで随時行った。
【0080】
上述の工程で、加圧二酸化炭素及びアルコールを含む無電解メッキ液をポリマー成形品507に接触させた際には、ポリマー成形品507の最表面ではメッキ反応は起こらず、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液はポリマー成形品507の内部に浸透する。そして、ポリマー成形品507内部において、メッキ反応を起こすのに十分な濃度で金属微粒子が分散している領域まで、無電解メッキ液が浸透すると、その領域の金属微粒子を触媒核にして、メッキ膜が成長し始める。その後、金属微粒子の自己触媒作用により、メッキ膜がポリマー部材の内部から表面に向かって成長する。すなわち、ポリマー成形品507上に形成されたメッキ膜はポリマー成形品507の内部に食い込んだ状態で成長するので、密着性の優れたメッキ膜が形成される。
【0081】
次いで、上述のようにしてポリマー成形品507上にメッキ膜を形成した後、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液の循環経路から加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を回収容器63を介して回収槽12から排気した。具体的には、自動バルブ44,45を閉鎖し、次いで、自動バルブ38を開放することで、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を回収容器63に排出した。回収容器63では、回収した加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液が、遠心分離の原理で水溶液(メッキ液)と高圧ガス(二酸化炭素)に分離される。メッキ液は回収槽12で回収し再利用することができる。ガス化した二酸化炭素は回収容器63の上部から排出され、図示しない排気ダクトに回収される。
【0082】
次いで、自動バルブ43を一定時間開いて、固定金型53とポリマー成形品507との間の隙間508(キャビティ508)に加圧二酸化炭素を導入し、キャビティ508に残ったメッキ液の残留物を加圧二酸化炭素とともに金型の外へ排出した。次いで、キャビティ508の内圧が圧力センサー59のモニター値でゼロになったところで、金型を開きポリマー成形品507を取り出した。
【0083】
次に、取り出したポリマー成形品507に対して、通常の銀メッキを施して、ポリマー成形品507の表面に銀メッキ膜を積層した。この例では、上述のようにして、表面にメッキ膜が形成されたポリマー成形品507を得た。
【0084】
この例で作製されたポリマー成形品507の一部の模式断面図を図7に示した。この例で作製されたポリマー成形品507の片側には、金型内で成長させたニッケルーリンの金属膜509(メッキ膜)が形成されており、ニッケルーリンの金属膜509はポリマー成形品507の内部から成長していた(金属膜509の浸透層が形成されていた)。また、ニッケルーリンの金属膜509の上に銀の高反射膜510が形成されていた。
【0085】
[メッキ膜の評価]
次に、この例で作製されたポリマー成形品507に対して、金属膜の密着性評価を行った。具体的には、高温多湿環境試験(条件:温度85℃、湿度85%Rh、放置時間1000時間)、温度150℃,放置時間500時間の条件での高温試験、並びに、−30℃と150℃との温度間でヒートッショク試験を20サイクル行った。その結果、すべての試験において金属膜の密着性の低下は認められなかった。さらに、この例で作製されたポリマー成形品507の表面粗さRaを測定したところ、金型の表面粗さと同等のRa=100nmであった。すなわち、この例のメッキ膜の形成方法によれば、射出成形と同時にメッキ処理を行うことができ、プロセスが簡略化することができる(安価にポリマー部材を製造できる)だけでなく、密着性が高く且つ平滑な金属膜を耐熱性の高い樹脂材料に形成できることが分かった。
【実施例2】
【0086】
実施例2では、サンドイッチ成形機を用いて表面内部に金属微粒子が含浸したポリマー成形品(ポリマー部材)を作製し、その後、別の容器内で成形したポリマー成形品に無電解メッキ処理を施す方法について説明する。本実施例では、ポリマー成形品として自動車用のドアノブを作製した。
【0087】
本実施例では、後述する加圧二酸化炭素に溶解させる機能性材料の種類は任意であるが、本実施例においては、金属錯体を用いた。金属錯体の種類は任意であるが、二酸化炭素に対し高い溶解度を有するヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。また、後述する溶融樹脂に導入する加圧二酸化炭素の温度、圧力条件は任意であるが、本実施例においては超臨界状態となる温度40℃、圧力10MPaとした。また、本実施例では、ポリマー成形品の形成材料としては、ガラス繊維30%含むポリアミド6樹脂を用いた。
【0088】
[サンドイッチ成形装置]
まず、この例のポリマー成形品(ポリマー部材)の製造方法で用いたサンドイッチ成形装置について説明する。この例で用いた成形装置の概略構成を図8に示した。この例で用いた成形装置200は、図8に示すように、サンドイッチ成形機部201と、加圧流体供給部202と、加圧流体排出部203とから構成される。
【0089】
サンドイッチ成形機部201は、図8に示すように、主に、ポリマー成形品の外皮(表面層)を形成するための第1の可塑化溶融シリンダー220(以下、第1加熱シリンダーともいう)と、ポリマー成形品のコア部を形成するための第2の可塑化溶融シリンダー224(以下、第2加熱シリンダーともいう)と、第1加熱シリンダー220及び第2加熱シリンダー224の溶融樹脂の排出口220a及び224aに接続され且つ第1加熱シリンダー220及び第2加熱シリンダー224内部に流通したノズル部218と、可動金型211及び固定金型212を備える金型210とから構成される。
【0090】
ノズル部218内には、図8に示すように、金型210内に射出する溶融樹脂の射出経路を切り替えるためのロータリーバルブ219が設けられている。この例では、後述するように、ロータリーバルブ219を回転させることにより、第1加熱シリンダー220内部から金型210のキャビティ216に至る溶融樹脂の射出経路と、第2加熱シリンダー224内部から金型210のキャビティ216に至る溶融樹脂の射出経路とが切り替える。なお、金型210のキャビティ216は、固定金型212および可動金型211が突き当たることにより画成される空間である。また、この例では、図8に示すように、スプール217を中心にして、自動車用のドアノブを2個同時に成形できる金型210を用いた。固定金型212および可動金型211は、それぞれ固定プラテン214及び可動プラテン213にそれぞれ固定されており、型締め機構215により可動プラテン213を駆動することにより金型210が開閉される構造になっている。
【0091】
また、この例では、図8に示すように、第1加熱シリンダー220には、金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素を溶融樹脂に導入するためのエアー駆動式の導入シリンダー227と、超臨界二酸化炭素を溶融樹脂から排出するためのエアー駆動式の排出シリンダー229とが設けられている。導入シリンダー227及び排出シリンダー229の内部には、それぞれ導入ピストン228及び排出ピストン230が設けられている。また、この例では、第1加熱シリンダー220内のスクリュー221(以下、第1スクリューともいう)としては、図8に示すように、樹脂内圧を減圧させるベント部を2箇所設けた(図8中の第1ベント部223及び第2ベント部222)。そして、導入シリンダー227及び排出シリンダー229は、それぞれ第1ベント部223及び第2ベント部222の近傍に配置した。上述のように、この例の成形装置では、溶融樹脂に浸透させた超臨界二酸化炭素をガス化して射出充填前に排気させる機構を設けた。一方、第2加熱シリンダー224は、従来の加熱シリンダーと同じ構造とした。
【0092】
加圧流体供給部202は、図8に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ240と、公知のシリンジポンプ241と、金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解する溶解槽242とから構成され、各構成要素は配管243により繋がれている。また、加圧流体供給部202では、図8に示すように、超臨界二酸化炭素の流動を制御するためのバルブ244,245が適宜所定の箇所に設置されており、溶解槽242は配管243により、サンドイッチ成形機部201の導入シリンダー227に繋がれている。
【0093】
加圧流体排出部203は、図8に示すように、主に、フィルタ254と、バッファー容器253と、減圧弁252と、真空ポンプ250とから構成され、各構成要素は配管255により繋がれている。また、フィルタ254は配管255により、サンドイッチ成形機部201の排出シリンダー229に繋がれている。
【0094】
なお、本実施例で用い得る成形装置としては、図8に示した例に限定されない。成形装置としては、ポリマー成形品の外皮を形成する第一の可塑化シリンダーと内皮を形成する第二の可塑化シリンダーを有し、少なくとも第一の可塑化シリンダーに加圧二酸化炭素およびそれに溶解した機能性材料(金属錯体)を導入する機能を有すれば、任意の構造の装置が用い得る。
【0095】
[ポリマー成形品の製造方法及びメッキ膜の形成方法]
次に、この例のポリマー成形品の製造方法を、図8〜15を参照しながら説明する。なお、この例では、先のサンドイッチ成形が終了した時点(図9の状態)からポリマー成形品の製造方法を説明する。それゆえ、図9では、前回の成形時に第2加熱シリンダー224から射出された溶融樹脂がノズル部218内の樹脂の流路に残留している。
