説明

モザイク異数体幹細胞の選択、増殖及び使用

細胞の集団内での細胞の核型の分布は、幹細胞の表現型を及び幹細胞が正常に機能するための望ましい細胞型への分化の能力を規定することができ、加えて、癌のような有害現象に対するリスクを表すことができる。それゆえ、細胞集団の異数体モザイク状態の決定は、望ましい形質を同定及び/又は維持する上で、並びに幹細胞中の望ましくない形質を排除する上で有用であり、形質の染色体の相補対のレベルで形質を規定するために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願の相互参照
本願は、その全ての内容が全体として参照により組み込まれる、2005年11月9日に出願された米国仮特許出願第60/735,715号に対する優先権の利益を主張する。
【0002】
連邦政府による支援を受けて行われた研究及び開発の下で実施された発明に対する権利に関する陳述
本発明は、米国国立衛生研究所によって授与されたグラント第K02MH01723号の下で、連邦政府の支援を受けて実施された。連邦政府は、本発明に対して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
幹細胞は、体内の異なる多くの細胞種へと発達する可能性を秘めている。幹細胞は、理論的には、他の細胞を補充する制約なしに分裂することができる。幹細胞が分裂すると、新たな各細胞は、幹細胞の状態に留まるか、又は筋肉細胞、赤血球細胞若しくは脳細胞等の、より特化した機能を有する細胞の別の種類になる可能性を有している。幹細胞は、しばしば、全能性又は多能性として分類される。全能性幹細胞は、完全な分化能を有している。すなわち、全能性幹細胞は、体内の細胞の異なる全ての種類をもたらす。受精卵細胞は、全能性幹細胞の一例である。多能性幹細胞は、3つの主要な生殖細胞層又は胚自体に由来する体内の全ての細胞種をもたらすことができる。前駆細胞も、特化した細胞へと分化することが可能である。しかしながら、幹細胞とは異なり、前駆細胞は、自己再生することができず、前駆細胞は、1つ又は数個の細胞種をもたらすに過ぎない。
【0004】
幹細胞には、胚性幹細胞及び成体幹細胞が含まれる。胚性幹細胞は、胚に由来する。研究目的の場合、胚性幹細胞は、(インビトロ受精診療所等での)インビトロで受精した卵から発達した胚から得られ、次に、ドナーのインフォームドコンセントを得て、研究目的に供される。通例、胚は、4日齢又は5日齢時に得られ、この時点で、胚は、顕微鏡レベルの中空の細胞球(胚盤胞と呼ばれる。)である。胚盤胞には、胚盤胞を取り囲む細胞の層である栄養膜、胚盤胞の内側の中空の空洞である胞胚腔、及び胞胚腔の片端にある約30個の細胞の一群である内部細胞塊という3つの構造が含まれる。
【0005】
胚性幹細胞は、例えば、内部細胞塊を単離し、それらをインビトロで増殖させることによって得ることができる。内部細胞塊は、通常、内部細胞塊に対する接着層として、及び栄養物質の源として機能するマウス胚線維芽細胞等のフィーダー細胞の層上で増殖する。胚性幹細胞は、多能性であり、体内の全ての細胞種になることが可能である。
【0006】
成体幹細胞、又は体性幹細胞は、未分化細胞である。このような細胞は、しばしば、組織又は臓器中の分化された細胞の中から同定されることが可能である。成体幹細胞は、それ自体再生することができ、組織又は臓器の特殊化された細胞種へと分化することが可能である。
【0007】
ヒト胚性幹細胞(HESC)は、再生医学のための移植など、基礎科学及び治療戦略の両者において使用するために、多大な可能性を秘めている(Amit M,et al.Dev Biol 227:271−278(2000))。HESCを使用するための課題は、特に長期間の継代後に、安定な細胞系を維持することである(Amit M,et al.Dev Biol 227:271−278(2000);Carpenter MK,et al.Dev Dyn 229:243−258(2004);Rosler ES,et al.Dev Dyn 229:259−274(2004))。実際、異数体幹細胞のクローン増殖の結果、H1、H7、H9等の、NIHにより拠出されたHESC系の染色体の不安定性が生じることが近年報告されている(Draper JS,et al.Nat Biotechnol 22:53−54(2004);Lakshmipathy U,et al.Stem Cells 22:531−543(2004);Pera MF,Nat Biotechnol 22:42−43(2004))。最も高頻度に報告されている染色体の異常は、高倍数性であり、特に染色体12、17又は20のトリソミーであった(Draper JS,et al.Nat Biotechnol 22:53−54(2004);Lakshmipathy U,et al.Stem Cells 22:531−543(2004);Pera MF,Nat Biotechnol 22:42−43(2004))が、染色体の不安定性に関する普遍性は、不確かである(Thomson JA,et al.Science 282:1145−1147(1998);Amit M,et al.Dev Biol 227:271−278(2000);Reubinoff BE,et al.Nat Biotechnol 18:399−404(2000);Thomson JA,et al.Trends Biotechnol 18:53−57(2000);Xu C,et al.,Nat Biotechnol 19:971−974(2001);Cheng L,et al.Stem Cells 21:131−142(2003))。
【0008】
染色体の喪失は、染色体が実際に存在していないことを表すものではなく、細胞遺伝学的分析の不正確さを表すものであると考えられていたので、従来、細胞遺伝学者は、染色体の一部を同定しない細胞遺伝学的な分析を無視してきた。実際、the Association of Genetic Technologistの細胞遺伝学研究マニュアルは、次のように指示している。
45未満の染色体が、中期(伝播)に存在する場合、一部は加工中に喪失し、中期(伝播)は分析には不適切であると考えられる。
Barch et al.,(1997)The AGT Cytogenetics Laboratory Manual.Lippincott:Philadelphiaを参照されたい。
【0009】
本発明は、幹細胞における異数性の役割を扱うものであり、とりわけ、幹細胞の使用及び分析のためのツールを提供する。
【発明の開示】
【0010】
発明の要旨
本発明は、幹細胞又は前駆細胞の集団の異数体モザイク状態を検出及び定義するための方法を提供する。幾つかの実施形態において、前記方法は、集団における異数体モザイク現象の存在を検出することを含み、少なくとも3つの異なる核型が、集団中の異なる細胞の中から検出される。
【0011】
幾つかの実施形態において、集団中の少なくとも30個の細胞が、異数性に関してスクリーニングされる。
【0012】
幾つかの実施形態において、細胞の異数性が記録される。
【0013】
幾つかの実施形態において、少なくとも4、5、6、7、8、9、10、15、20個又はそれ以上の異なる核型が、集団中の異なる細胞内で検出される。
【0014】
幾つかの実施形態において、前記方法は、正味の低倍数体モザイク核型を有する細胞を検出すること、及び分化、さらなる増殖又は移植のために、正味の低倍数体モザイク核型を有する前記細胞から、染色体の少なくとも一部に関して低倍数体である幹細胞系又は前駆細胞系を選択することを含む。
【0015】
幾つかの実施形態において、前記方法は、正味の低倍数体モザイク核型を有する細胞を検出すること、及び薬物スクリーニングのために、正味の低倍数体モザイク核型を有する前記細胞から、染色体の少なくとも一部に関して低倍数体である幹細胞系又は前駆細胞系を選択することを含む。
【0016】
幾つかの実施形態において、前記方法は、正味の高倍数体モザイク核型を有する細胞を検出すること、及び分化、さらなる増殖、又は移植のために、正味の高倍数体モザイク核型を有する前記細胞から、染色体の少なくとも一部に関して高倍数体である幹細胞系又は前駆細胞系を選択することを含む。
