説明

メンテナンス装置及び流体噴射装置

【課題】流体噴射ヘッドが汚染されることを抑制しつつ流体噴射ヘッドをメンテナンスすることができるメンテナンス装置及び該メンテナンス装置を備えた流体噴射装置を提供する。
【解決手段】ワイパー29を、先端部29aがキャップ26のシール部26aよりも上方に位置する第1の位置とキャップ26のシール部26aよりも下方に位置する第2の位置との間で移動するように、キャップ26の側方直近位置で昇降させる昇降機構31と、昇降機構31の作動に伴いワイパー29が第1の位置から第2の位置に向けて移動する過程において先端部29aがキャップ26のシール部26aの側方直近を下方に向けて通過するときに、キャップ26をワイパー29の昇降経路から離間するように変位させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射ヘッドに対してメンテナンス動作を行うメンテナンス装置、及び該メンテナンス装置を備えた流体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、媒体に対して流体を噴射する流体噴射装置として、インクジェット式プリンターが広く知られている。このプリンターは、流体噴射ヘッドに形成されたノズルからインク(流体)を噴射することで、用紙(媒体)に印刷処理を施すようになっている。
【0003】
ところで、こうしたプリンターでは、ノズルの目詰まり等を抑制するために流体噴射ヘッドをクリーニングする際には、ノズル形成面に当接したキャップ内にノズルから強制排出されたインクが充満するため、ノズル形成面にはインクが付着する。そこで、このようにノズル形成面に付着したインクを払拭して除去するために、ゴム状の可撓性を有する弾性体からなるワイパーブレードを設けたプリンターが提案されている(例えば、特許文献1)。そして、このプリンターでは、下方の待機位置から上方の払拭位置まで上昇移動させたワイパーブレードの先端部を流体噴射ヘッドのノズル形成面に摺接させることにより、流体噴射ヘッドのノズル形成面を清掃するようになっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−106036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のプリンターでは、装置全体の小型化要請に応えるべく、ワイパーブレードとキャップとが近接して配置されている。そのため、ワイパーブレードが上方の払拭位置にてワイピング動作を実行した後にキャップの側方直近を下方の待機位置に向かって下降移動するときに、ワイパーブレードの先端に付着したインクがキャップのシール部に付着することがあった。そして、このようにインクが付着した状態のキャップのシール部が、その後におけるメンテナンス時に流体噴射ヘッドに対して当接した場合には、流体噴射ヘッドを汚染してしまう虞があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、流体噴射ヘッドが汚染されることを抑制しつつ流体噴射ヘッドをメンテナンスすることができるメンテナンス装置及び該メンテナンス装置を備えた流体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のメンテナンス装置は、流体を噴射するノズルがノズル形成面に形成された流体噴射ヘッドに対する第1のメンテナンス動作時に、環状をなす当接部が前記ノズルを囲うように前記流体噴射ヘッドに対して当接するキャップと、前記流体噴射ヘッドに対する第2のメンテナンス動作時に、上端の摺接部が前記ノズル形成面に摺接するワイパーと、当該ワイパーを、前記摺接部が前記キャップにおける前記当接部よりも上方に位置する第1の位置と前記当接部よりも下方に位置する第2の位置との間で移動するように、前記キャップの側方直近位置で昇降させる昇降機構と、当該昇降機構の作動に伴い前記ワイパーが前記第1の位置から前記第2の位置に向けて移動する過程において前記摺接部が前記キャップにおける前記当接部の側方直近を下方に向けて通過するときに、前記キャップを前記ワイパーの昇降経路から離間するように変位させる変位機構とを備えた。
【0008】
上記構成によれば、ワイパーの摺接部が当接部の側方直近位置を下方に向けて通過するときには、キャップがワイパーの昇降経路から離間するように変位するため、ワイパーの摺接部に付着した流体がキャップの当接部に付着することを回避できる。したがって、かかるキャップの当接部が流体噴射ヘッドに対して当接することにより流体噴射ヘッドが汚染されることを抑制しつつ、流体噴射ヘッドをメンテナンスすることができる。
【0009】
また、本発明のメンテナンス装置において、前記変位機構は、前記ワイパーの昇降動作時に前記キャップにカム係合することにより、当該キャップに対して前記ワイパーの上下方向への移動力を水平方向への変位力に変換して伝達するカム部を含んで構成されている。
