説明

モータ

【課題】コギングトルクが理論上0「ゼロ」となるスキューの角度であって、角度が相対的に小さいスキューの角度を求めて、コギングトルクを低減させると共に、スキューの角度の大きさに起因するモータの出力トルクの低下を防止し、また、巻線を巻回させる作業効率の低下を防止して、ひいては生産性の低下を防止することができるモータを提供する。
【解決手段】コア部材100を積み重ねて形成される積層コア53を有して、コア部材100のティース部62・62・・相互間に形成されるスロット部64によって、積層コア53に軸方向の一端から他端に行くに従って周方向に傾斜するスキュー70を形成して、スキュー70の角度θs1を、数式(1)によって算出した角度θs2に基づいて決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの技術に関し、特にコギングトルクを低減させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の永久磁石(磁極)を周方向に配置して環状に形成される界磁部と、前記界磁部の内側に対向して配置されて前記界磁部と同軸上を周方向に回転可能に支持される積層コアと、を具備するモータの技術は公知となっている。このような構成のモータにおいては、積層コアと界磁部とが相互に吸引力を有しているため、電流が印加されていない状態であっても前記積層コアが回転された場合には、いわゆるコギングトルクが発生する。
【0003】
このようにコギングトルクが発生すると、前記モータの使用用途に応じた様々な問題がある。例えば、前記モータをEGRバルブの駆動用モータとして使用した場合には、次に示すような問題がある。
【0004】
すなわち、通電をOFFとしてEGRバルブを作動させない場合には、フェイルセーフの観点から、バネ等の付勢力により前記EGRバルブが全閉側に閉まるように力を加えている。かかる場合、発生するコギングトルクが大きいと、前記コギングトルクに打ち勝つようなより大きな付勢力を加える必要がある。しかしながら、通電をONとしてEGRバルブを作動させる場合には、前記付勢力は抵抗力となるため、前記モータの出力をより一層上げる必要がある。このように、発生したコギングトルクが大きいと、前記モータの出力をより一層上げる必要があるという問題がある。さらに、前記EGRバルブのバルブ開度により(前記モータの位相により)出力トルクが変動するため、前記EGRバルブの制御が不安定になるという問題がある。
【0005】
これに対して、コギングトルクを低減させる技術が公知となっている。例えば、特許文献1から3に記載された技術においては、積層コアに軸方向の一端から他端に行くに従って周方向に傾斜するスキューが形成される。これによって、積層コアの各部位におけるコギングトルクカーブが相互に合成されることによって打ち消しあって、積層コア全体としてのコギングトルクを低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−16806号公報
【特許文献2】特開2005−20930号公報
【特許文献3】特開2010−279156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、積層コアに形成されたスキューの角度が大きくなり過ぎると、モータの出力トルクが低下するという問題や、巻線を巻回させる作業効率が低下し、ひいては前記モータの生産性が低下するという問題があった。
【0008】
本発明はこのような状況を鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、コギングトルクが理論上0「ゼロ」となるスキューの角度であって、角度が相対的に小さいスキューの角度を求めて、コギングトルクを低減させると共に、スキューの角度の大きさに起因するモータの出力トルクの低下を防止し、また、巻線を巻回させる作業効率の低下を防止して、ひいては生産性の低下を防止することができるモータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、請求項1においては、複数の磁極を周方向に配置して環状に形成される界磁部と、前記界磁部の内側に対向して配置され、巻線が巻回される複数のティース部を有して磁性板材からなるコア部材を複数枚積み重ねて形成され、当該界磁部と同軸上を周方向に回転可能に支持される積層コアと、を具備するモータであって、前記コア部材の枚数は偶数であり、前記積層コアの軸心と直交する断面形状において、前記コア部材の前記複数のティース部がそれぞれ同一形状であって周方向に均等に配置され、前記界磁部の軸心と直交する断面形状において、前記複数の磁極がそれぞれ同一形状であって周方向に均等に配置され、前記コア部材の前記ティース部相互間に形成されるスロット部によって、前記積層コアに軸方向の一端から他端に行くに従って周方向に傾斜するスキューが形成され、前記スキューの角度θs1が、以下の数式(1)によって算出した角度θs2に基づいて決定されるものである。