【0096】
最初に、金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させる方法について説明する。まず、バルブ244を開き、液体二酸化炭素ボンベ240よりシリンジポンプ241に二酸化炭素を供給した。シリンジポンプ241では、供給された二酸化炭素は所定の圧力(10MPa)に昇圧される。次いで、バルブ245を開き、加圧液体二酸化炭素を溶解槽242に導入して、金属錯体を加圧二酸化炭素に溶解させた(図15中のステップS21)。この際、溶解槽242の温度を40℃にしておき、導入された加圧液体二酸化炭素を超臨界状態にした。なお、この例では、溶解槽242内には、金属錯体を過飽和となるように予め仕込んだ。また、超臨界二酸化炭素を溶解槽242に導入することにより、導入シリンダー227までの配管領域も加圧した。なお、後述する可塑化計量工程における超臨界二酸化炭素及び有機金属錯体を第1加熱シリンダー220内に導入する時以外では、溶解槽242から導入シリンダー227までの領域がシリンジポンプ241により一定圧力で保持されるように制御した。
【0097】
次に、ホッパー226から第1加熱シリンダー220内に十分な量の樹脂ペレット(不図示)を供給し、第1スクリュー221の回転により、ペレット(第1熱可塑性樹脂:ポリアミド6樹脂)を可塑化溶融した。なお、可塑化計量時には、第1スクリュー221の回転によりスクリュー前方の内圧が上昇して第1スクリュー221が後退するので、導入シリンダー227の下部に設けられた第1スクリュー221の第1ベント部223では、溶融した第1熱可塑性樹脂(以下では、第1溶融樹脂ともいう)が減圧(7MPa程度)される。
【0098】
次いで、第1溶融樹脂が減圧された状態で、図9に示すように、導入シリンダー227内の導入ピストン228を上昇させて、加圧流体供給部202の溶解槽242と第1加熱シリンダー220の内部とを流通させ、金属錯体が溶解した超臨界二酸化炭素を第1加熱シリンダー220の内部に導入し、第1溶融樹脂に浸透させた(図15中のステップS22)。この浸透工程中は、シリンジポンプ241を流量制御に切り替え、一定流量の超臨界二酸化炭素を一定時間、第1加熱シリンダー220内に注入した。また、第1溶融樹脂に浸透した金属錯体の多くは、第1溶融樹脂の熱等によりメッキ用触媒(金属微粒子)に還元される。
【0099】
また、この例では、可塑化計量中に第1溶融樹脂に浸透した超臨界二酸化炭素をガス化しては排出シリンダー229を介して、第1加熱シリンダー220内部から加圧流体排出部203に排出した。具体的には、次のようにして超臨界二酸化炭素を排出した。
【0100】
まず、可塑化計量時に第1スクリュー221の第2ベント部222で第1溶融樹脂を減圧し、浸透している超臨界二酸化炭素を臨界圧力以下に減圧してガス化した。この際、図9に示すように、排出シリンダー229内に設けられた排気ピストン230を上昇させて、第1加熱シリンダー220の内部と加圧流体排出部203とを流通させ、第1加熱シリンダー220内の第2ベント部222でガス化した二酸化炭素を一部排出シリンダー229を介して加圧流体排出部203に排出した。また、この際、高温の樹脂内で混錬された昇華型の金属錯体は上述のように熱分解して金属微粒子化して、二酸化炭素に不溶解状態となっているので、二酸化炭素と同時に排気されることはない。そして、この例では、高温樹脂内における金属微粒子の滞留時間を延ばし(具体的には、50sec程度)、溶融樹脂内に比重の大きい金属微粒子を分散させた。このような状態にすることにより、後述する射出充填時において、金属微粒子がポリマー成形品(スキン層)の最表面に分散し難く(浮き出難く)なるようにした。
【0101】
次いで、高圧流体排出部203に排出された二酸化炭素をフィルタ254、バッファー容器253を通過させた後、減圧弁252で圧力計251が0MPaを示すように減圧し、真空ポンプ250により排気した。この例では、上述のようにして、第1加熱シリンダー220内で第1熱可塑性樹脂を可塑化軽量しながら、第1溶融樹脂に金属錯体を浸透させるとともに、超臨界二酸化炭素をガス化して第1溶融樹脂から排出した。
【0102】
なお、上述した第1加熱シリンダー220における第1熱可塑性樹脂の可塑化計量の工程の際には、ホッパー226から供給された樹脂ペレットは、導入された超臨界二酸化炭素及び金属錯体と混錬されながら可塑化溶融されるので、第1溶融樹脂内部には超臨界二酸化炭素及び金属錯体が均一に拡散した状態となる。また、第1加熱シリンダー220における可塑化計量の際には、第1加熱シリンダー220内で加圧された第1溶融樹脂がノズル部218の先端から金型210内へ漏れないようにするため、図9に示すように、第2加熱シリンダー224内部とノズル部218内の射出流路とがロータリーバルブ219内の流路を介して流通するように、ロータリーバルブ219の回転を調整して、第1加熱シリンダー220内部とノズル部218内とが流通しないようにした。
【0103】
次いで、第1スクリュー221で金属微粒子(及び金属錯体)が浸透した第1溶融樹脂260の可塑化計量が完了した時点で、図10に示すように、導入シリンダー227内の導入ピストン228及び排出シリンダー229内の排出ピストン230を下降させ、同時にシリンジポンプ241を流量制御から圧力制御に切り替え、加圧二酸化炭素の導入および排気を停止した。
【0104】
次に、図11に示すように、第1加熱シリンダー220内部とノズル部218内の射出流路とが流通するように、すなわち、第1加熱シリンダー220内部と金型210内のキャビティ216とが流通するように、ロータリーバルブ219を回転させた。次いで、第1加熱シリンダー220の第1スクリュー221を前進させて、可塑化計量された第1溶融樹脂260を金型210内のスプール及びキャビティ216に射出した(図15中のステップS23:図11及び12の状態)。なお、図12の状態は、第1溶融樹脂260の射出充填が完了する直前の状態を表しており、図12に示すように、この例では、射出する第1溶融樹脂260の量は、キャビティ216内が全て充填されない程度の量に調整した。
【0105】
一方、第2加熱シリンダー224では、上記第1溶融樹脂の射出中に、図示しないホッパーより樹脂ペレット(第2熱可塑性樹脂:ポリアミド6樹脂)を第2加熱シリンダー224内に供給して、第2スクリュー225の回転により可塑化計量を行った。この際、第2加熱シリンダー224では、金属錯体を導入せずに樹脂ペレットを可塑化溶融した(以下では、第2加熱シリンダー224内で可塑化溶融された樹脂を第2溶融樹脂ともいう)。そして、第1溶融樹脂260の射出充填が完了する直前に、第2溶融樹脂261の可塑化計量を完了させた(図12の状態)。なお、この例では、第1熱可塑性樹脂及び第2熱可塑性樹脂に同じ材料を用いたが、本発明はこれに限定されず、第1熱可塑性樹脂及び第2熱可塑性樹脂に異なる材料で形成してもよい。
【0106】
次に、第1溶融樹脂の射出充填が完了した後、図13に示すように、第2加熱シリンダー224内部とノズル部218内の射出流路とが流通するように、すなわち、第2加熱シリンダー224内部と金型210内のキャビティ216とが流通するように、ロータリーバルブ219を回転させた。次いで、第2スクリュー225を前進させて、第2溶融樹脂261を金型210内のスプール及びキャビティ216に射出した(図15中のステップS24:図13の状態)。この際、先にキャビティ216に充填されていた第1溶融樹脂260は第2溶融樹脂261の充填圧力により、キャビティ216を画成する金型表面に押しやられる。その結果、図14に示すように、第2溶融樹脂261の射出完了後には、成形品の表面層(外皮)には、金属微粒子(及び金属錯体)が分散した第1溶融樹脂260の層が形成され、成形品の内部には金属微粒子を含有しない第2溶融樹脂261からなるコア部が形成される。
【0107】
次いで、射出充填された溶融樹脂を冷却固化した後、金型210を開き成形品(ポリマー基体)を取り出した。この例では、上述したサンドイッチ成形により、金属微粒子が表面内部に分散しポリマー成形品を得た。
【0108】
上述のようにして成形したこの例のポリマー成形品に対して、実施例1と同様にして、大気圧にて70℃の無電解メッキ液(メッキ反応温度60〜85℃のメッキ液)中に10分間浸漬したが、ポリマー成形品の表面にはメッキ膜は形成されなかった。すなわち、本実施例の上記成形方法で成形したポリマー成形品では、その最表面(表面層)における金属微粒子の濃度が低く、ポリマー成形品の最表面が大気圧下でメッキ反応を起こさない状態、すなわち、無電解メッキ液に対して不活性であることが確認された。
【0109】
次に、上述のようにして成形したこの例のポリマー成形品の表面に無電解メッキ法によりメッキ膜を形成した(図15中ステップS25)。具体的には、次のようにしてポリマー成形品表面にメッキ膜を形成した。まず、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の内部容器を備えた高圧容器を用意し、内部容器内に原液15%、アルコール(プロパノール)50%、水35%からなるニッケルリンメッキ液を内部容器内に注入し、次いで、ポリマー成形品を内部容器内に挿入して無電解メッキ液に浸漬した。なお、この際、無電解メッキ液および高圧容器及び内部容器は予め70℃に加温しておいた。次いで、20℃、15MPaの加圧二酸化炭素を高圧容器及び内部容器内に導入して加圧二酸化炭素を無電解メッキ液に相溶させて(加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液をポリマー成形品に接触させて)、その状態を5分間保持した後、減圧した。この例では、上述のようにして、ポリマー成形品の表面全体にニッケルリンの金属膜を形成した。
