説明

ユニフォーム用織編物

【課題】 芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を用いてなり、耐洗濯性や染色堅牢度に優れた環境考慮型のユニフォーム用織編物を提供する。
【解決手段】 芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を用いてなり、工業洗濯50洗後の前記芯鞘型複合繊維の強力保持率が80%以上であり、摩擦に対する染色堅牢度が4級以上であるユニフォーム用織編物。前記石油系ポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレートが好ましく、前記バイオマスポリマーとしては、ポリ乳酸が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐洗濯性、染色堅牢度に優れ、かつ製造から廃棄の段階で発生する二酸化炭素量を低減できるユニフォーム用織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、合成繊維は汎用性の点から幅広く用いられており、様々な分野で利用されている。
【0003】
しかしながら、合成繊維は石油等の限りある貴重な化石資源を原料としたものが主であり、将来の資源不足が懸念されている。また、自然環境下ではほとんど分解されず、燃焼した場合は高熱を発し、焼却炉の損傷が激しい等の問題が生じることに加え、二酸化炭素排出量が増大するため、廃棄処理が問題となっている。そのため、産業界では石油系合成繊維の使用量を低減すること自体が環境保護になるという思想が広まっている。
【0004】
近年、原料たる植物を調達する段階で二酸化炭素を吸収し、燃焼時に二酸化炭素が発生しても相殺されるというカーボンニュートラルの点でバイオマスポリマーが注目されている。そこで、バイオマスポリマーを用いた繊維製品の開発が大々的に行われている。
【0005】
一例として、特許文献1にポリ乳酸長繊維と綿とを交織した綾織物を使用したユニフォームが開示されている。
【特許文献1】特許第3732471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ユニフォーム用途においては、様々な場面でバイオマスポリマーからなる合成繊維が使用されている。しかしながら、洗濯やアイロン等を使用する際に物性や染色堅牢度が維持され難いという問題がある。
【0007】
また、同用途においては、実用上問題のない高レベルな引裂強力及び破裂強力、耐摩耗性、寸法安定性等が要求されている。しかしながら、当該合成繊維を用いた場合、精練や染色等の湿熱処理及び乾燥やヒートセット等の乾熱処理の影響により強力低下が起こるという問題がある。すなわち、バイオマスポリマーからなる合成繊維は、石油系合成繊維よりも機械的物性が劣ると共に摩擦堅牢度等の染色堅牢度も劣るという欠点があるのである。
【0008】
また、湿潤状態で太陽光に晒す、もしくは車中や屋外等の高温環境下に放置する、あるいはタンブラー乾燥を繰り返すことにより、次第に繊維が劣化し強力低下を起こすという問題もある。特にユニフォーム用途の衣料では、顕著な傾向を示す。
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するものであって、芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を用いてなり、耐洗濯性や染色堅牢度に優れた環境考慮型のユニフォーム用織編物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を用いることにより、耐洗濯性、染色堅牢度に優れたユニフォーム用織編物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を用いてなり、工業洗濯50洗後の前記芯鞘型複合繊維の強力保持率が80%以上であり、摩擦に対する染色堅牢度が4級以上であることを特徴とするユニフォーム用織編物。
(2)前記石油系ポリマーがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする上記(1)記載のユニフォーム用織編物。
(3)前記石油系ポリマーがイソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジカルボン酸のうち少なくとも一成分を5〜20モル%共重合したポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする上記(1)記載のユニフォーム用織編物。