数式(1)・・角度θs2=360度/スロット部の数/磁極の数×(コア部材の枚数−1)/(コア部材の枚数/2)
【0011】
請求項2においては、前記スキュー角度θs1は以下の数式(2)を満たすものである。
数式(2)・・角度θs2−(角度θs2×10%)<スキューの角度θs1<角度θs2+(角度θs2×10%)
【0012】
請求項3においては、前記スロット部の数は、7以上12以下であるものである。
【0013】
請求項4においては、前記磁極の数は、4であるものである。
【0014】
請求項5においては、前記界磁部の軸方向の長さは、前記積層コアの軸方向の長さ以上の長さに形成されるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
請求項1においては、積層コアの全体におけるコギングトルクが理論上0「ゼロ」となるスキューの角度であって、角度が相対的に小さいスキューの角度を求めて、コギングトルクを低減させると共に、スキューの角度の大きさに起因するモータの出力トルクの低下を防止し、また、巻線を巻回させる作業効率の低下を防止して、ひいては生産性の低下を防止することができる。
【0017】
請求項2においては、積層コアの全体におけるコギングトルクによる変動を理論上0「ゼロ」、又は0「ゼロ」に近くすることができると共に、モータの出力トルクの低下率を僅かな範囲内に収めることができる。
【0018】
請求項3においては、モータの出力トルクの低下率を所望の低下率に収めることができると共に、生産コストの増加を防止することができる。
【0019】
請求項4においては、生産コストの増加を防止しつつ、モータの出力トルクの低下を防止することができる。
【0020】
請求項5においては、界磁部の磁束にかかわらず、積層コアの全体におけるコギングトルクによる変動が理論上0「ゼロ」となるスキューの角度を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係るモータの構成を示した分解斜視図。
【図2】モータの一部の構成を示した側面断面図。
【図3】図2におけるA−A線矢視端面図。
【図4】積層コアの構成を示した斜視図。
【図5】コア部材の構成を示した平面図。
【図6】コア部材のコギングトルクカーブを示したグラフ。
【図7】スキューの角度に対するコギングトルクとモータの出力トルクとの関係を示したグラフ。
【図8】スロット部の数毎におけるスキューの最適角度とモータの出力トルクとの関係を示した表。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本発明の一実施形態に係るモータ1の全体的な構成について、図1から図4を用いて簡単に説明する。
なお、以下の説明では、各図面に示した矢印方向に基づいて前後方向、左右方向、及び上下方向を規定する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ1の構成を示した分解斜視図である。また、図2は、モータ1の一部の構成を示した側面断面図である。また、図3は、図2におけるA−A線矢視端面図である。また、図4は、積層コア53の構成を示した斜視図である。
【0024】
図1から図3に示すモータ1は、いわゆるDCブラシ付きモータである。モータ1は、主として、ケース10と、界磁部20と、ブラシホルダ30と、ブラケット40と、アーマチュア50と、を具備する。
【0025】
図1から図3に示すケース10は、モータ1を構成する各部材を収容すると共に、ヨークとしての機能を有するものである。ケース10は、その筒心方向を上下方向へ向けた略円筒形状に形成される。ケース10の上端部には、開口部11が形成される。ケース10の下端部には、前記開口部11に対向する支持部12が形成される。支持部12の内側には、ベアリング13が配設される。
【0026】
