説明

モータコア、モータ及びこれらの製造方法

【課題】耐久性を確保しながら、単位体積あたりの出力がより高いモータを実現する。
を実現する。
【解決手段】本発明のモータコア10は、一方向に沿って配置された複数のティース部1を備えたコア部9と、当該コア部9を被覆する絶縁膜7と、当該ティース部1に巻回されたコイル部とを備え、上記各ティース部1における端部6が、コイル部の巻回方向に沿って曲がった曲面を有しており、上記絶縁膜7が、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂又はノボラックフェノール型エポキシ樹脂を骨格とし、オニウム基とプロパルギル基とを有するエポキシ樹脂組成物を含んだ塗料組成物を電着塗装することにより形成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータコア、並びに当該モータコアを備えたモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のモータコアでは、モータコアのコア部への巻装においてコア部とコイルとの絶縁性を確保するために、コア部全体を覆う絶縁紙等のインシュレータを介在させていた。しかしながら、インシュレータを介在させた場合、コイルが収容されるスロットにおける容積が減少してしまう。このため、最近では、単位体積あたりの出力を向上させるという観点、並びにコスト低減の観点から、インシュレータを用いないモータコアが提案されている。
【0003】
このようなモータコアとして、例えば、ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂を含む複合組成物を、電着塗装によって2μm以上20μm未満の膜厚に塗工することにより絶縁膜を形成したモータコアが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、特殊な巻線装置を用いて巻線方法を変更する方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
更には、コイルの絶縁被膜層が損傷することを防止するため、鉄心部において、軸方向に沿って鉄心部の内部から外部に向かうことに伴い周方向に沿った幅寸法が漸次減少する漸減部を軸方向の端部に備えたモータコアが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−264951号公報(2003年 9月19日公開)
【特許文献2】特開2004−328894号公報(2004年11月18日公開)
【特許文献3】特開2005−348553号公報(2005年12月15日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、耐久性を確保しながら、上記従来の構成よりも単位体積あたりの出力がより高いモータが望まれている。
【0008】
具体的には、特許文献1に記載の構成では、小型モータのように出力の比較的低い構成においては問題が生じ難い(特許文献1の段落〔0008〕参照)。しかしながら、比較的大きな電流が流れる大型モータの場合では、電線を密に巻回する必要がある。モータコアは、一般的に複数の電磁鋼板が積層して形成されており、その表面にはバリが存在するため、係る場合では、コイルが当該バリ等によって損傷し易くなり、ショート等の問題が生じ易くなり得る。
【0009】
また、特許文献2に記載の構成では、インシュレータ等の絶縁するための部材等を備えていないため、同様に、電線を密に巻回する場合ではコイルが損傷等によってショートし易くなり得る。
【0010】
更には、特許文献3に記載の構成においては、ティース部が漸減部を備えているため、漸減部を備えていない構成と比べれば、コイルは損傷し難く、ショート等を生じ難い。しかしながら、当該構成においても、漸減部の表面には依然としてバリが存在し、電線を密に巻回する場合ではコイルが損傷等によってショートし易くなり得る。
【0011】
特許文献1〜3の構成におけるこのような問題は、絶縁膜を厚くしたりインシュレータを設けたりすれば解決し得るが、単位体積あたりの出力が小さくなってしまう。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐久性を確保しながら、単位体積あたりの出力がより高いモータを提供し得るモータコア及び当該モータコアを備えたモータ、並びにこれらの製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った。具体的には、本発明者は、当該検討において、電線を密に巻回する場合にコイルがショートし易くなるのは、コイルを構成する電線が、折り曲げられた状態でティース部の端部(角部)と接触するため、電線に被覆された絶縁膜が削られ易くなっていることが主要な原因であると考えた。
