説明

メッシュ電極を利用した光電セル

【課題】光電セルの少なくとも1つの露光側にメッシュ電極を使用する光電セルの様々な実施形態を提供する。
【解決手段】光電セルは、2つの電極の間に配設された、光増感ナノ・マトリックス層と電荷キャリア媒体とからなる。少なくとも1つの露光側電極はメッシュの形の不透明材料から作られる。光電セルは、電極と電荷キャリア媒体との間の電荷移動、電流の流れ、またはその両方を容易にするために、電極のうちの少なくとも1つに隣接して配設された触媒媒体も含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
メッシュ電極を利用した光電セルに関する。
【背景技術】
【0002】
我々の化石燃料の消費および依存を低減したいという願望から、多くの光電材料およびデバイスが開発されてきた。光電材料およびデバイスがエネルギー源として広く採用されるには、主として光電セルの製造に伴うコストおよび技術的な困難が制約となっている。光電セルが商業的に使用可能なエネルギー源であるためには、ある妥当な時間枠内でセルによって生成される電気エネルギーで、それらのセルのエネルギーのコストおよび材料のコストが回収可能でなければならない。
【0003】
2つの電極の間に配設された光電材料を含む典型的な光電セル(サンドイッチ型)を製造するとき、入射光に対する電極の一方または両方の透明性は、経済的および技術的な重要要件になり得る。サンドイッチ型のセルにおいて、セルの少なくとも一方の側は露光側、すなわち入射光がそれを通過して光電材料に到達するセルの側である。光電材料の最大出力エネルギーは、それが受取る入射光の量に依存するので、サンドイッチ型光電セルは露光側電極としてほとんど常に半導体酸化膜(例えばインジウム・スズ酸化物など)を使用する。それらの半導体酸化膜は比較的コストを要し、製造が困難であるが、有用な光電セルを製造するには伝導性と共に透明性が必要であると一般に考えられ、かつ教示されているため、従来技術の光電セルでは、これらの膜に半導体のみが用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、光電セルの少なくとも1つの露光側にメッシュ電極を使用する光電セルの様々な実施形態を提供する。適切なメッシュ電極材料は、金属線材、伝導性ポリマー繊維、金属被覆すなわち金属化された合成ポリマー繊維(例えばナイロンなど)、および金属被覆すなわち金属化された天然繊維(例えば亜麻、綿、羊毛、絹など)を含むが、それらに限定されない。メッシュ電極は、好適には、例えば金属線材・メッシュ、金属被覆すなわち金属化された繊維、またはその両方など、金属メッシュを含む。本明細書で用いられる「線材(wire)」の語は、断面が実質的に円形または楕円形のメッシュ・ストランドだけではなく、断面が、例えば半円形、正方形、および矩形などの非円形および非楕円形のストランドも指す。
【0005】
金属メッシュの線材または繊維は不透明(すなわち光を遮断する)であるが、本発明の光電セルは、露光側電極として半導体酸化膜を使用する先行技術のセルを超える幾つかの利点を提供することが可能である。例えば、高伝導性の金属(例えばステンレス鋼またはチタンなど)からなる金属メッシュ電極の伝導性は、現在入手可能な最良の透明半導体酸化膜の伝導性を凌駕する。また、様々な実施形態において、メッシュ電極を用いて光電セルを形成することにより、それらのセルに半導体酸化膜電極を用いることに伴うコストおよび技術的な問題が低減または除去される。さらに、可撓性メッシュ電極を用いることによって、剛性基板上に光電セルを製造するために典型的に用いられるバッチ法とは対照的に、連続製造法(例えばロール−ツー−ロール、ウェブなど)による本発明の光電セルの製造が容易となる。
【0006】
さらに、本発明のメッシュ電極の不透明な部分は本質的に電極全体の透過率(transmisivity)を低下させるが、線材(または繊維)直径とメッシュの単位面積当たりの線材(または繊維)数とを適切に選択することによって、様々な実施形態において
、本発明は80%を超える透過率のメッシュ電極を提供する。様々な実施形態において、本発明の光電セルは約60%〜約95%の範囲の透過率を有する露光側メッシュ電極を含む。露光側メッシュ電極は好適には約80%を超える透過率を有し、さらに好適には透過率は約90%を超える。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様によれば、本発明は、2つの電極の間に配設された、光増感ナノ・マトリックス層と電荷キャリア媒体とからなる光電セルを提供する。少なくとも1つの露光側電極はメッシュの形の不透明材料から作られる。また好適には、光電セルは、電極と電荷キャリア媒体との間の電荷移動、電流の流れ、またはその両方を容易にするために、電極のうちの少なくとも1つに隣接して配設された触媒媒体も含む。
【0008】
本明細書で用いられる「光増感ナノ・マトリックス層(photosensitized nanomatrix layer)」の語は、ナノ粒子、ヘテロ接合複合材料、またはその組合せからなる光増感層を含む。一実施形態において、光増感ナノ・マトリックス層は1つ以上の種類の相互接続されたナノ粒子を含み、光増感剤を含むことも可能である。適切なナノ粒子の例は、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化ランタン、酸化スズ、酸化テルビウム、酸化タンタル、およびそれらの組合せからなるナノ粒子を含むが、それらに限定されない。光増感剤は、例えば、キサンチン、シアニン、メロシアニン、フタロシアニン(pthalocyanine)、またはピロールなど、色素または有機分子であることが可能である。別の実施形態において、光増感ナノ・マトリックス層は、例えば、ポリチオフェン中のフラーレン複合材など、ヘテロ接合複合材料からなる。様々な実施形態において、光増感ナノ・マトリックス層には長距離秩序は必要でないことが理解される。例えば、光増感ナノ・マトリックス層が結晶である必要はなく、粒子領域または相領域が、規則的に、反復的に、または周期的に配列されている必要はない。
【0009】
一実施形態において、少なくとも1つの露光側電極は金属材料からなるメッシュ電極である。金属材料は、好適には、白金、ステンレス鋼、またはそれらの合金、もしくはそれらのうちの1つ以上からなる。他の適切な金属材料は、パラジウム、チタン、およびそれらの合金を含むが、それらに限定されない。さらに、好適には、メッシュ電極は可撓性メッシュ材料からなる。可撓性メッシュ材料によって、例えばロール−ツー−ロール法またはウェブ法など、連続製造法で本発明の光電セルを製造することが容易となる。
【0010】
別の実施形態において、少なくとも1つの露光側電極は、メッシュの開口部に堆積された半導体酸化膜を備えるメッシュ電極からなる。それらの実施形態においては半導体酸化物が使用されるが、半導体酸化膜の製造仕様は先行技術の光電セルで必要とされ得るよりも厳密でないことが可能である。例えば、メッシュ電極であるから、セルから外部負荷へ電流を伝達するために、セルが半導体酸化膜のみに依存する必要がない。したがって、例えば、先行技術の光電セルで必要とされ得るよりも低い品質の半導体酸化膜(例えば、より低い伝導性のもの)を使用することが可能であり得る。
【0011】
別の実施形態において、本発明の光電セルはさらに第1の基板と第2の基板とを含む。第1の基板と第2の基板との間には、2つの電極と、光増感ナノ・マトリックス層と、電荷キャリア媒体とが配設されている。1つの場合には、メッシュ電極は、例えば露光側基板である第1基板中に、部分的に埋込まれる。好適には、メッシュ電極のうちの少なくとも一部は、第1基板への部分的埋込みの前、部分的埋込みの後、または部分的埋込みの前および後の両方に、触媒媒体で被覆される。別の場合には、部分的に埋込まれたメッシュ電極は、さらに、第1基板上とメッシュの開口部中とに堆積された半導体酸化膜を含む。
【0012】
別の態様において、本発明は第1の可撓性基板と、可撓性メッシュ電極と、第1の可撓性電極とからなる可撓性光電材料を提供する。光増感ナノ・マトリックス層および電荷キャリア媒体の両方は、第1の可撓性電極と可撓性メッシュ電極との間に配設される。適切な第1の可撓性電極は、メッシュ電極、伝導性箔、および伝導性膜を含むが、それらに限定されない。一実施形態において、第1の可撓性電極は第1の可撓性基板に隣接して配設される。他の実施形態において、第1の可撓性電極は第1の可撓性基板上に堆積された金属層からなる。
【0013】
別の態様において、本発明は2つの電極の間に配設された光活性材料からなる光電セルを提供する。少なくとも1つの露光側電極はメッシュの形の不透明な材料から作られる。光活性材料はケイ素の形(例えば結晶、多結晶、非晶質など)、薄膜型の光導体(photoconducter)、または光増感ナノ・マトリックス材料であることが可能である。
【0014】
別の態様において、本発明は、直列、並列、またはその両方の組合せで相互接続された、本発明の2つ以上の光電セルを有する光電モジュールを提供する。好適には、光電モジュールは第1基板と第2基板との間に配設された光電セルから形成される。光電セルは各々、第1電極とメッシュ電極との間に配設された光増感ナノ・マトリックス層および電荷キャリア媒体からなる。一実施形態において、電気絶縁性材料が光電セルの間に配設され、2つ以上の光電セルは、電気絶縁性材料の中に埋込まれ、かつ1つの光電セルのメッシュ電極と別の光電セルの第1電極とに電気的に接触している線材によって、電気的に直列に接続される。好適には、電気的な絶縁材料は接着特性も有し、例えば、2つの基板または基板部分を結合し、本発明による光電モジュールの形成を容易にすることが可能である。
【0015】
別の態様において、本発明は本発明の複数の光電セルからなる光電モジュールの製造方法を提供する。この方法は、ロール−ツー−ロール法またはウェブ法などの連続製造法を用いて、そうした光電モジュールの製造を容易にする。一実施形態では、方法には、第1の基板上に一群の光電セル部分を形成し、第1の基板上の2つ以上の光電セル部分の間に電気的絶縁材料を配設し、第2の基板上に一群の光電セル部分を形成し、第1の基板上の2つ以上の光電セル部分の間の電気的絶縁材料に線材を埋込み、それぞれの基板と光電セル部分とを組合わせて複数の光電セルを形成することからなり、2つ以上の光電セルは線材によって電気的に直列に接続される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】本発明によるメッシュ電極からなる光電セルの様々な実施形態の概略断面図。
【図1B】本発明によるメッシュ電極からなる光電セルの様々な実施形態の概略断面図。
【図2A】本発明によるメッシュ電極と半導体酸化膜とを含む光電セルの様々な実施形態の概略断面図。
【図2B】本発明によるメッシュ電極と半導体酸化膜とを含む光電セルの様々な実施形態を示す概略断面図。
【図3A】部分的に埋込まれたメッシュ電極を含む、本発明の様々な実施形態による光電セルの一部の概略断面図。
【図3B】部分的に埋込まれたメッシュ電極を含む、本発明の様々な実施形態による光電セルの一部の概略断面図。
【図3C】部分的に埋込まれたメッシュ電極を含む、本発明の様々な実施形態による光電セルの一部の概略断面図。
【図3D】部分的に埋込まれたメッシュ電極を含む、本発明の様々な実施形態による光電セルの一部の概略断面図。
【図4A】1つの露光側を有する本発明による光電セルおよび光電モジュールの一実施形態の概略断面図。
【図4B】2つの露光側を有する本発明による光電セルおよび光電モジュールの一実施形態の概略断面図。
【図5A】メッシュ電極の実施形態の顕微鏡写真。
【図5B】メッシュ電極の実施形態の顕微鏡写真。
【図6】本発明の光電セルまたは光電モジュールを形成するために用いられ得る連続製造法の様々な実施形態を描く図。
【図7】光活性材料からなる、本発明の一態様による光電セルの一実施形態の概略断面図。
【図8】本発明による、金属Mの酸化物のナノ粒子用のポリリンカーの例示的な実施形態を描く例示的な化学構造図。
【図9】本発明による、金属Mの酸化物のナノ粒子用のポリリンカーの例示的な実施形態を描く別の例示的な化学構造図。
【図10A】本発明による、ポリリンカーによって相互接続されたナノ粒子膜の例示的な化学構造図。
【図10B】本発明による、基板の酸化物層に付着された、図3Aの相互接続されたナノ粒子膜を示す図。
【図11】ポリ(n−ブチルチタネート)の化学構造図。
【図12A】本発明による、ポリ(n−ブチルチタネート)によって相互接続された二酸化チタン・ナノ粒子膜の化学構造図。
【図12B】本発明による、基板の酸化物層に付着された、図12Aの相互接続された二酸化チタン・ナノ粒子膜を示す図。
【図12C】本発明による、メッシュ電極に付着された、図12Aの相互接続された二酸化チタン・ナノ粒子膜を示す図。
【図13】可撓性光電セルの全体または部分の形成に用いられ得る連続製造法の例示的な実施形態を示す図。
【図14】例示的な太陽電池の電流−電圧曲線を示す図。
【図15】本発明による、例示的な太陽電池の電流−電圧曲線を示す図。
【図16】2つの追加の例示的な太陽電池の電流−電圧曲線を示す図。
【図17】本発明による、半導体プライマー層被膜のコーティングの例示的な実施形態を描く図。
【図18A】本発明による、例示的な共増感剤の化学構造図。
【図18B】本発明による、例示的な共増感剤の化学構造図。
【図18C】本発明による、例示的な共増感剤の化学構造図。
【図19A】本発明による、追加の例示的な共増感剤の化学構造図。
【図19B】本発明による、追加の例示的な共増感剤の化学構造図。
【図20】光電セルを特徴付けるために用いた455nmのカットオフ・フィルタ(GC455)の吸収を示すグラフ。
【図21】ジフェニルアミノ安息香酸の吸収を示すグラフ。
【図22】金属イオンを用いてゲル化した電解質の例示的な実施形態を描く図。
【図23】リチウムイオンによる有機ポリマーの錯化によって形成されたゲル電解質を描く図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の前述のおよび他の目的、特徴、利点は、以下の本発明の様々な実施形態の説明および添付の図面からさらに完全に理解されるであろう。図面において、一般に同様の参照記号は異なる図面を通じて同じ構成要素を指す。図面は必ずしも一定の縮尺ではなく、その代りに、本発明の原理を示すために強調されている。
【0018】
A.メッシュ電極を用いた光電セル
本発明は、光電セルの少なくとも1つの露光側にメッシュ電極を用いた光電セルの様々な実施形態を提供する。好適には、メッシュ電極は、例えば金属線材・メッシュ、金属被覆すなわち金属化された繊維、またはその両方など、金属メッシュからなる。
【0019】
一実施形態において、本発明は線材・メッシュの露光側電極を有する色素増感太陽電池(DSSC)を提供する。太陽電池の光増感ナノ・マトリックス層は、光増感され、かつ相互接続されたナノ粒子材料からなる。一実施形態において、線材・メッシュ電極はDSSCの透明なカソードとして機能することが可能である。好適には、メッシュは少なくとも部分的に触媒媒体で被覆されている。例えばメッシュは、例えば、電気化学セル中で塩化白金酸を用いることによる電気化学的析出によって、真空蒸着によって、または例えば塩化白金酸などの白金化合物を含む被膜の熱分解によって、白金化(plantinized)が可能である。別の実施形態において、線材・メッシュ電極は、例えば、光増感相互接続ナノ粒子材料が線材・メッシュに被覆され、DSSCのアノードとして機能することが可能である。さらに、線材・メッシュ電極はDSSCのアノードおよびカソードの両方として用いることが可能であり、例えば、DSSCの両方の側からの光透過は有利であると考えられる。
【0020】
図1Aおよび図1Bには、第1電極108、109と、光電セル100、101の露光側114、115のメッシュ電極112、113との間に配設された、光増感ナノ・マトリックス層102、103と、電荷キャリア媒体106、107とを含む、本発明の様々な実施形態による光電セル100、101を描く。図1Aに描いたように、メッシュ電極112は光電セル100のカソードとして働き、図1Bに描いたように、メッシュ電極113は光電セル101のアノードとして働く。好適には、光電セルはさらに、触媒媒体118、119を含む。一実施形態において、触媒媒体118は電荷キャリア媒体106とメッシュ電極112とに電気的に接触して配設される。他の実施形態において、触媒媒体119は電荷キャリア媒体107と第1電極109とに電気的に接触して配設される。さらに、光電セルを外部負荷に電気的に接続するために、線材またはリード線(図示せず)を第1電極、メッシュ電極、またはその両方に接続することが可能である。
【0021】
好適には、光電セルは2つの基板を含み、それら2つの基板の間には、電極と、光増感ナノ・マトリックス層と、電荷キャリア媒体とが配設されている。再び図1Aと図1Bを参照すると、様々な実施形態において、光電セルは第1の光透過性の基板120、121と、第2基板124、125とを含む。また、好適には、例えば連続製造法による光電セルの形成を容易にするために、基板は可撓性である。
【0022】
様々な実施形態において、保護被膜を1つ以上の基板に代用してもよく、1つ以上の基板に加えて用いてもよい。保護被膜は、例えば汚染物質(例えば塵埃(dirt)、水または酸素)をセルの中に入れない能力、セル中の化学種または組成物を保持する能力、およびセルを保護するすなわち耐久性を高める能力に基づいて選択可能である。適切な保護被膜はフッ素化炭化水素ポリマーを含むが、それに限定されない。
【0023】
本明細書で用いられる「光透過性の基板(significantly light transmitting substrate)」の語は、動作波長範囲で基板に入射する可視光の約60%以上を透過する基板を指す。適切な基板は、可撓性、半剛性、および剛性の基板を含む。好適には、基板の厚さは、約6マイクロメートル(μmすなわちミクロン)〜約200μmの範囲である。適切な可撓性基板の例は、光電セルに使用される基板材料の厚さにおいて約5,000メガパスカル(MPa)未満の曲げ弾性率を有する基板を含むが、それに限定されない。以下でさらに詳細に説明するように、可撓性で光透
過性の基板に適合した温度および加熱時間で本発明による可撓性光電セルの作製を可能にする、ナノ粒子相互接続の方法が本明細書では提供される。好適には、可撓性で光透過性の基板はポリマー材料を含む。適切な基板材料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(polymide)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリマー性炭化水素、セルロース誘導体、またはそれらの組合せを含むが、それらに限定されない。
【0024】
本発明の光電セルに使用する基板は有色であってもよく、無色であってもよい。好適には、基板は非散乱性かつ透明である。基板は1つ以上の実質的に平坦な表面を有してもよく、実質的に非平坦であってもよい。例えば、非平坦な基板は湾曲した表面または階段状の表面(例えば、フレネル・レンズを形成する)を有してもよく、パターン形成されていてもよい。
【0025】
光電セルのメッシュ電極は伝導性メッシュ材料からなる。適切なメッシュ材料は、金属(例えばパラジウム、白金、チタン、ステンレス鋼、およびそれらの合金など)ならびに例えばポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリチオフェン(polythiopene)誘導体およびポリアニリンなどの伝導性ポリマーを含むが、それらに限定されない。好適には、メッシュ材料は金属線材からなる。伝導性メッシュ材料は、例えば金属被覆すなわち金属化によって伝導性を付与された電気絶縁性材料からなることも可能である。電気絶縁性材料は、例えば製織繊維または光学繊維など、繊維からなることが可能である。適切な繊維の例は、合成ポリマー繊維(例えばナイロンなど)および天然繊維(例えば亜麻、綿、羊毛、絹など)を含む。好適には、メッシュ電極は可撓性であり、例えば、連続製造法による光電セルの形成を容易にする。
【0026】
本発明のメッシュ電極は、例えば線材(または繊維)直径およびメッシュ密度(すなわち、メッシュの単位面積当たりの線材(または繊維)の数)に関して広範囲の形態を取り得る。メッシュは、例えば、任意の数の開口部形状を有して、規則的または不規則であることが可能である。メッシュの形状の因子が本発明に不可欠でないことは理解される。適切なメッシュ形状因子(例えば線材直径、メッシュ密度など)は、例えば、メッシュの線材(または繊維)の伝導性、所望の透過率、可撓性、機械的強度、またはそれらのうちの1つ以上に基づいて選択可能である。
【0027】
一実施形態において、メッシュ電極は、約1μm〜約400μmの範囲の平均線材直径と、約60%〜約95%の範囲の線材間平均開口面積とを有する金属線材・メッシュからなる。1つの場合には、金属線材メッシュは約10μm〜約200μmの平均線材直径と、約75%〜約90%の範囲の線材間平均開口面積とを有する。1つの場合には、メッシュ電極は、約25μm〜約35μmの範囲の平均線材直径と、約80%〜約85%の範囲の線材間平均開口面積とを有するステンレス鋼の織り(woven)線材メッシュからなる。好適には、ステンレス鋼は、332ステンレス鋼からなるか、例えば、電荷キャリア材料またはナノ・マトリックス層の任意の腐食特性に対する適切な耐性を有する幾つかの他のステンレス鋼からなる。例えば、一部の実施形態において、316ステンレス鋼は充分な腐食耐性を有する。
【0028】
別の実施形態において、メッシュ電極は、約10μm〜約400μmの範囲の平均繊維直径と、約60%〜約95%の範囲の繊維間平均開口面積とを有する、金属被覆された繊維メッシュからなる。1つの場合には、繊維メッシュは、約10μm〜約200μmの範囲の平均繊維直径と、約75%〜約90%の範囲の繊維間平均開口面積とを有する。1つの場合には、メッシュ電極は、約1μm〜約50μmの範囲の厚さを有するチタンで被覆されたナイロン繊維からなり、得られるメッシュは、約10μm〜約250μmの範囲の平均繊維直径と、約60%〜約95%の範囲の繊維間の平均開口面積とを有する。
【0029】
様々な実施形態において、メッシュ電極はさらに、メッシュの開口部に堆積させた透明な半導体酸化膜を含む。メッシュ電極であるから、セルから外部負荷へ電流を伝達するために、セルが透明な半導体酸化膜のみに依存する必要がない。このことによって、例えば、先行技術の光電セルに必要とされ得るよりも、低い品質の半導体酸化膜(例えば、より低い伝導性のもの)、薄い半導体酸化膜、またはその両方を使用することが可能となる。
【0030】
