説明

ヨーレート補正装置

【課題】移動中にヨーレートの検出値を補正するときの補正精度を向上させる。
【解決手段】ヨーレート補正装置10は、操舵角センサ13と、ヨーレートセンサ11と、操舵角の検出値に基づき基準ヨーレートを算出する基準ヨーレート算出部21と、ヨーレートの検出値と基準ヨーレートとの差からオフセット値を算出するオフセット値算出部24と、オフセット値によりヨーレートの検出値を補正する補正部31と、基準ヨーレートの微分値とヨーレートの検出値の微分値との差が所定範囲外の場合にヨーレートの検出値の補正を禁止する補正判定部30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨーレート補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両の走行中にヨーレートセンサのゼロ点を較正するときに、操舵角センサにより検出される操舵角と、車速センサにより検出される車両の速度(車速)とに基づいてヨーレートの基準値を算出し、このヨーレートの基準値がゼロである場合に実際のヨーレートがゼロであるとして、ヨーレートセンサの出力値をゼロに較正する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−94874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術に係る装置においては、操舵角センサには不感帯が存在することから、実際に車両の旋回状態が変化している状況であっても、操舵角センサの出力値が変化しない場合がある。これにより、操舵角に基づくヨーレートの基準値の誤差が増大する虞があり、ヨーレートセンサの較正精度を向上させることが困難であるという問題が生じる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、移動中にヨーレートセンサのゼロ点を較正するようにヨーレートの検出値を補正するときの補正精度を向上させることが可能なヨーレート補正装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明の第1態様に係るヨーレート補正装置は、車両の操舵角を検出して検出値を出力する操舵角検出手段(例えば、実施の形態での操舵角センサ13)と、車両のヨーレートを検出して検出値を出力するヨーレート検出手段(例えば、実施の形態でのヨーレートセンサ11)と、前記操舵角検出手段から出力される前記操舵角の検出値に基づき基準ヨーレートを算出する基準ヨーレート算出手段(例えば、実施の形態での基準ヨーレート算出部21)と、前記ヨーレート検出手段から出力される前記ヨーレートの検出値と前記基準ヨーレート算出部により算出される前記基準ヨーレートとの差からオフセット値を算出するヨーレートオフセット算出手段(例えば、実施の形態でのオフセット値算出部24)と、前記ヨーレートオフセット算出手段により算出された前記オフセット値により前記ヨーレート検出手段から出力される前記ヨーレートの検出値を補正する補正手段(例えば、実施の形態での補正部31)と、前記基準ヨーレートの微分値と前記ヨーレートの検出値の微分値との差が所定範囲外の場合に前記補正手段による前記ヨーレートの検出値の補正を禁止する補正制御手段(例えば、実施の形態での補正判定部30)とを備える。
【0007】
さらに、本発明の第2態様に係るヨーレート補正装置は、車両の走行状態が定速直進走行または定常円旋回走行の安定走行であるか否かを判定する安定走行判定手段(例えば、実施の形態での安定走行判定部29)を備え、前記補正制御手段は、前記安定走行判定手段により車両の走行状態が前記安定走行であると判定された場合にのみ、前記補正手段による前記ヨーレートの検出値の補正の実行または禁止を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1態様に係るヨーレート補正装置によれば、ヨーレート検出手段のゼロ点のずれなどによってヨーレートの検出値の精度が低い場合であっても、この検出値の微分値つまりヨーレートの時間変化はより精度が高い。これにより、移動中であっても、ヨーレートの時間変化に基づき、操舵角の検出値に基づく基準ヨーレートの精度の良否を判定することができる。つまり、基準ヨーレートの微分値とヨーレートの検出値の微分値との差が所定範囲外であれば、例えば操舵角センサの不感帯などに起因して操舵角の検出値および基準ヨーレートの精度が低いと判定することができ、精度が低い基準ヨーレートによってヨーレートの検出値が補正されてしまうことを防止することができる。
【0009】
本発明の第2態様に係るヨーレート補正装置によれば、車両の走行状態が定速直進走行または定常円旋回走行(例えば、ほぼ一定の速度および舵角での旋回など)の安定走行であれば、車両のヨーレートが安定していると判定することができる。これにより、例えば加減速を繰り返したり、急なカーブを走行しているときなどのようにヨーレートが安定していない状態で、ヨーレートの検出値の補正の実行可否が誤って判定されてしまうことを防止し、ヨーレートの検出値の補正精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るヨーレート補正装置の構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る基準ヨーレートと操舵角と車速との対応関係を示すマップの例ある。