【0014】
そこで、本発明者は、各ティース部におけるコイル部と接触する端部をコイル部の巻回方向に沿って曲面に加工すれば、当該端部におけるバリ等が除去され、その表面は平滑になり、また、巻回されたコイル部が、当該端部において急激に折れ曲げられることを回避することができるため、電線に被覆された絶縁膜が削られ難くなると考えた。
【0015】
そして、上記のようなコア部を用い、コア部の絶縁膜として、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂又はノボラックフェノール型エポキシ樹脂を骨格とし、オニウム基とプロパルギル基とを有するエポキシ樹脂組成物を含んだ塗料組成物を電着塗装すれば、従来よりも薄い膜厚であっても耐久性を確保できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明に係るモータコアは、上記課題を解決するために、一方向に沿って配置された複数のティース部を備えたコア部と、当該コア部を被覆する絶縁膜と、当該ティース部に巻回されたコイル部とを備えたモータコアであって、上記各ティース部における端部が、コイル部の巻回方向に沿って曲がった曲面を有しており、上記絶縁膜が、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂又はノボラックフェノール型エポキシ樹脂を骨格とし、オニウム基とプロパルギル基とを有するエポキシ樹脂組成物を含んだ塗料組成物を電着塗装することにより形成されたものであることを特徴としている。
【0017】
上記構成によれば、巻回されたコイル部が、ティース部の端部において急激に折れ曲げられることを回避することができるため、ティース部の端部でのコイル部が受ける負荷が低減され、コイル部の断線やショートが起こり難い。
【0018】
また、上記のようなコア部に対して、上記塗料組成物を電着塗装することによって絶縁膜を形成しているため、従来よりも薄い膜厚であっても耐久性を確保することができる。このため、耐久性を確保しながら、スロット内における容積を増加させることができる。
【0019】
従って、上記構成によれば、耐久性を確保しながら、単位体積あたりの出力が高いモータを提供することができるという効果を奏する。
【0020】
本発明に係るモータコアでは、ティース部における上記曲面の曲率半径が、上記コイル部を構成する電線の直径の0.2〜4.0倍の範囲内であることが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、単位体積あたりの出力をより高くすることができ、耐久性をより確実に確保することができる。
【0022】
本発明に係るモータコアでは、上記コア部の形状は環状であり、複数の上記ティース部は、コア部の円周方向に沿って配置され、且つコア部の半径方向に沿って外側又は内側に突出していることが好ましい。
【0023】
本発明に係るモータコアでは、上記コイル部を構成する電線の直径が0.1〜2.0mmの範囲内であることが好ましい。
【0024】
本発明に係るモータコアでは、上記絶縁膜の膜厚が5〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0025】
本発明に係るモータコアでは、上記塗料組成物は、更に、架橋樹脂粒子を含有していることが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、より均一に被膜が形成され、耐久性により優れたモータを提供することができる。
【0027】
本発明に係るモータは、上記課題を解決するために、上述した本発明に係るモータコアを備えたことを特徴としている。
【0028】
上記構成によれば、上述した本発明に係るモータコアを備えているため、耐久性を確保しながら、単位体積あたりの出力が高いモータを提供することができるという効果を奏する。
【0029】
本発明に係るモータコアの製造方法は、上記課題を解決するために、一方向に沿って配置された複数のティース部を備えたコア部と、当該コア部を被覆する絶縁膜と、当該ティース部に巻回されたコイル部とを備えたモータコアの製造方法であって、各ティース部における端部を、コイル部の巻回方向に沿った曲面に加工する曲面形成工程と、上記曲面形成工程後に、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂又はノボラックフェノール型エポキシ樹脂を骨格とし、オニウム基とプロパルギル基とを有するエポキシ樹脂組成物を含んだ塗料組成物を電着塗装することによって上記コア部を絶縁膜でコーティングする絶縁化工程と、絶縁化工程後に、上記ティース部に電線を巻回する電線巻回工程と、を含むことを特徴としている。
【0030】