【0010】
上記構成によれば、ワイパーが第1の位置から第2の位置に向けて移動する際の上下方向への移動力がカム部を通じてキャップに対して水平方向への変位力に変換して伝達される。そのため、ワイパーが当接部の側方直近位置を下方に向けて通過する際に、ワイパーの摺接部に付着した流体がキャップの当接部に付着することを回避できる。
【0011】
また、本発明のメンテナンス装置において、前記カム部は、前記ワイパーが前記第1の位置に位置した状態での当該カム部における前記キャップに対する対向部位が、前記第1の位置から前記第2の位置への前記ワイパーの移動方向に対して鈍角をなして交差した斜面状をなしている。
【0012】
上記構成によれば、ワイパーが第1の位置から第2の位置に向けて変位する際に、キャップがカム部の対向部位の斜面に沿ってワイパーから離間する方向に摺動する。そのため、ワイパーが当接部の側方直近位置を下方に向けて通過する際に、ワイパーの摺接部に付着した流体がキャップの当接部に付着することを回避できる。
【0013】
また、本発明のメンテナンス装置は、前記キャップを前記カム部によるカム係合に基づき水平方向に変位した位置から元の位置に復帰するように付勢する付勢部材を更に備えた。
【0014】
上記構成によれば、ワイパーが第1の位置から第2の位置に向けて変位する際には、キャップに対してカム部をカム係合させた状態で、キャップを付勢部材の付勢力に抗してワイパーから離間する方向に変位させる。その結果、ワイパーが当接部の側方直近位置を下方に向けて通過する際に、ワイパーの摺接部に付着した流体がキャップの当接部に付着することを回避できる。その一方で、ワイパーが第2の位置から第1の位置に向けて変位する際には、付勢部材の付勢力に従ってキャップを元の位置に復帰させることができる。
【0015】
また、本発明の記録装置は、流体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面を有する流体噴射ヘッドと、上記構成のメンテナンス装置とを備えた。
上記構成によれば、上記メンテナンス装置の発明と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態のプリンターを示す斜視図。
【図2】記録ヘッドに対してワイピング動作を実行する前のメンテナンス装置を示す模式図。
【図3】記録ヘッドに対してワイピング動作を実行している最中のメンテナンス装置を示す模式図。
【図4】記録ヘッドに対してワイピング動作を実行した後のメンテナンス装置を示す模式図。
【図5】ワイパーホルダーの凸部に対してキャップが当接した状態のメンテナンス装置を示す模式図。
【図6】ワイパーホルダーの凸部に対してキャップが乗り上げた状態のメンテナンス装置を示す模式図。
【図7】ワイパーの先端部がシール部の側方直近位置を鉛直下方に通過している状態のメンテナンス装置を示す模式図。
【図8】キャップがワイパーホルダーの凸部を上方に乗り上げた後の状態のメンテナンス装置を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の流体噴射装置をインクジェット式プリンターに具体化した一実施形態を図1〜図8に従って説明する。
図1に示すように、流体噴射装置としてのインクジェット式プリンター11は、略矩形箱状をなすフレーム12を備えている。フレーム12内の下部には、その長手方向である主走査方向Xに沿って支持台13が延設されている。支持台13上には、フレーム12の背面下部(図1における後面下部)に設けられた紙送りモーター14の駆動に基づき、図示しない紙送り機構によりターゲットとしての記録用紙Pが主走査方向Xと直交する副走査方向Yに沿って給送されるようになっている。
【0018】
また、フレーム12内における支持台13の上方には、該支持台13の長手方向に沿ってガイド軸15が架設されている。ガイド軸15には、キャリッジ16が、該ガイド軸15の軸線方向(主走査方向X)に沿って往復移動可能に支持されている。すなわち、キャリッジ16は、軸線方向に貫通形成された支持孔16aにガイド軸15が挿通されることにより、このガイド軸15の軸線方向に沿って往復移動自在に支持されている。
【0019】
また、フレーム12の図1における後壁内面においてガイド軸15の両端部と対応する位置には、駆動プーリ17a及び従動プーリ17bが回転自在に支持されている。駆動プーリ17aにはキャリッジ16を往復移動させる際の駆動源となるキャリッジモーター18の出力軸が連結されると共に、これら一対のプーリ17a,17b間には、キャリッジ16に連結された無端状のタイミングベルト17が掛装されている。したがって、キャリッジ16は、ガイド軸15にガイドされながら、キャリッジモーター18の駆動力により無端状のタイミングベルト17を介して主走査方向Xに移動可能となっている。
