ユビキチン融合遺伝子およびそれを用いたDNAワクチン
【課題】癌新生血管のブロックまたは新生阻止をすることができる遺伝子発現に関連するユビキチン融合遺伝子、それを用いたDNAワクチンおよびその用途を提供すること。
【解決手段】プロテアソームへ導くTag(誘導)分子であるユビキチンをコードするユビキチン遺伝子と、癌組織の栄養血管の新生に関連する遺伝子とを結合したユビキチン融合(フュージョン)遺伝子を用いたDNAワクチンは、癌・腫瘍細胞上の主要組織適合性抗原(MHC)クラスI分子の発現が実質的に低下/欠如しているような悪性度の高い癌・腫瘍に対して、癌・腫瘍組織の栄養血管ブロックおよび/または新生阻止をすることにより効果を示す。また、この発明に係るユビキチン融合遺伝子を用いたDNAワクチンは、癌・腫瘍の種類には制限されることなく、それらの栄養血管のブロックおよび/または新生阻止をすることができることから、癌・腫瘍の予防および治療に有用である。
【解決手段】プロテアソームへ導くTag(誘導)分子であるユビキチンをコードするユビキチン遺伝子と、癌組織の栄養血管の新生に関連する遺伝子とを結合したユビキチン融合(フュージョン)遺伝子を用いたDNAワクチンは、癌・腫瘍細胞上の主要組織適合性抗原(MHC)クラスI分子の発現が実質的に低下/欠如しているような悪性度の高い癌・腫瘍に対して、癌・腫瘍組織の栄養血管ブロックおよび/または新生阻止をすることにより効果を示す。また、この発明に係るユビキチン融合遺伝子を用いたDNAワクチンは、癌・腫瘍の種類には制限されることなく、それらの栄養血管のブロックおよび/または新生阻止をすることができることから、癌・腫瘍の予防および治療に有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ユビキチン融合遺伝子およびそれを用いたDNAワクチンに関するものである。更に詳細には、この発明は、ユビキチンをコードするユビキチン遺伝子と、癌新生血管管形成関連遺伝子をコードする遺伝子とを融合させたユビキチン融合遺伝子およびそれを用いたDNAワクチンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高等生物には、免疫機構という生体防御機構が備わっていて、生体内に侵入してきた病原体などの異物質を抗原として特異的に認識することができる抗体・T細胞を生成し、その抗原を分解、中和または不活性化することによって生体を保護する役目を果たしている。
【0003】
この免疫機構には、自然免疫系と獲得免疫系という2種類の免疫応答機構がある。この免疫応答機構のうち、自然免疫系は、一次防御機構として元来備わっていて、侵入してきたあらゆる種類の病原性物質などの抗原を非特異的に排除する役目を果たしていて、人が病原菌に曝された環境の中で生活をしていても疾患にあまり罹患しないように働いている。
【0004】
一方、獲得免疫系は、この自然免疫系で防御しきれなくなって病原性物質などの抗原が生体内へ侵入し、NK細胞やマクロファージだけではもはや対抗することができなくなった場合に、その抗原を分解、中和または不活性化して生体を保護する役目を果たしている。この獲得免疫系は、自然免疫系で防御しきれずに侵入してきた抗原を、まず抗原提示細胞で捕え、その情報をT細胞に伝え、その情報を受けたT細胞が、その情報をさらにB細胞に伝え、抗体を作るように指令を出し、その情報を従ってその抗原に特異的な抗体を産生することによって、侵入抗原を破壊するように働いている。
【0005】
この免疫応答機構は、生体内へ侵入してきた抗原を分解、中和または不活性化して生体を保護する役目を果たしているとともに、一度侵入した抗原を記憶し、再度同じ抗原が侵入した場合に極めて迅速かつ有効に免疫応答を誘起し、獲得免疫を取得するという極めて重要な機構を備えている。
【0006】
さらに、免疫応答機構は、上記のような外部からの抗原に対処する役割ばかりではなく、生体内に生ずる各種新生物生成疾患、すなわち癌の発症においても重要な役割を担っていると考えられるようになってきた。つまり、ある種の免疫担当細胞は、常に生体の全ての細胞と物体とを監視し、非自己と判断された細胞を排除する機能を担っており、形質転換を起こした細胞、すなわち腫瘍細胞の発生も、これら監視機構によって常時チェックされており、発生した腫瘍細胞の多くは悪性の癌となる前に排除されているのではないかと考えられている。この免疫応答機構は、癌細胞を傷害するキラーT細胞(CTL)というリンパ球をはじめ、単核食細胞、マクロファージ、好中球、NK細胞などが司る主に細胞性免疫と呼ばれる仕組みによって成り立っていることが明らかとなってきた。
【0007】
この免疫機構は疾患の予防ならびに治療に積極的に利用されていて、その獲得免疫を利用した予防・治療法がワクチンであり、このワクチンの技術は、不活性化した感染性生物または感染性生物の構成物質の一部を予め生体に接種し擬似感染を成立させることによって、獲得免疫を取得し、感染時に生体内に記憶された免疫応答を有効に引き出し、感染症に対する耐性を発揮させるというものである。
【0008】
ワクチンとしては、例えば、日本脳炎、ワイル病等に対する不活化ワクチン、破傷風、ジフテリア等のトキソイドに対するワクチン、BCG、ポリオ等に対する弱毒ワクチン、B型肝炎ウイルス等に対する遺伝子組換えワクチンなどが、ウイルス感染症の予防または治療には一般的に使用されている。
【0009】
しかし、これらのワクチンは、抗体産生を誘導するが、細胞性免疫を誘導しにくいという欠点があり、これら従来型のワクチンは、製造から被検体に接種するまでの間冷蔵保存する必要があるため、コストの増加と効力の低下を生じるという問題点がある。
【0010】
このような従来型のワクチンの欠点や問題点を改善すべく、最近では、ワクチンの研究開発が進み、免疫原性タンパク質をコードするプラスミドDNAの投与をすることにより、免疫誘発をもたらす新しいワクチン種(DNAワクチン)が開発されてきている。このDNAワクチンは、体液性免疫応答のみならず、細胞性免疫を強力に誘導できるので、感染症に対する防御能を賦与することが可能となるとともに、高度に純化できること、また室温もしくは高温下でも安定であり、冷蔵保存が必須ではなく、その上長期間の貯蔵も可能であるなどの大きな利点を有している。その上、このDNAワクチンは、遺伝子工学的手法により改良が迅速にかつ容易に可能であることから、その開発に要する時間の短縮と費用の軽減ができるとともに、ワクチンを大量にかつ安価に製造できるという大きな利点がある。
【0011】
このようにワクチンの研究開発が進み、また現実的に臨床サイドからも早急な開発が期待されているにも拘わらず、世界的に蔓延し大きな社会問題となっているマラリア、結核、トキソプラズマなどの免疫回避エスケープ機構が複雑な細胞内寄生病原体に対するワクチンは、これまで幾度となく開発が試みられてきたもののことごとく失敗に帰してきた。これは、かかる難治性感染症に対応する病原体の感染および寄生適応機構の解明が十分に進んでおらず、またそれらの病原体排除に要求される宿主防御機構も特定されていないことに起因している。そこで、本発明者らは、この免疫回避エスケープ機構が複雑な病原体に対し十二分な予防効果を発揮するワクチン法を確立するためには、これまでのワクチン戦略を抜本的に見直し、感染免疫の分子論的基盤に立脚した総合的な研究を展開していく必要があると考え、このDNAワクチンの技術を試みた。
【0012】
これまで、本発明者らは、トキソプラズマ、リーシュマニア、クルーズトリパノソーマ、マラリア等の細胞内寄生原虫などの感染において、初期ならびに後期感染防御に関わる免疫細胞集団が異なることを明らかにした。また、従来のワクチン法ではなし得なかった任意の免疫応答の特異的防御ならびに誘導をフュージョン(融合)DNAワクチンおよびIL−12、IL−15等のサイトカイン遺伝子とのコンビネーションDNAワクチンを用いることにより、病原体のエスケープ機構の相違に対応した予防・治療法を提案している(特許文献1)。これらのワクチン技術は、任意の免疫応答を誘導できることが最大の利点であり、従来のワクチンの問題点を克服できうる有用な手法であると考えられる。
【0013】
ところで、ほとんどの癌細胞を免疫学的に排除するためには、CD8+T細胞(キラーT細胞)が必須の関わりを持つことは周知の事実であり、そのためのキラーT細胞(CTL)の認識の対象となる癌抗原のエピトープも多数同定されている。しかしながら、それらのエピトープペプチドを用いた癌免疫治療の成功例は皆無に近い。これは、癌患者の生体内ではそれらのエピトープに対応するCD4+T細胞は誘導できるが、キラーT細胞が誘導されにくいのが原因である。例えば、メラノーマ抗原に対して特異的にキラーT細胞を活性化させるためには、その抗原ペプチドを抗原提示細胞のMHCクラスI分子に提示させることが必須である。しかしながら、そのためには、抗原を細胞質のプロテアソームで処理させることが前提となる。
【0014】
そこで、本発明者らは、プロテアソームに導くTag(誘導)分子であるユビキチンをコードする遺伝子を癌抗原遺伝子と結合させてユビキチン遺伝子結合癌抗原遺伝子を得、この結合遺伝子を遺伝子銃で細胞質内に直接導入することにより、細胞質内で癌抗原とユビキチンの融合タンパク質を産生させて、その癌抗原に特異的なキラーT細胞を主体とする強力な抗癌腫瘍免疫を誘導させることが可能な癌遺伝子ワクチンを作製した(特許文献2)。この癌遺伝子ワクチンは、リコンビナントタンパク質ワクチンや病原体タンパク質を用いたワクチンとは異なり、頻回投与によってもアナフィラキシーショックを引き起こす可能性が低く、安全性に優れており、またリコンビナントタンパク質/サイトカインワクチンに比べ精製・調製が簡便でかつ経済的であるという効果がある。
【0015】
しかし、癌抗原は、同種の癌/腫瘍でも個体差があり、また同定されていない癌も多いこと、癌細胞に対する主たる攻撃細胞はキラーT細胞(CTL)であるが、CTLは癌細胞上の主要組織適合性抗原(MHC)クラスI分子(ヒトではHLA−A、B、C)に提示された癌抗原ペプチドを認識したうえで癌細胞を攻撃するが、癌が悪性化するほどMHCクラスI分子が発現されなくなるので、それらの癌細胞はCTLのターゲットにならないこと、また、癌抗原に個体差がない場合でも、MHCクラスI分子が異なれば、各々の個体のMHCクラスI分子が異なった癌抗原ペプチドを提示する必要があることから、ペプチド抗原を用いた免疫療法は、各々の個体に対応するテイラーメイド的な癌抗原ペプチドの同定を必要とする。したがって、薬剤耐性癌や転移癌に対しては免疫学的アプローチの必要性が指摘されているが、困難を極めている。
【0016】
以上の如く、癌細胞を直接のターゲットとした免疫療法の確立は非常に困難であることから、近年、免疫学的治療の方向性として、癌組織の栄養血管のブロックまたは新生阻止が有力な手段として想定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2006−151813号公報
【特許文献2】特開2006−96663号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Saadoun, S., et., Nature [Vol. 434] 7 April, 2005, pp. 786-792
【非特許文献2】Pan, O., et al.,Cancer Cell 11, 53-67, January 2007
【非特許文献3】Caunt, M., et al., Cancer Cell 13,331-342, April 2008
【非特許文献4】Mailhos, C., et al., Differentiation(2001) 69:135-144
【非特許文献5】Hamzah, J., et., Vol453/15 May 2008/doi:10.1038/nature06868
【非特許文献6】P. Seth, et al. Biochem. and Biopgys.Communications 332 (2005) 533-541
【非特許文献7】Gao, D/, et al., SCIENCE Vol. 319 11 Jan 2008, pp. 195-198
【非特許文献8】Sambrook, et al.,: Molecular Cloning:A Laboratory Manual, Third Ed., Cold Spring Harbor Laboratory (2001)
【非特許文献9】別冊実験医学、遺伝子治療の基礎技術、羊土社、1996
【非特許文献10】別冊実験医学、遺伝子導入&発現解析実験法、羊土社、1997
【非特許文献11】日本遺伝子治療学会編、遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス、1999
【非特許文献12】別冊実験医学、遺伝子導入&発現解析実験法、羊土社、1994
【非特許文献13】http://rsb.info.nih.gov/ij
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
そこで、本発明者らは、癌新生血管のブロックまたは新生に関連する遺伝子について鋭意研究した結果、特にプロテアソームへ導くTag(誘導)分子であるユビキチンをコードするユビキチン遺伝子と、癌組織の栄養血管新生に関連する遺伝子とを結合したユビキチン融合(フュージョン)遺伝子を用いたDNAワクチンが、癌組織の栄養血管ブロックし、癌組織の発育抑制/退縮させることを見出して、この発明を完成した。
【0020】
したがって、この発明は、ユビキチンをコードするユビキチン遺伝子と、癌新生血管形成関連遺伝子をコードする対遺伝子とを融合させたユビキチン融合遺伝子を提供することを目的としている。
【0021】
なお、本明細書において使用する用語「対遺伝子」は、ユビキチンをコードするユビキチン遺伝子と結合して融合遺伝子を形成する癌新生血管形成関連遺伝子をコードする遺伝子を意味するものとする。また、本明細書において、「癌」または「腫瘍」という用語は、特に癌または腫瘍に限定した意味で個別に使用されているのではなく、両者はいずれも互換できる意味で使用されているものとする。
【0022】
また、この発明は、好ましい態様として、MHCクラスI分子の発現が実質的に低下/欠如している悪性度の高い腫瘍に対しても強い抗腫瘍免疫を誘導することができるユビキチン融合遺伝子を提供することを目的としている。
【0023】
この発明のさらに好ましい別の態様として、上記対遺伝子がアクアポリン−1(AQP−1)遺伝子、ニューロピリン(NRP)遺伝子、Dll−4遺伝子、Rgs5遺伝子、Robo−4遺伝子またはId1遺伝子であるユビキチン融合遺伝子を提供することを目的としている。
【0024】
この発明は、別の形態として、上記ユビキチン融合遺伝子を含む形質転換体を提供することを目的としている。
この発明は、別の形態として、上記ユビキチン融合遺伝子を含有するユビキチン融合遺伝子のDNAワクチンを提供することを目的としている。
【0025】
この発明は、別の好ましい態様として、上記対遺伝子がアクアポリン−1(AQP−1)遺伝子、ニューロピリン(NRP)遺伝子、Dll−4遺伝子、Rgs5遺伝子、Robo−4遺伝子またはId1遺伝子であるユビキチン融合遺伝子のDNAワクチンを提供することを目的としている。
【0026】
さらに、この発明は、別の形態として、上記ユビキチン融合遺伝子を含むDNAワクチンを投与することによって癌・腫瘍の新生血管をブロックならびに/もしくは新生阻止することからなる癌・腫瘍の予防または治療方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記目的を達成するために、この発明は、ユビキチンをコードするユビキチン遺伝子と、癌新生血管の形成関連遺伝子をコードする対遺伝子とを融合させたユビキチン融合遺伝子を提供する。
【0028】
また、この発明は、好ましい態様として、MHCクラスI分子の発現が実質的に低下/欠如している悪性度の高い腫瘍に対しても強い抗腫瘍免疫を誘導することができるユビキチン融合遺伝子を提供する。
【0029】
