説明

ヨーグルトの酸味抑制方法

【課題】 低温保存中のヨーグルトで乳酸菌発酵によって産生される有機酸による酸味を抑制すると共に、保存期間中において安定した風味を維持し、調味料による着色により外観を損なうことを防止する方法を提供する。
【解決手段】 製品保管前に、ドライトマトの15〜120℃の水溶液による抽出物、糖類及び/又は糖アルコール類、食塩からなる調味料組成物を添加し、製品保管時の経時的な発酵によるヨーグルトの酸味上昇を抑制する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライトマト抽出物、糖類及び/又は糖アルコール類、食塩からなる調味料組成物を用いたヨーグルトの酸味を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨーグルトは乳を乳酸菌、酵母によって発酵させて製造される発酵食品である。乳酸菌発酵では乳酸や酢酸などの有機酸が産生される。これら有機酸によってタンパク質が凝固し、製品に酸味が付与され、ヨーグルト特有の食感と風味が得られる。しかしながら、乳酸菌が殺菌されない状態で製品として市場に出回るヨーグルトでは、製品を低温で保存しているときにおいても、乳酸菌によって有機酸が産生され、製品中の酸味が経時的に上昇する。このため、製品を長期間保管することにより、酸味は強くなり、特に賞味期限の近づいた製品の風味に悪影響を与えることが問題となっている。この保存期間中に増加する酸味を抑えることができれば、保存期間中においても安定した風味を維持することが可能となる。
【0003】
発酵乳の酸味を抑制するため、幾つかの方法が報告されている。例えば、特開平7−236416号公報では、乳酸菌の菌種の組み合わせにより酸味の上昇を抑える方法が開示されている。しかしながら、この方法は、乳酸菌発酵そのものを抑制する方法では無いため、長期間保存中に乳酸菌による発酵は進行し、結果的に酸味が強くなる。また、従来の菌種を使用したものと食感が異なるという問題もある。
【0004】
特開2007−312739号公報では、発酵乳に乳清タンパクを添加し酸味を低減する方法が開示されている。この方法は別包装された酸味低減剤を摂食時に添加するものであり、添加時の作業性、添加後の製品の均一性が問題となる。また、この方法は製品の長期保存時における経時的な酸味上昇を抑えるものではない。
【0005】
特開2007−174915号公報では、コーヒー抽出物添加による酸味を抑制する方法が開示されている。この方法では経時的に増加する酸味に対する抑制効果は確認されていない。
【0006】
これらのことから、従来技術によってヨーグルト保存中における経時的な酸味の増加を十分に抑制することはできなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、低温保存中のヨーグルトで乳酸菌発酵によって産生される有機酸による酸味を抑制すると共に、保存期間中において安定した風味を維持し、着色により外観を損なうことを防止する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、飲食物摂食前に添加することで、その呈味改善(主としてコク味付与や果汁感の向上)に用いられるドライトマト抽出物を含有する調味料組成物(以下単に「調味料組成物」と称することがある)に、ヨーグルトの低温保管中の発酵時によって経時的に上昇する酸味の抑制に関する画期的な効果を見出し、本発明を完成するに至った。以下に課題を解決するための手段を示す。
【0009】
本発明は第一に、製品保管前に、ドライトマトの15〜120℃の水溶液による抽出物、糖類及び/又は糖アルコール類、食塩からなる調味料組成物を添加し、製品保管時の経時的な発酵によるヨーグルトの酸味上昇を抑制する方法である。
本発明は第二に、ドライトマト抽出物を含有する調味料組成物が、固形分重量比で、ドライトマトの15〜120℃の水溶液による抽出物:1、糖類及び/又は糖アルコール類:0.6〜16、食塩:0.25〜2.5の割合で含有することを特徴とする、上記第一に記載の方法である。
本発明は第三に、ドライトマト抽出物を含有する調味料組成物のヨーグルトへの添加量が、ヨーグルト100重量部に対して、固形分として0.07〜0.7重量部であることを特徴とする、上記第一または第二に記載の方法である。
本発明は第四に、上記第一から第三の何れか一つに記載の方法により酸味が抑制されたヨーグルトである。
【0010】
