説明

モールドコイルの製造方法

【課題】高性能なモールドコイルの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明のモールドコイルの製造方法は、プラスチック成形法を用いて、樹脂と磁性体粉末を混練させた磁性体モールド樹脂でコイルを封止したモールドコイルの製造方法において、磁性体粉末を容積比で65Vol%以上含む該磁性体モールド樹脂を用いる。そして、その一部に磁性体モールド樹脂の一部をキャビティから排出する隙間を有する成形金型を用いる。磁性体モールド樹脂をキャビティ内に充填し、キャビティ内に充填された溶融状態の磁性体モールド樹脂の一部がキャビティから隙間を通じてキャビティの外へと排出する。排出した磁性体モールド樹脂がキャビティ内に充填した磁性体モールド樹脂よりも相対的に磁性体粉末の容積比が低いことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック成形法を用いたモールドコイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、磁性体粉末と樹脂などで巻線を封止したモールドコイルが広く用いられている。モールドコイルの製造方法には、主に圧粉成形法とプラスチック成形法がある。圧粉成形法は、磁性体粉末と樹脂を混合した粉末材料を金型に充填し、加圧して所望の形状に成形する方法である。従来の圧粉成形法を用いたモールドコイルは例えば特許文献1に開示されている。一方、プラスチック成形法は、磁性体粉末と樹脂を混練させた磁性体モールド樹脂を金型に充填し、溶融させて所望の形状に成形する方法である。従来のプラスチック成形法を用いたモールドコイルは例えば特許文献2に開示されている。一般的に、プラスチック成形法は圧粉成形法と比べて成形性が高く、圧粉成形法よりも成形精度の高い成形体を得られる。そのため、小型や複雑な形状のモールドコイルを成形する場合において、プラスチック成形法を用いることは有効な手段である。
【0003】
しかし、従来のプラスチック成形法では高い成形性を確保するために、圧粉成形法のように磁性体粉末の容積比を容易に高くすることができなかった。そのため、従来のプラスチック成形法を用いたモールドコイルでは磁性体粉末の容積比が50Vol%程度の磁性体モールド樹脂を用いており、磁気特性が十分に得られずに定格電流や直流抵抗といった特性において満足するものが得られなかった。そこで、出願人は先に出願した特願2008−108794において、鉄系磁性体粉末を容積比で65〜80Vol%含む磁性体モールド樹脂と平角線の外外巻コイルを用いることによって、小型、低背でありながら高い直流重畳特性と低い直流抵抗値を有するモールドコイルが実現できることを提案した。
【0004】
ところで、電源用途に用いるモールドコイルの定格電流を規定する指標には、直流重畳許容電流と温度上昇許容電流の2つがある。直流重畳許容電流は、インダクタンス値(以下、L値)が初期値よりも30%減少する直流電流値であり、コイル内の磁束密度と磁性体の飽和磁束密度によって決まる。一方、温度上昇許容電流は周囲温度20℃を基準とし、コイルの温度が40℃上昇するときの直流電流値であり、コイルの直流抵抗値に反比例する。規格は安全性を考慮して許容電流の小さい方を表示する。
【0005】
【表1】

【0006】
一般的に、鉄系磁性体粉末を用いたモールドコイルでは、直流重畳許容電流よりも温度上昇許容電流の方が小さくなるといわれる。ここで、フェライト系磁性体粉末と鉄系磁性体粉末をそれぞれ用いた外形寸法やインダクタンス値が同程度のコイルを比較すると、表1に示すように磁性体粉末の違いがわかる。表1から明らかなように、フェライト系磁性体粉末を用いたときでは温度上昇許容電流よりも直流重畳許容電流の方が小さい。一方、鉄系磁性体粉末では直流重畳許容電流が温度上昇許容電流よりもはるかに大きいことがわかる。
【0007】
この温度上昇許容電流は、先にも述べたようにコイルの直流抵抗値に反比例する。つまり、直流抵抗値を小さくするほど温度上昇許容電流を大きくすることができる。直流抵抗値を小さくするためには、コイルの巻数を少なくしてコイルの線径を太くする必要がある。そこで、少ない巻数でも所定のL値を得るために、磁性体モールド樹脂の比透磁率の向上が望まれている。
【特許文献1】特開2007−49073号
【特許文献2】特開平4−338613号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、比透磁率について説明すると、磁性体モールド樹脂の比透磁率μは以下の数1に示す実験式で表される。数1中のμ1は磁性体粉末の比透磁率、μ2は混合物(樹脂や空気など)の比透磁率、νは磁性体粉末の容積比をそれぞれ表すものである。
