説明

ユビキノンの製造

増大した量のユビキノンを産生する膜性細菌、および栄養補助剤の製造方法を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明はユビキノンの産生に関与する方法および物質に関し、さらに特定すると、増大した量のユビキノンを産生する膜性細菌(membraneous bacteria)に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
コエンザイムQ10(CoQ(10))は、細胞中の膜に認められるイソプレノイド化合物である。CoQ(10)は、ユビキノンまたは2,3-ジメトキシ,5-メチル,6-ポリイソプレン・パラベンゾキノンとしても知られており、10個のイソプレン単位(それぞれ炭素5個)を含有している。CoQ(10)はミトコンドリア内の酸化的リン酸化プロセスの構成要素であり、同時にフリーラジカルの主たるスカベンジャーであり、細胞シグナル伝達の酸化/還元制御における関与物質である[Crane, J. Am. Coll. Nutr. 20(6):591-598 (2001)]。CoQ(10)はいくつもの生化学的機能を持つので、医薬(例えば、心疾患の治療用)、栄養補助剤、および化粧品に使用されてきた。現行の製造方法として、酵母または細菌からの抽出が挙げられるが、現行の工程を改良することが必要とされている。
【発明の開示】
【0003】
概要
本発明は、同様の培養条件下で増殖させた遺伝子改変していない対応する微生物に比較して、増加したレベルのユビキノン(例えば, CoQ(10))を産生する、遺伝子操作された微生物の製造に基づいている。本明細書に記載する遺伝子操作された微生物を培養系で使用して、特定のユビキノンを大量に製造することができる。
【0004】
一態様において、本発明は、ppsR配列の少なくとも一部分およびaerR配列の少なくとも一部分のゲノム破壊を含む膜性細菌であって、但しこのゲノム破壊はそのppsR配列およびaerR配列を非機能的にするものであり、そして、同様の培養条件下で増殖させたそのゲノム破壊を欠如している対応する膜性細菌に比較して、増大した量のCoQ(10)を産生する前期膜性細菌、を特徴とする。その膜性細菌は、紅色非硫黄光合成細菌でありうる。その膜性細菌として、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)またはロドバクター・カプシュラタス(Rhodobacter capsulatus)などのロドバクター(Rhodobacter)属の種がありうる。
【0005】
別の態様において、本発明は、フマル酸硝酸還元(Fnr)ポリペプチドをコードする外来性核酸を含む膜性細菌を特徴とする。この膜性細菌は、同様の培養条件下で増殖させた、この外来性核酸を欠如している、対応する膜性細菌に比較して、増大した量のCoQ(10)を産生する。Fnrポリペプチドとしては、ロドバクター・スフェロイデスFnrLポリペプチドまたはR.カプシュラタスFnrポリペプチドがありうる。その膜性細菌は、紅色非硫黄光合成細菌でありうる。その膜性細菌としては、ロドバクター・スフェロイデスまたはロドバクター・カプシュラタスなどのロドバクター属の種がありうる。膜性細菌は、crtE配列の少なくとも一部分、ppsR配列の少なくとも一部分、およびccoN配列の少なくとも一部分のゲノム破壊をさらに含んでもよいが、但しそのゲノム破壊は前記crtE配列、ppsR配列およびccoN配列を非機能的にするものであり、そしてその膜性細菌は、同様の培養条件下で増殖させた、その外来性核酸およびゲノム破壊を欠如している対応する膜性細菌に比較して、増大した量のCoQ(10)を産生する。
【0006】
本発明は、栄養補助剤の製造方法をも特徴とする。その方法は、Fnrポリペプチドをコードする外来性核酸を含む膜性細菌であって、同様の培養条件下で増殖させたその外来性核酸を欠如している対応する膜性細菌に比較して増大した量のCoQ(10)を産生する膜性細菌から、CoQ(10)を抽出することを含む。その膜性細菌は、crtE配列の少なくとも一部分、ppsR配列の少なくとも一部分、およびccoN配列の少なくとも一部分のゲノム破壊をさらに含んでいてもよく、但しそのゲノム破壊はそのcrtE配列、ppsR配列およびccoN配列を非機能的にするものであり、その膜性細菌は、同様の培養条件下で増殖させたその外来性核酸およびゲノム破壊を欠如している対応する膜性細菌に比較して増大した量のCoQ(10)を産生する。
【0007】
さらに別の態様では、本発明は、栄養補助剤の製造方法を特徴とする。その方法は、ppsR配列の少なくとも一部分およびaerR配列の少なくとも一部分のゲノム破壊を含む膜性細菌からCoQ(10)を抽出することを含み、但しそのゲノム破壊はそのppsR配列およびaerR配列を非機能的にするものであり、そしてその膜性細菌は、同様の培養条件下で増殖させたそのゲノム破壊を欠如している対応する膜性細菌に比較して増大した量のCoQ(10)を産生する。
【0008】
別に定義しない限り、本明細書中で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解される意味と同一の意味を持つ。本発明の実行または試験では、本明細書に記載するものと同様のまたは等価な方法および物質を使用することができるが、好適な方法および物質を以下に記載する。本明細書に示した全ての刊行物、特許出願、特許、およびその他の文献は、その全部を参照として組み入れる。矛盾する場合は、定義を含めて、本明細書が統制することとなる。さらに、その物質、方法、および例は説明のためのみのものであって、限定する意図はない。
【0009】
本発明のその他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
詳細な説明
一般的に、本発明は、ユビキノン類、少なくとも1個の5-炭素イソプレノイド単位を含有する側鎖を持つ2,3-ジメトキシ-5-メチルベンゾキノン誘導体、の製造に関連する方法および物質を提供する。典型的には、ユビキノンはコエンザイムQ(CoQ)と称される。特定のユビキノンの側鎖のイソプレノイド単位の数を用いて、その特定のユビキノンが特定される。例えば、6個のイソプレノイド単位を持つユビキノンは、CoQ(6)と称され、一方10個のイソプレノイド単位を持つユビキノンは、CoQ(10)と称される。CoQ(10)はユビデカレノンとも称されることに留意が必要である。ユビキノン類の例として、限定するわけではないが、CoQ(6)、CoQ(8)、CoQ(10)、およびCoQ(12)が含まれる。
【0011】
遺伝子操作された微生物
本明細書で使用する用語「微生物」とは、限定するわけではないが、細菌、藻類、菌類および原生動物を含む、顕微鏡で確認されるような生物の全てを指す。細菌細胞には膜性または非膜性があることに、留意すべきである。本明細書で使用する用語「非膜性」とは、細胞質内膜(intracytoplasmic membrane)を欠如しているあらゆる細菌を指す。本明細書で使用する用語「膜性」とは、細胞質内膜を持つ、天然性であるか、遺伝子改変されたか、または環境によって改変されたあらゆる細菌を指す。細胞質内膜は、様々な形で組織化されたものであってよく、例えば、限定するわけではないが、小胞、細管、チラコイド様膜嚢(thylakoid-like membrane sac)、および高度に組織化された膜層(highly organized membrane stacks)が挙げられる。細胞質内膜の存在について細菌を分析するために、任意の方法を使用することができ、そのような方法としては、限定するわけではないが、電子顕微鏡検査、光学顕微鏡検査、および密度勾配法が含まれる。例えば、以下を参照されたい:Choryら、J. Bacteriol., 159:540-554 (1984); NiedermanおよびGibson、Isolation and Physiochemical Properties of Membranes from Purple Photosynthetic Bacteria(紅色光合成細菌からの膜の単離および物理化学的特性): The Photosynthetic Bacteria, Roderick K. ClaytonおよびWilliam R. Sistrom編, Plenum Press, pp. 79-118 (1978); およびLuekingら、J. Biol. Chem., 253: 451-457 (1978)。本発明で使用することができる膜性細菌の例として、限定するわけではないが、以下が含まれる:ロドスピリルム科(Rhodospirillaceae)の細菌、例えばロドバクター(Rhodobacter)属の細菌(例えば、R.スフェロイデス(R. sphaeroides)、R.カプシュラタス(R. capsulatus)、R.スルフィドフィルス(R. sulfidophilus)、R.アドリアティクス(R. adriaticus)、およびR.ベルドカンピ(R. veldkampii))、ロドスピリルム(Rhodospirillum)属の細菌(例えば、R.ルブルム(R. rubrum)、R.フォトメトリクム(R. photometricum)、R.モリシアヌム(R. molischianum)、R.フルブム(R. fulvum)、およびR.サリナルム(R. salinarum))、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属の細菌(例えば、R.パルストリス(R. palustris)、R.ビリジス(R. viridis)、およびR.スルホビリジス(R. sulfoviridis))、ロドミクロビウム(Rhodomicrobium)属の細菌、ロドシクルス(Rhodocyclus)属の細菌、ならびにロドピラ(Rhodopila)属の細菌; クロマチウム科(Chromatiaceae)の細菌、例えばクロマチウム(Chromatium)属、チオシスティス(Thiocystis)属、チオスピリルム(Thiospirillum)属、チオカプサ(Thiocapsa)属、ラムプロバクター(Lamprobacter)属、ラルムプロシスティス(Lalmprocystis)属、チオディクティオン(Thiodictyon)属、アモエボバクター(Amoebobacter)属、およびチオペディア(Thiopedia)属の細菌; 緑色硫黄細菌、例えばクロロビウム(Chlorobium)属およびプロステコクロリス(Prosthecochloris)属の細菌;メチロコッカス科(Methylococcaceae)の細菌、例えばメチロコッカス(Methylococcus)属の細菌(例えば、M.カプシュラタス(M. capsulatus))、およびメチロモナス(Methylomonas)属の細菌(例えば、M.メタニカ(M. methanica));ならびにニトロバクター科(Nitrobacteraceae)の特定の細菌、例えばニトロバクター(Nitrobacter)属の細菌(例えば、N.ウィノグラズキー(N. winogradsky)およびN.ハンブルゲンシス(N. hamburgensis))、ニトロコッカス(Nitrococcus)属の細菌(例えば、N.モビリス(N. mobilis))、およびニトロソモナス(Nitrosomonas)属の細菌(例えば、N.オイロパエ(N. europaea))。
