モノマー精製品およびその製造方法
【課題】ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等のモノマーおよびそれより沸点の高い高沸点不純物を含有するモノマー粗製品から、高純度のモノマー精製品を収率高く製造する方法を提供する。
【解決手段】供給タンク内に存在する、モノマーおよび高沸点不純物を含有する第一のモノマー粗製品を、第一の供給速度で薄膜蒸発器に供給して、モノマー精製品からなる第一の留出液と、前記モノマーおよび前記高沸点不純物を含む第一の缶出液とに分離した上で、前記第一の缶出液を前記供給タンク内に存在している第一のモノマー粗製品に混合する。その後、前記精製工程終了時に前記供給タンク内に存在する第二のモノマー粗製品を、前記第一の供給速度より遅い第二の供給速度で薄膜蒸発器に供給して、前記モノマーおよび前記高沸点不純物を含む第二の留出液と、前記高沸点不純物を含む第二の缶出液とに分離する。
【解決手段】供給タンク内に存在する、モノマーおよび高沸点不純物を含有する第一のモノマー粗製品を、第一の供給速度で薄膜蒸発器に供給して、モノマー精製品からなる第一の留出液と、前記モノマーおよび前記高沸点不純物を含む第一の缶出液とに分離した上で、前記第一の缶出液を前記供給タンク内に存在している第一のモノマー粗製品に混合する。その後、前記精製工程終了時に前記供給タンク内に存在する第二のモノマー粗製品を、前記第一の供給速度より遅い第二の供給速度で薄膜蒸発器に供給して、前記モノマーおよび前記高沸点不純物を含む第二の留出液と、前記高沸点不純物を含む第二の缶出液とに分離する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノマー精製品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドとを反応させて合成されている。この反応では、副反応として、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに(メタ)アクリル酸が反応したジエステル類や、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートにアルキレンオキサイドが反応したジアルキレングリコールモノエステル類などの高沸点不純物が生成する。
【0003】
目的物であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、比較的沸点が高く、重合しやすいことから、その精製は、高真空下でのフラッシュ蒸留により行われることが多い。しかし、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと副生物との分離は必ずしも十分ではなく、特に高沸点不純物の量を低減することは困難であった。
【0004】
そこで、薄膜蒸発器を用いた精製方法が検討されている。特許文献1には、(メタ)アクリル酸とエチレンオキサイドを反応させて2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを製造するにあたり、反応液を脱気塔に導いて未反応のエチレンオキサイドを除去した後、薄膜蒸発器にて高沸点不純物を除去する方法が記載されている。また、特許文献2には、高沸点不純物を含むヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートである供給液を薄膜蒸発器に送り、主にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含有する留出液と、高沸点不純物を含む缶出液に分離し、缶出液を供給液に混合して再び薄膜蒸発器に送る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−240853号公報
【特許文献2】特開2003−286228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのような重合性のあるモノマーを薄膜蒸発器を用いて精製する際には、その重合を抑制する観点から、温度を低めに設定しなければならないので、目的物の純度を上げるためには、留出率(供給量に対する留出量の割合)を高くすることはできない。
【0007】
そうすると、特許文献1に記載の方法では、分離されずに高沸点不純物と一緒に缶出液に排出されて廃棄される2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの量が多かった。特許文献2に記載の方法では、缶出液を供給液に混合しているので、廃棄されるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの量をある程度抑えることができるものの、蒸留が進むにつれ供給液中の高沸点不純物の濃度が高くなってくるので、得られるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの純度が低下してくる。そのため、ある段階でヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含む缶出液を廃棄するしかなかった。したがって、特許文献1および2に記載の方法では、目的物の収量が少なくなっていた。
【0008】
本発明は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等のモノマーおよびそれより沸点の高い高沸点不純物を含有するモノマー粗製品から、高純度のモノマー精製品を収率高く製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、供給タンク内に存在する、モノマーおよびそれより沸点の高い高沸点不純物を含有する第一のモノマー粗製品を、第一の供給速度で薄膜蒸発器に供給して、モノマー精製品からなる第一の留出液と、前記モノマーおよび前記高沸点不純物を含有する第一の缶出液とに分離した上で、前記第一の缶出液を前記供給タンク内に存在する第一のモノマー粗製品に混合する精製工程と、前記精製工程終了時に前記供給タンク内に存在する第二のモノマー粗製品を、第二の供給速度で薄膜蒸発器に供給して、前記モノマーおよび前記高沸点不純物を含有する第二の留出液と、前記高沸点不純物を含有する第二の缶出液とに分離する回収工程とをこの順に有し、前記第二の供給速度が前記第一の供給速度より遅いモノマー精製品の製造方法である。
【0010】
