説明

モノアゾ金属錯体、アゾ型顔料分散剤およびこれを含んだ顔料組成物

【課題】C.I.ピグメントイエロー150番に代表されるバルビツール酸に基づく構造を有する黄色系の顔料を用いた顔料組成物において、分散直後の高粘度化、凝集、沈降、経時的な粘度の増加を伴うことなく顔料の微粒子化・高濃度化を行うことであり、カラーフィルター用レジストやインクジェット用インクの着色剤として、安定な顔料組成物を提供する。
【解決手段】カップリング成分としてバルビツール酸を有するアゾ化合物の二分子からなるコバルト、亜鉛などとの金属錯体。またこれを有効成分とするアゾ型顔料分散剤、さらには顔料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモノアゾ金属錯体、アゾ型顔料分散剤、および液晶ディスプレイや撮像素子などの製造に使用されるカラーフィルター用レジストやインクジェット用インクに用いられる微細で流動性、透明性に優れる顔料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料や印刷インキ、近年ではカラーフィルター用レジストやインクジェット用インクの着色剤として、顔料が利用されている。顔料は、耐熱性、耐候性、耐マイグレーション等の諸特性で、染料と比較して堅牢性の面で優れるが、一方で分散組成物化した際の分散直後の高粘度化、凝集、沈降、経時的な粘度の増加、異種顔料と混合した際の色分かれ等の潜在的な問題を有している。
【0003】
また最近では、液晶ディスプレイの高コントラスト化や撮像素子の微細化、インクジェットインクの高着色・高鮮明化等の要求に伴い、分散組成物中における顔料の微粒子化および高濃度化の要求が高まっているが、粒子径を微細化すればするほど、また顔料濃度を高くすればするほど、凝集を起こしやすくなり、安定な分散組成物を得ることが困難となっている。
【0004】
こうした問題を解決する為に、顔料自体の改良検討(顔料の表面処理)や顔料に対して良好な吸着性を有する分散剤、界面活性剤の開発、および顔料分散剤等の提案がこれまでに行われてきた。カラーフィルターやインクジェット用インクに用いられる顔料としては、フタロシアニン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、アンスラキノン系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾ系顔料、染料レーキ顔料等が挙げられ、特にフタロシアニン系顔料、アンスラキノン系顔料、キナクリドン系顔料を中心に数々の顔料分散剤が報告されてきた。例えば、顔料のスルホン化物あるいはその金属塩を顔料と混和する方法(特許文献1〜3)、置換アミノメチル誘導体を混和する方法(特許文献4)、フタルイミドメチル誘導体を混和する方法(特許文献5)等が知られている。
【0005】
これらの方法は、特定骨格の顔料に対しては効果が認められるものの、スルホン基、アミノメチル基、フタルイミドメチル基などを導入することが難しい骨格の顔料に対しては有用ではない。特にカラーフィルターやインクジェットの分野で現在広く使用されているC.I.ピグメントイエロー150番に対しては、これまで適当な顔料分散剤が存在しなかった為、非常に難分散な顔料となっていた。特許文献6、7ではC.I.ピグメントイエロー150番に対して包接化合物、特にメラミン化合物を包接させることによって分散安定性を保持させているが、メラミン化合物を顔料と同量もしくはそれ以上添加しないと効果が発揮されず、分散組成物中における顔料の高濃度化の要求を満たすものではない。
【0006】
【特許文献1】特公昭41−2466
【特許文献2】特開昭63−172772
【特許文献3】特公昭50−4019
【特許文献4】特公昭39−16787
【特許文献5】特開昭55−108466
【特許文献6】特開2000−119544
【特許文献7】特開2005−344055
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、C.I.ピグメントイエロー150番に代表されるバルビツール酸に基づく構造を有する顔料を、分散直後の高粘度化、凝集、沈降、経時的な粘度の増加を伴うことなく、分散組成物中で微粒子化・高濃度化することであり、カラーフィルター用レジストやインクジェット用インクとして、安定な顔料組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、アミノフェノールスルホン酸又はその誘導体とバルビツール酸からなるアゾ化合物の金属錯体、およびその塩を用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出し本発明を完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は
(1)下記式(1)
【0010】
【化1】

