説明

ヨウ化タリウムを含まないセラミックメタルハライドランプ

【課題】望ましくない色ずれや、光束維持率又は発光効率の損失を伴うことなく、最大定格電力未満で動作可能な放電ランプを提供する。
【解決手段】セラミックメタルハライドランプの充填材は、タリウムのハライドを含まないが、(a)希ガスと、(b)水銀と、(c)更なるハライド成分と、を含み、この更なるハライド成分は、(i)アルカリ金属ハライドと、(ii)アルカリ土類金属ハライドと、(iii)ランタン及びセリウムと、任意でプラセオジム、ネオジム、及びサマリウム、並びにこれらを組み合わせたものと、から成る群から選択される希土類ハライドの少なくとも1つと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、最大定格電力未満で動作する、望ましくない色ずれを生じることなく優れた光束維持率及び高い発光効率を示すことが可能な放電ランプに関する。本開示の用途は、特に、ヨウ化タリウムをドーズ(添加物)に含まないセラミックメタルハライドランプに関連して考えられるため、特にこのセラミックメタルハライドランプに関して説明する。
【背景技術】
【0002】
高輝度放電(HID)ランプは、比較的小さい光源から大量の光を発することができる高効率ランプである。HIDランプは、様々な用途に広く用いられており、例えば、小売用陳列の照明、道路照明、競技場のような大きな会場の照明、工業用建物や商業施設の投光照明、プロジェクタ等に用いられるが、これらはほんの数例である。「HIDランプ」という用語は、様々な種類のランプを意味するように用いられている。これには、水銀ランプ、メタルハライドランプ、及びナトリウムランプが含まれる。メタルハライドランプは、特に、比較的低コストで高輝度を必要とする分野で広く用いられる。HIDランプが他のランプと異なるのは、その動作環境が、高温高圧での長時間にわたる動作を必要とする点である。また、これらのHIDランプは、その用途及びコストから、有効寿命が比較的長く、発光の輝度及び色が安定していることが望ましい。HIDランプは、原理的には、交流(AC)電源でも直流(DC)電源でも動作可能であるが、実際には、AC電源で駆動されるのが普通である。
【0003】
放電ランプの発光は、希ガス、メタルハライド、及び水銀の混合物等の蒸気充填材を、2つの電極間を通る電気アークでイオン化することによって行われる。これらの電極及び充填材は、半透明又は透明な放電容器に封入される。この放電容器は、励起された充填材の圧力を維持し、発せられた光を透過させる。これらの充填材は、ランプ「ドーズ」ともよばれ、電気アークによって励起されることで所望のスペクトルエネルギ分布を放出する。例えば、ハロゲン化合物(ハライド)から得られるスペクトルエネルギ分布は、光特性(例えば、色温度、演色性、及び発光効率)の選択肢が広い。
【0004】
現在、社会の関心がより効率的且つ経済的なエネルギ利用にあることを踏まえ、ランプ性能を損なうことなくエネルギ消費を最適に低減する方法に対する関心が、照明産業において高まりつつある。解決策の1つは、電力レベルを下げてランプを動作させることである。商用照明用途においてエネルギ消費を節約できるかどうかは、我々のエネルギ資源の消費を社会として減らせるかどうかということと同様に重要である。
【0005】
しかし、セラミックメタルハライド(CMH)ランプを最大電力定格未満で照明動作させることには、少なくとも1つの弱点がある。動作中のランプの電力レベルが低下すると、ランプの相関色温度(CCT)が1000°K以上も上昇することに相関して、発光色が白色から緑色にずれる。CMHランプの色は、主にアーク管内の気相におけるハライドドーズ組成によって決まる。例えば、典型的なCMHランプは、NaI、TlI、CaI2、及び幾つかの希土類ヨウ化物(DyI3、HoI3、TmI3、CeI3、又はLaI3等)を含有する。CMHランプを減光させると、アーク管温度の低下に伴って、アーク時のハライド蒸気圧が低下する。更に、TlIの蒸気圧は、希土類ハライドの蒸気圧よりもゆっくり低下する。TlIは、緑色の光を発し、他のヨウ化物よりも比較的高い蒸気圧のままであるため、ランプには、減光状態で白色から緑色への色ずれが生じる。このような光の色ずれは、商業用途では影響が大きい。例えば、小売用展示場所では、長寿命且つ狭い範囲を照らす発光性能の故にCMHランプを採用することが多く、展示アイテムを最も有利な状態で(即ち、白色光の下で)見せることができない照明では非常に具合が悪い。同じことは、照明が顧客の味わう雰囲気や環境に寄与する公共の場所にも当てはまる。
【0006】