図1から図3に示す界磁部20は、複数のマグネット21を周方向に配置して環状に形成される。マグネット21は、その板面をケース10における内径方向及び外径方向へ向けた略湾曲板状に形成される。マグネット21は、それぞれ同一形状のものが複数(本実施形態では、4)設けられる。マグネット21・21・・は、ケース10の内周面に固着される。マグネット21・21・・は、周方向に均等に配置され、全体として筒心方向を上下方向へ向けた略円筒形状に形成される。
なお、界磁部20は、本発明における「界磁部」の一実施形態である。また、永久磁石であるマグネット21は、本発明における「磁極」の一実施形態である。
【0027】
図1に示すブラシホルダ30は、ケース10の開口部11に嵌合される。ブラシホルダ30は、その軸方向を上下方向へ向けた略短円柱形状に形成される。ブラシホルダ30の上側面には、電流の入出力端子であるターミナル31・31が配設される。ターミナル31・31は、ブラシホルダ30の下側面に配設されたブラシ34・34と、それぞれ電気的に接続される。ブラシホルダ30の上側中央部には、その内側に整流子52を収容する収容部32が形成される。また、収容部32の上側中央部には、挿通孔33が開口される。
【0028】
図1に示すブラケット40は、ケース10を閉塞するものである。ブラケット40の上側中央部には、支持部41が形成される。支持部41の内側には、ベアリング42が配設される。
【0029】
図1に示すアーマチュア50は、主として、回転軸51と、整流子52と、積層コア53と、を具備する。
【0030】
図1から図4に示す回転軸51は、その軸方向を上下方向へ向け、ケース10の内側であって当該ケース10及び界磁部20と同軸上に配置される。回転軸51の下端側は、ベアリング13に回動自在に支持される。また、回転軸51の上端側は、挿通孔33を通ってベアリング42に回動自在に支持される。このように、回転軸51は、ケース10の内側で、ベアリング13及びベアリング42を介して回動自在に支持される。なお、回転軸51の下端側は、モータ1の出力軸として外方へ向けて延出される。
【0031】
図1に示す整流子52は、その軸方向を上下方向へ向けた略円柱形状に形成される。整流子52は、回転軸51に相対回転不能に固定されて、ブラシホルダ30の収容部32の内側に配置される。整流子52には、ブラシホルダ30のブラシ34・34が接触される。そして、モータ1の外部からターミナル31を介して供給された電気が、ブラシ34を介して整流子52に供給される。
【0032】
図1から図4に示す積層コア53は、磁性板材からなるコア部材100を複数枚積み重ねて形成される。積層コア53は、その軸方向を上下方向へ向けた略円柱形状に形成される。積層コア53は、整流子52の下方にて回転軸51に相対回転不能に固定される。これによって、積層コア53は、界磁部20と同軸上を、回転軸51を介して軸回り(周方向)に回転可能に支持される。積層コア53は、界磁部20の内側に対向して配置され、上下方向位置で当該界磁部20と同一位置に配置される。積層コア53(より詳細には、後述する複数のティース部62)には、巻線65が巻回される。なお、図1以外の図では、説明の便宜上、巻線65の図示を省略している。
なお、コア部材100は、本発明における「コア部材」の一実施形態である。また、積層コア53は、本発明における「積層コア」の一実施形態である。
【0033】
以上のような構成において、モータ1には、モータ1の外部からターミナル31を介して電流が供給される。そして、ターミナル31に供給された電流は、ブラシ34により整流子52に供給されて、積層コア53に巻回された巻線65に供給される。これによって、アーマチュア50が界磁部20との電磁作用により、回転軸51の軸回りに回動する。そして、回転軸51が軸回りに回動することにより、モータ1のトルクが発生する。
【0034】
次に、積層コア53の構成について、図1から図5を用いてさらに詳細に説明する。
なお、図5は、コア部材100の構成を示した平面図である。
【0035】
図1から図4に示す積層コア53は、上述の如く、磁性板材からなるコア部材100を複数枚積み重ねて形成される。なお、コア部材100が積み重ねられる枚数は、偶数である。コア部材100は、その板面を積層コア53の軸方向と同一方向(上下方向)へ向けて積み重ねられる。図5に示すコア部材100は、主として、ヨーク部61と、ティース部62と、を具備する。
【0036】
図5に示すヨーク部61は、コア部材100の中心部に位置する部位である。ヨーク部61は、その板面を上下方向へ向けた略板状部材であって略環状に形成される。ヨーク部61の中央には、回転軸51が挿通するための挿通孔63が開口される。