【図3】本発明の実施形態に係るヨーレート(基準ヨーレートと検出値)およびヨーレートの微分値(基準ヨーレートの微分値と検出値の微分値)の時間変化の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係るヨーレート補正装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のヨーレート補正装置の一実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
この実施の形態によるヨーレート補正装置10は、例えば図1に示すように車両に搭載され、ヨーレートセンサ11と、車速センサ12と、操舵角センサ13と、前後加速度センサ14と、処理装置15とを備えて構成されている。
【0012】
ヨーレートセンサ11は、ヨーレート(車両重心の上下方向軸回りの回転角速度)を検出して、検出値の信号を出力する。
車速センサ12は、車両の速度(車速)を検出して、検出値の信号を出力する。
操舵角センサ13は、運転者により操作されるステアリングホイールの舵角(操舵角)を検出して、検出値の信号を出力する。
前後加速度センサ14は、車体の前後方向に作用する前後加速度を検出して、検出値の信号を出力する。
【0013】
処理装置15は、例えば基準ヨーレート算出部21と、フィルタ処理部22,23と、オフセット値算出部24と、微分演算部25,26と、差分演算部27と、操舵角速度検出部28と、安定走行判定部29と、補正判定部30と、補正部31とを備えて構成されている。
【0014】
基準ヨーレート算出部21は、車速センサ12から出力される車速の検出値と、操舵角センサ13から出力される操舵角の検出値とに基づき、予め記憶している所定のマップを参照してヨーレートの基準値(基準ヨーレート)を算出し、算出値を出力する。
所定のマップは、例えば図2に示すように、車速と操舵角と基準ヨーレートとの対応関係を示すマップであって、操舵角が増大することに伴い、あるいは、車速が増大することに伴い、基準ヨーレートが増大傾向に変化するように設定されている。
【0015】
フィルタ処理部22は、基準ヨーレート算出部21から出力された基準ヨーレートの算出値に所定の低域通過処理を行ない、この処理後の基準ヨーレートを出力する。
フィルタ処理部23は、ヨーレートセンサ11から出力されるヨーレートの検出値に所定の低域通過処理を行ない、この処理後の検出値を出力する。
【0016】
オフセット値算出部24は、各フィルタ処理部22,23から出力された基準ヨーレートとヨーレートの検出値との差分であるオフセット値を算出し、算出結果を出力する。
【0017】
微分演算部25は、フィルタ処理部22から出力された基準ヨーレートの微分値(時間微分値)を算出し、算出結果を出力する。
微分演算部26は、フィルタ処理部23から出力されたヨーレートの検出値の微分値(時間微分値)を算出し、算出結果を出力する。
【0018】
差分演算部27は、各微分演算部25,26から出力された基準ヨーレートの微分値とヨーレートの検出値の微分値との差分を算出し、算出結果を出力する。
【0019】
操舵角速度検出部28は、操舵角センサ13から出力される操舵角の検出値に基づき、操舵角速度を検出し、検出値を出力する。
安定走行判定部29は、前後加速度センサ14から出力される前後加速度の検出値と、操舵角速度検出部28から出力される操舵角速度の検出値とに基づき、車両の走行状態が所定の安定走行(例えば、定速直進走行または定常円旋回走行など)であるか否かを判定し、判定結果を出力する。この判定処理は、例えば、前後加速度の絶対値が所定値(例えば、0.05Gなど)未満であり、かつ、操舵角速度の絶対値が所定値(例えば、10deg/sなど)未満であるか否かを判定する。
【0020】
補正判定部30は、差分演算部27から出力される微分値の差分と、安定走行判定部29から出力される判定結果とに基づき、ヨーレートセンサ11から出力されるヨーレートの検出値の補正の可否を判定する。
この判定処理は、例えば図3に示す時刻taから時刻tbの期間のように基準ヨーレートの誤差が大きいか否かを、微分値の差分(例えば、|ヨーレートの検出値の微分値−基準ヨーレートの微分値|など)が所定値未満であるか否かによって判定する。そして、微分値の差分が所定値未満であれば、基準ヨーレートの誤差が許容範囲内であると判定して、ヨーレートの検出値の補正を許可する。一方、微分値の差分が所定値以上であれば、基準ヨーレートの誤差が許容範囲を超えていると判定して、ヨーレートの検出値の補正を禁止する。
【0021】
補正部31は、補正判定部30により補正が許可された場合には、オフセット値算出部24から出力されたオフセット値に応じて、ヨーレートセンサ11から出力されるヨーレートの検出値を補正する。一方、補正判定部30により補正が禁止された場合には、補正の実行を禁止する。
【0022】
この実施形態によるヨーレート補正装置10は上記構成を備えており、次に、このヨーレート補正装置10の動作について説明する。
【0023】