この発明は、さらに好ましい別の態様として、上記対遺伝子がアクアポリン−1(AQP−1)遺伝子、ニューロピリン(NRP)遺伝子、Dll−4遺伝子、Rgs5遺伝子、Robo−4遺伝子またはId1遺伝子であるユビキチン融合遺伝子を提供する。
【0030】
この発明は、別の形態として、ユビキチン遺伝子と、上記対遺伝子とを結合させた上記ユビキチン融合遺伝子を含む形質転換体を提供する。
この発明は、別の形態として、上記ユビキチン融合遺伝子を含有するユビキチン融合遺伝子のDNAワクチンを提供する。
【0031】
この発明は、別の好ましい態様として、上記対遺伝子がアクアポリン−1(AQP−1)遺伝子、ニューロピリン(NRP)遺伝子、Dll−4遺伝子、Rgs5遺伝子、Robo−4遺伝子またはId1遺伝子であるユビキチン融合遺伝子のDNAワクチンを提供する。
【0032】
この発明は、さらに別の形態として、上記ユビキチン融合遺伝子を含むDNAワクチンを投与することによって癌・腫瘍の新生血管をブロックならびに/もしくは新生阻止することからなる癌・腫瘍の新生血管のブロックならびに/もしくは新生阻止方法と共に、この方法による癌・腫瘍の予防または治療方法を提供する。
【発明の効果】
【0033】
この発明によれば、癌・腫瘍の新生栄養血管に発現するアクアポリン−1(aquaporin-1:AQP−1)などの癌新生血管形成関連遺伝子(つまり対遺伝子)と、ユビキチン遺伝子とを融合させたユビキチン融合遺伝子は、DNAワクチンを行うと、癌組織中の癌細胞上の主要組織適合性抗原(MHC)クラスI分子の発現が低下/欠如しているB16F10メラノーマなどの悪性度の高い癌種に対しても強い抗腫瘍免疫の誘導を行うことができるという効果がある。
【0034】
つまり、この発明のDNAワクチンは、癌組織中の癌細胞上のMHCクラスI分子の発現が低下/欠如しているような悪性度の高い腫瘍・癌に対しても有効であり、このワクチンで誘導されるCD8キラーT細胞が認識する標的分子は、癌細胞それ自身ではなく、癌細胞を栄養する新生血管に発現する分子であるところから、例えば、AQP−1特異的CTL(CD8キラーT細胞)がMHCクラスIと共にAQP−1を発現している新生栄養血管を破壊することによる“兵糧攻め”効果を誘導するという効果を示すことができる。
なお、AQP−1等の癌新生血管関連遺伝子は、癌の種類、および、癌宿主の個体差を越えて発現している場合が多い。また、悪性度の高い腫瘍ではMHCクラスI分子の発現が実質的に低下または欠如しているのに対して、新生栄養血管においてはMHCクラスI分子が常に発現していることから、かかる新生栄養血管を標的とするこの発明に係るDNAワクチンは、各々の個体のMHCクラスI分子の対応するテイラーメイド的な抗原ペプチドの同定を必要としないユニバーサル・ワクチンとして利用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ユビキチン遺伝子とアクアポリン−1(aquaporin-1:AQP−1)遺伝子との融合遺伝子を含むプラスミド構築体の構成を示す図。(実施例1)
【図2】ユビキチン遺伝子とニューロポリン−1(Neuropilin-1:NRP−1)遺伝子との融合遺伝子を含むプラスミド構築体の構成を示す図。(実施例2)
【図3】ユビキチン遺伝子とユビキチン−ニューロポリン−2(Neuropilin-1:NRP−2)遺伝子との融合遺伝子を含むプラスミド構築体の構成を示す図。(実施例3)
【図4】ユビキチン遺伝子とRobo−4(roundabout-4:Robo−4)遺伝子との融合遺伝子を含むプラスミド構築体の構成を示す図。(実施例4)
【図5】ユビキチン遺伝子とRGS−5(GProtein Signalling 5)遺伝子との融合遺伝子を含むプラスミド構築体の構成を示す図。(実施例5)
【図6】ユビキチン遺伝子とDll−4(delta-like4)遺伝子との融合遺伝子を含むプラスミド構築体の構成を示す図。(実施例6)
【図7】ユビキチン遺伝子とId−1(inhibitorof differentiation-1/DNA binding-1)遺伝子遺伝子との融合遺伝子を含むプラスミド構築体の構成を示す図。(実施例7)
【図8A】pcDNA、pAQP−1またはpUB−AQP−1をトランスフェクトしたCOS−7細胞ライセート(lysate)からの抽出タンパクの抗His抗体を用いたウェスタンブロット解析図。(実施例8)
【図8B】pAQP−1またはpUB−AQP−1をトランスフェクトして抽出したCOS−7細胞ライセートのウェスタンブロット解析図。(実施例8)
【図8C】図8Bのウェスタンブロットのデジタル・イメージ・アナライザー(digital image analyzer)での解析結果を示す図。(実施例8)
【図9】癌遺伝子ワクチン(pUB−AQP−1)のマウスメラノーマに対する治療的効果を示す図(実施例16)。図9Aは腫瘍サイズの経時的変化を示し、図9Bは生存率を示す図である。
【図10】癌遺伝子ワクチン(pUB−AQP−1)のマウスメラノーマに対する予防的ワクチン効果を示す図(実施例17)。図10Aは腫瘍サイズの経時的変化を示し、図10Bは生存率を示す図である。
【図11】pAQP−1またはpUB−AQP−1免疫マウスの脾臓細胞を各抗体で染色した結果を示す(実施例18)。図11Aは、FACSフローサイトメーターで採集したマウス脾臓細胞のCellQuestソフトウエアでの分析結果を示す図である。図11Bは、マウス脾臓細胞のPMA/Ionomycinでの刺激によるCD8陽性T細胞のIFN−γ、パーフォリンまたはグランザイムB発現の細胞内FACS法による解析結果を示す図である。
【図12A】樹状細胞ラインDC2.4(pUB−AQP−1をトランスフェクト後に放射線照射)、遺伝子免疫したマウスの脾臓中のCD8+T細胞、およびCD8T細胞と上記DC2.4の共培養によるIFN−γ産生のELISA測定結果を示す図。(実施例19−1)
【図12B】樹状細胞ラインDC2.4(pUB−AQP−1をトランスフェクト後に放射線照射)、遺伝子免疫したマウスの脾臓中のCD8+T細胞、およびCD8T細胞と上記DC2.4の共培養による細胞増殖反応を示す図。(実施例19−2)
【図13】CD4T細胞あるいは、CD8T細胞を除去した遺伝子免疫マウスにB16F10メラノーマを接種し抗腫瘍効果に対するT細胞サブセット除去の効果を判定した図(実施例20)。図13Aは腫瘍サイズの経時的変化を示し、図13Bは生存率を示している。
【図14】マウスにおける腫瘍血管組織像を示す図(実施例21)。図14Aはコントロールを示し、図14Bはユビキチン−アクアポリン−1融合遺伝子免疫マウスにおける腫瘍血管組織像を示している。
【図15A】図14Aの画像をImageJを用いて解析し血管の直径をカウントし、血管径毎にコントロール群における腫瘍内栄養血管の一定面積あたりの数(density)を算出した結果を示す図。(実施例21)
【図15B】図14Bの画像をImageJを用いて解析し血管の直径をカウントし、血管径毎に遺伝子免疫群における腫瘍内栄養血管の一定面積あたりの数(density)を算出した結果を示す図。(実施例21)
【発明を実施するための形態】
【0036】
この発明に係るユビキチン融合遺伝子は、ユビキチンをコードするユビキチン遺伝子と、癌新生血管形成関連遺伝子をコードする対遺伝子とを融合させたユビキチン融合遺伝子である。このように、この発明のユビキチン融合遺伝子は、癌/腫瘍の新生栄養血管に発現するアクアポリン−1(aquaporin-1:AQP−1)などの遺伝子を対遺伝子として、抗原を処理するブロテアソームに導くTag分子であるユビキチンをコードするユビキチン遺伝子に結合させることによって、癌新生血管に発現する分子を標的にすることができる。また、このユビキチン融合遺伝子は、MHCクラスI分子の発現が実質的に低下/欠如している悪性度の高い腫瘍に対しても抗腫瘍免疫を誘導することができるという特長を有している。
【0037】
この発明におけるユビキチンは、タンパク質の分解提示シグナルの機能等を有する保存性の高いタンパク質であり、ユビキチン遺伝子は、細胞内に生じた異常タンパク質を排除する他、様々な生物機能に関係しているユビキチンタンパク質をコードする遺伝子である。
本明細書において使用する用語「ユビキチン遺伝子」は、特段の場合を除いて、ユビキチンをコードする遺伝子のプロモーター、ユビキチンをコードする構造遺伝子、ならびにこれら両者を含むDNA配列をも併せて意味して使用されているものとする。
【0038】
一方、この発明のユビキチン融合遺伝子において、ユビキチン遺伝子と結合する融合パートナーである対遺伝子は、癌新生血管の形成に関与する因子であればいずれでもよく、かかる対遺伝子としては、例えば、アクアポリン−1(AQP−1)遺伝子、ニューロピリン(NRP)遺伝子、Dll−4遺伝子、Rgs5遺伝子、Robo−4遺伝子またはId1遺伝子などが挙げられる。
【0039】
かかる対遺伝子のうち、アクアポリン−1(Aquaporin-1:AQP−1)遺伝子は、水チャンネルとして生体内での水透過に関連するファミリー遺伝子の一員であって、細胞膜に存在する細孔を持ち、水分子だけを選択的に通過させることができる膜タンパク質をコードする遺伝子である。このAQP−1は、最近の研究では、癌の新生血管生成にも関連しているとの報告がなされている(非特許文献1)。
【0040】
ニューロピリン(Neuropilin:NRP)遺伝子には、ニューロピリン−1(NRP−1)遺伝子およびニューロピリン−2(NRP−2)遺伝子があり、NRP−1遺伝子は、血管新生に関与する血管内皮増殖因子VEGFのサブタイプとして、生物学的活性が強いVEGF−Aの塩基性ドメインに特異的に会合する細胞質タンパク質であるニューロピリン−1(NRP−1)をコードする遺伝子である。ニューロピリン−1(NRP−1)は、ニューロン・ガイダンスを規制する機能を有している(非特許文献2)。一方、ニューロピリン−2(NRP−2)遺伝子は、アクソン・ガイダンス受容体(axon-guidance receptor)として同定されたが、腫瘍細胞転移に関与する因子としても機能している可能性が示唆されている(非特許文献3)。
【0041】
Dll−4(Delta-like-4)遺伝子は、血管形成部位に発現する内皮特異的ノッチ(Notch)リガンドをコードする遺伝子である(非特許文献4)。Rgs5遺伝子は、マウスにおいて異常腫瘍血管形態に関与するマスタージーンとして同定されたGプロテイン・シグナル伝達規制因子(Rgs5)である(非特許文献5)。Robo−4遺伝子は腫瘍内皮細胞移動に重要な機能を有している(非特許文献6)。Id1遺伝子は、多様な機能を有していることが知られているが、かかる機能の一つとして、癌新生栄養血管ならびに転移に関連する機能も有しているとの報告もある(非特許文献7)。
【0042】
この発明に使用するそれぞれの遺伝子の構築は、当該技術分野における常套手段によって行うことができる。例えば、遺伝子の既知配列をデータベースより検索し、その配列両端についてそれぞれプライマーを合成し、腫瘍細胞よりフェノール・クロロホルム法によりRNAを抽出し、そのRNAをテンプレートとして、RT−PCR法を用いて逆転写し、遺伝子を構築する。ここで、PCR法とは、DNA鎖の特定部位のみ繰り返し複製する反応で、微量のDNAを100万倍程度まで増幅できる。複製反応のプライマーとしては、増幅部両端の塩基配列を含む合成オリゴヌクレオチオを用いて、耐熱性DNAポリメラーゼにより行う。また、RT−PCR法とは、第一回目の反応に逆転写酵素を用いることにより、RNAからDNAを合成し、その後は通常用いられるPCR法によって、特定のDNA部位を増幅する方法である。
【0043】
この発明に係るユビキチン融合遺伝子は、例えば、上記の構築したそれぞれの遺伝子の融合対象のポリヌクレオチドが連結された核酸と、選択マーカー遺伝子と、適切な宿主内で複製可能な任意のベクター、例えば、プラスミド、ファージ、ウイルスなどとから構成される融合遺伝子調製用ベクターを用いて、文献既知の方法で構築することができる。かかる融合遺伝子調製用ベクターは、例えば、融合対象の1つのポリヌクレオチドと、選択マーカー遺伝子と、融合対象の他のポリヌクレオチドと、適切な宿主内で複製可能な任意のプラスミドとを、文献記載の方法(例えば、非特許文献8参照)に記載の慣用の遺伝子工学的手法によって連結させることにより構築することができる。この発明に使用する融合遺伝子調製用ベクターには、上記の構成因子の他に、ターミネーターおよびエンハンサーなども含んでいてもよい。また、これらの因子は、いずれもそれぞれ機能的に作用するように連結するのがよく、それぞれの挿入位置は、ベクターの複製に関与していない領域であればどこの領域であってもよく、通常はベクター内のマルチクローニングサイトが利用される。
【0044】
上記融合遺伝子調製用ベクターの構築に使用可能な選択マーカー遺伝子としては、例えば、ストレプトマイシン、スペクチオマイシン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール等の抗生物質などの薬剤に感受性であるポリペプチドをコードしたポリヌクレオチド、例えば、rpsL、rpsE、rpoB、gyrAなどが挙げられる。なお、融合遺伝子の形成の際の検出感度ならびに選択性の観点から、rpsL遺伝子、rpsE遺伝子等の薬剤感受性マーカー遺伝子が好ましい。
【0045】
また、この発明において使用することができるベクターは、この発明の目的を阻害しないものであって、宿主細胞内で複製可能なものであればいずれも使用することができるが、宿主細胞の種類によって適宜選択するのがよい。かかるベクターとしては、例えば、プラスミド、バクテリオファージなどが使用できる。宿主が大腸菌である場合は、例えば、pBR322、pUC19、pHSG396、pHSG399、pCYC184ならびにこれらの誘導体などの慣用のプラスミドベクターが挙げられ、また宿主が酵母である場合は、例えば、pYAC誘導体などの慣用のプラスミドベクターなどが挙げられる。
【0046】
この発明によれば、上記のようにして構築した融合遺伝子調製用ベクターを宿主細胞に導入することによって形質転換体を作製することができる。宿主細胞としては、例えば、大腸菌などの細菌細胞、酵母細胞、動植物細胞などの当該技術分野で慣用されている細胞であればいずれの細胞も使用することができる。形質転換の方法としては、当該技術分野で慣用されている方法であればいずれの方法も使用することができ、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法などが使用できる。この方法により融合遺伝子調製用ベクターを保持した細胞を形質転換体として得ることができる。
【0047】
次いで、得られた形質転換体を導入した細胞を適切な培地で培養することによって融合遺伝子を含む核酸を有する細胞を得ることができる。つまり、その形質転換体を導入した細胞を、選択マーカー遺伝子である薬剤感受性マーカー遺伝子に対応する薬剤の存在下ならびに不存在下の培地で培養することによって、該薬剤に抵抗性を有する細胞、つまり該マーカー遺伝子がコードするポリペプチドの機能に相反する機能を含有する細胞を選別することができる。このようにして得られた融合遺伝子を含有した核酸は、例えば、上記マニュアルに記載の慣用の核酸単離法などによって抽出単離することができる。
【0048】
上記したユビキチン融合遺伝子は、通常非ウイルスベクターあるいはウイルスベクターに発現可能に挿入された形態で用いられる。かかる発現可能な形態としては、例えば、DNAワクチンが挙げられる。
【0049】
この発明に係るDNAワクチンは、上記ユビキチン融合遺伝子を、一般には非ウイルスベクターまたはウイルスベクターに発現可能なように挿入することにより調製することができる。なお、これらの非ウイルスベクターおよびウイルスベクターの調製法、投与法などは当該技術分野で既に公知である(例えば、非特許文献9、10および11参照)。
【0050】
非ウイルスベクターとしては、哺乳動物の生体内で目的遺伝子を発現させることのできるベクターであればいずれの発現ベクターであっても使用することができ、例えばpcDNA3.1、pZeoSV、pBK−CMVなどの発現ベクターが挙げられる。ウイルスベクターとしては、組換えアデノウイルス、レトロウイルス等のウイルスベクターが代表的なものであり、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40等のDNAウイルスまたはRNAウイルスも挙げることができる。これらのうち、感染効率が高いことから、アデノウイルスベクター系を用いることが好ましい。