ドライトマト抽出物を含有する調味料組成物は、呈味改善(主としてコク味付与や果汁感の向上)を目的として摂食前に飲食物に添加できることが知られていた。また、ヨーグルトにおいても、その摂食前に添加することにより酸味の低減などの呈味改善効果が認められていた。
【0011】
しかしながら、ドライトマト抽出物を含有する調味料組成物を、ヨーグルトの製品保管前に添加した例はなかった。
【0012】
一方、当該調味料組成物には微生物に資化されやすいアミノ酸を主に含有するドライトマト抽出物を成分として含むため、微生物発酵が進行している系への添加は、その効果がなくなることが予想された。しかしながら、本発明者は、予想外にも、本発明に係るドライトマト抽出物を含有する調味料組成物を用いることにより、長期間保管後も画期的な酸味抑制効果が認められることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
本発明におけるドライトマト抽出物を含有する調味料組成物とは、ドライトマトを水溶液や水溶性溶媒などによって抽出して得られたドライトマト抽出物、糖類及び/又は糖アルコール類、食塩の3成分からなる調味料組成物である。
【0014】
市販のドライトマトは、その調製段階において食塩あるいは食塩を含有する水溶液を用いて加工処理されることがあるため、多い場合は固形分換算で20重量%程度の塩分が含まれていることがある。そこで本発明では、ドライトマトに含まれる塩化ナトリウムについては、ドライトマト抽出物とみなさずに除外し、塩化ナトリウム以外の成分をドライトマト抽出物とみなす。塩化ナトリウムの定量法としては、原子吸光分析法、ナトリウムイオン電極法などによるナトリウムイオンの定量法や、イオンクロマトグラフィー、モール法、ホルハルド法などによる塩化物イオンの定量法などが挙げられるが、本発明ではモール法によって定量された塩化物イオン濃度を用いて、その値を塩化ナトリウム濃度に換算して求めた。
【0015】
該調味料組成物中に含まれる糖類及び/又は糖アルコール類の含有量を本発明の第二に記載した範囲内とすることで、性状も安定するため、液状品とした場合でも高い保存性が得られやすくなる。
【0016】
本発明におけるドライトマト抽出物を含有する調味料組成物を構成するドライトマト抽出物、糖類及び/又は糖アルコール類、食塩の3成分の固形分換算重量による比率は、ドライトマト抽出物を1とすると、糖類及び/又は糖アルコール類は0.6〜16、食塩は0.25〜2.5である。また、調味料組成物とした時保存性や安定性を考慮すると、これらの組合せの中で好ましい比率は、ドライトマト抽出物:1に対し、糖類及び/又は糖アルコール類:1.0〜11、食塩:0.30〜2.0である。これらの組合せの中で更に好ましいのは、ドライトマト抽出物:1に対し、糖類及び/又は糖アルコール類:3.0〜9.0、食塩:0.70〜1.5である。
【0017】
ドライトマト抽出物中の固形分重量は、乾燥重量法で求めることができる。ドライトマト中に塩分が含まれる場合、抽出操作で得られた抽出液中の塩分濃度を測定して食塩含有重量を求め、その分を差し引けば良い。また、抽出前のドライトマトの乾燥重量から抽出処理後の残渣の乾燥重量を差し引いた値をドライトマト抽出物中の固形分重量とすることもできる。
【0018】
本発明で適用可能な糖類及び/又は糖アルコール類は、具体化的には、蔗糖、ぶどう糖、マルトース、フラクトース、トレハロース、キシロース、キシロビオース、マンノース、リボース、アラビノース、マンノビオース、セロビオース、ラクトース、パラチノース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトオリゴ糖、澱粉糖化物、水飴、キシロオリゴ糖、マンノオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、リビトール、アラビトール、エリスリトール、マンニトール、ラクチトール、セロビイトール、キシロビイトール、セロビイトール、還元マルトオリゴ糖、還元キシロオリゴ糖、還元パラチノース、還元澱粉糖化物であり、以上の群から選ばれる1種又は2種以上を組合せたものについて適用することができる。
【0019】
調味料組成物の味質、調製時の操作性、過度の着色防止、保存性、保存中の結晶生成抑制、品質安定性、などの点を総合的に考慮すると、上記糖類及び/又は糖アルコール類では、トレハロース、ソルビトール、マルチトール、還元澱粉糖化物、以上の群から選ばれる1種又は2種以上を組合せたものが更に好ましい。
【0020】
