説明

モールドパウダーの滓化特性および溶融性の評価方法

【課題】 目開きaと目開きbの各篩でモールドパウダーを篩分けする際、モールドパウダーの基材パウダーの滓化特性および溶融性を評価する。
【解決手段】 目開きaと目開きbの各篩でモールドパウダーを篩分けし、これらのモールドパウダーの各篩上をスラグ化率(%)としてRSL,aとRSL,bとし、RSL,aとRSL,bの差をΔRSLとする時、このΔRSLとRSL,aからモールドパウダーの基材パウダーの滓化特性および溶融性を評価する。この場合、RSL,a、RSL,b、ΔRSLは、モールドパウダーの粒径の分布範囲を粒径a未満の大きさのαと、粒径a〜粒径b間の大きさのβと、粒径bを超える大きさのγとする時、下記の式で表示される。
SL,a=100(mβ+mγ)/(mα+mβ+mγ)……(1)
SL,b=100mγ/(mα+mβ+mγ)……(2)
ΔRSL=RSL,a−RSL,b=100mβ/(mα+mβ+mγ)……(3)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の技術は、鋼の連続鋳造法あるいは造塊法に用いるモールドパウダーに関し、モールドパウダーの滓化特性および溶融性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼の連続鋳造方法では、鋳型に溶鋼の流入を均一にし、鋳型との間に良好な潤滑性を与え、引抜く鋳片に縦割れの発生を防止するためにモールドパウダーが使用されている。
【0003】
さらに、鋼の連続鋳造用のモールドパウダーとして顆粒のパウダーがあり、その顆粒の粒径は0.3〜3mmの大きさからなる粗粒とされている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、このものは、加熱によって滓化したパウダー粒子の大きさよりも、既に大きい粒子であるために、篩分けすることが困難である。
【0004】
一方、発明者らは、モールドパウダーの消費速度に適した滓化速度のバランスの評価方法を既に発明して提案している。この方法は、モールドパウダーを実機で使用するときと同様に、原料鉱物の種類、嵩比重、粒度などの基材パウダーの特性や、種類、量などの添加パウダーの特性などについて、パウダーに起因する全ての滓化特性についてスラグ化率(%)で評価する方法である。なお、このスラグ化率(%)は加熱前のモールドパウダーの全質量に対する加熱後のスラグ化したモールドパウダーの質量の比を%で表示したものをスラグ化質量率とし、このスラグ化質量率をスラグ化率(%)と以下において称する。
【0005】
【特許文献1】特開昭59−61558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、モールドパウダーのうち主に基材パウダーの特性に起因する滓化特性および溶融特性を評価し、滓化特性および溶融特性に優れたモールドパウダーを選出することを目的とする。ところで、モールドパウダーでは、原料の平均組成が仮に同じであっても、基材パウダーの特性が異なると滓化特性および溶融特性は変化する。このために、例えば、あるモールドパウダーの原料系を変更する際には、基材パウダーの滓化特性および溶融特性を評価した上で、さらに含有のカーボンを含んだトータルの滓化特性および溶融特性を、基材パウダーの特性と添加パウダーの特性などのモールドパウダーに起因する全ての滓化特性および溶融特性で評価することができれば、より確度の高いモールドパウダーの設計が可能となり、より一層に優れたモールドパウダーを得ることができる。
【0007】
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、モールドパウダーの基材パウダーの特性を評価した上でカーボンを含んだトータルの滓化特性および溶融特性を評価することで、最適のモールドパウダーを設計して選出する評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
先ず、発明者らが開発したスラグ化率(%)の試験と同じ方法で、加熱後の滓化スラグと未滓化のモールドパウダーとの混合物(これらをまとめて「加熱後パウダー」と呼称する。)を目開きの異なる2種類の篩で篩分けし、それぞれの篩の篩上をスラグ化率(RSL:%)として測定する。例えば、仮に、目開き500μmと600μmの篩とするとき、これらの篩による篩上を各スラグ化率(%)としてRSL,500とRSL,600とする。この場合、RSL,500とRSL,600との差をΔRSLとすると、このΔRSLとRSL,500との関係から、基材パウダーの滓化特性および溶融特性を評価する方法である。ここで本発明におけるモールドパウダーとは、粒径が0.3mm未満の粒子からなる粉末状のモールドパウダーである。
【0009】
この0.3mm以上の大きさの粒径は顆粒パウダーであり、この顆粒パウダーの粒径は例えば0.3〜3mm(特許文献1参照。)と大きいものである。しかも、この顆粒パウダーの0.3mm以上の大きさの粒径は、加熱試験によって滓化したパウダー粒子の大きさよりも大きいため、目開き500μmと600μmの篩等による篩分けが困難である。そこで、本発明では、このような粒径の大きな顆粒パウダーは対象外としている。