【0051】
この発明に係るDNAワクチンは、病気罹患の際に免疫学的により好ましい免疫応答のできる免疫システムが達成されるような、あらゆる組成物をも含むことができる。通常、ワクチンは、免疫決定要因と、この免疫決定要因の応答を、迅速強化するような作用を呈する免疫助成剤とを含み、免疫決定要因は免疫助成剤と組み合わせて用いるのが好適である。免疫助成剤は、通常用いられる、例えば、フロインド(Freund)複合体助成剤や、フロインド非複合体助成剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ただし、この発明のDNAワクチンは、免疫助成剤を用いなくとも効能を有するという効果も有している。
【0052】
この発明に係るDNAワクチンにおける遺伝子の含有量は、種々の要因により適宜変更できるが、マウス一匹(20g)当たり、1μg〜20μg、好ましくは、5μg〜10μgであるのがよい。この範囲外になるにつれワクチン効果が減弱するという傾向が見られる。また、ユビキチン遺伝子と対遺伝子とは、1:1で混合させるのが好ましいが、種々の条件により適宜変更できる。
【0053】
この発明のDNAワクチンをヒトなどへ導入する方法としては、DNAワクチンを直接体内に導入するin vivo法やヒトからある種の細胞を取り出して体外でDNAワクチンを該細胞に導入しその細胞を体内に戻すex vivo法などがある(例えば、非特許文献11参照)。in vivo法としては、例えば本発明のDNAワクチンを適当な溶剤(PBS等の緩衝液、生理食塩水、滅菌水等)に溶解した後、必要に応じてフィルター等で濾過滅菌し、次いで無菌的な容器に充填して注射剤を調製して、ヒトへ注射することにより投与される。注射剤には必要に応じて慣用の担体などを添加してもよい。また、脂質二重膜で作られたリポソーム中にDNAワクチンを封入し、さらにこのリポソームと不活化したセンダイウイルス(Hemagglutinating
Virus of Japan : HVJ)とを融合させたHVJ−リポソームとして投与することもできる(例えば、非特許文献9、12)。本発明のDNAワクチンは、筋肉、皮膚、鼻腔内等に投与することができる。ex vivo法としては、リポフェクション法、リン酸−カルシウム共沈法、DEAE−デキストラン法、微小ガラス管などを用いて細胞内へDNAワクチンを直接注入する方法などが挙げられる。
【0054】
この発明のDNAワクチンの投与量は、投与する対象、投与方法、投与形態などによって異なるが、通常成人1人当たり対象タンパク質をコードする目的遺伝子として約500μg〜約50mgの範囲、好ましくは約500μg〜1mgの範囲であるのがよい。
【0055】
この発明に係るDNAワクチンは、癌新生血管に発現する分子を標的とすることができる。つまり、この発明のDNAワクチンによって誘導されたCTLの標的は、癌抗原そのものではなく、新生栄養血管にMHCクラスI分子と共に発現される分子である。そのため、この発明のDNAワクチンは、癌・腫瘍の種類には限定されず、また、MHCクラスI分子の発現が実質的に低下/欠如している悪性度の高い癌・腫瘍に対しても、その組織内の新生栄養血管を破壊することにより、癌細胞の増殖抑制ならびに死滅を誘導することができることが、免疫組織学的解析により明らかになった。なお、発明に係るDNAワクチンは、癌新生血管のみならず新生リンパ管にも発現している分子を標的としている可能性があり、抗腫瘍効果として相乗効果を示す可能性が高い。
【0056】
以上説明したように、この発明に係る癌DNAワクチンは、癌新生栄養血管に発現する癌新生血管の形成に関連する分子を標的とすることができることから、主に、腫瘍疾患、具体的には、肝癌、神経膠腫、神経芽細胞腫、肉腫、悪性黒色腫(メラノーマ)および肺、結腸、乳房、膀胱、卵巣、精巣、前立腺、睾丸腫瘍、子宮、頚部、膵臓、胃、大腸、小腸、皮膚、その他の器官の癌を包含する多様なタイプの癌や腫瘍の治療あるいは予防に有効に使用できる。
【0057】
なお、本明細書では、ユビキチン遺伝子の融合パートナーである対遺伝子およびユピキチン融合遺伝子としては、AQP−1遺伝子およびUB−AQP−1融合遺伝子を例として説明する。ただし、これらのAQP−1遺伝子およびUB−AQP−1融合遺伝子についての説明は、ニューロピリン(NRP)遺伝子、Dll−4遺伝子、Rgs5遺伝子、Robo−4遺伝子ならびにId1遺伝子などのその他の新生栄養血管関連遺伝子およびそれらとユビキチン遺伝子との融合遺伝子についても実質的に同様に適用できるものと理解される。
【0058】
以下、この発明を実施例により更に詳細に説明するが、この発明は下記実施例によって何らその範囲が限定されるものではなく、また下記実施例は、この発明の範囲を限定するものではなく、この発明の具体的な例示に過ぎないものである。さらに、この発明は、下記実施例から当業者が容易に類推することができるあらゆる改変、変更などもその範囲に包含するものと理解することができる。
【0059】
〔実施例1〕
実施例1はユビキチン−アクアポリン−1融合遺伝子を作製した例を示す。
(1−1:ユビキチン遺伝子の作製)
ユビキチン遺伝子は、下記プライマーを用いて、マウス筋肉の全cDNAから当該技術分野での常套手法であるRT−PCR法で増幅して作製した。
センスプライマーの塩基配列:
5’-gcatcgctagccacatttgttaacaggtcaaaatgcagatc-3’(配列番号1)
アンチセンスプライマーの塩基配列:
5’-atggatccttaatgatgatgatgatgatgctcgagagcggccgcaccgcggaggcgaaggaccag-3’
(配列番号2)
【0060】
(1−2:アクアポリン−1遺伝子の作製)
アクアポリン−1(AQP−1)遺伝子は、下記プライマーを用いて、マウス皮膚の全cDNAから当該技術分野での常套手法であるRT−PCR法で増幅して作製した。
センスプライマーの塩基配列:
5’-gcatcgctagcccgcggtgtcatggccagtgaaatcaagaagaag-3’(配列番号3)
アンチセンスプライマーの塩基配列:
5’-gtcatctcgagtttgggcttcatctccaccctg-3’(配列番号4)
【0061】
(1−3:ユビキチン遺伝子をコードするpUBベクターの構築)
ユビキチン遺伝子をコードするベクターpUBは、ユビキチンのPCR産物を切断酵素Nhe IとBamH Iで処理した後、ベクターpcDNA3.1(−)(invitrogen)のNhe IとBamH Iとの切断部位に導入して作製した。
【0062】
(1−4:ユビキチン−アクアポリン−1融合遺伝子の作製)
ユビキチン−アクアポリン−1(pUB−AQP−1)融合遺伝子をコードするベクターpUB−AQP−1は、アクアポリン−1のPCR産物を切断酵素Sac IIとXho Iで処理した後、上記ベクターpUBのSac IIとXho Iとの切断部位に導入して作製した。ユビキチン−アクアポリン−1融合遺伝子の塩基配列は配列番号5に示すとおりである(図1)。
【0063】
〔実施例2〕
本実施例はユビキチン−ニューロピリン−1融合遺伝子を作製した例を示す。
(2−1:ニューロピリン−1遺伝子の作製)
ニューロピリン−1(Neuropilin-1:NRP−1)遺伝子は、下記プライマーを用いて、マウス筋肉の全cDNAから当該技術分野での常套手法であるRT−PCR法で増幅して作製した。
センスプライマーの塩基配列:
5’-gcatcgctagcccgcggtgtcATGGAGAGGGGGCTGCCG-3’(配列番号6)
アンチセンスプライマーの塩基配列:
5’-gtcatctcgagcgcctctgagtaattactctgtgg-3’(配列番号7)
【0064】
(2−2:ユビキチン−ニューロピリン−1融合遺伝子の作製)
ユビキチン−ニューロピリン−1融合遺伝子をコードするベクターpUB−NRP−1は、ニューロピリン−1のPCR産物を切断酵素Sac IIとXho Iで処理した後、上記ベクターpUBのSac IIとXho Iとの切断部位に導入して作製した。ユビキチン−ニューロピリン−1融合遺伝子の塩基配列は配列番号8に示すとおりである(図2)。
【0065】
〔実施例3〕
本実施例はユビキチン−ニューロピリン−2融合遺伝子を作製した例を示す。
(3−1:ニューロピリン−2遺伝子の作製)
ニューロピリン−2(Neuropolin-2:NRP−2)遺伝子は、下記プライマーを用いて、マウス筋肉の全cDNAから当該技術分野での常套手法であるRT−PCR法で増幅して作製した。
センスプライマーの塩基配列:
5’-gcatcgctagcccgcggtgtcATGGATATGTTTCCTCTTACCTGGG-3’(配列番号9)
アンチセンスプライマーの塩基配列:
5’-gtcatctcgagtgcctccgagcagcacttctg -3’(配列番号10)
【0066】
(3−2:ユビキチン−ニューロピリン−2融合遺伝子の作製)
ユビキチン−ニューロピリン−2融合遺伝子をコードするベクターpUB−NRP−2は、ニューロポリン−2のPCR産物を切断酵素Sac IIとXho Iで処理した後、上記ベクターpUBのSac IIとXho Iとの切断部位に導入して作製した。ユビキチン−ニューロピリン−2融合遺伝子の塩基配列は配列番号11に示すとおりである(図3)。
【0067】
〔実施例4〕
本実施例はユビキチン−Robo−4融合遺伝子を作製した例を示す。
(4−1:Robo−4遺伝子の作製)
Robo−4(roundabout-4)遺伝子は、下記プライマーを用いて、マウス筋肉の全cDNAから当該技術分野での常套手法であるRT−PCR法で増幅して作製した。
センスプライマーの塩基配列:
5’-catcGCGGCCGCccgcggtgtcATGGGACAAGGAGAGGAGCCGAGAGCA-3’(配列番号12)
アンチセンスプライマーの塩基配列:
5’-tcatggtaccttagtgatggtggtgatggtgggaggaatcaccagccttgggcacag-3’(配列番号13)
【0068】
(4−2:ユビキチン−Robo−4融合遺伝子の作製)
ユビキチン−Robo−4融合遺伝子をコードするベクターpUB−Robo−4は、Robo−4のPCR産物を切断酵素Sac IIとAsp718で処理した後、上記ベクターpUBのSac IIとAsp718との切断部位に導入して作製した。ユビキチン−Robo−4融合遺伝子の塩基配列は配列番号14に示すとおりである(図4)。
【0069】
〔実施例5〕
本実施例はユビキチン−RGS−5融合遺伝子の作製を示す例である。
(5−1:RGS−5遺伝子の作製)
RGS−5(regulator of G
Protein Signalling 5:RGS−5)遺伝子は、下記プライマーを用いて、マウス筋肉の全cDNAから当該技術分野での常套手法であるRT−PCR 法で増幅して作製した。
センスプライマーの塩基配列:
5’-gcatcgctagcccgcggtgtcATGTGTAAGGGACTGGC-3’(配列番号15)
アンチセンスプライマーの塩基配列:
5’-gtcatctcgagcttgattagctccttataaaattcagagc-3’(配列番号16)
【0070】
(5−2:ユビキチン−RGS−5融合遺伝子の作製)
ユビキチン−RGS−5融合遺伝子をコードするベクターpUB−RGS−5は、RGS−5のPCR産物を切断酵素Sac IIとXho Iで処理した後、上記ベクターpUBのSac IIとXho Iとの切断部位に導入して作製した。ユビキチン−RGS−5融合遺伝子の塩基配列は配列番号17に示すとおりである(図5)。
【0071】
〔実施例6〕
本実施例はユビキチン−Dll−4融合遺伝子を作製した例を示す。
(6−1:Dll−4遺伝子の作製)
Dll−4(Dll−like 4:Dll−4)遺伝子は、下記プライマーを用いて、マウス筋肉の全cDNAから当該技術分野での常套手法であるRT−PCR法で増幅して作製した。
センスプライマーの塩基配列:
5’-gcatcgctagcccgcggtgtcATGACGCCTGCGTCCCGGA-3’(配列番号18)
アンチセンスプライマーの塩基配列:
5’-gtcatctcgagtacctctgtggcaatcacacac-3’(配列番号19)
【0072】
(6−2:ユビキチン−Dll−4融合遺伝子の作製)
ユビキチン−Dll−4融合遺伝子をコードするベクターpUB− Dll−4は、Dll−4のPCR産物を切断酵素Sac IIとXho Iで処理した後、上記ベクターpUBのSac IIとXho Iとの切断部位に導入して作製した。ユビキチン−Dll−4融合遺伝子の塩基配列は配列番号20に示すとおりである(図6)。
【0073】
〔実施例7〕
本実施例はユビキチン−Id−1融合遺伝子を作製した例を示す。
(7−1:Id−1遺伝子の作製)
Id−1(inhibitor of
differentiation-1/DNA binding−1:Id−1)遺伝子は、下記プライマーを用いて、マウス筋肉の全cDNAから当該技術分野での常套手法であるRT−PCR法で増幅して作製した。
センスプライマーの塩基配列:
5’-atcgctagcccgcggtgtcATGAAGGTCGCCAGTGGCAGTG-3’(配列番号21)
アンチセンスプライマーの塩基配列:
5’-catctcgag gcgacacaagatgcgatcgtcg-3’(配列番号22)
【0074】
(7−2:ユビキチン−Id−1融合遺伝子の作製)
ユビキチン−Id−1融合遺伝子をコードするベクターpUB−Id−1は、Id−1のPCR産物を切断酵素Sac IIとXho Iで処理した後、上記ベクターpUBのSac IIとXho Iとの切断部位に導入して作製した。ユビキチン−Id−1融合遺伝子の塩基配列は配列番号23に示す通りである(図7)。
【0075】
〔実施例8〕
実施例1で作製したユビキチン−アクアポリン−1(pUB−AQP−1)融合遺伝子が実際に細胞内で発現しているかどうかを、COS細胞にトランスフェクションしてウェスタンブロッテイングにて確認した。
ユビキチン−アクアポリン−1(pUB−AQP−1)融合遺伝子2μgを、COS細胞(200万個)に、リポフェクタミンを用いて各プラスミドをトランスフェクションした。トランスフェクションの24時間後、細胞ライセートを調製し、タンパク質15μgを用いてウエスタンブロッテイングした。ウエスタンブロッテイングでは、抗His体を第1抗体として、また抗マウスIgG(H+L)体を第2抗体として使用した。
トランスフェクションした12時間後、プロテアソーム阻害剤として、濃度10μMのMG−132を添加し、MG−132を添加12時間後細胞ライセートを調製した。このDC2.4細胞(200万個)に用量2μgのpUB−AQP−1をリポフェクタミンを用いてトランスフェクションした。トランスフェクションの6時間後、セレクションのために、G418を濃度500μg/mlの割合で培地に添加し、12〜18日後、G418耐性細胞クローンを単離し、トランスフェクションして、培養デイッシュをエクスパンションと解析のために分けた。その結果を図8A、8Bおよび8Cに示す。
【0076】
図8Aは、COS−7細胞(2x106)にリポフェクタミンを用いてpcDNA、pAQP−1またはpUB−AQP−1をトランスフェクトし、24時間後の細胞ライセート(lysate)から抽出した15μgのタンパクを抗His抗体を用いてウェスタンブロット法にて解析した結果を示している。
【0077】
図8Bは、COS−7細胞にpAQP−1またはpUB−AQP−1をトランスフェクト後12時間後に、プロテアソーム阻害剤(MG−132)10μM添加(+)あるいは、無添加(−)、さらに12時間後に細胞ライセートを抽出しウェスタンブロット(抗His抗体及び、抗HSP90抗体)を行った結果を示している。
【0078】