また、調味料組成物に関する上記改善点をさらに明確に求める場合、マルチトール及び/又は重合度が1〜2の糖類の水素化物の含有量が固形分中50重量%以上の還元澱粉糖化物が更にいっそう好ましい。
【0021】
還元澱粉糖化物については、重合度が1〜2の糖類の水素化物の含有量が固形分中50重量%以上であるものが好ましいが、DE(デキストロース当量)で見た場合は、DE30以上の澱粉糖化物を水素化したものが好ましく、より好ましくはDE50以上の澱粉糖化物を水素化したものである。DEが30以上の澱粉糖化物を水素化したものを用いることで、調味料組成物とした時の粘度上昇が少なく取扱性が良好で、味質においても良好なものが得られ易い。
【0022】
本発明で使用する糖類及び/又は糖アルコール類は、粉末品、液状品のどちらも採用可能であり、結晶品、含蜜結晶品、非晶質状態で固化させたもの、実質的に主要成分として構成されたシロップ状製品、結晶を含有するマスキット状製品なども含まれる。
【0023】
本発明で使用するドライトマトの原料は、市販のドライトマトであれば何れも採用可能であり、その品種や由来についても、丸型種や長型種、生食用や加工用など特に問われず、ドライトマトに加工し得るトマトであれば、何れの種類のトマトも採用可能である。ドライトマトとする際及び調味料組成物を調製する際の加工適性や、調味料組成物としたときの旨味の強さや味のバランスから、長型種で低水分のトマトであることが好ましく、その中でも特に好ましいのはサンマルツァーノ種、ロマーノ種及びその交配種であり、最も好ましいのはロマーノ種である。なお、トマトピューレやトマトペーストといったトマト加工品を乾燥させたものも採用可能であるが、生トマトから直接乾燥させて製造されるドライトマトと比較して、調味料組成物とした時の酸味抑制効果に劣ることがある。
【0024】
上述の各種トマトからドライトマトとする方法については、それを太陽熱、風、冷気、暖気などの自然環境を利用した乾燥方法や、送風、減圧、減湿、凍結乾燥、加熱、冷却、赤外線、などの人工的な乾燥方法、また、これらの方法を組合せた乾燥方法など、一定量以下まで水分を減少させ得る方法であれば何れの方法を採用しても良い。また乾燥処理前に、予め食塩を振り掛けて脱水を促しても良い。なお、機械的な加熱乾燥方法では、高温処理により、焦げ臭、焦げ味、酸味、エグ味など、調味料組成物とした時に好ましくないと評価される味質が生じ易い事、及び調味料組成物とした時の旨味成分や味のバランスの点から、天日乾燥や送風乾燥またはそれらの組合せによって調製されたドライトマトが好ましく、最も好ましいのは天日乾燥によって調製されたドライトマトである。なお、乾燥方法として送風乾燥を採用する場合、トマト全体が所定水分量まで乾燥する条件であれば送風条件に特に制限はないが、送風温度は80〜20℃、好ましくは65〜40℃、最も好ましくは約60℃であり、高温になると焦げ臭や焦げ味の原因となる恐れもあることから、常時100℃を超える高温の熱風乾燥は好ましくない。
【0025】
上述の乾燥工程を経て調製されたドライトマトは、乾燥前と比較して大幅に旨味成分が凝縮されるだけでなく、グアニル酸といった新たな旨味成分も生成している。本発明に係る調味料組成物を調製する際、ドライトマト中に含まれる有効成分の効率的な抽出や、本発明に係る調味料組成物とした時の旨味の強さや味のバランスから、調味料組成物の原料となるドライトマトは、含水率が15〜40重量%の状態のドライトマトであることが好ましく、さらに好ましくは含水率が18〜35重量%であり、特に好ましくは含水率が20〜35重量%である。
【0026】
本発明に係る調味料組成物を調製する際のドライトマトの形状は、ホール状のまま乾燥したもの、半分に割ったものを乾燥したもの、半分に割って中の種やゼリー質を取り除いてから乾燥したもの、乾燥終了後に粉末化したものやフレーク状にしたもの、乾燥前のトマトを破砕あるいは磨り潰してから乾燥し、フレーク状や粉末化したものなど、任意の形状で用いることができる。なお、フレーク状や粉末化したものを用いる場合、抽出液中に微細な固形物残渣を生じ易く、抽出液の粘度も高くなり易いため、固液分離が困難になる恐れがあること、微細な残渣は抽出液中に入り込み易いため調味料組成物とした時の澄明感が得られ難いこと、抽出液にドロドロ感を有すること、などの注意を要する必要がある。一方、ドライトマトからの有効成分の効率的な抽出や、本発明に係る調味料組成物とした時の旨味の強さや雑味の少なさや味のバランス、さらには調味料組成物とした時の濁りの少なさや、舌触りの滑らかさ、また濁りの少なさにより使用用途の制限を受けないことなどを考慮すると、ドライトマトの形状は、生トマトの形状のまま乾燥させたもの、半分に割って乾燥したもの、半分に割って中の種やゼリー質を取り除いてから乾燥したものが好ましく、特に好ましいのは半分に割ったものや、半分に割って中の種やゼリー質を取り除いてから乾燥したものである。