【0011】
(式(1)中、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子、C1〜C4のアルキル基、C1〜C4のアルコキシ基、塩素原子、臭素原子およびニトロ基のいずれかを表す。Mは水素原子、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムおよびアルミニウムのいずれかを、Mn+はn価の陽イオンを表す。MetalはCo、Zn、Fe、Ni、Cu、およびAlのいずれかを表す。xおよびyはそれぞれ独立に、0、1、2又は3の整数(ただしxとyが同時に0になることを除く)を、nは1、2又は3の整数を表す。)で表されるモノアゾ金属錯体、
(2)下記式(2)
【0012】
【化2】

【0013】
(式(2)中、R3〜R5は互いに独立して水素原子、C1〜C18のアルキル基、アラルキル基、C5又はC6のシクロアルキル基、アリール基およびC5又はC6のシクロアルキル基が置換したC1〜C18のアルキル基のいずれかを表す。R1、R2、Metal、xおよびyは前記(1)記載の式(1)におけるものと同じ意味を有する。)で表されるモノアゾ金属錯体、
(3)前記(1)又は(2)に記載のモノアゾ金属錯体を有効成分とするアゾ型顔料分散剤、
(4)有機顔料と前記(3)記載のアゾ型顔料分散剤と樹脂型顔料分散剤を含有する顔料組成物、
(5)樹脂型顔料分散剤がカチオン系である前記(4)に記載の顔料組成物。
(6)樹脂型顔料分散剤がアクリル系又はポリエステル系の骨格を有する前記(5)に記載の顔料組成物。
(7)有機顔料に対するアゾ型顔料分散剤の添加量が0.1〜50質量%である前記(4)に記載の顔料組成物、
(8)有機顔料がバルビツール酸に基づく構造を有する黄色系の顔料である前記(4)に記載の顔料組成物、
(9)有機顔料がC.I.ピグメントイエロー139番、150番又は185番である前記(7)に記載の顔料組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の式(1)及び(2)で示されるモノアゾ金属錯体は極めて容易に製造が可能であり、同金属錯体をアゾ型顔料分散剤として使用することにより、C.I.ピグメントイエロー150番に代表されるバルビツール酸に基づく構造を有する顔料を、分散直後の高粘度化、凝集、沈降、経時的な粘度の増加を伴うことなく、分散組成物中で微粒子化・高濃度化することが可能となり、カラーフィルター用レジストやインクジェット用インクの着色剤として、安定な顔料組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のモノアゾ金属錯体の構造上の特徴として、スルホン酸基を有するアゾ含金錯体であるということが挙げられる。一般式(1)で表される本発明のモノアゾ金属錯体は、例えば次のようにして製造することができる。すなわち、常法により、下記式(A)で示される芳香族アミンをジアゾ化した後に、下記式(B)で示されるカップラーと反応温度0〜40℃、好ましくは10〜30℃、及びpH3〜10、好ましくは4〜8でカップリング反応することにより中間体(C)が得られる。次いで中間体(C)に対して、半分の当量の金属ハロゲン化物等を用いてレーキ化することにより、下記式(1−a)で示される所望の化合物を得ることが出来る。一方、(1−b)で示される化合物は、中間体(C)に対して当量の金属ハロゲン化物等を用いてレーキ化し、(D)で示される化合物とした後に、中間体(C)と同じ製法で製造した中間体(E)を加え、反応を行うことにより、製造することができる。
【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