一実施形態において、半導体酸化膜はメッシュ電極の線材(または繊維)を実質的に被覆しない。別の実施形態において、メッシュ電極は透明な半導体酸化膜で被覆される。透明な半導体酸化膜は、メッシュ電極の線材の間に透明で均一な半導体表面を提供することが可能である。好適には、透明な半導体酸化膜およびメッシュ電極は電気的に接触しており、結果として、メッシュ電極が電子をセルから外部負荷へ伝導することを容易にする。例えば、DSSCにてアノードとして働くメッシュ電極については、透明な半導体酸化膜は相互接続ナノ粒子材料に半導体表面を提供し、光で発生された(photogenerated)電子を相互接続ナノ粒子材料から取出すことを補助することが可能である。さらに、例えば、DSSCにてカソードとして働くメッシュ電極については、透明な半導体酸化膜は、触媒媒体、電荷キャリア媒体、またはその両方に半導体表面を提供し、メッシュ電極からそれらの媒体への電子移動を補助することが可能である。
【0031】
図2Aおよび図2Bを参照すると、様々な実施形態において、光電セル200、201は、第1電極208、209と、光電セル200、201の露光側214、215のメッシュ電極212、213と、メッシュ電極の少なくとも開口部に配設された透明な半導体酸化膜216、217との間に配設された、光増感ナノ・マトリックス層202、203と、電荷キャリア媒体206、207とを含む。好適には、光電セルはさらに、触媒媒体218、219を含む。一実施形態において、触媒媒体218は電荷キャリア媒体206とメッシュ電極212とに電気的に接触して配設されるが、好適には、触媒媒体も透明な半導体酸化膜216の少なくとも一部に電気的に接触して配設される。別の実施形態において、触媒媒体219は電荷キャリア媒体207と第1電極209とに電気的に接触して配設されるが、好適には、触媒媒体も透明な半導体酸化膜217の少なくとも一部に電気的に接触して配設される。さらに、光電セルを外部負荷に電気的に接続するために、線材またはリード線(図示せず)を第1電極、メッシュ電極、またはその両方に接続してもよい。好適には、光電セルはさらに、第1の光透過性の基板220、221と、第2基板224、225とを含む。好適には、例えば、連続製造法による光電セルの形成を容易にするために、基板は可撓性である。様々な実施形態において、保護被膜を1つ以上の基板に代用してもよく、1つ以上の基板に加えて用いてもよい。
【0032】
適切な透明半導体酸化膜材料は、インジウム・スズ酸化物(「ITO」)、フッ素ドープした酸化スズ、酸化スズなどを含むが、それらに限定されない。一実施形態において、透明な半導体酸化膜は厚さ約100nm〜約500nmの層として堆積される。他の実施形態において、透明な半導体酸化膜は厚さ約150nm〜約300nmである。
【0033】
様々な実施形態において、メッシュ電極は光電セルの基板の中に部分的に埋込まれる。一実施形態において、メッシュ電極をセルの基板に部分的に埋込むことによって、連続製造法による製造およびより高い耐久性のセルの製造が容易となる。一実施形態において、メッシュ電極は、例えば露光側基板である第1基板中に、部分的に埋込まれる。好適には、メッシュ電極のうちの少なくとも一部は、第1基板への部分的埋込みの前、部分的埋込みの後、または部分的埋込みの前および後の両方に、触媒媒体で被覆される。
【0034】
好適には、メッシュ電極の全体が、メッシュの線材(または繊維)の平均直径の約70%程度の深さまで基板中に埋込まれる。メッシュを基板に充分に定着させることが可能な
最小程度までメッシュが基板に埋込まれることによって、例えば、電荷キャリアまたはナノ・マトリックス層とメッシュとの電気的な接触面積を最大にすることが好適である。例えば、織り線材・メッシュを有する一実施形態において、線材の交差の下に位置する線材は基板に完全に埋込まれ、交差の上に位置する線材は埋込まれず、線材の交差の間の線材の部分は部分的に埋込まれる。
【0035】
基板に埋込まれたメッシュ電極を含む様々な実施形態において、メッシュ電極の線材は、メッシュの線材(または繊維)の平均直径の約30%を超える距離、基板の上に出る。一実施形態において、メッシュ電極の線材が、メッシュの線材(または繊維)の平均直径の約25%〜約50%の距離、基板の上に出るように、メッシュ電極が基板に埋込まれる。
【0036】
基板に埋込まれたメッシュ電極を含む様々な他の実施形態において、メッシュ電極の線材(または繊維)は、好適には、メッシュの線材(または繊維)の平均直径の約70%程度の深さまで基板中に埋込まれる。一実施形態において、線材(または繊維)は、メッシュの線材(または繊維)の平均直径の約50%〜約75%の範囲の深さまで基板に埋込まれる。
【0037】
図3Aおよび図3Bを参照すると、様々な実施形態において、光電セル300、301は、第1電極308、309と、光電セル300、301の露光側314、315のメッシュ電極312、313との間に配設された、光増感ナノ・マトリックス層302、303と、電荷キャリア媒体306、307とを含む。メッシュ電極312、313は、第1の光透過性の基板320、321に部分的に埋込まれている。好適には、光電セルはさらに、第2基板324、325を含む。例えば、連続製造法による光電セルの形成を容易にするために、好適には、基板は可撓性である。様々な実施形態において、保護被膜を1つ以上の基板に代用してもよく、1つ以上の基板に加えて用いてもよい。
【0038】
また、光電セルがさらに触媒媒体318、319を含むことも好適である。一実施形態において、触媒媒体318は電荷キャリア媒体306とメッシュ電極312とに電気的に接触して配設される。別の実施形態において、触媒媒体319は電荷キャリア媒体307と第1電極309とに電気的に接触して配設される。さらに、光電セルを外部負荷に電気的に接続するために、線材またはリード線(図示せず)を第1電極、メッシュ電極、またはその両方に接続してもよい。
【0039】
様々な実施形態において、部分的に埋込まれたメッシュ電極を有する本発明の光電セルはさらに、メッシュの開口部に配設された半導体酸化膜を含む。図3Cおよび図3Dを参照すると、様々な実施形態において、光電セル350、351は、第1電極358、359と、光電セル350、351の露光側364、365のメッシュ電極362、363と、メッシュ電極の少なくとも開口部に配設された透明な半導体酸化膜366、367との間に配設された、光増感ナノ・マトリックス層352、353と、電荷キャリア媒体356、357とを含む。メッシュ電極362、363は、第1の光透過性の基板370、371中に部分的に埋込まれている。例えば連続製造法による光電セルの形成を容易にするために、基板は可撓性であることが好ましい。好適には、光電セルはさらに、第2基板374、375を含む。例えば、連続製造法による光電セルの形成を容易にするために、好適には、基板は可撓性である。様々な実施形態において、保護被膜を1つ以上の基板に代用してもよく、1つ以上の基板に加えて用いてもよい。
【0040】
また、光電セルがさらに触媒媒体368、369を含むことも好適である。一実施形態において、触媒媒体368は電荷キャリア媒体356とメッシュ電極362とに電気的に接触して配設されるが、好適には、透明な半導体酸化膜366の少なくとも一部にも電気
的に接触する。別の実施形態において、触媒媒体369は電荷キャリア媒体357と第1電極359とに電気的に接触して配設されるが、好適には、透明な半導体酸化膜367の少なくとも一部にも電気的に接触する。さらに、光電セルを外部負荷に電気的に接続するために、線材またはリード線(図示せず)を第1電極、メッシュ電極、またはその両方に接続してもよい。
【0041】
本発明の第1電極(例えば図1A〜1B、2A〜2B、3A〜3B、4〜6に示したものなど)は、メッシュ、金属箔、堆積金属層、伝導性ポリマー膜、半導体酸化膜、またはそれらのうちの1つ以上の組合せを含む、広範囲の形態を取り得るが、それらに限定されない。光電セルの第1電極の側が露光側でもある場合、第1電極は、触媒媒体で被覆されたメッシュ電極と、メッシュ開口部に透明な半導体酸化膜を有するメッシュ電極とを含む、本明細書に説明するメッシュ電極からなることが好適である。他の実施形態において、第1電極は金属箔からなることが好適である。第1電極用の適切な金属箔材料の例は、パラジウム、白金、チタン、ステンレス鋼、およびそれらの合金を含むが、それらに限定されない。様々な実施形態において、第1電極は約10μm〜約100μmの範囲の平均厚さを有する金属箔からなる。好適には、金属箔は約25μm〜約50μmの範囲の平均厚さを有する。
【0042】
一実施形態において、光増感ナノ・マトリックス層が、色素増感相互接続二酸化チタン・ナノ粒子材料からなる場合、第1電極は厚さ約25μmのチタン金属箔からなる。1つの場合には、光増感ナノ・マトリックス層はチタン金属箔、または適切なプライマー層(以下でさらに説明する)の上に直接形成される。
【0043】
別の実施形態において、第1電極は基板上に堆積された金属層からなる。適切な金属は、パラジウム、白金、チタン、ステンレス鋼、およびそれらの合金を含むが、それらに限定されない。様々な実施形態において、堆積金属層は約0.1μm〜約3μmの範囲の平均厚さを有する。好適には、堆積金属層は約0.5μm〜約1μmの範囲の平均厚さを有する。
【0044】
別の実施形態において、第1電極は、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリアニリン、およびポリチオフェン誘導体など、伝導性ポリマーからなる。
さらに別の実施形態において、第1電極は、例えばITO、フッ素ドープした酸化スズ、酸化スズなど、透明な半導体酸化膜を含む光透過性の材料からなる。1つの場合には、第1電極は厚さ約100nm〜約500nmの層として基板上に堆積される。他の場合には、第1電極は厚さ約150nm〜約300nmである。
【0045】
別の態様において、本発明は、第1の可撓性基板と、可撓性メッシュ電極と、第1の可撓性電極とからなる可撓性光電材料を提供する。光増感ナノ・マトリックス層および電荷キャリア媒体の両方は、第1の可撓性電極と可撓性メッシュ電極との間に配設される。好適には、光電材料は、電荷キャリア媒体に電気的に接触する触媒媒体を含む。また、様々な実施形態において、可撓性光電材料はさらに、可撓性メッシュ電極と、第1の可撓性電極と、光増感ナノ・マトリックス層と、電荷キャリア媒体とが、第1の可撓性基板と第2基板との間に配設されるように、第2基板を含む。さらに、光電セルを外部負荷に電気的に接続するために、線材またはリード線(図示せず)を第1の可撓性電極、可撓性メッシュ電極、またはその両方に接続してもよい。
【0046】
可撓性光電材料は、図1A〜1B、2A〜2B、3A〜3B、4〜6に示したものを含む広範囲の形態を取り得るが、それらに限定されない。例えば、様々な実施形態において、光電材料の第1の可撓性基板は第1の光透過性の基板であってよい。好適には、可撓性の光透過性の基板はポリマー材料からなる。適切な基板材料は、ポリエチレンテレフタレ
ート(PET)、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリマー性炭化水素、セルロース誘導体、またはそれらの組合せを含むが、それらに限定されない。
【0047】
他の実施形態において、第1の可撓性基板は露光側基板ではない。これらの実施形態において、1つの場合には、第1の可撓性基板は不透明である。別の場合には、可撓性光電材料はさらに、材料の露光側に透明な保護被膜を含む。第1の可撓性基板が露光側基板でない場合、広範囲の材料が可撓性基板としての使用に適切であることは理解される。好適な基板材料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、およびポリカーボネートを含む。他の適切な基板材料は、セルロース誘導体(cellosics)(充填および非充填)、ポリアミド、およびそれらのコポリマー、ポリエーテル、ならびにポリエーテルケトンを含むが、それらに限定されない。
【0048】
適切な保護被膜はフッ素化炭化水素ポリマーおよびジシロキサンを含むが、それらに限定されない。例えば、可撓性光電材料が可撓性メッシュ電極として線材・メッシュ露光側電極を有するDSSCからなり、セルの光増感ナノ・マトリックス層が、光増感相互接続ナノ粒子材料からなる場合、好ましい保護被膜はTefzel(登録商標)(デュポン(Dupont))を含むが、それに限定されない。
【0049】
適切な第1の可撓性電極は、メッシュ電極、伝導性箔、伝導性膜、および本明細書に説明される他の第1電極を含むが、それらに限定されない。一実施形態において、第1の可撓性電極は第1の可撓性基板に隣接して配設される。別の実施形態において、第1の可撓性電極は第1の可撓性基板上に堆積された金属層からなる。また、可撓性光電材料の第1の可撓性電極の側が露光側でもある場合、第1の可撓性電極は、可撓性であると本明細書で説明したようなメッシュ電極からなることが好適である。
【0050】
本発明の光電セルの光増感ナノ・マトリックス層は、光増感ナノ粒子材料、ヘテロ接合複合材料、またはそれらの組合せを含むことが可能である。上で説明したように、長距離秩序が光増感ナノ・マトリックス層に存在することは可能であるが、光増感ナノ・マトリックス層には長距離秩序は必要でないことが理解される。例えば、光増感ナノ・マトリックス層が結晶である必要はなく、粒子領域または相領域が、規則的に、反復的に、または周期的に配列されている必要はない。一実施形態において、光増感ナノ・マトリックス層は厚さ約1ミクロン(μm)〜約5μmである。別の実施形態において、光増感ナノ・マトリックス層は厚さ約5μm〜約20μmである。光増感ナノ・マトリックス層は厚さ約8μm〜約15μmであり、光増感相互接続ナノ粒子からなることが好適である。
【0051】
一実施形態において、光増感ナノ・マトリックス層はヘテロ接合複合材料を含む。適切なヘテロ接合複合材料は、フラーレン(例えばC60)、フラーレン粒子、またはカーボンナノチューブを含む。ヘテロ接合複合材料は、ポリチオフェンまたは一部の他の正孔輸送材料中に分散されてもよい。様々な実施形態において、ヘテロ接合複合材料は、平均寸法が約14nm〜約500nmのフラーレン粒子、フラーレン粒子集合体、またはその両方を含む。適切なヘテロ接合複合材料の他の例は、ポリフェニレンビニレンなどの共役ポリマーを非ポリマー材料と共に含む複合材である。様々な実施形態において、ヘテロ接合複合材料は厚さ約0.1μm〜約20μmである。好適には、ヘテロ接合複合材料は厚さ約0.1μmである。
【0052】
別の実施形態において、光増感ナノ・マトリックス層は1つ以上の種類の相互接続ナノ粒子を含む。適切なナノ粒子は、式Mのナノ粒子を含むが、それらに限定されない。ここでMは、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、タンタル(Ta)、テルビウム(Tb)、またはス
ズ(Sn)であってよく、xおよびyは零より大きな整数である。他の適切なナノ粒子材料は、チタン、ジルコニウム、ランタン、ニオブ、スズ、タンタル、テルビウム、およびタングステンの、硫化物、セレン化物、テルル化物、および酸化物、ならびにそれらの組合せを含むが、それらに限定されない。例えば、TiO、SrTiO、CaTiO、ZrO、WO、La、Nb、SnO、チタン酸ナトリウム、セレン化カドミウム(CdSe)、硫化カドミウム、およびニオブ酸カリウムは、適切なナノ粒子材料である。様々な実施形態において、光増感ナノ・マトリックス層は、平均寸法が約2nm〜約100nmのナノ粒子を含む。他の実施形態において、光増感ナノ・マトリックス層は、平均寸法が約10nm〜約40nmのナノ粒子を含む。好適には、ナノ粒子は平均寸法が約20nmの二酸化チタン粒子である。
【0053】
ナノ粒子は、例えば高温で焼結することによって、または好適には、例えばポリ(n−ブチルチタネート)などの反応性のポリマー性連結剤によって、相互接続することが可能である。以下にさらに詳細に説明するように、ポリマー性連結剤(以降「ポリリンカー(polylinker)」)は、相互接続ナノ粒子層の製造を比較的低温(約300℃未満)で、および様々な実施形態においては室温で可能にする。比較的低温の相互接続法は、可撓性ポリマー基板上に本発明の光電セルを製造することを可能にする。可撓性基板を使用することによって、本発明はセルを製造するための連続製造法の使用をさらに容易にする。
【0054】
様々な実施形態において、相互接続ナノ粒子材料は光増感(photosenstizing)剤によって光増感される。光増感剤は入射可視光の電気への変換を促進して所望の光電効果を生じる。光増感剤は入射光を吸収し、光増感剤中の電子を励起すると考えられている。次いで、励起された電子のエネルギーは、光増感剤の励起レベルから相互接続ナノ粒子の伝導帯に移動する。この電子移動によって、有効な電荷分離と所望の光電効果が生じる。したがって、相互接続ナノ粒子の伝導帯中の電子は、光電セルに電気的に接続された外部負荷を駆動するために利用可能となる。
【0055】
光増感剤は相互接続ナノ粒子上に吸着(例えば、化学吸着、物理吸着、またはその両方)される。光増感剤は、相互接続ナノ粒子の表面に吸着されてもよく、相互接続ナノ粒子の全体603に吸着されてもよく、またはその両方に吸着されてもよい。光増感剤は、例えば、動作波長範囲で光子を吸収する能力、相互接続ナノ粒子の伝導帯において自由電子(または正孔)を生成する能力、および相互接続ナノ粒子と錯形成する能力または相互接続ナノ粒子を吸着する能力に基づいて選択される。適切な光増感剤は、ナノ粒子に対して、例えば、TiO表面のTi(IV)部位に対してキレート可能な、カルボキシル基、ヒドロキシル基、またはその両方などの官能基を有する色素を含んでよい。適切な色素の例は、アントシアニン、ポルフィリン、フタロシアニン、メロシアニン、シアニン、スクアラート、エオシン、および金属含有色素を含むが、それらに限定されない。金属含有色素は、例えば、シス−ビス(イソチオシアナト)ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−25ジカルボキシラト)−ルテニウム(II)(「N3色素(N3 dye)」)、トリス(イソチオシアナト)−ルテニウム(II)−2,2’:6’,2”−ターピリジン−4,4’,4”−トリカルボン酸、シス−ビス(イソチオシアナト)ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシラト)−ルテニウム(II)ビス−テトラブチルアンモニウム、シス−ビス(イソシアナト)(2,2’−ビピリジル−4,4’ジカルボキシラト)ルテニウム(II)、およびトリス(2,2’−ビピリジル−4,4’ジカルボキシラト)ルテニウム(II)ジクロリドなどであり、これら全てはソラロニクス(Solaronix)から入手可能である。
【0056】
本発明の光電セルの電荷キャリア媒体部分は、光電セル中に層を形成してもよく、光増感ナノ・マトリックス層を形成する材料に分散されてもよく、またはその両方の組合せで
あってもよい。電荷キャリア媒体は、接地電位または電流源から光増感ナノ・マトリックス層(またはそれに関連する光増感剤、もしくはその両方)へ電荷が移動するのを容易にする材料である。適切な電荷キャリア材料の一般的な分類は、溶媒系液体電解質と、多価電解質と、ポリマー電解質と、固体電解質と、n型およびp型輸送材料(例えば伝導性ポリマー)と、ゲル電解質とを含むが、それらに限定されない。これらを以下でさらに詳細に説明する。
【0057】
電荷キャリア媒体において、他の選択も可能である。例えば、電解質組成物は、式LiXのリチウム塩を含んでもよい。ここで、Xはヨウ化物、臭化物、塩化物、過塩素酸塩、チオシアネート、トリフルオロメチルスルホネート、またはヘキサフルオロホスフェートである。一実施形態において、電荷キャリア媒体はレドックス(redox)系を含む。適切なレドックス系は有機レドックス系、無機レドックス系、またはその両方を含んでよい。それらのレドックス系の例は、硫酸セリウム(III )/セリウム(IV)、臭化ナトリウム/臭素、ヨウ化リチウム/ヨウ素、Fe2+/Fe3+、Co2+/Co3+、およびビオロゲンを含むが、それらに限定されない。さらに、電解質溶液は式Mを有してもよい。ここで、iおよびjは1以上であり、Xはアニオンであり、Mはリチウム(Li)、銅(Cu)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、ランタニド、コバルト(Co)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、およびマグネシウム(Mg)からなる群から選択される。適切なアニオンは、塩化物、過塩素酸塩、チオシアネート、トリフルオロメチルスルホネート、およびヘキサフルオロホスフェートを含むが、それらに限定されない。
【0058】
電荷キャリア媒体は、複数の部位で金属イオンと錯化可能な有機化合物と、リチウムなどの金属イオンと、電解質溶液とを有する電解質組成物を含むことが可能である。これらの材料を組み合わせて、電荷キャリア媒体中で使用するのに適切なゲル化電解質組成物を生成することが可能である。一実施形態において、電荷キャリア媒体はレドックス系を含む。適切なレドックス系は有機レドックス系、無機レドックス系、またはその両方を含んでよい。それらのレドックス系の例は、硫酸セリウム(III )/セリウム(IV)、臭化ナトリウム/臭素、ヨウ化リチウム/ヨウ素、Fe2+/Fe3+、Co2+/Co3+、およびビオロゲンを含むが、それらに限定されない。
【0059】
幾つかの実施形態において、電荷キャリア媒体はポリマー電解質を含む。1つの場合には、ポリマー電解質はポリ(ハロゲン化ビニルイミダゾリウム)と、ヨウ化リチウムとを含む。別の場合には、ポリマー電解質はポリビニルピリジニウム塩を含む。さらに別の実施形態において、電荷キャリア媒体は固体電解質を含む。1つの場合には、固体電解質はヨウ化リチウムと、ヨウ化ピリジニウム(pyridimum)とを含む。別の場合には、固体電解質はヨウ化イミダゾリウム置換体を含む。
【0060】
幾つかの実施形態において、電荷キャリア媒体は様々な種類のポリマー多価電解質を含む。1つの場合には、多価電解質は、約5重量%〜約100重量%(例えば5〜60%、5〜40%、または5〜20%)のポリマー、例えばイオン伝導性ポリマーと、約5重量%〜約95重量%(例えば35〜95%、60〜95%、または80〜95%)の可塑剤と、約0.05M(mol/L)〜約10Mの有機ヨウ化物または無機ヨウ化物のレドックス電解質(例えば約0.05M〜約10M、例えば0.05〜2M、0.05〜1M、または0.05〜0.5M)と、約0.01M〜約1M(例えば0.05〜5M、0.05〜2M、または0.05〜1M)のヨウ素とを含む。イオン伝導性ポリマーは、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(アクリル)(PMMA)、ポリエーテル、およびポリフェノールを含んでよい。適切な可塑剤の例は、エチルカーボネート、プロピレンカーボネート、カーボネートの混合物、有機ホスフェート、ブチロラクトン、およびジアルキルフタレートを含むが、
それらに限定されない。
【0061】
好適には、本発明の光電セルは、電荷キャリア媒体に電気的に接触して配設された触媒媒体も含む。適切な触媒媒体材料は、例えば、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、活性炭、パラジウム、白金、および正孔輸送ポリマー(例えばポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリチオフェン誘導体、およびポリアニリン)を含む。好適には、触媒媒体は、電極、基板、基板被膜、電極被膜、またはそれらのうちの1つ以上に対する触媒媒体の接着を促進するために、さらにチタンまたは幾つかの他の適切な金属を含む。好適には、チタンは厚さ約0.5nm(5オングストローム(Å))で、領域に、または層として、堆積される。