また、本発明は、上記製造方法によって製造されたモノマー精製品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等のモノマーおよびそれより沸点の高い高沸点不純物を含有するモノマー粗製品から、収率高く高純度のモノマー精製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るモノマーの精製方法に使用可能な装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明に係るモノマーの精製方法に使用可能な装置の概略構成図である。
【0014】
まず、モノマーおよびそれより沸点の高い高沸点不純物を含有するモノマー粗製品を、モノマー粗製品投入ライン5を通じて供給タンク10に投入する。
【0015】
モノマーは、モノマー粗製品における精製対象の化合物であり、通常は熱重合性を有している。その具体例としては、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート;アクリル酸;メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、ステアリルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート;フェニルアクリレート;ベンジルアクリレート;イソボルニルアクリレート;グリシジルアクリレート;テトラヒドロフルフリルアクリレート;アリルアクリレートトリフルオロエチルアクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のジおよびトリ(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート等のヒドロキシアルキルアクリレート;が挙げられる。なかでも、それ自体が高沸点であり、高沸点不純物との分離が困難であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの精製に好適である。モノマー粗製品の純度(モノマー粗製品中のモノマーの濃度)は、典型的には90〜96質量%である。
【0016】
モノマー粗製品に含まれる高沸点不純物は、モノマー粗製品の精製により除去されるべき化合物であり、モノマーの合成時に副生する化合物などが考えられる。例えば、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドを反応させて得られる粗製ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートには、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに(メタ)アクリル酸が反応したジエステル類や、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートにアルキレンオキサイドが反応したジアルキレングリコールモノエステル類が含まれている。モノマー粗製品中の高沸点不純物の濃度は、典型的には3〜10質量%である。
【0017】
なお、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドとの反応は、触媒および重合防止剤の存在下、(メタ)アクリル酸1モルに対して1.0〜1.2モル、好ましくは1.03〜1.10モルのアルキレンオキサイドを反応させて粗製ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを得る。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイド、2,3−プロピレンオキサイド等が挙げられ、エチレンオキサイドが好ましい。
【0018】
ここで用いられる触媒としては、公知のものを用いればよく、例えば各種アミン類、四級アンモニウム塩、鉄化合物、クロム化合物、または(メタ)アクリル酸金属化合物等を単独で、または組み合わせたものを用いることができる。触媒の添加量は、(メタ)アクリル酸の100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましく、0.03〜3質量部がより好ましい。
【0019】
重合防止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、カテコール、フェノチアジン、N−オキシル化合物、N,N−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、硝酸、硝酸塩等が挙げられる。重合防止剤の添加量は、(メタ)アクリル酸の100質量部に対して0.01〜1質量部が好ましい。
【0020】
反応は、バッチ式または連続式のいずれでもよく、反応温度は、通常50〜80℃程度である。
【0021】
モノマー粗製品は、モノマーより沸点の低い不純物(以下、「低沸点不純物」という。)を含んでいてもよい。ただし、あらかじめモノマー粗製品から低沸点不純物を除去する工程を行うことが好ましい。
【0022】
本発明に係るモノマーの精製方法はバッチ式で行われ、供給タンク10に投入されたモノマー粗製品を以下に示す精製工程および回収工程により精製して、モノマー精製品を得る。
【0023】
〔精製工程〕
精製工程では、精製工程開始時に供給タンク10内に存在するモノマー粗製品(ここでは、第一のモノマー粗製品と呼ぶ)を、ポンプ(不図示)等を用いて、モノマー粗製品供給ライン15を通じて薄膜蒸発器20に供給する。そして、薄膜蒸発器20で第一のモノマー粗製品を蒸留して、モノマー精製品からなる第一の留出液と、モノマーおよび高沸点不純物を含有する第一の缶出液とに分離する。
【0024】
第一の留出液として得られるモノマー精製品は、目的とする純度でモノマーを含有するものであり、少量の高沸点不純物や低沸点不純物を含有していてもよい。モノマー精製品の純度(モノマー精製品中のモノマーの濃度)は、典型的には97質量%以上とする。
【0025】
薄膜蒸発器としては、流下膜式薄膜蒸発器や遠心式薄膜蒸発器などを用いることができる。薄膜蒸発器による蒸留の条件は、目的とする純度でモノマーを含有するモノマー精製品が得られるように、第一のモノマー粗製品の種類や物性、薄膜蒸発器の分離能力などに応じて、適宜設定することができる。例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの場合、前記反応液を0.05〜0.5kPa、好ましくは0.07〜0.2kPaの減圧下、60〜140℃、好ましくは80〜125℃に加熱した薄膜蒸発器に供給速度毎時0.5〜2.5質量部、好ましくは1.3〜1.8質量部、留出率0.4〜0.8、好ましくは0.5〜0.7で蒸発させることにより純度97質量%以上の精製2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを得ることができる。