【0110】
なお、上記方法においても、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液をポリマー成形品に接触させた際には、ポリマー成形品の最表面ではメッキ反応は起こらずに、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液はポリマー成形品の内部に浸透する。そして、ポリマー成形品内部において、メッキ反応を起こすのに十分な濃度で金属微粒子が分散している領域まで、無電解メッキ液が浸透すると、その領域の金属微粒子を触媒核にして、メッキ膜が成長し始める。その後、金属微粒子の自己触媒作用により、メッキ膜がポリマー内部から表面に向かって成長する。すなわち、本実施例においても、ポリマー成形品上に形成されたメッキ膜はポリマー成形品の内部に食い込んだ状態で成長するので、密着性の優れたメッキ膜が形成される。
【0111】
次いで、上述した無電解メッキ処理された(ニッケルリンの金属膜が表面に形成された)ポリマー成形品の表面に、従来の電解メッキ方法により電解銅メッキ膜を20μmの厚さで形成し、さらのその上に光沢電解ニッケルメッキ膜を10μmの厚さで形成した。また、この例で作製した表面に金属膜が形成されたポリマー成形品に対しても、実施例1と同様にして金属膜の密着性の評価試験を行ったところ、実施例1と同様に、金属膜の剥離は見られず、密着性の低下は認められなかった。
【実施例3】
【0112】
実施例3では、実施例2の無電解メッキ処理において、無電解メッキ液(ニッケルリンメッキ液)中のアルコールの体積比率を5、10、30、60、80及び90%に変化させた種々の無電解メッキ液を用意した。それ以外は、実施例2と同様にして無電解メッキ膜をポリマー成形品(ポリマー部材)の表面に形成した。なお、この例では、各無電解メッキ液で複数回続けてメッキ処理を行った。
【0113】
上記処理の結果、アルコールの体積比率が80%である無電解メッキ液では、1回目の処理ではメッキ膜はポリマー成形品前面に形成されたが、2回目の処理ではメッキ膜は殆ど形成されなかった。これは、アルコールの添加量が多いと、ニッケルリンメッキ液から硫酸ニッケルが析出しやすくなり、その結果、メッキ液中の硫酸ニッケルイオンの量が不十分となりメッキ浴が壊れたためであると考えられる。実際のところ、アルコールの体積比率が80%である無電解メッキ液では、1回目及び2回目の処理において、メッキ液中において硫酸ニッケルの析出物が確認された。しかしながら、上述のように、アルコールの体積比率が80%である無電解メッキ液では、メッキ液中において硫酸ニッケルの析出物は存在するものの、少なくとも1回はメッキ処理を行うことができることが分かった。
【0114】
アルコールの体積比率が60%である無電解メッキ液では、2回目以降もメッキ膜を形成することができた。なお、アルコールの体積比率が60%である場合には、メッキ処理時間(ポリマー成形品の全面にメッキ膜が形成される時間)は3分であった。
【0115】
アルコールの体積比率が30%である無電解メッキ液では、メッキ処理時間が10分と長くなった。また、アルコールの体積比率が10%である無電解メッキ液では、メッキ処理時間がさらに長くなり、30分となった。これは、アルコールの量が少なくなると、無電解メッキ液の表面張力が大きくなり、無電解メッキ液のポリマー成形品への浸透時間が長くなったためであると考えられる。なお、アルコールの体積比率が10、30及び60%である場合には、いずれも2回目以降のメッキ処理においてもメッキ膜は形成された。
【0116】
また、アルコールの体積比率が5%の無電解メッキ液では、メッキ処理時間を1hrと長くしても、ポリマー成形品表面の一部にしかメッキ膜が形成されなかった。アルコールの体積比率が90%の無電解メッキ液では、硫酸ニッケルが全て沈殿し、メッキ膜は形成されなかった。
【実施例4】
【0117】
実施例4では、ポリマー成形品(ポリマー部材)の形成材料として、炭酸カルシウム(ミネラル)の微粒子を予め混合したポリフェニレンサルファイドの樹脂材料を用いた。なお、炭酸カルシウムは加圧二酸化炭素とメッキ液との混合溶媒により溶解、抽出される物質(溶出物質)である。ポリマー成形品の形成材料を変えたこと以外は、実施例1と同様にして、射出成形によりポリマー成形品を成形し、その後、成形に用いた金型内でメッキ処理を行いポリマー成形品上にメッキ膜を形成した。
【0118】
なお、本実施例では、無電解メッキ処理後に加圧二酸化炭素により残存メッキ液を金型から排出した後、減圧と同時に100トンの型締め圧力を成形品に印加した。これは、加圧二酸化炭素とメッキ液の混合溶液をポリマー内部からより多く除去するため、膨潤したポリマー成形品を押し固めて物理的強度を向上させるため、及び、ポリマーの変形を矯正するため等の目的で行っている。このメッキ後のプレス工程は、金型内で行ってもよいし、バッチ処理で行ってもよい。また、メッキ反応後の脱圧後に行ってもよい。このような方法を用いることにより、膨潤して変形が著しくなる非晶性熱可塑性樹脂等にも本発明のメッキ膜の形成方法が適用可能となる。
【0119】
本実施例のように、加圧二酸化炭素、メッキ液や水、及び、アルコールの混合溶液に溶解および抽出される物質を樹脂材料にブレンドしておくことにより、ポリマー成形品の内部に溶出物質が分散したポリマー成形品が得られ、そのようなポリマー成形品に混合溶液を接触させた際には、混合溶液が溶出物質を介してポリマー成形品内部に浸透しやすくなる。このような溶出物質としては、ポリエチレングリコールや界面活性剤等の水溶性材料、非晶性熱可塑性樹脂成分、各種エラストマー等を用いることができる。
【0120】
また、本実施例のように、内部に溶出物質が分散したポリマー成形品では、最表面に分散していた溶出物質が無電解メッキ液に溶け出すと、ポリマー成形品表面に凹凸が形成され、ポリマー成形品表面における金属膜の物理的アンカー効果が増大し、金属膜の密着力を向上させることができる。
【0121】
なお、本発明のポリマー成形品では、上記効果を得るために、溶出物質はポリマー成形品の最表面から少なくとも5μm以内、より望ましくは1μm以内の深さ領域に分散していることが望ましい。本実施例ではポリマー成形品の最表面から約0.5μmの深さまでの領域に炭酸カルシウム微粒子を高濃度に分散させた。なお、ポリマー成形品の溶出物質の含浸深さは、溶出物質の粒径や溶出物質への化学修飾の有無等により調整することができる。具体的には、溶出物質を微粒化したり、あるいは、化学修飾して樹脂との相溶性を向上させた場合には、射出成形時に、成形品の表面に溶出物質が分散し易くなる。
【0122】
また、本実施例では、メッキ処理中に溶出物質の溶出を行ったが、溶出物質の溶出プロセスをメッキ処理前にバッチ処理で行ってもよい。その場合も、水、アルコール、加圧二酸化炭素の少なくとも1種類を含む溶液中で、溶出物質の溶解、抽出反応を行うことが望ましい。
【0123】
本実施例のメッキ膜の形成方法では、無電解メッキ液が樹脂内部の炭酸カルシウムを溶解させながら速やかに内部に浸透し、触媒核と反応するので、成形品表面全体にメッキ薄膜のつきまわる反応時間(メッキ処理時間)が大幅に短縮された。具体的には、ポリマー成形品の内部に炭酸カルシウムを分散させない場合には、メッキ処理時間は2分であったが、本実施例の方法では1分であった。また、本実施例の処理方法のように、メッキ処理後にポリマー成形品をプレスすることにより、メッキ膜とポリマーの密着強度が向上した。具体的には、プレス成形を行わない場合にはメッキ膜とポリマーの密着強度が0.9kgf/cmであったが、本実施例の方法でメッキ膜を形成した場合には密着強度が1.3kgf/cmとなった。
【0124】
上記実施例1〜4では、射出成形の成形条件により、ポリマー成形品のメッキ膜形成面の金属微粒子(金属物質)の濃度を調整したが、本発明はこれに限定されない。例えば、後述する実施例5〜9のように、まず、大気圧下で無電解メッキ反応が起こる程度の濃度で金属微粒子が最表面に存在するポリマー成形品を成形し、次いで、硝酸や塩酸、王水等の酸でポリマー成形品を洗浄し、最表面の金属微粒子を除去して、メッキ膜形成面の金属微粒子の濃度を調整しても良い。また、別の方法としては、大気圧下で無電解メッキ反応が起こる程度の濃度で金属微粒子が最表面に存在するポリマー成形品を作製し、次いで、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を通過させるような材料(例えば、ポリマー成形品と同じ材料)からなる膜をポリマー成形品のメッキ膜形成面上に形成しても良い。
【実施例5】
【0125】
実施例5では、バッチ処理によりポリマー部材の表面に無電解メッキ膜を形成する方法を説明する。
【0126】
本実施例では、ポリマー部材として、携帯電話やデジタルカメラ等で用いられるカメラレンズモジュールのマウントを用いた。本実施例のポリマー部材の概略断面図を、図17に示した。図17に示すように、カメラレンズモジュール701は、内穴708を有するマウント702と、レンズ704と、レンズ704を固定するレンズホルダー703とから構成される。なお、図17(a)はマウント702とレンズホルダー703を分解した際の図であり、図17(b)はマウント702とレンズホルダー703を合体させた際の図である。図17(a)に示すように、レンズホルダー703は内穴707が設けられており、その内穴707に、レンズ704が固定されている。また、カメラモジュール701下部には、図示しないC−MOSセンサー等の撮像素子が固定される。
【0127】