【0062】
一実施形態において、触媒媒体は厚さ約1.3nm〜約3.5nm(約13Å〜約35Å)の白金層からなる。別の実施形態において、触媒媒体は厚さ約1.5nm〜約5.0nm(約15Å〜約50Å)の白金層からなる。別の実施形態において、触媒媒体は厚さ約1.0nm〜約80.0nm(約10Å〜約800Å)の白金層からなる。好適には、触媒媒体は厚さ約0.5nm(約5Å)の白金層を含む。メッシュ電極が本発明の光電セルのカソードとして働く一実施形態において、触媒媒体は、好適には、少なくとも電荷キャリア媒体に面するメッシュの側を被覆する、厚さ約5.0nm(約50Å)の白金層からなる。
【0063】
一実施形態において、触媒媒体は伝導性ポリマーからなる。適切な伝導性ポリマーの例は、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリチオフェン誘導体、およびポリアニリンを含むが、それらに限定されない。
【0064】
別の態様において、本発明は、直列、並列、またはその両方の組合せで相互接続された、2つ以上の本発明の光電セルを有する光電モジュールを提供する。好適には、光電モジュールは第1基板と第2基板との間に配設された光電セルから形成される。
【0065】
図4には、本発明の様々な実施形態による、単一の露光側402を備える光電モジュール400を描く。光電セルは各々、第1電極408とメッシュ電極410との間に配設された、光増感ナノ・マトリックス層404と電荷キャリア媒体406とからなり、好適には、メッシュ電極410は少なくとも部分的に触媒媒体で被覆される。好適には、光電セルは第1の光透過性の基板412と第2基板414との間に配設される。様々な実施形態において、保護被膜を1つ以上の基板に代用してもよく、1つ以上の基板に加えて用いてもよい。
【0066】
電気絶縁性材料416は光電セルの間に配設され、2つ以上の光電セルは、電気絶縁性材料416の中に埋込まれ、かつ1つの光電セルの第1電極と別の光電セルのメッシュ電極とに電気的に接触している線材418によって、電気的に直列に接続される。好適には、側部封止材420(例えば、テープ、被膜など)を用いて、光電セルを封止して保護する。
【0067】
一実施形態において、メッシュ電極410は、ラミネート接着剤422を用いて第1の光透過性の基板412に接着される。様々な実施形態において、メッシュ電極410は、例えば、上記および図3A〜3Dに関して本明細書で説明するように、第1の光透過性の基板412に部分的に埋込まれる。また、本明細書で説明するように、メッシュ電極410はさらに、少なくともメッシュ電極410の開口部に配設された透明な半導体酸化膜(図示せず)を含んでもよい。
【0068】
図4に示したように、メッシュ電極410は、それぞれ関連する光電セルのカソードと
して働く。例えば、入射光425が光増感ナノ・マトリックス層404と相互作用して光電子を発生する。示したように、光電子によってモジュールの1つ以上のセルを通じる電流路427が生じ、外部負荷433に出力を与えることが可能なように、セルは直列に接続されている。さらに、光電セルを外部負荷433に電気的に接続するために、線材またはリード線を第1電極408、メッシュ電極410、またはその両方に接続してもよい。
【0069】
図5には、入射光453に対する2つの露光側451、452を有する、本発明の様々な実施形態による光電モジュール450を描く。光電セルは各々、第1電極458(これもメッシュ電極の形である)とメッシュ電極460との間に配設された、光増感ナノ・マトリックス層454と電荷キャリア媒体456とからなり、好適には、メッシュ電極460は少なくとも部分的に触媒媒体で被覆される。光電セルは、好適には、第1の光透過性の基板462と第2の光透過性の基板464との間に配設される。様々な実施形態において、保護被膜を1つ以上の基板に代用してもよく、1つ以上の基板に加えて用いてもよい。
【0070】
電気絶縁性材料466は光電セルの間に配設され、2つ以上の光電セルは、電気絶縁性材料466に埋込まれ、かつ1つの光電セルの第1電極と別の光電セルのメッシュ電極とに電気的に接触している線材468によって、電気的に直列に接続される。好適には、側部封止材470(例えば、テープ、被膜など)を用いて、光電セルを封止して保護する。
【0071】
一実施形態において、電極458、460のうちの一方または両方は、隣接する基板462、464に、ラミネート接着剤472を用いて接着される。様々な実施形態において、電極458、460のうちの一方または両方は、例えば、上記および図3A〜3Dに関して本明細書で説明するように、隣接する基板462、464に部分的に埋込まれる。また、本明細書で説明するように、電極458、460のうちの一方または両方はさらに、少なくとも電極のメッシュの開口部に配設された透明な半導体酸化膜(図示せず)を含んでもよい。
【0072】
好適には、光電モジュールの電気絶縁材料も接着特性を有し、例えば、2つの基板または基板部分を結合して、本発明による光電モジュールの形成を容易にすることが可能である。適切な絶縁材料は、エポキシおよびアクリレートを含むが、それらに限定されない。
【0073】
光電セルを相互接続する線材に適切な材料は、チタン、ステンレス鋼、銅(cooper)、銀、金、白金、およびそれらの合金を含むが、それらに限定されない。好適には、光電セルを相互接続する線材は、ステンレス鋼からなる。理解されるように、光電セルを相互接続する線材の寸法は、例えば、光電セル間の距離に基づいて、および、セルの第1電極と、隣接するセルのメッシュ電極との間の距離に基づいて選択される。
【0074】
本発明の光電モジュールはさらに、電極/対極の接触による短絡の防止を補助するために、メッシュ電極と第1電極との間に、電気絶縁性のビーズ、ロッド(rod)、または繊維(以降、集合的に「スペーサ」と呼ぶ)を含んでもよい。例えば、スペーサは、電荷キャリア媒体、絶縁材料、またはその両方に配設されてよい。スペーサの寸法(例えば、直径)および長さは、例えば、線材の太さと、光電セルを相互接続する線材の間の開口空間の寸法とに基づいて選択可能である。大面積のセルからなるモジュールにおいて、電極間の空間を維持し、それによって短絡接触を防止することは重要要件になり得る。
【0075】
メッシュ電極、基板、光増感ナノ・マトリックス層、電荷キャリア媒体、触媒媒体、および本明細書に説明する任意の他の特徴(例えば、低温相互接続、プライマー層など)が、本発明の光電モジュールに使用されてよいことが理解される。さらに、本発明の光電モジュールは、可撓性光電モジュールであってよいことも理解される。本発明による可撓性
光電モジュールは、例えば、可撓性電極および基板材料を使用することによって作製され得る。適切な可撓性材料および方法は、例えば、可撓性光電セル、連続製造法による製造、またはその両方に関して説明されたものなど、本明細書に説明されるものを含むが、それらに限定されない。
【0076】
好適な実施形態において、光電モジュールは、例えば、メッシュ電極は白金被覆されたステンレス鋼からなり、光増感ナノ・マトリックス層は色素増感相互接続二酸化チタン・ナノ粒子からなり、かつ第1電極はチタン箔(または、モジュールの第1電極の側が露光側でもある場合にはステンレス鋼メッシュ電極)からなる、本発明による複数のDSSCからなる。光電セルを相互接続する線材は、ステンレス鋼、銅、銀、金、白金の線材からなり、絶縁材料は、炭化水素、ポリマーのポリプロピレン誘導体、エポキシ、ウレタン、シロキサン、およびフッ素化炭化水素からなり、第1の光透過性の基板はPENからなり、かつ第2基板はPENからなる。さらに、モジュールは、マレイン酸処理されたポリエチレンのテープ(例えば、デュポン(DuPont)から入手可能なBynel(商標)など)を側部封止材として封止される。
【0077】
一実施形態において、様々な構成要素の寸法は以下の通りである。(1)線材間の平均開口面積が約82%で、厚さ0.001μmの白金被膜を有する平均直径35μmの316ステンレス鋼線材のメッシュ電極、(2)第1電極は厚さ25μmのチタン箔であり、(3)第1の光透過性の基板は厚さ約75μmのPENであり、(4)第2基板は厚さ約75μmのPENであり、(5)光増感ナノ・マトリックス層は厚さ約10μm〜約15μmであり、シス−ビス(イソシアナト)ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシラト)−ルテニウム(II)ビス−テトラブチルアンモニウムと、シス−ビス(イソシアナト)(2,2’−ビピリジル−4,4’ジカルボキシラト)ルテニウム(II)とを含む色素で増感された、平均直径20〜40nmの二酸化チタン・ナノ粒子からなり、(6)電荷キャリア媒体は、厚さ約5μm〜約35μmで、ヨウ化カリウム/ヨウ素電解質からなり、(7)光電セルを接続する線材は平均直径50μmのステンレス鋼線材からなり、(8)絶縁材料は接着剤(例えばデュポン(DuPont)から入手可能なBynel(商標)など)からなる。モジュールの第1電極の側が露光側でもある別の実施形態では、第1電極は、線材間の平均開口面積が約82%で、かつ平均直径35μmの316ステンレス鋼線材のメッシュ電極であり、第2基板は光透過性の基板で、かつ厚さ約75μmのPENからなり、残りの構成要素は、この段落で直前に説明した寸法を実質的に有する。
【0078】
広範囲のメッシュ構造を本発明のメッシュ電極として用いることが可能である。図5Aおよび図5Bには各々、メッシュ電極の実施形態の例を示す。図5Aには、フッ素ポリマー接着剤504に部分的に埋込まれたエキスパンディド金属メッシュ(expanded
metal mesh)電極502の、顕微鏡写真500を示す。メッシュ502は1つのチタン箔から作られたエキスパンディド金属メッシュであり、メッシュ502を生じるように、一連のスリットが穿孔され、引き伸ばされている。図5Aのメッシュのストランドは、幅が約62ミクロン〜約75ミクロンであり、メッシュの開口面積は約60%である。別の実施形態において、メッシュ電極は約80%〜約85%の範囲の開口面積を有する、幅約25ミクロンのストランドのエキスパンディド金属メッシュからなる。好適な実施形態において、メッシュ電極は90%以上の開口面積を有する、幅約25ミクロンのストランドのエキスパンディド金属メッシュからなる。
【0079】
図5Bには、フッ素ポリマー接着剤514に部分的に埋込まれた、織り線材・メッシュ電極512の顕微鏡写真510を示す。メッシュ502は、開口面積が約82%であり、かつ線材516間の間隔が約330μmであるメッシュに織られた、直径約30μm(0.0012インチ)の316ステンレス鋼の線材からなる。なお、線材の交差にて、下に
位置する線材部分(紙面から最も奥の線材)は実質的に、または完全にフッ素ポリマー接着剤514に埋込まれており、上に位置する線材部分は、フッ素ポリマー接着剤514にわずかにのみ埋込まれているか、または埋込まれていない。メッシュの一部は完全に埋込まれ、他の部分は埋込まれていないが、メッシュ全体はフッ素ポリマー接着剤514に部分的に埋込まれていることが理解される。
【0080】
別の態様において、本発明は、光電セルと、複数の本発明の光電セルからなるモジュールとの製造方法を提供し、例えば、ロール−ツー−ロール法またはウェブ法など、連続製造法を用いて製造を容易にする。これらの方法は、例えば、DSSCの製造に用いられ得る。
【0081】
例えば、連続的かつコスト効率的な組立ライン法を用いて多数のDSSCを製造する現行法は、最良の場合でも、非常に困難である。半導体酸化膜を適切な電極として形成することにより、膜のクラッキングの防止方法および適切な膜の形成方法は制限される。そうした制限のために製造が遅延されることによって、コストが増大し得る。比較すると、メッシュ電極の使用またはメッシュ電極および箔電極の使用により、製造速度の増大は容易になる。例えば、メッシュおよび箔電極は、大きなシートまたはロールで提供されることが可能であり、それらの電極によって連続製造法の使用とコスト効率との向上が促進される。
【0082】
さらに、DSSCの連続組立法に伴う困難は、セルの支持体、すなわち一般に剛性でありかつ典型的にはガラスや金属などの耐熱性材料を含む基板から生じる。この主な理由は、溶融ナノ結晶を製造するための高温焼結法(典型的には約400〜500℃)に関連する。剛性基板材料は、その真の性質により、一般に、製造のための連続法よりも、より高価なバッチ法に適している。
【0083】
図6には、本発明の光電セルおよびモジュールを形成するために用いられ得る連続製造法600の様々な実施形態を描く。一実施形態において、光電セルまたはモジュールは前進する第1の光透過性の基板605上に形成される。基板605は、ローラー608を用いる製造運転中に、連続的に前進されてもよく、周期的に前進されてもよく、不規則に前進されてもよい。一実施形態において、メッシュ電極はロール610に収容され、前進する基板605に付着される。
【0084】
光電モジュールを製造するための方法の様々な実施形態において、メッシュ電極はメッシュ部分の間の間隙に配設された絶縁材料を有する剥離シート上に支持された断続的なメッシュからなる。他の実施形態において、メッシュは所望の長さに切断されて、前進する基板605に付着され、絶縁材料はメッシュの部分間の空隙に配設される。さらなる実施形態において、絶縁材料は前進する基板605上に配設され、前進する基板に対して剥離シートからメッシュ部分が適用される(または切断され適用される)。さらに様々な実施形態において、絶縁材料が、メッシュ電極を基板に付着させるため、メッシュ電極を基板または基板上の被膜に部分的に埋込むため、またはその両方に用いられる、接着剤、ポリマー材料、熱硬化性材料、またはそれらのうちの1つ以上として働くことも可能である。
【0085】
多くの方法で、前進する基板605にメッシュ電極を付着させることが可能である。例えば、様々な実施形態において、メッシュ電極ロール610の前、メッシュ電極ロール610の後、またはその両方で適用可能な接着剤を用いて、メッシュ電極を付着させる。様々な実施形態において、メッシュを基板または基板上の被膜に部分的に埋込むことによって、前進する基板605にメッシュ電極を付着させる。例えば、一実施形態では、メッシュ電極を部分的に埋込むため、メッシュ電極を加熱して、前進する基板605に押し込む。別の実施形態では、前進する基板を加熱して、前進する基板605の1つの側を軟化さ
せ、軟化した基板中にメッシュ電極を押し込む。別の実施形態では、前進する基板605上にポリマー層を被覆し、メッシュ電極、ポリマー層、またはその両方を加熱して、部分的に電極を埋込むためにメッシュ電極をポリマー層に押し込む。さらに別の実施形態では、前進する基板605に熱硬化性材料を被覆し(メッシュ電極ロールの前、後、または前後の両方)、メッシュ電極を部分的に埋込むために熱硬化性材料を加熱する。
【0086】
さらに、一実施形態において、メッシュ電極は、前進する基板605への付着の前に、最初に少なくとも部分的に触媒媒体(例えば白金、伝導性ポリマー)で被覆される。別の実施形態において、触媒媒体615は、前進する基板605にメッシュ電極が付着された後にメッシュ電極上に堆積される。様々な実施形態において、触媒媒体は白金からなる。一実施形態において、メッシュ電極は最初に、電気化学セル中で例えば塩化白金酸を用いる電気化学的析出によって、真空蒸着によって、または白金化合物(例えば、塩化白金酸)を含む被膜の熱分解によって、白金化される。メッシュ電極は、次いで、例えば前進する基板605に付着され、白金が電気化学的に析出される。
【0087】
様々な実施形態において、次いで電荷キャリア媒体620が堆積される。電荷キャリア媒体620は、例えば噴霧コーティング、ローラー・コーティング、ナイフ・コーティング、またはブレード・コーティングによって適用されてよい。電荷キャリア媒体620は、イオン伝導性ポリマー、可塑剤、およびヨウ化物とヨウ素との混合物を有する溶液を形成することによって調製され得る。ポリマーは、機械的安定性、寸法的安定性、またはその両方を提供し、可塑剤はゲル相/液体相の転移温度を補い、ヨウ化物とヨウ素とはレドックス電解質として作用する。
【0088】
一実施形態において、次いで相互接続ナノ粒子材料625が堆積される。本明細書に説明するように、相互接続ナノ粒子材料625は、ポリリンカーおよび金属酸化物ナノ粒子を有する溶液を、前進するシート上に適用することによって形成され得る。ポリリンカー−ナノ粒子溶液は、浸漬タンク、押出しコーティング、噴霧コーティング、スクリーン印刷、およびグラビア印刷を含むが、それらに限定されない任意の適切な技術によって適用されてよい。様々な他の実施形態において、ポリリンカー溶液および金属酸化物ナノ粒子が別々に適用されて相互接続ナノ粒子材料625を形成する。一実施形態において、ポリリンカー溶液は、前進するシートに対して適用され、金属酸化物ナノ粒子(好適には溶媒中に分散)はポリリンカー上に配置される。他の実施形態において、金属酸化物ナノ粒子(好適には溶媒中に分散)が、前進するシートに適用され、ポリリンカー溶液はナノ粒子に適用されて、相互接続ナノ粒子材料625を形成する。
【0089】
本明細書に説明したように、光増感相互接続ナノ粒子材料を(および、それによって光増感ナノ・マトリックス層の様々な実施形態を)生成するために、広範囲の光増感剤630が、ナノ粒子に対して、ナノ粒子と共に、またはその両方で適用されてよい。光増感剤630の堆積後、所望の最終製品に応じて、前進するシートをさらなる加工段階へと進めてもよい。
【0090】
光電モジュールを製造する方法の様々な実施形態において、光増感ナノ・マトリックス層および電荷キャリア媒体は、間隙に絶縁材料が配設された断続的な層として堆積される。様々な実施形態では、相互接続線材は間隙および適用された絶縁材料に配設される。様々な他の実施形態では、相互接続線材は予め適用された絶縁材料を含んだ間隙に配設される。さらに様々な実施形態では、絶縁材料が、相互接続線材の位置を保持するため、完成されたモジュールを一体に保持することを容易にするため、またはその両方のために用いられる、接着剤、ポリマー材料、熱硬化性材料、またはそれらのうちの1つ以上として働くことも可能である。
【0091】
様々な実施形態において、ロール635に収容される箔(またはメッシュ)を含む第1電極は、ロールに収容され、前進するシートに適用される。別の実施形態において、第1電極はロール635に収容され、最初に第2基板640に付着される。
【0092】
光電モジュールを製造する方法の様々な実施形態において、第1電極は、箔(またはメッシュ)の部分の間の間隙に絶縁材料が配設された剥離シート上に支持された断続的な箔(またはメッシュ)からなる。他の実施形態において、箔(またはメッシュ)は所望の長さに切断され、第2基板(または前進するシート)に付着されて、絶縁材料が箔(またはメッシュ)の部分の間の間隙に配設される。さらなる実施形態において、絶縁材料は第2基板(または前進するシート)上に配設され、箔(またはメッシュ)部分は剥離シートから第2基板(または前進するシート)へ適用される(または切断して適用される)。さらに、様々な実施形態において、絶縁材料が、第1電極を基板(または前進するシート)に付着させるため、第1電極を基板または基板の被膜に部分的に埋込むため、またはその両方のために用いられる、接着剤、ポリマー材料、熱硬化性材料、またはそれらのうちの1つ以上として働くことも可能である。
【0093】
多くの方法で、第2基板640に第1電極を付着させることが可能である。例えば、様々な実施形態において、第1電極ロール635の前、第1電極ロール635の後、またはその両方で適用可能な接着剤を用いて、第1電極を付着させる。様々な実施形態において、第1電極を基板または基板上の被膜に部分的に埋込むことによって、第2基板640に第1電極を付着させる。適切な埋込みの方法の例は、メッシュ電極に関して上で説明した。
【0094】
他の実施形態において、第1電極は、堆積させた金属層、半導体酸化膜、またはその両方からなり、例えば、熱蒸着、低温スパッタリング、真空蒸着、またはそれらのうちの1つ以上によって、第2基板640の目標領域に堆積される。他の実施形態において、第1電極は、タンク浸漬、押出しコーティング、噴霧コーティング、スクリーン印刷、およびグラビア印刷を含むが、それらに限定されない任意の適切な技術によって適用された伝導性ポリマーからなる。さらに、第1電極がメッシュからなる実施形態では、透明な半導体酸化膜が、例えば、少なくともメッシュの開口部に真空被覆されてもよい。
【0095】
さらに、光電モジュールを製造する方法の様々な実施形態では、製造法の任意の点で、前進するシート605にスペーサを適用してもよい。
様々な実施形態によれば、次いで、前進するシート605に第2基板640(第1電極を付着していてもよい)が適用され、連続製造法600を用いた光電セル(またはモジュール)が完成される。
【0096】
本発明の光電セルおよびモジュールを形成するために用いられ得る連続製造法の上記の様々な実施形態は例示であり、順序が逆転されてもよいことは理解される。例えば、一実施形態では、第1電極が基板に付着され、光増感ナノ・マトリックス層が第1電極上に形成される。
【0097】
実施例1:メッシュ電極の光電セル
この実施例では、PENからなる厚さ75μmの可撓性基板に積層された厚さ25μmのチタン箔と、高温焼結された二酸化チタン・ナノ粒子層(0.5mMのシス−ビス(イソチオシアナト)ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシラト)−ルテニウム(II)ビス−テトラブチルアンモニウム、およびシス−ビス(イソシアナト)(2,2’−ビピリジル−4,4’ジカルボキシラト)ルテニウム(II)色素を用いて色素増感された)と、ヨウ化カリウム/ヨウ素電解質と、ステンレス鋼メッシュ電極とから、3種の光電セルを組み立てた。メッシュ電極は、直径が30μm、かつ線材間の開口面積
が約82%のメッシュであり、316ステンレス鋼の織り線材から作成した。セルへの組み込みの前に、ステンレス鋼メッシュ電極を、電気化学的に白金化(厚さ約0.001μmの白金被膜で)するとともに、PENからなる厚さ75μmの可撓性基板に接合した。メッシュ電極をセルのカソードとしてセルに組み込んだ。
【0098】
完成された太陽電池は、表1にリストしたエアマス(AM)1.5ソーラシミュレータ条件(すなわち、1000W/mの強度の光の照射)にて、以下の光電(PV)特性を示した。測定した特性は以下の通りである。平均の太陽変換効率(「η」)、フィル・ファクタ(FF)、平均開放電圧(「VOC」)、短絡電流(「ISC」)、最大出力時電圧(「V」)。なお、フィル・ファクタ(「FF」)は、開放電圧と短絡電流との積に対する、太陽および最大出力ピットプット(pitput)時電流(「I」)変換効率の比から計算可能である。すなわち、FF=η/[VOC×ISC]である。
【0099】
【表1】