【0027】
本発明で使用する食塩は、市販のものであれば何れも採用可能であり、岩塩、海水塩、合成塩など、その品種、由来、製法は特に問わない。
【0028】
本発明に係る調味料組成物の形態については特に制限はなく、液状及び粉末状の何れの形態も使用可能である。
【0029】
本発明に係る調味料組成物を液状品として使用する場合は、少ない使用量で一定の効果が得られる固形分濃度を有していることが好ましく、固形分濃度が20〜90重量%程度の状態が有利に使用できる。濃縮時の熱安定性や着色性、製造時における作業性、製品とした時の保存性、長期間保存による固形物の析出性、味の劣化の少なさ、調味料組成物として使用する際の取扱性などを総合的に考慮すると、好ましい固形分濃度は30〜85重量%であり、更に好ましくは40〜80重量%であり、最も好ましくは60〜75重量%である。
【0030】
本発明に係る調味料組成物は上述で示されている通り、調味料組成物として使用する際、高い固形分濃度を有していても取扱性が優れていることが特徴の一つであり、この優れた取扱性の指標として粘度の低さが挙げられる。専用の粘度計(装置名:VISCOMETER TVB-10、東機産業株式会社製)で、固形分濃度70重量%、液温を25℃に調整した状態で測定を行った場合、本発明に係る調味料組成物の粘度は1500mPas以下、好ましくは1000mPas以下、更に好ましくは600mPas以下、特に好ましくは400mPas以下、そして最も好ましくは250mPas以下という低い粘度水準を有している。
【0031】
また、補助的な粘度の指標として、固形分濃度45重量%、液温を25℃に調整した状態で、上述と同じ装置による粘度測定を行った場合、本発明に係る調味料組成物の粘度は30mPas以下、好ましくは20mPas以下、更に好ましくは15mPas以下、そして最も好ましくは10mPas以下という低い粘度水準を有している。本発明に係る調味料組成物は、このような低い粘度水準であるため、液切れが良く、食品素材や水中に添加しても容易に溶解もしくは拡散し、素材全体に馴染み易い。本発明に係る調味料組成物の粘度は、固形分濃度70重量%における粘度を満足すればよいが、同時に補助的指標である固形分濃度45重量%の粘度も、定められた値以下の粘度であることが更に好ましい。
【0032】
本発明に係る調味料組成物を粉末状で使用する場合、濃縮、脱水、噴霧乾燥、凍結乾燥など公知の方法で、ドライトマト抽出物が固化するまで水溶液中の水分を除去すれば良い。ドライトマト抽出物を固化させる際、ドライトマト抽出物を含有する水溶液中に予め糖類及び/又は糖アルコール類、食塩などを含有していても良く、ドライトマト抽出物のみを先に固化もしくは粉末化し、次いで糖類及び/又は糖アルコール類、食塩などの粉末物を加え混合しても良い。
【0033】
本発明に係る調味料組成物の製造時に用いる水溶液とは、市販の水、水道水、純水、脱イオン水、蒸留水、アルカリイオン水、電解水、海洋深層水など任意に採用可能である。また、これらの水溶液中に、糖類及び/又は糖アルコール類や、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、グリセリンなどの有機溶媒を含有させてドライトマト抽出物を得ることも可能である。なお、水溶液中に糖類及び/又は糖アルコール類を含有させることで、ドライトマトに対する浸透性や親和性の良さによるものと思われるが、ドライトマトからの有効成分をより効率的に抽出できることから、より好ましい抽出方法として実施することが可能である。
【0034】
抽出時におけるドライトマトに対する水溶液の添加割合は、重量比で1:1乃至1:100であることが好ましく、更に好ましくは1:2乃至1:20である。水溶液の添加割合をこの重量比率範囲内とすることで、ドライトマトから抽出される成分が効率的に水溶液中に抽出され易いこと、大型の装置を必要としないこと、その後の濃縮工程において消費される熱エネルギーが少ないこと、などの好ましい効果が得られる。
【0035】
ドライトマトからの抽出条件は、目的成分の抽出が可能な範囲であれば特に制限はないが、抽出温度は15〜120℃、好ましくは40〜80℃、更に好ましくは60〜70℃である。また、圧力鍋などの特殊な装置を使用して100℃以上の温度でエキス分の抽出を行っても問題はないが、その場合、あまり温度が高すぎると旨味成分が変質する恐れがあるため注意が必要である。また、抽出温度が低い場合はエキスを十分に抽出するため時間をかける必要がある。
