説明

メラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩の製造方法

【課題】簡単で、且つ安全にメラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩を製造する方法が求められている。
【解決手段】本発明に係るメラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩の製造方法は、先ず押出機内でペンタエリトリットと五酸化二リンと混合し、エステル化反応を行うことでビス(リン酸ペンタエリトリット) リン酸を形成し、次に、溶剤の存在下で、ビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸とメラミン又はその誘導体とを混合し、アンモニウム塩生成反応を行い、最後に水分を除去することによりメラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩を得るものである。上記の方法は五酸化二リンを原料として用いるものの、塩化水素ガスを生じないのでトリクロロリン酸を回収する必要が無く、且つ、有機溶剤の存在下でエステル化反応を行う必要が無いのでエステル化反応時間を短縮し、密閉反応系内で生じる高圧により爆発が発生する危険を回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩の製造方法に関し、特にペンタエリトリットと五酸化二リンとのエステル化反応により、メラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩は、環状構造を有し、熱重量分析と示差熱分析により、優れた熱安定性を示すことが知られており、ポリオレフィン、ポリアミノエステル、ポリフェニルエーテル(PPO)、ポリメタアクリル酸エステル(PMMA)、ポリエステル及びポリテレフタル酸ブチレングリコールエステル(PBT)に用いた場合、その難燃性を改善する、膨張型のメラミンリン酸エステル塩類難燃剤として使用されている。
【0003】
米国特許第4154930号公報には、難燃剤ポリマーとして、アミノーS−トリアジンリン酸塩が開示されている。また、米国特許第4478998号公報には、メラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩の合成方法として、メラミンとビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸の塩化アシルとの反応によりメラミン塩を得る方法が開示されている。この特許で開示された方法では、反応物原料として塩化ホスホリル(POCl)を用いるため、反応過程において塩化水素ガスを生じ、この塩化水素ガスを中和する過程において大量の廃水が生じる問題がある。一方、この反応中において生成する樹脂は、粘度が高く、大過剰のモル比の塩化ホスホリルを使用して反応を進める必要があり、この塩化ホスホリル廃液を回収することが、この方法のもう一つの欠点とされている。
【0004】
また、米国特許第6737526号公報には、塩化ホスホリルに代わり五酸化二リンとペンタエリトリットとを用い、ボールミルで研磨する機械的化学合成方法により、メラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩を製造する方法が開示されている。しかし、五酸化二リンは反応性が非常に高く、水と容易に反応してリン酸を生成し、又は他の反応物と反応してメタリン酸を生じたり、或いはエーテル化合物と反応してリン酸エステルを生成するので、その反応溶媒を選択する際に多くの制限があり問題となる。また、その製造過程は、密閉系中、有機溶剤を媒体として用い、反応過程において水が発生するので、密閉系の圧力が上昇し、安全上問題が起こりやすい難点がある。更に、溶融状態のペンタエリトリットは粘度が極めて高く、攪拌し難く、反応時間が長くなる問題がある。
【0005】
そこで、簡単で、且つ安全にメラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩を製造する方法が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主な目的は、塩化水素ガスを生じない、メラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩の製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、エステル化反応に必要とする反応時間を短縮できる、メラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩の製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の更なる目的は、反応系の安全性を高めることができる、メラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は押出機(extruder)中、ペンタエリトリットと五酸化二リンを混合して、エステル化反応させてビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸を形成し、次に溶剤の存在下、上記のエステル化反応により得たビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸と、メラミン或いはその誘導体化合物とを混合してアンモニウム塩生成反応を行い、水分を除去した後、メラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩を得る。本発明の方法は、五酸化二リンを原料として使用するが、塩化水素ガスを生じないので、トリクロロリン酸を回収する必要がなく、且つ、この方法は有機溶剤の存在下でエステル化反応を行う必要がないので、反応に必要とする時間を短縮することができ、密閉反応系で高圧により発生する爆発事故の危険を回避することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のメラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩の製造方法は、下記の工程を適用することにより行うことができる。