【0100】
図7を参照すると、別の態様において、本発明は、露光側701を有する光電セル700を提供する。光電セル700は、第1電極704と露光側メッシュ電極706との間に配設された光活性材料702からなる。光活性材料は、ケイ素(例えば結晶、多結晶、非晶質など)、薄膜型光導体、または光増感ナノ・マトリックス材料の形態であることが可能である。好適には、「光電セル(photovoltaic cell)」はさらに、第1の光透過性の基板708と第2基板710とを含む。
【0101】
B.ナノ粒子の低温相互接続
上で説明したように、一実施形態において、本発明は、比較的低い「焼結」温度(約300℃未満)で薄膜太陽電池の製造を可能にする、ポリマー性連結剤(以降「ポリリンカー」)を提供する。「焼結」の語は従来では高温(約400℃を超える)の方法を指すが、本明細書で用いられる「焼結」の語は温度を特定せず、代わりに、一般に任意の適切な温度でナノ粒子を相互接続する方法を指す。1つの例示的な実施形態において、本発明はポリリンカーを用いて薄膜太陽電池中のナノ粒子を相互接続する方法を提供する。別の例示的な実施形態によれば、比較的低温の焼結法によって、そうした光電セルを可撓性ポリマー基板を用いて製造することが可能となる。可撓性基板を利用することによって、本発明では、連続的なロール−ツー−ロールまたはウェブ製造法を用いることも可能である。
【0102】
図8および図9には、本発明による例示的なポリリンカーの化学構造を概略的に描く。描かれた特定のポリリンカー構造は、式Mのナノ粒子に対して用いられる。ここで、Mは例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、タンタル(Ta)、テルビウム(Tb)、またはスズ(Sn)であってよく、xおよびyは零より大きな整数である。図8の例示的な実施形態によれば、ポリリンカー800は金属酸化物ナノ粒子と構造が類似している主鎖構造102と、反応基(OR)とを含む。ここで、Rは例えば、アセテート、アルキル、アルケン、ア
ルキン、芳香族、またはアシル基、もしくは水素原子であってよく、iは零より大きな整数である。適切なアルキル基は、エチル、プロピル、ブチル、およびペンチル基を含むが、それらに限定されない。適切なアルケンは、エテン、プロペン、ブテン、およびペンテンを含むが、それらに限定されない。適切なアルキンは、エチン、プロピン、ブチン、およびペンチンを含むが、それらに限定されない。適切な芳香族基は、フェニル、ベンジル、およびフェノールを含むが、それらに限定されない。適切なアシル基は、アセチル、およびベンゾイルを含むが、それらに限定されない。さらに例えば、塩素、臭素、およびヨウ素を含むハロゲンを反応基(OR)に置き換えてもよい。
【0103】
図9を参照すると、ポリリンカー910は、反応基(OR)と反応基(OR)i+1とを含む、2つの−M−O−M−O−M−O−主鎖構造を含む分岐した主鎖構造を有する。ここで、Rは例えば、上述で挙げた原子、分子、または化合物のうちの1つであってよく、iは零より大きな整数である。2つの主鎖構造は金属酸化物ナノ粒子に類似した構造を有する。集合的に、図9に描いた構造は、−M(OR)−O−(M(OR)−O)−M(OR)i+1で表され、iおよびnは零より大きな整数である。
【0104】
図10Aには、Mナノ粒子1002をポリリンカー1004と相互接続して得られる化学構造1000を概略的に描く。様々な実施形態において、ポリリンカー1004は、それぞれ図8および図9に描いたポリリンカー800および910の化学構造を有する。例示的な実施形態によれば、ナノ粒子1002は、室温以下の温度または約300℃未満の高温で、ナノ粒子1002をポリリンカー1004と接触させることによって相互接続される。好適には、ナノ粒子1002との接触を促進するため、ポリリンカー1004は溶媒中に分散される。適切な溶媒は、特に、様々なアルコール、塩素化炭化水素(例えばクロロホルム)、ケトン、環状および直鎖状のいずれかの誘導体、および芳香族溶媒を含むが、それらに限定されない。ナノ粒子1002の表面水酸基とポリリンカー1004のポリマー鎖のアルコキシ基との反応によって、非常に安定な共有結合を通じて多くのナノ粒子1002が互いに架橋(すなわち、リンク)される結果、ナノ粒子1002が相互接続されると考えられる。また、ポリリンカー1004はナノ粒子1002に類似の化学構造を有するポリマー材料であるので、ナノ粒子1002とポリリンカー1004との結合(すなわち、リンク)部位がわずかであっても、非焼結または非相互接続ナノ粒子膜よりも優れた電気特性および機械特性の組合せを有する、高度に相互接続されたナノ粒子膜が生じると考えられる。例えば電気特性は、例えばπ共役による1つのナノ粒子から別のナノ粒子への電子または正孔の移動を促進する、電子、正孔、またはその両方を伝導する特性を含む。機械特性は、例えば、改良された可撓性を含む。
【0105】
やはり図10Aを参照すると、低濃度ではポリリンカー1004は、単一のポリリンカー1004ポリマーが多くのナノ粒子1002を連結して、架橋結合したナノ粒子ネットワークを形成することが可能である。しかしながら、ポリリンカー1004ポリマーの濃度を増加させることによって、さらに多くのポリリンカー1004分子がナノ粒子1002の表面に結合し、ポリマー被覆されたナノ粒子1000し得る。そうしたポリマー被覆ナノ粒子1000は、ポリマーの可撓性のため、薄膜として加工され得る。ポリリンカーのポリマーとナノ粒子との電気特性および構造特性の類似のため、ポリマー被覆ナノ粒子の電気特性は、有意には影響を受けないと考えられる。
【0106】
図10Bには、電気伝導体である酸化物層被膜1010を含む可撓性基板1008上に形成された、図10Aの相互接続ナノ粒子膜1000の例示的な実施形態の化学構造1006を描く。詳細には、可撓性の光透過性の基板1008上にそうしたナノ粒子膜1000を形成するために、ポリリンカーが用いられ得る。可撓性基板1008の例は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリマー炭化水素、セルロース誘導体、それらの組合せなどを含む。PETおよびPEN
基板は、1つ以上の電気伝導性の酸化物層被膜1010、例えば、インジウム・スズ酸化物(ITO)、フッ素ドープした酸化スズ、酸化スズ、酸化亜鉛などの酸化物層被膜で被覆されてよい。
【0107】
好適な一実施形態によれば、例示的ポリリンカーを用いることによって、本発明の方法は、400℃よりも有意に低い温度、および好適には約300℃未満で、ナノ粒子1002を相互接続する。そのような温度範囲での作業によって、従来の高温焼結方法では破壊的に変形し得るような、可撓性基板1008の使用が可能となる。1つの例示的な実施形態において、例示的な構造1006は、基板1008上のポリリンカー1004を用いて、約300℃未満の温度でナノ粒子1002を相互接続することによって形成される。別の実施形態において、ナノ粒子1002は、ポリリンカー1004を用いて約100℃未満の温度で相互接続される。さらに別の実施形態において、ナノ粒子1002は、ほぼ室温および室内圧力(room pressure)、それぞれ約18℃〜約22℃および約1atm(約760mmHg)、にて、ポリリンカー1004を用いて相互接続される。
【0108】
ナノ粒子が基板上に堆積される実施形態において、ポリリンカーの反応基は、基板、基板被膜、基板の酸化物層、またはそれらのうちの1つ以上と結合する。反応基は、例えば、共有結合、イオン結合、水素結合、またはそれらのうちの1つ以上によって、基板、基板被膜、基板の酸化物層、またはそれらのうちの1つ以上と結合してよい。ポリリンカーの反応基と基板上の酸化物層との反応によって、ポリリンカーを介するナノ粒子の基板への接続が生じると考えられる。
【0109】
本発明の様々な実施形態によれば、室温以下の温度または約300℃未満の高温で、適切な溶媒に分散した適切なポリリンカーにナノ粒子を接触させることによって、金属酸化物ナノ粒子が相互接続される。ナノ粒子は多くの方法でポリリンカー溶液と接触されてよく、例えば、ナノ粒子膜を基板上に形成してから、ポリリンカー溶液中に浸漬してもよい。ナノ粒子膜を基板上に形成し、ポリリンカー溶液を膜上に噴霧してもよい。ポリリンカーおよびナノ粒子を共に溶液中に分散し、次いで溶液を基板上に堆積させてもよい。ナノ粒子分散液を調製するために、例えば、マイクロ流動化(microfluidizing)、摩砕(attritting)、およびボール・ミリングなどの技術を用いてもよい。さらに、基板と、ポリリンカーが堆積されたナノ粒子膜との上に、ポリリンカー溶液が堆積されてもよい。
【0110】
ポリリンカーおよびナノ粒子が共に溶液中に分散される実施形態において、得られたポリリンカー−ナノ粒子溶液を用いて、単一の工程にて、相互接続ナノ粒子膜を基板上に形成してもよい。この実施形態の様々な場合では、例えば、スクリーン印刷およびグラビア印刷技術など、印刷技術を用いる膜の堆積を容易にするために、ポリリンカー−ナノ粒子溶液の粘度を選択してよい。基板と、ポリリンカーが堆積されたナノ粒子膜との上に、ポリリンカー溶液が堆積される実施形態において、所望の接着厚さを達成するためにポリリンカーの濃度を調節してもよい。さらに、ナノ粒子膜の堆積の前に、堆積されたポリリンカー溶液から過剰の溶媒を除去してもよい。
【0111】
本発明は式Mの材料のナノ粒子の相互接続に限定されない。適切なナノ粒子材料は、チタン、ジルコニウム、ランタン、ニオブ、スズ、タンタル、テルビウム、およびタングステンの、硫化物、セレン化物、テルル化物、および酸化物、ならびにそれらの組合せを含むが、それらに限定されない。例えば、TiO、SrTiO、CaTiO、ZrO、WO、La、Nb、SnO、チタン酸ナトリウム、ニオブ酸カリウムは適切なナノ粒子材料である。
【0112】
ポリリンカーは1つ以上の種類の反応基を含んでよい。例えば、図8〜10Bの例示的な実施形態には、1つの種類の反応基ORを描いた。しかしながら、ポリリンカーは幾つかの種類の反応基、例えばOR、OR’、OR”などを含んでもよい。ここで、R、R’、およびR”は、水素、アルキル、アルケン、アルキン、芳香族、またはアシル基のうちの1つ以上であり、もしくはOR、OR’、およびOR”のうちの1つ以上はハロゲン化物である。例えば、ポリリンカーは、−[O−M(OR)(OR’)−]−、および[O−M(OR)(OR’)(OR”)−]−などの式のポリマー単位を含んでよい。ここで、i、j、およびkは、零より大きな整数である。
【0113】
図11には、二酸化チタン(TiO)ナノ粒子と共に使用するための代表的なポリリンカー、ポリ(n−ブチルチタネート)1100の化学構造を描く。ポリ(n−ブチルチタネート)1100のための適切な溶媒は、特に、様々なアルコール、塩素化炭化水素、(例えばクロロホルム)、ケトン、環状および直鎖状のいずれかの誘導体、および芳香族溶媒を含むが、それらに限定されない。好適には、溶媒はn−ブタノールである。ポリ(n−ブチルチタネート)ポリリンカー400は、ブトキシ(Obu)反応基を有する分岐した−Ti−O−Ti−O−Ti−O−主鎖構造を含む。
【0114】
図12Aには、ポリ(n−ブチルチタネート)ポリリンカー分子1204によって相互接続された二酸化チタン・ナノ粒子1202からなる、ナノ粒子膜1200の化学構造を描く。TiOナノ粒子1202の表面水酸基とポリリンカー1204のブトキシ基1206(または他のアルコキシ基)との反応によって、非常に安定な共有結合を通じて多くのナノ粒子1202が互いに架橋(または結合)される結果、ナノ粒子1202が相互接続されると考えられる。また、ポリリンカー1204はTiOに類似の化学構造を有するポリマー材料であるので、ナノ粒子1202とポリリンカー1204間との結合(すなわち、リンク)部位がわずかであっても、非焼結または非相互接続ナノ粒子膜よりも優れた電気特性および機械的特性の組合せを有する高度に相互接続されたナノ粒子膜1200をもたらすと考えられる。
【0115】
図12Bには、ポリリンカー溶液を基板1210に適用し、次いでポリリンカー1204上にナノ粒子1202を堆積させることによって、電気伝導性酸化物層被膜1212を含む基板1210上に形成された、図12Aのナノ粒子膜1200の化学構造1208を描く。二酸化チタン・ナノ粒子1202を用いる例示的な例において、ポリ(n−ブチルチタネート)1204を含むポリリンカー溶液は、n−ブタノール中に溶解され、基板1210に適用される。ポリリンカー1204の濃度を調整して、ポリリンカー溶液の所望の接着厚さを得ることが可能である。次いで、二酸化チタン・ナノ粒子膜1200は、ポリリンカーで被覆された基板1210上に堆積される。TiOナノ粒子の表面水酸基とポリ(n−ブチルチタネート)1204の反応性ブトキシ基1206(または他のアルコキシ基)との反応は、ナノ粒子1202を相互接続させると共に、ナノ粒子1202を基板1210上の酸化物層1212と接続させる。
【0116】
図12Cには、ポリリンカー溶液をメッシュ電極1214に適用し、次いでポリリンカー1204上にナノ粒子1202を堆積させることによって、金属線材・メッシュ電極1214上に形成された、図12Aのナノ粒子膜1200の化学構造1208を描く。一実施形態において、メッシュ電極1214はさらに、少なくともメッシュ電極1214の開口部の間に配設された透明な半導体酸化膜1216を含む。二酸化チタン・ナノ粒子1202を用いる例示的な例において、ポリ(n−ブチルチタネート)1204を含むポリリンカー溶液は、n−ブタノール中に溶解され、メッシュ電極1214と、存在する場合には、透明な半導体酸化膜1216とに適用される。ポリリンカー1204の濃度を調整して、ポリリンカー溶液の所望の接着厚さを得ることが可能である。次いで、二酸化チタン・ナノ粒子膜1200は、ポリリンカーで被覆されたメッシュ電極1214上と、存在す
る場合には、透明な半導体酸化膜1216とに堆積される。TiOナノ粒子の表面水酸基とポリ(n−ブチルチタネート)1204の反応性ブトキシ基1206(または他のアルコキシ基)との反応は、ナノ粒子1202を相互接続させると共に、ナノ粒子1202をメッシュ電極1214上の酸化物層と、存在する場合には、透明な半導体酸化膜1216とに接続させる。
【0117】
別の態様において、本発明は、例えば、ロール−ツー−ロール法またはウェブ法など連続製造法を用いる、基板上に相互接続金属酸化物ナノ粒子の層を形成する方法も提供する。これらの方法は、例えば、DSSCの製造に用いられ得る。例えば、連続的かつコスト効率的な組立ライン法を用いて多数のDSSCを製造する現行法は、最良の場合でも、非常に困難である。DSSCの連続組立法に伴う困難は、セルの支持体、すなわち一般に剛性でありかつ典型的にはガラスや金属などの耐熱性材料を含む基板から生じる。この主な理由は、溶融ナノ結晶を製造するための高温焼結法(典型的には約400〜500℃)に関連する。剛性基板材料は、その真の性質により、一般に、製造のための連続法よりも、より高価なバッチ法に適している。
【0118】
図13には、例えば、図1A〜1B、2A〜2B、3A〜3D、および4〜6に示した光電セルの全体または部分を形成するのに用いられ得る、連続製造法1300の例示的な実施形態を描く。例示的な実施形態によれば、相互接続ナノ粒子膜は前進する基板シート1305上に形成される。基板シート1305は、ローラー1308を用いる製造運転中に、連続的に前進されてもよく、周期的に前進されてもよく、不規則に前進されてもよい。この例示的な実施形態において、光電セルの1電極の基礎として働く導体材料1310は、前進する基板1305上に堆積される。様々な実施形態において、導体材料1310は熱蒸着または低温スパッタリングによって基板1305の目標領域に堆積されてよい。さらに、導体材料1310は、例えば、真空蒸着によって堆積されてもよい。
【0119】
図13に示した例示的な実施形態によれば、次いで光増感ナノ粒子材料1315が堆積される。本明細書に説明するように、光増感ナノ粒子材料1315はポリリンカーおよび金属酸化物ナノ粒子を有する溶液を、前進する基板シート1305上に適用することによって形成され得る。ポリリンカー−ナノ粒子溶液は、浸漬タンク、押出しコーティング、噴霧コーティング、スクリーン印刷、およびグラビア印刷を含むが、それらに限定されない任意の適切な技術によって適用されてよい。他の例示的な実施形態において、前進する基板シート1305にポリリンカー溶液および金属酸化物ナノ粒子が別々に適用されて、光増感ナノ粒子材料1315を形成する。1つの例示的な実施形態において、ポリリンカー溶液は、前進する基板1305に対して適用され、金属酸化物ナノ粒子(好適には溶媒中に分散)はポリリンカー上に配置される。他の例示的な実施形態において、金属酸化物ナノ粒子(好適には溶媒中に分散)が、前進する基板1305に適用され、ポリリンカー溶液はナノ粒子に適用されて、光増感ナノ粒子材料1315を形成する。本明細書に説明するように、光増感ナノ粒子材料1315を製造するために、広範囲の光増感剤が、ナノ粒子に対して、ナノ粒子と共に、またはその両方で適用されてよい。
【0120】
光増感ナノ・マトリックス材料1315の堆積後、所望の最終製品に応じて、基板シート1305をさらなる加工段階へと進めてもよい。この例示的な実施形態によれば、接地電位または電流源から光増感ナノ粒子材料1315へ電荷が移動するのを容易にする、電荷キャリア材料1320が堆積される。電荷キャリア材料1320は、例えば噴霧コーティング、ローラー・コーティング、ナイフ・コーティング、またはブレード・コーティングによって適用されてよい。イオン伝導性ポリマー、可塑剤、およびヨウ化物とヨウ素との混合物を有する溶液を形成することによって調製され得る。ポリマーは、機械的安定性、寸法的安定性、またはその両方を提供し、可塑剤はゲル相/液体相の転移温度を補い、ヨウ化物とヨウ素とはレドックス電解質として作用する。
【0121】
さらに図13を参照すると、次いで、光電セル内の光励起された分子によって排出された電子の移動を促進する、触媒媒体層1325が堆積される。続いて、第2導体層1330が堆積される。第2導体層1330は光電セルの第2電極の基礎として働く。次いで、第2の可撓性基板1335が巻き出され(unwound)、前進するシート1305に適用されて、連続製造法1300を用いた光電セルが完成される。
【0122】
二酸化チタン・ナノ粒子を含むDSSCに関する、本発明のさらなる例示的な実施例を以下に提供する。以下の実施例は例示であり、限定することを意図していない。したがって、本発明は、SrTiO、CaTiO、ZrO、WO、La、Nb、チタン酸ナトリウム、およびニオブ酸カリウムのナノ粒子を含むがそれらに限定されない、広範囲のナノ粒子に適用されてよいことが理解される。さらに、本発明は、DSSCに加えて、例えば金属酸化物および半導体被膜など、広範囲の用途の相互接続ナノ粒子の形成に一般に適用可能であることが理解される。
【0123】
実施例2:ポリリンカーの浸漬コーティング塗布
この例示的な実施例では、DSSCを以下のように形成した。二酸化チタン・ナノ粒子膜をSnO:F被覆スライドガラスに被覆した。ポリリンカー溶液は、1%(重量で)のポリ(n−ブチルチタネート)のn−ブタノール溶液であった。この実施形態では、好適には、溶媒中のポリリンカーの濃度は5重量%未満であった。粒子を相互接続するために、ナノ粒子膜で被覆したスライドをポリリンカー溶液に15分間浸漬し、次いで150℃で30分間加熱した。ポリリンカーで処理したTiO膜を、次いで3×10−4N3色素溶液で1時間、光増感した。次いで、デュポンから入手可能な約0.05mm(2ミル)のSURLYN(登録商標)1702ホット・メルト接着剤を用いて、三ヨウ化物系の液体レドックス電解質をTiO膜被覆スライドガラス、白金被覆SnO:Fスライドガラス間に挟むことによって、ポリリンカーで処理したTiO膜で被覆したスライドガラスから0.6cmの光電セルを作成した。白金被膜は厚さ約60nmであった。セルはAM1.5ソーラシミュレータ条件(すなわち、1000W/mの強度の光の照射)で3.33%程度の太陽変換効率を示した。完成した太陽電池は、平均太陽変換効率(「η」)が3.02%、平均開放電圧(「VOC」)が0.66V、平均短絡電流(「ISC」)が8.71mA/cm、平均フィル・ファクタ(FF)が0.49(0.48〜0.52)であった。図8には、浸漬コーティングされた光電セルの電流電圧曲線802を示すグラフ800を描く。
【0124】
実施例3:ポリリンカー−ナノ粒子溶液塗布
この例示的な実施例では、二酸化チタン(約80%のアナターゼと20%のルチル結晶TiOナノ粒子とを含むチタニアであり、デグサ−ヒュルス(Degussa−Huls)から入手可能であるP25)のn−ブタノール懸濁液5.0mLを、1mLのn−ブタノール中の0.25gのポリ(n−ブチルチタネート)に添加した。この実施形態では、好適には、ポリリンカー−ナノ粒子溶液中のポリリンカーの濃度は約50重量%未満であった。懸濁液の粘度は、明らかな粒子分離のないまま、ミルク状から歯磨きペースト状まで変化した。ウェット膜の厚さを決定する厚さ60μmのテープとガードナーナイフとを用いて、パターン形成したSnO:F被覆スライドガラスにペーストを展延した。被膜を室温で乾燥して膜を形成した。続いて、風乾した膜を150℃で30分間加熱処理して溶媒を除去し、3×10−4MのN3色素のエタノール溶液で一晩増感させた。増感させた光電極を所望の寸法に切断し、白金被覆(厚さ60nm)したSnO:F被覆スライドガラスと三ヨウ化物系液体電解質との間に挟んだ。完成した太陽電池は、6つのセルの平均で、AM1.5条件にて2.9%(2.57%〜3.38%)のηを示した。平均VOCは0.68V(0.66〜0.71V)、平均ISCは8.55mA/cm(7.45〜10.4mA/cm)、平均フィル・ファクタは0.49(0.48〜0.5
2)であった。図15には、ポリリンカー−ナノ粒子溶液から形成された光電セルの電流−電圧曲線1502を示すグラフ1500を描く。
【0125】
実施例4:ポリリンカーなしで形成したDSSCセル
この例示的な実施例では、約37.5%の固形分を含有する二酸化チタン懸濁水溶液(P25)を、ミクロフルイダイザー(microfluidizer)を用いて調製し、被覆スライドガラス上に被覆されているフッ素化SnO伝導性電極(15Ω/cm)上にスピン・コートした。二酸化チタンで被覆したスライドを約15分間、風乾し、150℃で15分間、熱処理した。スライドをオーブンから取り出し、約80℃まで冷却し、3×10−4MのN3色素のエタノール溶液に約1時間浸漬した。増感させた二酸化チタン光電極を色素溶液から取り出し、エタノールで洗い、40℃のスライドガラス加温器で乾燥した。増感させた光電極を小片(0.7cm×0.5〜1cmの活性面積)に切断し、白金被覆SnO:Fの透明な伝導性スライドガラスの間に挟んだ。1MのLiIと、0.05Mのヨウ素と、1Mのt−ブチルピリジンとを含む3−メトキシブチロニトリル(3−methoxybutyronitdle)の液体電解質を、毛細管作用によって、光電極と白金化伝導性電極の間に適用した。このようにして作製した光電セルは、AM1.5条件にて約3.83%の平均太陽変換効率を示した。これらのセルの、AM1.5条件でのηと、光電特性ISC、VOC、最大出力時電圧(「V」)、および最大出力時電流(「I」)とを、表1の列Aに挙げる。図16には、ポリリンカーなしで形成した光電セルの電流−電圧曲線1602を示すグラフ1600を描く。
【0126】
【表2】