【0009】
【数1】

【0010】
混合物が樹脂や空気の場合、μ2=1として扱うことができる。この値を用いると、数1は以下の数2に直すことができる。
【0011】
【数2】

【0012】
数2から明らかなように、磁性体粉末の容積比νは指数的に磁性体モールド樹脂の比透磁率μに関与する。ここで具体的に鉄系材料の磁性体粉末を使用した磁性体モールド樹脂の例を示す。例えば、鉄系材料の磁性体粉末の透磁率μ1を100とし、磁性体モールド樹脂中の磁性体粉末の容積比を50Vol%(ν=0.50)から51%(ν=0.51)に増加させたとき、比透磁率μは10から10.5に増加する。
【0013】
そして、磁性体モールド樹脂中の磁性体粉末の容積比を70Vol%(ν=0.70)から71%(ν=0.71)に増加させたときでは、比透磁率μは25.1から26.3に増加する。つまり、磁性体粉末の容積比が低い場合と高い場合では、容積比νを同じだけ増加させても容積比が高い方が比透磁率μを向上させる効果が大きい。そのため、磁性体粉末の容積比νが高い状態であれば微量な増加であっても比透磁率μを向上させる効果が顕在化する。
【0014】
しかしながら、磁性体モールド樹脂中の磁性体粉末の容積比が高くなるにつれて、磁性体モールド樹脂の流動性が悪化する。特に、磁性体粉末の容積比が65Vol%以上になると、1Vol%や2Vol%程度の微量な増加でもその流動性に与える影響が非常に大きい。更なる高透磁率が望まれているが、磁性体モールド樹脂は高い成形性を維持するためにはある程度の流動性を確保しなくてはならない。そのため、磁性体モールド樹脂中の磁性体粉末の容積比を安易に高めることはできない。
【0015】
そこで、本発明はモールドコイル中の磁性体容積比を高め、高性能なモールドコイルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明のモールドコイルの製造方法は、プラスチック成形法を用いて、樹脂と磁性体粉末を混練させた磁性体モールド樹脂でコイルを封止したモールドコイルの製造方法において、磁性体粉末を容積比で65Vol%以上含む磁性体モールド樹脂を用いる。そして、その一部に磁性体モールド樹脂の一部をキャビティから排出する隙間を有する成形金型を用いる。磁性体モールド樹脂をキャビティ内に充填し、キャビティ内に充填された溶融状態の磁性体モールド樹脂の一部がキャビティから隙間を通じてキャビティの外へと排出する。排出した磁性体モールド樹脂がキャビティ内に充填した磁性体モールド樹脂よりも相対的に磁性体粉末の容積比が低いことを特徴とする。
を特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のモールドコイルの製造方法は、成形金型中に磁性体モールド樹脂中の磁性体粉末の最大粒径以下の隙間を設けることにより、磁性体モールド樹脂中の磁性体粉末よりも樹脂を優先的にキャビティ外に排出させることができ、キャビティ内の磁性体モールド樹脂の磁性体粉末の容積比を高くすることができる。そして、磁性体粉末が65Vol%以上の磁性体モールド樹脂を用いてもモールドコイル中の磁性体粉末の容積比を高めることができる。
【0018】
本発明のモールドコイルの製造方法を用いれば、非常に良好な比透磁率を得ることができる。そのため、所定のL値を得る際に従来の方法よりもコイルの巻数を低減することができる。そして、巻数を低減させた体積分だけコイルの線径を太くすることが可能であり、直流抵抗を低減して温度上昇許容電流を大きく向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、図面と表を参照しながら、本発明の磁性体モールド樹脂のモールド成形方法の実施例を説明する。まず、本発明の実施例で用いる磁性体モールド樹脂について説明する。
【0020】
本発明の実施例では磁性体粉末にアモルファス合金の粉末の材料A〜材料Dを用いる。表2は、本発明の実施例で用いる磁性体粉末(材料A〜材料D)の特徴を示している。表2から明らかなように、材料Aと材料Bはガスアトマイズ法、材料Cと材料Dは水アトマイズ法を用いて造粒されたものである。また、材料A〜材料Dのそれぞれの粒径は、材料Aから順に平均粒径が30μm、25μm、10μm、5μmで、最大粒径が100μm、60μm、45μm、20μmである。なお、平均粒径はレーザー回折散乱法を用いて測定し、最大粒径は篩分け分級にて得た数値である。
【0021】
【表2】

【0022】