レンズホルダー703の外壁には、図17(a)に示すように、ネジ溝705が形成されており、マウント702の内穴708内壁の上端部には、レンズホルダー703のネジ溝705と勘合するネジ溝706が形成されている。レンズホルダー703のネジ溝705と、マウント702のネジ溝706とを勘合させることにより、図17(b)に示すように、マウント702とレンズホルダー703とが合体される。
【0128】
なお、携帯電話やデジタルカメラ等で用いられるカメラレンズモジュール701では、レンズ704により被写体像をCCDやC−MOS等の撮像素子等のセンサーに結像させるが、携帯電話本体からの電気信号ノイズによる該モジュールへの悪影響を抑制する方法として、撮像素子に隣接したマウント702を電磁波シールドすることが望ましい。しかしながら、マウント702全体にメッキ膜を形成した場合、マウント702の内壁表面が金属の光沢膜であると、マウント702内部で光が反射するのでゴーストフレアの要因となる。それゆえ、本実施例のメッキ膜の最終工程では、マウント702の表面に黒色無電解メッキを施した。
【0129】
また、本実施例では、ポリマー部材702(マウント)の形成材料として、ガラス繊維およびミネラル65%入りの強化ポリフタルアミド(ソルベイアドバンストポリマー製アモデルAS−1566HS)を用いた。
【0130】
[メッキ装置]
実施例5で用いたメッキ装置の概略構成図を図16に示した。メッキ装置300は、図16に示すように、主に、二酸化炭素ボンベ321、フィルター326、高圧シリンジポンプ320及び高圧容器301から構成されており、これらの構成要素は配管327により接続されている。また、図16に示すように、各構成要素間を繋ぐ配管327には、加圧二酸化炭素の流動を制御するための手動バルブ322〜324が所定の位置に設けられている。
【0131】
高圧容器301は、図16に示すように、無電解メッキ液308及びポリマー部材702が収容される容器本体302と、蓋303とからなる。蓋部303には、公知のバネが内蔵されたポリイミド製シール304が設けられており、ポリイミド製シール304により、高圧容器301内部に高圧ガスを密閉する。また、蓋303のメッキ液308側の表面(下面)には、複数のポリマー部材702を無電解メッキ液308内に吊るして保持することのできる保持部材305が設けられている。一方、容器本体302内の底部には、無電解メッキ液308を攪拌するためのマグネチックスターラー306が設けられている。また、容器本体302は、温調流路307を有しており、温調機(不図示)により温度制御された温調水をこの温調流路307内に流すことにより、高圧容器301の温度が調整される。なお、この例では、30℃から145℃の任意の温度により温調することができる。また、容器本体302の側壁部には、図16に示すように、加圧二酸化炭素の導入口325を設けた。
【0132】
本実施例では、高圧容器301の形成材料としてSUS316Lを用いた。なお、高圧容器301の形成材料としては、腐食されにくい材質を用いることが望ましく、SUS316、SUS316L、インコネル、ハステロイ、チタン等を用いることができる。また、本実施例では、高圧容器301の内壁面が無電解メッキ液に接触した際に容器内壁にメッキ膜が成長しないようにするため、高圧容器301の内壁面には、CVD(Chemical Vapor Deposition化学気相法)によりDLC(ダイヤモンドライクカーボン)からなる非メッキ成長膜を形成した。なお、非メッキ成長膜としてはPTFE(ポリテトラフロオロエチレン)、PEEK(ポリエチルエーテルケトン)等を用いることもできる。
【0133】
また、本実施例では、無電解メッキ液308としてニッケルーリンを用いた。なお、無電解メッキ液としては、ニッケルーホウ素、パラジウム、銅、銀、コバルト等を用いても良い。また、無電解メッキ液308としては、中性、弱アルカリ性から酸性の浴でメッキできる液が好適であり、ニッケルーリンの場合はpH4〜6の範囲で用いることができるので望ましい。なお、加圧二酸化炭素を導入する前の無電解メッキ液308の条件によっては、加圧二酸化炭素を無電解メッキ液に浸透させる(導入する)ことで、無電解メッキ液308のpHが低下し、リン濃度が上昇して、メッキ膜の析出速度が低下する等の弊害が生じる恐れもあるので、予め無電解メッキ液308のpHを上昇させておいてもよい。
【0134】
本実施例では、無電解メッキ液308の原液として、硫酸ニッケルの金属塩と還元剤や錯化剤が含まれる奥野製薬社製ニコロンDKを用いた。また、無電解メッキ液308にアルコールを混合させた。本実施例で用い得るアルコールの種類は任意であり、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘプタノール、エチレングリコール等を用いることができるが、本実施例ではエタノールを用いた。より具体的には、無電解メッキ液1l中の各成分の割合は、硫酸ニッケルの金属塩と還元剤や錯化剤の含まれる原液(奥野製薬社製ニコロンDK)を150ml、水を350ml、及び、アルコール(エタノール)を500mlとした。すなわち、無電解メッキ液308中のアルコールの割合(体積比率)は50%とした。なお、硫酸ニッケルはアルコールに不溶なので、アルコールの添加量が80%を超えると硫酸ニッケルが多く沈殿するので適用できないことがわかった。
【0135】
本発明者らの検討によれば、無電解メッキ液308は水が主成分であるが、アルコールを混合することで、高圧状態の二酸化炭素と無電解メッキ液が安定に混ざり易くなることが分かった。これは、アルコールと超臨界二酸化炭素とが相溶し易いことによるものと考えられる。それゆえ、本実施例のように無電解メッキ液にアルコールを混合した場合には、無電解メッキ液に界面活性剤を添加したり、無電解メッキ液を攪拌する必要がなくなる。さらに、ポリマー部材内に加圧二酸化炭素とともにメッキ液を浸透させてポリマー部材内部でメッキ反応を成長させるためには、メッキ液にアルコールを添加させたほうが、水のみよりも表面張力が低下するため、より好適である。ただし、本発明では、加圧二酸化炭素と無電解メッキ液との相溶性(親和性)をより高めるために、界面活性剤を添加したり、無電解メッキ液を攪拌したりしても良い。この例では、後述するように、界面活性剤を無電解メッキ液に添加し、無電解メッキ液の攪拌も行った。
【0136】
本実施例では、さらに、界面活性剤としてオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルを無電解メッキ液308に対し、3wt%添加した。
【0137】
なお、本実施例で用いたメッキ装置300のシリンジポンプ320では、手動バルブ322、323を開いた状態で圧力一定制御することにより、高圧容器301内部の温度および加圧二酸化炭素の密度が変化した際にも、圧力変動を吸収することができ、それにより、高圧容器301内部の圧力を安定に保持することができる構造になっている。
【0138】
[メッキ膜の形成方法]
まず、次のようにして、金属微粒子が表面内部に浸透したポリマー部材702(マウント)を作製(用意)した。射出成形により、図17に示した所定形状のポリマー部材702を成形した。次いで、成形後のポリマー部材702と金属錯体とを表面改質装置(不図示)の高圧容器(不図示)内に装着した。なお、この際、ポリマー部材702の全表面が、後に高圧容器に導入される超臨界状態の二酸化炭素(以下、超臨界二酸化炭素という)と接するようにポリマー部材702を高圧容器内で保持した。また、この例では、金属錯体としてヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。
【0139】
次いで、高圧容器内に15MPaの超臨界二酸化炭素を導入した。この際、高圧容器内に仕込まれた金属錯体は超臨界二酸化炭素に溶解し、超臨界二酸化炭素とともにポリマー部材702全体の表面内部に浸透する。次いで、高圧容器を120℃で30分間圧力を保持することにより、ポリマー部材702の表面全体に浸透した金属錯体の一部が還元される。この例では、このようにして金属微粒子が表面内部に浸透したポリマー部材702を作製した(図21中のステップS51)。この様子を示したのが、図18であり、図18中の黒丸印709がポリマー部材702の表面内部に浸透している金属微粒子である。なお、上述のようにして作製した金属微粒子が表面内部に浸透したポリマー部材702では、大気圧下でメッキ反応が起こる程度の濃度で金属微粒子がポリマー部材702の最表面に分散していた。
【0140】
次に、上述のようにして作製されたポリマー部材702を、図16に示した高圧容器301の蓋305の保持部材305に装着した後、ポリマー部材702を容器本体302内に挿入して蓋303を閉め、高圧容器301を密閉した。なお、容器本体302には予め無電解メッキ液308を容器本体302の内容積の70%満たしており、蓋303で容器本体302を密閉することにより、界面活性剤およびアルコールを含む無電解メッキ液308中に複数個のポリマー部材702が吊るされた状態となる(図16の状態、図21中のステップS52)。ただし、この時点では、高圧容器301および無電解メッキ液308の温度を、高圧容器301の温調流路307を流れる温調水により、メッキの反応温度(70℃〜85℃)以下である50℃に調整した。それゆえ、この時点では、ポリマー部材702はメッキの反応温度以下の低温(メッキ反応の起こらない温度)の無電解メッキ液と接触しており、ポリマー部材702の表面にメッキ膜は成長しない。
【0141】