【0026】
モノマー精製品からなる第一の留出液は、薄膜蒸発器20から留出液排出ライン25を通じて排出される。そして、この精製工程の間、留出液排出ライン25とモノマー精製品排出ライン35が連通するように留出液切替器30を切り替えておくことで、モノマー精製品排出ライン35からモノマー精製品を取り出すことができる。
【0027】
一方、残渣として、モノマーおよび高沸点不純物を含有する第一の缶出液が得られ、薄膜蒸発器20から缶出液排出ライン26を通じて排出される。そして、この精製工程の間、缶出液排出ライン26と缶出液循環ライン45が連通するように缶出液切替器40を切り替えておくことで、第一の缶出液を缶出液循環ライン45を通じて供給タンク10に再度投入することができる。供給タンク10に投入された第一の缶出液は、供給タンク10内に存在する第一のモノマー粗製品と混合される。
【0028】
このように第一の缶出液を供給タンク10内に存在する第一のモノマー粗製品に混合することで、第一の缶出液に含まれていたモノマーと第一のモノマー粗製品の混合物が薄膜蒸発器20に送られて蒸留されることになるので、モノマー精製品の収量が向上する。
【0029】
〔回収工程〕
精製工程に続いて行う回収工程において、精製工程終了時に供給タンク10内に存在するモノマー粗製品(ここでは、第二のモノマー粗製品と呼ぶ)を、ポンプ(不図示)等を用いて、モノマー粗製品供給ライン15を通じて薄膜蒸発器20に供給する。そして、モノマーおよび高沸点不純物を含有する第二の留出液と、高沸点不純物を含有する第二の缶出液とに分離する。
【0030】
ここで、回収工程における第二のモノマー粗製品の供給速度(第二の供給速度)は、精製工程における第一のモノマー粗製品の供給速度(第一の供給速度)より遅くする。このように第二の供給速度を第一の供給速度より遅くすると、薄膜蒸発器による蒸留の条件が同じままでも、留出率を高めることができ、第二のモノマー粗製品中のモノマーの大部分は第二の留出液として得られる。第二の供給速度は、回収工程での留出率が精製工程の留出率の1.2〜1.7倍(好ましくは1.3〜1.5倍)となるように設定すればよく、第一の供給速度の0.5〜0.9倍とすることが好ましく、0.5〜0.7倍とすることがより好ましい。第二の供給速度が、第一の供給速度の0.5倍以上の場合に、回収工程の時間が長くなり生産性が向上する傾向にある。一方、第二の供給速度が第一の供給速度の0.9倍以下の場合に、薄膜蒸発器に加える熱量が少なくてすむため、モノマーの重合等が防止される傾向にある。
【0031】
第二の留出液は、薄膜蒸発器20から留出液排出ライン25を通じて排出される。そして、この回収工程の間、留出液排出ライン25と留出液回収ライン36が連通するように留出液切替器30を切り替えておくことで、第二の留出液を留出液回収ライン36を通じてバッファータンク50に投入することができる。
【0032】
このバッファータンク50に投入された第二の留出液は、例えば、別バッチのモノマー粗製品(ここでは、第三のモノマー粗製品と呼ぶ)に混合して再度蒸留することができる。具体的には、別バッチの第三のモノマー粗製品が投入された供給タンク10に、ポンプ(不図示)等を用いて、第二の留出液を留出液再利用ライン55を通じて供給タンク10に投入することができる。こうすることで、別バッチの蒸留の際に第二の留出液も再度蒸留されることになり、モノマー精製品の収量をさらに高めることができる。
【0033】
一方、残渣として、高沸点不純物を含有する第二の缶出液が得られ、薄膜蒸発器20から缶出液排出ライン26を通じて排出される。そして、この精製工程の間、缶出液排出ライン26と高沸点不純物排出ライン46が連通するように缶出液切替器40を切り替えておくことで、高沸点不純物排出ライン46から第二の缶出液を取り出すことができる。第二の缶出液に含まれるモノマーは少量であるので、第二の缶出液を廃棄してもモノマーのロスを最小限に抑えることができる。
【0034】
なお、回収工程を開始するタイミングは、精製工程において目的とする純度のモノマー精製品が得られなくなる前であればよい。例えば、精製工程で得られる第一の留出液の量が、精製工程開始時における第一のモノマー粗製品の量の70〜95質量%、好ましくは80〜90質量%になった時点で、回収工程を開始することができる。精製工程で得られる第一の留出液の量が第一のモノマー粗製品の量の70質量%より少なければ、精製工程におけるモノマー精製品の取得量が少なくなってしまう。一方、精製工程で得られる第一の留出液の量が第一のモノマー粗製品の量の95質量%より多ければ、精製工程において目的とする純度のモノマー精製品が得られなくなってしまう可能性がある。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品を用いて実施例および比較例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品と2−ヒドロキシエチルメタクリレート精製品の純度と高沸点不純物の濃度は、ガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0036】
(メタクリル酸とエチレンオキサイドとの反応)
2Lの攪拌機付オートクレーブに原料であるメタクリル酸861質量部、触媒として酢酸クロム2.7質量部および重合防止剤としてハイドロキノン2.2質量部を仕込み、オートクレーブ容器を窒素置換し、加圧にてエチレンオキサイドを484質量部添加した。窒素にて系内をゲージ圧で300kPaに加圧した後、攪拌しながら油浴で徐々に昇温して、約1時間で75℃となるようにした。以降、加熱を調節して反応液を75℃に維持し、残存メタクリル酸量が0.5質量%に達したところ(反応時間:7.0時間)で、オートクレーブを水浴で冷却しながら減圧下で未反応エチレンオキサイドを除去した。系内が2kPaで30℃に到達してから15分保持した後、窒素にて常圧に戻した。
【0037】