【0019】
【化6】

【0020】
【化7】

【0021】
【化8】

【0022】
式(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(1−a)及び(1−b)中、R1、R2は、それぞれ独立に水素原子、C1〜C4のアルキル基、C1〜C4のアルコキシ基、塩素原子、臭素原子およびニトロ基のいずれかを表す。Mは水素原子、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムおよびアルミニウムのいずれかを、Mn+はn価の陽イオンを表す。MetalはCo、Zn、Fe、Ni、Cu、およびAlのいずれかを表す。xおよびyはそれぞれ独立に、0、1、2又は3の整数(ただしxとyが同時に0になることを除く)を、nは1、2又は3の整数を表す。
【0023】
さらに(1−a)及び(1−b)で示される化合物を種々のアミンを用いて造塩することにより、下記式(2)で示される所望の化合物を得ることが出来る。
【0024】
【化9】

【0025】
(式(2)中、R3〜R5は互いに独立して水素原子、C1〜C18のアルキル基、アラルキル基、C5又はC6のシクロアルキル基、アリール基およびC5又はC6のシクロアルキル基が置換したC1〜C18のアルキル基のいずれかを表す。R1、R2、Metal、xおよびyは上記式(1)におけるものと同じ意味を有する。)
【0026】
上記式(1)におけるC1〜C4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
【0027】
上記式(1)におけるC1〜C4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基等が挙げられる。
【0028】
上記式(1)の化合物を造塩する際に用いられるアミンとしては、例えば、アンモニア、ジメチルアミン、トリエチルアミン、2−エチルへキシルアミン、ラウリルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミン、ロジンアミン(18−アミノアビエタ−8,11,13−トリエン)等が挙げられる。
【0029】
上記式(2)におけるC1〜C18のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ラウリル基、オクタデシル基、オレイル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシルメチル基等が挙げられる。
【0030】
上記式(2)におけるアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェニルエチル基等が挙げられる。
【0031】
上記式(2)におけるC5又はC6のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
【0032】
上記式(2)におけるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0033】
次に本発明の式(1)及び(2)で表されるモノアゾ金属錯体の具体例を下記式(3)及び(4)に基づき表1及び2に示す。
【0034】
【化10】

【0035】
【化11】

【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
本発明の顔料組成物は、例えば次のような方法で調整することができる。すなわち、有機顔料およびアゾ型顔料分散剤の配合の方法としては、従来公知の種々の方法、例えば、それぞれの乾燥粉末やプレスケーキを単に混合する方法、ニーダー、ビーズミル、ディゾルバー、アトライター等の各種分散機により機械的に混合する方法、水又は有機溶剤中に有機顔料を懸濁させ、その中にアゾ型顔料分散剤を添加混合して有機顔料の表面に均一に沈着する方法などが挙げられる。次に、得られた有機顔料およびアゾ型顔料分散剤の混合物に、樹脂型顔料分散剤と必要に応じて各種有機溶剤、樹脂ワニス、各種添加剤等を配合して、サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター等で分散することにより、所望の顔料組成物を製造することができる。或いは簡便的には、有機顔料、本発明のアゾ型顔料分散剤及び樹脂型顔料分散剤と必要に応じてその他の成分を、一括で混合及び分散しても構わない。なお、アゾ型顔料分散剤の添加量は、有機顔料に対して0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜30質量%、より好ましくは1〜20質量%である。アゾ型顔料分散剤の配合割合が少なすぎると目的とする分散安定性および顔料の微粒子化が達成されず、また配合割合を増やしすぎても分散安定性の低下が認められるため、配合量の最適化が必要である。
【0039】
本発明の顔料組成物に用い得る有機顔料としてはカラーインデックス(C.I.)に記載されたものなど従来公知のものであれば特に限定されないが、本発明のアゾ型顔料分散剤であるモノアゾ金属錯体自体が黄色系の色相を有する為、有機顔料本来の色相を損なわない意味では黄色系の有機顔料を用いるのが好ましい。また、本発明のモノアゾ金属錯体のバルビツール酸に基づく構造部位との親和性に優れるという意味では、構造中にバルビツール酸に基づく構造を有する顔料が好ましい。尚、本願中でいう「バルビツール酸に基づく構造を有する顔料」とは、バルビツール酸によって誘導される構造部位を構造中に有する顔料の意味を表す。従って、より好ましい有機顔料としては、バルビツール酸に基づく構造を有する黄色系の顔料であるC.I.ピグメントイエロー139番、150番及び185番等が挙げられる。
【0040】
「バルビツール酸に基づく構造を有する顔料」の具体例として、下記式(5)にC.I.ピグメントイエロー139番の構造を、式(6)にC.I.ピグメントイエロー150番の構造を、式(7)にC.I.ピグメントイエロー185番の構造をそれぞれ示す。
【0041】
【化12】