【0011】
工程(a)エステル化反応
本反応は、ペンタエリトリットと五酸化二リンとを原料として、エステル化反応を行うことで、ビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸(b−PEPAP)を形成し、
【0012】
工程(b)アンモニウム塩生成反応
本反応は、溶媒中工程aのエステル化反応により得たビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸と、メラミン又はその誘導体とを混合し、アンモニウム塩生成反応を行い、最後に水分を除去して、メラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩(b−PEPAP MEL)を得る。この反応を下記式(I)に示す:
【化1】

【0013】
本発明の方法において、工程(a)のエステル化反応は、押出機(extruder)内で行われる。このような押出機は、その外形により一軸押出機(single screw extruder)と二軸押出機(twin screw extruder)に分かれ、その主な構造としては、電源、原料供給装置、押出機、二重壁加熱ドラム、取出し装置及びコントロールパネルなどが挙げられる。
【0014】
押出機は、主に外力を利用して特定容器中で原料を流動させて、異なる状態の混合、混練、せん断、加熱などを施すものである。その具体例を一つ挙げると、工程(a)のエステル化反応は二軸押出機内で行われ、押出機の取出し装置においてエステル化率を測定する。
【0015】
上記の工程(a)は、ペンタエリトリットと五酸化二リンとを原料に用いてエステル化反応を行い、ビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸を合成する。そのエステル化反応を下記式(II)で示す。
3/4 P4O10 + 2 C5H12O4 → C10H17P3O12 + 7/2 H2O (II)
【0016】
上記の反応において、原料のペンタエリトリットと五酸化二リンとを、予定の比率と速度で二軸押出機に供給する。この工程(a)のエステル化反応において、生成するビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸のエステル化率は、原料の供給モル比率により影響されない。しかし、ペンタエリトリットと五酸化二リンの原料供給比率は、メラミンリン酸塩の比率に影響を与え、最終生成物の特性を変える。ペンタエリトリットの比率が適切でない場合、炭素源が低すぎて、難燃性や製品の熱安定性を低下させるなど問題となる。そのため工程(a)のエステル化反応において、ペンタエリトリットと五酸化二リンは、モル比で1:0.5〜3の比率で二軸押出機に供給されるのが好ましく、より好ましくは1:0.75〜1.33のモル比であり、最も好ましくは1:1のモル比である。原料の供給速度は、押出機のスクリュー回転速度により変わるが、供給速度が速すぎると原料が供給口で塞がり、遅すぎると原料がフィーダー内において一杯にならず、原料の混合の不均一性を招き、フィーダーにおける滞留時間が長すぎるという問題が発生する。そのため、原料供給速度としては、通常20〜50kg/hrの範囲が好ましい。
【0017】
上記工程(a)のエステル化反応において、例えば、二重壁加熱ドラムの温度とスクリューの回転速度などの各操作条件を調整することにより、より好ましいエステル化率を得ることができる。その中で、エステル化率に影響を与える要因は温度である。押出機の二重壁加熱ドラムの温度を高めることによりエステル化率を上昇させることは可能であるが、しかし、温度が200℃をこすとエステル化生成物の炭化を引き起こす問題がある。本発明の方法において、工程(a)のエステル化反応に使用される押出機の二重壁加熱ドラムの温度としては、30〜200℃の範囲内が好ましく、より好ましくは50〜140℃の範囲内である。更に、押出機のスクリュー回転速度もまた、エステル化反応におけるエステル化率に影響を及ぼす。回転速度が低い場合、原料化合物のスクリュー内における滞留時間を長くすることができるが、同時にせん断力は低下し、エステル化率の上昇には不利となる。一方、スクリュー回転速度が高すぎると、原料化合物のスクリュー内に滞留する時間が不足し、エステル化率の上昇が問題となる。本発明の方法において、工程(a)のエステル化反応に用いられる押出機のスクリュー回転速度としては、10〜300min−1の範囲内にあるのが好ましく、より好ましくは50〜200min−1の範囲内である。通常、原料化合物のスクリュー内における滞留時間としては、0.5〜4.5分間が好ましく、より好ましくは1〜4分間であり、更に好ましくは1.5〜3.5分間である。
【0018】
本発明の方法において、工程(b)のアンモニウム塩生成反応は、溶剤の存在下、工程(a)により得たビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸とメラミン又はその誘導体、例えば、フェニルメラミンとを混合する。工程(b)のアンモニウム塩生成反応において、メラミン又はその誘導体のフェニルメラミンの添加量は、工程(a)に用いたペンタエリトリットのモル数の2倍量が好ましい。工程(b)において、水分を溶剤として用ても良く、反応容器中に、ビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸、メラミン又はフェニルメラミン、及び溶剤を加え、攪拌しながら30〜90℃に昇温してアンモニウム塩生成反応を行う。好ましくは70〜90℃の条件下で反応を行う。次に、降温し、濾過後水分を除去し、乾燥してメラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩を得る。