(4)前記バイオマスポリマーがポリ乳酸であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のユニフォーム用織編物。
【発明の効果】
【0012】
本発明のユニフォーム用織編物は、バイオマスポリマーを用いてなる芯鞘型複合繊維を使用している。そのため、従来の石油系合成繊維のみで構成されたユニフォーム用織編物と比べ、製造から廃棄の段階で発生する二酸化炭素量を低減できると共に耐洗濯性、染色堅牢度等も向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明におけるバイオマスポリマーとしては、溶融紡糸が可能なものであれば特に限定されるものでない。具体的には、PLA(ポリ乳酸)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)やPBS(ポリブチレンサクシネート)等バイオマス由来モノマーを化学的に重合してなるポリマー類、ポリヒドロキシ酪酸等のPHA(ポリヒドロキシアルカノエート)等の微生物産生系ポリマーがあげられる。中でも安定した耐熱性を有し、比較的量産化が進んでいるポリ乳酸が好ましい。ポリ乳酸としては、ホモポリマー、共重合ポリマー(以下、このポリマーを共重合ポリ乳酸ということがある)のいずれも使用可能である。このうちホモポリマーとしては、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)等があげられる。一方、共重合ポリ乳酸としては、ポリD−乳酸とポリL−乳酸とを共重合させたポリDL−乳酸、D−乳酸及び/又はL−乳酸とヒドロキシカルボン酸とを共重合させた共重合ポリ乳酸、D−乳酸及び/又はL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを共重合させた共重合ポリ乳酸、あるいはこれらのブレンド体等があげられる。
【0015】
上記ポリ乳酸の物性としては、融点が120℃以上、融解熱が10J/g以上であることが好ましい。また、ポリ乳酸のホモポリマーたるポリL−乳酸やポリD−乳酸の融点は、約180℃である。これに対し、D−乳酸とL−乳酸とを共重合させた共重合ポリ乳酸においては、いずれかの成分の割合が10モル%程度になると、融点はおよそ130℃程度となる。また、いずれかの成分の割合を18モル%以上にすると、融点は120℃未満、融解熱は10J/g未満となり、その結果、ほぼ完全に非晶性の状態となる。このような非晶性の状態は、高強度の繊維を得る上で不利に作用する。具体的には、熱延伸し難くなり、耐熱性や耐摩耗性等に影響を及ぼす場合がある。したがって、L−乳酸とD−乳酸の含有比(ラクチドを原料として重合する際のL−乳酸、D−乳酸間のモル比)たるL/D又はD/Lとしては、82/18以上が好ましく、90/10以上がより好ましく、95/15以上が特に好ましい。特に融点を考慮すれば、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)が最も好ましい。この場合、融点は200〜230℃となる。ポリ乳酸の融点が高くなると、織編物にした後の工程通過性が良好となり、例えばアイロン処理も可能となる。
【0016】
また、本発明におけるポリ乳酸としてD−乳酸及び/又はL−乳酸とヒドロキシカルボン酸と共重合させた共重合ポリ乳酸を採用する場合、ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等があげられる。中でもコストの点でグリコール酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。
【0017】
さらに、本発明におけるポリ乳酸としてD−乳酸及び/又はL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを共重合させた共重合ポリ乳酸を採用する場合、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとしては、セバシン酸、アジピン酸、ドデカン二酸、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等があげられる。
【0018】
共重合ポリ乳酸を採用する場合においては、D−乳酸及び/又はL−乳酸を80モル%以上共重合させた共重合ポリマーを用いることが好ましい。D−乳酸及び/又はL−乳酸が80モル%未満であると、共重合ポリマーの結晶性が低くなり、融点120℃未満、融解熱10J/g未満となりやすい傾向にあり、好ましくない。