【0020】
キャリッジ16の下面側には流体噴射ヘッドとしての記録ヘッド19が設けられると共に、キャリッジ16上には記録ヘッド19に対して流体としてのインクを供給するための複数(本実施形態では4つ)のインクカートリッジ20が着脱可能に搭載されている。そして、インクカートリッジ20内のインクは、記録ヘッド19に備えられた図示しない圧電素子の駆動により、インクカートリッジ20から記録ヘッド19へと供給され、該記録ヘッド19のノズル形成面19aに形成された複数のノズル21から支持台13上に給送された記録用紙Pに吐出(噴射)されて印刷が行われるようになっている。
【0021】
なお、フレーム12内の図1における右端部に位置する記録用紙Pと対応しないホームポジションHPには、非印刷時に記録ヘッド19のクリーニング等のメンテナンスを行うためのメンテナンス装置23が設けられている。
【0022】
次に、メンテナンス装置23について図2に基づき説明する。
図2に示すように、メンテナンス装置23は、記録ヘッド19に対してクリーニング動作を第1のメンテナンス動作として実行するキャップ機構24と、記録ヘッド19のノズル形成面19aに対してワイピング動作を第2のメンテナンス動作として実行するワイピング機構25とを備えている。そして、ワイピング機構25は、キャップ機構24に対する側方直近位置に位置している。
【0023】
キャップ機構24は、有底略箱体状をなすキャップ26を備えている。このキャップ26は、当該キャップ26の開口縁に沿うように環状をなして上方に突出した弾性材料からなる当接部としてのシール部26aを有している。そして、キャップ機構24は、記録ヘッド19がホームポジションHPに移動した状態において、図示しない昇降機構の駆動に基づきキャップ26が上昇すると、シール部26aが各ノズル21を囲んだ状態でノズル形成面19aに対して当接するようになっている。また、キャップ機構24は、その状態で、図示しない吸引ポンプの駆動に伴ってキャップ26内が負圧になることにより、ノズル21内からインクを吸引して排出するようになっている。なお、キャップ26の側面には、キャップ26をワイピング機構25に対して接近させる方向に付勢する付勢部材としてのコイルスプリング28が接続されている。
【0024】
ワイピング機構25は、記録ヘッド19のノズル形成面19aに対して摺接するワイパー29と、当該ワイパー29を保持するワイパーホルダー30と、当該ワイパーホルダー30を上下方向に昇降させる昇降機構31とを有している。そして、ワイピング機構25は、昇降機構31を通じてワイパーホルダー30を昇降させることにより、ワイパー29を記録ヘッド19のノズル形成面19aに対して当接させる当接位置と、記録ヘッド19のノズル形成面19aから離間させる離間位置との間で変位させることが可能となっている。
【0025】
ワイパー29は、弾性材料が短冊状に成形されると共に、その先端部29aが記録ヘッド19のノズル形成面19aに対して摺接する摺接部として機能する。また、ワイパー29は、キャリッジ16の副走査方向Yにおける幅寸法が、同方向における記録ヘッド19のノズル形成面19aの幅寸法よりも大きくなるように設計されている。
【0026】
ワイパーホルダー30は、その上端部でワイパー29の基端部を保持する一方で、ワイパーホルダー30の昇降動作時にキャップ26に対して水平方向に対峙する対峙壁面30aに、キャップ26側に向けて水平に延出した凸部32が形成されている。そして、この凸部32は、コイルスプリング28によって付勢された状態にあるキャップ26のシール部26aに対して、ワイパーホルダー30の昇降方向となる上下方向に対向するように配置されている。この場合、ワイパーホルダー30の凸部32は、ワイパーホルダー30が記録ヘッド19のノズル形成面19aに対する当接位置から離間位置に向けて変位する過程で、ワイパーホルダー30の鉛直下方への移動力を水平方向への変位力に変換してキャップ26に対して伝達するカム部として機能する。
【0027】
なお、ワイパーホルダー30に形成された凸部32は、その先端側に向かうに連れてワイパーホルダー30の昇降方向となる上下方向の幅寸法が次第に小さくなるテーパ状をなすように構成されている。そして、ワイパーホルダー30が記録ヘッド19のノズル形成面19aに対する当接位置から離間位置に向けて変位する過程でキャップ26のシール部26aに対してカム係合する凸部32の下面32aは、ワイパーホルダー30の変位方向となる鉛直下方向に対して鈍角をなして交差するように構成されている。
【0028】