以上の方法により、2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品1290質量部を得た。2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品の純度は95.5質量%であり、高沸点不純物(ジエステル類やジアルキレングリコールモノエステル類)の濃度は4.1質量%であった。
【0038】
〔実施例1〕
前記2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品を第一のモノマー粗製品として用いて、図1に示した装置により精製した。
【0039】
(精製工程)
2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品1290質量部をモノマー粗製品投入ライン5経由で供給タンク10に投入した。そして、この供給タンク10からモノマー粗製品供給ライン15経由で薄膜蒸発器20に、定量ポンプを用いて、2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品を毎時155質量部で供給した。薄膜蒸発器の蒸発面は外部に100℃前後に加熱したシリコンオイルを供給することで加熱し、薄膜蒸発器内の圧力は0.13kPaに設定した。この時、留出液の留出速度は毎時81〜92質量部であった。薄膜蒸発器20において分離した、2−ヒドロキシエチルメタクリレート精製品はモノマー精製品排出ライン35から取り出した。一方、残渣として得られる2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよび高沸点不純物を含有する缶出液は、冷媒として15℃の水を流したガラス製リービッヒ冷却管を用いて25〜30℃に冷却した後、缶出液排出ライン26と缶出液循環ライン45経由で供給タンク10に全て送液した。そして、供給タンク10において、缶出液と供給タンク内の液とを混合し、この混合液を薄膜蒸発器20に送液した。
【0040】
そして、得られた2−ヒドロキシエチルメタクリレート精製品の量が、精製工程開始時における2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品の85質量%になるまで精製工程を行った。得られた2−ヒドロキシエチルメタクリレート精製品の純度は98質量%であった。
【0041】
(回収工程)
精製工程終了時、供給タンク10に残った2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品(第二のモノマー粗製品)を精製工程と同様の方法で薄膜蒸発器20に、毎時88質量部で供給した。この供給液を精製工程と同様の条件で蒸発させた。この時、留出液の留出速度は毎時64〜74質量部であった。薄膜蒸発器20において分離した留出液は、留出液排出ライン25と留出液回収ライン36経由でバッファータンク50に送液し、回収した。一方、残渣として得られる缶出液は、缶出液排出ライン26と高沸点不純物排出ライン46経由で排出した。そして、供給タンク10の液がなくなるまで回収工程を行った。
【0042】
この回収工程により、回収工程開始時に供給タンク10に残存している2−ヒドロキシエチルメタクリレートのほとんどを留出液として回収することができた。
【0043】
〔実施例2〕
(精製工程)
実施例1の回収工程で得られた留出液を2バッチ目の2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品(第三のモノマー粗製品)に混合し、その混合物を第一のモノマー粗製品として用いた以外は、実施例1の精製工程と同様の条件で行った。得られた2−ヒドロキシエチルメタクリレート精製品の量は、実施例1の1.14倍であり、純度は97質量%であった。
【0044】
(回収工程)
実施例1と同様に行った。この回収工程により、回収工程開始時に供給タンク10に残存している2−ヒドロキシエチルメタクリレートのほとんどを第二の留出液として回収することができた。
【0045】
〔比較例1〕
実施例1における精製工程と同様の条件で、回収工程を行わずに、供給タンク10の液がなくなるまで精製工程を行った。得られた2−ヒドロキシエチルメタクリレート精製品の純度は95質量%であった。
【0046】
〔比較例2〕
回収工程の条件を精製工程と同様の条件で行ったこと以外は、実施例1と同様の条件で行った。得られた2−ヒドロキシエチルメタクリレート精製品の純度は98質量%であった。しかし、回収工程で得られる留出液の量は少なく、回収できた2−ヒドロキシエチルメタクリレートの量が少なかった。
【0047】
〔比較例3〕
回収工程において、薄膜蒸発器の蒸発面を140℃前後に加熱し、精製工程終了時、供給タンク10に残った2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品(第二のモノマー粗製品)を毎時160質量部で薄膜蒸発器に供給したこと以外は、実施例1と同様の条件で行った。この時、留出液の留出速度は毎時112〜128質量部であった。しかし15分後薄膜蒸発器内に重合物がみられた。
【符号の説明】
【0048】
5 モノマー粗製品投入ライン
10 供給タンク
15 モノマー粗製品供給ライン
20 薄膜蒸発器
25 留出液排出ライン
26 缶出液排出ライン
30 留出液切替器
35 モノマー精製品排出ライン
36 留出液回収ライン
40 缶出液切替器
45 缶出液循環ライン
46 高沸点不純物排出ライン
50 バッファータンク
55 留出液再利用ライン
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノマー精製品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドとを反応させて合成されている。この反応では、副反応として、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに(メタ)アクリル酸が反応したジエステル類や、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートにアルキレンオキサイドが反応したジアルキレングリコールモノエステル類などの高沸点不純物が生成する。
【0003】
目的物であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、比較的沸点が高く、重合しやすいことから、その精製は、高真空下でのフラッシュ蒸留により行われることが多い。しかし、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと副生物との分離は必ずしも十分ではなく、特に高沸点不純物の量を低減することは困難であった。
