説明

モリブデンケイ化物複合材料

本発明は、モリブデン および 二酸化ジルコニウム, ZrO2を含む二ケイ化物をベースとする複合材料に関する。該二ケイ化物(Mo1-xCrx)Si2において、モリブデンの一部x、 0.08<x≦0.15,がクロム, Cr で置換される。該複合材料は10-20 体積% のZrO2 を含み、(Mo1-xCrx)Si2とバランスしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モリブデン ケイ化物 複合材料に関係し、ここでMoの一部はCrで置換され、ケイ化物 Mo1-xCrxSi2を形成する。
【背景技術】
【0002】
モリブデン ケイ化物ベースの材料は、炉やタービンおよびエンジンの部品のような、高温用途について周知である。この材料は、概して、例えば900°Cを超えるような高温で、良好な酸化および腐食特性だけでなく、良好な機械的特性も有する。前者の特性は、保護酸化物層が形成されることによる。しかしながら、多くの金属間材料と共通に、モリブデン ケイ化物ベースの材料は、概して、室温のような比較的低い温度では、低い延性および低い破壊靱性を有する。
【0003】
特性を、特に室温で、向上させるために、MoSi2と、例えばSiC, AlO3 および ZrO2とを含む様々な複合材料に多くの関心が寄せられてきている。また、粒子またはウィスカーを含む強化材料が、調査されてきている。例えば、米国特許公報第5,640,666号は、SiCで強化されたモリブデン二ケイ化物ベースの材料を開示している。
【0004】
米国特許公報第6,482,759号は、MoSi2 および 5-30 体積% ZrO2を含む複合材料を開示している。モノリスのモリブデン ケイ化物と比べて、ZrO2の添加がいかに機械的特性を増進し、しかし同時に腐食耐性を低下させるかが議論されている。8-12 体積% MoB の添加が、保護酸化層の形成を改善し、それによりおそらく酸化および腐食耐性を改善することが示されている。酸素含有量を低く保つことにより、焼結中にZrSiO4の形成が抑制される。ZrSiO4は最終製品の強度を低下させることが知られている。この効果は、ZrSiO4がZrO2粒子上に層を形成することに関係するものであると考えられる。
【0005】
MoSi2は、高温および低温の両方で機械的特性を改善する目的で、V, Ti, Nb, Ta および Alのような金属と合金化されてきた。“Yield Stress and Dislocation Structure of MoSi2 and (Mo,Cr)Si2 Single Crystals“ by Y. Umakoshi et al, Conf. proceed. “High Temperature Aluminides and Intermetallics”, The Mineral, Metals & Materials Society 1990において、MoSi2 単結晶へCr を添加することが研究されている。合金(Mo0.97,Cr0.03)Si2が、徹底的に研究されている。延性の改善が示されたが、その効果は小さいと言われている。CrがMoSi2中に0.08 at%まで可溶であると述べられている((Mo0.92,Cr0.08)Si2)。“Low temperature oxidation of Cr-alloyed MoSi2“ by E. Strom et al, Transaction of Nonferrous Metals Society of China, 2007: 17(6) 1282-1286において、合金(Mo0.90,Cr0.10)Si2 および (Mo0.85,Cr0.15)Si2の酸化特性が低温、すなわち450°C未満で研究されている。この研究は、温度範囲の選択を反映しており、厄介な制御を目的とする。一般的に、Crは、その揮発性のため、高温用途(1100°C超)、特に非常に低レベルであっても水分の存在するところでは問題のある添加剤と考えられる。
【0006】
興味深い結果が報告されてきたが、それらの新材料が工業製品および/または使用に適しているかどうかは疑問がある。例えば、ウィスカーを含む複合物は高価である;長期安定性および/または再現性は多くの場合で問題がある。実際には、これらの報告された複合材料のほとんどで、通常入手可能なモノリスモリブデン二ケイ化物材料、例えばKANTHAL SUPER(商標)よりも良好な特性は、実地的には示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高温での良好な酸化および腐食耐性と、高温および室温での良好な機械的特性とを兼ね備えたモリブデン ケイ化物ベースの材料を提供することである。加えて、該材料は、リーズナブルなコストで製造されることも求められている、すなわち、製造コストとコンポーネントのコストの両方が、今日市販されている製品のコストに匹敵するものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本課題は、請求項1に規定される複合材料および、請求項6に規定される加熱エレメントによって解決される。
【0009】
本発明は、二酸化ジルコニウムおよびモリブデンを含む二ケイ化物をベースとする複合材料を提供する。該複合材料は、10-20 体積% ZrO2を含み、(Mo1-xCrx)Si2とバランスしている。該二ケイ化物 (Mo1-xCrx)Si2において、該モリブデンの一部xがクロム, Cr,で置換され、ここで0.08<x≦0.15であり、好ましくは0.10≦x≦0.12である。随意的に、該複合材料は、タングステン, W, および/または レニウム, Reを含んでもよい。
【0010】
本発明による該加熱エレメントは、本発明の複合材料から作られた、少なくとも一つの部品を含む。該加熱エレメントは、種々の形状およびサイズで容易に製造可能であり、且つ、既存の加熱エレメントと有利に交換される。好適な用途には、900°C超で加熱するための加熱アレンジメントが含まれるが、それに限定されるものではない。
【0011】
本発明の複合材料のおかげで、良好且つ再生可能な機械的特性に加えて、高い酸化および腐食耐性を伴う、高温用途の材料が提供される。該複合材料は、製造時に小さい粒子を使用可能であるという利点をさらに有する。
【0012】
本発明の実施態様のいくつかが、従属請求項において規定される。本発明の他の目的、利点、および新規な特徴が、添付の図面および請求の範囲とあわせて考慮されるとき、以下の発明の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明は図面を参照して詳細に説明される。
【図1a】図1aは、1400°Cでの暴露時間の関数としての質量ゲインを表わすグラフである。
【図1b】図1bは、1400°Cでの暴露時間の関数としての質量ゲインを表わすグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による材料は、モリブデン 二ケイ化物, MoSi2, および 二酸化ジルコニウム, ZrO2の複合物であり、ここでモリブデンの一部はクロム, Crで置換されたものである。該複合材料は、10-20 体積% ZrO2を含み、(Mo1-xCrx)Si2とバランスしている。Crの範囲は、0.08<x≦0.15, 好ましくは 0.10≦x≦0.12である。該複合材料の機械的特性だけでなく酸化特性も改善することが見出された、このCrの範囲は、MoSi2に可溶な最大Cr量と考えられているx=0.08を超えていることに着目すべきである。
【0015】
本発明による該複合材料は、例えば米国特許6,482,759公報に記載されるような粉体技術の分野において周知の方法およびアレンジメントを用いて、製造してもよい。機械的特性に関する再現性により、加圧しない焼結の使用が可能になる。あるいは、熱間等静圧圧縮、HIPの使用も可能である。
【0016】
Cr および ZrO2含有量を変化させた多数の試料を調製し、Crを含むがZrO2を含まない参照試料や高純度のMoSi2参照試料と比較した。表1に、本調査で用いた試料をまとめた。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
【表3】