【0127】
実施例5:様々な濃度のポリリンカー溶液を用いて形成したDSSCセル
この例示的な実施例では、約37.5%の固形分を含有するP25懸濁液を、ミクロフルイダイザーを用いて調製し、フッ素化SnO伝導性電極(15Ω/cm)で被覆されているスライドガラス上にスピン・コートした。二酸化チタンで被覆したスライドを約15分間、風乾し、150℃で15分間、熱処理した。ナノ粒子の相互接続(ポリ連結)を行うため、二酸化チタン被覆伝導性スライドガラスを、ポリ(n−ブチルチタネート)を含むn−ブタノールのポリリンカー溶液に、5分間浸漬した。使用したポリリンカー溶液は、0.1重量%のポリ(n−ブチルチタネート)、0.4重量%のポリ(n−ブチルチタネート)、1重量%のポリ(n−ブチルチタネート)、2重量%のポリ(n−ブチルチタネート)であった。5分後に、スライドガラスをポリリンカー溶液から取り出し、約15分間風乾し、オーブン中150℃で15分間熱処理して溶媒を除去した。スライドをオーブンから取り出し、約80℃まで冷却し、3×10−4MのN3色素のエタノール溶液に約1時間浸漬した。増感させた二酸化チタン光電極を色素溶液から取り出し、エタノ
ールで洗い、40℃のスライドガラス加温器で乾燥した。増感させた光電極を小片(0.7cm×0.5〜1cmの活性面積)に切断し、白金被覆SnO:Fの透明な伝導性スライドガラスの間に挟んだ。1MのLiIと、0.05Mのヨウ素と、1Mのt−ブチルピリジンとを含む3−メトキシブチロニトリルの液体電解質を、毛細管作用によって、光電極と白金化伝導性電極の間に適用した。作製したセルの、AM1.5条件でのηと、光電特性ISC、VOC、V、Iとを、表2に挙げる。0.1重量%溶液は列Bに、0.4重量%溶液は列Cに、1重量%溶液は列Dに、2重量%溶液は列Eに挙げる。図16には、ポリリンカーを用いて形成した光電セルの電流−電圧曲線1608を描く。
【0128】
実施例6:改質剤溶液
この例示的な実施例では、二酸化チタンで被覆された透明な伝導性酸化物被覆スライドガラスを、実施例5に説明したようにスピン・コーティング法によって調製した。酸化チタン被覆伝導性スライドガラスを、0.01Mのポリ(n−ブチルチタネート)のn−ブタノール溶液を含むポリリンカー溶液で5分間処理し、ナノ粒子を相互接続させた。スライドをポリリンカー溶液から取り出した後、約5分間風乾した。スライドを後に改質剤溶液に約1分間浸漬した。使用した改質剤溶液は、水/エタノールの1:1混合物、1Mのt−ブチルピリジンの水/エタノール1:1混合物溶液、0.05MのHClの水/エタノール1:1混合物溶液であった。スライドガラスのうちの1つを、加湿器からの蒸気で15秒間処理した。スライドを15分間風乾し、150℃で15分間熱処理して溶媒を除去し、次いで3×10−4MのN3色素溶液で約1時間、増感させた。増感させた光電極を白金被覆SnO:Fで被覆したスライドガラスに挟み、1MのLiIと、0.05Mのヨウ素と、1Mのt−ブチルピリジンとを含む3−メトキシブチロニトリルの液体電解質を用いて、光電特性を調べた。酸はこれらの光電セルの光伝導性と効率との増大を補助すると思われる。この実施例のセルの、AM1.5条件でのηおよび光電特性を、表3に以下の通りに挙げる。改質剤溶液に浸漬しておらず、ポリリンカー溶液で処理していないスライドガラス(列A)、改質剤溶液に浸漬していないが、ポリリンカー溶液で処理したスライドガラス(列B)、スライドを最初にポリリンカー溶液で処理し、次いで水/エタノール1:1混合物に浸漬したもの(列C)、スライドガラスを最初にポリリンカー溶液で処理し、次いで1Mのt−ブチルピリジンの水/エタノール1:1混合物溶液に浸漬したもの(列D)、スライドガラスを最初にポリリンカー溶液で処理し、次いで0.05MのHClの水/エタノール1:1混合物溶液に浸漬したもの(列E)、スライドガラスを最初にポリリンカー溶液で処理し、次いで加湿器からの蒸気で処理したもの(列F)。
【0129】
【表3】