【0036】
抽出時間は、抽出温度によって適宜変更することが可能であるが、抽出温度が70℃の場合では、1分〜3時間、好ましくは5分〜2時間、特に好ましくは10分〜1時間である。好ましい抽出時間は抽出温度によっても変化するが、上述の範囲内であればドライトマトから十分に有効成分を抽出することが出来る。
【0037】
上記抽出操作により得られるドライトマト抽出液には、煮崩れや固形物の拡散により多量の固形物が共存し、ドライトマトのペーストもしくはそれに準ずる状態になることがあるので、そのような場合、濾布、濾紙、膜濾、珪藻土などを使った濾過や遠心分離などの方法による固液分離で固形物を除去すれば良い。また、固液分離によって生じた残渣に、再度加水し、必要に応じ加熱や攪拌などを加え後、再度固液分離することにより、ドライトマト抽出物を含有した水溶液を得ることが可能である。この残渣からの抽出を繰り返し実施して得られた水溶液もドライトマト抽出物として、本発明で使用することが可能である。
【0038】
本発明では、ドライトマト抽出物と糖類及び/又は糖アルコール類と食塩を組合せて使用するが、糖類及び/又は糖アルコール類と食塩の添加時期に制限はなく、ドライトマトの抽出時に用いる水溶液中に予め添加させても良く、ドライトマト中の成分の抽出途中の水溶液中に添加しても良く、ドライトマト中の成分を抽出後の水溶液中に添加しても良く、ドライトマト中の成分を抽出した水溶液を濃縮し、濃縮液もしくは固化状、粉末状としたところに添加しても良い。
【0039】
上述の通り、固液分離によって得られた液相成分は、公知の方法による乾燥操作により水分を減じ、液相成分の濃縮を行い、所望の固形分濃度に調整する事ができる。
【0040】
本発明に係る調味料組成物は濁りの少ないことが特徴の一つであるが、この濁りの少なさを測定する指標として、吸光度測定による濁度試験法Aが採用される。濁度試験法Aは、固形分濃度1.0重量%に調整した水溶液について、660nm又は720nmの吸光度を測定し、得られた吸光度値を濁度とする測定方法である。吸光度の測定は、1cm角の石英ガラス製セルにサンプル溶液を注入し、分光光度計(装置名:Ubst-55
型、日本分光株式会社製)により実施した。本発明に係る調味料組成物は濁度試験法Aによって求められる濁度が小さく、660nm又は720nmにおける吸光度で求められる濁度で表すと0.100以下、好ましくは0.050以下、更に好ましくは0.030以下、特に好ましくは0.020以下、最も好ましくは0.010以下という低い濁度水準を有している。本発明に係る調味料組成物の濁度は、660nm又は720nmの何れか一方の波長で定められた値以下の濁度を示せば良いが、両方の波長で共に低い濁度を示すことが更に好ましい。
【0041】
本発明に係る調味料組成物は上述の通り着色の少ないことが特徴の一つであるが、この着色の少なさを測定する指標として、吸光度測定による着色度試験法Bが採用される。着色度試験法Bは、固形分濃度1.0重量%に調整した水溶液について、420nm及び720nmの吸光度を測定し、420nmの吸光度から720nmの吸光度を差し引いた値を着色度として求められる。吸光度の測定は、1cm角の石英ガラス製セルにサンプル溶液を注入し、分光光度計(装置名:Ubst-55型、日本分光株式会社製)により実施した。本発明に係る調味料組成物は着色度試験法Bによって求められる着色度が少なく、着色度で表すと1.000以下、好ましくは0.200以下、更に好ましくは0.100以下、特に好ましくは0.080以下、最も好ましくは0.050以下という低い着色度水準を有している。本発明に係る調味料組成物は、このような低い着色度水準を有しているため、あらゆる用途において、着色による影響を心配することなく使用することが可能である。
【0042】
本発明においては従来技術によるドライトマト抽出物を使用した調味料も使用することができ、例えば特許第4431195号公報で開示された調味料組成物が挙げられる。
【0043】
本発明におけるヨーグルトとは、乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状又は液状にしたもの又はこれらを凍結したものをいう。
【0044】