【0004】
そこで、薄膜蒸発器を用いた精製方法が検討されている。特許文献1には、(メタ)アクリル酸とエチレンオキサイドを反応させて2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを製造するにあたり、反応液を脱気塔に導いて未反応のエチレンオキサイドを除去した後、薄膜蒸発器にて高沸点不純物を除去する方法が記載されている。また、特許文献2には、高沸点不純物を含むヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートである供給液を薄膜蒸発器に送り、主にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含有する留出液と、高沸点不純物を含む缶出液に分離し、缶出液を供給液に混合して再び薄膜蒸発器に送る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−240853号公報
【特許文献2】特開2003−286228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのような重合性のあるモノマーを薄膜蒸発器を用いて精製する際には、その重合を抑制する観点から、温度を低めに設定しなければならないので、目的物の純度を上げるためには、留出率(供給量に対する留出量の割合)を高くすることはできない。
【0007】
そうすると、特許文献1に記載の方法では、分離されずに高沸点不純物と一緒に缶出液に排出されて廃棄される2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの量が多かった。特許文献2に記載の方法では、缶出液を供給液に混合しているので、廃棄されるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの量をある程度抑えることができるものの、蒸留が進むにつれ供給液中の高沸点不純物の濃度が高くなってくるので、得られるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの純度が低下してくる。そのため、ある段階でヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含む缶出液を廃棄するしかなかった。したがって、特許文献1および2に記載の方法では、目的物の収量が少なくなっていた。
【0008】
本発明は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等のモノマーおよびそれより沸点の高い高沸点不純物を含有するモノマー粗製品から、高純度のモノマー精製品を収率高く製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、供給タンク内に存在する、モノマーおよびそれより沸点の高い高沸点不純物を含有する第一のモノマー粗製品を、第一の供給速度で薄膜蒸発器に供給して、モノマー精製品からなる第一の留出液と、前記モノマーおよび前記高沸点不純物を含有する第一の缶出液とに分離した上で、前記第一の缶出液を前記供給タンク内に存在する第一のモノマー粗製品に混合する精製工程と、前記精製工程終了時に前記供給タンク内に存在する第二のモノマー粗製品を、第二の供給速度で薄膜蒸発器に供給して、前記モノマーおよび前記高沸点不純物を含有する第二の留出液と、前記高沸点不純物を含有する第二の缶出液とに分離する回収工程とをこの順に有し、前記第二の供給速度が前記第一の供給速度より遅いモノマー精製品の製造方法である。
【0010】
また、本発明は、上記製造方法によって製造されたモノマー精製品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等のモノマーおよびそれより沸点の高い高沸点不純物を含有するモノマー粗製品から、収率高く高純度のモノマー精製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るモノマーの精製方法に使用可能な装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明に係るモノマーの精製方法に使用可能な装置の概略構成図である。
【0014】
まず、モノマーおよびそれより沸点の高い高沸点不純物を含有するモノマー粗製品を、モノマー粗製品投入ライン5を通じて供給タンク10に投入する。
【0015】
モノマーは、モノマー粗製品における精製対象の化合物であり、通常は熱重合性を有している。その具体例としては、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート;アクリル酸;メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、ステアリルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート;フェニルアクリレート;ベンジルアクリレート;イソボルニルアクリレート;グリシジルアクリレート;テトラヒドロフルフリルアクリレート;アリルアクリレートトリフルオロエチルアクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のジおよびトリ(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート等のヒドロキシアルキルアクリレート;が挙げられる。なかでも、それ自体が高沸点であり、高沸点不純物との分離が困難であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの精製に好適である。モノマー粗製品の純度(モノマー粗製品中のモノマーの濃度)は、典型的には90〜96質量%である。
【0016】