上記方法によれば、コア部の端部を曲面に加工するため、巻回されるコイル部が、ティース部の端部において急激に折れ曲げられることを回避することができる。このため、ティース部の端部でのコイル部が受ける負荷が低減され、コイル部の断線やショートが起こり難い。
【0031】
また、上記塗料組成物を電着塗装することによって絶縁膜を形成しているため、従来よりも薄い膜厚であっても耐久性を確保できる。このため、耐久性を確保しながら、スロット内における容積を増加させることができる。
【0032】
従って、上記方法によれば、耐久性を確保しながら、単位体積あたりの出力が高いモータを製造することができるという効果を奏する。
【0033】
本発明に係るモータの製造方法は、上記課題を解決するために、本発明に係る上記方法によってモータコアを製造する工程を含むことを特徴としている。
【0034】
上記方法によれば、耐久性を確保しながら、単位体積あたりの出力が高いモータを製造することができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係るモータコアは、以上のように、各ティース部における端部が、コイル部の巻回方向に沿って曲がった曲面を有しており、絶縁膜が、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂又はノボラックフェノール型エポキシ樹脂を骨格とし、オニウム基とプロパルギル基とを有するエポキシ樹脂組成物を含んだ塗料組成物を電着塗装することにより形成されたものであることを特徴としている。
【0036】
このため、耐久性を確保しながら、単位体積あたりの出力が高いモータを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本実施の形態に係るモータコアの概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1のモータコアにおけるティース部を拡大して示す斜視図である。
【図3】図1のモータコアにおけるA−A線矢視断面図である。
【図4】図3における端部を拡大して示す断面図である。
【図5】本発明の更に別の実施形態に係るモータコアの概略構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下の通りである。
【0039】
〔I〕モータコア
図1は、本実施の形態に係るモータコア10の概略構成を示す斜視図である。また、図2は図1のモータコア10におけるティース部1を拡大して示す斜視図であり、図3は、図1のモータコア10におけるA−A線矢視断面図であり、図4は、図3における端部を拡大して示す断面図である。
【0040】
図1〜4に示すように、本実施の形態に係るモータコア10は、一方向に沿って配置された複数のティース部1を備えたコア部9と、当該コア部9を被覆する絶縁膜7と、当該ティース部1に巻回されたコイル部(図示せず)とを備える。
【0041】
尚、本明細書に添付した図面では、コイル部は図示していないが、当業者であれば、コイル部が、各ティース部1にどのように設けられるかについては理解できる。
【0042】
また、本実施の形態では、図3及び図4に示すように、上記各ティース部1における、絶縁膜7を介してコイル部と接触する端部6が、コイル部の巻回方向に沿って曲がった曲面2を有している。
【0043】
尚、本実施の形態では、各ティース部1における端部6が、絶縁膜7を介してコイル部と接触する構成について例示しているが、例えば、各ティース部1における端部6上の絶縁膜7が、コイル部と接触しない構成であってもよい。
【0044】
これにより、巻回されたコイル部が、ティース部1の端部6において急激に折れ曲げられることを回避することができるため、ティース部1の端部6においてコイル部が受ける負荷が低減され、コイル部の断線やショートが起こり難い。
【0045】
本実施の形態では、上記曲面2の曲率半径は、上記コイル部を構成する電線の直径の0.2〜4.0倍の範囲内(つまり、0.2≦(曲面2の曲率半径)/(コイル部を構成する電線の直径)≦4.0)であることが好ましい。
【0046】
(曲面2の曲率半径)/(コイル部を構成する電線の直径)の比が0.2倍以上であれば、巻回されたコイル部が、ティース部の端部において急激に折れ曲げられることをより確実に回避することができるため、ティース部の端部でのコイル部が受ける負荷がより低減され、コイル部の断線やショートがより起こり難い。また、(曲面2の曲率半径)/(コイル部を構成する電線の直径)の比が4.0倍以下であれば、ティース部1の容積の減少割合が大きくならずに、得られるモータの出力をより向上させることができる。
【0047】
また、上記曲面2の曲率半径は、上記コイル部を構成する電線の直径の0.3〜3.0倍の範囲内であることがより好ましく、0.5〜2.0倍の範囲内であることが更に好ましい。