【0130】
実施例7:相互接続後に150℃まで加熱
この例示的な実施例では、二酸化チタンで被覆された透明な伝導性酸化物被覆スライドガラスを、実施例5に説明したようにスピン・コーティング法によって調製した。スライドガラスを、0.01Mのポリ(n−ブチルチタネート)のn−ブタノール溶液に30秒間浸漬し、15分間風乾した。スライドを後に150℃で10分間、オーブン中で熱処理した。熱処理した酸化チタン層をN3色素溶液で1時間、増感させ、エタノールで洗い、40℃のスライドガラス加温器で10分間加温した。増感させた光電極を0.7×0.8cmの活性面積の光セルに切断し、白金化伝導性電極の間に挟んだ。1MのLiIと、0.05Mのヨウ素と、1Mのt−ブチルピリジンとを含む3−メトキシブチロニトリルの液体電解質を、毛細管作用によって、光電極と白金化伝導性電極の間に適用した。光電セルは、全てAM1.5条件にて、平均ηが3.88%(3.83、3.9、3.92)、平均VOCが0.73V(0.73、0.74、0.73V)、平均ISCが9.6mA/cm(9.88、9.65、9.26)であった。
【0131】
実施例8:相互接続後に70℃まで加熱
この例示的な実施例では、二酸化チタンで被覆された透明な伝導性酸化物被覆スライドガラスを、実施例5に説明したようにスピン・コーティング法によって調製した。スライドガラスを、0.01Mのポリ(n−ブチルチタネート)のn−ブタノール溶液に30秒間浸漬し、15分間風乾した。スライドを後に70℃で10分間、オーブン中で熱処理した。熱処理した酸化チタン層をN3色素溶液で1時間、増感させ、エタノールで洗い、40℃のスライドガラスで10分間加温した。増感させた光電極を0.7×0.7cmの活性面積の光セルに切断し、白金化伝導性電極の間に挟んだ。1MのLiIと、0.05Mのヨウ素と、1Mのt−ブチルピリジンとを含む3−メトキシブチロニトリルの液体電解質を、毛細管作用によって、光電極と白金化伝導性電極の間に適用した。光電セルは、全てAM1.5条件にて、平均ηが3.62%(3.55、3.73、3.57)、平均VOCが0.75V(0.74、0.74、0.76V)、平均ISCが7.96mA/cm(7.69、8.22、7.97)であった。
【0132】
実施例9:可撓性透明基板上に形成
この例示的な実施例では、厚さ約200μm、約12.7cm(5インチ)×約2.4m(8フィート)平方のPET基板をITOで被覆して、ループ・コーター(loop coater)に装填した。二酸化チタンのn−ブタノール懸濁液(固形分25%のP25)18.0mLを、n−ブタノール10mL中の0.5gのポリ(n−ブチルチタネート)をインライン混合(in−line blended)し、ITO被覆PETシート上に被覆した。堆積の後、被膜を約50℃で約1分間加熱した。次いで、相互接続ナノ粒子層を3×10−4MのN3色素のエタノール溶液を用いてコーティングすることによって色素増感させた。
【0133】
C.半導体酸化物配合物
さらなる例示的な実施形態において、本発明は、本明細書に説明するように、低温ナノ粒子相互接続を用いて形成された、本発明のDSSCと共に使用するための半導体酸化物配合物を提供する。半導体酸化物配合物は、室温で被覆され、約50℃〜約150℃で乾燥されて、例えば、電極(メッシュ電極および触媒媒体で被覆されたメッシュ電極を含む)と、透明伝導性酸化物(TCO)で被覆されたプラスチック基板とに対する良好な接着性を有する、機械的に安定な半導体ナノ粒子膜を生成する。一実施形態において、光増感相互接続ナノ粒子材料のナノ粒子半導体は、市場で入手可能なTiOナノ粒子の懸濁水溶液から、ポリマー・バインダから、および酢酸を用いて、並びに酢酸を用いずに形成される。適切なポリマー・バインダは、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ヒドロキシエチルセルロース(HOEC)、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニル(PVA)、および他の水溶性ポリマーを含むが、それらに限定されない。ポリマーに対する半導体酸化物粒子(例えばTiO)の比率は、重量で約100
:0.1〜100:20、好適には重量で100:1〜100:10であることが可能である。配合物中の酢酸の存在は、例えば、TCO被覆基板への被膜の接着向上を改良する。しかしながら、本発明のこの態様において酢酸は不可欠ではなく、酢酸を用いない半導体酸化物分散液は充分機能する。別の実施形態において、TiOナノ粒子は、例えばイソプロピルアルコールなどの有機溶媒中に例えばPVP、ビューツバル(butvar(登録商標))、エチルセルロースなどのポリマー・バインダと共に分散される。
【0134】
別の例示的な実施形態において、半導体酸化物被膜の機械的完全性と、それらの被膜に基づく色素増感セルの光電性能とは、半導体ナノ粒子を相互接続させるために架橋剤を用いることによって、さらに改良可能である。この目的のために、本明細書に述べるポリリンカーを用いてもよい。これらの架橋剤は、例えば、チタニア・コーティング配合物中に直接的に適用されてもよく、チタニア被膜を乾燥する工程に続いて、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどの有機溶媒の溶液として適用されてもよい。例えば、約70℃〜約140℃の範囲の温度まで続いて膜を加熱することによって、TiOナノ粒子間にTiO架橋を形成する。好適には、この実施例のポリリンカーの濃度は、チタニアを基準にして約0.01〜約20重量%である。
【0135】
D.半導体プライマー層被膜
別の例示的な実施形態において、本発明は、半導体酸化物材料と、およびDSSCを形成するための素地材料上への半導体酸化物ナノ粒子層の被覆方法とを提供する。図17には、本発明の様々な実施形態によるコーティング法の例示的な実施形態1700を描く。例示的な一実施形態において、素地材料1710は半導体酸化物の第1のプライマー層1720で被覆され、次いで半導体酸化物のナノ粒子1730懸濁液がプライマー層1720の上に被覆される。特に、SnO、TiO、Ta、Nb、ZnOを含む、半導体金属酸化物は、薄膜、微粒子、または前駆体溶液の形で、真空コーティング、スピン・コーティング、ブレード・コーティング、または他の被覆方法を用いて、プライマー層被膜として用いられてよい。
【0136】
一実施形態において、プライマー層1720は真空被覆した半導体酸化膜(例えばTiO膜)を含む。別の実施形態において、プライマー層1720は半導体酸化物(例えばTiO、SnO)の微粒子の薄い被膜を含む。プライマー層1720はポリリンカーまたは前駆体溶液の薄い層を含んでもよく、その1つの例は図4に示したTi(IV)ブトキシド・ポリマー400である。本発明の例示的な一実施形態によれば、素地材料1710は、例えば図1A〜1B、2A〜2B、3A〜3Dおよび4〜6の光電セルの幾つかの実施形態に見られるような、可撓性の光透過性の基板である。また、素地材料1710は、透明な伝導性プラスチック基板であってもよい。例示的な一実施形態によれば、ナノ粒子1730の懸濁液は光増感相互接続ナノ粒子材料である。
【0137】
プライマー層1720は、ナノ構造半導体酸化膜(例えば層1730など)の素地材料1710に対する接着を改良する。それらのプライマー層によるDSSCの性能向上が観察されており、これを以下に説明する。この向上は、半導体酸化物ナノ粒子(または光電極)と透明伝導性酸化物で被覆したプラスチック基板との間の接着の増大や、より高い並列抵抗(shunt resistance)によるものである。
【0138】
二酸化チタン・ナノ粒子層を含むDSSCに関する、本発明のこの態様の様々な例示的な実施形態の実施例は以下の通りである。
実施例10:ナノ粒子TiO光電極に対するプライマー層として真空被覆されたTiO
この例示的な実施例では、ポリエステル(ここではPET)基板上に被覆されたITO層の上に厚さ2.5nm〜100nmの薄いTiO膜を真空下でスパッタ被覆した。ス
パッタ被覆された薄いTiOを有するITO/PETと、無地のITO/PET(すなわちスパッタ被覆された薄いTiOのない部分)との両方に、TiO(平均粒子寸法210nmのP25)の水系スラリーをスピン被覆した。被覆した膜をポリ[Ti(OBU)]のブタノール溶液に浸漬し、次いで120℃で2分間、熱処理した。低温反応で相互接続した膜をN3色素の非プロトン性極性溶媒系溶液(8mM)に2分間浸漬した。光電セルは白金(PT)の対極と、I/I液体電解質、0.05mm(2ミル)のSURLYN(登録商標)と、銅伝導性テープとで作製した。I−V特性の測定をソーラシミュレータで行った。
【0139】
無地ITO/PETの接着と比較したナノ構造TiOの接着。フィル・ファクタの向上が同様に達成された。薄いTiOがスパッタ被覆されたITO/PET上に作製した光電セルでは、0.67程度のFFが測定された。無地のITO/PET上に作製した光電セルでは、0.60を超えるFFは観察されなかった。薄いTiOがスパッタ被覆されたITO/PET上に調製した光電極では、より高い光電変換効率(無地のITO/PETから作製した光電極よりも約17%高い)が測定された。このスパッタ被覆されたTiOを有するITO/PET上に作製した光電セルでは、並列抵抗の向上も観察された。
【0140】
実施例11:TiO懸濁液用のプライマー層としてのTiO微粒子
この例示的な実施例では、PET基板上のITOの突起間の谷間に固着するのに充分細かいTiOの微粒子を、チタン(IV)イソプロポキシドの加水分解によって調製した。次いで、この微粒子を800回転/分(rpm)でITO層上にスピン被覆した。次いで、平均粒子寸法約21nmの37%TiO(P25)懸濁液を800回転/分で微粒子層の上にスピン被覆した。被覆したTiOをTi(IV)ブトキシド・ポリマーの0.01mol/Lブタノール溶液に15分間浸漬することによって低温相互接続し、続いてスライドガラス加温器にて50℃で乾燥した後、120℃で2分間、加熱した。相互接続した被膜を8mMの非プロトン性極性溶媒溶液に2分間浸漬することによってN3色素で染色し、次いでエタノールで洗い、スライドガラス加温器にて50℃で2分間、乾燥した。対照の被膜は、微粒子プライマーのコートを行わないことを除き、同じように調製した。セルの性能特性をソーラシミュレータを用いて測定した。試験および対照での結果を下の表4に示す。TiO懸濁液用のプライマー被膜として酸化スズ微粒子では、類似の改良が生じた。
【0141】
【表4】