【0019】
本発明におけるポリ乳酸の分子量の指標(メルトフローレート)としては、1〜100g/10分が好ましく、5〜50g/10分がより好ましい。メルトフローレートをこの範囲に設定することにより、ポリ乳酸の強度、湿熱分解性及び耐摩耗性を向上させることができる。ここで、メルトフローレートとしては、分子量の指標として用いられるASTMD−1238法に準じ、温度210℃、荷重2160gの条件で測定した値を採用する。
【0020】
この他、ポリ乳酸の耐久性を高める目的で、ポリ乳酸中に脂肪族アルコール、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物又はエポキシ化合物等の末端封鎖剤を添加してもよい。
【0021】
一方、本発明における石油系ポリマーとしては、溶融紡糸が可能なものであれば特に限定されるものでない。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩素系ポリマー、ポリ4フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、あるいはこれらのブレンド体等があげられる。中でもコストの点でポリエステルやポリアミドが好ましい。本発明においてはバイオマスポリマーとしてポリ乳酸が好ましいが、このようにポリ乳酸を採用する際は、相溶性を考慮し石油系ポリマーとしてポリエステルを採用することが好ましい。
【0022】
上記のポリエステルとしては、ホモポリマー、共重合ポリマー(以下、このポリマーを共重合ポリエステルということがある)のいずれも使用可能である。ポリエステルとして共重合ポリエステルを採用する場合、共重合成分の種類、使用量を適宜設定することにより、ポリ乳酸との相溶性や熱的特性、又は粘度等を容易に変更することができる。
【0023】
用いうる共重合成分としては、エステル形成能を有するものであればどのようなものでもよい。具体的には、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族ジオール、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等のヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトン等の脂肪族ラクトン等があげられる。中でもイソフタル酸(IPA)、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、シクロヘキサンジカルボン酸(CHDA)が好ましい。
【0024】
そして、共重合ポリエステルを用いる場合、上記共重合成分を好ましくは5〜20モル%、より好ましくは5〜10モル%共重合させた共重合ポリエステルを用いることが好ましい。
【0025】
共重合ポリエステルを用いると、重縮合反応時の反応温度を下げることができる場合がある。そうすると、紡糸温度を下げることができる。このことは、特に繊維の芯部に配されるバイオマスポリマーの融点がポリエチレンテレフタレートより低い場合において、紡糸時に生じる芯部バイオマスポリマーの熱分解を抑制することができるので有利に作用する。さらに、共重合ポリエステルを採用することにより、50℃×95%RHのような高湿度環境における強力低下も抑制することができる場合がある。
【0026】
また、共重合ポリエステルとして、溶融重合したポリエステル(プレポリマー)のチップを減圧下又は不活性ガス流通下にポリエステルの融点以下の温度で加熱し、固相重合して得た高重合度の共重合ポリエステルを採用すると、高強度の繊維が得られる場合もある。
【0027】
さらに、本発明の目的を損なわない範囲において、上記石油系ポリマー及び/又はバイオマスポリマーが、充填剤、増粘剤、艶消し剤、結晶核剤等の各種添加剤を含有するものであってもよい。添加剤としては、カーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化ケイ素及びケイ酸塩、亜鉛華、ハイサイトクレー、カオリン、塩基性炭酸マグネシウム、マイカ、タルク、石英粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素、ベヘン酸アミド等の脂肪族アミド系化合物、脂肪族尿素系化合物、ベンジリデンソルビトール系化合物、架橋高分子ポリスチレン、ロジン系金属塩や、ガラス繊維、ウィスカー等があげられる。中でも価格、物性を考慮し、無機系の充填剤が好ましい。
【0028】