【0012】
膜性細菌は、高度膜性細菌であってもよい。本明細書で使用する用語「高度膜性細菌」とは、R.スフェロイデス(R. sphaeroides)(ATCC 17023)細胞を(1) 4日間、好気的条件下で化学的従属栄養的に培養し、(2) 4時間にわたり酸素制限条件下で化学的従属栄養的に培養し、そして(3) それを回収した後のR.スフェロイデス(ATCC 17023)細胞が有するよりも、多量の細胞質内膜を持つ、あらゆる細菌を指す。好気的培養条件は、25% 酸素の存在下、30℃で細胞を培養することを含む。酸素制限条件は、2% 酸素の存在下、30℃で細胞を培養することを含む。酸素制限条件下での4時間の培養工程後、R.スフェロイデス(ATCC 17023)細胞を遠心分離によって回収し、上記のように、細胞質内膜の存在について分析する。
【0013】
本発明の遺伝子操作された微生物は増大した量のユビキノン(例えば、CoQ(10))を産生する。「増大した量」とは、同様の条件下で増殖させた遺伝的改変を含まない対応する生物の乾燥細胞重量当たりのユビキノンの絶対量と比較した場合の、その乾燥細胞重量当たりの絶対量における統計的に有意な増加量を指す。ユビキノンの絶対量/乾燥細胞重量を比較するためには、既知の統計的方法を使用することができる。p <0.05のp値が統計的に有意であるとみなされる。細菌は、好気的条件に比較して、嫌気的条件下で増殖させた場合により多くのCoQ(10)を産生することができる。例えば、嫌気的に培養した細菌は、好気的に培養した同一の種の細菌よりも約3〜4倍多いCoQ(10)を産生することができる。
【0014】
一般的に、ユビキノンは1種以上の有機溶媒で抽出し、その後逆相クロマトグラフィー(C18)および光ダイオードアレイ(PDA)検出器で分析することができる。例えば、細胞を最初にエタノールで抽出し、その後ヘキサンで抽出することができる。このヘキサン層を乾燥し、少量のヘキサンに再溶解させることができる。その後、このサンプルについて、PDA検出器セットを備えたWaters Nova-Pak C18 (3.9 x 150 mm: 4 μm)カラムを使用し、200-300 nmで分析することができる。
【0015】
遺伝子操作された微生物を製造するために任意の方法を使用することができ、そのような方法としては、例えば、内在性遺伝子を破壊し、および/または1個以上の単離された外来性核酸を細胞内に導入することが挙げられる。内在性遺伝子は、一般的なノックアウト技法およびアンチセンス技法を使用して、破壊することができる。例えば、R.スフェロイデスを、ある酵素が作られるのを妨害するアンチセンス分子をコードしたcDNAを含むように、遺伝子操作してもよい。本明細書で使用する用語「アンチセンス分子」は、内在性ポリペプチドのコード鎖に対応する配列を含有するあらゆる核酸を包含する。アンチセンス分子はフランキング配列(例えば、調節配列)を有していてもよい。そして、アンチセンス分子は、リボザイムであってもアンチセンスオリゴヌクレオチドであってもよい。リボザイムは、その分子がRNAを切断する限り、どのような一般構造を有していてもよく、そのような構造としては、例えば、限定するわけではないが、ヘアピン、ハンマーヘッド、アクスヘッド構造が挙げられる。
【0016】
また、核酸を、in vivoであれin vitroであれ細胞内に導入するためには、多くの方法を利用することができる。例えば、リン酸カルシウム沈殿、エレクトロポレーション、熱ショック、リポフェクション、マイクロインジェクション、コンジュゲーション、およびウイルス媒介核酸導入は、核酸を細胞内に導入するために使用することができる一般的な方法である。その上、他に記載されているように、裸のDNAをin vivoの直接細胞に送達することもできる(米国特許第5,580,859号および米国特許第5,589,466号)。
【0017】
機能的な内在遺伝子を欠損し、かつ/または外来性核酸を含有する細胞を同定するために、任意の方法を使用することができる。例えば、破壊されたaerR配列(orf192, ppaおよびppsSとしても知られている)を持つR.スフェロイデスは、aerR遺伝子またはフランキング領域に特異的なプライマーを使用するPCR増幅、そして例えば増幅産物のサイズの試験または配列解析などの一般的な生化学的方法を使用して、同定することができる。
【0018】
PCRならびにノーザンおよびサザン解析などの核酸ハイブリダイゼーション技法を使用して、細胞が外来性核酸を含有するかどうかを判定することができる。場合によっては、免疫組織化学および生化学的技法を使用して、特定の核酸にコードされたポリペプチドの発現を検出することによって、細胞がその特定の核酸を含有するかどうかを判定することができる。例えば、ポリペプチドXをコードする単離された核酸を、通常はポリペプチドXを発現しない細胞内に導入した後、ポリペプチドXへの免疫反応性が検出されることは、その細胞は導入された核酸を含有するのみではなく、この導入された核酸からそれにコードされたポリペプチドXを発現することをも示している。
【0019】
核酸からアミノ酸配列の発現を導くために、任意の方法を使用できる。こうした方法は当業者に周知であり、限定するわけではないが、調節エレメントがポリペプチドをコードする核酸配列の発現を駆動するように核酸を構築することが挙げられる。通常は、調節エレメントは、他のDNA配列の発現を転写レベルで調節するDNA配列である。こうした調節エレメントとして、限定するわけではないが、プロモーター、エンハンサーなどが挙げられる。その上、細菌および酵母などの微生物中で外来性核酸分子からポリペプチドを発現させるためのどんな方法でも、使用することができる。例えば、ロドバクター属の種(例えば、R.スフェロイデスおよびR.カプシュラタス)内で外来性ポリペプチドを発現することができる核酸構築物の作製および使用のための周知の方法を使用することができる。例えば、以下を参照されたい:Dryden and Dowhan, J. Bacteriol., 178(4):1030-1038 (1996); Vasilyevaら、Applied Biochemistry and Biotechnology, 77-79:337-345 (1999); Graichenら、J. Bacteriol., 181(14):4216-4222 (1999); Johnsonら、J. Bacteriol., 167(2):604-610 (1986);ならびにDuportら、Gene, 145:103-108 (1994)。さらに、核酸からアミノ酸配列を発現する細胞を同定するために、任意の方法でも使用することができる。こうした方法は当業者に周知であり、限定するわけではないが、免疫細胞化学、ウエスタン解析、ノーザン解析、およびRT-PCRが含まれる。
【0020】
本明細書に記載する細胞は、特定の外来性核酸の単一のコピー、または複数のコピー(例えば、約5、10、20、35、50、75、100または150コピー)を含有し得る。例えば、1個の細菌細胞が約50コピーの外来性核酸Xを含有し得る。その上、本明細書に記載する細胞は、2種以上の特定の外来性核酸を含有し得る。例えば、1個の細菌細胞が約50コピーの外来性核酸Xとともに約75コピーの外来性核酸Yを含有し得る。これらの場合、異なる核酸のそれぞれは、特有のユニークな酵素活性を持つ異なるポリペプチドをコードし得る。例えば、1個の細菌細胞が、高レベルのCoQ(10)が産生されるように2種以上の異なる外来性核酸を含有するものでもよい。さらに、単一の外来性核酸が、1種または2種以上のポリペプチドをコードしてもよい。例えば、単一の核酸が3種の異なるポリペプチドをコードする配列を含有することがあり得る。
【0021】
微生物およびその微生物内に存在する代謝産物に応じて、以下のポリペプチドの一方または両方をその微生物内で発現させることができる: フマル酸硝酸還元(Fnr)ポリペプチドおよび応答調節因子(Reg)ポリペプチド。本明細書で使用する用語「ポリペプチド」は、長さ、または翻訳後修飾にかかわらず、全長の野生型ポリペプチドの機能を維持している、あらゆるアミノ酸鎖を指す。したがって、好適なポリペプチドとしては、全長の野生型ポリペプチドの機能を維持しているならば、全長よりも短く、かつ/または1個以上のアミノ酸の挿入もしくは置換を持つものであってもよい。
【0022】
Fnrポリペプチドは、特定の遺伝子のリプレッサーとして機能することができ、あるいは酸素不在下では、多くの遺伝子の合成を調節する活性形態に変換されうる。Fnrは、fnr遺伝子の酸素への感受性の仲介に関与する、鉄硫黄クラスターを必要とする。酸素の制限は多数の微生物において遺伝子発現に影響を与え、fnr様遺伝子は例えば以下のような多数の種で同定されている:R.スフェロイデス、R.カプシュラタス、パラコッカス・デニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans)、メソリゾビウム・ロティ(Mesorhizobium loti)、およびリゾビウム・レグミノサルム(Rhizobium leguminosarum)。R.スフェロイデスfnrL遺伝子は、バクテリオクロロフィル合成でのいくつかの遺伝子の合成を調節する、248アミノ酸長のFnrLポリペプチドをコードする。fnrL遺伝子はR.スフェロイデスの光合成による増殖に必要とされる。R.カプシュラタスおよびR.スフェロイデスからのfnrL遺伝子の核酸配列は、GenBankにおいてそれぞれアクセッション番号U78309およびZ49746として見出すことができる。P.デニトリフィカンス、M.ロティおよびR.レグミノサルムからのfnr遺伝子の核酸配列は、GenBankにおいてそれぞれアクセッション番号U34353、AP003009、およびU90520として見出すことができる。
【0023】
好適なFnrポリペプチドは、R.スフェロイデスFnrポリペプチドのアミノ酸配列に対して少なくとも35%の同一性を有するものである。例えば、R.カプシュラタスFnrポリペプチドはR.スフェロイデスFnrポリペプチドに対して約64%の同一性を有する。P.デニトリフィカンスおよびM.ロティFnrポリペプチドはR.スフェロイデスFnrポリペプチドに対してそれぞれ約39%および37%の同一性を有する。配列同一性のパーセントは、アラインメントした核酸配列中で一致した位置の数を決定し、この一致した位置の数をアラインメントしたヌクレオチドの総数で除算して、100を掛けることによって算出する。一致した位置とは、アラインメントした核酸配列中で同じ位置に同一のヌクレオチドが出現する位置のことである。配列同一性のパーセントはいかなるアミノ酸配列に対しても決定することができる。配列同一性のパーセントを決定するために、BLASTN バージョン2.0.14およびBLASTP バージョン2.0.14を含むBLASTZのスタンドアロンバージョンからのBLAST 2 Sequences(Bl2seq)プログラムを使用して、標的核酸またはアミノ酸配列を同定済みの核酸またはアミノ酸配列と比較する。このBLASTZのスタンドアロンバージョンは、Fish & Richardsonウェブサイト(www.fr.com/blast)または米国バイオテクノロジー情報センターウェブサイト(www.ncbi.nlm.nih.gov)から取得することができる。Bl2seqプログラムの使用方法を解説する説明はBLASTZに付属するリードミー・ファイル中に認められる。