【0020】
機械的特性を示すために、硬度 および 破壊靱性を慣習的な方法で測定し、その結果を表3に示した。本発明による複合材料は、破壊靱性に関して高い再現性を有する。これは、その材料の製造において非常に重要である、というのは、その機械的特性を減じることなく、比較的小さい粒子を使用することが出来るからである。このことは、加圧しない焼結が使用可能であり、且つ最充填密度も達成可能であることを示す。これは、シンプル且つコスト効果の高い製造方法につながる。この効果は、おそらく、グレイン境界でのZrSiO4の形成が減少したことに説明される。この効果は、表4で見られるとおり、1400°Cで100hの熱処理後でも持続する。このことは、破壊靱性の大幅な減少を示すSi3N4のような他の材料とは対照的である。
【0021】
【表4】

【0022】
【表5】

【0023】
米国特許第6,482,759号公報に、複合材料 MoSi2-ZrO2へのSiC添加が高温での破壊強度の改善をもたらすことが記載されている。本発明の一実施態様では、SiCが(Mo1-xCrx)Si2- ZrO2 複合物に添加される。好ましくは、本発明の一実施態様による複合材料は3-10 体積% のSiCを含む。SiCは焼結前に粉末として添加可能である。あるいは、C-粉末を添加し、焼結プロセスの間にSiCを形成してもよい。
【0024】
本発明による複合材料は、Moに対するさらなる置換物として、タングステン, W, および/または レニウムを追加的に含んでもよい。そのような添加は、機械的および/または酸化特性をさらに増進することがある。
【0025】
安定化および 非安定化 ZrO2 の両方が、複合材料の製造において、使用可能である。 米国特許公報第 6,482,759号で議論されているように、非安定化ZrO2または少なくとも一部のZrO2が非安定化されることにより、室温あたりでの靱性が増加する。したがって、本発明の複合材料の製造において、少なくとも一部で非安定化ZrO2 を使用することが好ましい。
【0026】
本発明による複合材料は、加熱エレメントにおける加熱材料として有利に使用される。本発明による加熱エレメントは、本発明による複合材料から生成された、少なくとも一つの部品を含む。典型的な加熱エレメントは、二つの柄のあるU字型エレメントであり、或る直径の加熱材料の加熱領域を有し、別の直径のターミナルに溶接される。
【0027】
このように記載された本発明から、本発明は多くのやり方で変化させられることは明らかになるであろう。そのような変化は、本発明の精神および範囲から逸脱するものではなく、当業者にとって自明であろう、そのような全ての変更が特許請求の範囲内に含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン二ケイ化物 および 二酸化ジルコニウムを含む複合材料であって、(Mo1-xCrx)Si2 にしたがってモリブデンの一部がクロムで置換され、ここで0.08<x≦0.15であり、該複合材料が10-20 体積%のZrO2を含み、(Mo1-xCrx)Si2とバランスしていることを特徴とする、複合材料。
【請求項2】
x が0.10≦x≦0.12の範囲である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
3-10 体積%のSiCをさらに含む、請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
該複合材料の製造において非安定化ZrO2が使用される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項5】
該モリブデン 二ケイ化物において該モリブデンが部分的にタングステン および/または Reで置換される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項6】
加熱エレメントの少なくとも一つの部品が請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合材料を含むことを特徴とする、加熱エレメント。

【図1a】
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【図1b】
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【公表番号】特表2012−506365(P2012−506365A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533140(P2011−533140)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【国際出願番号】PCT/SE2009/051199
【国際公開番号】WO2010/047654
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(505277521)サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ (284)
【Fターム(参考)】