現行技術において、ランプの化学的性質は、殆どの性能指標に対して非常に有利な特性を与える。しかし、エネルギ消費を減らすために電力を減らしてランプを動作させると、これらの性能指標が変化する可能性があり、具体的には、発光色に悪影響を及ぼす可能性がある。電力定格の100%未満でランプを動作させると生じる望ましくない色ずれを、ドーズの化学的性質を変えることによって抑える試みが行われてきたが、多くの場合、そうした試みは、ランプの効率低下及び全体的な光束損失を招くこととなった。これらのパラメータは、ランプの発光色に直接関係するため、ランプを使用する消費者の満足度に直接作用する。しかし、ランプドーズを変えることによって発光色の問題を解決する取り組みは、他の性能及び測光パラメータの低下(時には大幅な低下)に終わり、このことは、ドーズの化学的性質の変化を最小限にした場合でも同様であった。したがって、ランプ色を改善する取り組みは、場合によっては、他の重要なランプパラメータを犠牲にして行われてきた。
【0007】
例えば、米国特許第6501220号、米国特許第6717364号、及び米国特許第7012375号は、ランプドーズにDyI3、TmI3、又はHoI3を含めることを開示しているが、これらは、CMHランプのタングステンハロゲンサイクルを妨げることが知られている。結果として、これらのランプは、光束維持率が低い。更に、上記特許の幾つかは、減光特性に関して有利に働き得るMgI2を含むが、これもランプの効率及び光束維持率の低下を引き起こす。これまでのところ、優れた減光特性を提供し、同時に、良好な光束維持率及び効率を提供できるCMHランプドーズは無い。上述の弱点は、減光及びエネルギ節約という条件下でのCMHランプの普及を制限する要因であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7423380号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、設定の如何にかかわらず、より高いエネルギ効率で照明を動作させる要求を満たせることが求められており、同時に、それを可能にする上で、知覚される発光の白色が損なわれないこと、具体的には、発光の色調が、緑がかる色ずれを生じないこと、光束維持率を低下させないこと、且つ、ランプ効率を低下させないことが求められる。必要とされるのは、消費者の選択により電力を電力定格から最大で50%低下させても、白色の発光、良好な光束維持率、及び効率を維持しながら動作可能なランプである。
【0010】
思いがけないことに、本発明は、ランプの他の性能パラメータ及び測光パラメータを全く、或いは、無視できる程度しか低下させずに、上記の望ましいパラメータの全てを達成する。このことは、ヨウ化タリウムを含まず、他のハライド組成物が最適化されたランプドーズを採用することにより、可能となる。結果として、光束、効率、及び光色に関して優れた性能を示すランプが得られる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施例において、ランプは放電容器を含み、この放電容器には、希ガスと、水銀と、タリウムを含まないハライド成分とを少なくとも含むイオン化可能充填材が封入されており、このハライド成分は、アルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、及び、希土類ハライドを含む。例えば、このハライド成分は、タリウムハライドを全く含まず、ナトリウムハライドと、カルシウムハライド又はストロンチウムハライドの少なくとも一方と、セリウムハライド又はランタンハライドの少なくとも一方とを含み得、更に、任意でセシウムハライド又はインジウムハライドを含み得る。
【0012】
本発明の更に別の実施形態では、ランプの作製方法を提供する。本方法は、イオン化可能充填材が封入された放電容器を設けるステップを含み、この充填材は、希ガスと、水銀と、アルカリ金属ハライドと、アルカリ土類金属ハライドと、La又はCeの少なくとも一方を含む希土類ハライドと、を含む。ハライド成分は、例えば、ナトリウムハライドと、カルシウムハライド及びストロンチウムハライドの少なくとも一方と、ランタン及びセリウムから成る群から選択される希土類ハライドの少なくとも1つと、任意でセシウムハライド又はインジウムハライドとを含み得る。本方法は更に、電極に印加される電圧に対する応答として充填材を励起させるために、電極を放電容器内に配置するステップを含む。本発明は、いかなる特定の製造方法又は処理にも限定されないことを理解されたい。
【0013】
本発明の一実施形態によるランプの主な利点は、ランプの最大電力定格未満で(典型的には、最大定格電力から約50%減らして)ランプを動作させた場合に、ランプドーズからヨウ化タリウムを除外したことに主に起因する知覚可能な色ずれを生じることなく、発光色が改善されることである。