【0024】
Bl2seqは、BLASTNまたはBLASTPアルゴリズムのいずれかを使用して、2つの配列の比較を実行する。BLASTNは核酸配列を比較するために使用され、一方BLASTPはアミノ酸配列を比較するために使用される。2つの核酸配列の比較のためには、オプションを以下のように設定する: -i = 比較する第1核酸配列を含むファイルに設定(例えば、C:\seq1.txt); -j =比較する第2核酸配列を含むファイルに設定(例えば、C:\seq2.txt); -p = blastnに設定; -o = 任意の所望のファイルネームに設定(例えば、C:\output.txt); -q = -1に設定; -r = 2に設定; そしてその他のオプションはすべてデフォルト設定のままにする。以下のコマンドで2つの配列の比較を含む出力ファイルが作製される。
C:\Bl2seq -i c:\seq1.txt -j c:\seq2.txt -p blastn -o c:\output.txt -q -1 -r 2
標的配列が同定済みの配列のいずれかの部分との相同性を共有する場合は、指定の出力ファイルが相同性領域をアラインメントした配列として示す。標的配列が同定済みの配列のいずれの部分とも相同性を共有しない場合は、指定の出力ファイルはアラインメントした配列を示さない。
【0025】
一旦アラインメントした後には、任意の一致する位置から始まって任意の別の一致する位置で終わる同定済みの配列由来の配列とのアラインメントとして示した標的配列から、連続するヌクレオチドの数を数えることによって、長さを決定する。一致する位置とは、標的と同定済みの配列の両方に同一のヌクレオチドが存在する位置である。標的配列中に存在するギャップは数えない。なぜならば、ギャップはヌクレオチドでないからである。同様に、同定済みの配列中に存在するギャップは数えない。なぜならば、標的配列ヌクレオチドを数えるのであって、同定済みの配列からのヌクレオチドを数えるのではないからである。
【0026】
ある特定の長さにわたる同一性パーセントは、その長さの中の一致する位置の数を数え、その数を長さで除算した後、その結果の数値に100を掛けることによって決定する。例えば、(1) 1000ヌクレオチドの標的配列がR.スフェロイデスfnr遺伝子の配列と比較され、(2) Bl2seq プログラムが、R.スフェロイデスfnr遺伝子の一領域とアラインメントした標的配列からの969 ヌクレオチドであって、その969ヌクレオチド領域の最初および最後のヌクレオチドが一致するものを提示し、(3) この969個のアラインメントされたヌクレオチドにわたって一致した数が900である場合、その1000ヌクレオチド標的配列は、長さが969で、この長さにわたる同一性パーセントは93(すなわち、900÷969 x 100 = 93)であるものを含んでいる。
【0027】
同定済みの配列とアラインメントする単一の核酸標的配列内の異なる領域は、それぞれ独自の同一性パーセントを示し得ることは理解されるであろう。同一性パーセントの値は少数第1位に丸められることに留意が必要である。例えば、78.11、78.12、78.13、および78.14は78.1に切り下げられ、78.15、78.16、78.17、78.18、および78.19は78.2に切り上げられる。長さの値は常に整数となることにも留意が必要である。
【0028】
Regポリペプチドは酸素による光合成遺伝子発現を調節し、またバクテリオクロロフィルおよびカロテノイド合成ならびにCO2 およびN2 固定におけるいくつかの遺伝子を調節する。好適なRegポリペプチドの非限定的な例として、以下が挙げられる:R.カプシュラタス、ロドブルム・スルフィドフイルム(Rhodovulum sulfidophilum)およびロゼオバクター・デニトリフィカンス(Roseobacter denitrificans)からのRegAポリペプチド(それぞれGenBankアクセッション番号P42508、AB010722、およびAB010723)ならびにR.スフェロイデスからのその相同体PrrA(GenBankアクセッション番号L25895およびU22347(prrBおよびprrCを含む))。上記生物からの全長RegAポリペプチドは長さが184アミノ酸である。RegAは、センサーキナーゼであるRegB(R.スフェロイデスPrrB)との2成分系の一部である。
【0029】
ユビキノンの産生を増大させるため、微生物ゲノム中の内在性ppsR、aerR、crtE、およびccoN核酸配列のうち1つ以上を破壊して、その核酸配列が非機能性になるようにする。すなわち、破壊された配列の転写および翻訳後、野生型においてコードされた遺伝子産物が検出できないか、その遺伝子産物が天然の機能を保持しないようにする。一実施形態においては、内在性crtEおよびppsR核酸を破壊する。別の実施形態では、内在性crtE、ccoN、およびppsR核酸を破壊する。
【0030】
また、Fnrポリペプチドをコードする外来性核酸を発現している微生物のゲノム中で、内在性crtE、ccoN、およびppsR核酸のうち1つ以上を破壊してもよい。こうした微生物は増加したレベルのCoQ(10)を産生する。crtE遺伝子はゲラニルゲラニルピロホスフェートシンターゼをコードし、そのゲラニルゲラニルピロホスフェートシンターゼはイソペンテニルピロホスフェート(IPP)とファルネシルピロホスフェート(FPP)の縮合によってゲラニルゲラニルピロホスフェート(GGPP)を生成することができる。R.スフェロイデスからのcrtE遺伝子の核酸配列はGenBank(アクセッション番号AJ010302)において見出される。R.カプシュラタスからのcrtE遺伝子もGenBank(アクセッション番号152291およびZ11165)から得られる。ccoN遺伝子はcbb3型チトクロームオキシダーゼをコードし、このcbb3型チトクロームオキシダーゼは酸素に対して高親和性であり、prrAおよびprrBを含む調節カスケードの一部分である。ccoNの破壊によりRegAまたはPrrAポリペプチドの量を増加させることができ、これによってその微生物が増加したレベルのCoQ(10)を産生するようになる。R.スフェロイデスおよびR.カプシュラタスからのccoN遺伝子の核酸配列はGenBank(それぞれアクセッション番号U58092およびAF016223)において見出される。ppsR遺伝子は、好気的条件および酸素制限条件下の両方でカロテノイドおよびバクテリオクロロフィル合成を抑制する転写因子をコードする。R.スフェロイデスからのppsR遺伝子の核酸配列はGenBank(アクセッション番号L37197)において見出される。ppsRのR.カプシュラタス相同体はcrtJと称され、その核酸配列はGenBankにおいてアクセッション番号Z11165にて見出される。
【0031】
Regポリペプチドをコードする外来性核酸を発現している微生物中で、内在性crtE配列の少なくとも一部分を破壊することができる。こうした微生物は対応する野生型微生物に比較して、増量されたレベルのCoQ(10)を産生する。さらにCoQ(10)産生を増大させるため、内在性ppsRおよびccoN核酸配列を破壊することができる。
【0032】
別の実施形態においては、微生物は、ppsRおよびaerR核酸配列が非機能性になるように、ppsR核酸配列の少なくとも一部分とaerR核酸配列の少なくとも一部分のゲノム破壊を含んでもよい。aerR遺伝子(orf192、ppa、およびppsSとしても知られている)は光合成遺伝子発現の好気的リプレッサーであって、ロドバクター属染色体上のppsR遺伝子に隣接して存在する。これは、いくつかのロドバクター属の菌株ではアクチベーターとして作用することも示されている。ppsRおよびaerR核酸配列におけるゲノム破壊を含む微生物中では、CoQ(10)産生、および総カロテノイド産生が増大する。
【0033】
Fnrポリペプチドをコードする核酸
本明細書で使用する用語「核酸」は、RNAおよびDNAの両方を包含し、これにはcDNA、ゲノムDNA、および合成(例えば化学合成された)DNAが含まれる。核酸は二本鎖でも一本鎖でもよい。一本鎖の場合、核酸はセンスでもアンチセンス鎖でもよい。その上、核酸は環状でも線状でもよい。
【0034】
核酸に関して本明細書で使用する用語「単離された」とは、天然核酸であって、これが由来する生物の天然ゲノム中でこれと直接連続している両方の配列(1つは5’ 末端、1つは3’ 末端のもの)と、直接連続していないものを意味する。例えば、単離された核酸としては、限定するわけではないが、任意の長さの組換えDNA分子であって、天然ゲノム中でこの組換えDNAに直接隣接していることが通常認められる核酸配列の1つが除去されているか不在である場合のものであってよい。すなわち、単離された核酸として、限定するわけではないが、他の配列から独立した別個の分子として存在する組換えDNA(例えば、cDNA、またはPCRもしくは制限エンドヌクレアーゼ処理によって製造されたゲノムDNA断片)、並びにベクター、自己複製プラスミド、ウイルス(例えば、レトロウイルス、アデノウイルスもしくはヘルペスウイルス)中に組み込まれているか、原核生物もしくは真核生物のゲノムDNA中に組み込まれた組換えDNAが含まれる。さらに、単離された核酸として、ハイブリッドまたは融合核酸配列の一部分である組換えDNA分子が含まれる。
【0035】
核酸に関して本明細書で使用する用語「単離された」には、天然に生起しない任意の核酸も含まれる。なぜならば、天然に生起しない核酸配列は天然では存在しないので、天然ゲノム中で直接連続する配列を持たないからである。例えば、遺伝子操作された核酸などの非天然核酸は、単離された核酸であるものとみなされる。遺伝子操作された核酸は、一般的な分子クローニングまたは化学的核酸合成技術を使用して作製することができる。単離された非天然核酸は、他の配列から独立したものでもよいし、ベクター、自己複製プラスミド、ウイルス(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、もしくはヘルペスウイルス)、または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNA中に組み込まれたものでもよい。さらに、非天然核酸として、ハイブリッドまたは融合核酸配列の一部分である核酸分子が挙げられる。例えばcDNAもしくはゲノムライブラリー内、またはゲノムDNA制限消化物を含むゲルスライス中の数百〜数百万の別の核酸分子の中に存在する核酸は、単離された核酸とはみなされない。
【0036】