【0017】
幾つかの実施形態において、前記方法は、正味の高倍数体モザイク核型を有する細胞を検出すること、及び薬物スクリーニング(例えば、細胞を選択的に阻害し、又は死滅させる薬物に対するスクリーニング)のために、正味の高倍数体モザイク核型を有する前記細胞から、染色体の少なくとも一部に関して高倍数体である幹細胞系又は前駆細胞系を選択することを含む。
【0018】
幾つかの実施形態において、前記方法は、検出段階の前に細胞分裂の少なくとも1つの(例えば、少なくとも2、5、10、20、30、40、50、60、70、80、100又はそれ以上の)周期を通じて、幹細胞を継代することをさらに含む。
【0019】
幾つかの実施形態において、細胞集団中の細胞の、例えば、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%の核型が決定される。
【0020】
幾つかの実施形態において、検出段階は、多重蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)を含むFISHを含む。幾つかの実施形態において、検出段階は、スペクトル核型分析(SKY)を含む。幾つかの実施形態において、検出段階は、Gバンド形成を含む。幾つかの実施形態において、検出段階は、DAPI又は他の染色体可視化の染色若しくは技術を含む。幾つかの実施形態において、検出段階は、フローサイトメトリを含む。
【0021】
本発明は、望ましい細胞種へ分化できる細胞と比較して、分化できない細胞を優先的に阻害する薬剤に関するスクリーニングの方法も提供する。幾つかの実施形態において、前記方法は、正味の高倍数体モザイク核型を有し、望ましい細胞種へ分化できない細胞へ薬剤を接触させること、及び細胞の増殖を阻害する薬剤を選択することを含む。
【0022】
幾つかの実施形態において、前記方法は、低倍数体核型を有し、望ましい細胞種へ分化できない細胞へ薬剤を接触させる段階;及び分化できない低倍数体細胞の増殖を阻害するが、望ましい細胞種へ分化できる低倍数体細胞の増殖を著しく阻害しない薬剤を選択する段階をさらに含む。
【0023】
本発明は、幹細胞又は前駆細胞の集団を維持又は改良するための方法も提供する。幾つかの実施形態において、本方法は、細胞集団中の細胞中で、少なくとも1つの染色体又はその一部の核型を検出すること;及び細胞集団中の少なくとも1つの染色体又はその一部で正倍数体又は低倍数体の核型を有する細胞を、少なくとも1つの染色体又はその一部で高倍数体である細胞から分離し、これにより細胞集団中の正倍数体細胞及び低倍数体細胞を維持しながら高倍数体細胞を除去することによって幹細胞又は前駆細胞集団を維持又は改良することを含む。
【0024】
幾つかの実施形態において、検出及び分離段階は、蛍光標示式細胞分取(FACS)で実施される。
【0025】
幾つかの実施形態において、分離段階の後、正倍数体又は低倍数体の核型を有する細胞を分化させる。幾つかの実施形態において、分離段階の後、正倍数体又は低倍数体の核型を有する細胞が増殖される。幾つかの実施形態において、分離段階の後、正倍数体又は低倍数体の核型を有する細胞が個体中へ移植される。
【0026】
定義
「異数性」は、その標準的な意味で使用される。すなわち、獲得及び/又は喪失並びに染色体内変化を含む染色体の一倍体数の正確な倍数性から何らかの逸脱が生じているという意味で使用される。したがって、一倍体ゲノムの少なくとも一部の2つのコピーから逸脱を示している細胞(すなわち1つ若しくはそれ以上の染色体若しくはその一部の3以上のコピーが存在し、又は1つ若しくはそれ以上の染色体若しくはその一部が存在していないこと。)は、異数体と考えられる。異数性を記載するために時々使用される用語が「異数染色体」であり、これは、異数性に関する本定義内に包含される。本明細書で使用される「異数体モザイク現象」とは、細胞集団中少なくとも3つの異なる核型が存在することを表し、そのうちの少なくとも2つは、異なる異数体状態である。幾つかの実施形態において、細胞集団中には4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上の異なる核型が存在する。
【0027】
「薬物スクリーニング」とは、望ましい生物学的効果を有する1つ又はそれ以上の分子を同定するために複数の分子(例えば、ライブラリー)をスクリーニングすることを指す。この分子(「薬剤」と称される場合がある。)は、抗体、核酸、ペプチド、脂質、糖、又はこれらの組み合わせ等の有機小分子又は生物学的小分子を含み得るが、これらに限定されるわけではない。
【0028】
本明細書で使用される「核型」とは、細胞中に存在する染色体の数及び/又は種類を表す。
【0029】
「前駆細胞」とは、細胞種の限定された数へと分化することができるが、通常、幹細胞へ脱分化することができない細胞を表す。例えば、骨髄中に見出される血液前駆細胞は、それらの天然の発達の一環として、最終状態まで分化した赤血球細胞及び白血球細胞を産生するように運命付けられている。
【0030】
本明細書で使用される「幹細胞」とは、全能性又は多能性の何れかである細胞を表す。全能性幹細胞は、発生中の胚を支える胚胎盤とともに、身体の全ての細胞種へと分化することができる。全能性幹細胞は、胎盤を含む、発生中の生物中に見出される全ての細胞を与えることができる。多能性幹細胞は、3つの主要な組織の種類、すなわち内胚葉(例えば、腸内側裏打ち)、中胚葉(例えば、筋肉、骨、血液)及び外胚葉(例えば、表皮組織及び神経系)の多くへと発達することが可能であるが、それらの発生能には制限が存在し得る(例えば、多能性幹細胞は、胎盤組織又は所定の系列の他の細胞種を形成し得ない。)。
【0031】
図面の簡単な説明
図1は、初期及び後期継代H7 HESC由来の染色体計数の割合を示すグラフを提供する。星印は、グラフ中の正倍数体細胞(46染色体)の期待される位置を表す。両系が、初期継代集団中の低倍数体細胞の有意な割合を示すのに対し、後期継代細胞がクローン高倍数性を示す傾向にあることに留意されたい。
【0032】
図2は、初期及び後期継代H9 HESC系由来の染色体計数の割合を示すグラフを提供する。星印は、グラフ中の正倍数体細胞(46染色体)の期待される位置を表す。両系が、初期継代集団中の低倍数体細胞の有意な割合を示すのに対し、後期継代細胞がクローン高倍数性を示す傾向にあることに留意されたい。
【0033】
図3ないし4は、神経細胞分化に及ぼす高倍数性の効果を示す。神経細胞分化を誘導するために、哺乳動物ESCをPA6細胞上で増殖させた。次に、細胞をタキソールあり又はなしで6日間処理し、異数性を誘導した。染色体計数を決定し、対応する皿を固定し、神経細胞マーカーtuj1に関して染色した。図3は、細胞のタキソール処理が異数性、特に高倍数性を誘導することを示す。図4は、タキソール誘発性高倍数性が、神経細胞分化能を有意に低下させることを示す。
【0034】
発明の詳細な説明
I.序論
本発明は、異数体モザイク現象が、幹細胞を正常に発生及び発達させる上で役割を担っているという驚くべき発見に関する。幹細胞研究者は、今日まで、異数性が、必ず異常であり、したがって、移植又は他の治療用途における使用に関して回避されるべきであると考えてきた。実際、幹細胞の単離及び維持に関する近年の方法は、正倍数性の本質的な重要性を強調している。例えば、米国特許第6,200,806号を参照されたい。
【0035】
これに対して、本発明は、幹細胞又は前駆細胞の集団において異数体モザイク核型を検出するための方法を提供し、具体的な異数体モザイク核型に関して選択された幹細胞又は前駆細胞の使用及び分析を提供する。異数体モザイク現象とは、細胞集団内での核型の分布を指す。本明細書でさらに説明されるように、異数体モザイク現象は、実際には、異常ではなく、正常な幹細胞集団の顕著な特性である。しかしながら、幹細胞集団の実際の異数体モザイク構造は、細胞集団の遺伝子型及び表現型の両方に影響を及ぼすことができ、これには複数の異なる細胞種へと分化する能力を保持する集団の能力が含まれる。幹細胞に対するこれまでの記載とは異なり、本発明者は、幹細胞集団内での異なる核型のモザイクは標準であり、これは、細胞集団の生理学的特性及び幹細胞として最適に機能する能力など、細胞集団の表現型に影響を及ぼすことを発見した。したがって、本発明は、既に記載されているものに比べて、集団中の細胞のより多くの数の核型が決定される「集団の核型分析」を提供する。さらに、既に記載されているものとは異なり、集団の核型分析から得られた結果によって、特定の異数性を有する細胞集団(例えば、低倍数体核型)の選択が可能となるのに対し、低倍数性を有する細胞は、これまで、無視されるか、又は積極的に廃棄されていた。また、本発明によって、特定の異数性(例えば、特定の染色体での高倍数体及び/又は他の染色体での正倍数体若しくは低倍数体)を選択することが可能となる。