【0014】
本発明の一実施形態によるランプの別の利点は、3000時間の動作後の光束維持率が、先行技術のCMHランプの場合よりも15%以上高くなることである。
【0015】
本発明の一実施形態によるランプの更に別の利点は、効率が向上して90LPWを超えることである。
【0016】
本発明によるランプの他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明を読み、理解することにより、更に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態によるランプの色点のずれが6MPCD以内であることを、比較例としての従来型ランプの色点のずれとの比較で示したグラフである。
【図2】本発明の実施例によるHIDランプの断面図である。
【図3】本発明の一実施形態によるランプの定格ランプ電力のパーセンテージに対するランプCCT(単位はケルビン(°K))を、比較例としての従来型ランプと比較したグラフである。
【図4】本発明の一実施形態によるランプのランプ寿命(1000時間単位)に対する%光束維持率を、比較例としての従来型ランプと比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示は、最大定格電力未満で、望ましくない色ずれ、又は光束維持率の低下、又はランプ効率の低下を生じることなく動作可能な放電ランプに関する。本開示の用途は、特に、ヨウ化タリウムを含有せずランタンハライド又はセリウムハライドの少なくとも一方を含有するドーズを含むセラミックメタルハライドランプに関連して考えられるが、このランプは、定格ランプ電力未満での動作時にも、殆ど色ずれを生じず、良好な光束維持率及び良好な効率を示す。一実施例において、ランプは放電容器を含み、この放電容器には、希ガスと、遊離水銀と、タリウムを含まないハライド成分とを少なくとも含むイオン化可能充填材が封入されており、このハライド成分は、アルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、及び、ランタン及び/又はセリウムの少なくとも一方を含む希土類ハライドを含む。例えば、このハライド成分は、タリウムハライドを全く含まず、ナトリウムハライドと、カルシウムハライド又はストロンチウムハライドの少なくとも一方と、セリウムハライド又はランタンハライドの少なくとも一方とを含み得、更に任意で、セシウムハライド又はインジウムハライドを含み得る。
【0019】
一実施形態では、ルーメン/ワット(LPW)が少なくとも約90であり、好ましくは高さが97であり、更に、光束維持率が、3000時間の動作後に約90%超、即ち約93%である、上記の放電ランプを提供する。このランプを定格ランプ電力の約50%まで電力レベルを下げて動作させた場合、ランプCCTのずれは±200°K未満である。本明細書で用いている「定格電力」、「定格ランプ電力」、及び「ランプ電力定格」という用語、又はこれらを小変更したものは全て、本明細書では区別なく使用可能であり、業界標準に従ってランプが意図されたように動作する際の最適ワット数を意味する。この点において、例えば、白熱ランプは、100W、70W、又は50Wのランプとして販売されており、ワット数(W)は、ランプの最大電力定格を示している。同様に、HIDランプは、一般に、150W、100W、70W、50W、39W、及び20Wのランプとして販売されている。
【0020】
別の実施形態では、セラミックメタルハライドランプを提供する。このランプは、定格ランプ電力の80%未満、更には定格ランプ電力の約50%未満、即ち、定格ランプ電力の43%で動作させた場合に、CCTが、定格ランプ電力の100%で動作させた場合のランプのCCTとほぼ同じ、又は約±100°K以内である。したがって、CCTがほぼ同じままであるという事実から、ランプの発光時に顕著な色ずれが全く生じない。即ち、ランプから発せられた光は、白色光として知覚される。上記に加えて、本発明の少なくとも1つの実施形態によるランプは、優れた光束出力及び効率を示す。これらの特性を示すCMHランプに含まれるドーズは、ヨウ化タリウムを含まず、ナトリウムハライドと、カルシウムハライド又はストロンチウムハライドと、セリウムハライド又はランタンハライドの少なくとも一方とを含む。そこで、以下の開示では、定格ランプ電力未満での動作時でも、効率が改善されていて、現在入手可能な他の同等のランプよりも色性能が良好なランプを提供する。
【0021】
様々な態様で記載するように、本ランプでは、目標とする信頼度又は光束維持率を損なうことなく複数の測光目標値を同時に満たすことができる。本発明によるランプ設計において望ましい測光特性には、ルーメン、CRI、CCT、及びDccy等が含まれる。