【0048】
上記コイル部を構成する電線の直径は、モータコアの各種用途に応じて適宜変更すればよいが、例えば、0.1〜2.0mmの範囲内であることが好ましい。
【0049】
本実施の形態では、上記端部6が曲面2となっているため、コイル部がティース部1の端部6において受ける負荷は低減される。しかしながら、ティース部1のスロットを構成する側面にもコイル部は接触するため、ティース部1を含めたコア部9は絶縁膜7で被覆される。
【0050】
ここで、本実施の形態では、電線が曲げられた状態で接触するのは上記曲面2においてのみとなるため、端部を曲面としない従来の構成と比較して、コイル部は損傷を受け難い。このため、本実施の形態においては、コア部9を被覆する絶縁膜7の厚さを薄くしても耐久性を確保することができる。
【0051】
このような観点から、本実施の形態では、絶縁膜7の膜厚は、5〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0052】
上記絶縁膜7の膜厚が5μm以上であれば、得られるモータについて充分な耐電圧を確保することができ、また、コア部における表面を平滑にすることができるため、充分な耐久性を確保することができる。一方、上記絶縁膜7の膜厚が100μm以下であれば、スロット内の容積を十分確保することができるため、高出力のモータを提供することができる。
【0053】
絶縁膜7の膜厚は、15〜80μmの範囲内であることがより好ましく、20〜60μmの範囲内であることが更に好ましい。
【0054】
本実施の形態では、上記絶縁膜7は、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂又はノボラックフェノール型エポキシ樹脂を骨格とし、オニウム基とプロパルギル基とを有するエポキシ樹脂組成物を含んだ塗料組成物を電着塗装することによって形成されている。上記オニウム基としてはアンモニウム基又はスルホニウム基を挙げられる。また、上記塗料組成物は、更に、アンモニウム基又はスルホニウム基を有するアクリル樹脂又はエポキシ樹脂を乳化剤としてα,β−エチレン性不飽和モノマー混合物を乳化重合することにより得られる架橋樹脂粒子を含有していることが好ましい。このような塗料組成物としては、例えば、特開2004−339528号公報に記載の塗料組成物を用いることができる。
【0055】
上記塗料組成物は、つきまわり性が高く、充分な硬度を有しているため、薄膜であっても充分な耐電圧性を有することができる。本実施の形態に係るモータコアでは、ティース部が曲面を有していることと相まって、モータとした際に、コイル部に張力がかかった場合であっても、モータの耐久性を極めて高いレベルで確実に確保することができる。
【0056】
尚、上述した説明では、ティース部1が12箇所設けられた構成について説明したが、本発明は当該構成には限定されない。一方向に沿って配置された複数のティース部を備えていれば、本実施形態とほぼ同様の効果が得られる。
【0057】
また、上述した説明では、コア部9の形状が環状であり、複数のティース部1が、コア部9の円周方向に沿って設けられ、コア部9の半径方向に沿って内側に突出したステータコアについて例示して説明した。
【0058】
しかし、当然のことながら、本発明のモータコアは、上記構成には限定されず、ロータコアやリニアモータコアであってもよい。具体的には、例えば、(i)図5に示すように、コア部9の形状が環状であり、複数のティース部1が、コア部9の円周方向に沿って配置され、コア部9の半径方向に沿って外側に突出したロータコア10’、(ii)アーマチャコア、(iii)巻きコア、(iv)複数のティース部を環状以外の形状にも配置できる分割コア、並びに、(v)コア部の形状が板状であり、複数のティース部が、コア部の面方向に沿って、突出して配置されたリニアモータコアであってもよい。
【0059】
〔II〕モータ
本実施の形態に係るモータは、上述した本実施の形態に係るモータコア10を備える。本実施の形態に係るモータの一例では、上記モータコア10の他に、上記モータコア10の中心を貫通する開口部に収容される回転子と、これらの部材を収容するハウジングとを備える。
【0060】
上記回転子としては、従来公知の各種回転子を用いることができ、例えば、特開2005−348553号公報に開示されているような、円柱状のロータシャフトと、ロータシャフトの外周面上に装着された積層コアと、複数の永久磁石とを備えた構成が挙げられる。
【0061】
尚、本実施の形態では、上記モータコア10がステータコアであるため、上記回転子を備えているが、ロータコアである場合には、上記回転子の代わりに複数の永久磁石を備えた固定子を設けることによってモータを構成させることができる。
【0062】
〔III〕モータコアの製造方法