本発明におけるヨーグルトでは、乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等に使用する乳の種類に特に制限はなく、牛、山羊などヨーグルトの原材料として使用できるものであれば特に制限はない。
【0045】
本発明におけるヨーグルトの製造時に使用される菌は、ヨーグルトの製造に使用できるものであれば、特に制限されるものでは無く、例えば、ラクトバチルス ブルガリカス、ストレプトコッカス サリバリウス サブスピーシーズ サーモフィラス、ラクトバチルス ロイテリ、ラクトバチルス アシドフィルス、ビフィドバクテリウム ビフィダムなどが挙げられる。
【0046】
本発明におけるヨーグルトは、発酵後、発酵に使用した微生物が殺菌されていないものを対象とする。これらのヨーグルトは、過度の発酵を抑えるため低温で保管されるが、保管中に徐々に発酵が進み、酸味が強くなる。
【0047】
本発明において調味料組成物をヨーグルトに添加する時期は、保存期間中において酸味の上昇を抑制し、安定した風味を維持することが本発明の目的であるため、製品としての発酵が終了し、低温での保管を開始する時が望ましい。
【0048】
本発明におけるドライトマト抽出物を含有する調味料組成物の添加量は、酸味抑制効果のみを考慮した場合には、ヨーグルトにおける調味料の添加量として許容できる範囲であれば特に制限はない。しかしながら、ヨーグルトの外観や風味をも考慮すると、本発明におけるドライトマト抽出物を含有する調味料組成物の添加量は、ヨーグルト100重量部に対して調味料組成物を固形分として好ましくは0.07〜0.7重量部、より好ましくは0.14〜0.7重量部、さらに好ましくは0.14〜0.28重量部である。調味料組成物の添加量が固形分として0.07重量部より少ない場合は、経時的な酸味の増加に対する抑制効果が認められず、0.7重量部より多い場合は、プレーンヨーグルトについては調味料組成物の添加による着色および味の付与によってヨーグルトの外観、風味を損なう結果となる。
【発明の効果】
【0049】
ドライトマト抽出物を含有する調味料組成物を添加することにより、ヨーグルトの保存中に増加する酸味を抑制でき、外観を損なわず、安定した風味のヨーグルトが提供可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、実施例を交えて、本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
[調味料組成物の調製]
[調整例1]
70℃の温水1.5kgと、トマトを半分に切断した状態で乾燥された含水率が25重量%のドライトマト500g(イナウディ社製)を捏和機(形式:RN−5、高林理化株式会社製)に入れ、ジャケット温度70℃に保ちながらドライトマトと温水を約15rpmの回転速度で60分間攪拌して抽出作業を行った。次いで、捏和機内の内容物を取出し、濾布を敷いた遠心分離機(装置名:遠心機H−120A、国産遠心器株式会社製)に入れて約3000rpmで固液分離して、固形分濃度15重量%のドライトマト抽出液1.4kgを得た。なお、この抽出液中の固形成分中に含まれる塩化ナトリウム分は、モール法による塩化物イオン量の測定結果から、固形分換算で17.3重量%であった。
上述のドライトマト抽出液を、ロータリーエバポレーターを用いて70℃で減圧濃縮し、ドライトマト由来の抽出物:還元澱粉糖化物:食塩の固形分重量比が1:0:0.21である、固形分濃度70重量%の濃縮ドライトマト抽出液約350gを調製し、これを調製物(その1)とした。
【0052】
[調製例2]
調製例1で調製した調製物(その1)70gに対して、固形分濃度70重量%の還元澱粉糖化物(商品名:アマミール、三菱商事フードテック社製)490g、食塩(財団法人塩事業センター製)49gを加えて均一になるまで混合し、ドライトマト由来の抽出物:還元澱粉糖化物:食塩の固形分重量比が1:8.46:1.42である、固形分濃度70重量%の調製物(その2)を調製し、調味料組成物とした。
【実施例1】
【0053】
[プレーンヨーグルトへの添加]
製品の賞味期限が14日前の市販プレーンヨーグルト(明治ブルガリアヨーグルト、明治乳業株式会社製)を開封し、調製例2で調製した調味料組成物[調製物(その2)]をヨーグルト100重量部に対し0.1重量部(固形分換算0.07重量部)添加し、ヨーグルト中に均一になるよう攪拌混合し、内蓋、外蓋をかぶせた後5℃で、14日間保存した。
【0054】