上記ポリマーにおける添加剤の含有態様としては、添加剤がそのままの形状で含有している態様、ナノコンポジットとして含有している態様等があげられる。
【0029】
また、本発明の目的を損なわない範囲において、上記石油系ポリマー及び/又はバイオマスポリマーが、可塑剤を含有するものであってもよい。ポリマー中に可塑剤を含有することで、加熱加工時の溶融粘度を低下させると共に剪断発熱等による分子量の低下を抑制することができ、ひいては、結晶化速度の向上も期待できる。可塑剤としては、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、リン系可塑剤等があげられ、中でもポリエステルとの相溶性を考慮し、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤が好ましい。ここで、エーテル系可塑剤としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール等があげられる。一方、エステル系可塑剤としては、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族アルコールとのエステル類等があげられる。脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸等があげられる。脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ドデカノール、ステアリルアルコール等の一価アルコール、エチレングリコール、1、2−プロピレングリコール、1、3−プロピレングリコール、1、3−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール等の2価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリストール等の多価アルコール等があげられる。この他、可塑剤として、上記ポリエーテルとポリエステルの2種以上の組み合わせからなる共重合体、ジ−コポリマー、トリ−コポリマー、テトラ−コポリマー、あるいはこれらのブレンド体も使用しうる。また、可塑剤として、上記化合物がエステル化されたヒドロキシカルボン酸系化合物、あるいはその誘導体も使用しうる。
【0030】
さらに、本発明の目的を損なわない範囲において、上記石油系ポリマー及び/又はバイオマスポリマーが、顔料、染料等の着色剤、活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤、バニリン、デキストリン等の香料、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤その他の副次的添加剤を含有するものであってもよい。
【0031】
また、本発明の目的を損なわない範囲において、上記石油系ポリマー及び/又はバイオマスポリマーが、鞘部と芯部の複合界面における相溶性を向上させる目的で相溶化剤を含有するものであってもよい。相溶化剤としては、バイオマスポリマー及び石油系ポリマーに相溶性のある物質を用いることができる。例えば、界面活性剤コポリマーやブロックコポリマー等があげられる。さらに、両ポリマーと反応する架橋剤を用いることもできる。例えば、両末端にエポキシ基を有するエポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物やそれらのコポリマー、カルボジイミド化合物やそれらのコポリマー等があげられる。
【0032】
本発明における芯鞘型複合繊維は、芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーよりなるものであり、その芯鞘比率(質量比率)として、芯/鞘=20/80〜80/20であることが好ましい。芯鞘比率が20/80未満になると、芯部バイオマスポリマーの比率が少なくなり二酸化炭素の低減効果等が低減する傾向にあり、好ましくない。一方、芯鞘比率が80/20以上になると、織編物の強力保持性が低減する傾向にあり、好ましくない。
【0033】
次に、本発明における芯鞘型複合繊維の形態としては、特に限定されるものではなく、ステープル、ショートカットファイバー、フィラメントのいずれでもよく、フィラメントについてはモノフィラメントでもマルチフィラメントでもよい。また、フラットヤーン、仮撚加工糸、ニットデニット糸、流体噴出加工糸、もしくはダブルツイスター、リング撚糸機を用いて得られる撚糸として用いてもよい。勿論、混紡、混繊等の手段によって得られる複合糸の形態であっても何ら差し支えない。また、繊維断面形状も丸断面、楕円断面、三角断面、凹凸断面等任意に設定してよい。