表3に本発明の実施例で用いる磁性体モールド樹脂(試料1〜試料8)の条件と特徴を示す。材料A〜材料Dに示す磁性体粉末とノボラック型エポキシ樹脂を表3に示す比率で混練し、さらに樹脂に対して0.5wt%硬化促進剤(トリフェニルホスフィン)を加えて混練した。その混練物を冷却し、粉砕して試料1〜試料8を得た。
【0023】
なお、一般的に水アトマイズ法よりもガスアトマイズ法を用いたときの方が真球度の高い磁性体粉末になる。真球度が高い磁性体粉末を用いる方が磁性体モールド樹脂の流動性が良好である。そのため、試料2と試料4は試料6よりも磁性体モールド樹脂の流動性が確保しやすく、磁性体容積比が高い。
【0024】
【表3】

【0025】
次に、本発明の実施例で用いる空芯コイルについて説明する。図1に本発明の実施例で用いる外外巻コイルを示す。本発明の実施例では、断面が平角形状で幅が0.25mm、厚みが0.10mmの自己融着性絶縁層を有する線材を用いる。この線材を芯径1.3mmの芯材を用いて、外外巻きに2層で11ターン巻き、さらに融着させて図1に示すような空芯コイル1を得た。
【0026】
(第1の実施例)
図2〜図7と表4を参照しながら、本発明の第1の実施例を説明する。第1の実施例は、トランスファ成形法にてモールドコイルを成形する。図中の参照記号はそれぞれ、2は型枠、3は上型、4は下型、5はプランジャー、6はキャビティ、7はゲート、8はスプルー、9はチャンバーポットを示す。また、sはスペーサを示し、このスペーサsから生じる隙間をdとする。
【0027】
図2〜図4に本発明の第1の実施例で用いるトランスファ成形用の成形金型を示す。なお、図4は図3のA−A’断面図である。
【0028】
第1の実施例では図2から明らかなように、型枠2と上型3と下型4とプランジャー5を有する成形金型を用い、組み合わせることによってキャビティ6とチャンバーポット9が形成される。また、上型3は第1の上型3aと第2の上型3bからなりスプルー8を形成する、同様に下型4も第1の下型4aと第2の下型4bからなりスプルー8を形成する。第1の上型3aと第1の下型4aは、それぞれ空芯コイル1を中心に対向する位置にキャビティ6とスプルー8を結合するゲート7を有しており、チャンバーポット9に投入された磁性体モールド樹脂は、プランジャー5に押し出されてスプルー8とゲート7を通過してキャビティ6へと充填される。
【0029】
また図3に示すように、型枠2は第1の型枠2aと第2の型枠2bからなり、組み合わせることによって断面が3mm角の柱状の貫通孔が形成される。また、型枠2は、第1の型枠2aと第2の型枠2bの間に空芯コイル1の引き出し線部分を挟みながら固定することができる。
【0030】
さらに図4に示すように、型枠2と第1の上型3aとの間にはスペーサsが挿入されており、型枠2と第1の上型3aとの間に隙間dを形成している。また同様に、型枠2と第1の下型4aとの間にもスペーサsが挿入されており、型枠2と第1の下型4aとの間に隙間dを形成している。これらの隙間dを通じてキャビティ6内に充填された磁性体モールド樹脂10の一部はキャビティ6の外へ排出される。なお、スペーサは例えばステンレスや真鍮などの金属板を用いれば良いが、所望の間隔で隙間dが形成できるのであればどのようなものを用いても良い。
【0031】
次に、第1の実施例のモールドコイルの製造方法について説明する。図5、図6に第1の実施例のモールドコイルの製造方法の主要部分を示す。まず、図5に示すように、空芯コイル1と型枠2、上型3、下型4を固定し、チャンバーポット9に磁性体モールド樹脂10を充填してプランジャー5をセットする。このとき空芯コイル1は、空芯コイル1の引き出し線部分を第1の型枠2aと第2の型枠2bに挟み固定する。
【0032】
次に図6に示すように、磁性体モールド樹脂10をチャンバーポット9内で180℃に加熱して溶融状態にし、プランジャー5を用いて磁性体モールド樹脂10をキャビティ6内に注入し、200kgfの加圧で8分間保持して磁性体モールド樹脂10を硬化させた。次に、成形金型から磁性体モールド樹脂10の硬化したものを離型して成形体を得た。
【0033】
次に、図7に示すように、厚みが0.08mmのリン青銅板をL字に加工した外部電極11をエポキシ樹脂で成形体の所定の位置に貼付し、空芯コイル1の引き出し線部分を折り曲げ加工し、さらに空芯コイル1の引き出し線部分と外部電極6を半田接合して、モールドコイルを得る。なお、本実施例では外形寸法がL*W=3.0mm、H=1.2mmのものを作成した。また、得られたモールドコイルは、Agilent Technologies社製のLCRメータ4284Aを用いて、測定周波数100kHzにてL値を測定した。