モノマー粗製品に含まれる高沸点不純物は、モノマー粗製品の精製により除去されるべき化合物であり、モノマーの合成時に副生する化合物などが考えられる。例えば、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドを反応させて得られる粗製ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートには、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに(メタ)アクリル酸が反応したジエステル類や、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートにアルキレンオキサイドが反応したジアルキレングリコールモノエステル類が含まれている。モノマー粗製品中の高沸点不純物の濃度は、典型的には3〜10質量%である。
【0017】
なお、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドとの反応は、触媒および重合防止剤の存在下、(メタ)アクリル酸1モルに対して1.0〜1.2モル、好ましくは1.03〜1.10モルのアルキレンオキサイドを反応させて粗製ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを得る。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイド、2,3−プロピレンオキサイド等が挙げられ、エチレンオキサイドが好ましい。
【0018】
ここで用いられる触媒としては、公知のものを用いればよく、例えば各種アミン類、四級アンモニウム塩、鉄化合物、クロム化合物、または(メタ)アクリル酸金属化合物等を単独で、または組み合わせたものを用いることができる。触媒の添加量は、(メタ)アクリル酸の100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましく、0.03〜3質量部がより好ましい。
【0019】
重合防止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、カテコール、フェノチアジン、N−オキシル化合物、N,N−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、硝酸、硝酸塩等が挙げられる。重合防止剤の添加量は、(メタ)アクリル酸の100質量部に対して0.01〜1質量部が好ましい。
【0020】
反応は、バッチ式または連続式のいずれでもよく、反応温度は、通常50〜80℃程度である。
【0021】
モノマー粗製品は、モノマーより沸点の低い不純物(以下、「低沸点不純物」という。)を含んでいてもよい。ただし、あらかじめモノマー粗製品から低沸点不純物を除去する工程を行うことが好ましい。
【0022】
本発明に係るモノマーの精製方法はバッチ式で行われ、供給タンク10に投入されたモノマー粗製品を以下に示す精製工程および回収工程により精製して、モノマー精製品を得る。
【0023】
〔精製工程〕
精製工程では、精製工程開始時に供給タンク10内に存在するモノマー粗製品(ここでは、第一のモノマー粗製品と呼ぶ)を、ポンプ(不図示)等を用いて、モノマー粗製品供給ライン15を通じて薄膜蒸発器20に供給する。そして、薄膜蒸発器20で第一のモノマー粗製品を蒸留して、モノマー精製品からなる第一の留出液と、モノマーおよび高沸点不純物を含有する第一の缶出液とに分離する。
【0024】
第一の留出液として得られるモノマー精製品は、目的とする純度でモノマーを含有するものであり、少量の高沸点不純物や低沸点不純物を含有していてもよい。モノマー精製品の純度(モノマー精製品中のモノマーの濃度)は、典型的には97質量%以上とする。
【0025】
薄膜蒸発器としては、流下膜式薄膜蒸発器や遠心式薄膜蒸発器などを用いることができる。薄膜蒸発器による蒸留の条件は、目的とする純度でモノマーを含有するモノマー精製品が得られるように、第一のモノマー粗製品の種類や物性、薄膜蒸発器の分離能力などに応じて、適宜設定することができる。例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの場合、前記反応液を0.05〜0.5kPa、好ましくは0.07〜0.2kPaの減圧下、60〜140℃、好ましくは80〜125℃に加熱した薄膜蒸発器に供給速度毎時0.5〜2.5質量部、好ましくは1.3〜1.8質量部、留出率0.4〜0.8、好ましくは0.5〜0.7で蒸発させることにより純度97質量%以上の精製2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを得ることができる。
【0026】
モノマー精製品からなる第一の留出液は、薄膜蒸発器20から留出液排出ライン25を通じて排出される。そして、この精製工程の間、留出液排出ライン25とモノマー精製品排出ライン35が連通するように留出液切替器30を切り替えておくことで、モノマー精製品排出ライン35からモノマー精製品を取り出すことができる。
【0027】
一方、残渣として、モノマーおよび高沸点不純物を含有する第一の缶出液が得られ、薄膜蒸発器20から缶出液排出ライン26を通じて排出される。そして、この精製工程の間、缶出液排出ライン26と缶出液循環ライン45が連通するように缶出液切替器40を切り替えておくことで、第一の缶出液を缶出液循環ライン45を通じて供給タンク10に再度投入することができる。供給タンク10に投入された第一の缶出液は、供給タンク10内に存在する第一のモノマー粗製品と混合される。
【0028】
このように第一の缶出液を供給タンク10内に存在する第一のモノマー粗製品に混合することで、第一の缶出液に含まれていたモノマーと第一のモノマー粗製品の混合物が薄膜蒸発器20に送られて蒸留されることになるので、モノマー精製品の収量が向上する。
【0029】
〔回収工程〕
精製工程に続いて行う回収工程において、精製工程終了時に供給タンク10内に存在するモノマー粗製品(ここでは、第二のモノマー粗製品と呼ぶ)を、ポンプ(不図示)等を用いて、モノマー粗製品供給ライン15を通じて薄膜蒸発器20に供給する。そして、モノマーおよび高沸点不純物を含有する第二の留出液と、高沸点不純物を含有する第二の缶出液とに分離する。
【0030】
ここで、回収工程における第二のモノマー粗製品の供給速度(第二の供給速度)は、精製工程における第一のモノマー粗製品の供給速度(第一の供給速度)より遅くする。このように第二の供給速度を第一の供給速度より遅くすると、薄膜蒸発器による蒸留の条件が同じままでも、留出率を高めることができ、第二のモノマー粗製品中のモノマーの大部分は第二の留出液として得られる。第二の供給速度は、回収工程での留出率が精製工程の留出率の1.2〜1.7倍(好ましくは1.3〜1.5倍)となるように設定すればよく、第一の供給速度の0.5〜0.9倍とすることが好ましく、0.5〜0.7倍とすることがより好ましい。第二の供給速度が、第一の供給速度の0.5倍以上の場合に、回収工程の時間が長くなり生産性が向上する傾向にある。一方、第二の供給速度が第一の供給速度の0.9倍以下の場合に、薄膜蒸発器に加える熱量が少なくてすむため、モノマーの重合等が防止される傾向にある。