【0037】
図5に示すティース部62は、コア部材100の外側部(ヨーク部61の外側)に位置する部位である。ティース部62は、平面視で略T字状に形成される。ティース部62は、同一形状のものが複数(本実施形態では、10)設けられる。ティース部62・62・・は、ヨーク部61の外周縁部に周方向に均等に配置されて、当該外周縁部から長手方向を外径方向へ向けて延出される。ティース部62・62・・には、巻線65が巻回される(図1参照)。なお、以下の説明では、ティース部62・62・・相互間に形成される隙間を、「スロット部64」と称する。スロット部64は、それぞれ同一形状のものが複数(本実施形態では、10)設けられる。
なお、ティース部62は、本発明における「ティース部」の一実施形態である。
【0038】
また、本実施形態において、積層コア53は、コア部材100を16枚積み重ねて形成される。そして、コア部材100・100・・は、最も上側に配置されたコア部材100から1枚ずつ下側に行くに従って、平面視で反時計回りに徐々(均等に)に回転した状態(位相をずらした状態)で配置される。このような構成により、積層コア53の外周面には、複数(本実施形態では、10)のスキュー70・70・・が形成される。スキュー70・70・・は、上側が左方で下側が右方となるように、すなわち上側端部から下側端部に行くに従って周方向に傾斜して形成される。
なお、スキュー70は、本発明における「スキュー」の一実施形態である。
【0039】
なお、図4に示すように、以下では説明に応じて、積層コア53にて積み重ねられたコア部材100・100・・のうち、最も上側に配置されたコア部材100を、「コア部材101」と称し、当該コア部材101から下側に1枚ずつ行くに従って、「コア部材102・コア部材103・コア部材104・・・コア部材115・コア部材116」と、それぞれ称する。また、コア部材101とコア部材116との平面視における回転角度を、スキュー70の角度と称する。また、図3に示すように、本実施形態におけるスキュー70の角度を、「角度θs1」と称する。
【0040】
スキュー70の角度θs1は、以下の数式(1)によって算出した「角度θs2」に基づいて決定される。
(数1)
角度θs2=360度/スロット部の数/磁極の数×(コア部材の枚数−1)/(コア部材の枚数/2)
【0041】
ここで、本実施形態において、スロット部64の数は、上述の如く、10である。また、磁極(永久磁石であるマグネット21)の数は、上述の如く、4である。また、コア部材100の枚数は、上述の如く、16枚である。そして、これらの数字を数式(1)に当てはめると、角度θs2として、16.875度が算出される。
【0042】
ここで、図6は、コア部材100(より詳細には、コア部材101及びコア部材109)のコギングトルクカーブを示したグラフである。このように、コア部材100のコギングトルクカーブは、サインカーブと概ね一致している。また、図示していないが、全てのコア部材100(コア部材101・コア部材102・・コア部材116)のコギングトルクカーブの振幅は、それぞれ概ね一致している。
【0043】
そして、上記数式(1)にて算出された、16.875度(角度θs2)をスキュー70の角度θs1とした場合、図6に示すように、コア部材101のコギングトルクカーブとコア部材109のコギングトルクカーブとが逆位相となる。すなわち、コア部材101のコギングトルクカーブとコア部材109のコギングトルクカーブとが、相互に合成されて打ち消しあうこととなる。
【0044】
また、同様に、コア部材102のコギングトルクカーブとコア部材110のコギングトルクカーブと、及び、コア部材103のコギングトルクカーブとコア部材111のコギングトルクカーブと、及び、コア部材104のコギングトルクカーブとコア部材112のコギングトルクカーブと、・・・及び、コア部材108のコギングトルクカーブとコア部材116のコギングトルクカーブとが、相互に合成されて打ち消しあうこととなる。
【0045】
このように、数式(1)によれば、コア部材101・102・・116のコギングトルクカーブが相互に合成されて打ち消しあうことによって、積層コア53の全体におけるコギングトルクによる変動が理論上0「ゼロ」となる(コギングトルクによる変動がなくなる)スキュー70の角度(角度θs2)を算出することができる。
【0046】