【0034】
表4に試料1〜試料8を隙間dの異なる成形金型で成形して得たモールドコイルのL値を列記した。また、表3中のスペーサなしは従来の成形金型を用いて成形されたものである。各種スペーサsの厚みは、スペーサ1が30μm、スペーサ2が60μm、スペーサ3が100μmである。ここでは、このスペーサsの厚みを隙間dの幅として扱う。
【0035】
【表4】

【0036】
表4を参照しながら各試料を比較する。まず、材料A〜材料Cをそれぞれ1種類用いている試料1〜試料6について比較すると、表4から明らかなように、磁性体容積比が高いほどL値が高かった。
【0037】
次にスペーサsの有無で試料1〜試料6を比較すると、試料1〜試料6の何れもスペーサ1を用いたときが最もL値が高かった。また、各試料で用いている磁性体粉末の最大粒径以下のスペーサsを使用したときに、従来のスペーサなしのときよりもL値が高くなった。
【0038】
この結果より、キャビティ6に充填された溶融状態の磁性体モールド樹脂10は、キャビティ6から各スペーサsによって設けられた隙間dに侵入する。このとき、磁性体粉末の最大粒径以下の隙間dであれば、磁性体粉末は隙間dに侵入し難く、キャビティ6内に留まりやすい。一方、樹脂は磁性体粉末と比較して磁性体モールド樹脂内での自由度が高いため、磁性体粉末よりも容易に隙間dに侵入できる。そのため、樹脂が隙間dを通じてキャビティ6の外へ磁性体粉末よりも優先的に排出されると考えられる。
【0039】
これにより、キャビティ6内の磁性体モールド樹脂10は混練材時よりも磁性体容積比が高くなり、モールドコイルのL値も向上すると考えられる。しかし、磁性体粉末の最大粒径よりも大きい隙間dを設けてしまうと、磁性体粉末が樹脂とともにそのままキャビティ6の外に排出されてしまうためL値が向上しないと考えられる。
【0040】
次に、材料Bと材料Dの粒径の異なる2種類の磁性体粉末を用いている試料7、試料8について比較する。試料7、試料8のように粒径の異なる数種類の磁性体粉末を用いる方法は、磁性体容積比を向上させるのに有効な手段である。そのため、電気特性の高いモールドコイルを得るために用いられる。表3から明らかなように、試料7、試料8は試料1〜試料6と同様に、適度に隙間を設けるほうが、スペーサなしのときよりもL値が向上した。従って、試料7、試料8のように粒径の異なる2種類の磁性体粉末を用いた場合でも、本発明の方法は有効である。特に、試料8のように磁性体容積比が70Vol%以上の磁性体モールド樹脂では、従来の50Vol%程度の試料7と比べてL値の上昇が大きく、本発明の方法が非常に有効であることがわかる。
【0041】
以上より、磁性体モールド樹脂でコイルを封止するモールドコイルにおいて、適当な隙間を設けることによってモールドコイル中の磁性体モールド樹脂の磁性体容積比を向上させることができる。そして、磁性体粉末を65Vol%以上含む磁性体モールド樹脂であっても、更なる磁性体容積比の向上を図ることができる。
【0042】
また、本発明の方法は従来の隙間を設けない方法よりも高透磁率を得られることから、同一のL値を得るときに従来の方法よりもコイルの巻数を低減することができる。そして、巻数を低減させた体積分だけコイルの線径を太くすることが可能であり、モールドコイルを大型化させずに直流抵抗を低減して温度上昇許容電流を大きく向上させることができる。
【0043】
(第2の実施例)
図8〜図11と表5を参照しながら、本発明の第2の実施例を説明する。なお、第1の実施例と同様な材料を用い、同じ外形寸法のモールドコイルを成形した。第1の実施例と共通する部分の説明は割愛する。図8は、第2の実施例で使用される圧縮成形用の成形金型を示すものであり、図8(a)は上面図、図8(b)は(a)のB−B’断面図である。図中の参照記号はそれぞれ、1は空芯コイル、10は磁性体モールド樹脂、12はダイ、13は上パンチ、14は下パンチ、15はキャビティを示す。また、図中のcはダイ12及び上パンチ13とのクリアランスとダイ12と下パンチ14との片側クリアランス(以下、クリアランス)を示す。クリアランスcが本発明の隙間に相当する。
【0044】
図8に示すように、第2の実施例ではダイ12と上下方向に昇降可能な上パンチ13と下パンチ14を有する成形金型を用いる。ダイ12は第1のダイ12aと第2のダイ12bを有し、組み合わせることによって断面が3mm角の柱状の貫通孔が形成される。この貫通孔は上パンチ13と下パンチ14と嵌合することができ、これらを組み合わせることによってキャビティ15が形成される。また、第1の実施例の型枠と同様に、第1のダイ12aと第2のダイ12bの間に空芯コイル1の引き出し線部分を挟みながら固定することができる。