上述したモータコアは、曲面形成工程と、絶縁化工程と、電線巻回工程とを含む本実施の形態に係るモータコアの製造方法により製造し得る。以下、各工程について説明する。
【0063】
〔a.曲面形成工程〕
曲面形成工程とは、一方向に沿って配置された複数のティース部を備えたコア部に対して、各ティース部における端部を、コイル部の巻回方向に沿った曲面に加工する工程である。
【0064】
尚、ティース部の端部における上記曲面の曲率半径は、「〔I〕モータコア」において上述した範囲内であることが好ましい。
【0065】
上記加工方法として特には限定されないが、従来公知の各種方法により加工することができる。例えば、バレル研磨、ブラスト処理、ショット処理、ピーニング処理、プレス成型、ブラシ加工が挙げられ、これらの中ではブラシ加工が好ましい。
【0066】
上記各処理による加工条件は、当業者であれば従来技術における知見に基づいて適宜設定し得る。
【0067】
尚、上記コア部は、従来公知の方法により作製することができ、例えば、薄板をプレス機によりコア部の断面形状に打ち抜き、打ち抜いた薄板を積層することにより作製することができる。より具体的には、例えば、特開平6−233501号公報や特開平6−245439号公報に記載のように、カシメ部を有する鉄心を積層することにより作製することができる。尚、積層する上記薄板の固定方法は、カシメによる方法以外にも、溶接や、接着等によっても行うことができる。
【0068】
〔b.絶縁化工程〕
絶縁化工程は、上記曲面形成工程後に、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂又はノボラックフェノール型エポキシ樹脂を骨格とし、オニウム基とプロパルギル基とを有するエポキシ樹脂組成物を含んだ塗料組成物を電着塗装することによって上記コア部を絶縁膜でコーティングする工程である。
【0069】
上記塗料組成物は、更に架橋樹脂粒子を含有していることが好ましい。このような塗料組成物及び電着塗装の方法としては、例えば、特開2004−339528号公報に記載の塗料組成物及び方法を用いることができる。
【0070】
また、上記塗料組成物は、上述したように、つきまわり性が良いため、均一に絶縁膜を形成することができる。このため、耐久性を確保しながら、絶縁膜の厚さをより薄くすることが可能となる。
【0071】
〔c.電線巻回工程〕
電線巻回工程は、絶縁化工程後に、上記ティース部に対して電線を巻回してコイル部を形成する工程である。巻回方法は、特には限定されず、従来公知の方法により行うことができる。
【0072】
〔IV〕モータの製造方法
本実施の形態に係るモータは、上述した方法によりモータコアを製造する工程を含み、当該工程以外は、従来公知の方法に従って作製することができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
〔耐電圧の測定〕
モータコアの耐電圧は、(株)宮原製作所古河工場において、耐電圧試験機(製品名:TT−201AZ、多摩電測(株)製、仕様;一次電圧 100V、二次電圧 0〜2000V、容量 30VA、等級 1.5級)を用い、電圧を徐々に昇圧し、絶縁不良点の電圧を測定することにより測定した。
【0075】
尚、測定は、正極を、巻線銅線(三相の為UVWの何れか一本)に接続し、負極をモータコア外周部分(一部電着塗料をヤスリにて削り除去)に接続して行った。
【0076】
〔向上占積率の測定〕
モータコアのスロットにおけるコイルの占積率をコイルの巻き数からCADにより算出し、参考例から求められる占積率を基準にして向上占積率を求めた。
【0077】
〔出力の測定〕
モータコアの出力を、出力20Wの400V誘導電動機にて測定し、参考例から求められる出力を基準にして向上出力を求めた。
【0078】
〔製造例1:カチオン電着塗料の製造〕
エポキシ当量200.4のエポトートYDCN−701(東都化成社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂)100.0質量部にプロパルギルアルコール23.6質量部、ジメチルベンジルアミン0.3質量部を攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流冷却管を備えたセパラブルフラスコに加え、105℃に昇温し、3時間反応させてエポキシ当量が1580のプロパルギル基を含有する樹脂組成物を得た。
【0079】