【0022】
「ルーメン」という用語は、本明細書では、光源(ここではCMHランプ)から発せられた可視光の総量を意味する。ランプの効率、即ち発光効率は、(通常はワット単位で測定される)電力に対する光束(単位はルーメン)の比率である。一般に、光源の出力を測定する場合、即ち、光源が所与の電力量からどの程度の可視光を提供するかを測定する場合には、発光をルーメン/ワット(LPW)単位で測定する。言い換えると、発光効率は、デバイスから発せられる光束の総量(ルーメン)と、そのデバイスで消費される入力電力の総量(ワット)との比を表す。入力エネルギの一部は、熱等の、可視光放射以外の形で失われる。
【0023】
相関色温度(CCT)は、黒体放射体の色度(色)が光源に最も近いときの黒体放射体の(ケルビン度(°K)で表される)絶対温度で定義される。CCTは、国際照明委員会(CIE)1960色空間の色座標(u,v)の位置から推定可能である。この観点から、CCTのレーティングは、光源の「暖色」又は「寒色」の度合いを示す。この数値が高いほど、ランプは寒色の度合いが強くなる。この数値が低いほど、ランプは暖色の度合いが強くなる。例示的なランプの相関色温度(CCT)は、例えば、約2700°K〜約4500°K、約3300°K〜約3200°K、例えば、3000°Kである。例えば、NaI、CaI2、TlI、及びLaI3を含む従来の充填材組成を、希ガス及び遊離水銀と一緒に有するCMHランプが、70Wの定格ランプ電力において約3000°KのCCTで動作可能である。一方、これと同じランプにおいて、ランプ電力を減らして動作させるとCCTが上昇し、定格ランプ電力の約50%での動作時のCCTは約4400°Kである。この、CCTの約1400°Kの上昇は、白色から緑色への色ずれに対応する。これに対し、本発明の少なくとも1つの実施形態によるランプであって、そのドーズ組成にヨウ化タリウムを含まず、NaI、CaI2、又はSrI2を含み、LaI3及び/又はCeI3の少なくとも一方を含むランプについて同様の試験を行うと、このランプは、定格ランプ電力の100%ではCCTが3000°Kであり、定格ランプ電力の50%でも、CCTは約3100°Kにしかならない。この、CCTの3000°Kから3100°Kへの約100°Kという僅かな上昇で生じる色ずれは、殆どの消費者が知覚しない程度のものである。したがって、本発明によるランプは、電力を減らした状態での発光の色品質が改善されているため、エネルギ効率の良い照明としての選択肢となる。上記は例示に過ぎず、主題のランプドーズによって色品質がどのように改善されるかを示すためのものにすぎない。したがって、本発明は、上述の特定の実施形態にいかなる形でも限定されることはなく、充填材及び温度を含めて、その様々な修正形態が本明細書において考慮されていることを理解されたい。
【0024】
Dccyは、色点の、Y軸(CCY)上の、標準黒体曲線からの色度差である。図1では、黒体曲線(軌跡)を黒い実線の円弧で示している。円弧のすぐ下の、X軸(CCX)のほぼ0.42と0.45との間に位置しているのが、一般にマクアダム楕円(MacAdam Ellipse)とよばれているものである。「マクアダム楕円」という用語は、従来の色度図上にあって、平均的な人間の目には楕円の中心にある色と区別がつかない全ての色を含む範囲を意味する。この楕円は、互いに無関係な複数の観察者が色点について行った突き合わせの結果を用いて作成された。マクアダムは、観測者らが行った突き合わせの結果が全て、CIE1931色度図上のある楕円に収まることに気づいた。測定は、色度図上の25個の点で行われ、色度図上の楕円のサイズ及び方向は、試験対象の色によって大きく変化することがわかった。マクアダム楕円を用いて、動作電力を定格ランプ電力の100%から始めて、80%、70%、60%、50%と下げていって、単一ランプに対して複数の色点を測定すると、発光色が不変と知覚される色点は、必ず楕円内にとどまることが明らかになった。一般には、色点間の差が6MPCD(最小知覚可能色差)を超えると発光色がずれているとされる。図1は、上述のように、TlIを含む70Wの従来型CMHランプの生成する色点が単一の楕円内に収まらないことを明確に示している。これに対し、本発明の一実施形態による3つのCMHランプ(A、B、Cで示されており、それぞれが、表(実施例1)によるドーズを有していて、TlIを含んでいない)のそれぞれが生成した色点は、電力が低減した場合も、単一の楕円内に収まった(即ち、MPCDが6以下)。したがって、これは条件を満たしており、発光色の知覚可能なずれを表していないと考えられる。
【0025】