【0034】
また、上記芯鞘型複合繊維の強力保持率としては、130℃の水浴中に30分間浸漬させた後の強度が、浸漬前に対し70%以上保持されていることが好ましい。
【0035】
ユニフォームは、通常各部位ごとに色分けされているため、本発明の織編物にあっては、染色されてなることが好ましい。上記芯鞘型複合繊維においては、芯部と鞘部とに異なるポリマーが配されていることから、それぞれに最適な染色条件が存在する。例えば、ポリ乳酸の場合は、100〜110℃の水浴中で15〜60分間染色することが好ましい。一方、ポリエチレンテレフタレートの場合は、125〜135℃の水浴中で15〜60分間染色することが好ましい。
【0036】
染色温度は、一般に高くなるほど繊維に与えるダメージが大きくなる傾向にある。したがって、本発明においては、あまり染色温度を上げないことが好ましい。染色温度を上げすぎると、繊維の強力保持率が70%未満となる場合があり、染色時に繊維の強力が低下し、ユニフォームとして使用した場合、破裂強さ、引裂強さ、引張強さ等が不足し、実用に適さない傾向にあり、好ましくない。逆に強力低下を抑制する目的で染色温度を下げすぎても、ユニフォームとして要求される発色性が乏しくなる傾向にある。本発明では、染色温度として、130℃近辺が好ましい。
【0037】
本発明の織編物は、上記の芯鞘型複合繊維を用いてなるものであり、当該繊維の含有比率としては、特に限定されるものでないが、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、特に好ましくは50質量%以上がよい。芯鞘型複合繊維の含有比率が25質量%未満になると、製造から廃棄の段階で発生する二酸化炭素の量を低減し難くなる傾向にある。
【0038】
また、本発明の織編物においては、工業洗濯50洗後の上記芯鞘型複合繊維の強力保持率が80%以上である必要がある。
【0039】
ここで、強力保持率とは、工業洗濯50洗後の織編物から取り出した繊維の切断強さ(繊維強力)が、工業洗濯する前の織編物から取り出した繊維の切断強さ(繊維強力)に対しどの程度のレベルにあるかを数値化したものである。具体的には、工業洗濯の前後で織編物から繊維を取り出し、JIS L−1013に準じてそれぞれの繊維強力を測定し、下記式(1)に準じて強力保持率を算出する。なお、工業洗濯とは、JIS L1096F−3法に準じて織編物を洗濯し、しかる後に60℃で30分間タンブラー乾燥する操作をいう。本発明においては、この操作を1回実施することを工業洗濯1洗と定義する。したがって、工業洗濯50洗とは、この操作を50回繰り返すことになる。
【0040】
【数1】

【0041】
繊維の強力保持率が80%未満になると、耐洗濯性に劣ることとなり、実用上支障をきたす恐れがある。つまり、湿潤状態や乾燥状態で熱がかかる態様、例えば、湿潤状態(例えば、発汗によりユニフォームが湿潤している状態等)でユニフォームを着用中に太陽光を浴びる、湿潤状態で車中や屋外等の高温環境下にユニフォームを放置する、ユニフォームの洗濯・乾燥を繰り返す、ユニフォームを乾燥する際タンブラー乾燥機を使用する等により、繊維が次第に劣化し、ユニフォームの強力が低下するのである。
【0042】
また、本発明のユニフォーム用織編物は、摩擦に対する染色堅牢度が4級以上である必要がある。ここでいう摩擦に対する染色堅牢度とは、JIS L−0849に準じて測定される数値をいう。本発明では、乾燥試験、湿潤試験のいずれの染色堅牢度においても4級以上である必要がある。
【0043】
バイオマスポリマーのみからなる繊維だけをユニフォーム用織編物に使用した場合、ユニフォームの摩擦堅牢度は悪くなる。具体的には、L*値50未満の濃色に染色した場合、乾燥状態における摩擦堅牢度が2−3級レベルとなり、実用には適さない。ユニフォームは、過酷な環境下でも使用に耐えうることが好ましい。つまり、乾燥、湿潤いずれの状態にあっても、摩擦堅牢度が高いことが好ましいのである。本発明のユニフォーム用織編物においては、上記芯鞘型複合繊維を用いることにより、乾燥状態及び湿潤状態の摩擦に対する染色堅牢度を4級以上にすることができる。
【0044】
本発明のユニフォーム用織編物としては、上記の芯鞘型複合繊維のみから構成されるものの他、他の繊維を含むものであってもよい。他の繊維としては、ビスコースレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維、キュプラ、ポリノジック等の再生繊維、綿、麻、絹、ウール、竹等の天然繊維、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル、又はポリアクリロニトリル、ポリウレタン等の合成繊維があげられる。