核酸および特定の細胞に関して本明細書で使用する用語「外来性」とは、天然で見られる特定のその細胞を起源とするものではない、任意の核酸を意味する。したがって、すべての非天然核酸は、いったん細胞中に導入された後は、その細胞にとって外来性とみなされる。非天然核酸は、その核酸が全体として天然に存在しないものであれば、天然に見られる核酸配列または核酸配列の断片を含有していてもよいことに留意することが重要である。例えば、発現ベクター内にゲノムDNA配列を含有する核酸分子は天然に生起しない核酸であるので、いったん細胞中に導入した後はその細胞にとって外来性である。なぜならば、その核酸分子は全体(ゲノムDNA+ベクターDNA)としては天然には存在しないからである。すなわち、全体として天然に存在しないあらゆるベクター、自己複製プラスミド、またはウイルス(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、もしくはヘルペスウイルス)は、非天然核酸とみなされる。したがって、PCRまたは制限エンドヌクレアーゼ処理によって生成されたゲノムDNA断片、ならびにcDNAは、非天然核酸であるとみなされる。なぜならば、これらは天然には見られない分離された分子として、存在するからである。また、プロモーター配列およびポリペプチドをコードする配列(例えば、cDNAもしくはゲノムDNA)を天然には見られない配置で含有するあらゆる核酸は、非天然核酸である。
【0037】
天然核酸は、特定の細胞にとって外来性になり得る。例えば、ある細菌から単離されたオペロン全体は、いったんそのオペロンが第2の細菌中に導入された後には、その第2の細菌にとって外来性核酸である。
【0038】
単離された核酸は、限定するわけではないが、一般的な分子クローニングおよび化学的核酸合成技術を含む任意の方法を使用して、取得することができる。例えば、PCRを使用して、Fnrポリペプチドをコードする単離された核酸を取得することができる。PCRとは、米国特許第4,683,195号に記載されたものに類似する手法で標的核酸を増幅する手順または技法と、この中に記載された手順のその後の改変法を意味する。一般的に、目的の領域の末端またはその外側由来の配列情報を使用して、増幅すべき潜在的鋳型の反対鎖と配列が同一または類似するオリゴヌクレオチドプライマーを設計する。PCRを使用して、RNAまたはDNAから、核酸配列を増幅することができる。例えば、細胞性全RNA、全ゲノムDNA、およびcDNAから、ならびにバクテリオファージ配列、プラスミド配列、ウイルス配列などから、PCR増幅によって、核酸配列を単離することができる。鋳型の起源としてRNAを使用する場合、逆転写酵素を使用して、相補DNA鎖を合成することができる。
【0039】
核酸およびアミノ酸データベース(例えば、GenBank(登録商標))を使用して、Fnrポリペプチドをコードする単離された核酸を取得することができる。例えば、Fnrポリペプチドをコードする核酸にある程度の相同性を持つ任意の核酸配列をクエリーとして使用して、GenBank(登録商標)を検索すればよい。
【0040】
さらに、核酸ハイブリダイゼーション技法を使用して、Fnrポリペプチドをコードする核酸を取得することができる。簡単に述べると、Fnrポリペプチドをコードする配列に相同性を有する任意の核酸をプローブとして使用し、中度から高度ストリンジェンシー条件下でのハイブリダイゼーションによって、類似する核酸を同定することができる。いったん同定すれば、次にその核酸を精製し、配列決定し、解析して、それが、本明細書に記載する本発明の範囲内のものであるかどうかを、判定することができる。
【0041】
ハイブリダイゼーションをサザンまたはノーザン解析で実施して、プローブとハイブリダイズするDNAまたはRNA配列をそれぞれ同定することができる。そのプローブをビオチン、ジゴキシゲニン、酵素、または32Pなどの放射性同位元素で標識してもよい。分析するDNAまたはRNAは、Sambrookら、(1989) Molecular Cloning, 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory, Plainview, NYのセクション7.39〜7.52に記載されているものなどの当分野で周知の標準的技法を使用して、アガロースまたはポリアクリルアミドゲル上で電気泳動によって分離し、ニトロセルロース、ナイロンまたはその他の好適な膜に移し、そしてプローブとハイブリダイズさせてもよい。典型的には、プローブは長さが少なくとも約20ヌクレオチドである。
【0042】
ユビキノン産生の制御
ユビキノンの産生は誘導プロモーターからのfnr遺伝子の発現によって制御することができる。本明細書で使用する「誘導」とは、アップレギュレーションおよびダウンレギュレーションの両方を指す。誘導プロモーターとは、インデューサーに応答して、1種以上のDNA配列または遺伝子の転写を直接または間接的に活性化することができるプロモーターである。インデューサーの不在下では、そのDNA配列または遺伝子は転写されない。インデューサーは、化学物質、例えばタンパク質、代謝産物、成長調節因子、フェノール性化合物であってもよく、あるいは、熱、低温、塩もしくは毒性要素によって直接に、またはウイルスなどの病原体もしくは病因物質の作用によって間接的にもたらされる生理学的ストレスであってもよい。インデューサーはまた、照明因子、例えば明るさ、暗さ、及び光の種々の様相(波長、強度、蛍光、方向および期間を含む)などであってもよい。誘導プロモーターの例として、大腸菌(E.coli)由来のlac系およびテトラサイクリン耐性系が挙げられる。lac系の一種では、lacオペレーターに連結された配列の発現がlacR-VP16融合タンパク質によって構成的に活性化され、またIPTGの存在中では停止される。lac系の別の種類では、IPTGの存在中でlacオペレーターに結合するlacR-VP16変異体が使用され、これは細胞の温度を上昇させることによって増強されうる。
【0043】
遺伝子発現を調節するために、テトラサイクリン(Tc)耐性系の構成要素を使用することもできる。例えば、テトラサイクリンの不在下でtetオペレーター配列に結合して遺伝子転写を抑制するTetリプレッサー(TetR)を使用して、tetオペレーター配列を含有するプロモーターからの転写を抑制することができる。TetRをVP16の活性化ドメインに融合させて、テトラサイクリンで制御される転写アクチベーター(tTA)を作製することもでき、これはTetRと同様の仕方でテトラサイクリンによって調節されるものである。すなわち、tTAは、テトラサイクリン不在下ではtetオペレーター配列に結合するが、テトラサイクリン存在下では結合しない。こうして、この系では、Tcが継続的に存在する場合、遺伝子発現が抑制され、転写を誘導するためには、Tcを除去する。
【0044】
ユビキノンの製造
ユビキノンは、典型的には、微生物を提供し、この提供された微生物をユビキノンが産生されるような培養培地で培養することによって、製造される。一般的には、培養培地および/または培養条件は、その微生物が適切な密度まで増殖し、所望のユビキノンを効率的に産生するようにするものでありうる。大規模製造工程では、以下の方法を使用することができる。最初に、例えばグルコース炭素源を加えた適切な培養培地を含有する大きなタンク(例えば、100ガロン、200ガロン、500ガロン、またはそれ以上のタンク)に、特定の微生物を接種する。接種後、微生物をインキュベートして、バイオマスを生成させる。所望のバイオマスまで到達した後、微生物を含有するブロスを第2のタンクに移動させる。この第2のタンクはどんなサイズでもよい。例えば、第2タンクは第1タンクより大きくても、小さくても、同じサイズでもよい。典型的には、第1タンクからのブロスに追加の培養培地を添加することができるように、第2タンクは第1タンクより大きいものである。さらに、この第2タンク内の培養培地は第1タンクで使用したものと同一でも異なっていてもよい。例えば、第1タンクがキシロースを含有する培地を含む一方で、第2タンクがグルコースを含有する培地を含んでもよい。
【0045】
移動後、微生物をインキュベートして、所望のユビキノンを産生させることができる。いったん産生させた後、所望の化合物を単離するために、任意の方法を使用できる。例えば、微生物が所望のユビキノンをブロス中に放出する場合は、通常の分離技術を使用して、ブロスからバイオマスを除去し、通常の単離操作法(例えば、抽出、蒸留、およびイオン交換法)を使用して、微生物を含まないブロスからユビキノンを取得することができる。さらに、所望のユビキノンを、それが産生されている間に単離することもできるし、あるいはその生成物産生期間が終了した後に、ブロスから単離することもできる。微生物が所望のユビキノンを保持しているならば、バイオマスを回収して、ユビキノンを放出するように処理し、そして放出されたユビキノンを単離することができる。
【0046】
抽出したユビキノン(例えば、CoQ(10))を栄養補助剤(nutraceutical)として製剤化することができる。本明細書で使用する栄養補助剤とは、食品、錠剤、粉剤、または被験者が摂取したとき、その被験者に特定の医学的もしくは生理学的利益をもたらすその他の薬用製剤中に組み込まれている化合物を言う。栄養補助剤は、1種以上のその他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、製薬上許容される担体もしくは賦形剤(例えばバッファー)、ビタミン、カロテノイド、抗酸化剤、例えばエトキシクイン、ビタミンE、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、もしくはパルミチン酸アスコルビルなど、コーン油、ベニバナ油、ヒマワリ油、もしくは大豆油などの植物油、ならびに大豆レシチンもしくはソルビタンエステルなどの食用乳化剤が挙げられる。抗酸化剤および植物油の添加は、加工(例えば、乾燥)、輸送および保存の際のユビキノンの分解の防止に役立つ。
【0047】
本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、これは特許請求の範囲に記載した本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0048】
方法および材料
別に指定する以外は、全ての制限酵素およびT4 DNAリガーゼをNew England Biolabs (Beverly, MA)から入手した。全てのプラスミドDNA調製は、QIAprep Spin Miniprep KitsまたはQiagen Maxi Prep Kitsを使用して行い、全てのゲル精製をQIAquick Gel Extract Kitsを使用して行った(Qiagen, Valencia, CA)。
【0049】
sacB選択を使用する、野生型ロドバクター・スフェロイデス35053およびR.スフェロイデスΔcrtE菌株中でのマーカーを持たないppsSノックアウトの作製:
末端切断型ppsS遺伝子をR.スフェロイデス中、自殺ベクターであるpL01中にクローン化し、pL01ppsSを生成させた。pL01ベクターはカナマイシン耐性遺伝子、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)sacB遺伝子、oriT配列、ColEIレプリコン、およびマルチクローニングサイトを含有している(Lenzら、1994 J. Bacteriol. 176:4385-4393)。pL01ppsSプラスミドを、大腸菌(E. coli)(S17-1)ドナーとのコンジュゲーションによって、R.スフェロイデスATCC 35053株およびR.スフェロイデスATCC 35053 ΔcrtE株中に導入した。カナマイシン耐性を使用して、ゲノム中へのpL01ppsS DNAの組み込みをもたらした、末端切断型ppsS遺伝子とゲノムppsS遺伝子との間の単純交叉事象を選択した。ベクター上のsacB遺伝子の存在によって、ゲノムからのベクターDNAの消失についてのその後の選択が可能になった。なぜならば、ショ糖の存在中でのこの遺伝子の発現は、それぞれ5%および15%ショ糖の増殖条件下で、大腸菌およびR.スフェロイデスにとって致死性だからである。sacB遺伝子の消失をもたらす二重交叉事象の一部は、末端切断型ppsS対立遺伝子を含有していた。この遺伝子ノックアウトの方法は、ゲノム中に残留抗生物質耐性遺伝子がないので、有用である。
【0050】
三段階のPCR工程を使用して、ppsS遺伝子中に300 bpのイン・フレーム欠損を作製した。増幅された断片の先頭にSalI制限部位を、そして増幅された断片の末端にSphI制限部位を導入するように設計したプライマーを使用するPCRによって、R.スフェロイデス35053株由来のppsS遺伝子を増幅した。このプライマーの配列は以下の通りであり、制限部位に下線を付けている:
R.sppsSFSal1 5’- AATTGTCGACTCGCGCACGCTGTTCCTC-3’ (配列番号1)、および
R.sppsSRsph1 5’- AATTGCATGCGCAGGCGGTGCAGGATGTA -3’ (配列番号2)。
【0051】
PCR反応混合物は、反応混合物50μL当たり、各プライマー 0.2μM、1X Expand反応バッファー、DMSO 2.5μl、各dNTP 0.2 mM、1X Expand/Pfuポリメラーゼ混合物、およびゲノムDNA 1 ngを含むものとした。Perkin Elmer Geneamp 2400で以下のプログラムによって、PCRを実施した:最初の変性[94℃で3分];続いて、変性[94℃で30秒]、アニーリング[58℃で1分]、および伸長[72℃で2分]を32サイクル;最終伸長[72℃で7分]。1X TAEバッファー中の0.8%アガロースゲルでの混合物の一部(200μl)の電気泳動とその後のゲル精製によって、1.6 Kbの反応生成物を取得した。
PCRの第2ラウンドを、次の2種類の別の反応で構成した: プライマー R.sppsSFSal1(配列番号1)およびR.sppsSR1(配列番号4、下記)を使用する反応A、ならびにプライマー R.sppsSRsph1(配列番号2)およびR.sppsSF1(配列番号3、下記)を使用する反応B。
R.sppsSF1 5’- CCCTCGCCGAGCTCTACATCGACGCCATAATGATTTCCCT - 3’ (配列番号3)、および
R.sppsSR1 5’- AGGGAAATCATTATGGCGTCGATGTAGAGCTCGGCGAGGG- 3’ (配列番号4)
【0052】
このペアの各プライマーの3’ 末端の20ヌクレオチドは、ppsS遺伝子の中央付近に位置し、互いに300塩基離れ、遺伝子の先頭(R.sppsSR1)および末端(R.sppsSF1)方向に向かっている。このペアの各プライマーの5’ 末端の20ヌクレオチドは、このペアの他方のプライマーの3’ 末端に逆相補性である。この2つの別個の反応のPCRを、鋳型として反応混合物 1μL当たり第1ラウンドの生成物0.05 ngを使用したこと以外は上記と同様にして、実施した。同様に、最初の変性[94℃で3分]を実施した後、続いて、変性[94℃で30秒]、アニーリング[47℃で45秒]、および伸長[72℃で1分15秒]、を8サイクル行い、次いで変性[94℃で30秒]、アニーリング[58℃で45秒]、および伸長[72℃で1分15秒]、を8サイクル行い、さらに変性[94℃で30秒]、アニーリング[63℃で45秒]、および伸長[72℃で1分15秒]、を16サイクル行い、そして最終伸長[72℃で7分]を行った。両PCR産物(長さが約770および750 bp)を1X TAEバッファー中の0.8%アガロースゲル上で分離し、切除し、ゲル精製した。
【0053】
PCRの第3ラウンドは、第1ラウンドのPCRと同一のプライマーおよび反応混合物を利用したが、鋳型としてゲノムDNAではなく、第2ラウンドの各断片 10 ngの混合物を使用した(反応物 200μL)。使用したPCRプログラムも、第1ラウンドのPCRで使用したものと同一としたが、アニーリング時間を2分に延長した。1.3 Kbの第3ラウンドの生成物を1X TAEバッファー中の0.8%アガロースゲル上で分離し、精製した。この1.3 Kb PCR産物(3μg)をSphIおよびSalIで消化し、QIAquick PCR Purification Kitを使用して精製した。
【0054】
ベクターpL01を、このベクター 3μgをSphIおよびSalIで消化することによって調製し、これを65℃で20分加熱してからシュリンプアルカリホスファターゼ(Roche)を使用して脱リン酸化することによって不活性化した。この脱リン酸化ベクターを1%TAE-アガロースゲル上でゲル精製した。
【0055】
SphIおよびSalI消化したベクターDNA(66 ng)を、Rapid DNAリガーゼシステム(Roche)を使用し、室温で5分、消化した第3ラウンドPCR産物 80 ngと連結した。連結混合物の一部(1μl)を大腸菌ElectroMAXTM DH5αTM エレクトロコンピテント細胞(Life Technologies)40μL中にエレクトロポレートした。エレクトロポレートした細胞を、50μg/mLカナマイシンを含有するLB培地(LBK50)にプレーティングした。個々のコロニーをかき取り、新しいLBK50プレートに移植し、また同時に蒸留水(D/W)25μl中に再懸濁し、95℃で10分間加熱して、細胞を溶解させて、DNAを放出させた。前記の第1ラウンドのPCRと同一のPCRスクリーンを使用して、インサートを含むコロニーを同定した。
【0056】
プラスミドDNA 1μlをエレクトロコンピテントS17-1細胞中にエレクトロポレートすることによって、コンジュゲーションのためのドナー大腸菌コロニーを調製した。エレクトロポレートした細胞を、25μg/mLカナマイシン、25μg/mLストレプトマイシン、および25μg/mLスペクチノマイシンを含有するLB培地(LBKSMST)にプレーティングした。菌株S17-1はSMSTに耐性である。単独のコロニーを用いて、プラスミドDNAの単離のためおよびコンジュゲーションでの使用のための培養を開始した。またこれらのコロニーを、5%ショ糖および25μg/mLカナマイシンを含有するLB培地にプレーティングして、sacB遺伝子がなお機能性であることを確認した。ショ糖培地で致死性を示したコロニーのみをコンジュゲーションに使用した。上記の第1ラウンドのPCRと同一のPCRスクリーンを使用して、正しいインサートサイズの存在を確認した。
【0057】
1/5および1/10容量の接種菌を使用して、R.スフェロイデスATCC菌株35053の増殖中の培養物を、20% LBを補充したSistrom培地5 mL中で継代培養し、30℃で12時間増殖させた。S17-1ドナーコロニーをLBKSMST培地中、37℃で12時間増殖させた。各培養物のアリコート(1.5〜3.0 mL)をペレット化し、そのペレットをLB培地で4回洗浄した。相対的なペレットサイズを評価し、S17-1細胞1容量に対して約2容量のATCC菌株35053細胞を使用した。細胞混合物をペレット化し、LB培地20μLに再懸濁させ、LBプレート上にスポットし、30℃で7〜15時間インキュベートした。次に細胞をプレートの表面から掻き取り、Sistrom塩1.5 mL中に再懸濁させ、再懸濁細胞200μLを、25μg/mLカナマイシンを含むSistrom(SISK25)培地7プレートのそれぞれに、プレーティングした。
【0058】
約10日後、プレート上で増殖した企図した単純交叉事象を示すコロニーを、同一の培地の新しいプレートにストリーキングした。増殖の際、単独コロニーを、25μg/mLカナマイシンを含むLB(LBK25)培地にストリーキングした。精製したコロニーを、1X LB、15%ショ糖、0.04% DMSO(v/v)および25μg/mLカナマイシンを補充したSistrom培地(SisLBK15%SucDMSO)に移植した。これらを嫌気チャンバー(Becton Dickinson, Sparks, MD)中、30℃で5日間、増殖させて、企図した単純交叉事象でのsacB遺伝子の致死性を確認した。これらの培養物からコロニーを精製し、これらが末端切断されたppsS対立遺伝子を含んでいることを示すため、PCRで試験した。二重交叉の可能性があるものもLBK25プレートにストリーキングして、カナマイシンに対する感受性を確認した。
【0059】
ロドバクター・スフェロイデス振盪フラスコプロトコール: 各種の挿入された遺伝子またはノックアウトを持つR.スフェロイデスATCC 35053の培養物5 mLを、4 g/Lグルコース (Sistrom, 1962. J. Gen. Microb. 28:607-616)および1% 酵母エキストラクト(Sigma Chemical Co., St.Louis, MO)を含むSistrom培地を含有する13 mL培養チューブで増殖させた。培養物を、New Brunswick Innova振盪機中、250 rpmで振盪しながら30℃で48〜72時間インキュベートした。培養物の1.6 mL アリコートを培養チューブから取り出し、500 mLバッフル付き振盪フラスコ中のTris尿素培地150 mLに添加した。Tris尿素培地はSistrom培地の改変物であり、硫酸アンモニウムを除去して50 mM Tris HCl、1.6 g/L尿素および10 g/Lグルコースを添加したものである。次にフラスコをNew Brunswick Innova振盪機中、様々な振盪速度で30℃で72〜84時間インキュベートした。インキュベーション時間の最後に、CoQ(10)またはカロテノイド分析のために、フラスコの内容物全部を取り出した。
【0060】
ロドバクター・カプシュラタス振盪フラスコプロトコール: 各種の挿入された遺伝子またはノックアウトを持つR. カプシュラタスSB1003の培養物5 mLを、PYブロス(0.3% ペプトン、0.3% 酵母エキストラクト、1 mM MgSO4 および1 mM CaCl2)を含有する13 mL培養チューブで増殖させた。培養物を、New Brunswick Innova振盪機中、250 rpmで振盪しながら30℃で48〜72時間インキュベートした。培養物の1.6 mL アリコートを培養物から取り出し、500 mLバッフル付き振盪フラスコ中のRCV 2/3PY培地 (Youngら、1989 Mol. Gen. Genet. 218:1-12)150 mLに添加した。次にフラスコをNew Brunswick Innova 振盪機中、様々な振盪速度で30℃で72〜84時間インキュベートした。インキュベーション時間の最後に、CoQ(10)またはカロテノイド分析のために、フラスコの内容物全部を取り出した。