また別の、よく使用される色指標が、演色評価数(CRI)である。CRIは、ランプが個々の色を示す能力を或る基準との比較で示すものであり、ランプのスペクトル分布と基準(典型的には黒体)のスペクトル分布とを同じ色温度で比較した結果から導出される。標準色タイルを照明する際の光源の演色を定義する特殊演色評価数(Rii=1〜14)が14個ある。一般演色評価数(Ra)は、0〜100のスケールで表される、(非飽和色に対応する)最初の8個の特殊演色評価数の平均である。特に明記しない限り、本明細書では、「Ra」を単位として演色を表している。本発明によるランプと同等の充填材を有しながらTlIを含む従来型の70WのCMHランプの演色評価数は、約80〜88の範囲である。上記のように、動作電力を減らした状態で発光の色ずれを回避するためのこれまでの試みには、TlIの量を減らすことが含まれていた。しかし、これらの試みの結果、ランプのCRIは80をかなり下回った。これに対し、ヨウ化タリウムを含まないドーズを有し、本明細書に記載したハライドドーズ成分を含むランプは、86という高いCRIを示した。業界では、CRIが約80を超えれば優秀とされる。
【0026】
本発明のランプ設計によると、これらの範囲及びパラメータ、即ち、約3000°Kで安定したCCT、最大で約6のMPCD、及び86という高いCRIを全て同時に満たすことが可能である。思いがけないことに、これは、ランプ効率及び光束維持率に悪影響を及ぼすことなく達成可能である。したがって、例えば、例示的ランプは、定格ランプ電力の80%未満、更には約40%もの低い電力で動作しながら、改善された色品質、即ち、白色発光と相関があるCCT、CRI、及び色点を示すことが可能であり、更に、周知の望ましい基準に従う光束効率及びランプ寿命を維持することが可能である。
【0027】
一実施形態では、放電容器と、放電容器内に延びる電極とを含むランプを提供する。本ランプでは更に、放電容器内にイオン化可能充填材が封入されている。このイオン化可能充填材は、ヨウ化タリウムを含まない。本明細書においては、タリウムハライドをドーズに含めないことにより、且つ、下記のようなハライドドーズ成分を更に含めることにより、発光色に関連する上記のパラメータを有利に達成できることがわかっている。この有利なCMHランプのイオン化可能充填材は、希ガスと、Hgと、アルカリ金属ハライド、少なくとも1つのアルカリ土類金属ハライド、及びランタン及びセリウムから成る群から選択される少なくとも1つの希土類ハライドを含むハライド成分と、を含む。
【0028】
図2は、例示的なHIDランプ10の断面図である。ランプ10は、内部チャンバ14を画定する放電容器(アーク管)12を含み、放電容器12はシュラウド36に封入可能である。放電容器壁16は、アルミナ等のセラミック材料、又は他の好適な光透過材料(石英ガラス等)から形成可能である。内部チャンバ14には、イオン化可能充填材18が封入されている。タングステンから形成可能な電極20、22が、放電容器の対向し合う端部に位置しており、電流が印加されると充填材を励起する。典型的には、2つの電極20及び22に、基部38を貫通して(例えば、図示されていない安定器から)導体24、26を介して交流電流が供給される。電極20、22の先端28、30は、距離dを隔てて配置されており、これがアークギャップを画成している。ランプ10に給電され、ランプへの電流の流れが促されると、2つの電極間に電圧差が発生する。この電圧差によって、電極の先端28、30の間のギャップに跨ってアークが発生する。このアークによって、電極の先端28、30の間の領域でプラズマ放電が発生する。可視光が発生し、壁16を通ってチャンバ14の外に通り抜ける。
【0029】
イオン化可能充填材18は、上述のように、希ガスと、遊離水銀(Hg)と、タリウムハライド(特にヨウ化タリウム)を含まないハライド成分とを含む。このハライド成分は、希土類ハライドを含んでおり、更に、アルカリ金属ハライド及びアルカリ土類金属ハライドの1つ以上を含み得る。動作時、電極20、22は、電極の先端28、30の間にアークを発生させ、これによって、充填材をイオン化して、放電空間にプラズマを発生させる。発光の放射特性は、主に、充填材料の成分、電極間の電圧、チャンバの温度分布、チャンバ内の圧力、及びチャンバの形状に依存する。更に、ランプを定格ランプ電力(定格電力)よりも小さい電力で動作させた場合は、これらのパラメータの組み合わせがランプの発光色に大きく影響する。ハライドドーズにヨウ化タリウムを含めないことにより、定格ランプ電力よりも低い電力でもランプ性能に良い影響を及ぼすことができ、これによって、性能を低下させることなくエネルギを節約し、場合によっては、ランプ性能を改善できる。充填材に関する以下の説明では、特に明記しない限り、各成分の量は、放電容器に最初に封入される量、即ち、ランプを動作させる前に封入される量を意味する。