【0142】
実施例12:TiO用プライマー層としてのチタン(IV)ブトキシド・ポリマーのブタノール溶液(前駆体溶液)
別の試験では、Ti(IV)ブトキシド・ポリマーの0.01mol/Lブタノール溶液をITO/PETプラスチックの素地の上に800回転/分でスピン被覆した。平均粒子寸法約21nmの43%TiO(P25)懸濁液を800回転/分でスピン被覆した。被覆したTiOをブタノール中のTi(IV)ブトキシド・ポリマーの0.01mol/Lブタノール溶液にTi(IV)ブトキシド・ポリマーの0.01mol/Lブタノール溶液に15分間浸漬することによって低温相互接続し、続いてスライドガラス加温器
にて50℃で乾燥した後、120℃で2分間、加熱した。被膜を8mMの非プロトン性極性溶媒溶液に2分間浸漬することによってN3色素で染色し、次いでエタノールで洗い、スライドガラス加温器にて50℃で2分間、乾燥した。対照の被膜は、微粒子プライムマーのコートを行わないことを除き、同じように調製した。セルのI−V特性をソーラシミュレータで測定した。試験および対照での結果を下の表5に示す。
【0143】
【表5】

【0144】
E.光増感剤:共増感剤(co−sensitizer)
例示的な一実施形態によれば、上述の光増感剤は、第1に増感色素と、第2に電子供与体である「共増感剤」とを含む。光増感相互接続ナノ粒子材料を形成するために、第1の増感色素と共増感剤とが一緒に添加されてもよく、別に添加されてもよい。増感色素は入射可視光を電気に変換して所望の光電効果を生じるのを促進する。例示的な一実施形態において、共増感剤は電子を受容体に供与して安定なカチオン・ラジカルを生成し、増感色素から半導体酸化物ナノ粒子材料への電荷移動の効率を改良し、増感色素または共増感剤への逆電子移動を低減させる。好適には、共増感剤は、(1)窒素原子上の孤立電子対(free electron−pair)と窒素原子が結合している芳香環の混成軌道との共役による、電子移動に続く、それらの混成軌道によるカチオン・ラジカルの共鳴安定化、および(2)カルボキシやホスフェートなど、共増感剤を半導体酸化物に定着させる機能を有する配位基を含む。適切な共増感剤の例は、芳香族アミン(例えばトリフェニルアミンおよびその誘導体など)、カルバゾール、他の縮合環類を含むが、それらに限定されない。
【0145】
共増感剤は光増感相互接続ナノ粒子材料の伝導帯に電子的に結合する。適切な配位基は、カルボキシル基、ホスフェート基、もしくは、例えば、オキシムまたはアルファケトエノレートなどのキレート基を含むが、それらに限定されない。
【0146】
以下の表6〜12には、高温焼結または低温相互接続されたチタニアの表面に、共増感剤が増感色素と共に吸収されたとき、光電セルの効率が高まることを示す結果を示す。表6〜12において、特性測定はAM1.5ソーラシミュレータ条件(すなわち1000W/mの強度の光の照射)を用いて行った。1mのLiI、1Mのt−ブチルピリジン、および0.5MのIを含む3−メトキシプロパニトリル(3−methxypropanitrile)の液体電解質を使用した。表に示したデータは、低温相互接続(表9,11,12)と高温焼結(表6,7,8,10)のチタニア・ナノ粒子の両方で、1つ以上のセルの動作パラメーターが向上することを示している。記載の太陽電池特性は、η、VOC、ISC、FF、V、Iを含む。共増感剤に対する増感剤の比率は増感化溶液中の光増感剤の濃度に基づく。
【0147】
特に、共増感剤の濃度が色素濃度の約50mol%未満であれば、芳香族アミンが増感チタニア太陽電池の電池性能を高めることが見出された。好適な芳香族アミンの一般的な分子構造の1例を、図18および図19に示す。共増感剤の濃度は、好適には約1mol%〜約20mol%の範囲であり、さらに好適には約1mol%〜約5mol%の範囲である。
【0148】
図18Aには、共増感剤として働き得る化学構造1800を描く。分子1800は配位基またはキレート基Aによって、ナノ粒子層の表面を吸着する。上述のように、Aはカルボン酸基またはその誘導体、ホスフェート基、オキシムまたはアルファケトエノレートであってよい。図18Bには構造1800の特定の実施形態1810、すなわちDPABA(ジフェニルアミノ安息香酸)を描いており、A=COONである。図13CにはDEAPA(N’,N−ジフェニルアミノフェニルプロピオン酸)と呼ばれる他の特定のアミン1820を描いており、Aはカルボン酸誘導体COONである。
【0149】
図19Aには、共増感剤または増感色素として働き得る化学構造1930を示す。この分子は500nmを超える放射を吸収せず、その配位基またはキレート基Aによってナノ粒子層の表面に吸着される。Aはカルボン酸基またはその誘導体、ホスフェート基、オキシムまたはアルファケトエノレートであってよい。RおよびRは各々フェニル、アルキル、置換フェニル、またはベンジル基であってよい。好適には、アルキル基は1〜10の炭素を含む。図19Bには、構造1930の特定の実施形態1940、すなわち、DPACA(2,6ビス(4−安息香酸(bezoicacid))−4−(4−N,N−ジフェニルアミノ)フェニルピリジンカルボン酸)を描いており、RおよびRはフェニルでありAはCOOHである。
【0150】
DPACAは以下のように合成され得る。1.49g(9.08mmol)の4−アセチル安息香酸、1.69g(6.18mmol)の4−N,N−ジフェニルベンズアルデヒド、5.8g(75.2mmol)の酢酸アンモニウムを凝縮器と攪拌棒を備える100mlの丸底フラスコ中の60mlの酢酸に添加した。溶液を窒素下で5時間攪拌しながら還流加熱した。反応物を室温まで冷却し、150mlの水に注ぎ、それを150mlのジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタンを分離し、回転式エバポレータで留去し、黄色油分を得た。次いで、油分を4%のメタノール/ジクロロメタンを用いてシリカゲル・カラムで溶離して、橙色固体の生成物を得た。この固体をメタノールで洗い、真空乾燥して0.920gの2,6ビス(4−安息香酸(venzoicacid))−4−(−4N,N−ジフェニルアミノ)フェニルピリジン(DPACA)を得た。融点は199〜200℃であり、λmaxは421nm、モル消光係数(molar extinction coefficient)Eは39,200Lmol−1cm−1であった。構造はNMR分光器によって確認した。
【0151】
表6には、1nMのN3色素と3つの濃度のDPABAとの溶液に終夜浸漬することによって光増感した、高温焼結チタニアの結果を示す。表6には、好適な20/1(色素/共増感剤)の比率において、平均ηが最大であることも示す。
【0152】
【表6】

【0153】
表7には、セルへの照射中、カットオフ・フィルターを用いてI−V特性を試験した結果を示す(第3および第4のエントリ)。表7には、DPABAの存在時、セルの効率がさらに向上することも示されており、このことは、フィルターの非存在時の効果が、単にDPABAによるUV光の吸収と、それに続く電荷の注入によるものではないことを示している。図20には、本発明の例示的な実施形態による光電セルの特性測定に用いたカットオフ・フィルターの吸収対波長のプロット2000を示す。図21には、400nm未満を吸収するDPABAの吸収対波長のプロット2100を示す。カットオフ・フィルターの吸収が大きいので、DPABAの吸収帯域には光はほとんど到達しない。
【0154】
【表7】

【0155】
表8には、トリフェニルアミン自体(すなわち、カルボキシ基など、チタニアを錯化する基がない)の添加は、記載条件下で有意に効率を向上させないことを示す。
【0156】
【表8】

【0157】
表9には、低温相互接続チタニアを用いた効果と、20/1(色素/共増感剤)の比率が好適であることを示す。
【0158】
【表9】

【0159】
表10には、共増感剤に対する色素の比率を20/1に維持したまま、高濃度のN3色素を用いて増感させた高温焼結チタニアの結果を示す。エントリ1とエントリ2には、共増感剤による電池性能の増大を示す。エントリ3には、DPABA単独での増感剤としての効果を示しており、低強度のUV照射を含む全太陽スペクトルの照射時に、この材料自体が増感剤として働くことを示している。
【0160】
【表10】

【0161】
表11には、低温相互接続チタニアの結果を示す。エントリ5には、DPACA単独での増感剤としての効果を示しており、低強度のUV照射を含む全太陽スペクトルの照射時に、この材料自体が増感剤として働くことを示している。
【0162】
【表11】

【0163】
表12には、低温相互接続チタニアの結果を示す。エントリ6には、DEAPA単独での増感剤としての効果を示しており、低強度のUV照射を含む全太陽スペクトルの照射時に、この材料自体が増感剤として働くことを示している。
【0164】
【表12】