【0019】
以下、特定の具体的実施例により本発明の長所と効果について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
[実施例]
実施例1
五酸化二リン(P)とペンタエリトリットとを、モル比1:1で、二軸押出機に供給し、スクリュー回転速度100min−1及び二重壁加熱ドラム温度30〜200℃の範囲内の条件下でエステル化反応を行い、ビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸エステルを得た。押出機の取出し口で試料を採取し、31P−NMRグラフによりエステル化率を求めた。その結果を表1に示す。
【0021】
ビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸エステル122.4g、メラミン111g及び純水500gを秤取し、容量1000mlのフラスコに入れ、撹拌下90℃に昇温し、30分間反応を行った。次に、25℃まで降温し、濾過後、過剰の水分を除去し、乾燥してメラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩を得た。
【0022】
実施例2〜3
実施例1と同様な工程により、エステル化反応における二軸押出機のスクリュー回転速度を、表1に示される通りに調整して反応を行った。押出機の取出し口で試料を採取し、31P−NMRグラフによりエステル化率を求めた。その結果を表1に示す。
【0023】
実施例4
実施例1と同様な工程により、エステル化反応における二軸押出機の二重壁加熱ドラムの温度を、表1に示される通りに調整して反応を行った。押出機の取出し口で試料を採取し、31P−NMRグラフによりエステル化率を求めた。その結果を表1に示す。
【0024】
実施例5〜6
実施例1と同様な工程により、表1に示される原料供給比率を用いて反応を行った。押出機の取出し口で試料を採取し、31P−NMRグラフによりエステル化率を求めた。その結果を表1に示す。
【0025】
比較例1
実施例1と同様な工程により、エステル化反応における二軸押出機の二重壁加熱ドラムの温度を、表1に示される通りに調整して反応を行った。押出機の取出し口で試料を採取し、31P−NMRグラフによりエステル化率を求めた。その結果を表1に示す。
【0026】
比較例2〜3
実施例1と同様な工程により、エステル化反応における二軸押出機のスクリュー回転速度を、表1に示される通りに調整して反応を行った。押出機の取出し口で試料を採取し、31P−NMRグラフによりエステル化率を求めた。その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1の結果より、押出機の二重壁加熱ドラムの温度が30〜200℃の範囲内にあり、スクリューの回転速度が10〜300min−1の範囲内であれば、エステル化率の向上に有利であることが明らかに示されている。また、五酸化二リンとペンタエリトリットとの原料供給モル比が、ビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸のエステル化率に対して余り影響を与えないことも明らかに示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩の製造方法であって、以下の工程
工程(a)エステル化反応:
押出機内において、ペンタエリトリットと五酸化二リンとを、混合及び反応させて、ビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸を形成する、及び
工程(b)アンモニウム塩生成反応:
溶剤の存在下、前記エステル化反応により得たビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸とメラミン又はその誘導体とを、混合及び反応させて、水分を除去して、メラミンビス(リン酸ペンタエリトリット)リン酸塩を得る、
を含む、前記製造方法。
【請求項2】
ペンタエリトリットと五酸化二リンとのモル比が、1:0.5〜3である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ペンタエリトリットと五酸化二リンとのモル比が、1:0.75〜1.33である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
押出機が、二軸押出機である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
押出機の温度が、30〜200℃の範囲内にある、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
押出機の温度が、50〜140℃の範囲内にある、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
押出機のスクリュー回転速度が、10〜300min−1の範囲内にある、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
押出機のスクリュー回転速度が、50〜200min−1の範囲内にある、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
メラミンの誘導体が、フェニルメラミンである、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
工程(b)で用いられる溶剤が、水である、請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−260766(P2008−260766A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85114(P2008−85114)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(595009383)長春人造樹脂廠股▲分▼有限公司 (23)
【Fターム(参考)】