【0045】
図8(a)に示すように、上パンチ13の直径Dpはキャビティの直径Dcよりも小さく、クリアランスcが形成される。クリアランスcの幅は、磁性体モールド樹脂中の磁性体粉末の最大粒径以下になるように設定される。なお、このクリアランスcの幅は、c=1/2×(Dc−Dp)を用いて算出する。また、本実施例では下パンチ14も上パンチ13と同形状のものを使用し、上パンチ13側と同様にクリアランスcが形成される。
【0046】
次に、本発明のモールドコイルの製造方法について説明する。図9〜図11に本発明の第2の実施例のモールドコイルの製造工程の主要部分を示す。なお、図9〜図11は、図8(a)に示すB−B’位置の各段階での断面を示す。
【0047】
図9に示すように、空芯コイル1の引き出し線部分をダイ12である第1のダイ12aと第2のダイ12bで挟み、空芯コイル1をキャビティ15内の所望の位置に固定する。ダイ12の貫通孔の上下両側からそれぞれ上パンチ13と下パンチ14を嵌合させ、ダイ12と上パンチ13と下パンチ14を加熱してキャビティ15内を180℃に予熱した。次に、一度上パンチ13と下パンチ14を外し、所定量秤量したバルク(塊)状の磁性体モールド樹脂10をキャビティ15の上下両側から投入して再び上パンチ13と下パンチ14をダイ12の貫通孔に嵌合させた。
【0048】
次に、図10に示すように、キャビティ15内の磁性体モールド樹脂10をキャビティ15内の予熱によって溶融させ、上パンチ13と上パンチ14を用いて10kgfの成形圧力を加え、180℃で8分間保持して磁性体モールド樹脂10を硬化させた。次に、図11に示すように、第2のダイ12bと上パンチ13を外して成形体を離型した。その成形体に外部電極を取り付けてモールドコイルを得た。得られたモールドコイルは、第1の実施例と同様の方法でL値を測定した。
【0049】
表5に試料3、試料4、試料7、試料8を直径の異なるパンチを用いて成形して得たモールドコイルのL値を示す。表5に示すモールドコイルは、直径Dpが2.94mm、2.88mm、2.80mmのパンチを用いて成形されている。また、このときキャビティ15の直径Dcは、3.00mmであり、ダイと各パンチとのクリアランスcは、それぞれクリアランス1が30μm、クリアランス2が60μm、クリアランス3が100μm程度になる。
【0050】
【表5】

【0051】
表4と表5を参照しながら、第1の実施例と第2の実施例を比較する。表4と表5から明らかなように、第1の実施例の隙間の間隔と第2の実施例のクリアランスcが同程度のとき、L値も同程度になっていることが分かる。従って、ダイとパンチとのクリアランスを調整することによってもモールドコイル中の磁性体容積比を高めることができ、本発明の方法は圧縮成形法でも実施可能である。
【0052】
以上より、本発明のモールドコイルの製造方法は、成形金型中に隙間を設け、磁性体モールド樹脂をキャビティ内に充填させた後に隙間から磁性体モールド樹脂中の樹脂をキャビティ外に排出させる。隙間は、3μm以上且つ磁性体粉末の最大粒径以下に設定するのがよい。3μmよりも小さくすると、技術的に困難な上、さらに成形金型が非常に高価になってしまうため望ましくない。
【0053】
キャビティ内の磁性体モールド樹脂の磁性体容積比が高まることから比透磁率やL値の向上が望める。そして、本発明の方法は磁性体容積比を高めることが困難になる65Vol%以上の磁性体モールド樹脂を用いた状態から、さらにモールドコイルでの磁性体容積比の向上が望めるため、従来にない高特性なモールドコイルを得ることができる。
【0054】
本発明のモールドコイルの製造方法を用いれば、非常に良好な比透磁率を得ることが出来るため、所定のL値を得る際に従来の方法よりもコイルの巻数を低減することができる。そして、巻数を低減させた体積分だけコイルの線径を太くすることが可能であり、直流抵抗を低減して温度上昇許容電流を大きく向上させることができる。
【0055】
上記実施例では磁性体粉末に鉄系アモルファス合金の粉末を用いたが、その他の金属系磁性体粉末、あるいはフェライト系磁性体粉末などを用いても有効である。また、上記実施例では、ガスアトマイズ法と水アトマイズ法で造粒した磁性体粉末の例を示したが、高速回転水流アトマイズ法などのアトマイズ法や粉砕、プラズマ回転電極法などその他の造粒法の磁性体粉末を用いても実施可能である。また、磁性体粉末を表面酸化、絶縁膜被覆などの表面改質を行っても実施可能である。上記実施例では樹脂にノボラック型エポキシ樹脂を用いたが、これに限られることはなくその他の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を用いても実施可能である。