この樹脂組成物に銅アセチルアセトナート2.5質量部を加え50℃で1.5時間反応させた。プロトン(1H)NMRで付加プロパルギル基末端水素の一部が消失していることを確認した(14ミリモル/100g樹脂固形分相当量のアセチリド化されたプロパルギル基を含有)。これに、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2,3−プロパンジオール10.6質量部、氷酢酸4.7質量部、脱イオン水7.0質量部を入れ75℃で保温しつつ6時間反応させ、残存酸価が5以下であることを確認した後、脱イオン水43.8質量部を加え、目的の樹脂組成物溶液を得た。当該樹脂組成物溶液の固形分濃度は70.0質量%、スルホニウム価は28.0ミリモル/100gワニスであった。数平均分子量(ポリスチレン換算GPC)は2443であった。
【0080】
上記樹脂組成物溶液142.9部に脱イオン水157.1部を加えて、高速回転ミキサーで1時間撹拌後、固形分濃度が15重量%となるように水溶液を調製し、カチオン電着塗料を得た。
【0081】
〔実施例1〕
まず、鉄心片(珪素鋼板H60(JIS 50H1300相当品)、板厚:0.5mmをプレス打抜により作製し、これら鉄心片を、Vカシメ(MAC手法)によって、積厚:24mmに積層した。そして、油圧機によって当該積層体を再加圧することにより、積層体を作製した。
【0082】
その後、ブラシ加工(60秒×2)により、上記積層体におけるティース部の端部を処理し、当該端部の曲率半径R=0.1mmとなっていることを表面走査検査によって確認した。
【0083】
液体ブラスト後の上記積層体を、50℃の工業用水に3分間浸漬後、50℃の表面処理剤(商品名;サーフクリーナー53NF、日本ペイント社製、2%水溶液)に3分間浸漬させ、脱脂処理を行った。その後、40℃の表面処理剤(商品名:サーフダイン EC3200、日本ペイント社製)に90秒間浸漬させ、化成処理を行った。
【0084】
その後、製造例1で得られた電着塗料組成物を用いて、当該積層体を陰極、ステンレス板を陽極として電着塗装を行った。積層体を電着浴から引き上げ水洗し、190℃の温度で25分間加熱硬化させ、膜厚30μmの塗膜を得て、最終的に、図1〜3に示すステータコアを作製した。
【0085】
そして、上記ステータコアに、ポリアミドイミド銅線AIW(直径0.16mm、840T、400V)を、インサータ挿入巻線法(挿入後、仮成型し、糸縛りする)によって巻回した。耐電圧、向上占積率、向上出力の測定結果を表1に示す。
【0086】
〔実施例2〕
液体ブラストにより、上記積層体におけるティース部の端部の曲率半径を0.2mmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリアミドイミド銅線AIWを巻回したステータコアを作製した。耐電圧、向上占積率、向上出力の測定結果を表1に示す。
【0087】
〔実施例3〕
液体ブラストにより、上記積層体におけるティース部の端部の曲率半径を0.4mmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリアミドイミド銅線AIWを巻回したステータコアを作製した。耐電圧、向上占積率、向上出力の測定結果を表1に示す。
【0088】
〔比較例1〕
使用する電着塗料組成物を、ブロックイソシアネート硬化型エポキシ樹脂系カチオン電着塗料(商品名:パワートップV−6、日本ペイント社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリアミドイミド銅線AIWを巻回したステータコアを作製した。耐電圧、向上占積率、向上出力の測定結果を表1に示す。
【0089】
〔比較例2〕
使用する電着塗料組成物を、ブロックイソシアネート硬化型エポキシ樹脂系カチオン電着塗料(商品名:パワートップV−6、日本ペイント社製)に変更したこと以外は、実施例3と同様の操作を行い、ポリアミドイミド銅線AIWを巻回したステータコアを作製した。耐電圧、向上占積率、向上出力の測定結果を表1に示す。
【0090】
〔比較例3〕
上記積層体におけるティース部の端部を曲面に加工しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリアミドイミド銅線AIWを巻回したステータコアを作製した。耐電圧、向上占積率、向上出力の測定結果を表1に示す。
【0091】
〔参考例〕
電着塗装を行う代わりに絶縁紙(商品名:ノーメックス、デュポン社製)によって積層体を絶縁し、端板を設けないこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリアミドイミド銅線AIWを巻回したステータコアを作製した。耐電圧、向上占積率、向上出力の測定結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
※表中、Aは製造例で作製した電着塗料による塗膜、BはパワートップV−6(商品名)による塗膜、Cは絶縁紙(商品名:ノーメックス、デュポン社製)を意味する。また、耐電圧の項目における「−」は、短絡により測定できないことを意味し、向上出力の項目における「−」は、未測定であることを意味する。