次に、上記のように構成されたプリンター11の作用について、特に、ワイパー29が記録ヘッド19のノズル形成面19aに対するワイピング動作を実行した後に、ワイパー29がキャップ機構24の側方直近位置を鉛直下方に通過する際の作用に着目して以下説明する。
【0029】
さて、キャップ機構24は、記録ヘッド19がホームポジションHPに移動した状態において、図示しない昇降機構の駆動に基づきキャップ26が上昇すると、シール部26aが各ノズル21を囲んだ状態でノズル形成面19aに対して当接する。また、キャップ機構24は、その状態で、図示しない吸引ポンプの駆動に伴ってキャップ26内が負圧になることにより、ノズル21内からインクを吸引して排出させる。この場合、キャップ26内には、記録ヘッド19のノズル21内から排出されたインクが充満する。そのため、キャップ機構24がこの状態で記録ヘッド19のノズル形成面19aからシール部26aを離間させた場合には、記録ヘッド19のノズル形成面19aにはインクが付着した状態となる。
【0030】
続いて、図3に示すように、ワイピング機構25がワイパー29を記録ヘッド19のノズル形成面19aに対する当接位置に位置させた状態で、キャリッジ16をガイド軸15に沿うように主走査方向Xに移動させる。すると、ワイピング機構25は、ワイパー29の先端部29aを記録ヘッド19のノズル形成面19aに対して弾性変形を伴いながら摺接させることにより、記録ヘッド19のノズル形成面19aに付着しているインクを払拭する。
【0031】
ここで、ワイパー29は、キャリッジ16の副走査方向Yにおける幅寸法が、同方向における記録ヘッド19のノズル形成面19aの幅寸法よりも大きく設定されている。そのため、ワイパー29が記録ヘッド19のノズル形成面19aを横切るように記録ヘッド19に対して主走査方向Xに往復動作を一度行うことにより、記録ヘッド19のノズル形成面19aの全域に付着したインクが払拭されて除去される。
【0032】
すると、図4に示すように、ワイパー29の先端部29aには、記録ヘッド19のノズル形成面19aから払拭により除去したインク滴Sが付着する。そして、ワイパー29の先端部29aは、昇降機構31によるワイパーホルダー30の下降動作に伴って、インク滴Sを付着させた状態で記録ヘッド19のノズル形成面19aから離間するように鉛直下方に変位する。なお、図4に示す状態では、ワイピング機構25は、ワイパー29の先端部29aがキャップ26のシール部26aよりも上方位置(第1の位置)に位置している。
【0033】
続いて、図5に示すように、ワイパーホルダー30が昇降機構31によって鉛直下方に変位すると、ワイパーホルダー30の凸部32の下面32aがキャップ26のシール部26aに対して当接するようになる。さらに、ワイパーホルダー30は、その凸部32の下面32aがキャップ26のシール部26aに対して当接した後に、昇降機構31によって鉛直下方に向けて更に変位する。すると、キャップ26のシール部26aがワイパーホルダー30の凸部32の下面32aに対して上下方向に相対変位するように摺接しつつ、ワイパーホルダー30の凸部32に対して水平方向に乗り上げるように変位する。すなわち、本実施形態では、ワイパーホルダー30及び昇降機構31によって、キャップ26をワイパー29の昇降経路から水平方向において離間するように変位させる変位機構が構成されている。
【0034】
ここで、キャップ26は、水平方向への変位が許容されるように構成されている。そのため、図6に示すように、シール部26aがワイパーホルダー30の凸部32に対する水平方向への乗り上げを完了すると、キャップ26が水平方向にスライド移動する。その結果、キャップ26の側面がワイパーホルダー30の凸部32の先端面32bに対して摺接するようになる。
【0035】
この場合、シール部26aは、ワイパーホルダー30の凸部32の突出量にほぼ相当する距離を隔てて、ワイパーホルダー30の上端部に保持されたワイパー29に対して水平方向に離間して配置される。そして、図7に示すように、インク滴Sを付着させたワイパー29の先端部29aがキャップ機構24の側方直近位置を鉛直下方に向けて通過する際には、シール部26aがワイパー29の昇降経路から水平方向に離間して配置される。そのため、インク滴Sを付着したワイパー29の先端部29aがシール部26aの側方直近位置を鉛直下方に向けて通過する場合であっても、ワイパー29の先端部29aに付着したインク滴Sがシール部26aに対して転写されることが回避される。
【0036】
その後、昇降機構31がワイパーホルダー30を鉛直下方に向けて更に変位させると、キャップ26はワイパーホルダー30の凸部32の先端面32bを上方に乗り越える。すると、ワイパーホルダー30の凸部32がキャップ26の底面よりも鉛直下方に位置するようになる。
【0037】