【0031】
第二の留出液は、薄膜蒸発器20から留出液排出ライン25を通じて排出される。そして、この回収工程の間、留出液排出ライン25と留出液回収ライン36が連通するように留出液切替器30を切り替えておくことで、第二の留出液を留出液回収ライン36を通じてバッファータンク50に投入することができる。
【0032】
このバッファータンク50に投入された第二の留出液は、例えば、別バッチのモノマー粗製品(ここでは、第三のモノマー粗製品と呼ぶ)に混合して再度蒸留することができる。具体的には、別バッチの第三のモノマー粗製品が投入された供給タンク10に、ポンプ(不図示)等を用いて、第二の留出液を留出液再利用ライン55を通じて供給タンク10に投入することができる。こうすることで、別バッチの蒸留の際に第二の留出液も再度蒸留されることになり、モノマー精製品の収量をさらに高めることができる。
【0033】
一方、残渣として、高沸点不純物を含有する第二の缶出液が得られ、薄膜蒸発器20から缶出液排出ライン26を通じて排出される。そして、この精製工程の間、缶出液排出ライン26と高沸点不純物排出ライン46が連通するように缶出液切替器40を切り替えておくことで、高沸点不純物排出ライン46から第二の缶出液を取り出すことができる。第二の缶出液に含まれるモノマーは少量であるので、第二の缶出液を廃棄してもモノマーのロスを最小限に抑えることができる。
【0034】
なお、回収工程を開始するタイミングは、精製工程において目的とする純度のモノマー精製品が得られなくなる前であればよい。例えば、精製工程で得られる第一の留出液の量が、精製工程開始時における第一のモノマー粗製品の量の70〜95質量%、好ましくは80〜90質量%になった時点で、回収工程を開始することができる。精製工程で得られる第一の留出液の量が第一のモノマー粗製品の量の70質量%より少なければ、精製工程におけるモノマー精製品の取得量が少なくなってしまう。一方、精製工程で得られる第一の留出液の量が第一のモノマー粗製品の量の95質量%より多ければ、精製工程において目的とする純度のモノマー精製品が得られなくなってしまう可能性がある。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品を用いて実施例および比較例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品と2−ヒドロキシエチルメタクリレート精製品の純度と高沸点不純物の濃度は、ガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0036】
(メタクリル酸とエチレンオキサイドとの反応)
2Lの攪拌機付オートクレーブに原料であるメタクリル酸861質量部、触媒として酢酸クロム2.7質量部および重合防止剤としてハイドロキノン2.2質量部を仕込み、オートクレーブ容器を窒素置換し、加圧にてエチレンオキサイドを484質量部添加した。窒素にて系内をゲージ圧で300kPaに加圧した後、攪拌しながら油浴で徐々に昇温して、約1時間で75℃となるようにした。以降、加熱を調節して反応液を75℃に維持し、残存メタクリル酸量が0.5質量%に達したところ(反応時間:7.0時間)で、オートクレーブを水浴で冷却しながら減圧下で未反応エチレンオキサイドを除去した。系内が2kPaで30℃に到達してから15分保持した後、窒素にて常圧に戻した。
【0037】
以上の方法により、2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品1290質量部を得た。2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品の純度は95.5質量%であり、高沸点不純物(ジエステル類やジアルキレングリコールモノエステル類)の濃度は4.1質量%であった。
【0038】
〔実施例1〕
前記2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品を第一のモノマー粗製品として用いて、図1に示した装置により精製した。
【0039】
(精製工程)
2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品1290質量部をモノマー粗製品投入ライン5経由で供給タンク10に投入した。そして、この供給タンク10からモノマー粗製品供給ライン15経由で薄膜蒸発器20に、定量ポンプを用いて、2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品を毎時155質量部で供給した。薄膜蒸発器の蒸発面は外部に100℃前後に加熱したシリコンオイルを供給することで加熱し、薄膜蒸発器内の圧力は0.13kPaに設定した。この時、留出液の留出速度は毎時81〜92質量部であった。薄膜蒸発器20において分離した、2−ヒドロキシエチルメタクリレート精製品はモノマー精製品排出ライン35から取り出した。一方、残渣として得られる2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよび高沸点不純物を含有する缶出液は、冷媒として15℃の水を流したガラス製リービッヒ冷却管を用いて25〜30℃に冷却した後、缶出液排出ライン26と缶出液循環ライン45経由で供給タンク10に全て送液した。そして、供給タンク10において、缶出液と供給タンク内の液とを混合し、この混合液を薄膜蒸発器20に送液した。
【0040】
そして、得られた2−ヒドロキシエチルメタクリレート精製品の量が、精製工程開始時における2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品の85質量%になるまで精製工程を行った。得られた2−ヒドロキシエチルメタクリレート精製品の純度は98質量%であった。
【0041】
(回収工程)