図8Cは、図8Bのウェスタンブロットをデジタル・イメージ・アナライザー(digital image analyzer)で解析し、AQP−1タンパク量をHSP90タンパク量で除した相対比を示す。pUB−AQP−1のトランスフェクションはpAQP−1をトランスフェクトした場合よりもAQP−1のタンパク量が減少しており、その減少は抗プロテアソーム阻害剤を添加すると認められなくなる。即ち、pUB−AQP−1コンストラクトのトランスフェクトではユビキチン・プロテアソーム経路によるタンパク質の分解が昂進していることを示している。
【0079】
〔実施例9〕
本実施例は、実施例1で作製したユビキチン−アクアポリン−1融合遺伝子を含有する癌遺伝子ワクチン(UB−AQP−1)を調製した例を示す。
上記ユビキチン−アクアポリン−1融合遺伝子を含有する発現プラスミドを大腸菌DH5αに形質転換し、LB培地500ml中で37℃の恒温槽にて一晩(〜16時間)振盪培養を行った。
次いで、4℃、12,000rpmにて10分間遠心分離を行った後、得られた上清を除去し、沈殿物である菌体成分を50mM Tris−HCl(pH8.0)/10mM EDTA溶液10mlに溶解した。続いて、アルカリ溶液200mM NaOH/1%SDS溶液10mlにて菌体成分を溶菌した後、中和溶液3.1M酢酸カリウム(pH5.5)10mlにて中和して反応を止めた。
その後、600mM NaCl/10mM酢酸ナトリウム(pH5.0)30mlにて平衡化した核酸精製用陰イオン交換樹脂カラム(MARLIGEN BIOSCIENCE INC.製)に中和溶液を室温にて12,000rpmで10分間、遠心分離を行った上清を充填し、800mM NaCl/100mM酢酸カリウム溶液にてカラムを洗浄し、1.25M NaCl/100mM Tris−HCl(pH8.5)にて溶出して、所望の癌遺伝子ワクチン(UB−AQP−1)を調製した。
【0080】
〔実施例10〕
本実施例では、実施例2で作製したユビキチン−ニューロポリン−1融合遺伝子を含有する癌遺伝子ワクチン(UB−NRP−1)を、実施例9と実質的に同様にして処理して調製した。
【0081】
〔実施例11〕
本実施例では、実施例3で作製したユビキチン−ニューロポリン−2融合遺伝子を含有する癌遺伝子ワクチン(UB−NRP−2)を、実施例9と実質的に同様にして処理して調製した。
【0082】
〔実施例12〕
本実施例では、実施例4で作製したユビキチン−ニューロポリン−2ユビキチン−Robo−4融合遺伝子を含有する癌遺伝子ワクチン(UB−Robo−4)を、実施例9と実質的に同様にして処理して調製した。
【0083】
〔実施例13〕
本実施例では、実施例5で作製したユビキチン−RGS−5融合遺伝子を含有する癌遺伝子ワクチン(UB−RGS−5)を、実施例9と実質的に同様にして処理して調製した。
【0084】
〔実施例14〕
本実施例では、実施例6で作製したユビキチン−Dll−4融合遺伝子を含有する癌遺伝子ワクチン(UB−Dll−4)を、実施例9と実質的に同様にして処理して調製した。
【0085】
〔実施例15〕
本実施例では、実施例7で作製したユビキチン−Id−1融合遺伝子を含有する癌遺伝子ワクチン(UB−Id−1)を、実施例9と実質的に同様にして処理して調製した。
【0086】
〔実施例16〕
癌遺伝子ワクチン(pUB−AQP−1)のマウスメラノーマに対する治療的効果
実施例9で調製した癌遺伝子ワクチン(0.3mg/kg)およびその他の被験プラスミドを含むワクチンを、マウスメラノーマ(B16F10)を担癌した10週齢のC57BL/6(B6)雌マウスに対して、遺伝子銃を用いて、腹部皮下に導入し、2日おきに腫瘍サイズを観察した。尚、マウスは一群につき6匹を用い、担癌(challenge)した日をday0とした。担癌したメラノーマ細胞数は、マウス一匹当たり5×103個であった。遺伝子ワクチンの導入はday2より開始し、3日毎に計5回行った。その結果は図9Aおよび図9Bに示す。
【0087】
図9Aは、C57BL/6マウスにメラノーマ(melanoma)B16F10細胞(2x103個)を腹部皮下に移植後、2日目より遺伝子免疫(コントロールベクター、pAQP−1、UB−AQP−1)を開始し、3日毎に計5回施行した。経時的に腫瘍サイズを評価した。腫瘍サイズは:
π×[(a×b)1/2]3
(式中、aおよびbはそれぞれ2つの主要垂直方向の直径を示している。)
で測定した。マウスは一群6匹で行った。
【0088】
図9Bは、C57BL/6マウスにメラノーマ(melanoma)B16F10細胞2×103を腹部皮下に移植後2日目より遺伝子免疫(コントロールベクター、pAQP−1、UB−AQP−1)を開始し、3日毎に計5回施行した3群のマウスの生存曲線を示す。この結果、pUB−AQP−1遺伝子治療群で担癌マウスの有意な生存延長が認められた。
【0089】
〔実施例17〕
本実施例は、癌遺伝子ワクチン(pUB−AQP−1)のマウスメラノーマに対する予防的ワクチン効果を示す例である。
B6マウスに、各プラスミド6μgを1週間間隔で3回免疫した。最終免疫の7日後、1×105個のメラノーマ(melanoma)B16F10癌細胞のリン酸バッファー生理食塩水(PBS)液(200μl)を各B6マウスに皮下注射(s.c.)した。腫瘍サイズは2日毎に計測し、腫瘍容量は下記にて算出した。
π/6×[(a×b)1/2]3
(式中、aおよびbはそれぞれ2つの主要垂直方向の直径を示している。)
癌遺伝子ワクチン(pUB−AQP−1)のマウスメラノーマに対する予防的ワクチン効果の結果を図10に示す。図10Aは腫瘍サイズの経時的変化を示し、図10Bは生存率を示す。図に示す結果から、pUB−AQP−1遺伝子ワクチン群においてメラノーマ(B16F10)接種後の有意な生存率の向上が認められた。
【0090】
〔実施例18〕
癌遺伝子免疫最終日から10日後、マウスの脾臓細胞(100万個)を取り出し、それを12ウェルプレートに注入し、PMA(phorbol
12-myristate 13-acetate)(50ng/ml),calcium
ionophore(1μg/ml)およびbrefeldin A(1μg/ml)を含むRPMI 1640コンプリート培地で4時間培養した。細胞を遠心分離して採取し、allophycocyanin標識抗CD4抗体、PE標識CD8抗体、FITC標識IFN−γ抗体、あるいはFITC標識パーフォリン(PF)抗体、FITC標識グランザイムB抗体(GZM−B)を用いて4℃で30分間染色した。染色した細胞を2回洗浄し、細胞をFACSフローサイトメーターに採集し、CellQuestソフトウエアで分析した。その結果を図11Aおよび図11Bに示す。
【0091】
図11Aは、癌遺伝子免疫最終日から10日後、マウスの脾臓細胞をPMA/ionophoreで刺激し、CD8陽性T細胞のIFN−γ、パーフォリン、グランザイムBの発現を細胞内FACS法にて解析した結果を示している。図11Bは、図11Aのそれぞれの遺伝子免疫群マウス脾臓細胞をPMA/Ionomycinで刺激した際のCD8T細胞におけるIFNγ、パーフォリン(PF),グランザイムB(GZM−B)の発現陽性率からCD8T細胞の絶対数を求めたものを示す。この結果は、pUB−AQP−1遺伝子免疫によりIFNγ、パーフォリン(PF)、グランザイムB産生CD8キラーT細胞の誘導が効率よく起きていることを示している。
【0092】
〔実施例19−1〕
CD8+T細胞(20,000個)を96ウエルプレートに注入し、pUB−AQP−1をトランスフェクションした後5.5Gyγ−線を照射したDC2.4細胞(2,000個)と培養した。3日培養後、上清を採取し、IFN−γの産生をELISAで測定した。同様に、pUB−AQP−1をトランスフェクト後に放射線照射した樹状細胞ラインDC2.4および遺伝子免疫したマウスの脾臓中のCD8+T細胞を96ウエルプレートで3日培養後、上清を採取し、IFN−γの産生をELISAで測定した。その結果を図12Aで示す。
図12Aの結果から明らかなように、コントロール免疫群やpAQP−1免疫群のマウスに比べて、pUB−AQP1遺伝子免疫群のマウスから取り出したCD8T細胞は、pUB−AQP−1トランスフェクトした樹状細胞ラインDC2.4との共培養により顕著なIFNγの産生が認められた。
【0093】
〔実施例19−2〕
CD8+T細胞(20,000個)を96ウエルプレートに注入し、pUB−AQP−1をトランスフェクションした後5.5Gyγ−線を照射したDC2.4細胞(2,000個)と培養した。3日後に[3H]thymidineを添加し、10時間培養後に、細胞とその培地をガラスファイバーフィルター上に採取し、その放射能レベルをβシンチレーションカウンターで測定し、細胞増殖を算出した。同様に、pUB−AQP−1をトランスフェクト後に放射線照射した樹状細胞ラインDC2.4および遺伝子免疫したマウスの脾臓中のCD8+T細胞を96ウエルプレートで3日培養後、[3H]thymidineを添加し、10時間培養後に、細胞とその培地をガラスファイバーフィルター上に採取し、その放射能レベルをβシンチレーションカウンターで測定し、細胞増殖を算出した。その結果を図12Bに示す。
図12Bの結果から明らかなように、コントロール免疫群やpAQP−1免疫群のマウスに比べて、pUB−AQP1遺伝子免疫群のマウスから取り出したCD8T細胞はpUB−AQP−1トランスフェクトした樹状細胞ラインDC2.4との共培養により顕著な細胞増殖反応が認められた。
【0094】
〔実施例20〕
癌遺伝子免疫したマウスに、抗CD4抗体(クローンGK1.5)または抗CD8抗体(53−6.72)を、B16F10細胞に担癌する前のday3ならびにday1にマウス1匹当たり0.5mgの割合で腹腔内投与して、それぞれのT細胞サブセットを除去した。この結果、各T細胞サブセットの98%以上が除去されていることをフローサイトメトリーで確認した。これにより、CD4T細胞あるいは、CD8T細胞を抗体投与により除去した遺伝子免疫マウスにB16F10メラノーマを接種し抗腫瘍効果に対するT細胞サブセット除去の効果を判定した。図13Aは腫瘍サイズの経時的変化を示し、図13Bは生存率を示している。
【0095】
図13Aの結果から、抗CD8抗体投与群では、抗腫瘍免疫効果がほぼ消失していたことが確認された。また、図13Bの結果から、抗CD8抗体投与群では、抗腫瘍免疫効果が顕著に消失し、コントロールマウスと同程度の生存率曲線を示していた。このことは、この発明による癌遺伝子免疫(pUB−AQP−1)の抗腫瘍効果がCD8T細胞により担われていることを示している。
【0096】
〔実施例21〕
コントロール群(A)または癌遺伝子(pUB−AQP−1遺伝子)免疫群(B)のマウスにB16F10メラノーマを接種し2週間後に癌組織を採取した。採取した癌組織サンプルを液体窒素−冷却OCTコンパウンド内で急速冷凍し、−20℃で貯蔵した。この冷凍癌組織サンプルを厚さ5μmの切片に切って、ガラススライド上に積層し、このスライドをPBSでそれぞれ5分間3回洗浄し、0.2%トリトン(登録商標)X100のPBS溶液中で15分間培養し、再度PBSで洗浄した。この癌組織サンプルを、1%ウシ胎児血清(BSA)のPBS溶液(PBS−BSA)を用いて室温で30分間培養して、非特異的結合をブロックした。
【0097】
このように処理した癌組織切片をPE標識抗CD31抗体(1:1000)およびDAPI抗体(1:1000)を用いて4℃で一晩二重染色した。染色後、PBSでそれぞれ5分間ずつ3回洗浄し、スライドに積層し、DAPI(4’,6−diamino−2−phenylindole)で染色した。この癌組織標本をBiozero蛍光顕微鏡を用いて撮影し、撮影した写真を100〜200枚程度結合して結合写真を作成した(図14Aaおよび14Ba)。この結合写真をソフトウエアImageJ(非特許文献13)で解析して、血管の直径(図14Abと14Bb)および面積(図14Aaと14Ba)をカウントした。図14Abおよび図14Bbは腫瘍栄養血管の輪郭が示しており、図14Acおよび図14Bcは腫瘍栄養血管内腔が黒く塗りつぶされて示されている。
【0098】
図15Aは、図14AおよびBの画像をImageJで解析し血管の直径をカウントし、血管径毎にコントロール群(A)と遺伝子免疫群(B)における腫瘍内栄養血管の一定面積あたりの数(density)を算出した結果を示している。図15Bは、図14AおよびBの画像をImageJで解析し血管の面積をカウントし、コントロール群(A)と遺伝子免疫群(B)の腫瘍面積全体における腫瘍栄養血管面積の比を算出した結果を示している。
【産業上の利用可能性】
【0099】
従来の抗癌剤による化学療法は、悪性腫瘍などに対して強力な増殖抑制作用を有しているが、薬剤耐性がしばしば誘導され、また正常細胞の細胞分裂をも阻止するという強い副作用も併せ持っている。これに対して、この発明による癌新生血管関連遺伝子を用いた免疫療法は、生体の免疫反応を利用して悪性腫瘍などの腫瘍・癌細胞の増殖を促進する血管新生因子を標的にして新生栄養血管を破壊する。このことから、本発明によるワクチンは、癌・腫瘍の種類に限定されることなく、またMHCクラスI分子の発現が低下/消失している癌・腫瘍であって、かつ既存の免疫療法では全く無効な悪性度の高い癌に対しても有効である可能性が高く、その副作用も既存の抗癌剤と比較して劇的に軽減できることが予想される。また、投与方法にしても、皮下の免疫細胞に提示するだけで十分な効果が見られることから、皮下投与型という次世代型抗癌療法としても期待できる。さらに、この発明の抗癌療法は、既存の抗VEGF抗体による癌組織の栄養新生血管のブロックと比較すると、遙かに安価に、かつ安全性も高く、大量に製造することができることも期待できると共に、これまでの抗体療法ではその効果が不十分で繰り返し投与が必要であるのに対して、より高い効果が期待できることから、繰り返し投与が不必要であると期待することもできる。したがって、この発明は、癌・腫瘍の種類に限定されることなく癌・腫瘍の予防および治療に有用である。
【技術分野】
【0001】
この発明は、ユビキチン融合遺伝子およびそれを用いたDNAワクチンに関するものである。更に詳細には、この発明は、ユビキチンをコードするユビキチン遺伝子と、癌新生血管管形成関連遺伝子をコードする遺伝子とを融合させたユビキチン融合遺伝子およびそれを用いたDNAワクチンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高等生物には、免疫機構という生体防御機構が備わっていて、生体内に侵入してきた病原体などの異物質を抗原として特異的に認識することができる抗体・T細胞を生成し、その抗原を分解、中和または不活性化することによって生体を保護する役目を果たしている。
【0003】
この免疫機構には、自然免疫系と獲得免疫系という2種類の免疫応答機構がある。この免疫応答機構のうち、自然免疫系は、一次防御機構として元来備わっていて、侵入してきたあらゆる種類の病原性物質などの抗原を非特異的に排除する役目を果たしていて、人が病原菌に曝された環境の中で生活をしていても疾患にあまり罹患しないように働いている。
【0004】
一方、獲得免疫系は、この自然免疫系で防御しきれなくなって病原性物質などの抗原が生体内へ侵入し、NK細胞やマクロファージだけではもはや対抗することができなくなった場合に、その抗原を分解、中和または不活性化して生体を保護する役目を果たしている。この獲得免疫系は、自然免疫系で防御しきれずに侵入してきた抗原を、まず抗原提示細胞で捕え、その情報をT細胞に伝え、その情報を受けたT細胞が、その情報をさらにB細胞に伝え、抗体を作るように指令を出し、その情報を従ってその抗原に特異的な抗体を産生することによって、侵入抗原を破壊するように働いている。
【0005】
この免疫応答機構は、生体内へ侵入してきた抗原を分解、中和または不活性化して生体を保護する役目を果たしているとともに、一度侵入した抗原を記憶し、再度同じ抗原が侵入した場合に極めて迅速かつ有効に免疫応答を誘起し、獲得免疫を取得するという極めて重要な機構を備えている。
【0006】