この場合、キャップ26は、コイルスプリング28によってワイパーホルダー30に対して接近する方向に付勢される。そのため、キャップ26は、その側面をワイパーホルダー30の凸部32の上面32cに対して摺接させつつ、ワイパーホルダー30に対して上方に相対変位する。その結果、キャップ26は、ワイパーホルダー30の対峙壁面30aに対して水平方向に接近するように変位する。
【0038】
そして、ワイパーホルダー30の凸部32は、キャップ26に対して上方から見た平面視において部分的に重畳するように配置される。すなわち、ワイピング機構25は、ワイパー29の先端部29aがシール部26aよりも下方位置(第2の位置)に位置した状態では、キャップ26に対して水平方向の設置スペースが部分的に共有されるため、装置全体の水平方向の省スペース化が図られるようになっている。
【0039】
上記実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)ワイパー29の先端部29aがシール部26aの側方直近位置を下方に向けて通過するときには、キャップ26がワイパー29の昇降経路から離間するように変位するため、ワイパー29の先端部29aに付着したインク滴Sがキャップ26のシール部26aに対して水平方向に離間して配置される。そのため、ワイパー29がメンテナンス動作時に記録ヘッド19に対して摺接動作を実行した後に、ワイパー29が先端部29aにインクを付着させた状態でシール部26aの側方直近位置を下方に向けて通過する場合であっても、ワイパー29の先端部29aに付着したインク滴Sがキャップ26のシール部26aに付着することを回避できる。したがって、かかるキャップ26のシール部26aが記録ヘッド19に対して当接することにより、記録ヘッド19が汚染されることを抑制しつつ記録ヘッド19をメンテナンスすることができる。
【0040】
(2)ワイパー29がキャップ26のシール部26aよりも上方となる位置からキャップ26のシール部26aよりも下方となる位置に向けて移動する際の上下方向への移動力がワイパーホルダー30の凸部32を通じてキャップ26に対して水平方向への変位力に変換して伝達される。そのため、ワイパー29がシール部26aの側方直近位置を下方に向けて通過する際に、ワイパー29の先端部29aに付着したインクがキャップ26のシール部26aに付着することを回避できる。
【0041】
(3)ワイパー29がキャップ26のシール部26aよりも上方となる位置からキャップ26のシール部26aよりも下方となる位置に向けて変位する際に、キャップ26が凸部32の下面32aの斜面に沿ってワイパー29から離間する方向に摺動する。そのため、ワイパー29がシール部26aの側方直近位置を下方に向けて通過する際に、ワイパー29のシール部26aに付着したインクがキャップ26のシール部26aに付着することを回避できる。
【0042】
(4)ワイパー29がキャップ26のシール部26aよりも上方となる位置からキャップ26のシール部26aよりも下方となる位置に向けて変位する際には、キャップ26に対してワイパーホルダー30の凸部32をカム係合させた状態で、キャップ26をコイルスプリング28の付勢力に抗してワイパー29から離間させる方向に変位させる。その結果、ワイパー29がシール部26aの側方直近位置を下方に向けて通過する際に、ワイパー29の先端部29aに付着したインク滴Sがキャップ26のシール部26aに付着することを回避できる。その一方で、ワイパー29がキャップ26のシール部26aよりも下方となる位置からキャップ26のシール部26aよりも上方となる位置に向けて変位する際には、コイルスプリング28の付勢力に従ってキャップ26を元の位置に復帰させることができる。
【0043】
(5)ワイピング機構25は、ワイパー29の先端部29aがシール部26aよりも下方位置に位置した状態では、キャップ機構24に対して水平方向の設置スペースが部分的に共有されるため、装置全体の水平方向の省スペース化に貢献することができる。
【0044】
なお、上記実施形態は、以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・上記実施形態において、キャップ機構24におけるキャップ26をワイパーホルダー30に対して接近させる方向に付勢する付勢部材は、コイルスプリング28に限定されず、板ばね等の他の弾性体を用いてもよい。
【0045】
・上記実施形態において、ワイパーホルダー30におけるキャップ機構24のシール部26aに対して上下方向で対向する対向部位は、キャップ26が水平方向に乗り上げ可能な形状であれば任意の形状を採用することができる。
【0046】
・上記実施形態において、キャップ機構24は、キャップ26を水平方向に移動させる移動機構を備えた構成としてもよい。そして、かかる構成においては、ワイパーホルダー30の昇降動作に合わせてキャップ26を水平方向に移動させるようにしてもよい。
【0047】