【0042】
【化13】

【0043】
【化14】

【0044】
本発明の顔料組成物に用い得る樹脂型顔料分散剤としては、公知の樹脂型顔料分散剤であれば特に限定されないが、本発明のアゾ型顔料分散剤のスルホン酸誘導体部位との親和性を考慮した場合、カチオン系の樹脂型分散剤を使用することがより好ましい。カチオン系の樹脂型分散剤としては、例えばビッグケミー社のBYK112、116、140、142、161、162、164、166、182、2000、2001、2050、2070、2150、エフカ社のEFKA4010、4015、4020、4050、4055、4060、4300、4330、4400、4406、ルーブリゾール社のソルスパース24000、32500、味の素ファインテクノ社のアジスパーPB711、821、822などが挙げられ、その中でも樹脂部分の基本骨格がアクリル系であるBYK2000および2001や、ポリエステル系であるアジスパーPB821および822が顔料組成物の分散安定性の点で特に好ましい。
樹脂型顔料分散剤の添加量としては、顔料100質量部に対して、5〜100質量部であり、より好ましくは10〜50質量部である。樹脂型顔料分散剤の添加量が5質量部よりも少ない場合は、良好な分散安定性を得ることができない。
【0045】
本発明の顔料組成物には必要により有機溶剤を加えることができる。用い得る有機溶剤は特に限定されないが、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブ、シクロヘキサノン、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。これらは単独で或いは2種類以上を組み合わせて用いても良く、顔料組成物中において90質量%以下を占める量が用いられる。
【0046】
本発明の顔料組成物には、必要により樹脂ワニスを加えることが出来る。樹脂ワニスとしてはスチレン系(共)重合体、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体、スチレン−マレイン酸エステル系共重合体、セルロースアセテート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂などが挙げられる。これらは単独で或いは2種類以上を組み合わせて用いても良く、顔料組成物中において50質量%以下を占める量が用いられる。
【0047】
本発明の顔料組成物に必要により加えることができるその他の添加剤としては、例えばチクソ付与剤、重合性を持つ樹脂及び重合開始剤や硬化剤、硬化促進剤、重合禁止剤、有機又は無機フィラー、カップリング剤等が挙げられるが、これらは顔料組成物の具体的な目的用途によって選択すれば良く上記に限定されない。またその添加量も、具体的な目的用途に合せて選択すれば良い。
【0048】
本発明の顔料組成物の用途は、特に限定されず、例えばグラビア印刷インキなどの各種印刷インキ、塗料、電子写真用乾式トナー又は湿式トナー、インクジェット記録用インキ、カラーフィルター用レジスト着色剤などの種々の用途に用いることができる。特に、本発明の顔料組成物は、顔料の微粒子化および高い安定性が要求されるカラーフィルター用レジスト着色剤やインクジェット記録用インキとして有用である。
【実施例】
【0049】
以下に本発明を実施例によって、より具体的に説明する。尚、本文中「部」及び「%」とあるのは、特別の記載のない限り質量基準である。
【0050】
実施例1 (表1の化合物番号1で示される物質の合成)
2−アミノフェノール−4−スルホン酸94.6部を500部の水に懸濁し、苛性ソーダを用いて、pH6〜7で完全に溶解させ、さらに38.0部の亜硝酸ナトリウムを加え、完全に溶解させた。この溶解液を450部の14%塩酸水溶液中に5〜10℃で30分間掛けて滴下し、同温度で2時間攪拌することにより、ジアゾ化反応を行った。続いて、バルビツール酸64部を水2,400部に溶解した水溶液に前記ジアゾ化反応液全量を10〜15℃で30分間掛けて滴下し、苛性ソーダを用いてpHを5〜6に調整した。同温度およびpHで15時間反応を行った後にろ過により固形分を取り出すことにより式(8)で示される化合物151部を得た。次に、式(8)で示される化合物151部を水2,000部に懸濁し、酢酸ナトリウム3水和物102部および酢酸45部を加えた後、塩化コバルト6水和物54部を加え、90℃まで昇温し、同温度で2時間反応を行った後、ろ過を行い、得られたウエットケーキを80℃の熱風乾燥機で乾燥させることにより、式(9)で示される化合物142部を得た。
【0051】
【化15】