【0036】
細胞集団中の異なる核型の例には、少なくとも1つの異数体細胞とともに存在する染色体の正常な相補対(例えば、ヒトにおいて、「常染色体」と呼ばれる22対の非性染色体に加え、2つの性染色体)を有する少なくとも1つの細胞が含まれるが、これに限定されるわけではない。さらに、異数体モザイク集団では、単一の集団中に異なる様々な核型が存在し得る。例えば、細胞集団は、特定の染色体の一部又は全部に関して低倍数体である幾つかの細胞及び異なる染色体の一部又は全部に関して低倍数体である他の細胞を含み得る。幾つかの実施形態において、細胞集団は、特定の染色体の一部又は全部に関して低倍数体である幾つかの細胞及び異なる染色体の一部又は全部に関して高倍数体である他の細胞を含み得る。幾つかの実施形態において、細胞集団は、特定の染色体の一部又は全部に関して高倍数体である幾つかの細胞及び異なる染色体の一部又は全部に関して高倍数体である他の細胞を含み得る。
【0037】
幾つかの実施形態において、細胞集団中の少なくとも幾つかの細胞は、正味の低倍数体モザイク核型を有する。「正味の低倍数体モザイク核型」とは、1つ若しくはそれ以上の染色体又はその一部において、細胞が主として(例えば、50、60、70、80、90、95又は99%超)低倍数体である細胞集団を表す。幾つかの実施形態において、細胞の大部分は、ある特定の染色体において低倍数体である。他の実施形態において、集団中の低倍数体細胞は、異なる(例えば、少なくとも1、2、3、4、5又はそれ以上の)染色体又はその一部において低倍数体である。幾つかの場合において、ある染色体に関して低倍数体である細胞は、他の染色体又はその一部に関して正倍数体及び/又は高倍数体である。細胞集団は「正味の」低倍数体核型を有しながら、細胞の少数に過ぎないが、正倍数体及び高倍数体の細胞を含有できることが理解される。
【0038】
幾つかの実施形態において、細胞集団中の少なくとも幾つかの細胞は、正味の高倍数体モザイク核型を有する。「正味の高倍数体モザイク核型」とは、1つ若しくはそれ以上の染色体又はその一部において、細胞が主として(例えば、50、60、70、80、90、95又は99%超)高倍数体である細胞集団を表す。幾つかの実施形態において、細胞の大部分は、ある具体的な染色体において高倍数体である。他の実施形態において、集団中の高倍数体細胞は、異なる(例えば、少なくとも1、2、3、4、5又はそれ以上の)染色体又はその一部において高倍数体である。幾つかの事例において、特定の染色体に関して高倍数体である細胞は、他の染色体又はその一部に関して正倍数体及び/又は低倍数体である。細胞集団が、「正味の」高倍数体核型を有しながら、細胞の少数に過ぎないが、正倍数体及び低倍数体の細胞を含有できることが理解される。
【0039】
幾つかの実施形態において、細胞集団は、低倍数体及び高倍数体の細胞及び/又は低倍数体及び高倍数体の染色体又はその一部をともに含有する細胞の混合した集団から構成される。この最後の態様の一例は、第一染色体の少なくとも一部の3つのコピーを有するが、第二染色体の少なくとも一部の1つのコピーのみを有する細胞である。さらに別の例では、細胞集団中の少なくとも幾つかの細胞は、染色体の転位置を含有する。
【0040】
本発明は、幹細胞又は前駆細胞の全ての種類に対して有用である。幹細胞の典型的な種類には、胚性幹細胞及び成体幹細胞が含まれる。幹細胞は、ヒト及び非ヒト哺乳動物を含む動物の全ての種類に由来することが可能である。したがって、本発明において使用される幹細胞には、ヒト成体幹細胞及びヒト胚性幹細胞が含まれる。前駆細胞には、造血発生(血液)、神経系、リンパ系、膵臓、心臓、肺、筋肉、骨、軟骨、結合組織、角膜、毛髪、皮膚、肝臓、腸、眼、脂肪、乳房、甲状腺、有性生殖等の系列など(これらに限定されない。)、生物中に存在する多くの前駆細胞種の全てが含まれる。
【0041】
幾つかの実施形態において、癌(あるいは新生物)幹細胞は、癌の表現型と関連した異数性の選択によって単離される。このような細胞は、癌幹細胞を特異的に阻害又は死滅させる薬物を同定することを目標とする薬物スクリーニングのための有用な標的である。あるいは、幹細胞集団は、癌と関連した核型が排除されるように選択することが可能であり、これにより、集団中に残存している細胞を移植等に使用することが可能となる。
【0042】
幹細胞及び前駆細胞を単離するための技術は周知であり、例えば、Thomson et al.,Science 282:1145−(1998);Bodnar,et al.,Stem Cells and Development 13:243−(2004);Li et al.,Current Biology 8:971−(1998);Schwartz et al.,Journal of Neuroscience Research 74:838(2003)に記載されている。
【0043】
II.異数体モザイク現象の検出
幹細胞に関する従来の記載とは異なり、本発明者らは、特異的な異数性のクローン増殖が必ずしも存在するとは限らないことを発見した。それゆえ、核型の分布を決定することが可能であるように、細胞の核型に関して、細胞のより多数を分析することが可能である。典型的には、この分析は、幹細胞研究者によって以前に典型的に分析されたものより、さらに多くの細胞の核型の分析を包含する。当業者は、核型の分布(すなわち「異数体モザイク」)を正確に確立するために、細胞の有意な数を細胞集団内で個別に核型分析すべきであり、前記核型のうちの1つが細胞集団内で正倍数体核型を含み得ることを十分に理解している。それゆえ、幾つかの実施形態において、細胞集団内の異なる核型の正確な分布を確立するために、細胞集団中の30、50、75、100、150、200、300、500、1000超又はそれ以上の細胞が個々に核型分析される。分析される細胞の数は、特定の核型の発生に対する検出限界を決定する。例えば、1%の頻度で生じる核型を検出するためには、細胞集団中の少なくとも100の、より好ましくは、例えば200、300、500又はそれ以上の個々の細胞の核型を決定することが必要である。幾つかの実施形態において、本発明の方法は、例えば、1%、0.1%、0.001%、0.0001%、0.00001%又はそれ以下の頻度で生じる個々の核型の存在を検出するために、個々の細胞の十分な数の核型を検出することを含む。幾つかの実施形態において、細胞集団中の細胞の全てまたは実質的に全て(例えば、少なくとも80、90、95又は99%)の核型が決定される。一般的に、個々の細胞の核型分析は、1つの特異的な染色体又は染色体部分の存在に関して単にスクリーニングするのではなく、細胞中の染色体の実質的に全てを決定することを含む。しかしながら、他の実施形態において、本発明は、細胞の幾つかの染色体(例えば、2、3、4、5又はそれ以上の染色体)のみの数を決定することも可能である。
【0044】
異数体モザイクの検出から得られるデータを表すために、表示のあらゆる種類を使用し得るが、本発明者は、ヒストグラム及び/又は表の形式で結果を表示し、これにより細胞集団内の異なる染色体又はその一部の数の変化量を視覚的に表示するのに有用であることを見出した。このようなヒストグラムの一例は、図1ないし2に表示されている。図1ないし2が表示するように、分析は、分析された各細胞における染色体の相補対に焦点を当てることが可能である。しかしながら、各細胞における異なる各染色体数のより詳細な分析も測定されることが可能である。
【0045】