次に、加圧二酸化炭素を、次のようにして、メッキ反応が起こらない低温度に温調されている高圧容器301内に導入した。なお、この例では、加圧二酸化炭素として超臨界二酸化炭素を用いた。まず、液体二酸化炭素ボンベ321より取り出した液体二酸化炭素を、フィルター326を介して高圧シリンジポンプ320で吸い上げ、次いで、ポンプ内で15MPaに昇圧にした(超臨界二酸化炭素を生成した)。次いで、手動バルブ322,323を開いて15MPaの超臨界二酸化炭素を導入口325を介して高圧容器301内部に導入し、ポリマー部材702と接触させた(図21中のステップS53)。この際、導入された超臨界二酸化炭素により、ポリマー部材702の表面は膨潤し、また、超臨界二酸化炭素の混合したメッキ液は表面張力が低くなっているので、無電解メッキ液308が超臨界二酸化炭素とともにポリマー部材内部に浸透する。その結果、ポリマー部材702の内部に存在する金属微粒子まで無電解メッキ液308が到達することになる。なお、この例では無電解メッキ液308にアルコールを含ませているので、無電解メッキ液308の表面張力が一層低下するため、無電解メッキ液308がポリマー部材702の内部により浸透し易くなる。
【0142】
なお、この例では、超臨界二酸化炭素導入後に、マグレチックスタラー306を高速で回転させて無電解メッキ液308を攪拌した。上述のように、この例では、無電解メッキ液にアルコールが含まれているので、マグレチックスタラー306を用いて無電解メッキ液308を拡散しなくとも、超臨界二酸化炭素とメッキ液との相溶性を十分に確保できるが、この例では、超臨界二酸化炭素とメッキ液との相溶性をより高くするために、マグレチックスタラー306で無電解メッキ液308を攪拌した。
【0143】
次に、高圧容器301の温度を85℃に昇温し、高圧容器301内でメッキ反応を起こして(無電解メッキを施して)ポリマー部材702の表面にメッキ膜を形成した(図21中のステップS54)。この際、この例のメッキ膜の形成方法では、上述のようにポリマー部材702の内部に存在する金属微粒子のところまで無電解メッキ液が浸透しているので、ポリマー部材702の表面だけでなく、その内部に存在する金属微粒子を触媒核としてメッキ膜が成長する。すなわち、この例のメッキ膜の形成方法では、ポリマー部材702内部の自由体積内にもメッキ膜が成長することとなり、メッキ膜はポリマー部材702の内部に食い込んだ状態でポリマー部材702上に形成される。
【0144】
メッキ終了後、マグネチックスターラー306を停止させ、しばらく静置して、高圧容器301内で二酸化炭素とメッキ液とを2相分離させた。その後、手動バルブ322を閉じて、手動バルブ324を開き、高圧容器301内の二酸化炭素を排気した。次いで、高圧容器301を開けて、ポリマー部材702を高圧容器301から取り出した。取り出されたポリマー部材702を目視で確認したところ、ポリマー部材702の表面全体に金属光沢がみられた。
【0145】
次に、高圧容器301から取り出したポリマー部材702の内部から二酸化炭素および無電解メッキ液を脱気させるために、ポリマー部材702を150℃で1時間アニールした。次いで、酸化されたメッキ膜表面を塩酸で活性化した。その後、大気中で従来の無電解ニッケル−リン液を用いて、常圧で無電解メッキを施し、膜厚500nmのメッキ膜を積層し、さらに、その上に無電解銅メッキを1μmの厚さで積層し、電磁波シールド膜を施した。次いで、黒色の無電解メッキを行ない、無電解銅メッキ膜の上に黒色の無電解ニッケル−リンメッキ膜を積層した。黒色化は、専用の無電解ニッケルーリンメッキ液を用いてメッキを施した後、エッチングにより表面を粗化して行った。これは、ポリマー部材702(マウント)の内壁を黒色化して、光の反射によるゴーストフレアを抑制するためである。この例では、上述のようにして、図19に示すようなポリマー部材702の全表面を金属膜(図19中の符号番号710)で覆ったポリマー部材を得た。
【0146】
[メッキ膜の評価]
上述のようにして作製されたポリマー部材702に対して、高温多湿試験(条件:温度80℃、湿度90%Rh、放置時間500時間)やヒートサイクル試験(80℃と150℃との温度間を15サイクル)を行った後、ピール試験したところ、膜剥れは発生しなかった。また、本実施例の上記プロセスを繰り返し行ったところ、高圧容器301内部にはメッキ膜の成長や容器内壁の腐食は認められなかった。
【0147】
また、この例で作製したポリマー部材702の表面近傍の断面をSEM(走査電子顕微鏡)で観察した。その結果を図20に示した。図20中の領域702aは、メッキ膜が形成されていないポリマー部材702の領域であり、領域702bはポリマー部材702の内部に金属膜が成長している層である。また、図20中の領域702cは、大気中で従来の無電解ニッケル−リン液を用いて、常圧で無電解メッキを施した際に形成された金属膜の領域であり、図20中の領域702dは、無電解銅メッキ膜の領域である。それゆえ、領域702bと領域702cの境界付近が、ポリマー部材702の最表面となる。図20の観察像から明らかなように、ポリマー部材702の内部に金属膜が成長している層が形成されたことが確認された(図20中の領域702b)。
【0148】
この例では、さらに、ポリマー部材702の内部に存在する金属をXRD(X線回折装置)により成分分析したところ、Ni、PとPdが検出された。この結果から、ポリマー部材702の内部に浸透した金属錯体由来のPdが触媒として働き、ポリマー内部でNi−Pメッキ膜が成長していることが確認された。
【実施例6】
【0149】
実施例6では、実施例5と同様に、バッチ処理によりポリマー部材の表面に無電解メッキ膜を形成する方法を説明する。なお、この例では、メッキ装置内の高圧容器に実施例5と異なる構造の高圧容器を用いた。なお、この例で用いた無電解メッキ液は実施例5と同じとした。また、この例では、実施例5と同様に、カメラレンズモジュールのマウント(図17に示す構造のマウント702)の表面に金属膜を形成した。また、無電解メッキ液に導入する加圧二酸化炭素としては、超臨界二酸化炭素を用いた。
【0150】
[メッキ装置]
実施例6で用いたメッキ装置の概略構成図を図22に示した。メッキ装置400は、図22に示すように、主に、二酸化炭素ボンベ421、フィルター426、高圧シリンジポンプ420、及び、高圧容器401から構成されており、これらの構成要素は配管427により接続されている。また、図22に示すように、各構成要素間を繋ぐ配管427には、超臨界二酸化炭素の流動を制御するための手動バルブ422〜424が所定の位置に設けられている。
【0151】
高圧容器401は、図22に示すように、容器本体402と、蓋403と、容器本体402の内部に収容される内部容器409とからなる。蓋403は、実施例5のようにポリマー部材702を保持する保持部材を備えないこと以外は、実施例5と同様の構造である。この例の容器本体402では、その内壁表面に、非メッキ成長膜を設けなかったこと以外は、実施例5と同様の構造とした。そして、この例のメッキ装置400では、金属製の容器本体402の内部に収容可能なPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の内部容器409を用い、この内部容器409内でポリマー部材702に無電解メッキを施した。
【0152】
内部容器409は、図22に示すように、無電解メッキ液408及びポリマー部材702が収容される容器本体部409aと、蓋部409bとからなる。蓋部409bの無電解メッキ液408側の表面(下面)には、複数のポリマー部材702を無電解メッキ液408内に吊るして保持することのできる保持部材405が設けられている。この保持部材405は、実施例5の保持部材と同様の構造を有する。一方、容器本体部409a内の底部には、無電解メッキ液408を攪拌するためのマグネチックスターラー406が設けられている。また、容器本体部409aの上端付近の外壁にはネジ溝が形成されており、蓋部409b内壁には容器本体部409aの上端の外壁に設けられたネジ溝と勘合するネジ溝が形成されている。そして、容器本体部409aのネジ溝と蓋部409bのネジ溝とを勘合させることにより、内部容器409を閉める構造になっている。
【0153】
[メッキ膜の形成方法]
まず、この例では、実施例5と同様にして、金属微粒子が表面内部に浸透したポリマー部材702(図18に示した形状のマウント702)を作製(用意)した。なお、この例では、金属錯体としてヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。
【0154】
次いで、成形後のポリマー部材702を、図22に示した内部容器409の蓋部409bの保持部材405に装着した後、ポリマー部材702を容器本体部409a内に挿入して蓋部409bを閉めた。なお、この際、図22に示したように、界面活性剤およびアルコールを含む無電解メッキ液408中に複数個のポリマー部材702が吊るされた状態となる。そして、常温でこの状態を保持した。それゆえ、この時点では、無電解メッキ液408の温度はメッキ反応温度(70℃〜85℃)以下であるのでポリマー部材702の表面にメッキ膜は成長しない。
【0155】
次いで、予め90℃に温調しておいた高圧容器401内に、内部容器409を挿入して、蓋403を閉め、直ちに、超臨界二酸化炭素を実施例5と同様にして導入口425を介して高圧容器401内に導入した。その後、マグネチックスターラー406で無電解メッキ液408を攪拌した。この際、内部容器409の容器本体部409aと蓋部409bは、上述のように、ネジで勘合されているが、その状態においても、超臨界二酸化炭素は、粘度が低く拡散性が高いので、内部容器409のネジで勘合されている部分のわずかの隙間から内部容器409の内部に充分に導入される。また、この時点では、内部容器409には熱伝導性の低い樹脂を使用しているので、内部容器409内の温度は急激には上昇しないので、メッキ反応が起こる温度以下の低温度になっており、ポリマー部材702の表面にメッキ膜は成長しない。それゆえ、内部容器409を高圧容器401内に挿入して、直ちに超臨界二酸化炭素を導入すると、実施例5と同様に、ポリマー部材702の表面は膨潤し、また、超臨界二酸化炭素の混合したメッキ液は表面張力が低くなっているので、無電解メッキ液が超臨界二酸化炭素とともにポリマー部材702の内部に浸透し、ポリマー部材702の内部に存在する金属微粒子まで無電解メッキ液が到達する。