【0045】
他の繊維の断面形状としては、特に限定されるものでないが、三角断面やアルファベット型断面等を採用すると、吸水拡散性を高める上で効果的である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。なお、本発明はこれらによって限定されるものではない。そして、実施例における測定、評価は下記の方法で行った。
(1)強力保持率
前記したように、JIS L−1013の規定に基づいて測定した。
(2)摩擦に対する染色堅牢度
JIS L−0849に準じて測定した。具体的には、摩擦試験機2形に試験片(220×30mm)として、織編物を試験片台上にセットすると共に摩擦用白綿布を摩擦子の先端に取り付け、2Nの荷重で試験片100mm間を毎分30回往復の速度で100回往復摩耗させ、摩擦用白綿布の着色の程度をグレースケールと比較することで織編物の堅牢度を判定した。なお、この測定においては、7.1乾燥試験及び7.2湿潤試験の両者について測定した。
【0047】
(実施例1)
バイオマスポリマーとして、相対粘度1.850、融点168℃、L−乳酸単位98.8モル%、D−乳酸単位1.2モル%のポリ乳酸を用い、石油系ポリマーとして、相対粘度1.336、融点230℃のイソフタル酸を8モル%共重合した芳香族ポリエステル(共重合PET)を用いた。それぞれのチップを減圧乾燥した後、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸した。このときの紡糸条件としては、ポリ乳酸が芯部、共重合PETが鞘部となるように配し、芯鞘比率(質量比率)を芯/鞘=50/50とした。紡糸温度は260℃、紡糸速度は3050m/分とした。このような溶融紡糸により、140dtex48fの高配向未延伸糸である芯鞘型複合繊維を得た。引き続き、この高配向未延伸糸を90℃の熱ローラを介して1.49倍に延伸し、さらに、150℃のヒートプレートで熱処理を行った後に巻き取り、95dtex48fの延伸糸たる芯鞘型複合繊維を得た。
【0048】
次に、この芯鞘型複合繊維を経緯糸に用い、ウォータージェットルームで経糸密度125本/2.54cm、緯糸密度80本/2.54cmで2/2ツイル織物を製織した。
【0049】
そして、得られた織物を、液流染色機を用いて80℃×20分の条件で処理液(ノニオン系活性剤濃度:1g/L、ソーダ灰濃度:5g/L)中で精練リラックスし、シュリンクサーファー型乾燥機にて130℃で乾燥させた後、150℃×1分間プレセットした。さらに、液流染色機を用いて下記染色処方1にて130℃×30分の条件で染色した。
【0050】
次いで、染色した織物をソーダ灰5g/L、ハイドロサルファイト1g/L、ノニオン界面活性剤(サンモールFL:日華化学株式会社製)1g/Lを含む水溶液中で80℃×20分の条件で還元洗浄した。その後、130℃で乾燥、140℃×1分間仕上げセットして、本発明のユニフォーム用織編物を得た。得られたユニフォーム用織編物は、経糸密度135本/2.54cm、緯糸密度86本/2.54cmであった。
【0051】
〈染色処方1〉
分散染料 3%omf(ダイスタージャパン株式会社製「Dianix Bule UN−SE(商品名)」)
分散均染剤 0.5g/L(日華化学株式会社製「ニッカサンソルトSN−130(商品名)」)
酢酸(濃度48質量%) 0.2cc/L
【0052】
(実施例2)
緯糸して芯鞘型複合繊維に代えてポリエステル異形断面糸(ユニチカファイバー株式会社製「ルミエース(商品名)」)73dtex44fを用いる以外は、実施例1と同様に行い、経糸密度139本/2.54cm、緯糸密度87本/2.54cmの本発明のユニフォーム用織編物を得た。
【0053】
(比較例1)
芯鞘型複合繊維に代えてポリ乳酸単独からなる95dtex48fの延伸糸を用いること、乾燥を120℃とすること、プレセットを130℃×1分間とすること、染色を110℃×30分とすること、還元洗浄を65℃×20分とすること、並びに仕上げセットを130℃×1分間とすること以外は、実施例1と同様に行い、経糸密度142本/2.54cm、緯糸密度90本/2.54cmの織編物を得た。
【0054】
(比較例2)
芯鞘型複合繊維に代えてPET単独からなる95dtex48fの延伸糸を用いること、乾燥を150℃とすること、プレセットを180℃×1分間とすること、並びに仕上げセットを170℃×1分間とすること以外は、実施例1と同様に行い、経糸密度136本/2.54cm、緯糸密度85本/2.54cmの織編物を得た。