【0056】
上記実施例では、トランスファ成形法と圧縮成形法を用いた方法を示したが、インジェクション成形法などのその他のプラスチック成形法を用いても実施可能である。また上記実施例に示した成形金型に限られることはなく、磁性体粉末の最大粒径以下の隙間を有し、モールドコイルが適正に成形できればどのような成形金型を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施例で用いる空芯コイルを示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施例で用いる成形金型の構造を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施例で用いる成形金型の構造を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施例で用いる成形金型の構造を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施例のモールドコイルの製造方法の主要部分を説明する断面図である。
【図6】本発明の第1の実施例のモールドコイルの製造方法の主要部分を説明する断面図である。
【図7】本発明の実施例のモールドコイルを示す斜視図である。
【図8】本発明の第2の実施例で用いる成形金型の構造を示す図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のB−B’断面図である。
【図9】本発明の第2の実施例のモールドコイルの製造方法の主要部分を説明する断面図である。
【図10】本発明の第2の実施例のモールドコイルの製造方法の主要部分を説明する断面図である。
【図11】本発明の第2の実施例のモールドコイルの製造方法の主要部分を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1:空芯コイル、2:型枠(2a:第1の型枠、2b:第2の型枠)、3:上型(3a:第1の上型、3b:第2の上型)、4:下型(4a:第1の下型、4b:第2の下型)、5:プランジャー、6:キャビティ、7:ゲート、8:スプルー、9:チャンバーポッド、10:磁性体モールド樹脂、11:外部電極、12、ダイ(12a:第1のダイ、12b:第2のダイ)、13:上パンチ、14:下パンチ、15:キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック成形法を用いて、樹脂と磁性体粉末を混練させた磁性体モールド樹脂でコイルを封止したモールドコイルの製造方法において、
該磁性体粉末を容積比で65Vol%以上含む該磁性体モールド樹脂を用い、
その一部に該磁性体モールド樹脂の一部をキャビティから排出する隙間を有する成形金型を用い、
該磁性体モールド樹脂を該キャビティ内に充填し、
該キャビティ内に充填された溶融状態の該磁性体モールド樹脂の一部が該キャビティから該隙間を通じて該キャビティの外へと排出し、
該排出した磁性体モールド樹脂が該キャビティ内に充填した磁性体モールド樹脂よりも相対的に磁性体粉末の容積比が低いことを特徴とするモールドコイルの製造方法。
【請求項2】
前記隙間が前記磁性体粉末の最大粒径以下であることを特徴とする請求項1に記載のモールドコイルの製造方法。
【請求項3】
前記磁性体粉末が鉄系磁性材料の粉末であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモールドコイルの製造方法。
【請求項4】
前記隙間が前記成形金型中にスペーサを介在することによって形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載のモールドコイルの製造方法。
【請求項5】
前記コイルが巻線であることを特徴とする請求項1乃至請求項4に記載のモールドコイルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−10544(P2010−10544A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170161(P2008−170161)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(709002185)
【Fターム(参考)】