【0156】
その後、時間の経過とともに、内部容器409内の温度が上昇し、最終的には無電解メッキ液408等の温度がメッキ反応温度まで上昇する。その時点で内部容器409でメッキ反応が起こり、ポリマー部材702の表面にメッキ膜が成長する。この際、この例のメッキ膜の形成方法では、上述のようにポリマー部材702の内部に存在する金属微粒子のところまで無電解メッキ液が浸透しているので、ポリマー部材702の表面だけでなく、その内部に存在する金属微粒子を触媒核としてメッキ膜が成長する。すなわち、この例のメッキ膜の形成方法では、メッキ膜はポリマー部材702の内部に食い込んだ状態でポリマー部材上に形成される。
【0157】
次に、上述したメッキ処理後(内部容器409の挿入後、約30分経過後)、超臨界二酸化炭素を高圧容器401から排気し、そのまま90℃に内部容器409を温調保持した。このプロセスにより、ポリマー部材702の内部から成長したメッキ膜の上に、さらに常圧でメッキ膜を成長させた。その後、内部容器409を高圧容器401から取り出し、次いで、内部容器409からポリマー部材702を取り出した。次いで、内部容器409から取り出したポリマー部材702に対して、実施例5と同様にして、無電解銅メッキおよび黒色無電解ニッケルーリンメッキを施した。この例では、上述のようにして、図19に示すような全表面が金属膜(図19中の符号番号710)で覆われたポリマー部材702を得た。
【0158】
[メッキ膜の評価]
上述のようにして作製されたポリマー部材702に対して、実施例5と同様にして環境試験(高温多湿試験、ヒートサイクル試験)及び密着性評価(ピール試験)を行ったところ、実施例5と同様に、密着性の高いメッキ膜がポリマー部材702上に形成されていることが分かった。
【0159】
また、本実施例の高圧容器401の内部にはメッキ膜は確認されなかった。それゆえ、本実施例のように、樹脂製の内部容器を用いた場合には、高圧容器401内部をコーティングしなくても高圧容器401内壁にメッキが成長することはないので、安定したメッキを行うことができる。また、高圧容器401の表面の腐食を抑制することができるので、超臨界二酸化炭素を用いたメッキ膜の形成方法として好適なメッキ装置である。
【実施例7】
【0160】
実施例7では、無電解メッキ液に界面活性剤を添加しなかったこと、及び、マグネチックスターラーによる無電解メッキ液の攪拌を行わなかったこと以外は、実施例6と同様のメッキ装置を用いて、同様の方法によりポリマー部材に無電解メッキ処理を行った。
【0161】
また、この例で作製されたポリマー部材に対しても、実施例6と同様にして環境試験(高温多湿試験、ヒートサイクル試験)及び密着性評価(ピール試験)を行ったところ、実施例6と同様に、密着性の高いメッキ膜がポリマー部材上に形成されていることが分かった。すなわち、本発明のメッキ膜の形成方法によれば、界面活性剤やマグネチックスタラーを用いて超臨界二酸化炭素と無電解メッキ液との親和性(相溶性)の向上は図らなくても、無電解メッキ液にアルコールのみを添加することにより良好な密着性を有するメッキ膜をポリマー上に形成できることが分かった。
【実施例8】
【0162】
実施例8では、メッキ装置の高圧容器の内壁に非メッキ成長膜をコーティングしなかったこと以外は、実施例5と同様のメッキ装置を用いて、実施例5と同様の方法によりポリマー部材に無電解メッキ処理を行った。
【0163】
また、この例で作製されたポリマー部材に対しても、実施例5と同様にして環境試験(高温多湿試験、ヒートサイクル試験)及び密着性評価(ピール試験)を行ったところ、実施例5と同様に、密着性の良好なメッキ膜がポリマー部材上に形成されていることが分かった。ただし、この例では、メッキ装置の高圧容器の内壁に非メッキ成長膜を形成しなかったので、高圧容器内壁にはメッキ膜の成長および腐食が確認された。
【0164】
[比較例1]
比較例1では、無電解メッキ液にアルコールを混合しなかったこと、無電解メッキ液に超臨界二酸化炭素の圧力を20MPaと高くしたこと、及び、メッキ装置の内部容器で攪拌を行わなかったこと以外は、実施例6と同様のメッキ装置を用いて、実施例6と同様にしてポリマー部材の無電解メッキ処理を行った。
【0165】
また、この例で作製されたポリマー部材に対しても、実施例5と同様にして環境試験(高温多湿試験、ヒートサイクル試験)及び密着性評価(ピール試験)を行ったところ、作製した殆どのポリマー部材で無電解メッキ膜に剥離が生じた。
【0166】
上記実施例5〜8及び比較例1における高圧容器の形態、無電解メッキ液の条件、及び、評価結果をまとめた表を表1に示す。なお、表1中のメッキ膜の密着性及び高圧内壁の腐食性の評価基準は、次の通りである。
メッキ膜の密着性:
◎ 環境試験(高温多湿、ヒートサイクル試験)後のピール試験で問題がない場合(メッキ膜の剥離、膜膨れ等がない場合)
○ 環境試験前のピール試験で問題がない場合
× 環境試験前のピール試験で剥離した場合
容器内壁の腐食性及びメッキ膜の成長:
○ 容器内壁に錆やメッキ膜の成長がない場合
× 容器内壁に錆やメッキ膜の成長が発生した場合
【0167】
【表1】
【実施例9】
【0168】
実施例9では、実施例1と同様の射出成形機を用いてポリマー成形品を射出成形した後に、同じ射出成形機内で無電解メッキ処理を行う方法について説明する。ただし、本実施例では、実施例1と異なる方法で成形処理及び無電解メッキ処理を行った。なお、本実施例では、実施例1と同様に、ポリマー成形品として自動車ヘッドライトのリフレクターを作製した。
【0169】
[ポリマー成形品の成形方法]
本実施例における表面内部に金属微粒子を浸透させたポリマー成形品の成形方法を図1〜3を参照しながら説明する。なお、本実施例では、実施例1と同様に、可塑化シリンダー52内で可塑化計量した溶融樹脂の先端部(フローフロント部)に金属微粒子を溶解した加圧二酸化炭素を導入した。
【0170】
まず、溶解槽35において金属錯体をエタノールに溶解させ、金属錯体が溶解したエタノールをシリンジポンプ34内で15MPaに昇圧した。一方、液体二酸化炭素ボンベ21よりフィルター57を介してシリンジポンプ20に供給し、シリンジポンプ20内で液体二酸化炭素を15MPaと昇圧した。そして、昇圧された二酸化炭素と金属錯体が溶解したエタノールと配管80内で混合した(加圧混合流体を生成した)。なお、この加圧混合流体を可塑化溶融装置110に供給する際、加圧混合流体の供給圧力は、圧力計49の表示が15MPaになるように、背圧弁48により制御した。また、両シリンンジポンプ20,34からのエタノール溶液と加圧二酸化炭素との加圧混合流体の送液は、各シリンジポンプ20,34の制御を圧力制御から流量制御に切り替えて行った。さらに、加圧混合流体を可塑化溶融装置110に供給する際には、加圧混合流体を、配管80内で図示しないヒーターにより50℃に温度制御しつつ、可塑化溶融装置110に供給した。
【0171】
次に、加圧混合流体を可塑化溶融装置110内に導入する手順を図1及び2を参照しながら説明する。まず、ホッパー50から樹脂ペレットを供給しながら、可塑化シリンダー52内のスクリュー51を回転させて、樹脂の可塑化計量を行った。可塑化計量完了時における導入バルブ65付近の状態を示したのが図2(a)である。なお、この際、図2(a)に示すように、導入バルブ65の導入ピン70が後退(図2(a)中の左側に移動)することで、溶融樹脂66へ加圧混合流体67が導入されること遮断している。
【0172】
次いで、スクリュー51をサックバック(後退)して、溶融樹脂66の内圧力を低下させると同時に、両シリンジポンプ20,34を圧力制御から流量制御に切り替え、該金属錯体の溶解したエタノールと二酸化炭素の流量をそれぞれ上述の方法にて1:10としながら、加圧混合流体67を導入バルブ65を介して可塑化シリンダー52内のフローフロント部の溶融樹脂66に導入した(図2(b)の状態)。図2(b)中の領域68が加圧混合流体67が浸透した溶融樹脂の部分である。なお、加圧混合流体67の導入は、樹脂圧および加圧混合流体67の圧力を、それぞれ圧力センサー40,47で監視しながら行った。
【0173】
次いで、両シリンジポンプ20,34を停止して加圧混合流体67の送液を停止した。また、それと同時に、スクリュー51を前進させて、樹脂圧力を再度上昇させ、導入ピン70を後退(図2(b)中の左方向に移動)させた。それにより、加圧混合流体67の導入を停止するとともに、加圧混合流体67と溶融樹脂66とを相溶させた。
【0174】
次いで、両シリンジポンプ20,34を、配管80中の図示しない自動バルブを閉鎖した後、可塑化溶融装置110に供給した加圧二酸化炭素及び金属錯体が溶解したエタノール溶液の流量分をシリンジポンプ20,34内に補液した。その後、圧力制御に切り替え、15MPaの高圧に保持し、次ショットの送液まで待機させた。
【0175】
次に、可塑化シリンダー52内のフローフロント部の溶融樹脂66に加圧混合流体67を導入した後、型締め装置111の油圧型締め機構(不図示)により型締めされ、温調回路(不図示)により温度制御された金型内に画成されたキャビティ104に溶融樹脂を射出充填した。なお、この際、射出充填するまでの射出速度を200m/sとした。
【0176】