酸味抑制効果、ヨーグルトの風味、ヨーグルトの着色については6名のパネルを用いた官能評価によって評価した。酸味抑制効果、ヨーグルトの風味については、評価物質無添加区を基準(0点)とした場合、酸味抑制効果がある、風味が良い場合を最大3点で、酸味が増加している、風味が悪い場合を最小−3点で評価し、平均値で表した。着色については評価物質無添加区を基準(0点)とした場合、わずかに着色が認められるが、ヨーグルトの色調を損なわない場合を1点、着色が認められ、ヨーグルトの色調を損なう場合を2点とし、平均値で表した。官能評価の結果は表1に示す。
【実施例2】
【0055】
調製例2で調製した調味料組成物[調製物(その2)]をヨーグルト100重量部に対し0.2重量部(固形分換算0.14重量部)添加する以外は実施例1に記載の内容を実施した。
【実施例3】
【0056】
調製例2で調製した調味料組成物[調製物(その2)]をヨーグルト100重量部に対し0.4重量部(固形分換算0.28重量部)添加する以外は実施例1に記載の内容を実施した。
【実施例4】
【0057】
調製例2で調製した調味料組成物[調製物(その2)]をヨーグルト100重量部に対し1.0重量部(固形分換算0.7重量部)添加する以外は実施例1に記載の内容を実施した。
【0058】
[比較例1]
製品の賞味期限が14日前の市販プレーンヨーグルト(明治ブルガリアヨーグルト、明治乳業株式会社製)を開封し、内蓋、外蓋をかぶせた後5℃で、14日間保存した。(無添加区)
【0059】
[比較例2]
調製例2で調製した調味料組成物[調製物(その2)]をヨーグルト100重量部に対し2.0重量部(固形分換算1.4重量部)添加する以外は実施例1に記載の内容を実施した。
【0060】
[比較例3]
調製例2で調製した調味料組成物[調製物(その2)]をヨーグルト100重量部に対し5.0重量部(固形分換算3.5重量部)添加する以外は実施例1に記載の内容を実施した。
【0061】
実施例2〜4及び比較例1〜3の官能評価の結果も表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
これらの官能評価の結果から、プレーンヨーグルトへの添加ではヨーグルト100重量部に対し、調味料組成物0.1〜1.0重量部(固形分換算0.07〜0.7重量部)の試験区において酸味抑制効果が認められると共に、風味と外観が損なわれないことが分かった。一方、添加量1.0重量部を越える添加量では、酸味抑制効果は認められるもののヨーグルトに調味料組成物の味が付与され、プレーンヨーグルトとしての風味が損なわれること、調味料添加物によって着色されることにより、プレーンヨーグルトとしての外観を損なうことから好ましくないことが分かった。
【実施例5】
【0064】
[無脂肪プレーンヨーグルトへの添加]
製品の賞味期限が14日前の市販無脂肪プレーンヨーグルト(明治ブルガリアヨーグルト 脂肪ゼロ、明治乳業株式会社製)を開封し、調製例2で調製した調味料組成物[調製物(その2)]をヨーグルト100重量部に対し0.1重量部(固形分換算0.07重量部)添加し、ヨーグルト中に均一になるよう攪拌混合し、内蓋、外蓋をかぶせた後5℃で、14日間保存した。官能評価の結果は表2に示す。
【実施例6】
【0065】
調製例2で調製した調味料組成物[調製物(その2)]をヨーグルト100重量部に対し1.0重量部(固形分換算0.7重量部)添加する以外は実施例5に記載の内容を実施した。
【0066】
[比較例4]
製品の賞味期限が14日前の市販無脂肪プレーンヨーグルト(明治ブルガリアヨーグルト 脂肪ゼロ、明治乳業株式会社製)を開封し、内蓋、外蓋をかぶせた後5℃で、14日間保存した。(無添加区)
【0067】
[比較例5]
調製例2で調製した調味料組成物[調製物(その2)]をヨーグルト100重量部に対し2.0重量部(固形分換算1.4重量部)添加する以外は実施例5に記載の内容を実施した。
【0068】
実施例6及び比較例4〜5の官能評価の結果も表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
これらの官能評価の結果から、無脂肪プレーンヨーグルトへの添加もプレーンヨーグルトの場合と同様にヨーグルト100重量部に対し、調味料組成物0.1〜1.0重量部(固形分換算0.07〜0.7重量部)の試験区において酸味抑制効果が認められると共に、風味と外観が損なわれないことが分かった。一方、添加量1.0重量部を越える添加量では、酸味抑制効果は認められるもののヨーグルトに調味料組成物の味が付与され、無脂肪プレーンヨーグルトとしての風味が損なわれること、調味料添加物によって着色されることにより、無脂肪プレーンヨーグルトとしての外観を損なうことから好ましくないことが分かった。