また、図7は、本実施形態(より詳細には、スロット部64の数が10であって、磁極(永久磁石であるマグネット21)の数が4であって、コア部材100の枚数が16枚である場合)における、スキュー70の角度に対するコギングトルクとモータ1の出力トルクとの関係を示したグラフである。このように、本実施形態において、積層コア53の全体におけるコギングトルクによる変動が理論上0「ゼロ」となるスキュー70の角度は、16.875度(角度θs2)以外にも複数(例えば、約34度や約50度)想定される。
【0047】
しかしながら、図7に示すグラフによれば、モータ1の出力トルクは、スキュー70の角度が大きくなるに従って低下することとなる。また、スキュー70の角度が大きくなると、ティース部62に巻線65を巻回させる作業の作業効率が低下して、ひいてはモータ1の生産性が低下することとなる。
【0048】
これに対して、数式(1)によれば、積層コア53の全体におけるコギングトルクによる変動が理論上0「ゼロ」となるスキュー70の角度のうち、最も小さな角度(角度θs2)を算出することができる。換言すれば、数式(1)によれば、積層コア53の全体におけるコギングトルクによる変動が理論上0「ゼロ」となるスキュー70の角度のうち、最もモータ1の出力トルクが低下しないような(モータ1の出力トルクを維持することができる)角度(角度θs2)を算出することができる。
【0049】
このように、スキュー70の角度θs1を、数式(1)によって算出した16.875度(角度θs2)に基づいて、16.875度と決定すると、積層コア53の全体におけるコギングトルクによる変動を理論上0「ゼロ」とすることができる。また、モータ1の出力トルクの低下率を、僅かな範囲内に収めることができる。また、16.875度(角度θs2)以外のスキュー70の角度(例えば、約34度や約50度)によって積層コア53の全体におけるコギングトルクによる変動を理論上0「ゼロ」とした場合と比較して、モータ1の出力トルクの低下率を、最小とすることができる。また、スキュー70の角度が大きくなることを防止できるので、ティース部62に巻線65を巻回させる作業の作業効率の低下を防止し、ひいてはモータ1の生産性の低下を防止することができる。
【0050】
また、図7に示すように、スキュー70の角度θs1を、例えば16.875度(角度θs2)に近似した角度とすると、積層コア53の全体におけるコギングトルクによる変動が理論上(0「ゼロ」ではないものの)0「ゼロ」に近いままであって、且つモータ1の出力トルクの低下率を、僅かな範囲内に収めることができる。
【0051】
そして、積層コア53の全体におけるコギングトルクによる変動を理論上0「ゼロ」、又は0「ゼロ」に近くすることができると共に、モータ1の出力トルクの低下率を僅かな範囲内に収めることができるスキュー70の角度θs1を、以下の数式(2)を満たすように決定することができる。
(数2)
角度θs2−(角度θs2×10%)<スキューの角度θs1<角度θs2+(角度θs2×10%)
【0052】
ここで、本実施形態において、角度θs2は、上述の如く、16.875度である。したがって、角度θs2として16.875度を数式(2)に当てはめると、角度θs1として、15.1875度より大きく、且つ18.5625度よりも小さい角度が算出される。
【0053】
このように、スキュー70の角度θs1を、数式(2)によって算出した15.1875度より大きく、且つ18.5625度よりも小さい角度とした場合、図7の符号Xの範囲にて示すように、モータ1の出力トルクの低下率を、5%以下(僅かな範囲内)に抑えることができる。すなわち、スキュー70の角度θs1を、数式(2)を満たすように決定することで、積層コア53の全体におけるコギングトルクによる変動を理論上0「ゼロ」、又は0「ゼロ」に近くすることができると共に、モータ1の出力トルクの低下率を5%以下(僅かな範囲内)に収めることができる。
【0054】
なお、本実施形態において、スロット部64の数は10であるが、かかる数に限定するものではない。すなわち、本発明において、スロット部64の数を、7以上12以下とすることができる。
【0055】
ここで、図8は、スロット部64の数毎のスキュー70の最適角度とモータ1の出力トルクとの関係を示した表である。なお、前記「スキュー70の最適角度」とは、上記数式(1)により算出された角度(角度θs2)を指すものとする。
【0056】