【0165】
E.電荷キャリア媒体:ゲル電解質
さらなる実施形態によれば、本発明は、リチウムイオンなどの金属イオンを用いてゲル化される、多重に錯化可能な分子(すなわち、錯化可能な2つ以上の配位子を含む分子)とレドックス電解質溶液とを含む電解質組成物からなる光電セルを提供する。多重に錯化可能な化合物は、典型的には複数の部位で金属イオンと錯化することが可能な有機化合物である。電解質組成物は可逆的なレドックス化学種とすることが可能である。この可逆的なレドックス化学種は、それ自体液体であってもよく、または、固体成分であって、還元−酸化反応サイクルに関与せずにレドックス化学種の溶媒として働く非レドックス活性の溶媒に溶解されてもよい。例には、レドックス活性イオンを含まない通常の有機溶媒および溶融塩が含まれる。レドックス化学種の例は、特に、例えば、ヨウ化物/三ヨウ化物、Fe2+/Fe3+、Co2+/Co3+、およびビオロゲンを含む。レドックス成分は
、全ての溶融塩を含む、非水性溶媒に溶解される。ヨウ化物系の溶融塩、例えばメチルプロピルイミダゾリウムヨウ化物、エチルブチルイミダゾリウムヨウ化物、メチルヘキシルイミダゾリウムヨウ化物などは、それ自体レドックス活性であり、レドックス活性液体として使用可能でもあり、あるいは、酸化−還元反応サイクルを行わない通常の有機溶媒または溶融塩などの非レドックス活性材料で希釈され、使用することが可能である。多座無機配位子もゲル化化合物の原料としてもよい。
【0166】
図22には、金属イオンを用いてゲル化させた電解質の例示的な実施形態を描く。ポリ(4−ビニルピリジン)と錯化したリチウムイオンを示す。リチウムイオンおよび有機化合物、この場合複数の部位でリチウムイオンと錯化可能なポリ(4−ビニルピリジン)分子は、適切な電解質溶液のゲル化に使用することが可能である。本発明によって調製された電解質組成物は、少量の水と、溶融ヨウ化物塩と、有機ポリマーと、リチウムなどの金属イオンの添加によってゲル化する他の適切な化合物とを含んでよい。ゲル化した電解質は、1つ以上のメッシュ電極を用いた光電セルと、個々の可撓性光電セルと、典型的な太陽電池と、光電繊維と、相互接続された光電モジュールと、他の適切な装置とに組み込まれてよい。図22に示した点線は、適切な金属イオンの導入後の、構成要素の電解質溶液と有機化合物とのゲル化時に、光電セルのゲル電解質中に生じる結合の種類を表す。
【0167】
複数の部位で金属イオンと錯化可能であるとともに、本発明での使用に適する有機化合物の非網羅的な一覧は、様々なポリマーと、星形/デンドリマー状分子と、例えば、ウレタン、エステル、エチレン/プロピレンオキシド/イミン部位、ピリジン、ピリミジン、N−オキシド、イミダゾール、オキサゾール、トリアゾール、ビピリジン、キノリン、ポリアミン、ポリアミド、尿素、β−ジケトン、β−ヒドロキシケトンなどの複数の官能基を含む他の分子とである。
【0168】
より一般的には、様々な実施形態に使用される多重に錯化可能な分子は、錯体形成可能な2つ以上の配位子または配位基を有する、ポリマー分子または小さな有機分子であってよい。配位基は、例えば、特に酸素、窒素、硫黄、またはリンなど、高電子密度の1つ以上の供与性原子を含むとともに、適切な金属イオンと単座または多座の錯体を形成する官能基である。配位基は非ポリマー材料またはポリマー材料中の側鎖または主鎖の一部、もしくはデンドリマーまたは星形分子の一部として存在してよい。単座配位子の例は、例えば、特に、エチレンオキシ、アルキル−オキシ基、ピリジン、およびアルキル−イミン化合物を含む。二座および多座配位子の例は、ビピリジン、ポリピリジン、ウレタン基、カルボキシル基、およびアミドを含む。
【0169】
本発明の様々な実施形態によれば、リチウムイオンを含むゲル電解質2200を有する色素増感光電セルは、室温以下の温度、または約300℃未満の高温で作製される。温度は約100℃未満であってよく、好適には、電解質溶液のゲル化は室温かつ標準的な圧力で行われる。様々な例示的な実施形態において、スクリーン印刷およびグラビア印刷技術などの印刷技術を用いるゲル電解質の堆積を容易にするために、電解質溶液の粘度を調整してよい。様々な配位子とリチウムイオンの錯化をより高い温度で破壊することによって、DSSC系の光電モジュール製造中ののゲル電解質組成物の加工を容易にすることが可能となり得る。熱的に可逆または不可逆のゲルを形成するために、他の金属イオンを使用してもよい。適切な金属イオンは、Li、Cu2+、Ba2+、Zn2+、Ni2+、LN3+(または他のランタニド)、Co2+、Ca2+、Al3+、Mg2+、および配位子と錯化する任意の金属イオンを含む。
【0170】
図23は、有機ポリマー、ポリエチレンオキシド(PEO)のリチウムイオンによる錯化によって形成されたゲル電解質2300を描いている。PEOポリマー部はリチウムイオンの周りに錯化され、互いに架橋した形で示されている。他の実施形態において、様々
なポリマー鎖と錯化した金属イオンは、可逆性レドックス電解質物質に組み込まれてゲル化を促進することが可能である。組合せから得られるゲル電解質組成物は、光電繊維、光電セル、および電気的に相互接続された光電モジュールなどの様々な光電セルの実施形態に使用するのに適している。
【0171】
図1A〜1B、2A〜2B、3A〜3D、4〜6に戻って参照すれば、電荷キャリア媒体は複数の部位で金属イオンと錯化可能な有機化合物を有する電解質組成物と、リチウムなどの金属イオンと、電解質溶液とを含むことが可能である。これらの材料を組み合わせて、電荷キャリア媒体に使用するのに適したゲル化電解質組成物を製造することが可能である。一実施形態において、電荷キャリア媒体はレドックス系を含む。適切なレドックス系は、有機、無機レドックス系、またはその両方を含んでよい。それらの系の例は、硫酸セリウム(III )/セリウム(IV)、臭化ナトリウム/臭素、ヨウ化リチウム/ヨウ素、Fe2+/Fe3+、Co2+/Co3+、およびビオロゲンを含むが、それらに限定されない。
【0172】
電解質組成物を有するDSSCに関する本発明のさらなる例示的実施例を以下に提供する。以下の例示的実施例に使用される光電極は、以下の手順に従って調製した。チタニア懸濁水溶液(固形分30〜37%の懸濁液調製技術を用いて調製したP25)を、SnO:F被覆スライドガラス(15Ω/cm)上にスピン・キャストした。酸化チタニウム被膜の典型的な厚さは約8μmであった。被覆したスライドを室温で風乾し、450℃で30分間焼結した。スライドガラスを約80℃まで冷却した後、スライドガラスを3×10−4MのN3色素のエタノール溶液に約1時間浸漬した。スライドガラスを取り出し、エタノールで洗い、40℃のスライドガラス加温器で約10分間乾燥した。スライドガラスを約0.7cm×0.7cm平方の活性面積のセルに切断した。調製したゲルをガラス棒を用いて光電極上に適用し、白金被覆されたSnO:F被覆の伝導性スライドガラスの間に挟んだ。セルの性能をAM1.5ソーラシミュレータ条件(すなわち、1000W/mの強度の光の照射)で測定した。
【0173】
実施例13:標準的なイオン性液体系電解質組成物におけるヨウ化リチウムの効果
この例示的な実施例では、使用した標準的なイオン性液体系レドックス電解質組成物は、99%(重量で)のヨウ化イミダゾリウム系イオン性液体と、1%の水(重量で)とを含む混合物に、0.25Mのヨウ素と0.3Mのメチルベンズイミダゾールとを組み合わせたものであった。様々な実験的試みにおいて、0.10M以上のヨウ素濃度を有する電解質溶液が最良の太陽変換効率を示した。標準的な組成物において、イオン性液体としてヨウ化ブチルメチルイミダゾリウム(MeBuImI)を用いた。ヨウ素濃度の増加と共に光電圧は低下したが、少なくともヨウ素濃度0.25Mまでは、光伝導性および変換効率は増加した。標準的な組成物に対してヨウ化リチウムを添加すると、光電特性VOC、ISCと、ηとが増大した。したがって、ゲル化剤としてのリチウムの使用に加え、光電効率全体を改良するように働く場合がある。表13に、光電特性に対するLiIの効果をまとめる。
【0174】
【表13】

【0175】
ここで参照するフィル・ファクタ(「FF」)は、開放電圧と短絡電流との積に対する太陽変換効率の比から計算可能である。すなわち、FF=η/[VOC×ISC]である。
【0176】
実施例14:光電特性向上におけるカチオンの効果
光電特性の向上がリチウムまたはヨウ化物の存在によるものか否かを確認するために、リチウム、カリウム、セシウムを含むカチオンと組み合わせたヨウ化物と、テトラプロピルアンモニウムヨウ化物とを用いて対照実験を行った。ヨウ化物濃度は標準電解質組成物の376μmol/グラムに固定した。使用した標準的な組成物は、99%のMeBuIMIと、1%の水とを含む混合物に、0.25Mのヨウ素と0.3Mのメチルベンズイミダゾールとを組み合わせたものであった。標準電解質組成物のグラム当たり376μmolの様々なヨウ化物塩を電解質に溶解した。LiIの完全な溶解を観察した。他の塩は溶解に長い時間を要し、実験中に完全には溶解しなかった。様々なカチオンを含む調製した電解質を用いて、DSSC系の光電セルを作製した。表14には、光電特性に対する様々なカチオンの効果を示す。表14の第2列から明らかなように、Liイオンは標準の処方に比べて向上した光電特性を示し、他のカチオンは光電特性の向上に寄与しない。
【0177】
【表14】

【0178】
実施例15:イオン性液体の種類の効果
本発明の一態様において、MeBuImI系の電解質組成物は、MePrImI系の電解質よりもわずかに良好に機能することが見出された。さらに、表15に示すように、実験結果はMeBuImIとMePrImIの1/1混合物は、MeBuImiよりも良好な性能を示している。
【0179】
【表15】

【0180】
実施例16:二臭素化合物の代わりに組成物A中にLi誘発ゲル化を用いること
この例示的な実施例では、組成物Aは、99.5重量%のヨウ化1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムと0.5重量%の水からなる混合溶媒中に0.09Mのヨウ素を溶解
することによって調製した。次いで、窒素含有化合物のポリ(4−ビニルピリジン)(「P4VP」)0.2gを、10gの組成物Aに溶解した。さらに、ゲル電解質の前駆体である電解質組成物を得るため、得られた組成物A溶液に、有機臭化物の1,6−ジブロモヘキサン0.2gを溶解した。
【0181】
(i)2重量%のP4VPと、(ii)99.5%のMePrImIおよび0.5%の水を含む混合物とを含む電解質組成物に、ゲル化剤として5重量%のヨウ化リチウム(標準電解質組成物のグラム当たり376μmolのリチウム塩)を用いたとき、急速にゲル化が起きた。ゲルはLi誘発ゲルを含むバイアルを上下逆に傾けたとき流動しなかった。二臭素化合物を用いる1手段では、架橋領域が液体中に懸濁して相分離された電解質を生成し、これは(100℃30分間のゲル化後にも)流動した。LiIの有無による組成物Aの光電特性の比較を、以下の表16および表17に示す。この結果では、リチウムイオンを用いるとDSSC系の光電セル製造に適した機能性ゲルが得られ、光電特性も改良されることを示している。
【0182】
【表16】

【0183】
【表17】

【0184】
実施例17:DSSCの効率および光電圧に対するリチウム塩のアニオンの効果
DSSCの全効率の向上に対するリチウムの役割を明らかにするために、リチウムの対イオンの効果を調べる実験を行った。セルの光電特性を調査するために、MePrImI、1%の水、0.25Mのヨウ素、0.3Mメチルベンズイミダゾールを含む電解質組成物のグラム当たり、376μmolのLiI、LiBr、LiClを用いた。これらの電解質を含むセルの光電特性を表18に示す。
【0185】
【表18】

【0186】
実施例18:不活性化(passivation)およびDSSCの効率と光電圧との改良
光電セルの分野において、不活性化の用語は、太陽電池の電解質内の化学種への電子移動を低減させる方法を指す。不活性化は、典型的には、t−ブチルピリジンメトキシプロピオニトリルまたは他の適切な化合物の溶液中にナノ粒子層を浸漬することによって処理することを含む。スポンジなどの光電セルのナノ・マトリックス層を色素で処理した後、ナノ・マトリックス層には色素を吸着していない領域が存在する場合がある。不活性化法は、典型的にはDSSC上で行われて、非染色領域に存在する薬品を減少させる結果として、可逆的な電子移動反応が停止することを防止する。典型的な不活性化法は、様々なリチウム塩、他のアルカリ金属塩、またはその両方を含むイオン性液体組成物がDSSCに使用される時、必要である。不活性化法なしに、リチウムの塩化物塩を用いて0.65Vを超える光電圧が達成された。
【0187】
この例示的な実施例では、10重量%のt−ブチルピリジンを含むメトキシプロピオニトリル溶液に浸漬することによって、DSSCを不活性化した。不活性化の後、40℃に保ったスライドガラス加温器上でDSSCを約10分間乾燥した。この調査では、使用した標準電解質組成物のグラム当たり376μmolのLiI、LiBr、LiClを用いて、MePrImI、1%の水、0.3Mのメチルベンズイミダゾール、および0.25Mのヨウ素を含む電解質組成物をゲル化した。t−ブチルピリジン系の不活性化試薬を電解質に添加すると、DSSCの光電圧は高くなったが、光伝導性の低下によってDSSCの効率は低下した。様々なハロゲン化リチウムを含む電解質の光電特性に対する不活性化の効果を表19にまとめる。
【0188】
【表19】

【0189】
実施例19:ポリビニルピリジンを含む電解質組成物のゲル化におけるリチウムの役割とゲル化に対する他のアルカリ金属イオンの効果
リチウム・カチオンは、錯化可能なポリマー、例えばP4VPを2重量%程度含むイオン性液体組成物のゲル化に独特の効果を示すと思われる。ナトリウム、カリウムおよびセシウムなど、他のアルカリ金属イオンを使用してゲル化実験を行った。ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウムなどアルカリ金属塩を、ヨウ化プロピルメチルイミダゾリウム(proplymethylimidazolium iodi
de)(MePrImI)、1%の水、0.25Mのヨウ素、および0.3Mのチルベンズイミダゾール(thylbenzimidazole)を含む電解質組成物の部分に加えた。ヨウ化リチウムを含む組成物のみが、用いた実験条件下でゲル化した。ナトリウム、カリウム、セシウムを含む残り3つの組成物は、用いた実験条件下でゲル化しなかった。カルシウム、マグネシウム、亜鉛など2価の金属イオン、もしくはアルミニウムまたは他の遷移金属イオンなど3価の金属は、他の可ゲル化塩であり得る。
【0190】
実施例20:イオン性液体電解質ゲルに対するヨウ素とリチウム濃度との効果
この例示的な実施例では、MeBuImI、ヨウ素、2重量%のP4VPを含む電解質組成物にリチウム塩を添加することによってゲルを調製した。高温焼結しN3色素増感した酸化チタン光電極と白金化SnO:F被覆スライドガラスとを用いて、ゲルの光電特性を試験した。LiIとLiClの両方とも、P4VPなどの錯化可能なポリマーを少量(2%で充分であった)含むイオン性液体系組成物をゲル化した。メチルベンズイミダゾールを欠く組成物では、リチウムは光電圧に影響を与えなかった。5重量%は、イオン性液体のグラム当たり約376μmolのリチウム塩を含む組成物と、99重量%のヨウ化ブチルメチルイミダゾリウム、1重量%の水、0.3Mのメチルベンズイミダゾール、および0.25Mのヨウ素の混合物とに相当する。したがって、1重量%はイオン性液体組成物のグラム当たり376/5μmolのリチウム塩に相当する。光電特性を表20にまとめる。
【0191】
【表20】

【0192】
実施例21:レドックス電解質ゲルのゲル化性および光電特性に対するポリマー濃度の効果
この例示的な実施例では、ポリマー濃度を変化させ、ゲル粘度および光電特性に対する効果を調査した。この調査に使用した電解質組成物は、99%のMeBuImI、1%の水、0.25Mのヨウ素、0.6MのLiI、および0.3Mのメチルベンズイミダゾールを含む混合物であった。ポリマーP4VPの濃度は1%から5%に変化させた。1%のP4VPでの電解質組成物は、ゲルを含むバイアルを下に傾けたとき、ゆっくりと流動した。2%、3%、および5%でのゲルは流動しなかった。5%のP4VPでのゲルは、2%のP4VPの調製と比較して充分に堅牢であった。表21に、調査した様々なP4VP含有量のゲルの光電特性をまとめる。
【0193】
この結果は、P4VP含有量の増加によって得た粘度の増加によって、光電特性が変化しないことを示す。したがって、光電特性の低下を生じることなく、ゲルの粘度を調整可
能である。高いηを達成するにはメチルベンズイミダゾールが必要な場合がある。ヨウ素濃度を0.25Mまで増加させた場合にも、効率は増加した。0.25Mを超えると光電圧は劇的に低下し、全効率を低下させた。セシウム、ナトリウム、カリウム、またはテトラアルキルアンモニウムイオンなど他の金属イオンまたはカチオンは、効率の向上に寄与せず、電解質溶液のゲル化を生じないことが見出された。さらに、塩化物アニオンは、メチルベンズイミダゾールを含む組成物の光伝導性を低下させることなく光電圧を改良することによって、リチウムと共に効率を向上させることが見出された。
【0194】
【表21】

【0195】
請求項は、特にその効果を特記しない限り、記述された順序または要素を制限するものと理解されるものではない。特定の例示的な実施形態を参照して本発明を具体的に図示し説明したが、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、形状および詳細における様々な変更を加えることが可能であることが理解される。例として、開示した任意の特徴を開示した他の任意の特徴と組み合わせて、本発明による光電セルまたはモジュールを形成してもよい。したがって、以下の特許請求の範囲および精神の範囲の内にある全ての実施形態およびその均等物が本発明として請求される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
メッシュ電極と、
第1電極とメッシュ電極との間に配設された光増感ナノ・マトリックス層と、
第1電極とメッシュ電極との間に配設された電荷キャリア媒体とから成る光電セル。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図3D】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12A】
image rotate

【図12B】
image rotate

【図12C】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18A】
image rotate

【図18B】
image rotate

【図18C】
image rotate

【図19A】
image rotate

【図19B】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2013−93328(P2013−93328A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−266670(P2012−266670)
【出願日】平成24年12月5日(2012.12.5)
【分割の表示】特願2006−507509(P2006−507509)の分割
【原出願日】平成16年3月24日(2004.3.24)
【出願人】(308014846)メルク パテント ゲーエムベーハー (12)
【Fターム(参考)】