・上記実施形態において、流体噴射装置として、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置を採用しても良い。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体消費装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記流体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体消費装置が噴射させることができるような材料であれ良い。例えば、物質が液相であるときの状態のものであれば良く、粘性の高い又は低い液状態、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散または混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施例の形態で説明したようなインク等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インクおよび油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種流体組成物を包含するものとする。液体消費装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液体を噴射する流体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる流体を噴射する流体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置を採用してもよい。
【符号の説明】
【0048】
11…流体噴射装置としてのプリンター、19…流体噴射ヘッドとしての記録ヘッド、23…メンテナンス装置、26…キャップ、26a…当接部としてのシール部、28…付勢部材としてのコイルスプリング、29…ワイパー、29a…摺接部としての先端部、30…変位機構を構成するワイパーホルダー、31…変位機構を構成する昇降機構、32…カム部としての凸部、32a…対向部位としての下面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を噴射するノズルがノズル形成面に形成された流体噴射ヘッドに対する第1のメンテナンス動作時に、環状をなす当接部が前記ノズルを囲うように前記流体噴射ヘッドに対して当接するキャップと、
前記流体噴射ヘッドに対する第2のメンテナンス動作時に、上端の摺接部が前記ノズル形成面に摺接するワイパーと、
当該ワイパーを、前記摺接部が前記キャップにおける前記当接部よりも上方に位置する第1の位置と前記当接部よりも下方に位置する第2の位置との間で移動するように、前記キャップの側方直近位置で昇降させる昇降機構と、
当該昇降機構の作動に伴い前記ワイパーが前記第1の位置から前記第2の位置に向けて移動する過程において前記摺接部が前記キャップにおける前記当接部の側方直近を下方に向けて通過するときに、前記キャップを前記ワイパーの昇降経路から離間するように変位させる変位機構と
を備えたことを特徴とするメンテナンス装置。
【請求項2】
請求項1に記載のメンテナンス装置において、
前記変位機構は、前記ワイパーの昇降動作時に前記キャップにカム係合することにより、当該キャップに対して前記ワイパーの上下方向への移動力を水平方向への変位力に変換して伝達するカム部を含んで構成されていることを特徴とするメンテナンス装置。
【請求項3】
請求項2に記載のメンテナンス装置において、
前記カム部は、前記ワイパーが前記第1の位置に位置した状態での当該カム部における前記キャップに対する対向部位が、前記第1の位置から前記第2の位置への前記ワイパーの移動方向に対して鈍角をなして交差した斜面状をなしていることを特徴とするメンテナンス装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のメンテナンス装置において、
前記キャップを前記カム部によるカム係合に基づき水平方向に変位した位置から元の位置に復帰するように付勢する付勢部材を更に備えたことを特徴とするメンテナンス装置。
【請求項5】
流体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面を有する流体噴射ヘッドと、
請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載のメンテナンス装置と
を備えたことを特徴とする流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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