図8に示すように、スロット部64の数を7以上とした場合、モータ1の出力トルクの低下率を10%以下(所望の低下率)に収めることができる。さらに、一般的に、スロット部64の数が増加するに従って、生産コストが増加するものである。したがって、スロット部64の数を12以下とすることで、例えばスロット部64の数を13以上とした場合と比較して、生産コストの増加を防止することができる。
【0057】
なお、図8に示すように、スロット部64の数が10の場合と20の場合とにおける、モータ1の出力トルクの低下率の差異は、3%(僅かな範囲内)である。すなわち、例えばスロット部64の数を13以上とした場合には、モータ1の出力トルクの低下率が向上する利益よりも、生産コストが増加する不利益の方が大きくなって、全体として不利益となる可能性がある。これに対して、本発明においては、スロット部64の数を12以下とすることで、全体として不利益となることを防止している。
【0058】
このように、スロット部64の数を7以上12以下とすることにより、モータ1の出力トルクの低下率を所望の低下率(10%以下)に収めることができると共に、生産コストの増加を防止することができる。
【0059】
なお、本実施形態において、マグネット21の数は4である。ここで、一般的に、マグネット21の数が増加するに従って、生産コストが増加するものである。したがって、マグネット21の数を4とすることで、例えばマグネット21の数を6や、8とした場合と比較して、生産コストの増加を防止することができる。
【0060】
また、例えば、マグネット21の数を2とした場合には、スキュー70の角度が大きくなり過ぎることとなり、ひいてはモータ1の出力トルクが大きく低下する可能性がある。すなわち、本実施形態においては、マグネット21の数を4とすることによって、生産コストの増加を防止しつつ、モータ1の出力トルクの低下を防止している。
【0061】
また、図2に示すように、本実施形態において、界磁部20は、その軸方向(上下方向)の長さが、積層コア53の軸方向(上下方向)の長さ以上の長さに形成される。
【0062】
より詳細には、界磁部20の上下方向中央部20aと積層コア53の上下方向中央部53aとが、同一の高さに形成される。そして、界磁部20の上端部は、積層コア53の上端部よりも上方に形成される。また、界磁部20の下端部は、積層コア53の下端部よりも下方に形成される。すなわち、積層コア53は、上下方向(軸方向)において、その外周部の全てが界磁部20により覆われる。
【0063】
このように、界磁部20の軸方向(上下方向)の長さが、積層コア53の軸方向(上下方向)の長さ以上の長さに形成されるので、界磁部20の磁束の影響によって、相互に合成されて打ち消しあうコア部材100(例えば、コア部材101とコア部材109や、コア部材102とコア部材110等)のコギングトルクカーブの位相がずれたり、振幅が異なったりすることがない。すなわち、上記数式(1)によれば、界磁部20の磁束にかかわらず、積層コア53の全体におけるコギングトルクによる変動が理論上0「ゼロ」となるスキュー70の角度θs1(角度θs2)を算出することができる。
【0064】
以上のように、本発明の一実施形態に係るモータ1は、
複数の永久磁石であるマグネット21(磁極)を周方向に配置して環状に形成される界磁部20と、
前記界磁部20の内側に対向して配置され、巻線65が巻回される複数のティース部62を有して磁性板材からなるコア部材100を16枚積み重ねて形成され、当該界磁部20と同軸上を周方向に回転可能に支持される積層コア53と、
を具備するモータであって、
前記コア部材100の枚数は偶数であり、
前記積層コア53の軸心と直交する断面形状(積層コア53の平面視形状)において、前記コア部材100の前記複数のティース部62がそれぞれ同一形状であって周方向に均等に配置され、
前記界磁部20の軸心と直交する断面形状(界磁部20の平面視形状)において、前記複数のマグネット21(磁極)がそれぞれ同一形状であって周方向に均等に配置され、
前記コア部材100の前記ティース部62・62・・相互間に形成されるスロット部64によって、前記積層コア53に軸方向の一端から他端に行くに従って周方向に傾斜するスキュー70が形成され、
前記スキュー70の角度θs1が、以下の数式(1)によって算出した角度θs2に基づいて決定されるものである。
数式(1)・・角度θs2=360度/スロット部64の数/マグネット21(磁極)の数×(コア部材100の枚数−1)/(コア部材100の枚数/2)
【0065】