【0010】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、請求項1の発明では、目開きaの篩と目開きbの篩を使用して加熱後パウダーを分別し、これらの篩の上に残った滓化スラグについてそのスラグ化率(%)RSLをそれぞれRSL,aとRSL,bとし、RSL,aとRSL,bとの差をΔRSLとするとき、このΔRSLとRSL,aから該モールドパウダーの基材パウダーの滓化特性および溶融性を評価する粉末状のモールドパウダーの滓化特性および溶融性の評価方法である。
【0011】
請求項2の発明では、スラグ化率のRSL,a、RSL,b、ΔRSLは、モールドパウダーの粒径a未満の大きさであるモールドパウダーの粒径の分布範囲をα、同じく粒径a〜粒径b間の粒径の分布範囲β、同じく粒径bを超える粒径の分布範囲γとし、各粒径の分布範囲に占める質量をそれぞれmα、mβ、mγとするとき、下記の式(1)、式(2)、式(3)で表示されることを特徴とする請求項1の手段の粉末状のモールドパウダーの滓化特性および溶融性の評価方法である。
SL,a=100(mβ+mγ)/(mα+mβ+mγ)……(1)
SL,b=100mγ/(mα+mβ+mγ)……(2)
ΔRSL=RSL,a−RSL,b=100mβ/(mα+mβ+mγ)……(3)
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法でモールドパウダーの滓化特性および溶融特性を評価することで、原料系に起因する滓化特性および溶融特性の評価が可能となった。この結果、モールドパウダーの検査へ本評価方法を適用することでモールドパウダーの原料系の変化のチェックができ、最適のモールドパウダーを選択して使用できるなど、本発明は優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の最良の実施の形態について、図を参照して以下に説明する。
【0014】
本発明におけるモールドパウダーを加熱して滓化したモールドパウダーの試験方法は、先の発明者らによる出願における方法と同様であり、それは、鉄製の容器に秤量したモールドパウダーを入れる。この秤量するモールドパウダーの量は、例えば50〜200gとする。このモールドパウダーを入れた鉄製の容器をラボ実験用のマッフル炉中に装入して、1300℃の温度でモールドパウダーを加熱焼成する。加熱時間は例えば4〜20分の範囲で4分、5分、6分、8分、10分、12分、15分、20分の8条件とする。
【0015】
加熱により滓化したモールドパウダーと未滓化のモールドパウダーを例えばボールミルで粉砕し、この粉砕物を目開きaの篩と目開きbの篩で、例えばJIS Z 8801に規定する、呼び寸法が500μmの目開きaの篩で粒径aを篩分けし、呼び寸法が600μmの目開きbの篩で粒径bを篩分けすることで、滓化したモールドパウダーと未滓化のモールドパウダーの混合物を粒度別に分離する。次いで、篩上に残ったスラグの質量(g)を測定する。なお、上記のボールミルによる粉砕時間は例えば10分間とする。また、このボールミルの粉砕は、滓化スラグを粉々に粉砕することが目的ではなく、滓化スラグに付着もしくは焼結した未滓化のモールドパウダーを分離することが目的であり、ほぐす程度でとどめることが重要である。
【0016】
これらの加熱前のモールドパウダーと加熱後のモールドパウダーの粒径の分布は、それぞれ図1の(a)および(b)のグラフに示すものである。図1のグラフにおいて、縦軸はその粒径の質量の割合を示し、横軸は粒径(μm)を示す。図1の(a)のグラフは加熱前のモールドパウダーの粒径の分布で、そのモールドパウダーの粒径は200μmよりも全て小さいことを示しているが、図1の(b)のグラフは加熱後のモールドパウダーの粒径の分布で、スラグ化されて粒径aはすなわち500μmの目開きよりも大きな部分に分布の頂点を有し、さらに粒径bすなわち600μmの目開きよりも大きな部分に分布の頂点を有していることを示している。
【0017】
すなわち、目開きaの篩とbの篩で上記のそれぞれのモールドパウダーを篩分けすると、α、β、γの3領域に分けられる。目開きaの篩で篩った場合のモールドパウダーのスラグ化率(篩上の割合:%)をRSL,aとし、目開きbの篩で篩った場合のスラグ化率(%)をRSL,bとし、さらに、スラグ化率(%)のRSL,aとRSL,bの差をΔRSLとするとき、それぞれ次の(3)式で表すことができる。
SL,a=100(mβ+mγ)/(mα+mβ+mγ)……(1)
SL,b=100mγ/(mα+mβ+mγ)……(2)
ΔRSL=RSL,a−RSL,b=100mβ/(mα+mβ+mγ)……(3)
【0018】