【0094】
表1に示すように、bがaの0.2〜4.0倍の範囲内であり、且つ製造例1で得られた電着塗料で塗装した実施例1〜3では、比較例と比較して、耐電圧に優れ、高い向上占積率を示した。
【0095】
尚、実施例1では、耐電圧が0.4kVであり、出力の測定を400Vの誘導電動機により行っているため、向上出力を求めていない。しかしながら、実施例1では向上占積率が向上しているため、400V未満の誘導電動機によって出力の測定を行えば、出力の向上を確認できることは当業者であれば容易に理解できる。
【0096】
また、実施例1,2では、参考例と比較して若干耐電圧が低下しているが、耐久性に関して、実用面において問題のない範囲である。
【0097】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のモータコアは、耐久性を確保しながら、単位体積あたりの出力が高いモータを実現し得るため、各種モータに好適に利用し得る。
【符号の説明】
【0099】
1 ティース部
2 曲面
6 端部
7 絶縁膜
9 コア部
10 モータコア
10’ ロータコア(モータコア)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に沿って配置された複数のティース部を備えたコア部と、当該コア部を被覆する絶縁膜と、当該ティース部に巻回されたコイル部とを備えたモータコアであって、
上記各ティース部における端部が、コイル部の巻回方向に沿って曲がった曲面を有しており、
上記絶縁膜が、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂又はノボラックフェノール型エポキシ樹脂を骨格とし、オニウム基とプロパルギル基とを有するエポキシ樹脂組成物を含んだ塗料組成物を電着塗装することにより形成されたものであることを特徴とするモータコア。
【請求項2】
ティース部における上記曲面の曲率半径が、上記コイル部を構成する電線の直径の0.2〜4.0倍の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のモータコア。
【請求項3】
上記コア部の形状は環状であり、
複数の上記ティース部は、コア部の円周方向に沿って配置され、且つコア部の半径方向に沿って外側又は内側に突出していることを特徴とする請求項1又は2に記載のモータコア。
【請求項4】
上記コイル部を構成する電線の直径が0.1〜2.0mmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のモータコア。
【請求項5】
上記絶縁膜の膜厚が5〜100μmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のモータコア。
【請求項6】
上記塗料組成物は、更に、架橋樹脂粒子を含有していることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のモータコア。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載のモータコアを備えたことを特徴とするモータ。
【請求項8】
一方向に沿って配置された複数のティース部を備えたコア部と、当該コア部を被覆する絶縁膜と、当該ティース部に巻回されたコイル部とを備えたモータコアの製造方法であって、
各ティース部における端部を、コイル部の巻回方向に沿った曲面に加工する曲面形成工程と、
上記曲面形成工程後に、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂又はノボラックフェノール型エポキシ樹脂を骨格とし、オニウム基とプロパルギル基とを有するエポキシ樹脂組成物を含んだ塗料組成物を電着塗装することによって上記コア部を絶縁膜でコーティングする絶縁化工程と、
絶縁化工程後に、上記ティース部に電線を巻回する電線巻回工程と、
を含むことを特徴とするモータコアの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法によってモータコアを製造する工程を含むことを特徴とするモータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−114881(P2011−114881A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266360(P2009−266360)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(591114700)住友商事マシネックス株式会社 (4)
【出願人】(593124679)株式会社宮原製作所 (2)
【Fターム(参考)】