これによって、積層コア53の全体におけるコギングトルクが理論上0「ゼロ」となるスキュー70の角度であって、角度が相対的に小さいスキュー70の角度(角度θs2)を求めて、コギングトルクを低減させると共に、スキュー70の角度の大きさに起因するモータ1の出力トルクの低下を防止し、また、巻線65を巻回させる作業効率の低下を防止して、ひいては生産性の低下を防止することができる。
【0066】
また、本発明の一実施形態に係るモータ1において、スキュー70の角度θs1は以下の数式(2)を満たすものである。
数式(2)・・角度θs2−(角度θs2×10%)<スキュー70の角度θs1<角度θs2+(角度θs2×10%)
【0067】
これによって、積層コア53の全体におけるコギングトルクによる変動を理論上0「ゼロ」、又は0「ゼロ」に近くすることができると共に、出力トルクの低下率を僅かな範囲内に収めることができる。
【0068】
また、本発明の一実施形態に係るモータ1において、スロット部64の数は、7以上12以下であるものである。
【0069】
これによって、モータ1の出力トルクの低下率を所望の低下率に収めることができると共に、生産コストの増加を防止することができる。
【0070】
また、本発明の一実施形態に係るモータ1において、マグネット21(磁極)の数は、4であるものである。
【0071】
これによって、生産コストの増加を防止しつつ、モータ1の出力トルクの低下を防止することができる。
【0072】
また、本発明の一実施形態に係るモータ1において、界磁部20の軸方向の長さは、積層コア53の軸方向の長さ以上の長さに形成されるものである。
【0073】
これによって、界磁部20の磁束にかかわらず、積層コア53の全体におけるコギングトルクによる変動が理論上0「ゼロ」となるスキュー70の角度θs1(角度θs2)を算出することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 モータ
20 界磁部
21 マグネット
53 積層コア
62 ティース部
64 スロット部
65 巻線
70 スキュー
100 コア部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁極を周方向に配置して環状に形成される界磁部と、
前記界磁部の内側に対向して配置され、巻線が巻回される複数のティース部を有して磁性板材からなるコア部材を複数枚積み重ねて形成され、当該界磁部と同軸上を周方向に回転可能に支持される積層コアと、
を具備するモータであって、
前記コア部材の枚数は偶数であり、
前記積層コアの軸心と直交する断面形状において、前記コア部材の前記複数のティース部がそれぞれ同一形状であって周方向に均等に配置され、
前記界磁部の軸心と直交する断面形状において、前記複数の磁極がそれぞれ同一形状であって周方向に均等に配置され、
前記コア部材の前記ティース部相互間に形成されるスロット部によって、前記積層コアに軸方向の一端から他端に行くに従って周方向に傾斜するスキューが形成され、
前記スキューの角度θs1が、以下の数式(1)によって算出した角度θs2に基づいて決定される、
ことを特徴とするモータ。
数式(1)・・角度θs2=360度/スロット部の数/磁極の数×(コア部材の枚数−1)/(コア部材の枚数/2)
【請求項2】
前記スキュー角度θs1は以下の数式(2)を満たす、
ことを特徴とする請求項1に記載のモータ。
数式(2)・・角度θs2−(角度θs2×10%)<スキューの角度θs1<角度θs2+(角度θs2×10%)
【請求項3】
前記スロット部の数は、7以上12以下である、
ことを特徴とする請求項1または2のいずれか一項に記載のモータ。
【請求項4】
前記磁極の数は、4である、
ことを特徴とする請求項1から3までのいずれか一項に記載のモータ。
【請求項5】
前記界磁部の軸方向の長さは、前記積層コアの軸方向の長さ以上の長さに形成される、
ことを特徴とする請求項1から4までのいずれか一項に記載のモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−99095(P2013−99095A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239430(P2011−239430)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000207791)大豊工業株式会社 (152)
【Fターム(参考)】