【0030】
バッファガスは、アルゴン、キセノン、クリプトン、又はこれらを組み合わせたもの等の希ガスであってよく、内部チャンバ14に対して約2〜20マイクロモル/立方センチメートル(μmol/cm3)の割合で充填材中に存在可能である。また、バッファガスを、ランプ動作の早い段階で発光させるための起動用ガスとして機能させることもできる。CMHランプに適した一実施形態では、ランプにArが再充填される。別の実施形態では、85Krを少量添加したXe又はArを用いる。放射性の85Krは、ランプの起動を支援するイオン化をもたらす。冷却充填圧力は約60〜300Torrであるが、これよりも高い冷却充填圧力も例外ではない。一実施形態では、少なくとも約240Torrの冷却充填圧力を用いる。圧力が高すぎると、ランプの起動に支障が出る場合がある。圧力が低すぎると、ランプの寿命にわたる内腔減価償却費の増加に繋がる可能性がある。
【0031】
ここまで「遊離Hg」とも称してきた水銀ドーズは、アーク管の体積に対して約2〜35mg/cm3からの割合で存在し得る。水銀の重量は、選択された安定器から電力を引き出すために必要なアーク管動作電圧が得られるように調節される。
【0032】
既述のように、本発明によるランプのハライドドーズは、タリウムハライドを含まない。即ち、ハライドドーズの成分としてタリウムを含まない。上記のように、ドーズ材料の一部としてタリウムハライドを含めないことは周知であった。しかし、ランプにタリウムハライドを含めないと、ランプ効率が低下するため、タリウムの使用は妥当であった。これに対し、思いがけないことに、タリウムハライド以外のドーズ成分を周到に選択することにより、測光ランプ特性に悪影響を及ぼすことなく、タリウムハライドをドーズから除外できることがわかった。即ち、以下のドーズ成分を有するCMHランプが、定格動作電力未満での動作時に、望ましくない色ずれを生じず、光束維持率が低下せず、発光効率が良好であることがわかった。このドーズは、NaI2,CaI2、又はSrI2と、CeI3又はLaI3とを含み、タリウムハライドを含まない。このドーズには、任意でCsハライド及び/又はInハライドを含めてもよい。上述のドーズ組成を含むCMHランプが、知覚可能な色ずれを生じることなく、良好な効率、優れた光束維持率、及び所望の減光を示すことがわかった。
【0033】
ハライド成分中のハライドは、それぞれ、塩化物、臭化物、ヨウ化物、及びこれらを組み合わせたものから選択可能である。一実施形態では、ハライドは全てヨウ化物である。ヨウ化物を使用すると、ランプ寿命が長くなる傾向がある。これは、充填材にヨウ化成分が含まれると、それ以外の類似の塩化物成分又は臭化物成分が含まれる場合より、アーク管及び/又は電極の腐食が少ないためである。ハライド化合物どうしは、通常、化学量論的関係にある。
【0034】
ハライド成分の希土類ハライドとしては、少なくとも、ランタン(La)及びセリウム(Ce)のハライドがあり、更に、プラセオジム(Pr)、ユーロピウム(Eu)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、及びこれらを組み合わせたもののハライドがある。充填材中の希土類ハライドは、一般式REX3を有し得る。このとき、REは、La及びCeから選択され、且つ、任意でPr、Nd、Eu、及びSmから選択され、Xは、Cl、Br、及びI、並びにこれらを組み合わせたものから選択される。当業者には周知のとおり、任意の好適な濃度で充填材中に存在可能である。この群に含まれる希土類ハライドの例としては、ランタンハライド及びセリウムハライドがある。充填材は、一般に、これらのハライドの少なくとも1つを含み、これは、全ハライドの少なくとも1%のモル濃度で充填材中に存在可能である。一実施形態では、このように限定された、希土類ハライドの群にある希土類ハライドだけが含まれる。具体的には、充填材は、希土類元素であるジスプロシウム、ホルミウム、及びツリウムのハライドを含まない。これらの希土類ハライドを使用することは周知であるが、本願発明者らの理解では、これらを使用すると、ランプの動作電力を定格ランプ電力以下にした場合に光束維持率が低下する可能性がある。しかし、本発明のドーズにTlIがないことを踏まえると、ここに示したランプドーズにより上記の不利点は解決される。
【0035】