【0061】
R.スフェロイデスからのスフェロイデノンの分析: 容量20 mLのサンプルを3500 rpmで10分の遠心分離によって回収した。サンプルを蒸留水20 mLで1回洗浄し、等量の蒸留水中に懸濁させた。サンプル10 mLを分離チュープ中、3500 rpmで10分遠心分離し、約1 mLの蒸留水中に再懸濁させ、乾燥細胞重量分析のために、風袋秤量した皿に入れた。サンプルを100℃で24時間乾燥し、乾燥細胞重量(DCW)/培養物 mLを算出した。抽出のため、0.75 mL〜1.5 mLの容量の培養物を1.8 mL微量遠心管に添加し、IEC MicroMax 微量遠心機中、10,000 rpmで3分、遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットをアセトン: メタノール(7:2) 1.0 mL中に完全に再懸濁させ、室温の暗所で30分保管した。このインキュベーション中に、サンプルを1回混合した。インキュベーション後、サンプルを10,000 rpmで3分間遠心分離し、抽出物(上清)を回収した。分析を即座に実施しない場合は、サンプルを-20℃で保存した。カロテノイド抽出物を、分光光度計で350 nm〜800 nmの範囲でスキャンして分析し、OD480を記録した。カロテノイド(スフェロイデノン)の量(mg)/培養物100 mL を、以下の式を使用して算出した:
スフェロイデノン(mg)/培養物100 mL= ((OD480− (0.0816 × OD770))×0.484)/抽出に使用した培養物サンプルの量
【0062】
スフェロイデノン(mg)/培養物 100 mLの値から、変換係数としてDCW数を使用して、スフェロイデノンの量/ DCW mgを算出した。サンプルの分光光度分析の際に必要となる希釈係数について補正するよう取り扱った。
【0063】
CoQ(10)分析: 細胞を含有する培養培地130 mLを取り出し、風袋秤量した250 mL遠心ボトルに入れた。サンプルを15,000 X G で5分遠心分離し、上清を流し出し、サンプルを冷水50 mLに再懸濁させた。サンプルを15,000 X G で5分、再度遠心分離し、上清を流し出した。バイオマスの湿重量を測定し、そのバイオマスをその重量の1.5倍の水に再懸濁させた。サンプルをホイルで覆って、分析まで-80℃で保存した。
【0064】
分析前に、サンプルを21℃で15分間加温し、その後1.0 mLを取り出して、ドデシル硫酸ナトリウムを最終濃度が5 % になるように添加した。サンプルを最初にエタノール4 mLで抽出し、30分間ボルテックスし、その後ヘキサン10 mLで抽出し、さらに30分間ボルテックスした。サンプルの3500 rpmで5分間の遠心分離後、ヘキサン層2.5 mLを蒸発乾固させ、残渣をヘキサン100μLに溶解させた。エタノール2.4 mLをさらに添加して、最終容量を2.5 mLとした。その後、PDA検出器を備えたWaters Nova-Pak C18 (3.9 x 150 mm: 4 Um)カラムで、200-300 nmでサンプルを分析した。分解能は1.2 nm、最大吸光度は275 nmにあった。操作時間は10分間で、注入容量は20μLであった。CoQ(10)標準物質はSigma Chemical(C-9538)から入手した。
【0065】
1アリコートを取り、アルミニウム製秤量皿中、105℃で少なくとも4時間乾燥することによって、サンプルの乾燥重量を測定した。
【0066】
R.スフェロイデス中のfnrL遺伝子の過剰発現: ベクターpRK415中のfnrL遺伝子に対する本来のプロモーターを使用して、R.スフェロイデスfnrL遺伝子をR.スフェロイデス中で過剰発現させた。また、fnrL遺伝子を、tetプロモーターまたはR.スフェロイデスrrnBプロモーターのいずれかを挿入した広域ホストベクターpBBR1MCS2(Kovachら、1995 Gene 166:175-6)を使用して、R.スフェロイデス中で過剰発現させた。
【0067】
R.スフェロイデスのエレクトロコンピテント細胞の作製: 20% LBを補充したSistrom培地中で、各種のR.スフェロイデス菌株の培養物5mLを30℃で一晩増殖させた。培養物を同じ培地300 mLに1/100に希釈し、OD660 0.5-0.8まで増殖させた。細胞を氷上で10分間冷却し、その後7,500 gで6分間遠心分離した。上清を廃棄し、細胞ペレットを当初の容量の半分の氷冷10%グリセロール中に再懸濁した。細胞を7,500 gで6分間の遠心分離によってペレット化し、上清を再度廃棄した。細胞を当初の4分の1の容量の氷冷10%グリセロール中に再懸濁した。最後の遠心分離および再懸濁ステップを繰り返した後、7,500 gで6分間遠心分離した。上清をデカントし、細胞を少量のグリセロール中に再懸濁させ、これは排出しなかった。必要ならば、細胞を再懸濁させるために、氷冷10%グリセロールを追加した。試験的エレクトロポレーション(下記)で再懸濁細胞40μLを使用して、細胞を遠心分離によって濃縮するか、または10%氷冷グリセロールで希釈する必要があるかを判定した。時間定数8.5-10.0の場合に良好な形質転換効率がもたらされた。許容される時間定数が得られた後、細胞を冷却微量遠心管に分注して、-80℃で保存した。培地およびグリセロールに使用した水はすべて18 Mohmまたはそれ以上のものとした。
【0068】
R.スフェロイデス中へのエレクトロポレーション: pUI1970プラスミド (Zeilstra-Ryallsら、1997 J. Bacteriol. 179:7264-7273.)を保有するR.スフェロイデスATCC2.4.1菌株をSamuel Kaplan(University of Texas, Houston)から取得した。このpUI1970プラスミドはR.スフェロイデスfnrL遺伝子とそのプロモーターをベクター pRK415中に含有している。QIAprep Spin Miniprep Kit (Qiagen, Valencia, CA)を使用して、プラスミドDNAをこれらの菌株から単離した。pRK415またはpUI1970プラスミドDNA(100-150 ng)をR.スフェロイデスBS1(ATCC 35053/ΔcrtEΔppsRΔccoN)エレクトロコンピテント細胞 40μLと穏やかに混合した。次に細胞混合物を0.2 cM 電極間隔を持つエレクトロポレーションキュベットに移した。Biorad Gene Pulser II(Biorad, Hercules, CA)を使用し、エネルギー2.5 kV、抵抗400オーム、および電気容量25μFの設定で、エレクトロポレーションを実施した。細胞をSOC培地400μL中、30℃で10-16時間かけて回復させた。次に細胞を選択用培地に1プレートについて200μLでプレーティングした。PCRを使用して、個々のコロニーを、予想したサイズのインサートの存在について試験した。ピペットチップを使用して、コロニーを約25μLの10 mM Tris バッファーに再懸濁させ、再懸濁物2μLを、テトラサイクリン0.8 μgを含有するLB培地上にストリーキングした。残りの再懸濁物を95℃で10分加熱して、細菌細胞を破壊し、この加熱細胞2μLを、特定のプライマーセットを使用する25μL PCR反応で使用した。
【0069】
fnrL遺伝子の存在をチェックするため、以下のプライマーを使用した:
FnrLF (5’- TCAAGAATTCGAAGGAAGAGCATGACGCTGCACGAAGTCCCA- 3’ (配列番号5)、および
FnrLR (5’-ATCATCTATGTTGAAGCTTGCTGCCTCTGCCCGCCTCGC - 3’ (配列番号6))
【0070】
PCRミックスは以下を含むものとした: 1X Taq PCRバッファー、0.2μM 各プライマー、0.2 mM 各dNTP、5% DMSO (v/v)、および1反応について、Taq DNAポリメラーゼ (Roche)1単位。PCR反応をMJ Research PTC100で以下の条件で実施した: 最初の変性[94℃で2分]; 変性[94℃で30秒]、ならびにアニーリングおよび伸長[72℃で2.5分]、を30サイクル; そして最終伸長[72℃で7分]。pUI1970プラスミドを含有するコロニーはサイズが約900 bpの大きなPCR産物を有するという結果となったが、fnrL遺伝子を持たないベクターを含有するコロニーは、fnrL遺伝子のゲノムコピーからの増幅によって、かすかなバンドを示した。
【0071】
pUI1970を保有するR.スフェロイデス菌株BS1の培養物を、4 g/Lグルコース、20% LB、および0.8μg/mLテトラサイクリンを入れたSistrom培地5 mLを含有する培養管で培養した。培養物を250 rpmで振盪しながら、30℃で48時間インキュベートした。次にこれらの培養物3ミリリッターを使用して、250 mLバッフル付きフラスコ中、0.8μg/mLのテトラサイクリンを含有するTris尿素培地40 mLに接種した。250 rpmで振盪しながら30℃で一日増殖させた後、培養物6.25 mLを使用して、Tris尿素培地125 mLを含有する3個の500 mLバッフル付き振盪フラスコのそれぞれに接種した。この培地をFeSO4 7mg/Lの添加によって強化した。次にフラスコをNew Brunswick Innova振盪機で70 rpmで振盪しながら、30℃で84時間インキュベートした。インキュベーション時間の最後に、CoQ10分析のため、フラスコの全内容物を取り出した。テトラサイクリンの光感受性のため、全培養物を暗所で増殖させた。
【0072】
pMCS2tetPベクターの構築: トランスポゾンTn1721からのtetAテトラサイクリン耐性遺伝子に対するプロモーター(Watersら、1983 Nucleic Acids Res. 11(17):6089-6105)をpBBR1MCS2ベクター中にクローン化することによって、pMCS2tetPベクターを構築した。pBBR1MCS2ベクターは可動性で比較的小さく(5,144 bp)、R.スフェロイデス中で複製し、マルチクローニングサイトを有し、lacZα色選択を示し、そしてカナマイシン耐性遺伝子を含有する。鋳型としてプラスミドpRK415、そして増幅した断片の先頭にXbaI制限部位を、増幅した断片の最後部にBamHI部位を導入するように設計したプライマーを使用して、tetA遺伝子プロモーター(tetP)を増幅した。
(TETXBAF 5’- TTATCTAGAACCGTCTACGCCGACCTCGTTCAAC - 3’ (配列番号7)、および
TETBAMR, 5’- TTAGGATCCCCTCCGCTGGTCCGATTGAAC - 3’ (配列番号8))
【0073】