【0055】
(実施例3)
実施例1における高配向未延伸糸を供給糸として、速度100m/分、ヒーター温度120℃、延伸倍率1.38倍、仮撚数2900回の条件にてZ方向に仮撚加工し、100dtex48fの芯鞘型複合仮撚加工糸を得た。
【0056】
この仮撚加工糸を用い、カールマイヤー社製トリコット編機(330cm、28ゲージ)にて、サテン組織の経編物(目付180g/m)を製編した。
【0057】
次いで、染色処方を下記染色処方2に変更する以外は、実施例1と同様の手段で後加工し、芯鞘型複合仮撚加工糸からなる編物を得た。得られた編物の目付は190g/mであった。
【0058】
〈染色処方2〉
分散染料 4%omf(ダイスタージャパン株式会社製「Dianix Black S−R 200%(商品名)」)
分散均染剤 0.5g/L(日華化学株式会社製「ニッカサンソルトSN−130(商品名)」)
酢酸(濃度48質量%) 0.2cc/L
【0059】
(比較例3)
芯鞘型複合仮撚加工糸に代えてポリ乳酸単独からなる100dtex48fの仮撚加工糸を用いること、乾燥を120℃とすること、プレセットを130℃×1分間とすること、染色を110℃×30分とすること、還元洗浄を65℃×20分とすること、並びに仕上げセットを130℃×1分間とすること以外は、実施例3と同様に行い、編物を得た。
【0060】
(比較例4)
芯鞘型複合仮撚加工糸に代えてPET単独からなる100dtex48fの仮撚加工糸を用いること、乾燥を150℃とすること、プレセットを180℃×1分間とすること、並びに仕上げセットを170℃×1分間とすること以外は、実施例3と同様に行い、編物を得た。
【0061】
上記実施例及び比較例にかかる織編物の強力保持率及び摩擦に対する染色堅牢度を測定し、その結果を表1、2に示す。表中における「乾」とは乾燥試験の結果を、「湿」とは湿潤試験の結果を指す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表1、2から明らかのように、実施例1〜3にかかる織編物は、芯部にポリ乳酸を、鞘部に共重合PETを配した芯鞘型複合繊維を使用しているため、強力保持率と摩擦に対する染色堅牢度が所定の範囲を満足し、実用性に優れたものであった。
【0065】
一方、比較例1、3にかかる織編物は、ポリ乳酸単独からなる繊維を使用しているため、強力保持率が80%に到達せず、耐洗濯性に劣る結果となった。さらに、乾燥状態での摩擦に対する染色堅牢度も1−2級程度と低いものとなった。また、比較例2、4にかかる織編物は、PET単独からなる繊維を使用しているため、繊維の強力保持率が80%以上であり、摩擦に対する染色堅牢度が4級以上であるという構成要件を満足するものであったが、繊維中にバイオマスポリマーが含まれていないため、製造から廃棄の段階で発生する二酸化炭素量を低減するという本発明の主要な効果が奏されないものであった。
【0066】
以上の結果から、本発明の織編物は、耐洗濯性及び染色堅牢度の点で極めて優れていることが実証できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を用いてなり、工業洗濯50洗後の前記芯鞘型複合繊維の強力保持率が80%以上であり、摩擦に対する染色堅牢度が4級以上であることを特徴とするユニフォーム用織編物。
【請求項2】
前記石油系ポリマーがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1記載のユニフォーム用織編物。
【請求項3】
前記石油系ポリマーがイソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジカルボン酸のうち少なくとも一成分を5〜20モル%共重合したポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1記載のユニフォーム用織編物。
【請求項4】
前記バイオマスポリマーがポリ乳酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のユニフォーム用織編物。


【公開番号】特開2008−190059(P2008−190059A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23134(P2007−23134)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】