アルカリ金属ハライドを含める場合には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、及びセシウム(Cs)の各ハライド、並びにこれらを組み合わせたものから選択可能である。具体的な一実施形態では、アルカリ金属ハライドは、ナトリウムハライドを含む。充填材中のアルカリ金属ハライドは、一般式AXを有し得る。このとき、Aは、Li、Na、K、及びCsから選択され、Xは、上記のように、Cl、Br、及びI、並びにこれらを組み合わせたものから選択される。当業者には周知のとおり、好適な濃度で充填材中に存在可能である。一実施形態では、アルカリ金属ハライドは、ナトリウムハライド及びセシウムハライドを含む。
【0036】
アルカリ土類金属ハライドを含める場合には、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、及びストロンチウム(Sr)の各ハライド、並びにこれらを組み合わせたものから選択可能である。充填材中のアルカリ土類金属ハライドは、一般式MX2を有し得、Mは、Ca、Ba、及びSrから選択され、Xは、上記のように、Cl、Br、及びI、並びにこれらを組み合わせたものから選択される。具体的な一実施形態では、アルカリ土類金属ハライドは、カルシウムハライドを含む。別の具体的な実施形態では、アルカリ土類金属ハライドは、ストロンチウムハライドを含む。アルカリ土類金属ハライドは、当業者には周知のとおり、任意の好適な濃度で充填材中に存在し得る。しかし、アルカリ土類金属ハライド成分は、MgX2を含まない。本願発明者らの理解では、MgX2を使用すると、ランプの動作電力を定格ランプ電力以下にした場合に光束維持率が低下する可能性があるか、或いは、初期ランプ光束効率が抑制される可能性がある。
【0037】
一実施形態では、充填材は、
68〜72mol%のアルカリ金属ハライドと、
10〜25mol%のアルカリ土類金属ハライドと、
2〜6mol%の希土類ハライドと、を含み、
各ハライド成分は、上記の開示と一致するように選択される。
【0038】
別の実施形態では、充填材は、
68〜72mol%のアルカリ金属ハライドと、
10〜25mol%のアルカリ土類金属ハライドと、
2〜6mol%の希土類ハライドと、
少なくとも1.0mol%のセシウムハライドと、を含み、
各ハライド成分は、上記の開示と一致するように選択される。
【0039】
更に別の実施形態では、充填材は、
68〜72mol%のアルカリ金属ハライドと、
10〜25mol%のアルカリ土類金属ハライドと、
2〜6mol%の希土類ハライドと、
少なくとも1.0mol%のインジウムハライドと、を含み、
各ハライド成分は、上記の開示と一致するように選択される。
【0040】
上記の範囲は全て、ドーズ組成のみならず色パラメータに関しても、本発明のランプ設計を同時に満たすことができる。思いがけないことに、このことは、ランプの信頼性又は光束維持率に悪影響を及ぼすことなく達成可能である。したがって、例えば、この例示的なランプは、改善された色品質、即ち、白色発光と相関があるCCT、CRI、及び色点を示すことが可能であり、更に、周知の望ましい基準に従った、或いはそれ以上の光束出力及びランプ寿命を維持できる。
【0041】
次の表1は、本明細書で示した全ての性能パラメータ、即ち、使用エネルギを減らしても白色からの色ずれがないこと、良好な光束維持率、並びに優れた効率を達成するハライドランプドーズの例を示す。また、比較例のドーズ組成も示す(総実MF:Total Actual Mole Fraction)。
【0042】
【表1】

図3は、定格ランプ電力の%に対するランプCCTのグラフである。全てのランプにおいて、70Wが定格電力の100%であると評価された。図示のように、全てのランプは、定格電力の100%でランプCCTが0になる。これは、ランプ温度が3000°Kの場合に対応する。表1の実施例1、2、及び5に対応する、本発明の少なくとも1つの実施形態によるランプ1、2、及び5では、CCTが僅かなくぼみの後にごく僅かな上昇を見せる折れ曲がりパターンが発生する。定格電力の約43%では、本発明による3つのランプ全てが、定格電力の100%、即ち、約3100°KにおけるランプCCTから100°K以内にある。これに対し、表1の先行技術ランプに対応する比較例の先行技術ランプでは、電力を定格ランプ電力の100%から減らしていくにつれて、CCTが着実な上昇を示し、定格電力の50%では、CCTが1250°Kから約4250°Kに上昇する。このCCTの大幅な上昇は、ランプ発光色の緑色へのずれに相関しているため、小売用陳列の照明や他の商用照明には望ましくない。
【0043】
図4は、ランプ寿命(1000時間単位)に対する%光束維持率を示すグラフである。これらのランプのドーズ組成は、先の表1に示されている。次の表2は、上記の例に関して、表1に示したドーズ組成を有するランプの性能データを示す。即ち、表1の例2のドーズは、表2の例2の性能データに対応する。このデータは、表2の2列目に示した数の同型ランプの平均値を示している。