PCRミックスは以下を含むものとした: 最終容量 200μL中、1X Native Plus Pfuバッファー、pRK415プラスミドDNA 20 ng、0.5μM 各プライマー、0.2 mM 各dNTP、5% DMSO(v/v)、および未変性のPfuDNAポリメラーゼ10単位。PCR反応をPerkin Elmer Geneamp PCR System 2400で以下の条件で実施した: 最初の変性[94℃で1分]; 変性[94℃で30秒]、アニーリング[60℃で45秒]、および伸長[72℃で45秒]、を8サイクル; 変性[94℃で30 秒]、アニーリング[66℃で45秒]、および伸長[72℃で45秒]、を24サイクル; そして最終伸長[72℃で7分]。次に2%TAE-アガロースゲルを使用するゲル電気泳動によって、増幅産物を分離した。160 bpの断片をゲルから切り取って精製した。精製した断片をXbaIおよびBamHI制限酵素で同時に消化し、QIAquick PCR Purification Kitで精製した。pBBR1MCS2プラスミドDNA 3μgをBamHIおよびXbaIで消化し、80℃で20分の加熱によって、反応を停止させた。次に消化したベクターをシュリンプアルカリホスファターゼで脱リン酸化し、1%TAE-アガロースゲルでゲル精製した。
【0074】
T4 DNAリガーゼを使用して、16℃で16時間、調製したpBBR1MCS2ベクター(100 ng)を、消化したtetP PCR産物(36 ng)と連結した。大腸菌ElectromaxTM DH5αTM 細胞(40μl)に、連結反応物1μLをエレクトロポレートした。エレクトロポレートした細胞を、25μg/mLカナマイシンおよび50μg/mL Xgalを含有するLB培地(LBKX)上にプレーティングした。個々の白色コロニーを約25μLの10 mM Tris中に再懸濁させ、2μLをLBKX上にプレーティングした。再懸濁コロニーの残りの部分を95℃で10分間加熱して、細菌細胞を溶解させた。溶解細胞2μLを、以下の、ベクターに相同なプライマーおよびクローニング部位に隣接するプライマーを使用する25μLのPCR反応に使用した:
MCS2FS: 5’- AGGCGATTAAGTTGGGTAAC -3’ (配列番号9)、および
MCS2RS: 5’- GACCATGATTACGCCAAG -3’ (配列番号10)
【0075】
PCRミックスは以下を含むものとした: 1X Taq PCR バッファー、0.5μM 各プライマー、0.2 mM 各dNTP、および1反応について、Taq DNA ポリメラーゼ1単位。PCR反応をMJ Research PTC100で以下の条件で実施した: 最初の変性[94℃で2分]; 変性[94℃で30秒]、アニーリング[55℃で45秒]、および伸長[72℃で1分]、を32サイクル; そして最終伸長[72℃で7分]。全コロニーが単一挿入結果を示した。プラスミドDNAを2種の単独のコロニーの培養物から単離し、配列決定して、構築物中のtetプロモーターのDNA配列を確認した。
【0076】
pMCS2rrnBPベクターの構築: R.スフェロイデスrrnBプロモーター(rrnBP)の1コピーをベクターpBBR1MCS2The中に挿入することによって、pMCS2rrnBPベクターを構築した。rrnBプロモーターは、ベクターpTEX24(S.Kaplan)から、BamHIで消化し、このプロモーターを363 bpの断片として放出させることによって、単離した。この断片を2%TAEアガロースゲルからゲル精製した。pBBR1MCS2ベクターもBamHIで消化し、酵素を80℃で20分間、加熱不活性化した。次に、消化したベクターをシュリンプアルカリホスファターゼ(Roche Molecular Biochemicals, Indianapolis, IN)で脱リン酸化し、1%TAE-アガロースゲルからゲル精製した。調製したベクターおよびrrnBP断片を、T4 DNAリガーゼを使用して、16℃で16時間かけて連結した。大腸菌 ElectromaxTM DH10BTM 細胞(Life Technologies, Inc., Rockville, MD)にエレクトロポレートし(細胞40μlに連結反応物1μl)、25μg/mLカナマイシンを含有するLB培地(LBK25)にプレーティングした。単一コロニーの培養物から、プラスミドDNAを単離し、HindIIIで消化して、単一のrrnBプロモーターの挿入の存在を確認した。DNA配列決定によって、これらのコロニーについてのrrnBPインサートの配列も確認した。
【0077】
R.スフェロイデスfnrL遺伝子のpMCS2tetP中へのクローニング: R.スフェロイデスfnrL遺伝子を、この遺伝子の上流および下流の配列に相同なプライマーを使用するPCRによって増幅した。これらのプライマー、FNRLFおよびFNRLR(配列番号5および配列番号6)は、増幅した断片の先頭にEcoRI制限部位およびリボソーム結合部位を、そして増幅した断片の最後部にHindIII部位を導入するように設計された。PCRミックスは以下を含むものとした: 最終容量 200μL中、1X Native Plus Pfuバッファー、R.スフェロイデスゲノムDNA 200 ng、0.5μM 各プライマー、0.2 mM 各dNTP、5% DMSO(v/v)、および未変性のPfuDNAポリメラーゼ(Stratagene, La Jolla, CA)10単位。PCR反応をPerkin Elmer Geneamp PCR System 2400で以下の条件で実施した: 最初の変性[94℃で2分]; [94℃で30秒]、[62℃で1分]、および[72℃で2分]、を8サイクル; [94℃で30秒]、[66℃で1分]、および[72℃で2分]を22サイクル; そして最終伸長[72℃で7分]。次に増幅産物を、1%TAE-アガロースゲルを使用するゲル電気泳動によって分離した。約0.84 Kbのサイズの断片をゲルから切り取って精製した。精製した断片をEcoRI制限酵素で消化し、QIAquick PCR Purification Kitで精製し、HindIII制限酵素で消化し、QIAquick PCR Purification Kitで精製し、ミニゲル上で定量した。
【0078】
pMCS2tetPベクター3μgをEcoRIで消化し、1%TAE-アガロースゲルでゲル精製し、HindIIIで消化し、QIAquick PCR Purification Kitで精製し、シュリンプアルカリホスファターゼで脱リン酸化し、再度QIAquick PCR Purification Kitで精製した。T4 DNAリガーゼを使用して、16℃で16時間、R.スフェロイデスfnrL遺伝子を含有する消化したPCR産物(70 ng)と調製したpMCS2tetPベクター(75 ng)を連結した。大腸菌 ElectromaxTM DH10BTM 細胞に、連結反応物をエレクトロポレートした(細胞40μlに連結反応物1μL)。個々のコロニーを、PCRを使用して、予想されたサイズのインサートの存在について試験した。個々のコロニーを約25μLの10 mM Tris中に再懸濁させ、再懸濁物の2μLをLBK培地上にプレーティングした。残りの再懸濁物を95℃で10分間加熱して、細菌細胞を溶解させ、加熱細胞2μLを、TETXBAFおよびFNRLRプライマーを使用する25μLのPCR反応に使用した。PCRミックスは以下を含むものとした: 1X Taq PCR バッファー、0.5μM 各プライマー、0.2 mM 各dNTP、5% DMSO(v/v)、および1反応について、Taq DNAポリメラーゼ(Roche) 1単位。PCR反応をMJ Research PTC100で以下の条件で実施した: 最初の変性[94℃で2分]; [94℃で30秒]、[62℃で1分]、および[72℃で2分]、を8サイクル; [94℃で30秒]、[66℃で1分]、および[72℃で2分]、を22サイクル;そして最終伸長[72℃で7分]。所望のインサートサイズのコロニーのプラスミドDNAのDNA配列決定によって、fnrLインサートの配列を確認した。
【0079】
次に、正しい配列を持つ精製したプラスミドDNAを、R.スフェロイデス菌株35053および2.4.1ΔfnrLのエレクトロコンピテント細胞中にエレクトロポレートした(方法は上記)。形質転換した35053菌株をLBKプレート上にプレーティングした。上記のように、所望のインサートサイズについて、個々のコロニーをスクリーニングした。2.4.1ΔfnrL/MCS2tetP/RsfnrLと命名した菌株を、0.5% DMSOを含有するSisLBプレートにプレーティングし、嫌気チャンバーに入れた。これらの条件下での菌株の増殖を利用して、発現ベクターの正しい機能発揮を確認した。
【0080】
R.スフェロイデスfnrL遺伝子のpMCS2rrnBP中へのクローニング: プライマーFNRLCLAFおよびFNRLKPNRを使用するPCRによって、R.スフェロイデスfnrL遺伝子を増幅した。これらのプライマーは、増幅した断片の先頭部にClaI制限部位およびリボソーム結合部位を、そして増幅した断片の最後部にKpnI部位を導入するように設計された。
FNRLCLAF: 5'- TCAAATCGATGAAGGAAGGGCATGACGCTGCACGAAGTCC -3' (配列番号11)、および
FNRLKPNR: 5'- TCGGAAGTACGGTACCTGATGGCGCACTGACGGAAGAAG -3' (配列番号12)
【0081】
PCRミックスは以下を含むものとした: 最終容量 200μL中、1X Native Plus Pfuバッファー、R.スフェロイデス・ゲノムDNA 200 ng、0.5μM 各プライマー、0.2 mM 各dNTP、5% DMSO(v/v)、および未変性のPfu DNAポリメラーゼ(Stratagene, La Jolla, CA)10単位。PCR反応をPerkin Elmer Geneamp PCR System 2400で以下の条件で実施した: 最初の変性[94℃で3分]; [94℃で30秒]、[58℃で1分]、および[72℃で1.5分]、を30サイクル; そして最終伸長[72℃で7分]。次に増幅産物を、1%TAE-アガロースゲルを使用するゲル電気泳動によって分離した。約0.87 Kbのサイズの断片をゲルから切り取って精製した。精製した断片をKpnI制限酵素で消化し、QIAquick PCR Purification Kitで精製し、ClaI制限酵素で消化し、QIAquick PCR Purification Kitで再度精製し、SmartSpec3000上で定量した。
【0082】