異数体モザイク現象を検出するために、当業者に利用可能な全ての方法を使用することが可能である。核型分析は、染色体数、染色体の同一性及び/又は染色体の完全性を決定するために実施することが可能である。染色体の完全性とは、(正常な状態で見出されるように)完全な状態を表し、又は、破損、転位置事象、欠失、転位置、挿入、増幅、反転、及び全ての他の染色体内若しくは染色体間変化を含む微小事象によって破壊された証拠を示す染色体の状態を表す。
【0046】
幾つかの実施形態において、細胞の核型を決定するために、蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)法が使用される。FISH法は、本分野において周知であり、例えば、米国特許出願公開第2005/0214842号に記載されている。多重FISH(M−FISH)法は、複数の染色体を核型分析するのに特に有用である。典型的なM−FISH法には、スペクトル核型分析(SKY)法がある。SKY法は、例えば、Shrock E,et al.Science 273:494(1996);Speicher MR,et al.,Nat Genet 2:368(1996);T,Vignon et al.,Nat Genet 15:406(1997);Macville,M.,et al.,Hist.Cell.Biol.108(4−5):299−305(1997)に記載されている。SKY法は、検出可能な標識を使用して染色体を「塗布する」ための多様な蛍光標識で標識された複数の染色体プローブを使用し、これにより完全な染色体相補対の評価及び同定を可能にする。
【0047】
幾つかの実施形態において、蛍光標示式細胞分取(FACS)等のフローサイトメトリは、細胞集団中の細胞に対して核型を決定するために使用される。例えば、DNA染色(例えば、ヨウ化プロピジウム、臭化エチジウム、ヘキスト33342、33258、DAPI等)は、細胞中のDNAを標識するのに使用されることが可能であり、次いで、細胞は、色素からのシグナルの量に基づいて選別され得る。この方法は、DNA含有量に基づいた染色体の全体的な量の概算値を与えるが、何れの染色体が獲得又は喪失されたかについての具体的な情報を提供しない。それにもかかわらず、非特異的DNA色素又は他の標識を使用するフローサイトメトリは、正味の高倍数体細胞から正味の低倍数体細胞を識別するのに十分である。非特異的DNA色素に代わるものとして、特定の染色体に特異的である標識されたマーカーも使用することができる。この後者の方法は、活発に分裂しておらず、従って、間期にある細胞に対して使用される場合に、最も効果的である。これらのプローブは、ヌクレオチドベースの分子であり得、又は、(ペプチド主鎖を有する)ペプチド核酸等の、なお塩基対形成することが可能な化学的に異なる分子であり得る。
【0048】
特に効率的ではないが、細胞の十分な数を上に論述されているように分析できるのであれば、大規模な従来法の核型分析も適用することが可能である。染色体を検出する何れかの色素又は光学的若しくは生物物理学的技術が核型分析に使用され得る。幾つかの実施形態において、DAPI/他の蛍光色素又は明視野色素による染色体の染色が使用される。従来の核型分析は、例えばリンパ球及び羊膜細胞に対して、ギムザ染色(Gバンド形成)等の労力を要する方法を使用して実施することが可能である。幾つかの実施形態において、検出段階は、場合によってDNAアレイと組み合わせて、及び/又は単一ヌクレオチド多型データ及びマップと組み合わせてPCRを使用する単一細胞の全ゲノム増幅を含む。蛍光タグ又は他の方法を使用するインビボでのアプローチも、生きた幹細胞の倍数性を同定するために使用することが可能である(例えば、Kaushal et al.,J Neurosci.23:5599−5606(2003))。
【0049】
遺伝子が染色体から発現させるので、検出可能な遺伝子産物の定量的又は定性的発現に基づいた異数性の幾つかの形態を同定することが可能であり、異数性に対する代替マーカー又は相関性マーカーが使用可能である。異数性の異なる形態を同定する別の手段を可能とするために、この技術は、標準的な細胞選別技術(例えば、FACS)と組み合わせることができる。
【0050】
幾つかの実施形態において、本発明は、細胞の核型に基づいて細胞集団中の異なる細胞(例えば、幹細胞及び/又は前駆細胞)を選別又は分離し、これにより正倍数体又は低倍数体の核型を有する細胞が、高倍数体核型を有する細胞から選別除去される(あるいは分離される)方法を提供する。幾つかの実施形態において、低倍数性(例えば、少なくとも1つの1番染色体又は1番染色体の一部の喪失)に関して選択された細胞は、別の染色体又はその一部において高倍数体でもあり得る。しかしながら、選択及び選別は、特定の低倍数性に対するものである(例えば、上述の例においては、1番染色体)。あるいは、正倍数体又は高倍数体の核型を有する細胞は、低倍数体核型を有する細胞から選別除去される(あるいは分離される。)。
【0051】
このような選別方法は、本分野で利用可能な全ての選別方法(FACS選別を含むが、これに限定されない。)を含み得る。これらの選別方法は、例えば、幹細胞及び前駆細胞の集団の日常的な性質の維持及び性質の管理に有用であり、特に、癌性の可能性がある高倍数体細胞を除去することが望ましい場合に有用である。
【0052】
III.選択後の幹細胞の使用
本発明は、幹細胞又は前駆細胞を培養し、増殖し、及び/又は選択する方法、あるいは、幹細胞又は前駆細胞を使用する方法を提供し、前記方法は、特定の異数体モザイクをモニターし、場合により維持する段階を含む。特定の異数体モザイク(すなわち、細胞集団内の核型の具体的な分布)の選択によって、幹細胞又は前駆細胞を使用する全てのアッセイ、手法及びアプローチにおける最適な使用が可能となる。これには、移植のために使用される幹細胞又は前駆細胞、生物学的因子(抗体、低分子干渉RNA等)の作製、薬剤(例えば、幹細胞の増殖又は分化を妨害又は増強する分子)のスクリーニング、毒素及び/又はその効果に関するスクリーニング、生物防御剤の検出(これにより、特定されたモザイクが因子の検出を可能にする特定された性質を有することになる。)、癌治療のための新たな因子の評価、組織生成、組織再生、ワクチン接種(これにより、幹または前駆細胞が適切な抗原提示または免疫応答の促進/阻害を可能にする性質を有することになる。)、正常検体及び病理検体を含む予後目的及び診断目的の両者のための幹細胞又は前駆細胞の遺伝子型同定、遺伝子疾患の治療、非遺伝子疾患の治療、幹細胞又は前駆細胞が異なる刺激に対して応答するように予め選択されており、次いで、生物中へ又は独立型のモニターとして導入されるとき、内部刺激又は外部刺激に応答することが可能なバイオセンサー、傷害の治療、形成外科、及び/又は増殖因子、抗アポトーシス性タンパク質又は他のタンパク質の産生が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0053】
選択される異数体モザイクの具体的な種類は、使用される幹細胞又は前駆細胞の種類に依存する。幾つかの実施形態において、正味の低倍数体モザイクを有する細胞集団を選択及び/又は維持することが望ましい。幾つかの実施形態において、正味の高倍数体モザイクを有する細胞集団を選択及び/又は維持することが望ましい。幾つかの実施形態において、核型の特定の組み合わせを有する細胞集団(例えば、異なる低倍数性及び/又は高倍数性及び/又は正倍数性を有する細胞の転位置及び/又は混合物)を選択及び/又は維持することが望ましい。
【0054】
望ましい異性体モザイクの具体的な種類は、細胞集団中の核型の分布をモニターし、特定の核型分布との望ましい表現型又は能力の関連を同定することによって、容易に決定することが可能である。この過程の一例は、実施例に記載されている。実施例中の段階には、幹細胞の核型分布を同定すること、少なくとも2つの異なる幹細胞集団間の核型の差異を同定すること、及び、次いで、望ましい表現型が核型分布のうちの1つと関連していることを同定すること(例えば、正味の低倍数体分布を有する幹細胞は、望ましい細胞種へと分化する能力を保持する。)が含まれる。
【0055】