さらに、免疫応答機構は、上記のような外部からの抗原に対処する役割ばかりではなく、生体内に生ずる各種新生物生成疾患、すなわち癌の発症においても重要な役割を担っていると考えられるようになってきた。つまり、ある種の免疫担当細胞は、常に生体の全ての細胞と物体とを監視し、非自己と判断された細胞を排除する機能を担っており、形質転換を起こした細胞、すなわち腫瘍細胞の発生も、これら監視機構によって常時チェックされており、発生した腫瘍細胞の多くは悪性の癌となる前に排除されているのではないかと考えられている。この免疫応答機構は、癌細胞を傷害するキラーT細胞(CTL)というリンパ球をはじめ、単核食細胞、マクロファージ、好中球、NK細胞などが司る主に細胞性免疫と呼ばれる仕組みによって成り立っていることが明らかとなってきた。
【0007】
この免疫機構は疾患の予防ならびに治療に積極的に利用されていて、その獲得免疫を利用した予防・治療法がワクチンであり、このワクチンの技術は、不活性化した感染性生物または感染性生物の構成物質の一部を予め生体に接種し擬似感染を成立させることによって、獲得免疫を取得し、感染時に生体内に記憶された免疫応答を有効に引き出し、感染症に対する耐性を発揮させるというものである。
【0008】
ワクチンとしては、例えば、日本脳炎、ワイル病等に対する不活化ワクチン、破傷風、ジフテリア等のトキソイドに対するワクチン、BCG、ポリオ等に対する弱毒ワクチン、B型肝炎ウイルス等に対する遺伝子組換えワクチンなどが、ウイルス感染症の予防または治療には一般的に使用されている。
【0009】
しかし、これらのワクチンは、抗体産生を誘導するが、細胞性免疫を誘導しにくいという欠点があり、これら従来型のワクチンは、製造から被検体に接種するまでの間冷蔵保存する必要があるため、コストの増加と効力の低下を生じるという問題点がある。
【0010】
このような従来型のワクチンの欠点や問題点を改善すべく、最近では、ワクチンの研究開発が進み、免疫原性タンパク質をコードするプラスミドDNAの投与をすることにより、免疫誘発をもたらす新しいワクチン種(DNAワクチン)が開発されてきている。このDNAワクチンは、体液性免疫応答のみならず、細胞性免疫を強力に誘導できるので、感染症に対する防御能を賦与することが可能となるとともに、高度に純化できること、また室温もしくは高温下でも安定であり、冷蔵保存が必須ではなく、その上長期間の貯蔵も可能であるなどの大きな利点を有している。その上、このDNAワクチンは、遺伝子工学的手法により改良が迅速にかつ容易に可能であることから、その開発に要する時間の短縮と費用の軽減ができるとともに、ワクチンを大量にかつ安価に製造できるという大きな利点がある。
【0011】
このようにワクチンの研究開発が進み、また現実的に臨床サイドからも早急な開発が期待されているにも拘わらず、世界的に蔓延し大きな社会問題となっているマラリア、結核、トキソプラズマなどの免疫回避エスケープ機構が複雑な細胞内寄生病原体に対するワクチンは、これまで幾度となく開発が試みられてきたもののことごとく失敗に帰してきた。これは、かかる難治性感染症に対応する病原体の感染および寄生適応機構の解明が十分に進んでおらず、またそれらの病原体排除に要求される宿主防御機構も特定されていないことに起因している。そこで、本発明者らは、この免疫回避エスケープ機構が複雑な病原体に対し十二分な予防効果を発揮するワクチン法を確立するためには、これまでのワクチン戦略を抜本的に見直し、感染免疫の分子論的基盤に立脚した総合的な研究を展開していく必要があると考え、このDNAワクチンの技術を試みた。
【0012】
これまで、本発明者らは、トキソプラズマ、リーシュマニア、クルーズトリパノソーマ、マラリア等の細胞内寄生原虫などの感染において、初期ならびに後期感染防御に関わる免疫細胞集団が異なることを明らかにした。また、従来のワクチン法ではなし得なかった任意の免疫応答の特異的防御ならびに誘導をフュージョン(融合)DNAワクチンおよびIL−12、IL−15等のサイトカイン遺伝子とのコンビネーションDNAワクチンを用いることにより、病原体のエスケープ機構の相違に対応した予防・治療法を提案している(特許文献1)。これらのワクチン技術は、任意の免疫応答を誘導できることが最大の利点であり、従来のワクチンの問題点を克服できうる有用な手法であると考えられる。
【0013】
ところで、ほとんどの癌細胞を免疫学的に排除するためには、CD8+T細胞(キラーT細胞)が必須の関わりを持つことは周知の事実であり、そのためのキラーT細胞(CTL)の認識の対象となる癌抗原のエピトープも多数同定されている。しかしながら、それらのエピトープペプチドを用いた癌免疫治療の成功例は皆無に近い。これは、癌患者の生体内ではそれらのエピトープに対応するCD4+T細胞は誘導できるが、キラーT細胞が誘導されにくいのが原因である。例えば、メラノーマ抗原に対して特異的にキラーT細胞を活性化させるためには、その抗原ペプチドを抗原提示細胞のMHCクラスI分子に提示させることが必須である。しかしながら、そのためには、抗原を細胞質のプロテアソームで処理させることが前提となる。
【0014】
そこで、本発明者らは、プロテアソームに導くTag(誘導)分子であるユビキチンをコードする遺伝子を癌抗原遺伝子と結合させてユビキチン遺伝子結合癌抗原遺伝子を得、この結合遺伝子を遺伝子銃で細胞質内に直接導入することにより、細胞質内で癌抗原とユビキチンの融合タンパク質を産生させて、その癌抗原に特異的なキラーT細胞を主体とする強力な抗癌腫瘍免疫を誘導させることが可能な癌遺伝子ワクチンを作製した(特許文献2)。この癌遺伝子ワクチンは、リコンビナントタンパク質ワクチンや病原体タンパク質を用いたワクチンとは異なり、頻回投与によってもアナフィラキシーショックを引き起こす可能性が低く、安全性に優れており、またリコンビナントタンパク質/サイトカインワクチンに比べ精製・調製が簡便でかつ経済的であるという効果がある。
【0015】
しかし、癌抗原は、同種の癌/腫瘍でも個体差があり、また同定されていない癌も多いこと、癌細胞に対する主たる攻撃細胞はキラーT細胞(CTL)であるが、CTLは癌細胞上の主要組織適合性抗原(MHC)クラスI分子(ヒトではHLA−A、B、C)に提示された癌抗原ペプチドを認識したうえで癌細胞を攻撃するが、癌が悪性化するほどMHCクラスI分子が発現されなくなるので、それらの癌細胞はCTLのターゲットにならないこと、また、癌抗原に個体差がない場合でも、MHCクラスI分子が異なれば、各々の個体のMHCクラスI分子が異なった癌抗原ペプチドを提示する必要があることから、ペプチド抗原を用いた免疫療法は、各々の個体に対応するテイラーメイド的な癌抗原ペプチドの同定を必要とする。したがって、薬剤耐性癌や転移癌に対しては免疫学的アプローチの必要性が指摘されているが、困難を極めている。
【0016】
以上の如く、癌細胞を直接のターゲットとした免疫療法の確立は非常に困難であることから、近年、免疫学的治療の方向性として、癌組織の栄養血管のブロックまたは新生阻止が有力な手段として想定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2006−151813号公報
【特許文献2】特開2006−96663号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Saadoun, S., et., Nature [Vol. 434] 7 April, 2005, pp. 786-792
【非特許文献2】Pan, O., et al.,Cancer Cell 11, 53-67, January 2007
【非特許文献3】Caunt, M., et al., Cancer Cell 13,331-342, April 2008
【非特許文献4】Mailhos, C., et al., Differentiation(2001) 69:135-144
【非特許文献5】Hamzah, J., et., Vol453/15 May 2008/doi:10.1038/nature06868
【非特許文献6】P. Seth, et al. Biochem. and Biopgys.Communications 332 (2005) 533-541
【非特許文献7】Gao, D/, et al., SCIENCE Vol. 319 11 Jan 2008, pp. 195-198
【非特許文献8】Sambrook, et al.,: Molecular Cloning:A Laboratory Manual, Third Ed., Cold Spring Harbor Laboratory (2001)
【非特許文献9】別冊実験医学、遺伝子治療の基礎技術、羊土社、1996
【非特許文献10】別冊実験医学、遺伝子導入&発現解析実験法、羊土社、1997
【非特許文献11】日本遺伝子治療学会編、遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス、1999
【非特許文献12】別冊実験医学、遺伝子導入&発現解析実験法、羊土社、1994
【非特許文献13】http://rsb.info.nih.gov/ij
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
そこで、本発明者らは、癌新生血管のブロックまたは新生に関連する遺伝子について鋭意研究した結果、特にプロテアソームへ導くTag(誘導)分子であるユビキチンをコードするユビキチン遺伝子と、癌組織の栄養血管新生に関連する遺伝子とを結合したユビキチン融合(フュージョン)遺伝子を用いたDNAワクチンが、癌組織の栄養血管ブロックし、癌組織の発育抑制/退縮させることを見出して、この発明を完成した。
【0020】
したがって、この発明は、ユビキチンをコードするユビキチン遺伝子と、癌新生血管形成関連遺伝子をコードする対遺伝子とを融合させたユビキチン融合遺伝子を提供することを目的としている。
【0021】
なお、本明細書において使用する用語「対遺伝子」は、ユビキチンをコードするユビキチン遺伝子と結合して融合遺伝子を形成する癌新生血管形成関連遺伝子をコードする遺伝子を意味するものとする。また、本明細書において、「癌」または「腫瘍」という用語は、特に癌または腫瘍に限定した意味で個別に使用されているのではなく、両者はいずれも互換できる意味で使用されているものとする。
【0022】
また、この発明は、好ましい態様として、MHCクラスI分子の発現が実質的に低下/欠如している悪性度の高い腫瘍に対しても強い抗腫瘍免疫を誘導することができるユビキチン融合遺伝子を提供することを目的としている。
【0023】
この発明のさらに好ましい別の態様として、上記対遺伝子がアクアポリン−1(AQP−1)遺伝子、ニューロピリン(NRP)遺伝子、Dll−4遺伝子、Rgs5遺伝子、Robo−4遺伝子またはId1遺伝子であるユビキチン融合遺伝子を提供することを目的としている。
【0024】
この発明は、別の形態として、上記ユビキチン融合遺伝子を含む形質転換体を提供することを目的としている。
この発明は、別の形態として、上記ユビキチン融合遺伝子を含有するユビキチン融合遺伝子のDNAワクチンを提供することを目的としている。
【0025】
この発明は、別の好ましい態様として、上記対遺伝子がアクアポリン−1(AQP−1)遺伝子、ニューロピリン(NRP)遺伝子、Dll−4遺伝子、Rgs5遺伝子、Robo−4遺伝子またはId1遺伝子であるユビキチン融合遺伝子のDNAワクチンを提供することを目的としている。
【0026】
さらに、この発明は、別の形態として、上記ユビキチン融合遺伝子を含むDNAワクチンを投与することによって癌・腫瘍の新生血管をブロックならびに/もしくは新生阻止することからなる癌・腫瘍の予防または治療方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記目的を達成するために、この発明は、ユビキチンをコードするユビキチン遺伝子と、癌新生血管の形成関連遺伝子をコードする対遺伝子とを融合させたユビキチン融合遺伝子を提供する。
【0028】
また、この発明は、好ましい態様として、MHCクラスI分子の発現が実質的に低下/欠如している悪性度の高い腫瘍に対しても強い抗腫瘍免疫を誘導することができるユビキチン融合遺伝子を提供する。
【0029】
この発明は、さらに好ましい別の態様として、上記対遺伝子がアクアポリン−1(AQP−1)遺伝子、ニューロピリン(NRP)遺伝子、Dll−4遺伝子、Rgs5遺伝子、Robo−4遺伝子またはId1遺伝子であるユビキチン融合遺伝子を提供する。
【0030】
この発明は、別の形態として、ユビキチン遺伝子と、上記対遺伝子とを結合させた上記ユビキチン融合遺伝子を含む形質転換体を提供する。
この発明は、別の形態として、上記ユビキチン融合遺伝子を含有するユビキチン融合遺伝子のDNAワクチンを提供する。
【0031】
この発明は、別の好ましい態様として、上記対遺伝子がアクアポリン−1(AQP−1)遺伝子、ニューロピリン(NRP)遺伝子、Dll−4遺伝子、Rgs5遺伝子、Robo−4遺伝子またはId1遺伝子であるユビキチン融合遺伝子のDNAワクチンを提供する。
【0032】
この発明は、さらに別の形態として、上記ユビキチン融合遺伝子を含むDNAワクチンを投与することによって癌・腫瘍の新生血管をブロックならびに/もしくは新生阻止することからなる癌・腫瘍の新生血管のブロックならびに/もしくは新生阻止方法と共に、この方法による癌・腫瘍の予防または治療方法を提供する。
【発明の効果】
【0033】
この発明によれば、癌・腫瘍の新生栄養血管に発現するアクアポリン−1(aquaporin-1:AQP−1)などの癌新生血管形成関連遺伝子(つまり対遺伝子)と、ユビキチン遺伝子とを融合させたユビキチン融合遺伝子は、DNAワクチンを行うと、癌組織中の癌細胞上の主要組織適合性抗原(MHC)クラスI分子の発現が低下/欠如しているB16F10メラノーマなどの悪性度の高い癌種に対しても強い抗腫瘍免疫の誘導を行うことができるという効果がある。
【0034】
つまり、この発明のDNAワクチンは、癌組織中の癌細胞上のMHCクラスI分子の発現が低下/欠如しているような悪性度の高い腫瘍・癌に対しても有効であり、このワクチンで誘導されるCD8キラーT細胞が認識する標的分子は、癌細胞それ自身ではなく、癌細胞を栄養する新生血管に発現する分子であるところから、例えば、AQP−1特異的CTL(CD8キラーT細胞)がMHCクラスIと共にAQP−1を発現している新生栄養血管を破壊することによる“兵糧攻め”効果を誘導するという効果を示すことができる。
なお、AQP−1等の癌新生血管関連遺伝子は、癌の種類、および、癌宿主の個体差を越えて発現している場合が多い。また、悪性度の高い腫瘍ではMHCクラスI分子の発現が実質的に低下または欠如しているのに対して、新生栄養血管においてはMHCクラスI分子が常に発現していることから、かかる新生栄養血管を標的とするこの発明に係るDNAワクチンは、各々の個体のMHCクラスI分子の対応するテイラーメイド的な抗原ペプチドの同定を必要としないユニバーサル・ワクチンとして利用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ユビキチン遺伝子とアクアポリン−1(aquaporin-1:AQP−1)遺伝子との融合遺伝子を含むプラスミド構築体の構成を示す図。(実施例1)
【図2】ユビキチン遺伝子とニューロポリン−1(Neuropilin-1:NRP−1)遺伝子との融合遺伝子を含むプラスミド構築体の構成を示す図。(実施例2)
【図3】ユビキチン遺伝子とユビキチン−ニューロポリン−2(Neuropilin-1:NRP−2)遺伝子との融合遺伝子を含むプラスミド構築体の構成を示す図。(実施例3)
【図4】ユビキチン遺伝子とRobo−4(roundabout-4:Robo−4)遺伝子との融合遺伝子を含むプラスミド構築体の構成を示す図。(実施例4)
【図5】ユビキチン遺伝子とRGS−5(GProtein Signalling 5)遺伝子との融合遺伝子を含むプラスミド構築体の構成を示す図。(実施例5)
【図6】ユビキチン遺伝子とDll−4(delta-like4)遺伝子との融合遺伝子を含むプラスミド構築体の構成を示す図。(実施例6)
【図7】ユビキチン遺伝子とId−1(inhibitorof differentiation-1/DNA binding-1)遺伝子遺伝子との融合遺伝子を含むプラスミド構築体の構成を示す図。(実施例7)