次いで、成形品を冷却固化した(図3の状態)。なお、溶融樹脂を金型内に射出成形する際、最初に射出されるフローフロント部の溶融樹脂68は噴水効果(ファウンテンフロー)により、射出成形品の表皮を形成する。すなわち、この例では、フローフロント部近傍に金属錯体由来の金属微粒子が分散しているので、図3に示すように、ポリマー成形品507の表皮505(表面内部)には金属微粒子が含浸したポリマー成形品507が得られる(図23中のステップS91)。この例では、このようにして、表皮であるスキン層505に金属微粒子が分散し、内皮であるコア層506に、ほとんど金属微粒子が存在しないポリマー成形品507’を得た。
【0177】
なお、本実施例の成形処理では、上述したように、実施例1のように、可塑化シリンダー52内のフローフロント部の樹脂に金属錯体を樹脂に十分に浸透させた後に減圧処理を行わず、且つ、実施例1より高速でフローフロント部の樹脂を射出した。この動作により、後述する射出充填でスキン層を形成した際に、金属微粒子や二酸化炭素ガスがスキン層の表面(成形品の最表面)に浮き出易くなり、大気圧下でメッキ反応が起こる程度の濃度で金属微粒子がスキン層の表面(成形品の最表面)に分散する(図24参照)。
【0178】
[メッキ膜の形成方法]
上述のようにして作製された表面内部に金属微粒子が分散したポリマー成形品507に対して、次のようにして、金型内で無電解メッキ処理を行った。なお、無電解メッキ処理を行っている間、金型内部は80℃に温調した。
【0179】
まず、図4に示すように、型締め装置111の油圧型締め機構(不図示)を後退(図4中の下方向)させることにより、可動プラテン56および可動金型54を後退させ、固定金型53とポリマー成形品507との間に隙間508(キャビティ508)を設けた。
【0180】
次いで、無電解メッキ装置部101の二酸化炭素ボンベ21より供給した二酸化炭素をポンプ19で昇圧し、バッファータンク36に貯蔵した。次いで、自動バルブ43を開放して、バッファータンク36に貯蔵されていた加圧二酸化炭素をメッキ液導入路61を介してキャビティ508に導入してポリマー成形品507の表面に加圧二酸化炭素を接触させた(図23中のステップS92)。なお、この際、固定金型53の外径部に設けられたバネ内蔵シール17と可動金型54の勘合により、キャビティ508はシールされているので、導入された加圧二酸化炭素が金型外部に漏れ出すことはない。また、この際、キャビティ508における加圧二酸化炭素の圧力は15MPaとした。このように、ポリマー成形品507の表面に加圧二酸化炭素を接触させることにより、ポリマー成形品507の表面が膨潤するので、次いで導入される加圧二酸化炭素と無電解メッキ液との混合流体のポリマー成形品507の内部への浸透がよりスムーズに行われるという効果が得られる。
【0181】
次いで、次のようにして、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液をキャビティ508に導入して、ポリマー成形品507に接触させた。まず、予め、無電解メッキ装置部101のメッキタンク11から供給されたアルコールおよび界面活性剤混合の無電解メッキ液と、バッファータンク36から供給された15MPaの加圧二酸化炭素とを、高圧容器10内にて混合させた。なお、この例の無電解メッキ液は、それに含まれる各成分の割合が、実施例5と同様となるように調合した。また、この際、スタラー16の駆動および、マグネチックスタラー6の高速回転により加圧二酸化炭素と無電解メッキ液とを高圧容器10内で相溶させた。次いで、自動バルブ43を閉鎖し、自動バルブ44,45を開放した。
【0182】
次いで、循環ポンプ90を運転し、高圧容器10、配管15およびキャビティ508からなる循環流路に、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を循環させて、ポリマー成形品507の表面に無電解メッキ液を接触させ、メッキ膜(ニッケルリン膜)を形成した(図23中のステップS93)。この際、ポリマー成形品507の表面は膨潤しているので、ポリマー成形品507の表面から無電解メッキ液がポリマー成形品507の内部に浸透するとともに、ポリマー成形品507内部に分散する金属微粒子を触媒核にして、メッキ膜が成長する。すなわち、ポリマー成形品507上に形成されたメッキ膜はポリマー成形品507の内部に食い込んだ状態で成長するので、密着性の優れたメッキ膜が形成される。なお、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液が循環している際には、キャビティ508および循環ライン15の圧力は圧力センサー58,59で同圧になっていた。また、無電解メッキ液の補給は、メッキタンク11より供給したメッキ液をシリンジポンプ33で昇圧して、自動バルブ46の開放と同時に送液することで随時行った。
【0183】
次いで、上述のようにしてポリマー成形品507上にメッキ膜を形成した後、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液の循環経路から加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を回収容器63を介して回収槽12から排気した。具体的には、自動バルブ44,45を閉鎖し、次いで、自動バルブ38を開放することで、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を回収容器63に排出した。回収容器63では、回収した加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液が、遠心分離の原理で水溶液(メッキ液)と高圧ガス(二酸化炭素)に分離される。メッキ液は回収槽12で回収し再利用することができる。ガス化した二酸化炭素は回収容器63の上部から排出され、図示しない排気ダクトに回収される。
【0184】
次いで、自動バルブ43を一定時間開いて、固定金型53とポリマー成形品507との間の隙間508(キャビティ508)に加圧二酸化炭素を導入し、キャビティ508に残ったメッキ液の残留物を加圧二酸化炭素とともに金型の外へ排出した。次いで、キャビティ508の内圧が圧力センサー59のモニター値でゼロになったところで、金型を開きポリマー成形品507を取り出した。
【0185】
次に、取り出したポリマー成形品507に対して、通常の置換型金メッキを施して、ポリマー成形品507の表面に金メッキ膜を積層した。この例では、上述のようにして、表面にメッキ膜が形成されたポリマー成形品507を得た。
【0186】
この例で作製されたポリマー成形品507の一部の模式断面図を図24に示した。この例で作製されたポリマー成形品507のスキン層505内部には金属微粒子600(図24中の黒丸印)が分散していることが確認された。また、ポリマー成形品507の片側には、金型内で成長させたニッケルーリンの金属膜509が形成されており、ニッケルーリンの金属膜509はポリマー成形品507の内部から成長していた(金属膜509の浸透層が形成されていた)。また、ニッケルーリンの金属膜509の上に金の高反射膜510が形成されていた。
【0187】
また、この例で作製されたポリマー成形品507に対しても、金属膜の密着性評価を、実施例5と同様な高温多湿環境試験にて行った。また、温度150℃、報知時間500時間の条件で高温試験も行った。その結果、実施例5と同様の結果が得られ、金属膜の密着性の低下は認められなかった。さらに、この例で作製されたポリマー成形品507の表面粗さRaを測定したところ、金型の表面粗さと同等のRa=100nmであった。すなわち、この例のメッキ膜の形成方法によれば、射出成形と同時にメッキ処理を行うことができ、プロセスが簡略化することができるだけでなく、密着性が高く且つ平滑な金属膜を耐熱性の高い樹脂材料に形成できることが分かった。
【0188】
なお、上記実施例9の無電解メッキ処理では、まず、加圧二酸化炭素のみをポリマー成形品に接触させてポリマー成形品の表面を膨潤した後に、無電解メッキ液をポリマー成形品に接触させたが、本発明はこれに限定されない。例えば、ポリマー成形品に加圧二酸化炭素を含み且つメッキ反応の起こらないメッキ液濃度を有する第1の無電解メッキ液をポリマー成形品に接触させ、次いで、加圧二酸化炭素を含み且つメッキ反応の起こるメッキ液濃度を有する第2の無電解メッキ液をポリマー成形品に接触させてメッキ膜を形成してもよい。なお、ここでいう、メッキ液濃度とは、メッキ液中の、メッキ反応を決定する因子である次亜燐酸ナトリウム等の還元剤の濃度のことである。すなわち、上記方法をより具体的に説明すると、メッキ反応が起きない程度に十分に還元剤量が少ない無電解メッキ液(第1の無電解メッキ液)と加圧二酸化炭素をポリマー成形品に接触させることでポリマー内にメッキ液を浸透させ、次いで、第1の無電解メッキ液を、十分にメッキ反応が起きる程度に還元剤が含まれた無電解メッキ液(第2の無電解メッキ液)に置換してもよい。または、還元剤を主成分とする水やアルコ−ルの含まれる溶媒と加圧二酸化炭素を、還元剤の少ない第1の無電解メッキ液に添加することで、第2の無電解メッキ液を形成してもよい。
【0189】
上記実施例1〜9では、ポリマー部材(ポリマー成形品)の形成材料として結晶材料を用いた例を説明したが、本発明はこれに限定されず、ポリマー部材(ポリマー成形品)の形成材料として非結晶材料を用いた場合でも同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0190】
本発明のメッキ膜の形成方法では、ポリマーの表面を粗化することなく、ポリマーの内部から成長したメッキ膜を形成することができるので、様々な種類のポリマーに対して密着性の優れたメッキ膜を形成する方法として最適である。
【0191】