幹細胞は、細胞及び組織の再生可能な源を提供するので、無数の疾病、症状及び障害に対する治療として大きな関心を集めてきた。造血幹細胞(HSC)と呼ばれる骨髄中の血液形成幹細胞は、幹細胞の一般的に使用される種類である。HSCは、白血病、リンパ腫及び幾つかの遺伝性血液疾患を治療するために現在使用されている。しかしながら、HSC及び他の幹細胞は、他の多くの疾病を治療する大きな可能性を秘めている。多数の報告が、ある種の成体幹細種が複数の細胞種へと分化する能力を有することを示唆してきた。例えば、造血幹細胞は、脳細胞(神経細胞、乏突起膠細胞及び星状膠細胞)(Hao et al.,H.Hematother.Stem Cell Res.12:23−32(2003);Zhao et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:2426−2431(2003);Bonilla et al.,Eur.J.Neurosci.15:575−582(2002))、骨格筋細胞(Ferrari et al.,Science 279:1528−1530(1998);Gussoni et al.,Nature 401:390−394(1999))、心筋細胞(Jackson et al.,J.Clin.Invest.107:1395−1402(2001))及び肝細胞(Lagasse et al.,Nat.Med.6:1229−1234, 2000)へと分化し得る。
【0056】
幹細胞は、組織が置換又は再生されることを必要とする、発達障害、感染、変性疾患、物理的又は化学的損傷(外傷によるものを含む。)など(これらに限定されるわけではない。)の臓器疾患の全ての種類の治療において使用されることが可能である。外傷関連症状の例には、脳、脊髄に対する傷害又は中枢神経系(CNS)を取り囲んでいる組織への損傷を含むCNS損傷、末梢神経系(PNS)に対する損傷、又は身体の全ての他の部分に対する損傷が含まれる。このような外傷は、事故によって生じ得、又は、手術若しくは血管形成術等の医学的手法の正常な若しくは異常な結果であり得る。外傷は、例えば脳卒中又は静脈炎における血管の破裂又は閉塞と関連し得る。具体的な実施形態において、細胞は、角膜上皮欠損、軟骨修復、顔面皮膚切除、粘膜、鼓膜、腸管裏打ち、神経学的構造(例えば、網膜、鼓膜基底板中の聴覚神経細胞、嗅上皮中の嗅覚神経細胞)の治療、皮膚の外傷性損傷に対する火傷及び創傷の修復、又は損傷を受けた若しくは罹患した他の臓器若しくは組織の再構築のための修復を含む(これらに限定されるわけではない。)自家性又は異種性の組織の置換又は再生の治療又はプロトコールにおいて使用され得る。傷害は、心筋梗塞、痙攣障害、多発性硬化症、脳卒中、低血圧症、心停止、虚血、炎症、認知機能の加齢関連消失、放射線損傷、脳性麻痺、神経変性疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、リー病、エイズ認知症、記憶喪失、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、虚血性腎疾患、脳又は脊髄の外傷、心臓−肺バイパス、緑内障、網膜虚血、先天性代謝異常、副腎白質ジストロフィー、嚢胞線維症、糖原病、甲状腺機能低下症、鎌状赤血球貧血、ピアソン症候群、ポンペ病、フェニルケトン尿症(PKU)、ポルフィリン症、楓糖尿症、ホモシスチン尿症、ムコ多糖症、慢性肉芽腫病及びチロシン血症、テイ・サックス病、癌、腫瘍又は他の病理学的若しくは腫瘍性疾患をなどの(これらに限定されない。)特定の症状及び障害によるものであり得る。
【0057】
幹細胞は、場合により、患者中で所望の遺伝子の発現を誘導するのに十分な量で外因性核酸ベクター又は生物ベクターを含有することが可能である。慣用の組換え核酸ベクターの構築及び発現は、本分野で周知であり、「Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Vols 1−3(2d ed.1989)」に含有される技術を含む。このような核酸ベクターは、ウイルス及び細菌等の生物ベクター中に、好ましくは、弱毒化されたウイルス、細菌、寄生虫及びウイルス様粒子を含む、非病原性微生物又は弱毒化された微生物中に含有され得る。
【0058】
核酸ベクター又は生物ベクターは、患者から細胞又は組織を切除すること、切除された細胞又は組織中へ核酸ベクター又は生物ベクターを導入すること及び前記細胞又は組織を患者中へ再移植することを含む、エクスビボ遺伝子治療プロトコールによって細胞中へ導入され得る(例えば、Knoell et al.,Am.J.Health Syst.Pharm.55:899−904(1998);Raymon et al.,Exp.Neurol.144:82−91(1997);Culver et al.,Hum.Gene Ther.1:399−410(1990);Kasid et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87:473−477(1990)参照)。核酸ベクター又は生物ベクターは、例えばリン酸カルシウム仲介性形質移入によって、切除された細胞又は組織中へ導入され得る(Wigler et al.,Cell 14:725(1978);Corsaro and Pearson,Somatic Cell Genetics 7:603(1981);Graham and Van der Eb,Virology 52:456(1973))。電気穿孔法(Neumann et al.,EMBO J.1:841−845(1982))等の、核酸ベクターを宿主細胞中へ導入するための他の技術も使用され得る。
【0059】
本発明の細胞は、他の細胞種、増殖因子及び抗生物質等の他の薬剤とも同時投与され得る。他の薬剤は、当業者によって決定され得る。
【0060】
幹細胞の具体的な種類は、幹細胞の望ましい種類に特異的な細胞マーカーを使用して同定することが可能である。細胞マーカーは、例えば、系列マーカー、代謝マーカー、情報交換マーカー、増殖因子、転写因子であり得る。具体的な実施形態において、特異的細胞マーカーは、特定の望ましい幹細胞と関連する。細胞マーカーは、免疫化学又はフローサイトメトリ等の、本分野で公知の方法によって検出され得る。適切に照射された細胞又は粒子によって生じる光散乱及び蛍光発光の迅速な測定が、フローサイトメトリによって可能となる。前記細胞又は粒子は、それらが光線を個々に通過するときにシグナルを発生する。各粒子又は細胞は、個別に測定され、出力は、個々の累積的な細胞数測定特性を表す。細胞マーカーに対して特異的抗体は、フローサイトメーターによって検出され得るように、蛍光色素で標識され得る。
【0061】
当業者は、1つ又はそれ以上の適切な細胞マーカーを決定する方法を認識している。具体的な実施形態において、ヒト胚性幹細胞に関する適切なマーカーには、Oct4、TRA−1−60、TRA−1−81、SSEA−4が含まれる。造血幹細胞に対する典型的な細胞マーカーには、CD34+、Sca−1+、AA4.1+及びcKit+が含まれ、具体的な実施形態において、これらのマーカーは、ネズミ造血幹細胞を表す。別の実施形態において、ヒト造血幹細胞は、CD34+又はCD34−、CD38+、CD38(−)、ckit+、Thy110、CIFR+、又はこれらの組み合わせであり得る。神経幹細胞に対する典型的なマーカーには、例えば、ネスチン、CD133+、BIM1及びSox2が含まれる。心筋幹細胞に対する典型的なマーカーには、例えば、幹細胞抗原−1、CD45(−)、CD34(−)、Sca1+、又はこれらの組み合わせが含まれる。腸幹細胞マーカーには、例えば、A33+、cFMS+、c−myb+、CD45(−)又はこれらの組み合わせが含まれる。皮膚幹細胞マーカーにはケラチン19が含まれる。
【0062】
ある実施形態において、幹細胞は、特定の異数体モザイク(すなわち核型分布)について検査され、特定の異数体モザイクの存在が確認される(または、場合により、特定の核型が選択される。)。次いで、幹細胞は動物(例えばヒトまたは哺乳動物)に移植される。これら幹細胞の培養条件を工夫することにより、これら幹細胞は、場合により移植前に、所望の細胞型(例えば、血液細胞、神経細胞、筋肉細胞または他の細胞型)に分化するよう誘導され得る。このプロセスにより、導入された幹細胞により最適の分布および機能が生じることを、確実にすることができる。