【0052】
【化16】

【0053】
式(8)で示される化合物の物性データ
1H−NMR(D2O); 6.95(帰属c:s、1H) 7.43(帰属b:s、1H) 7.94(帰属a:s、1H)
【0054】
実施例2 (表1の化合物番号2で示される物質の合成)
実施例1の塩化コバルト6水和物54部の代わりに硫酸亜鉛36部を用いた以外は、実施例1と同様な方法で合成を行うことにより、表1の化合物番号2で示される化合物155部を得た。
【0055】
実施例3 (表2の化合物番号23で示される物質の合成)
実施例1で得られた化合物142部を水2500部中に懸濁させた後、20〜25℃で苛性ソーダを用いてpHを8に調整した。この懸濁液に、18−アミノアビエタ−8,11,13−トリエン86部を3.3%酢酸水溶液530部に溶解させた水溶液を20〜25℃で30分間掛けて滴下し、同温度で1時間攪拌した後にろ過を行い、得られたウエットケーキを80℃の熱風乾燥機で乾燥させることにより、表2の化合物番号23で示される化合物200部を得た。
【0056】
実施例4 (表2の化合物番号24で示される物質の合成)
実施例1で得られた化合物142部の代わりに実施例2で得られた化合物155部に変更したこと以外は実施例3と同じ方法で合成を行い、表2の化合物番号24で示される化合物215部を得た。
【0057】
実施例5 (顔料組成物の調製)
有機顔料としてC.I.ピグメントイエロー150番(ランクセス株式会社製、イエローE4GN−GT)13.8部、アゾ顔料分散剤として実施例1で得られた化合物0.7部、樹脂分散剤としてアジスパーPB821(味の素ファインテクノ社製、ポリエステル系構造を有するカチオン系樹脂分散剤)5.5部、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート80.0部の配合物を0.3mmのジルコニアビーズを用いてペイントシェーカーで1時間分散した。得られた分散液を5μmのフィルタでろ過することにより顔料組成物を作製した。
【0058】
実施例6 (顔料組成物の調製)
実施例1で得られた化合物を実施例3で得られた化合物に変更したこと以外は実施例5と同じ方法により顔料組成物を作製した。
【0059】
実施例7 (顔料組成物の調製)
C.I.ピグメントイエロー150番(ランクセス株式会社製、イエローE4GN−GT)をC.I.ピグメントイエロー139番(チバスペシャリティーケミカルズ社製、イエロー2R−CF)に変更したこと以外は実施例6と同じ方法により顔料組成物を作製した。
【0060】
比較例1 (顔料組成物の調製)
実施例1で得られた化合物を用いないこと以外は実施例5と同じ方法により顔料組成物を作製した。
【0061】
比較例2 (顔料組成物の調製)
実施例1で得られた化合物を用いないこと以外は実施例7と同じ方法により顔料組成物を作製した。
【0062】
上記実施例5〜7および比較例1〜2の顔料組成物について、レーザー散乱式粒子径分布測定装置を用いて顔料組成物の平均粒子径を、またB型粘度計を用い、室温(25℃)10rpmの条件で粘度を測定した。尚、保存安定性を確認する意味で、粘度については初期(作製直後)の他に40℃で3日間及び7日間放置後についても測定を行った。その結果を表3に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
表3から明らかなように、実施例5〜7の顔料組成物は、比較例1〜2の顔料組成物と比較して平均粒径が小さく、より微分散されていることがわかる。また初期粘度も比較例に比べて低く抑えられており、実際に使用する際の作業性を損なわないものである。更に保存安定性についても、非常に良好な結果を示した。
具体的には、有機顔料にC.I.ピグメントイエロー150番を使用した場合、実施例は比較例に比べて初期粒径が75nm以上小さく、初期粘度は90%以上低かった。また7日後の粘度上昇率についても、比較例1は3日でゲル化したのに対して、実施例5、6は22%以下であった。
同様に、有機顔料にC.I.ピグメントイエロー139番を使用した場合、実施例は比較例に比べて初期粒径が10nm小さく、初期粘度は15%以上低かった。また7日後の粘度上昇率についても、比較例は10%以上だったのに対して、実施例7においては、粘度の上昇は認められなかった。
【0065】
以上の結果から、本発明のモノアゾ金属錯体をアゾ顔料分散剤として使用することにより、これまで分散が困難だったC.I.ピグメントイエロー150番に代表されるバルビツール酸に基づく構造を有する黄色系の顔料を、分散直後の高粘度化、凝集、沈降、経時的な粘度の増加を伴うことない良好な顔料組成物とすることができることは明らかである。
また、本発明のアゾ型分散剤の添加量について、顔料に対して5%程度使用するだけで、効果を発揮することから、分散組成物中における顔料の高濃度化の要求を満たしている。以上の点から、本発明のアゾ型分散剤を使用した顔料組成物は、カラーフィルター用レジストやインクジェット用インクの着色剤として、非常に有用であることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式(1)中、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子、C1〜C4のアルキル基、C1〜C4のアルコキシ基、塩素原子、臭素原子およびニトロ基のいずれかを表す。Mは水素原子、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムおよびアルミニウムのいずれかを、Mn+はn価の陽イオンを表す。MetalはCo、Zn、Fe、Ni、Cu、およびAlのいずれかを表す。xおよびyはそれぞれ独立に、0、1、2又は3の整数(ただしxとyが同時に0になることを除く)を、nは1、2又は3の整数を表す。)で表されるモノアゾ金属錯体。
【請求項2】
下記式(2)
【化2】