また、本発明のメッキ膜の形成方法において、射出成形機内で無電解メッキ処理を行った場合には、密着性が高く平滑な金属膜を耐熱性の高い樹脂材料に形成できるので、LED等高い耐熱性の要求される自動車用ヘッドライトのリフレクター等の作製方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1】図1は、実施例1で用いた製造装置の概略構成図である。
【図2】図2は、可塑化シリンダー内の溶融樹脂に金属錯体を溶解した加圧二酸化炭素を導入する際の様子を示した図であり、図2(a)は溶融樹脂の可塑化軽量完了時の様子を示した図であり、図2(b)は加圧二酸化炭素導入時の様子を示した図である。
【図3】図3は、実施例1のポリマー成形品の製造方法において、ポリマー成形品の射出成形完了時の様子を示した図である。
【図4】図4は、実施例1のポリマー成形品の製造方法において、ポリマー成形品に対して無電解メッキ処理を施している際の様子を示した図である。
【図5】図5は、実施例1のメッキ膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図6】図6は、実施例1の成形後のポリマー成形品の断面構造を模式的に表した図である。
【図7】図7は、実施例1で作製したポリマー成形品の断面構造を模式的に表した図である。
【図8】図8は、実施例2で用いた成形装置の概略構成図である。
【図9】図9は、実施例2におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するための図である。
【図10】図10は、実施例2におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するための図である。
【図11】図11は、実施例2におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するための図である。
【図12】図12は、実施例2におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するための図である。
【図13】図13は、実施例2におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するための図である。
【図14】図14は、実施例2におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するための図である。
【図15】図15は、実施例2におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図16】図16は、実施例5で用いたメッキ装置の概略構成図である。
【図17】図17は、実施例5で作製したポリマー部材の概略断面図であり、図17(a)はマウントとレンズホルダーを分解した際の図であり、図17(b)はマウントとレンズホルダーを合体させた際の図である。
【図18】図18は、実施例5のメッキ膜の形成方法において、ポリマー部材の表面改質後のポリマー部材の概略断面図である。
【図19】図19は、実施例5のメッキ膜の形成方法において、ポリマー部材の表面にメッキ膜を形成した後のポリマー部材の概略断面図である。
【図20】図20は、実施例5で作製したポリマー部材の表面近傍のSEM画像である。
【図21】図21は、実施例5のメッキ膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図22】図22は、実施例6で用いたメッキ装置の概略構成図である。
【図23】図23は、実施例9のメッキ膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図24】図24は、実施例9で作製したポリマー成形品の断面構造を模式的に表した図である。
【符号の説明】
【0193】
500 製造装置
501 無電解メッキ装置部
502 表面改質装置部
503 射出成形装置部
504 キャビティ
505 スキン層(表皮)
506 コア層
507 ポリマー成形品
509 無電解ニッケル−リン膜
550 金属微粒子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー部材にメッキ膜を形成する方法であって、
表面内部にメッキ触媒核となる金属物質が含浸したポリマー部材を用意することと、
加圧二酸化炭素及びアルコールを含む無電解メッキ液を上記ポリマー部材に接触させて、上記ポリマー部材にメッキ膜を形成することとを含むメッキ膜の形成方法。
【請求項2】
上記メッキ膜をポリマー部材の内部から成長させることを特徴とする請求項1に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項3】
上記無電解メッキ液中の上記アルコールの体積比率が10〜80%であることを特徴とする請求項1または2に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項4】
成形機を用いて上記ポリマー部材を作製し、上記ポリマー部材を用意することが、上記成形機内の上記ポリマー部材の溶融樹脂に上記金属物質が溶解した加圧二酸化炭素を導入することと、上記金属物質が導入された溶融樹脂を成形することとを含むことを1〜3のいずれか一項に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項5】
上記ポリマー部材が大気圧下で無電解メッキ液に不活性であるメッキ膜形成面を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項6】
上記ポリマー部材にメッキ膜を形成することが、加圧二酸化炭素をポリマー基材に接触させてポリマー部材の表面近傍を膨潤させることと、上記ポリマー部材の表面近傍を膨潤させた状態で、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を上記ポリマー部材に接触させることとを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリマー部材のメッキ膜の形成方法で用いるための無電解メッキ液であって、
上記無電解メッキ液の原液と、
アルコールとを備える無電解メッキ液。
【請求項8】
上記無電解メッキ液中の上記アルコールの体積比率が10〜80%であることを特徴とする請求項7に記載の無電解メッキ液。
【請求項9】
さらに、加圧二酸化炭素を備える請求項7または8に記載の無電解メッキ液。
【請求項1】
ポリマー部材にメッキ膜を形成する方法であって、
表面内部にメッキ触媒核となる金属物質が含浸したポリマー部材を用意することと、
加圧二酸化炭素及びアルコールを含む無電解メッキ液を上記ポリマー部材に接触させて、上記ポリマー部材にメッキ膜を形成することとを含むメッキ膜の形成方法。
【請求項2】
上記メッキ膜をポリマー部材の内部から成長させることを特徴とする請求項1に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項3】
上記無電解メッキ液中の上記アルコールの体積比率が10〜80%であることを特徴とする請求項1または2に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項4】
成形機を用いて上記ポリマー部材を作製し、上記ポリマー部材を用意することが、上記成形機内の上記ポリマー部材の溶融樹脂に上記金属物質が溶解した加圧二酸化炭素を導入することと、上記金属物質が導入された溶融樹脂を成形することとを含むことを1〜3のいずれか一項に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項5】
上記ポリマー部材が大気圧下で無電解メッキ液に不活性であるメッキ膜形成面を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項6】
上記ポリマー部材にメッキ膜を形成することが、加圧二酸化炭素をポリマー基材に接触させてポリマー部材の表面近傍を膨潤させることと、上記ポリマー部材の表面近傍を膨潤させた状態で、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を上記ポリマー部材に接触させることとを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリマー部材のメッキ膜の形成方法で用いるための無電解メッキ液であって、
上記無電解メッキ液の原液と、
アルコールとを備える無電解メッキ液。
【請求項8】
上記無電解メッキ液中の上記アルコールの体積比率が10〜80%であることを特徴とする請求項7に記載の無電解メッキ液。
【請求項9】
さらに、加圧二酸化炭素を備える請求項7または8に記載の無電解メッキ液。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
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【図23】
【図24】
【公開番号】特開2008−255390(P2008−255390A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96818(P2007−96818)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【特許番号】特許第4092364号(P4092364)
【特許公報発行日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【特許番号】特許第4092364号(P4092364)
【特許公報発行日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
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