精製工程終了時、供給タンク10に残った2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品(第二のモノマー粗製品)を精製工程と同様の方法で薄膜蒸発器20に、毎時88質量部で供給した。この供給液を精製工程と同様の条件で蒸発させた。この時、留出液の留出速度は毎時64〜74質量部であった。薄膜蒸発器20において分離した留出液は、留出液排出ライン25と留出液回収ライン36経由でバッファータンク50に送液し、回収した。一方、残渣として得られる缶出液は、缶出液排出ライン26と高沸点不純物排出ライン46経由で排出した。そして、供給タンク10の液がなくなるまで回収工程を行った。
【0042】
この回収工程により、回収工程開始時に供給タンク10に残存している2−ヒドロキシエチルメタクリレートのほとんどを留出液として回収することができた。
【0043】
〔実施例2〕
(精製工程)
実施例1の回収工程で得られた留出液を2バッチ目の2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品(第三のモノマー粗製品)に混合し、その混合物を第一のモノマー粗製品として用いた以外は、実施例1の精製工程と同様の条件で行った。得られた2−ヒドロキシエチルメタクリレート精製品の量は、実施例1の1.14倍であり、純度は97質量%であった。
【0044】
(回収工程)
実施例1と同様に行った。この回収工程により、回収工程開始時に供給タンク10に残存している2−ヒドロキシエチルメタクリレートのほとんどを第二の留出液として回収することができた。
【0045】
〔比較例1〕
実施例1における精製工程と同様の条件で、回収工程を行わずに、供給タンク10の液がなくなるまで精製工程を行った。得られた2−ヒドロキシエチルメタクリレート精製品の純度は95質量%であった。
【0046】
〔比較例2〕
回収工程の条件を精製工程と同様の条件で行ったこと以外は、実施例1と同様の条件で行った。得られた2−ヒドロキシエチルメタクリレート精製品の純度は98質量%であった。しかし、回収工程で得られる留出液の量は少なく、回収できた2−ヒドロキシエチルメタクリレートの量が少なかった。
【0047】
〔比較例3〕
回収工程において、薄膜蒸発器の蒸発面を140℃前後に加熱し、精製工程終了時、供給タンク10に残った2−ヒドロキシエチルメタクリレート粗製品(第二のモノマー粗製品)を毎時160質量部で薄膜蒸発器に供給したこと以外は、実施例1と同様の条件で行った。この時、留出液の留出速度は毎時112〜128質量部であった。しかし15分後薄膜蒸発器内に重合物がみられた。
【符号の説明】
【0048】
5 モノマー粗製品投入ライン
10 供給タンク
15 モノマー粗製品供給ライン
20 薄膜蒸発器
25 留出液排出ライン
26 缶出液排出ライン
30 留出液切替器
35 モノマー精製品排出ライン
36 留出液回収ライン
40 缶出液切替器
45 缶出液循環ライン
46 高沸点不純物排出ライン
50 バッファータンク
55 留出液再利用ライン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給タンク内に存在する、モノマーおよびそれより沸点の高い高沸点不純物を含有する第一のモノマー粗製品を、第一の供給速度で薄膜蒸発器に供給して、モノマー精製品からなる第一の留出液と、前記モノマーおよび前記高沸点不純物を含有する第一の缶出液とに分離した上で、前記第一の缶出液を前記供給タンク内に存在する第一のモノマー粗製品に混合する精製工程と、
前記精製工程終了時に前記供給タンク内に存在する第二のモノマー粗製品を、第二の供給速度で薄膜蒸発器に供給して、前記モノマーおよび前記高沸点不純物を含有する第二の留出液と、前記高沸点不純物を含有する第二の缶出液とに分離する回収工程と
をこの順に有し、前記第二の供給速度が前記第一の供給速度より遅いモノマー精製品の製造方法。
【請求項2】
前記第一の留出液の量が、前記精製工程開始時における前記第一のモノマー粗製品の量の70〜95質量%となった時点で、前記回収工程を開始する請求項1に記載のモノマー精製品の製造方法。
【請求項3】
前記第二の留出液を、別バッチの、モノマーおよびそれより沸点の高い高沸点不純物を含有する第三のモノマー粗製品に混合する工程、をさらに有する請求項1または2に記載のモノマー精製品の製造方法。
【請求項4】
前記モノマーがヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートである請求項1〜3のいずれかに記載のモノマー精製品の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法によって製造されたモノマー精製品。
【請求項1】
供給タンク内に存在する、モノマーおよびそれより沸点の高い高沸点不純物を含有する第一のモノマー粗製品を、第一の供給速度で薄膜蒸発器に供給して、モノマー精製品からなる第一の留出液と、前記モノマーおよび前記高沸点不純物を含有する第一の缶出液とに分離した上で、前記第一の缶出液を前記供給タンク内に存在する第一のモノマー粗製品に混合する精製工程と、
前記精製工程終了時に前記供給タンク内に存在する第二のモノマー粗製品を、第二の供給速度で薄膜蒸発器に供給して、前記モノマーおよび前記高沸点不純物を含有する第二の留出液と、前記高沸点不純物を含有する第二の缶出液とに分離する回収工程と
をこの順に有し、前記第二の供給速度が前記第一の供給速度より遅いモノマー精製品の製造方法。
【請求項2】
前記第一の留出液の量が、前記精製工程開始時における前記第一のモノマー粗製品の量の70〜95質量%となった時点で、前記回収工程を開始する請求項1に記載のモノマー精製品の製造方法。
【請求項3】
前記第二の留出液を、別バッチの、モノマーおよびそれより沸点の高い高沸点不純物を含有する第三のモノマー粗製品に混合する工程、をさらに有する請求項1または2に記載のモノマー精製品の製造方法。
【請求項4】
前記モノマーがヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートである請求項1〜3のいずれかに記載のモノマー精製品の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法によって製造されたモノマー精製品。
【図1】
【公開番号】特開2011−121922(P2011−121922A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282690(P2009−282690)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】
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