説明

ヤマビル忌避剤

【課題】 近年、過疎化や林業の衰退による森林や里山の荒廃が進み、ヤマビルの被害が増えている。ヒルやヤマビル忌避剤についてはこれまで幾つかの発明提案がなされているが、今回、ヤマビルに対し従来品より忌避効果が高く、使用し易く、しかも、環境や人に優しいヤマビル忌避剤の提案を行った。
【解決手段】
少なくとも電解アルカリ水と、水溶性セルロースエーテルと、L−メントールと、界面活性剤を含み作成されるヤマビル忌避剤は、従来技術によるマビル忌避剤よりヤマビルに対する忌避効果が高く、人に対する違和感が少ない。しかも、塗布時の液ダレが少なく、保水性に富むことが明らかになった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
環境にやさしく、人間や哺乳動物に無害であって、ヤマビルに特異的に忌避作用効果を有するヤマビルの忌避剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヤマビルはミミズの仲間で体長1〜5センチ、活動期は5〜10月で、森林に生息し、哺乳動物の血を吸う害虫であり、近年、サル、イノシシ、シカなどに運ばれ生活圏を拡大していると言われている。ヤマビルは靴に取り付きシャクトリムシのように体を這い上がり、衣服の隙間からもぐり込み、肌に吸い付く。ヤマビルにかまれてもヤマビルの唾液に麻酔成分があるため、それほど痛みはなく、靴を脱いで初めてヤマビルに吸血されたことに気付くケースもある。
また、ヤマビルの唾液には、血液の凝固作用を妨げる成分が含まれ、出血が1時間程続く場合もあるが、ヤマビル自体に毒性は無く、傷は通常数日で治る。
ヤマビルの生活圏拡大は、過疎化や林業の衰退による、森林や里山の荒廃が原因でと考えられているが、住民やハイカーが吸血される被害は全国各地に拡大しており、専門家は早急な対策が必要だと訴えている。
現に、発明者が在住する三重県の鈴鹿山系でも被害は増えており、山里近くの民家では草取り中にヤマビルの被害に会ったとの話も聞いている。
【0003】
ヒルやヤマビル忌避剤について、これまで幾つかの発明提案がなされている。
例えば、特許文献1には、耐水性と8時間程度の持続性とを有し、環境への影響の少ないヤマビル忌避剤を提供することを目的として、カチオン性(酸性)界面活性剤や非イオン性界面活性剤を有効成分としたヤマビル忌避剤の発明が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、持続性に優れ、天然物由来のように安全性があり、且つ環境負荷を低減できる環形動物の忌避剤を提供することを目的として、植物性油脂および植物性油脂の誘導体であるアニオン系界面活性剤の中から選択される1種または2種以上を有効成分とした、ヤマビル忌避剤の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−196407
【特許文献2】特開2007−223984
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術である界面活性剤を主体とする忌避剤より、忌避効果の高いヤマビル忌避剤を開発したい。また、環境や人にやさしく、使用に際し違和感なく使用できるようにするにはどうしたらよいか。
更には、長靴など表面が平滑なものにスプレーしたとき、滴下することなく安定して表面コートが維持できるようにするにはどのようにしたら良いか。
忌避効果を長時間持続させるにはどうしたらよいか、などを技術課題として新規忌避剤の開発を行った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ヤマビルに対する忌避効果を確認するため、従来技術にある界面活性剤を使用する方法を含め様々な素材について実験を行った。この結果、環境にやさしく、しかも人間および哺乳動物に無害であって、ヤマビルに忌避効果を発現するヤマビル忌避剤として、請求項に記載する忌避剤を発明するに至った。
即ち、請求項1に記載のヤマビル忌避剤には、少なくとも電解アルカリ水と、水溶性セルロースエーテルと、L−メントールと、界面活性剤が含まれる。電解アルカリ水は食塩を添加した水を電気分解して作成されるもので、市販品を調達できる。水溶性セルロースエーテルは、植物の細胞壁の主成分であるセルロースを塩化メチルやプロピレンオキサイドなどでエーテル化して作られる材料で、水に可溶で増粘性や保水性がある。L−メントールはハッカ臭を持つ揮発性の無色結晶であり、歯磨きやチューインガムなどの菓子類、口中清涼剤などに多用されるほか、局所血管拡張作用、皮膚刺激作用等を有するため、医薬品にも用いられている。界面活性剤が忌避効果を有することは従来技術に開示されているが、本発明ではこの効果に加え電解アルカリ水を用いることにより、混合液体の水素イオン濃度を塩基性に保持し、これに、L−メントールを加えることで、忌避効果を一層高めるともに、人間に対しては混合液体に対する違和感を解消する効果を生じている。
また水溶性セルロースエーテルは、チキソトロピック性を有する増粘剤であるので、これを添加することで塗布時の液タレが防止でき、スプレー塗布して使用する場合には、塗布面から流れ落ちることなく均一な塗布状態を維持でき、且つ保水性に富むことから忌避剤としての効果を長時間維持できる。
【0008】
請求項2に記載のヤマビル忌避剤は請求項1に記載のヤマビル忌避剤であって、水素イオン濃度値がHP9〜11に保持される。なおこのPH値は、適宜のPH値を有する電解アルカリ水を使用することで容易に達成される。ヤマビル忌避剤の水素イオン濃度をPH9〜11に保持することで、ヤマビルに対する忌避効果は一層強まる。
【0009】
請求項3に記載のヤマビル忌避剤は請求項1に記載のヤマビル忌避剤であって、前記界面活性剤が非イオン性界面活性剤であることを特徴とする。界面活性剤には、大別して非イオン性界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤の3種類があるが、本発明ではこのうちの非イオン性界面活性剤を用いる。本発明では非イオン性界面活性剤を電解アルカリ水に溶解させることにより、混合液体のPHを塩基性に保持することで、ヤマビルに対する忌避効果を高めている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のヤマビル忌避剤は、後述するようにヤマビルを近づけないだけの効果のみならず、本忌避剤に接触することで容易に活動停止の状態に至らしめ、更には死に至らしめることができる。また、界面活性のみを有効成分とする先行技術の忌避剤に比べアルカリイオン水の効果、L−メントールの効果による忌避効果が相乗され、更には水溶性セルロースエーテルの添加により液タレ防止効果、保水効果が加わり、忌避効果が一層高められている。また、L−メントールが保有する清涼感は、忌避剤使用に際しての不快感を緩和する効果がある。これらの複合効果により、本発明の忌避剤は使い易すく、しかも高いヤマビル忌避効果を実現している。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】忌避剤作成方法説明図
【図2】忌避効果評価実験結果
【図3】保持性評価実験
【図4】保持性評価実験結果
【符号の説明】
【0012】
6 忌避剤原料
7 混合槽
10 ガラス板
12 スプレー
14 液滴
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明によるヤマビル忌避剤の作成方法は、例えば次になる。
50重量部の非イオン系界面活性剤を計量し、図1の混合層に投入し、41.5重量部のアルカリイオン水をスターラーで攪拌しながら加える。次いで5重量部のエタノールを加え、更に2重量部のL−メントールを加え、最後に1.5重量部の水溶性セルロースを加え十分攪拌を行って完成させる。
なお、使用する非イオン系界面活性剤、アルカリイオン水、エタノール、L−メントール、水溶性セルロースの添加量は適宜変更可能であって、上記は一例に過ぎない。
【実施例】
【0014】
本発明の効果を検証するため表1に示すA,B,C,D4種類のサンプルを作成した。サンプルA,B,Cは本願発明による忌避剤でL−メントールと水溶性セルロースの添加料が異なる。添加濃度はサンプルAが最も高く、次いでサンプルBであり、サンプルCは最も低濃度になっている。またサンプルDは比較用に作成した従来技術によるもので、界面活性剤が主体であってL−メントールと水溶性セルロースは含まない。
これら、4種類のサンプルについて次の実験1〜3を行った。
【0015】
【表1】