【0044】
【表2】


表2及び図4に示したデータからわかるように、TlIをドーズに含む比較例の先行技術ランプは、例2、3、及び4のランプと比較して、光束維持率がランプの寿命にわたって低く、3000時間の動作後では81%である。例2、3、及び4のランプは、いずれもTlIをドーズに含んでおらず、これら全てが、3000時間の動作にわたって91%を超える光束維持率を示し、95%もの高さになっている。
【0045】
好適な実施形態を参照しながら本発明を説明した。明らかなように、上記の詳細な説明を読み、理解すると、当業者には修正形態及び改変形態が想到されよう。本発明は、こうした修正形態及び改変形態も全て包含すると解釈されることを意図している。
【符号の説明】
【0046】
10 HIDランプ
12 放電容器/アーク管
14 内部チャンバ
16 放電容器壁
18 イオン化可能充填材
20、22 電極
24、26 導体
28、30 (電極の)先端
36 シュラウド
38 基部
d 距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電容器(12)と、
前記放電容器と作用的に関連付けられた電極(20、22)と、
前記放電容器内に封入されたイオン化可能充填材(18)と、を備えるランプ(10)であって、
前記充填材は、タリウムのハライドを含まないが、
(a)希ガスと、
(b)水銀と、
(c)更なるハライド成分と、を含み、
前記更なるハライド成分は、
(i)アルカリ金属ハライドと、
(ii)アルカリ土類金属ハライドと、
(iii)ランタン及びセリウムと、任意でプラセオジム、ネオジム、及びサマリウム、並びにこれらを組み合わせたものと、から成る群から選択される希土類ハライドの少なくとも1つと、を含むランプ(10)。
【請求項2】
前記ハライド成分は更に、インジウムハライド又はセシウムハライドの一方を含む、請求項1に記載のランプ(10)。
【請求項3】
白色光を発する、請求項1に記載のランプ(10)。
【請求項4】
前記ハライド成分はヨウ化物である、請求項1に記載のランプ(10)。
【請求項5】
前記充填材(18)は、
68〜72mol%のナトリウムハライドと、
10〜25mol%のカルシウムハライド又はストロンチウムハライドと、
2〜6mol%の、セリウムハライド又はランタンハライドの少なくとも一方と、
を含む、請求項1に記載のランプ(10)。
【請求項6】
前記充填材(18)は、
68〜72mol%のナトリウムハライドと、
10〜25mol%のカルシウムハライド又はストロンチウムハライドと、
2〜6mol%の、セリウムハライド又はランタンハライドの少なくとも一方と、
1〜3mol%のセシウムハライドと、
を含む、請求項1に記載のランプ(10)。
【請求項7】
定格ランプ電力の50%での動作時のCCTが、定格ランプ電力の100%での動作時のCCTの±250°K以内である、請求項1に記載のランプ(10)。
【請求項8】
定格ランプ電力において、3000時間の動作後に少なくとも約85%の光束維持率を示す、請求項1に記載のランプ(10)。
【請求項9】
ランプ(10)の作製方法であって、
放電容器(12)を設けるステップと、
前記放電容器内にイオン化可能充填材(18)を封入するステップであって、前記充填材は、タリウムのハライドを含まないが、
(a)希ガスと、
(b)水銀と、
(c)更なるハライド成分と、を含み、前記更なるハライド成分は、
(i)アルカリ金属ハライドと、
(ii)アルカリ土類金属ハライドと、
(iv)ランタン及びセリウムから成る群から選択される希土類ハライドの少なくとも1つと、任意でプラセオジム、ネオジム、及びサマリウム、並びにこれらを組み合わせたものと、任意でインジウムハライド又はセシウムハライドの一方と、を含む、封入するステップと、
電極(20、22)に印加される電圧に対する応答として前記充填材を励起させるために、前記電極(20、22)を前記放電容器内に配置するステップと、を含み、
前記ランプのMPCDは、定格ランプ電力の50%未満での動作時に、6未満を示す、方法。
【請求項10】
定格ランプ電力の50%未満での動作時に、前記ランプのCCTが250°Kしか上昇しない、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−59702(P2012−59702A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193556(P2011−193556)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】