このΔRSLは、粒度a〜粒度b間、すなわち上記の図1の(b)のグラフの粒径a〜粒径b間のβの領域に分布して存在するスラグ化されたモールドパウダーの質量を示す。同一銘柄のモールドパウダーであれば、ロット間でRSLの値が異なっても、RSLとΔRSLとの関係は略1本の曲線上に分布する。これよりRSLにはロット間の添加カーボンの種類や、混練具合のバラツキに起因した滓化特性の違いは反映されるが、スラグ化率RSL,a(目開きaの篩で篩分けした篩上:%)と、RSL,aとRSL,bの差であるΔRSLとの関係には、モールドパウダーの銘柄ごとの基材パウダーの原料に起因する滓化特性および溶融特性が表われると考えられる。例えば、滓化直後に大きな液滴となるモールドパウダーは、RSL,aに対するΔRSLの値が小さい関係が見られる。
【0019】
すなわち、5種類のモールドパウダーA、B、C、D、Eとするとき、これらの中の2種類のモールドパウダーAおよびBのロットNo.1〜7のロット間のバラツキを見る例として、モールドパウダーAのRSL,aの篩すなわち目開きa=500μmとしたときの篩による篩分けと、モールドパウダーBのRSL,aの篩、すなわち同じく目開きa=500μmとしたときの篩で篩分けした篩上のそれぞれの実施例を、図2の(a)および(b)のグラフに示す。なお、図2のグラフの縦軸のΔRSLは目開きb=600μmとしたときの篩で篩分けした篩上を、目開きa=500μmとしたときの篩で篩分けした篩上から差し引いた値である。これらの図2の(a)および(b)の各グラフより、モールドパウダーAはモールドパウダーBに比較してロット間のバラツキが小さいことがわかる。また、モールドパウダーBでは、ロットNo.1〜4とロットNo.5〜7とで分布が明らかに異なっている。これはモールドパウダーBのロットNo.5〜7は、ロットNo.1〜4とモールドパウダーの成分は同じものであるが、基材パウダーの原料系が変更されており、その結果がこれらの分布の違いになって表れているからである。
【0020】
次いで、5種類のモールドパウダーA、B、C、D、Eの間の滓化特性の違いの例を、縦軸をΔRSLとし横軸をRSL、500とし、目開き500μmの篩で篩分けした篩上の結果を、図3のグラフにより示す。なお、ΔRSLはRSL、500とRSL、600の差である。この図3のグラフからモールドパウダーEは他のモールドパウダーA、B、C、Dに比較してΔRSLが最も小さく、滓化後に速やかに液滴が大きくなったことが判る。
【0021】
これらのモールドパウダーA、B、C、D、Eの粒径分布の傾向は図4のグラフに示すようになった。すなわち、図4から粒径a〜粒径b間であるβの領域の割合では、滓化特性であるスラグ化率が最も少ないのはモールドパウダーEで、次いで少ないのはモールドパウダーC、Dで、最も多いのはモールドパウダーA、Bである。しかし、逆にモールドパウダーEは滓化後に速やかに液滴が大きくなって粒径が最も大きいところに分布割合の最大値があり、モールドパウダーC、Dは次いで粒径の大きいところに分布割合の最大値があり、ボールドパウダーA、Bはより粒径の小さいところに分布割合の最大値があることが判る。このように、本発明の方法により、各種のモールドパウダーの原料系に起因する滓化特性および溶融特性の評価することで、最適のモールドパウダーのチェックをすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】加熱前のモールドパウダーと加熱後のモールドパウダーの粒径の分布を示すグラフ。
【図2】2種類のモールドパウダーA、Bのロット間のバラツキを示すグラフ。
【図3】5種類のモールドパウダーA、B、C、D、Eの間の滓化特性の違いを示すグラフ。
【図4】モールドパウダーA、B、C、D、Eの粒径分布を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目開きaの篩と目開きbの篩を使用してモールドパウダーを分別し、これらの篩の上に残った粉末状のモールドパウダーについてそのスラグ化率(%)RSLをそれぞれRSL,aとRSL,bとし、RSL,aとRSL,bとの差をΔRSLとするとき、このΔRSLとRSL,aから該モールドパウダーの基材パウダーの滓化特性および溶融性を評価することを特徴とするモールドパウダーの滓化特性および溶融性の評価方法。
【請求項2】
スラグ化率のRSL,a、RSL,b、ΔRSLは、モールドパウダーの粒径a未満の大きさであるモールドパウダーの粒径の分布範囲をα、同じく粒径粒径a〜粒径b間の粒径の分布範囲β、同じく粒径bを超える粒径の分布範囲γとし、各粒径の分布範囲に占める質量をそれぞれmα、mβ、mγとするとき、下記の式(1)、式(2)、式(3)で表示されることを特徴とする請求項1に記載のモールドパウダーの滓化特性および溶融性の評価方法。
SL,a=100(mβ+mγ)/(mα+mβ+mγ)……(1)
SL,b=100mγ/(mα+mβ+mγ)……(2)
ΔRSL=RSL,a−RSL,b=100mβ/(mα+mβ+mγ)……(3)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−131608(P2010−131608A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307216(P2008−307216)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】