【0016】
実験1:忌避効果検証実験
平均体長25mmのヤマビルにA,B,C,D各液を3秒間スプレーし、活動を停止するまでの時間を測定した。供試サンプル数は各試験条件で5匹とし、実験データは5匹の平均値である。
試験結果を図2に示した。X軸がサンプル種類、Y軸が活動停止までの時間であり、従来技術である界面活性剤を主体としたサンプルDでは活動停止までの時間が15分と最長であり、本願発明によるサンプルA,B,Cの方が忌避効果の大きいことが明白である。また、本発明による忌避剤ではL−メントールと水溶性セルロース濃度が高い程、短時間でヤマビルを活動停止に至らしめており、L−メントールと水溶性セルロース濃度は忌避効果の重要なファクターと言える。
【0017】
実験2:スプレー臭についての人の好感度評価
10人の被検者にサンプルBとサンプルDについて、スプレー臭を嗅いでいただき、どちらに好感がもてたか尋ねたところ、Bに好感をもった人が6人、差異が分からないとした人が4人であった。この結果から、本発明による忌避剤の方が従来技術による忌避剤より好感を持たれることは明白である。
【0018】
実験3:保持性評価実験
図3に示すようにスプレー12にサンプルを入れ約400mm前方に垂直に立てた1m×1mのガラス板10に一様に吹き付けた。スプレー液13は霧状になってガラス板10に付着し、濃く付着した部分の液はやがて流下し、液滴14となってガラス板10の下部から滴下する。滴下した液滴14を受け皿15で採集し、滴下重量の測定を行った。
測定はサンプルBとサンプルDについて実施し、スプレー量をパラメータとした実験結果を図4に示す。サンプルBがサンプルDに比較して流下し難く、保持性に優れることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0019】
ヤマビルは環形動物の1種であり、環形動物に属する動物には、
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ヤマビル以外のヒル、ミミズなども含まれる。これら動物についての忌避効果について検証は行っていないが、何れも皮膚で呼吸する動物であり、本発明の忌避剤が効果を有するものと思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも電解アルカリ水と、水溶性セルロースエーテルと、L−メントールと、界面活性剤を含んで作成されることを特徴とするヤマビル忌避剤。
【請求項2】
前記ヤマビル忌避剤の水素イオン濃度値がHP9〜11であることを特徴とする請求項1に記載のヤマビル忌避剤。
【請求項3】
前記界面活性剤が非イオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項1若しくは2の何れか1項に記載のヤマビル忌避剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−222286(P2010−222286A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70353(P2009−70353)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(309007977)株式会社エコ・トレード (1)
【Fターム(参考)】