【0063】
幾つかの実施形態において、核型の分布は、細胞増殖の前、後及び/又は間に決定される。これらの実施形態において、幹細胞は、細胞集団の異数体モザイクが検出される前、後又は前後に分裂する。幾つかの実施形態において、細胞増殖中及び後の及び保存後の異数体モザイクの検出は、望ましい表現型(例えば、望ましい細胞種へと分化する能力)を伴う望ましい異数体モザイクを保持する細胞集団を確認及び/又は選択するために使用される。増殖には、細胞分裂の1、2、5、10、50又はそれ以上の周期が含まれ得る。異数体モザイク現象のレベルおよび形態は、望ましい細胞種及び望ましい結果に関して最適化することが可能な所定の増殖条件によって変化させることができる。
【0064】
実施例において記載されているように、細胞集団内の核型分布の検出は、分化能を保持し又は保持しない細胞集団の同定を可能にし得る。当業者は、異なる核型分布を有する異なる細胞集団を同定及び/又は使用して、表現型を変化させる分子に関してスクリーニングし、異なる核型分布を有する第二の細胞集団と比較して優先的に1つの細胞集団の増殖を阻害し、死滅させ又は誘導するために、本発見を活用することができる。具体的な実施形態へ本発明を限定することを望まないが、一例として、望ましい細胞種へと分化する能力を伴う正味の低倍数体モザイク核型を有する第一の幹細胞集団、及び望ましい細胞種へと分化する能力の欠如を伴う正味の高倍数体モザイク核型を有する第二の幹細胞集団は、因子(有機小分子、または抗体、低分子干渉RNA、核酸、ペプチド等の生物因子)のライブラリに対してスクリーニングされることが可能であり、高倍数体集団の増殖を阻害する因子を選択することが可能である。幹細胞は、新生物性又は癌性の集団中に存在すると考えられているので、これは、細胞増殖の根源である癌幹細胞に焦点を絞ることによって抗癌剤を同定するための方法でもある。これらの因子は、正味の低倍数体細胞集団の増殖を有意に阻害しない因子を同定し、これにより所望の分化能を有する細胞を維持するために有用である因子を同定するためにさらに選択され得る。これに代えて、異なる幹細胞は、正味の高倍数体モザイク核型を有するときに、望ましい細胞種へと分化する能力を保持することが見出され得る。これらの実施形態のうちの幾つかにおいて、正味の高倍数体細胞集団に対して有意に影響を及ぼさずに正味の低倍数体細胞集団を阻害する薬剤が同定される。
【実施例】
【0065】
実施例
ヒト胚性幹細胞(HESC)の長期的な継代によって生じる染色体の不安定性は、ヒト胚性幹細胞の安全で、効果的な治療用途に対する問題となり得る。近年、古典的な細胞遺伝学的技術によって検出された核型の異常がHESC系において報告された。長期的な継代後に現行のHESCにおいて生じた異常性の範囲を決定するために、本発明者は、初期及び後期継代H7及びH9並びにHESCネズミESCに対して、染色体の獲得及び喪失の定量と組み合わせた「スペクトル核型分析(SKY)」を利用した。H7及びH9に加え、非NIH HESCを含むあらゆるHESC又はネズミESCの検討によって、同様の結果が得られた(データ非表示)。初期継代細胞は、低倍数性を示し、主としてクローン高倍数性を示す後期継代細胞とは対照的であった。神経細胞へ分化する能力に関して、モザイク異数体及び正倍数体哺乳動物ESC培養物を評価し、高倍数体細胞は、分化能の有意な低下を示した。これらのデータは、哺乳動物ESC異数性の生理学的重要性を明らかにするものであり、異数性の異なる形態に対するESCの日常的モニタリングを支持する。
【0066】
序論:
H7及びH9 HESC系(WiCell Research Institute,Madison,WI製)を、継代36ないし44(初期継代)と継代77ないし88(後期継代)との間で分析した。染色体の相補対及び組織化を調べるために、SKYを使用し、染色体の獲得及び喪失の広範な定量と組み合わせた。従来の細胞遺伝学的アプローチのために現在使用されているような異数体細胞の代表的な又は保存された形態のみを同定及び報告するのではなく、許容される中期の伝播全てが、喪失又は獲得された染色体の数に関して定量化され、これらの値はグラフにプロットされる。神経細胞等の特定の細胞種へ分化する異数体哺乳動物ESCの能力を評価することによって、観察された異数性の有意性を調べた。
【0067】
本明細書において、本発明者らは、HESC系が、高倍数性を含む多様な異数性及びこれまで文献に報告されていない低倍数性の形態を示し得ることを報告する。
【0068】
結果:
HESCは、染色体の無作為な獲得及び喪失を示す。
【0069】
古典的細胞遺伝学を使用する先行研究は、HESCが、少ない継代では、実質的に正倍数体であることを報告している(Thomson et al.,1998;Amit et al.,2000;Draper et al.,2004a;Draper et al.,2004b;Rosler et al.,2004)。最近、Draper及び共同研究者は、60回の継代後、H1サブクローンであるH1.1A及びH1.1Bが、染色体12又は17の獲得によって具体的に特徴付けられる染色体の変化を獲得することを報告した(Draper et al.,2004b)。長期継代後のこの異数体遺伝子型の保存を決定するために、既に記載のとおりにH7及びH9の細胞系を増殖させ(Draper et al.,2004b)、異なる培養継代後に比較した(図1ないし2)。
【0070】
87回の継代後、H7細胞は、先行研究報告と一致して、染色体1及び12の獲得を示した。これらの後期継代H7細胞の大部分は、特定の染色体の高倍数性によって特徴付けられ、インビトロでの異数体細胞のクローン増殖を示唆した。細胞の10%が定量化後に正倍数体であるに過ぎなかった(図1)。78回の継代後、H9は、細胞の75%で染色体12の獲得を示した。
【0071】
比較すると、43回の継代にわたって増殖されたに過ぎない初期継代細胞の75%超が、数値的に正倍数体であった(図1)。この集団の残りは、異数体であったが、主に、明らかにクローン性ではない低倍数体細胞からなることによって、後期継代H7細胞とは識別することができた(図1)。本結果は、染色体の不安定性の異なる形態が、HESCの反復された継代後に生じ得、正倍数体の亜集団に対して顕著に異なる影響を及ぼすことを示唆した。調べた他の全てのHESCで、同様の結果が観察された。
【0072】
Gバンド形成及び核型を分析するためのより詳細な技術を比較するために、本発明者らは、Gバンド形成及びSKY−PKの両者を使用して、初期継代で100%正倍数体である2つのhESC系(H7及びH9)を分析した。標準的なプロトコール(Barch,1997)を使用して、各系由来の比較的短い継代(H7継代43回(p43)、H9p37)及び長い継代(H7p87、H9p78)の細胞を回収した。Gバンド形成を介する核型分析のために、確立された細胞遺伝学研究室へ試料を送付した。hESCの同じ元の分岐から得られた試料を、本発明者の研究室においてSKY−PKにのために処理した。各試料について、2名の独立した観察者によって、40の中期伝播を分析した。個々の核型を表のフォーマット(表1)に記載した。
【0073】
【表1】

【0074】
初期の継代試料に関し、Gバンド形成研究は、常に、100%正倍数体の均一な割合を報告した。全く対照的に、hESCの72.5ないし80%が、SKY−PKによって正倍数体として同定された。SKY−PKによって明らかにされた初期継代モザイク異数体集団は、非クローン性であり、大部分が低倍数体であったが、全てが低倍数体というわけではなかった(実際の核型に関しては、表1参照)。これに対して、Gバンド形成及びSKY−PKは、後期継代hESCについて、同様であるが同一ではない結果を与え、細胞の大部分は、クローン性染色体獲得を示し、同時に、より少量のモザイク異数体成分がSKY−PKによって同定された。
【0075】
モザイク現象のほとんどを説明する観察された染色体の喪失は、以下のいくつもの理由から、技術的な人為現象によるものではない。1)染色体の無作為な喪失の同様のレベルは、後期継代hESC系において見られない。2)並行して分析されたヒトリンパ球は、先行分析(Rehen et al.,2001, 2005)と一致して、SKY−PKによって97%超の正倍数体であった。3)高倍数性も本発明及び先行研究において検出された。さらに、hESCから得られた本発明者らのデータは、マウスESCにおいて観察された異数性の変動する程度(Eggan,2002)と一致する。