pMCS2rrnBPベクター3μgを制限酵素ClaIで消化し、1%TAE-アガロースゲルでゲル精製し、KpnIで消化し、QIAquick PCR Purification Kitで精製し、シュリンプアルカリホスファターゼで脱リン酸化し、再度QIAquick PCR Purification Kitで精製した。上記のR.スフェロイデスfnrL遺伝子を含有する消化したPCR産物(45 ng)と、調製したpMCS2rrnBPベクター100 ngをT4 DNAリガーゼを使用して、室温で5分間かけて連結した(Roche Rapid Ligation Kit)。連結反応物をHigh-Pure PCRクリーンキット(Roche)で精製した。連結反応物10μLを使用して、大腸菌 ElectromaxTM DH10BTM 細胞40μLにエレクトロポレートした。個々のコロニーを、PCRを使用して、予想されたサイズのインサートの存在について試験した。ピペットチップを使用して、コロニーを約20μLの滅菌蒸留水に再懸濁させた。残りの細胞をLBK25培地にストリーキングした。再懸濁細胞を95℃で10分間加熱して細菌細胞を溶解させ、溶解細胞5μLを、当初のPCRプライマー(上記)を使用する25μLのPCR反応に使用した。PCRミックスは以下を含むものとした: 1X Taq PCRバッファー、0.2μM 各プライマー、0.2 mM 各dNTP、5% DMSO(v/v)、および1反応について、Taq DNAポリメラーゼ (Roche) 1単位。PCR反応をMJ Research PTC100で以下の条件で実施した: 最初の変性[94℃で3分]; [94℃で30秒]、[58℃で1分]、および[72℃で1.5分]、を30サイクル; そして最終伸長[72℃で7分]。所望のインサートサイズを有するコロニーのプラスミドDNAのDNA配列決定によって、fnrLインサートの配列を確認した。
【0083】
次に、正しい配列を持つ精製したプラスミドDNAを、R.スフェロイデス菌株35053および2.4.1ΔfnrLのエレクトロコンピテント細胞中にエレクトロポレートした。形質転換した35053菌株をLBK25培地上にプレーティングした。上記のように、所望のインサートサイズについて、個々のコロニーをスクリーニングした。2.4.1ΔfnrL/pMCS2rrnBP/RsfnrL菌株を、0.5% DMSOを含有するSisLBプレートにプレーティングし、嫌気チャンバーに入れた。これらの条件下での菌株の増殖を利用して、発現ベクターの正しい機能発揮を確認した。
【0084】
実施例 1. R.スフェロイデスでのCoQおよびカロテノイドの産生に対するppsS遺伝子の影響
R.スフェロイデスATCC 35053、ATCC 35053/ΔcrtE、ATCC 35053/ΔppsS、およびATCC 35053/ΔcrtEΔppsSを、振盪フラスコ中のTris尿素培地150 mL中、80 rpmで振盪しながら、30℃で増殖させた。3日間のインキュベーション期間の終了時、細胞を回収し、上記のように、CoQ(10)およびカロテノイドについて分析した。結果を表1に示す。
【表1】

【0085】
不活性化したcrtEおよびppsS遺伝子を持つR.スフェロイデスATCC 35053株はCoQ10について30%〜43.7%の増加を示した。野生型(35053)バックグラウンドでは、ppsS遺伝子ノックアウトの結果、カロテノイドの増加(14%〜15.84%)およびCoQ10の5.8%〜6.8%の増加となった。ここに掲げた各数値は、3つの振盪フラスコ実験ポイントの平均である。これらの結果は、ppsSの不活性化がR.スフェロイデスATCC 35053中でカロテノイドだけでなくCoQ10の産生を増加させたことを証明した。
【0086】
実施例 2. R.カプシュラタスでのCoQ(10)およびカロテノイドの産生に対するaerR遺伝子の影響
R.カプシュラタスSB1003株(リファンピシン耐性)および各種の遺伝子ノックアウトを持つR.カプシュラタスSB1003(Carl Bauer, Indiana University、より取得)を、3組ずつ、500 mL振盪フラスコ中のPYS RCV2/3PY培地150 mLで、80 rpmで振盪しながら増殖させた。30℃で3日間のインキュベーション期間の終了時、細胞を回収し、CoQ10産生をアッセイした。結果を表2に示すが、不活性化したppsR、ならびにppsRおよびaerRの両方を持つ菌株はCoQ(10)およびカロテノイドの両方の産生を増加させることを示している。
【表2】

【0087】
実施例 3. ロドバクター・スフェロイデス中でのCoQ(10)産生に対するその本来のプロモーターを持つfnrL遺伝子の影響
プラスミドpRK415を含有するR.スフェロイデスATCC 35053/ΔcrtEΔppsRΔccoN (Keenら、1988 Gene 70:191-197.)、およびR.スフェロイデスfnrL遺伝子を持つプラスミドpRK415を含有するR.スフェロイデスATCC 35053/ΔcrtEΔppsRΔccoN(Zeilstra-Ryalls and Kaplan, 1995 J. Bacteriol. 177: 6422-6431)を、3組ずつ、500 mL振盪フラスコ中のカナマイシン25μg/mLを含むTris 尿素培地150 mLで30℃にて80 rpmで振盪しながら、増殖させた。3日間のインキュベーション期間の終了時、細胞を回収し、CoQ(10)について分析した。結果を表3に示すが、これはfnrL遺伝子の追加コピーが、追加コピーを持たない菌株よりもCoQ(10)の産生を改善することを証明している。
【表3】

【0088】
実施例 4. 準好気条件下でのR.スフェロイデス中のCoQ(10)産生に対するfnrL遺伝子の影響
R.スフェロイデスATCC 35053由来のfnrL 遺伝子の前にrrnBプロモーターまたはtetプロモーターのいずれかを有するプラスミドpMCS2を含有するR.スフェロイデスATCC 35053を、培養物100 mLを1Lフラスコ中で使用したこと以外は実施例3の記載と同様にして増殖させた。3日間のインキュベーション期間の終了時、細胞を回収し、CoQ(10)について分析した。結果を表4に示す。
【表4】

【0089】
実施例 5. 好気条件下でのR.スフェロイデス中のコエンザイムQ(10)産生に対するfnrL遺伝子の影響
R.スフェロイデスATCC 35053由来のfnrL遺伝子にrrnBプロモーターまたはtetプロモーターのいずれかを機能し得るように連結したプラスミドpMCS2を含有するR.スフェロイデスATCC 35053を、実施例3の記載と同様にして、増殖させた。細胞をNew Brunswick Innova振盪機で、200 rpmで振盪した。3日間のインキュベーション期間の終了時、細胞を回収し、CoQ(10)について分析した。結果は以下の通りである。
【表5】

【0090】
その他の実施形態
本発明をその詳細な説明と関連付けて記載してきたが、これまでの記載は説明するためのものであって、本発明の範囲を限定する意図はないことは理解されるべきである。本発明は特許請求の範囲の技術的範囲によって定義される。その他の態様、利点、および改変形態は特許請求の範囲の技術的範囲内のものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ppsR配列の少なくとも一部分およびaerR配列の少なくとも一部分のゲノム破壊を含む膜性細菌であって、前記ゲノム破壊が前記ppsR配列および前記aerR配列を非機能的にするものであり、同様の培養条件下で増殖させた前記ゲノム破壊を欠如している対応する膜性細菌に比較して、増大した量のコエンザイムQ10(CoQ(10))を産生する前記膜性細菌。
【請求項2】
膜性細菌が紅色非硫黄光合成細菌である、請求項1に記載の膜性細菌。
【請求項3】
膜性細菌がロドバクター(Rhodobacter)属の種である、請求項1に記載の膜性細菌。
【請求項4】
ロドバクター属の種がロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)またはロドバクター・カプシュラタス(Rhodobacter capsulatus)である、請求項3に記載の膜性細菌。
【請求項5】
フマル酸硝酸還元(Fnr)ポリペプチドをコードする外来性核酸を含む膜性細菌であって、同様の培養条件下で増殖させた前記外来性核酸を欠如している対応する膜性細菌に比較して、増大した量のCoQ10を産生する前記膜性細菌。
【請求項6】
Fnrポリペプチドがロドバクター・スフェロイデスFnrLポリペプチドである、請求項5に記載の膜性細菌。
【請求項7】
FnrポリペプチドがR.カプシュラタスFnrポリペプチドである、請求項5に記載の膜性細菌。
【請求項8】
膜性細菌が紅色非硫黄光合成細菌である、請求項5に記載の膜性細菌。
【請求項9】
膜性細菌がロドバクター(Rhodobacter)属の種である、請求項5に記載の膜性細菌。
【請求項10】
ロドバクター属の種がロドバクター・スフェロイデスまたはロドバクター・カプシュラタスである、請求項9に記載の膜性細菌。
【請求項11】
crtE配列の少なくとも一部分、ppsR配列の少なくとも一部分、およびccoN配列の少なくとも一部分のゲノム破壊をさらに含み、前記ゲノム破壊が前記crtE配列、前記ppsR配列および前記ccoN配列を非機能的にするものであり、同様の培養条件下で増殖させた前記外来性核酸および前記ゲノム破壊を欠如している対応する膜性細菌に比較して、増大した量のCoQ10を産生する、請求項5に記載の膜性細菌。
【請求項12】
膜性細菌からCoQ(10)を抽出することを含む、栄養補助剤の製造方法であって、前記膜性細菌が、Fnrポリペプチドをコードする外来性核酸を含み、かつ前記膜性細菌が、同様の培養条件下で増殖させた前記外来性核酸を欠如している対応する膜性細菌に比較して、増大した量のCoQ(10)を産生する前記方法。
【請求項13】
膜性細菌が、crtE配列の少なくとも一部分、ppsR配列の少なくとも一部分、およびccoN配列の少なくとも一部分のゲノム破壊をさらに含み、前記ゲノム破壊が前記crtE配列、前記ppsR配列および前記ccoN配列を非機能的にするものであり、同様の培養条件下で増殖させた前記外来性核酸およびゲノム破壊を欠如している対応する膜性細菌に比較して、増大した量のCoQ(10)を産生する膜性細菌である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
膜性細菌からCoQ(10)を抽出することを含む、栄養補助剤の製造方法であって、前記膜性細菌がppsR配列の少なくとも一部分およびaerR配列の少なくとも一部分のゲノム破壊を含み、前記ゲノム破壊が前記ppsR配列および前記aerR配列を非機能的にするものであり、同様の培養条件下で増殖させた前記ゲノム破壊を欠如している対応する膜性細菌に比較して、増大した量のCoQ(10)を産生する膜性細菌である前記方法。

【公表番号】特表2006−507009(P2006−507009A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555768(P2004−555768)
【出願日】平成15年11月25日(2003.11.25)
【国際出願番号】PCT/US2003/037824
【国際公開番号】WO2004/047763
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【出願人】(503262912)カーギル,インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】