【図8A】pcDNA、pAQP−1またはpUB−AQP−1をトランスフェクトしたCOS−7細胞ライセート(lysate)からの抽出タンパクの抗His抗体を用いたウェスタンブロット解析図。(実施例8)
【図8B】pAQP−1またはpUB−AQP−1をトランスフェクトして抽出したCOS−7細胞ライセートのウェスタンブロット解析図。(実施例8)
【図8C】図8Bのウェスタンブロットのデジタル・イメージ・アナライザー(digital image analyzer)での解析結果を示す図。(実施例8)
【図9】癌遺伝子ワクチン(pUB−AQP−1)のマウスメラノーマに対する治療的効果を示す図(実施例16)。図9Aは腫瘍サイズの経時的変化を示し、図9Bは生存率を示す図である。
【図10】癌遺伝子ワクチン(pUB−AQP−1)のマウスメラノーマに対する予防的ワクチン効果を示す図(実施例17)。図10Aは腫瘍サイズの経時的変化を示し、図10Bは生存率を示す図である。
【図11】pAQP−1またはpUB−AQP−1免疫マウスの脾臓細胞を各抗体で染色した結果を示す(実施例18)。図11Aは、FACSフローサイトメーターで採集したマウス脾臓細胞のCellQuestソフトウエアでの分析結果を示す図である。図11Bは、マウス脾臓細胞のPMA/Ionomycinでの刺激によるCD8陽性T細胞のIFN−γ、パーフォリンまたはグランザイムB発現の細胞内FACS法による解析結果を示す図である。
【図12A】樹状細胞ラインDC2.4(pUB−AQP−1をトランスフェクト後に放射線照射)、遺伝子免疫したマウスの脾臓中のCD8+T細胞、およびCD8T細胞と上記DC2.4の共培養によるIFN−γ産生のELISA測定結果を示す図。(実施例19−1)
【図12B】樹状細胞ラインDC2.4(pUB−AQP−1をトランスフェクト後に放射線照射)、遺伝子免疫したマウスの脾臓中のCD8+T細胞、およびCD8T細胞と上記DC2.4の共培養による細胞増殖反応を示す図。(実施例19−2)
【図13】CD4T細胞あるいは、CD8T細胞を除去した遺伝子免疫マウスにB16F10メラノーマを接種し抗腫瘍効果に対するT細胞サブセット除去の効果を判定した図(実施例20)。図13Aは腫瘍サイズの経時的変化を示し、図13Bは生存率を示している。
【図14】マウスにおける腫瘍血管組織像を示す図(実施例21)。図14Aはコントロールを示し、図14Bはユビキチン−アクアポリン−1融合遺伝子免疫マウスにおける腫瘍血管組織像を示している。
【図15A】図14Aの画像をImageJを用いて解析し血管の直径をカウントし、血管径毎にコントロール群における腫瘍内栄養血管の一定面積あたりの数(density)を算出した結果を示す図。(実施例21)
【図15B】図14Bの画像をImageJを用いて解析し血管の直径をカウントし、血管径毎に遺伝子免疫群における腫瘍内栄養血管の一定面積あたりの数(density)を算出した結果を示す図。(実施例21)
【発明を実施するための形態】
【0036】
この発明に係るユビキチン融合遺伝子は、ユビキチンをコードするユビキチン遺伝子と、癌新生血管形成関連遺伝子をコードする対遺伝子とを融合させたユビキチン融合遺伝子である。このように、この発明のユビキチン融合遺伝子は、癌/腫瘍の新生栄養血管に発現するアクアポリン−1(aquaporin-1:AQP−1)などの遺伝子を対遺伝子として、抗原を処理するブロテアソームに導くTag分子であるユビキチンをコードするユビキチン遺伝子に結合させることによって、癌新生血管に発現する分子を標的にすることができる。また、このユビキチン融合遺伝子は、MHCクラスI分子の発現が実質的に低下/欠如している悪性度の高い腫瘍に対しても抗腫瘍免疫を誘導することができるという特長を有している。
【0037】
この発明におけるユビキチンは、タンパク質の分解提示シグナルの機能等を有する保存性の高いタンパク質であり、ユビキチン遺伝子は、細胞内に生じた異常タンパク質を排除する他、様々な生物機能に関係しているユビキチンタンパク質をコードする遺伝子である。
本明細書において使用する用語「ユビキチン遺伝子」は、特段の場合を除いて、ユビキチンをコードする遺伝子のプロモーター、ユビキチンをコードする構造遺伝子、ならびにこれら両者を含むDNA配列をも併せて意味して使用されているものとする。
【0038】
一方、この発明のユビキチン融合遺伝子において、ユビキチン遺伝子と結合する融合パートナーである対遺伝子は、癌新生血管の形成に関与する因子であればいずれでもよく、かかる対遺伝子としては、例えば、アクアポリン−1(AQP−1)遺伝子、ニューロピリン(NRP)遺伝子、Dll−4遺伝子、Rgs5遺伝子、Robo−4遺伝子またはId1遺伝子などが挙げられる。
【0039】
かかる対遺伝子のうち、アクアポリン−1(Aquaporin-1:AQP−1)遺伝子は、水チャンネルとして生体内での水透過に関連するファミリー遺伝子の一員であって、細胞膜に存在する細孔を持ち、水分子だけを選択的に通過させることができる膜タンパク質をコードする遺伝子である。このAQP−1は、最近の研究では、癌の新生血管生成にも関連しているとの報告がなされている(非特許文献1)。
【0040】
ニューロピリン(Neuropilin:NRP)遺伝子には、ニューロピリン−1(NRP−1)遺伝子およびニューロピリン−2(NRP−2)遺伝子があり、NRP−1遺伝子は、血管新生に関与する血管内皮増殖因子VEGFのサブタイプとして、生物学的活性が強いVEGF−Aの塩基性ドメインに特異的に会合する細胞質タンパク質であるニューロピリン−1(NRP−1)をコードする遺伝子である。ニューロピリン−1(NRP−1)は、ニューロン・ガイダンスを規制する機能を有している(非特許文献2)。一方、ニューロピリン−2(NRP−2)遺伝子は、アクソン・ガイダンス受容体(axon-guidance receptor)として同定されたが、腫瘍細胞転移に関与する因子としても機能している可能性が示唆されている(非特許文献3)。
【0041】
Dll−4(Delta-like-4)遺伝子は、血管形成部位に発現する内皮特異的ノッチ(Notch)リガンドをコードする遺伝子である(非特許文献4)。Rgs5遺伝子は、マウスにおいて異常腫瘍血管形態に関与するマスタージーンとして同定されたGプロテイン・シグナル伝達規制因子(Rgs5)である(非特許文献5)。Robo−4遺伝子は腫瘍内皮細胞移動に重要な機能を有している(非特許文献6)。Id1遺伝子は、多様な機能を有していることが知られているが、かかる機能の一つとして、癌新生栄養血管ならびに転移に関連する機能も有しているとの報告もある(非特許文献7)。
【0042】
この発明に使用するそれぞれの遺伝子の構築は、当該技術分野における常套手段によって行うことができる。例えば、遺伝子の既知配列をデータベースより検索し、その配列両端についてそれぞれプライマーを合成し、腫瘍細胞よりフェノール・クロロホルム法によりRNAを抽出し、そのRNAをテンプレートとして、RT−PCR法を用いて逆転写し、遺伝子を構築する。ここで、PCR法とは、DNA鎖の特定部位のみ繰り返し複製する反応で、微量のDNAを100万倍程度まで増幅できる。複製反応のプライマーとしては、増幅部両端の塩基配列を含む合成オリゴヌクレオチオを用いて、耐熱性DNAポリメラーゼにより行う。また、RT−PCR法とは、第一回目の反応に逆転写酵素を用いることにより、RNAからDNAを合成し、その後は通常用いられるPCR法によって、特定のDNA部位を増幅する方法である。
【0043】
この発明に係るユビキチン融合遺伝子は、例えば、上記の構築したそれぞれの遺伝子の融合対象のポリヌクレオチドが連結された核酸と、選択マーカー遺伝子と、適切な宿主内で複製可能な任意のベクター、例えば、プラスミド、ファージ、ウイルスなどとから構成される融合遺伝子調製用ベクターを用いて、文献既知の方法で構築することができる。かかる融合遺伝子調製用ベクターは、例えば、融合対象の1つのポリヌクレオチドと、選択マーカー遺伝子と、融合対象の他のポリヌクレオチドと、適切な宿主内で複製可能な任意のプラスミドとを、文献記載の方法(例えば、非特許文献8参照)に記載の慣用の遺伝子工学的手法によって連結させることにより構築することができる。この発明に使用する融合遺伝子調製用ベクターには、上記の構成因子の他に、ターミネーターおよびエンハンサーなども含んでいてもよい。また、これらの因子は、いずれもそれぞれ機能的に作用するように連結するのがよく、それぞれの挿入位置は、ベクターの複製に関与していない領域であればどこの領域であってもよく、通常はベクター内のマルチクローニングサイトが利用される。
【0044】
上記融合遺伝子調製用ベクターの構築に使用可能な選択マーカー遺伝子としては、例えば、ストレプトマイシン、スペクチオマイシン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール等の抗生物質などの薬剤に感受性であるポリペプチドをコードしたポリヌクレオチド、例えば、rpsL、rpsE、rpoB、gyrAなどが挙げられる。なお、融合遺伝子の形成の際の検出感度ならびに選択性の観点から、rpsL遺伝子、rpsE遺伝子等の薬剤感受性マーカー遺伝子が好ましい。
【0045】
また、この発明において使用することができるベクターは、この発明の目的を阻害しないものであって、宿主細胞内で複製可能なものであればいずれも使用することができるが、宿主細胞の種類によって適宜選択するのがよい。かかるベクターとしては、例えば、プラスミド、バクテリオファージなどが使用できる。宿主が大腸菌である場合は、例えば、pBR322、pUC19、pHSG396、pHSG399、pCYC184ならびにこれらの誘導体などの慣用のプラスミドベクターが挙げられ、また宿主が酵母である場合は、例えば、pYAC誘導体などの慣用のプラスミドベクターなどが挙げられる。
【0046】
この発明によれば、上記のようにして構築した融合遺伝子調製用ベクターを宿主細胞に導入することによって形質転換体を作製することができる。宿主細胞としては、例えば、大腸菌などの細菌細胞、酵母細胞、動植物細胞などの当該技術分野で慣用されている細胞であればいずれの細胞も使用することができる。形質転換の方法としては、当該技術分野で慣用されている方法であればいずれの方法も使用することができ、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法などが使用できる。この方法により融合遺伝子調製用ベクターを保持した細胞を形質転換体として得ることができる。
【0047】
次いで、得られた形質転換体を導入した細胞を適切な培地で培養することによって融合遺伝子を含む核酸を有する細胞を得ることができる。つまり、その形質転換体を導入した細胞を、選択マーカー遺伝子である薬剤感受性マーカー遺伝子に対応する薬剤の存在下ならびに不存在下の培地で培養することによって、該薬剤に抵抗性を有する細胞、つまり該マーカー遺伝子がコードするポリペプチドの機能に相反する機能を含有する細胞を選別することができる。このようにして得られた融合遺伝子を含有した核酸は、例えば、上記マニュアルに記載の慣用の核酸単離法などによって抽出単離することができる。
【0048】
上記したユビキチン融合遺伝子は、通常非ウイルスベクターあるいはウイルスベクターに発現可能に挿入された形態で用いられる。かかる発現可能な形態としては、例えば、DNAワクチンが挙げられる。
【0049】
この発明に係るDNAワクチンは、上記ユビキチン融合遺伝子を、一般には非ウイルスベクターまたはウイルスベクターに発現可能なように挿入することにより調製することができる。なお、これらの非ウイルスベクターおよびウイルスベクターの調製法、投与法などは当該技術分野で既に公知である(例えば、非特許文献9、10および11参照)。
【0050】
非ウイルスベクターとしては、哺乳動物の生体内で目的遺伝子を発現させることのできるベクターであればいずれの発現ベクターであっても使用することができ、例えばpcDNA3.1、pZeoSV、pBK−CMVなどの発現ベクターが挙げられる。ウイルスベクターとしては、組換えアデノウイルス、レトロウイルス等のウイルスベクターが代表的なものであり、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40等のDNAウイルスまたはRNAウイルスも挙げることができる。これらのうち、感染効率が高いことから、アデノウイルスベクター系を用いることが好ましい。
【0051】
この発明に係るDNAワクチンは、病気罹患の際に免疫学的により好ましい免疫応答のできる免疫システムが達成されるような、あらゆる組成物をも含むことができる。通常、ワクチンは、免疫決定要因と、この免疫決定要因の応答を、迅速強化するような作用を呈する免疫助成剤とを含み、免疫決定要因は免疫助成剤と組み合わせて用いるのが好適である。免疫助成剤は、通常用いられる、例えば、フロインド(Freund)複合体助成剤や、フロインド非複合体助成剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ただし、この発明のDNAワクチンは、免疫助成剤を用いなくとも効能を有するという効果も有している。
【0052】
この発明に係るDNAワクチンにおける遺伝子の含有量は、種々の要因により適宜変更できるが、マウス一匹(20g)当たり、1μg〜20μg、好ましくは、5μg〜10μgであるのがよい。この範囲外になるにつれワクチン効果が減弱するという傾向が見られる。また、ユビキチン遺伝子と対遺伝子とは、1:1で混合させるのが好ましいが、種々の条件により適宜変更できる。
【0053】
この発明のDNAワクチンをヒトなどへ導入する方法としては、DNAワクチンを直接体内に導入するin vivo法やヒトからある種の細胞を取り出して体外でDNAワクチンを該細胞に導入しその細胞を体内に戻すex vivo法などがある(例えば、非特許文献11参照)。in vivo法としては、例えば本発明のDNAワクチンを適当な溶剤(PBS等の緩衝液、生理食塩水、滅菌水等)に溶解した後、必要に応じてフィルター等で濾過滅菌し、次いで無菌的な容器に充填して注射剤を調製して、ヒトへ注射することにより投与される。注射剤には必要に応じて慣用の担体などを添加してもよい。また、脂質二重膜で作られたリポソーム中にDNAワクチンを封入し、さらにこのリポソームと不活化したセンダイウイルス(Hemagglutinating
Virus of Japan : HVJ)とを融合させたHVJ−リポソームとして投与することもできる(例えば、非特許文献9、12)。本発明のDNAワクチンは、筋肉、皮膚、鼻腔内等に投与することができる。ex vivo法としては、リポフェクション法、リン酸−カルシウム共沈法、DEAE−デキストラン法、微小ガラス管などを用いて細胞内へDNAワクチンを直接注入する方法などが挙げられる。
【0054】
この発明のDNAワクチンの投与量は、投与する対象、投与方法、投与形態などによって異なるが、通常成人1人当たり対象タンパク質をコードする目的遺伝子として約500μg〜約50mgの範囲、好ましくは約500μg〜1mgの範囲であるのがよい。
【0055】
この発明に係るDNAワクチンは、癌新生血管に発現する分子を標的とすることができる。つまり、この発明のDNAワクチンによって誘導されたCTLの標的は、癌抗原そのものではなく、新生栄養血管にMHCクラスI分子と共に発現される分子である。そのため、この発明のDNAワクチンは、癌・腫瘍の種類には限定されず、また、MHCクラスI分子の発現が実質的に低下/欠如している悪性度の高い癌・腫瘍に対しても、その組織内の新生栄養血管を破壊することにより、癌細胞の増殖抑制ならびに死滅を誘導することができることが、免疫組織学的解析により明らかになった。なお、発明に係るDNAワクチンは、癌新生血管のみならず新生リンパ管にも発現している分子を標的としている可能性があり、抗腫瘍効果として相乗効果を示す可能性が高い。
【0056】
以上説明したように、この発明に係る癌DNAワクチンは、癌新生栄養血管に発現する癌新生血管の形成に関連する分子を標的とすることができることから、主に、腫瘍疾患、具体的には、肝癌、神経膠腫、神経芽細胞腫、肉腫、悪性黒色腫(メラノーマ)および肺、結腸、乳房、膀胱、卵巣、精巣、前立腺、睾丸腫瘍、子宮、頚部、膵臓、胃、大腸、小腸、皮膚、その他の器官の癌を包含する多様なタイプの癌や腫瘍の治療あるいは予防に有効に使用できる。