【0076】
染色体の獲得は、神経細胞分化の阻害と相関する。
HESCの重要な特性は、正常な成熟細胞へ分化するその究極的な能力である。濃縮された神経細胞の集団を与えるために、ES細胞の分化を操作できるという十分な証拠がある。間質性PA6細胞は、フィーダーとして使用される場合、マウスESコロニーがTuj−1陽性なり、強固な神経突起生成を有するようにマウスESコロニーを誘導することによって神経の分化を促進する(Kawasaki et al.,2000)。異数体細胞と正倍数体細胞の分化能を比較検討するために、哺乳動物ESCをタキソールありで(異数体)又はタキソールなしで(正倍数体)処理し、PA6細胞と共培養した場合の神経細胞への分化能に関して検討した。分化の1週間後、タキソール処理された細胞の55%が、染色体を獲得した(図3)。さらに、細胞を固定し、tuj1に関して染色すると、タキソールで処理された培養物中で神経細胞に分化したコロニー数に有意な減少が存在した。これらの結果は、異数性の異なるレベル及び形態が、培養されたESCの神経細胞分化能を変化させ得ることを示している。
【0077】
考察:
幹細胞研究の長期的な目標は、衰弱性の疾病を治療するための新たな治療法を開発することである。この目標を達成するために、長期的継代の後でさえ再生可能な特性を示すHESC系を得ることが必要である。HESC系中の染色体の不安定性の存在は、HESCの生理学的特性を変化させ得る。HESCにおける異数性の形態の定量化と組み合わせてSKYを使用することによって、多くの異なる形態の広範な異数性が観察された。哺乳動物ESCにおける異数性の機能的重要性は、過去には調べられておらず、驚くべきことに、異数性の少なくとも2つの形態、すなわち高倍数性対低倍数性は等価ではない。高倍数性は、少なくとも神経細胞の系列に沿った分化の阻害と相関しているが、低倍数性は相関していない。
【0078】
異数性の形態を同定するためのSKYの使用は、HESCに対して過去に詳しい報告が為されておらず、従来研究のより古典的な細胞遺伝学的技術とは対照的であった。SKYによって、染色体の同一性及び転位置の両者の明確な同定が可能となり、癌の研究において広範に使用されている(Schrock et al.,1996;Difilippantonio et al.,2000)。SKYに加え、比較的少数の試料の広がり(Amit et al.,2000;Buzzard et al.,2004;Draper et al.,2004b;Mitalipova et al.,2005)ではなく細胞分裂中期の広がりのスコアを定量化することによって、HESC内での染色体の獲得及び喪失の驚くべき大きく、多様な範囲を同定し、初期の継代と後期の継代との一般的な差異(低倍数性対高倍数性)を識別した。
【0079】
これらの技術的アプローチは、染色体の不安定性は、HESCにおける異数性の保存されたパターンを必ずしも生じないことを明らかにした。87回の継代後、H7細胞の90%が異数体であり、細胞の大部分は、染色体1及び12の染色体獲得を示した。染色体を獲得する傾向は、全ての後期継代哺乳動物ESCにおいて観察され、特に、本発明者が検討したHESC(NIH以外の源由来のHESCを含む。)において観察された。
【0080】
HESC異数性に伴う生理学的重要性又は治療上の危険とは何か?異数性は、特に高倍数性は、癌の形成と連関しており(Lengauer et al.,1997, 1998;Rajagopalan et al.,2003;Lengauer and Wang,2004;Rajagopalan and Lengauer,2004)、HESCの使用に付随して起こり得る1つの危険因子となっている。他の可能性には、目標の変異の生殖系列伝達を妨害する可能性があり(Liu et al.,1997)、成体マウスキメラの全ての組織に対する寄与を得る上での主要な失敗の原因である(Longo et al.,1997)核型の異常性が含まれる。マウスにおけるこれらの後者の結果は、染色体の不安定性、特に高倍数性及び転位置は、HESC多能性の低下をもたらし得ることを示唆した。この見解と一致して、高倍数体ESC細胞は、神経細胞系列に沿って有意に分化することができなかった。
【0081】
比較すると、低倍数性は、分化の正常なレベルと矛盾しない。このことは、マウス神経前駆細胞(Rehen et al.,2001;Kaushal et al.,2003;Yang et al.,2003;McConnell et al.,2004,Kingsbury et al.,2005)及びマウスES細胞(Eggan et al.,2002)において観察される正常な発達の異数性に類似している。神経細胞における低倍数性の存在は、マウス及びヒトの神経細胞中での正常な分化と両立することが示されている(Kaushal et al.,2003;Rehen et al.,2005)。他の表現型又は機能的差異が異数体神経細胞中に存在する可能性が残っているが、これらの差異は、正常な神経系において観察されるものに相当するものであろう(Kingsbury et al.,2005)。
【0082】
総合すると、これらの結果は、哺乳動物ESCの正常な分化のために望ましくない遺伝子型として高倍数性を識別するが、このような細胞は、他の有利な特性を有し得る。比較すると、低倍数性は、正常な分化を妨害せず、その存在は、発達中の組織において正常に観察されるものを反映するように見える。SKYのような高感度の技術の使用、及びほとんどの臨床的な細胞遺伝学研究室によって使用される限られたサンプル採取の現行標準とは異なる染色体の喪失及び獲得の定量化を通じて、これらの差異が同定されたことに留意することは重要である。近年、NIHによって拠出された現行のHESC系が、多くのヒトが循環抗体を有するNeu5Gcによって汚染されていることが示された(Martin et al.,2005)。非生理学的異数性は、HESC系の治療上の有用性を評価する上で考慮すべき別の可変要素に相当し得る。現行のHESC系と新たなHESC系の両系に対して高感度な定型的核型分析が導入されることによって、HESC研究及び治療法において使用するために系の染色体モザイク現象に基づいて望ましい系を確定することによって、HESCを首尾よく使用する可能性が増大する。
【0083】
方法:
HESCの培養
DMEM/F12 Glutamax(Gibco,Carlsbad,CA)、20%「ノックアウト」血清置換物(Gibco)、0.1mM非必須アミノ酸(Gibco)、0.1mMβ−メルカプトエタノール(Gibco)、及び4ng/mL FGF−2(R&D systems,Minneapolis,MN)中で、有糸分裂的に不活性化された(ミトマイシンC処理した)マウス胚性線維芽細胞(MEF,Specialty media,Phillipsburg,NJ)上で、H7 HESC(WiCell Research Institute,Inc.,Madison,WI)を培養した。コラゲナーゼ/トリプシン(Gibco)でコロニーを5ないし6日ごとに継代した。Oct4、SSEA−4、TRA−1−60、TRA−1−81を含む未分化型マーカーに対して、細胞は免疫反応があった。さらに、コロニーの90%超は、アルカリホスファターゼ活性を示した。ネズミ胚性マーカーSSEA−1及び神経前駆体マーカーであるネスチン等の神経マーカー;非成体神経細胞マーカーであるTuj−1及びMap2(a+b);成体神経細胞マーカー;アストロサイトマーカーであるGFAP及びs100−β並びにオリゴデンドロサイトマーカーであるO4、GSTπ及びRIPに関して、細胞は免疫陰性であった。
【0084】
ESCの神経細胞分化:
分化条件(DMEM/F12 Glutamax(Gibco,Carlsbad,CA)、10%「ノックアウト」血清置換物(Gibco)、0.1mM非必須アミノ酸(Gibco)及び0.1mMβ−メルカプトエタノール(Gibco))下で、マウスESCをPA6細胞(Kawasaki et al.,2002)とともに1週間共培養した。2.5nM濃度のタキソール(Sigma)で細胞を処理した。