【0071】
[還元澱粉糖化物の効果]
【0072】
[比較例6]
市販プレーンヨーグルト(明治ブルガリアヨーグルト、明治乳業株式会社製)を開封し、固形分濃度70重量%の還元澱粉糖化物(商品名:アマミール、三菱商事フードテック社製)をヨーグルト100重量部に対し0.1重量部(固形分換算0.07重量部)添加し、ヨーグルト中に均一になるよう攪拌混合した。官能評価の結果は表3に示す。
【0073】
[比較例7]
市販プレーンヨーグルト(明治ブルガリアヨーグルト、明治乳業株式会社製)を開封し、固形分濃度70重量%の還元澱粉糖化物(商品名:アマミール、三菱商事フードテック社製)をヨーグルト100重量部に対し1.0重量部(固形分換算0.7重量部)添加し、ヨーグルト中に均一になるよう攪拌混合した。官能評価の結果は表3に示す。
【0074】
[比較例8]
市販無脂肪プレーンヨーグルト(明治ブルガリアヨーグルト 脂肪ゼロ、明治乳業株式会社製)を開封し、固形分濃度70重量%の還元澱粉糖化物(商品名:アマミール、三菱商事フードテック社製)をヨーグルト100重量部に対し0.1重量部(固形分換算0.07重量部)添加し、ヨーグルト中に均一になるよう攪拌混合した。官能評価の結果は表3に示す。
【0075】
[比較例9]
市販無脂肪プレーンヨーグルト(明治ブルガリアヨーグルト 脂肪ゼロ、明治乳業株式会社製)を開封し、固形分濃度70重量%の還元澱粉糖化物(商品名:アマミール、三菱商事フードテック社製)をヨーグルト100重量部に対し1.0重量部(固形分換算0.7重量部)添加し、ヨーグルト中に均一になるよう攪拌混合した。官能評価の結果は表3に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
比較例6〜9により、本発明におけるドライトマト抽出物を含有する調味料組成物の組成で大きな割合を占める還元澱粉糖化物のヨーグルトに対する酸味抑制効果の確認を行った。還元澱粉糖化物は微生物に対する資化性が悪く、発酵が進行した場合においても残存すると予想されたからである。しかしながら、表3の結果から、これら還元澱粉糖化物には調味料組成物と同等の添加量では、ヨーグルトに対する酸味抑制効果が認められなかった。すなわち、微生物に資化されやすいアミノ酸を高濃度で含有するドライトマト抽出物を含有する調味料組成物は、予想外に、わずかな添加量でヨーグルトの保管時における発酵による酸味の増加を抑制することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
ドライトマト抽出物を含有する調味料組成物を添加することにより、ヨーグルトの保存中に増加する酸味を抑制でき、賞味期限まで安定した風味と外観のヨーグルトが提供可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0079】
【特許文献1】特開平7−236416号公報
【特許文献2】特開2007−312739号公報
【特許文献3】特開2007−174915号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品保管前に、ドライトマトの15〜120℃の水溶液による抽出物、糖類及び/又は糖アルコール類、食塩からなる調味料組成物を添加し、製品保管時の経時的な発酵によるヨーグルトの酸味上昇を抑制する方法。
【請求項2】
ドライトマト抽出物を含有する調味料組成物が、固形分重量比で、ドライトマトの15〜120℃の水溶液による抽出物:1、糖類及び/又は糖アルコール類:0.6〜16、食塩:0.25〜2.5の割合で含有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ドライトマト抽出物を含有する調味料組成物のヨーグルトへの添加量が、ヨーグルト100重量部に対して、固形分として0.07〜0.7重量部であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一つに記載の方法により酸味が抑制されたヨーグルト。

【公開番号】特開2012−90586(P2012−90586A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241724(P2010−241724)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000223090)三菱商事フードテック株式会社 (25)
【Fターム(参考)】