(式(2)中、R3〜R5は互いに独立して水素原子、C1〜C18のアルキル基、アラルキル基、C5又はC6のシクロアルキル基、アリール基およびC5又はC6のシクロアルキル基が置換したC1〜C18のアルキル基のいずれかを表す。R1、R2、Metal、xおよびyは請求項1記載の式(1)におけるものと同じ意味を有する。)で表されるモノアゾ金属錯体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のモノアゾ金属錯体を有効成分とするアゾ型顔料分散剤。
【請求項4】
有機顔料と請求項3記載のアゾ型顔料分散剤と樹脂型顔料分散剤を含有する顔料組成物。
【請求項5】
樹脂型顔料分散剤がカチオン系である請求項4に記載の顔料組成物。
【請求項6】
樹脂型顔料分散剤がアクリル系又はポリエステル系の骨格を有する請求項5に記載の顔料組成物。
【請求項7】
有機顔料に対するアゾ型顔料分散剤の添加量が0.1〜50質量%である請求項4に記載の顔料組成物。
【請求項8】
有機顔料がバルビツール酸に基づく構造を有する黄色系の顔料である請求項4に記載の顔料組成物。
【請求項9】
有機顔料がC.I.ピグメントイエロー139番、150番又は185番である請求項7に記載の顔料組成物。

【公開番号】特開2009−143993(P2009−143993A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320357(P2007−320357)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】