【0085】
免疫蛍光染色:
α−β−チューブリン−III(Tuj−1;1/1000,Covance)を使用して、既に記載のとおり(Gage et al.,1995)、免疫蛍光染色を実施した。二次抗体は、Jackson ImmunoResearchから購入した。
【0086】
HESCのスペクトル核型分析(SKY):
標準的なプロトコール(Barch et al.,1997;Rehen et al.,2001)によってHESC染色体伝播を得た。製造元の説明書に従って、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)(Sigma)及びSKY H−10キット(Applied Spectral Imaging,Inc.,Carlsbad,CA)を使用した。
【0087】
データ解析:
各試料に関し、40の細胞分裂中期広がりを捕捉し、SKYによって分析し、DAPIにより対比染色された70の細胞分裂中期広がりを異数性定量化に関して捕捉した。
【0088】
実施例中に引用されている参考文献:
【0089】
【表2】




【0090】
上述の実施例は、本発明を説明するために提供されているものであり、その範囲を限定するためのものではない。本発明の他の変形が当業者に自明であり、上述の特許請求の範囲によって包含される。本明細書に引用されている全ての刊行物、データベース、Genbank配列、特許及び特許出願は、参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1は、初期及び後期継代H7 HESC由来の染色体計数の割合を示す。
【図2】図2は、初期及び後期継代H9 HESC系由来の染色体計数の割合を示す。
【図3】図3は、神経細胞分化に及ぼす高倍数性の効果を示し、細胞のタキソール処理が異数性、特に高倍数性を誘導することを示す。
【図4】図4は、神経細胞分化に及ぼす高倍数性の効果を示し、タキソール誘発性高倍数性が、神経細胞分化能を有意に低下させることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集団における異数体モザイク現象の存在を検出することを含み、少なくとも3つの異なる核型が、前記集団中の異なる細胞の中から検出される、幹細胞又は前駆細胞の集団の異数体モザイク状態を検出及び定義するための方法。
【請求項2】
集団中の少なくとも30の細胞が、異数性に関してスクリーニングされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞の異数性が記録される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも5つの異なる核型が、集団中の異なる細胞内で検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
正味の低倍数体モザイク核型を有する細胞を検出すること、及び分化、さらなる増殖、又は移植のために、正味の低倍数体モザイク核型を有する前記細胞から、染色体の少なくとも一部に関して低倍数体である幹細胞系又は前駆細胞系を選択することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
正味の低倍数体モザイク核型を有する細胞を検出すること、及び薬物スクリーニングのために、正味の低倍数体モザイク核型を有する前記細胞から、染色体の少なくとも一部に関して低倍数体である幹細胞系又は前駆細胞系を選択することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
正味の高倍数体モザイク核型を有する細胞を検出すること、及び分化、さらなる増殖、又は移植のために、正味の高倍数体モザイク核型を有する前記細胞から、染色体の少なくとも一部に関して高倍数体である幹細胞系又は前駆細胞系を選択することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
正味の高倍数体モザイク核型を有する細胞を検出すること、及び薬物スクリーニングのために、正味の高倍数体モザイク核型を有する前記細胞から、染色体の少なくとも一部に関して高倍数体である幹細胞系又は前駆細胞系を選択することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
検出段階前に細胞分裂の少なくとも1周期を通じて幹細胞を継代することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
細胞集団中の細胞の少なくとも80%の核型が決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
検出段階が、多重蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)を含む蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
検出段階が、スペクトル核型分析(SKY)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
検出段階が、Gバンド形成、DAPI又はフローサイトメトリを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
正味の高倍数体モザイク核型を有し、望ましい細胞種へ分化できない細胞へ薬剤を接触させること;及び
前記細胞の増殖を阻害する薬剤を選択すること
を含む、望ましい細胞種へ分化できる細胞と比較して、分化できない細胞を優先的に阻害する薬剤をスクリーニングする方法。
【請求項15】
低倍数体核型を有し、望ましい細胞種へ分化できない細胞へ薬剤を接触させる段階;及び
分化できない高倍数体細胞の増殖を阻害するが、望ましい細胞種へ分化できる低倍数体細胞の増殖を著しく阻害しない薬剤を選択する段階
をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
細胞集団中の細胞中で、少なくとも1つの染色体又はその一部の核型を検出すること;及び
細胞集団中の少なくとも1つの染色体又はその一部で正倍数体又は低倍数体の核型を有する細胞を、少なくとも1つの染色体又はその一部で高倍数体である細胞から分離し、これにより、細胞集団中の正倍数体細胞及び低倍数体細胞を維持しながら高倍数体細胞を除去することによって幹細胞又は前駆細胞集団を維持又は改良すること
を含む、幹細胞又は前駆細胞の集団を維持又は改良するための方法。
【請求項17】
検出段階及び分離段階が、蛍光標示式細胞分取(FACS)によって実施される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
分離段階の後、正倍数体又は低倍数体の核型を有する細胞を分化させる、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
分離段階の後、正倍数体又は低倍数体の核型を有する細胞が増殖される、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
分離段階の後、正倍数体又は低倍数体の核型を有する細胞が個体内へ移植される、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−514552(P2009−514552A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540214(P2008−540214)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際出願番号】PCT/US2006/043794
【国際公開番号】WO2007/056572
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(501318914)ザ・スクリプス・リサーチ・インステイチユート (23)
【Fターム(参考)】