先ず、例えば図4に示すステップS01においては、車速センサ12から出力される車速の検出値と、操舵角センサ13から出力される操舵角の検出値とに基づき、予め記憶している所定のマップを参照してヨーレートの基準値(基準ヨーレート)を算出する。
次に、ステップS02においては、基準ヨーレート算出部21から出力された基準ヨーレートの算出値と、基準ヨーレート算出部21から出力された基準ヨーレートの算出値とに対して、所定の低域通過処理を行なう。
【0024】
次に、ステップS03においては、前後加速度センサ14から出力される前後加速度の検出値と、操舵角速度検出部28から出力される操舵角速度の検出値とに基づき、車両の走行状態が所定の安定走行(例えば、定速直進走行または定常円旋回走行など)であるか否かを判定する。
この判定結果が「NO」の場合には、エンドに進む。
一方、この判定結果が「YES」の場合には、ステップS04に進む。
【0025】
そして、ステップS04においては、基準ヨーレートとヨーレートの検出値との差分であるオフセット値を算出する。
次に、ステップS05においては、基準ヨーレートの微分値とヨーレートの検出値の微分値との差分を算出する。
次に、ステップS06においては、微分値の差分(例えば、|ヨーレートの検出値の微分値−基準ヨーレートの微分値|など)が所定値未満であるか否かを判定する。
この判定結果が「YES」の場合には、ステップS07に進み、このステップS07においては、オフセット値に応じてヨーレートセンサ11から出力されるヨーレートの検出値を補正し、エンドに進む。
一方、この判定結果が「NO」の場合には、ステップS08に進み、このステップS08においては、オフセット値を用いたヨーレートの検出値の補正を禁止し、エンドに進む。
【0026】
上述したように、本発明の実施形態によるヨーレート補正装置10によれば、ヨーレートセンサ11のゼロ点のずれなどによってヨーレートの検出値の精度が低い場合であっても、この検出値の微分値つまりヨーレートの時間変化はより精度が高い。これにより、走行中であっても、ヨーレートの微分値(つまり、基準ヨーレートの微分値とヨーレートの検出値の微分値)に基づき、車速および操舵角の検出値に基づく基準ヨーレートの精度の良否を判定することができる。つまり、基準ヨーレートの微分値とヨーレートの検出値の微分値との差分(例えば、|ヨーレートの検出値の微分値−基準ヨーレートの微分値|など)が所定値以上であれば、例えば操舵角センサ13の不感帯などに起因して操舵角の検出値および基準ヨーレートの精度が低いと判定することができる。これにより、精度が低い基準ヨーレートによってヨーレートの検出値が補正されてしまうことを防止することができる。
【0027】
しかも、車両の走行状態が定速直進走行または定常円旋回走行などの安定走行であれば、車両のヨーレートが安定していると判定することができる。これにより、例えば加減速を繰り返したり、急なカーブを走行しているときなどのようにヨーレートが安定していない状態で、ヨーレートの検出値の補正の実行可否が誤って判定されてしまうことを防止し、ヨーレートの検出値の補正精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0028】
10 ヨーレート補正装置
11 ヨーレートセンサ(ヨーレート検出手段)
12 車速センサ
13 操舵角センサ(操舵角検出手段)
14 前後加速度センサ
15 処理装置
21 基準ヨーレート算出部(基準ヨーレート算出手段)
22,23 フィルタ処理部
24 オフセット値算出部(ヨーレートオフセット算出手段)
25,26 微分演算部
27 差分演算部
28 操舵角速度検出部
29 安定走行判定部(安定走行判定手段)
30 補正判定部(補正制御手段)
31 補正部(補正手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵角を検出して検出値を出力する操舵角検出手段と、
車両のヨーレートを検出して検出値を出力するヨーレート検出手段と、
前記操舵角検出手段から出力される前記操舵角の検出値に基づき基準ヨーレートを算出する基準ヨーレート算出手段と、
前記ヨーレート検出手段から出力される前記ヨーレートの検出値と前記基準ヨーレート算出手段により算出される前記基準ヨーレートとの差からオフセット値を算出するヨーレートオフセット算出手段と、
前記ヨーレートオフセット算出手段により算出された前記オフセット値により前記ヨーレート検出手段から出力される前記ヨーレートの検出値を補正する補正手段と、
前記基準ヨーレートの微分値と前記ヨーレートの検出値の微分値との差が所定範囲外の場合に前記補正手段による前記ヨーレートの検出値の補正を禁止する補正制御手段と
を備えることを特徴とするヨーレート補正装置。
【請求項2】
車両の走行状態が定速直進走行または定常円旋回走行の安定走行であるか否かを判定する安定走行判定手段を備え、
前記補正制御手段は、前記安定走行判定手段により車両の走行状態が前記安定走行であると判定された場合にのみ、前記補正手段による前記ヨーレートの検出値の補正の実行または禁止を制御することを特徴とする請求項1に記載のヨーレート補正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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