【0057】
なお、本明細書では、ユビキチン遺伝子の融合パートナーである対遺伝子およびユピキチン融合遺伝子としては、AQP−1遺伝子およびUB−AQP−1融合遺伝子を例として説明する。ただし、これらのAQP−1遺伝子およびUB−AQP−1融合遺伝子についての説明は、ニューロピリン(NRP)遺伝子、Dll−4遺伝子、Rgs5遺伝子、Robo−4遺伝子ならびにId1遺伝子などのその他の新生栄養血管関連遺伝子およびそれらとユビキチン遺伝子との融合遺伝子についても実質的に同様に適用できるものと理解される。
【0058】
以下、この発明を実施例により更に詳細に説明するが、この発明は下記実施例によって何らその範囲が限定されるものではなく、また下記実施例は、この発明の範囲を限定するものではなく、この発明の具体的な例示に過ぎないものである。さらに、この発明は、下記実施例から当業者が容易に類推することができるあらゆる改変、変更などもその範囲に包含するものと理解することができる。
【0059】
〔実施例1〕
実施例1はユビキチン−アクアポリン−1融合遺伝子を作製した例を示す。
(1−1:ユビキチン遺伝子の作製)
ユビキチン遺伝子は、下記プライマーを用いて、マウス筋肉の全cDNAから当該技術分野での常套手法であるRT−PCR法で増幅して作製した。
センスプライマーの塩基配列:
5’-gcatcgctagccacatttgttaacaggtcaaaatgcagatc-3’(配列番号1)
アンチセンスプライマーの塩基配列:
5’-atggatccttaatgatgatgatgatgatgctcgagagcggccgcaccgcggaggcgaaggaccag-3’
(配列番号2)
【0060】
(1−2:アクアポリン−1遺伝子の作製)
アクアポリン−1(AQP−1)遺伝子は、下記プライマーを用いて、マウス皮膚の全cDNAから当該技術分野での常套手法であるRT−PCR法で増幅して作製した。
センスプライマーの塩基配列:
5’-gcatcgctagcccgcggtgtcatggccagtgaaatcaagaagaag-3’(配列番号3)
アンチセンスプライマーの塩基配列:
5’-gtcatctcgagtttgggcttcatctccaccctg-3’(配列番号4)
【0061】
(1−3:ユビキチン遺伝子をコードするpUBベクターの構築)
ユビキチン遺伝子をコードするベクターpUBは、ユビキチンのPCR産物を切断酵素Nhe IとBamH Iで処理した後、ベクターpcDNA3.1(−)(invitrogen)のNhe IとBamH Iとの切断部位に導入して作製した。
【0062】
(1−4:ユビキチン−アクアポリン−1融合遺伝子の作製)
ユビキチン−アクアポリン−1(pUB−AQP−1)融合遺伝子をコードするベクターpUB−AQP−1は、アクアポリン−1のPCR産物を切断酵素Sac IIとXho Iで処理した後、上記ベクターpUBのSac IIとXho Iとの切断部位に導入して作製した。ユビキチン−アクアポリン−1融合遺伝子の塩基配列は配列番号5に示すとおりである(図1)。
【0063】
〔実施例2〕
本実施例はユビキチン−ニューロピリン−1融合遺伝子を作製した例を示す。
(2−1:ニューロピリン−1遺伝子の作製)
ニューロピリン−1(Neuropilin-1:NRP−1)遺伝子は、下記プライマーを用いて、マウス筋肉の全cDNAから当該技術分野での常套手法であるRT−PCR法で増幅して作製した。
センスプライマーの塩基配列:
5’-gcatcgctagcccgcggtgtcATGGAGAGGGGGCTGCCG-3’(配列番号6)
アンチセンスプライマーの塩基配列:
5’-gtcatctcgagcgcctctgagtaattactctgtgg-3’(配列番号7)
【0064】
(2−2:ユビキチン−ニューロピリン−1融合遺伝子の作製)
ユビキチン−ニューロピリン−1融合遺伝子をコードするベクターpUB−NRP−1は、ニューロピリン−1のPCR産物を切断酵素Sac IIとXho Iで処理した後、上記ベクターpUBのSac IIとXho Iとの切断部位に導入して作製した。ユビキチン−ニューロピリン−1融合遺伝子の塩基配列は配列番号8に示すとおりである(図2)。
【0065】
〔実施例3〕
本実施例はユビキチン−ニューロピリン−2融合遺伝子を作製した例を示す。
(3−1:ニューロピリン−2遺伝子の作製)
ニューロピリン−2(Neuropolin-2:NRP−2)遺伝子は、下記プライマーを用いて、マウス筋肉の全cDNAから当該技術分野での常套手法であるRT−PCR法で増幅して作製した。
センスプライマーの塩基配列:
5’-gcatcgctagcccgcggtgtcATGGATATGTTTCCTCTTACCTGGG-3’(配列番号9)
アンチセンスプライマーの塩基配列:
5’-gtcatctcgagtgcctccgagcagcacttctg -3’(配列番号10)
【0066】
(3−2:ユビキチン−ニューロピリン−2融合遺伝子の作製)
ユビキチン−ニューロピリン−2融合遺伝子をコードするベクターpUB−NRP−2は、ニューロポリン−2のPCR産物を切断酵素Sac IIとXho Iで処理した後、上記ベクターpUBのSac IIとXho Iとの切断部位に導入して作製した。ユビキチン−ニューロピリン−2融合遺伝子の塩基配列は配列番号11に示すとおりである(図3)。
【0067】
〔実施例4〕
本実施例はユビキチン−Robo−4融合遺伝子を作製した例を示す。
(4−1:Robo−4遺伝子の作製)
Robo−4(roundabout-4)遺伝子は、下記プライマーを用いて、マウス筋肉の全cDNAから当該技術分野での常套手法であるRT−PCR法で増幅して作製した。
センスプライマーの塩基配列:
5’-catcGCGGCCGCccgcggtgtcATGGGACAAGGAGAGGAGCCGAGAGCA-3’(配列番号12)
アンチセンスプライマーの塩基配列:
5’-tcatggtaccttagtgatggtggtgatggtgggaggaatcaccagccttgggcacag-3’(配列番号13)
【0068】
(4−2:ユビキチン−Robo−4融合遺伝子の作製)
ユビキチン−Robo−4融合遺伝子をコードするベクターpUB−Robo−4は、Robo−4のPCR産物を切断酵素Sac IIとAsp718で処理した後、上記ベクターpUBのSac IIとAsp718との切断部位に導入して作製した。ユビキチン−Robo−4融合遺伝子の塩基配列は配列番号14に示すとおりである(図4)。
【0069】
〔実施例5〕
本実施例はユビキチン−RGS−5融合遺伝子の作製を示す例である。
(5−1:RGS−5遺伝子の作製)
RGS−5(regulator of G
Protein Signalling 5:RGS−5)遺伝子は、下記プライマーを用いて、マウス筋肉の全cDNAから当該技術分野での常套手法であるRT−PCR 法で増幅して作製した。
センスプライマーの塩基配列:
5’-gcatcgctagcccgcggtgtcATGTGTAAGGGACTGGC-3’(配列番号15)
アンチセンスプライマーの塩基配列:
5’-gtcatctcgagcttgattagctccttataaaattcagagc-3’(配列番号16)
【0070】
(5−2:ユビキチン−RGS−5融合遺伝子の作製)
ユビキチン−RGS−5融合遺伝子をコードするベクターpUB−RGS−5は、RGS−5のPCR産物を切断酵素Sac IIとXho Iで処理した後、上記ベクターpUBのSac IIとXho Iとの切断部位に導入して作製した。ユビキチン−RGS−5融合遺伝子の塩基配列は配列番号17に示すとおりである(図5)。
【0071】
〔実施例6〕
本実施例はユビキチン−Dll−4融合遺伝子を作製した例を示す。
(6−1:Dll−4遺伝子の作製)
Dll−4(Dll−like 4:Dll−4)遺伝子は、下記プライマーを用いて、マウス筋肉の全cDNAから当該技術分野での常套手法であるRT−PCR法で増幅して作製した。
センスプライマーの塩基配列:
5’-gcatcgctagcccgcggtgtcATGACGCCTGCGTCCCGGA-3’(配列番号18)
アンチセンスプライマーの塩基配列:
5’-gtcatctcgagtacctctgtggcaatcacacac-3’(配列番号19)
【0072】
(6−2:ユビキチン−Dll−4融合遺伝子の作製)
ユビキチン−Dll−4融合遺伝子をコードするベクターpUB− Dll−4は、Dll−4のPCR産物を切断酵素Sac IIとXho Iで処理した後、上記ベクターpUBのSac IIとXho Iとの切断部位に導入して作製した。ユビキチン−Dll−4融合遺伝子の塩基配列は配列番号20に示すとおりである(図6)。
【0073】
〔実施例7〕
本実施例はユビキチン−Id−1融合遺伝子を作製した例を示す。
(7−1:Id−1遺伝子の作製)
Id−1(inhibitor of
differentiation-1/DNA binding−1:Id−1)遺伝子は、下記プライマーを用いて、マウス筋肉の全cDNAから当該技術分野での常套手法であるRT−PCR法で増幅して作製した。
センスプライマーの塩基配列:
5’-atcgctagcccgcggtgtcATGAAGGTCGCCAGTGGCAGTG-3’(配列番号21)
アンチセンスプライマーの塩基配列:
5’-catctcgag gcgacacaagatgcgatcgtcg-3’(配列番号22)
【0074】
(7−2:ユビキチン−Id−1融合遺伝子の作製)
ユビキチン−Id−1融合遺伝子をコードするベクターpUB−Id−1は、Id−1のPCR産物を切断酵素Sac IIとXho Iで処理した後、上記ベクターpUBのSac IIとXho Iとの切断部位に導入して作製した。ユビキチン−Id−1融合遺伝子の塩基配列は配列番号23に示す通りである(図7)。
【0075】
〔実施例8〕
実施例1で作製したユビキチン−アクアポリン−1(pUB−AQP−1)融合遺伝子が実際に細胞内で発現しているかどうかを、COS細胞にトランスフェクションしてウェスタンブロッテイングにて確認した。
ユビキチン−アクアポリン−1(pUB−AQP−1)融合遺伝子2μgを、COS細胞(200万個)に、リポフェクタミンを用いて各プラスミドをトランスフェクションした。トランスフェクションの24時間後、細胞ライセートを調製し、タンパク質15μgを用いてウエスタンブロッテイングした。ウエスタンブロッテイングでは、抗His体を第1抗体として、また抗マウスIgG(H+L)体を第2抗体として使用した。
トランスフェクションした12時間後、プロテアソーム阻害剤として、濃度10μMのMG−132を添加し、MG−132を添加12時間後細胞ライセートを調製した。このDC2.4細胞(200万個)に用量2μgのpUB−AQP−1をリポフェクタミンを用いてトランスフェクションした。トランスフェクションの6時間後、セレクションのために、G418を濃度500μg/mlの割合で培地に添加し、12〜18日後、G418耐性細胞クローンを単離し、トランスフェクションして、培養デイッシュをエクスパンションと解析のために分けた。その結果を図8A、8Bおよび8Cに示す。
【0076】
図8Aは、COS−7細胞(2x106)にリポフェクタミンを用いてpcDNA、pAQP−1またはpUB−AQP−1をトランスフェクトし、24時間後の細胞ライセート(lysate)から抽出した15μgのタンパクを抗His抗体を用いてウェスタンブロット法にて解析した結果を示している。
【0077】
図8Bは、COS−7細胞にpAQP−1またはpUB−AQP−1をトランスフェクト後12時間後に、プロテアソーム阻害剤(MG−132)10μM添加(+)あるいは、無添加(−)、さらに12時間後に細胞ライセートを抽出しウェスタンブロット(抗His抗体及び、抗HSP90抗体)を行った結果を示している。
【0078】
図8Cは、図8Bのウェスタンブロットをデジタル・イメージ・アナライザー(digital image analyzer)で解析し、AQP−1タンパク量をHSP90タンパク量で除した相対比を示す。pUB−AQP−1のトランスフェクションはpAQP−1をトランスフェクトした場合よりもAQP−1のタンパク量が減少しており、その減少は抗プロテアソーム阻害剤を添加すると認められなくなる。即ち、pUB−AQP−1コンストラクトのトランスフェクトではユビキチン・プロテアソーム経路によるタンパク質の分解が昂進していることを示している。
【0079】
〔実施例9〕
本実施例は、実施例1で作製したユビキチン−アクアポリン−1融合遺伝子を含有する癌遺伝子ワクチン(UB−AQP−1)を調製した例を示す。
上記ユビキチン−アクアポリン−1融合遺伝子を含有する発現プラスミドを大腸菌DH5αに形質転換し、LB培地500ml中で37℃の恒温槽にて一晩(〜16時間)振盪培養を行った。
次いで、4℃、12,000rpmにて10分間遠心分離を行った後、得られた上清を除去し、沈殿物である菌体成分を50mM Tris−HCl(pH8.0)/10mM EDTA溶液10mlに溶解した。続いて、アルカリ溶液200mM NaOH/1%SDS溶液10mlにて菌体成分を溶菌した後、中和溶液3.1M酢酸カリウム(pH5.5)10mlにて中和して反応を止めた。
その後、600mM NaCl/10mM酢酸ナトリウム(pH5.0)30mlにて平衡化した核酸精製用陰イオン交換樹脂カラム(MARLIGEN BIOSCIENCE INC.製)に中和溶液を室温にて12,000rpmで10分間、遠心分離を行った上清を充填し、800mM NaCl/100mM酢酸カリウム溶液にてカラムを洗浄し、1.25M NaCl/100mM Tris−HCl(pH8.5)にて溶出して、所望の癌遺伝子ワクチン(UB−AQP−1)を調製した。
【0080】
〔実施例10〕
本実施例では、実施例2で作製したユビキチン−ニューロポリン−1融合遺伝子を含有する癌遺伝子ワクチン(UB−NRP−1)を、実施例9と実質的に同様にして処理して調製した。
【0081】
〔実施例11〕
本実施例では、実施例3で作製したユビキチン−ニューロポリン−2融合遺伝子を含有する癌遺伝子ワクチン(UB−NRP−2)を、実施例9と実質的に同様にして処理して調製した。
【0082】
〔実施例12〕
本実施例では、実施例4で作製したユビキチン−ニューロポリン−2ユビキチン−Robo−4融合遺伝子を含有する癌遺伝子ワクチン(UB−Robo−4)を、実施例9と実質的に同様にして処理して調製した。
【0083】
〔実施例13〕
本実施例では、実施例5で作製したユビキチン−RGS−5融合遺伝子を含有する癌遺伝子ワクチン(UB−RGS−5)を、実施例9と実質的に同様にして処理して調製した。
【0084】
〔実施例14〕
本実施例では、実施例6で作製したユビキチン−Dll−4融合遺伝子を含有する癌遺伝子ワクチン(UB−Dll−4)を、実施例9と実質的に同様にして処理して調製した。
【0085】
〔実施例15〕
本実施例では、実施例7で作製したユビキチン−Id−1融合遺伝子を含有する癌遺伝子ワクチン(UB−Id−1)を、実施例9と実質的に同様にして処理して調製した。
【0086】
〔実施例16〕
癌遺伝子ワクチン(pUB−AQP−1)のマウスメラノーマに対する治療的効果
実施例9で調製した癌遺伝子ワクチン(0.3mg/kg)およびその他の被験プラスミドを含むワクチンを、マウスメラノーマ(B16F10)を担癌した10週齢のC57BL/6(B6)雌マウスに対して、遺伝子銃を用いて、腹部皮下に導入し、2日おきに腫瘍サイズを観察した。尚、マウスは一群につき6匹を用い、担癌(challenge)した日をday0とした。担癌したメラノーマ細胞数は、マウス一匹当たり5×103個であった。遺伝子ワクチンの導入はday2より開始し、3日毎に計5回行った。その結果は図9Aおよび図9Bに示す。
【0087】
図9Aは、C57BL/6マウスにメラノーマ(melanoma)B16F10細胞(2x103個)を腹部皮下に移植後、2日目より遺伝子免疫(コントロールベクター、pAQP−1、UB−AQP−1)を開始し、3日毎に計5回施行した。経時的に腫瘍サイズを評価した。腫瘍サイズは:
π×[(a×b)1/2]3
(式中、aおよびbはそれぞれ2つの主要垂直方向の直径を示している。)
で測定した。マウスは一群6匹で行った。
【0088】
図9Bは、C57BL/6マウスにメラノーマ(melanoma)B16F10細胞2×103を腹部皮下に移植後2日目より遺伝子免疫(コントロールベクター、pAQP−1、UB−AQP−1)を開始し、3日毎に計5回施行した3群のマウスの生存曲線を示す。この結果、pUB−AQP−1遺伝子治療群で担癌マウスの有意な生存延長が認められた。
【0089】
〔実施例17〕
本実施例は、癌遺伝子ワクチン(pUB−AQP−1)のマウスメラノーマに対する予防的ワクチン効果を示す例である。
B6マウスに、各プラスミド6μgを1週間間隔で3回免疫した。最終免疫の7日後、1×105個のメラノーマ(melanoma)B16F10癌細胞のリン酸バッファー生理食塩水(PBS)液(200μl)を各B6マウスに皮下注射(s.c.)した。腫瘍サイズは2日毎に計測し、腫瘍容量は下記にて算出した。
π/6×[(a×b)1/2]3
(式中、aおよびbはそれぞれ2つの主要垂直方向の直径を示している。)
癌遺伝子ワクチン(pUB−AQP−1)のマウスメラノーマに対する予防的ワクチン効果の結果を図10に示す。図10Aは腫瘍サイズの経時的変化を示し、図10Bは生存率を示す。図に示す結果から、pUB−AQP−1遺伝子ワクチン群においてメラノーマ(B16F10)接種後の有意な生存率の向上が認められた。
【0090】
〔実施例18〕
癌遺伝子免疫最終日から10日後、マウスの脾臓細胞(100万個)を取り出し、それを12ウェルプレートに注入し、PMA(phorbol
12-myristate 13-acetate)(50ng/ml),calcium
ionophore(1μg/ml)およびbrefeldin A(1μg/ml)を含むRPMI 1640コンプリート培地で4時間培養した。細胞を遠心分離して採取し、allophycocyanin標識抗CD4抗体、PE標識CD8抗体、FITC標識IFN−γ抗体、あるいはFITC標識パーフォリン(PF)抗体、FITC標識グランザイムB抗体(GZM−B)を用いて4℃で30分間染色した。染色した細胞を2回洗浄し、細胞をFACSフローサイトメーターに採集し、CellQuestソフトウエアで分析した。その結果を図11Aおよび図11Bに示す。
【0091】
図11Aは、癌遺伝子免疫最終日から10日後、マウスの脾臓細胞をPMA/ionophoreで刺激し、CD8陽性T細胞のIFN−γ、パーフォリン、グランザイムBの発現を細胞内FACS法にて解析した結果を示している。図11Bは、図11Aのそれぞれの遺伝子免疫群マウス脾臓細胞をPMA/Ionomycinで刺激した際のCD8T細胞におけるIFNγ、パーフォリン(PF),グランザイムB(GZM−B)の発現陽性率からCD8T細胞の絶対数を求めたものを示す。この結果は、pUB−AQP−1遺伝子免疫によりIFNγ、パーフォリン(PF)、グランザイムB産生CD8キラーT細胞の誘導が効率よく起きていることを示している。
【0092】
〔実施例19−1〕
CD8+T細胞(20,000個)を96ウエルプレートに注入し、pUB−AQP−1をトランスフェクションした後5.5Gyγ−線を照射したDC2.4細胞(2,000個)と培養した。3日培養後、上清を採取し、IFN−γの産生をELISAで測定した。同様に、pUB−AQP−1をトランスフェクト後に放射線照射した樹状細胞ラインDC2.4および遺伝子免疫したマウスの脾臓中のCD8+T細胞を96ウエルプレートで3日培養後、上清を採取し、IFN−γの産生をELISAで測定した。その結果を図12Aで示す。
図12Aの結果から明らかなように、コントロール免疫群やpAQP−1免疫群のマウスに比べて、pUB−AQP1遺伝子免疫群のマウスから取り出したCD8T細胞は、pUB−AQP−1トランスフェクトした樹状細胞ラインDC2.4との共培養により顕著なIFNγの産生が認められた。
【0093】
〔実施例19−2〕
CD8+T細胞(20,000個)を96ウエルプレートに注入し、pUB−AQP−1をトランスフェクションした後5.5Gyγ−線を照射したDC2.4細胞(2,000個)と培養した。3日後に[3H]thymidineを添加し、10時間培養後に、細胞とその培地をガラスファイバーフィルター上に採取し、その放射能レベルをβシンチレーションカウンターで測定し、細胞増殖を算出した。同様に、pUB−AQP−1をトランスフェクト後に放射線照射した樹状細胞ラインDC2.4および遺伝子免疫したマウスの脾臓中のCD8+T細胞を96ウエルプレートで3日培養後、[3H]thymidineを添加し、10時間培養後に、細胞とその培地をガラスファイバーフィルター上に採取し、その放射能レベルをβシンチレーションカウンターで測定し、細胞増殖を算出した。その結果を図12Bに示す。
図12Bの結果から明らかなように、コントロール免疫群やpAQP−1免疫群のマウスに比べて、pUB−AQP1遺伝子免疫群のマウスから取り出したCD8T細胞はpUB−AQP−1トランスフェクトした樹状細胞ラインDC2.4との共培養により顕著な細胞増殖反応が認められた。
【0094】
〔実施例20〕
癌遺伝子免疫したマウスに、抗CD4抗体(クローンGK1.5)または抗CD8抗体(53−6.72)を、B16F10細胞に担癌する前のday3ならびにday1にマウス1匹当たり0.5mgの割合で腹腔内投与して、それぞれのT細胞サブセットを除去した。この結果、各T細胞サブセットの98%以上が除去されていることをフローサイトメトリーで確認した。これにより、CD4T細胞あるいは、CD8T細胞を抗体投与により除去した遺伝子免疫マウスにB16F10メラノーマを接種し抗腫瘍効果に対するT細胞サブセット除去の効果を判定した。図13Aは腫瘍サイズの経時的変化を示し、図13Bは生存率を示している。
【0095】
図13Aの結果から、抗CD8抗体投与群では、抗腫瘍免疫効果がほぼ消失していたことが確認された。また、図13Bの結果から、抗CD8抗体投与群では、抗腫瘍免疫効果が顕著に消失し、コントロールマウスと同程度の生存率曲線を示していた。このことは、この発明による癌遺伝子免疫(pUB−AQP−1)の抗腫瘍効果がCD8T細胞により担われていることを示している。
【0096】
〔実施例21〕
コントロール群(A)または癌遺伝子(pUB−AQP−1遺伝子)免疫群(B)のマウスにB16F10メラノーマを接種し2週間後に癌組織を採取した。採取した癌組織サンプルを液体窒素−冷却OCTコンパウンド内で急速冷凍し、−20℃で貯蔵した。この冷凍癌組織サンプルを厚さ5μmの切片に切って、ガラススライド上に積層し、このスライドをPBSでそれぞれ5分間3回洗浄し、0.2%トリトン(登録商標)X100のPBS溶液中で15分間培養し、再度PBSで洗浄した。この癌組織サンプルを、1%ウシ胎児血清(BSA)のPBS溶液(PBS−BSA)を用いて室温で30分間培養して、非特異的結合をブロックした。
【0097】
このように処理した癌組織切片をPE標識抗CD31抗体(1:1000)およびDAPI抗体(1:1000)を用いて4℃で一晩二重染色した。染色後、PBSでそれぞれ5分間ずつ3回洗浄し、スライドに積層し、DAPI(4’,6−diamino−2−phenylindole)で染色した。この癌組織標本をBiozero蛍光顕微鏡を用いて撮影し、撮影した写真を100〜200枚程度結合して結合写真を作成した(図14Aaおよび14Ba)。この結合写真をソフトウエアImageJ(非特許文献13)で解析して、血管の直径(図14Abと14Bb)および面積(図14Aaと14Ba)をカウントした。図14Abおよび図14Bbは腫瘍栄養血管の輪郭が示しており、図14Acおよび図14Bcは腫瘍栄養血管内腔が黒く塗りつぶされて示されている。
【0098】
図15Aは、図14AおよびBの画像をImageJで解析し血管の直径をカウントし、血管径毎にコントロール群(A)と遺伝子免疫群(B)における腫瘍内栄養血管の一定面積あたりの数(density)を算出した結果を示している。図15Bは、図14AおよびBの画像をImageJで解析し血管の面積をカウントし、コントロール群(A)と遺伝子免疫群(B)の腫瘍面積全体における腫瘍栄養血管面積の比を算出した結果を示している。
【産業上の利用可能性】
【0099】
従来の抗癌剤による化学療法は、悪性腫瘍などに対して強力な増殖抑制作用を有しているが、薬剤耐性がしばしば誘導され、また正常細胞の細胞分裂をも阻止するという強い副作用も併せ持っている。これに対して、この発明による癌新生血管関連遺伝子を用いた免疫療法は、生体の免疫反応を利用して悪性腫瘍などの腫瘍・癌細胞の増殖を促進する血管新生因子を標的にして新生栄養血管を破壊する。このことから、本発明によるワクチンは、癌・腫瘍の種類に限定されることなく、またMHCクラスI分子の発現が低下/消失している癌・腫瘍であって、かつ既存の免疫療法では全く無効な悪性度の高い癌に対しても有効である可能性が高く、その副作用も既存の抗癌剤と比較して劇的に軽減できることが予想される。また、投与方法にしても、皮下の免疫細胞に提示するだけで十分な効果が見られることから、皮下投与型という次世代型抗癌療法としても期待できる。さらに、この発明の抗癌療法は、既存の抗VEGF抗体による癌組織の栄養新生血管のブロックと比較すると、遙かに安価に、かつ安全性も高く、大量に製造することができることも期待できると共に、これまでの抗体療法ではその効果が不十分で繰り返し投与が必要であるのに対して、より高い効果が期待できることから、繰り返し投与が不必要であると期待することもできる。したがって、この発明は、癌・腫瘍の種類に限定されることなく癌・腫瘍の予防および治療に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユビキチンをコードするユビキチン遺伝子と、癌新生血管形成関連遺伝子をコードする対遺伝子とを融合させたユビキチン融合遺伝子。
【請求項2】
請求項1に記載のユビキチン融合遺伝子であって、該ユビキチン融合遺伝子が主要組織適合性抗原(MHC)クラスI分子の発現が実質的に低下/欠如している腫瘍に対しても抗腫瘍免疫を誘導することを特徴とするユビキチン融合遺伝子。
【請求項3】
請求項1または2に記載のユビキチン融合遺伝子であって、前記対遺伝子がアクアポリン−1(AQP−1)遺伝子、ニューロピリン(NRP)遺伝子、Dll−4遺伝子、Rgs5遺伝子、Robo−4遺伝子またはId1遺伝子であることを特徴とするユビキチン融合遺伝子。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載のユビキチン融合遺伝子であって、前記対遺伝子がアクアポリン−1(AQP−1)遺伝子であることを特徴とするユビキチン融合遺伝子。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のユビキチン融合遺伝子を含む形質転換体。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のユビキチン融合遺伝子を含有することを特徴とするユビキチン融合遺伝子のDNAワクチン。
【請求項7】
請求項6に記載のユビキチン融合遺伝子のDNAワクチンであって、前記対遺伝子がアクアポリン−1(AQP−1)遺伝子、ニューロピリン(NRP)遺伝子、Dll−4遺伝子、Rgs5遺伝子、Robo−4遺伝子またはId1遺伝子であることを特徴とするユビキチン融合遺伝子のDNAワクチン。
【請求項8】
請求項6または7に記載のユビキチン融合遺伝子のDNAワクチンであって、前記対遺伝子がアクアポリン−1(AQP−1)遺伝子であることを特徴とするユビキチン融合遺伝子のDNAワクチン。
【請求項9】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のユビキチン融合遺伝子をDNAワクチンとして投与すること、または請求項6ないし8に記載のDNAワクチンを投与することによって、癌ならびに/もしくは腫瘍の新生血管をブロックならびに/もしくは新生阻止することを特徴とする癌ならびに/もしくは腫瘍の新生血管のブロックならびに/もしくは新生阻止方法。
【請求項10】
請求項9に記載の癌ならびに/もしくは腫瘍の新生血管のブロックならびに/もしくは新生阻止方法によって、癌または腫瘍の治療をすることを特徴とする癌または腫瘍の予防または治療方法。
【請求項1】
ユビキチンをコードするユビキチン遺伝子と、癌新生血管形成関連遺伝子をコードする対遺伝子とを融合させたユビキチン融合遺伝子。
【請求項2】
請求項1に記載のユビキチン融合遺伝子であって、該ユビキチン融合遺伝子が主要組織適合性抗原(MHC)クラスI分子の発現が実質的に低下/欠如している腫瘍に対しても抗腫瘍免疫を誘導することを特徴とするユビキチン融合遺伝子。
【請求項3】
請求項1または2に記載のユビキチン融合遺伝子であって、前記対遺伝子がアクアポリン−1(AQP−1)遺伝子、ニューロピリン(NRP)遺伝子、Dll−4遺伝子、Rgs5遺伝子、Robo−4遺伝子またはId1遺伝子であることを特徴とするユビキチン融合遺伝子。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載のユビキチン融合遺伝子であって、前記対遺伝子がアクアポリン−1(AQP−1)遺伝子であることを特徴とするユビキチン融合遺伝子。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のユビキチン融合遺伝子を含む形質転換体。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のユビキチン融合遺伝子を含有することを特徴とするユビキチン融合遺伝子のDNAワクチン。
【請求項7】
請求項6に記載のユビキチン融合遺伝子のDNAワクチンであって、前記対遺伝子がアクアポリン−1(AQP−1)遺伝子、ニューロピリン(NRP)遺伝子、Dll−4遺伝子、Rgs5遺伝子、Robo−4遺伝子またはId1遺伝子であることを特徴とするユビキチン融合遺伝子のDNAワクチン。
【請求項8】
請求項6または7に記載のユビキチン融合遺伝子のDNAワクチンであって、前記対遺伝子がアクアポリン−1(AQP−1)遺伝子であることを特徴とするユビキチン融合遺伝子のDNAワクチン。
【請求項9】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のユビキチン融合遺伝子をDNAワクチンとして投与すること、または請求項6ないし8に記載のDNAワクチンを投与することによって、癌ならびに/もしくは腫瘍の新生血管をブロックならびに/もしくは新生阻止することを特徴とする癌ならびに/もしくは腫瘍の新生血管のブロックならびに/もしくは新生阻止方法。
【請求項10】
請求項9に記載の癌ならびに/もしくは腫瘍の新生血管のブロックならびに/もしくは新生阻止方法によって、癌または腫瘍の治療をすることを特徴とする癌または腫瘍の予防または治療方法。
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【公開番号】特開2012−39877(P2012−39877A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95547(P2009−95547)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度地域科学技術振興事業委託事業 可能性試験実施契約書 第16条第2項による。
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【出願人】(509103336)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度地域科学技術振興事業委託事業 可能性試験実施契約書 第16条第2項による。
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【出願人】(509103336)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]